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特許7197405抵抗スポット溶接装置及び抵抗スポット溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接装置及び抵抗スポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/16 20060101AFI20221220BHJP
   B23K 11/30 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B23K11/16 311
B23K11/30
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019038934
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020142251
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-076124(JP,A)
【文献】特開2014-076491(JP,A)
【文献】特開昭63-043775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行うための抵抗スポット溶接装置であって、
前記板組を挟むように対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な1組の電極を備え、
前記1組の電極はそれぞれ主電極を有するとともに、
前記1組の電極のうち少なくとも一方は、前記主電極の近傍に配置され、前記主電極と独立して移動可能な補助電極を有し、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間、並びに、1組の前記主電極の間を、それぞれ通電可能な電源を備え、
前記1組の電極の間に前記板組を配置した後において、前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去し、続いて、1組の前記主電極の間の通電に切り替えて、前記板組を加圧しながら、前記板組を抵抗スポット溶接により接合可能な制御部をさらに備える、抵抗スポット溶接装置。
【請求項2】
前記補助電極は、その近傍に配置される前記主電極の周囲を囲うようにリング状に形成される、請求項1に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項3】
前記電源と、前記主電極若しくは前記補助電極との間の各電気経路には、該各電気経路を接続又は遮断するスイッチがそれぞれ設けられる、請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項4】
前記電源は1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項5】
前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、請求項1~4のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項6】
重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
対向して配置されるとともに、それぞれ主電極を有し、少なくとも一方が前記主電極の近傍に配置され、前記主電極と独立して移動可能な補助電極を有する1組の電極の間に、前記板組を配置する工程と、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間で通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程と、
前記板組を加圧しながら、前記1組の主電極の間で通電を行うことで、前記板組を抵抗スポット溶接により接合する工程と、
を備える、抵抗スポット溶接方法。
【請求項7】
前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程は、通電されていない側における前記電極を、前記板組に当接させた状態で行われる、請求項6に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項8】
前記補助電極として、その近傍に配置される前記主電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成されたものを用いる、請求項6又は7に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項9】
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間、又は、前記1組の主電極の間で行われる通電は、1つの電源と、前記主電極若しくは前記補助電極との間の各電気経路を、接続又は遮断するスイッチを切り替えることで行われる、請求項6~8のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項10】
前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、請求項6~9のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項11】
重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行うための抵抗スポット溶接装置であって、
前記板組を挟むように対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な第1複合電極及び第2複合電極を備え、
前記第1複合電極は、第1溶接電極と、該第1溶接電極の近傍に配置され、該第1溶接電極と独立して移動可能な第1補助電極と、を有するとともに、
前記第2複合電極は、第2溶接電極と、該第2溶接電極の近傍に配置され、該第2溶接電極と独立して移動可能な第2補助電極と、を有し、
前記第1溶接電極と前記第1補助電極との間、前記第2溶接電極と前記第2補助電極との間、及び前記第1溶接電極と前記第2溶接電極との間を、それぞれ通電可能な電源をさらに備え
前記第1複合電極と前記第2複合電極との間に、前記板組を配置した後において、前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、及び、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間の少なくとも一方に通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去し、続いて、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極との間の通電に切り替えて、前記板組を加圧しながら、前記板組を抵抗スポット溶接により接合可能な制御部をさらに備える、抵抗スポット溶接装置。
【請求項12】
前記第1補助電極及び前記第2補助電極は、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成される、請求項11に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項13】
前記電源と、前記第1溶接電極、前記第1補助電極、前記第2溶接電極若しくは前記第2補助電極との間の各電気経路には、該各電気経路を接続又は遮断するスイッチがそれぞれ設けられる、請求項11又は12に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項14】
前記電源は1つである、請求項11~13のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項15】
前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、請求項11~14のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項16】
重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
対向して配置され、第1溶接電極及び該第1溶接電極の近傍に配置され、該第1溶接電極と独立して移動可能な第1補助電極を有する第1複合電極と、第2溶接電極及び該第2溶接電極の近傍に配置され、該第2溶接電極と独立して移動可能な第2補助電極を有する第2複合電極、との間に、前記板組を配置する工程と、
前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、及び、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間の少なくとも一方に通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程と、
前記板組を加圧しながら、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極との間で通電を行うことで、前記板組を抵抗スポット溶接により接合する工程と、
を備える、抵抗スポット溶接方法。
【請求項17】
前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程は、通電されていない側における、前記第1溶接電極及び前記第1補助電極、又は、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極を、前記板組に当接させた状態で行われる、請求項16に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項18】
前記板組における最外層の鋼板の両方が亜鉛系めっき層を有する場合において、
前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、及び、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間の通電を同時に行わない、請求項16又は17に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項19】
前記第1補助電極及び前記第2補助電極として、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成されたものを用いる、請求項1618のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項20】
前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間、又は、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極との間で行われる通電は、1つの電源と、前記第1溶接電極、前記第1補助電極、前記第2溶接電極若しくは前記第2補助電極との間の各電気経路を、接続又は遮断するスイッチを切り替えることで行われる、請求項1619のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項21】
前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、請求項161719及び20のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗スポット溶接装置及び抵抗スポット溶接方法に関し、より詳細には、亜鉛系めっき層を有する鋼板を少なくとも1枚含む板組を、粒界脆化割れのない良好な状態で溶接することができる抵抗スポット溶接装置及び抵抗スポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、低燃費化やCO排出量の削減、車体の軽量化、衝突安全性の向上のため、車体部材を高強度化することが求められており、車体部材や各種部品などに超ハイテン鋼板が使用されている。また、車体の高防錆化の観点から、超ハイテン鋼板に亜鉛系めっき処理を施した亜鉛系めっき鋼板が使用され、抵抗スポット溶接によって車体の組立や部品の取付けなどが行われている。
【0003】
しかし、超ハイテン鋼板は溶接性で劣る問題があり、特に、亜鉛めっき処理された超ハイテン鋼板は、抵抗スポット溶接時に、電極の加圧力や、鋼板の熱膨張及び収縮による引張応力が溶接箇所に加わり、該溶接箇所の鋼板表面で溶融した亜鉛や、亜鉛と電極の銅との合金が、鋼板の結晶粒界に侵入して粒界強度を低下させる、LME(Liquid Metal Embrittlement)と呼ばれる粒界脆化割れが起きやすいことが知られている。LME割れの最大の原因は、鋼板の合金成分量(C,Si)の増加である。
【0004】
したがって、この合金成分量の値を下げつつ、鋼板強度を高める鋼板製造手段が最も有効であるが、現実的にはかなり難しい。そこで、溶接技術面からのLME割れ抑制が望まれ、各種の抑制方法が長年に亘って鉄鋼メーカーで検討されている。
【0005】
ここで特許文献1には、溶接電極間の溶接通電終了時から、溶接電極と被溶接部材とを非接触とするまでの溶接後保持時間Ht(秒)を長くして、溶接部が完全に固まるまで待ち、LME割れを抑制して継手強度の向上を図ったスポット溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6108017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術によると、通電後の保持時間が長くなるため、溶接能率が低下するという問題がある。また、亜鉛を溶接部に存在させたまま溶接すれば、亜鉛起因のLME割れを完全に防止することは困難である。そこで、物理的に溶接部の亜鉛を溶接前に除去できていれば、LME割れは原理的に発生しないことになる。部分的な亜鉛除去方法としては、グラインダーのような機械的研削手段や、レーザやプラズマアークで蒸発除去する方法があるが、溶接前工程として設備導入や人的労力をかけることになり、極めて多大なコストアップになる。
【0008】
また、部品段階で亜鉛を除去すると、溶接時に亜鉛除去部分(すなわち、溶接予定箇所)を合わせて組み付ける必要があり、自動車産業用途では現実的ではない。また、亜鉛除去部分が溶接予定箇所に対して広大であると、当該部分は防錆機能が損なわれる問題もある。したがって、溶接とほぼ同工程で短時間に、自動的、かつ、溶接予定箇所のみの亜鉛を除去する方法が望まれている。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる抵抗スポット溶接装置及び抵抗スポット溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明の上記目的は、抵抗スポット溶接装置に係る下記(1)の構成により達成される。
(1) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行うための抵抗スポット溶接装置であって、
前記板組を挟むように対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な1組の電極を備え、
前記1組の電極はそれぞれ主電極を有するとともに、
前記1組の電極のうち少なくとも一方は、前記主電極の近傍に配置され、前記主電極と独立して移動可能な補助電極を有し、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間、並びに、1組の前記主電極の間を、それぞれ通電可能な電源を備え、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間の通電、又は、1組の前記主電極の間の通電のいずれか一方に切り替え可能な制御部をさらに備える、抵抗スポット溶接装置。
【0011】
また、抵抗スポット溶接装置に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(2)~(5)に関する。
(2) 前記補助電極は、その近傍に配置される前記主電極の周囲を囲うようにリング状に形成される、(1)に記載の抵抗スポット溶接装置。
(3) 前記電源と、前記主電極若しくは前記補助電極との間の各電気経路には、該各電気経路を接続又は遮断するスイッチがそれぞれ設けられる、(1)又は(2)に記載の抵抗スポット溶接装置。
(4) 前記電源は1つである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
(5) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(1)~(4)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
【0012】
また、本発明の上記目的は、抵抗スポット溶接方法に係る下記(6)の構成により達成される。
(6) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
対向して配置されるとともに、それぞれ主電極を有し、少なくとも一方が前記主電極の近傍に配置され、前記主電極と独立して移動可能な補助電極を有する1組の電極の間に、前記板組を配置する工程と、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間で通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程と、
前記板組を加圧しながら、前記1組の主電極の間で通電を行うことで、前記板組を抵抗スポット溶接により接合する工程と、
を備える、抵抗スポット溶接方法。
【0013】
また、抵抗スポット溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(7)~(10)に関する。
(7) 前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程は、通電されていない側における前記電極を、前記板組に当接させた状態で行われる、(6)に記載の抵抗スポット溶接方法。
(8) 前記補助電極として、その近傍に配置される前記主電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成されたものを用いる、(6)又は(7)に記載の抵抗スポット溶接方法。
(9) 前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間、又は、前記1組の主電極の間で行われる通電は、1つの電源と、前記主電極若しくは前記補助電極との間の各電気経路を、接続又は遮断するスイッチを切り替えることで行われる、(6)~(8)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
(10) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(6)~(9)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
【0014】
また、本発明の上記目的は、抵抗スポット溶接装置に係る下記(11)の構成により達成される。
(11) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行うための抵抗スポット溶接装置であって、
前記板組を挟むように対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な第1複合電極及び第2複合電極を備え、
前記第1複合電極は、第1溶接電極と、該第1溶接電極の近傍に配置され、該第1溶接電極と独立して移動可能な第1補助電極と、を有するとともに、
前記第2複合電極は、第2溶接電極と、該第2溶接電極の近傍に配置され、該第2溶接電極と独立して移動可能な第2補助電極と、を有し、
前記第1溶接電極と前記第1補助電極との間、前記第2溶接電極と前記第2補助電極との間、及び前記第1溶接電極と前記第2溶接電極との間を、それぞれ通電可能な電源をさらに備える、抵抗スポット溶接装置。
【0015】
また、抵抗スポット溶接装置に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(12)~(16)に関する。
(12) 前記第1溶接電極と前記第1補助電極との間の通電、前記第2溶接電極と前記第2補助電極との間の通電、又は、前記第1溶接電極と前記第2溶接電極との間の通電に切り替え可能な制御部をさらに備える、(11)に記載の抵抗スポット溶接装置。
(13) 前記第1補助電極及び前記第2補助電極は、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成される、(11)又は(12)に記載の抵抗スポット溶接装置。
(14) 前記電源と、前記第1溶接電極、前記第1補助電極、前記第2溶接電極若しくは前記第2補助電極との間の各電気経路には、該各電気経路を接続又は遮断するスイッチがそれぞれ設けられる、(11)~(13)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
(15) 前記電源は1つである、(11)~(14)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
(16) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(11)~(15)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
【0016】
また、本発明の上記目的は、抵抗スポット溶接方法に係る下記(17)の構成により達成される。
(17) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
対向して配置され、第1溶接電極及び該第1溶接電極の近傍に配置され、該第1溶接電極と独立して移動可能な第1補助電極を有する第1複合電極と、第2溶接電極及び該第2溶接電極の近傍に配置され、該第2溶接電極と独立して移動可能な第2補助電極を有する第2複合電極、との間に、前記板組を配置する工程と、
前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、及び、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間の少なくとも一方に通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程と、
前記板組を加圧しながら、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極との間で通電を行うことで、前記板組を抵抗スポット溶接により接合する工程と、
を備える、抵抗スポット溶接方法。
【0017】
また、抵抗スポット溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(18)~(22)に関する。
(18) 前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程は、通電されていない側における、前記第1溶接電極及び前記第1補助電極、又は、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極を、前記板組に当接させた状態で行われる、(17)に記載の抵抗スポット溶接方法。
(19) 前記板組における最外層の鋼板の両方が亜鉛系めっき層を有する場合において、
前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、及び、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間の通電を同時に行わない、(17)又は(18)に記載の抵抗スポット溶接方法。
(20) 前記第1補助電極及び前記第2補助電極として、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成されたものを用いる、(17)~(19)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
(21) 前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間、又は、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極との間で行われる通電は、1つの電源と、前記第1溶接電極、前記第1補助電極、前記第2溶接電極若しくは前記第2補助電極との間の各電気経路を、接続又は遮断するスイッチを切り替えることで行われる、(17)~(20)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
(22) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(17)、(18)、(20)又は(21)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の抵抗スポット溶接装置及び抵抗スポット溶接方法によれば、対向して配置されるとともに、それぞれ主電極を有し、少なくとも一方が前記主電極の近傍に配置され、前記主電極と独立して移動可能な補助電極を有する1組の電極の間に、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を配置し、主電極及び補助電極の間で通電を行うことで亜鉛系めっき層を部分的に除去した後、板組を加圧しながら、1組の主電極の間で通電を行うため、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の概略構成を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す抵抗スポット溶接装置により、亜鉛系めっき鋼板と亜鉛系めっき層を有しない鋼板とからなる板組を抵抗スポット溶接する手順を示す図である。
図3図3は、補助電極の形状が周方向に断続的に形成されている場合の、抵抗スポット溶接装置の概略構成を示す斜視図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の概略構成を示す斜視図である。
図5図5は、図4に示す抵抗スポット溶接装置により、2枚の亜鉛系めっき鋼板が重ね合わされてなる板組を抵抗スポット溶接する手順を示す図である。
図6図6は、図4に示す抵抗スポット溶接装置により、亜鉛系めっき層を有しない鋼板が、2枚の亜鉛系めっき鋼板により挟持された3枚の鋼板からなる板組を抵抗スポット溶接する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る各抵抗スポット溶接装置及び該抵抗スポット溶接装置を用いた抵抗スポット溶接方法の各実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
<第1実施形態>
(抵抗スポット溶接装置)
図1は、本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の概略構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る抵抗スポット溶接装置10は、表面に亜鉛系めっき層31を有する鋼板30(以後、亜鉛系めっき鋼板30とも言う)と、亜鉛系めっき層を有しない鋼板40が重ね合わされた、複数の鋼板30,40からなる板組20を抵抗スポット溶接で接合するための溶接装置である。
【0022】
なお、亜鉛系めっき鋼板30としては、例えば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)などが挙げられる。また、亜鉛めっき鋼板30の引張強度(TS)は特に限定されないが、例えば、980MPa以上、好ましくは1180MPa以上の高張力鋼板(High Tensile Strength Steel:HTSS)である。
【0023】
抵抗スポット溶接装置10は、板組20を挟むように、図中上下方向に対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な1組の電極50,60を備える。一方の電極50(以後、第1複合電極50とも言う)は、複合電極であり、主電極51(以後、第1溶接電極51とも言う)と、該主電極51の周囲を囲むように配置されたリング状の補助電極52とを備える。主電極51及び補助電極52は、例えば、エア式や電動式(サーボ式)などの公知の駆動装置(図示せず)により駆動され、独立して図中上下方向、すなわち、板組20に接近又は離間する方向に移動可能である。なお、本実施形態において、電極50は、板組20のうち亜鉛系めっき鋼板30側に配置される。
【0024】
他方の電極60は、補助電極を備えず、主電極61(以後、第2溶接電極61とも言う)のみで構成され、一方の電極50と同様に、エア式や電動式などの公知の駆動装置(図示せず)により駆動され、図中上下方向、すなわち、板組20に接近又は離間する方向に移動可能である。電極50及び電極60は、互いに独立して移動可能である。なお、本実施形態において、電極60は、板組20のうち亜鉛系めっき層を有しない鋼板40側に配置される。
【0025】
主電極51及び主電極61は、抵抗スポット溶接を実施するのに要する、比較的強い加圧力で板組20を押圧可能になっている。また、補助電極52は、主電極51との間に通電できる程度に亜鉛系めっき鋼板30に接触していればよく、主電極51,61の加圧力ほどの力は要しない。
【0026】
また、抵抗スポット溶接装置10は、1つの電源70を備える。電源70は、電気経路71により主電極51と接続されるとともに、電気経路72により補助電極52と接続されている。電気経路71の途中には、電気経路71を接続又は遮断する制御部であるスイッチ75が設けられ、電気経路72の途中には、電気経路72を接続又は遮断する制御部であるスイッチ76が設けられている。また、電源70は、電気経路73により主電極61とも接続されている。電気経路73の途中には、電気経路73を接続又は遮断する制御部であるスイッチ77が設けられている。
【0027】
これにより、スイッチ75,76,77を適宜、接続又は遮断することで、主電極51及びその近傍に配置される補助電極52の間の通電、又は、1組の主電極51,61の間の通電のいずれか一方に切り替えることができる。
【0028】
なお、図1に示すように、電源70は1つの電源により構成されているが、例えば、主電極51,61や補助電極52ごとに個別の電源を設置するといったように、複数の電源により構成してもよい。また、電源は交流電源であっても、直流電源であってもよく、公知の抵抗スポット溶接に用いられる一般的な電源が使用可能である。
【0029】
(抵抗スポット溶接方法)
次に、抵抗スポット溶接装置10を用いて、亜鉛系めっき鋼板30と亜鉛系めっき層を有しない鋼板40との板組20を抵抗スポット溶接する方法について、図2を参照して詳述する。
【0030】
図2に示すように、本実施形態に係る抵抗スポット溶接方法は、まず、互いに離間した状態の1組の電極50,60の間に、亜鉛系めっき鋼板30及び亜鉛系めっき層を有しない鋼板40からなる板組20を配置する。その際、電極50すなわち主電極51及び補助電極52は、亜鉛系めっき鋼板30側に配置され、また、電極60すなわち主電極61は、亜鉛系めっき層を有しない鋼板40側に配置される(Step1)。
【0031】
次いで、不図示の駆動装置を作動させて電極50(主電極51、補助電極52)を板組20に向けて移動させ、主電極51及び補助電極52を亜鉛系めっき鋼板30に接触させる。そして、スイッチ75,76を閉じ、亜鉛系めっき鋼板30を介して主電極51及び補助電極52間に通電する。これにより、主電極51から補助電極52に向けて、又は、その逆の方向に、電流が亜鉛系めっき鋼板30の面内方向において放射状に流れ、亜鉛系めっき鋼板30には加熱領域32が形成される(Step2)。
【0032】
主電極51及び補助電極52間の領域が加熱されることで、亜鉛系めっき鋼板30における、融点が低い亜鉛系めっき層31が蒸発して除去され、亜鉛系めっき層31のない生の鋼板が露出した露出領域33が、亜鉛系めっき鋼板30の上下面に形成される(Step3)。
【0033】
熱により蒸発した亜鉛ガスは、亜鉛系めっき鋼板30の上面からは直接外部に排出される。また、鋼板40に接触する亜鉛系めっき鋼板30の下面から蒸発した亜鉛ガスは、亜鉛系めっき鋼板30と鋼板40との隙間から外部に排出される。該隙間を適正に確保して亜鉛ガスの排出を円滑に行うためにも、上記した亜鉛系めっき層31の除去工程において、亜鉛系めっき鋼板30及び鋼板40を過度に押圧しないことが望ましい。
【0034】
また、補助電極52の形状は、リング状に限定されないが、リング状に形成することで(図1を参照)、加熱領域32及び露出領域33も円形となり、亜鉛の理想的な蒸発状態を作ることができるため、その後に行う抵抗スポット溶接に好適な形状で亜鉛系めっき層31を除去することができる。
【0035】
なお、補助電極52の形状は、周方向に連続的にリング状に形成されているものだけでなく、例えば図3に示すように、補助電極52の長手方向における少なくとも一部が、補助電極52の周方向において断続的に(不連続に)形成されているものであってもよい(なお、図3において、電源、電気経路及びスイッチの図示は省略する。)。このように補助電極52が断続的に形成されることで、補助電極52が鋼板30,40と接する部分を小さくすることができるため、図3に示すような、鋼板30,40の少なくとも一方が、プレス成形等の加工により溶接予定箇所が狭隘となる場合の溶接に好適に用いることができる。
【0036】
次いで、駆動装置を作動させて電極50の主電極51と、電極60の主電極61を、それぞれ板組20に向けて移動させて、主電極51,61間で板組20を強く挟持し、所定の加圧力を加えながらスイッチ75,77を閉じて、亜鉛系めっき鋼板30及び鋼板40を介して、主電極51,61間に通電する。これにより、亜鉛系めっき鋼板30及び鋼板40間に、溶接金属部であるナゲット34が形成された後に板組20を冷却する(Step4)。
【0037】
その後、板組20から電極50,60を離間させることで、亜鉛系めっき鋼板30と鋼板40との抵抗スポット溶接を完了する(Step5)。
【0038】
なお、亜鉛系めっき層31を部分的に除去する工程は、通電されていない側における電極60を、板組20に当接させた状態で行ってもよい。このように亜鉛系めっき層31を除去する際に、電極60を板組20に当接させてスタンバイ状態としておくことで、その後の板組20を抵抗スポット溶接する工程を直ちに行うことができ、溶接能率が向上する。なお、その際、亜鉛系めっき鋼板30に接触させた主電極51は、亜鉛系めっき層31の除去工程後に板組20から離間させる必要はない。
【0039】
また、板組20を抵抗スポット溶接する工程において、必ずしも補助電極52を離間させる必要はないが、補助電極52を退避させておくことで、不可避的に発生するチリ(すなわち、電極と鋼板間で発生するスパッタ)が、主電極51と補助電極52との隙間に堆積して、主電極51及び補助電極52間が常時通電状態になる等のトラブルの発生を防止することができる。
【0040】
このように、本実施形態の抵抗スポット溶接装置10によれば、亜鉛系めっき鋼板30における溶接予定箇所の亜鉛系めっき層31のみを、亜鉛の蒸発により除去して、露出領域33を形成した後、該露出領域33と亜鉛系めっき層を有しない鋼板40とを抵抗スポット溶接するため、亜鉛による影響を排除して、粒界脆化割れ(LME割れ)を防止し、溶接欠陥のない良好な状態で溶接を行うことができる。
【0041】
また、亜鉛系めっき層31が除去される範囲(露出領域33)は、リング状の補助電極52の内側、すなわち、溶接部(すなわち、溶接予定箇所)のみが位置精度よく除去され、不必要に広い範囲の亜鉛系めっき層31が除去されないので、防錆効果が損なわれることがなく、かつ、溶接とほぼ同工程で短時間に亜鉛系めっき層31を除去することができる。
【0042】
<第2実施形態>
(抵抗スポット溶接装置)
続いて、第2実施形態に係る抵抗スポット溶接装置について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の概略構成図である。図4に示すように、本実施形態に係る抵抗スポット溶接装置10Aは、表面に亜鉛系めっき層31を有する複数(図に示す実施形態では2枚)の亜鉛系めっき鋼板30A,30Bが重ね合わされた板組20を抵抗スポット溶接で接合する。
【0043】
抵抗スポット溶接装置10Aは、板組20を挟むように、図中上下方向に対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な第1複合電極50と、第2複合電極60を備える。第1複合電極50及び第2複合電極60は、それぞれ主電極(第1溶接電極)51及び主電極(第2溶接電極)61と、該第1溶接電極51及び該第2溶接電極61の周囲をそれぞれ囲むように配置された、リング状の第1補助電極52及び第2補助電極62とを備える。
【0044】
なお、第1溶接電極51、第2溶接電極61、第1補助電極52及び第2補助電極62は、例えば、エア式や電動式などの公知の駆動装置で駆動され、独立して図中上下方向、すなわち、板組20に接近又は離間する方向に移動可能である。
【0045】
第1溶接電極51及び第2溶接電極61は、抵抗スポット溶接を実施するのに要する、比較的強い加圧力で板組20を押圧可能になっている。また、第1補助電極52及び第2補助電極62は、それぞれ第1溶接電極51及び第2溶接電極61との間に通電できる程度に亜鉛系めっき鋼板30に接触していればよく、第1溶接電極51や第2溶接電極61の加圧力ほどの力は要しない。
【0046】
また、抵抗スポット溶接装置10Aは、1つの電源70を備える。電源70は、電気経路71により第1溶接電極51と接続されるとともに、電気経路72により第1補助電極52と接続されている。電気経路71の途中には、電気経路71を接続又は遮断する制御部であるスイッチ75が設けられ、電気経路72の途中には、電気経路72を接続又は遮断する制御部であるスイッチ76が設けられている。また、電源70は、電気経路73により第2溶接電極61と接続されるとともに、電気経路74により第2補助電極62と接続されている。電気経路73の途中には、電気経路73を接続又は遮断する制御部であるスイッチ77が設けられ、電気経路74の途中には、電気経路74を接続又は遮断する制御部であるスイッチ78が設けられている。
【0047】
これにより、スイッチ75,76,77,78を適宜、接続又は遮断することで、第1溶接電極51及び第1補助電極52の間、第2溶接電極61及び第2補助電極62の間、並びに第1溶接電極51及び第2溶接電極61の間を、それぞれ通電又は遮断することができる。
【0048】
なお、図4に示すように、電源70は1つの電源により構成されているが、第1実施形態と同様、複数の電源により構成してもよい。また、電源は交流電源であっても、直流電源であってもよく、公知の抵抗スポット溶接に用いられる一般的な電源が使用可能である。
【0049】
(抵抗スポット溶接方法)
次に、抵抗スポット溶接装置10Aを用いて、複数の亜鉛系めっき鋼板30からなる板組20を抵抗スポット溶接する方法について、図5を参照して詳述する。
【0050】
図5に示すように、本実施形態に係る抵抗スポット溶接方法は、まず、互いに離間した状態の第1複合電極50と第2複合電極60の間に、複数(図に示す実施形態では2枚)の亜鉛系めっき鋼板30A,30Bなる板組20を配置する(Step1)。
【0051】
次いで、不図示の駆動装置を作動させて第1複合電極50(第1溶接電極51、第1補助電極52)を板組20に向けて移動させ、第1溶接電極51及び第1補助電極52を、上側に配置された亜鉛系めっき鋼板30Aに接触させる。そして、スイッチ75,76を閉じ、亜鉛系めっき鋼板30Aを介して第1溶接電極51及び第1補助電極52間に通電する。これにより、第1溶接電極51から第1補助電極52に向けて、又は、その逆の方向に、電流が亜鉛系めっき鋼板30Aの面内方向において放射状に流れ、上側の亜鉛系めっき鋼板30Aには加熱領域32が形成される(Step2)。
【0052】
第1溶接電極51及び第1補助電極52間の領域が加熱されることで、亜鉛系めっき鋼板30Aにおける、融点が低い亜鉛系めっき層31が蒸発して除去され、亜鉛系めっき層31のない生の鋼板が露出した露出領域33が、亜鉛系めっき鋼板30Aの上下面に形成される(Step3)。
【0053】
次いで、第1複合電極50を亜鉛系めっき鋼板30Aから離間させ、亜鉛系めっき鋼板30Bの下方に配置された第2複合電極60(第2溶接電極61、第2補助電極62)を板組20に向けて移動させ、第2溶接電極61及び第2補助電極62を、下側に配置された亜鉛系めっき鋼板30Bに接触させる。そして、スイッチ77,78を閉じ、亜鉛系めっき鋼板30Bを介して第2溶接電極61及び第2補助電極62間に通電する。これにより、第2溶接電極61から第2補助電極62に向けて、又は、その逆の方向に、電流が亜鉛系めっき鋼板30Bの面内方向において放射状に流れ、下側の亜鉛系めっき鋼板30Bにも加熱領域32が形成される(Step4)。
【0054】
第2溶接電極61及び第2補助電極62間の領域が加熱されることで、亜鉛系めっき鋼板30Bにおける、融点が低い亜鉛系めっき層31が蒸発して除去され、亜鉛系めっき層31のない生の鋼板が露出した露出領域33が、亜鉛系めっき鋼板30Bの上下面にも形成される(Step5)。
【0055】
これにより、亜鉛系めっき鋼板30A,30Bの溶接予定箇所にある亜鉛系めっき層31は、完全に除去される。
【0056】
引き続いて、駆動装置を作動させて第1複合電極50の第1溶接電極51と、第2複合電極60の第2溶接電極61を、それぞれ板組20に向けて移動させて、第1溶接電極51及び第2溶接電極61間で板組20を強く挟持し、所定の加圧力を加えながらスイッチ75,77を閉じて、亜鉛系めっき鋼板30A,30Bを介して、第1溶接電極51及び第2溶接電極61間に通電する。これにより、亜鉛系めっき鋼板30A,30B間に、溶接金属部であるナゲット34が形成された後に板組20を冷却する(Step6)。
【0057】
その後、板組20から第1溶接電極51及び第2溶接電極61を離間させることで、亜鉛系めっき鋼板30A,30Bの抵抗スポット溶接を完了する(Step7)。
【0058】
上記したように、板組20の上下に、一対の第1複合電極50及び第2複合電極60を配置し、板組20の溶接に先立って、亜鉛系めっき鋼板30A,30Bの亜鉛系めっき層31を別工程で除去するようにしたため、亜鉛系めっき層31の蒸発除去工程での亜鉛系めっき鋼板30A,30B間の通電が防止される。これにより、偏った温度上昇が抑制され、亜鉛の蒸発が不安定になることがなく、安定して亜鉛系めっき層31を除去することができる。
【0059】
このように、本実施形態の抵抗スポット溶接装置10Aによれば、上下に配置された亜鉛系めっき鋼板30A,30Bの溶接予定箇所の亜鉛系めっき層31のみを、亜鉛の蒸発により除去して、露出領域33を形成した後、該露出領域33同士を抵抗スポット溶接するため、亜鉛による影響を排除して、粒界脆化割れ(LME割れ)を防止し、溶接欠陥のない良好な状態で溶接を行うことができる。
【0060】
また、亜鉛系めっき層31が除去される範囲(露出領域33)は、リング状の第1補助電極52及び第2補助電極62の内側、すなわち、溶接部のみが位置精度よく除去され、不必要に広い範囲の亜鉛系めっき層31が除去されないので、防錆効果が損なわれることがなく、かつ、溶接とほぼ同工程で短時間に亜鉛系めっき層31を除去することができる。
【0061】
(抵抗スポット溶接方法の変形例)
上記の説明では、板組20が2枚の鋼板(亜鉛系めっき鋼板30と亜鉛系めっき層を有しない鋼板40、又は2枚の亜鉛系めっき鋼板30A,30B)で構成された例について説明したが、板組20は3枚以上の鋼板で構成されてもよい。
【0062】
図6は、3枚の鋼板からなる板組20を抵抗スポット溶接する手順を示す図である。図6に示すように、板組20は、亜鉛系めっき層を有しない鋼板40の両面を2枚の亜鉛系めっき鋼板30A,30Bで挟持した構成となっている。中間部に亜鉛系めっき層を有しない鋼板40を配置することは、LME割れのない良好な溶接を実現する上で好ましい。なお、中間部に配置する亜鉛系めっき層を有しない鋼板40は、1枚であってもよいが、板組20が溶接可能であれば2枚以上であってもよい。
【0063】
なお、3枚の鋼板30A,40,30Bからなる板組20の溶接も、上記第2実施形態で説明した抵抗スポット溶接装置10Aにより実施可能である。
【0064】
具体的には、まず、互いに離間した状態の第1複合電極50及び第2複合電極60の間に、3枚の鋼板30A,40,30Bからなる板組20を配置する(Step1)。
【0065】
次いで、不図示の駆動装置を作動させて第1複合電極50(第1溶接電極51、第1補助電極52)を板組20に向けて移動させ、第1溶接電極51及び第1補助電極52を、上側に配置された亜鉛系めっき鋼板30Aに接触させる。そして、スイッチ75,76を閉じ、亜鉛系めっき鋼板30Aを介して第1溶接電極51及び第1補助電極52間に通電する。これにより、第1溶接電極51から第1補助電極52に向けて、又は、その逆の方向に、電流が亜鉛系めっき鋼板30Aの面内方向において放射状に流れ、上側の亜鉛系めっき鋼板30Aには加熱領域32が形成される(Step2)。
【0066】
第1溶接電極51及び第1補助電極52間の領域が加熱されることで、亜鉛系めっき鋼板30Aにおける、融点が低い亜鉛系めっき層31が蒸発して除去され、亜鉛系めっき層31のない生の鋼板が露出した露出領域33が、亜鉛系めっき鋼板30Aの上下面に形成される(Step3)。
【0067】
次いで、第1複合電極50を亜鉛系めっき鋼板30Aから離間させ、亜鉛系めっき鋼板30Bの下方に配置された第2複合電極60(第2溶接電極61、第2補助電極62)を板組20に向けて移動させ、第2溶接電極61及び第2補助電極62を、下側に配置された亜鉛系めっき鋼板30Bに接触させる。そして、スイッチ77,78を閉じ、亜鉛系めっき鋼板30Bを介して第2溶接電極61及び第2補助電極62間に通電する。これにより、第2溶接電極61から第2補助電極62に向けて、又は、その逆の方向に、電流が亜鉛系めっき鋼板30Bの面内方向において放射状に流れ、下側の亜鉛系めっき鋼板30Bにも加熱領域32が形成される(Step4)。
【0068】
第2溶接電極61及び第2補助電極62間の領域が加熱されることで、亜鉛系めっき鋼板30Bにおける、融点が低い亜鉛系めっき層31が蒸発して除去され、亜鉛系めっき層31のない生の鋼板が露出した露出領域33が、亜鉛系めっき鋼板30Bの上下面にも形成される(Step5)。
【0069】
これにより、亜鉛系めっき鋼板30A,30Bの溶接予定箇所にある亜鉛系めっき層31は、完全に除去される。
【0070】
引き続いて、駆動装置を作動させて第1複合電極50の第1溶接電極51と、第2複合電極60の第2溶接電極61を、それぞれ板組20に向けて移動させて、第1溶接電極51及び第2溶接電極61間で板組20を強く挟持し、所定の加圧力を加えながらスイッチ75,77を閉じて、3枚の鋼板30A,40,30Bを介して、第1溶接電極51及び第2溶接電極61間に通電する。これにより、3枚の鋼板30A,40,30B間に、溶接金属部であるナゲット34が形成された後に板組20を冷却する(Step6)。
【0071】
その後、板組20から第1溶接電極51及び第2溶接電極61を離間させることで、3枚の鋼板30A,40,30Bの抵抗スポット溶接を完了する(Step7)。
【0072】
その他の構成、作用は、第2実施形態の抵抗スポット溶接装置10Aと同様である。
【0073】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0074】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行うための抵抗スポット溶接装置であって、
前記板組を挟むように対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な1組の電極を備え、
前記1組の電極はそれぞれ主電極を有するとともに、
前記1組の電極のうち少なくとも一方は、前記主電極の近傍に配置され、前記主電極と独立して移動可能な補助電極を有し、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間、並びに、1組の前記主電極の間を、それぞれ通電可能な電源を備え、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間の通電、又は、1組の前記主電極の間の通電のいずれか一方に切り替え可能な制御部をさらに備える、抵抗スポット溶接装置。
【0075】
この構成によれば、主電極と、他の主電極及び該主電極の近傍に配置された補助電極を有する電極との、1組の電極の間に、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を配置し、主電極及び補助電極の間で通電して亜鉛系めっき層を部分的に除去した後、板組を加圧しながら、1組の主電極の間で通電を行って板組を抵抗スポット溶接するので、複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる。
【0076】
(2) 前記補助電極は、その近傍に配置される前記主電極の周囲を囲うようにリング状に形成される、(1)に記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、加熱領域及び露出領域も円形となり、亜鉛の理想的な蒸発状態を作ることができるため、その後に行う抵抗スポット溶接に好適な形状で亜鉛系めっき層を除去することができる。また、抵抗スポット溶接される範囲近傍のみの亜鉛系めっき層を除去することができ、防食効果の低下を抑制することができる。
【0077】
(3) 前記電源と、前記主電極若しくは前記補助電極との間の各電気経路には、該各電気経路を接続又は遮断するスイッチがそれぞれ設けられる、(1)又は(2)に記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、スイッチを切り換えることで、亜鉛系めっき鋼板からの亜鉛系めっき層の除去と、板組の抵抗スポット溶接とを容易に実施することができる。
【0078】
(4) 前記電源は1つである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、主電極や補助電極ごとに個別の電源を設置する場合に比較して設備コストが大幅に低減する。
【0079】
(5) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(1)~(4)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、亜鉛系めっき鋼板を含む3枚の鋼板からなる板組をLME欠陥なく、良好に抵抗スポット溶接できる。
【0080】
(6) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
対向して配置されるとともに、それぞれ主電極を有し、少なくとも一方が前記主電極の近傍に配置され、前記主電極と独立して移動可能な補助電極を有する1組の電極の間に、前記板組を配置する工程と、
前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間で通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程と、
前記板組を加圧しながら、前記1組の主電極の間で通電を行うことで、前記板組を抵抗スポット溶接により接合する工程と、
を備える、抵抗スポット溶接方法。
【0081】
この構成によれば、複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる。
【0082】
(7) 前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程は、通電されていない側における前記電極を、前記板組に当接させた状態で行われる、(6)に記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、亜鉛系めっき層を除去する際に、電極を板組に当接させてスタンバイ状態としておくことで、その後の板組を抵抗スポット溶接する工程を直ちに行うことができ、溶接能率が向上する。
【0083】
(8) 前記補助電極として、その近傍に配置される前記主電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成されたものを用いる、(6)又は(7)に記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、加熱領域及び露出領域も円形となり、亜鉛の理想的な蒸発状態を作ることができるため、その後に行う抵抗スポット溶接に好適な形状で亜鉛系めっき層を除去することができる。また、抵抗スポット溶接される範囲近傍のみの亜鉛系めっき層を除去することができ、防食効果の低下を抑制することができる。
【0084】
(9) 前記主電極及びその近傍に配置される前記補助電極の間、又は、前記1組の主電極の間で行われる通電は、1つの電源と、前記主電極若しくは前記補助電極との間の各電気経路を、接続又は遮断するスイッチを切り替えることで行われる、(6)~(8)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、電源設備のコストが低減するとともに、スイッチを切り換えることで、亜鉛系めっき層の除去と、板組の抵抗スポット溶接とを容易に実施することができる。
【0085】
(10) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(6)~(9)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、亜鉛系めっき鋼板を含む3枚の鋼板からなる板組をLME欠陥なく、良好に抵抗スポット溶接できる。
【0086】
(11) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行うための抵抗スポット溶接装置であって、
前記板組を挟むように対向して配置され、互いに接近又は離間するように移動可能な第1複合電極及び第2複合電極を備え、
前記第1複合電極は、第1溶接電極と、該第1溶接電極の近傍に配置され、該第1溶接電極と独立して移動可能な第1補助電極と、を有するとともに、
前記第2複合電極は、第2溶接電極と、該第2溶接電極の近傍に配置され、該第2溶接電極と独立して移動可能な第2補助電極と、を有し、
前記第1溶接電極と前記第1補助電極との間、前記第2溶接電極と前記第2補助電極との間、及び前記第1溶接電極と前記第2溶接電極との間を、それぞれ通電可能な電源をさらに備える、抵抗スポット溶接装置。
【0087】
この構成によれば、第1複合電極及び第2複合電極の間に、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を配置し、第1溶接電極と第1補助電極との間、及び、第2溶接電極と第2補助電極との間の少なくとも一方に通電することで、亜鉛めっき層を除去した後、板組を加圧しながら、第1溶接電極及び第2溶接電極の間で通電を行って板組を抵抗スポット溶接するので、複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる。
【0088】
また、亜鉛系めっき層を有する複数の亜鉛系めっき鋼板が重ね合わされた板組を抵抗スポット溶接で接合する場合において、第1溶接電極と第1補助電極との間、及び、第2溶接電極と第2補助電極との間に通電することができるため、複数枚の亜鉛系めっき鋼板からなる板組(特には、板組のうち、最外層の鋼板の両方が亜鉛めっき層を有する場合)であっても、複数の亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層を除去することができ、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる。
【0089】
(12) 前記第1溶接電極と前記第1補助電極との間の通電、前記第2溶接電極と前記第2補助電極との間の通電、又は、前記第1溶接電極と前記第2溶接電極との間の通電に切り替え可能な制御部をさらに備える、(11)に記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、制御部により、亜鉛系めっき鋼板から亜鉛系めっき層の除去と、亜鉛系めっき鋼板の抵抗スポット溶接を切り換えて実施することができる。
【0090】
(13) 前記第1補助電極及び前記第2補助電極は、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成される、(11)又は(12)に記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、加熱領域及び露出領域も円形となり、亜鉛の理想的な蒸発状態を作ることができるため、その後に行う抵抗スポット溶接に好適な形状で亜鉛系めっき層を除去することができる。また、抵抗スポット溶接される範囲近傍のみの亜鉛系めっき層を除去することができ、防食効果の低下を抑制することができる。
【0091】
(14) 前記電源と、前記第1溶接電極、前記第1補助電極、前記第2溶接電極若しくは前記第2補助電極との間の各電気経路には、該各電気経路を接続又は遮断するスイッチがそれぞれ設けられる、(11)~(13)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、スイッチを切り換えることで、亜鉛系めっき鋼板からの亜鉛系めっき層の除去と、板組の抵抗スポット溶接とを容易に実施することができる。
【0092】
(15) 前記電源は1つである、(11)~(14)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、第1溶接電極、第1補助電極、第2溶接電極、第2補助電極ごとに個別の電源を設置する場合に比較して設備コストが大幅に低減する。
【0093】
(16) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(11)~(15)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接装置。
この構成によれば、亜鉛系めっき鋼板を含む3枚の鋼板からなる板組を溶接欠陥なく、良好に抵抗スポット溶接できる。
【0094】
(17) 重ね合わされた複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組に抵抗スポット溶接を行う抵抗スポット溶接方法であって、
対向して配置され、第1溶接電極及び該第1溶接電極の近傍に配置され、該第1溶接電極と独立して移動可能な第1補助電極を有する第1複合電極と、第2溶接電極及び該第2溶接電極の近傍に配置され、該第2溶接電極と独立して移動可能な第2補助電極を有する第2複合電極、との間に、前記板組を配置する工程と、
前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、及び、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間の少なくとも一方に通電を行うことで、前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程と、
前記板組を加圧しながら、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極との間で通電を行うことで、前記板組を抵抗スポット溶接により接合する工程と、
を備える、抵抗スポット溶接方法。
【0095】
この構成によれば、第1複合電極及び第2複合電極の間に、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を配置し、第1溶接電極と第1補助電極との間、及び、第2溶接電極と第2補助電極との間の少なくとも一方に通電することで、亜鉛めっき層を除去した後、板組を加圧しながら、第1溶接電極及び第2溶接電極の間で通電を行って板組を抵抗スポット溶接するので、複数の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が亜鉛系めっき層を有する板組を、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる。
【0096】
また、亜鉛系めっき層を有する複数の亜鉛系めっき鋼板が重ね合わされた板組を抵抗スポット溶接で接合する場合において、第1溶接電極と第1補助電極との間、及び、第2溶接電極と第2補助電極との間に通電することができるため、複数枚の亜鉛系めっき鋼板からなる板組(特には、板組のうち、最外層の鋼板の両方が亜鉛めっき層を有する場合)であっても、複数の亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層を除去することができ、溶接欠陥なく抵抗スポット溶接することができる。
【0097】
(18) 前記亜鉛系めっき層を部分的に除去する工程は、通電されていない側における、前記第1溶接電極及び前記第1補助電極、又は、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極を、前記板組に当接させた状態で行われる、(17)に記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、亜鉛系めっき層を除去する際に、電極を板組に当接させてスタンバイ状態としておくことで、その後の板組を抵抗スポット溶接する工程を直ちに行うことができ、溶接能率が向上する。
【0098】
(19) 前記板組における最外層の鋼板の両方が亜鉛系めっき層を有する場合において、
前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、及び、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間の通電を同時に行わない、(17)又は(18)に記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、亜鉛系めっき層の除去工程において、上下の亜鉛系めっき鋼板間の通電が防止されるので、偏った温度上昇が抑制されて、亜鉛の蒸発が不安定にならずに安定して除去することができる。
【0099】
(20) 前記第1補助電極及び前記第2補助電極として、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極の周囲を囲うようにリング状にそれぞれ形成されたものを用いる、(17)~(19)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、加熱領域及び露出領域も円形となり、亜鉛の理想的な蒸発状態を作ることができるため、その後に行う抵抗スポット溶接に好適な形状で亜鉛系めっき層を除去することができる。また、抵抗スポット溶接される範囲近傍のみの亜鉛系めっき層を除去することができ、防食効果の低下を抑制することができる。
【0100】
(21) 前記第1溶接電極及び前記第1補助電極の間、前記第2溶接電極及び前記第2補助電極の間、又は、前記第1溶接電極及び前記第2溶接電極との間で行われる通電は、1つの電源と、前記第1溶接電極、前記第1補助電極、前記第2溶接電極若しくは前記第2補助電極との間の各電気経路を、接続又は遮断するスイッチを切り替えることで行われる、(17)~(20)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、電源設備のコストが低減するとともに、スイッチを切り換えることで、亜鉛系めっき層の除去と、板組の抵抗スポット溶接とを容易に実施することができる。
【0101】
(22) 前記板組は、最外層の少なくとも一方に亜鉛系めっき層を有し、かつ、中間層には亜鉛系めっき層を有しない(前記中間層を有しない場合を含む)、(17)、(18)、(20)又は(21)のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法。
この構成によれば、亜鉛系めっき鋼板を含む3枚の鋼板からなる板組をLME欠陥なく、良好に抵抗スポット溶接できる。
【符号の説明】
【0102】
10,10A 抵抗スポット溶接装置
20 板組
30,30A,30B 亜鉛系めっき鋼板(鋼板)
31 亜鉛系めっき層
32 加熱領域
33 露出領域
34 ナゲット
40 亜鉛系めっき層を有しない鋼板(鋼板)
50 第1複合電極(電極)
51 主電極(第1溶接電極)
52 補助電極(第1補助電極)
60 第2複合電極(電極)
61 主電極(第2溶接電極)
62 第2補助電極
70 電源
71,72,73,74 電気経路
75,76,77,78 スイッチ(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6