(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】物体追跡装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/72 20060101AFI20221220BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20221220BHJP
【FI】
G01S13/72
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2019188667
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】水谷 玲義
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025492(JP,A)
【文献】特開2018-124209(JP,A)
【文献】特開2019-158787(JP,A)
【文献】特開2019-052920(JP,A)
【文献】特開2014-169923(JP,A)
【文献】特開2003-344527(JP,A)
【文献】特開2002-350531(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106405538(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された処理サイクル毎に、少なくとも一つの物標の状態量を推定する物体追跡装置(20)であって、
センサ(10)により観測された観測信号から車両の周辺の少なくとも一つの物標の情報である少なくとも一つの観測値を検出するように構成された検出部(21)と、
物標毎に、過去の前記状態量の推定値から現在の前記状態量の予測値を算出するように構成された予測部(22)と、
前記予測部により算出された前記予測値毎に、前記予測値に基づいて、今回、前記観測値が取得されると推定される範囲である第1範囲を設定するように構成された第1範囲設定部(23)と、
前記予測部により算出された前記予測値毎に、前記検出部により検出された前記少なくとも一つの観測値から、前記第1範囲設定部により設定された前記第1範囲内の観測値であって、前記予測値と関連付ける観測値を決定するように構成された決定部(24)と、
前記予測部により算出された前記予測値毎に、前記決定部により決定された前記観測値と前記予測値とに基づいて、現在の前記状態量の前記推定値を算出するように構成された推定部(25)と、
前記検出部により検出された前記少なくとも一つの観測値のうち、どの前記予測値とも関連付けられていない前記観測値を新規の物標として登録するように構成された登録部(30)と、
前記予測部により算出された前記予測値毎に、前記新規の物標の登録を抑制する前記観測値の範囲である抑制範囲を設定する抑制範囲設定部(27)と、
前記検出部により検出された前記少なくとも一つの観測値のうち、前記抑制範囲設定部により設定された前記抑制範囲内の前記観測値が、前記登録部により前記新規の物標として登録されることを抑制するように構成された登録抑制部(29)と、を備える、
物体追跡装置。
【請求項2】
前記抑制範囲設定部は、前記第1範囲を前記抑制範囲として設定するように構成されている、
請求項1に記載の物体追跡装置。
【請求項3】
前記予測値は、前記物標の第1軸の座標値、前記物標の前記第1軸と直交する第2軸の座標値、前記物標の前記第1軸の方向の第1速度、及び前記物標の前記第2軸の方向の第2速度、又は、前記物標までの距離、前記物標の方位、及び前記物標の速度を含み、
前記第1範囲設定部は、前記予測値に含まれる少なくとも1つの要素に基づいて、前記第1範囲を設定するように構成されており、
前記抑制範囲設定部は、前記予測値に含まれる少なくとも1つの要素に基づいて、前記抑制範囲を設定するように構成されている、
請求項1又は2に記載の物体追跡装置。
【請求項4】
前記物標が示す物体の種別を判定するように構成された判定部(26)を更に備え、
前記抑制範囲設定部は、前記判定部により判定された前記物体の種別に応じて、前記抑制範囲を設定するように構成されている、
請求項3に記載の物体追跡装置。
【請求項5】
前記抑制範囲設定部は、前記判定部により前記物体の種別が歩行者であると判定された場合に、前記第1速度及び前記第2速度の範囲、又は前記物標の速度の範囲を、前記第1範囲よりも拡大した第2範囲を、前記抑制範囲として設定するように構成されている、
請求項4に記載の物体追跡装置。
【請求項6】
前記センサは前記車両に搭載されており、
前記第1軸は、前記車両の幅方向の軸であり、
前記抑制範囲設定部は、前記判定部により前記物体の種別が横断自転車であると判定された場合に、前記第1軸の座標値の範囲又は前記物標の方位の範囲を前記第1範囲よりも拡大した第3範囲を、前記抑制範囲として設定するように構成されている、
請求項4又は5に記載の物体追跡装置。
【請求項7】
前記抑制範囲設定部は、前記判定部により前記物体の種別が横断自動車であると判定された場合に、前記第1軸の座標値の範囲又は前記物標の方位の範囲を前記第3範囲よりも拡大した第4範囲を、前記抑制範囲として設定するように構成されている、
請求項6に記載の物体追跡装置。
【請求項8】
前記状態量は、前記センサによる観測信号の電力値を含み、
前記予測部により算出された前記予測値毎に、前記抑制範囲よりも広いノイズ範囲を設定するように構成されたノイズ範囲設定部(28)を更に備え、
前記登録抑制部は、前記検出部により検出された前記少なくとも一つの観測値のうち、前記抑制範囲外且つ前記ノイズ範囲内の観測値であって、前記電力値の前記予測値との電力差が電力閾値以上である観測値が、前記登録部により前記新規の物標として登録されることを抑制するように構成されている、
請求項1~7のいずれか1項に記載の物体追跡装置。
【請求項9】
前記予測部により算出された前記予測値毎に、前記登録抑制部により前記新規の物標として登録されることが抑制された前記観測値の情報を以降の処理サイクルにおいて保持し、保持されている前記観測値を用いて、前記予測値が示す物体の形状を推定するように構成された形状推定部(31)を更に備える、
請求項1~8のいずれか1項に記載の物体追跡装置。
【請求項10】
前記登録抑制部は、前記物標までの距離が距離閾値以下である場合、前記抑制範囲内の前記観測値が前記新規の物標として登録されることを抑制することを停止するように構成されている、
請求項1~9のいずれか1項に記載の物体追跡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体を追跡する物体追跡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の物標運動推定装置は、レーダ装置からのレーダ信号に基づいて物標を生成し、物標の追跡を行っている。具体的には、上記装置は、前回の処理サイクルにおける物標の位置の推定値から、今回の処理サイクルにおける物標の位置の予測値を算出し、予測値を中心とした予測ゲートを設定している。そして、上記装置は、今回の処理サイクルにおいて観測された位置の観測値のうち、設定された予測ゲート内に存在し最も予測値に近い観測値を予測値と関連付け、関連付けた観測値と予測値とから今回の処理サイクルにおける推定値を算出している。このような物体を追跡する装置では、予測値と関連付けられなかった観測値が存在する場合、新規の物標として扱われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高分解能レーダは、同一の物体から複数の観測値が得られることにより、複数の物標が生成されることがある。複数の物標が生成された処理サイクル以降の処理サイクルにおいて、得られた観測数が認識中の物標数よりも少ない場合、同一の物体から生成された追跡中の物標と新規の物標とで、観測値の取り合いが発生する。その結果、観測値と新規の物標とが関連付けられると、追跡中の物標の追跡が継続できなくなり、新規の物標を追跡し直すことになる。
【0005】
一方、車両の走行支援システムとして、物標の追跡の継続期間が長いほど、追跡結果の信頼度を上げ、信頼度が閾値以上になると、追跡結果を用いて車両の制御を行う走行支援システムが存在する。このような走行支援システムでは、物標の追跡が途切れて、追跡し直すことになると、車両の制御遅れを招くおそれがある。
【0006】
本開示は、物標を安定して追跡可能な物体追跡装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの局面は、予め設定された処理サイクル毎に、少なくとも一つの物標の状態量を推定する物体追跡装置(20)であって、検出部(21)と、予測部(22)と、第1範囲設定部(23)と、決定部(24)と、推定部(25)と、登録部(30)と、抑制範囲設定部(27)と、登録抑制部(29)と、を備える。検出部は、センサ(10)により観測された観測信号から車両の周辺の少なくとも一つの物標の情報である少なくとも一つの観測値を検出するように構成される。予測部は、物標毎に、過去の状態量の推定値から現在の状態量の予測値を算出するように構成される。第1範囲設定部は、予測部により算出された予測値毎に、予測値に基づいて、今回、観測値が取得されると推定される範囲である第1範囲を設定するように構成される。決定部は、予測部により算出された予測値毎に、検出部により検出された少なくとも一つの観測値から、第1範囲設定部により設定された第1範囲内の観測値であって、予測値と関連付ける観測値を決定するように構成される。推定部は、予測部により算出された予測値毎に、決定部により決定された観測値と予測値とに基づいて、現在の状態量の推定値を算出するように構成される。登録部は、検出部により検出された少なくとも一つの観測値のうち、どの予測値とも関連付けられていない観測値を新規の物標として登録するように構成される。抑制範囲設定部は、予測部により算出された予測値毎に、新規の物標の登録を抑制する観測値の範囲である抑制範囲を設定する。登録抑制部は、検出部により検出された少なくとも一つの観測値のうち、抑制範囲設定部により設定された抑制範囲内の観測値が、登録部により新規の物標として登録されることを抑制するように構成される。
【0008】
本開示の1つの局面によれば、物標毎に、過去の状態量の推定値から現在の状態量の予測値が算出され、算出された予測値毎に、予測値に基づいて第1範囲が設定される。そして、予測値毎に、検出された観測値のうちの第1範囲内の観測値から、予測値と関連付ける観測値が決定され、決定された観測値と予測値とから、現在の状態量の推定値が算出される。さらに、予測値毎に、抑制範囲が設定され、取得された観測値のうちのどの予測値とも関連付けられていない観測値であって、抑制範囲外の観測値が、新規の物標として登録される。一方、どの予測値とも関連付けられてない観測値であっても、抑制範囲内の観測値は、予測値と関連付けられた観測値と同一の物体から観測された可能性が高い。そのため、抑制範囲内の観測値は、新規の物標として登録されることが抑制される。よって、同一の物体から複数の物標が生成されることを抑制できる。ひいては、物標を安定して追跡することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る物体追跡装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る物体追跡装置の機能を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る物体追跡装置が実行する物体追跡処理を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態に係る物体追跡装置が実行する登録抑制判定処理を示すサブルーチンである。
【
図5】第1実施形態に係る予測値と関連付けるための第1範囲と、新規の物標登録を抑制するための抑制範囲とを示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る物体追跡装置が実行する物体追跡処理を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態に係る抑制範囲設定処理を示すサブルーチンである。
【
図8】第2実施形態に係る新規の物標登録を抑制するための抑制範囲である第1~第4範囲の一例を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る新規の物標登録を抑制するための抑制範囲である第1~第4範囲の別の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態に係る新規の物標登録を抑制するための抑制範囲である第1範囲と、ノイズの登録を抑制するためのノイズ範囲とを示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る新規の物標登録を抑制するための抑制範囲である第3範囲と、ノイズの登録を抑制するためのノイズ範囲とを示す図である。
【
図12】第2実施形態に係る物標の形状を推定する様子を示す図である。
【
図13】他の実施形態に係る第1範囲、抑制範囲及びノイズ範囲の形状を示す図である。
【
図14】他の実施形態に係る第1範囲、抑制範囲及びノイズ範囲の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
(第1実施形態)
<1-1.構成>
まず、本実施形態に係る運転支援システム100の構成について、
図1を参照して説明する。運転支援システム100は、レーダ装置10と、物体追跡装置20と、運転支援装置50と、を備える。
【0011】
レーダ装置10は、車両80の前方中央(例えば、前方バンパの中央)に搭載され、車両80の前方中央の領域を検知エリアとしてもよい。また、レーダ装置10は、車両80の左前側方及び右前側方(例えば、前方バンパの左端及び右端)のそれぞれに搭載され、車両80の左前方及び右前方の領域のそれぞれを検知エリアとしてもよい。また、レーダ装置10は、車両80の左後側方及び右後側方(例えば、後方バンパの左端及び右端)のそれぞれに搭載され、車両80の左後方及び右後方の領域のそれぞれを検知エリアとしてもよい。これらの5台のレーダ装置10は、そのすべてが搭載されている必要はない。5台のレーダ装置10のうちの1台だけ搭載されていてもよいし、5台のレーダ装置10のうちの2台以上が搭載されていてもよい。
【0012】
レーダ装置10は、高分解能ミリ波レーダであり、複数のアンテナ素子によって構成された送信アレーアンテナと、複数のアンテナ素子によって構成された受信アレーアンテナと、を含む。レーダ装置10は、所定の周期で繰り返し送信波を送信し、送信波が物体で反射されて生じた反射波を受信する。さらに、レーダ装置10は、送信波と反射波とを混合してビート信号を生成し、サンプリングしたビート信号(すなわち、観測信号)を物体追跡装置20へ出力する。レーダ装置10は、FMCW方式、多周波CW方式など、どのような変調方式でもよい。
【0013】
物体追跡装置20は、CPUと、ROM、RAM等の半導体メモリと、を有するマイクロコンピュータを備える。物体追跡装置20は、CPUが、ROMに記憶されている各種プログラムを実行することにより、各種の機能を実現する。具体的には、
図2に実線で示すように、物体追跡装置20は、検出部21、予測部22、第1範囲設定部23、決定部24、推定部25、抑制範囲設定部27、登録抑制部29、及び登録部30の機能を実現し、物体追跡処理を実行する。そして、物体追跡装置20は、物体追跡処理の実行により生成した物標情報を運転支援装置50へ出力する。なお、物体追跡処理の詳細は、後述する。
【0014】
運転支援装置50は、物体追跡装置20により生成された物標情報、及び車両80に搭載された各種センサから取得される車両80の状態情報及び挙動情報を用いて、車両80を制御して、運転支援を実現する。
【0015】
<1-2.処理>
次に、第1実施形態に係る物体追跡装置20が実行する物体追跡処理について、
図3のフローチャートを参照して説明する。物体追跡装置20は、所定の周期で本処理を繰り返し実行する。
【0016】
まず、S10では、検出部21が、レーダ装置10から取得した観測信号から、車両80の周辺に存在する各物標の観測値を検出する。観測値は、観測信号の電力値、車両80から物標までの距離、車両80に対する物標の方位、車両80に対する物標の相対速度を含む。なお、観測値は、物標の相対速度の代わりに、相対速度と車両80の速度とから算出した物標の対地速度を含んでいてもよい。
【0017】
続いて、S20は、予測部22が、未処理の物標情報が存在するか否か判定する。詳しくは、登録されている物標の中で、これ以降に続くS30~S80の処理をしていない物標が存在するか否か判定する。未処理の物標情報が存在すると判定した場合は、S30の処理へ進む。
【0018】
S30では、予測部22が、未処理の物標のうちの1つの物標について、前回の処理サイクルにおいて算出された物標の状態量の推定値から、今回の処理サイクルにおける物標の状態量の予測値を算出する。物標の状態量の予測値は、観測値と同様に、観測信号の電力値P、物標の距離R、方位θ、及び速度Vrを要素として有していてもよいし、観測信号の電力値P、X軸座標値Cx、Y軸座標値Cy、X方向速度Vx、及びY方向速度Vyを要素として有していてもよい。X軸は、車両80の幅方向に沿った軸であり、Y軸は、X軸と直交し、車両80の長手方向に沿った軸である。また、速度Vrは、車両80に対する相対速度でもよいし、対地速度でもよい。X方向速度Vxは、車両80に対する物標の相対速度のX方向成分でもよいし、物標の対地速度のX方向成分でもよい。Y方向速度Vyは、車両80に対する物標の相対速度のY方向成分でもよいし、物標の対地速度のY方向成分でもよい。
【0019】
続いて、S40では、第1範囲設定部23が、S30において算出された予測値の少なくとも1つの要素に基づいて、今回の処理サイクルで観測値が取得されると推定される範囲である第1範囲を設定する。予測値と同じ物体から検出される観測値は、予測値と近い値になるはずである。そこで、
図5に示すように、第1範囲として、S30において算出された予測値を中心として、予測値と同じ物体から検出されると推定される観測値の範囲を設定する。第1範囲は、例えば、物体を車両80と同じ方向に走行している先行車と想定して設定する。本実施形態では、第1範囲として、予測値を中心とし、状態量のうちの2つの要素に基づいた方形の範囲を設定する。第1範囲として、状態量のうちの3つ以上の要素に基づいた範囲を設定してもよい。
【0020】
続いて、S50では、決定部24が、関連付け処理を実行する。決定部24は、S10において検出した観測値の中から、S30において算出された予測値と関連付ける観測値を決定する。具体的には、S40で設定した第1範囲内の観測値であって、S30において算出された予測値と最も近い観測値を、予測値と関連付ける観測値とする。
図5に示す例では、第1範囲内に、今回の処理サイクルにおける推定値A1と推定値A2とが検出されている。観測値A1と観測値A2のうち、観測値A1の方が予測値に近いため、観測値A1が予測値に関連付ける対象として決定される。
【0021】
続いて、S60では、推定部25が、S30において算出された予測値と、S50において関連付け対象として決定された観測値とから、カルマンフィルタ等を用いて、今回の処理サイクルにおける推定値を算出する。状態量の推定値は、観測信号の電力値P、物標の距離R、方位θ、及び速度Vrを要素として有していてもよいし、観測信号の電力値P、X軸座標値Cx、Y軸座標値Cy、X方向速度Vx、及びY方向速度Vyを要素として有していてもよい。状態量の推定値は、観測値又は予測値と同じ要素を有していてもよいし、観測値又は予測値と異なる要素を有していてもよい。
【0022】
続いて、S70では、抑制範囲設定部27が、抑制範囲を設定する。抑制範囲は、新規の物標の登録を抑制する観測値の範囲である。本実施形態では、S40において設定した第1範囲を抑制範囲とする。
【0023】
続いて、S80では、登録抑制部29が、登録抑制判定を実行する。具体的には、
図4に示すサブルーチンを実行する。まず、S200では、未処理の観測値が存在するか否か判定する。詳しくは、S10において検出された観測値の中で、予測値と関連付けられておらず、且つ、続くS210~S220の処理を実行していない観測値が存在するか否か判定する。
【0024】
ここで、高分解能レーダでは、同じ物体から複数の観測値が検出されることがある。これらの複数の観測値のうちの1つの観測値が、S340において予測値と関連付けられ、残りの観測値は、未処理の観測値として存在する。また、今回の処理サイクルにおいて、初めて検出された物体の観測値も、未処理の観測値として存在する。
【0025】
S200において、未処理の観測値が存在しないと判定した場合は、本サブルーチンを終了して、S20の処理へ戻る。一方、S200において、未処理の観測値が存在すると判定した場合は、S210の処理へ進む。
【0026】
S210では、未処理の観測値のうちの1つの観測値について、S70において設定した抑制範囲内の観測値か否か判定する。すなわち、未処理の観測値が、同じ物体から検出された複数の観測値のうちの予測値と関連付けられていない観測値か、初検出物体の観測値かを判定する。
【0027】
図5に示す例では、観測値A2が、抑制範囲内の観測値と判定される。S210において、抑制範囲内の観測値であると判定した場合は、S220の処理へ進む。一方、S210において、抑制範囲外の観測値であると判定した場合は、S200の処理へ戻り、次の未処理の観測値について、本サブルーチンを実行する。
【0028】
S220では、S210において抑制範囲内の観測値であると判定された観測値に対して、抑制フラグをセットする。抑制フラグは、観測値を新規の物標として登録することを抑制するためのフラグである。
【0029】
例えば、物体Oについて生成された追跡中の物標T1以外に、物体Oから検出された観測値B1,B2から物標T2,T3を生成することを想定する。次回以降の処理サイクルにおいて、物体Oから2個の観測値C1,C2が検出された場合、3個の物標T1,T2,T3が、2個の観測値C1,C2を取り合うことになる。そして、物標T2,T3の予測値と観測値C1,C2とが関連付けられると、物標T1の追跡が途絶え、物標T2,T3の追跡が開始される。よって、物標T1を継続して追跡することができなくなる。すなわち、1つの物体から複数の物標を生成すると、それ以降の処理サイクルにおいて物標の数よりも少ない観測値が検出された場合に、物標を継続的に追跡できなくなることがある。
【0030】
そのため、同じ物体から複数の物標が生成されないように、同じ物体から検出されたと推測される複数の観測値のうち、予測値と関連付けられていない観測値に対して抑制フラグをセットする。
図5に示す例では、観測値A2に対して抑制フラグがセットされる。
【0031】
ただし、登録抑制部29は、S210において抑制範囲内の観測値であると判定された観測値のうち、物標までの距離が予め設定された距離閾値以下である観測値に対しては、抑制フラグをセットしない。登録抑制部29は、車両80から比較的近い距離の物体から検出された観測値が、新規の物標として登録されることを抑制することを停止する。すなわち、登録抑制部29は、車両80から比較的近い距離では、1つの物体から複数の物標を生成することを抑制することよりも、物標化性能を優先する。その後、S200の処理へ戻る。
【0032】
図4に示すサブルーチンを終了すると、
図3に示す物体追跡処理におけるS20の処理へ戻る。そして、未処理の物標情報が存在する間は、S20~S80の処理を繰り返し実行する。一方、未処理の物標情報がなくなり、S20において、未処理の物標情報が存在しないと判定した場合は、S90の処理へ進む。
【0033】
S90では、登録部30が、S10において検出された観測値の中で、未使用の観測値が存在するか否か判定する。すなわち、S10において検出された観測値の中で、いずれかの予測値と関連付けられていない観測値が存在するか否か判定する。S90において、未使用の観測値が存在しないと判定した場合は、本処理を終了する。一方、S90において、未使用の観測値が存在すると判定した場合は、S100の処理へ進む。
【0034】
S100では、登録部30が、未使用の観測値のうちの1つの観測値が、登録抑制対象外か否か判定する。詳しくは、観測値に対して抑制フラグがセットされている場合は、登録抑制対象であると判定し、観測値に対して抑制フラグがセットされていない場合は、登録抑制対象外であると判定する。
【0035】
S110において、登録抑制対象であると判定した場合は、S90の処理へ戻り、登録抑制対象外であると判定した場合は、S110の処理へ進む。
S110では、登録抑制対象外の観測値を、新規の物標として登録する。その後、S90の処理へ戻り、S90~S110の処理をしていない未使用の観測値が存在する間、S90~S110の処理を繰り返し実行する。以上で本処理を終了する。
【0036】
<1-3.効果>
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)物標毎に、過去の状態量の推定値から現在の状態量の予測値が算出され、算出された予測値毎に、予測値に基づいて第1範囲が設定される。そして、予測値毎に、取得された観測値のうちの第1範囲内の観測値から、予測値と関連付ける観測値が決定され、決定された観測値と予測値とから、現在の状態量の推定値が算出される。さらに、予測値毎に、抑制範囲が設定され、取得された観測値のうちのどの予測値とも関連付けられていない観測値であって、抑制範囲外の観測値が、新規の物標として登録される。一方、どの予測値とも関連付けられてない観測値であっても、抑制範囲内の観測値は、予測値と関連付けられた観測値と同一の物体から観測された可能性が高い。そのため、抑制範囲内の観測値は、新規の物標として登録されることが抑制される。よって、同一の物体から複数の物標が生成されることを抑制できる。ひいては、物標を安定して追跡することができる。
【0037】
(2)予測値と関連付けする観測値の範囲である第1範囲内で、予測値と関連付けられなかった観測値は、予測値と関連付けする観測値と同一の物体から観測された観測値である可能性が高い。よって、第1範囲を抑制範囲として設定することにより、同一の物体から複数の物標が生成されることを適切に抑制することができる。
【0038】
(3)予測値と関連付けをする観測値の範囲、及び、新規の物標として登録されることを抑制する観測値の範囲は、レーダ装置10により観測可能な物理量に基づいて設定することができる。
【0039】
(4)車両80から距離閾値以内に存在する近距離の観測値は、抑制範囲内に入っていても、新規の物標として登録されることが抑制されない。これにより、近距離においては、同一の物体から複数の物標を生成することを抑制するよりも、物標化性能を優先することができる。
【0040】
(第2実施形態)
<2-1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0041】
図2において破線で示すように、第2実施形態に係る物体追跡装置20は、第1実施形態に係る物体追跡装置20の機能に加えて、さらに、判定部26、ノイズ範囲設定部28、及び形状推定部31の機能を実現する点で、第1実施形態に係る物体追跡装置20と異なる。判定部26、ノイズ範囲設定部28、及び形状推定部31の詳細は後述する。
【0042】
<2-2.処理>
次に、第2実施形態に係る物体追跡装置20が実行する物体追跡処理について、
図6のフローチャートを参照して説明する。物体追跡装置20は、所定の周期で本処理を繰り返し実行する。
【0043】
まず、S300~S350では、S10~S60と同様の処理を実行する。
続いて、S360では、判定部26が、物標が示す物体の種別を判定する。詳しくは、物標の観測値、推定値、及び予測値のいずれかの速度Vr、距離R、及び方位θを用いて、物体の種別を判定する。速度Vr、距離R、及び方位θの代わりに、X軸座標値Cx、Y軸座標値Cy、X方向速度Vx、及びY方向速度Vyを用いてもよい。物体の種別は、歩行者、車両80の前方を横断する自転車、車両80の前方を横断する自動車を含む。
【0044】
続いて、S370では、抑制範囲設定部27が、S360において判定した物体の種別に応じて、抑制範囲を設定する。具体的には、抑制範囲設定部27が、
図7に示すサブルーチンを実行する。
【0045】
まず、S500では、物体の種別が歩行者か否か判定する。S500において、物体の種別が歩行者であると判定した場合は、S510の処理へ進む。
S510では、
図8及び
図9に示すように、第1範囲よりも広い第2範囲を、抑制範囲として設定する。歩行者は、手足の振りがあるため、先行車よりも速度Vr、又はX方向速度Vx及びY方向速度Vyの拡がりが大きい。よって、第2範囲は、第1範囲よりも、速度Vrの範囲、又は、X方向速度Vx及びY方向速度Vyの範囲を拡大した範囲である。S510の処理の後、本サブルーチンを終了して、S380の処理へ進む。
【0046】
また、S500において、物体の種別が歩行者ではないと判定した場合は、S520の処理へ進む。S520では、物体の種別が横断自電車か否か判定する。S520において、物体の種別が横断自電車であると判定した場合は、S530の処理へ進む。
【0047】
S530では、
図8及び
図9に示すように、第1範囲よりも広い第3範囲を、抑制範囲として設定する。横断自転車は、先行車よりも車両80の幅方向の長さが長いため、先行車よりも方位θの拡がり、又は、X軸座標値Cxの拡がりが大きい。よって、第3範囲は、第1範囲よりも、方位θの範囲又はX軸座標値Cxの範囲を拡大した範囲である。S530の処理の後、本サブルーチンを終了して、S380の処理へ進む。
【0048】
また、S520において、物体の種別が横断自電車ではないと判定した場合は、S540の処理へ進む。S540では、物体の種別が横断自動車か否か判定する。S540において、物体の種別が横断自動車であると判定した場合は、S550の処理へ進む。
【0049】
S550では、
図8及び
図9に示すように、第3範囲よりもさらに広い第4範囲を、抑制範囲として設定する。横断自動車は、横断自転車よりも車両80の幅方向の長さが長いため、横断自転車よりも方位θの拡がり、又は、X軸座標値Cxの拡がりが大きい。よって、第4範囲は、第3範囲よりも、方位θの範囲又はX軸座標値Cxの範囲を拡大した範囲である。S550の処理の後、本サブルーチンを終了して、S380の処理へ進む。一方、S540において、物体の種別が横断自動車ではないと判定した場合は、第1範囲を抑制範囲として設定して、本サブルーチンを終了して、S380の処理へ進む。
【0050】
続いて、S380では、ノイズ範囲設定部28が、S320において算出した予測値に対して、ノイズピークを新規の物標として登録することを抑制するためのノイズ範囲を設定する。
図10及び
図11に示すように、ノイズ範囲は、S370において設定した抑制範囲よりも広い範囲である。そして、抑制範囲外且つノイズ範囲内の観測値のうち、電力値Pの観測値と電力値Pの予測値との電力差が予め設定された電力閾値以上である観測値に対して、抑制フラグをセットする。これにより、物体の近くで検出されるノイズピークが新規の物標として登録されることを抑制する。
【0051】
続いて、S390では、S80と同様の処理を実行する。
続いて、S400では、形状推定部31が、S320において算出した予測値が示す物体の形状を推定する。具体的には、
図12に示すように、今回の処理サイクル以前において、新規の物標として登録されることが抑制された観測値を用いて、物体の形状を推定する。すなわち、予測値に対して設定された抑制範囲内に存在する観測値のうち、予測値と関連づけられなかった観測値の情報をそれ以降の処理サイクルにおいてメモリに保持する。そして、それ以降の処理サイクルにおいて、予測値に関連づけて保持されているすべての観測値の位置に基づいて、物体の形状を推定する。
【0052】
図12に示す例では、S370において設定された抑制範囲内に、今回の処理サイクルにおいて検出された推定値A10と、前回の処理サイクル以前において新規物標として登録が抑制された観測値A11~A14とが存在する。この場合、保持されている観測値A11~A14の位置に基づいて、物体の形状を推定する。観測値A11~A14には、今回の処理サイクルにおいて、新規物標として登録が抑制された観測値が含まれていてもよい。観測値A11~A14の情報は、次回以降の処理サイクルにおいても保持する。
【0053】
続いて、S410~S430では、S90~S110と同様の処理を実行する。以上で、本処理を終了する。
<2-3.効果>
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果(1)~(4)に加え、以下の効果が得られる。
【0054】
(5)物標が示す物体の種別が判定され、物体の種別に応じて、抑制範囲が設定される。したがって、物体の種別に応じて、適切な抑制範囲を設定することができる。
(6)歩行者は、手足の振りがあるため、先行車よりも速度Vr又はX方向速度Vx及びY方向速度Vyの拡がりが大きい。そこで、物体の種別が歩行者であると判定された場合には、抑制範囲の速度Vr又はX方向速度Vx及びY方向速度Vyの範囲が第1範囲よりも拡大される。これにより、物体の種別が歩行者の場合に、同一物体から複数の物標が生成されることを適切に抑制することができる。
【0055】
(7)横断自転車は、先行車よりも車両80の幅方向の長さが長いため、物体の種別が横断自転車であると判定された場合には、抑制範囲の車両の幅方向の範囲又は方位θの範囲が拡大される。これにより、物体の種別が横断自転車の場合に、同一物体から複数の物標が生成されることを適切に抑制することができる。
【0056】
(8)横断自動車は、横断自転車に比べてさらに車両の幅方向の長さが長いため、物体の種別が横断自動車であると判定された場合には、抑制範囲の車両の幅方向の範囲又は方位θの範囲がさらに拡大される。これにより、物体の種別が横断自動車の場合に、同一物体から複数の物標が生成されることを適切に抑制することができる。
【0057】
(9)抑制範囲外且つノイズ範囲内の観測値のうち、電力値Pの観測値と電力値Pの予測値との差が電力閾値以上である観測値が、新規の物標として登録されることが抑制される。よって、抑制範囲外の観測値であっても、物体近傍のノイズピークが新規の物標として登録されることを抑制することができる。
【0058】
(10)同じ予測値に対して、新規の物標として登録されることが抑制された観測値は、予想値と関連付けられた観測値と同一の物体の異なる位置から観測されている。そこで、新規の物標として登録されることが抑制された複数の観測値を保持し、保持した複数の観測値を用いることで、同一の物体内の複数の位置を検出し、物体の形状を推定することができる。すなわち、新規の物標として登録が抑制された観測値を有効利用することができる。
【0059】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0060】
(a)上記実施形態では、第1範囲及び抑制範囲を方形の範囲として設定したが、範囲の形状は方形に限定されるものではない。例えば、第1範囲及び抑制範囲を、
図13に示す範囲R1のような範囲と設定してもよいし、
図14に示す範囲R2のような円形の範囲として設定してもよい。
【0061】
(b)本開示に記載の物体追跡装置20及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の物体追跡装置20及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の物体追跡装置20及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。物体追跡装置20に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0062】
(c)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0063】
(c)上述した物体追跡装置20の他、当該物体追跡装置20を構成要素とするシステム、当該物体追跡装置20としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、物体追跡方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0064】
10…レーダ装置、20…物体追跡装置、21…検出部、22…予測部、23…第1範囲設定部、24…決定部、25…推定部、26…判定部、27…抑制範囲設定部、28…ノイズ範囲設定部、29…登録抑制部、30…登録部、31…形状推定部、50…運転支援装置、80…車両、100…運転支援システム、O…物体、R1,R2…範囲、T1,T2,T3…物標。