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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】繊維強化圧力容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20221220BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020504220
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2018069980
(87)【国際公開番号】W WO2019020597
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】17183176.1
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520026825
【氏名又は名称】エンプロックス ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミッデンドルフ、クリスチャン
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05499739(US,A)
【文献】米国特許第03047191(US,A)
【文献】特開2008-169893(JP,A)
【文献】特開平05-079598(JP,A)
【文献】特公昭59-036146(JP,B2)
【文献】米国特許第08931661(US,B2)
【文献】国際公開第2011/045584(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転対称な中央部分(21)であって、前記中央部分(21)に沿った対称軸線(ZA)を備える中央部分(21)、及び前記中央部分(21)を閉じるドーム形状の2つの極部キャップ(22)を備える内側容器(2)と、
前記内側容器(2)を強化するように前記内側容器(2)上に巻き付けられた外側層(3)であって、前記外側層(3)は、母材に埋め込まれて互いの上に配置された繊維(F)の複数の積層で作られた繊維複合材料(FVM)で作られ、前記積層は、複数の繊維(F)で作られた繊維バンド(FB)として前記内側容器(2)上にわたって延びている、外側層(3)と
を有する繊維強化圧力容器(1)であって、
前記積層のうちの少なくともいくつかにおける前記繊維バンド(FB)が、前記対称軸線(ZA)に対するそれぞれの進入繊維角度(FW)で、前記中央部分(21)から、前記ドーム形状の極部キャップ(22)の領域へと進入し、そこで、その巻き方向(WR)におけるそれぞれの反転箇所(31)において前記中央部分(21)の方向に戻るように案内され、また前記極部キャップ(22)の前記領域に少なくとも1つのねじれ部(32)を有している、繊維強化圧力容器(1)。
【請求項2】
前記外側層(3)が、高角度螺旋積層及び低角度螺旋積層で巻かれることを特徴とする、請求項1に記載の圧力容器(1)。
【請求項3】
すべての前記繊維バンド(FB)が、前記極部キャップ(22)の前記領域において少なくとも1つのねじれ部(32)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧力容器(1)。
【請求項4】
前記ねじれ部(32)がちょうど180度のねじれ部であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の圧力容器(1)。
【請求項5】
前記ねじれ部(32)が、前記各繊維バンド(FB)の前記反転箇所(31)に配置されることを特徴とする、 請求項1から4までのいずれか一項に記載の圧力容器(1)。
【請求項6】
前記繊維バンド(FB)の幅(BB)が、前記中央部分の直径の5%~15%の間であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の圧力容器(1)。
【請求項7】
同じ進入繊維角度(FW)の積層としての前記それぞれの繊維バンド(FB)の前記少なくとも1つのねじれ部(32)が、前記極部キャップ(22)の幾何学的中心点(22M)を中心とする円(33)上にねじれ部の配置として配置され、前記円(33)の直径(33D)が前記それぞれの進入繊維角度(FW)にとりわけ依存することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の圧力容器(1)。
【請求項8】
すべての前記ねじられた繊維バンド(FB)のねじれ部(32)の前記配置が、前記極部キャップ(22)の前記幾何学的中心点(22M)を中心に互いに対して同心円状に位置するそれぞれの円(33)上に配置されることを特徴とする、請求項7に記載の圧力容器(1)。
【請求項9】
ねじれ部(32)の前記配置を備える前記円が、互いのすぐ上に配置されないことを特徴とする、請求項8に記載の圧力容器(1)。
【請求項10】
少なくとも前記極部キャップ(22)の中央領域(22z)における前記外側層(3)は、ねじれ部(32)の前記配置によって材料が積み重なることにより、の層の厚み(3D)が、ねじられた繊維バンド(FB)のない繊維複合層(FVM)の厚さよりも大きい厚さを有していることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載の圧力容器(1)。
【請求項11】
請求項1に記載の繊維強化圧力容器(1)を製造する方法(100)であって、
対称軸線(ZA)を備える、回転対称な中央部分(21)、及び前記中央部分(21)を閉じるドーム形状の2つの極部キャップ(22)を備えた内側容器(2)を提供するステップ(110)と、
複数の積層内の複数の繊維(F)で作られた繊維バンド(FB)を、前記内側容器(2)の前記中央部分(21)及び前記極部キャップの上に巻き付けるステップ(120)と
を含み、前記巻き付けるステップは、
前記積層のうちの少なくともいくつかにおける前記繊維バンド(FB)を、前記中央部分(21)から、前記極部キャップ(22)の領域において前記対称軸線(ZA)に対するそれぞれの進入繊維角度(FW)で進入させるステップ(130)、
少なくとも前記積層のうちの一部の場合において、積層のすべての前記繊維バンド(FB)に関して、前記極部キャップ(22)の前記領域で前記繊維バンド(FB)をねじり、それによりねじれ部(32)を作り出すステップ(140)、
反転巻き方向(WR)におけるそれぞれの反転箇所(31)において、前記繊維バンド(FB)を前記中央部分(21)の方向に戻すステップ(150)、及び
母材に埋め込まれて互いの上に配置された繊維(F)の複数の積層で作られた繊維複合材料(FVM)で作られた前記繊維強化圧力容器(1)の外側層(3)が完成するまで、先行する前記巻き付けるステップ(120)、前記進入させるステップ(130)、前記繊維バンドをねじり、それによりねじれ部を作り出すステップ(140)、及び戻すステップ(150)を繰り返すステップ
を含んでいる、方法。
【請求項12】
前記極部キャップ(22)の前記領域においてねじられる積層の前記繊維バンド(FB)のそれぞれにおける前記ねじりステップ(140)が、ちょうど180度にわたって実施される、請求項11に記載の方法(100)。
【請求項13】
前記ねじりステップ(140)が前記反転箇所(31)において行われる、請求項11又は12に記載の方法(100)。
【請求項14】
前記ねじりステップ(140)は、同じ進入繊維角度(FW)の前記それぞれの繊維バンド(FB)の前記少なくとも1つのねじれ部(32)が、前記極部キャップ(22)の幾何学的中心点(22M)を中心とする円(33)上におけるねじれ部の配置として配置されるように実施され、また前記円(33)の直径(33D)が、前記それぞれの進入繊維角度(FW)にとりわけ依存している、請求項11から13までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ねじられる前記積層のすべての前記ねじられた繊維バンド(FB)の前記ねじれ部(32)が、前記極部キャップ(22)の前記幾何学的中心点(22M)を中心に互いに対して同心円状に位置するそれぞれの円(33)上に配置される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維バンドを用いて製造された繊維強化圧力容器、及び繊維強化圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維複合材料で強化された圧力容器の市場は絶えず成長している。繊維強化圧力容器は、軽い重量と優れた機械的強度を併せ持つ。たとえば、天然ガス及びフラッキング・ガスの運搬が増加していることにより、適当なパイプライン・ネットワークがない国では特に、この場合はガス貯蔵用の圧力容器の形をとるこうした圧力容器の需要が作り出されている。これに加えて、燃料電池車両の開発に懸命に取り組んでいる自動車セクターが存在し、燃料電池車両においては、燃料が圧力容器内にガス状水素の形で高圧で貯蔵されることになる。重量の大きい圧力容器の輸送では大量のエネルギーが不必要に消費され、したがって輸送コストが高くなり過ぎるので、圧力容器の輸送のために軽量の圧力容器が所望されている。
【0003】
現在使用されているガス貯蔵用の圧力容器は円筒形の中央部分を有し、その両側には中央部分を閉じるための極部キャップが位置付けられている。繊維複合材料で作製された強化層が、たとえば巻付け法により、圧力容器の外側層として、(圧力容器の場合はライナーと呼ばれる)内側容器に巻き付けられ、内側容器は巻付けコアとして機能する。巻付け法は、繊維複合層の時間効率的且つコスト効率的な製造に好ましい処理である。内側容器はたとえば圧力容器の耐密性を保証するが、繊維複合材料で作製された強化層は必要な機械的安定性を圧力容器に与える。たとえば、タイプ3の圧力容器の場合、たとえばアルミニウム又は鋼で作製された金属性内側容器(金属性ライナー)が使用され、タイプ4の圧力容器の場合、内側容器(ライナー)はプラスチック材料から製造される。タイプ3の圧力容器の場合、ライナーは顕著な程度まで機械的負荷に耐えるが、タイプ4の圧力容器の場合、ライナーは負荷に耐えることに寄与しない。原則として、タイプ4の圧力容器は、たとえば弁又は他の連結部品を収めるために、たとえばアルミニウム又は鋼で作製された金属性ボス部分と呼ばれるものを両側に有し、これらボス部分はタンクの長手方向軸線の中央に取り付けられ、極部キャップ領域の一部を構成する。
【0004】
圧力容器の強化層は、軸方向及び半径方向の応力を吸収できなければならない。これは、(ロービング・バンドと呼ばれるものの形をとる)連続的なフィラメントを層にすることによってなされ、その配向及び肉厚は各応力分布に対応する。円筒形領域では、たとえば周囲方向の巻付けによって半径方向の応力を実質的に吸収することができ、すなわち、(ロービング・バンドと呼ばれる)連続的なフィラメントがシリンダ軸線に対して約80°~90°の角度でライナー上に配置され、一方、軸方向の応力は、螺旋状の巻付けによって、すなわち容器の長さ全体を通り、容器の軸線に対して10°~80°の角度である巻付けによって実質的に吸収される。ここでは、容器の長手方向軸線に対して約10°~約25°の間の角度の低角度螺旋積層(flat helical ply)と呼ばれるものは、容器の長手方向軸線に対して約25°~約80°、好ましくは約40°~約75°の巻付け角度をもつ高角度螺旋積層(steep helical ply)と呼ばれるものとは区別することができる。この場合、低角度螺旋積層によりボス部分が完全に囲まれ、一方、高角度螺旋積層により、何よりもまず、容器のボス部分と円筒形中央部分との間の極部キャップ領域が被覆される。
【0005】
極部キャップの湾曲表面上の繊維は、それらが測地経路(geodesic path)に沿って通っているときのみ固定される。この場合、測地経路とは、最小距離に相当する2点間の道筋を指す。測地経路上に配置された繊維は、その位置から外れ得るには伸びなければならないはずである。したがって、測地的に巻き付けられた繊維は、外れにくい方式で配置されている。巻付け処理を高速化するために、複数本の繊維から作製された繊維バンドが使用される。したがって、これらのストリップは、たとえば円筒形中央部分の直径の5%~15%、好ましくは9%~11%である幅を有する。しかし、繊維バンドで極部キャップを巻くとき、大半の繊維、たとえば中央の繊維から離れたすべての繊維は、極部キャップにおいて繊維バンドが受けるたわみによって測地経路からずれ、それにより繊維バンドの大半の繊維が外れる恐れがある。さらに、従来の巻付け法を用いた繊維バンドは、特定の引張り力でライナーに巻き付けられる。極部キャップにおけるたわみで繊維の一部が測地経路から偏位することにより、繊維張力は、カーブの内側の繊維張力が減少するように影響を受ける。この場合、選択された極部キャップの幾何形状及び繊維張力に応じて、カーブの内側の繊維の繊維張力が完全に失われる場合がある。これらの不利な影響は、特に高角度螺旋積層の場合に、すなわち圧力容器の極部キャップから円筒形中央部分への移行領域において観察される場合がある。
【0006】
したがって、極部キャップを繊維複合材料で効果的に強化することができ、それにもかかわらず、極部キャップ上の繊維がその巻付け位置に確実にとどまり、また繊維バンドの断面全体にわたって可能な限り均一な繊維張力が保持される圧力容器が利用可能になることが望ましいはずである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、極部キャップが繊維複合材料で効果的に強化され、それにもかかわらず、特に圧力容器の極部キャップから円筒形中央部分への移行領域においても極部キャップ上の繊維がその巻付け位置に確実にとどまり、また繊維バンドの断面全体にわたって可能な限り均一な繊維張力が保持される圧力容器を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、回転対称な中央部分、好ましくは円筒形の中央部分であって、中央部分に沿った対称軸線、好ましくはシリンダ軸線を備える中央部分、及び中央部分を閉じるドーム形状の2つの極部キャップを備える内側容器と、内側容器に巻き付けられて内側容器を強化する外側層とを有する繊維強化圧力容器であって、外側層は、母材に組み込まれて互いの上に配置された繊維の複数の積層で作製された繊維複合材料で作製され、積層は、複数本の繊維で作製された繊維バンドとして、場所依存及び位置依存の繊維配向で内側容器の全体にわたって通っており、積層のうちの少なくともいくつかでは、繊維バンドが、対称軸線に対するそれぞれの進入繊維角度で中央部分からドーム形状の極部キャップの領域へと進入し、そこで、その巻き方向における各反転箇所において中央部分の方向に戻るように案内され、極部キャップの領域に少なくとも1つのねじれ部を有する、繊維強化圧力容器によって達成される。
【0009】
ここで、回転対称な中央部分とは、その対称軸線を中心に一定の角度まで回転されたとき、それ自体に投影される中央部分を指す。回転対称な中央部分は、対称軸線に対して垂直な、たとえば円形、楕円、又は様々な規則的形状の断面形態を有する。円筒形中央部分の場合、対称軸線は、中央部分のシリンダ軸線になる。
【0010】
この場合、用語「ドーム形状の極部キャップ」とは、極部キャップの下縁部によって画定される基部表面の上方で、ドーム形状の極部キャップの中央部において最大高さを有する3次元形態の極部キャップを指し、基部表面は、対称軸線に対して垂直な、中央部分の断面区域に対応する。たとえば、円筒形中央部分の場合、極部キャップの基部表面は円である。中央部分の断面区域に応じて、関連付けられた極部キャップは様々な基部表面を有することができる。ドーム状極部キャップは、たとえば、内側容器の中央部分に隣接するカバー縁部領域では半球状表面と比較して曲率が大きく、極部キャップの中央領域は半球状表面と比較して曲率が小さい、半球から外れた形態を有する場合もある。このドーム状極部キャップでは、負荷及び剛直性の急な変化、並びにそれによって中央部分の周囲方向と極部キャップの方向の軸方向との間に生じる応力比は、極部キャップの中央領域において軸方向に配置された第1の繊維によって特に効果的に吸収され得る。このような特に適したドーム形状のカバー表面は、等張力曲面(isotensoid)とも呼ばれる。ここでの等張力曲面は、そこに巻き付けられる繊維複合材料の外側層において、繊維配向のあらゆる箇所で繊維に一定の張力を生み出す形態を示す。ここでの軸方向に配向された繊維とは、中央部分の対称軸線に対してたとえば60°未満、好ましくは20°未満である小さい繊維角度をもつ繊維配向を備えた繊維を指す。対応する繊維複合材料の積層は、軸方向積層又は螺旋積層と呼ばれる。これとは対照的に、半径方向積層又は周囲積層と呼ばれる繊維は、中央部分の対称軸線に対して約85°~約90°の間の繊維角度を備えた繊維方向を有する。中央部分と極部キャップの両方での、また半径方向と軸方向に作用する力の両方に対する、外側層の所望の全体的安定性を得るために、この場合、外側層は、1つ又は複数の螺旋積層と、厚みが同一であるか又は異なる1つ又は複数の周囲積層とを備えることができる。この場合、周囲積層は、実質的に中央部分に巻き付けられ、極部キャップの実施例に応じて、任意選択で極部キャップの縁部領域に巻き付けられ、螺旋積層は、極部キャップ及び中央部分を含む圧力容器全体を被覆する。
【0011】
繊維複合材料は、一般に、繊維間に強力な複合体を生み出す母材に組み込まれた2つの主要な構成要素、ここでは繊維から構成される。この場合、繊維複合材料は、個々の繊維としてではなく、互いに隣り合った複数本の繊維を備えた繊維バンドとして巻き付けられ、各繊維は互いに緊密に隣り合って、また互いに接触して位置する。これにより繊維層が生み出され、繊維複合材料が所望の厚みを有してこの厚みを有する対応する外側層が生み出されるまで、その上に繊維が巻き付けられてさらなる繊維積層になる。一実施例では、外側層は、複数の繊維層において、第1の繊維及び別の繊維、たとえば第2の繊維を有する。複合材料により、たとえば関係する2つの個々の構成要素のそれぞれが与え得るのよりも強い強度など、より高品質な特性が繊維複合材料に与えられる。長手方向における繊維の弾性率が母材の弾性率よりも大きい場合、母材が破断する際の伸びが、繊維が破断する際の伸びより大きい場合、及び繊維の破断強度が母材の破断強度より大きい場合、繊維方向での繊維の補強効果が生じる。あらゆるタイプの繊維、たとえばガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、鋼繊維、天然繊維又は合成繊維を繊維として使用することができる。使用することができる母材の実例は、熱硬化性材料、エラストマー又は熱可塑性材料である。繊維及び母材の材料特性は当業者に知られており、したがって、当業者は繊維と母材の適した組合せを選択して、各用途向けの繊維複合材料を生産することができる。このような場合、個々の繊維積層は個々の繊維を有する場合もあり、繊維複合領域では同一であるか又は互いに異なる複数本の繊維を有する場合もある。
【0012】
用語「ねじれ部」は、ここでは、互いに対する、また互いの周りでの、繊維バンドの繊維の巻きのことを指す。ねじられた繊維バンドでは、繊維バンドの個々の繊維は、ねじれの箇所で互いに場所が入れ替わる。個々のねじれ部とは、ここでは繊維バンドの180度の回転を指す。たとえば、繊維バンドの外側右の繊維は、180度ねじられると繊維バンドの外側左の繊維になる。これに対応して、右から2番目の繊維は、180度ねじられると左から2番目の繊維になり、これ以降も同様になる。本発明では、(ロービング・バンドと呼ばれる)繊維バンドは、繊維強化圧力容器においてこれまで慣例的であったようにドーム形状の極部キャップの周りに平滑に配置されるのではなく、本発明によれば、極部キャップ全体にわたる繊維配向で、それ自体をねじって配置される。第一に、これにより、極部キャップの曲率によって、また繊維バンドの繊維の大半において(特に繊維バンドの外側の繊維において)存在する測地巻付け経路からの偏位によって繊維バンドがずれて滑り落ち得ることが防止され、したがって糸の張力が部分的に、又は完全に失われることが防止される。したがって、第二に、狙い通りに、また局所的に制限されて、特定の応力下にある極部キャップの領域に材料の積層を導入できる可能性がある。
【0013】
したがって、本発明により、極部キャップが繊維複合材料で効果的に強化され、それにもかかわらず、少なくとも極部キャップ上のねじられた繊維バンドの繊維がその巻付け位置に確実にとどまり、繊維バンドの断面全体にわたって可能な限り均一な繊維張力が保持される圧力容器が利用可能になる。特に、この利点は高角度螺旋積層の場合に観察される。
【0014】
有利な一実施例では、外側層は、高角度螺旋積層及び低角度螺旋積層で巻かれる。低角度螺旋積層と高角度螺旋積層を組み合わせることにより、各巻付け角度の利点が互いに組み合わせられ、螺旋積層のうちの少なくとも1つ、複数、又はすべては、ねじれ部を伴って巻き付けられる。
【0015】
一実施例では、ねじれ部はちょうど180度のねじれ部である。このねじれ部により繊維バンドの繊維の位置が入れ替わり、したがって、極部キャップの湾曲表面を通る繊維は、極部キャップの中心点に対して外側の位置から内側の位置へと変化し、また逆も同様になり、これにより、すべての繊維の繊維配向の走路はほぼ同じになる。ねじれがなければこれは当てはまらないはずであり、この場合、外側の繊維は、各繊維バンドの内側の繊維とは異なる、極部キャップの周りの経路長をカバーすることになる。
【0016】
別の実施例では、ねじれ部は、各繊維バンドの反転箇所に配置される。ねじれ部のこの位置では、たとえば180度のねじれ部の場合、すべての繊維の繊維配向の走路がちょうど同じになり、それにより繊維バンドのすべての繊維は同じ張力を有し、したがって、極部キャップの領域においてその巻付け位置に特に確実にとどまる。
【0017】
別の実施例では、同じ進入繊維角度をもつ積層の各繊維バンドの少なくとも1つのねじれ部は、極部キャップの幾何学的中心点を中心とする円上にねじれ部の機構として配置され、円の直径は、各進入繊維角度にとりわけ依存する。この円の直径は、実質的に、進入繊維角度の正弦及び中央部分のシリンダ直径から得られる。
【0018】
好ましい一実施例では、すべてのねじられた繊維バンドのねじれ部の機構は、極部キャップの中心点を中心に互いに対して同心円状に位置する、個々の積層に関連付けられたそれぞれの円上に配置される。この場合、各ねじれ部を備える円は、互いのすぐ上に配置されないことが好ましい。これにより、第一に、ねじれ部の上に巻き付けられた繊維性材料の積層が、この場合に生じる局所的な過度の厚肉化により、下にある繊維積層との直接的な接触を失うことが防止され、したがってそれらの間の空洞なしで、下にある繊維積層の上に位置する。第二に、ねじれ部のこの機構により、ドーム状極部キャップ上に生じた凹型表面プロファイルを狙い通りに埋めることが可能になり、それにより、後続の積層にとって有益な極部キャップの外形を生み出すことが可能になる。
【0019】
別の実施例では、少なくとも極部キャップの中央領域における外側層の層の厚みは、局所的に制限された材料が環状に積み重なることにより、ねじれ部なしの従来の堆積と比較して、ねじられた繊維バンドのない繊維複合層の厚みよりも厚くなり、好ましくは50%を超えて厚くなる。その結果、ちょうど極部キャップの最大負荷領域において、外側層の環状周辺補強が生じる。
【0020】
本発明は、さらに、本発明による繊維強化圧力容器の生産方法に関し、この方法は、
- 対称軸線、好ましくはシリンダ軸線を備える、回転対称な、好ましくは円筒形の中央部分、及び中央部分を閉じるドーム形状の2つの極部キャップを備えた内側容器を用意するステップと、
- 複数本の繊維で作製された繊維バンドを、複数の積層で、場所依存及び位置依存の繊維配向で内側容器の中央部分及び極部キャップに巻き付けるステップであって、
- 積層のうちの少なくともいくつかにおいて、極部キャップの領域で、中央部分から、シリンダ軸線に対する各進入繊維角度で、繊維バンドを進入させるステップ、
- ねじれ部を生み出すために、極部キャップの領域で、各積層の少なくとも一部の積層のすべての繊維バンドに関して繊維バンドをねじるステップ、
- 反転巻き方向における各反転箇所において、繊維バンドを中央部分の方向に戻すステップ、及び
- 母材に組み込まれて互いの上に配置された繊維の複数の積層で作製される繊維複合材料で作製される圧力容器の外側層が完成するまで、先行する巻付けステップを繰り返すステップ
- を有する、巻き付けるステップとを有する。
【0021】
したがって、本発明により、極部キャップが繊維複合材料で効果的に強化され、それにもかかわらず、少なくとも極部キャップ上のねじられた繊維バンドの繊維がその巻付け位置に確実にとどまる、本発明による圧力容器の生産方法が利用可能になる。
【0022】
一実施例では、ここでの、極部キャップの領域においてねじられるべき積層の繊維バンドのそれぞれにおけるねじるステップは、ちょうど180度で実施される。
【0023】
別の実施例では、ここでのねじるステップは、反転箇所において行われる。
【0024】
別の実施例では、ここでのねじるステップは、好ましくは、ねじられるべき積層のねじれ部が、互いのすぐ上に配置されないように実施される。
【0025】
別の実施例では、ここでのねじるステップは、同じ進入繊維角度の各繊維バンドの少なくとも1つのねじれ部が、極部キャップの幾何学的中心点を中心とする円上にねじれ部の機構として配置されるように実施され、円の直径は、各進入繊維角度に依存する。好ましい一実施例では、ねじられるべき積層の、ねじられたすべての繊維バンドのねじれ部は、極部キャップの中心点を中心に互いに対して同心円状に位置する、各円上に配置される。一実施例では、ここでの中央部分は、対称軸線としてシリンダ軸線を備える円筒形の中央部分である。
【0026】
本発明の上記その他の態様を、以下のような図において詳細に示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】複数本の繊維を備えた繊維バンドの一実施例を示す図である。
図2】一度ねじられた繊維バンドの概略図である。
図3】圧力容器の実施例における本発明による圧力容器を横断面で示す図である。
図4】極部キャップの上面図における、極部キャップの領域での繊維配向の概略図である。
図5】本発明による方法の一実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1には、間隙なしで互いに隣り合って配置された複数本の繊維F、ここではたとえば8本の繊維Fを備えた繊維バンドFBの一実施例が示してあり、これら繊維Fはそれぞれ同じ幅BFになっている。こうした繊維は、たとえばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、又はバサルト繊維である。繊維バンドFB自体は、中央部分の直径の5%及び15%、好ましくは9%~11%の間の全体幅BBを有する。
【0029】
図2には、一度ねじられた繊維バンドFBの概略図が示してあり、繊維Fは、図を明瞭にするために別々の線として示されている。実際に使用される繊維バンドFBでは、繊維F同士の間の空間は存在すべきでない。ここでの、180度まで一度ねじられた繊維バンドFBの場合、繊維バンドFBの個々の繊維Fは、ねじれ部32の箇所で互いに場所が入れ替わる。ここに示すように、個々のねじれ部32は、ここでは繊維バンドFBが180度まで回転されたことを示す。たとえば、180度まで一度ねじられた繊維バンドFBの上部外側の繊維Fは、繊維バンドFBの下部外側の繊維Fになる。これに対応して、上部から2番目の繊維Fは、180度までねじられると下部から2番目の繊維Fになり、これ以降も同様になる。
【0030】
図3には、本発明による圧力容器が横断面で示してあり、この圧力容器は、円筒形の中央部分21であって、中央部分21に沿った対称軸線としてシリンダ軸線ZAを備える中央部分21と、両端部で中央部分21を閉じるドーム形状の2つの極部キャップ22とを備える内側容器2を有する。この場合、一方の極部キャップは、圧力容器1にガスを入れ、また圧力容器1からガスを出すための弁4を備える。内側容器2には、内側容器2を強化するために外側層3が巻き付けられており、この外側層3は、母材に組み込まれて互いの上に配置された繊維Fの複数の積層で作製された繊維複合材料FVMで作製されており、この積層は、複数本の繊維Fで作製された繊維バンドFB(図1及び図2を参照)として、場所依存及び位置依存の繊維配向で内側容器2の上を通っており、積層のうちの少なくともいくつかでは、繊維バンドFBは、シリンダ軸線ZAに対するそれぞれの進入繊維角度FWで中央部分21からドーム形状の極部キャップ22の領域へと進入し、そこで、その巻き方向WRにおける各反転箇所31において、中央部分22の方向に戻るように案内され、繊維バンドFBの少なくとも一部は、極部キャップ22の領域に少なくとも1つのねじれ部32を有する。中央部分21と極部キャップ22の両方での、また半径方向と軸方向に作用する力の両方に対する、外側層3の所望の全体的安定性を得るために、ここでは、外側層3は、極部キャップ22及び中央部分21を含む圧力容器1全体を被覆する複数の螺旋積層と、厚みが同一であるか又は異なる複数の周囲積層との両方を有し、周囲積層は、実質的に中央部分21に巻き付けられ、極部キャップ22の実施例に応じて、任意選択で極部キャップ22の縁部領域22rに巻き付けられる。螺旋積層は、ここでは、たとえばシリンダ軸線ZAに対して60度未満、好ましくは20度未満の小さい繊維角度FWをもつ繊維配向を備えた、軸方向に配向された繊維Fを有する。これとは対照的に、周囲積層の繊維Fは、たとえばシリンダ軸線に対して80度超の繊維角度FWをもつ繊維方向を有する。
【0031】
図4には、極部キャップ22の上面図において、円形ドーム形状の極部キャップ22の領域における繊維配向の概略図が示してある。対応する円筒形中央部分はここでは図示されておらず、この点に関しては図3を参照されたい。この実施例では、すべての繊維バンドFBが極部キャップ22の領域においてねじれ部32を有し、このことは、図を明瞭にするために2つの繊維バンドFBで概略的に示されている。ここに示されているねじれ部32はちょうど180度のねじれであり、図示のねじれ部32は、各繊維バンドFBの反転箇所31に配置されている。さらに、各繊維バンドFBのねじれ部32(ここでの2つの繊維バンドFBは、中央部分21から極部キャップ22への移行部において同じ進入繊維角度FWを有する)は、極部キャップ22の幾何学的中心点22Mを中心とする円33上にねじれ部の機構として配置され、円33の直径33Dは、各進入繊維角度FWにとりわけ依存する。この実施例では、さらに、他の進入繊維角度FBの別の繊維バンドFBの各ねじれ部32は、それぞれ互いに対して同心円状に、また極部キャップ22の中心点22Mを中心とする図示の円33に対して同心円状に位置することになり、このことは、図を明瞭にするためにここでは図示しない。ねじれ部32のため、外側層3の層の厚み3Dは、少なくとも極部キャップ22の中央領域22zでは、材料が積み重なることにより、ねじられた繊維バンドFBのない繊維複合層FVMの厚みよりも厚くなり、好ましくは50%を超えて厚くなる。
【0032】
図5には、本発明による繊維強化圧力容器1を生産するための本発明による方法100の一実施例が示してあり、この方法は、対称軸線ZA、好ましくはシリンダ軸線を備える、回転対称な、好ましくは円筒形の中央部分21、及び中央部分21を閉じるドーム形状の2つの極部キャップ22を備えた内側容器2を用意するステップ110と、複数本の繊維Fで作製された繊維バンドFBを、複数の積層で、場所依存及び位置依存の繊維配向で内側容器2の中央部分21及び極部キャップに巻き付けるステップ120であって、巻付け処理の以下の個々のステップ、すなわち、積層のうちの少なくともいくつかにおいて、極部キャップ22の領域で、中央部分21から、シリンダ軸線ZAに対する各進入繊維角度FWで繊維バンドFBを進入させるステップ130、ねじれ部32を生み出すために、極部キャップ22の領域で、繊維バンドFBの少なくとも一部に関して繊維バンドFBをねじるステップ140、反転巻き方向WRにおける各反転箇所31において、繊維バンドを中央部分22の方向に戻すステップ150、及び母材に組み込まれて互いの上に配置された繊維Fの複数の積層で作製される繊維複合材料FVMで作製される圧力容器1の外側層3が完成するまで、先行する巻付けステップ120、130、140、150を繰り返すステップを有する、巻き付けるステップ120とを有する。この場合、ねじるステップ140は、極部キャップ22の領域において、繊維バンドFBのそれぞれに関してちょうど180度で実施することができる。この場合、ねじるステップ140は、反転箇所31において行われ得る。ねじるステップ140は、同じ進入繊維角度FWの各繊維バンドFBの少なくとも1つのねじれ部32が、極部キャップ22の幾何学的中心点22Mを中心とする円33上にねじれ機構として配置されるように実施することができ、円33の直径330は、各進入繊維角度FWにとりわけ依存し、好ましくは、ねじられたすべての繊維バンドFBのねじれ部32は、極部キャップ22の中心点22Mを中心に互いに対して同心円状に位置するそれぞれの円33上に配置される。この場合、ねじれ部を備える円は、互いの上に位置しないことが好ましい。これにより、第一に、ねじれ部の上に巻き付けられた繊維性材料の積層が、この場合に生じる局所的な過度の厚肉化により、下にある繊維積層との直接的な接触を失うことが防止され、したがって、それらの間の空洞なしに下にある繊維積層の上に位置する。第二に、ねじれ部のこの機構により、ドーム状極部キャップ上に生じた凹型表面プロファイルを狙い通りに埋めることが可能になり、それにより、後続の積層にとって有益な極部キャップの外形を生み出すことが可能になる。
【符号の説明】
【0033】
1 本発明による圧力容器、たとえば圧力容器
2 内側容器
21 内側容器の回転対称な中央部分、たとえば円筒形の中央部分
22 中央部分の上のドーム形状の極部キャップ
22M ドーム形状の極部キャップの幾何学的中心点
22z ドーム形状の極部キャップの中央領域
22r ドーム形状の極部キャップの縁部領域
3 繊維複合材料で作製された外側層
3D 外側層の層の厚み
31 巻き付けられた繊維配向における各繊維の反転箇所
32 極部キャップ強化層における繊維のねじれ
33 ねじれ部の円
33D ねじれ部の円の直径
4 弁
100 本発明による圧力容器の生産方法
110 圧力容器の内側容器を用意するステップ
120 内側容器に繊維バンドを巻き付けるステップ
130 中央部分から極部キャップの領域へと繊維バンドを進入させるステップ
140 極部キャップ領域において繊維バンドの少なくとも一部をねじるステップ
150 先行する巻付けステップを繰り返すステップ
BB 繊維バンドの幅
BF 繊維バンドの各繊維の幅
F 繊維複合材料の繊維
FB 複数本の繊維で作製された繊維バンド
FVM 繊維複合材料
FW 各繊維方向とシリンダ軸線の間の繊維角度、たとえば繊維バンドが中央部分から極部キャップに進入する際の進入繊維角度
ZA 対称軸線、たとえばシリンダ軸線
図1
図2
図3
図4
図5