(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】触媒及びその製造方法並びに前記触媒を用いたジエン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/06 20060101AFI20221220BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20221220BHJP
B01J 23/22 20060101ALI20221220BHJP
B01J 23/20 20060101ALI20221220BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20221220BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20221220BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20221220BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221220BHJP
C07C 11/167 20060101ALI20221220BHJP
C07C 1/20 20060101ALI20221220BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
B01J23/06 Z
B01J23/30 Z
B01J23/22 Z
B01J23/20 Z
B01J23/10 Z
B01J35/10 301G
B01J37/03 B
B01J37/08
C07C11/167
C07C1/20
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019562172
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2018048182
(87)【国際公開番号】W WO2019131890
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017252590
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】西山 悠
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 宣利
(72)【発明者】
【氏名】御山 稔人
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106861752(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0179973(US,A1)
【文献】特表2000-511111(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104437616(CN,A)
【文献】特開2000-288347(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061917(WO,A1)
【文献】特表2016-518395(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043209(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/009107(WO,A1)
【文献】特表2015-527192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 11/167
C07C 1/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xと、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zと、を含む複合酸化物であり、
メソ細孔を有する、
アルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒。
【請求項2】
下記一般式1を満たす、請求項1に記載の
アルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒。
X
a1Si
b1O
δ1・・・式1
[式1中、
a1は、元素Xのモル比であり、a1およびb1の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、
b1は、Siのモル比であり、a1およびb1の和を100モル%とした場合、80~99.9モル%であり、
δ1は、電荷中性条件を満たすのに必要な数を表す。]
【請求項3】
亜鉛元素(Zn)をさらに含む、請求項1または2に記載の
アルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒。
【請求項4】
下記一般式2を満たす請求項3に記載の
アルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒。
X
a2Si
b2Zn
c2O
δ2・・・式2
[式2中、
a2は、元素Xのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、
b2は、Siのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、60~99.8モル%であり、
c2は、Znのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、
δ2は、電荷中性条件を満たすのに必要な数を表す。]
【請求項5】
前記原料ガスが、エタノール及び/又はアセトアルデヒドを含む、請求項
1~4のいずれか一項に記載の
アルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒。
【請求項6】
周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xを含む化合物と、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zを含む化合物と、界面活性剤と、水を含む溶媒と、を含む混合液に対し、前記溶媒の少なくとも一部を留去して固形コロイドを得る工程と、
前記固形コロイドを焼成する工程と、
を含む、
アルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記混合液が、亜鉛を含む化合物をさらに含む、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒に、アルコールを含む原料ガスを接触させてジエン化合物を製造することを含む、ジエン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及びその製造方法並びに前記触媒を用いたジエン化合物の製造方法に関する。
本願は、2017年12月27日に、日本に出願された特願2017-252590号に基づき、優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ジエン化合物の代表例である1,3-ブタジエン等のブタジエンは、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の原料として用いられている。従来、ブタジエンは、C4留分から精製されていた。C4留分は、石油からエチレンを製造するナフサクラッキングの際に副生する留分である。しかし、シェールガスの利用量の増加に伴って石油の利用量が減少した。その結果、石油のナフサクラッキングで得られるブタジエンの生産量も減少している。このため、1,3-ブタジエン等のジエン化合物を製造するための代替方法が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エタノールをブタジエンに選択的に変換するための金属含浸シリカ触媒に係る発明が記載されている。より詳細には、特許文献1には、Hf並びに2以上の触媒活性金属M1およびM2を含み、前記2以上の触媒活性金属M1およびM2が、Zr、Zn、Cu、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、この際、M1とM2とは異なるものである、ブタジエン合成用触媒が記載されている。
特許文献1には、(i)エタノール、任意のアセトアルデヒドを含むガス流G-1を提供し、(ii)前記ガス流G-1を上記ブタジエン合成用触媒に接触させて、ブタジエンを含むガス流G-2を得ることを含むブタジエンの合成方法が記載されている。
前記ブタジエンの合成方法によれば、ブタジエン選択性が少なくとも10%であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明は、エタノールを原料ガスとしてブタジエンを合成することができるものの、原料ガス中のエタノール濃度を低くする必要がある。このため、特許文献1に記載の発明は、単位時間当たりのブタジエンの製造量が少なく、ブタジエンの製造効率を高めにくい。
そこで、本発明は、原料ガス中のアルコール濃度が高い場合であってもジエン化合物を効率的に製造できる触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意研究を行った。その結果、メソ細孔を有する所定の触媒により上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xと、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zと、を含む複合酸化物であり、
メソ細孔を有する、触媒。
[2]下記一般式1を満たす、[1]に記載の触媒。
Xa1Sib1Oδ1・・・式1
[式1中、
a1は、元素Xのモル比であり、a1およびb1の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、
b1は、Siのモル比であり、a1およびb1の和を100モル%とした場合、80~99.9モル%であり、
δ1は、電荷中性条件を満たすのに必要な数を表す。]
[3]亜鉛元素(Zn)をさらに含む、[1]または[2]に記載の触媒。
[4]下記一般式2を満たす[3]に記載の触媒。
Xa2Sib2Znc2Oδ2・・・式2
[式2中、
a2は、元素Xのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、
b2は、Siのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、60~99.8モル%であり、
c2は、Znのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、
δ2は、電荷中性条件を満たすのに必要な数を表す。]
[5]アルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の触媒。
[6]前記原料ガスが、エタノール及び/又はアセトアルデヒドを含む、[5]に記載の触媒。
[7]周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xを含む化合物と、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zを含む化合物と、界面活性剤と、水を含む溶媒と、を含む混合液に対し、前記溶媒の少なくとも一部を留去して固形コロイドを得る工程と、
前記固形コロイドを焼成する工程と、
を含む、触媒の製造方法。
[8]前記混合液が、亜鉛を含む化合物をさらに含む、[7]に記載の製造方法。
[9][1]~[6]のいずれか1項に記載の触媒に、アルコールを含む原料ガスを接触させてジエン化合物を製造することを含む、ジエン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の触媒によれば、原料ガス中のアルコール濃度が高い場合であってもジエン化合物を効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるブタジエンの製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0010】
<触媒>
触媒は、周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xと、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zと、を含む複合酸化物であり、メソ細孔を有する。なお、本明細書において、「複合酸化物」とは、酸素以外の2種以上の元素を含む酸化物を意味する。
前記元素Xを含むことにより、原料ガスをジエン化合物に変換することができる。また、前記元素Zを含むことにより、原料ガスと触媒の接触面積を増加することができる。そして、複合酸化物であることにより、副生成物の生成を抑制しながらジエン化合物を生成することができる。
【0011】
元素Xとしては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)等の第3族元素;チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等の第4族元素;バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等の第5族元素;クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の第6族元素が挙げられる。これらのうち、第3族元素、第4族元素、第5族元素であることが好ましく、第4族元素、第5族元素であることがより好ましく、第4族元素であることがさらに好ましい。
【0012】
また、別の一実施形態によれば、第5周期元素、第6周期元素、第7周期元素であることが好ましく、第5周期元素、第6周期元素であることがより好ましい。具体的には、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)であることが好ましく、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)であることがより好ましく、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)であることがさらに好ましく、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)であることが特に好ましく、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)であることが極めて好ましく、ハフニウム(Hf)であることが最も好ましい。
なお、上述の元素Xは、1種類単独で含んでいてもよいし、2種類以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0013】
元素Xのモル含有率は、触媒中の元素Xのモル比および元素Zのモル比の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であることが好ましく、1~15モル%であることがより好ましく、1~6モル%であることがさらに好ましく、1.75~3モル%であることが特に好ましい。なお、元素Xを2種以上組み合わせて含む場合には、そのモル含有率の和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0014】
元素Zとしては、炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)等が挙げられる。
これらのうち、元素Zは、炭素(C)、ケイ素(Si)であることが好ましく、ケイ素(Si)であることがより好ましい。
なお、上述の元素Zは単独で含んでいても、2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0015】
元素Zのモル含有率は、触媒中の元素Xのモル比および元素Zのモル比の和を100モル%とした場合、80~99.9モル%であることが好ましく、85~99モル%であることがより好ましく、94~99モル%であることがさらに好ましい。なお、元素Zを2種以上組み合わせて含む場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0016】
好ましい一実施形態において、触媒は下記一般式1を満たすことが好ましい。
Xa1Sib1Oδ1・・・式1
式1中、Xは元素Xを表す。
a1は、元素Xのモル比であり、a1およびb1の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、1~15モル%であることが好ましく、1~6モル%であることがより好ましく、1.75~3モル%であることがさらに好ましい。
b1は、Siのモル比であり、a1およびb1の和を100モル%とした場合、80~99.9モル%であり、85~99モル%であることが好ましく、94~99モル%であることがより好ましい。
δ1は、電荷中性条件を満たすのに必要な数を表す。具体的には、δ1は、触媒を構成する元素XおよびSi、並びにa1およびb1により定まるものである。一実施形態において、δ1は、100~2000であることが好ましく、100~1000であることがより好ましく、100~400であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の効果を損なわない範囲で、本実施形態の触媒は、複合酸化物の構成元素として、元素X、元素Z以外の元素を含んでもよい。
一実施形態において、触媒は亜鉛元素(Zn)をさらに含むことが好ましい。触媒が亜鉛元素(Zn)を含むことにより、ジエン化合物の選択率、原料転化率、ジエン化合物の収率が向上することから好ましい。
【0018】
すなわち、好ましい一実施形態において、周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xと、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zと、亜鉛元素(Zn)と、を含む複合酸化物であり、メソ細孔を有する、触媒が提供される。
【0019】
触媒が亜鉛元素を含む場合の元素Xのモル含有率は、触媒中の元素Xのモル比、元素Zのモル比、および亜鉛のモル比の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であることが好ましく、1~15モル%であることがより好ましく、1~6モル%であることがさらに好ましく、1.75~3モル%であることが特に好ましい。なお、元素Xを2種以上組み合わせて含む場合には、そのモル含有率の和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0020】
触媒が亜鉛元素を含む場合の元素Zのモル含有率は、触媒中の元素Xのモル比、元素Zのモル比、および亜鉛のモル比の和を100モル%とした場合、60~99.8モル%であることが好ましく、70~98モル%であることがより好ましく、88~98モル%であることがさらに好ましい。なお、元素Zを2種以上組み合わせて含む場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0021】
亜鉛元素(Zn)のモル含有率は、触媒中の元素Xのモル比、元素Zのモル比、および亜鉛のモル比の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であることが好ましく、0.1~10モル%であることがより好ましく、0.1~7.5モル%であることがさらに好ましく、1.2~5モル%であることが特に好ましく、1.5~3モル%であることが最も好ましい。
【0022】
なお、複合酸化物の構成元素として、元素X、元素Z以外の元素(以下、「他の元素」とも称する)を含む場合、元素X、元素Z、および他の元素のモル比は、上記の通り、他の元素のモル比だけ元素Zのモル比が少なくなることが好ましい。換言すれば、元素Xのモル比は、他の元素を含むか否かにかかわらず、同等のモル比であることが好ましい。このことは他の元素を2以上含む場合であっても同様である。
【0023】
好ましい一実施形態において、触媒は下記一般式2を満たすものであることが好ましい。
Xa2Sib2Znc2Oδ2・・・式2
式2中、Xは元素Xを表す。
a2は、元素Xのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、1~15モル%であることが好ましく、1~6モル%であることがより好ましく、1.75~3モル%であることがさらに好ましい。
b2は、Siのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、60~99.8モル%であることが好ましく、70~98モル%であることがより好ましく、88~98モル%であることがより好ましい。
c2は、Znのモル比であり、a2、b2、およびc2のモル数の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であり、0.01~10モル%であることがより好ましく、0.1~7.5モル%であることがさらに好ましく、1.2~5モル%であることが特に好ましく、1.5~3モル%であることが最も好ましい。
δ2は、電荷中性条件を満たすのに必要な数を表す。具体的には、δ2は、触媒を構成する元素X、Si、および亜鉛、並びにa2、b2、およびc2により定まるものである。一実施形態において、δ2は、100~2000であることが好ましく、100~1000であることがより好ましく、100~400であることがさらに好ましい。
【0024】
本形態に係る触媒は、メソ細孔を有する。触媒がメソ細孔を有することにより、アルコールの触媒中への拡散性が向上するとともに、アルコール-触媒間の接触面積が大きくなる。その結果、アルコール濃度が高い場合であっても、原料転化率およびジエン化合物選択率が向上する。なお、本明細書において、触媒が「メソ細孔を有する」とは、触媒の平均細孔直径が2~50nm、好ましくは2~30nm、より好ましくは2~15nmであることを意味する。この際、触媒の「平均細孔直径」は、以下の方法により測定された値を採用するものとする。すなわち、平均細孔直径は、全細孔容積(触媒の細孔容積の合計)とBET比表面積とから算出される。具体的には、細孔形状を円筒形であると仮定することにより算出することができる(BJH法)。円筒形の側面積としてBET比表面積A1を、円筒形の体積として全細孔容積V1を使用すると、平均細孔直径は、4V1/A1により算出することができる。
【0025】
なお、触媒の全細孔容積は、0.1~10.0mL/gであることが好ましく、0.1~5.0mL/gであることがより好ましく、0.1~2.0mL/gであることがさらに好ましい。全細孔容積が0.1mL/g以上であれば、アルコールの拡散性が向上し、原料転化率とジエン化合物選択率がさらに高まることから好ましい。一方、全細孔容積が10.0mL/g以下であると、アルコール-触媒間の接触面積が大きくなり、原料転化率とブタジエン選択率がさらに高まることから好ましい。なお、本明細書において、触媒の「全細孔容積」は、ガス吸着法により測定される値を採用するものとする。この際、ガス吸着法とは、窒素ガスを吸着ガスとして使用し、合成用触媒の表面に窒素分子を吸着させ、分子の凝縮から細孔分布を測定する方法である。
【0026】
触媒の比表面積は、100~10000m2/gであることが好ましく、200~5000m2/gであることがより好ましく、200~1000m2/gであることがさらに好ましい。比表面積が100m2/g以上であると、触媒表面に充分な量の活性点が存在するため、原料転化率とジエン化合物選択率がさらに高まることから好ましい。その結果、原料ガス100体積%(気体換算)に対し、原料の含有量が高濃度であっても原料転化率が高まり、例えば100体積%でも高い原料転化率を示す。一方、比表面積が10000m2/g以下であると、アルコール-触媒間の接触面積が大きくなり、原料転化率とジエン化合物選択率がさらに高まることから好ましい。なお、本明細書において、「比表面積」は、窒素を吸着ガスとし、BET式ガス吸着法により測定されるBET比表面積を意味する。
【0027】
触媒の全細孔容積と比表面積との積は、10~100000mL・m2/g2であることが好ましく、20~25000mL・m2/g2であることがより好ましく、20~2000mL・m2/g2であることがさらに好ましい。前記積が10mL・m2/g2以上であると、触媒表面に充分な量の活性点が存在し、かつアルコールを含む原料ガスの拡散性が向上するため、原料転化率とジエン化合物選択率がさらに高まることから好ましい。一方、前記積が100000mL・m2/g2以下であると、原料と合成用触媒との接触面積が充分となりやすく、原料転化率とジエン化合物選択率がさらに高まることから好ましい。
【0028】
触媒のメソ細孔容積率(全メソ細孔容積/全細孔容積×100)は、50%以上であることが好ましく、50~100%であることがより好ましく、80~100%であることがさらに好ましく、90~100%であることが特に好ましい。メソ細孔容積率が50%以上であると、触媒に充分なメソ細孔が存在し、アルコールを含む原料ガスの拡散性が向上するため、原料転化率とジエン化合物選択率がさらに高まることから好ましい。
【0029】
なお、メソ細孔容積率の割合は、後述する製造方法における原料(Xを含む化合物、Zを含む化合物等)の使用比率、焼成工程の焼成温度等により制御することができる。
【0030】
触媒のメソ細孔の形状、及びメソ細孔を形成する細孔壁が結晶構造を有しているか否かは、X線回折による回折ピークを観察することにより確認することができる。具体的には、合成用触媒のメソ細孔を形成する細孔壁が結晶構造を有する場合、X線回折法により、2θ=1~6°の低角度においてメソ細孔の周期構造に由来するピークが観察される。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により合成用触媒を観察することで、メソ細孔の形状、規則性を確認することができる。
【0031】
上述の触媒は、好ましくはアルコールを含む原料ガスからジエン化合物を合成するジエン化合物合成用触媒である。この際、前記アルコールとしては、後述するようにエタノールであることが好ましい。好ましい一実施形態において、前記原料ガスは、エタノール及び/又はアセトアルデヒドを含む。また、前記ジエン化合物としては、後述するように、1,3-ブタジエンであることが好ましい。
【0032】
<触媒の製造方法>
本発明の一実施形態によれば触媒の製造方法が提供される。前記触媒の製造方法は、周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xを含む化合物と、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zを含む化合物と、界面活性剤と、水を含む溶媒と、を含む混合液に対し、前記溶媒の少なくとも一部を留去して固形コロイドを得る工程(固形コロイド調製工程)と、前記固形コロイドを焼成する工程(焼成工程)と、を含む。
【0033】
[固形コロイド調製工程]
固形コロイド調製工程は、周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xを含む化合物と、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zを含む化合物と、界面活性剤と、水を含む溶媒と、を含む混合液に対し、前記溶媒の少なくとも一部を留去して固形コロイドを得る工程である。
【0034】
(混合液)
混合液は、周期表第3~6族からなる群から選択される少なくとも1種の元素Xを含む化合物と、第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Zを含む化合物と、界面活性剤と、水を含む溶媒と、を含む。混合液は、他の元素を含む化合物(例えば、亜鉛を含む化合物)、酸性水溶液、塩基性水溶液等をさらに含んでいてもよい。
【0035】
・元素Xを含む化合物
元素Xを含む化合物としては、特に制限されないが、元素Xの塩化物、硫化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩;シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩等の有機塩;キレート化合物;カルボニル化合物;シクロペンタジエニル化合物;アンミン錯体;アルコキシド化合物;アルキル化合物等が挙げられる。
具体的には、塩化チタン(TiCl2、TiCl3、TiCl4)、塩化ジルコニウム(ZrCl2)、塩化ハフニウム(HfCl4)、塩化ニオブ(NbCl5)、塩化タンタル(TaCl5)、塩化バナジウム(VCl3)塩化タングステン(WCl5)、硝酸スカンジウム(Sc(NO3)3)、硝酸イットリウム(Y(NO3)3)、硝酸ランタン(La(NO3)3)、硝酸セリウム(Ce(NO3)3)等が挙げられる。
上述した元素Xを含む化合物は単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0036】
触媒が亜鉛元素等の他の元素を含まない場合、元素Xを含む化合物の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比および元素Zを含む化合物のモル比の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であることが好ましく、1~15モル%であることがより好ましく、1~6モル%であることがさらに好ましく、1.75~3モル%であることが特に好ましい。なお、元素Xを含む化合物を2種以上組み合わせて含む場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0037】
また、触媒が亜鉛元素等の他の元素を含む場合、元素Xを含む化合物の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比、元素Zを含む化合物のモル比、および他の元素を含む化合物のモル比の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であることが好ましく、1~15モル%であることがより好ましく、1~6モル%であることがさらに好ましく、1.75~3モル%であることが特に好ましい。なお、元素Xを含む化合物を2種以上組み合わせて含む場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0038】
・元素Zを含む化合物
元素Zを含む化合物としては、特に制限されないが、元素Zの塩化物、硫化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩;シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩等の有機塩;キレート化合物;カルボニル化合物;シクロペンタジエニル化合物;アンミン錯体;アルコキシド化合物;アルキル化合物等が挙げられる。
これらのうち、ケイ素を含むアルコキシド化合物を用いることが好ましい。
【0039】
前記ケイ素を含むアルコキシド化合物としては、下記一般式3で表される化合物であることが好ましい。
Si(OR)4・・・式3
式3中、Rは、それぞれ独立して、アルキル基を示す。前記アルキル基としては、炭素数が1~4のアルキル基であることが好ましく、エチル基であることがより好ましい。
具体的なケイ素を含むアルコキシド化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。これらのうち、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
上述した元素Zを含む化合物は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
触媒が亜鉛元素等の他の元素を含まない場合、元素Zを含む化合物の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比および元素Zを含む化合物のモル比の和を100モル%とした場合、80~99.9モル%であることが好ましく、85~99モル%であることがより好ましく、94~99モル%であることがさらに好ましい。なお、元素Zを含む化合物を2種以上組み合わせて含む場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0041】
また、触媒が亜鉛元素等の他の元素を含む場合、元素Zを含む化合物の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比、元素Zを含む化合物のモル比、および他の元素を含む化合物のモル比の和を100モル%とした場合、60~99.8モル%であることが好ましく、70~98モル%であることがより好ましく、88~98モル%であることがさらに好ましい。なお、元素Zを2種以上組み合わせて含む場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0042】
・亜鉛を含む化合物
亜鉛を含む化合物としては、特に制限されないが、亜鉛の塩化物、硫化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩;シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩等の有機塩;キレート化合物;カルボニル化合物;シクロペンタジエニル化合物;アンミン錯体;アルコキシド化合物;アルキル化合物等が挙げられる。
具体的には、塩化亜鉛(ZnCl2)、硫化亜鉛(ZnS)、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2)等が挙げられる。
上述した亜鉛を含む化合物は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
亜鉛を含む化合物の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比、元素Zを含む化合物のモル比、および亜鉛を含む化合物のモル比の和を100モル%とした場合、0.1~20モル%であることが好ましく、0.1~10モル%であることがより好ましく、0.1~7.5モル%であることがさらに好ましく、1.2~5モル%であることが特に好ましく、1.5~3モル%であることが最も好ましい。
【0044】
・界面活性剤
触媒の製造に界面活性剤を用いることにより、メソ細孔を有する触媒を得ることができる。より詳細には、界面活性剤の添加によりミセルが形成され、得られるミセルを鋳型として表面に複合酸化物の前駆体が形成される。このような前駆体に対して後述する焼成を行うことで、界面活性剤が除去されてメソ細孔を有する触媒を製造することができる。なお、前記ミセルの形状は、その濃度によって、球状、シリンダー状、ラメラ状、ジャイロイド状、ベシクル状の形状となる。
【0045】
界面活性剤としては、特に制限されないが、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
前記カチオン性界面活性剤としては、MCM-41、SBA-15、FMS-16等のメソポーラスシリカの合成に従来使用されるカチオン性界面活性剤が挙げられる。
【0046】
非イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、アルキレンオキシド鎖を構成成分とするポリアルキレンオキサイドブロックコポリマー、前記ブロックコポリマーの末端をアルコールやフェノール等でエーテル化した化合物等が挙げられる。
なお、構成単位として含まれるアルキレンオキシド鎖は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
このうち、得られる複合酸化物のメソ細孔を形成する細孔壁の結晶構造の安定性の観点から、非イオン性界面活性剤を使用することが好ましく、ポリアルキレンオキサイドブロックコポリマーを使用することがより好ましい。得られる複合酸化物のメソ細孔を形成する細孔壁の結晶構造の安定性の観点から、ポリエチレンオキシド鎖(CH2CH2O)mとポリプロピレンオキシド鎖(CH2CH(CH3)O)nを構成単位とするポリアルキレンオキサイドブロックコポリマーを使用することがさらに好ましい。なお、前記m及びnは、1~1000であり、好ましくはmが1~200、nが1~100であり、より好ましくはmが1~200、nが1~100、m+nが2~300である。前記ポリマーの末端は、水素原子、水酸基、又はアルコールやフェノールでエーテル化されている。
【0048】
前述のポリアルキレンオキサイドブロックコポリマーの中でも、得られる複合酸化物のメソ細孔を形成する細孔壁の結晶構造の安定性の観点から、下記一般式4で表されるポリアルキレンオキサイドブロックコポリマーであることが好ましい。
HO(CH2CH2O)r(CH2CH(CH3)O)s(CH2CH2O)t)H・・・式4
本発明の合成用触媒の前述した好ましい平均細孔直径を形成する観点から、前記rは1~100であることが好ましく、sは1~100であることが好ましく、tは1~100であることが好ましい。また、r+s+tは、3~300であることが好ましい。
【0049】
ポリアルキレンオキサイドブロックコポリマーを得る方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法で製造されたものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
ポリアルキレンオキサイドブロックコポリマーの市販品は、例えばBASF社製の製品名P123;[(HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20)H]、製品名P85;[(HO(CH2CH2O)26(CH2CH(CH3)O)39(CH2CH2O)26)H]、製品名P103[(HO(CH2CH2O)56(CH2CH(CH3)O)17(CH2CH2O)56H)]である。
上述した界面活性化剤は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上述の界面活性剤の種類等を適宜変更することでメソ細孔の形、細孔直径を制御することができる。
【0051】
界面活性剤の使用量は、溶媒100質量部に対して、3~20質量部であることが好ましく、5~18質量部であることがより好ましく、7~15質量部であることがさらに好ましい。界面活性剤の使用量が3質量部以上であると、メソ細孔が均一にできることから好ましい。一方、界面活性剤の使用量が20質量部以下であると、溶解できることから好ましい。
【0052】
・溶媒
溶媒としては、水を含む。前記溶媒は、有機溶媒をさらに含んでいてもよい。
前記水としては、特に限定はされないが、金属イオン等を除去したイオン交換水、又は蒸留水が好ましい。
前記有機溶媒としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ヘキサノール等の脂肪族直鎖アルコールが挙げられる。
これらのうち、有機溶媒は、取り扱い性の観点から、メタノール、エタノールであることが好ましい。
上記有機溶媒は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
水の使用量は、界面活性剤1質量部に対して、5~35質量部であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。水の使用量が5質量部以上であると、界面活性剤が溶解できることから好ましい。一方、水の使用量が35質量部以下であると、メソ細孔が均一にできることから好ましい。
【0054】
触媒が亜鉛元素等の他の元素を含まない場合、水の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比および元素Zを含む化合物の総モル数に対して、100モル%~10000モル%が好ましく、1000~8000モル%であることがより好ましい。水の使用量が100モル%以上であると、加水分解できることから好ましい。一方、水の使用量が10000モル%以下であると、固形分が溶解しないことから好ましい。
【0055】
また、触媒が亜鉛元素等の他の元素を含む場合、水の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比、元素Zを含む化合物のモル比、および他の元素を含む化合物のモル比の総モル数に対して、100モル%~10000モル%が好ましく、1000~8000モル%であることがより好ましい。水の使用量が100モル%以上であると、加水分解できることから好ましい。一方、水の使用量が10000モル%以下であると、固形分が溶解しないことから好ましい。
【0056】
また、溶媒として有機溶媒を含む場合、有機溶媒の使用量は、水に対して、10~50体積%であることが好ましく、10~25体積%であることがより好ましい。有機溶媒の使用量が10体積%以上であると、元素X及び元素Zが溶解できることから好ましい。一方、有機溶媒の使用量が50体積%以下であると、加水分解できることから好ましい。
【0057】
・酸性水溶液
酸性溶液は、後述する加水分解による固形分の生成を促進する機能を有する。
酸性溶液としては、特に制限されないが、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸が溶解している水溶液が挙げられる。
【0058】
触媒が亜鉛元素等の他の元素を含まない場合、酸性溶液の使用量は、酸性溶液中に含まれる酸のモル数が、元素Xを含む化合物のモル比および元素Zを含む化合物の総モル数に対して、0.01~10.0モル%となる量であることが好ましく、0.1~8.0モル%となる量であることがより好ましい。
【0059】
また、触媒が亜鉛元素等の他の元素を含む場合、酸性溶液の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比、元素Zを含む化合物のモル比、および他の元素を含む化合物のモル比の総モル数に対して、0.01~10.0モル%となる量であることが好ましく、0.1~8.0モル%となる量であることがより好ましい。
【0060】
・塩基性水溶液
塩基性溶液は、後述する加水分解による固形分の生成を促進する機能を有する。なお、通常、上述の酸性水溶液および塩基性水溶液はいずれか一方が用いられる。
塩基性溶液としては、特に制限されないが、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、アンモニアなどの無機塩基が溶解している水溶液が挙げられる。
【0061】
触媒が亜鉛元素等の他の元素を含まない場合、塩基性溶液の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比および元素Zを含む化合物の総モル数に対して、0.01%~10.0モル%となる量であることが好ましく、0.1~8.0モル%となる量であることがより好ましい。
【0062】
また、触媒が亜鉛元素等の他の元素を含む場合、塩基性溶液の使用量は、元素Xを含む化合物のモル比、元素Zを含む化合物のモル比、および他の元素を含む化合物のモル比の総モル数に対して、0.01~10.0モル%となる量であることが好ましく、0.1~8.0モル%となる量であることがより好ましい。
【0063】
混合液の調製方法は特に制限されない。例えば、元素Xを含む化合物、元素Zを含む化合物、界面活性剤を混合した後に、水、有機溶媒を添加してもよいし、元素Xを含む化合物、界面活性剤を混合した後に、水、有機溶媒を添加し、最後に元素Zを含む化合物を添加してもよい。他の元素を含む化合物(好ましくは亜鉛を含む化合物)を使用する場合には、元素Xを含む化合物、元素Zを含む化合物、亜鉛を含む化合物、界面活性剤を混合した後に、水、有機溶媒を添加してもよいし、元素Xを含む化合物、亜鉛を含む化合物、界面活性剤を混合した後に、水、有機溶媒を添加し、最後に元素Zを含む化合物を添加してもよい。
【0064】
上述の混合液は、通常、懸濁液となる。より詳細には、混合液中の元素Xを含む化合物、元素Zを含む化合物等が水によって加水分解、縮合が生じて固形分が得られることにより、懸濁液となる。
【0065】
前記固形分の生成のため前記混合液を撹拌し、熟成することが好ましい。なお、本明細書において、「熟成」とは、混合液を静置することを意味する。
この際、混合液の攪拌温度は、20~150℃であることが好ましく、30~60℃であることがより好ましい。
また、混合液の攪拌時間は、1時間~10日間であることが好ましく、10時間~5日であることがより好ましい。
この際、混合液の熟成温度は、50~200℃であることが好ましく、80~150℃であることがより好ましい。
また、混合液の熟成時間は、1時間~10日間であることが好ましく、10時間~5日間であることがより好ましい。
【0066】
(固形コロイドの調製)
上記で得た混合液(通常、懸濁液)に対し、前記溶媒(水、有機溶媒等)の少なくとも一部を留去して固形コロイドを得ることができる。なお、触媒の製造に際し、固形コロイドを経由することで、懸濁液を直接焼成する場合と比べて、触媒の均一性を高めることができる。なお、本明細書において、「固形コロイド」とは、固形コロイド中に含有される溶媒量が、固形コロイドの全体積に対して、5%以下のものを意味する。
【0067】
固形コロイドを得るための温度、すなわち溶媒の少なくとも一部を留去する温度は、20~200℃であることが好ましく、50~150℃であることがより好ましい。
固形コロイドを得るための時間、すなわち溶媒の少なくとも一部を留去する時間は、1時間~10日間であることが好ましく、10時間~5日間であることがより好ましい。
【0068】
[焼成工程]
焼成工程は、上記固形コロイド調製工程で得た固形コロイドを焼成する工程である。固形コロイドを焼成することで、界面活性剤により形成されるミセルを鋳型とした複合酸化物前駆体に対し、界面活性剤が除去されて、メソ細孔を有する触媒を製造することができる。
焼成温度は、200~800℃が好ましく、400~600℃であることがより好ましい。焼成温度が200℃以上であると、触媒中に界面活性剤由来の不純物が残留しない、またはほとんどしないことから好ましい。一方、焼成温度が800℃以下であると、触媒のメソ細孔を形成する細孔壁の結晶構造の安定性を向上させることができることから好ましい。
【0069】
焼成時間は、10分間~2日間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。焼成時間が10分間以上であると、触媒中に界面活性剤由来の不純物が残留しない、またはほとんどしないことから好ましい。一方、焼成時間が2日間以内であると、触媒のメソ細孔を形成する細孔壁の結晶構造の安定性を向上させることができることから好ましい。
【0070】
(ジエン化合物の製造装置)
ジエン化合物の製造装置は、上述の触媒が充填された反応管を備える。前記製造装置により、原料を含む原料ガスからジエン化合物を製造する。
【0071】
以下、ジエン化合物の製造装置の一例であるブタジエンの製造装置について、
図1に基づいて説明する。
本実施形態のブタジエンの製造装置10(以下、単に「製造装置10」という。)は、反応管1と供給管3と排出管4と温度制御部5と圧力制御部6とを備える。
反応管1は、内部に反応床2を備える。反応床2には、本発明の合成用触媒が充填されている。供給管3は反応管1に接続している。排出管4は反応管1に接続している。温度制御部5は反応管1に接続している。排出管4は、圧力制御部6を備える。
【0072】
反応床2は、本発明の触媒のみを有してもよいし、本発明の触媒とともに本発明の触媒以外の触媒を有していてもよい。また、希釈材をさらに有していてもよい。当該希釈材は、触媒が過度に発熱することを防止する。
ここで、原料からブタジエンを合成する反応は吸熱反応である。このため、反応床2は、希釈材を要しないのが通常である。
希釈材は、例えば、石英砂、アルミナボール、アルミボール、アルミショット等である。
反応床2に希釈材を充填する場合、希釈材/合成用触媒で表される質量比は、それぞれの種類や比重等を勘案して決定され、例えば、0.5~5が好ましい。
なお、反応床は、固定床、移動床、流動床等のいずれでもよい。
【0073】
反応管1は、原料ガス及び合成された生成物に対して不活性な材料からなるものが好ましい。反応管1は、100~500℃程度の加熱、又は10MPa程度の加圧に耐え得る形状のものが好ましい。反応管1は、例えば、ステンレス製の略円筒形の部材である。
供給管3は、原料ガスを反応管1内に供給する供給手段である。供給管3は、例えば、ステンレス製等の配管である。
排出管4は、反応床2で合成された生成物を含むガスを排出する排出手段である。排出管4は、例えば、ステンレス製等の配管である。
【0074】
温度制御部5は、反応管1内の反応床2を任意の温度にできるものであればよい。温度制御部5は、例えば、電気炉等である。
圧力制御部6は、反応管1内の圧力を任意の圧力にできるものであればよい。圧力制御部6は、例えば、公知の圧力弁等である。
なお、製造装置10は、マスフロー等、ガスの流量を調整するガス流量制御部等の周知の機器を備えていてもよい。
【0075】
<ジエン化合物の製造方法>
本発明の一形態によればジエン化合物の製造方法が提供される。ジエン化合物の製造方法は、本発明に係る触媒に、アルコールを含む原料ガスを接触させてジエン化合物を製造することを含む。
【0076】
[触媒]
触媒としては、上述したものが用いられることからここでは説明を省略する。
触媒の使用量は、原料ガスに対して、0.1~10g/g・hであることが好ましく、1~5g/g・hであることがより好ましい。触媒の使用量が0.1g/g・h以上であると、反応転化率が向上できることから好ましい。一方、触媒の使用量が10g/g・h以下であると、副生成物の副生を抑制できることから好ましい。
【0077】
[原料ガス]
原料ガスは、アルコールを含む。その他、原料ガスは、アルデヒド、不活性ガス等をさらに含んでいてもよい。
【0078】
(アルコール)
アルコールとしては、特に制限されないが、炭素数1~6のアルコールが挙げられる。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられる。
原則として、使用するアルコールによって得られるジエン化合物が異なる。例えば、エタノールを使用する場合、ブタジエンが得られる。また、プロパノールを使用する場合、ヘキサジエンが得られる。さらにブタノールを使用する場合、オクタジエンが得られる。
アルコールは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよいが、副反応を抑制する観点から単独で用いることが好ましい。
【0079】
原料ガス中のアルコールの濃度は、原料ガス100体積%に対して、10体積%以上であることが好ましく、15体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上であることがさらに好ましく、50体積%以上であることが特に好ましく、75体積%以上であることが最も好ましい。なお、アルコールを2種以上組み合わせて用いる場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。本発明に係る触媒を用いることで、原料ガス中のアルコール濃度が高い場合であっても効率的に反応を進行させることができる。
【0080】
(アルデヒド)
アルデヒドは、通常、アルコールの酸化物である。具体例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド等が挙げられる。
原料ガスがアルデヒドを含む場合には、通常、アルコールに対応するアルデヒドが含まれる。具体的には、アルコールとしてメタノールを使用する場合にはアルデヒドはホルムアルデヒドであり、エタノールの場合にはアセトアルデヒドであり、プロパノールの場合にはプロピオンアルデヒドであり、ブタノールの場合にはブチルアルデヒドであり、ペンタノールの場合にはバレルアルデヒドである。ただし、上記アルデヒドはアルコールに対応するアルデヒド以外のアルデヒドを含んでもよい。
【0081】
原料ガス中のアルデヒドの濃度は、原料ガス100体積%に対して、1体積%以上であることが好ましく、5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上であることがさらに好ましく、50体積%以上であることが特に好ましく、75~99体積%であることが最も好ましい。なお、アルコールを2種以上組み合わせて用いる場合には、その和が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0082】
原料ガス中のアルコールおよびアルデヒドの総濃度は、原料ガス100体積%に対して、15体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、20~40体積%であることがさらに好ましい。
【0083】
(不活性ガス)
不活性ガスとしては、特に制限されないが、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
不活性ガスの濃度は、原料ガス100体積%に対して、90%以下であることが好ましく、30~90体積%であることがより好ましく、50~90体積%であることがさらに好ましく、60~80体積%であることが特に好ましい。
【0084】
[接触]
触媒と原料ガスとを接触させる態様は、特に限定されないが、例えば、反応管内の反応床に原料ガスを通流させ、反応床の合成用触媒と原料ガスとを接触させる態様であることが好ましい。
【0085】
触媒と原料ガスとを接触させる際の温度(反応温度)は、100~600℃であることが好ましく、200~500℃であることがより好ましく、250~450℃であることがさらに好ましい。反応温度が100℃以上であると、反応速度が充分に高まり、ジエン化合物をより効率的に製造できることから好ましい。一方、反応温度が600℃以下であると、触媒の劣化を防止または抑制できることから好ましい。
【0086】
触媒と原料ガスとを接触させる際の圧力(反応圧力)は、0.1~10MPaであることが好ましく、0.1~3MPaであることがより好ましい。反応圧力が0.1MPa以上であると、反応速度が高まり、ジエン化合物をより効率的に製造できることから好ましい。一方、反応圧力が10MPa以下であると、触媒の劣化を防止または抑制できることから好ましい。
【0087】
反応床中の原料ガスの空間速度(SV)は、通常、反応圧力及び反応温度を勘案して、空間速度を適宜調整するが、標準状態換算で、0.1~10000h-1とすることが好ましい。
【0088】
例えば、製造装置10を用いてブタジエンを製造する場合は、温度制御部5及び圧力制御部6で反応管1内を任意の温度及び任意の圧力とする。ガス化された原料ガス20を供給管3から反応管1内に供給する。反応管1内において原料が合成用触媒に接触して反応し、ブタジエンが生成する。ブタジエンを含む生成ガス22は、排出管4から排出する。生成ガス22には、アセトアルデヒド、プロピレン、エチレン等の化合物が含まれていてもよい。
【0089】
ジエン化合物を含む生成ガス(
図1における生成ガス22)に対しては、必要に応じて気液分離や蒸留精製等の精製を行い、未反応の原料や副生物を除去する。
また、本発明は、バイオエタノールからジエン化合物を製造し、環境負荷を低減することもできる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0091】
(実施例1)
界面活性剤としてP123([(HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20)H]、BASF社製)2gをビーカー内に仕込み、これに65mLの水を加え、攪拌して前記界面活性剤を溶解させた。界面活性剤が溶解した水溶液に、塩化ハフニウム(HfCl4)、硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO3)2・6H2O)を加えた後、攪拌して金属塩化物を溶解させた。これにテトラエトキシシランを加え原料溶液を調製した。40℃で20時間攪拌した。その後、100℃に昇温し、20時間静置した。
次いで、原料溶液に2N塩酸を35mL添加して、40℃で20時間攪拌することで、懸濁液を得た。
前記懸濁液を100℃で20時間熟成した後、濾過し、エタノールと水で洗浄した後、粉末をシャーレに移し、110℃の温度に保たれたオーブン中で乾燥させることで固形コロイドを得た。
得られた固形コロイドを、電気炉を用いて空気雰囲気下で550℃、5時間、焼成することで、Hf、Si、Znを含む複合酸化物である触媒を製造した。
【0092】
得られた触媒のHfおよびZnのモル含有率(モル%)を以下の方法により測定した。すなわち、得られた触媒の一定量をはかり取り、アルカリ融解による分解処理及び酸溶解後、定容し、供試液とした。供試液のHfおよびZnのモル含有率(モル%)をICP発光分光分析装置にて測定した。その結果、Hfのモル含有率は1.56モル%であり、Znのモル含有率は2.02モル%であった。なお、Siの含有率(モル%)は、100からHfのモル含有率およびZnのモル含有率を差し引いた値である。よって、触媒のSiのモル含有率は、96.42モル%である。
また、触媒の平均細孔直径を以下のように測定した。すなわち、触媒の一定量をはかり取り、ガス吸着法を用いて、触媒の平均細孔直径を測定した。その結果、触媒の平均細孔直径は、2.5nmであった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0093】
(実施例2-8)
触媒中の元素X、Znのモル含有率が表1の値となるように、テトラエトキシシラン、塩化ハフニウム(IV)、および硝酸亜鉛六水和物の使用量を調整したことを除いては、実施例1と同様の方法で触媒を製造した。
また、実施例1と同様の方法で、元素XおよびZnのモル含有率、触媒の平均細孔直径を測定した。
得られた結果を下記表1に示す。
【0094】
(実施例9-15)
塩化ハフニウム(IV)に代えて、対応する金属塩を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で触媒を製造した。
また、実施例1と同様の方法で、元素XおよびZnのモル含有率、触媒の平均細孔直径を測定した。
得られた結果を下記表1に示す。
【0095】
(比較例1)
塩化ハフニウム(HfCl4)、硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO3)2・6H2O)を用いなかったことを除いては、実施例1と同様の方法で触媒を製造した。
また、実施例1と同様の方法で、触媒の平均細孔直径を測定した。
得られた結果を下記表1に示す。
【0096】
(比較例2)
乳鉢内でシリカ、酸化ハフニウムと酸化亜鉛を混合し乳棒を用いて摺合せた後、るつぼに移し700℃、5時間、焼成することで、Hf、Zn、Siを含む触媒を製造した。
また、実施例1と同様の方法で、元素XおよびZnのモル含有率、触媒の平均細孔直径を測定した。
得られた結果を下記表1に示す。
【0097】
(評価方法)
実施例1~15並びに比較例1及び2で調製された触媒を用いて、エタノールを1,3-ブタジエンに変換する際の1,3-ブタジエン(BD)選択率、転化率、1,3-ブタジエン(BD)の収率を測定した。また、エチレンの選択率を測定した。
【0098】
具体的には、触媒3.4gを直径1/2インチ(1.27cm)、長さ15.7インチ(40cm)のステンレス製円筒型の反応管に充填して反応床を形成した。次いで、反応温度(反応床の温度)を350℃又は300℃とし、反応圧力(反応床の圧力)を0.1MPaとした。SV1200L/hr/触媒量(L-触媒)で原料ガスを反応管に供給し生成ガスを得た。原料ガスは、エタノール15体積%(気体換算)、アセトアルデヒド15体積%(気体換算)、窒素70体積%(気体換算)の混合ガスであった。
【0099】
回収した生成ガスをガスクロマトグラフィーにより分析し、BDの選択率、エチレンの選択率、転化率、BDの収率([転化率]×[BDの選択率])を求めた。なお、「BDの選択率」とは、触媒を用いた反応で消費された原料のモル数のうち、ブタジエンへ変換された原料のモル数が占める百分率である。本評価では、エタノールおよびアセトアルデヒドを原料として用いることから、これらの合計モル数が原料のモル数である。また、「転化率(原料転化率)」とは、原料ガスに含まれる原料のモル数うち、消費されたモル数が占める百分率である。
得られた結果を下記表1に示す。
【0100】
【0101】
表1の結果から、実施例1~15の触媒は、原料ガス中に多量のエタノールおよびアセトアルデヒドを含む場合であっても、好適に1,3-ブタジエンが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0102】
1 反応管
2 反応床
3 供給管
4 排出管
5 温度制御部
6 圧力制御部
10 ブタジエンの製造装置