(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】生体試料を超音波処理する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20221220BHJP
G01N 1/38 20060101ALI20221220BHJP
C12M 1/33 20060101ALI20221220BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N1/28 X
G01N1/38
C12M1/33
C12Q1/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019071015
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2021-10-05
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】ピルミン・ハンス・レーチャー
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ビルクナー
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ・ニルソン
(72)【発明者】
【氏名】マンフレート・ホルツァー
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-090049(JP,A)
【文献】特表2016-517516(JP,A)
【文献】特表2002-540783(JP,A)
【文献】特表2017-535410(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0238736(US,A1)
【文献】米国特許第06318158(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第102728428(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
G01N 1/38
C12M 1/33
C12Q 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸い形状の側壁部(310)を有する試料管(300)に収容された生体試料を超音波処理するための超音波処理装置(10)であって、
対応する支持台(110)に枢動懸架される試料管保持器(100)であって、それにより、枢動軸部(130)の回転軸であるx軸(150)の周りでの垂直方向での前記試料管保持器(100)の回転運動が可能になり、前記試料管保持器(100)が、回転運動がない状態では、重力の方向に対し
て平行であり前記x軸(150)に対して垂直であるz軸(350)に沿って、垂直な配向で前記試料管(300)を保持するように構成され、前記試料管保持器(100)が、少なくとも1つの面への開口(140)を備える、試料管保持器(100)と、
前記試料管(300)に超音波を印加するための超音波処理領域(210)を備えるソノトロード(200)であって、前記超音波処理領域(210)が、凹形表面を備え、かつ前記x軸(150)
が前記超音波処理領域(210)の垂直中心(215)の高さにある状態で前記枢動軸部(130)
と同じ高さにマウントされ、前記ソノトロード(200)が、前記x軸(150)および前記z軸(350)に対して垂直なy軸(250)に沿って前記試料管保持器(100)に向かうかまたは離れるように前記ソノトロード(200)を動かすための案内レール(220)にマウントされ、前記試料管保持器(100)用の前記支持台(110)が、前記試料管保持器(100)の前記開口(140)が前記超音波処理領域(210)のほうに向いた状態で前記案内レール(220)の一方の端部に固定され、それにより、超音波処理位置での前記超音波処理領域(210)が、前記試料管保持器(100)の中の前記試料管(300)の側壁部(310)と物理的に接触する、ソノトロード(200)と、
前記案内レール(220)上で、前記試料管保持器(100)に対して前記y軸(250)に沿って前記ソノトロード(200)を動かすためのアクチュエータ(400)と
を備える、超音波処理装置(10)。
【請求項2】
前記試料管保持器(100)が取外し可能である、請求項1に記載の超音波処理装置(10)。
【請求項3】
前記試料管保持器(100)用の前記支持台(110)が、不動基部部分(160)および回転可能部分(170)を備え、前記回転可能部分(170)は、前記枢動軸部(130)と、前記試料管保持器(100)を保持するための基部(171)とを備え、前記枢動軸部(130)が、前記不動基部部分(160)の対応する枢動軸部軸受(161)内に枢動懸架されるヒンジである、請求項1または2に記載の超音波処理装置(10)。
【請求項4】
前記試料管保持器(100)用の前記支持台(110)が、前記試料管保持器(100)内の前記試料管(300)の位置を前記z軸(350)上で調節するための高さ調節装置(120)をさらに備える、請求項1から3のいずれかに記載の超音波処理装置(10)。
【請求項5】
前記案内レール(220)が、滑走部を備える、請求項1から4のいずれかに記載の超音波処理装置(10)。
【請求項6】
前記アクチュエータ(400)が、前記ソノトロード(200)に可変的な力を印加するように構成される、請求項1から5のいずれかに記載の超音波処理装置(10)。
【請求項7】
前記アクチュエータ(400)が、前記ソノトロード(200)に10N、50N、100Nまたは500Nから750N、1000N、2500Nまたは5000Nまでの力を印加するように構成される、請求項6に記載の超音波処理装置(10)。
【請求項8】
前記力
が800Nである、請求項7に記載の超音波処理装置(10)。
【請求項9】
前記試料管保持器(100)が、複数の試料管(300)を保持するように構成され、前記超音波処理領域(210)が、凹形表面を有する1つまたは複数のサブ領域(211)を備える、請求項1から8のいずれかに記載の超音波処理装置(10)。
【請求項10】
請求項3、および請求項3を引用する請求項4から9のいずれかに記載の超音波処理装置(10)を使用して
、丸い形状の側壁部(310)を有する試料管(300)に収容された生体試料を超音波処理する方法であって、
a)前記試料管(300)を前記試料管保持器(100)に挿入し、前記試料管保持器(100)を前記超音波処理装置(10)の前記対応する支持台(110)に挿入するステップであって、これらの挿入するステップの順序が入れ替え可能である、ステップと、
b)前記超音波処理領域(210)が前記開口(140)を介して前記試料管(300)の前記側壁部(310)に接触するまで、前記アクチュエータ(400)により、前記y軸(250)および前記案内レール(220)に沿って、前記試料管保持器(100)に向かって前記ソノトロード(200)を動かすステップと、
c)前記アクチュエータ(400)から前記ソノトロード(200)を介して前記試料管(300)へと、したがって前記試料管保持器(100)へと、前記y軸(250)に沿って既定の力を印加するステップであって、それにより、前記超音波処理領域(210)が前記試料管
の前記側壁部(310)に接触して、前記試料管保持器(100)の前記回転可能部分(170)の内壁部に前記試料管(300)を押し付け、それによって前記試料管(300)がしっかりと定位置に保持され、前記超音波処理領域(210)が備える前記凹形表面を用いて前記試料管(300)を中心に位置決めすることにより、前記試料管(300)の位置が前記x軸(250)に沿って調節され、さらに、前記側壁部(310)が前記超音波処理領域(210)の前記表面に位置合わせされていない場合、前記ソノトロード(200)の運動により、停止点に到達するまで、前記x軸(150)の周りでの前記試料管保持器(100)の回転運動が生じ、その結果、前記超音波処理領域(210)と前記試料管
の前記側壁部(310)の間の接触領域が大きくなる、ステップと、
d)前記超音波処理領域(210)と前記試料管
の前記側壁部(310)の間の前記接触領域を介して、前記ソノトロード(200)から前記試料管(300)へと超音波を印加するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記試料管保持器(100)が、複数の試料管(300)を保持するように構成され、前記超音波処理領域(210)が、凹形表面を有する1つまたは複数のサブ領域(311)を備える、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物検定または生化学検定を実施するための分析システムの分野に属する。この分野内では、本発明は、超音波処理を使用した、生体分子を含む試料などの液体生体試料の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば体外診断の文脈では、分析すべき1次生体試料は、生化学分析器または生物物理分析器などによって処理できるようになる前に、しばしば分析前処理を必要とする。
【0003】
たとえば、病原体を検出するという状況では、その病原体内の特定の分析物への分析試薬のアクセス手段は、各内容物が放出されるようにウイルス粒子または細菌細胞が溶解される通常の調製ステップによって得ることができ、その後、問題の分析物を濃縮するためのさらなる処置が施され得る。一般的なウイルス粒子および細菌細胞の大半の標準的な溶解手順は十分に確立されており、当業者に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、以下では「マイコバクテリア」とも呼ばれる結核菌群(MTBC)の種を含めた、いくつかの病原体では、うまく溶解するために、さらに厳しい処理が必要とされる。これらの細菌は、臨床的に関連する他の大半の細菌に見られるその細胞壁よりもかなり強い頑健性を示す、相対的に厚く複雑な細胞壁で包まれている。
【0006】
マイコバクテリア(または難易度の高い他の生体材料)を含むことが疑われる試料は、超音波処理またはウルトラソニケーションとも呼ばれる、超音波の印加によって前処理され得る。この手法は、当技術分野では一般に知られており、確立されている。しかし、場合によっては、超音波処理装置から試料への超音波の効率的な伝達を実現することが困難な場合がある。当技術分野でのいくつかの手法は、多くの場合は単なる水である液体媒質に各試料容器を沈めながら超音波処理を行うことに依拠する。この場合、水は、超音波によって生じた振動を、試料容器、したがって中の試料へと実際に輸送し、1次運動エネルギーの一部は、普通は熱として失われる。より効率的な手法の1つは、ソノトロードと各容器の間の物理的接触を介して超音波エネルギーを直接伝達するものである。この場合も、ソノトロードと試料容器の壁部の間の接触領域が最適でない場合、エネルギーの伝達が妨害されることがある。
【0007】
当技術分野に適用される関連する手法には、たとえば、ソノトロードと試料容器の間の連結の程度を制御する重りを開示する、米国特許第6,686,195号が含まれる。しかし、試料容器の表面は、普通は、理想通りに平坦ではなく、効果的な物理的連結を弱めしたがって超音波エネルギーの伝達を抑制することがある、材料ベースおよび/または生産ベースの一定の許容差を示す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示では、当技術分野でのこうした欠点を避ける一手法について説明する。
本明細書に記載の第1の態様では、試料管に収容された生体試料を超音波処理するための装置が開示される。この装置は、少なくとも、試料管保持器、ソノトロード、およびアクチュエータを含む。
【0009】
試料管保持器は、超音波処理装置内の支持台に係合される枢動軸部からフレキシブルに懸架される。この枢動軸部により、管保持器がx軸の周りを垂直方向に回転することが可能になる。管保持器が回転偏向されていない間、試料管保持器は、本質的に重力の方向に従う、x軸に対して垂直なz軸に沿って、各試料管を垂直な配向に保持し、したがって管および中の試料は実質的に直立に保持される。容器保持器は、少なくとも1つの面への開口を有して、管とソノトロードの間の物理的接触を可能にする。
【0010】
ソノトロードは、超音波処理領域を含み、試料管の本質的に丸い形状の側壁部に接触すると、超音波がそこから試料管へと伝達される。ソノトロードと試料保持器は、超音波処理領域の(z軸に沿った)垂直中心が、試料管保持器がその周りを回転できる(x軸によって表される)回転枢支点と同じ高さになるように位置合わせされる。ソノトロードは、アクチュエータの助力を受けて、試料保持器に向かうかまたは離れるようにy軸に従って動かされ得るように、案内レールにマウントされる。y軸は、x軸とz軸の両方に対して垂直である。超音波処理においては、超音波処理領域は、試料管保持器の各開口を介して、試料管の側壁部と接触することができる。この運動の案内は、案内レールが一方の端部で試料管保持器用の支持台に固定されていることによって改善される。管の側壁部表面の凹凸により、または管壁部が先細りになっているかもしくは円錐であるために、管壁部のある部分が管壁部の他の部分より先に超音波処理領域に接触する場合、ソノトロードを介して既定の力を試料保持器に印加することによる超音波処理領域の接触により、試料管の回転運動、すなわち試料管保持器の回転運動を生じさせることができ、それによって実際の接触領域が最適化され、したがって超音波の伝達も最適化される。超音波処理領域の凹形表面が、x軸に沿って横方向に接触領域を最大化することに寄与する。
【0011】
別の一態様として、上述の装置を使用して、試料管に収容された生体試料を超音波処理する方法が、本明細書に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】ソノトロード(200)が試料管保持器(100)から離れた位置、および超音波処理位置にある、本明細書に記載の超音波処理装置(10)の一実施形態の斜視側面図である。
【
図1B】ソノトロード(200)が試料管保持器(100)から離れた位置、および超音波処理位置にある、本明細書に記載の超音波処理装置(10)の一実施形態の斜視側面図である。
【
図3A】試料管保持器(100)の回転運動を示す斜視側面図である。
【
図3B】試料管保持器(100)の回転運動を示す斜視側面図である。
【
図5】試料管保持器(100)へと向かうソノトロード(200)の運動の種々の段階を示し、x軸(150)に沿った試料管(300)の調節を可視化する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載の第1の態様は、本質的に丸い形状の側壁部を有する試料管に収容された生体試料を超音波処理するための超音波処理装置であって、
- 対応する支持台に枢動懸架される試料管保持器であって、それにより、枢動軸部によって画定される回転軸であるx軸の周りでの垂直方向での試料管保持器の回転運動が可能になり、試料管保持器が、回転運動がない状態では、重力の方向に対して本質的に平行でありx軸に対して垂直であるz軸に沿って、垂直な配向で試料管を保持するように構成され、試料管保持器が、少なくとも1つの面への開口を備える、試料管保持器と、
- 試料管に超音波を印加するための超音波処理領域を備えるソノトロードであって、超音波処理領域が、凹形表面を備え、かつx軸が本質的に超音波処理領域の垂直中心の高さにある状態で枢動軸部と本質的に同じ高さにマウントされ、ソノトロードが、x軸およびz軸に対して垂直なy軸に沿って試料管保持器に向かうかまたは離れるようにソノトロードを動かすための案内レールにマウントされ、試料管保持器用の支持台が、試料管保持器の開口が超音波処理領域のほうに向いた状態で案内レールの一方の端部に固定され、それにより、超音波処理位置での超音波処理領域が、試料管保持器の中の試料管の側壁部と物理的に接触する、ソノトロードと、
- 案内レール上で、試料管保持器に対してy軸に沿ってソノトロードを動かすためのアクチュエータと、を備える、超音波処理装置である。
【0014】
この超音波処理装置を用いると、当業者がソノトロードから各試料管内の生体試料への超音波エネルギーの伝達を最適化し、それにより、たとえばマイコバクテリアのような強固な病原体を溶解し、核酸などのそれらの生化学的内容物を放出するなど、生体試料を効率的に処理することが可能になる。
【0015】
枢動懸架された試料管保持器と力が制御されたソノトロードとの相互作用により、幾何学的な柔軟性が与えられ、したがって、試料管の側壁部の表面の、または表面上のばらつきが補償される。
【0016】
たとえば管の生産工程での許容差に起因し得る管壁部の凹凸がある場合には、超音波処理領域との間の接触領域は前述のように小さくなる可能性があり、それにより、管への、したがってその中の生体試料へのエネルギーの伝達が妨げられる恐れがある。本明細書に記載の超音波処理装置では、試料管保持器の回転運動がない状態ではz軸に沿って本質的に垂直に保持される試料管は、わずかに凹凸のある表面、または曲がった表面を有する場合がある。別法として、または追加的に、いくつかの実施形態では、管は、その上部に向かって、またはより多くの場合その底部に向かって先細りになった形状を有する場合がある。たとえば、いくつかの実施形態では、管は円錐形状を有する場合がある。
【0017】
こうした場合、または同様の場合には、試料管の側壁部が理想的な平坦表面を形成しない可能性がある。より正確には、表面の特定の部分が、超音波処理領域に接触すべき試料管壁部の垂直寸法に沿って、他の部分に対して突出する場合がある。強固にマウントされた試料管保持器の場合、位置または配向が適合される可能性なしにソノトロードが試料管保持器へと動かされると、超音波処理領域は、管の壁部に対して押圧されることになる。力がより弱く印加された場合、超音波処理領域は、その突出部分においてのみ管の壁部と接触することになり、したがって接触領域は非最適になり、関連するエネルギー伝達損失が生じる。一方、力がより強く印加された場合、ソノトロードが管を変形させる可能性があり、それによって試料管の完全性が脅かされる恐れがある。後者の場合は、超音波処理装置の汚染を含めた試料材料の損失さえ招き、生体試料が万一実際に病原体を含んでいた場合、作業員への安全性リスクを生じさせる恐れがある。
【0018】
しかし、本明細書に記載の超音波処理装置では、試料管の側壁部と超音波処理領域の間の接触領域を最適化するための幾何学的な柔軟性を提供することにより、これらのリスクが避けられる。より正確には、上記の場合には、ソノトロードが既定の力で側壁部に対して押圧されると、試料管保持器は接触領域が小さくなる形態にとどまるのではなく、試料管保持器は、管の壁部とソノトロードの超音波処理領域が接触すると、枢動軸部の枢支点によって画定されるx軸の周りを回転することができる。たとえば、管がその底部に向かって先細りになった形状を有し、試料管保持器内に垂直に保持される場合、垂直で実質的に平らな超音波処理領域は、普通はまず管壁部の上方部分に接触するはずである。既定の力がアクチュエータからソノトロードを介して管の壁部に印加されると、管はここで回転運動を開始することができ、この回転運動では、超音波処理領域の垂直中心とx軸によって表される枢支点は実質的に同じ高さにマウントされているので、接触したその上方部分はソノトロードの運動に追従し、(まだ接触していない)下方部分は、ソノトロードの運動と反対方向に、超音波処理領域に向かって回転する。その結果、側壁部の上方部分は、超音波処理領域と物理的に接触したままになり、一方(これまで接触していなかった)下方部分は、超音波処理領域に向かって回転してそれに接触することになり、これによって管壁部と超音波処理領域の間の実現可能な接触領域が最適化される。「超音波処理位置」であるこの位置では、試料管保持器の回転運動とソノトロードの並進運動のどちらも停止点に到達し、それにより、ソノトロードから試料管に、したがって試料管保持器に印加される力が一定に保たれる限り、超音波処理工程において、またその全体を通して、最適化された接触領域が保たれる。しかし、超音波処理領域が試料管の側壁部に最初に接触した際に接触領域が既に最適になっている場合、回転運動なしで超音波処理位置に到達する場合もある。
【0019】
用語
本明細書において使用される「超音波処理」という用語は、電気信号を、生体試料へと向けられ得る物理的振動、この場合には超音波に変換する処理のことを意味する。超音波発電機(ultrasonic electric generator)により、トランスデューサに電力を供給する1次信号が生み出される。この信号は、いくつかの実施形態では、20kHz、35kHzまたは50kHzから75kHz、100kHzまたは250kHzまでの周波数を有する。いくつかの実施形態では、周波数は約20kHzである。この信号は、ソノトロード内にスタックされた圧電結晶であり得る、結晶などの中間要素を介して機械的振動に変換され、この処理はコンバージョンとも呼ばれることがある。ソノトロードは、金属棒などの棒でもよく、たとえば円筒形状でも円錐形状でもよい。電流の周波数はソノトロードの共振周波数になるように選択されてもよく、その結果、ソノトロードは、その共振周波数では定常波で縦方向に振動する。この振動は、ソノトロードの超音波処理表面を備える伝達ユニットを介して試料管へと伝達される前に、たとえば増幅器によって増幅されてもよい。超音波処理面が高速で振動すると、試料管内の生体試料を通って移動する超音波が生み出されて、増大し急激に弱まる圧力変動が生じる。対応する運動エネルギーは、たとえば、臨床的対象となるマイコバクテリア細胞もしくは他の細胞などの細胞、またはウイルスを溶解するために、試料中の生体材料を処理するために使用される。
【0020】
「ソノトロード」は、普通は、先細りになった金属棒に取り付けられた、多数の圧電トランスデューサを備える。他の適した材料および形状が、当業者に知られている。棒の端部は被処理材料にあてがわれる。超音波周波数で周期的に変動する交流が、別個の電源ユニットによって圧電トランスデューサに印加される。この電流により、圧電トランスデューサが展開および収縮する。
【0021】
本開示の意味での「生体標的材料」または「生体材料」は、あらゆる種類の生体分子、たとえばタンパク質または核酸を含むが、天然に存在する、あるいはその誘導体または合成の類似体もしくは変形体である他の分子も含む。さらに、「生体材料」という用語は、ウイルス、ならびに真核細胞および原核細胞を含む。いくつかの実施形態では、生体標的材料は、DNA、RNA、またはPNAなどの核酸である。DNAは、たとえばウイルスのDNAでもよく、ゲノムDNAでもよく、プラスミドDNAでもよい。生体標的材料は、未変性でもよく、改変されてもよい。未変性の生体材料は、たとえば生物から単離されたDNAまたはRNAなどの、天然に存在する各生体材料と比較して、不可逆的に変質されていない。変性された生体材料は、核酸またはタンパク質などのビオチン化分子を含む。
【0022】
本明細書において使用される「生体試料」という用語は、場合によっては対象となる分析物を含む可能性がある生体材料のことを指す。「生体試料」が「液体生体試料」である実施形態では、試料は、血液、唾液、眼球水晶体液、脳脊髄液、汗、尿、便、精液、膣液、乳、腹水、粘液、滑液、腹膜液、羊水、組織、培養細胞、痰などを含めた生理学的標本など、任意の生物学的ソースに由来するものでよい。試験試料は、血液からの血漿の調製、粘性流体の希釈または一般的な希釈、溶解など、使用前に前処理されてもよい。処理の方法は、濾過、蒸溜、濃縮、干渉成分の不活性化、および試薬の添加を含む場合がある。生体試料は、ソースから取得されて直接使用されてもよく、試料の性質を改変する前処理の後に使用されてもよい。いくつかの実施形態では、最初は固体または半固体の生体材料が、適した液体媒質でそれを溶かすか、または懸濁させることによって液体にされる。いくつかの実施形態では、生体試料は、特定の抗原または核酸を含むことが疑われる。
【0023】
「試料管」は、生体試料を保持するように構成された容器のことを意味する。試料管は、一般に上部分および底部分を有し、底部分は、通常は閉じられ、上部分は、試料、試薬などを導入または除去するための開口を備える。開口は、たとえば取外し可能でもよい蓋部によって封止可能でもよい。当業者には適した蓋部が知られており、ねじキャップ、形状にフィットする、または圧入のキャップ、封止箔などが含まれる。本明細書において使用される試料管は、円筒、円錐、または同様の形状などの、概して細長い形状を有する。試料管は、底壁部および側壁部を備える。この側壁部は、連続的な1つの側壁部でもよく、角度で区切られた複数の側壁部でもよい。試料管の内側表面は、普通は化学変化を起こさず、したがってその内側表面は、たとえば管内で起きている分析化学反応または調製用化学反応に干渉しない。本明細書に開示される装置および方法に使用される試料管は、普通は、2cm、3.5cmまたは5cmから10cm、15cmまたは20cmまでの長さを有する。いくつかの実施形態では、下から上までの長さは約7.5cmである。幅または直径(側壁部から側壁部まで)は、いくつかの実施形態では、0.5cm、1cmまたは1.5cmから2cm、3.5cm、5cmまでであり、より具体的な実施形態では約1cmである。
【0024】
「試料管保持器」は、試料管を受けるための装置のことを指す。試料管保持器は、単一の管の保持器でもよく、複数の管の保持器でもよい。複数の管の保持器は、たとえば2、3、4、5、10、またはそれより多い管のためのラックを含む。いくつかの実施形態では、試料管保持器は、試料管を挿入してそれを特定の位置に保持するためのスロットを有する。本明細書に記載の文脈では、試料管保持器は、試料管が特定の配向で挿入されたとき、試料管を本質的に固定する。試料管保持器の回転偏向がない状態では、試料管保持器は、試料管を本質的に垂直な位置に保持する。いくつかの実施形態では、試料管は、試料管保持器内に形状がフィットし、したがって固定配向でのきつい嵌合が可能になる。
【0025】
本明細書に記載の文脈での「枢動懸架された」は、取外し可能な試料管保持器などの物体が、対応する支持台などの別の物体に回転自由度を有して係合されることを意味する。本明細書に記載の試料管保持器は、支持台から懸架されながら、枢支点としてのx軸の周りを回転することができる。
【0026】
本明細書に記載の試料管保持器は、いくつかの実施形態では取外し可能であり、「取外し可能」とは、2つの構成要素のいずれも破壊されることなく、試料管保持器がその対応する支持台から分離され得ることを意味する。たとえば、試料管保持器は、回転自由度を与えながら各支持台が備える対応する軸受にフレキシブルに係合され得るヒンジを備えてもよい。たとえば、問題の試料の超音波処理の後、試料管保持器は、支持台の対応する軸受から試料管保持器のヒンジを係合解除することにより、支持台および超音波処理装置から取り外されてもよい。試料管保持器は、このように、たとえば生化学分析器または分析モジュールへと移動され得る。また、試料管は、超音波処理装置の外で充填、調製、または処理され、その間、試料管保持器に既に保持されていてもよく、これにより、ワークフローが単純化されるとともに、たとえば超音波処理装置の中の試料または試薬をこぼすことによる汚染のリスクが低減される。
【0027】
いくつかの実施形態では、試料管保持器用の支持台は、2つのパーツを備え、いくつかの実施形態では3つ以上のパーツさえ備える。より具体的な一実施形態では、試料管保持器用の支持台は、不動基部部分および回転可能部分を備え、この回転可能部分は、枢動軸部と、試料管保持器を保持するための基部とを備え、枢動軸部は、不動基部部分の対応する枢動軸部軸受の中に枢動懸架されるヒンジである。
【0028】
支持台のこうした2パーツ構成の利点には、たとえば、回転可能部分に摩耗の兆候が認められた場合、不動基部部分に影響を及ぼす必要なしに、この部分が取り外され、交換され得るということが含まれる。したがって、不動基部部分は、超音波処理装置の底部に、その一体のパーツとして永続的に固定され得る。
【0029】
ソノトロードの超音波処理領域と、その対応する支持台内の試料管保持器に存在するときの試料管に収容された生体試料との位置合わせを最適化するために、いくつかの実施形態では、本明細書に開示される超音波処理装置の支持台は、試料管保持器内の試料管の位置をz軸上で調節するための高さ調節装置を備える。このようにして、生体試料、特に重力の効果により大半は管の底部分に収容される液体試料または部分的に液体の試料が、超音波処理位置でのソノトロードの超音波処理領域の高さまで動かされ得る。これより、試料が位置していないかまたはごくわずかな試料しか位置していない管壁部の一部に超音波処理領域が接触し、そのため試料の超音波処理がより困難になり得るという状況を避けることができる。試料管保持器の中の試料管の高さを調節する手段には、たとえばばね、コイル、ねじ機構、空気バッファ、アクチュエータなどが含まれる。いくつかの実施形態では、高さ調節装置は手動で操作可能である。他の実施形態では、高さ調節装置は自動化された機構を備える。
【0030】
本明細書に記載の超音波処理装置の「案内レール」は、定められた配向でのソノトロードの運動に案内を与える、任意の適した構造によって具体化されてもよい。最も単純な場合、案内レールは直線的な(一次元の)構造であり、ソノトロードは、それに沿って、アクチュエータによって前後に動かされる。しかし、案内レールは、必要に応じて第2の次元または第3の次元でも延在することができる。たとえば、互いに隣り合ってマウントされる2つ以上の試料管保持器では、その用途に応じ、ソノトロードがそれらの各支持台内の各試料管保持器へと個々に案内され得るような分岐点を有する案内レールから、利益が得られる場合がある。いくつかの実施形態では、案内レールは、ソノトロードが懸架される枠部を備えてもよい。また、いくつかの実施形態では、案内レールは、ソノトロードを保持するトンネルによって具体化されてもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の超音波処理装置の案内レールは、滑走部を備える。より具体的な一実施形態では、滑走部はレールにマウントされ、その上部分でソノトロードを搬送する。
【0031】
本明細書に記載の超音波処理装置は、制御ユニットおよび/またはデータ管理ユニットを備えることができる。
【0032】
「制御ユニット」は、プロトコルを処理するために必要なステップが自動システムによって実行されるような形で、自動システムを制御する。これは、制御ユニットが、たとえば、ピペッタを用いていくつかのピペッティングステップを実行して液体生体試料と試薬を混合するように、自動システムに命令することができること、あるいは制御ユニットが、生体試料もしくは試薬、または両方の混合物を、一定の時間、一定の温度で保温するように自動システムを制御すること、あるいは制御ユニットが、本明細書に記載の超音波処理装置のソノトロードの精密な運動、または他の運動もしくは関連するパラメータを制御するということを意味する。制御ユニットは、ある試料ではどのステップを実施する必要があるかということに関して、データ管理ユニット(DMU)から情報を受け取ることができる。いくつかの実施形態では、制御ユニットはデータ管理ユニットと一体でもよく、一般的なハードウェアによって具体化されてもよい。制御ユニットは、たとえば、プロセス演算計画(process operation plan)に従って演算を実施する命令が与えられたコンピュータ可読プログラムを実行する、プログラマブルロジックコントローラとして具体化されてもよい。具体的には、制御ユニットは、上述の運動などの一続きのステップを既定の時間内に実行するためのスケジューラを含んでもよい。制御ユニットは、さらに、検定のタイプ、緊急性などに従って、処理すべき試料の順序を決定することができる。制御ユニットは、試料のパラメータの測定に関連する検出ユニットからもデータを受け取ることができる。
【0033】
「データ管理ユニット」は、データを記憶および管理するためのコンピューティングユニットである。これは、自動システムによって処理されるべき液体試料に関するデータ、または本明細書に記載の超音波処理装置によって実施されるべきステップに関するデータを含み得る。データ管理ユニットは、LIS(臨床検査情報システム)および/またはHIS(病院情報システム)に接続されてもよい。データ管理ユニット(DMU)は、それが相互に作用する自動システム内に、またはそれと同じ場所に配置されるユニットでもよい。データ管理ユニットは、制御ユニットの一部でもよい。別法として、DMUは、自動システムから遠隔に位置付けられたユニットでもよい。たとえばDMUは、ネットワークを介して自動システムに接続されたコンピュータ内に具体化されてもよい。
【0034】
ソノトロードがx軸の周りでの試料管保持器の定められた回転を起こすために、アクチュエータからソノトロードに、したがってその対応する保持器内の試料管に及ぼされる力を制御し、(必要な場合は)適合させることが有利な場合がある。
【0035】
したがって、本明細書に記載の超音波処理装置のいくつかの実施形態では、アクチュエータは、ソノトロードに可変的な力を印加するように構成される。いくつかの実施形態では、アクチュエータは、10N、50N、100Nまたは500Nから750N、1000N、2500Nまたは5000Nまでの力をソノトロードに印加するように構成される。より具体的な一実施形態では、力は約800Nである。
【0036】
この力を制御および変動させることは、たとえば異なるタイプの試料管保持器が同じ超音波処理装置で処理されることになる場合、有利である可能性がある。たとえば試料管保持器の質量に基づいて、x軸の周りでの回転運動を起こすために力を増加させることを試料管保持器が必要とする場合があり、リセット力(reset force)は、より軽い試料管保持器の場合よりも大きくなる場合がある。さらに、異なるタイプの試料管が使用される場合もあり、いくつかのタイプは、その他のものより構造がデリケートな場合がある。したがって、より圧力に弱い種類の管の完全性を損なわないために、印加される力を小さくすることが有用な場合がある。
【0037】
並列処理および処理量の増加という利益のために、本明細書に記載の超音波処理装置は、2つ以上の試料管を同時に支持および処理するように構成されてもよい。これには、試料管保持器および/またはソノトロードの一定の適合が必要とされる場合があり、そのうちのいくつかは、例示的な実施形態として本明細書に開示される。
【0038】
このように、本明細書に記載の超音波処理装置のいくつかの実施形態では、試料管保持器は、複数の試料管を保持するように構成され、超音波処理領域は、凹形表面を有する1つまたは複数のサブ領域を備える。いくつかの実施形態では、超音波処理領域は、試料管保持器が保持するように構成された試料管の数と同じ数の、凹形表面を有するサブ領域を備える。
【0039】
本開示の別の一態様は、本明細書に開示される超音波処理装置を使用して、本質的に丸い形状の側壁部を有する試料管に収容された生体試料を超音波処理する方法であって、
a)試料管を試料管保持器に挿入し、試料管保持器を超音波処理装置の対応する支持台に挿入するステップであって、これらの挿入するステップの順序が入れ替え可能である、ステップと、
b)超音波処理領域が開口を介して試料管の側壁部に接触するまで、アクチュエータにより、y軸および案内レールに沿って、試料管保持器に向かってソノトロードを動かすステップと、
c)アクチュエータからソノトロードを介して試料管へと、したがって試料管保持器へと、y軸に沿って既定の力を印加するステップであって、それにより、超音波処理領域が試料管側壁部に接触して、試料管保持器またはその回転可能部分の内壁部に試料管を押し付け、それによって試料管がしっかりと定位置に保持され、超音波処理領域が備える凹形表面を用いて試料管を中心に位置決めすることにより、試料管の位置がx軸に沿って調節され、さらに、側壁部が超音波処理領域の表面に位置合わせされていない場合、ソノトロードの運動により、停止点に到達するまで、x軸の周りでの試料管保持器の回転運動が生じ、その結果、超音波処理領域と試料管側壁部の間の接触領域が大きくなる、ステップと、
d)超音波処理領域と試料管側壁部の間の接触領域を介して、ソノトロードから試料管へと超音波を印加するステップと、を含む、方法である。
【0040】
ステップa)に関して、いくつかの実施形態では、先に述べたように、超音波処理装置の外で試料管保持器に入った試料管を準備することが有利な場合がある。たとえば、複数の試料管が複数管の試料管保持器に設置され、たとえば試験室の職員によって手作業で前処理されてもよい。このようなステップは、試薬とともに、または試薬なしで複数の試料管に液体生体試料を加え、試料管に蓋をすることを含む場合がある。次のステップでは、試験室の職員は、対応する支持台に試料管保持器を係合させることにより、同じ試料管保持器に入ったすべての前処理した試料管を、超音波処理装置に便利に設置することができる。これによりワークフロー全体が簡易化され、所要時間が短縮される可能性がある。別法として、試料管保持器を最初に超音波処理装置に設置することもできる。一例として、前述の複数の管のうちの1つが交換される必要がある、または追加の管が加えられる必要がある場合、個々の管が交換または追加され得る間、試料管保持器は、超音波処理すべきその他の管とともに超音波処理装置の中に残されてもよい。
【0041】
本明細書に記載の超音波処理装置の場合のように、ステップc)では、試料管および/または試料管保持器のタイプに応じて既定の力を調節することが有利な場合がある。
【0042】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、ステップa)は、試料管保持器内の試料管の高さを調節するステップをさらに含む。
【0043】
また、本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、試料管保持器は、複数の試料管を保持するように構成され、超音波処理領域は、凹形表面を有する1つまたは複数のサブ領域を備える。こうした実施形態の利点には、本明細書に開示される超音波処理装置に関連して述べた、処理量の増加が含まれる。
【0044】
上に説明したように、一方の試料管内の試料と他方の超音波処理領域との垂直方向の位置合わせは、試料中の生体材料の超音波処理の効率に関して有利な可能性がある。同じことが、超音波処理領域またはサブ領域のそれぞれの凹形表面を用いて横方向に位置合わせする理由にもなる。
【0045】
本明細書に開示される方法のあらゆる他の具体的な実施形態は、本明細書に開示される装置にも適用される。
【0046】
例示的な実施形態
以下の例は、本明細書に開示される方法および装置の具体的な実施形態を示すことを意図しており、限定的なものではない。
【0047】
図1Aの概略図には、本明細書に開示される超音波処理装置(10)の一実施形態の斜視側面図が示されている。この実施形態では、試料管または管(300)、および試料管保持器(100)は、その他の構成要素がよりよく見えるようにするために省略されている。示されている構成要素の中に、試料管保持器用の対応する支持台(110)がある。この実施形態での支持台(110)は、不動基部部分(160)および回転可能部分(170)を備え、回転可能部分(170)は、この場合には5つの個々の試料管(300)を備えた試料管保持器(100)を保持するための基部(171)を備える。また、回転可能部分(170)は、両側に枢動軸部(130)を備え、その枢支点により、回転可能部分(170)が、したがって挿入されたときには試料管保持器(100)がその周りを回転できるx軸(150)が画定される。ここではヒンジとして示されている枢動軸部(130)は、支持台の不動基部部分(160)の対応する枢動軸部軸受(161)によって保持される。この実施形態の回転可能部分(170)は、示されている例では試料管保持器(100)を保持する基部(171)を上昇または下降させるねじ(120)が主体の手動で操作可能な機構である、高さ調節装置(120)をさらに有する。したがって、この実施形態では試料保持器(100)全体を垂直に調節することができ、それにより、試料管(300)、およびその中に収容された生体試料が、ソノトロード(200)の超音波処理領域(210)の高さに調節され得る。ソノトロード(200)に目を向けると、この実施形態の超音波処理領域(210)は、最大で5つの個々の試料管(300)を装填するための5つのサブ領域(211)を備えることが理解され得る。ソノトロード(200)のこの超音波処理領域(210)は、試料管保持器(100、図示せず)の1つの面への開口(140)のほうに向き、それにより、超音波処理領域(210)は、開口(140)を介して試料管または管(300)と物理的に接触することができる。この実施形態のソノトロード(200)の案内レール(220)は、ソノトロード(200)がマウントされる滑走部(221)を備え、滑走部(221)自体は、連結器(222)を介してレール(223)にマウントされる。この案内レール(220)の構成により、ソノトロード(200)のy軸(250)に沿った可動性が実現される。この可動性は一次元であり、したがって、ソノトロード(200)はアクチュエータ(400)の助力を受けて試料管保持器(100)用の支持台(110)に向かうかまたは離れるように動くことができ、一方、案内レール(220)は一方の端部で前記支持台(110)に、この実施形態ではその不動基部部分(160)に固定されることが理解され得る。支持台(110)は、重力の方向に対して本質的に平行なz軸(350)に本質的に揃えられている。この図には、ここに示した実施形態のソノトロード(200)の構成物も見て取ることができる。圧電素子は、1次電気信号を機械的振動に変換するコンバータ(201)の中に収容されている。この機械的振動は、後に続く増幅器(202)によって増幅され、その後、後続の伝達ユニット(203)が、その超音波処理領域(210)を介してエネルギーを伝達する。
【0048】
図1Bには、超音波処理位置での
図1Aの超音波処理装置(10)が示されている。ソノトロードは、対応する支持台(110)の回転可能部分(170)にマウントされた試料管保持器(100)のほうに動かされている。その個々のサブ領域(211)を有する超音波処理領域(210)は、対応する開口(140)を介して、試料管保持器(100)内に保持された試料管(300)と接触している。
【0049】
図2Aに目を向けると、
図1の超音波処理装置(10)が、ここでは横断面図として示されている。超音波処理領域(210)は、枢動軸部(130)と本質的に同じ高さにマウントされる。超音波処理領域(210)の垂直寸法も、x軸(150)が画定する枢支点と同じ高さにマウントされるその垂直中心(215)とともに見て取ることができる。
【0050】
図1Bの場合のように、
図2Aの横断面斜視図の超音波処理装置(10)の図が、
図2Bでは超音波処理位置で示されている。
【0051】
図3および
図4には、前述の図に示した本明細書に記載の超音波処理装置(10)を使用する、本明細書に記載の方法の一実施形態の実例が示してある。
【0052】
図3Aには、本明細書に記載の超音波処理装置(10)の前述の実施形態の斜視側面図が示してある。挿入された試料管保持器(100)とともに支持台(110)がよりよく見えるようにするために、案内レール(220)は省略されている。
図1Aおよび
図2Bの場合のように、ソノトロード(200)は離れた位置に位置付けられ、この離れた位置では、超音波処理領域(210)と試料管(300)の側壁部(310)との間に直接的な物理的接触はない。前述の図とは対照的に、支持台(110)の回転可能部分(170)はz軸(350)に対してわずかに傾けられており、これは
図4Aの対応する断側面図においてより詳しく見て取ることができる。
【0053】
この実施形態の超音波処理装置(10)の超音波処理位置での構成が、
図3Bおよび
図4Bに示してある。既定の力を印加している間にソノトロード(200)の超音波処理領域(210)が試料管(300)の側壁部(310)に接触すると、超音波処理領域(210)の垂直中心(215)より上に、したがって枢動軸部(130)の枢支点であるx軸(150)より上に位置付けられた側壁部(310)の一部は、x軸(150)の周りを反時計回りに回転する。試料管(300)は試料管保持器(100)の中にしっかりと嵌合し、試料管保持器は対応する支持台(110)の回転可能部分(170)の中にしっかりと嵌合しているので、回転可能部分(170)は、これらの
図3Bおよび
図4Bに見られる停止点に到達するまで、試料管(300)のこの回転運動に追従する。その結果得られるこの実施形態の超音波処理位置では、試料管(300)は垂直であり、したがってz軸(350)に対して平行である。これは、
図3および
図4に示した試料管(300)の側壁部(310)に大きい凹凸が見られず、また超音波処理サブ領域(211)を含めたソノトロード(200)の超音波処理領域(210)がz軸(350)に対して平行に位置合わせされていることによるものである。したがって、試料管保持器(100)内の試料管(300)および支持台(110)の回転可能部分(170)のこの垂直位置は、試料管の側壁部(310)と超音波処理領域(210)が最適な接触領域を有し、したがってソノトロード(200)から生体試料への超音波(運動)エネルギーの効率的な伝達が容易になる位置に相当する。ここで示されている実施形態では、これは、個々の各サブ領域(211)が対応する各試料管(300)の側壁部(310)に接触しているということを意味する。
【0054】
図5A~
図5Cの図面では、様々な視点から試料管保持器(100)(より正確には、図示した実施形態ではその回転可能部分(170))が示されて、x軸(150)に沿って試料管(300)を調節する機構についてのさらなる洞察が与えられる。
【0055】
図5Aには、その超音波処理領域(210)が試料管保持器(100)のほうに向いたソノトロード(200)の伝達ユニット(203)の運動が、時系列で示してある。試料管保持器(100)の回転可能部分(170)が、
図5Bに見られる平面「A」で定められた高さでの断面として上から見られる。
【0056】
この運動の図示の第1の段階が、
図5A(i)に示してある。この実施形態では5つの別個の超音波処理サブ領域(211)を備える超音波処理領域(210)が、試料管保持器(100)の回転可能部分(170)に保持された試料管(300)の側壁部(310)までの距離が短いところに既に位置付けられている。試料管(300)の大半は、x軸(150)に沿ってその対応する超音波処理サブ領域(211)に位置合わせされていないことが理解され得る。
図5A(ii)に目を向けると、超音波処理サブ領域(211)は、対応する試料管(300)の側壁部(310)に物理的に接触している。超音波処理サブ領域(211)は、その凹形表面により、対応する各サブ領域(211)の中心に向かってx軸(150)に沿って試料管(300)を動かし、
図5A(iii)の描写ではこれがさらに進められている。ソノトロード(200)をその伝達ユニット(203)とともに試料管保持器(100)に向かってy軸(250)に沿って動かす既定の力を連続的に印加することにより、凹形の超音波処理サブ領域(211)は、試料管(300)の本質的に丸い形状の側壁部(310)を用いて試料管(300)の摺動を実現する。ここで示されている実施形態は、試料管保持器(100)の回転可能部分(170)の内側背面の壁部から突出する支持要素(171)を含むことが理解され得る。これらの突出部には超音波処理サブ領域(211)の表面に類似した凹形表面が見られ、試料管(300)をx方向に位置合わせするのに寄与する。しかし、超音波処理サブ領域(211)の凹形表面は、背面壁部の平坦な表面に試料管(300)を押圧することによって位置合わせを行うこともできる。したがって、いくつかの実施形態では、背面壁部は、ここに示された支持要素(171)を備えない。
図5A(iv)では終了位置に到達し、終了位置では、試料管(300)は、それらの対応する超音波処理サブ領域(211)にx軸(150)に沿って位置合わせされる。超音波処理領域(210)は、必ずしもここに示したように個々の超音波処理サブ領域(211)を支持する表面として具体化されなくてもよいことが、当業者には理解されよう。たとえば超音波処理領域(210)は、たとえば単一の試料管(300)に係合するように構成され得る突出するサブ領域(211)のない、単一の凹形表面を有してもよい。いくつかの実施形態では、支持台(110)の回転可能部分(170)は、関連する構成要素の最適な位置合わせに回転可能部分(170)が寄与することができる1または複数の自由度が与えられるように、フレキシブルに懸架されてもよい。