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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20221220BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M10/0566
H01M10/0585
H01M10/0587
H01M4/13
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020113147
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011788
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-095329(JP,A)
【文献】特開2020-091963(JP,A)
【文献】特開2013-191396(JP,A)
【文献】特開2020-087832(JP,A)
【文献】特開2014-220042(JP,A)
【文献】登録実用新案第3190828(JP,U)
【文献】特開2016-058153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 10/0566
H01M 10/0585
H01M 10/0587
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層が形成された正極板及び負極集電体上に負極活物質層が形成された負極板がセパレータを介して重ねられた電極体と電解液とを備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層は、前記負極活物質層の表面で開口した穴を複数備え、
前記負極活物質層の単位体積あたりの前記穴の総容積を前記穴の密度とするとき、前記負極活物質層のうち抵抗が高い高抵抗領域における前記穴の密度を、抵抗が低い低抵抗領域における前記穴の密度よりも大きくした
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記電極体は、前記負極板、前記セパレータ及び前記正極板を積層して捲回することにより形成され、
前記負極活物質層のうち、前記電極体の捲回軸と平行な幅方向における中央部の前記穴の密度を、前記中央部と前記負極板の前記幅方向の端部との間の部分の前記穴の密度よりも大きくした
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記電極体は、前記負極板、前記セパレータ及び前記正極板を積層して捲回することにより形成され、
前記負極活物質層のうち、前記電極体の捲回軸と平行な幅方向における端部の前記穴の密度を、前記負極活物質層の中央部と前記幅方向の端部との間の部分の前記穴の密度よりも大きくした
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記低抵抗領域は抵抗値が第1所定値未満の領域であり、前記高抵抗領域は、抵抗値が第2所定値以上の領域であり、
前記負極活物質層のうち、抵抗値が前記第1所定値以上前記第2所定値未満の領域であって且つ中央部における2つの前記高抵抗領域の間に位置する中抵抗領域の前記穴の密度を、前記低抵抗領域の前記穴の密度よりも大きく前記高抵抗領域の前記穴の密度よりも小さくした
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記電極体は、複数の矩形状の前記負極板と複数の矩形状の前記正極板とを前記セパレータを介して交互に積層することにより形成され、
前記負極活物質層の中央部の前記穴の密度を、前記中央部と前記負極活物質層の辺に沿った端部との間の部分の前記穴の密度よりも大きくした
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記電極体は、複数の矩形状の前記負極板と複数の矩形状の前記正極板とを前記セパレータを介して交互に積層することにより形成され、
前記負極活物質層の辺に沿った端部の前記穴の密度を、中央部と前記端部との間の部分の前記穴の密度よりも大きくした
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記低抵抗領域は抵抗値が第1所定値未満の領域であり、前記高抵抗領域は、抵抗値が第2所定値以上の領域であり、
前記負極活物質層のうち、抵抗値が前記第1所定値以上前記第2所定値未満の領域であって、且つ中央部の前記高抵抗領域を囲み前記高抵抗領域と前記低抵抗領域との間の領域を中抵抗領域とし、前記中抵抗領域の前記穴の密度を、前記低抵抗領域の前記穴の密度よりも大きく前記高抵抗領域の前記穴の密度よりも小さくした
請求項5又は6に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し高容量であることから、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)等の駆動用電源としても用いられている。この種のリチウムイオン二次電池として、正極集電体上に正極活物質層が形成された正極板と負極集電体上に負極活物質層が形成された負極板とが、セパレータを介して重ねられ、電解液ともにケースに収容されたものが知られている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、充電時において炭素系材料からなる負極にリチウムイオンを吸蔵し、放電時に負極からリチウムイオンを放出する。また、負極と電解液との界面には、電解液が還元分解されることによりいわゆるSEI被膜(以下、被膜という)が形成されることが知られている。この被膜は、適度な厚さで形成されると、リチウムイオンを負極に挿入及び脱離させつつ、電解液のさらなる分解を抑制する。
【0004】
ところで、電解液の浸透状況による濃度ムラに起因して、上記の被膜成分の濃度が不均一になることが知られている。その結果、被膜を通過するリチウムイオンの量が少なくなる部分が生じ、その領域の被膜の表面にリチウムが析出するようになる。リチウムが析出すると、電池反応に寄与するリチウムイオンが減少するため電池容量が低下する。そのため、リチウムイオンが析出しやすい領域に合わせて充電電流の大きさを制限することによって、リチウムの析出を抑制するようにしているが、その反面で電池の入出力特性の低下を招いている。リチウムが析出する充電電流の大きさを、リチウムの析出しやすさであるリチウム析出耐性という。つまり、リチウムの析出が始まる充電電流が大きいほどリチウム析出耐性が高く、充電電流が小さいほどリチウム析出耐性が低い。
【0005】
リチウム析出耐性を高めるため、電極体のうち厚い被膜が形成される部分において、正極板の正極容量に対する負極板の負極容量を大きくして、負極板における単位面積あたりの充電電流を小さくすることが提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-18645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記方法では、リチウム析出耐性が高められるものの、負極板における高抵抗領域の発生は抑制できない。被膜に由来する高抵抗領域に限らず、高抵抗領域の発生によってリチウムが析出しやすくなり、リチウム析出耐性が低下する。高抵抗領域の発生を抑制することができれば上記のリチウムイオン二次電池のように正極容量及び負極容量の比率を局所的に変える必要はなくなる。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、負極板の高抵抗領域の抵抗を低下させることによりリチウム析出耐性を高めたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層が形成された正極板及び負極集電体上に負極活物質層が形成された負極板がセパレータを介して重ねられた電極体と電解液とを備えるリチウムイオン二次電池であって、前記負極活物質層は、前記負極活物質層の表面で開口した穴を複数備え、前記負極活物質層の単位体積あたりの前記穴の総容積を前記穴の密度とするとき、前記負極活物質層のうち抵抗が高い高抵抗領域における前記穴の密度を、抵抗が低い低抵抗領域における前記穴の密度よりも大きくした。
【0010】
上記構成によれば、高抵抗領域に形成される穴の密度は、低抵抗領域に形成される穴の密度よりも大きいため、高抵抗領域は低抵抗領域よりも表面積が大きくなる。表面積が大きくなることによって高抵抗領域における電解液との接触面積が増大するため、抵抗を低下させることができる。これにより、高抵抗領域115の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。このため、リチウム析出耐性を向上することができる。
【0011】
上記リチウムイオン二次電池について、前記電極体は、前記負極板、前記セパレータ及び前記正極板を積層して捲回することにより形成され、前記負極活物質層のうち、前記電極体の捲回軸と平行な幅方向における中央部の前記穴の密度を、前記中央部と前記負極板の前記幅方向の端部との間に挟まれた部分の前記穴の密度よりも大きくしてもよい。
【0012】
上記構成では抵抗が比較的高い負極活物質層の中央部の穴の密度を相対的に大きくし、抵抗が比較的低い端部と中央部との間に挟まれた部分の穴の密度を相対的に小さくした。このため、中央部の高抵抗領域の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0013】
上記リチウムイオン二次電池について、前記電極体は、前記負極板、前記セパレータ及び前記正極板を積層して捲回することにより形成され、前記負極活物質層のうち、前記電極体の捲回軸と平行な幅方向における端部の前記穴の密度を、前記負極活物質層の中央部と前記幅方向の端部との間の部分の前記穴の密度よりも大きくした。
【0014】
上記構成では負極活物質層の端部の穴の密度を相対的に大きくし、端部と中央部との間の部分の穴の密度を相対的に小さくした。このため、端部の高抵抗領域の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0015】
上記リチウムイオン二次電池について、前記低抵抗領域は抵抗値が第1所定値未満の領域であり、前記高抵抗領域は、抵抗値が第2所定値以上の領域であり、前記負極活物質層のうち、抵抗値が前記第1所定値以上前記第2所定値未満の領域であって且つ中央部における2つの前記高抵抗領域の間に位置する中抵抗領域の前記穴の密度を、前記低抵抗領域の前記穴の密度よりも大きく前記高抵抗領域の前記穴の密度よりも小さくした。
【0016】
発明者は、負極活物質層のうち、中央に2つの高抵抗領域が存在し、且つその間に高抵抗領域よりも抵抗が低く低抵抗領域よりも抵抗が高い中抵抗領域が存在することを見出した。上記構成によれば、中抵抗領域の穴の密度を、高抵抗領域及び低抵抗領域の間としたため、中抵抗領域の抵抗を低下させ、高抵抗領域及び低抵抗領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0017】
上記リチウムイオン二次電池について、前記電極体は、複数の矩形状の前記負極板と複数の矩形状の前記正極板とを前記セパレータを介して交互に積層することにより形成され、前記負極活物質層の中央部の前記穴の密度を、前記中央部と前記負極活物質層の辺に沿った端部との間の部分の前記穴の密度よりも大きくした。
【0018】
上記構成では、抵抗が比較的大きい負極活物質層の中央部の穴の密度を相対的に大きくし、抵抗が比較的小さい端部と中央部との間に挟まれた部分の穴の密度を相対的に小さくした。このため、中央部の高抵抗領域の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0019】
上記リチウムイオン二次電池について、前記電極体は、複数の矩形状の前記負極板と複数の矩形状の前記正極板とを前記セパレータを介して交互に積層することにより形成され、前記負極活物質層の辺に沿った端部の前記穴の密度を、前記中央部と前記端部との間の部分の前記穴の密度よりも大きくしてもよい。
【0020】
上記構成によれば、抵抗が比較的大きくなる負極板の端部の穴の密度を相対的に大きくし、抵抗が比較的小さくなる端部と中央部との間に挟まれた部分の穴の密度を相対的に小さくしたため、端部の高抵抗領域の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0021】
上記リチウムイオン二次電池について、前記低抵抗領域は抵抗値が第1所定値未満の領域であり、前記高抵抗領域は、抵抗値が第2所定値以上の領域であり、前記負極活物質層のうち、抵抗値が前記第1所定値以上第2所定値未満の領域であって、且つ前記中央部の前記高抵抗領域を囲み前記高抵抗領域と前記低抵抗領域との間の領域を中抵抗領域とし、前記中抵抗領域の前記穴の密度を、前記低抵抗領域の前記穴の密度よりも大きく前記高抵抗領域の前記穴の密度よりも小さくしてもよい。
【0022】
発明者は、負極活物質層のうち、中央に2つの高抵抗領域が存在し、且つその間に高抵抗領域よりも抵抗が低く低抵抗領域よりも抵抗が高い中抵抗領域が存在することを見出した。上記構成によれば、中抵抗領域の抵抗を低下させ、高抵抗領域及び低抵抗小領域との抵抗差を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、負極板の高抵抗領域の抵抗を低下させることによりリチウム析出耐性を高めたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態のリチウムイオン二次電池の斜視図。
図2】同実施形態のリチウムイオン二次電池の電極体を分解した図。
図3】同実施形態の負極板30の断面を模式的に示す図。
図4】同実施形態の負極板の抵抗分布を説明するための図であって、(a)は測定を行う基準線を示し、(b)は基準線に沿って測定された抵抗分布の図を示す。
図5】同実施形態の負極活物質層の抵抗分布をパターン化した図。
図6】同実施形態の穴の密度を異ならせた領域の配置を示す図。
図7】第2実施形態のリチウムイオン二次電池の電極体の分解斜視図。
図8】同実施形態の負極板の抵抗分布を説明するための図であって、(a)は測定を行う基準線を示し、(b)は基準線に沿って測定された抵抗分布の図を示す。
図9】同実施形態の負極板の抵抗分布をパターン化した図。
図10】同実施形態の穴の密度を異ならせた領域の配置を示す図。
図11】実施例及び比較例を説明する図であって、穴の密度を異ならせた領域の配置を示す図。
図12】実施例及び比較例を説明する表。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
図1図6を参照して、リチウムイオン二次電池及びその製造方法について説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池は、捲回型の電極体を有するものである。
【0026】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池11は、開口部を有するケース本体12と、ケース本体12の開口部を封止する蓋部13とを備える。蓋部13には、充放電に用いられる正極外部端子14及び負極外部端子15が設けられている。ケース本体12及び蓋部13によって形成される収容空間には、電極体16及び電解液が収容されている。電極体16は、ケース本体12に収容された状態で一方の側部(図1中左側)に位置する端部である正極集電部17と、他方の側部(図1中右側)に位置する端部である負極集電部18を備える。正極集電部17は、接続部材171を介して正極外部端子14に接続され、負極集電部18は、接続部材181を介して負極外部端子15に電気的に接続される。
【0027】
図2に示すように、電極体16は、長尺の正極板20と長尺の負極板30とをセパレータ40を介して積層した後、その積層体を一端から捲回することにより形成されている。捲回前の積層体は、正極板20及び負極板30の長手方向が一致するように、正極板20、セパレータ40、負極板30、セパレータ40の順に積層されている。正極板20は、正極集電体21と、正極集電体21の両面に設けられた正極活物質層22とを備える。正極板20の短手方向の一方の端部には、正極活物質層22が形成されずに正極集電体21が露出した未塗工部23が長手方向に沿って設けられている。未塗工部23の少なくとも一部はセパレータ40の外側に位置する。
【0028】
負極板30は、負極集電体31と、負極集電体31の両面に設けられた負極活物質層32とを備える。負極板30の短手方向の端部のうち、正極板20の未塗工部23と反対側となる他方の端部には、負極活物質層32が形成されずに負極集電体31が露出した未塗工部33が設けられている。未塗工部33の少なくとも一部はセパレータ40の外側に位置する。
【0029】
電極体16は、捲回体をその周面から押圧することによって扁平形状に成形されている。正極板20の未塗工部23は互いに圧接されて正極集電部17となる。負極板30の未塗工部33は互いに圧接され、負極集電部18となる。なお、図1中「X方向」であって、且つ電極体16の捲回軸45と平行な方向を「幅方向」という。また、図1中「Y方向」であって幅方向に対して直交する方向を電極体16の「高さ方向」という。
【0030】
次に、正極の材料について説明する。正極集電体21には、アルミニウム箔等の金属箔が用いられる。正極活物質層22は正極合剤を正極集電体21に対し各種の方法で塗布することにより生成されている。正極合剤に含まれる正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種類または複数種類を使用することができる。好適例として、層状系、スピネル系等のリチウム複合金属酸化物(例えば、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5,LiCrMnO、LiFePO)が挙げられる。導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の粉末状カーボン材料が例示される。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が例示される。
【0031】
正極合剤全体に占める正極活物質の割合は、約60質量%以上(典型的には60質量%~99質量%)とすることが適当であり、通常は約70質量%以上95質量%以下であることが好ましい。導電材を使用する場合、正極合剤全体に占める導電材の割合は、例えば約2質量%以上20質量%以下とすることができ、通常は約3質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。バインダを使用する場合、正極合剤全体に占めるバインダの割合は、例えば約0.5質量%以上10質量%以下とすることができ、通常は約1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
次に、負極の材料について説明する。負極集電体31は、銅やニッケル等の金属箔から形成されている。負極合剤に含まれる負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種類または複数種類を使用することができる。例えば、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。なかでも、導電性に優れ、高いエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛系材料(特には天然黒鉛)を好ましく用いることができる。
【0033】
また、負極合剤は、負極活物質の他に、導電剤やバインダ等の添加剤を含んでもよい。バインダとしては、正極と同様のものを用いることができる。その他、増粘剤、分散剤、導電材等を適宜使用することもできる。例えば、増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)を用いることができる。
【0034】
負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は、50質量%以上である。特に90質量%以上99質量%以下が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。バインダを使用する場合には、負極活物質層32全体に占めるバインダの割合は、0.5質量%以上10質量%以下である。特に0.5質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。増粘剤を使用する場合には、負極活物質層32全体に占める増粘剤の割合は0.5質量%以上10質量%である。特に0.5質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
【0035】
セパレータ40は、樹脂から形成された多孔質層を有する。多孔質層は、例えば、多孔性ポリエチレン、多孔性ポリオレフィン、および多孔性ポリ塩化ビニル等で構成された単層構造或いは複数の材料からなる積層構造である。また、多孔質層には、強度向上などを目的としてフィラーを含有させることもできる。
【0036】
また、セパレータ40と負極板30との間には、接着剤からなる接着層が介在している。本実施形態では、接着層はセパレータ40に担持されている。接着剤は、特に限定されないが、例えば接着性樹脂からなり、加熱により接着性が発現し、基材となる樹脂よりも低い融点を有するものを用いることができる。なお、セパレータ40と正極板20との間にも接着層を設けてもよいし、接着層を介在しなくてもよい。
【0037】
接着性樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン-1等のポリ-α-オレフィン、ポリアクリル酸エステル、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂などが挙げられる。また、上記した各樹脂や、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、エチレン-プロピレンゴムなどの室温で粘着性を示す樹脂をコアとし、融点や軟化点が60℃以上120℃以下の範囲内にある樹脂をシェルとしたコアシェル構造の樹脂を接着性樹脂として用いることもできる。この場合、シェルには、各種アクリル樹脂やポリウレタンなどを用いることができる。さらに、接着性樹脂には、一液型のポリウレタンやエポキシ樹脂などで、60℃以上120℃以下の範囲内に接着性を示すものも用いることができる。接着性樹脂には、前記例示の樹脂を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のうち一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0039】
また、電解液は、負極活物質層32に被膜を形成するリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を含んでいる。適度な厚さの被膜を形成する上で、電解液におけるLiBOBの濃度は0.05mol/kg未満とする。
【0040】
本実施形態では、リチウムイオン二次電池11には、負極板30の表面にLiBOBに由来する被膜を形成するコンディショニング処理が行われる。コンディショニング処理は、リチウムイオン二次電池11の充電および放電を所定の回数繰り返すことで実施することができる。例えば、コンディショニング処理は、20℃の温度条件下において0.1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作をそれぞれ3回繰り返すことで実施することができる。なお、コンディショニング処理はこの条件に限定されることはなく、充電レート、放電レート、充放電の設定電圧は任意に設定することができる。コンディショニング処理により、LiBOBが負極板30の表面に析出して被膜が形成される。
【0041】
ところで、負極板30では、電解液の浸透状況により、注液後の負極板30上におけるLiBOB等の濃度分布に偏りが生じる。その結果、負極活物質層32に形成される被膜は、この偏った濃度分布に起因して濃度ムラが生じる。これにより、部分的に反応抵抗が高い高抵抗領域が発生する。高抵抗領域においては、周りとの抵抗差によって大きな電圧がかかり、リチウムの析出量が多くなる。そのため、高抵抗領域の高抵抗化を抑え、負極板30における抵抗差を小さくする必要がある。これに対し、本実施形態では、負極板30の抵抗分布に合わせて、負極板30内の表面積に差を設けるようにした。つまり、負極板30のうち、高抵抗である領域は表面積を大きくして電解液との接触面積を増大させ、低抵抗である領域は、表面積を高抵抗である領域よりも小さくした。具体的には、負極活物質層32の一部又は全体に微小な穴を形成し、その穴の数を抵抗分布に応じて異ならせることで表面積を調整している。換言すると、穴の間隔(ピッチ)を短くしたり長くしたりすることによって表面積を調整している。なお、本実施形態では負極活物質層32に形成される穴35はほぼ同じ大きさである。説明の便宜上、負極活物質層32の単位体積あたりの穴35の総容積を穴35の密度という。なお、「穴35の総容積」とは、単位体積あたりの穴35の容積の和である。
【0042】
図3に示すように、穴35は、負極活物質層32に形成され、本実施形態では全てほぼ同じ内径及び深さである。穴35は、負極活物質層32の表面で開口し、表面から、負極集電体31の手前まで、負極活物質層32の厚さ方向と平行に延在している。穴35の深さは特に限定されないが、電解液の拡散の観点から、負極活物質層32の厚さの1/2以上の深さとすることが好ましい。また、穴35の内径は、20μm以上100μm以下であることが好ましい。これらの穴35の形成方法は特に限定されないが、パルスレーザの照射により、負極活物質層32を破壊することなく、所望の大きさの穴35を形成することができる。なお、図3は穴35を説明するために便宜的に示すものであり、負極活物質層32、負極集電体31の厚さ、穴35の大きさは実物とは異なる。
【0043】
負極板30の穴35の密度について詳述する。
まず図4に沿って、負極板30の抵抗分布について説明する。なお、負極板30は、本実施形態の負極板30の負極活物質層32と同じ材料及び組成の負極活物質層32を備えるが、負極活物質層32に穴35が形成されていないものである。また、負極板30にはコンディショニング処理を施している。図4(a)に示す負極板30は、電極体16の高さL(図1参照)で切断又は区切ったものである。この負極板30のうち、高さ方向(図4中Y方向)の異なる3つの位置から、負極板30の幅方向(図4中X方向)と平行な基準線101~103に沿って抵抗を測定する。さらに、幅方向の中央から高さ方向(図4中Y方向)と平行な基準線104に沿って抵抗を測定する。抵抗の測定は、交流インピーダンス測定法(以下、交流抵抗測定)を用いることができる。この方法では、抵抗の周波数への依存性を利用して、イオンの動作が反映された反応抵抗と電気的接触等による電気抵抗を分離する。本実施形態での負極板30の「抵抗」は、反応抵抗と材料間等の接触に由来する電気的抵抗の和である。
【0044】
図4(b)は測定結果を示すグラフであって、左側のグラフは基準線101~103に沿った抵抗分布111~113を示し、右側のグラフは基準線104に沿った抵抗分布114を示す。左側のグラフの横軸は幅方向の測定位置を示し、縦軸は抵抗を示す。抵抗分布111~113のいずれも、負極活物質層32の幅方向の両端部で抵抗が高くなっている。抵抗分布は、端部と中央部との間の領域で低くなる。また、負極板30の中央部においては、抵抗が高くなっている。中央部には2つの抵抗のピーク(極大値)があり、それらのピークの間に、ピークの最大値よりもやや抵抗が低い領域がある。一方、右側のグラフに示すように、基準線104に沿った抵抗分布は多少の抵抗差はあるものの、幅方向に比べ抵抗差は小さい。
【0045】
上述したように、高抵抗領域が発生する要因の一つとして、電極体16に電解液が浸透するときの電解液の濃度ムラがある。電解液の濃度ムラは、リチウムイオン二次電池11の構成によって多少相違するものの、捲回型の電極体16においては、負極板30の抵抗分布について共通の傾向がみられる。つまり、製造工程において、ケース本体12に電極体16を収容し電解液を注入すると、電解液は主に未塗工部23,33側の開口から電極体16に浸透していく。電解液に含まれるLiBOBは、負極活物質との親和性が低いため、電解液の浸透に伴い負極板30の中央部へ向かって移動する。また、電解液にナトリウム塩が含まれる場合には、LiBOBとナトリウム塩とが反応してNaBOBを生成する。例えばナトリウム塩はCMCに含まれる。NaBOBも負極活物質との親和性が低く、電解液の浸透に伴い移動する。そして電極体16への電解液の浸透が完了したとき、負極板30の幅方向の中央でLiBOBやNaBOBの濃度が高くなる。その結果、中央部は抵抗が高くなる。また、負極板30の端部は、中央部に比べ、電極体外部に存在する余剰電解液による反応量の増加等の要因により高抵抗領域となる。
【0046】
図5は、穴35が形成されていない負極板30の抵抗分布をパターン化したものである。つまり、抵抗分布は、電池(又はロット間)によって多少の差はあるものの、上述したようにほぼ同様の傾向があるため、次のように各領域に分けることができる。穴35が形成されていない負極板30に比べ、穴35が形成された負極板30は製造工程数が増えるものの、このようにパターン化することによって製造工程数の増大を抑制することができる。なお、抵抗値が第1所定値未満である領域を低抵抗領域117、抵抗値が第2所定値以上である領域を高抵抗領域115、抵抗値が第1所定値以上第2所定値未満の領域を中抵抗領域116という。高抵抗領域115は、幅方向(X方向)の両端部及び中央部に存在する。また、中央部の高抵抗領域115と端部の高抵抗領域115との間には、低抵抗領域117が存在する。低抵抗領域117は、抵抗値がほぼ一定の領域である。また、中央の1対の高抵抗領域115の間、高抵抗領域115と低抵抗領域117との間には、中抵抗領域116が介在している。これらの領域115~117は、一定の幅を有し、その長手方向が、負極板30の長手方向と平行となるように延在している。
【0047】
図6は、穴35の密度が異なる領域の配置を示す図である。負極活物質層32は、穴35の密度を相対的に大きくした第1領域118、穴35の密度を相対的に小さくした第2領域119、穴35の密度を、第1領域118における穴35の密度と第2領域119における穴35の密度との間にした第3領域120を含む。第1領域118は、図5における高抵抗領域115に対応する。また、中央部の第1領域118の間の中抵抗領域116は、第3領域120とする。さらに、負極活物質層32の端部側と中央部の間に位置する中抵抗領域116と、低抵抗領域117とは第2領域119に対応する。第2領域119には、穴35が形成されていなくてもよい。なお、少なくとも第1領域118の穴35の密度が、第2領域119の穴35の密度よりも大きければよく、例えば同じ第1領域118内で穴35の密度が異なっていてもよい。つまり、端部の第1領域118の穴35の密度と、中央部の第1領域118の穴35の密度とは異なっていてもよい。さらに、負極活物質層32には4つの第1領域118を設けているが、各領域について全て異なる穴35の密度としてもよい。同様に、図6中、左側の第2領域119の穴35の密度と、右側の第2領域119の穴35の密度は、異なっていてもよい。また、高抵抗領域115と中抵抗領域116との抵抗差や、中抵抗領域116の幅等を考慮して、第1領域118と第3領域120の穴35の密度は同じとしてもよい。低抵抗領域117と中抵抗領域116との抵抗差や、中抵抗領域116の幅等を考慮して、第2領域119と第3領域120の穴35の密度は同じとしてもよい。
【0048】
次に、リチウムイオン二次電池11の作用について説明する。
負極活物質層32全体に穴35を形成し高抵抗領域115の穴35の密度を低抵抗領域117の穴35の密度よりも大きくする場合、高抵抗領域115の抵抗は、低抵抗領域117の抵抗よりも大きく低下する。又は高抵抗領域115に穴35を形成して低抵抗領域117に穴35を形成しない場合、高抵抗領域115のみの抵抗が低下する。穴35が形成されても、高抵抗領域115は低抵抗領域117よりも抵抗が高いが、それらの抵抗差は小さくなる。さらに、中央部の高抵抗領域115に挟まれた中抵抗領域116の穴35の密度を、低抵抗領域117の穴35の密度よりも大きく且つ高抵抗領域115の穴35の密度よりも小さくした。これにより、中抵抗領域116の抵抗を低下させ、高抵抗領域115との抵抗差及び低抵抗領域117との抵抗差を小さくすることができる。
【0049】
また、負極活物質層32の表面積を局所的に大きくする他の方法として、研磨剤を対象物に噴射するブラスト処理等の粗面化処理を負極活物質層32に適用することも考えられる。しかし、従来の粗面化処理を施すには負極活物質層32は脆すぎる。また、従来の粗面化処理では、表面積の微調整が難しい。一方、本実施形態のように穴35を形成することで、負極活物質層32を破壊せず、表面積の微調整も可能となる。
【0050】
このように高抵抗領域115の抵抗を低下させることによって、リチウムの析出が抑制される。これにより、リチウム析出耐性を高め、ひいてはリチウムイオン二次電池11の入出力特性を向上することができる。また、低抵抗領域117の穴35の密度を小さくすることによって、負極活物質層32における負極活物質量及び負極活物質以外の添加剤の量の割合を極力大きくすることができる。
【0051】
第1実施形態の効果について説明する。
(1)負極活物質層32の高抵抗領域115の穴35の密度を、低抵抗領域117の穴35の密度よりも大きくした。これにより、穴35が形成される前と比べ、高抵抗領域115の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。したがって、リチウムイオン二次電池11のリチウム析出耐性を向上することができる。
【0052】
(2)捲回型の電極体16において、負極活物質層32の中央部は、電解液の浸透時に生じる電解液成分の濃度分布の偏りにより、抵抗が高くなる。上記実施形態では被膜が厚くなる負極活物質層32の幅方向の中央部に存在する高抵抗領域115の穴35の密度を相対的に大きくし、幅方向の端部と中央部との間の領域である低抵抗領域117及び中抵抗領域116の穴35の密度を小さくするため、高抵抗領域115の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0053】
(3)捲回型の電極体16において、負極活物質層32の幅方向の端部は電極体16の外部に存在する余剰電解液による反応量の増加等の要因により抵抗が高くなる傾向にある。上記実施形態では負極活物質層32の幅方向の端部の高抵抗領域115に形成される穴35の密度を相対的に大きくし、端部と中央部との間の領域である低抵抗領域117及び中抵抗領域116の穴35の密度を小さくするため、高抵抗領域115の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0054】
(4)発明者は、負極活物質層32のうち、中央に2つの高抵抗領域115が存在し、且つその間に高抵抗領域115よりも抵抗が低く低抵抗領域117よりも抵抗が高い中抵抗領域116が存在することを見出した。上記実施形態では、中抵抗領域116の穴35の密度を、高抵抗領域115の穴35の密度及び低抵抗領域117の穴35の密度の間としたため、中抵抗領域116の抵抗を小さくし、高抵抗領域115との抵抗差及び低抵抗領域117との抵抗差を小さくすることができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態のリチウムイオン二次電池11は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池11とその構成が異なる。以下、主に第1実施形態と相違する構成について詳細に説明することとし、説明の便宜上、同様の構成については詳細な説明を割愛する。
【0056】
図7に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池41は、積層型の電極体46を備えている。電極体46は、複数の正極板50と、複数の負極板60とを備え、それらを、セパレータ70を介して交互に積層することにより形成される。正極板50、負極板60及びセパレータ70は、矩形状に形成されている。正極板50は、その上端部であって、一方の側端寄りの位置に正極タブ53を備えている。また、負極板60は、その上端部であって、他方の側端寄りの位置に負極タブ63を備えている。正極タブ53を束状に集めることにより、正極集電部17が形成され、正極集電部17は正極外部端子14に電気的に接続される。また、負極タブ63を束状に集めることにより負極集電部18が形成され、負極集電部18は負極外部端子15に電気的に接続される。
【0057】
正極板50は、正極集電体51の両面に正極活物質層52を備えている。また、負極板60は、負極集電体61の両面に負極活物質層62を備えている。第1実施形態と同様に、負極板60には、コンディショニング処理後に高抵抗領域が発生する。このため、負極活物質層62に穴35を形成することで、抵抗分布に応じて表面積を調整し、高抵抗領域115の抵抗を低下させている。
【0058】
図8に沿って、負極板60の抵抗分布について説明する。図8(a)に示すように、負極板60の高さ方向(図7中Y方向)の異なる3つの位置から、負極板60の幅方向(図7中X方向)と平行な基準線121~123に沿って抵抗を測定する。さらに、幅方向の中央から高さ方向と平行な基準線124に沿って抵抗を測定する。図8(b)の左側のグラフは基準線121~123に沿った抵抗分布131~133を示し、右側のグラフは基準線124に沿った抵抗分布134を示す。抵抗分布131~133に示すように、幅方向の抵抗分布は、負極板60の幅方向の端部で抵抗が高くなる。また、抵抗分布132の幅方向における中央部の抵抗値が特に高い。また、抵抗分布134に示すように、高さ方向の端部及び高さ方向の中央部において特に抵抗が高い。
【0059】
図9は、負極板60の抵抗分布をパターン化したものである。つまり、リチウムイオン二次電池41の抵抗分布は、電池(又はロット間)によって多少の差はあるものの、ほぼ同様の傾向があるため、次のように各領域に分けることができる。具体的には、負極活物質層62の各辺に沿った端部に高抵抗領域125が存在する。この高抵抗領域125は、四角枠状の形状を有する。また、負極板60の中央部にも高抵抗領域125が存在する。この高抵抗領域125は、長方形状の形状を有する。これらの高抵抗領域125の間に、中央の高抵抗領域125を囲むように、抵抗値が第1所定値未満の低抵抗領域126が存在する。そして、中央の高抵抗領域125と低抵抗領域126との間に、低抵抗状態から高抵抗状態へ向かって抵抗が過渡的に上昇する中抵抗領域127が存在する。中抵抗領域127は、第1所定値以上第2所定値未満の抵抗値を有する。
【0060】
図10は、図9中破線で示す領域130の穴35の密度を示す図である。負極活物質層62のうち高抵抗領域125は、穴35の密度を相対的に大きくした第1領域135としている。また、負極活物質層62のうち、中抵抗領域127及び低抵抗領域126は、穴35の密度を相対的に小さくした第2領域136としている。なお、第2領域136は、穴35が形成されていなくてもよい。
【0061】
このように積層型の電極体46を有するリチウムイオン二次電池41においても、高抵抗領域125の穴35の密度を、低抵抗領域126及び中抵抗領域127の穴35の密度よりも大きくするため、高抵抗領域125の抵抗を低下させ、負極板60における抵抗差を抑制することができる。
【0062】
第2実施形態によれば、第1実施形態の(1)に記載の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(5)積層型の電極体46において、負極活物質層62のうち、電解液の濃度分布に偏りにより高抵抗となる中央部は抵抗が高くなる。第2実施形態ではその中央部における高抵抗領域125の穴35の密度を大きくし、端部と中央部との間の領域である低抵抗領域126及び中抵抗領域127の穴35の密度を小さくする。これにより、高抵抗領域125の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0063】
(6)積層型の電極体46において、負極活物質層62のうち、端部は抵抗が高くなる。第2実施形態ではその端部における高抵抗領域125の穴35の密度を大きくし、端部と中央部との間の領域である低抵抗領域126及び中抵抗領域127の穴35の密度を小さくする。これにより、高抵抗領域125の抵抗を低下させ、周囲の領域との抵抗差を小さくすることができる。
【0064】
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第2実施形態では、穴35の密度を大きくした第1領域135と、穴35の密度を小さくした第2領域136を設定した。これに加えて、第1領域135の穴35の密度と第2領域136の穴35の密度との間となる穴35の密度を有する第3領域を設定してもよい。例えば、負極活物質層62のうち中抵抗領域127を第3領域としてもよい。これによれば、中抵抗領域127の抵抗を小さくし、高抵抗領域125との抵抗差及び低抵抗領域126との抵抗差を小さくすることができる。
【0065】
・第1実施形態では、端部側の中抵抗領域116を第2領域119に含めた。また、第2実施形態では、中抵抗領域127を第2領域136に含めた。これに代えて、中抵抗領域116,127を、第1領域118,135に含めてもよい。要は、負極板30,60内において、抵抗分布に応じて、穴35の密度が異なっていればよい。
【0066】
・上記各実施形態では、セパレータ40に接着層を設けた。接着層は、負極板及びセパレータの間に介在していればよく、負極板30,60に接着層を設けるようにしてもよい。
【0067】
・上記各実施形態では、リチウムイオン二次電池を、直方体のケースに収容された電池に具体化したが、これ以外のケースに収容される電池に具体化してもよい。
・リチウムイオン二次電池11は、車両以外の移動体(船舶、航空機等)に用いられてもよく、例えばパーソナルコンピュータ、携帯電話等の移動体以外の各種の装置に用いられるものであってもよい。
【0068】
以下、上記各実施形態の一例である実施例について具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質であるリチウム複合金属酸化物としてLiNiCoO、導電材としてアセチレンブラック(AB)、バインダとしてPVDFをNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液と混合して混練した。正極合剤の固形分の質量全体に対する正極活物質の割合は90質量%となるようにした。そして、混練後の正極合剤を長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布して乾燥することにより、正極板を作製した。正極合剤の塗布量は、一方の面において、約9.5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。正極合剤を乾燥後、正極活物質層をプレスした。
【0069】
<負極の作製>
負極活物質としての天然黒鉛粉末と、SBRと、CMCとを水に分散させて混錬した。負極合剤の質量全体に対する負極活物質の割合は98質量%となるようにした。この負極合剤を長尺状の銅箔の両面に塗布して乾燥することにより、負極板を作製した。負極合剤の塗布量は、一方の面において約3.5mg/cm(固形分基準)となるように調整した。負極合剤を乾燥後、負極活物質層をプレスした。
【0070】
図11に示すように、負極活物質層32に対し、図11中上端から順に、第1領域118(10mm)、第2領域119(25mm)、第1領域118(10mm)、第3領域120(10mm)、第1領域118(10mm)、第2領域119(25mm)、第1領域118(10mm)を設けた。
【0071】
次に、負極活物質層32に、パルスUVレーザ(波長355nm、出力2W、周波数50kHz、エネルギー40μJ)を照射して、深さ40μm、開口部の内径(直径)が50μmの微小な穴を形成した。
【0072】
第1領域118は穴35のピッチを50μm(密度:大)、第2領域119は穴35のピッチを150μm(密度:小)、第3領域は穴35のピッチを100μm(密度:中)とした。
【0073】
<セパレータの作製>
PE製多孔膜(厚さ16μm、幅100μm)の両面に、アルミナを主成分とする多孔質層を備え、多孔質層に接着剤であるスチレンアクリル系樹脂が塗布されたセパレータを準備した。接着層は、多孔膜の両面に設けられた多孔質層のうち、負極板側になる方に形成した。
【0074】
<リチウムイオン二次電池>
上記のようにして作製した正極板および負極板を2枚のセパレータ(多孔質ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)を介して積層して捲回し、その捲回体を側面方向から押しつぶして捲回型の電極体を作製した。
【0075】
電解液としては、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1.1mol/Lの濃度で含有させたものを使用した。また、電解液に、LiBOBをその濃度が0.03mol/kgとなるように添加した。捲回型の電極体を電解液とともにケースに収容し、ケースの開口部を蓋部によって封止した。
【0076】
その後、20℃の温度条件下において0.1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作を3回繰り返してコンディショニング処理を行ない、試験用リチウムイオン二次電池を得た。
【0077】
(実施例2)
各領域の穴35のピッチを以下のように調整し、その他の構成や作製方法は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
【0078】
第1領域118(密度:大)・・・50μm
第2領域119(密度:小)・・・100μm
第3領域120(密度:中)・・・50μm
(比較例1)
実施例1のうち穴35の形成工程を省略した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
【0079】
(比較例2)
各領域の穴35のピッチをいずれも「150μm」とし、その他の構成や作製方法は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
【0080】
<抵抗の測定>
実施例及び比較例のコンディショニング処理後のリチウムイオン二次電池をSOC(State Of Charge)60%まで充電した。その後、負極板とセパレータを一体で取り出し、セパレータを介して、1~100kHzにて交流インピーダンス法により、負極板について、幅方向及び高さ方向に所定間隔で抵抗を測定した。そして、抵抗の最小値に対する抵抗の最大値の比である抵抗比を求めた。この際、同時期に取り出した正極板を対極として用いた。
【0081】
<容量維持率の測定>
リチウムの析出の有無は、複数回の充放電サイクルを行った後の容量維持率に基づき推定することができる。リチウムの析出量が多くなれば、反応に寄与するリチウムイオンが少なくなるためである。コンディショニング処理後のリチウムイオン二次電池について、約80Cのパルス電流にて1000回充放電を行った。そして、その前後での容量比を容量維持率(%)として測定した。
【0082】
<評価>
図12に、各実施例及び各比較例の抵抗比及び容量維持率を示す。負極板の高抵抗領域に対向する第1領域の穴35の密度を大きくした実施例1,2について得られた抵抗比は、比較例1~3の抵抗比よりも小さくなった。これにより、高抵抗領域の影響が抑制されたことがわかる。また、実施例1,2及び比較例1,2を通じて、抵抗比が高くなるほど、容量維持率が低下した。実施例1,2について得られた容量維持率は、比較例1,2に比べ高くなった。つまり、抵抗比と容量維持率との相対関係と、実施例1,2及び比較例1,2の比較に基づき、実施例1,2は電池反応に寄与するリチウムイオンの低下が抑制されたことが推定される。
【符号の説明】
【0083】
11,41…リチウムイオン二次電池
16,46…電極体
20,50…正極板
21,51…正極集電体
22,52…正極活物質層
30,60…負極板
31,61…負極集電体
32,62…負極活物質層
40,70…セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12