(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】抗Tauナノボディ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20221220BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221220BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221220BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221220BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221220BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221220BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221220BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20221220BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221220BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20221220BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221220BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221220BHJP
G01N 33/566 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12P21/08
C07K16/18
A61K39/395 N
A61K51/10 200
A61P25/28
G01N33/53 D
G01N33/566
(21)【出願番号】P 2019545850
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2017077691
(87)【国際公開番号】W WO2018078140
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-22
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516247100
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・グルノーブル・アルプ
【氏名又は名称原語表記】Universite Grenoble Alpes
(73)【特許権者】
【識別番号】519157299
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニバシテール グルノーブル アルプス
(73)【特許権者】
【識別番号】505386960
【氏名又は名称】アンスティテュト ナショナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル (アンセルム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファグレト,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ムーラン,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツィ,キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】ペレ,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】キエリチ,サビーネ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/114538(WO,A1)
【文献】特表2014-523742(JP,A)
【文献】特表2015-533835(JP,A)
【文献】特開2016-104727(JP,A)
【文献】特表2014-530597(JP,A)
【文献】Journal of Controlled Release,2016年10月06日,Vol.243,pp.1-10,Epub
【文献】FEBS Lett.,2004年06月18日,Vol.568, No.1-3,pp.178-182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴマー型であるTauタンパク質に対するナノボディであって、軽鎖を欠いており、及び
(a)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSSDT(配列番号3)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISPSGGVT(配列番号4)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)NRDPKYGNTRY(配列番号5)、又は
(b)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSRYA(配列番号6)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISRSGGST(配列番号7)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)TARRRISGTPQWHY(配列番号8)
を含むものである、
前記ナノボディ。
【請求項2】
配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むものである、請求項
1に記載のナノボディ。
【請求項3】
配列番号9のアミノ酸配列を含むものである、請求項
2に記載のナノボディ。
【請求項4】
検出可能マーカーに結合しているものである、請求項1~
3の何れか一項に記載のナノボディ。
【請求項5】
前記検出可能マーカーが放射性元素である、請求項
4に記載のナノボディ。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか一項に記載のナノボディを含む、非侵襲的インビボ医用イメージ
ングの造影剤として使用するための医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~
5の何れか一項に記載のナノボディを含む、診断又は予後診断のための方法に使用するための医薬組成物。
【請求項8】
タウオパチーの診断又は予後診断のための方法に使用するための請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~
3の何れか一項に記載のナノボディを含む、医薬組成物。
【請求項10】
試料中のオリゴマー型Tauタンパク質のインビトロ検出のための請求項1~
3の何れか一項に記載のナノボディの使用。
【請求項11】
請求項1~
3の何れか一項に記載のナノボディを薬学的に許容可能な担体と組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~
3の何れか一項に記載のナノボディをコードする核酸配列を備える核酸。
【請求項13】
請求項
12に記載の核酸を含むベクター。
【請求項14】
請求項
12に記載の核酸又は請求項
13に記載のベクターによって形質移入、形質導入、又は形質転換された細胞。
【請求項15】
請求項1~
3の何れか一項に記載のナノボディを発現する組換え宿主細胞を作製するための方法であって、
(i)請求項
12に記載の核酸又は請求項
13に記載のベクターをコンピテント宿主細胞にインビトロ又はエクスビボで導入する工程、
(ii)得られた前記組換え宿主細胞をインビトロ又はエクスビボで培養する工程、及び
(iii)所望により前記ナノボディを発現及び/又は分泌する前記細胞を選別する工程
を含む前記方法。
【請求項16】
請求項1~
3の何れか一項に記載のナノボディを発現する組換え宿主細胞を作製するための方法であって、
(i)前記ナノボディを発現させるために適切な条件下で請求項
14に記載の形質導入細胞又は形質移入細胞又は形質転換細胞を培養する工程、及び
(ii)発現した前記ナノボディを回収する工程
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗Tauナノボディに関する。
【0002】
現在、孤発性アルツハイマー病(AD)を前臨床段階の無症状状態から認知及び記憶テストによって、また様々なバイオマーカーによっても臨床的に特徴が明らかにされる病状まで連続的なものであると見る一致した意見が存在する(Dubois et al. Lancet Neurology, 13, 614-629 (2014))。しかしながら、治療が必要な患者を選択し、且つ、治療効果を管理するために神経変性の兆候をリスクの有る集団において早期検出し、且つ、モニターすることを可能にする診断方法が新しい治療戦略の開発に要求される。
【0003】
ADは進行性認知症症候群と2種類の特徴的な脳の病変、すなわちアミロイドペプチド(Aβ)から構成される細胞外老人斑(AP)と高リン酸化Tauタンパク質凝集体から構成される神経原線維変性(NFD)の組合せによって規定される。NFDは大脳皮質においてAPが認められる前に嗅内皮質構造体に現れる(Braak et al. Journal of Neuropathological Experimental Neurology, 70 (11): 960-969 (2011))。さらに、皮質におけるNFDの分布と数はADの患者の記憶障害と相関している(Nelson et al. Journal of Neuropathological Experimental Neurology, 71 (5); 362-381 (2012))。近年、オリゴマー型のTauが漸進的な神経細胞の汚染によるAD等のタウオパチーの進展(Goedert et al. Current Neurology and Neuroscience, 14: 495 (2014))に関与する有毒型であることが示された(Usenovic et al. Journal of Neuroscience, 35 (42): 14234-14250 (2015))。
【0004】
核脳イメージング(単一光子放射断層撮影(SPECT)及び陽電子放射断層撮影法(PET)はADに付随する分子的病変の存在と進行を判定するための適切なツールである(Dubois et al. Alzheimer’s & Dementia, 12 (3): 292-323 (2016))。幾つかの放射性トレーサーが利用可能であるようにAPの放射性リガンドが既に利用可能である(Catafau and Bullich, Clinical and Translational Imaging, 3 (1): 39-55 (2015))。現在ではNFD内のβ-シートを標的とするトレーサーが開発中である。それらのトレーサーのうちの2つである18F-AV-1451(Ossenkoppele et al. Brain, 139 (5): 1551-1567 (2016))と18F-THK5117(Jonasson et al. Journal of Nuclear Medicine, 57 (4): 574-581 (2016))によってNFD型の病変を患う患者の層別化が容易になる可能性がある。他方、可溶性オリゴマー型のTauを検出及びモニターすることはそれらのトレーサーのいずれによっても不可能である。
【0005】
生理的条件下で高可溶性Tauタンパク質は微小管と相互作用してそれらを安定化するが、部分的リン酸化によって逆に微小管から解離する。Tauタンパク質は通常では非常に可溶性であり、且つ、非構造化された形態である。ある特定の病的状態にある場合にTauの翻訳後修飾、特に高リン酸化によってそのタンパク質は構造体化され、且つ、ダイマー、オリゴマーといった凝集体やNFDを形成することになる螺旋フィラメント対とい
った線維を形成することになる。現在ではTauオリゴマーは毒性とAD及び他のタウオパチーの病変の進展の両方の観点から非常に重要であると考えられている。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0266947号明細書にオリゴマー型、特に二量体型及び三量体型のTauタンパク質に対するscFvが記載されている。約30kDaのサイズのこれらのscFvは線維型のTauに対するものではない。
【0007】
様々な凝集体型のTau分子を標的とした核イメージングのために病理型Tauに対する新しいマーカーを開発することを目標として本発明者らは病理型Tau、特に早期病理型Tau、中でも特にオリゴマー型Tau、場合によっては線維型Tauを標的とすることによりナノボディ(Nb)、特にVHHを開発した。したがってこれらのナノボディによってADの診断とモニタリングを改善することが可能になり、有望な治療法の効果の評価を改善することも可能になる。
【0008】
AD以外のタウオパチーにおいて病理型Tauを標的とし、したがってその存在を特定することもこれらのナノボディによって可能になる。本発明のナノボディはVHH型であり、ある特定のラクダ科動物抗体の重鎖可変ドメインに対応する抗体小断片である。本発明のナノボディは抗原結合ドメインを有する免疫グロブリンに由来する最小の機能性要素(10~15kDa)であり、約1ナノモル濃度の抗原に対する親和性を示す。本発明のナノボディのFc型ドメインを有しない単純な構造と低分子量のため、それらは血液脳関門を通過する好適なツールである(Caljon et al. British Journal of Pharmacology, 165 (7): 2341-2353 (2012))。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明は病理型Tauタンパク質、特に早期病理型Tau、例えばオリゴマー型Tau、場合によっては線維型Tauに結合するナノボディに関する。
【0010】
したがって、本発明の対象はオリゴマー型Tauタンパク質と線維型Tauタンパク質に対するナノボディである。
【0011】
本発明はオリゴマー型であるTauタンパク質に対するナノボディであって、軽鎖を欠いている前記ナノボディにも関する。
【0012】
したがって、本発明の対象は病理型、特にオリゴマー型のTauタンパク質に対するナノボディであって、
(i)アミノ酸X1がS又はRであり、アミノ酸X2がD又はYであり、且つ、アミノ酸X3がT又はAであるアミノ酸配列GRTFSX1X2X3(配列番号1)をCDR1として含み、
(ii)アミノ酸X1がP又はRであり、且つ、X2がS又はVであるアミノ酸配列ISX1SGGX2T(配列番号2)をCDR2として含み、且つ、
(iii)アミノ酸配列NRDPKYGNTRY(配列番号5)又はTARRRISGTPQWHY(配列番号8)をCDR3として含む
ナノボディとオリゴマー型Tauタンパク質への結合について競合する前記ナノボディである。
【0013】
本発明はさらに病理型、特にオリゴマー型のTauタンパク質に対するナノボディであって、
(a)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSSDT(配列番号3)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISPSGGVT(配列番号4)、及びCDR3として
のアミノ酸配列(iii)NRDPKYGNTRY(配列番号5)、又は
(b)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSRYA(配列番号6)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISRSGGST(配列番号7)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)TARRRISGTPQWHY(配列番号8)
を含むナノボディとオリゴマー型Tauタンパク質への結合について競合する前記ナノボディに関する。
【0014】
本発明はTauタンパク質に対するナノボディであって、
(i)アミノ酸X1がS又はRであり、アミノ酸X2がD又はYであり、且つ、アミノ酸X3がT又はAであるアミノ酸配列GRTFSX1X2X3(配列番号1)をCDR1として含み、
(ii)アミノ酸X1がP又はRであり、且つ、アミノ酸X2がS又はVであるアミノ酸配列ISX1SGGX2T(配列番号2)をCDR2として含み、且つ、
(iii)アミノ酸配列NRDPKYGNTRY(配列番号5)又はTARRRISGTPQWHY(配列番号8)をCDR3として含む
前記ナノボディにも関する。
【0015】
本発明はさらに
(a)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSSDT(配列番号3)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISPSGGVT(配列番号4)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)NRDPKYGNTRY(配列番号5)、又は
(b)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSRYA(配列番号6)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISRSGGST(配列番号7)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)TARRRISGTPQWHY(配列番号8)
を含むTauタンパク質に対するナノボディ、又は
配列番号3、配列番号4、及び配列番号5の配列、又は配列番号6、配列番号7、及び配列番号8の配列のうちの1つ、2つ、又は3つの配列においてそれぞれ1アミノ酸又は2アミノ酸の保存的置換を含む、(a)又は(b)において規定されるナノボディの機能保存的変異体に関する。
【0016】
本発明は上記で規定されているナノボディであって、非侵襲的インビボ医用イメージングの造影剤として使用される、診断又は予後診断の方法、好ましくはタウオパチーの診断又は予後診断のための方法に使用される、又は医薬として使用される前記ナノボディにも関する。
【0017】
本発明の対象はまた試料中のTauタンパク質、特に病理型、好ましくは早期病理型、中でも特にオリゴマー型、場合によっては線維型のTauタンパク質のインビトロ検出のための本ナノボディの使用でもある。
【0018】
最後に、本発明は本ナノボディを薬学的に許容可能な担体と組み合わせて含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ELISAアッセイの結果とそれによる2C5ナノボディのTau-O(Tauオリゴマー)、Tau-F(Tau線維)、模倣物(重合化TauのR3領域)、及びTau-N(天然型Tau)に対する親和性についての曲線を示すグラフである。
【
図2】重合化Aβ1-42アミロイドペプチドに対する親和性が存在しないことを示すグラフである。
【
図3】AD症例の側頭皮質の切片に対する比較免疫組織化学を示す図である。(A)AT8はSer202及びThr205におけるPHFリン酸化に対するモノクローナル抗体であり、(B)2C5はオリゴマー型Tauに対する本発明のナノボディであり、(C)T22はTauオリゴマーに対するモノクローナル抗体であり、(D)Ab4G8は凝集体型のアミロイドβペプチドに対するモノクローナル抗体である。
【
図4】本発明のナノボディの可変配列のアラインメントを示す図である。
【
図5】ELISAアッセイの結果とその結果による2C5ナノボディ(放射性標識無し)のTauタンパク質のR3配列の重合体に対する親和性についての曲線を示すグラフである。
【
図6】ELISAアッセイの結果とその結果による2C5ナノボディ(ヨウ素125で放射性標識済み)のTauタンパク質のR3配列の重合体に対する親和性についての曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
タウオパチー
「タウオパチー」という用語は、Tauタンパク質、特に病理型Tauタンパク質の脳内沈積物の存在を共通して有し、且つ、臨床的、病理的、生化学的、及び遺伝的類似性を共有する約20種類の病的状態をひとまとめにしている。「Tauタンパク質の脳内沈積物」という用語はTau凝集体の存在を意味しており、したがって病理型Tauの存在を意味している。
【0021】
ある特定のタウオパチー、例えば進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、及びゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病はアルツハイマー病の神経原線維変性と区別できない神経原線維変性(NFD)が存在することを特徴としている。この場合、「Tauタンパク質の脳内沈積物」又は「病理型Tauの存在」という用語は例えば神経原線維変性(NFD)の存在を表している。
【0022】
ピック病は例えばピック小体と呼ばれる球状神経封入体を特徴としている。これらのピック小体は組織化されていない直線状フィラメントから成り、したがって病理型Tauから成るものである。
【0023】
「神経原線維変性」(神経原線維のもつれとしても知られる)は、例えば大脳皮質内において、細胞核の周辺かつ細胞伸長中に、神経細胞集団が螺旋フィラメント対(PHF)及び/又は直線状フィラメント(SF)から成る原線維のもつれを示している領域を意味する。
【0024】
NFD形成には「原線維凝集」又は「原線維形成」としても知られるTauの凝集が含まれることに留意されたい。この過程でTauタンパク質はオリゴマーの形態に組織化され、次に螺旋フィラメント対の形態及び直線状フィラメントの形態に組織化される線維形態に組織化される。それらの螺旋フィラメント対の形態及び直線状フィラメントの形態がNFDを構成する。
【0025】
「病理型Tau」という用語にはオリゴマー型、線維型、螺旋フィラメント対型、及び直線状フィラメント型のTauタンパク質が包含される。しかしながら、中間凝集型、すなわちオリゴマー型Tau及び線維型Tauは有毒であり、オリゴマー型が最も有毒であることが発見されている。それらのTauは「早期病理型Tau」という用語に包含され、その用語はしたがって特にオリゴマー型及び線維型のTau、中でも特にオリゴマー型のTauを意味する。
【0026】
Tauタンパク質は細胞内タンパク質はであるが、しかしながらある特定の事例では病理型Tauは細胞外に存在する場合がある。
【0027】
1つの特定の実施形態では病理型Tau、好ましくはオリゴマー型Tauが細胞外に存在する。
【0028】
結果として1つの実施形態では「病理型Tau」はオリゴマー型、線維型、螺旋フィラメント対型、及び/又は直線状フィラメント型のTauを指す。病理型Tauは早期病理型Tau、中でも特にオリゴマー型Tau、場合によっては線維型Tau、例えばオリゴマー型Tau又は線維型Tauであることが好ましい。
【0029】
1つの実施形態では「タウオパチー」は上記で規定されている病理型Tauの存在と関連する疾患を意味する。タウオパチーはアルツハイマー病、進行性核上性麻痺(又はスティール・リチャードソン・オルゼウフキー病)、大脳皮質基底核変性症、ピック病、C型ニーマン・ピック病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、及び染色体17突然変異連鎖前頭側頭型変性から選択され、好ましくはアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、及びゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病から選択され、特に好ましくはアルツハイマー病である。
【0030】
Tau
「Tauタンパク質」又は「Tau」という用語は哺乳類動物タンパク質であるTau(微小管結合単位)タンパク質を意味する。Tauタンパク質は微小管結合タンパク質(MAP)ファミリーのメンバーである。そのタンパク質は17番染色体上の位置17q21に位置するMAPT遺伝子によってコードされる。Tauタンパク質はMSTD、PPND、DDPAC、MAPTL、MTBT1、MTBT2、FTDP-17、PPP1R103としても知られる。ヒトではTauタンパク質は基本的に神経細胞において合成される。
【0031】
Tauの一次転写物は16個のエクソンを含む。脳では幾つかのエクソンが翻訳されない。第2エクソン、第3エクソン、及び第10エクソンが選択的スプライシングを受け、それらのエクソンは成人の脳組織に特異的である。これらの3個のエクソンの選択的スプライシングにより6つの可能な組合せ(2-3-10-~2+3+10+)が作製される。したがってタンパク質レベルでは6種類のTauタンパク質のアイソフォームが成人の脳に存在する。Tauタンパク質発現は発生過程において制御されることに留意されたい。したがって、胎児型アイソフォームと呼ばれる単一のアイソフォームが誕生時に存在し、第2エクソン、第3エクソン、又は第10エクソンによってコードされる挿入断片を含まない。他のアイソフォームは後続の発生過程において出現する。それらの配列の長さは352アミノ酸から441アミノ酸までの範囲である。
【0032】
Tauタンパク質のアミノ末端部分はプロジェクションドメインとしても知られ、まだよく分かっていない役割を有する。このプロジェクションドメインは原形質膜及びミトコンドリアなどのある特定のオルガネラと相互作用する可能性がある。カルボキシ末端ドメインはチューブリン結合ドメインの保存されたモチーフを含む特異的結合ドメインである(3R又は4Rと呼ばれる)3リピート断片(第10エクソンを含まない)又は4リピート断片(第10エクソンを含む)を含み、そのドメインによって微小管安定性が制御される。これらのRモチーフは微小管上のTauタンパク質の固定点を構成する。第10エクソンによってコードされる配列を含まない(10-)3種類のアイソフォームは3つの微小管結合ドメイン(3R)を有し、2N3R、1N3R、及び0N3Rとも呼ばれ、アミノ末端部分の点で異なっている。第10エクソンによってコードされる配列を含む3種類のアイソフォームは4つの微小管結合ドメイン(4R)を有し、2N4R、1N4R、及び0N4Rと呼ばれ、これらもアミノ末端部分の点で異なっている。チューブリン二量体との相互作用はこの第4ドメインによってさらに強くなり、それによって微小管をさらに安定にし、神経突起伸展長を調整することができ、神経可塑性も調整することができる。
【0033】
本発明の1つの実施形態では前記Tauタンパク質は2N4Rアイソフォーム、1N4Rアイソフォーム、0N4Rアイソフォーム、2N3Rアイソフォーム、1N3Rアイソフォーム、及び0N3Rアイソフォームからなる群より選択される。Tauタンパク質は好ましくは2N4Rアイソフォームのものである。
【0034】
Tau-F又はTau441又はhtau40とも呼ばれる2N4RアイソフォームのTauタンパク質のアミノ酸配列は441アミノ酸を含み、P10636-8(配列番号21)の受け入れ番号で2016年11月16日付けのバージョンのUniprotKbデータベース上に見出すことができる。
【0035】
Tau-E又はTau412とも呼ばれる1N4RアイソフォームのTauタンパク質のアミノ酸配列は412アミノ酸を含み、P10636-7(配列番号22)の受け入れ番号で2016年11月16日付けのバージョンのUniprotKbデータベース上に見出すことができる。
【0036】
Tau-D又はTau383とも呼ばれる0N4RアイソフォームのTauタンパク質のアミノ酸配列は383アミノ酸を含み、P10636-6(配列番号23)の受け入れ番号で2016年11月16日付けのバージョンのUniprotKbデータベース上に見出すことができる。
【0037】
Tau-C又はTau410とも呼ばれる2N3RアイソフォームのTauタンパク質のアミノ酸配列は410アミノ酸を含み、P10636-5(配列番号24)の受け入れ番号で2016年11月16日付けのバージョンのUniprotKbデータベース上に見出すことができる。
【0038】
Tau-B又はTau381とも呼ばれる1N3RアイソフォームのTauタンパク質のアミノ酸配列は381アミノ酸を含み、P10636-5(配列番号25)の受け入れ番号で2016年11月16日付けのバージョンのUniprotKbデータベース上に見出すことができる。
【0039】
胎児型Tau又はTau352とも呼ばれる0N3RアイソフォームのTauタンパク質のアミノ酸配列は352アミノ酸を含み、P10636-2(配列番号26)の受け入れ番号で2016年11月16日付けのバージョンのUniprotKbデータベース上に見出すことができる。
【0040】
Tauタンパク質は軸索に局在することが多く、樹状突起に局在することは比較的に少なく、細胞体に局在することは例外的な神経タンパク質である。天然型ではTauは組織化されていない単量体型のタンパク質である。その結果、本発明との関係において「天然型Tau」という用語は単量体型のTauタンパク質を意味し、その反対も成り立つ。天然型のTauタンパク質の機能は、特異的結合ドメイン(3R及び4R)を介して微小管と相互作用し、微小管の集合と安定を促進することである。微小管とのTauタンパク質の相互作用は主にリン酸化によって制御される。Tauは約80か所の潜在的なリン酸化部位を含むリン酸化タンパク質である。Tauタンパク質のリン酸化状態の制御はプロテインキナーゼとプロテインホスファターゼの結合活性の結果である。
【0041】
一般的にTauタンパク質の高リン酸化特に特異的結合ドメイン(3R及び4R)内の高リン酸化によって微小管に対するTauタンパク質の親和性が低下し、それによって微小管の不安定化が引き起こされ、結果として細胞骨格の解体が引き起こされることになり得る。さらに、この高リン酸化によって「タウオパチー」の節において先に説明したよう
にTauの凝集が引き起こされ、したがってNFDの形成が引き起こされることになり得る。
【0042】
当業者はTauタンパク質の異常リン酸化と高リン酸化を区別する。
【0043】
「異常リン酸化」は生理的条件下ではリン酸化の対象ではない部位におけるリン酸化から成る。非生理的エピトープに言及すると、これらは例えばAT100抗体及びTG-3抗体によって認識されるエピトープである。
【0044】
他方、「高リン酸化」という用語は正常な成人の脳におけるレベルよりも高いレベルでの生理的エピトープのリン酸化、又は所与の部位については高いパーセンテージのTauタンパク質がリン酸化されている場合のリン酸化を意味する。
【0045】
Tauタンパク質の高リン酸化によって微小管からのTauの解離及びTauの細胞内濃度の増加が引き起こされる可能性があり、螺旋フィラメント対及び直線状フィラメントが形成されるまでオリゴマー、次に線維の形成が引き起こされ、その線維のもつれが原線維変性を構成する。その結果は神経細胞におけるTauタンパク質の蓄積であり、タウオパチーと呼ばれる20種類を超える様々な神経変性疾患を伴う。Tauタンパク質の蓄積がそのようなタウオパチーの唯一の原因であることもある。
【0046】
非リン酸化Tauタンパク質を使用することによってTauの凝集を研究することが可能であることが当業者に知られている(Xu, S et al. Alzheimer’s Dement. 2010 Mar; 6 (2): 110-7、Kumar S. et al. J Biol Chem. 2014 Jul 18; 289 (29): 20318-32、Flach, K et al. J Biol Chem. 2012 Dec 21; 287 (52): 43223-33)。
【0047】
本発明の発明者らは非リン酸化Tauタンパク質、特にオリゴマー型のものに対する本発明のナノボディを開発した。しかしながら、免疫組織化学によって実証されるように、本発明のナノボディはまたTauタンパク質がリン酸化状態で存在するヒト脳の切片中の神経原線維変性内のTauタンパク質にも特異的に結合する。
【0048】
結果として本発明の1つの実施形態ではTauタンパク質は非リン酸化及び/又はリン酸化されている。
【0049】
ある特定の脳内Tauタンパク質沈積物では前記タンパク質は分解され、N末端部分を失う一方で微小管結合ドメインを保持している可能性もある。この短縮型Tauタンパク質はTauタンパク質のカルボキシ末端部分を含み、したがって出発アイソフォームに依存して3R領域(R1、R2、R3、R4)又は4R領域(R1、R3及びR4)のどちらかを含む。このタンパク質分解によって線維の形成が促進され、次に不溶性になり、且つ、ある特定のタウオパチーの指標でもある螺旋フィラメント対の凝集が促進される。
【0050】
結果として1つの実施形態ではTauタンパク質は、Tauタンパク質のカルボキシ末端部分、特にTauのリピートモチーフのR3領域又はR4領域、好ましくはR3領域を含む短縮型Tauタンパク質である。短縮型Tauタンパク質はN末端ドメインを欠いていることが好ましい。1つの特定の実施形態ではTauタンパク質は上記で規定されているTauの441アミノ酸のうちのアミノ酸306~323に対応するアミノ酸配列VQIVYKPVDLSKVTSKCG(配列番号27)を有するペプチドを含むか、又はそのペプチドから成る。
【0051】
抗Tauナノボディ
本発明との関係において「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は同じ意味を有し、区別なく使用される。従来の抗体では2本の重鎖がジスルフィド架橋によって相互に連結されており、且つ、それぞれの重鎖がジスルフィド架橋によって軽鎖に連結されている。2種類の軽鎖、すなわちラムダ(λ)軽鎖とカッパ(κ)軽鎖が存在する。抗体の機能活性を決定する5種類の主要な重鎖クラス(又はアイソタイプ)、すなわちIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEが存在する。それぞれの鎖は異なる配列を有するドメインを含む。軽鎖は2つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VL)と定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は4つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VH)と3つの定常ドメイン(まとめてCHと呼ばれるCH1、CH2、及びCH3)を含む。重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が結合認識と抗原特異性を決定する。軽鎖定常領域(CL)と重鎖定常領域(CH)のドメインは抗体鎖会合、分泌、経胎盤移行、補体結合、及びFc受容体結合などの重要な生物学的特性を付与する。Fv断片は軽鎖と重鎖の可変部分から成る免疫グロブリンのFab断片のN末端部分である。抗体の特異性は抗体結合部と抗原決定基との間の構造的相補性に依存する。抗体結合部は主に超可変領域又は相補性決定領域(CDR)に由来する残基から構成される。時折、非超可変領域又は「フレームワーク」(FR)領域に由来する残基がそのドメインの全体的構造に影響し、結果として結合部に影響することがあり得る。
【0052】
本発明との関係において「CDR」という用語は免疫グロブリンの天然結合部位の天然Fv領域の結合親和性及び特異性を共に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの重鎖と軽鎖はそれぞれH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3及びL-CDR1、L-CDR2、L-CDR3と表される3つのCDRをそれぞれ有する。したがって、抗原結合部位は重鎖可変領域と軽鎖可変領域の全てのCDRを含む6つのCDRを含む。
【0053】
抗体の配列又はナノボディの配列におけるCDRの位置はこれまでに説明された技術を用いて当業者によって決定され得る。典型的には、それらのCDRは3730XL DNA Analyzer及びABI PRISM BigDye Terminator cycなどの適切な系で抗体又はナノボディのDNAをシーケンシングし、次にInternational ImMunoGeneTics Database又はIMGT(Lefranc (2003) Dev. Comp. Immunol. 27: 55、又はKabat, et al. (Sequences of Proteins
of Immunological Interest (National Institutes of Health、ベセスダ、メリーランド州、1991年))などの専用データベース、好ましくはIMGTを使用して得られた配列を分析することにより特定され得る。
【0054】
本発明との関係において「フレームワーク領域」、「フレームワーク」、又は「FR」という用語はCDR間に挿入されたアミノ酸配列を指す。
【0055】
本発明との関係において「ナノボディ」、「VHH」、「VHH抗体断片」、及び「単一ドメイン抗体」という用語は区別なく使用され、自然状態で軽鎖を欠いているラクダ科動物に見られる種類の抗体の単一の重鎖の可変ドメインを意味する。軽鎖が存在しない状態でナノボディはそれぞれCDR1、CDR2、及びCDR3と呼ばれる3つのCDRを有する。本発明のナノボディは特にラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、又はアルパカのナノボディであり得る。本発明のナノボディはラマナノボディであることが好ましい。
【0056】
本明細書において「Tauタンパク質に対するナノボディ」という表現は「Tau」の節において規定されたようにTauタンパク質に選択的に結合することが可能なナノボディを意味するものとする。そのナノボディはTau特異的であること、すなわち他のあら
ゆる分子を除外するようにTauに結合することが優先される。
【0057】
本発明者らはオリゴマー型、場合によっては線維型のTauタンパク質などの病理型Tauタンパク質に対するナノボディを作製した。それらのナノボディは線維型の短縮型Tauタンパク質を指向することも可能である。
【0058】
特に、本発明者らはオリゴマー型Tauタンパク質を富化したTauタンパク質調製物、線維型Tauタンパク質を富化したTauタンパク質調製物、及び線維型の短縮型Tauタンパク質を富化した短縮型Tauタンパク質調製物でラマを免疫した。その後、本発明者らはTauを指向し、且つ、他の抗Tauナノボディが有さない意外な追加的特徴を有する2つのナノボディを比較的に正確に特定した。具体的にはこれらの2つのナノボディである2C5及びS2T2M3_E6、特に2C5はオリゴマー型、場合によっては線維型のTauを認識する。線維型Tauタンパク質が上記で規定されている短縮型Tauタンパク質であるときにもそのタンパク質は認識される。同時にこれらの2つのナノボディである2C5及びS2T2M3_E6、特に2C5は単量体型である天然型Tauタンパク質には結合しない。加えて、これらの2つのナノボディである2C5及びS2T2M3_E6、特に2C5はアミロイドβペプチド線維に結合しない。
【0059】
結果として1つの好ましい実施形態では本ナノボディはオリゴマー型のTauタンパク質に対するものである。
【0060】
本発明との関係において「オリゴマー」という用語は本出願の実施例において記載されるようなインビトロ線維形成過程によって得られるTau調製物に関する。Tau線維形成(40μM)は緩衝液中、例えば最終体積が1.5mlであることが典型的である典型的にはヘパリン(10μM)とNaN3(4%)が存在する典型的には20mM、典型的にはpH7のMOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)の中で例えば37℃で実施されることが典型的である。その線維形成はオリゴマー型Tauを得るために典型的には48時間後に試料を-80℃で凍結することにより停止されることが典型的である。その厳密な線維形成時間に依存してこのTauタンパク質調製物にはオリゴマー型Tauタンパク質が富化されることになる。
【0061】
「オリゴマー型Tauタンパク質を富化した」という用語はオリゴマー型Tauタンパク質の調製物であって、50%を超えるTauタンパク質がオリゴマー型であるものを意味する。例えば、50%超、55%超、60%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超のTauタンパク質がオリゴマー型である。オリゴマー型Tauタンパク質を富化した調製物は天然型Tauタンパク質及び線維型Tauタンパク質も含むことが当業者に知られている。
【0062】
結果として1つの実施形態ではオリゴマー型Tauタンパク質は単量体型、オリゴマー型、及び線維型のTauタンパク質の混合物であり、その中で50%を超えるTauタンパク質がオリゴマー型であり、特に55%超、60%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超のTauタンパク質がオリゴマー型である。
【0063】
例えばサイズ排除クロマトグラフィーを含む当業者に知られている幾つかの方法を用いてそのような調製物からオリゴマー型Tauタンパク質を精製することが可能であることも当業者に知られている。
【0064】
前記オリゴマーは2個と45個の間のTau単位を含むことが好ましい。2~8個のTau単位を有するオリゴマーは可溶性オリゴマーと呼ばれ、8個より多く、最大で45個のTau単位を有するオリゴマーは顆粒状オリゴマーと呼ばれ、可溶性又は不溶性であり
得る。1つの実施形態ではこれらのオリゴマーは約12~29nmの直径を有する円い小点として原子間力顕微鏡法又は電子顕微鏡法を用いて特徴を描写することができる。
【0065】
別の実施形態ではこれらのオリゴマーは約12~35nmの直径を有する球状の分子であるとサイズ排除クロマトグラフィーを用いて特徴を描写することができる。
【0066】
結果として本発明との関係において「オリゴマー」という用語は2個から最大で50個のTau単位、特に2~20個、好ましくは2~12個のTau単位を有するTauの凝集体又は重合体、例えば二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、九量体、十量体、十一量体、又は十二量体のTau、又は20~45個、好ましくは30~45個のTau単位、例えば35~45個、好ましくは38~42個のTau単位を有する凝集体若しくは重合体を指す。ある特定の実施形態ではTauタンパク質は二量体又は三量体である。ある特定の実施形態ではオリゴマー型Tauタンパク質は可溶性及び/又は不溶性であり、可溶性であることがより好ましい。
【0067】
1つの実施形態では本発明のナノボディは≦20nM、例えば≦10nM、≦8nM、≦7nM、又は≦5nMであるオリゴマー型Tauタンパク質に対する親和性、例えば0.1nM~20nM、特に1nM~10nM、又は1nM~7nM、例えば5nMの親和性を有する。
【0068】
「親和性」という用語は巨大分子とそれが結合する抗原との間の結合能力、特にナノボディとそれが結合する抗原との間、例えば本発明のナノボディと上記で規定されている病理型Tauタンパク質との間の結合能力を意味するものとする。
【0069】
本発明のナノボディが例えばオリゴマー型又は線維型のTauタンパク質に結合する親和性、及びしたがってその結合能力は表面プラズモン共鳴(SPR、特にスウェーデン、ウプサラのPharmacia Biosensor社のBIAcore 2000機器を使用するSPR)をはじめとする幾つかの方法によって、又は例えば実施例に記載されるようにELISAアッセイによってインビトロで測定可能である。
【0070】
1つの実施形態では本発明のナノボディは線維型Tauタンパク質にも結合する。
【0071】
本発明との関係において「線維」という用語は本出願の実施例において記載されるような線維形成過程によって得られるTauタンパク質調製物に関する。Tau(40μM)の線維形成は緩衝液中、例えば最終体積が1.5mlであることが典型的である典型的にはヘパリン(10μM)とNaN3(4%)が存在する典型的には20mM、典型的にはpH7のMOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)の中で例えば37℃で実施されることが典型的である。その線維形成は線維型Tauを得るために典型的には72時間後に試料を-80℃で凍結することにより停止されることが典型的である。したがって、線維型Tauタンパク質のそのような調製物は線維型Tauタンパク質を富化したTauタンパク質調製物である。
【0072】
「線維型のTauを富化した」という用語は線維型Tauタンパク質の調製物であって、50%を超えるTauタンパク質が線維型であるものを意味する。例えば、50%超、55%超、60%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超のTauタンパク質が線維型である。線維型Tauタンパク質を富化した調製物は天然型Tauタンパク質及びオリゴマー型Tauタンパク質も含むことが当業者に知られている。
【0073】
結果として1つの実施形態では線維型Tauタンパク質は単量体型、オリゴマー型、及び線維型のTauタンパク質の混合物であり、その中で50%を超えるTauタンパク質
が線維型であり、特に55%超、60%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超のTauタンパク質が線維型である。
【0074】
例えばサイズ排除クロマトグラフィーを含む当業者に知られている幾つかの方法を用いてそのような調製物から線維型Tauタンパク質を精製することが可能であることも当業者に知られている。
【0075】
本発明との関係において「線維」という用語は、インビボのTau線維形成を模倣しており、したがってNFDを構成する螺旋フィラメント対と直線状フィラメントを模倣している人工的に得られるTauの重合体又は凝集体を表す。その結果、本発明との関係において使用されるTau線維という用語には螺旋フィラメント対及び直線状フィラメントが包含される。これらの線維は糸状の外観を有すると電子顕微鏡法によって特徴付けることができる。1つの実施形態では本発明のナノボディは≦20nM、例えば≦10nM、≦8nM、≦7nM、又は≦6nMである線維型Tauタンパク質に対する親和性、例えば0.1nM~20nM、特に1nM~10nM、又は1nM~8nM、例えば6nMの親和性を有する。
【0076】
別の実施形態では本発明のナノボディは短縮型Tauタンパク質にも結合する。この短縮型タンパク質は線維型であることが好ましく、これをR3ペプチド線維と呼ぶこともできる。短縮型Tauタンパク質は「Tau」の節において先に規定された通りである。特に、この短縮型Tauタンパク質は配列番号27のアミノ酸配列を含むか、又はそのアミノ酸配列から成る。
【0077】
1つの実施形態では本発明のナノボディは≦100nM、例えば≦80nM、≦70nM、≦60nM、又は≦50nMである線維型の短縮型Tauタンパク質に対する親和性、例えば1nM~100nM、特に1nM~80nM、又は40nM~60nM、例えば50nMの親和性を有する。
【0078】
1つの実施形態では本発明のナノボディは≦100nMである線維型の短縮型Tauタンパク質に対する親和性、例えば1nM~100nMの親和性、特に1nM~80nM、1nM~20nMの親和性、例えば10~20nMの親和性を有する。
【0079】
本発明との関係において「線維型の短縮型Tauタンパク質」又は「R3ペプチド線維」は本出願の実施例において記載されるようなインビトロ線維形成過程によって得られるR3ペプチドの調製物に関する。典型的には、R3(0.4μM)の線維形成は、例えば最終体積が1.5mlであるである、典型的にはヘパリン(0.4μM)とNaN3(4%)が存在する緩衝液中、典型的にはpH7のPBS(50mMリン酸緩衝生理食塩水)の中で、例えば37℃で実施される。その線維形成は線維型の短縮型Tau(R3)を得るために典型的には72時間後に試料を-80℃で凍結することにより停止されることが典型的である。
【0080】
一例では線維型の短縮型Tauタンパク質に対する親和性は、例えばリン酸緩衝生理食塩水緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HOP4、1.8mM KH2PO4)であって、例えば1%のBSAを含み、且つ、例えばpH7.5のリン酸緩衝生理食塩水緩衝液の中で例えばELISAにより測定される。
【0081】
本発明者らはまた、本発明のナノボディについて、アルツハイマー病の患者における、海馬、嗅内皮質及び側頭皮質の、細胞体の特異的標識を示した。
【0082】
結果として1つの実施形態では本発明のナノボディは螺旋フィラメント対及び/又は直
線状フィラメントにも結合する。
【0083】
「螺旋フィラメント対」という用語は少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも20個、好ましくは少なくとも40個のTau単位、特に少なくとも50個又は少なくとも60個のTau単位を含む螺旋状に対合したフィラメントを意味する。これらのフィラメントは電子顕微鏡法による観察が可能であり、且つ、8~20ナノメートルの直径、例えば10~20nmの直径と約80nmの螺旋ピッチ、例えば70から最大で90nmの螺旋ピッチを有することが通常である。
【0084】
「直線状フィラメント」という用語は、螺旋状に対合しておらず、且つ、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも20個、好ましくは少なくとも40個のTau単位、特に少なくとも50個又は少なくとも60個のTau単位を含むフィラメントを意味する。これらのフィラメントは電子顕微鏡法による観察が可能であり、且つ、約10ナノメートルの直径、例えば8~17nm、特に9~12nm、例えば10nmの直径を有することが通常である。
【0085】
NFDを構成する螺旋フィラメント対及び直線状フィラメントは可溶性ではない。
【0086】
別の実施形態では本発明のナノボディは重合化アミロイドβ1-42タンパク質と実質的に相互作用しない。
【0087】
1つの実施形態では本ナノボディは単量体型Tauタンパク質と実質的に相互作用しない。
【0088】
オリゴマー型Tauタンパク質に対する親和性と単量体型Tauタンパク質又は重合化アミロイドβ1-42タンパク質に対する親和性が非常に異なっている場合、ナノボディはタンパク質、例えば重合化アミロイドβ1-42タンパク質又は単量体型Tauタンパク質と「実質的に相互作用していない」。一例では単量体型Tauタンパク質に対する親和性は結合応答が非常に弱いために測定不可能である。別の例では同じ実験条件及び同じナノボディ濃度において単量体型Tauとのナノボディの結合応答がオリゴマー型Tauとの同じナノボディの結合応答の5%未満である場合、そのナノボディは単量体型Tauタンパク質又は重合化アミロイドβ1-42タンパク質と実質的に相互作用していない。実際には使用するナノボディ濃度はEC50濃度、又は飽和プラトーに達するために必要な濃度であり得る。
【0089】
例えば、本発明のナノボディの単量体型Tauタンパク質に対する親和性は>1200nM、例えば>1400nM、>1600nM、>1800nM、特に>1800nMである。
【0090】
例えば、本発明のナノボディの重合化アミロイドβ1-42タンパク質に対する親和性は>5000nM、例えば>8000nM、>9000nM、>10000nM、特に>10000nMである。
【0091】
本発明のナノボディはシーケンシングされている。
2C5ナノボディは次のアミノ酸配列を有する。
QVQLVQSGGGLVQAGGSLRLSCAASGRTFSSDTLAWFRQAPGKEREFVASISPSGGVTYYEDSVKGRFTISRDNSKNTVLLQMNSLTPEDTAVYYCNRDPKYGNTRYWGQGTQVTVSS(配列番号9)
S2T2M3_E6ナノボディは次のアミノ酸配列を有する。
EVQLVESGGGLVQAGGSLRLSCAASGRTFSRYAMGWFRQAPGKEREFVASISRSGGSTRYADAVKGRFTISRDNTNNTVYLLMNNLKPEDTAVYYCTARRRISGTPQWHYWGQGTQVTVSS(配列番号10)
【0092】
これらの2つのナノボディのCDRはさらに特異的にシーケンシングされており、それらは以下のものである。
【0093】
2C5
CDR1:GRTFSSDT(配列番号3)
CDR2:ISPSGGVT(配列番号4)
CDR3:NRDPKYGNTRY(配列番号5)
S2T2M2_E6
CDR1:GRTFSRYA(配列番号6)
CDR1:ISRSGGST(配列番号7)
CDR1:TARRRISGTPQWHY(配列番号8)
【0094】
当業者によく知られているように抗原結合部位を規定するためにはCDR1、CDR2、及びCDR3の組合せで充分である。同じ抗原を認識する2つのナノボディはこの抗原への結合について競合していることも当業者に知られている。
【0095】
結果として本発明の対象は病理型、特にオリゴマー型のTauタンパク質に対するナノボディであって、
(i)アミノ酸X1がS又はRであり、アミノ酸X2がD又はYであり、且つ、アミノ酸X3がT又はAであるアミノ酸配列GRTFSX1X2X3(配列番号1)をCDR1として含み、
(ii)アミノ酸X1がP又はRであり、且つ、アミノ酸X2がS又はVであるアミノ酸配列ISX1SGGX2T(配列番号2)をCDR2として含み、且つ、
(iii)アミノ酸配列NRDPKYGNTRY(配列番号5)又はTARRRISGTPQWHY(配列番号8)をCDR3として含む
ナノボディであって、オリゴマー型Tauタンパク質への結合について競合する前記ナノボディに関する。
【0096】
Tauタンパク質、例えばオリゴマー型Tauへの結合について上記で規定されている2C5ナノボディ及び/又はS2T2ME_E6ナノボディのCDRを含むナノボディ(以後、「基準」ナノボディ)と競合する候補ナノボディの能力は、例えば、抗原(すなわちオリゴマー型Tauタンパク質)が固相支持体に結合しており、且つ、候補ナノボディと基準ナノボディをそれぞれ含む2種類の溶液が添加され、且つ、それらのナノボディが抗原に結合するために競合することになる競合ELISAによって容易に検証され得る。その後、その抗原に結合した基準ナノボディの量を測定し、陰性対照(例えば候補ナノボディを欠く溶液)に対して測定したときの前記抗原に結合した基準ナノボディの量と比較することができる。陰性対照が存在する状態で結合した基準ナノボディの量と比較して候補ナノボディが存在する状態で結合した基準ナノボディの量が減少することは、オリゴマー型Tauタンパク質への結合について候補ナノボディが競合することを示している。結合した基準ナノボディの検出を容易にするために(例えば蛍光により)基準ナノボディが標識可能であることが理想的である。候補ナノボディ及び/又は基準ナノボディの連続希釈物を使用して反復測定することが可能である。
【0097】
本発明の別の対象では本発明は病理型、特にオリゴマー型のTauタンパク質に対するナノボディであって、
(a)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSSDT(配列番号3)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISPSGGVT(配列番号4)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)NRDPKYGNTRY(配列番号5)を含むナノボディ、又は(b)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSRYA(配列番号6)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISRSGGST(配列番号7)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)TARRRISGTPQWHY(配列番号8)を含むナノボディから選択されるナノボディであって、オリゴマー型Tauタンパク質への結合について競合する前記ナノボディに関する。
【0098】
本発明の対象はTauタンパク質に対するナノボディであって、
(i)アミノ酸X1がS又はRであり、アミノ酸X2がD又はYであり、且つ、アミノ酸X3がT又はAであるアミノ酸配列GRTFSX1X2X3(配列番号1)をCDR1として含み、
(ii)アミノ酸X1がP又はRであり、且つ、アミノ酸X2がS又はVであるアミノ酸配列ISX1SGGX2T(配列番号2)をCDR2として含み、且つ、
(iii)アミノ酸配列NRDPKYGNTRY(配列番号5)又はTARRRISGTPQWHY(配列番号8)をCDR3として含む
アミノ酸配列を含む前記ナノボディに関する。
【0099】
本発明はTauタンパク質に対するナノボディであって、
(a)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSSDT(配列番号3)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISPSGGVT(配列番号4)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)NRDPKYGNTRY(配列番号5)を含むナノボディ、又は
(b)CDR1としてのアミノ酸配列(i)GRTFSRYA(配列番号6)、CDR2としてのアミノ酸配列(ii)ISRSGGST(配列番号7)、及びCDR3としてのアミノ酸配列(iii)TARRRISGTPQWHY(配列番号8)を含むナノボディ、又は
配列番号3、配列番号4、及び配列番号5の配列、又は配列番号6、配列番号7、及び配列番号8の配列のうちの1つ、2つ、又は3つの配列においてそれぞれ1アミノ酸又は2アミノ酸の保存的置換を含む、(a)又は(b)において規定されるナノボディの機能保存的変異体
にも関する。
【0100】
1つの好ましい実施形態ではこのTauタンパク質はオリゴマー型であり、場合によっては線維型である。
【0101】
本発明者らは2C5ナノボディ及びS2T2M2_E6ナノボディの「フレームワーク」(FR)領域をシーケンシングした。対応する配列は以下のものである。
【0102】
2C5
FR1領域:QVQLVQSGGGLVQAGGSLRLSCAAS(配列番号11)
FR2領域:LAWFRQAPGKEREFVAS(配列番号12)
FR3領域:YYEDSVKGRFTISRDNSKNTVLLQMNSLTPEDTAVYYC(配列番号13)
FR4領域:WGQGTQVTVSS(配列番号14)
【0103】
S2T2M2_E6
FR1領域:EVQLVESGGGLVQAGGSLRLSCAAS(配列番号15
)
FR2領域:MGWFRQAPGKEREFVAS(配列番号16)
FR3領域:RYADAVKGRFTISRDNTNNTVYLLMNNLKPEDTAVYYC(配列番号17)
FR4領域:WGQGTQVTVSS(配列番号18)
【0104】
1つの特定の実施形態では本発明は病理型、特にオリゴマー型のTauタンパク質に対するナノボディであって、配列番号9及び配列番号10のアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む複数のナノボディから選択されるナノボディとオリゴマー型Tauタンパク質への結合について競合する前記ナノボディに関する。
【0105】
1つの特定の実施形態では本発明は本発明者らによって特定されたナノボディのうちの1つの上記で規定されているFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の一連の配列を含むか、又はその一連の配列から成るナノボディに関する。
【0106】
したがって、本発明のナノボディは配列番号9及び配列番号10のアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそのアミノ酸配列から成るナノボディであるか、又は配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列にそれぞれ含まれるCDRのうちの1つ、2つ、又は3つのCDRにおいてそれぞれ1アミノ酸又は2アミノ酸の保存的置換を含む前記ナノボディの機能保存的変異体であることが好ましい。上記で規定されている機能保存的変異体は1つ以上の置換を含んでもよく、特に配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列のそれぞれのCDRではない領域、例えば「フレームワーク」領域、特に、上で規定された「フレームワーク」領域に1つ以上の保存的置換を含んでもよい。本発明のナノボディは配列番号9及び配列番号10のアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそのアミノ酸配列から成るナノボディであることがより好ましい。本発明のナノボディは配列番号9のアミノ酸配列を含むか、又はそのアミノ酸配列から成るナノボディであることが最も好ましい。
【0107】
本発明との関係において「機能保存的変異体」という表現は本発明のナノボディ内の所与のアミノ酸がそのナノボディの全体的な立体構造及び機能を損なわずに置換されている、1つのアミノ酸の類似する特性(例えば極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香族基の存在など)を有する別のアミノ酸による置換を含む変異体を指す。類似の特性を有するアミノ酸は当業者によく知られている。例えば、アルギニン、ヒスチジン、及びリシンは親水性塩基性アミノ酸であり、相互に置き換え可能である。同様にイソロイシンは疎水性アミノ酸であり、ロイシン、メチオニン、又はバリンによって置き換え可能である。そのような変更はそのナノボディの見かけの分子量又は等電点にほとんど、又は全く影響を与えないことが必要である。D体のアミノ酸、又はβ-アミノ酸若しくはγ-アミノ酸などの非天然アミノ酸によって天然アミノ酸を置き換えることが可能である。
【0108】
保存的置換の例を下の表1に示す。
【0109】
【0110】
あるいは保存的 アミノ酸 を下の表2に示されているようにLehninger(1975年、Biochemistry、第2版、Worth Publishers社、ニューヨーク、ニューヨーク州、71~77頁)に記載されるようなグループに分けることができる。
【0111】
【0112】
別の代替法により保存的置換の例を下の表3に示す。
【0113】
【0114】
これらの機能保存的変異体はTauタンパク質、特にオリゴマー型、場合によっては線維型のTauタンパク質に結合する能力を保持している。これらの機能保存的変異体は対応するナノボディと比較して同等以上のTau、特にオリゴマー型、場合によっては線維型のTauとの結合親和性を有することが優先される。
【0115】
目的のナノボディのアミノ酸配列は当業者に知られているので当業者は従来のポリペプチド作製技術によって本発明のナノボディ、特に上で規定された2C5ナノボディ及びS2T2M2_E6ナノボディを作製することが可能である。例えば、周知の固相合成方法(Merrifield (1962) Proc. Soc. Ex. Boil.
21: 412; Merrifield (1963) J. Am. Chem. Soc. 85: 2149、Tam et al. (1983) J. Am. Chem. Soc. 105: 6442)を用いて、好ましくは市販のペプチド合成機(カリフォルニア州フォスターシティーのApplied Biosystems社製のペプチド合成機等)を使用し、製造業者の指示に従ってそれらのナノボディを合成することが可能である。
【0116】
あるいは本発明のナノボディは当業者に周知の組換えDNA技術(Maniatis et al. (1982) Molecular Cloning: a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories、ニューヨーク州、51~54頁及び412~430頁)によって合成可能である。例えば、目的のポリペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、その目的のポリペプチドを発現することになる適切な原核生物又は真核生物の宿主にこれらのベクターを導入した後にDNA発現産物として本発明のナノボディを得ることができ、当業者に周知の技術を用いて前記宿主から本発明のナノボディを単離することが可能である。当業者によく知られているように組換えDNA技術によってタンパク質を合成する場合、そのタンパク質の精製を容易にするタグを連結してそのタンパク質を合成することが一般的である。そのようなタグは当業者によく知られており、例えば、ヘキサヒスチジン(6His)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、mycタグ、又はインフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)がそのようなタグに含まれる。本発明のナノボディはmycタグ及び/又はヘキサヒスチジンタグを含むことが好ましい。結果として本発明の対象は、配列番号9及び配列番号10の配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそのアミノ酸配列から成り、C末端又はN末端、好ましくはC末端にmycタグ及び/又は6ヒスチジン残基タグ、より好ましくはmycタグと6ヒスチジン残基タグも含むナノボディからも成る。当業者によく知られているようにタンパク質の精製を容易にするタグにそのタンパク質を連結する場合、そのようなタンパク質はそのタンパク質とこのタグの間での酵素切断を可能にする配列をその天然配列とこのタグの間に含む。したがって、配列番号19及び配列番号20の配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むか、又はそのアミノ酸配列から成るナノボディは本発明の一部である。
【0117】
本発明の別の対象は本発明のナノボディをコードする核酸配列を含む核酸に関する。
【0118】
1つの特定の実施形態では本発明の核酸は配列番号9又は配列番号10のアミノ酸配列のうちの1つによって規定されるナノボディをコードする核酸配列を含むか、又はその核酸配列から成る。本発明の核酸は配列番号9のアミノ酸配列によって規定されるナノボディをコードする核酸配列を含むか、又はその核酸配列から成ることが好ましい。
【0119】
前記核酸はDNA分子又はRNA分子であることが典型的であり、その分子はプラスミドベクター、コスミドベクター、エピソームベクター、人工染色体ベクター、ファージベクター、又はウイルスベクターなどのあらゆる適切なベクターに包含可能である。
【0120】
「ベクター」、「クローニングベクター」、及び「発現ベクター」という用語は宿主を形質転換し、導入した配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進するように宿主細胞にDNA配列又はRNA配列を導入することを可能にする担体を意味する。
【0121】
結果として本発明の別の対象は本発明の核酸を含むベクターに関する。
【0122】
そのようなベクターはポリペプチドの発現を引き起こすため、又はその発現を管理するためにプロモーター、アクチベーター、ターミネーター等の調節配列を含むことができる。動物細胞用の発現ベクターに使用されるプロモーター及びアクチベーターの例にはSV
40初期プロモーター及びアクチベーター(Mizukami et al. (1987) J. Biochem. 101: 1307-1310)、モロニーマウス白血病ウイルスLTRプロモーター及びアクチベーター、免疫グロブリン鎖プロモーター(Mason et al. (1985) Cell 41: 479-487)及びアクチベーター(Gillies et al. (1983) Cell 33: 717-728)等が挙げられる。
【0123】
動物細胞用のあらゆる発現ベクターが使用可能である。適切なベクターの例にはpAGE107(Miyaji et al. (1990) Cytotechnology
3: 133-140)、pAGE103(Mizukami et al. (1987) J. Biochem. 101: 1307-1310)、pHSG274(Brady et al. (1984) Gene 27: 223-232)、pKCR(O’Hare et al. (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527-1531)、pSG1βd2-4(Miyaji et al. (1990) Cytotechnology 3: 133-140)等が挙げられる。
【0124】
プラスミドの他の例には、例えばpUC、pcDNA、pBR等のような、複製起点を含む複製性プラスミド又は組込みプラスミドが挙げられる。
【0125】
ウイルスベクターの他の例にはアデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、及びAAVベクターが挙げられる。そのような組換えウイルスは当業者に周知の技術によって作製可能であり、例えばパッケージ細胞の形質移入、又はヘルパープラスミド若しくはヘルパーウイルスとの一時的形質移入によって作製可能である。ウイルスパッケージ細胞の典型的な例にはPA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞等が挙げられる。そのような複製欠損組換えウイルスを作製する詳細なプロトコルを例えば国際公開第95/14785号パンフレット、国際公開第96/22378号パンフレット、米国特許第5882887号明細書、米国特許第6013516号明細書、米国特許第4861719号明細書、米国特許第5278056号明細書、及び国際公開94/19478号パンフレットに見出すことが可能である。
【0126】
本発明の別の対象は本発明の核酸及び/又はベクターで形質移入された、形質導入された、又は形質転換された細胞に関する。
【0127】
「形質転換」という用語は「外来性」(すなわち外因性又は細胞外性)遺伝子又はDNA配列又はRNA配列の宿主細胞への導入によってその宿主細胞が目的の物質、典型的には導入された遺伝子又は配列がコードするタンパク質を産生するようにその導入された遺伝子又は配列を発現することを意味する。導入されたDNA又はRNAを受容し、且つ、発現する宿主細胞は「形質転換」されている。
【0128】
本発明の核酸は適切な発現系において本発明のナノボディを産生するめに使用可能である。「発現系」という用語は適切な条件下で適合可能な宿主細胞とベクター、例えばベクターによって担持され、且つ、宿主細胞に導入される外来性DNAによってコードされるタンパク質の発現のためのそのベクターとその宿主細胞を意味する。
【0129】
従来の発現系には大腸菌宿主細胞とプラスミドベクター、昆虫宿主細胞とバキュロウイルスベクター、及び哺乳類宿主細胞とそれらの細胞のベクターが挙げられる。宿主細胞の他の例には原核細胞(細菌等)及び真核細胞(酵母細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞等)が挙げられる。具体的な例には大腸菌、クリベロマイセス属又はサッカロマイセス属の酵母、及び哺乳類細胞株(例えばVero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細
胞等)が挙げられ、初期哺乳類細胞培養物又は樹立哺乳類細胞培養物(例えばリンパ芽球、線維芽細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞等から作製された培養物)も挙げられる。マウスSP2/0-Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子欠損CHO細胞、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662)等も例に挙げられる。
【0130】
本発明は、本発明のナノボディを発現する組換え宿主細胞を作製するための方法であって、
(i)上記の核酸をコンピテント宿主細胞にインビトロ又はエクスビボで導入する工程、
(ii)得られた前記組換え宿主細胞をインビトロ又はエクスビボで培養する工程、及び
(iii)所望により前記ナノボディを発現及び/又は分泌する前記細胞を選別する工程
を含む前記方法にも関する。本発明のナノボディの生産のためにそのような組換え宿主細胞を使用することができる。
【0131】
当業者に知られているあらゆる技術、例えばあらゆる化学的、生物学的、遺伝的、又は酵素的技術を単独で、又は組み合わせることにより本発明のナノボディを生産することができる。
【0132】
特に、本発明は、本発明のナノボディを生産するための方法であって、
(i)前記ナノボディを発現させるために適切な条件下で本発明の形質導入細胞又は形質移入細胞又は形質転換細胞を培養する工程、及び
(ii)発現した前記ナノボディを回収する工程
を含む前記方法にも関する。
【0133】
本発明のナノボディは従来の免疫グロブリン精製法、例えばプロテインAセファロース、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティー透析又はアフィニティークロマトグラフィー等によって培地から適切に分離可能である。
【0134】
標識化ナノボディ
本発明のナノボディは、医用イメージングに特に有用である。この関係で検出可能マーカーにナノボディを連結させることが特に有利である。本発明者らは2C5ナノボディ及びS2T2M3_E6ナノボディ、特に2C5ナノボディが検出可能マーカーに連結されているときにそれらの特性を保持していることを示した。
【0135】
したがって、本発明は検出可能マーカーに結合した上記で規定されているナノボディにも関する。
【0136】
本明細書において「検出可能マーカーに結合したナノボディ」という用語は、その検出可能マーカーが直接的または間接的に、例えば切断可能リンカーペプチド又は非切断可能リンカーペプチドを介してそのナノボディに結合しているか、又はそのナノボディに組み込まれていることを意味するものとする。特にその検出可能マーカーは置換(例えばチロシン残基のレベルでHをIに置換することにより)、複合体化又はキレート化によりそのナノボディに結合可能である。
【0137】
本明細書において「検出可能マーカー」という用語は検出可能なシグナルを発する化合物を意味するものとする。トレーサーに連結するとそのトレーサーに起こることを生体内
でモニターすることが可能になる。検出可能マーカーMRI造影剤、シンチグラフィー造影剤、X線撮影造影剤、超音波診断造影剤、光学イメージング造影剤であり得る。検出可能マーカーの例には放射性元素;フルオレセイン、アレクサ(Alexa)又はシアニンなどのフルオロフォア;ルミノールなどの化学発光化合物;ルシフェラーゼ又はアルカリホスファターゼなどの生物発光化合物;及びナノパーティクル又はガドリニウムなどの造影剤が挙げられる。適切な検出可能マーカーの選択は使用する検出系に依存し、当業者の範囲内にある。例として、検出系がMRIである場合には、検出可能マーカーは酸化鉄ナノ粒子又はガドリニウムであることが好ましく;検出系が蛍光イメージングである場合に検出可能マーカーはフルオレセイン、アレクサ(Alexa)又はシアニンであることが好ましく;検出系が化学発光イメージングである場合に検出可能マーカーはルミノールであることが好ましく;検出系が生物発光イメージングである場合に検出可能マーカーはルシフェラーゼ又はアルカリホスファターゼであることが好ましく;検出系が核イメージングである場合に検出可能マーカーは放射性元素、例えばPETイメージング向けのガリウム(68Ga)又はSPECTイメージング向けのテクネチウム99m(99mTc)であることが好ましい。
【0138】
前記検出可能マーカーは放射性元素であることが好ましい。放射性元素の例、中でも特に核イメージング法に使用される放射性元素の例にはテクネチウム99m(99mTc)、ヨウ素123(123I)、ヨウ素125(125I)、フッ素18(18F)、ガリウム68(68Ga)、及びヒトに使用可能な他のあらゆる放射性元素が挙げられる。結果として前記放射性元素は99mTc、123I、125I、18F、及び68Gaからなる群より選択されることが好ましい。前記放射性元素は99mTc又は68Gaであることがより好ましく、99mTcであることが最も好ましい。
【0139】
造影剤としての使用
本発明者らは2C5ナノボディによってアルツハイマー病の患者及び純粋タウオパチーの患者の海馬、嗅内皮質及び側頭皮質の神経細胞体が特異的に標識されることを示した。したがって、本発明者らは本発明のナノボディ、特に2C5が病理型Tauタンパク質、特に早期病理型Tau、例えばオリゴマー型、場合によっては線維型のTauに特異的なトレーサーを構成し、イメージングによるその検出を可能にすることを示した。
【0140】
したがって、医用イメージング、特に非侵襲的インビボ医用イメージングにおいて造影剤として使用される上記で規定されているナノボディが本発明により提供される。
【0141】
本発明は医用イメージング、特に非侵襲的インビボ医用イメージングに使用される造影剤を製造するための上記で規定されているナノボディの使用にも関する。
【0142】
本明細書において「造影剤」という用語は生体に投与されると医用イメージング時に造影剤が無いとほとんど見えないか、又は全く見えない器官又は構造体(組織、細胞、受容体)を検出できるように標識することを可能にする物質又は組成物を意味するものとする。さらに言うと、上記で規定されているマーカーに連結されたトレーサーを意味するために「造影剤」という表現が使用される。
【0143】
本発明との関係において「イメージング法」は生体の内側又は生体の器官を画像化することを可能にする方法を指す。イメージング法の例には血管内エコー法などの侵襲性技法、並びに磁気共鳴イメージング法、X線撮影、超音波診断、光学イメージングなどの非侵襲性技法、又はシンチグラフィー、特に単一光子放射断層撮影(SPECT)及び陽電子放射断層撮影法(PET)などの核医学が挙げられる。本発明のイメージング法はシンチグラフィー、特にSPECT又はPETシンチグラフィーであることが好ましい。
【0144】
シンチグラフィーは放射性元素で標識されたトレーサーから成る放射性医薬品とも呼ばれる造影剤の投与(一般的には静脈内投与)に基づいている。次に放射されるγ線又はβ線を検出することにより生体内でのこの造影剤の特異的局在を決定する。
【0145】
単一光子放射断層撮影及び陽電子放射断層撮影法はシンチグラフィーに基づき、且つ、患者の周りを回転する一組のカメラによって器官とそれらの代謝の三次元画像と再構成像を作り出すことを可能にする断層撮影核医用イメージング法である。
【0146】
本発明は上記で規定されているナノボディを患者に投与する医用イメージング法、特に非侵襲的インビボ医用イメージング法にも関する。本発明の医用イメージング法は患者の体の領域における前記ナノボディの結合又は結合の不在を検出する工程、及びナノボディの結合を検出することができる患者の体の領域を画像化する工程を含むこともできる。
【0147】
本発明との関係において「患者」はヒト、又はげっ歯類動物(ラット、マウス、ウサギ)、霊長類動物(チンパンジー)、ネコ科動物(ネコ)、若しくはイヌ科動物(イヌ)などの非ヒト哺乳類動物を意味する。前記個体はヒトであることが好ましい。
【0148】
1つの特定の実施形態では「患者」という用語はタウオパチーに関連する症状を提示するヒトを意味する。タウオパチーに依存してこれらの症状は例えばパーキンソン症候群、軸性ジストニア、エイリアンハンド現象、又は患者の認知障害であり得る。
【0149】
当業者に知られているあらゆる投与方法を使用して本発明のナノボディを患者に投与することが可能である。特に、本ナノボディは例えば吸入により経口的に、又は(特に静脈内注射により)非経口的に投与可能である。非経口経路が選択された場合、ナノボディは注射可能な溶液及び懸濁液の形態であり得、ナノボディをバイアル又はボトルに詰めることができる。非経口投与剤形は本発明のナノボディを緩衝剤、安定化剤、保存剤、可溶化剤、等張剤、及び懸濁化剤と混合することにより従来通りに得られる。公知の技術によってこれらの混合物を滅菌し、静脈内注射剤形に包装することができる。当業者は例えばリン酸塩系緩衝液を緩衝剤として使用することができる。懸濁化剤の例にはメチルセルロース、アカシアガム、及びナトリウムカルボキシメチルセルロースが挙げられる。安定化剤の例には亜硫酸ナトリウム及び二亜硫酸ナトリウムが挙げられ、保存剤の例にはp-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、クレゾール、及びクロロクレゾールが挙げられる。
【0150】
投与されるナノボディの量は投与経路、患者の身長及び/又は体重、並びに使用する検出法に当然に依存する。
【0151】
本発明との関係において「体の領域」という用語は生物の所与の領域を指す。体の領域は例えば器官、器官の一部、又は組織、例えば脳、特に海馬、嗅内皮質、又は側頭皮質であり得る。
【0152】
1つの特定の実施形態では本発明のナノボディは患者の病理型Tauタンパク質を画像化するため、特にオリゴマー、線維、螺旋フィラメント対、及び直線状フィラメントから選択される形態、好ましくはオリゴマー及び線維、さらにより好ましくはオリゴマーの形態のTauを画像化するための医用イメージングの造影剤として使用される。
【0153】
1つの実施形態では、本発明のナノボディは患者の神経原線維変性(NFD)を画像化するための医用イメージングの造影剤として使用される。
【0154】
一例では、例えば皮質におけるNFDの分布と数が、例えばADの患者の記憶障害と相
関する。
【0155】
診断的使用
上記で規定されている病理型Tauタンパク質の出現がタウオパチーのマーカーである。加えて、病理型Tauの検出、特に早期病理型、例えばオリゴマー、場合によっては線維型のTauタンパク質の検出によってタウオパチーのうちの1つの疾患の進展又は発症にかかわる有毒型の存在を特定することが可能になる。したがって、病理型、特に早期病理型、例えばオリゴマー、場合によっては線維型のTauを特定することがタウオパチーの特徴を解析し、且つ/又はタウオパチーの発生を特定することになる。さらに、以前に特定された病理型Tauの進展、すなわち進行又は退行をイメージングによりモニターできることがタウオパチーと診断された患者における治療の効力を評価するための方法に相当する。
【0156】
したがって、本発明は診断法又は予後診断法において使用される上記で規定されているナノボディにも関する。
【0157】
本明細書において「診断方法」又は「診断」という用語は個体が病気を患っているか判断することを可能にする方法を意味するものとする。
【0158】
本明細書において「予後診断方法」又は「予後診断」という用語は個体が病気を発症する危険性を有するか判定することを可能にする方法を意味するものとする。
【0159】
タウオパチーの診断又は予後診断のために上記で規定されているナノボディを使用することが好ましい。
【0160】
タウオパチーは上記で規定された通りである。アルツハイマー病の診断又は予後診断のために本発明のナノボディを使用することが好ましい。
【0161】
例えばオリゴマー型Tauが存在することで対象はタウオパチー、特にアルツハイマー病を発症するリスクにさらされる。したがって、本発明のナノボディは患者におけるタウオパチー、特にアルツハイマー病の発生リスクを検出するために利用可能である。
【0162】
本明細書において「発生リスク」という用語は個体が病気を発症する確率を意味するものとする。
【0163】
本発明は患者におけるタウオパチーの診断及び/又はタウオパチーの発生リスクの検出のための方法であって、上記で規定されているナノボディを前記患者に投与する工程、及び前記患者の体内の前記ナノボディを検出する工程を含み、脳における前記ナノボディの優先的局在の検出がタウオパチーの指標、及び/又はタウオパチーの発生リスクの指標である前記方法にも関する。
【0164】
1つの実施形態では前記方法はアミロイドプラークマーカーを前記患者に投与する工程、及び前記患者の体内の前記アミロイドプラークマーカーを検出する工程も含み、脳における前記ナノボディ及び前記アミロイドプラークマーカーの優先的局在の検出がタウオパチーの指標、及び/又はタウオパチー、特にアルツハイマー病の発生リスクの指標である。
【0165】
結果として本発明は患者におけるタウオパチー、特にアルツハイマー病の診断、及び/又はタウオパチー、特にアルツハイマー病の発生リスクの検出のための方法であって、
(i)前記患者に本発明のナノボディを投与し、前記患者の体内の前記ナノボディを検出
する工程、及び
(ii)前記患者にアミロイドプラークマーカーを投与し、前記患者の体内の前記アミロイドプラークマーカーを検出する工程
を含み、脳における前記ナノボディ及び前記アミロイドプラークマーカーの優先的局在の検出がタウオパチー、特にアルツハイマー病の指標、及び/又はタウオパチー、特にアルツハイマー病の発生リスクの指標である前記方法にも関する。
【0166】
1つの実施形態ではタウオパチーの診断のためのこれらの方法はインビボの方法である。
【0167】
「アミロイドプラークマーカー」という用語はアミロイドプラークに特異的に結合する検出可能マーカーに結合されており、且つ、非侵襲的インビボ医用イメージングの造影剤として使用可能であるトレーサーを意味するものとする。アミロイドプラークマーカーは例えば18F-フロルベタピル(florbetapir)、18F-フロルベタベン(florbetaben)、18F-フルテメタモル(flutemetanol)、及び18F-AZD4694マーク(marque)などの18Fトレーサーである。
【0168】
特定のタウオパチーに依存した病理型Tauの存在によって影響を受ける脳の領域が先行技術文献に記載されており、したがって当業者に知られている。神経原線維変性又は他の病理型Tauの脳における局在、及びおそらくはアミロイドプラークの脳における局在が数種類のタウオパチーについて例えばCatafau, AM及びBullich, S(Clin Transl Imaging. 2015; 3 (1): 39-55.2015年1月21日に電子出版)又はTranchant, C.(medicine/sciences A1997; 13: 989-97)内に記載されている。
【0169】
「優先的局在」という用語は脳内、特に例えば海馬、前頭新皮質、嗅内皮質、及び側頭皮質の神経細胞体に検出されるナノボディの量が生体内におけるナノボディの非特異的局在に相当するバックグラウンドノイズよりも多いことを意味するものとする。
【0170】
例えば、進行性核上性麻痺は脳幹及び前頭新皮質におけるNFDの存在を特徴とする。
【0171】
別の例では大脳皮質基底核変性症は頭頂皮質におけるNFDの存在を特徴とする。
【0172】
別の例ではアルツハイマー病は嗅内皮質構造体におけるNFDの存在を特徴とする。
【0173】
本発明はタウオパチーと診断された対象におけるタウオパチーの治療モニタリングに使用される本発明のナノボディにも関する。
【0174】
本発明はタウオパチーと診断された対象におけるタウオパチーの治療モニタリングに使用される造影剤を製造するための本発明のナノボディの使用にも関する。
【0175】
本明細書において「治療モニタリング」という用語は対象に施された治療に対する前記対象の応答の観察を意味するものとする。治療の治療効果には疾患の進行の遅延化又は抑制、又は疾患若しくはこの疾患に付随する1つ以上の症状の反転が伴うことが一般的である。逆に、治療効果の不在によって疾患又はその疾患の症状のうちの1つ以上の安定した進行又は進行の加速化さえ生じ得る。例えば、病理型Tauの存在によってタウオパチーが診断されている場合、病理型Tauの消失、退化、維持、又は成長を観察することにより治療モニタリングを実施することができる。したがって、本発明に従う使用は
(a)病理型Tauが検出された対象に上記で規定されているナノボディを投与する工程、
(b)前記病理型Tauへのナノボディの結合を検出する工程、
(c)前記対象への加療の前後に工程(a)と(b)を繰り返す工程
を含んでよく、前記病理型Tauに対する前記ナノボディの結合の不在又は減少が治療効果を有する治療の指標である。
【0176】
「病理型Tau」は上の「タウオパチー」の節で規定された通りである。
【0177】
前記治療はタウオパチーの治療であり、且つ、例えばTau凝集阻害剤の使用を含むことが好ましい。別の例ではタウオパチーの前記治療は本発明のナノボディの使用を含む。
【0178】
医薬としての使用
近年、病理型Tau、例えば細胞外性有毒型Tauは漸進的な神経細胞の汚染による脳におけるADなどのタウオパチーの進展に関与する(Goedert et al., 2014)有毒型のTau(Usenovic et al., 2015)であることが示された。その結果、有毒型のTauの凝集を阻害し、それにより螺旋フィラメント対(PHF)及び直線状フィラメント(SF)の形成を阻害するために有毒型のTauをターゲティングすることがタウオパチー、特にアルツハイマー病の有望な治療法である。
【0179】
結果として本発明は医薬、特にタウオパチーの治療を目的とした医薬を製造するための上記で規定されているナノボディの使用にも関する。上記で規定されているナノボディの治療有効量の必要とする患者への投与を含む治療方法も本発明の一部である。
【0180】
したがって、抗Tauナノボディの使用によりTau凝集の進行を抑制することが可能になる。
【0181】
タウオパチーの「治療」という用語はタウオパチーの進行の遅延化又は抑制を含むタウオパチーの「治療的処置」(又は治癒的処置)を意味するものとする。その用語は特にNFD形成の抑制を含むタウオパチーの「予防的処置」も意味するものとする。
【0182】
「予防」という用語はタウオパチーに付随する臨床的又は生化学的兆候の発生の防止又は遅延化、又はそれらの兆候の強度の低下を意味するものとする。
【0183】
当業者は、一般的な知識に基づき、所与のタウオパチーと関連する、且つ、改善(治療)可能であるか、そうでなければ予防、遅延化、又は強度の低下(予防)が可能である、臨床的又は生化学的兆候の判定方法知っている。タウオパチーとの関係では目的の生物学的パラメーターは病理型Tau、特に早期病理型Tau、例えば、オリゴマー型Tauタンパク質、場合によっては線維型Tauの存在と局在であり得る。
【0184】
本発明は、中でも特に、タウオパチーの治療及び/又はタウオパチーの予防、好ましくはアルツハイマー病の治療及び/又は予防のために使用される上記で規定されているナノボディに関する。
【0185】
本発明はタウオパチーを提示しやすい患者におけるタウオパチーの治療及び/又はタウオパチーの予防を目的とした医薬の製造のための上記で規定されているナノボディの使用にも関する。
【0186】
本発明は必要とする患者におけるタウオパチーの治療のため及び/又はタウオパチーの予防のための方法であって、上記で規定されているナノボディの治療有効量の必要とする患者への投与を含む前記方法にも関する。
【0187】
本発明のナノボディは病理型Tau、特に早期病理型、例えばオリゴマー型Tau、場合によっては線維型Tauを治療するために使用されることが優先される。
【0188】
本発明のナノボディは、適切な形態で例えば経口的に、吸入により、非経口的に(特に静脈内注射により)、投与可能である。非経口経路を考えると、本ナノボディは、バイアル又はボトルに詰められた、注射可能な溶液及び懸濁液の形態であってよい。非経口投与のための剤形は本ナノボディを緩衝剤、安定化剤、保存剤、可溶化剤、等張剤、及び懸濁化剤と混合することにより従来通りに得られる。公知の技術によって後にこれらの混合物を滅菌し、静脈内注射剤形に包装する。緩衝剤として当業者は有機リン酸塩系の緩衝剤を使用してよい。懸濁化剤の例にはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アカシアガム、及びナトリウムカルボキシメチルセルロースが包含される。また、本発明に従って使用される安定化剤は亜硫酸ナトリウム及び二亜硫酸ナトリウムであり、保存剤としてp-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、クレゾール、及びクロロクレゾールに言及することができる。
【0189】
投与されるナノボディの量は投与方法、患者の身長及び/又は体重、及びナノボディと組み合わせられる場合がある細胞傷害剤の性質に当然に依存する。
【0190】
本発明は上記で規定されているナノボディを薬学的に許容可能な担体と組み合わせて含む医薬組成物にも関する。
【0191】
「薬学的に」又は「薬学的に許容可能な」という用語は哺乳類動物、特にヒトに投与されると副反応、アレルギー反応、又は他の好ましくない反応を引き起こさない分子実体及び組成物を指す。
【0192】
本発明との関係において「薬学的に許容可能な担体」という表現にはあらゆる溶媒、分散媒、被覆材、抗菌又は抗真菌剤、等張剤、又は吸収遅延剤などが含まれる。薬学的活性物質へのそのような媒体及び薬剤の使用が当業者によく知られている。活性成分と従来の媒体又は薬剤が適合しない場合を除いて医薬組成物にそれらを使用することが考えられている。前記組成物に追加活性成分を組み込んでもよい。
【0193】
インビトロでTauを検出するための使用
本発明は試料中のオリゴマー型Tauタンパク質のインビトロ検出のための上記で規定されているナノボディの使用にも関する。
【0194】
「試料」という用語はより大きな要素の一部を本明細書において意味するものとする。その試料は生物起源の物質であることが好ましい。生物試料の例には、限定されることはないが、脳、特に海馬、嗅内皮質又は側頭皮質、血液、特に脳血液、脳脊髄液などの器官の一部又は組織の一部が挙げられる。本発明との関係において試料は脳試料に関係することが好ましい。
【0195】
以下の図面、配列、及び実施例によって本発明をさらに詳細に例示する。
【0196】
配列の簡単な説明
【0197】
配列番号1はアミノ酸X1がS又はRであり、アミノ酸X2がD又はYであり、且つ、アミノ酸X3がT又はAである本発明のナノボディのコンセンサスCDR1アミノ酸配列を示す。
【0198】
配列番号2はアミノ酸X1がP又はRであり、且つ、アミノ酸X2がS又はVである本
発明のナノボディのコンセンサスCDR2アミノ酸配列を示す。
【0199】
配列番号3は2C5ナノボディのCDR1アミノ酸配列を示す。
【0200】
配列番号4は2C5ナノボディのCDR2アミノ酸配列を示す。
【0201】
配列番号5は2C5ナノボディのCDR3アミノ酸配列を示す。
【0202】
配列番号6はS2T2M3_E6ナノボディのCDR1アミノ酸配列を示す。
【0203】
配列番号7はS2T2M3_E6ナノボディのCDR2アミノ酸配列を示す。
【0204】
配列番号8はS2T2M3_E6ナノボディのCDR3アミノ酸配列を示す。
【0205】
配列番号9は2C5ナノボディの可変領域のアミノ酸配列を示す。
【0206】
配列番号10はS2T2M3_E6ナノボディの可変領域のアミノ酸配列を示す。
【0207】
配列番号11は2C5ナノボディのFR1領域のアミノ酸配列を示す。
【0208】
配列番号12は2C5ナノボディのFR2領域のアミノ酸配列を示す。
【0209】
配列番号13は2C5ナノボディのFR3領域のアミノ酸配列を示す。
【0210】
配列番号14は2C5ナノボディのFR4領域のアミノ酸配列を示す。
【0211】
配列番号15はS2T2M2_E6ナノボディのFR1領域のアミノ酸配列を示す。
【0212】
配列番号16はS2T2M2_E6ナノボディのFR2領域のアミノ酸配列を示す。
【0213】
配列番号17はS2T2M2_E6ナノボディのFR3領域のアミノ酸配列を示す。
【0214】
配列番号18はS2T2M2_E6ナノボディのFR4領域のアミノ酸配列を示す。
【0215】
配列番号19はmycタグ及び6ヒスチジン残基タグを含む2C5ナノボディの可変領域のアミノ酸配列を示す。
【0216】
配列番号20はmycタグ及び6ヒスチジン残基タグを含むS2T2M3_E6ナノボディの可変領域のアミノ酸配列を示す。
【0217】
配列番号21は441アミノ酸を含むTau-Fとも呼ばれる、Tauタンパク質の2N4Rアイソフォームのアミノ酸配列を示す。
【0218】
配列番号22は412アミノ酸を含むTau-Eとも呼ばれる、Tauタンパク質の1N4Rアイソフォームのアミノ酸配列を示す。
【0219】
配列番号23は383アミノ酸を含むTau-Dとも呼ばれる、Tauタンパク質の0N4Rアイソフォームのアミノ酸配列を示す。
【0220】
配列番号24は410アミノ酸を含むTau-Cとも呼ばれる、Tauタンパク質の2
N3Rアイソフォームのアミノ酸配列を示す。
【0221】
配列番号25は381アミノ酸を含むTau-Bとも呼ばれる、Tauタンパク質の1N3Rアイソフォームのアミノ酸配列を示す。
【0222】
配列番号26は352アミノ酸を含む胎児型Tauとも呼ばれる、Tauタンパク質の0N3Rアイソフォームのアミノ酸配列を示す。
【0223】
配列番号27はTauタンパク質の3R領域から成る短縮型Tauタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0224】
1.ナノボディの作製
(1)ラクダ科動物の免疫に必要な抗原の調製
Tauの最長アイソフォーム(441アミノ酸;45.8kDa)をコードするcDNA(htau40)をプラスミドpRK172のT7 RNAポリメラーゼプロモーターの下流にクローニングした。大腸菌BL21細菌(Goedert、 M. et al., Neuron、 3(4): 519-526 (1989)より取得)(パリのINSERMのBaulieu教授のチームから供給された細菌)を、その組換えプラスミドで形質転換した。2ステップのFPLC(ファースト・プロテイン・リキッド・クロマトグラフィー)、すなわち(1) SO4
-負荷陽イオン交換カラム(HiTrap SP-XL;Thermoscientific)を使用し、次に(2)排除クロマトグラフィー(HiTrap Sepharose HP カラム;Amersham Biosciences)を使用することによりタンパク質を精製した。インビボTau線維形成を模倣する様々な重合体型のTau(オリゴマー型及び線維型)を富化した調製物を得るためにFlachら(Journal of Biological Chemistry, 2012, (287)52: 43223-43233)によって改変されたHaaseら(Journal of Neurochemistry, 88(6): 1509-1520, 2004)の方法を使用した。最終体積が1.5mLであるヘパリン(10μM)とNaN3(4%)が存在するpH7の20mMのMOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)緩衝液の中でTau(40μM)の線維形成を37℃で実施する[21][14]。上で記載されたようにその線維形成を分析する。48時間及び72時間後に試料を-80℃で凍結することにより線維形成を停止する。重合過程の持続期間は(a)オリゴマー及び(b)線維の生産に適合している。並行してTauのR3領域リピートモチーフを含むペプチドを合成し、同じように重合化した。特に最終体積が1.5mlであるヘパリン(0.4μM)とNaN3(4%)が存在するpH7の50mMのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)緩衝液の中でR3(0.4μM)の線維形成を37℃で実施する。線維型の短縮型Tau(R3)を得るために典型的には72時間後に試料を-80℃で凍結することにより線維形成を停止する。
【0225】
(2)ラマの免疫
同じ条件下でTauオリゴマー及びTau線維及びまたR3重合体から成る混合物((a)、(b)、(c))でラマを免疫した。3回の連続注射を0日目、9日目、18日目に実施した。28日目と42日目に血液試料を採取する。リンパ球を分離及び単離するためにフィコール勾配で血液バッグを遠心分離し、全RNAを抽出する。
【0226】
(3)ナノボディの生産とスクリーニング
ナノボディの生産とスクリーニングは複数のステップ、すなわち
-ラマリンパ球mRNAの増幅と生産
-それまでに免疫したヒトコブラクダのナノボディを発現するファージライブラリーの作
製
-抗Tauオリゴマーナノボディを発現するファージのELISAアッセイ及びFACSによる選別
-選択されたクローンのシーケンシングと個々のクローンの特定
-Nbの配列の決定
-C末端Mycタグ及びヒスチジンタグを含むNbをコードするmRNA断片の構築化と生産
-細菌への挿入とNbのバルク製剤
を含む。
【0227】
2.ナノボディのインビトロ特性解析
前記ナノボディを2つの工程により親和性と特異性について特性解析した。
【0228】
(a)ELISAアッセイI:
出発抗原として、Tauオリゴマーを富化した調製物、Tau線維を富化した調製物、重合化R3、並びに天然Tauタンパク質及びアミロイドβペプチド線維(市販のペプチドから作製)を使用する。前記ナノボディの結合定数はこれらの免疫原の各々について決定されている。
【0229】
(b)免疫組織化学:ヒト解剖病理学(ジュネーブのメンタルヘルス及び精神医学局との共同研究)に由来するパラフィン組織切片について。これらの切片はより重篤なタウオパチーまたはそれほど重篤ではないタウオパチーといった様々な症例をカバーする。
【0230】
(c)
組織切片を脱パラフィン化し、次にPBS-0.2%トリトン緩衝液中での透過処理及び市販のマスキング解除溶液(Vector H-3300)による抗原のマスキング解除の後に浮遊切片として処理した。一次抗体(Nb)を様々な濃度(20nM以上)で一晩にわたって4℃で負荷する。洗浄後にウサギ抗ヒスチジン抗体を室温で1時間にわたって負荷し、次に洗浄後にヤギ抗ウサギ三次抗体を最終的に1時間にわたって負荷する。アビジンビオチン複合体(Vector ABCキット)及び次にジアミノベンジジン(Vector ABCキット)が存在する2工程のインキュベーション工程によって可視化を実施する。一次抗体(Nb)が存在しない状況で対照切片を体系的に調製する。それらの切片をスライドグラス上に載せ、ヘマトキシリンで対比染色する。
【0231】
(d)ELISAアッセイII:ヨウ素125で2C5ナノボディを放射性標識した。リン酸緩衝生理食塩水緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HOP
4、1.8mM KH
2PO
4)、1%BSA、pH=7.5の中でTauタンパク質R3配列重合体に対する親和性アッセイをELISAにより実施する。放射性標識.の前(
図5)と後(
図6)にそれらのELISAを実施する。放射性標識後に前記リガンドはその標的に対して良好な親和性を保持している(
図6)ことが注目される。
【0232】
3.結果
早期病理型Tauタンパク質(オリゴマー型及び線維型)を特異的に指向する低分子量(15kDa)の単一の可変ドメインを有する複数のラクダ科動物抗体(Nb)である2C5(VHH)とS2T2M3_E6(VHH)を作製した。
【0233】
2C5 Nbの配列を解析し、VHHとして特徴を明らかにし、且つ、インビトロで特性解析した。その抗体はオリゴマー型、線維型、及び重合化短縮型のTauに対してそれぞれ5nM、6nM、及び50nMの親和性(Kd)を示す。このNbは天然型Tauタンパク質(Kd>1800nM)にもアミロイドβペプチド線維(Kd>10000nM
)にも結合しない(
図1及び
図2)。
【0234】
解剖病理学(異なるグレードのアルツハイマー病及びタウオパチー)に由来するヒト脳の切片に対する免疫組織化学によってこのNbを試験した。その抗体によってアルツハイマー病の患者と純粋タウオパチーを有する認知症の1症例において海馬、嗅内皮質、及び側頭皮質の神経細胞体の特異的標識が示されている(表4及び
図3)。
【0235】
これのSdAbのテクネチウム99m放射性標識の実施に成功した。
【0236】
低分子量Tau重合体に対する親和性のためにS2T2M3_E6ナノボディを選択した。
【0237】
【配列表】