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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ワイヤ接続具
(51)【国際特許分類】
   F16B 7/04 20060101AFI20221220BHJP
   F16B 2/16 20060101ALI20221220BHJP
   F16G 11/10 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16B7/04 301G
F16B2/16 Z
F16G11/10 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019066962
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165496
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】松村 良太
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-20916(JP,A)
【文献】米国特許第5538300(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0115723(US,A1)
【文献】特開平9-151996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0285337(US,A1)
【文献】実開平3-96452(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 2/00- 2/26
7/00- 7/22
F16G 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤを嵌め込んで固定するための固定溝を有する第一本体部と、
前記ワイヤを前記固定溝に向けて押圧するための押圧要素と、
前記押圧要素を前記固定溝に向けて押圧する第二本体部と、
前記第一本体部と前記第二本体部とを締結する締結部材と、を備え、
前記第二本体部に、前記押圧要素を収容し、前記固定溝の深さ方向視で前記固定溝と重複し、前記固定溝から離間する方向に凹む凹部が形成されており、
前記凹部の深さが、前記固定溝の延在方向に沿って一方から他方に向けて深くなっているワイヤ接続具。
【請求項2】
前記押圧要素は、断面が円形状の円形部を含み、当該円形部の軸心方向が前記延在方向と交差する状態で前記凹部に収容されており、
前記円形部の外周面には凹凸が形成されている請求項1に記載のワイヤ接続具。
【請求項3】
前記深さ方向視における、前記凹部と重複する前記固定溝の部分の溝深さは、前記ワイヤの直径よりも浅い請求項1又は2に記載のワイヤ接続具。
【請求項4】
前記第二本体部は、前記延在方向に沿い設けられ、前記固定溝と前記深さ方向視で重複する覆設部を有し、
前記覆設部に、前記凹部と、前記凹部の前記一方に近い側の端部に形成されたガイド部とが形成されており、
前記ガイド部は、前記固定溝から離間する方向に傾斜する傾斜面である請求項1から3のいずれか一項に記載のワイヤ接続具。
【請求項5】
前記第一本体部と前記第二本体部とを互いに近接させるように付勢する第一弾性部材を更に備える請求項1から4のいずれか一項に記載のワイヤ接続具。
【請求項6】
弾性変形した状態で前記押圧要素を前記他方から前記一方に向けて付勢する第二弾性部材を更に備える請求項1から5のいずれか一項に記載のワイヤ接続具。
【請求項7】
前記固定溝における前記凹部の前記一方に近い側の端部の溝幅が、前記固定溝の他端の溝幅に対して拡大している請求項1から6のいずれか一項に記載のワイヤ接続具。
【請求項8】
前記固定溝として、第一固定溝と、前記第一固定溝に沿う第二固定溝とを含み、
前記凹部として、前記深さ方向視で前記第一固定溝と重複する第一凹部と、前記深さ方向視で前記第二固定溝と重複する第二凹部と、を含み、
前記第一凹部の深さが深くなる向きと、前記第二凹部の深さが深くなる向きとが、互いに逆向きとなっている請求項1から7のいずれか一項に記載のワイヤ接続具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ接続具に関する。
【背景技術】
【0002】
天井(天井裏)では、例えばケーブルラック、配管、ダクト、天井、エアコン、照明器具等の設置物(以下、単に設置物と記載する)が、天井スラブ等の構造体に対して、種々の取付具により吊下げて設置されている。これら設置物の吊下げや、当該吊下げを補強するため、ワイヤが用いられることがある。このワイヤの連結のために、ワイヤ接続具が用いられることがある。
【0003】
特許文献1には、ワイヤ接続具の一例である留め具とワイヤとを備えた落下防止装置が記載されている。この落下防止装置の留め具は、平板部を有するベース部材と押さえ部材と、平板部に対してワイヤの位置を規制する案内部と、ベース部材と押え部材とに互いに引き合う向きの力が加えつつ一体化する雄ねじとを備えている。ワイヤは、平板部と押え部材の間に挟み込まれることで留め具と一体化される。ワイヤを留め具に一体化する場合、ワイヤを平板部上において位置を規制した後、平板部の上に押え部材を重ね合わせ、雄ねじを押え部材と平板部とに取り付けてドライバで締め付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-18738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来のワイヤ接続具では、ワイヤをワイヤ接続具に一体化(組み付け)する場合、ワイヤをワイヤ接続具に仮止めできないため、その後のドライバによる締付作業が困難で、組み付けの作業性に改善の余地がある。また、締付具合によりワイヤの固定強度(支持強度)にバラつきが出るため安全性の担保が確実では無い。そのため、組み付けが容易で安全性の高いワイヤ接続具の提供が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、組み付けが容易で安全性の高いワイヤ接続具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るワイヤ接続具の特徴構成は、
ワイヤを嵌め込んで固定するための固定溝を有する第一本体部と、
前記ワイヤを前記固定溝に向けて押圧するための押圧要素と、
前記押圧要素を前記固定溝に向けて押圧する第二本体部と、
前記第一本体部と前記第二本体部とを締結する締結部材と、を備え、
前記第二本体部に、前記押圧要素を収容し、前記固定溝の深さ方向視で前記固定溝と重複し、前記固定溝から離間する方向に凹む凹部が形成されており、
前記凹部の深さが、前記固定溝の延在方向に沿って一方から他方に向けて深くなっている点にある。
【0008】
上記構成によれば、固定溝の延在方向に沿う方向における凹部の深さが一方から他方に向けて深くなる。例えば、固定溝の手前(一方)側から奥(他方)側に向けて凹部の深さが深くなる。以下では固定溝の手前側から奥側に向けて凹部の深さが深くなる場合を例示して説明する。
【0009】
第一本体部と第二本体部とを締結部材で締結した状態で、ワイヤを手前から奥に向けて固定溝内に挿通してはめ込むと、押圧要素は、ワイヤとの摩擦力により、当該ワイヤに連れられて凹部の奥側に移動する。凹部の奥側は深いため、押圧要素がワイヤを押圧する力は弱くなり、押圧要素とワイヤとの摩擦力が低下する。これにより、押圧要素に対してワイヤが滑りやすくなり、ワイヤをスムーズに固定溝に挿通できる。押圧要素が凹部の奥側に移動した場合でも、ワイヤが手前側に引っ張られると、引抜かれようとするワイヤとの摩擦力により、押圧要素が当該ワイヤに連れられて凹部の手前側に移動する。凹部の手前側は浅いため、押圧要素がワイヤを押圧する力が強くなる。これにより、ワイヤは固定溝において第一本体部に仮止めされる。
【0010】
ワイヤを手前側に強く引っ張ると、押圧要素は、ワイヤとの摩擦力により当該ワイヤに連れられて凹部の手前側に移動し、ワイヤと凹部との間に食い込むように嵌る。これにより、押圧要素がワイヤを押圧する力は強くなるとともに、押圧要素の位置が固定される。また、その結果、ワイヤは、固定溝において第一本体部に固定(いわゆる、ロック)された状態で抜け止めされる。押圧要素の食い込み具合は、凹部の形状とワイヤの摩擦力とにより決定されるため自然と所定の食い込み具合を実現する。そのためワイヤの固定強度はバラつかず、一定になる。これにより安全性を担保できる。
【0011】
ワイヤが第一本体部にロックされた状態で、締結部材による第一本体部と第二本体部との締結を解除すれば、押圧要素によるワイヤの押圧が解除される。これにより、ワイヤのロックが解除される。このように、上記構成によれば、ワイヤを固定溝に挿通すれば仮止めがされ、組み付けが容易である。また、ワイヤを手前に引っ張ると自然とロックされるため安全性が高い。加えて、ロックの解除は締結部材の締結の解除により容易に行えるため、分解も容易である。
【0012】
本発明に係るワイヤ接続具の更なる特徴構成は、
前記押圧要素は、断面が円形状の円形部を含み、当該円形部の軸心方向が前記延在方向と交差する状態で前記凹部に収容されており、
前記円形部の外周面には凹凸が形成されている点にある。
【0013】
上記構成によれば、凹部に収容された円形部がワイヤを固定溝に向けて押圧する。また、円形部は軸心方向が固定溝の延在方向と交差(例えば直交)する状態で凹部に収容されているため、円形部は凹部内で延在方向に沿い転がることができる。また、円形部の外周面には凹凸が形成されているため、円形部とワイヤとの摩擦力が高まる。そのため、ワイヤを仮止めする際は、摩擦力により円形部の転がりが促進されて、ワイヤをスムーズに固定溝に挿入できる。ワイヤをロックする際も同様に、摩擦力により円形部の転がりが促進されて、確実にロックされる。一旦ロックされた後は、摩擦力により円形部の移動が阻害されて、ロック状態が安定して維持される。
【0014】
本発明に係るワイヤ接続具の更なる特徴構成は、
前記深さ方向視における、前記凹部と重複する前記固定溝の部分の溝深さは、前記ワイヤの直径よりも浅い点にある。
【0015】
上記構成によれば、押圧要素は、固定溝の縁と接触せずにワイヤに当接し、ワイヤを押圧することができる。これにより、ワイヤを確実にロックできる。
【0016】
本発明に係るワイヤ接続具の更なる特徴構成は、
前記第二本体部は、前記延在方向に沿い設けられ、前記固定溝と前記深さ方向視で重複する覆設部を有し、
前記覆設部に、前記凹部と、前記凹部の前記一方に近い側の端部に形成されたガイド部とが形成されており、
前記ガイド部は、前記固定溝から離間する方向に傾斜する傾斜面である点にある。
【0017】
上記構成によれば、覆設部は固定溝と深さ方向視で重複しており、固定溝を上方から覆う配置となる。また、ガイド部は、固定溝の手前側に配置される。ガイド部の側から、覆設部で覆われた固定溝にワイヤを挿通することで、仮止め及びロック可能である。ガイド部は、固定溝から離間する方向に傾斜する傾斜面であるため、ワイヤを固定溝に挿通する際にワイヤ先端が傾斜面に案内される。これによりワイヤの固定溝への挿通が容易になる。
【0018】
本発明に係るワイヤ接続具の更なる特徴構成は、
前記第一本体部と前記第二本体部とを互いに近接させるように付勢する第一弾性部材を更に備える点にある。
【0019】
上記構成によれば、ワイヤを固定溝に挿通した後に、第一弾性部材の付勢力で、第二本体部及び押圧要素を介してワイヤを第一本体部に向けて押圧することができるため、ワイヤを容易に仮止めできる。
【0020】
本発明に係るワイヤ接続具の更なる特徴構成は、
弾性変形した状態で前記押圧要素を他方から一方に向けて付勢する第二弾性部材を更に備える点にある。
【0021】
上記構成によれば、押圧要素が第二弾性部材に付勢されて凹部の手前側に移動するため、仮止め及びロックを確実に行える。
【0022】
本発明に係るワイヤ接続具の更なる特徴構成は、
前記固定溝における前記凹部の前記一方に近い側の端部の溝幅が、前記固定溝の他端の溝幅に対して拡大している点にある。
【0023】
上記構成によれば、ワイヤを挿通する固定溝の手前側の溝幅が奥側の溝幅よりも広くなる。そのため、固定溝の幅広部分によりワイヤが案内されるので、ワイヤの固定溝への挿通が容易になる。
【0024】
本発明に係るワイヤ接続具の更なる特徴構成は、
前記固定溝として、第一固定溝と、前記第一固定溝に沿う第二固定溝とを含み、
前記凹部として、前記深さ方向視で前記第一固定溝と重複する第一凹部と、前記深さ方向視で前記第二固定溝と重複する第二凹部と、を含み、
前記第一凹部の深さが深くなる向きと、前記第二凹部の深さが深くなる向きとが、互いに逆向きとなっている点にある。
【0025】
上記構成によれば、一本のワイヤを第一固定溝及び第二固定溝に挿通した場合、ワイヤを手前側に引っ張ると、第一固定溝及び第二固定溝の両方でロックされる。ワイヤを第一固定溝及び第二固定溝に挿通してロックすれば、挿通されたワイヤにおける第一固定溝と第二固定溝との間の部分にワイヤの環を形成して維持できる。この環を他のワイヤや棒状部材等の接続対象物に係止することで、ワイヤを接続対象物に連結することができる。
【0026】
また、上記構成によれば、二本のワイヤをそれぞれ第一固定溝と第二固定溝とに挿通した場合、それぞれのワイヤは、互いに逆向きに抜け止め固定具を介して二本のワイヤを連結できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】金具の全体構成、及び使用態様を示す図
図2】金具の分解斜視図
図3】第一本体の斜視図
図4】保持部の斜視図
図5】第二本体の斜視図
図6】金具によるワイヤの固定手順の説明図
図7】金具によるワイヤの固定手順の説明図
図8】金具によるワイヤの固定手順の説明図
図9】金具の別の使用態様を示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係るワイヤ接続具について説明する。
【0029】
〔金具の全体構成〕
図1図2には、ワイヤ接続具の一例としてワイヤ9が固定される金具100を示している。図1には、組み立てられた状態の金具100を、図2には、金具100の分解斜視図を示している。金具100は、金具100の中心を通る仮想線である軸Gに対して線対称の構造である。
【0030】
金具100は、図1図2に示すように、断面が角張ったU字形状の第一本体1及び第一本体1のU字の谷底に固定される保持部3(以上、第一本体部の一例)、断面が角張ったU字形状で、第一本体1よりもU字の幅の狭い第二本体2(第二本体部の一例)、円柱状のギア4(押圧要素の一例、円形部の一例)、及び第一本体1と第二本体2とを締結するボルト5(締結部材の一例)とを備えている。ワイヤ9は、第一本体1と保持部3との隙間に形成される挿通空間M(固定溝、第一固定溝、及び第二固定溝の一例)に挿通される。ワイヤ9は、第二本体2に押圧されたギア4がワイヤ9を第一本体1に向けて押圧することで第一本体1に固定される。
【0031】
図1に示すように、第一本体1のU字の内側には保持部3が載置されて固定される。第二本体2は、当該第二本体2のU字の内側の底が第一本体1のU字の内側の底に対向する状態で第一本体1のU字の内側に嵌り、かつ、保持部3に載置される。ギア4は、保持部3と第二本体2との間に配置される。
【0032】
〔各部の詳細〕
第一本体1は、図3に示すように、第二本体2と保持部3とが装着される座であり、ワイヤ9が固定される座である。第一本体1は、矩形状の第一板部10と、第一板部10の幅方向(短手方向)の両側部から同じ方向に延出する一対の板状のリブ11、11とを有する、断面が角張ったU字形状の部材である。第一本体1は、ステンレスなどの金属板を曲げ加工及び切削等して形成されている。第一本体1は、本実施形態では、第一板部10における奥行方向(長手方向)、及び幅方向において面対称の形状である。以下では、図2において、第一板部10から見た第一本体1におけるU字形状の内側(第一板部10から見てリブ11、11が延出している向き)を上、反対側を下と記載する場合がある。
【0033】
第一板部10は、第一本体1における矩形状の板部である。第一板部10には、板面を上下に貫通する一対の係合穴13、13と、板面を上下に貫通するネジ穴15とが形成されている。第一板部10の上面には、後述するように、保持部3が固定される。また、ワイヤ9を金具100に固定する際に、ワイヤ9は第一板部10の上面に対して押圧された状態で固定される。
【0034】
リブ11、11は、第一板部10に対して垂直に延出している。リブ11、11は、互いに平行である。リブ11、11の、第一板部10からのそれぞれの高さは等しい。
【0035】
一対の係合穴13、13は、第一板部10の奥行方向における両端部にそれぞれ形成されている。一対の係合穴13、13は、第一板部10の幅方向における中間位置に形成されている。一対の係合穴13、13は、それぞれ、幅方向が長手方向になる矩形状の貫通孔である。以下では、第一板部10の奥行方向と同じ方向を、第一板部10以外の部材等の説明においても単に奥行方向と記載する場合がある。同様に、第一板部10の幅方向と同じ方向を、第一板部10以外の部材等の説明においても単に幅方向と記載する場合がある。
【0036】
ネジ穴15は、円形状の貫通孔である。ネジ穴15は第一板部10の奥行方向において、一対の係合穴13、13の中間位置に形成されている。ネジ穴15は第一板部10の幅方向における中間位置に形成されている。ネジ穴15の内周面には、ボルト5のネジ部51が螺合する雌ネジが形成されている。第一本体1はネジ穴15により、後述するようにボルト5と螺合接続される。
【0037】
リブ11は、第一板部10の幅方向両側部から上方に延出する一対のリブ状の板部である。リブ11、11の奥行方向における長さは第一板部10と同じである。以下では、第一板部10とリブ11、11とで囲われた空間(第一本体1のU字形状の内側の空間)を、空間Sと称する。
【0038】
保持部3は、図1に示すように、空間Sに収容された状態で第二本体2とギア4を載置する座である。また、保持部3は、第一本体1等と共に、ワイヤ9が挿通される挿通空間Mを形成するための枠体である。保持部3は、図4に示すように、奥行方向が長手方向になる矩形状の第三板部30と、第三板部30から上方に延出する第一柱部31、第一柱部31とは別に第三板部30から上方に延出する一対の第二柱部39、39、第一柱部31や第二柱部39とは別に第三板部30から上方に延出する柱状の一対の弾性リブ38、38、及び、第三板部30から下方に延出する一対の係合部33、33を有する。保持部3は、例えばABS樹脂などの合成樹脂で一体成形(例えば射出成形)されている。
【0039】
第三板部30は、短手方向の幅が、第一本体1のU字形状の内側の幅よりも狭い矩形状の板部である。第三板部30の板厚(上下方向の厚み)は、固定対象とするワイヤ9の直径前後の厚みである。第三板部30の板厚は、例えばワイヤ9の直径の50%以上100%以下であり、本実施形態ではワイヤ9の直径の90%の厚みである。第三板部30には、上下に貫通する挿通孔36と、幅方向における両側部に配設されており、側面が幅方向内側に凹んだ一対の段部34、34と、対角線上の一対の角部の角の頂点のそれぞれを面取り(例えばC面取り)した面取り部30a、30aとが形成されている。面取り部30a、30aの面取り径は、例えば固定対象とするワイヤ9の直径と同じ径である。第三板部30は、第三板部30の中心を通る軸線に対して線対称の形状である。なお、第三板部30の中心を通る軸線は、本実施形態では、軸Gと重複している。面取り部30aは、後述するように、挿通空間Mにワイヤ9を挿通する際の案内になる。
【0040】
第三板部30の長手方向の長さは、例えば第一板部10と同じである。第三板部30は、第一本体1のU字形状の内側に嵌められて第一板部10に固定される。第三板部30の両側面はそれぞれ、リブ11、11に沿っている。第三板部30の両側面は、リブ11、11と所定の距離を隔てて配置される。挿通空間M、Mは、第三板部30の両側面とリブ11、11、及び第一板部10の上面で囲われた一対の空間である。したがって、挿通空間M、Mは、互いに沿う(平行な)溝である。面取り部30aが囲う挿通空間Mの部分の溝幅は、面取り部30aが形成されていない側の挿通空間Mの溝幅に比べて、溝幅が拡大している。挿通空間M、Mのそれぞれには、後述するようにワイヤ9が挿通される。
【0041】
段部34は、第三板部30の幅方向における側部に形成された凹みである。段部34は、第三板部30の奥行方向における中間位置で、幅方向における両側部に一対配設されている。段部34は、第三板部30の上面が下方に凹み、当該凹みが第三板部30の幅方向における側面に到る形状である。換言すると、段部34は、第三板部30の幅方向における側面が、内側に凹んだ形状である。段部34の板厚(上下方向の厚み)は、固定対象とするワイヤ9の直径の30%以上80%以下の厚みである。本実施形態の段部34の板厚は、固定対象とするワイヤ9の直径の60%の厚みである。一対の段部34、34は、本実施形態では、後述する第一柱部31の幅方向における両側部に隣接して形成されている。
【0042】
一対の係合部33、33は、第三板部30の奥行方向(長手方向)における両端部にそれぞれ形成されている。一対の係合部33、33は、第三板部30の幅方向における中間位置に形成されている。第三板部30は、一対の係合部33、33を係合穴13に挿通することで第一板部10に係止される。一対の係合部33、33は例えばスナップフィットである。
【0043】
挿通孔36は、円形状の貫通孔である。挿通孔36は、第三板部30の奥行方向において、一対の係合部33、33の中間位置に形成されている。挿通孔36は第三板部30の幅方向における中間位置に形成されている。挿通孔36の中心は、本実施形態では、第三板部30の軸線や、軸Gと重複する。挿通孔36は、後述するように、ボルト5のネジ部51が挿通される穴である。
【0044】
第一柱部31は、ネジ部51に沿うネジガイド31aと、ギア4の可動範囲を規制する規制部32とを有する。第一柱部31は、本実施形態では、奥行方向、及び幅方向において面対称の形状である。
【0045】
ネジガイド31aは、第三板部30における挿通孔36の外周位置における、奥行方向の前後位置に配設された一対の柱状の部材である。ネジガイド31aは、後述するように、ネジ部51をネジ穴15に螺合すべく第三板部30を貫通させる際の案内になる。ネジガイド31aの内面は、ネジ部51の直径と同じか、当該直径よりも大きい円弧であって、挿通孔36と同軸心の円弧に沿う弧面として形成されている。
【0046】
規制部32は、ギア4の可動範囲を規制する部材である。本実施形態では、規制部32は第一柱部31と一体に形成されている。規制部32は、第一柱部31の幅方向における両側部に一対形成されている。それぞれの規制部32、32は、奥行方向における前後において互いに対向する面を有する一対の壁体32a、32aと、幅方向外側を向く面を有する壁部32bとを有する。
【0047】
一対の壁体32a、32aは、第一柱部31から見て、第一柱部31から幅方向外側に延出するリブ状の部材である。一対の壁体32a、32aは、段部34に対して奥行方向前後に隣接して配設されている。壁体32aの下端は、第三板部30と一体である。換言すると、一対の壁体32a、32aは、第三板部30からみて、上方に延出するリブ状の部材である。
【0048】
壁部32bは、本実施形態では、第一柱部31における、幅方向外側を向く壁面部分である。壁部32bは、段部34に対して幅方向内側に隣接して配設されている。壁部32bの下端は、第三板部30と一体である。換言すると、壁部32bは、第三板部30からみて、上方に延出するリブ状の部材である。
【0049】
なお、ここでは第一柱部31と規制部32とが一体に形成される例を示しているが、壁部32bや一対の壁体32a、32aは、第一柱部31と一体であることを要しない。壁部32bや一対の壁体32a、32aは、例えば、第三板部30から上方に延出し、幅方向外側を向く壁面を有する、互いに独立したリブ状の部材であってもよい。
【0050】
弾性リブ38(第二弾性部材の一例)は、それぞれの段部34、34から上方に延出する柱状の部材である。弾性リブ38は、第一柱部31の幅方向における両側部とわずかに離間し、かつ隣接して形成されている。弾性リブ38は、奥行方向において面取り部30aから遠い側の壁体32aとわずかに離間し、かつ、隣接して形成されている。弾性リブ38は、幅方向においてそれぞれ同じ側にある面取り部30aに対して、奥行方向において遠い側に向けて反るように弾性変形可能である。
【0051】
一対の壁体32a、32a、壁部32b及び段部34で囲われた空間には、後述するように、ギア4の一部が収容される。以下では、一対の壁体32a、32a、壁部32b及び段部34で囲われた空間の事を、単に、規制部32の空間と記載する。
【0052】
一対の第二柱部39、39は、第一柱部31に対して第三板部30の奥行方向における両外側の、第三板部30の奥行方向における両端部にそれぞれ形成されている。一対の第二柱部39、39は、第三板部30の幅方向における中間位置に形成されている。一対の第二柱部39、39は、例えば、互いに対向する板状の部材である。一対の第二柱部39、39の第三板部30から見た高さ(以下、単に第二柱部39の高さと記載する)は同じである。本実施形態では、第二柱部39の高さは、第一柱部31の第三板部30から見た高さ(以下、単に第一柱部31の高さと記載する)よりも高い。一対の第二柱部39、39は、後述するように、第二本体2を支持する支柱である。
【0053】
第二本体2は、図1図2に示すように、保持部3に載置され、挿通空間Mの上方を覆う部材である。第二本体2は、挿通空間Mにワイヤ9を挿通された際に、ギア4を押圧する。第二本体2は、図5に示すように、矩形状の第二板部20と、第二板部20の幅方向(短手方向)の両側部から下方に延出する一対の板状のリブ21、21とを有する、断面が角張ったU字形状の部材である。リブ21、21は、第二板部20に対して垂直に延出している。第二本体2は、ステンレスなどの金属板を曲げ加工及び切削等して形成されている。第二本体2は、本実施形態では、第二板部20の中心を通る軸線に対して線対称の形状である。なお、第二板部20の中心を通る軸線は、本実施形態では、軸Gと重複している。
【0054】
第二板部20には、板面を上下に貫通する円形状の挿通孔25が形成されている。第二板部20の奥行方向における長さは第一板部10と同じである。第二板部20は、第二板部20の下面が第一板部10の上面に対向するように配置される。第二板部20の下面は、一対の第二柱部39、39の上端に当接する。これにより、第二本体2は保持部3により奥行方向の前後両端で支持されるためぐらつかない。
【0055】
リブ21は、第二板部20の幅方向両側部から下方に延出する一対のリブ状の板部である。リブ21、21には、凹部24、24(それぞれ、第一凹部、第二凹部の一例)と、面取り部21c、21c(ガイド部の一例)とが形成されている。リブ21、21の奥行方向における長さは第二板部20と同じである。リブ21、21は、第二板部20の中心を通る軸線に対して線対称の形状である。リブ21、21は、リブ11、11の内側面に沿い配置される。本実施形態では、リブ21、21は、リブ11、11の内側面と所定の隙間を隔てて配置されており、リブ21、21及びリブ11、11はそれぞれ平行に配設されている。
【0056】
リブ21、21のそれぞれは、挿通空間M、Mのそれぞれと、上下方向視で重複する。以下では、第二板部20とリブ21、21とで囲われた空間(第二本体2のU字形状の内側の空間)を、空間Tと称する。
【0057】
面取り部21cは、リブ21の奥行方向における一端側の下端の角部の角の頂点を面取り(例えばC面取り)した部分である。これにより、面取り部21cには、挿通空間Mから離間する傾斜面が形成される。面取り部21cは、後述するように、挿通空間Mにワイヤ9を挿通する際の案内になる。面取り部21cの面取り径は、例えば固定対象とするワイヤ9の直径と同じ径である。なお、面取り部21cは、R面取りのように曲面状であってもよい。
【0058】
凹部24は、リブ21の奥行方向における中間部分、かつ、下端部に形成された凹みである。凹部24は、リブ21を幅方向に切り欠いた切欠きである。凹部24は、挿通空間Mと、上下方向視で重複する。ひとつの凹部24の凹みの内側空間(以下、単に凹部24の内側空間と記載する)には、後述するように、ひとつのギア4の一部が収容される。凹部24の内側空間は、幅方向視で、隣接する規制部32の空間と重複する。
【0059】
凹部24は、奥行方向における一方から他方に向けて深さ(以下、単に深さと記載する)が深くなっている。換言すれば、奥行方向における他方から一方に向けて深さが浅くなる先細り構造(いわゆる、テーパー状)である。凹部24は、奥行方向に向き、壁面が対向する一対の第一壁24a及び第二壁24bと、第一壁24aと第二壁24bとの間の、凹みの底となる第三壁24c及び第四壁24dとで構成される。なお、上下方向と、凹部24における凹みの深さ方向は同じである。一方の凹部24と、他方の凹部24とは、奥行方向における深さが互いに逆向きに深くなっている。
【0060】
第一壁24aと第三壁24cとは、リブ21の奥行方向において面取り部21cに近い側に配置される。第二壁24bと第四壁24dは、リブ21の奥行方向において面取り部21cから遠い側に配設されている。第一壁24a、第二壁24b、第三壁24c、及び第四壁24dの壁面は、平面状である。第一壁24a、第二壁24b、第三壁24c、及び第四壁24dは、奥行方向における面取り部21cに近い側から遠い側に向けてこの順で配設されている。
【0061】
第二壁24bは第一壁24aよりも、上下方向において長い(深い)。第三壁24cは、第一壁24aの側から第二壁24b(第四壁24d)の側に向けて上方に傾斜している。
第四壁24dは、第二板部20の下面と平行である。
【0062】
第三壁24cの傾斜角度は、第二板部20の下面に対して、10°から30°、好ましくは15°から20°に傾斜しており、本実施形態では17°である。第三壁24cの傾斜角度が10°から30°の範囲を外れると、後述するワイヤ9のロックが適切に行えなくなる。例えば、ロックが不能になり、もしくは、一旦ロックしても意図せずロックが解除されてしまうおそれが生じる。
【0063】
本実施形態では、第二壁24bの下端の角部24brも面取り(例えばC面取り)されている。角部24brは、後述するように、挿通空間Mに挿通して第一壁24aを超えるに至ったワイヤ9を、更に第二壁24bを超えて挿通空間Mの奥に挿通する際の案内になる。角部24brの面取り径は、例えば固定対象とするワイヤ9の直径の半分の径である。
【0064】
ギア4は、図1図2に示すように、真鍮などの金属製で、円柱状の部材である。ギア4の柱の外周面は、ギア4の柱の軸心方向に沿う向きに沿って稜もしくは谷が延在するように、多数の溝(凹凸の一例)が形成されている。ギア4はこの多数の溝により、後述するように、ワイヤ9との摩擦力を増大させる。ギア4は、一対の壁体32a、32a、壁部32b及び段部34で囲われた空間、及び凹部24の内側空間に収容された状態で、第三壁24cで第一板部10の上面に向けて押圧されることで、ワイヤ9を第一板部10の上面に向けて押圧する。ギア4の柱の直径は、例えば固定対象とするワイヤ9の直径の2倍から3倍の直径であり、本実施形態では、ワイヤ9の直径の2.5倍の直径である。
【0065】
本実施形態における、凹部24とギア4との寸法のバランスについて補足する。凹部24の寸法は、ギア4が凹部24の内側空間に収容された状態において、以下の条件を満たすように設定される。すなわち、ギア4が第四壁24dに当接している状態にある場合、ギア4の下端は、リブ21の端部と面一か、リブ21の端部よりもやや下方に位置し、凹部24からはみ出た状態にある。この状態におけるギア4のはみ出し量は、ギア4の直径の3%以上20%未満である。
【0066】
一方、ギア4が第一壁24aに当接している状態にある場合、ギア4の下端は、リブ21の端部よりも下方に位置し、凹部24からはみ出た状態にある。この状態におけるギア4のはみ出し量は、ギア4の直径の5%以上30%未満である。
【0067】
第一壁24aと第二壁24bとの間の距離は、例えばギア4の直径の1.3倍以上2倍以内であり、本実施形態では1.45倍である。第一壁24aと第二壁24bとの間の距離がギア4の直径の1.3倍以上2倍以内の範囲を外れると、後述するワイヤ9のロックが適切に行えなくなる。例えば、ロックが不能になり、もしくは、一旦ロックしても意図せずロックが解除されてしまうおそれが生じる。
【0068】
〔金具の組み立て〕
主として図2を参照しつつ、金具100の組み立てについて説明する。
【0069】
まず、第一本体1に保持部3を載置して、保持部3を空間Sに収容する。この際、一対の係合穴13、13に一対の係合部33、33を挿通して、第一本体1に、保持部3を固定する。これにより、挿通空間Mが形成される。また、保持部3が係合部33、33と係合穴13、13とで位置決めされることで、挿通孔36(図4参照)が、ネジ穴15と上下方向で重複する。本実施形態では、挿通孔36の穴の軸心と、ネジ穴15の穴の軸心とが重複する。
【0070】
次に、規制部32、32の空間であって、弾性リブ38(図4参照)に対して面取り部30aに近い側の空間に、それぞれギア4、4を一つずつ収容する。この際、ギア4、4の柱の軸心は、幅方向に沿わせて収容する。
【0071】
規制部32の空間に収容されたギア4は、一対の壁体32a、32a、壁部32b、段部34、及びリブ11により可動範囲を規制され、規制部32の空間内に拘束される。
【0072】
次に、第二本体2を、第一本体1のU字形状の内側に嵌める。この際、第二本体2のU字形状の内側を、第一本体1に対向させ、かつ、第二板部20の面取り部21c、21cと、第三板部30の面取り部30a、30aとをそれぞれ近接させる。また、挿通孔25を、挿通孔36及びネジ穴15と上下方向で重複させる。このようにして第二本体2を第一本体1に嵌めると、第一柱部31が空間Tに収容される。また、挿通空間M、Mが、リブ21、21と上下方向で重複する。また、一対の凹部24、24の内側空間のそれぞれに、ギア4、4が収容される。なお、ギア4、4は、あらかじめ規制部32、32の空間内に拘束(可動範囲を規制)されているため、上記のようにして第二本体2を第一本体1に嵌める際に、ギア4、4は自然と一対の凹部24、24の内側空間に収容されるため組み立て作業性が良い。本実施形態では、図6図7図8に示すように、幅方向においてそれぞれ同じ側にある面取り部30a、第三壁24c、弾性リブ38の位置関係が、奥行方向において、弾性リブ38が第三壁24cよりも面取り部30aから遠い配置になる。
【0073】
その後、図2に示すように、ボルト5のネジ部51を、挿通孔25、挿通孔36に挿通し、ネジ穴15に螺合する。ネジ部51を挿通孔36に挿通する際、ネジ部51はネジガイド31aの内面に案内されて、円滑に挿通孔36に導かれるため組み立て作業性が良い。なお、本実施形態ではボルト5をネジ穴15に螺合する際、皿ばね53(第一弾性部材の一例)にネジ部51を挿通した状態で、ボルト5の頭部52と第二本体2との間に、皿ばね53を配置している。このようにボルト5をネジ穴15に螺合することで、第一本体1と第二本体2とが締結される。この状態で、金具100は、ワイヤ接続具として使用可能である。
【0074】
〔ワイヤの固定〕
金具100におけるワイヤ9の固定手順について、図6から図9を参照しつつ説明する。
【0075】
図6に示すように、ワイヤ9を、面取り部21c及び面取り部30a(図2参照)が形成されている側から挿通空間Mに挿通する。以下では、金具100における面取り部21c及び面取り部30aが形成されている側を手前側と記載し、その反対を奥側と記載する。面取り部21c及び面取り部30aによりワイヤ9は自然と挿通空間M内に案内される。この際、ボルト5は、皿ばね53で第二本体2を第一本体1に付勢可能な範囲内でやや緩めておくと、ワイヤ9の挿通空間Mへの挿通がより容易になる。
【0076】
ワイヤ9は、少なくとも凹部24を超え、好ましくは挿通空間Mの奥側からワイヤ9が露出するように、挿通空間Mに挿通する。ワイヤ9が上下方向において凹部24と重複する位置に到りギア4と接すると、押し込まれるワイヤ9とギア4の摩擦によりワイヤ9の挿通に連れられて、ギア4が、深さが深くなっている奥側(弾性リブ38、第二壁24bに近づく側)に移動する。この際、本実施形態ではギア4の多数の溝によりワイヤ9との摩擦力が増大されているため、ギア4はワイヤ9の挿通に連れられて適切に奥側に移動する。本実施形態においてギア4は、弾性リブ38に当接して弾性リブ38を第二壁24b
の側にやや反り変形する程度の奥まで移動可能である。ギア4が奥側に移動すると、第三壁24cからの押圧が緩む。これにより、ギア4によるワイヤ9の押圧は解除される。そのため、ワイヤ9の挿通が容易である。
【0077】
本実施形態では更に、ギア4及びギア4に支持された第二本体2がワイヤ9により押し上げられて、皿ばね53の弾性変形の範囲でギア4及び第二本体2(凹部24)が第一本体1(第一板部10)から離れる。これにより、ギア4と第一板部10との距離が広がる。そのため、ワイヤ9の挿通が容易である。
【0078】
更に本実施形態では、挿通空間Mの延在方向において、第一壁24aを超える位置まで挿通されたワイヤ9を、更に第二壁24bを超えて挿通空間Mの奥に挿通する際に、角部24brが案内となるためワイヤ9の挿通が容易である。
【0079】
ワイヤ9が凹部24を超えて挿通空間Mに挿通された後、図7に示すように、ワイヤ9を手前に引っ張ると、引抜かれようとするワイヤ9とギア4の摩擦により、ギア4が、深さが先細りしている手前側(第一壁24aに近づく側)に移動する。この際、本実施形態ではギア4の多数の溝によりワイヤ9との摩擦力が増大されているため、ワイヤ9の引抜きに連れられて、また、反り変形していた弾性リブ38の復元力で付勢されて、ギア4は適切に手前側に移動する。
【0080】
手前側に移動したギア4は、第三壁24cに強く押圧される。これにより、ギア4はワイヤ9を強く押圧する。そのため、ワイヤ9は第一板部10に向けて強く押し付けられる。これにより、ワイヤ9と第一板部10との摩擦力が増大し、ワイヤ9は第一本体1に仮止めされる。
【0081】
その後、図8に示すように、ボルト5を増し締めすれば、第二本体2(第三壁24c)が第一本体1(第一板部10)に近づいて、ギア4はワイヤ9を更に強く押圧する。そのため、ワイヤ9は第一板部10に向けて更に強く押し付けられる。この際、ギア4はワイヤ9にやや食い込む場合があるが、ギア4は、段部34からは離間した(浮いた)状態を維持する。ギア4は、段部34から、例えばワイヤ9の直径の10%以上40%以下の距離だけ離間させるとよく、本実施形態では20%の距離だけ離間している。これにより、ギア4は、第二本体2から受けた押圧力の全てをそのままワイヤ9に加える。このようにして、ワイヤ9と第一板部10との摩擦力が更に増大し、ワイヤ9は第一本体1にロック(仮止めに対する本固定)される。
【0082】
図1に示すように、一本のワイヤ9を折り返して一対の挿通空間M、Mに挿通すれば、ワイヤ9の環90を形成できる。環90により、別のワイヤ9の環90と連結(係止)するなどして、二本のワイヤ9を連結することができる。また、環90を棒状体等の構造体に係止すれば、ワイヤ9と棒状体等とを連結可能である、
【0083】
また、図9に示すように、二本のワイヤ9を別々に挿通空間M、Mに挿通すれば、金具100により二本のワイヤ9を連結することもできる。また、一本のワイヤ9の両端部を別々に挿通空間M、Mに挿通すれば、金具100により一本のワイヤ9全体でループを形成することもできる。
【0084】
以上のようにして、金具100は、ワイヤ9を固定する。また金具100は、二本のワイヤ9を連結(接続)することができる。このように金具100は、ワイヤ9の固定が容易であり、また、二本のワイヤ9の連結に利用可能であるため、天井などに吊下げられたエアコンや照明器具などの落下防止に用いるワイヤ9の固定や連結に有用である。
【0085】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、押圧要素の一例として、円柱状のギア4を例示して説明したが、押圧要素はこれに限られない。押圧要素は、凹部24において、ワイヤ9に連れられて奥側と手前側と移動可能な形状等であり、奥側に位置する場合にワイヤ9の押圧を解除し、手前側に位置する場合にワイヤ9を押圧してロックできるものであればよい。例えば、押圧要素が八角形などの多角形の柱でもよいし、円筒状等など中空のものであってもよい。
【0086】
(2)上記実施形態では、ギア4の外周面に柱の軸心方向に沿う向きの多数の溝を形成することでワイヤ9との摩擦力を増大させる場合を説明したが、ギア4の外周面はこれに限られない。ギア4の外周面は、多数の溝を形成する場合に代えて、摩擦力を増大させるべく、ランダムな凹凸を形成された物でもよい。摩擦力を増大させるランダムな凹凸としては、ブラスト処理された面が例示される。
【0087】
(3)上記実施形態では、皿ばね53を用いる場合を例示したが、皿ばね53に代えて、ばね座金(スプリングワッシャ)や、平ワッシャとコイルばねとの組み合わせを用いてもよい。ばね座金の場合は、皿ばね53に代えてそのまま用いることができる。平ワッシャとコイルばねの場合は、皿ばね53に代えて、ボルト5の頭部52の側に平ワッシャを、第二本体2の側にコイルばねを配置する。なお、コイルばねにはボルト5のネジ部51を挿通する。
【0088】
(4)上記実施形態では、保持部3が弾性リブ38を有する場合を説明した。また、ワイヤ9が引き抜かれようとすると、反り変形していた弾性リブ38の復元力で付勢されてギア4が手前側に移動する場合を説明した。しかし、弾性リブ38は省略してもよい。弾性リブ38を省略しても、ワイヤ9が引き抜かれようとすると、ワイヤ9の引抜きに連れられてギア4は適切に手前側に移動するためロックは行える。
【0089】
(5)上記実施形態では、金具100は、第二本体2が一対のリブ21、21を有し、リブ21、21には、それぞれ凹部24、24が形成されており、ひとつの凹部24の内側空間にはひとつのギア4が収容されており、これらギア4が、一対の挿通空間M、Mに嵌め込まれたワイヤ9を押圧することで、ワイヤ9を第一本体1に固定している場合を説明した。そして、金具100は、金具100の中心を通る仮想線である軸Gに対して線対称の構造である場合を例示して説明した。
【0090】
しかし、金具100は、線対称である場合に限られない。金具100は、線対称でなくとも、一対のリブ21、21や一対の挿通空間M、Mが形成されており、ギア4等を有せば、一本のワイヤ9を折り返して環90を形成したり、二本のワイヤ9を連結したりすることができる。
【0091】
(6)上記実施形態では、金具100は、第二本体2が一対のリブ21、21を有し、リブ21、21には、それぞれ凹部24、24が形成されており、ひとつの凹部24の内側空間にはひとつのギア4が収容されており、これらギア4が、一対の挿通空間M、Mに嵌め込まれたワイヤ9を押圧することで、ワイヤ9を第一本体1に固定している場合を説明した。しかし、金具100は、一つの凹部24のみを有する場合もある。この場合、一本のワイヤ9を折り返して環90を形成して二本のワイヤ9を連結するのに代えて、例えば第二本体2に環状の連結構造等を設け、当該連結構造を他のワイヤ9の環90と連結することで二本のワイヤ9を連結してもよい。
【0092】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、ワイヤ接続具に適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 :第一本体(第一本体部)
2 :第二本体(第二本体部)
3 :保持部(第一本体部)
4 :ギア(押圧要素、円形部)
5 :ナット(締結部材)
9 :ワイヤ
21 :リブ(覆設部)
21c :面取り部(ガイド部)
24 :凹部(第一凹部、第二凹部)
38 :弾性リブ(第二弾性部材)
53 :皿ばね(第一弾性部材)
100 :金具(ワイヤ接続具)
M :挿通空間(固定溝、第一固定溝、第二固定溝)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9