(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】作業車両の制御装置、作業車両、および作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/4043 20100101AFI20221220BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16H61/4043
E02F9/22 H
(21)【出願番号】P 2019108554
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕明
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043459(WO,A1)
【文献】特開2013-117242(JP,A)
【文献】特開2008-32109(JP,A)
【文献】特開平9-32045(JP,A)
【文献】特開平6-174073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/4043
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、
走行装置と、
リリーフ圧を設定可能なリリーフバルブを有する静油圧式無段変速機を備え、前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する動力伝達装置と
を備える作業車両の制御装置であって、
前記走行装置の目標出力値に応じて、前記リリーフバルブの前記リリーフ圧を設定するリリーフ圧設定部を備える
作業車両の制御装置。
【請求項2】
前記走行装置の目標出力値を達成するための前記静油圧式無段変速機の油圧回路の圧力である目標回路圧を特定する目標回路圧特定部を備え、
前記リリーフ圧設定部は、特定した前記目標回路圧に基づいて前記リリーフ圧を設定する
請求項1に記載の作業車両の制御装置。
【請求項3】
前記作業車両の作業状態を特定する作業状態特定部と、
特定した前記作業状態に応じて、前記静油圧式無段変速機の油圧回路のマージン圧力を決定するマージン決定部と
を備え、
前記リリーフ圧設定部は、決定した前記マージン圧力に基づいて前記リリーフ圧を設定する
請求項1または請求項2に記載の作業車両の制御装置。
【請求項4】
前記マージン決定部は、前記作業状態が掘削状態である場合の前記マージン圧力を、前記作業状態が走行状態である場合の前記マージン圧力より小さく設定する
請求項3に記載の作業車両の制御装置。
【請求項5】
前記マージン決定部は、前記作業状態が制動状態である場合の前記マージン圧力を、前記作業状態が他の状態である場合の前記マージン圧力より小さく設定する
請求項3または請求項4に記載の作業車両の制御装置。
【請求項6】
前記作業状態が制動状態である場合の前記マージン圧力は、負の値である
請求項5に記載の作業車両の制御装置。
【請求項8】
動力源と、
走行装置と、
前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する動力伝達装置と、
前記動力伝達装置を制御する制御装置と
を備え、
前記動力伝達装置は、リリーフ圧を設定可能なリリーフバルブを有する静油圧式無段変速機を備え、
前記制御装置は、前記走行装置の目標出力値に応じて、前記リリーフバルブの前記リリーフ圧を設定する制御部を備える
作業車両。
【請求項9】
動力源と、
走行装置と、
リリーフ圧を設定可能なリリーフバルブを有する静油圧式無段変速機を備え、前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する動力伝達装置と
を備える作業車両の制御方法であって、
前記走行装置の目標出力値に応じて、前記リリーフバルブの前記リリーフ圧を設定するステップを備える
作業車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の制御装置、作業車両、および作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機を搭載するホイールローダなどの作業車両が知られている。無段変速機の例としては、HST(Hydraulic Static Transmission)およびHMT(Hydraulic Mechanical Transmission)が挙げられる。特許文献1には、1ポンプ2モータ形式HSTのクラッチ操作時に発生する急激な加速感を低減するために、HSTのポンプ容量を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、作業車両に搭載される無段変速機のHST回路の圧力は、様々な要因により必要以上に高まることがある。例えば、掘削や押し土などの作業による負荷変動や、ブレーキによる負荷変動が生じた場合に、HST回路の圧力が急変する。HST回路の圧力が急激に上昇すると、出力トルクが必要以上に高まり、作業車両の乗り心地が悪化する。
本発明の目的は、無段変速機の負荷変動による出力トルクの急変を防ぐことができる作業車両の制御装置、作業車両、および作業車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、作業車両の制御装置は、動力源と、走行装置と、リリーフ圧を設定可能なリリーフバルブを有する静油圧式無段変速機を備え、前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する動力伝達装置とを備える作業車両の制御装置であって、前記走行装置の目標出力値に応じて、前記リリーフバルブの前記リリーフ圧を設定するリリーフ圧設定部を備える。
【発明の効果】
【0006】
上記態様によれば、作業車両の制御装置は、動力伝達装置の負荷変動による出力トルクの急変を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る作業車両の側面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る運転室の内部の構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る作業車両の動力系統を示す模式図である。
【
図4】第1の実施形態に係る変速機が備えるHSTの構成を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る作業車両の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図6】第1の実施形態に係る作業車両の制御方法を示すフローチャートである。
【
図7】第1の実施形態に係るリリーフ圧の設定の例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る制御装置によるリリーフ圧の設定の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈第1の実施形態〉
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る作業車両の側面図である。
第1の実施形態に係る作業車両100は、ホイールローダである。作業車両100は、車体110、作業機120、前輪部130、後輪部140、運転室150を備える。作業車両100は、動力機械の一例である。
【0009】
車体110は、前車体111、後車体112、およびステアリングシリンダ113を備える。前車体111と後車体112とは車体110の上下方向に伸びるステアリング軸回りに回動可能に取り付けられている。前輪部130は、前車体111の下部に設けられ、後輪部140は、後車体112の下部に設けられる。
ステアリングシリンダ113は、油圧シリンダである。ステアリングシリンダ113の基端部は後車体112に取り付けられ、先端部は前車体111に取り付けられる。ステアリングシリンダ113は、作動油によって伸縮することで、前車体111と後車体112とのなす角度を規定する。つまり、ステアリングシリンダ113の伸縮により、前輪部130の舵角が規定される。
【0010】
作業機120は、土砂等の作業対象物の掘削および運搬に用いられる。作業機120は、車体110の前部に設けられる。作業機120は、ブーム121、バケット122、ベルクランク123、リフトシリンダ124、バケットシリンダ125を備える。
【0011】
ブーム121の基端部は、前車体111の前部にピンを介して取り付けられる。
バケット122は、作業対象物を掘削するための刃と、掘削した作業対象物を運搬するための容器とを備える。バケット122の基端部は、ブーム121の先端部にピンを介して取り付けられる。
ベルクランク123は、バケットシリンダ125の動力をバケット122に伝達する。ベルクランク123の第1端は、バケット122の底部にリンク機構を介して取り付けられる。ベルクランク123の第2端は、バケットシリンダ125の先端部にピンを介して取り付けられる。
【0012】
リフトシリンダ124は、油圧シリンダである。リフトシリンダ124の基端部は前車体111の前部に取り付けられる。リフトシリンダ124の先端部はブーム121に取り付けられる。リフトシリンダ124が作動油によって伸縮することによって、ブーム121が上げ方向または下げ方向に駆動する。
バケットシリンダ125は、油圧シリンダである。バケットシリンダ125の基端部は、前車体111の前部に取り付けられる。バケットシリンダ125の先端部は、ベルクランク123を介してバケット122に取り付けられている。バケットシリンダ125が、作動油によって伸縮することによって、バケット122がチルト方向またはダンプ方向に動作する。
【0013】
運転室150は、オペレータが搭乗し、作業車両100の操作を行うためのスペースである。運転室150は、後車体112の上部に設けられる。
図2は、第1の実施形態に係る運転室の内部の構成を示す図である。運転室150の内部には、シート151、アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158が設けられる。なお、作業車両100は、ひとつのブレーキペダル153を備えてもよいし、複数のブレーキペダル153をそなえてもよい。例えば、作業車両100が
図2に示すように2つのブレーキペダル153を備える場合、後方から見て左のブレーキペダル153は、右のブレーキペダル153の機能と同じ機能が割り当てられてもよい。また、左のブレーキペダル153と右のブレーキペダル153とで互いに異なる機能が割り当てられてもよい。この場合、例えば左ブレーキペダル153の操作によりクラッチの係合を解除するよう、左ブレーキペダル153の操作量に応じてクラッチの係合の度合いを変えるようにしてもよい。
【0014】
アクセルペダル152は、作業車両100に生じさせる走行の駆動力(牽引力)を設定するために操作される。アクセルペダル152の操作量が大きいほど、目標駆動力(目標牽引力)が高く設定される。
ブレーキペダル153は、作業車両100に生じさせる走行の制動力を設定するために操作される。ブレーキペダル153の操作量が大きいほど、強い制動力が設定される。
ステアリングハンドル154は、作業車両100の舵角を設定するために操作される。
前後切替スイッチ155は、作業車両100の進行方向を設定するために操作される。作業車両の進行方向は、前進(F:Forward)、後進(R:Rear)、または中立(N:Neutral)のいずれかである。
シフトスイッチ156は、動力伝達装置の速度範囲を設定するために操作される。シフトスイッチ156の操作によって、例えば、1速、2速、3速、および4速の中から1つの速度範囲が選択される。
ブームレバー157は、ブーム121の上げ操作または下げ操作の移動量を設定するために操作される。ブームレバー157は、前方へ傾けられることにより下げ操作を受け付け、後方へ傾けられることにより上げ操作を受け付ける。
バケットレバー158は、バケット122のダンプ操作またはチルト操作の移動量を設定するために操作される。バケットレバー158は、前方へ傾けられることによりダンプ操作を受け付け、後方へ傾けられることによりチルト操作を受け付ける。
【0015】
《動力系統》
図3は、第1の実施形態に係る作業車両の動力系統を示す模式図である。
作業車両100は、エンジン210、PTO220(Power Take Off:動力取出装置)、変速機230、フロントアクスル240、リアアクスル250、可変容量ポンプ260、固定容量ポンプ270を備える。
【0016】
エンジン210は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン210には、燃料噴射装置211およびエンジン回転計2101が設けられる。燃料噴射装置211は、エンジン210のシリンダ内に噴射する燃料量を調整することで、エンジン210の駆動力を制御する。エンジン回転計2101は、エンジン210の回転数を計測する。
【0017】
PTO220は、エンジン210の駆動力の一部を、可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270に伝達する。つまり、PTO220は、エンジン210の駆動力を、変速機230、可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270に分配する。
【0018】
変速機230は、HST231(静油圧式無段変速機)を備える無段変速機である。変速機230は、HST231のみによって変速制御を行うものであってもよいし、HST231と遊星歯車機構との組み合わせによって変速制御を行うHMT(油圧機械式無段変速機)であってもよい。変速機230は、入力軸に入力される駆動力を変速して出力軸から出力する。変速機230の入力軸はPTO220に接続され、出力軸はフロントアクスル240およびリアアクスル250に接続される。つまり、変速機230は、PTO220によって分配されたエンジン210の駆動力をフロントアクスル240およびリアアクスル250に伝達する。変速機230には、入力軸回転計2301および出力軸回転計2302が設けられる。入力軸回転計2301は、変速機230の入力軸の回転数を計測する。出力軸回転計2302は、変速機230の出力軸の回転数を計測する。変速機230のHST231には、HST圧力計2303が設けられる。HST圧力計2303は、HST231の圧力を計測する。
【0019】
フロントアクスル240は、変速機230が出力する駆動力を前輪部130に伝達する。これにより、前輪部130が回転する。
リアアクスル250は、変速機230が出力する駆動力を後輪部140に伝達する。これにより、後輪部140が回転する。
フロントアクスル240およびリアアクスル250は、走行装置の一例である。
【0020】
可変容量ポンプ260は、エンジン210からの駆動力によって駆動される。可変容量ポンプ260の吐出容量は、例えば可変容量ポンプ260内に設けられた斜板の傾転角の制御により変更される。可変容量ポンプ260から吐出された作動油は、コントロールバルブ261を介してリフトシリンダ124、およびバケットシリンダ125に供給され、ステアリングバルブ262を介してステアリングシリンダ113に供給される。
コントロールバルブ261は、可変容量ポンプ260から吐出された作動油の流量を制御し、作動油をリフトシリンダ124とバケットシリンダ125とに分配する。ステアリングバルブ262は、ステアリングシリンダ113に供給する作動油の流量を制御する。
可変容量ポンプ260には、第1ポンプ圧計2601およびポンプ容量計2602が設けられる。第1ポンプ圧計2601は、可変容量ポンプ260からの作動油の吐出圧を計測する。ポンプ容量計2602は、可変容量ポンプ260の斜板角等に基づいて可変容量ポンプ260の容量を計測する。
可変容量ポンプ260はPTO220から動力を分配される装置の一例である。他の実施形態においては、可変容量ポンプ260が複数のポンプから構成されてもよいし、可変容量ポンプ260に代えてまたは加えて、図示されない油圧駆動ファンなどの他の供給先を備えていてもよい。
リフトシリンダ124には、リフト圧センサ2603が設けられる。リフト圧センサ2603は、リフトシリンダ124のボトム圧を計測する。
【0021】
固定容量ポンプ270は、エンジン210からの駆動力によって駆動される。固定容量ポンプ270から吐出された作動油は変速機230内のブレーキバルブ271に供給される。ブレーキバルブ271は、各アクスルに内蔵された図示しないブレーキシリンダへ供給する作動油の圧力を制御する。ブレーキシリンダに作動油が供給されることで、前輪部130および後輪部140の回転軸と共に回転するブレーキディスクが回転しないプレートに押し付けられ、制動力が発生する。固定容量ポンプ270には、第2ポンプ圧計2701が設けられる。第2ポンプ圧計2701は、固定容量ポンプ270からの作動油の吐出圧を計測する。固定容量ポンプ270はPTO220から動力を分配される装置の一例である。固定容量ポンプ270は、複数のポンプから構成されてもよいし、図示されない潤滑回路などの供給先があってもよい。
【0022】
《HSTの構成》
図4は、第1の実施形態に係る変速機が備えるHSTの構成を示す図である。
HST231は、HSTポンプ2311、HSTモータ2312、第1リリーフバルブ2313、第1逆止弁2314、第2リリーフバルブ2315、第2逆止弁2316を備える。HSTポンプ2311とHSTモータ2312は、第1油圧経路P1と第2油圧経路P2とを介して互いに接続される。
HSTポンプ2311は、作動油を第1油圧経路P1または第2油圧経路P2を経由してHSTモータ2312に供給する。HSTモータ2312は、HSTポンプ2311から供給する作動油によって駆動する。
【0023】
第1リリーフバルブ2313は、第1油圧経路P1とリリーフバイパスP3とを接続する。第1油圧経路P1の圧力が第2油圧経路P2より高く、かつその差圧が所定のリリーフ圧を超える場合に、第1油圧経路P1を流れる作動油をリリーフバイパスP3へ通す。
第1逆止弁2314は、第1リリーフバルブ2313と並列に設けられ、第1油圧経路P1から流れる作動油を止め、リリーフバイパスP3から流れる作動油を第1油圧経路P1へ通す。
【0024】
第2リリーフバルブ2315は、第2油圧経路P2とリリーフバイパスP3とを接続する。第2油圧経路P2の圧力が第1油圧経路P1より高く、かつその差圧が所定のリリーフ圧を超える場合に、第2油圧経路P2を流れる作動油をリリーフバイパスP3へ通す。
第2逆止弁2316は、第2リリーフバルブ2315と並列に設けられ、第2油圧経路P2から流れる作動油を止め、リリーフバイパスP3から流れる作動油を第2油圧経路P2へ通す。
【0025】
すなわち、第1油圧経路P1の圧力が第2油圧経路P2より高く、かつその差圧が所定のリリーフ圧を超える場合に、第1油圧経路P1を流れる作動油は第1リリーフバルブ2313、リリーフバイパスP3、および第2逆止弁2316を経由して第2油圧経路P2へ流れる。他方、第2油圧経路P2の圧力が第1油圧経路P1より高く、かつその差圧が所定のリリーフ圧を超える場合に、第2油圧経路P2を流れる作動油は第2リリーフバルブ2315、リリーフバイパスP3、および第1逆止弁2314を経由して第1油圧経路P1へ流れる。なお、HST231からの作動油の漏れによる油量の低下を補うために、例えばリリーフバイパスP3に作動油を供給するための図示しない油圧ポンプを備えてもよい。
【0026】
第1リリーフバルブ2313および第2リリーフバルブ2315のリリーフ圧は、制御信号によって変更することができる。例えば、第1リリーフバルブ2313および第2リリーフバルブ2315は、弁を閉じるばねを押すソレノイドを備え、電流によってソレノイドの位置を変化させることで、リリーフ圧を設定するものであってよい。
なお、HST圧力計2303は、第1油圧経路P1と第2油圧経路P2との差圧を計測する。なお、第1油圧経路P1と第2油圧経路P2との差圧は、第1油圧経路P1と第2油圧経路P2との各々に圧力センサを設け、この二つの圧力センサの計測値の差によって計測されてもよい。
【0027】
《制御装置》
作業車両100は、作業車両100を制御するための制御装置300を備える。制御装置300は、車体110に設けられ、好ましくは運転室150内に設けられる。
制御装置300は、運転室150内の各操作装置(アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158)の操作量に応じて、燃料噴射装置211、変速機230、可変容量ポンプ260、コントロールバルブ261に制御信号を出力する。
【0028】
図5は、第1の実施形態に係る作業車両の制御装置の構成を示す概略ブロック図である。制御装置300は、プロセッサ310、メインメモリ330、ストレージ350、インタフェース370を備えるコンピュータである。
【0029】
ストレージ350は、一時的でない有形の記憶媒体である。ストレージ350の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ350は、制御装置300のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース370または通信回線を介して制御装置300に接続される外部メディアであってもよい。ストレージ350は、作業車両100を制御するためのプログラムを記憶する。
【0030】
プログラムは、制御装置300に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージ350に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、制御装置300は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0031】
プログラムが通信回線によって制御装置300に配信される場合、配信を受けた制御装置300が当該プログラムをメインメモリ330に展開し、上記処理を実行してもよい。
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ350に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0032】
プロセッサ310は、プログラムを実行することで、操作量取得部311、計測値取得部312、車両状態算出部313、要求PTOトルク決定部314、要求出力トルク決定部315、走行負荷推定部316、作業状態特定部317、目標回転数決定部318、加速トルク特定部319、目標エンジントルク決定部320、エンジン制御部321、目標HST圧特定部322(目標回路圧特定部)、マージン決定部323、リリーフ圧設定部324、目標速度比決定部325、および変速機制御部326を備える。
【0033】
操作量取得部311は、アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158のそれぞれから操作量を取得する。以下、アクセルペダル152の操作量をアクセル操作量、ブレーキペダル153の操作量をブレーキ操作量、ステアリングハンドル154の操作量をステアリング操作量、前後切替スイッチ155の操作位置に応じた値をFNR操作量、シフトスイッチ156の操作位置に応じた値をシフト操作量、ブームレバー157の操作量をブーム操作量、バケットレバー158の操作量をバケット操作量という。
【0034】
計測値取得部312は、燃料噴射装置211、エンジン回転計2101、入力軸回転計2301、出力軸回転計2302、HST圧力計2303、第1ポンプ圧計2601、ポンプ容量計2602、リフト圧センサ2603、および第2ポンプ圧計2701から計測値を取得する。すなわち、計測値取得部312は、エンジン210の燃料噴射量、エンジン210の回転数、変速機230の入力軸の回転数、変速機230の出力軸の回転数、HST231の圧力、可変容量ポンプ260のポンプ圧、可変容量ポンプ260の容量、リフトシリンダ124のボトム圧、および固定容量ポンプ270のポンプ圧のそれぞれの計測値を取得する。
【0035】
車両状態算出部313は、計測値取得部312が取得した計測値に基づいて、エンジン210の出力トルク、エンジン210の上限トルク、エンジン210の角加速度、PTO220で可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270へ分配されるトルク(PTOトルク)、変速機230の入出力速度比、変速機230の出力軸の角加速度、作業車両100の走行速度を算出する。エンジン210の出力トルクとは、燃料噴射量に基づいて算出されるエンジン210が実際に発揮するトルクである。エンジン210の上限トルクとは、エンジン210が発揮可能な最大のトルクである。
【0036】
要求PTOトルク決定部314は、操作量取得部311が取得したステアリング操作量、ブーム操作量、およびバケット操作量と、計測値取得部312が取得した可変容量ポンプ260のポンプ圧、可変容量ポンプ260の容量、および固定容量ポンプ270のポンプ圧の計測値とに基づいて、PTO220から可変容量ポンプ260および固定容量ポンプ270へ分配されるトルクの要求値(要求PTOトルク)を決定する。例えば、要求PTOトルク決定部314は、操作量と要求流量との関係を規定するPTO変換関数に基づいて、ステアリング操作量から可変容量ポンプ260の要求流量を求める。また例えば、要求PTOトルク決定部314は、PTO変換関数に基づいて、ブーム操作量およびバケット操作量から可変容量ポンプ260の要求流量を求める。そして、要求PTOトルク決定部314は、可変容量ポンプ260のポンプ圧、可変容量ポンプ260の容量、および固定容量ポンプ270のポンプ圧の計測値と、特定した可変容量ポンプ260の要求流量に基づいて、要求PTOトルクを決定する。
【0037】
要求出力トルク決定部315は、操作量取得部311が取得したアクセル操作量、ブレーキ操作量、シフト操作量、およびFNR操作量と、車両状態算出部313が算出した走行速度とに基づいて、変速機230の出力軸のトルクの要求値(要求出力トルク)を決定する。例えば、要求出力トルク決定部315は、走行速度と要求出力トルクとの関係を規定する走行変換関数に基づいて、車両状態算出部313が算出した走行速度から要求出力トルクを決定する。このとき、要求出力トルク決定部315は、走行変換関数の特性を、アクセル操作量、ブレーキ操作量、シフト操作量、およびFNR操作量に基づいて決定する。
具体的には、要求出力トルク決定部315は、複数の速度範囲に対応する複数の走行変換関数のうち、シフト操作量によって特定される速度範囲に対応する走行変換関数を特定する。要求出力トルク決定部315は、アクセル操作がある場合、アクセル操作量に係る倍率に基づいて特定した走行変換関数を変形する。要求出力トルク決定部315は、ブレーキ操作がある場合、ブレーキ操作量に係る倍率に基づいて特定した走行変換関数を変形する。要求出力トルク決定部315は、FNR操作量に基づいて、要求出力トルクの符号を決定する。なお、要求出力トルクと走行速度の符号が一致しない場合(要求出力トルクと走行速度の積の符号が負である場合)、変速機230によって制動側のトルクが発揮される。
走行変換関数によれば、走行速度が所定速度を超えるとき、要求出力トルクが制動側の値となる。そのため、要求出力トルク決定部315は、車両状態算出部313が算出した走行速度が、シフト操作量とアクセル操作量とブレーキ操作量とによって特定される速度範囲の上限を超える場合、要求出力トルクが制動側の値(走行速度と逆の符号)となる。
【0038】
走行負荷推定部316は、車両状態算出部313が算出したエンジン210の出力トルクTeng、エンジン210の角加速度αeng、PTOトルクTPTO、変速機230の入出力速度比i、変速機230の出力軸の角加速度αoutに基づいて、走行に係る走行負荷トルクTloadを推定する。
走行負荷トルクTloadは、以下の式(1)に基づいて算出することができる。
【0039】
【0040】
Iengは、エンジン210の慣性モーメントである。Ivは、作業車両100の慣性モーメントである。ηtは、変速機230のトルク効率である。Nは、変速機230の出力軸から前輪部130および後輪部140までの間におけるアクスル減速比である。慣性モーメントIeng、慣性モーメントIv、トルク効率ηt、およびアクスル減速比Nは定数である。
【0041】
なお、式(1)は、エンジン210の出力トルクTengと変速機230の出力トルクToutとの関係を示す式(2)と、変速機230の出力トルクToutと作業車両100の加速度αoutとの関係を示す式(3)と、から導出することができる。なお、他の実施形態においては、走行負荷トルクTloadは、式(1)以外の式に基づいて算出されてもよい。例えば、式(2)に代えて、HST231が計測したHST231の圧力と、HST231の可変容量ポンプの容量指令または当該可変容量ポンプに設けられるポンプ容量計が計測したポンプ容量と、出力トルクToutとの関係を示す式を用いて、走行負荷トルクTloadを特定する式を導出してもよい。また、他の実施形態において、変速機230が電気モータを備える場合、電気モータのトルク指令や電圧・電流から推定した電気モータ出力トルクを用いて、走行負荷トルクTloadを特定する式を導出してもよい。
【0042】
【0043】
作業状態特定部317は、操作量取得部311が取得した操作量および計測値取得部312が取得した計測値に基づいて、作業車両100の作業状態を特定する。作業状態の値は、例えば、「低速走行状態」、「高速走行状態」、「掘削状態」、「制動状態」をとる。
「低速走行状態」は、作業車両100が低速度で走行している状態である。作業状態特定部317は、例えば走行速度の絶対値が所定値未満である場合に、作業状態が「低速走行状態」であると判定してよい。また作業状態特定部317は、例えばシフト操作量が1速または2速である場合に、作業状態が「低速走行状態」であると判定してよい。
「高速走行状態」は、作業車両100が前進または後進している状態である。作業状態特定部317は、例えば走行速度の絶対値が所定値以上である場合に、作業状態が「高速走行状態」であると判定してよい。また作業状態特定部317は、例えばシフト操作量が3速または4速である場合に、作業状態が「高速走行状態」であると判定してよい。
「掘削状態」は、作業車両100が作業機120によって掘削作業をしている状態である。作業状態特定部317は、例えばリフトシリンダ124のボトム圧の計測値が所定値以上である場合に、作業状態が「掘削状態」であると判定してよい。
「制動状態」は、作業車両100が制動している状態である。作業状態特定部317は、例えばブレーキ操作量が0より大きい場合に、作業状態が「制動状態」であると判定してよい。
【0044】
目標回転数決定部318は、要求出力トルクと走行速度から算出される要求走行パワーと要求PTOトルクとエンジン210の回転数の計測値から算出される要求PTO出力との和である要求エンジン出力とに基づいて、エンジン210の制御に用いられる目標エンジン回転数を決定する。目標回転数決定部318は、予め設計等により定められた、要求エンジン出力とエンジン回転数との関係を規定する回転数変換関数に基づいて、目標エンジン回転数を決定する。回転数変換関数は、例えば、要求エンジン出力を発揮可能かつエンジン加速度を阻害しない範囲で、なるべくエンジン210の回転を低回転側に抑える設計とするものであってよい。
また目標回転数決定部318は、要求PTOトルク決定部314で算出した、可変容量ポンプ260の要求流量を実現するために必要なエンジンの回転数(PTO必要回転数)を決定する。目標回転数決定部318は、予め設計等により定められた、可変容量ポンプ260の要求流量とエンジン回転数との関係を規定する回転数変換関数に基づいて、PTO必要回転数を決定する。目標回転数決定部318は、目標エンジン回転数がPTO必要回転数を下回る場合、目標エンジン回転数をPTO必要回転数に決定する。
【0045】
加速トルク特定部319は、計測値取得部312が取得したエンジン210の回転数の計測値と目標回転数決定部318が決定した目標エンジン回転数とに基づいて、エンジン210を目標エンジン回転数で回転させるために必要な目標加速トルクを算出する。すなわち、加速トルク特定部319は、エンジン210の回転数の計測値と目標エンジン回転数との差の回転数にから目標エンジン加速度を決定し、目標エンジン加速度にエンジン210の慣性モーメントを乗算することで、目標加速トルクを算出する。
【0046】
目標エンジントルク決定部320は、車両状態算出部313が算出したPTOトルク、エンジン210の上限トルク、および変速機230の入出力速度比と、要求出力トルク決定部315が決定した要求出力トルクと、エンジン210の回転数の計測値とに基づいて、エンジン210が出力すべきトルクである目標エンジントルクを決定する。目標エンジントルク決定部320は、要求出力トルクに変速機230の入出力速度比を乗算することで、要求出力トルクを得るために必要となるエンジン210のトルクである要求入力トルクを算出する。目標エンジントルク決定部320は、PTOトルクと要求入力トルクとの和と、エンジントルクの最大値のうち小さい方を、目標エンジントルクに決定する。
【0047】
エンジン制御部321は、燃料噴射装置211に、エンジントルク指令を出力する。具体的には、エンジン制御部321は、目標エンジントルク決定部320が決定した目標エンジントルクを示すエンジントルク指令を出力する。
【0048】
目標HST圧特定部322は、要求出力トルク決定部315が決定した要求出力トルクに対応するHST231の圧力を、HST231の制御目標である目標HST圧(目標回路圧)に決定する。変速機230の出力トルクとHST231の圧力との関係は、変速機230の設計によって定められる出力軸とHSTモータ2312との間におけるギヤ比の関係と、そのときのHSTモータ2312の容量により決定される。すなわち、目標HST圧は、HSTモータ2312の容量が大きいほど小さく、要求出力トルクが大きいほど大きくなる。
【0049】
マージン決定部323は、作業状態特定部317が特定した作業車両100の作業状態に基づいて、第1リリーフバルブ2313および第2リリーフバルブ2315のリリーフ圧と目標HST圧との差に対して許容すべきマージン圧力を決定する。
マージン圧力は、予め、作業状態ごとに定められる。各作業状態に係るマージン圧力を小さい順に並べると、制動状態に係るマージン圧力、掘削状態に係るマージン圧力、低速走行状態に係るマージン圧力、高速走行状態に係るマージン圧力、となる。制動状態に係るマージン圧力は、ブレーキペダル153の踏み込み量に対して単調減少するように設定されてもよい。また、強い制動力を与えたい場合には、制動状態に係るマージン圧力が負数に設定されてもよい。
【0050】
リリーフ圧設定部324は、HST231の第1リリーフバルブ2313および第2リリーフバルブ2315のリリーフ圧を、目標HST圧特定部322が特定した目標HST圧と、マージン決定部323が決定したマージン圧力の和に設定する。
【0051】
目標速度比決定部325は、変速機230の入力軸の回転数の計測値、変速機230の出力軸の回転数の計測値、走行負荷推定部316が推定した走行負荷トルク、要求出力トルク決定部315が決定した目標出力トルク、および加速トルク特定部319が特定した目標エンジン加速度に基づいて、変速機230の目標入出力速度比を決定する。具体的には、目標速度比決定部325は、変速機230の出力軸の回転数、走行負荷トルク、および目標出力トルクに基づいて、所定の制御周期に係る時間の経過後における変速機230の出力軸の回転数を推定し、それを出力軸の目標回転数として設定する。目標速度比決定部325は、変速機230の入力軸の回転数および目標エンジン加速度に基づいて、所定の制御周期に係る時間の経過後における変速機230の入力軸の回転数を推定し、それを入力軸の目標回転数として設定する。目標速度比決定部325は、出力軸の目標回転数を入力軸の目標回転数で除算することで、目標入出力速度比を決定する。
【0052】
変速機制御部326は、目標速度比決定部325が決定した目標入出力速度比を実現するために、変速機230の制御指令を出力する。変速機制御部326は、例えば変速機230が備えるHST231の容量指令を出力する。
【0053】
ポンプ制御部は327は、要求PTOトルク決定部314が決定した要求PTOトルクを実現するために、可変容量ポンプ260の制御指令を出力する。
【0054】
《作業車両の制御方法》
図6は、第1の実施形態に係る作業車両の制御方法を示すフローチャートである。
まず、操作量取得部311は、アクセルペダル152、ブレーキペダル153、ステアリングハンドル154、前後切替スイッチ155、シフトスイッチ156、ブームレバー157、バケットレバー158のそれぞれから操作量を取得する(ステップS1)。また、計測値取得部312は、燃料噴射装置211、エンジン回転計2101、入力軸回転計2301、出力軸回転計2302、HST圧力計2303、第1ポンプ圧計2601、ポンプ容量計2602、および第2ポンプ圧計2701から計測値を取得する(ステップS2)。
【0055】
次に、車両状態算出部313は、ステップS2で取得した計測値に基づいて、エンジン210の出力トルク、エンジン210の上限トルク、エンジン210の角加速度、PTOトルク、変速機230の入出力速度比、変速機230の出力軸の角加速度、作業車両100の走行速度を算出する(ステップS3)。
【0056】
要求PTOトルク決定部314は、ステップS1で取得したステアリング操作量、ブーム操作量、およびバケット操作量と、ステップS2で取得した可変容量ポンプ260のポンプ圧および容量、ならびに固定容量ポンプ270のポンプ圧の計測値とに基づいて、要求PTOトルクを決定する(ステップS4)。要求出力トルク決定部315は、ステップS1で取得した走行に関する操作量と、ステップS3で算出した走行速度とに基づいて、要求出力トルクを決定する(ステップS5)。走行負荷推定部316は、ステップS3で算出した車両状態の値に基づいて、走行負荷トルクを推定する(ステップS6)。
【0057】
作業状態特定部317は、ステップS1で取得した操作量およびステップS2で取得した計測値に基づいて、作業車両100の作業状態を特定する(ステップS7)。つまり、作業状態特定部317は、作業状態が、「低速走行状態」、「高速走行状態」、「掘削状態」、「制動状態」のいずれであるかを特定する。
【0058】
目標回転数決定部318は、要求出力トルクと走行速度から算出される要求走行パワーと、要求PTOトルクとエンジン210の回転数の計測値から算出される要求PTO出力との和である要求エンジン出力に基づいて、目標エンジン回転数を決定する(ステップS8)。加速トルク特定部319は、エンジン210の回転数の計測値とステップS8で決定した目標エンジン回転数とに基づいて目標加速トルクを算出する(ステップS9)。目標エンジントルク決定部320は、要求出力トルクと、ステップS3で算出したPTOトルク、エンジンの上限トルク、および変速機230の入出力速度比と、ステップS2で取得したエンジン210の回転数の計測値とに基づいて目標エンジントルクを決定する(ステップS10)。エンジン制御部321は、ステップS10で決定した目標エンジントルクを示すエンジントルク指令を出力する(ステップS11)。
【0059】
目標HST圧特定部322は、ステップS5で決定した要求出力トルクと、直近のHSTモータ2312の容量指令とに基づいて、目標HST圧を決定する(ステップS12)。マージン決定部323は、ステップS7で特定した作業車両100の作業状態に基づいて、マージン圧力を決定する(ステップS13)。そして、リリーフ圧設定部324は、HST231の第1リリーフバルブ2313および第2リリーフバルブ2315のリリーフ圧を、ステップS12で決定した目標HST圧と、ステップS13で決定したマージン圧力の和に設定する(ステップS14)。
【0060】
目標速度比決定部325は、変速機230の入力軸の回転数の計測値、変速機230の出力軸の回転数の計測値、負荷トルク、目標出力トルク、および目標エンジン加速度に基づいて目標入出力速度比を決定する(ステップS15)。変速機制御部326は、目標入出力速度比を実現するための変速機230の制御指令を出力する(ステップS16)。
【0061】
制御装置300は、上述の制御処理を、所定の制御周期ごとに実行する。
【0062】
《リリーフ圧の設定例》
ここで、具体例を用いて制御装置300によるリリーフ圧の設定について説明する。
図7は、第1の実施形態に係るリリーフ圧の設定の例を示す図である。なお、上述したように、リリーフ圧
HST_reliefは、目標HST圧P
HST_targetにマージン圧P
HST_marginを加算することで得られる。
作業車両100が時刻T0に走行を開始する。作業車両100の走行速度は、時刻T1に、低速走行状態と高速走行状態とを区分する閾値速度に達する。このとき、作業状態特定部317は、時刻T0から時刻T1まで、作業車両100の作業状態が低速走行状態であると特定する。そのためマージン決定部323は、目標HST圧P
HST_targetに加算されるマージン圧P
HST_marginを低速走行状態に係るマージン圧に決定する。作業車両100が低速で走行している場合、細かなアクセルワークが要求され、また掘削作業に移行する可能性が高い。そのため、制御装置300は、マージン圧P
HST_marginとして高速走行状態と比較して小さい値を設定することで、HST231の圧力が目標HST圧P
HST_targetから大きく離れることを防ぐことができる。
【0063】
時刻T1から時刻T2まで作業車両100の走行速度はさらに上昇する。このとき、作業状態特定部317は、時刻T1から時刻T2まで、作業車両100の作業状態が高速走行状態であると特定する。そのためマージン決定部323は、マージン圧PHST_marginを、低速走行状態より大きい値に決定する。作業車両100が高速で走行している場合、急な負荷が生じる可能性が低い。そのため、制御装置300は、マージン圧PHST_marginを低速走行状態と比較して大きい値を設定することで、HST231のリリーフロスを低減することができる。
【0064】
次に、時刻T2から時刻T3までの間、作業車両100のオペレータはブレーキペダル153を踏む。これにより、作業車両100の走行速度は、時刻T3の時点で閾値速度未満となる。このとき、作業状態特定部317は、時刻T2から時刻T3まで、作業車両100の作業状態が制動状態であると特定する。そのためマージン決定部323は、マージン圧P
HST_marginを、ブレーキペダル153の踏み込み量に単調減少する値に決定する。なお、
図7に示す例においては、マージン圧P
HST_marginが負の値となっている。これにより、制御装置300は、積極的に作動油のリリーフを促し、牽引力を抑えることで、ブレーキの利きをよくすることができる。
【0065】
その後、時刻T3から時刻T4までの間、作業車両は閾値速度未満の速度での走行を続ける。このとき、作業状態特定部317は、時刻T3から時刻T4まで、作業車両100の作業状態が低速走行状態であると特定する。そのためマージン決定部323は、マージン圧PHST_marginを、低速走行に係るマージン圧に決定する。なお、時刻T3から時刻T4までマージン圧PHST_marginは、時刻T0から時刻T1までのマージン圧PHST_marginと同じ値である。
【0066】
時刻T4において作業車両100のバケット122が土砂を押すと、リフトシリンダ124の圧力が増加する。このとき、作業状態特定部317は、時刻T4以降、作業車両100の作業状態が掘削状態であると特定する。そのためマージン決定部323は、マージン圧PHST_marginを、低速走行状態より小さい値に決定する。作業車両100が掘削している場合、掘削中のチルト動作による負荷抜けや、掘削の終了による負荷抜けなど、急激な負荷変動が生じる可能性が高い。そのため、制御装置300は、マージン圧PHST_marginを低速走行状態より小さい値に設定することで、エンジン回転数の低下や車両の飛び出しを防ぐことができる。
【0067】
《作用・効果》
図8は、第1の実施形態に係る制御装置によるリリーフ圧の設定の効果を示す図である。
第1の実施形態に係る制御装置300は、目標HST圧P
HST_targetに応じて、第1リリーフバルブ2313および第2リリーフバルブ2315のリリーフ圧P
HST_reliefを設定する。なお、設定される第1リリーフバルブ2313および第2リリーフバルブ2315のリリーフ圧P
HST_reliefは同じ値であってもよい。これにより、
図8に示すように、作業車両100に外力が掛かる等の負荷変動が生じた場合に、HST231の内圧P
HSTを目標HST圧P
HST_targetに応じた圧力以下に抑えることができる。したがって、第1の実施形態によれば、変速機230の負荷変動による出力トルクの急変を防ぐことができる。
【0068】
なお、比較例として
図8にはリリーフ圧P
HST_reliefを設定しない場合の挙動も開示しているが、リリーフ圧P
HST_reliefを設定しない場合、負荷変動に応じてHST231の内圧P
HST_cpが大きく上昇することがわかる。その後、制御装置300はHST231の内圧を目標HST圧P
HST_targetに近づけるために制御することで、内圧の揺り戻しが生じてしまう。この揺り戻しは車体のピッチの揺れを生じさせ、乗り心地が低下する。これに対し、第1の実施形態によれば、HST231の内圧P
HSTが目標HST圧P
HST_targetに応じた圧力以下に抑えられることにより、揺り戻しを抑え、早期に内圧を目標HST圧P
HST_targetに近づけることができる。
【0069】
また、
図8を参照すると、比較例に係る制御では、負荷変動が生じた直後にエンジン回転数が著しく低下している。これは、急激な負荷がHST231からエンジン210へ伝達されるためである。これに対し、第1の実施形態によれば、HST231のリリーフによって負荷がエンジン210へ伝達されることを防ぎ、エンジン回転数の低下を抑えることができる。
【0070】
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
【0071】
また、第1の実施形態に係る作業車両100は、ホイールローダであるが、これに限られない。例えば他の実施形態に係る作業車両100は、ブルドーザおよびトラクタなどの他の作業車両100であってもよい。また他の実施形態においては、制御装置300が作業車両以外の動力機械に適用されてもよい。
【0072】
また、例えば上述の実施形態によれば、制御装置300は、作業状態に関わらずリリーフ圧を目標HST圧に基づいて設定するが、他の実施形態においては、これに限られない。例えば、他の実施形態においては、作業状態が高速走行状態である場合に、制御装置300はリリーフ圧を設定せず、他の状態である場合にリリーフ圧を設定するものであってもよい。
【0073】
また、上述の実施形態では、制御装置300は作業状態に応じてマージン圧を異ならせるが、これに限らない。例えば、他の実施形態においては、制御装置300は常に同じマージン圧を用いてリリーフ圧を設定するものであってよい。
【符号の説明】
【0074】
100…作業車両 110…車体 111…前車体 112…後車体 113…ステアリングシリンダ 120…作業機 121…ブーム 122…バケット 123…ベルクランク 124…リフトシリンダ 125…バケットシリンダ 130…前輪部 140…後輪部 150…運転室 151…シート 152…アクセルペダル 153…ブレーキペダル 154…ステアリングハンドル 155…前後切替スイッチ 156…シフトスイッチ 157…ブームレバー 158…バケットレバー 210…エンジン 220…PTO 230…変速機 240…フロントアクスル 250…リアアクスル 260…可変容量ポンプ 270…固定容量ポンプ 211…燃料噴射装置 2101…エンジン回転計 231…HST 2301…入力軸回転計 2302…出力軸回転計 2303…HST圧力計 261…コントロールバルブ 262…ステアリングバルブ 2601…第1ポンプ圧計 2602…ポンプ容量計 2603…リフト圧センサ 271…ブレーキバルブ 2701…第2ポンプ圧計 300…制御装置 310…プロセッサ 330…メインメモリ 350…ストレージ 370…インタフェース 2311…HSTポンプ 2312…HSTモータ 2313…第1リリーフバルブ 2314…第1逆止弁 2315…第2リリーフバルブ 2316…第2逆止弁 311…操作量取得部 312…計測値取得部 313…車両状態算出部 314…要求PTOトルク決定部 315…要求出力トルク決定部 316…走行負荷推定部 317…作業状態特定部 318…目標回転数決定部 319…加速トルク特定部 320…目標エンジントルク決定部 321…エンジン制御部 322…目標HST圧特定部 323…マージン決定部 324…リリーフ圧設定部 325…目標速度比決定部 326…変速機制御部