(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20221220BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221220BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20221220BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221220BHJP
【FI】
B23K9/04 A
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B23K9/04 G
B23K9/04 K
(21)【出願番号】P 2019133937
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-530027(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0034626(US,A1)
【文献】特開2017-077671(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123858(WO,A1)
【文献】特開2017-161981(JP,A)
【文献】特開2011-101900(JP,A)
【文献】特開2020-097193(JP,A)
【文献】特開2020-001059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチに支持された溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベースプレート上に積層する造形部により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
前記3次元形状データに基づいて、前記ベースプレート上に積層造形する前記積層造形物の形状モデルを求め、前記形状モデルの前記積層造形物を積層造形するための積層計画を作成する積層計画作成工程と、
前記形状モデルに基づいて造形した前記積層造形物に対する許容可能な形状誤差を設定する形状誤差設定工程と、
前記形状モデルにより造形した前記積層造形物を前記ベースプレートから分離した際の解放ひずみによる変形量を求める変形量計算工程と、
前記変形量が前記形状誤差の範囲に収まるまで前記形状モデルの形状を補正し、補正した前記形状モデルに応じて前記溶着ビードを形成するための前記トーチの軌道を求める前記積層計画の補正工程と、
をこの順で実施する積層造形物の積層計画方法。
【請求項2】
前記変形量計算工程は、前記変形量を、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析のいずれかを用いて求める請求項1に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項3】
前記補正工程は、前記解放ひずみによる変形が生じる方向と逆方向に前記形状モデルを補正する請求項1または請求項2に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項4】
前記積層造形物は、溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードでビード層を形成し、該形成されたビード層に次層のビード層を繰り返し積層して造形される請求項1~3のいずれか一項に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項5】
前記溶着ビードは、多軸ロボットのロボットアームの先端に支持されたトーチから発生させたアークにより、前記溶加材を溶融させて形成される請求項4に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項6】
前記積層計画作成工程は、前記溶着ビードを形成する溶接電流、アーク電圧、溶接速度、トーチ角度の少なくともいずれかを含む加熱条件を定める請求項5に記載の積層造形物の積層計画方法。
【請求項7】
請求項6に記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記積層計画に基づいて、前記積層造形物を積層造形する積層造形物の製造方法。
【請求項8】
トーチに支持された溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベースプレート上に積層する造形部により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画装置であって、
前記3次元形状データに基づいて、前記ベースプレート上に積層造形する前記積層造形物の形状モデルを求め、前記形状モデルの前記積層造形物を積層造形するための積層計画を作成する積層計画作成部と、
前記形状モデルに基づいて造形した前記積層造形物に対する許容可能な形状誤差を設定する形状誤差設定部と、
前記形状モデルにより造形した前記積層造形物を前記ベースプレートから分離した際の解放ひずみによる変形量を求める変形量計算部と、
前記変形量が前記形状誤差の範囲に収まるまで前記形状モデルの形状を補正し、補正した前記形状モデルに応じて前記溶着ビードを形成するための前記トーチの軌道を求める前記積層計画の補正部と、
を備える積層造形物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって、生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタは、レーザ、電子ビーム、アーク等の熱源を用い、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させることで積層造形物を作製する。
【0003】
ベースプレート上にアーク溶接で造形物を造形する金属3Dプリンタとして、スペーサによって造形テーブルと基台とをそれぞれ離間させた剛性プレートを、造形テーブルと基台に対して着脱可能に設け、基台の上に造形物を造形する際に剛性プレートを冷却媒体に水没させ、造形後に剛性プレートごと2次加工を行うものが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、積層造形によって造形される造形物についての材料物性値、造形条件、及び造形物サイズに関する条件を受け付け、この条件及び造形時に生成される溶融池周辺の拘束状態を定量化した拘束条件に基づいて導かれる固有ひずみの線形式から固有ひずみを算出する技術が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-144446号公報
【文献】特開2018-184623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、母材に対して溶着ビードを積層して造形物を造形する積層造形では、材料を溶融・凝固させ造形していくため、熱収縮等によって造形物内部に残留応力が発生していることがある。この状態にて、母材を切削除去すると、残留応力の解放により、造形物に変形が発生し、目標形状に対して誤差が発生するおそれがある。
【0007】
ベースプレートの変形を矯正する特許文献1の技術、及び造形される造形物の固有ひずみを算出する特許文献2の技術では、母材の切削除去後の造形物の目標形状に対する誤差を抑えることは困難である。
【0008】
そこで本発明は、ベースプレートから分離した際の残留応力の解放による影響を抑えて高精度で目標形状に造形することが可能な積層造形物の積層計画方法、積層造形物の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記構成からなる。
(1) 溶融金属をベースプレート上に積層する造形部により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
前記3次元形状データに基づいて、前記ベースプレート上に積層造形する前記積層造形物の形状モデルを求め、前記形状モデルの前記積層造形物を積層造形するための積層計画を作成する積層計画作成工程と、
前記形状モデルに基づいて造形した前記積層造形物に対する許容可能な形状誤差を設定する形状誤差設定工程と、
前記形状モデルにより造形した前記積層造形物を前記ベースプレートから分離した際の解放ひずみによる変形量を求める変形量計算工程と、
前記変形量が前記形状誤差の範囲に収まるまで、前記形状モデル及び前記積層計画を補正する補正工程と、
をこの順で実施する積層造形物の積層計画方法。
(2) 上記(1)に記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記積層計画に基づいて、前記積層造形物を積層造形する積層造形物の製造方法。
(3) 溶融金属をベースプレート上に積層する造形部により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の製造装置であって、
前記3次元形状データに基づいて、前記ベースプレート上に積層造形する前記積層造形物の形状モデルを求め、前記形状モデルの前記積層造形物を積層造形するための積層計画を作成する積層計画作成部と、
前記形状モデルに基づいて造形した前記積層造形物に対する許容可能な形状誤差を設定する設定部と、
前記形状モデルにより造形した前記積層造形物を前記ベースプレートから分離した際の解放ひずみによる変形量を求める変形量計算部と、
前記変形量が前記形状誤差の範囲に収まるまで、前記形状モデル及び前記積層計画を補正する補正部と、
を備える積層造形物の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベースプレートから分離した際の残留応力の解放による影響を抑えて高精度で目標形状に造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る積層造形物の製造装置の概略構成図である。
【
図2】積層造形物の上下方向に沿う概略断面図である。
【
図3A】積層造形物の基本的な積層造形の手順を説明する上下方向に沿う概略断面図である。
【
図3B】積層造形物の基本的な積層造形の手順を説明する上下方向に沿う概略断面図である。
【
図3C】積層造形物の基本的な積層造形の手順を説明する上下方向に沿う概略断面図である。
【
図4】ベースプレートを除去した際の積層造形物の変形について説明する積層造形物の上下方向に沿う概略断面図である。
【
図5】積層造形物の積層計画の手順を示すフローチャートである。
【
図6A】積層造形物の積層計画の手順を説明する積層造形物の模式図である。
【
図6B】積層造形物の積層計画の手順を説明する積層造形物の模式図である。
【
図6C】積層造形物の積層計画の手順を説明する積層造形物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<積層造形物の製造装置>
図1は本発明に係る積層造形物の製造装置の概略構成図である。
本構成の積層造形物の製造装置100は、造形部11と、造形部11を統括制御するコントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0013】
造形部11は、先端軸にトーチ17が設けられた溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。
【0014】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0015】
トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生させる。トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0016】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート23上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0017】
溶加材Mは、溶接ロボット19のロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17は、コントローラ13からの指令によりロボットアームが駆動されることで、所望の溶接ラインに沿って移動する。また、連続送給される溶加材Mは、トーチ17の先端で発生するアークによってシールドガス雰囲気で溶融され、凝固する。これにより、溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビードBが形成される。このように、造形部11は、溶加材Mの溶融金属を積層する積層造形装置であって、ベースプレート23上に多層状に溶着ビードBを積層することで、積層造形物Wを造形する。
【0018】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。アークを用いる場合は、シールド性を確保しつつ、素材、構造によらずに簡単に溶着ビードBを形成できる。電子ビームやレーザにより加熱する場合は、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードBの状態をより適正に維持して、積層造形物Wの更なる品質向上に寄与できる。
【0019】
コントローラ13は、積層計画作成部31と、変形量計算部33と、余肉量設定部34と、プログラム生成部35と、記憶部37と、入力部39と、表示部40と、これら各部が接続される制御部41と、を有する。制御部41には、作製しようとする積層造形物Wの形状を表す3次元形状データ(CADデータ等)や、各種の指示情報が入力部39から入力される。表示部40は、制御部41から送信される画像情報に基づいて各種の画像を表示する。
【0020】
本構成の積層造形物の製造装置100は、入力された3次元形状データを用いてビード形成用の形状モデルを生成し、トーチ17の移動軌跡や溶接条件等の積層計画を作成する。制御部41は、積層計画に応じた動作プログラムを作成し、この動作プログラムに従って各部を駆動して、所望の形状の積層造形物Wを積層造形する。
【0021】
積層計画作成部31は、入力された3次元形状データの形状モデルを溶着ビードBの高さに応じた複数の層に分解する。そして、分解された形状モデルの各層について、溶着ビードBを形成するためのトーチ17の軌道、及び溶着ビードBを形成する加熱条件(ビード幅、ビード積層高さ等を得るための溶接条件等を含む)を定める積層計画を作成する。
【0022】
変形量計算部33は、積層計画に従って造形した積層造形物Wからベースプレート23を除去した際に、積層造形物Wの残留応力の解放によって生じる変形量を解析的に求める。
【0023】
余肉量設定部34は、機械加工後の構造体W1から積層造形物Wの外縁までの削り代となる余肉量を設定する。
【0024】
プログラム生成部35は、造形部11の各部を駆動して積層造形物Wの造形手順を設定し、この手順をコンピュータに実行させる動作プログラムを作成する。作成された動作プログラムは、記憶部37に記憶される。
【0025】
記憶部37には、動作プログラムが記憶される他、造形部11が有する各種駆動部の仕様や溶加材Mの材料の情報等も記憶され、プログラム生成部35で動作プログラムを作成する際、動作プログラムを実行する際等に、記憶された情報が適宜参照される。この記憶部37は、メモリやハードディスク等の記憶媒体からなり、各種情報の入出力が可能となっている。
【0026】
制御部41を含むコントローラ13は、CPU、メモリ、I/Oインターフェース等を備えるコンピュータ装置である。コントローラ13は、記憶部37に記憶されたデータやプログラムを読み込み、データの処理や動作プログラムを実行する機能、及び造形部11の各部を駆動制御する機能を有する。制御部41は、入力部39からの操作や通信等による指示に基づいて、動作プログラムの作成や実行がなされる。
【0027】
制御部41が動作プログラムを実行すると、溶接ロボット19や電源装置15等の各部が、プログラムされた所定の手順に従って駆動される。溶接ロボット19は、コントローラ13からの指令により、プログラムされた軌道軌跡に沿ってトーチ17を移動させるとともに、溶加材Mを所定のタイミングでアークにより溶融させて、所望の位置に溶着ビードBを形成する。
【0028】
ここでいう動作プログラムとは、入力された積層造形物Wの3次元形状データから、所定の演算により設計された溶着ビードBの形成手順を、造形部11により実施させるための命令コードである。制御部41は、記憶部37に記憶された動作プログラムを実行することで、造形部11によって積層造形物Wを製造させる。つまり、制御部41は、記憶部37から所望の動作プログラムを読み込み、この動作プログラムに従って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させるとともに、トーチ17先端からアークを発生させる。これにより、ベースプレート23に溶着ビードBが繰り返し形成されて積層造形物Wが造形される。
【0029】
積層計画作成部31、変形量計算部33、余肉量設定部34、プログラム生成部35等の各演算部は、コントローラ13に設けられるがこれに限らない。図示はしないが、例えば積層造形物の製造装置100とは別体に、ネットワーク等の通信手段や記憶媒体を介して離間して配置されたサーバや端末等の外部コンピュータに、上記した演算部が設けられてもよい。外部コンピュータに上記した演算部が設けられることで、積層造形物の製造装置100を要せずに、所望の動作プログラムを作成でき、プログラム作成作業が繁雑にならない。また、作成した動作プログラムを、コントローラ13の記憶部37に転送することで、コントローラ13で動作プログラムを作成した場合と同様に、造形部11を動作させることができる。
【0030】
<基本的な積層造形の手順>
次に、単純なモデルとして例示した図示例の積層造形物Wに対する積層造形の手順を簡単に説明する。
図2は積層造形物Wの上下方向に沿う概略断面図である。
図3A~
図3Cは積層造形物Wの基本的な積層造形の手順を説明する上下方向に沿う概略断面図である。
図4はベースプレートを除去した際の積層造形物Wの変形について説明する積層造形物Wの上下方向に沿う概略断面図である。
【0031】
図2に示すように、一例に係る積層造形物Wは、円筒状に形成されている。この積層造形物Wは、ベースプレート23上に造形されている。ベースプレート23は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。なお、このベースプレート23は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。また、
図2においては、一本の溶着ビードBにより一層分のビード層BLを形成する例を示しているが、複数本の溶着ビードBによりビード層BLを形成することもできる。
【0032】
図3Aに示すように、積層造形物Wを造形するには、予め設置したベースプレート23上に、動作プログラムに従って溶接ロボット19が指示された軌道に沿ってトーチ17を移動させる。そして、このトーチ17の移動と共にアークを発生させ、トーチ17が移動する軌道に沿って溶着ビードBを形成する。溶着ビードBは、溶加材Mを溶融及び凝固させて形成され、形成されたビード層BLに次層のビード層BLが繰り返し積層される。
【0033】
図3Bに示すように、ベースプレート23上に積層造形物Wを造形したら、ベースプレート23を、ワイヤーソーやダイヤモンドカッター等による切断機で切断してベースプレート23を積層造形物Wから除去し、積層造形物Wを分離する。その後、
図3Cに示すように、例えば、積層造形物Wに対して余肉量設定部34で設定した余肉部分を切削して製品に加工する。なお、積層造形物Wに対して余肉部分を切削した後にベースプレート23を除去してもよい。
【0034】
ところで、ベースプレート23に溶着ビードBを積層して積層造形物Wを造形する積層造形法では、材料を溶融・凝固させ造形していくため、熱収縮等によって積層造形物Wの内部に残留応力が発生していることがある。すると、ベースプレート23を切断して積層造形物Wから除去すると、積層造形物Wが残留応力の解放によって変形することがある。例えば、
図4に示すように、円筒状に造形した積層造形物Wは、ベースプレート23を除去することによって、そのベースプレート23と接合されていた端部側が残留応力の解放によって拡径し、目標形状である形状モデルMA(
図4中点線で示す)に対して誤差が生じることがある。このため、その後に余肉部分を切削して構造体W1とすることが困難となることがある。
【0035】
ここで、積層造形物の溶接変形及び残留応力は、一般に、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いた熱弾塑性解析法又は弾性解析等を利用したコンピュータシミュレーションによって解析される。
【0036】
熱弾塑性解析法では、多数の微小時間ステップごとに各種の非線形要素まで考慮して現象を計算するので、高精度な解析をすることができる。一方、弾性解析では、線形要素のみを考慮して解析をするため、短時間で解析をすることができる。溶着ビードBを積層する積層造形によって積層造形物Wを造形すると、積層造形物Wの全箇所が金属の溶融・凝固プロセスを経ることになる。金属が溶融・凝固すると、積層造形物Wに固有ひずみ(塑性ひずみ、熱ひずみ)が発生する。この固有ひずみに起因した残留応力が積層造形物Wの内部に発生する。変形量計算部33は、このような積層造形による形状変化を解析的に求める。
【0037】
変形量計算部33は、例えば、部分モデル熱弾塑性解析部と、全体モデル弾性解析部とを備えた構成であってもよい。部分モデル熱弾塑性解析部は、入力された解析条件(積層造形条件,材料物性条件)に基づいて、造形物の部分的なモデルを用いて熱弾塑性解析をして固有ひずみ(塑性ひずみ、熱ひずみ)を算出する。全体モデル弾性解析部は、算出した固有ひずみに基づいて造形物の全体モデルについて弾性解析をして残留応力等を導出する。解析に使用される条件としては、熱源の出力、熱源の種類、ビームプロファイル、走査速度、走査シーケンス、ラインオフセット又は予熱温度等をパラメータとする積層造形条件と、材料のヤング率、耐力、線膨張係数、加工硬化指数等の機械的物性値と、熱伝導率又は比熱等の熱物性値等の材料物性条件とがある。
【0038】
このような解析処理は、プログラムに沿ってコンピュータで実行される。つまり、変形量計算部33は、CPU等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、を具備するコンピュータとして構成することができる。この場合、各部の機能は記憶装置からなる記憶部37に記憶された所定のプログラムをプロセッサが実行することによって実現することができる。
【0039】
<積層造形物の積層計画>
本実施形態では、ベースプレート23を除去した後の積層造形物Wの変形量を変形量計算部33が予測し、その予測に基づいて高精度で目標の形状モデルMAで造形するための積層計画を作成する。以下、本実施形態に係る積層造形物Wの積層計画について詳述する。
【0040】
図5は積層造形物の積層計画の手順を示すフローチャートである。
図6A~
図6Cは積層造形物Wの積層計画の手順を説明する積層造形物Wの模式図である。
【0041】
まず、コントローラ13は、造形しようとする積層造形物のCADデータである3次元形状(3D)データを入力部39から取得する(S1)。
【0042】
コントローラ13の積層計画作成部31は、取得した3次元形状データの形状に応じて形状モデルMAを決定し、その形状モデルMAに基づいて溶着ビードBで形成する積層計画を作成するとともに、溶着ビードBを形成する条件決定を行う(S2)。条件決定には、トーチ17を移動させる軌道を表す軌道計画を作成すること、アークを加熱源として溶着ビードBを形成する際の、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、トーチ角等の溶接条件を設定することが含まれる。
【0043】
具体的には、
図6Aに示すように、積層造形物Wの形状モデルMAを生成し、この形状モデルMAを垂直方向に複数のビード層(図示例では10層)BLに分割し、各ビード層BLに対応して、それぞれトーチ17を移動させる軌道を求める。軌道の決定には、所定のアルゴリズムに基づく演算等により決定される。軌道の情報としては、例えば、トーチ17を移動させる経路の空間座標、経路の半径、経路長等の経路の情報や、形成する溶着ビードBのビード幅やビード高さ等のビード情報等が含まれる。ビード層BLの高さは、溶接条件により設定される溶着ビードBの高さに応じて決定される。
【0044】
次に、ベースプレート23を除去することにより変形する積層造形物Wの変形後の許容形状を設定し、形状モデルMAに対する許容形状の形状誤差αを制御部41が設定する(S3)。許容形状としては、例えば、ベースプレート23を除去して変形した積層造形物Wを加工して構造体W1とすることが可能な形状である。
【0045】
次に、変形量計算部33が、作成された軌道計画を、設定された溶接条件で実施した場合の積層造形物Wに生じる熱収縮等による残留応力を求め、ベースプレート23を除去して残留応力が解放された際の積層造形物Wの変形量δPを解析的に求める(S4)。この変形量δPは、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析のいずれかを用いて求めることができる。例えば、有限要素法を用いた解析(FEM解析)により、上記いずれかの理論を選択的に指定して解析を行うことで、
図6Bに示すように、ベースプレート23を除去した際の積層造形物Wの形状(
図6B中点線で示す)を予測し、形状モデルMAに対する変形量δPを求める。なお、記憶部37には、溶加材Mの材質に応じた物性情報等が記憶され、これら情報が解析に適宜使用される。
【0046】
変形量δPと形状誤差αとを比較し、変形量δPが形状誤差α以下であるか否かを判定する(S5)。この変形量δPが形状誤差αより大きいと、造形後にベースプレート23を除去した積層造形物Wは、変形が大きすぎ、例えば、その後に周囲を切削するために設けられる削り代である余肉がなくなり、切削加工が困難となる。
【0047】
この変形量δPと形状誤差αとの比較において、変形量δPが形状誤差αより大きい場合(S5:No)、解析的に求めた変形量δPを見越して形状モデルMAを補正する。そして、その補正した形状モデルMAに基づいて溶着ビードBで積層造形物Wを形成する積層計画を補正するとともに、溶着ビードBを形成する条件決定を行う(S2)。ここで、
図6Cは、変形量δPを見越して補正した形状モデルMAを示す。
図6Cに示すように、例えば、ベースプレート23の除去による残留応力の解放によって、ベースプレート23側の端部側が変形量δPで拡径するように変形すると予測された場合では、元の形状モデルMA(
図6C中点線で示す)を、変形量δPを見越して補正する。つまり、ベースプレート23側の端部が変形量δPで拡径する変形とは逆方向に縮径した形状モデルMA(
図6C中実線で示す)に補正する。そして、この補正した形状モデルMAを用いて補正部である制御部41が積層計画を補正する。積層計画は、軌道計画のみを補正してもよいが、必要に応じて加熱条件の再設定を行ってもよい。例えば、溶接電流を増減制御して、入熱量を変更することで、ビード幅やビード高さ等の各種形状パラメータを調整できる。その場合、調整代を拡大でき、効率よく最適な積層計画の補正が行える。
【0048】
その後、補正した形状モデルMAに対する許容形状の形状誤差αを設定し(S3)、補正した形状モデルMAに基づいた積層計画によって造形した積層造形物Wについて、ベースプレート23を除去した際に変形する変形量δPを解析的に求める(S4)。そして、変形量δPと形状誤差αとを比較し、変形量δPが形状誤差α以下であるか否かを判定する(S5)。
【0049】
変形量δPが形状誤差α以下となるまで(S5:Yes)、S2~S5の工程を繰り返す。
【0050】
変形量δPが形状誤差α以下となったら、プログラム生成部35が、形状モデルMAから作成した積層計画(軌道計画、加熱条件)に基づいて、溶着ビードBを形成する手順を示す動作プログラムを作成し、この動作プログラムに基づいて、溶着ビードBをベースプレート23上に積層させて積層造形物Wを造形する。なお、最初に作成された形状モデルMAの変形量δPが形状誤差α以下であった場合は、その形状モデルMAから作成した積層計画(軌道計画、加熱条件)に基づいて、溶着ビードBを形成する手順を示す動作プログラムを作成し、この動作プログラムに基づいて、溶着ビードBをベースプレート23上に積層させて積層造形物Wを造形する。
【0051】
以上説明したように、本構成の積層造形物の積層計画方法によれば、積層造形物Wをベースプレート23から分離した際に生じる解放ひずみによる変形量δPに応じて形状モデルMA及び積層計画を補正する。これにより、ベースプレート23からの分離後の解放ひずみによる変形量δPを考慮し、より高い形状精度の積層造形物Wの作製が可能となる。
【0052】
また、変形量を、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析のいずれかを用いて求めるので、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析によって、高精度な変形量の予測が可能となる。
【0053】
さらに、解放ひずみによる変形が生じる方向と逆方向に形状モデルMAを補正するので、発生する変形を複雑な演算を要することなく簡単にキャンセルできる。
【0054】
そして、本構成の積層造形物の製造方法及び製造装置によれば、積層造形物Wをベースプレート23から分離した際に生じる解放ひずみによる変形量δPに応じて形状モデルMA及び積層計画が補正される。これにより、ベースプレート23からの分離後の解放ひずみによる変形量δPが考慮された高い形状精度の積層造形物Wを作製することができる。
【0055】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0056】
例えば、上記例では積層造形物Wを単純な円筒形状としたが、積層造形物Wの形状は、これに限らない。積層造形物Wがより複雑な形状であるほど、上記した積層計画、及び製造方法による効果が顕著となるため、好適に適用することができる。
【0057】
また、本技術は、溶接により積層造形物を作製する場合に限らず、例えば、粉体材料に対面する加工ヘッドを走査させて、粉体材料を選択的に溶融、凝固させた層を積層し、3次元形状の積層造形物を得る場合にも好適に適用可能である。
【0058】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶融金属をベースプレート上に積層する造形部により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の積層計画方法であって、
前記3次元形状データに基づいて、前記ベースプレート上に積層造形する前記積層造形物の形状モデルを求め、前記形状モデルの前記積層造形物を積層造形するための積層計画を作成する積層計画作成工程と、
前記形状モデルに基づいて造形した前記積層造形物に対する許容可能な形状誤差を設定する形状誤差設定工程と、
前記形状モデルにより造形した前記積層造形物を前記ベースプレートから分離した際の解放ひずみによる変形量を求める変形量計算工程と、
前記変形量が前記形状誤差の範囲に収まるまで、前記形状モデル及び前記積層計画を補正する補正工程と、
をこの順で実施する積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、積層造形物をベースプレートから分離した際に生じる解放ひずみによる変形量に応じて形状モデル及び積層計画を補正する。これにより、ベースプレートからの分離後の解放ひずみによる変形量を考慮し、より高い形状精度の積層造形物の作製が可能となる。
【0059】
(2) 前記変形量計算工程は、前記変形量を、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析のいずれかを用いて求める(1)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、熱弾塑性解析、固有ひずみ法解析、熱弾性解析によって、高精度な変形量の予測が可能となる。
【0060】
(3) 前記補正工程は、前記解放ひずみによる変形が生じる方向と逆方向に前記形状モデルを補正する(1)または(2)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、発生する変形を複雑な演算を要することなく簡単にキャンセルできる。
【0061】
(4) 前記積層造形物は、溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードでビード層を形成し、該形成されたビード層に次層のビード層を繰り返し積層して造形される(1)~(3)のいずれか一つに記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、溶着ビードで形成される高強度な積層造形物を造形する積層計画が得られる。
【0062】
(5) 前記溶着ビードは、多軸ロボットのロボットアームの先端に支持されたトーチから発生させたアークにより、前記溶加材を溶融させて形成される(4)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、高い自由度で任意形状の積層造形物を造形する造形計画が得られる。
【0063】
(6) 前記積層計画作成工程は、前記溶着ビードを形成する溶接電流、アーク電圧、溶接速度、トーチ角度の少なくともいずれかを含む加熱条件を定める(5)に記載の積層造形物の積層計画方法。
この積層造形物の積層計画方法によれば、積層造形物への入熱量を正確に把握でき、ベースプレートから分離した際に発生する変形量を正確に予測できる。これにより、より高い形状精度の積層造形物を造形する積層計画が得られる。
【0064】
(7) (6)に記載の積層造形物の積層計画方法により作成した前記積層計画に基づいて、前記積層造形物を積層造形する積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、より高い形状精度の積層造形物の作製が可能となる。
【0065】
(8) 溶融金属をベースプレート上に積層する造形部により、積層造形物を該積層造形物の3次元形状データを用いて造形する積層造形物の製造装置であって、
前記3次元形状データに基づいて、前記ベースプレート上に積層造形する前記積層造形物の形状モデルを求め、前記形状モデルの前記積層造形物を積層造形するための積層計画を作成する積層計画作成部と、
前記形状モデルに基づいて造形した前記積層造形物に対する許容可能な形状誤差を設定する設定部と、
前記形状モデルにより造形した前記積層造形物を前記ベースプレートから分離した際の解放ひずみによる変形量を求める変形量計算部と、
前記変形量が前記形状誤差の範囲に収まるまで、前記形状モデル及び前記積層計画を補正する補正部と、
を備える積層造形物の製造装置。
この積層造形物の製造装置によれば、積層造形物をベースプレートから分離した際に生じる解放ひずみによる変形量に応じて形状モデル及び積層計画が補正される。これにより、ベースプレートからの分離後の解放ひずみによる変形量が考慮された高い形状精度の積層造形物を作製することができる。
【符号の説明】
【0066】
11 造形部
17 トーチ
19 溶接ロボット
23 ベースプレート
31 積層計画作成部
33 変形量計算部
41 制御部(設定部,補正部)
100 製造装置
B 溶着ビード
BL ビード層
M 溶加材
MA 形状モデル
W 積層造形物
α 形状誤差
δP 変形量