(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】メタン酸化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/62 20060101AFI20221220BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20221220BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20221220BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B01J23/62 A ZAB
B01D53/86 280
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2019537658
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2018031015
(87)【国際公開番号】W WO2019039513
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017159397
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】富 田 惇 喜
(72)【発明者】
【氏名】松 澤 雅 人
(72)【発明者】
【氏名】篠 倉 明日香
(72)【発明者】
【氏名】杉 岡 晶 子
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-272079(JP,A)
【文献】特開平10-099688(JP,A)
【文献】特開昭60-052755(JP,A)
【文献】特開2016-137458(JP,A)
【文献】特開平09-271640(JP,A)
【文献】MURATA, Naoyoshi et al.,Characterization of Pt-doped SnO2 catalyst for a high-performance micro gas sensor,Phys. Chem. Chem. Phys,2013年,Vol. 15,P. 17938-17946
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/86
F01N 3/10
F01N 3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズ担体に、白金酸化物が担持されたメタン酸化触媒であって、
白金原子のL
3端X線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルにおいて、11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークの強度が、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上である、メタン酸化触媒。
【請求項2】
前記白金酸化物は、白金の価数が2価である2価白金酸化物および白金の価数が4価である4価白金酸化物を含む、請求項1に記載のメタン酸化触媒。
【請求項3】
X線光電子分光法(XPS)により測定されたX線光電子分光スペクトルにおいて、前記2価白金酸化物由来のピーク強度をI
Pt2、前記4価白金酸化物由来のピーク強度をI
Pt4とした場合に、I
Pt4に対するI
Pt2の比(I
Pt2/I
Pt4)が1超である、請求項2に記載のメタン酸化触媒。
【請求項4】
白金原子のL
3端広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、白金原子-白金原子結合の結合距離に対応する最大ピーク強度をI
Pt-Pt、白金原子-酸素原子結合の結合距離に対応する最大ピーク強度をI
Pt-oとした場合に、I
Pt-Ptに対するI
Pt-oの比(I
Pt-o/I
Pt-Pt)が2.0以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のメタン酸化触媒。
【請求項5】
前記メタン酸化触媒に含まれるスズ元素に対する白金元素の含有割合が、0.3~40mol%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のメタン酸化触媒。
【請求項6】
前記酸化スズ担体に、イリジウム酸化物がさらに担持された、請求項1~5のいずれか一項に記載のメタン酸化触媒。
【請求項7】
前記メタン酸化触媒に含まれるスズ元素に対するイリジウム元素の含有割合が、0.03~20mol%である、請求項6に記載のメタン酸化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス中に含まれる未燃焼メタンを酸化させるためのメタン酸化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、発電機、船舶等のディ-ゼルエンジン向けの燃料は重油が用いられているが、環境保全・改善への要請からCH4燃料への転換が本格的に検討され始めている。
【0003】
CH4燃料を利用した代表的な内燃機関として“ガスエンジン”を挙げることができる。ガスエンジンは、ガスの燃焼を利用して発電すると共に、その排熱を冷暖房、給湯などの熱需要に利用する熱併給発電、所謂“コージェネレーション”に用いられる機関の一つである。
【0004】
ガスエンジンは、CO2の排出量が少ないばかりか、天然ガスや都市ガスのほか、ガス化溶融炉で発生するガスなどの低カロリーガスでも高効率で運転できるというメリットを有している。なお、都市ガスとは、天然ガスを主成分とした気体燃料であり、典型的にはメタンを87vol%以上含むものである。
【0005】
その反面、微量ではあるものの未燃焼メタン、所謂“メタンスリップ”が発生するという課題を抱えていた。メタン(CH4)は、地球温暖化係数がCO2の25倍であると言われており、排気ガス中に含まれる未燃焼メタンを酸化除去させる必要がある。そのため、このような未燃焼メタン等を酸化処理するための酸化触媒が種々開発されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、多孔質の酸化スズに白金を担持させた触媒が提案されており、当該触媒によれば、500℃以下という比較的低温であってもメタンの酸化除去が可能であり、且つ硫黄酸化物による被毒劣化も抑制されるため、燃焼排ガス中のメタンを長期にわたり有効に酸化除去できるとされている。
【0007】
また、特許文献2には、酸化スズに白金を担持した触媒に、助触媒としてイリジウムを担持した触媒が提案されており、イリジウムを助触媒として担持することにより、より長期にわたってメタンを酸化除去できるとされている。
【0008】
さらに、特許文献3には、酸化チタン担体または酸化スズ担体に、白金およびイリジウムとともにレニウムを担持した触媒が提案されており、当該触媒によれば、400℃以下といった低温であっても、燃焼排ガス中のメタンを有効に酸化除去できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-351236号公報
【文献】特開2006-272079号公報
【文献】特開2012-196664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
メタンガスを用いた内燃機関では、メタンガスの吸気、圧縮、着火燃焼、排気のサイクルが繰り返される。通常サイクル時での排気ガス中のメタンガス濃度は0.2%(2000ppm)程度であるが、着火不良(失火)が生じた場合には排気ガス中のメタン濃度は一時的に増加し、触媒温度が通常時(300~500℃)よりも200℃程度上昇する。
【0011】
特許文献1~3に記載されている酸化スズに白金を担持したメタン酸化触媒は、300~500℃のような低温でもメタンを有効に酸化除去できるものの、上記のような失火時には触媒温度が650℃程度まで上昇し、触媒性能が著しく低下してしまう。その結果、一旦失火が発生して触媒性能が低下すると、その後に通常サイクルに復帰した場合であっても、燃焼排ガス中のメタンを有効に酸化除去できないことが判明した。
【0012】
したがって、本発明の目的は、酸化スズに白金が担持された酸化触媒をさらに改良し、触媒が高温下に曝された後においても、メタン酸化活性を維持することができる新たな酸化触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは今般、酸化スズに白金が担持されたメタン酸化触媒において、白金を酸化物とすることによって、白金担持酸化スズ触媒の低温時のメタン酸化活性を維持しながら、失火時のような触媒が高温下に曝された後においても、メタン酸化活性を維持することができる、との知見を得た。本発明は、かかる知見によるものである。
【0014】
そして、本発明によるメタン酸化触媒は、酸化スズ担体に、白金酸化物が担持されたメタン酸化触媒であって、
白金原子のL3端X線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルにおいて、11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークの強度が、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上であるメタン酸化触媒である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化スズ担体に白金酸化物が担持されたメタン酸化触媒において、白金原子のL3端X線吸収端近傍構造スペクトルにおいて、11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークの強度が標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上であるメタン酸化触媒とすることにより、失火時等のような触媒が高温下に曝された後においても、通常サイクル時と同等のメタン酸化活性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例2および比較例2の各メタン酸化触媒、並びにPt箔およびPtO
2の各標準試料についての透過法により測定された白金原子のL
3端XANESスペクトル。
【
図2】実施例2および比較例2の各メタン酸化触媒、並びにPt箔およびPtO
2の各標準試料について、白金原子のL
3端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<メタン酸化触媒>
本発明のメタン酸化触媒は、酸化スズ担体に白金酸化物が担持された構造を有するものであるが、白金酸化物のみが担持されたものに限定されるものではなく、白金酸化物以外に白金などが担持されているものも包含されるが、酸化スズ担体に白金を担持したメタン酸化触媒とは明確に区別される。すなわち、本発明においては、白金原子のL3端X線吸収端近傍構造(以下、XANESと略す場合がある)スペクトルにおいて、11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークの強度が標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上であるという特徴を有するものである。なお、本発明において「11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピーク」とは、11750~11850eVの範囲で規格化したスペクトルの11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークをいうものとする。
先ずXANESスペクトルについて説明する。
【0018】
X線吸収微細構造(XAFS:X-ray absorption fine structure)測定は物質のX線吸収強度(吸光度)の波長依存性を測定することで、吸収原子、吸収原子の配位数や価数等の化学結合状態、吸収原子周りとその近傍原子の距離の分布等、物質の局所構造に関する情報を得ることができる測定手法である。
【0019】
吸収端から約数十eV程度に現れるX線吸収端近傍構造(XANES:X-ray absorption near-edge structure)は、内殻から非占有準位への電子遷移の効果により吸収スペクトルが現れ、そのスペクトル形状には吸収原子の配位数や価数等の化学結合状態の情報が非常に敏感に反映される。また、吸収端から約1000eV程度に現れる広域X線吸収微細構造(EXAFS:Extended X-ray absorption fine structure)は、吸収原子から放出された光電子が周りの原子によって散乱され、この放出電子波と散乱電子波との干渉によって光電子の遷移確率が変調されて波状のスペクトルが現れる。このスペクトル形状を解析することで吸収原子から吸収原子周りの原子間距離分布の情報を得ることができる。
【0020】
白金原子の内殻2p軌道の電子を励起すると、電気双極子遷移によりPt5d空軌道へ遷移する。Pt5d空軌道の状態密度は、遷移エネルギー以上のエネルギーを有するX線を照射した際のL3吸収端またはL2吸収端におけるX線吸収スペクトルの吸収強度に反映される。
【0021】
本発明においては、メタン酸化触媒のX線吸収端近傍構造(XANES)の解析を行い、白金原子のL3端XANESスペクトルの吸収ピークのうち、11555~11570eVの範囲に現れる白金酸化物由来の吸収ピークの強度が、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上であれば、失火時等のような触媒が高温下に曝された後においても、通常サイクル時と同等のメタン酸化活性を維持することができることを見出したものである。理論に拘束されるものではないが、XANESスペクトルにおいて11555~11570eVの範囲に現れる白金酸化物由来の吸収ピークの強度が、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上であるようなメタン酸化触媒では、酸化スズに担持されている白金酸化物の割合が多く、酸化されていない白金金属の状態で担持されている割合は少ないと考えられる。従来のメタン酸化触媒のように、白金を酸化スズに担持した触媒においては、ガスエンジンの通常サイクル時の触媒温度(300~500℃)では、個々の白金粒子が酸化スズ担体に担持されているため白金粒子がメタン酸化活性を有するものの、高温(650℃)になると、酸化スズ担体上で白金粒子の凝集が生じ、メタン酸化活性が低下するものと考えられる。これに対して、本発明のように、XANESスペクトルにおいて11555~11570eVの範囲に現れる白金酸化物由来の吸収ピークの強度が、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上であるようなメタン酸化触媒では、酸化スズ上に担持されている粒子が白金酸化物であるため、白金金属粒子に比べて高温時の凝集が抑制され、その結果、触媒温度が高温下に曝された後においてもメタン酸化活性を維持できるものと考えられる。
【0022】
XANESスペクトルにおいて11555~11570eVの範囲に現れる白金酸化物由来の吸収ピークの強度は、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.5倍以上であることが好ましく、1.7倍以上であることがより好ましい。また、上記白金酸化物由来の吸収ピークの強度は、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の2.8倍以下であるのが好ましい。
なお、従来のメタン酸化触媒である酸化スズに白金を担持した触媒は、XANESスペクトルにおいて11555~11570eVの範囲に現れる白金酸化物由来の吸収ピークの強度は、標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.3程度である。
また、本明細書において、「標準白金箔」とは、株式会社ニコラから入手できる白金箔である、品番:PT-353138の白金箔をいうものとする。
また、本発明において、XANESスペクトルの測定は、透過法または蛍光法の何れであってもよい。
【0023】
酸化スズに担持されている触媒粒子のうち、白金酸化物がどの程度の割合を占めているか、広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルによっても評価することができる。本発明においては、白金原子のL3端広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、白金原子-白金原子結合の結合距離に対応する最大ピーク強度をIPt-Pt、白金原子-酸素原子結合の結合距離に対応する最大ピーク強度をIPt-o、とした場合に、IPt-Ptに対するIPt-oの比(IPt-o/IPt-Pt)が2.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、7.0以上であることが特に好ましい。酸化スズに担持される触媒粒子のうち、白金に対する白金酸化物の割合が上記程度であれば、触媒が高温下に曝された後であってもメタン酸化活性をより一層維持することができる。なお、EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、IPt-Ptは0.20~0.25nmの範囲にある最大ピーク強度とし、IPt-oは0.10~0.20nmの範囲にある最大ピーク強度とするものとする。
【0024】
上記XANESスペクトルおよびEXAFSスペクトルは、例えば、公益財団法人が運営するあいちシンクロトロン光センター(AichiSR)のXAFS分析装置(BL11S2)により測定することができる。測定条件は以下のとおりである。
・ビームライン
光エネルギー:11~13keV
ビームサイズ:0.50mm×0.30mm(H×V)
・検出系
分光器:Si(111)2結晶分光器
検出器:イオンチャンバー
・解析ソフト
Athena(ver.0.8.056)
【0025】
酸化スズに担持される白金酸化物は、白金の価数が2価である2価白金酸化物および白金の価数が4価である4価白金酸化物を含む。白金の酸化状態(価数)は、X線光電子分光法(以下、XPSと略す場合がある)により評価することができる。本発明において、XPS測定により得られたX線光電子分光スペクトルにおいて、
2価白金酸化物由来のピーク強度をIPt2、
4価白金酸化物由来のピーク強度をIPt4、
とした場合に、IPt4に対するIPt2の比(IPt2/IPt4)が1超であることが好ましい。即ち、白金酸化物のうち、4価白金酸化物よりも2価白金酸化物が多く存在することにより、ガスエンジンでの通常サイクル時のメタン酸化活性をより一層向上させることができ、且つ失火時等のような触媒が高温下に曝された後においても、通常サイクル時と同等のメタン酸化活性を維持することができる。なお、2価白金酸化物由来のピークは、Pt4f7/2のピークに対応し、ピークトップが70.0~74.0eVの位置に現れ、4価白金酸化物由来のピークは、Pt4f5/2のピークに対応し、ピークトップが77.0~79.0eVの位置に現れる。IPt2/IPt4は下限値として1.1以上であることより好ましい。一方、IPt2/IPt4は上限値として4.5以下であることが好ましい。IPt2/IPt4は数値が高くなるにしたがい白金金属の割合が高くなる傾向にあるが、IPt2/IPt4の値を4.5以下とすることで白金酸化物の絶対量を維持することができ、通常サイクル時及び高温下に曝された後でのメタン酸化活性を共に良好なものとすることができる。
【0026】
本発明においては、上記のような、XANESスペクトルの11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークの強度の条件、および好ましくは、動径分布関数から得られるIPt-o/IPt-Pt比やXPS測定により得られるIPt2/IPt4比の条件を満たすように白金の酸化状態を制御することで、触媒が高温に曝された際の白金酸化物の凝集と、2価白金酸化物から4価白金酸化物への白金の酸化状態の変化の双方を抑制し、失火時等のような触媒が高温下に曝された後においても、通常サイクル時と同等のメタン酸化活性を維持できるメタン酸化触媒を実現したものである。
【0027】
酸化スズに担持される白金酸化物の平均一次粒子径は0.5nm~2.5nmであることが好ましい。白金酸化物の平均一次粒子径が上記範囲内であれば、白金酸化物粒子が酸化スズの表面に高分散状態で存在することができ、高いメタン酸化活性を有することができる。なお、白金酸化物の平均一次粒子径は、メタン酸化触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、200個の白金酸化物粒子の一次粒子径を測定した平均値をいうものとする。白金酸化物の平均一次粒子径は0.5nm~2.0nmであることがより好ましく、0.7nm~1.5nmであることがさらに好ましい。白金酸化物の平均一次粒子径は、例えば、後記のように酸化スズに白金酸化物を担持させる際の白金塩の種類、白金溶液の温度、pH、濃度等の担持条件を適宜調整することにより行うことができる。
【0028】
メタン酸化触媒に含まれるスズ元素に対する白金元素の含有割合は0.3~40mol%であることが好ましい。白金酸化物の含有量として、スズ元素に対する白金元素の含有割合が0.3mol%以上であれば、メタン酸化活性をより一層発現させることができ、40mol%以下とすることで、平均一次粒子径が50nm以上程度の白金酸化物の粗大粒子が形成されることを抑制することができる。より好ましいスズ元素に対する白金元素の含有割合は3.2~11mol%である。なお、スズ元素に対する白金元素の含有割合は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(以下、ICP発光分光分析ともいう)によって測定することができる。ICP発光分光分析は、プラズマを原子の励起に使う手法であり、多元素を高感度で測定できるという特徴を有している。プラズマトーチを用いて高温アルゴンプラズマを生成し、高温アルゴンプラズマによって試料を構成する原子やイオンを励起する。励起された原子・イオンが基底状態へ戻るとき、エネルギーがその元素(例えば、Sn、Pt、Ir)固有の波長の光として放出され、その光を分光、検出することによって特定の元素の量を定量する。
【0029】
本発明のメタン酸化触媒は、酸化スズに、上記白金酸化物に加えて、イリジウム酸化物がさらに担持されていてもよい。イリジウム酸化物がさらに担持されることにより、触媒が高温下に曝された際に白金酸化物粒子の凝集が抑制されるため、より一層、触媒が高温下に曝された後のメタン酸化活性を通常サイクル時と同等にすることができる。
【0030】
酸化スズに、イリジウム酸化物をさらに担持する場合、メタン酸化触媒に含まれるスズ元素に対するイリジウム元素の含有割合は0.03~20mol%であることが好ましい。スズ元素に対するイリジウム元素の含有割合が上記範囲となるようにイリジウム酸化物をさらに酸化スズに担持することにより、より一層、触媒が高温下に曝された後のメタン酸化活性を通常サイクル時と同等にすることができる。
【0031】
上記した白金酸化物、および所望によりイリジウム酸化物を担持させる担体である酸化スズは、通常のメタン酸化触媒に使用されるものを制限なく使用することができるが、比表面積が10~100m2/gであることが好ましい。比表面積が上記範囲の酸化スズを担体とすることにより、酸化スズ表面に白金酸化物粒子(または白金酸化物およびイリジウム酸化物の両粒子)を凝集させることなく、均一に分散した状態で担持させることができる。酸化スズの好ましい比表面積は20~90m2/gであり、特に35~60m2/gであることが好ましい。なお、比表面積は、BET法で測定された値を意味し、具体的には、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから比表面積を求めることができる。
【0032】
酸化スズの比表面積を調整するには、例えば酸化スズの製造工程における合成、乾燥および焼成条件の最適化や、ビーズミル等による酸化スズの機械的粉砕などを実施するようにすればよい。但し、このような方法に限定されるものではない。
【0033】
また、酸化スズのシンタリングを抑制して、焼成後の比表面積の低下を抑制する目的で、各種元素を酸化スズに固溶させたり、各種元素の化合物で酸化スズの表面を被覆したりすることもできる。各種元素としては、例えばSi、Al、Zr、Ce、La、Fe、Mn、Ni、Co、Cu、W、Mo、V、Ca、Ba、Mg、Pd、Rh、Ruなどを挙げることができる。
【0034】
酸化スズは、平均粒子径が0.1μm~100μmの範囲のものを使用することが好ましい。平均粒子径が上記範囲にある酸化スズを用いることにより、酸化スズ粒子の表面に、白金酸化物の粒子を均一に分散させて担持することができるとともに、ハニカム状やペレット状に成形した際の強度を高くすることができる。酸化スズの平均粒子径の好ましい範囲は0.5μm~50μmであり、特に1.0μm~20μmであることが好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とはレーザー回折粒子径分布測定装置により測定される体積累積粒子径D50を意味するものとする。
【0035】
酸化スズの平均粒子径を上記範囲とするには、例えば酸化スズの製造工程における乾燥および焼成条件の最適化や、ビーズミル等による白金酸化物の担持前後の酸化スズの機械的粉砕などを施すようにすればよい。但し、このような方法に限定されるものではない。
【0036】
メタン酸化触媒において、酸化スズの結晶子径は5nm~100nmであるのが好ましい。酸化スズの結晶子径が5nm~100nmであれば、酸化スズの表面に白金酸化物粒子を均一に分散させて担持させることができ、担持される白金酸化物を酸化スズの表面に高分散状態で存在させることができる。より好ましい結晶子径は10nm~50nmであり、特に12nm~35nmの範囲であることが好ましい。
【0037】
酸化スズの結晶子径を調整するには、例えば酸化スズの製造工程における合成、乾燥および焼成条件の最適化や、ビ-ズミル等による酸化スズの機械的粉砕など実施するようにすればよい。但し、このような方法に限定されるものではない。
【0038】
<メタン酸化触媒の製造方法>
酸化スズに白金酸化物を担持したメタン酸化触媒は、酸化スズに白金を均一に担持させ得る公知の方法を適用し、担持させた白金を後記のように酸化させることにより製造することができる。
一例として、酸化スズ粉(SnO2粒子)を、白金溶液(Pt溶液)に加えて、溶液を加熱して蒸発乾固し、SnO2粒子にPtを担持させた後、酸素雰囲気下で焼成する方法を挙げることができる。
具体的には、ジニトロジアンミンPtを硝酸に溶かしてpHが2以下、好ましくは1以下である白金溶液を調製し、さらにこの溶液を温度が50℃~80℃となるように加熱した上で、この溶液中に酸化スズ粉を加え、蒸発乾固させて酸化スズ粒子に白金を担持させた後、酸素雰囲気下で焼成することにより、メタン酸化触媒を製造することができる。
【0039】
また、酸化スズに白金酸化物およびイリジウム酸化物を担持したメタン酸化触媒は、酸化スズに白金およびイリジウムを均一に担持させ得る公知の方法を適用し、担持させた白金およびイリジウムを後記のように酸化させることにより、製造することができる。
一例として、酸化スズ粉(SnO2粒子)を、白金溶液(Pt溶液)とイリジウム溶液(Ir溶液)との混合溶液に加えて、溶液を加熱して蒸発乾固し、SnO2粒子にPtおよびIrを担持させた後、酸素雰囲気下で焼成する方法を挙げることができる。
具体的には、ジニトロジアンミンPtを硝酸に溶かしてpHが2以下、好ましくは1以下である白金溶液を調製する。そして、ヘキサクロロイリジウム酸水和物を硝酸に溶かしてpHが2以下、好ましくは1以下であるイリジウム溶液を調製する。調整した白金溶液およびイリジウム溶液を混合し、得られた混合溶液を温度が50℃~80℃となるように加熱した上で、この溶液中に酸化スズ粉を加え、蒸発乾固させて酸化スズ粒子に白金およびイリジウムを担持させた後、酸素雰囲気下で焼成することにより、メタン酸化触媒を製造することができる。
他の例として、白金溶液(Pt溶液)に酸化スズ(SnO2粒子)を加えて溶液を加熱して蒸発乾固し、SnO2粒子にPtを担持させた後、酸素雰囲気下で焼成して酸化スズ(SnO2粒子)に白金酸化物を担持させた触媒粒子を得て、続いて当該触媒粒子をイリジウム溶液(Ir溶液)に加え、溶液を加熱して蒸発乾固し、SnO2粒子にIrを担持させ後、酸素雰囲気下で焼成する方法を挙げることもできる。
なお、上記で例示した二つの方法のうち、Pt溶液とIr溶液との混合溶液を用いた方が、メタン酸化活性に優れたメタン酸化触媒を得ることができる。
【0040】
酸素雰囲気中での焼成条件は、400~700℃で2~24時間、好ましくは3~6時間であることが好ましい。焼成条件を適宜調整することにより、上記のような、XANESスペクトルの11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークの強度の条件、および好ましくは動径分布関数から得られるIPt-o/IPt-Pt比やXPS測定により得られるIPt2/IPt4比の条件を満たすように白金の酸化状態を制御することができる。焼成を行う酸素雰囲気は、酸素濃度が22体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、特に酸素濃度が50体積%以上の雰囲気中で焼成を行うことが好ましい。
【0041】
なお、酸化スズに白金酸化物(および所望によりイリジウム酸化物)を担持した上記メタン酸化触媒は、酸素雰囲気中での焼成以外の方法によっても製造することができる。例えば、白金溶液(または白金溶液とイリジウム溶液との混合溶液)に酸化スズ粉を加えて、溶液に空気バブリングを行う等のエアレーション処理を行った後、溶液を加熱して蒸発乾固し、酸化スズ粒子に白金酸化物(または白金酸化物及びイリジウム酸化物)を直接担持することもできる。
【0042】
<触媒の形態>
本発明のメタン酸化触媒の形態としては、例えば粉状、粒状、顆粒状(球状を含む)などを挙げることができるが、これらの形状に限定されるものではない。メタン酸化触媒は、粉状等のメタン酸化触媒を成形することにより、ペレット(円筒型、環状型)状、タブレット(錠剤)状、ハニカム(モノリス体)状または板状(層状)の成形体、すなわちメタン酸化触媒成形体として用いることもできるし、また、セラミックスまたは金属材料からなる基材に、この成形体を積層配置した形態として用いることもできる。
【0043】
基材の材質としては、セラミックス等の耐熱性材料や金属材料を挙げることができる。セラミックス製基材の材質としては、耐火性セラミックス材料、例えばコージライト、コージライト-アルファアルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、アルミナ-シリカマグネシア、ケイ酸ジルコン、シリマナイト(sillimanite)、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト(petalite)、アルファアルミナおよびアルミノシリケート類などを挙げることができる。金属製基材の材質としては、耐熱性金属、例えばステンレス鋼または鉄を基とする他の適切な耐熱性合金などを挙げることができる。
【0044】
基材の形状は、特に制限されるものではなく、ハニカム状、ペレット状、球状を挙げることができるが、ハニカム状であることが好ましい。
【0045】
例えば、本発明によるメタン酸化触媒の粉末と、必要に応じてバインダおよび水を混合、撹拌してスラリ-とし、得られたスラリ-を、例えばセラミックスハニカム体などの基材に塗工し、これを焼成して、基材表面に触媒層を形成する方法を挙げることができる。なお、触媒を製造するための方法は公知のあらゆる方法を採用することが可能であり、上記例に限定されるものではない。いずれの製法においても、触媒層は、単層であっても、二層以上の多層であってもよい。
【実施例】
【0046】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
8.2gのジニトロジアンミンPtを、3.5gの濃硝酸を1000mlの純水で希釈した溶液に溶かし、pHが1.5以下であるPt溶液を調製した。このPt溶液に、120gの酸化スズ粒子(BET法により求めた比表面積が40m2/g、D50=1.3μm)を加えて、溶液を70℃に加熱して溶液を蒸発乾固させて、酸化スズ粒子に白金を担持させた。続いて、酸素雰囲気下(酸素濃度=50体積%)、550℃で3時間の焼成を行い、得られた粒子を乳鉢で解砕し、白金酸化物が担持された酸化スズ粉末を得た。
【0048】
<実施例2>
3.3gのヘキサクロロイリジウム酸水和物を、3.5gの濃硝酸を1000mlの純水で希釈した溶液に溶かし、pHが1.5以下であるIr溶液を調製した。Ir溶液と、実施例1において調製したPt溶液とを、質量基準で2:5の割合で混合し、Pt/Ir混合溶液を調製した。このPt/Ir混合溶液に、実施例1で使用した酸化スズ粒子を120g加えて、溶液を80℃に加熱して溶液を蒸発乾固させて、酸化スズ粒子に白金およびイリジウムを担持させた。続いて、酸素雰囲気下(酸素濃度=50体積%)、550℃で3時間の焼成を行い、得られた粒子を乳鉢で解砕し、白金酸化物およびイリジウム酸化物が担持された酸化スズ粉末を得た。
【0049】
<実施例3>
実施例1において調製したPt溶液に、120gの酸化スズ粒子(BET法により求めた比表面積が14m2/g、D50=44μm)を加えて、溶液を80℃に加熱して溶液を蒸発乾固させて、酸化スズ粒子に白金を担持させた。続いて、酸素雰囲気下(酸素濃度=50体積%)、550℃で3時間の焼成を行い、得られた粒子を乳鉢で解砕し、白金酸化物が担持された酸化スズ粉末を得た。
次いで、上記で得られた酸化スズ粉末に、実施例2において調製したIr溶液の40質量%を加えて、溶液を80℃に加熱して溶液を蒸発乾固させて、白金酸化物が担持された酸化スズ粒子にイリジウムを担持させた。続いて、酸素雰囲気下(酸素濃度=50体積%)、550℃で3時間の焼成を行い、得られた粒子を乳鉢で解砕し、白金酸化物およびイリジウム酸化物が担持された酸化スズ粉末を得た。
【0050】
<比較例1>
実施例1において、酸素雰囲気下(酸素濃度=50体積%)、550℃で3時間の焼成したことに代えて、水素ガス雰囲気下、100℃で3時間の焼成を行った以外は、実施例1と同様にして白金が担持された酸化スズ粉末を得た。
【0051】
<比較例2>
実施例1において、酸素雰囲気下(酸素濃度=50体積%)、550℃で3時間の焼成したことに代えて、空気雰囲気下(酸素濃度約21体積%)、550℃で3時間の焼成を行った以外は、実施例1と同様にして白金が担持された酸化スズ粉末を得た。次いで、3.3gのヘキサクロロイリジウム酸水和物を、3.5gの濃硝酸を500mlの純水で希釈した溶液に溶かし、pHが1以下であるIr溶液を調製し、得られた白金が担持された酸化スズ粉末120gをIr溶液に加えて、溶液を80℃に加熱して溶液を蒸発乾固させ、続いて、空気雰囲気下(酸素濃度21体積%)、550℃で3時間の焼成を行い、白金およびイリジウムが担持された酸化スズ粉末を得た。
【0052】
<メタン酸化触媒の評価>
(1)X線吸収微細構造(XAFS)測定
あいちシンクロトロン光センター(AichiSR)のXAFS分析装置(BL11S2)を用いて、上記のようにして得られた各メタン酸化触媒のX線吸収微細構造スペクトルを測定した。また、標準白金箔および標準PtO2の二試料についても、同様にしてX線吸収微細構造スペクトルを測定した。なお、標準白金箔として株式会社ニコラ製の白金箔(品番:PT-353138)を用い、標準PtO2としてシグマアルドリッチ製のPtO2(459925)を用いた。測定条件は以下のとおりであった。
・ビームライン
光エネルギー:11~13keV
ビームサイズ:0.50mm×0.30mm(H×V)
・検出系
分光器:Si(111)2結晶分光器
検出器:イオンチャンバー
・解析ソフト
Athena(ver.0.8.056)
【0053】
実施例2および比較例2のメタン酸化触媒についての透過法により測定された白金原子のL
3端XANESスペクトルと、標準白金箔および標準PtO
2の同XANESスペクトルとを併記したものを
図1に示す。また、白金原子のL
3端XANESスペクトルから得られた各メタン酸化触媒および標準白金箔における、11555~11570eVの範囲で得られる各吸収ピークの強度、並びに各メタン酸化触媒の吸収ピークの強度を標準白金箔の吸収ピーク強度で除した値は、表1に示されるとおりであった。
【0054】
また、実施例2および比較例2のメタン酸化触媒、並びに標準白金箔および標準PtO
2の各標準試料について、白金原子のL
3端EXAFSスペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数を
図2に示す。また、各メタン酸化触媒の動径分布関数から得られた、白金原子-白金原子結合の結合距離(0.20~0.25nm)に対応する最大ピーク強度をI
Pt-Pt、白金原子-酸素原子結合の結合距離(0.10~0.20nm)に対応する最大ピーク強度をI
Pt-oとした場合の、I
Pt-Ptに対するI
Pt-oの比(I
Pt-o/I
Pt-Pt)は、表1に示されるとおりであった。
【0055】
(2)X線光電子分光法(XPS)表面分析
X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社製、VersaProbe II)を用いて、X線光電子分光法(XPS)による各実施例のメタン酸化触媒の表面分析を実施した。測定条件は以下のとおりであった。
・X線源:Al線(1486.6eV)
・照射出力:100W
各実施例および比較例のメタン酸化触媒のXPSスペクトルから得られた、2価白金酸化物由来(70.0~74.0eV)のピーク強度をIPt2、4価白金酸化物由来(77.0~79.0eV)のピーク強度をIPt4とした場合の、IPt4に対するIPt2の比(IPt2/IPt4)は、表1に示されるとおりであった。
【0056】
(3)白金元素およびイリジウム元素の含有割合の測定
各メタン酸化触媒をアルカリ溶解後、塩酸で希釈して溶液を調製し、この溶液をICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式社製 SPS-3000(商品名))にて分析し、スズ元素の濃度(mol%)と白金元素の濃度(mol%)とイリジウム元素の濃度(mol%)を求めた。得られた値より、スズ元素に対する白金元素の含有割合と、スズ元素に対するイリジウム元素の含有割合を算出した。各メタン酸化触媒のスズ元素に対する白金元素の含有割合およびイリジウム元素の含有割合は、表1に示されるとおりであった。
【0057】
(4)メタン浄化性能
各メタン酸化触媒を圧縮成形し、続いてその成形物を粉砕して0.35mm~0.6mmに整粒した触媒粒を得た。得られた触媒粒0.1gをφ9mmの石英製の反応器内に充填し、CH4:0.2%、O2:10%、CO2:4.9%、H2O:10%、N2バランス:74.9%の組成のモデルガス(入口ガス)を、空間速度(SV)150,000h-1となるよう供給し、10℃/minの昇温速度で600℃まで昇温しながら、上記触媒粒を通過したガス(出口ガス)のCH4濃度を水素炎イオン化検出器で測定した。入口ガスと出口ガスのCH4濃度の差を入口ガスのCH4濃度で除して100倍した値を転化率として算出し、転化率が50%となるときの温度をT50(℃)とした。
また、メタン酸化触媒の高温耐久性を評価するため、各メタン酸化触媒を空気雰囲気下、650℃で12時間焼成し、焼成後の各メタン酸化触媒のT50(℃)を上記と同様にして測定した。高温耐久性試験前後でのT50(℃)は表1に示されるとおりであった。
【0058】
【0059】
表1からも明らかなように、白金酸化物を酸化スズに担持したメタン酸化触媒(実施例1~3)は、高温耐久性試験前は、白金を酸化スズに担持したメタン酸化触媒(比較例1)と同等またはそれ以下のT50(℃)を有しており、白金を酸化スズに担持したメタン酸化触媒のメタン酸化活性と同等かまたはそれよりも優れていることがわかる。また、高温耐久性試験後は、白金を酸化スズに担持したメタン酸化触媒(比較例1)のT50(℃)は顕著に増加しており、触媒温度が高温になるとメタン酸化活性が著しく低下することがわかる。
一方、XANESスペクトルにおいて、11555~11570eVの範囲で得られる吸収ピークの強度が標準白金箔を用いて測定された同吸収ピーク強度の1.4倍以上である、白金酸化物を酸化スズに担持したメタン酸化触媒(実施例1~3)は、高温耐久性試験後においても、T50(℃)が低くなっており、触媒が高温下に曝された後においても、高温下に曝される前(即ち、通常サイクル時の触媒温度である300~500℃程度の温度)のメタン酸化活性を維持できていることがわかる。
なお、空気雰囲気下で焼成した比較例2のメタン酸化触媒は、酸素雰囲気下で焼成した実施例1~3のメタン酸化触媒と比較して高温耐久性試験前後のいずれのT50(℃)も高く、メタン酸化活性が劣っていることが分かる。