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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】編機を用いて編物を編成する方法および編機
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/36 20060101AFI20221220BHJP
   D04B 7/04 20060101ALI20221220BHJP
   D04B 7/24 20060101ALI20221220BHJP
   D04B 15/70 20060101ALI20221220BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20221220BHJP
   D04B 1/10 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
D04B15/36 103
D04B7/04
D04B7/24
D04B15/70
D04B1/00 Z
D04B1/10
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019564588
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2018053182
(87)【国際公開番号】W WO2018146197
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】1702106.4
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519290895
【氏名又は名称】アンメイド エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】アラン-ジョーンズ,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ボスパー,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】エメリー,カースティ
(72)【発明者】
【氏名】ワッツ,ハル
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-055652(JP,A)
【文献】国際公開第2009/133788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
編機を用いて編まれる物品又は物品の一部を形成する2層の編物を編成する方法であって、前記編機は、複数の編針を用いて複数の糸を編むように構成され、各編針は、ステッチの編成中、前記複数の糸の1つに連結しそれを編むように構成され、糸は、スワップで前記編物の一の層から他の層に移ってよく、
編成されるパターンに依存してステッチごとにステッチ長さを制御可能に変化させることを含み、
編成された2層の編物の密度は、存在するステッチに対するスワップの比として定義され、前記ステッチ長さは、前記編成編物の前記パターンの前記密度に依存して、編まれた前記物品が所定のサイズになるように変化し、
前記ステッチ長さは、編成されるパターンの、存在するステッチに対するスワップの比として定義される前記密度に少なくとも基づいてパラメータを定義するモデルに従って決定され、
前記モデルは、編成される編物に関して定義された寸法xにおけるステッチ長さSxおよびyにおけるSyを決定するように構成され、前記モデルは、以下のパラメータ、
【数1】
を含み、
a:前記ApSおよびDグラフの前記平均勾配
b:前記ApS切片およびT直線の前記勾配
c:前記ApS切片およびT直線の前記切片
e:前記RおよびD傾向線の前記平均勾配
f:前記R切片およびT直線の前記勾配
g:前記R切片およびT直線の前記切片
である
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記編機は、各々が対応する針を制御するための複数の機構を含み、前記方法は、所望の糸ステッチ長さを実現するために前記機構を個々に制御することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個々の機構の各々はステッパモータであり、前記方法は、所望のステッチ長さを実現するために前記様々なステッパモータの動作を制御することを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記モデルは、ステッチ長さを決定するための多変量モデルであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記多変量モデルからの出力を得ることは、
ApSおよびDグラフの平均勾配
ApS切片およびT直線の勾配
ApS切片およびT直線の切片
RおよびD傾向線の平均勾配
R切片およびT直線の勾配
R切片およびT直線の切片
を含むグループから選択されたパラメータのグラフを生成することを含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
追加のパラメータhが用いられ、hは、前記R-D勾配およびT直線の前記勾配として定義され、
R=(eT+h)D+fT+g
である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
存在するステッチに対するスワップの比として定義される密度は、編成される前記パターンの初期グラフを入力として受け取り、その後、以下のステップ、即ち、
編成される前記パターンに基づいて初期密度マップを生成すること、および
処理された密度マップを生成するために前記初期密度マップにフィルタを適用すること
を実行すること
によって決定され、
前記処理された密度マップに、以下のステップ、即ち、
前記編物に関する所望の出力を実現するために必要なステッチ長さを決定するためにパラメータ化モデルを用いて初期テンションマップを生成すること
を適用することを含む
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記初期テンションマップから、用いられる個々のテンションの数が低減される量子化テンションマップを生成することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
編物の編成中に編物全体に適用される、編機における、編まれる物品又は物品の一部を形成する2層の編物のステッチのステッチ長さを決定する方法であって、ここで、糸は、スワップで前記編物の一の層から他の層に移ってよく、前記編物におけるスワップの密度に依存して、前記物品又は前記物品の一部が所定のサイズに編まれるように、それに応じて前記ステッチ長さを変化させることを含み、
前記編成された2層の編物の前記密度は、存在するステッチに対するスワップの比として定義され、前記ステッチ長さは、前記編成編物のパターンの前記密度に依存して変化し、
前記ステッチ長さは、編成されるパターンの、存在するステッチに対するスワップの比として定義される前記密度に少なくとも基づいてパラメータを定義するモデルに従って決定され、
前記モデルは、編成される編物に関して定義された寸法xにおけるステッチ長さSxおよびyにおけるSyを決定するように構成され、前記モデルは、以下のパラメータ、
【数2】
を含み、
a:前記ApSおよびDグラフの前記平均勾配
b:前記ApS切片およびT直線の前記勾配
c:前記ApS切片およびT直線の前記切片
e:前記RおよびD傾向線の前記平均勾配
f:前記R切片およびT直線の前記勾配
g:前記R切片およびT直線の前記切片
である
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記存在するステッチに対するスワップの比として定義される密度は、編成される前記パターンの初期グラフを入力として受け取り、その後、以下のステップ、即ち、
編成される前記パターンに基づいて初期密度マップを生成すること、
処理された密度マップを生成するために前記初期密度マップにフィルタを適用すること、および
前記編物に関する所望の出力を実現するために必要なステッチ長さを決定するためにパラメータ化モデルを用いて初期テンションマップを生成すること
を実行することによって決定される
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記初期テンションマップから、用いられる個々のテンションの数が低減された量子化テンションマップを生成することを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ステッチ長さは、編成される物品において用いられる糸の長さを列ごとに制御するために変化することを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
編物を編成するための編機であって、
ステッチの編成中、各々が複数の糸の1つに連結しそれを編むように構成された複数の編針と、
編成されるパターンに依存して各ステッチのステッチ長さを制御可能に変化させるためのコントローラと
を備え、
前記コントローラは、編物を編むために使用される糸に適用されるステッチの長さ及び/又はテンションを決定するために、請求項1~12のいずれかの方法を実行するように構成されたプロセッサを含む
ことを特徴とする編機。
【請求項14】
各々が前記糸の1または複数のテンションを変化させるように構成された複数の可変テンション付与装置を備えることを特徴とする請求項13に記載の編機。
【請求項15】
前記可変テンション付与装置はステッパモータであることを特徴とする請求項14に記載の編機。
【請求項16】
編機用のコントローラであって、前記編機は、ステッチの編成中、各々が複数の糸の1つに連結しそれを編むように構成された複数の編針を用いて編物を編成するように構成され、前記コントローラは、
編成されるパターンの細部を受信し、編成される前記パターンの前記受信した細部に依存して、編成中、ステッチ長さおよび/または糸に付与されるテンションを決定する
ように構成され、
前記コントローラは、編物を編むために使用される糸に適用されるステッチの長さ及び/又はテンションを決定するために、請求項1~12のいずれかの方法を実行するように構成されたプロセッサを含む
ことを特徴とするコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編機を用いて編物を編成する方法および編機に関する。
【背景技術】
【0002】
編機は一般に、衣服または衣服を製造するための編物を製造するために用いられる。一般に、編物にはパターンが提供され、パターンは、編成プロセスにおいて使用する適切な色の糸の選択によって作成され得る。
【0003】
2色の糸を用いる2層衣服の製造において、表層に第1の色のステッチが存在することにより、裏層における対向ステッチは第2の色となる。衣服におけるパターンの形成は、表層における2色の組み合わせの結果である。第2の色のステッチが衣服の前面に表示されるように、第1の色糸は裏層へ移行する。同様に、第1の色のステッチが衣服の前面に表示されるように、第2の色糸は裏層へ移行する。図1Aおよび図1Bを参照して後述されるように、前面に出現する色糸を変えることによって衣服にパターンを形成するこのプロセスは、「スワッピング」として知られている。個々のスワップにおいて、パネルの層間にわずかな糸の余剰が存在する。この余剰は単一のステッチに関して非常に小さな実際量であるが、衣服全体または編物全長では、変動が著しくなり得る。
【0004】
本明細書において、異なる2色の2つの糸を参照して主に説明されるが、実際は編成および編機の分野において(任意の数の異なる色または同色の)任意の数の糸が使用され得るため、本開示がそのように限定されないことが理解される。
【0005】
編機は、大量の衣服を共通パターンに製造するために効率的に用いられ得ることが、長きにわたり知られてきた。たとえばStoll社または島精機によって製造されるような編機など、そのような機械が動作する時、機械への入力ファイルが決定されなければならない。入力ファイルは、機械が衣服または編物を製造可能であるために必要な様々なパラメータを指定する。これは、糸の種類および色、および編成されるパターンを含む。
【0006】
多数の衣服を製造する時、最初に校正段階が存在し、ここで、たとえばステッチの数およびサイズ(一般にステッチ長さ)などのパラメータは、選択されたパターンに製造される衣服のサイズが所望のサイズと一致することを確実にするために、試行錯誤を用いて変えられ得る。そのような編機を用いることにより、同じ編成パターンが使用される場合でも、糸が変更されると、製造される編物または衣料品の寸法は異なり得る可能性がある。また、異なる編成パターンが使用される場合、xおよびy寸法においてステッチの全体数が同じ場合でも、製造された物品のサイズは異なり得る。
【0007】
ステッチ長さおよびテンションが関連付けられ得る1つの状況を理解するために、ここで図1C~1Gが参照される。これらの図は、複数の針1が傾斜ベッド3上に配置された2重ベッド編機の一種の側面図および端面図を様々に示す。針の各々は、使用中、一般に針1に垂直に走る糸(不図示)と選択的に係合するように構成されたフック部5を有する。図1Cは、傾斜ベッド上に配置された複数の針1を示す。針は全て、レスト位置にある。図1Dは、図1Cにおける機械の構成の端面図を示す。
【0008】
編成中、図1Eに示すように、針は、頂部にある時に糸を捕捉し、針の下方向への運動中にステッチに糸を引き込むように、順番に上げ下げされる。図1Fは、図1Eにおける機械の構成の端面図を示す。図1Fにおいて、両方のベッドが見えるが、図1Cおよび図1Eにはベッドの片方しか示されない。見て分かるように、図1Cの図と比べて、示された2つの針は、それらのフックが所望の糸を捕捉することができるように持ち上げられている。針はその後、引き下げられる。これは、3つの針のうち中央の1つがステッチを完成させるプロセス中であるために他の2つよりも低くなっていることを示す図1Gに模式的に示される。中央の針が牽引される深さが、その特定のステッチのステッチ長さを制御する。
【0009】
理解されるように、本明細書で説明されるものは、1つの特定の種類の編機、およびその中でステッチ長さまたはテンションがどのように制御され得るかである。上記説明は、編機の種類に関わらず適用され、たとえば単一ベッドの編機または実際に任意の適切な種類の編機に等しく適用される。実際、利用可能な多くの様々な種類の編機が存在するが、同じ一般原理がステッチ長さまたはテンションの制御に適用される。
【0010】
たとえば2000のランのジャンパーなど、多数の類似製品が製造される場合、編機に関する所望の構成が実現され得るまで複数回の反復が行われるとしても、それは重要な問題ではない。2000のランのうち「廃棄」となる5つの衣服相当の編物は、使用される材料全体の中で小さな割合を示す。
【0011】
現在、共通デザインに対する物品の製造ランをますます小さくし、それどころか、選択されたデザインに従って単一の物品のみを製造することができないかという要望が存在する。この状況において、試行錯誤は明らかに、編機のための入力設定に到達するための商業的に実用可能な方法ではない。これは、著しい量の廃棄物を意味する。
【0012】
編機は既知であり、動作または制御に関する複数の例および方法が、PCT/EP2015/061375号、PCT/EP2015/076485号、PCT/EP2016/052571号、およびUS-A-2015/0366293号において説明される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によると、編機を用いて編物を編成する方法が提供され、編機は、
各々が、ステッチの編成中、複数の糸の1つに連結しそれを編むように構成された複数の編針を用いて複数の糸を編むように構成され、方法は、編成されるパターンに依存してステッチのステッチ長さを制御可能に変化させることを備える。
【0014】
スワップの密度(または数)に従って編成される物品全体でステッチのステッチ長さを変化させることによって、最終的な出力サイズの予測性の程度が高められ得ることが認識されている。編機の従来の使用において、編成される衣服または編物が予想される所望のサイズに至ることを確実にするために、たとえばステッチ長さまたはテンションなどの入力パラメータを決定するためにある程度の試行錯誤が用いられることが一般的である。本方法において、ステッチ長さは、製造された物品が既定のサイズを有するように、編成されるパターンに依存して、たとえば密度(単位面積または列に沿った単位長さごとのスワップの数)に依存して変化する。これは、設定パターンが使用され命令がそれに従った場合でも、誤ったサイズになるリスクを伴わずに編機で少数の物品が作成されることを可能にするという点で有利である。他の例において、ステッチ長さは、編成されるパターン内のスワップの数に依存して変化する。これは当然、密度に比例するが、密度自体の値を決定することなく処理が行われ得る。
【0015】
個々のステッチにテンションを割り当てることに複数の利点が存在する。最も顕著な点として、パターン密度が変化する編物または衣服の領域に関して、均一な寸法のサンプルまたは製品をもたらすためにステッチのテンションが変えられ得る。本方法によって可能であるように、ステッチごとにテンションを付与することによって、これらの問題は、各ステッチの寸法を動的に修正することによって回避することができる。これによってデザイナーは所与のデザインが予定通りに出現するという確信を与えられ、これは、多数のデザイナーまたはカスタムデザイン製品が正確かつ一貫性をもって製造されなければならない場合、特に重要である。
【0016】
任意の特定の針が降下する深さ(およびその結果ステッチに引き込まれる糸の量)は、ステッパモータによって制御される。したがって、最も一般的に言及されるパラメータは、針が牽引される深さを意味するステッチ長さである。深さは、そのような機械内のステッパモータによって特に制御されるものである。実際に制御されるのは針が牽引される深さであるが、機械への糸の供給は摩擦によって制御されるため、これは、「テンション制御」とも称され得る。任意の所与の状況において、糸は何らかの定められたテンションであり、針が深く牽引されるほど、ステッチ内の糸に加わるテンションは大きい。場合によっては、同じ針落ちが適用される場合でも、糸が機械にはいる時の摩擦による糸張力にも依存し得るため、ステッチに同じ長さの糸が使用されることを保証することは困難であり得る。いずれにしても、理解されるように、上述したパラメータが管理され、各ステッチにおける糸の長さおよび/またはテンションが制御され得るように、編機内のステッパモータに制御が適用され得る。
【0017】
実施形態において、編成編物の密度は、存在するステッチに対するスワップの比として定義され、ステッチ長さは、編成編物のパターンの密度に依存して変化する。上述したように、編成編物におけるスワップの数に基づいてステッチ長さを決定する代わりに、この決定は、編成編物におけるスワップの数に基づいてなされ得る。
【0018】
実施形態において、編機は、各々が対応する針を制御するための複数の機構を含み、方法は、所望の糸ステッチ長さを実現するために機構を個々に制御することを含む。
【0019】
実施形態において、個々の機構の各々はステッパモータであり、方法は、所望のステッチ長さを実現するために様々なステッパモータの動作を制御することを含む。たとえばStoll社または島精機製のものなどの編機において一般的に用いられるステッパモータは、編成中の衣服または編物全体で変化するステッチ長さを実現するために、ステッチごとに糸のテンションを変化させるように制御され得る。他の例において、用いられる粒度のレベルはステッチごとではなく、たとえば4または6ステッチのブロックの各々が共通の長さまたはテンションを割り当てられるように量子化レベルで行われる。
【0020】
実施形態において、ステッチ長さは、編成されるパターンの密度に少なくとも基づいてパラメータを定義するモデルに従って決定される。
【0021】
実施形態において、モデルは、編成される編物に関して定義された寸法xにおけるステッチ長さSxおよびyにおけるSyを決定するように構成され、モデルは、以下のパラメータ、
【0022】
【数1】
【0023】
を含み、
a:ApSおよびDグラフの平均勾配
b:ApS切片およびT直線の勾配
c:ApS切片およびT直線の切片
e:RおよびD傾向線の平均勾配
f:R切片およびT直線の勾配
g:R切片およびT直線の切片
である。
【0024】
実施形態において、追加のパラメータhが用いられ、hは、R-D勾配およびT直線の切片として定義され、R=(eT+h)D+fT+gである。
【0025】
実施形態において、密度は、編成されるパターンの初期グラフを入力として受け取り、その後、以下のステップ、編成されるパターンに基づいて初期密度マップを生成すること、および処理された密度マップを生成するために初期密度マップにフィルタを適用することを実行することによって決定される。
【0026】
実施形態において、方法は、処理された密度マップに以下のステップ、編物に関する所望の出力を実現するために必要なステッチ長さを決定するためにパラメータ化モデルを用いて初期テンションマップを生成することを適用することを含む。
【0027】
実施形態において、方法は、初期テンションマップから、用いられる個々のテンションの数が低減された量子化テンションマップを生成することを含む。
【0028】
実施形態において、低減されたテンションの数は9~16である。
【0029】
実施形態において、量子化テンションマップ内で用いられるテンションの数は15である。
【0030】
本発明の第2の態様によると、編物の編成中に編物全体に適用される、編機におけるステッチのステッチ長さを決定する方法が提供され、方法は、編物におけるスワップの密度または数に依存して、それに応じてステッチ長さを変化させることを含む。
【0031】
実施形態において、編成編物の密度は、存在するステッチに対するスワップの比として定義され、ステッチ長さは、編成編物のパターンの密度に依存して変化する。
【0032】
実施形態において、ステッチ長さは、編成されるパターンの密度に少なくとも基づいてパラメータを定義するモデルに従って決定される。
【0033】
実施形態において、モデルは、編成される編物に関して定義された寸法xにおけるステッチ長さSxおよびyにおけるSyを決定するように構成され、モデルは、以下のパラメータ、
【0034】
【数2】
【0035】
を含み、
a:ApSおよびDグラフの平均勾配
b:ApS切片およびT直線の勾配
c:ApS切片およびT直線の切片
e:RおよびD傾向線の平均勾配
f:R切片およびT直線の勾配
g:R切片およびT直線の切片
である。
【0036】
実施形態において、追加のパラメータhが用いられ、hは、R-D勾配およびT直線の切片として定義され、R=(eT+h)D+fT+gである。
【0037】
実施形態において、密度は、編成されるパターンの初期グラフを入力として受け取り、その後、以下のステップ、編成されるパターンに基づいて初期密度マップを生成すること、および処理された密度マップを生成するために初期密度マップにフィルタを適用することを実行することによって決定される。
【0038】
実施形態において、方法は、処理された密度マップに、以下のステップ、編物に関する所望の出力を実現するために必要なステッチ長さを決定するためにパラメータ化モデルを用いて初期テンションマップを生成することを適用することを含む。
【0039】
実施形態において、方法は、初期テンションマップから、用いられる個々のテンションの数が低減された量子化テンションマップを生成することを含む。
【0040】
実施形態において、低減されたテンションの数は9~16である。
【0041】
実施形態において、量子化テンションマップ内で用いられるテンションの数は15である。
【0042】
実施形態において、ステッチ長さは、編成される物品において用いられる糸の長さを列ごとに制御するために変化する。すなわち、モデルは、列全体にわたりステッチ長さを決定するために用いられ、個々のステッチ長さは、編成物品の列全体にわたり所望の長さの糸が使用されることを確実にするために範囲内で変化し得る。
【0043】
本発明の第2の態様によると、編物を編成するための編機が提供され、編機は、各々が複数の糸の1つに連結しそれを編むように構成された複数の編針と、編成されるパターンに依存して各ステッチのステッチ長さを制御可能に変化させるためのコントローラとを備える。
【0044】
実施形態において、編機は、各々が糸の1または複数のテンションを変化させるように構成された複数の可変テンション付与装置を備える。
【0045】
実施形態において、可変テンション付与装置はステッパモータである。
【0046】
実施形態において、コントローラは、ステッチ長さおよび/または編物を編成するために用いられる糸に付与されるテンションを決定するために本発明の第1の態様の方法を実行するように構成されたプロセッサを備える。
【0047】
本発明の第3の態様によると、編機用のコントローラが提供され、上記編機は、各々が複数の糸の1つに連結しそれを編むように構成された複数の編針を用いて編物を編成するように構成され、コントローラは、編成されるパターンの細部を受信し、受信した編成されるパターンの細部に依存して、編成中、ステッチ長さおよび/または糸に付与されるテンションを決定するように構成される。
【0048】
実施形態において、コントローラは、パターンの細部を受信し、パターンの密度に関する値を決定するように構成され、密度は、編成されるパターンに存在するステッチに対するスワップの比として定義され、コントローラは、パターンの密度に依存してステッチ長さを変化させるように構成される。
【0049】
実施形態において、コントローラは、ステッチ長さおよび/または編物を編成するために用いられる糸に付与されるテンションを決定するために本発明の第1の態様の方法を実行するように構成されたプロセッサを備える。
【0050】
本発明の実施形態は、以下、添付図面を参照して詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1A】異なる2色の糸で形成された編物を通る部分におけるステッチの略図を示す。
図1B】異なる2色の糸で形成された編物を通る部分におけるステッチの略図を示す。
図1C】2重ベッド編機の略図を示す。
図1D】2重ベッド編機の略図を示す。
図1E】2重ベッド編機の略図を示す。
図1F】2重ベッド編機の略図を示す。
図1G】2重ベッド編機の略図を示す。
図2編物に関する選択的パターン構成の3つの図を示す。
図3】編成編物のサンプルの面積の近似値を測定および決定するための方法を模式的に示す。
図4】編成編物に関する面積とともにスワップ密度の変動を示すグラフである。
図5】様々なステッチテンションに関する密度とともにステッチごとの面積(APS)の変動を示すグラフである。
図6】編み糸のテンションTと図5のAPSグラフの切片との間の関係を示す。
図7】サンプル内の全てのステッチの平均Y寸法にわたる平均X寸法に等しいパラメータRと、複数の様々な糸張力に関するテンションとの間の関係を示す。この図は、様々なステッチテンションに関するR-D直線の様々な勾配を示す。
図8】テンションとR切片との間の逆直線関係を示す。
図9】様々なステッチテンションにおける3色編物の密度に対するAPSの変動を示す。
図10図9のグラフを決定するために用いられた3色編物に関してAPS切片とテンションとの間の変動を示す。
図11】様々なテンションに関する3色編物の密度に対するRに伴う変動を示す。
図12図11のグラフのR切片における変動を示す。
図13】様々なステッチ密度を用いて作製された2色編物を洗浄することによる寸法の変化の図を示す。
図14】3色編物の寸法の変化を示すこと以外、図13のグラフと同様のグラフである。
図15】編機への入力を提供する際に用いるための生成された密度マップ、パターン、および修正された密度マップを示す。
図16図16aは、図15aと同じ生成された密度マップを示す。図16b,cは、標的テンションマップおよび修正されたテンションマップを示す。
図17図17aは、生成されたテンションマップを示す。図17bは、量子化テンションマップを示す。
図18】テンションおよびパターン密度に対するステッチ長さの変動を示す3次元プロットである。
図19】様々な個々のステッチ長さに関して図17の3次元プロットを通る複数の部分を示す。
図20】本方法を実装するための編機および制御システムの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
編機を用いて編物を編成する方法および装置が提供される。編機は、使用中、複数の編針を用いて複数の糸を編むように構成される。各編針は、編成中、複数の糸の1つに連結されるように構成される。すなわち、針によって作成されるステッチごとに、各針は、複数の糸の1つに関連している。糸の各々に付与されるテンションは、編成されるパターンに依存して制御可能に変化する。具体的には、編成編物またはジャカードが十分に制御されることを可能にするためにテンション制御モデルが用いられる。場合によってはステッチごとに、用いられるテンションを制御することによって、この方法および装置は、独自のユーザ生成パターンが所望の寸法で製造され、一貫性および信頼性のある形状、概観、および質感を有することを可能にする。
【0053】
また、後述するように、この方法は、洗浄前および洗浄後両方のパネルサイズの予測が正確に実現されることを可能にする。方法は、メリノウール、カシミア、およびその他を含むがこれに限定されない任意の適切な糸に適用される。上述したように、衣服のカスタマイズがますます顧客に所望されるようになったことにより、大規模な工業用編機を用いて個別的な製品が編成されること、および一定かつ既定のサイズを有することができることを可能にする方法および装置が大いに望ましいという場合が予想される。入力手段として同様のパターンが使用される場合でも生じる編機からの出力サイズのばらつきに関する上述した問題は、本方法によると、高費用の試行錯誤方法論が最小限にされ、および/または完全に免じられ得ることを意味する。これによって、工業用編機での(たとえば100または1000の同じ製品のランとは対照的な)個別的な衣服の製造が技術的かつ商業的に可能なものとなる。
【0054】
図1aは、異なる2色の糸で形成された編物を通る部分における4つのステッチの略図を示し、示される特定の部分には、2つの糸があるが切替え(1つの層から別の層への移行)はない。すなわち、4つのステッチ全てに関して、第1の糸は編物の同じ側面または表面にある。一般にこれは第1の均一な色であるが、糸自体は様々な色を有し得る。したがって、糸層間にスワップは存在しない。
【0055】
対照的に、図1bにおいて、ステッチ1は上層に第1の糸を有し、同じことがステッチ4にも言える。ステッチ2および3の上層は第2の糸から成る。ステッチ1と2、およびステッチ3と4との間の移行は、第2の糸が編物の前面へスワップし、ステッチ1からステッチ2へ移動し、次に裏面へ戻り、ステッチ3からステッチ4へ移動するという第2の糸の一続きによって示される。したがって、図式的に示すのみであるが、この移行には追加の長さの糸2が必要であることが明らかである。ステッチ2および3に関して前面から裏面へ通過する糸1にも同じことが言える。
【0056】
図2a~2cは、選択的パターンの3つの図を示す。これらの図から、同じ値のDを有するサンプルが実際にどのように異なるパターンを有し得るかが理解され得る。図2aおよび図2bは、同じ数の水平スワップおよびそれに伴い同じ値のDを共有するが、視覚的には異なる。図2cは、水平スワップを有さず、これは単一の均一な色のサンプルの場合と同じであるが、またそれとは異なるパターンを有する。
【0057】
他の全ての因子は等しくとも、結果として生じる編物領域のサイズにおける変動とスワップの数との間に必ずしも直線関係があるのではなく、何らかの差異が存在する。2つの糸の間に多数のスワップを有する編物は、ステッチの観念的数および個々のステッチの各々のサイズまたは長さが同じであっても、少ない数のスワップを有するものと比べて衣服または編物領域の物理的寸法における増加をもたらす。
【0058】
製造中にステッチのテンションを制御可能に変化させることによって、機械編成物品に高度な一貫性、予測性、および均一性が実現され得ることを認める方法および装置が提供される。所与のパネルにおけるステッチに付与されるテンションとその結果生じる寸法との間の相互作用を記述し、それによって、異なるパネルパターン密度を有する部分の間に元来生じるステッチ長さのばらつきが補償されることを可能にする方法を組み込む多変量モデルが提供される。
【0059】
後述するように、テンション情報は、所与のパネルに適用されるパターンの分析によって自動的に計算され、編機へ供給するための機械ファイルに直接統合される。これは、遠隔的に実現され、編機への機械ファイルの一部として提供され得るか、あるいは編機に統合されたコントローラまたはプロセッサによって行われ得る。
【0060】
これによって、任意のパターンが、寸法および視覚的概観において向上した一貫性を有して編成されることが可能である。複雑かつ動的なパターンを有するパネルが、必要な寸法まで正確かつ確実に編成されることができ、業務用編機における独自のユーザカスタマイズされた衣服の製造が容易になる。
【0061】
製造される所与のパターンに関して、ステッチ長さにおける特定の変化(およびそれに伴う糸張力)が編機内で用いられることを可能にする多変量モデルが作成された。複数のパラメータが定義され、後に編機へのテンション入力を生成するために用いられるモデルが生成される。用いられる1つの特定のモデルの細部が後述されるが、理解されるように、このモデルに対する修正が用いられてよく、このモデルは、編機で用いられる糸張力またはステッチ長さにおける必要な変化の決定を実現する唯一の方法ではない。ステッチ長さと糸張力との間の関係の例は、図18および図19を参照して後述される。
【0062】
またモデルは、列全体におけるステッチ長さの変化によって、編成される物品におけるその列全体に用いられる糸の長さも可能にする。すなわち、モデルは個々のステッチ長さを決定するために用いられ得るが、これらは列全体にわたって平均化または制御されてよく、個々のステッチ長さは、編成物品の列全体にわたり所望の長さの糸が使用されることを確実にするために範囲内で変化し得る。
パターンに関するステッチ長さを決定するためのモデル
パターン内のステッチに用いられるステッチ長さまたはテンションを決定するためのモデルの例がここで説明される。モデルは典型例であり、機械編成編物または衣服のサイズにおける予測性および信頼性を確実にするために必要な可変テンションを決定するために、他のモデルが用いられてよい。
【0063】
モデルは、編成物品におけるステッチテンションおよびそれに伴う長さを決定するために用いられ得る多変量モデルである。モデルの一部として、パラメータは、編成物品の実例から定義または計算される。モデルはその後、パラメータを用いて作成され、このモデルは、所望の出力を実現するために予測を行い編機のための制御入力を決定するために後に用いられ得る。
【0064】
1つの非限定的な例において、モデル内の因数は、ApS(ステッチごとの面積)および密度グラフの平均勾配、ApS切片およびT(テンション)線の勾配、ApS切片およびT直線の切片、RおよびD傾向線(Rは、サンプル内の全てのステッチに関する平均y寸法にわたる平均x寸法)の平均勾配、R切片およびT直線の勾配、およびR切片およびT直線の切片のいずれか1つまたは複数を含んでよい。
【0065】
1つの非限定的な特定の例を詳しく見ると、存在するステッチに対するスワップの比に等しい密度「D」の係数が定義される。図1aおよび図1bを見ると、理解されるように、これらの部分において、図1aでは、4つのステッチに関してスワップが存在しないので、0の密度Dがもたらされる。図1bにおいて、4つのステッチに2つのスワップが存在するので、0.5の密度Dがもたらされる。スワップの数はステッチの数を超えないので、Dは0~1の固定範囲を有し、拡張領域にわたって、またはステッチごとに指定され得る。本明細書で用いられる場合、所与のパターンに関する「密度」という用語は、特に記載されない限り係数Dを指す。
【0066】
図20の略図を参照して以下で説明される一般的な業務用編機において、任意の所与のステッチが生成されるテンションは、ステッチ長さが既定または所望の値であるように可変的に制御される。1つの例において、これは通常、編機内のステッパモータのシステムによって実現され得る。サンプルの製造時、ステッパモータによって糸に付与される物理的引張力に対応するテンションが指定され得る。
【0067】
この方法が用いられ得る編機の例は、Stoll社または島精機製のものを含み、Stoll CMSシリーズおよび島精機SVRおよびMach2シリーズを含むがこれに限定されない。
【0068】
モデルを最初に生成するために、バッチの数において、いくつかのサンプルが(Stoll編機を用いて)編成され、これらのサンプルの各々は、2つのパラメータ
1.ステッチごとの面積(APS)、および
2.後述される、
【0069】
【数3】
【0070】
として定義されるパラメータR、すなわち所与のサンプルに関してyの平均値で割り算されたxの平均値
の値を決定するために測定された。
【0071】
サンプルが測定された方法における一貫性を実現するために、サンプルに関するRの値を決定するための方法がその際決定された。各サンプルのx寸法およびy寸法の両方に関して、単純な巻尺計測を用いて5つの等距離読取りが行われた。わずかに内側に湾曲する側面を有する十分に一定の長方形状をとるサンプルの場合、これらの読取りは、xに関して最も低いところから最も高いところまで可能な限り完全に水平な直線で、yに関して最も右側から最も左側までの垂直線で行われ、湾曲縁部の影響が最小限にされた。x軸の両極端における2列のステッチも除外された。一般に、編機への入力として用いられるパターンにおいて、これらの縁部ステッチは、層が適切に接合することを確実にするためにソフトウェア内で上書きされる。したがって、各サンプルに関するRの値を決定するために、オリジナルパターンから残り196のステッチのみが考慮された。最終的に、各軸からの5つの読取りの平均が真のxおよびy値とされ、全ての分析に用いられた。このプロセスは、図面において図3A~3Cに示される。
【0072】
また留意すべき重要な点として、全てのサンプルは、測定前に軽く蒸気を当てられた。このプロセスは、編機から出たばかりのサンプルに見られる糸構造におけるあらゆる内部応力を緩和するために役立ち、一貫性を確実にする。実際、最初の蒸気処理は、サンプルの多くにおける極端に目に見える即時的変化をもたらす。後述するように、サンプルの洗浄に関する後の調査は、任意の更なる内部緩和が可能であったかを決定することを目的としていた。
【0073】
図3a~3cは、本方法を用いて製造された編物または衣服のサンプルの面積の一貫した近似をもたらすために用いられる測定手順の図を示す。2つの直交する方向xおよびyに複数の測定が行われ、よってx寸法およびy寸法の各々に関する平均値が決定される。平均面積はその後、平均寸法xおよびyを用いて単純に計算され得る。
【0074】
図3aは、衣服の長さに沿った様々な位置で複数のx寸法測定がどのように行われたかを示す。平均x値が決定される。同様のプロセスがy寸法において行われ、その後、図3cに示すように平均面積が計算される。
【0075】
図4は、用いられるパターンの密度Dと、ニットサンプルに関する測定面積との比例を表すグラフを示す。図5は、サンプルのApSとDとの関係を示し、ApSとDとの比例はテンション(T)とは無関係であり、傾向は、ApS軸におけるそれらのオフセットまたは切片によってのみ異なることを論証する。
【0076】
よって、TとともにAPS切片における変動を示す図6に示すように、この切片はTに比例することが留意された。
【0077】
図4および図5に関して上述したように、図6および図7に示すように、RおよびDならびにそれらの対応する切片およびTによって同様の傾向が共有される。標準的なエラー伝搬法を用いて全てのグラフに関してエラーバーが計算されたが、サイズが小さいことにより図4を除くすべてのグラフにおいて省略される。
【0078】
これらのグラフを用いて、変数間の関係を説明するために6つのパラメータが定義された。6つのパラメータは、
a:(図5の)ApSおよびDグラフの平均勾配
b:ApS切片およびT直線の勾配
c:ApS切片およびT直線の切片
e:RおよびD傾向線の平均勾配
f:R切片およびT直線の勾配
g:R切片およびT直線の切片
である。
【0079】
これらによって、以下の式を用いて個々のステッチの寸法SxおよびSyを決定することができる。
【0080】
【数4】
【0081】
式3および4におけるSyおよびSxはそれぞれ、所与のステッチのyおよびx寸法である。これによって、これらの値と各方向におけるステッチの数とを単純に乗算することにより、サンプルの寸法を計算することができる。サンプルのy寸法を決定するために、値Syは、サンプル内の列の数で乗算され得る。
【0082】
これらのパラメータの値は上記式の形式とともに、2色サンプルに関するテンション制御モデルを表す。このモデルを用いて、Tが既知でありDが計算され得る限り、任意のサイズおよびパターンのサンプルの寸法を予測することが可能である。この趣旨で、30全てのサンプルの予測寸法が計算され、それらの測定寸法と比較された。図8に示すように、これらの予測は、測定値と6%より大きくずれることはなく、多くの場合、更に正確であった。また留意すべき重要な点として、全30のサンプルにわたるxおよびyの両方における平均誤差は0であったが、これは場合によっては、パラメータが計算された方法から予想され得る。
【0083】
これらの誤差はおそらく、図に示すようにDに対して、またはTに対して作図された場合、特定の傾向を示さないことから、測定におけるランダム誤差と編成サンプルの寸法との積である。これらは、それらの寸法の計算に用いられたパラメータの精度のみに依存するので、結果のプールにより多くのサンプルを追加することによってこれらの値の品質を高めることのみが誤差を減少させる。
【0084】
このように、ステッチの所望のサイズを実現するためにステッチに付与されるテンションTの必須値が決定され得る。衣服または編物全体にわたり、パターンの密度Dが既知である場合に特定のサイズの衣服を製造するためにステッチのサイズが決定され得る。Dは、任意の所与のパターンに関して既知である。その結果、糸張力を制御するために用いられる編機またはステッパモータのために必要な入力または制御が決定され得る。
【0085】
モデルの有効性の更なる試験は、D値の範囲全体(0~1)をカバーする様々なサイズの5つの個別領域を含む「最悪の場合の」サンプルの製造であった。実際の衣服において、このサンプル内の短い距離にわたる極端な密度変化に直面することはめったになく、多くのパターンは、より自然で段階的な変化を示す。単一の均一なテンション値を用いてこの種のサンプルを編成することにより、個別領域が必然的に様々な寸法を有することになるので、極端に歪んだ予測不可能な形状が生じる。
【0086】
パターンは、5つのテンション領域を割り当てられ、その特定の領域を必要な均一サイズにするために各々の値が計算された。小さな領域の寸法の和は、サンプルの標的サイズとみなされ、300×403mmのサイズのサンプルをもたらすために10.55~12.05範囲のT値が用いられた。
【0087】
測定時、調整されたテンションを有する完了したサンプルは、314×429mmの寸法を有し、xおよびy寸法に関してそれぞれ4%および6%の差異を示すことが分かった。視覚的にもサンプルは十分に均一な形状を有し、制御可能な寸法として望まれるとおり均等な特徴を有した。この極端なサンプルに簡略化形式で適用された時にこの初期のモデルの精度が満たされると、調査は、ステッチごとにテンション値を適用して継続した。
【0088】
モデルによって行われた予測における誤差を更に低減するために、RおよびD直線の勾配が単一値に近似されないように修正がなされた。図7に見られるように、異なる値のTに関してR-D直線の勾配が異なることは明確な事実である。
【0089】
所与のテンションに関するRおよびD直線の勾配間の関係に基づいて、その直線に関するテンションTの値に比例する第7のパラメータがモデルに追加された。
【0090】
したがってモデルは以下のように表される。
a:ApSおよびD傾向線の平均勾配
b:ApS切片およびT直線の勾配
c:ApS切片およびT直線の切片
e:R-D勾配およびT直線の勾配
f:R切片およびT直線の勾配
g:R切片およびT直線の切片
h:R-D勾配およびT直線の切片
【0091】
【数5】
【0092】
したがって、上述したモデルの例と比較すると、この追加例において、パラメータeは、R-D勾配およびT直線の勾配として定義されるように変えられ、R-D勾配およびT直線の切片として定義される追加のパラメータhが用いられる。また、Rの定義は、次のように変数hを含むように修正される:R=(eT+h)D+fT+g。
【0093】
この追加による主要な利益は、Rの推定における全体誤差の低減であった。平均誤差は0のままであったが、予測の標準偏差は2色セットの場合4.2%から2.4%へ、3色セットの場合7.3%から4.7%へ減少し、3色セットに関するより大きな値は、2色と比べてサイズが小さいことに起因する。
【0094】
これらの値の更なる改善が以下の調査の一部の目的であり、この調査において、更に12の2色サンプルおよび更に25の3色サンプルが製造され、各セットの合計はそれぞれ42および44となった。これらのデータ点の追加は、新たな7パラメータモデルの使用とともに、2色および3色に関してそれぞれ1.8%および2.9%まで減少した寸法の誤差における標準偏差を示した。また、均一なテンションを用いて編成されたユーザ生成パターンの小さなセットに関する予測寸法における最大誤差は、1.4%および1.5%まで減少した。パターンは、モデルが実際に適用されるパターンとより一致するため、この予測のセットは、モデルの精度に関する重要な基準を表した。これらのレベルまで最大誤差を低減することにより、たとえば機械自体またはその制御ソフトウェアによって生じる誤差など他の誤差源に関するある程度の余地が許容される。
【0095】
したがって、この典型的なモデルを用いることによって、パターンの密度D(またはパターン内のスワップの数)が既知である限り、編成物品に所望の全体形状および寸法をもたらすために必要なステッチ長さ(またはテンション)を決定することが可能である。上述したモデルの具体例は、所与の密度Dに関して、既知の値の密度を有する編物領域内にあるステッチに用いられるべきステッチ長さの値を決定するための効率的かつ単純な方法を提供する。理解されるように、上に挙げた例は良好に機能するが、ここでの一般教示は、経験的モデルの使用によって、編機において使用可能なステッチ長さの値は、機械から出力される編物または衣服が予測可能かつ所望の品質を有するような方法で決定され得ることである。要するに、事前に行われる計算によって、編機のための制御パラメータを決定するために試行錯誤する必要なく定められた所望のサイズを有する単一の注文仕立ての物品を製造するための方法が用いられ得る。
洗浄
図13および図14は、サンプルの寸法が洗浄によってどのように変化するかを示す。図13は、2色のサンプルを洗浄する例を示し、図14は、3色のサンプルを洗浄する例を示す。
【0096】
当然常に予想されることであるが、洗浄後に寸法が何らかの変化を受けるようであるものとすると、モデルに入力されるパラメータの値は対応して変化することが意味される。

モデルは、後続する編成に使用される糸に関わらず用いられ得る。その例は、メリノウール、高品質カシミア、および他の糸も含む。
モデル試験
個々のステッチに独立したテンション値を適用することは、標準または従来型の機械制御ソフトウェアを用いて可能ではない。ただし、適切な制御および入力が用いられる場合、編機はこのように使用され得ることが認識されている。これは現在、所与のパネルを製造するために用いられる修正ファイルの使用によって実現されており、ファイルは、その中に正確な命令を有する。好適な例において、機械ファイルは、たとえばStoll社または島精機製の編機などの編機とともに使用するためのものである。上述したように、実際には、編機において最も容易に制御されるのは、針の各々が制御されて動く深さである。針の深さまたはステッチ長さが大きいほど、一般にテンションも大きくなるため、これは、個々のステッチに所望のテンションを加えるために用いられ得る。
【0097】
機械ファイルは、たとえばパターン、色、構造、形状、およびテンション情報などのパラメータが挿入される一連のテンプレートを用いて生成され、所望のパネルが、比較的少ない人間の相互作用で仕様通り編成されることを可能にする。
入力ファイル
編機によって所望の衣服を生成するためにファイルが生成され得るプロセスが説明される。衣服が製造される時、パターンは一般に、編機用の制御ソフトウェアに受け渡される単純なビットマップファイルによって指定される。ビットマップの各ピクセルは、結果として生じるサンプル内のステッチに直接対応し、各ステッチを編成するために使用される糸は、ピクセルのRGB色によって指定される。また、機械は、主要パターンの上下に、「テクニカルステージ」と称される何列かのステッチを追加し、これは正確な機械機能のために必要である。
【0098】
ビットマップが作成された後、機械ソフトウェアは、各ステッチにテンションを割り当て、機械自体に受け渡されるファイルを生成する。テンションの割当ては、色分けシステムを介して主動で行われる。大きな領域に関しては単純であるが、多数の小さな領域へのテンションの割当ては、極端に時間がかかり、実行が困難なものになる。また、そのような機械が独立したテンション値で個々のステッチを編成する能力は、従来のソフトウェアには実装されていない。機械ファイルの修正は複雑であるが、理論的には、テンションがステッチごとに付与されることを可能にし、最も精密な衣服サイズの制御をもたらす。
【0099】
上述したように、本方法において、そのような編機に従来の制御ソフトウェアを用いる代わりに、正確なテンション命令を含むファイルが生成される。これは、図15a~15cおよび図16a~16cに示され、これらを参照してここで説明されるような特定の複雑な試験パターンの使用と連動することが示されている。この例において、「波」パターンと称されるパターンは、パターン領域における密度の急速な変化ならびにサンプル全体にわたる不均一な全体密度の両方を特徴とする。
【0100】
図15aにおいて、所望のパターン例が最初に示される。これにより、図15bに見られるように初期密度マップが生成される。したがって、パターンに基づいて、パターンの2次元面積にわたって高解像度の密度マップを生成するためにスワップの密度が決定される。1つの例において、密度マップは、水平差分ケーネルを用い、多列ウィンドウ平均を適用することによって決定される。理解されるように、密度は、定められた領域内のステッチ間のスワップの相対数を指すので、単一のステッチがそれ自体で密度を有することはできない。
【0101】
初期密度マップが生成されると(図15bに示す)、これにぼかしが適用され、後続する処理ステップにおいてステッチ長さ値が決定されることを可能にするために役立つ処理された密度マップが生成される。図15cの例において、図15bの初期密度マップにガウシアンぼかしが適用される。
【0102】
図16a~16cを見ると、16aはパターン例を再び示す。図15bおよび図15cを参照して説明された処理によって、上述したモデルを用いて標的テンションマップが計算される。図16aは、編物に編成される実際の所望のパターンを再び示す。図15cの処理された密度マップは、入力として受け取られ、上述したパラメータ化モデルとともに、図16bに示す初期テンションまたはステッチ長さマップが生成される。初期テンションまたはステッチ長さマップは、その後、最小水平領域サイズを指定することによって使用可能な数の独自のテンションに量子化される。量子化テンションマップは図16cに示される。量子化が実現され得る方法の一例は、たとえば周知のフロイドスタインバーグディザリングアルゴリズムなどのディザリングアルゴリズムを用いることである。
【0103】
この例において、初期テンションまたはステッチ長さマップにおいて、各ステッチに関して利用可能なテンションの値の全セットは大きく、たとえば25の値のテンションまたはステッチ長さを含む。この数は理論的には用いられ得るが、そのような大きな数のテンションまたはステッチ長さ値は現在の編機において実行することが難しいので、更なる量子化ステップによって数は低減される。一般に、低減または量子化されたセットにおける値の数は、おおよそ10~16である。図16cの具体例において、セット内の値の数は15まで低減される。
【0104】
最小水平領域サイズは、幅が1~10ステッチのいずれかであってよい。示される例において、6ステッチの最小水平領域サイズが用いられた。
【0105】
また、任意選択的な糸依存の安全制限が用いられ、たとえば特定の値のテンションが必要であると決定されたが、それがたとえば特定の糸の制限と一致しない場合、テンションの値はそれに応じて修正される。したがって、図16cは、このように編機のための制御ファイルにおける入力として用いられ得るテンションマップを示す。
【0106】
一般に、初期完全テンションマップは、その中にたとえば19の独立したテンション値を有し得るが、編機への入力として用いるために量子化されたテンションマップにおいて、値はたとえば10まで低減される。
【0107】
図17aおよび図17bは、最初に決定されたテンションマップの更なる例(図17a)、および次にテンションの数が元の値19から量子化された値10まで低減された量子化バージョン(図17b)を示す。
【0108】
量子化テンションマップの生成中に適用されるフィルタおよびガウシアンぼかしは、出力ファイルにおける所望のレベルの量子化を実現するために変えられ、選択され得る。一般に、選択されたフィルタは、
・半径5ピクセルのガウシアンぼかし
・9ピクセルウィンドウにおけるメディアンフィルタ
・9ピクセルウィンドウにおけるモーダルフィルタ
・7ピクセルウィンドウにおける最大値フィルタ
・7ピクセルウィンドウにおける最小値フィルタ
を含むグループから選択されたいずれか1または複数であってよい。
【0109】
また、密度マップの作成に使用されるウィンドウサイズに関連するiパラメータに関する様々な値も試験された。デフォルトの6を別として、値3、9、12、および15が試験された。
【0110】
しかし、様々なフィルタを用いて作成されたマップにおける目に見える顕著な差異にもかかわらず、寸法および概観における変化は取るに足らないものであった。どの技術も他に対する明確な改善でなかったため、元のぼかしフィルタおよび6のi値を継続して用いることが決定された。
【0111】
より広範なまたは標的化された試験は、好適なフィルタリング法を明らかにし得る。具体的には、より大きなi値は、鋭利な変化または様々な密度の個別帯域を含むサンプルの外観および一貫性を向上させ得る。最小または最大フィルタはまた、相対テンションの領域およびその結果生じるパネル寸法における一貫性を残しつつ、所与のサンプルを締め、または緩める用途も有し得る。
【0112】
一貫して、ステッチテンションとステッチ長さとの関係は事実上、逆直線関係であることが説明された。これは、上述した典型的なモデルを用いて計算されるような密度D、テンション、およびステッチ長さの関係の3次元プロットを示す図18に模式的に示される。図19は、図18の3Dプロットから引用された直線の選択を示し、0.9mmから1.7mmまで変化するステッチ長さの定数値に関するテンションおよび密度の変動を示す。
【0113】
図20は、編機2の略図である。この機械は、制御ユニット4を組み込む本体を備える。各々が対応する糸8によって編成するように構成された複数の針6が提供される。各々が制御ユニット4からの制御または駆動信号を受信するように構成された複数のステッパモータ10が提供される。制御ユニットは、上述した方法を実行するために編成中に糸に付与されるテンションを変化させるためにステッパモータを制御するように構成され、それによってテンションは、編成されるパターンに依存して変化する。
【0114】
示される例において、編機2は、制御コンピュータ16を介してネットワーク12へ結合され、ネットワーク12は、ユーザ端末14を介してユーザからの命令を受信することを可能にするパブリックまたはプライベートネットワークであってよい。したがってこの機械は、ユーザの端末14から遠隔に、または制御コンピュータ16からローカルにデータを受信することができる。上述した方法またはモデルに従って計算され得るテンション情報は、好適には、編機に供給するための機械ファイルに直接統合される。
【0115】
様々なコンピュータ16および14は、それら全ての内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる、同時係属中の国際出願PCT/EP2015/061375号、PCT/EP2015/076485号、およびPCT/EP2016/052571号に従って動作するように構成され得る。
【0116】
本方法は、様々な種類のジャカード、すなわち多色の糸を用いて像を成すことができる構造の製造に適用され得る。この方法が適用され得るジャカード構造の例は、網織、綾織、浮き織、ツイルタック、ラダーバック、ストライプ、およびバーズアイを含む。これらの構造は、標準的な編成動作およびステッチの様々な組み合わせを用いて生成される。上記構造において用いられ得る最も一般的に用いられるステッチの一部の非網羅的リストは、表編み、裏編み、タック、ミス/ドロップ、ポインテール、およびスプリットステッチである。
【0117】
本発明の実施形態は、示される例を具体的に参照して説明された。しかし、理解されるように、本発明の範囲内で説明された例に対する変形例および修正例が作成され得る。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20