(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B62K 21/00 20060101AFI20221220BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221220BHJP
B62J 45/40 20200101ALI20221220BHJP
【FI】
B62K21/00
B62D6/00
B62J45/40
(21)【出願番号】P 2020214593
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】友田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中田 正人
(72)【発明者】
【氏名】細川 晃
(72)【発明者】
【氏名】中林 俊一
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-40587(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202266(WO,A1)
【文献】特開2018-69788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 21/00
B62D 6/00
B62J 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の操舵制御を行う制御装置(71)と、前記制御装置(71)によって設定される操舵予備動作に伴う前記車両(1)の挙動を検知する挙動検知手段(93)と、を備え、
前記操舵制御は、運転者の操作とは別に自動でステアリング系部品を操作するものであり、
前記操舵予備動作は、運転者の手動による操舵動作に先立って自動で行われるものであって、前記制御装置(71)が判断した前記車両(1)が向かう方向に対し、逆方向にハンドル(2)を転舵する逆ハンドルであり、
前記挙動検知手段(93)が
、前記逆ハンドルによる挙動として、前記車両(1)に発生する遠心力、またはロール角速度を検知した場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵制御を中止することを特徴とする車両。
【請求項2】
前記挙動検知手段(93)が前記操舵予備動作に伴う挙動を検知しない場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵予備動作から予め定めた時間が経過したときに前記操舵制御を中止することを特徴とする
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記挙動検知手段(93)が前記操舵予備動作に伴う挙動を検知する前に、運転者による手動操舵操作を検知した場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵制御を中止すること特徴とする
請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記手動操舵操作の操舵入力が予め定めた値より大きい場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵制御を中止することを特徴とする
請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記手動操舵操作は、操舵トルクセンサ(91)によって検知されることを特徴とする
請求項3又は4に記載の車両。
【請求項6】
前記挙動検知手段(93)は、加速度センサ、または、角速度センサであることを特徴とする
請求項1から5の何れか一項に記載の車両。
【請求項7】
前記挙動検知手段(93)により、前記挙動が予め定めた範囲内になったことを検知して前記操舵制御を再開することを特徴とする
請求項1から6の何れか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪車などの自動車が走行中に外乱を受けたときに、転舵制御部による操舵介入によって車線に沿った走行を維持可能な操舵制御技術(例えば、特許文献1参照)、及び車両がカーブに進入する際に、運転者の操舵のきっかけとなるアシストトルクをハンドルに付与する技術(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5958257号公報
【文献】特開2020-93697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動二輪車等の鞍乗り型車両の場合、運転者はハンドルから路面の状況等の情報を受け取っているため、運転中に頻繁に操舵制御が行われると、運転者がハンドルからの的確な情報を受け取り難い。また、鞍乗り型車両は小型であり、四輪の普通自動車のような車格のある車両と比べて、部品搭載スペースが制限されるため、操舵制御の駆動源となるアクチュエータやそのためのバッテリの小型化が望まれる。
そこで本発明は、運転者による適切な操舵操作を促して自然かつ簡易な操舵制御を行うことが可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、車両(1)の操舵制御を行う制御装置(71)と、前記制御装置(71)によって設定される操舵予備動作に伴う前記車両(1)の挙動を検知する挙動検知手段(93)と、を備え、前記操舵制御は、運転者の操作とは別に自動でステアリング系部品を操作するものであり、前記操舵予備動作は、運転者の手動による操舵動作に先立って自動で行われるものであって、前記制御装置(71)が判断した前記車両(1)が向かう方向に対し、逆方向にハンドル(2)を転舵する逆ハンドルであり、前記挙動検知手段(93)が、前記逆ハンドルによる挙動として、前記車両(1)に発生する遠心力、またはロール角速度を検知した場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵制御を中止することを特徴とする。
この構成によれば、制御装置による操舵制御において、車両の挙動を伴う操舵のきっかけのみを運転者に与えることができる。これにより、操舵制御の介入を抑えつつ運転者に適切な操舵操作を促し、制御装置による操舵制御と運転者の操舵操作との間に矛盾が生じることを防止することができる。また、操舵制御を行うためのアクチュエータ、バッテリなどの装置の小型軽量化を図ることができる。
また、自動二輪車のように車体をバンクさせて操舵する車両の場合、逆ハンドルによる遠心力で車体をバンクさせ、このバンク方向に舵角を生じさせる。車体をバンクさせない車両の場合、例えば逆ハンドルにより発生した遠心力によって、運転者に逆ハンドルとは反対側に順操舵するよう反応させる。このように、遠心力を検知した時点で操舵制御を中止し、遠心力をきっかけとした車体挙動や運転者の操舵操作と操舵制御との干渉を防止することができる。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記挙動検知手段(93)が前記操舵予備動作に伴う挙動を検知しない場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵予備動作から予め定めた時間が経過したときに前記操舵制御を中止することを特徴とする。
この構成によれば、前記挙動が検知されなかった場合にも、制御装置による操舵制御と運転者の操舵操作との間に矛盾が生じることを防止することができる。
請求項3に記載した発明は、前記挙動検知手段(93)が前記操舵予備動作に伴う挙動を検知する前に、運転者による手動操舵操作を検知した場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵制御を中止すること特徴とする。
この構成によれば、手動操舵操作を操舵制御よりも優先させることができ、制御装置による操舵制御と運転者の操舵操作との矛盾が生じることを防止することができる。
【0007】
請求項4に記載した発明は、前記手動操舵操作の操舵入力が予め定めた値より大きい場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵制御を中止することを特徴とする。
この構成によれば、運転差の手動操舵操作の誤検知を抑えることができる。
請求項5に記載した発明は、前記手動操舵操作は、操舵トルクセンサ(91)によって検知されることを特徴とする。
この構成によれば、運転差の手動操舵操作を確実に検知することができる。
【0008】
請求項6に記載した発明は、前記挙動検知手段(93)は、加速度センサ、または、角速度センサであることを特徴とする。
この構成によれば、車両の挙動を確実に検知することができる。
請求項7に記載した発明は、前記挙動が予め定めた範囲内になったことを前記挙動検知手段(93)が検知した場合には、前記制御装置(71)は、前記操舵制御を再開することを特徴とする。
この構成によれば、操舵制御の中止後に自然に操舵制御を再開させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転者による適切な操舵操作を促して自然かつ簡易な操舵制御を行うことが可能な車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の自動二輪車の左側面図である。
【
図2】上記自動二輪車の車体前部を運転者目線から見た斜視図である。
【
図3】上記自動二輪車のステアリングアクチュエータの説明図である。
【
図4】上記自動二輪車の運転支援装置のブロック図である。
【
図5】操舵制御における外乱回避判断の概要を示す説明図である。
【
図6】操舵制御による逆ハンドルをきっかけとした運転者の操舵操作を示す説明図である。
【
図7】
図6の操舵操作による外乱回避を示す説明図である。
【
図8】制御装置における操舵制御の処理の概要を示すフローチャートである。
【
図9】制御装置における操舵制御の解除から再開までの処理の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ、以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0012】
<車両全体>
図1は、本実施形態の車両の一例としての自動二輪車1を示す。自動二輪車1は、ハンドル2によって操舵される前輪(操舵輪)3と、パワーユニット20によって駆動される後輪(駆動輪)4と、を備えている。自動二輪車1は、運転者が車体を跨いで乗車する鞍乗り型車両であり、前後輪3,4の接地点を基準に車体を左右方向(ロール方向)に揺動(バンク)可能である。実施形態の車両は、自動二輪車のように車体をバンクさせた方向に旋回する車両に限らず、車体をバンクさせずに操舵輪の操舵によって旋回する車両を含む。
【0013】
自動二輪車1は、ハンドル2及び前輪3を含むステアリング系部品10Aを備えている。ステアリング系部品10Aは、自動二輪車1の骨格となる車体フレーム5の前端部のヘッドパイプ6に操舵可能に支持されている。前輪3は、ステアリング系部品10Aにおける左右一対のフロントフォーク10の下端部に支持されている。車体フレーム5の周囲は、車体カバー12で覆われている。
【0014】
車体フレーム5は、ヘッドパイプ6、左右一対のメインフレーム7、左右一対のピボットフレーム8、左右一対のシートフレーム9を備えている。
ヘッドパイプ6は、ステアリング系部品10Aを操舵可能に支持する。左右のメインフレーム7は、ヘッドパイプ6から後ろ下がりに延びる。左右のピボットフレーム8は、左右のメインフレーム7の各後端部からそれぞれ下方に延びる。左右のシートフレーム9は、左右のピボットフレーム8の各上部からそれぞれ後ろ上がりに延びる。
【0015】
左右のピボットフレーム8には、車幅方向に沿うピボット軸8aが渡設される。左右のピボットフレーム8には、ピボット軸8aを介して、スイングアーム11の前端部が上下揺動可能に支持されている。後輪4は、スイングアーム11の後端部に支持されている。車体フレーム5とスイングアーム11との間には、緩衝器であるクッションユニット(不図示)が渡設される。
左右のメインフレーム7の上部には、燃料タンク18が支持されている。燃料タンク18の後方には、左右のシートフレーム9によってシート19が支持されている。シート19の下方には、シート19に着座した運転者が足を載せる左右一対のステップ25が配置されている。
【0016】
自動二輪車1のパワーユニット20は、左右のメインフレーム7及び左右のピボットフレーム8に支持されている。パワーユニット20の出力軸は、チェーン式伝動機構(不図示)を介して、後輪4に動力伝達可能に接続されている。
パワーユニット20は、原動機となるエンジン(内燃機関)13と、エンジン13の後方に連なる変速機21と、を一体に備えている。
【0017】
自動二輪車1は、前輪3を制動する前輪ブレーキ3Bと、後輪4を制動する後輪ブレーキ4Bと、を備えている。前輪ブレーキ3B及び後輪ブレーキ4Bは、それぞれディスクブレーキである。
前輪ブレーキ3B及び後輪ブレーキ4Bは、ブレーキ操作子であるブレーキレバー及びブレーキペダルが操作されることで、前輪3および後輪4の回転を適宜制動する。また、前輪ブレーキ3B及び後輪ブレーキ4Bは、後述するブレーキアクチュエータ102(
図4参照)が作動することによっても、前輪3および後輪4の回転を適宜制動する。
【0018】
自動二輪車1は、運転者の運転操作(実施形態では、前輪3を操舵する操舵操作、および前輪3及び後輪4を制動する制動操作)を支援する運転支援装置70(
図4参照)を備えている。運転支援装置70は、運転者の運転操作に自動で介入する機能(自動操作介入機能)を制御する制御装置71を備えている。自動操作介入機能は、自動操舵介入機能及び自動制動介入機能を含む。自動二輪車1は、車線維持支援システム(LKAS:Lane Keeping Assistance System)を備えており、自動操舵介入機能は、車線維持支援システムの少なくとも一部をなしている。
【0019】
図2は、運転者目線から見た車体前部を示す。左右のフロントフォーク10の上部は、ステアリングステム31を介してヘッドパイプ6に支持されている。左右のフロントフォーク10は、テレスコピック型の緩衝器である。ステアリングステム31は、左右のフロントフォーク10の上部を連結するトップブリッジ32およびボトムブリッジ33、ならびにヘッドパイプ6に挿通されるステムシャフト(操舵軸)34を備えている。車体前部は車体カバー12のフロントカウル27に覆われている。
【0020】
例えば、自動二輪車1のハンドル2は、左右別体式のセパレートハンドルであり、左右一対の右ハンドル36及び左ハンドル37を備えている。例えば、右ハンドル36及び左ハンドル37は、それぞれトップブリッジ32の下方において左右のフロントフォーク10の上部に取り付けられている。
【0021】
フロントフォーク10の前方には、メータ装置61が配置される。メータ装置61は、車体フレーム5又はフロントカウル27に支持されている。メータ装置61は、例えば車速およびエンジン回転数などを画像表示する液晶ディスプレイ等の表示画面62と、表示画面62の周囲に配置されて各種情報を通知するインジケータランプ群63と、を備えている。
【0022】
インジケータランプ群63は、表示画面62の右側方に配置される右インジケータランプ66と、表示画面62の左側方に配置される左インジケータランプ67と、を備える。
表示画面62は、予め定めた画像表示を行うことによって、運転者に予め定めた情報を通知する。インジケータランプ群63は、予め定めた発光表示(点灯または点滅)を行うことによって、運転者に予め定めた情報を通知する。
【0023】
図3は、ステムシャフト34の軸方向上方から見たトップブリッジ32周辺を示している。
ステアリング系部品10Aには、運転者によるハンドル2への操作とは別に、ステアリングアシスト装置73により自動で操舵入力がなされる。
ステアリングアシスト装置73は、ステアリングアクチュエータ74、アーム75、連結ロッド76、ステアリング制御部77を備えている。
【0024】
ステアリングアクチュエータ74は、自動操舵介入機能の駆動源となる電動モータを含み、例えば車体フレーム5に固定されている。ステアリングアクチュエータ74の出力軸である駆動軸74aには、アーム75の基端部が一体回動可能に固定されている。アーム75の先端部には、連結ロッド76の一端部が第1連結ピン78を介して揺動可能に連結され、他端部が、第2連結ピン79を介してトップブリッジ32に設けられたロッド連結部32aに揺動可能に連結される。
【0025】
ステアリングアクチュエータ74の作動は、ステアリング制御部77によって制御される。ステアリングアクチュエータ74の出力(駆動軸74aの回転トルク)は、アーム75及び連結ロッド76を介して、トップブリッジ32に伝達され、ステアリング系部品10Aに操舵トルク(アシストトルク)を発生させる。
【0026】
<運転支援装置>
図4に示すように、運転支援装置70は、制御装置71、各種センサ類81、各種装置類82を備える。制御装置71は、各種センサ類81から取得した検出情報に基づき、各種装置類82の作動を制御する。
【0027】
制御装置71は、例えば、単一または複数のECU(Electronic Control Unit)からなる。制御装置71は、少なくとも一部がソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。
制御装置71は、エンジン制御部85、ステアリング制御部77、ブレーキ制御部87、表示制御部88を備える。
【0028】
各種センサ類81は、操舵トルクセンサ91、操舵角センサ92、車体加速度センサ93、車速センサ94、カメラ装置96、レーダ装置97を備える。
【0029】
操舵トルクセンサ91は、例えばハンドル2とハンドル2以外のステアリング系部品10Aとの間に設けられた磁歪式トルクセンサであり、ハンドル2から他のステアリング系部品10Aに入力される捩じりトルク(操舵入力)を検出する。
操舵角センサ92は、例えば、操舵軸(ステムシャフト34)に設けられたポテンショメータであり、車体に対する操舵軸の回動角度(操舵角度)を検出する。
【0030】
車体加速度センサ93(挙動検知手段、加速度センサ)は、5軸または6軸のIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)であり、車体における3軸(ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸)の角速度を検出し、さらにその結果から角度及び加速度を推定可能とする。
車速センサ94は、例えばパワーユニット20の出力軸の回転速度を検出する。この回転速度から後輪4の回転速度ひいては自動二輪車1の車速を検知可能とする。
【0031】
カメラ装置96は、CCDやCMOS等の固体撮像素子を用いたカメラを備え、このカメラによって、例えば周期的に自動二輪車1の周辺(例えば前後左右)を撮影し、かつ撮影した画像からフィルタリングや二値化などの画像処理を経て画像データを生成する。
レーダ装置97は、自動二輪車1の周辺にミリ波などの電波を放射するとともに、車両周囲の物体によって反射された電波(反射波)を検出し、少なくとも前記物体の自動二輪車1に対する前後左右の位置(自動二輪車1に対する距離及び方位)と速度とを検知可能とする。
【0032】
上記したカメラ装置96及びレーダ装置97からの情報は、検出方向の物体の位置、種類、速度等の認識に供され、この認識に基づいて、自動二輪車1の運転アシスト制御や自動運転制御等がなされる。
【0033】
各種装置類82は、ステアリングアクチュエータ74、ブレーキアクチュエータ102、インジケータランプ群63を備える。
【0034】
ステアリングアクチュエータ74は、運転者によるハンドル2への操作とは別に、前輪3を操舵する操舵トルクを発生させる。ステアリングアクチュエータ74は、ステリングダンパーを兼ねてもよい。
ブレーキアクチュエータ102は、運転者によるブレーキ操作子への操作とは別に、前輪ブレーキ3B及び後輪ブレーキ4Bに液圧を供給して前輪ブレーキ3B及び後輪ブレーキ4Bを作動させる。ブレーキアクチュエータ102は、ABS(Anti-lock Brake System)の制御ユニットを兼ねていてもよい。ブレーキアクチュエータ102は、通常のブレーキ回路から分岐させたブレーキ配管に接続されていてもよい。
【0035】
インジケータランプ群63は、右インジケータランプ66及び左インジケータランプ67を備えている。右インジケータランプ66及び左インジケータランプ67は、例えばステアリングアクチュエータ74およびブレーキアクチュエータ102の作動と連動して発光し、運転支援装置70が機能していることを運転者に認識させる。
【0036】
次に、制御装置71について説明する。
エンジン制御部85は、エンジン13におけるスロットル開度、吸入負圧、燃料噴射量、バルブタイミング、点火時期等に基づいてエンジン13の出力を制御する。また、エンジン13の出力が制御されることで、エンジン13のクランク軸回転数と変速機21の変速比とにより、自動二輪車1の車速が変更される。
【0037】
ステアリング制御部77は、操舵トルクセンサ91により検出された操舵トルク信号、車体加速度センサ93により検出された角速度信号、車速センサ94により検出された車速信号、カメラ装置96及びレーダ装置97により検出された検出情報などに基づいて、ステアリングアクチュエータ74の作動を制御する。これにより、ステアリング系部品10Aにアシストトルクが付与され、このアシストトルクにより、操舵輪である前輪3の操舵がアシストされる。このように、ステアリング制御部77は、自動操舵介入機能の制御を行う。
【0038】
ブレーキ制御部87は、エンジン出力、車速センサ94により検出された車速信号、カメラ装置96及びレーダ装置97により検出された検出情報などに基づいて、ブレーキアクチュエータ102の作動を制御する。これにより、前輪ブレーキ3B及び後輪ブレーキ4Bがアシスト制動力を発生し、このアシスト制動力により、前輪3及び後輪4の制動がアシストされる。このように、ブレーキ制御部87は、自動制動介入機能の制御を行う。
【0039】
表示制御部88は、ステアリング制御部77による自動操舵介入機能の制御、及びブレーキ制御部87による自動制動介入機能の制御に伴って、右インジケータランプ66及び左インジケータランプ67の発光(点灯又は点滅)を制御する。
表示制御部88は、ステアリングアクチュエータ74及びブレーキアクチュエータ102が作動しているときは、それぞれの制御が同期して行われる。
上記したエンジン制御部85、ステアリング制御部77、ブレーキ制御部87、表示制御部88は、全てマイクロコンピュータを備えるとともに、相互に通信自在に構成される。
【0040】
制御装置71は、操舵トルクセンサ91から出力された操舵トルク信号に基づいて、運転者による手動の操舵操作が行われているか否かを判断することが可能である。
なお、運転者による手動の操舵操作を検知する手段として、例えば左右ハンドル36,37のグリップ部に設けた荷重センサを利用し、左右ハンドル36,37に入力された荷重の検出情報(荷重の大きさおよび方向)に基づいて、運転者による手動の操舵操作の有無を判断してもよい。
【0041】
<操舵介入機能における車両挙動に応じた中止制御>
次に、自動操舵介入機能の作動(操舵制御)と、この作動を車体挙動等に応じて中止する制御と、について説明する。
図5に示すように、例えば、自動二輪車1が他の車両120の後方を走行中、他の車両120が急に減速したり車線変更のために急ハンドルを切ったりするなどの事象(外乱)が発生した場合、制御装置71は、操舵制御に関し、上記外乱を回避するための判断を行う。例えば、制御装置71は、他の車両120を避けるために、左方向(矢印A参照)又は右方向(矢印B参照)の何れに進路変更するかを判断する。この判断は、カメラ装置96及びレーダ装置97等の各種センサ類81からの検出情報に基づいてなされる。
【0042】
例えば、制御装置71は、右方向(矢印B方向)に回避するよりも左方向(矢印A方向)に回避したほうが良いと判断した場合は、
図6(a)に示すように、ステアリング制御部77がステアリングアクチュエータ74を作動制御し、操舵予備動作として、矢印A方向(左方向)とは反対の矢印B方向(右方向)に前輪3を向けるように、ステアリング系部品10Aにアシストトルクを付与する。すなわち、ステアリング制御部77は、逆ハンドル(操舵予備動作)を切るようにステアリングアクチュエータ74を作動させる。
【0043】
その結果、自動二輪車1の前輪3が矢印C方向に回動し、前輪3に右方向の舵角が生じる。これにより、自動二輪車1の車体には、矢印Dで示すように右回りのヨーモーメントが発生する。これにより、自動二輪車1には、矢印Eで示す向きに(左方向)への遠心力Fが発生する。この遠心力Fは、車体加速度センサ93により検知され、この検知情報が制御装置71に送られる。その結果、制御装置71は、操舵介入機能を中止させる。
【0044】
自動二輪車1は、遠心力Fによって左方向に車体がロール(バンク)する。これにより、
図6(b)に示すように、前輪3がセルフステアによって矢印G方向(左方向)に転舵し、前輪3に左方向の舵角を生じさせる。その結果、
図7に示すように、自動二輪車1が他の車両120を左方向に避ける。このとき、操舵介入機能が中止されているので、前輪3のセルフステアが阻害されることはない。
【0045】
他のパターンとして、前記右方向への逆ハンドルによって発生するヨー方向の遠心力Fを検知することに加えて、この遠心力Fによって自動二輪車1が左方向にロール(バンク)する際のロール方向の角速度を検知することによって、操舵介入機能を中止する制御としてもよい。あるいは、ヨー方向の遠心力Fおよびロール方向の角速度の少なくとも一方を検知することによって、操舵介入機能を中止する制御としてもよい。
【0046】
例えば、上記セルフステア以外の作用として、前輪3の右方向の転舵によって遠心力Fが生じると、運転者Mは反射的にハンドル2を左方向に切ってバランスを取ろうとする。これにより、前輪3が矢印G方向(左方向)に転舵して舵角が生じさせ、自動二輪車1が他の車両120を左方向に避ける。この作用時も、操舵介入機能が中止されていることで、運転者Mのハンドル操作が阻害されることはない。
以上のように、遠心力Fの検知に応じて操舵介入機能が中止されることで、
図7に示すように、自動二輪車1は、左側に自然に操舵され、他の車両120をスムーズに左側へ避けることができる。
【0047】
制御装置71は、車体加速度センサ93からの遠心力Fを検知する信号を受けた場合には、ステアリング制御部77による操舵介入機能を停止(中断)させる。
また、制御装置71は、運転者Mが前輪3の操舵操作を検知する信号を受けた場合にも、ステアリング制御部77による操舵介入機能を停止(中断)させる。すなわち、運転者Mの操舵操作は、制御装置71による操舵制御に対して優先される。
なお、操舵制御を停止させた後に、運転者Mの操舵操作の検知信号、又は車体挙動の検知信号が無くなったり閾値未満になった場合には、制御装置71は操舵制御を再開させる。
【0048】
次に、制御装置71における操舵介入機能の中止制御に係る処理の流れについて、
図8のフローチャートを参照して説明する。
まず、自動二輪車1のメインスイッチがオン状態(電源オン状態)で運転支援装置70のシステムが起動しているとき、制御装置71による操舵制御が開始される(ステップS1)。このとき、制御装置71は、自車が回避判定を要する状況か否か、又は自車が進行方向の変更判定を要する状況か否かを判断する(ステップS2)、ステップS2でNo(判定不要)の場合、制御装置71はステップS2の判断を繰り返し、判定が必要になる状況(例えば車両前方に外乱が現れる状況等)を監視する。ステップS2でYes(判定要)の場合(すなわち車両前方に外乱を発見した場合等)、制御装置71は、ステップS3において、自動二輪車1が進むべき方向を判定するとともに、ステアリングアクチュエータ74を作動させ、前記進むべき方向とは反対の方向に前輪3を向けるようにステアリング系部品10Aにアシストトルクを付与する(逆ハンドル)。
【0049】
その後、制御装置71は、ステップS4に移行し、運転者Mからハンドル2への操舵入力があったか否かを判断する。ステップS4でYes(運転者Mからの操舵入力有り)の場合、制御装置71は、ステップS5で操舵制御を解除(中止)し、一旦処理を終了する。これにより、制御装置71による操舵制御と運転者Mの操舵操作とが相違していても、これらが互いに干渉し合うことが防止される。
なお、ステップS4の判断は、「操舵入力の有無」のみに限らず、「操舵入力の大きさが所定値以上か否か」に置き換えることもできる。
【0050】
ステップS4でNo(運転者Mからの操舵入力無し)の場合、ステップS6に移行する。ステップS6では、制御装置71は、ステップS3の逆ハンドルにより車体に発生する遠心力F、あるいは制御装置71が判定した前記進むべき方向へのロール角速度が、予め定めた第一の閾値L1(所定値)を越えるか否かを判断する。遠心力Fまたは角速度が所定値を超える場合(ステップS6でYes)、ステップS5に移行して操舵制御を解除(中止)し、一旦処理を終了する。遠心力Fまたは角速度が所定値以下の場合(ステップS6でNo)、ステップS8に移行し、ステップS3の逆ハンドル開始から予め定めた所定時間が経過したか否かを判定する。ステップS8でNo(所定時間経過前)の場合、ステップS4に戻り、逆ハンドルによる車体挙動の影響を繰り返し判断する。ステップS8でYes(所定時間経過した)の場合、ステップS5に移行して操舵制御を解除(中止)し、一旦処理を終了する。
【0051】
次に、ステップS5で操舵制御を解除(中止)した後、操舵制御を再開するまでの処理の流れについて、
図9のフローチャートを参照して説明する。
ステップS5で操舵制御を解除(中止)した後、制御装置71は、ステップS9に移行し、前記遠心力Fまたは角速度が、前記第一の閾値L1よりも小さい第二の閾値(予め定めた第二の閾値)L2以下か否かを判断する。「遠心力F>L2」の場合(ステップS9でNo)、操舵制御を再開せずに一旦処理を終了する。「遠心力F≦L2」の場合(ステップS9でYes)、ステップS10に移行し、解除していた操舵制御を再開し、一旦処理を終了する。ステップS9は、前記遠心力Fまたは角速度が予め定めた範囲内になったか否かを判定するステップに相当する。
【0052】
以上説明したように、上記実施形態における車両は、自動二輪車1の操舵制御を行う制御装置71と、制御装置71によって設定される操舵予備動作(逆ハンドル)に伴う自動二輪車1の挙動(遠心力Fの発生)を検知する挙動検知手段としての車体加速度センサ93と、を備え、車体加速度センサ93が前記逆ハンドルに伴う予め定めた遠心力Fを検知した場合には、制御装置71は、操舵制御を中止する。
【0053】
この構成によれば、制御装置71による操舵制御において、自動二輪車1の遠心力Fの発生を伴う操舵のきっかけのみを運転者Mに与えることができる。これにより、操舵制御の介入を抑えつつ運転者に適切な操舵操作を促し、制御装置71による操舵制御と運転者Mの操舵操作との間に矛盾が生じることを防止することができる。また、操舵制御を行うためのステアリングアクチュエータ74、バッテリ(不図示)などの装置の小型軽量化を図ることができる。
【0054】
上記したように、自動二輪車1のような鞍乗り型車両は、四輪の普通自動車のような車格のある車両に比べて、小型かつ軽量であり、しかも運転者Mは車体に一体的に乗車する姿勢をとる。運転者Mは、車体から直接に、あるいはハンドル2を介して、車体挙動や路面状況等の情報を受け取り、この情報に基づいて自動二輪車1を運転している。このため、操舵制御が頻繁に介入すると、運転者Mが車両からの情報を把握し難く、運転し難い印象を与える。実施形態では、自動二輪車1が外乱などを受けたときに操舵操作介入を作動させる一方、これに伴う車体挙動(遠心力Fの発生)を検知した後には、関連する一連の操舵操作を運転者Mに引き継ぐ。これにより、運転者Mが車両からの情報を把握しやすく、運転しやすい印象のまま自然な操舵制御を可能とし、車両の商品性を向上させることができる。
【0055】
上記車両において、前記操舵予備動作は、前記制御装置71が判断した自動二輪車1が向かう方向に対し、逆方向にハンドル2を転舵する逆ハンドルであり、車体加速度センサ93は、前記逆ハンドルによる挙動として、自動二輪車1に発生する遠心力F、またはロール角速度を検知し、この検知に基づいて操舵制御を中止する。自動二輪車1のように車体をバンクさせて操舵する車両の場合、逆ハンドルによる遠心力で車体をバンクさせ、このバンク方向に舵角を生じさせる。車体をバンクさせない車両の場合、例えば逆ハンドルにより発生した遠心力Fによって、運転者Mに逆ハンドルとは反対側に順操舵するよう反応させる。このように、遠心力Fを検知した時点で操舵制御を中止し、遠心力Fをきっかけとした車体挙動や運転者Mの操舵操作と操舵制御との干渉を防止することができる。
【0056】
上記車両において、車体加速度センサ93が予め定めた遠心力Fを検知しない場合、制御装置71は、逆ハンドルから予め定めた時間が経過したときに操舵制御を中止する。これにより、予め定めた遠心力Fが検知されなかった場合にも、制御装置71による操舵制御と運転者Mの操舵操作との間に矛盾が生じることを防止することができる。
【0057】
上記車両において、車体加速度センサ93が予め定めた遠心力Fを検知する前に、運転者Mによる手動操舵操作を検知した場合には、制御装置71は、操舵制御を中止する。これにより、手動操舵操作を制御装置71による操舵制御よりも優先させることができ、制御装置71による操舵制御と運転者Mの操舵操作との矛盾が生じることを防止することができる。
また、制御装置71は、手動操舵操作の操舵入力が予め定めた値より大きい場合に操舵制御を中止するので、運転差の手動操舵操作の誤検知を抑えることができる。
【0058】
上記車両において、手動操舵操作は、操舵トルクセンサ91によって検知されるので、運転差の手動操舵操作の誤検知を抑えることができる。
また、挙動検知手段93は、遠心力Fおよびロール角速度を検出可能な車体加速度センサ93であるので、自動二輪車1の挙動を確実に検知することができる。
また、遠心力Fが予め定めた範囲内になったことを車体加速度センサ93が検知した場合には、制御装置71が操舵制御を再開するので、操舵制御の中止後に自然に操舵制御を再開させることができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、本発明は、自動二輪車以外の車両にも適用可能である。自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)を含む鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、二輪車のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。また、原動機に電気モータを含む車両も含まれる。特に、鞍乗り型車両のような小型車両は、操舵制御を行うための装置を小型軽量化することの効果が高いが、鞍乗り型車両に限るものではない。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 自動二輪車(車両)
2 ハンドル
71 制御装置
91 操舵トルクセンサ
93 車体加速度センサ(挙動検知手段、加速度センサ)
F 遠心力
M 運転者