(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】液晶素子、照明装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20221220BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20221220BHJP
F21S 41/64 20180101ALI20221220BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1343
F21S41/64
(21)【出願番号】P 2019052886
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】濱本 学
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198939(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/119865(WO,A1)
【文献】特開2011-186435(JP,A)
【文献】特開2011-248334(JP,A)
【文献】特開平05-045636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1343-1/1345
F21S 41/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の間に配置される液晶層と、
前記第1基板の一面側に設けられた対向電極と、
前記第2基板の一面側に設けられた複数の画素間電極と、
前記第2基板の一面側において前記複数の画素間電極の上側に設けられた第1絶縁層と、
前記第2基板の一面側において前記第1絶縁層の上側に設けられた複数の画素電極と、
前記複数の画素電極の上側に設けられた第2絶縁層と、
を含み、
前記複数の画素電極は、平面視において、少なくとも第1方向に沿って相互間に隙間を設けて配置されており、
前記複数の画素間電極は、各々、平面視において、前記第1方向において隣り合う2つの前記画素電極の相互間の前記隙間と重なるように配置されており、かつ当該2つの前記画素電極の何れか1つと接続されており、
前記第2絶縁層は、平面視において、前記複数の画素電極の各々と重なる各領域に対して選択的に設けられて
おり、
前記第1絶縁層と前記第2絶縁層の誘電率は同一であり、
前記第1絶縁層の層厚をd
1
、前記第2絶縁層の層厚をd
2
、前記画素間電極と前記対向電極の間の前記液晶層の層厚をd
LC1
とすると、
前記層厚d
2
は、(d
1
d
LC1
)/(d
1
+d
LC1
)で計算される値に対して±30%以内に設定される、
液晶素子。
【請求項2】
対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の間に配置される液晶層と、
前記第1基板の一面側に設けられた対向電極と、
前記第2基板の一面側に設けられた複数の画素間電極と、
前記第2基板の一面側において前記複数の画素間電極の上側に設けられた第1絶縁層と、
前記第2基板の一面側において前記第1絶縁層の上側に設けられた複数の画素電極と、
前記第1基板の一面側において前記対向電極の前記第2基板側に設けられた第2絶縁層と、
を含み、
前記複数の画素電極は、平面視において、少なくとも第1方向に沿って相互間に隙間を設けて配置されており、
前記複数の画素間電極は、各々、平面視において、前記第1方向において隣り合う2つの前記画素電極の相互間の前記隙間と重なるように配置されており、かつ当該2つの前記画素電極の何れか1つと接続されており、
前記第2絶縁層は、平面視において、前記複数の画素電極の各々と重なる各領域に対して選択的に設けられて
おり、
前記第1絶縁層と前記第2絶縁層の誘電率は同一であり、
前記第1絶縁層の層厚をd
1
、前記第2絶縁層の層厚をd
2
、前記画素間電極と前記対向電極の間の前記液晶層の層厚をd
LC1
とすると、
前記層厚d
2
は、(d
1
d
LC1
)/(d
1
+d
LC1
)で計算される値に対して±30%以内に設定される、
液晶素子。
【請求項3】
前記第1基板の一面側及び前記第2基板の一面側の各々に設けられており、前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層の各々の層厚よりも小さい膜厚の配向膜を更に含む、
請求項1
又は2に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記第2基板の一面側に設けられており、各々、前記複数の画素間電極の何れか1つと
接続され、かつ前記複数の画素電極の下側に配置されている複数の配線部を更に含む、
請求項1~
3の何れか1項に記載の液晶素子。
【請求項5】
配光パターンを可変に設定可能な照明装置であって、
光源と、
前記光源からの光を用いて前記配光パターンに対応する画像を形成する液晶素子と、
前記液晶素子によって形成された前記画像を投影する光学系と、
を含み、
前記液晶素子として請求項1~
4の何れかに記載の液晶素子を用いる、
照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両前方などに所望のパターンで光照射を行うための装置(システム)並びに当該装置等に用いて好適な液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-183327号公報(特許文献1)には、少なくとも一つのLEDから成る発光部と、上記発光部から前方に向かって照射される光の一部を遮断して、車両前照灯用の配光パターンに適したカットオフを形成する遮光部と、を含んでおり、上記遮光部が、調光機能を備えた電気光学素子と、この電気光学素子を調光制御する制御部と、から構成されていて、この制御部による電気光学素子の電気的スイッチング制御によって、調光部分を選択的に調光することにより、配光パターンの形状を変化させるように構成された車両前照灯が開示されている。電気光学素子としては、例えば液晶素子が用いられている。
【0003】
上記のような車両用灯具において、液晶素子等の電気光学素子は、選択的な調光を実現するために複数の画素電極を有して構成される。これらの画素電極は、各々個別に電圧を印加し得るように互いに分離しており、各々の間には電気的絶縁を図るための隙間が設けられている。このとき、画素電極同士の隙間は、その形成精度にもよるが例えば10μm程度となる。画素電極同士の隙間は、画像形成に寄与しない部分であり、配光パターン内に暗線を発生させる要因となる。車両用灯具では、電気光学素子によって形成された画像(配光パターンに対応した画像)をレンズ等によって拡大して車両前方へ投影するので、上記のような暗線も拡大されて視認しやすくなるため、配光パターンの見栄えが悪くなるという不都合がある。これに対して、画素電極同士の隙間をより狭めるという解決策も考え得るが、その場合、製造コストの上昇を招き、また画素電極同士の短絡等の不具合を生じやすくなり得るために好ましくない。また、画素電極間に通す配線部の幅をより細くするという解決策も考え得るが、その場合、配線部の抵抗値が上昇してしまい画素電極に必要十分な電圧を印加しにくくなり、また細線化による断線の発生確率も上昇するために好ましくない。なお、このような不都合は車両用灯具に限らず、液晶素子等を用いて配光パターンを制御する照明装置一般においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、液晶素子等を用いて配光パターンを制御する照明装置における配光パターンの見栄えを向上させることが可能な技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係る一態様の液晶素子は、(a)対向配置される第1基板及び第2基板と、(b)前記第1基板と前記第2基板の間に配置される液晶層と、(c)前記第1基板の一面側に設けられた対向電極と、(d)前記第2基板の一面側に設けられた複数の画素間電極と、(e)前記第2基板の一面側において前記複数の画素間電極の上側に設けられた第1絶縁層と、(f)前記第2基板の一面側において前記第1絶縁層の上側に設けられた複数の画素電極と、(g)前記複数の画素電極の上側に設けられた第2絶縁層と、を含み、(h)前記複数の画素電極は、平面視において、少なくとも第1方向に沿って相互間に隙間を設けて配置されており、(i)前記複数の画素間電極は、各々、平面視において、前記第1方向において隣り合う2つの前記画素電極の相互間の前記隙間と重なるように配置されており、かつ当該2つの前記画素電極の何れか1つと接続されており、(j)前記第2絶縁層は、平面視において、前記複数の画素電極の各々と重なる各領域に対して選択的に設けられており、(k)前記第1絶縁層と前記第2絶縁層の誘電率は同一であり、(l)前記第1絶縁層の層厚をd
1
、前記第2絶縁層の層厚をd
2
、前記画素間電極と前記対向電極の間の前記液晶層の層厚をd
LC1
とすると、前記層厚d
2
は、(d
1
d
LC1
)/(d
1
+d
LC1
)で計算される値に対して±30%以内に設定される、液晶素子である。
[2]本発明に係る一態様の液晶素子は、(a)対向配置される第1基板及び第2基板と、(b)前記第1基板と前記第2基板の間に配置される液晶層と、(c)前記第1基板の一面側に設けられた対向電極と、(d)前記第2基板の一面側に設けられた複数の画素間電極と、(e)前記第2基板の一面側において前記複数の画素間電極の上側に設けられた第1絶縁層と、(f)前記第2基板の一面側において前記第1絶縁層の上側に設けられた複数の画素電極と、(g)前記第1基板の一面側において前記対向電極の前記第2基板側に設けられた第2絶縁層と、を含み、(h)前記複数の画素電極は、平面視において、少なくとも第1方向に沿って相互間に隙間を設けて配置されており、(i)前記複数の画素間電極は、各々、平面視において、前記第1方向において隣り合う2つの前記画素電極の相互間の前記隙間と重なるように配置されており、かつ当該2つの前記画素電極の何れか1つと接続されており、(j)前記第2絶縁層は、平面視において、前記複数の画素電極の各々と重なる各領域に対して選択的に設けられており、(k)前記第1絶縁層と前記第2絶縁層の誘電率は同一であり、(l)前記第1絶縁層の層厚をd
1
、前記第2絶縁層の層厚をd
2
、前記画素間電極と前記対向電極の間の前記液晶層の層厚をd
LC1
とすると、前記層厚d
2
は、(d
1
d
LC1
)/(d
1
+d
LC1
)で計算される値に対して±30%以内に設定される、液晶素子である。
[3]本発明に係る一態様の照明装置は、(a)配光パターンを可変に設定可能な照明装置であって、(b)光源と、(c)前記光源からの光を用いて前記配光パターンに対応する画像を形成する液晶素子と、(d)前記液晶素子によって形成された前記画像を投影する光学系と、を含み、(e)前記液晶素子として上記何れかに記載の液晶素子を用いる、照明装置である。
【0007】
上記各構成によれば、液晶素子等を用いて配光パターンを制御する照明装置における配光パターンの見栄えを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)は、液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、各画素電極の接続部の形状と配向処理方向との関係について説明するための図である。
【
図5】
図5は、各接続部と配向処理方向の関係について説明するための図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の液晶素子により得られる主要な効果を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の構成を適用した液晶素子における電気光学特性の例を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の構成を適用した液晶素子における電気光学特性の他の例を示す図である。
【
図9】
図9は、変形実施例の液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示す図である。
図1に示す車両用灯具システムは、光源1、カメラ2、制御装置3、液晶駆動装置4、液晶素子5、一対の偏光板6a、6b、投影レンズ7を含んで構成されている。この車両用前照灯システムは、カメラ2によって撮影される画像に基づいて自車両の周囲に存在する前方車両や歩行者等の位置を検出し、前方車両等の位置を含む一定範囲を非照射範囲に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うためのものである。
【0010】
光源1は、例えば青色光を放出する発光素子(LED)に黄色蛍光体を組み合わせて構成された白色光LEDを含んで構成されている。光源1は、例えば、マトリクス状あるいはライン状に配列された複数の白色光LEDを備える。なお、光源1としてはLEDのほかに、レーザー、さらには電球や放電灯など車両用ランプユニットに一般的に使用されている光源が使用可能である。光源1の点消灯状態は制御装置3によって制御される。光源1から出射する光は、偏光板6aを介して液晶素子(液晶パネル)5に入射する。なお、光源1から液晶素子5へ至る経路上に他の光学系(例えば、レンズや反射鏡、さらにはそれらを組み合わせたもの)が存在してもよい。
【0011】
カメラ2は、自車両の前方を撮影してその画像(情報)を出力するものであり、自車両内の所定位置(例えば、フロントガラス内側上部)に配置されている。なお、他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが自車両に備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0012】
制御装置3は、自車両の前方を撮影するカメラ2によって得られる画像に基づいて画像処理を行うことによって前方車両等の位置を検出し、検出された前方車両等の位置を含む一定範囲を非照射範囲とし、それ以外の範囲を光照射範囲とした配光パターンを設定し、この配光パターンに対応した像を形成するための制御信号を生成して液晶駆動回路4へ供給する。この制御装置3は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。
【0013】
液晶駆動装置4は、制御装置3から供給される制御信号に基づいて液晶素子5に駆動電圧を供給することにより、液晶素子5の各画素領域における液晶層の配向状態を個別に制御するものである。
【0014】
液晶素子5は、例えば、それぞれ個別に制御可能な複数の画素領域(光変調領域)を有しており、液晶駆動装置4によって与えられる液晶層への印加電圧の大きさに応じて各画素領域の透過率が可変に設定される。この液晶素子5に光源1からの光が照射されることにより、上記した光照射範囲と非照射範囲に対応した明暗を有する像が形成される。例えば、液晶素子5は、垂直配向型の液晶層を備えるものであり、直交ニコル配置された一対の偏光板6a、6bの間に配置されており、液晶層への電圧が無印加(あるいは閾値以下の電圧)である場合に光透過率が極めて低い状態(遮光状態)となり、液晶層へ電圧が印加された場合に光透過率が相対的に高い状態(透過状態)となるものである。
【0015】
一対の偏光板6a、6bは、例えば互いの偏光軸を略直交させており、液晶素子5を挟んで対向配置されている。本実施形態では、液晶層に電圧無印加としているときに光が遮光される(透過率が極めて低くなる)動作モードであるノーマリーブラックモードを想定する。各偏光板6a、6bとしては、例えば一般的な有機材料(ヨウ素系、染料系)からなる吸収型偏光板を用いることができる。また、耐熱性を重視したい場合には、ワイヤーグリッド型偏光板を用いることも好ましい。ワイヤーグリッド型偏光板とはアルミニウム等の金属による極細線を配列してなる偏光板である。また、吸収型偏光板とワイヤーグリッド型偏光板を重ねて用いてもよい。
【0016】
投影レンズ7は、液晶素子5を透過する光によって形成される像(光照射範囲と非照射範囲に対応した明暗を有する像)をヘッドライト用配光になるように広げて自車両の前方へ投影するものであり、適宜設計されたレンズが用いられる。本実施形態では、反転投影型のプロジェクターレンズが用いられる。
【0017】
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)は、液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。また、
図3は、液晶素子の構成を示す模式的な平面図である。なお、
図2(A)に示す断面図は、
図3に示すA-A線における一部断面に対応しており、
図2(B)に示す断面図は、
図3に示すB-B線における一部断面に対応しており、
図2(C)に示す断面図は、
図3に示すC-C線における一部断面に対応している。
【0018】
液晶素子5は、対向配置された上基板(第1基板)11および下基板(第2基板)12、共通電極(対向電極)13、複数の画素電極14、複数の画素間電極15、複数の配線部16、第1絶縁層(絶縁膜)17、第2絶縁層(絶縁膜)18、配向膜19、20、液晶層21を含んで構成されている。
【0019】
上基板11および下基板12は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板を用いることができる。上基板11と下基板12の間には、例えば樹脂膜などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を上基板11側若しくは下基板12側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。
【0020】
共通電極13は、上基板11の一面側に設けられている。この共通電極13は、下基板12の各画素電極14と対向するようにして一体に設けられている。共通電極13は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0021】
複数の画素電極14は、下基板12の一面側において第1絶縁層17の上側に設けられている。これらの画素電極14は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
図3に示すように、各画素電極14(14a、14b、14c)は、例えば平面視において矩形状の外縁形状を有しており、X方向およびY方向に沿ってマトリクス状に配列されている。各画素電極14の間には隙間が設けられている。上記の共通電極13と各画素電極14との重なる領域のそれぞれが上記した画素領域(光変調領域)を構成する。
【0022】
複数の画素間電極15は、下基板12の一面側において第1絶縁層17の下層側に設けられている。これらの画素間電極15は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
図3に示すように、各画素間電極15は、例えば平面視において長方形状の外縁形状を有しており、図中のX方向において隣り合う2つの画素電極14同士の相互間の隙間と重なるように配置されている。さらに本実施形態では、各画素間電極15は、図中右側に隣り合う画素電極14と部分的に重なっている。
【0023】
複数の配線部16は、下基板12の一面側において第1絶縁層17の下層側に設けられている。これらの配線部16は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各配線部16は、液晶駆動装置4から各画素電極14に対して電圧を与えるためのものである。
【0024】
第1絶縁層17は、下基板12の一面側において各画素間電極15および各配線部16の上側にこれらを覆うようにして設けられている。すなわち、第1絶縁層17は、下基板12の一面側において後述するスルーホール29を除く全面を覆うように設けられている。この第1絶縁層17は、例えばSiO2膜、SiON膜であり、スパッタ法などの気相プロセスあるいは溶液プロセスにより形成することができる。なお、この第1絶縁層17としては有機絶縁膜を用いてもよい。第1絶縁層17の層厚は、例えば1μm程度である。
【0025】
第2絶縁層18は、下基板12の一面側において各画素電極14の上側にこれらを覆うようにして設けられている。本実施形態では、第2絶縁層18は、各画素電極14とほぼ同形状で各画素電極14を選択的に覆い、各画素電極14の相互間の隙間は覆わないように形成されている。なお、第2絶縁層18は、各画素電極14の一部である接続部30を覆うようにしてスルーホール29を埋めて形成されている。この第2絶縁層18は、例えばSiO2膜、SiON膜であり、スパッタ法などの気相プロセスあるいは溶液プロセスにより形成することができる。なお、この第2絶縁層18としては有機絶縁膜を用いてもよい。第2絶縁層18の層厚は、例えば1μm程度である。
【0026】
配向膜19は、上基板11の一面側において共通電極13を覆うように設けられている。同様に、配向膜20は、下基板12の一面側において第2絶縁層18を覆い、かつ各画素電極14の間に露出する第1絶縁層17の一部を覆うように設けられている。各配向膜19、20としては、液晶層21の配向状態を垂直配向に規制する垂直配向膜が用いられる。各配向膜にはラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向へ液晶層21の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。各配向膜19、20の膜厚は、例えば50~70nmであり、第2絶縁層18の層厚よりも1桁以上小さい。このため、図示のように配向膜20は、第2絶縁層18により生じる起伏に沿って形成される。
【0027】
液晶層21は、上基板11と下基板12の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負であり、カイラル材を含み、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層21が構成される。本実施形態の液晶層21は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が一方向に傾斜した状態となり、各基板面に対して、例えば85°以上90°以下の範囲内のプレティルト角を有する略垂直配向となるように設定されている。
【0028】
本実施形態の液晶素子5は、共通電極13と各画素電極14とが平面視において重なる領域の各々として画定される領域である画素領域を数十~数百個有しており、これらの画素領域はマトリクス状に配列されている。本実施形態において各画素領域の形状は例えば正方形状に構成されているが、長方形状と正方形状を混在させるなど各画素領域の形状は任意に設定することができる。共通電極13、各画素電極14、各画素間電極15は、各配線部16等を介して液晶駆動装置4と接続されており、例えばスタティック駆動される。
【0029】
再び
図3を参照しながら、各画素電極14、各画素間電極15、各配線部16の構造について詳細に説明する。本実施形態では、各画素電極14は、Y方向に沿って3列に配列されており、X方向に沿って任意の数だけ配列されている。ここで、各画素電極14について、図中の上から順に1列目のものを画素電極14a、2列目のものを画素電極14b、3列目のものを画素電極14cという。また、画素間電極15についても、1列目の画素電極14aに対応付けられたものを画素間電極15a、2列目の画素電極14bに対応付けられたものを画素間電極15b、3列目の画素電極14cに対応付けられたものを画素間電極15cという。さらに、配線部16についても、1列目の画素電極14aおよび画素間電極15aに対応付けられたものを配線部16a、2列目の画素電極14bおよび画素間電極15bに対応付けられたものを配線部16b、3列目の画素電極14cおよび画素間電極15cに対応付けられたものを配線部16cという。
【0030】
各画素電極14aは、第1絶縁層17に設けられたスルーホール29を介して下層側の画素間電極15aおよび配線部16aと接続されている。これにより、画素電極14aと画素間電極15aと配線部16aが同電位化される。各スルーホール29は、
図3に示すように平面視において略三角形状の外縁形状を有しており、各画素電極14aの平面視における四隅の1つ(図中では左上の隅)に対応付けて設けられている。そして、各画素電極14aは、スルーホール29の壁面に沿って形成された接続部30aを有している。この接続部30aは、下側の画素間電極15aおよび配線部16aのスルーホール29底部に露出した部分と接している。なお、スルーホール29の平面視形状は、略三角形状に限られず、多角形、円形、楕円形等であってもよい。また、スルーホール29の形成位置を各画素電極の四隅の1つに設ける場合を示したが、画素電極の中央など任意の位置に設けることができる。
【0031】
同様に、各画素電極14bは、スルーホール29の壁面に沿って形成された接続部30bを有しており、下層側の画素間電極15bおよび配線部16bと接続されている。これにより、画素電極14bと画素間電極15bと配線部16bが同電位化される。
【0032】
同様に、各画素電極14cは、スルーホール29の壁面に沿って形成された接続部30cを有しており、下層側の画素間電極15cおよび配線部16cと接続されている。これにより、画素電極14cと画素間電極15cと配線部16cが同電位化される。
【0033】
各画素間電極15aは、平面視においてX方向に隣り合う2つの画素電極14a同士の相互間の隙間と重なるようにして配置されている。本実施形態では、各画素間電極15aは、平面視における自身の左側外縁エッジと、自身の左側に配置される画素電極14aの右側外縁エッジとが上下方向においてほぼ同じ位置となるように配置されている。
【0034】
また、各画素間電極15aは、平面視における自身の右側エッジから内側にある一部領域115aが自身の右側に配置される画素電極14aの左側外縁エッジの近傍の一部領域と部分的に重なるように配置されている。これらの一部領域115aは、画素電極14aの図中左側外縁エッジ付近において斜め電界が発生しないようにし、暗領域の発生を抑える効果を奏する。このことから、各一部領域115aのY方向長さはなるべく広いことが好ましく、本実施形態では一部領域115aのY方向長さが対応する画素電極14aのY方向長さとほぼ同じに設定されている。
【0035】
同様に、各画素間電極15bは、平面視においてX方向に隣り合う2つの画素電極14b同士の相互間の隙間と重なるように配置されており、一部領域115bが自身の右側の画素電極14bと部分的に重なるように配置されている。
【0036】
同様に、各画素間電極15cは、平面視においてX方向に隣り合う2つの画素電極14c同士の相互間の隙間と重なるように配置されており、一部領域115cが自身の右側の画素電極14cと部分的に重なるように配置されている。
【0037】
なお、図中では各画素間電極15a、15b、15cの下端部が各画素電極14a、14b、14cの下端部よりも僅かに下側へはみ出すように描画されているが、実際にはそれぞれの下端部が揃っていてもよい。
【0038】
各配線部16aは、各画素間電極15aのうち1つと接続されており、図中において上側へ延びている。本実施形態では、各配線部16aは、対応する画素間電極15aと同じ幅で一体に設けられている。各配線部16aは、液晶駆動装置4に接続される。
【0039】
各配線部16bは、各画素間電極15bのうち1つと接続されており、図中において上側へ延びている。各配線部16bは、液晶駆動装置4に接続される。本実施形態では、各配線部16bは、平面視において、自身と接続される画素間電極15bに対してX方向に隣り合う画素電極14bと部分的に重なる一部領域116bと、この画素電極14bとそれにY方向で隣り合う画素電極14aとの間に配置された一部領域216bと、この画素電極14aと重なって配置された一部領域316bを有している。各一部領域116b、216b、316bは一体に設けられている。
【0040】
各配線部16bの各一部領域116bは、上記した一部領域115bと同様に、画素電極14bの図中上側外縁エッジ付近における暗領域の発生を抑える効果を奏する。このため、各一部領域116bのX方向の幅はなるべく広いほうが好ましく、例えば対応付けられる画素電極14a、14bの幅に対して50%以上の幅を有することが好ましい。図示の例では、各一部領域316bの幅は、対応付けられる画素電極14a、14bの幅に対して約70%の幅となっている。
【0041】
各配線部16bの各一部領域216bは、Y方向において隣り合う2つの画素電極14a、14b同士の相互間に配置される画素間電極としての機能も奏する。このため、各一部領域216bのX方向長さはなるべく広いほうが好ましく、例えば対応付けられる画素電極14a、14bのX方向長さに対して50%以上の長さを有することが好ましい。図示の例では、各一部領域216bの幅は、対応付けられる画素電極14a、14bのX方向長さに対して約70%の長さとなっている。このような一部領域216bを設けることで実質的に画素領域として機能する領域を広げることができる。
【0042】
各配線部16cは、各画素間電極15cのうち1つと接続されており、図中において上側へ延びている。各配線部16cは、液晶駆動装置4に接続される。本実施形態では、各配線部16cは、平面視において、自身と接続される画素間電極15cに対してX方向に隣り合う画素電極14cと部分的に重なる一部領域116cと、この画素電極14cとY方向において隣り合う画素電極14bとの間に配置された一部領域216cと、この画素電極14bと第1絶縁層17を挟んで重なって配置された一部領域316cと、この画素電極14bとY方向において隣り合う画素電極14aと第1絶縁層17を挟んで重なって配置された一部領域416cと、画素電極14aと画素電極14bの間に配置されており一部領域316cと一部領域416cとを接続する接続領域516cを有している。各一部領域116c、216c、316c、416c、接続領域516cは一体に設けられている。
【0043】
各配線部16cの各一部領域116cは、上記した一部領域115cと同様に、画素電極14cの図中上側外縁エッジ付近における暗領域の発生を抑える効果を奏する。このため、各一部領域116cのX方向長さはなるべく広いほうが好ましく、例えば対応付けられる画素電極14b、14cのX方向長さに対して50%以上の長さを有することが好ましい。図示の例では、各一部領域116cの長さは、対応付けられる画素電極14b、14cのX方向長さに対して約87%の幅となっている。
【0044】
各配線部16cの各一部領域216cは、Y方向において隣り合う2つの画素電極14b、14c同士の相互間に配置される画素間電極としての機能も奏する。このため、各一部領域216cのX方向長さはなるべく広いほうが好ましく、例えば対応付けられる画素電極14b、14cのX方向長さに対して50%以上の長さを有することが好ましい。図示の例では、各一部領域216cの長さは、対応付けられる画素電極14b、14cのX方向長さに対して約87%の幅となっている。このような一部領域216cを設けることで実質的に画素領域として機能する領域を広げることができる。
【0045】
ここで、画素電極14cへ電圧を印加してその領域を光透過状態にした際に接続領域516cにおいても同じ電圧が印加されるため接続領域516cにおいても光透過状態となる。このとき、例えば画素電極14aや画素電極14bに対応する各領域が非透過状態(ないし低透過状態)であったとすると、接続領域516cの光透過状態が輝点として視認し得る状態となり得る。そこで、上記した
図2(C)に示すように、各配線部16cの各接続領域516cと重なるように第2絶縁層18の一部を設けることで、各接続領域516cに対応する部分での輝点の発生を抑制できる。第1絶縁層17および第2絶縁層18が重なることで、この領域における液晶層21への印加電圧を小さくすることができるからである。
【0046】
なお、接続領域516cは多くの場合に非透過状態となるので黒点として視認し得るが、人間の目の特性として黒点のほうが目立ちにくいため、輝点となるよりは好ましいといえる。さらに、図示の例ように、接続領域516cは、一部領域316cと一部領域416cとを電気的に接続するためのものであるため、比較的に狭いサイズに形成することができる。従って、実質的には黒点がほとんど視認できない状態にすることができる。
【0047】
図4は、各画素電極の接続部の形状と配向処理方向との関係について説明するための図である。
図3と同様に各画素電極等が平面図によって示されている。配向処理とは、例えばラビング処理や光配向処理など、配向膜に対して一方向への配向規制力(一軸配向規制力)を持たせるための処理(一軸配向処理)をいう。そして、配向処理方向とは上記の配向処理を行った際の方向であり、通常、一軸配向規制力を発生する方向と略一致する。上記のように、各画素電極14aの接続部30aが設けられるスルーホール29は、略三角形状の外縁エッジを有している。
【0048】
本実施形態では、接続部30aの外縁エッジのうち、画素電極14aの図中左側外縁エッジおよび上側外縁エッジの両方と交差するように配置される外縁エッジの方向Lは、図示のようにXY両方向に対して略45°の角度をなす方向となっている。この外縁エッジの方向Lに対し、配向処理方向31は、当該方向Lに交差(本実施形態では略直交)しており、かつ画素電極14aの内側から接続部30aの外縁エッジへ向かう方向となるように設定される。なお、各画素電極14b、各画素電極14cの各接続部30b、30cと配向処理方向31との関係も同様である。配向処理方向31をこのように設定することが好ましい理由について次に説明する。
【0049】
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)は、各接続部と配向処理方向の関係について説明するための図である。各画素電極の接続部およびその近傍の表面における配向膜の状態が模式的に示されている。
図5(A)は配向処理前の状態を示している。図示のように、例えば接続部30aおよびその近傍では、配向膜の側鎖32が表面からに対して立ち上がっている。このときの側鎖32の立ち上がり方向は表面形状に応じて変わるので、接続部30aのスルーホール29に沿って斜面となっている箇所ではその表面に対して側鎖32が立ち上がる。
【0050】
図5(B)は上記
図4にて示した好ましい状態に配向処理方向31を設定して配向処理(ラビング処理)を行った場合の配向膜の状態を示している。この場合、図中右から左へ向かう方向へ配向処理がなされるので、側鎖32もその方向へいくぶん傾く。このとき、図中Y方向を基準として見た場合にはいずれの部分においても側鎖32が図中左側へ傾いた状態になるので、側鎖32によって規制される液層分子の配向方向もいずれの部分でも図中左側へ傾いた状態となる。このため、接続部30a近傍においてディスクリネーションラインが発生することを防止できる。他の接続部30b、30c近傍においても同様である。
【0051】
図5(C)は比較例であり、上記
図4にて示した好ましい状態と逆方向に配向処理方向31を設定して配向処理(ラビング処理)を行った場合の配向膜の状態を示している。この場合、図中左から右へ向かう方向へ配向処理がなされるので、側鎖32もその方向へいくぶん傾く。このとき、図中Y方向を基準として見た場合には、画素電極14aの平坦な部分では側鎖32が図中右側へ傾いた状態になるのに対して、接続部30aの斜面部分では依然として側鎖が図中左側へ傾いた状態となる。このため、接続部30a近傍とその周辺において液晶分子の配向方向が逆となってしまい、その境界においてディスクリネーションラインが発生する。このようなディスクリネーションラインの発生は、形成される配光パターンの品質を低下させることに繋がる。他の接続部30b、30c近傍においても同様である。
【0052】
図6は、本実施形態の液晶素子により得られる主要な効果を説明するための図である。上記の液晶素子5において、液晶層21に対して画素間電極15と共通電極13の間で電圧が印加される領域を第1領域41とし、液晶層21に対して各画素電極14と共通電極13の間で電圧が印加される領域を第2領域42とする。第1領域41では、画素間電極15と共通電極13の間に主に第1絶縁層17と液晶層21が存在する。これに対して、第2領域42では、画素電極14と共通電極13の間に主に第2絶縁層18と液晶層21が存在する。このため、第1絶縁層17と第2絶縁層18の各々の誘電率や層厚が大きく相違していなければ、第1領域41を透過する光Aと第2領域42を透過する光Bの各々による電気光学特性(電圧-透過率特性)は同等となる。これは、液晶層21への実効的な印加電圧の差異が少なくなるからである。このように、第1領域41と第2領域42の電気光学特性が同等となることで、自車両前方に投影される配光パターンにおける第1領域41(すなわち画素電極間の領域)による暗線の発生を抑制することができる。なお、
図6に示すように第1領域41と第2領域42では液晶層21の層厚が異なることになるが、液晶層21の閾値特性が液晶層21の層厚にはほとんど依存しないことは当業者に自明な技術常識である。
【0053】
第1絶縁層17、第2絶縁層18、液晶層21の各層厚の関係について、以下に具体的に説明する。第1領域41の画素間電極15と共通電極13との間に印加される全体の電圧V
1は、第1領域41に含まれる液晶層21に印加される電圧V
LC1と絶縁層17に印加される電圧V
in1とに分けることができる。第1領域41に含まれる液晶層21の容量をC
LC1、絶縁層17の容量をC
in1としたときに、以下の関係式が成立する。
【数1】
【0054】
同様に、第2領域42の画素電極14と共通電極13との間に印加される全体の電圧V
2は、第2領域42に含まれる液晶層21に印加される電圧V
LC2と絶縁層18に印加されるV
in2とにわけることができ、第2領域42に含まれる液晶層21の容量をC
LC2、絶縁層18の容量をC
in2としたときに、以下の関係式が成立する。
【数2】
【0055】
ここで、画素間電極15と画素電極14とはスルーホール29を介して形成された接続部30によって同電位となっており、かつ、第1領域41と第2領域42に亘って共通電極13は同電位である。従って、第1領域41の画素間電極15と共通電極13の間に印加される電圧と、第2領域42の画素電極14と共通電極13の間に印加される電圧は同じである。
【0056】
一方で、第1領域41に含まれる液晶層21に印加される電圧V
LC1と、第2領域42に含まれる液晶層21に印加される電圧V
LC2は同一であることが双方の領域の透過率の均一性の観点から望ましい。これらの点から、以下の関係となる。
【数3】
【0057】
各層の容量を用いた関係式として整理する。
【数4】
【0058】
ここで、絶縁層17の層厚をd
1、誘電率をε
in、第1領域41の液晶層21のセル厚をd
LC1、液晶層21のセル厚方向の誘電率をε
LC、絶縁層18の層厚をd
2とする。このとき、第2領域42の液晶層21のセル厚は、d
LC1-d
2となる。また、絶縁層18に用いる材料は絶縁層17に用いる材料は同一とすると、上記の式は以下のように変形できる。
【数5】
(ただし、S
1、S
2は、第1領域41および第2領域42の電極面積)
【0059】
従って、第2領域の絶縁層の層厚d
2は、以下のように表記できる。
【数6】
【0060】
上記観点では、第1絶縁層17と第2絶縁層18の各々を構成する材料の誘電率が略同一である場合には、第2絶縁層18の好適な膜厚は第1絶縁層17と第1領域41の液晶層21のセル厚から計算できる。実際上は、上記で計算される膜厚に対して±30%以内であれば配光パターンに対する影響は小さい。
【0061】
図7は、本実施形態の構成を適用した液晶素子における電気光学特性の例を示す図である。この例では、液晶層21にカイラル材を含有させた液晶素子について示した。図示のように、第1領域41を透過する光Aによる電気光学特性(図中「A」と示す)と第2領域42を透過する光Bによる電気光学特性(図中「B」と示す)は同等となり、特に印加する電圧が低い領域における差異が非常に少なくなる。これは、配光パターンに中間調を用いる場合において特に有効である。一般に、人間の目は、比較的暗い光における明るさの差異に対して敏感である。このため、電気光学特性の差異が少なくなることで、第1領域41と第2領域42における光量差を暗線として感得されにくくすることができる。また、人間の目は、明るい光における明るさの差異に対しては鈍感であるので、印加電圧が高い領域における差異はほとんど問題にならない。
【0062】
図8は、本実施形態の構成を適用した液晶素子における電気光学特性の他の例を示す図である。この例では、液晶層21にカイラル材を含有させていない液晶素子について示した。カイラル材を含有させている液晶素子では飽和電圧以上になっても透過率がほとんど変化しないが(
図7参照)、カイラル材を含有させていない液晶素子では印加電圧が高くなるとECB(Electrically Controlled Birefringence)効果により透過光に着色(波長分散)が生じることで透過率が低下する現象が起こりうる。しかし、
図8に示すように、第1領域41を透過する光Aによる電気光学特性(図中「A」と示す)と第2領域42を透過する光Bによる電気光学特性(図中「B」と示す)の差異が極めて少ない飽和電圧以下の領域(点線で隔てた左側領域)において液晶素子を動作させることで、暗線を抑制することができる。このことは、液晶素子の動作モードの選択肢が広がることを意味する。
【0063】
以上のような各実施形態によれば、液晶素子等を用いて配光パターンを制御する車両用灯具システムにおける配光パターンの見栄えを向上させることが可能となる。
【0064】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では液晶素子の液晶層として垂直配向のものを説明していたが液晶層の構成はこれに限定されず、他の構成(例えばTN配向)であってもよい。また、液晶素子と偏光板との間に視角補償板を配置してもよい。
【0065】
また、上記した実施形態では下基板12の一面側において各画素電極14の上側にこれら画素電極14等と重畳するように第2絶縁層18を設けていたが、上基板11の一面側(下基板12側)に第2絶縁層を設けてもよい。
【0066】
図9は、変形実施例の液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。図示の液晶素子5aは、基本的構成は上記した実施形態の液晶素子5と共通であるので、ここでは相違点のみ説明する。図示の液晶素子5aにおいて、第2絶縁層18aは、上基板11の一面側において共通電極13を覆うように設けられており、かつ平面視において下基板12の各画素電極14に対して選択的に重畳するように設けられている。また、配向膜19aは、この第2絶縁層18aの表面に沿って設けられている。また。配向膜20aは、第1絶縁層17の上側において各画素電極14を覆うように設けられている。このような構成によっても、第1領域41と第2領域42における電気光学特性の差異を少なくし、暗線を抑制することができる。なお、接続領域516cに対応する第2絶縁層18aの一部については上基板11側に設けられることが好ましいが第2絶縁層18aとは別個に下基板12側に設けられてもよい(図示省略)。
【0067】
また、上記した実施形態では、車両前方に対して選択的な光照射を行うシステムにおいて本発明を適用した例について説明していたが本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、車両の進行方向に応じて車両の斜め前方への光照射を行うシステム、車両の前後方向傾きに応じて前照灯の光軸を調整するシステム、前照灯のハイビームとロービームを電子的に切り替えるシステムなどに本発明を適用してもよい。さらに、車両用途に限らず照明装置一般において本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1:光源、2:カメラ、3:制御装置、4:液晶駆動装置、5、5a:液晶素子、6a、6b:偏光板、7:投影レンズ、11:上基板、12:下基板、13:共通電極、14、14a、14b、14c:画素電極、15、15a、15b、15c:画素間電極、16、16a、16b、16c:配線部、17:第1絶縁層、18、18a:第2絶縁層、19、19a、20、20a:配向膜、21:液晶層、29:スルーホール、30a、30b、30c:接続部、31:配向処理方向、32:配向膜の側鎖