(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】流路部材
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 603
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2019031733
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018033182
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山部 邦宏
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-073153(JP,A)
【文献】特開平03-284949(JP,A)
【文献】特開2008-049615(JP,A)
【文献】特開2000-108342(JP,A)
【文献】特開2014-195912(JP,A)
【文献】特開2011-213094(JP,A)
【文献】特開2017-024387(JP,A)
【文献】特開2008-080742(JP,A)
【文献】特開2011-051155(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/179639(JP,A1)
【文献】特開2018-111232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する流路を備える基体と、
前記開口を塞ぐように前記基体と接合した蓋体とを有し、
前記蓋体は、前記開口を通過する液体を外部に吐出する貫通孔を備え、
前記蓋体は前記流路に面した第1対向面を有し、前記基体は前記流路に面し前記第1対向面に対向する第2対向面と該第2対向面に接続した第1側面とを有し、
前記第1対向面の中心線平均粗さRaが、前記第2対向面の中心線平均粗さRaよりも小さく、
前記第1側面
の一部と前記貫通孔の側面とが一平面状に接続しており、
前記第1側面
の前記一部と、前記貫通孔の側面とを被覆する第2の被覆部を備え
、
前記第2の被覆部は、前記第1側面の前記一部から離れるに従って薄くなる流路部材。
【請求項2】
前記第2の被覆部がセラミックスからなり、前記第2の被覆部の閉気孔の平均径が、前記基体および前記蓋体のそれぞれの閉気孔の平均径の0.8倍以上1.5倍以下である、請求項
1に記載の流路部材。
【請求項3】
前記蓋体と前記基体との接合領域に隣接して、前記第1対向面と、前記第1側面
の前記一部以外の部位とを被覆する第1の被覆部を備えてなる請求項
1または2に記載の流路部材。
【請求項4】
前記基体、前記蓋体および前記第1の被覆部がセラミックスからなり、前記第1の被覆部の閉気孔の平均径が、前記基体および前記蓋体のそれぞれの閉気孔の平均径の0.8倍以上1.5倍以下である、請求項
3に記載の流路部材。
【請求項5】
前記第1の被覆部は、前記第1側面
の前記一部以外の部位から離れるに従って薄くなる、請求項
3または請求項
4に記載の流路部材。
【請求項6】
前記第1対向面の中心線平均粗さRaと、前記第2対向面の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上である、請求項1乃至請求項
5のいずれかに記載の流路部材。
【請求項7】
前記第1対向面の中心線平均粗さRaは、前記第1側面の中心線平均粗さRaよりも小さい、請求項1乃至請求
6のいずれかに記載の流路部材。
【請求項8】
前記第1対向面の中心線平均粗さRaと、前記第1側面の中心線平均粗さRaとの差は
0.4μm以上である、請求項
7に記載の流路部材。
【請求項9】
少なくともいずれかの前記第1側面の中心線平均粗さRaは、前記第2対向面の中心線平均粗さRaよりも小さい、請求項
7または請求項
8に記載の流路部材。
【請求項10】
前記第1側面の中心線平均粗さRaと、前記第2対向面の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上である、請求項
9に記載の流路部材。
【請求項11】
前記第2対向面と、前記第1側面との当接部は、断面視において所定の曲率を有する、請求項1乃至請求項
10のいずれかに記載の流路部材。
【請求項12】
前記第2対向面は、前記第1対向面から離れる方向に凸状の曲面である、請求項1乃至請求項
11のいずれかに記載の流路部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インク等の液体を吐出口から吐出可能な液体吐出装置に用いる流路部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体収容容器と液体吐出ヘッドとの間でインクを循環させるインクジェット記録装置等の循環型液体吐出装置が用いられている。循環型液体吐出装置の一例として、複数の記録素子基板(以下、記録素子基板を単に素子基板という。)が印刷用紙の幅方向に渡って配置された、ライン型(ページワイド型)の液体吐出ヘッドを搭載した装置がある。
【0003】
この装置に搭載される液体吐出ヘッド(全体)として、特許文献1では、
図5に示すように、液体を吐出する吐出口101と、吐出口101に対応して設けられ、吐出口101から液体を吐出するためのエネルギーを発生する素子(図示しない)と、素子を内部に備える圧力室102と、を備えた素子基板201と、素子基板201の裏面側で、供給開口から供給された液体を圧力室102に供給する供給路51および圧力室102から回収された液体を回収開口に回収するための回収路(図示しない)を有する第1流路部材205とを備えた液体吐出ヘッドが記載されている。
【0004】
この液体吐出ヘッドでは、素子基板201は、支持部材203によって支持されており、支持部材203の液体連通口31は、素子基板201に設けられた吐出口101に向って開口している。
【0005】
また、第1流路部材205の背面には第2流路部材206が接続されている。第2流路部材206内には、液体吐出ヘッドの長手方向に延びる一組の共通供給流路221および共通回収流路222が設けられている。第2流路部材206の連通口61は第1流路部材205の個別連通口53に接続されており、第2流路部材206の共通供給流路221から連通口61を介して第1流路部材205の供給路51に連通しており、液体が供給されるようになっている。
【0006】
なお、
図5には図示していないが、液体吐出ヘッドの長手方向に垂直な別の断面では共通回収流路222の連通口62を介して第1流路部材205の回収路に連通しており、液体が回収されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
素子基板201の吐出口101が高密度に配置される昨今、第2流路部材206の共通供給流路221で生じる流路抵抗が吐出口101から吐出される液体の流路抵抗(圧力損失)に与える影響が相対的に大きくなっている。そのため、共通供給流路221で生じる流路抵抗を比較的低くすることが求められるようになっている。本開示は、共通供給流路で生じる流路抵抗が比較的低い流路部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の流路部材は、開口を有する流路を備える基体と、前記開口を塞ぐように前記基体と接合した蓋体とを有し、前記蓋体は、前記開口を通過する液体を外部に吐出する貫通孔を備え、前記蓋体は前記流路に面した第1対向面を有し、前記基体は前記流路に面し前記第1対向面に対向する第2対向面と該第2対向面に接続した第1側面とを有し、前記第1対向面の中心線平均粗さRaが、前記第2対向面の中心線平均粗さRaよりも小さく、前記第1側面の一部と前記貫通孔の側面とが一平面状に接続しており、前記第1側面の前記一部と、前記貫通孔の側面とを被覆する第2の被覆部を備え、前記第2の被覆部は、前記第1側面の前記一部から離れるに従って薄くなる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、流路抵抗が比較的低い流路部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の流路部材の一例を示す(a)は斜視図、(b)はXX‘線における断面図、(c)はA部を拡大した一例、(d)はA部を拡大した他の例をそれぞれ示す拡大図である。
【
図2】本開示の流路部材の他の例を示す断面図である。
【
図3】本開示の流路部材の他の例を示す断面図である。
【
図4】本開示の流路部材の他の例を示す(a)は断面図、(b)はB部を拡大した一例、(c)はB部を拡大した他の例をそれぞれ示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本開示の流路部材について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本開示の流路部材の一例を示す(a)は斜視図、(b)はXX‘線における断面図、(c)はA部を拡大した一例、(d)はA部を拡大した他の例をそれぞれ示す拡大図である。
【0014】
図1に示す流路部材30は、開口1を有する流路2を備える基体3と、開口1を塞ぐように基体3と接合した蓋体4とを有し、蓋体4は、開口1を通過する液体Lを外部に吐出する貫通孔5を備え、蓋体4は流路2に面した第1対向面6を有し、基体3は流路2に面し第1対向面6に対向する第2対向面7を有する。貫通孔5は、流路2の長手方向(紙面手前から奥に向かう方向)に沿って所定間隔で複数配置され、その断面形状は円状である。液体Lは、例えば、インクであり、外部から流路2に供給されると、流路2に沿って流れ、所定流量の液体Lが開口1を通過して、蓋体4に備えられた貫通孔5から外部に吐出する。
【0015】
基体3および蓋体4は、いずれも酸化アルミニウム、窒化アルミニウムまたは炭化珪素を主成分とするセラミックスからなる。
【0016】
本開示における主成分とは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%のうち、90質量%以上の成分をいう。基体3および蓋体4が酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなる場合、マグネシウム、珪素およびカルシウムの少なくともいずれかを酸化物として含んでいてもよい。
【0017】
ここで、セラミックスを構成する成分は、CuKα線を用いたX線回折装置によって同定することができ、各成分の含有量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めることができる。
【0018】
図1に示す流路部材30は、第1対向面6の中心線平均粗さRaが、第2対向面7の中心線平均粗さRaよりも小さい。
【0019】
このような構成であると、第1対向面6付近に沿って流れる液体Lの流路抵抗を第2対向面7付近に沿って流れる液体Lの流路抵抗よりも下げることができるので、貫通孔5に向う液体Lの吐出効率を高くすることができる。
【0020】
ここで、第2対向面7の中心線平均粗さRaは、第1対向面6の中心線平均粗さRaよりも大きいと、第2対向面7から第1対向面6に向かう流れが生じて、開口1付近における液体Lの増粘を抑制することができるので、液体Lの品質を安定化させることができる。液体Lがインクである場合には、インクの増粘が抑制されるので、高画質の画像を得ることができる。
【0021】
特に、第1対向面6の中心線平均粗さRaと、第2対向面7の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上であるとよい。
【0022】
また、第1対向面6の中心線平均粗さRaは、第2対向面7と接続する、流路2の側面8(第1側面)の中心線平均粗さRaよりも小さくてもよい。
【0023】
このような構成であると、第1対向面6付近に沿って流れる液体Lの流路抵抗を第1対向面6よりも中心線平均粗さRaの大きい側面8付近に沿って流れる液体Lの流路抵抗よりも下げることができるので、流路2に向う液体Lの吐出効率をさらに高くすることができる。
【0024】
特に、第1対向面6の中心線平均粗さRaと、第2対向面7と接続する、流路2の側面8の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上であるとよい。
【0025】
また、少なくともいずれかの側面8の中心線平均粗さRaは、第2対向面7の中心線平均粗さRaよりも小さくてもよい。
【0026】
このような構成であると、側面8付近に沿って流れる液体Lの流路抵抗を第2対向面7付近に沿って流れる液体Lの流路抵抗よりも下げることができるので、流路2に向う液体の吐出効率をさらに高くすることができる。
【0027】
特に、側面8の中心線平均粗さRaと、第2対向面7の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上であるとよい。
【0028】
なお、中心線平均粗さRaは、JIS B 0601-1982に準拠し、表面粗さ測定機((株)小坂研究所製、サーフコーダ(SE500Aまたはその後継機種))を用いて測定することができる。測定条件としては、触針の半径を5μm、触針の材質をダイヤモンド、測定長さを0.5mm(蓋体4および基体3の長手方向)、カットオフ値を0.8mm、走査速度を0.1mm/秒とすればよい。
【0029】
上記表面粗さ測定機および測定条件で測定した場合、例えば、第1対向面6の中心線平均粗さRaは、0.8μm以上1.5μm以下、第2対向面7の中心線平均粗さRaは2.0μm以上6.3μm以下、側面8の中心線平均粗さRaは1.2μm以上3.2μm以下である。
【0030】
また、
図1(c)に示すように、蓋体4と基体3との接合領域に隣接して、第1対向面6と、流路2の側面8とを被覆する第1の被覆部9を備えていてもよい。
【0031】
接合領域とは、接合層をいい、このような構成であると、接合領域における剛性が高くなるため、蓋体4および基体3の長手方向およびこの長手方向に垂直な方向に生じるたわ
みを低減することができる。
【0032】
なお、第1の被覆部9は、第1対向面6の少なくとも一部および側面8の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0033】
また、基体3、蓋体4および第1の被覆部9がセラミックスからなり、第1の被覆部9の閉気孔の平均径が、基体3および蓋体4のそれぞれの閉気孔の平均径の0.8倍以上1.5倍以下であってもよい。
【0034】
第1の被覆部9の閉気孔の平均径が、基体3および蓋体4の閉気孔の平均径の1.5倍以下であると、破壊源となる第1の被覆部9の閉気孔が十分小さいので、第1の被覆部9の閉気孔を起点とする流路部材30の破壊を抑制することができる。
【0035】
第1の被覆部9、基体3および蓋体4のそれぞれの閉気孔の平均径は、以下の手法により測定する。
【0036】
まず、第1の被覆部9、基体3および蓋体4の断面を鏡面加工し、各部材の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率を500倍として、例えば、横方向の長さを256μm、縦方向の長さを192μmとする観察範囲を設定する。
【0037】
この観察範囲を観察の対象として、画像解析ソフト「A像くん(Ver2.52)」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製、以下、単に画像解析ソフトと記載する。)の粒子解析という手法を適用して、閉気孔の平均径を求めることができる。なお、閉気孔の平均径は円相当径の平均値である。
【0038】
解析に際し、粒子解析の設定条件である粒子の明度を暗、2値化の方法を手動、しきい値を70~100、小図形除去面積を0.3μm2および雑音除去フィルタを有とする。
【0039】
なお、上述の測定に際し、しきい値は70~100としたが、観察範囲である画像の明るさに応じて、しきい値を調整すればよく、粒子の明度を暗、2値化の方法を手動とし、小図形除去面積を0.3μm2および雑音除去フィルタを有とした上で、画像に現れるマーカーが閉気孔の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0040】
また、
図1(d)に示すように、第1の被覆部9は、流路2の側面8から離れるに従って薄くなっていてもよい。
【0041】
このような構成であると、第1の被覆部9の表面に沿って流れる液体Lは層流になるので、流路抵抗を下げることができる。
【0042】
図2は、本開示の流路部材の他の例を示す断面図である。
【0043】
図2に示すように、第2対向面7と、流路2の側面8との当接部は、断面視において所定の曲率を有していてもよい。
【0044】
このような構成であると、
図1に示すように側面8が第2対向面
7と略直角の状態で交わる場合よりも当接部からクラックが発生しにくくなる。
【0045】
図3は、本開示の流路部材の他の例を示す断面図である。
【0046】
図3に示すように、第2対向面7は、第1対向面6から離れる方向に凸状の曲面であっ
てもよい。
【0047】
このような構成であると、クラックが発生しにくくなるとともに、基体3の剛性が高くなるため、基体3に生じるたわみを低減することができる。
【0048】
図4は、本開示の流路部材の他の例を示す、(a)は断面図、(b)、(c)はB部を拡大した断面図である。
【0049】
図4に示す流路部材40は、液体吐出ヘッドであり、液体を吐出する吐出口10と、吐出口10に対応して設けられ、吐出口10から液体を吐出するためのエネルギーを発生する素子(図示しない)と、素子を内部に備える圧力室11と、を備えた素子基板12と、素子基板12を支持し、吐出口10に向って開口する連通口13を有する支持基板14と、支持基板14の裏側に配置され、液体を連通口13に個別供給口15を介して供給する供給路16および液体の個別回収口(図示しない)を介して回収する回収路(図示しない)を備えた液体供給/回収部材17と、液体を外部に吐出する複数の第1貫通孔18および外部から液体を回収する複数の第2貫通孔19がそれぞれ長手方向に配列された長尺状の蓋体20と、第1貫通孔18に連通して液体を第1貫通孔18に供給する第1流路21および第2貫通孔19と連通して液体を第2貫通孔19から回収する第2流路22を備えてなる長尺状の基体23とを備え、蓋体20と基体23とが上下方向に接合されてなる。
【0050】
ここで、液体は、例えば、インクであり、エネルギーを発生する素子は、例えば、電気熱変換素子やピエゾ素子である。また、外部とは、
図4に示す例では、液体供給/回収部材17、支持基板14および素子基板12であるが、単に外部空間を言う場合もある。
【0051】
蓋体20および基体23は、いずれも酸化アルミニウム、窒化アルミニウムまたは炭化珪素を主成分とするセラミックスからなる。
【0052】
図4に示す流路部材40の第1貫通孔18が
図1に示す貫通孔5に、第1流路21が
図1に示す流路2に相当し、流路部材40においても、第1対向面24の中心線平均粗さRaが、第2対向面25の中心線平均粗さRaよりも小さい。
【0053】
このような構成であると、
図1に示す流路部材30で得られた効果と同じ効果を得ることができる。
【0054】
なお、この流路部材40では、第1流路21に面する、基体23側の一方の側面26と、蓋体20側の側面27とが一平面状に接続しており、側面26と、側面27とを被覆する第2の被覆部28を備えていてもよい。
【0055】
このような構成であると、側面26と側面27との接続部における剛性が高くなるため、蓋体20および基体23の長手方向およびこの長手方向に垂直な方向に生じるたわみを低減することができる。
【0056】
第2の被覆部28がセラミックスからなり、第2の被覆部28の閉気孔の平均径が、基体23および蓋体20のそれぞれの閉気孔の平均径の0.8倍以上1.5倍以下であってもよい。
【0057】
第2の被覆部28の閉気孔の平均径が、基体23および蓋体20の閉気孔の平均径の1.5倍以下であると、破壊源となる第2の被覆部28の閉気孔が十分小さいので、第2の被覆部28の閉気孔を起点とする流路部材40の破壊を抑制することができる。
【0058】
第2の被覆部28、基体23および蓋体20のそれぞれの閉気孔の平均径も、上述した手法と同様の手法によって求めればよい。
【0059】
また、第2の被覆部28は、基体23側の側面26から離れるに従って薄くなっていてもよい。
【0060】
このような構成であると、第2の被覆部28の表面に沿って流れる液体Lは層流になるので、流路抵抗を下げることができる。
【0061】
次に、本開示の流路部材の製造方法について説明する。
【0062】
まず、蓋体の前駆体である第1成形体および基体の前駆体である第2成形体の製造方法について説明する。
【0063】
まず、主成分である酸化アルミニウム粉末と、水酸化マグネシウム、酸化珪素および炭酸カルシウムの各粉末と、必要に応じて酸化アルミニウム粉末を分散させる分散剤と、有機結合剤とをボールミル、ビーズミルまたは振動ミルにより湿式混合してスラリーとする。
【0064】
ここで、水酸化マグネシウムを酸化物(MgO)に換算して0.3質量%以上0.4質量%以下、酸化珪素(SiO2)を0.04質量%以上0.05質量%以下、炭酸カルシウムを酸化物(CaO)に換算して0.01質量%以上0.02質量%以下、残部が酸化アルミニウムからなる粉末となるように秤量した混合粉末を水などの溶媒とともに回転ミルに投入して、純度が99.5%以上99.99%以下の酸化アルミニウムからなるセラミックスボールで混合する。
【0065】
湿式混合する時間は、例えば、40~50時間である。また、有機結合剤は、例えば、パラフィンワックス、ワックスエマルジョン(ワックス+乳化剤)、PVA(ポリビニールアルコール)、PEG(ポリエチレングリコール)、PEO(ポリエチレンオキサイド)等である。ここで、有機結合剤の添加量は混合粉末100質量部に対して合計2質量部以上10質量部以下とする。
【0066】
次に、上述した方法によって得たスラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、この顆粒を、例えば、圧力を80MPa以上120MPaとして、粉末プレス成形法や冷間静水圧成形法(ラバープレス法)等により、成形することで、長尺平板状の成形体と長尺柱状の成形体とを得る。
【0067】
長尺平板状の成形体は、長手方向に沿って、後の焼成で第1対向面となる面を、コンパックスダイヤモンドまたは超硬合金からなる切削バイトをマシニングセンタに取り付け、長手方向に沿ってトラバース加工によって形成して、第1成形体とする。なお、この際に第1対向面となる面は平面度を可能な限り低いものとなるよう、0カットを2回以上6回以下行う。
【0068】
なお、トラバース加工による切削バイトの幅方向への1パスごとの移動距離は、切削バイトの幅よりも狭くなるようにする。
【0069】
第1対向面の中心線平均粗さRaと、第2対向面の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上である流路部材を得るには、例えば、トラバース加工による切削バイトの幅方向への1パスごとの移動距離が切削バイトの幅の80%以下になるようにする。
【0070】
また、長尺柱状の成形体は、長手方向に沿って、後の焼成で流路となる溝を、超硬合金からなる切削バイトをマシニングセンタに取り付け、長手方向に沿って溝入れ加工によって形成して、第2成形体とする。
【0071】
また、第1対向面の中心線平均粗さRaが第2対向面と接続する、前記流路の側面の中心線平均粗さRaよりも小さい流路部材を得るには、第1対向面を得るためのマシニングセンタの主軸の回転数を、例えば、S800以上S2000以下とし、側面を得るためのマシニングセンタの主軸の回転数を、例えば、S1000以上S2300以下とすればよい。
【0072】
第1対向面の中心線平均粗さRaと、第2対向面と接続する、前記流路の側面の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上である流路部材を得るには、第1対向面を得るため
のマシニングセンタの主軸の回転数を、例えば、S800以上S1500以下とし、側面を得るためのマシニングセンタの主軸の回転数を、例えば、S1500以上S2300以下とすればよい。
【0073】
少なくともいずれかの前記側面の中心線平均粗さRaが第2対向面の中心線平均粗さRaよりも小さい流路部材を得るには、切削バイトを数回に分けて深さ方向に移動して溝入れ加工すればよい。
【0074】
側面の中心線平均粗さRaと、前記第2対向面の中心線平均粗さRaとの差は0.4μm以上である流路部材を得るには、切削バイトを、例えば、5回以上に分けて深さ方向に移動して溝入れ加工すればよい。
【0075】
ここで、第2対向面と、流路の側面との当接部は、断面視において所定の曲率を有する流路部材を得るには、先端部の形状が所定の曲率を有する切削バイトをマシニングセンタに取り付け、長尺柱状の成形体の長手方向に沿って、溝入れ加工をすればよい。
【0076】
また、第2対向面は、第1対向面から離れる方向に凸状の曲面である流路部材を得るには、先端部の形状が凸状の曲面である切削バイトをマシニングセンタに取り付け、長尺柱状の成形体の長手方向に沿って、溝入れ加工をすればよい。
【0077】
次に、蓋体と基体とを接合するペーストの製造方法について説明する。
【0078】
成形体の製造方法で説明した混合粉末に対して、水などの溶媒を、体積比で、混合粉末:溶媒=55~60:40~45となるように加え、この溶媒と混合粉末との合計を100質量部とする。この100質量部に対し、8質量部以上20質量部以下のセルロース系多糖類を加え、これらを撹拌装置内の収納容器に入れ、混合・撹拌して、ペーストを得る。
【0079】
ここで、セルロース系多糖類は、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースおよびカルボキシエチルセルロースの少なくともいずれかである。
【0080】
そして、上記ペーストを第2成形体の接合面に塗布した後、第1成形体および第2成形体の各接合面同士を向き合った状態にして、第1成形体および第2成形体を重ねて、例えば圧力を0.01MPa以上1MPa以下の範囲で加圧することにより、複合成形体を得ることができる。
【0081】
ここで、第1の被覆部を備えた流路部材を得るには、第2成形体の接合面およびこの接合面に交差する第1成形体の側面に上記ペーストを塗布した後、上記方法と同じ方法を用いて加圧すればよい。
【0082】
第1の被覆部あるいは第2の被覆部のそれぞれの閉気孔の平均径が、基体および蓋体のそれぞれの閉気孔の平均径の0.8倍以上1.5倍以下である流路部材を得るには、撹拌装置の自転回転数を1200rpm以上1600rpm以下とし、回転時間を5分以上15分以下とするとよい。
【0083】
また、第2の被覆部を備えた流路部材を得るには、第2成形体の側面およびこの側面に接続する第1成形体の側面に上記ペーストを塗布した後、上記方法と同じ方法を用いて加圧すればよい。
【0084】
また、第1の被覆部および第2の被覆部の少なくともいずれかが、基体の側面から離れるに従って薄くなる流路部材を得るには、成形体の側面にペーストを塗布した後、成形体の側面から離れるに従って薄くなるように形状を整えればよい。
【0085】
次に、常温で、湿度を40%以上に維持しながら12時間以上48時間以下保持することによりペーストを乾燥させる。
【0086】
しかる後、大気雰囲気中で、1500℃以上1700℃以下の温度で、5時間以上8時間以下保持して複合成形体を焼成することにより、流路部材を得ることができる。
【0087】
このような製造方法で得られた流路部材は、第1対向面の中心線平均粗さRaは、第2対向面の中心線平均粗さRaよりも小さくできるので、第1対向面付近に沿って流れる液体の流路抵抗を第2対向面付近に沿って流れる液体の流路抵抗よりも下げることが可能となり、吐出効率を高くすることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 :開口
2 :流路
3 :基体
4 :蓋体
5 :貫通孔
6 :第1対向面
7 :第2対向面
8 :側面
9 :第1の被覆部
10:吐出口
11:圧力室
12:素子基板
13:連通口
14:支持基板
15:個別供給口
16:供給路
17:液体供給/回収部材
18:第1貫通孔
19:第2貫通孔
20:蓋体
21:第1流路
22:第2流路
23:基体
24:第1対向面
25:第2対向面
26、27:側面
28:第2の被覆部
30,40:流路部材