(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】質量分析のためのスルホキシドベースの試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20221220BHJP
C07D 207/404 20060101ALI20221220BHJP
C07C 317/50 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
G01N27/62 V
C07D207/404
C07C317/50
(21)【出願番号】P 2020513843
(86)(22)【出願日】2018-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2018073812
(87)【国際公開番号】W WO2019048450
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-29
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】カレル,トーマス
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-029068(JP,A)
【文献】再公表特許第2006/080210(JP,A1)
【文献】特表2009-524688(JP,A)
【文献】特開2012-032416(JP,A)
【文献】特開2014-016329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
C07D 207/404
C07C 317/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析において使用するための試薬であって、一般式(I)の化合物:
Z
1-L
1-(CR
1R
2)-S(O)-CR
3H-CH
2-C(-L
2-Z
2)R
4(-L
x-X)
[式中、
Z
1は、少なくとも1つの荷電部分を担持することができる電荷単位であり、
L
1は、結合またはスペーサーであり、
Z
2は、少なくとも1つの荷電部分を担持することができる電荷単位であり、
L
2は、結合またはスペーサーであり、
R
1、R
2、R
3、R
4は、独立して、水素またはC
1~C
3アルキルであり、
Xは、分析物分子と反応することができ、それにより、前記分析物分子との共有結合が形成される反応性基であり、
L
Xは、結合またはスペーサーである]
である、試薬。
【請求項2】
電荷単位Z
1およびZ
2が、少なくとも1つの正に荷電した部分をそれぞれ含む、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
前記正に荷電した部分が、第一級、第二級、第三級または第四級アンモニウム基またはホスホニウム基である部分である、請求項2に記載の試薬。
【請求項4】
前記正に荷電した部分が、10以上のpK
a
を有する、請求項2または3に記載の試薬。
【請求項5】
電荷単位Z
1およびZ
2が、少なくとも1つの負に荷電した部分をそれぞれ含む、請求項1に記載の試薬。
【請求項6】
前記負に荷電した部分が、ホスフェート、スルフェート、スルホネートまたはカルボキシレート基である、請求項5に記載の試薬。
【請求項7】
前記負に荷電した部分が、10以上のpK
b
を有する、請求項5または6に記載の試薬。
【請求項8】
電荷単位Z
1およびZ
2が、同じ電荷を有する、請求項1から
7のいずれかに記載の試薬。
【請求項9】
電荷単位Z
1およびZ
2が、恒久的に荷電されている、請求項1から
8のいずれかに記載の試薬。
【請求項10】
反応性基Xが、
(i)分析物分子における、カルボニル基と反応することができるカルボニル反応性基であって、NH
2-N/O等の隣接するOおよび/もしくはN原子によって引き起こされるα効果によって強化された超求核性N原子、またはジチオール基から選択されてよい、前記カルボニル反応性基X、あるいは
(ii)分析物分子における、チオール基と反応することができるチオール反応性基、あるいは
(iii)分析物分子のアミンと反応することができるアミン反応性基
である、請求項1から
9のいずれかに記載の試薬。
【請求項11】
前記カルボニル基が、アルデヒドもしくはケト基、またはヘミアセタール基であってよいマスクされたカルボニル基である;および/または
前記チオール反応性基がアルケンまたはアルキンである;および/または
前記チオール基が、Cys基である;および/または
前記アミンがアミノ基である
、請求項10に記載の試薬。
【請求項12】
Xが、
(i)ヒドラジン基、
(ii)ヒドラゾン基、
(iii)ヒドロキシルアミノ基、
(iv)ジチオール基、
(v)求電子性アルケン基、
(vi)活性エステル基
から選択されてよい、請求項1から11のいずれかに記載の試薬。
【請求項13】
前記ヒドラジン基がH
2
N-NH-またはH
2
N-NR
1
-基
[ここで、R
1
は、アリール、または、置換されていてもよいC
1~4
アルキルである]である;および/または
前記ヒドラゾン基が、H
2
N-NH-C(O)-またはH
2
N-NR
2
-C(O)-基
[ここで、R
2
は、アリール、または、置換されていてもよいC
1~4
アルキルである]である;および/または
前記ヒドロキシルアミノ基がH
2
N-O-基である;および/または
前記ジチオール基が1,2-ジチオールまたは1,3-ジチオール基である;および/または
前記求電子性アルケン基が、R
1
R
2
C=CR
3
-C(O)-NH-
[ここで、R
1
、R
2
およびR
3
は、独立して、H、ハロゲンまたはC
1~4
アルキルである]である;および/または
前記活性エステル基が、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)もしくはスルホ-NHS、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)基またはイミドエステル-CH
2
-C(=NH
2
+
)-O-CH
3
である、
請求項12に記載の試薬。
【請求項14】
一般式(Ia):
Z
1-L
1-(CR
1R
2)-S(O)-CR
3H-CH
2-C(-L
2-Z
2)R
4(-L
x-X
1)
[式中、
Z
1は、少なくとも1つの正に荷電した部分を含み、
L
1は、スペーサーであり、
Z
2は、Z
1に等しく、
L
2は、スペーサーであり、
R
1、R
2、R
3、R
4は、水素であり、
X
1は、アミンと反応することができる、アミン反応性基であり、
L
Xは、結合またはスペーサーである]
のものである、請求項1から
13のいずれか一項に記載の試薬。
【請求項15】
前記正に荷電した部分が、第一級、第二級、第三級または第四級アンモニウム基であり;および/または
前記L
1
が、-C(O)-NH-(CH
2
)
n
-であるスペーサーであり、nは、1から10までの整数であり;および/または
前記L
2
が、-NH-C(O)-(CH
2
)
m
-であるスペーサーであり、mは、2から10までの整数であり;および/または
前記アミンが分析物分子のアミノ基であり、ここで分析物分子はペプチドであってよい、
請求項14に記載の試薬。
【請求項16】
一般式(Ib):
【化1】
のものである、請求項1から
15のいずれか一項に記載の試薬。
【請求項17】
アイソトポログである、請求項1から
16のいずれか一項に記載の試薬。
【請求項18】
D、
13
C、
15
Nおよび
18
Oから選択される少なくとも1つの同位体を含むアイソトポログである、請求項17に記載の試薬。
【請求項19】
同重である、請求項1から
18のいずれか一項に記載の少なくとも2つのアイソトポログ試薬を含む、組成物またはキット。
【請求項20】
分析物分子の質量分析決定のための使用であって、
請求項1から18のいずれか一項に記載の試薬の使用、または請求項19に記載の組成物もしくはキットの使用
である、前記使用。
【請求項21】
前記質量分析決定が、三連四重極デバイスにおけるものであってよいタンデム質量分析決定を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
請求項1から
18のいずれか一項に記載の一般式(I)の化合物および分析物分子の反応によって形成される、共有結合付加体。
【請求項23】
一般式(II)の化合物:
Z
1-L
1-(CR
1R
2)-S(O)-CR
3H-CH
2-C(-L
2-Z
2)R
4-(L
x-X’)-T
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(I)における基Xの、分析物分子Tとの反応から生じる部分であり、
Z
1、L
1、Z
2、L
2、L
x、R
1、R
2、R
3およびR
4は、請求項1から
18のいずれか一項で定義されている通りである]
である付加体であって、
恒久的な正または負の電荷を担持し得る、請求項
22に記載の付加体。
【請求項24】
分析物分子Tが、アミノ基含有ペプチドである、請求項
22または
23のいずれか一項に記載の付加体。
【請求項25】
分析物分子の質量分析決定のための、請求項
22から
24のいずれか一項に記載の付加体の使用。
【請求項26】
前記質量分析決定が、三連四重極デバイスにおけるものであってよいタンデム質量分析決定を含む、請求項25に記載の付加体の使用。
【請求項27】
分析物分子の定量的質量分析決定のための方法であって、
(a)比較するための少なくとも2つの分析物試料を提供するステップと、
(b)各提供された試料中の前記分析物分子を、請求項1から
16のいずれか一項に記載の一般式(I)の試薬と共有結合的に反応させ、それにより、各試料について、一般式(I)の異なるアイソトポログ試薬が使用され、それにより、異なる試料に使用される前記アイソトポログ試薬が、互いに同重であり、
それにより、各試料中で前記分析物分子および前記試薬の付加体が形成されるステップと、
(c)前記分析物分子および前記同重試薬の付加体を含む少なくとも2つの試料を組み合わせるステップと、
(d)ステップ(c)からの組み合わせた付加体を、質量分析解析に供するステップと
を含
む
、方法。
【請求項28】
質量分析解析ステップ(d)が、
(i)前記組み合わせた同重付加体のイオンを質量分析解析の第一段階に供し、
それにより、前記組み合わせた付加体のイオンが、それらの質量/電荷(m/z)比に従って特徴付けられること、
(ii)前記組み合わせた付加体イオンの断片化を引き起こし、
それにより、同じ電荷を有するレポーターイオンおよび相補的イオンが各付加体イオンから産出され、
それにより、非同重レポーターイオンおよび非同重相補的イオンが、比較される各当初提供された分析物試料に提供されること、
(iii)ステップ(ii)の非同重レポーターイオンおよび非同重相補的イオンを、質量分析解析の第二段階に供すること、
(iii)ステップ(ii)のレポーターイオンの相対的定量化、ならびに
(iv)ステップ(ii)の相補的イオンの相対的定量化
を含む、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド等の分析物分子の質量分析決定において好適なスルホキシドベースの試薬ならびにそのような試薬および分析物分子の付加体、ならびに前記試薬および付加体の適用に関する。さらに、本発明は、分析物分子の質量分析決定のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
わずか数時間でヒトゲノミクス研究を可能にする新たなゲノム配列決定法の開発後[1]、今日では、今や細胞および組織の完全なプロテオームの調査を可能にする新規質量分析方法の出現を我々は目の当たりにしている[2-4]。
【0003】
プロテオームは、試料中に存在するすべてのタンパク質の収集物として定義され、それ故、プロテオームは、細胞型ごとにおよび異なる組織において、劇的に異なる[5]。
したがって、プロテオミクスデータは、細胞の状況および潜在的に存在する病状についての指紋型情報を提供する[6]。生体系のプロテオームを深く洞察するためには、異なる試料における個々のタンパク質のレベルについての定量的情報を取得することが必要である。今日では、これは質量分析を用いて実施されている。無傷のタンパク質の厳密な定量化は困難であるため、方法は、対応するペプチドを得るためにプロテオームの消化(トリプシン処理)を必要とする。これらのペプチドの定量化のために、代謝標識化[7-8]、無標識定量化[9]または同重標識化[10-11]等の方法が実施される。
【0004】
同重標識化は、ペプチド存在度における小さな差異でさえも明らかにすることができ、多くの試料が1つの測定で比較され得ることから、最も一般的に使用される定量化方法の1つである[12]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特に、低い存在度を有するペプチドのまたは少量の材料(生検組織等)のみが利用可能である場合の、MSによる定量的解析のために、MS解析方法の感度を増大させる必要性が依然としてある。
【0006】
現在利用可能なMS試薬の主な欠陥は、それらの低い開裂効率であり、これは、定量的解析に利用可能なレポーターイオン、およびしたがって、相補的イオンの数を低減させる[13]。加えて、レポーターおよびバランサー単位の間の開裂は、相補的イオンペプチドの電荷状態を低減させ、これが、MS不可視中性種の形成につながり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
故に、本発明は、生物学的試料におけるペプチド等の分析物分子の極めて感度の高い決定を可能にするMSにおいて使用するための、新規スルホキシドベースの試薬に関する。さらに、試薬の同位体修飾されたバージョンの使用は、比較研究のための正確な定量的MSデータを取得することを可能にする。特に、本発明の試薬は、複合混合物におけるペプチドの厳密な定量化を可能にするプロテオミクスにおいて使用されてよい。
【0008】
故に、本発明の第一の態様は、一般式(I):
Z1-L1-(CR1R2)-S(O)-CR3H-CH2-C(-L2-Z2)R4(-Lx-X)
[式中、
Z1は、少なくとも1つの荷電部分を担持することができる電荷単位であり、
L1は、結合またはスペーサーであり、
Z2は、少なくとも1つの荷電部分を担持することができる電荷単位であり、
L2は、結合またはスペーサーであり、
R1、R2、R3、R4は、独立して、水素またはC1~C3アルキルであり、
Xは、分析物分子と反応することができ、それにより、分析物分子との共有結合が形成される反応性基であり、
LXは、結合またはスペーサーである]
のものである、質量分析のための試薬として好適な化合物である。
【0009】
特定の態様において、化合物(I)は、アイソトポログ、すなわち、化合物の同位体的に中性の原子とも称される1つまたは複数の本明細書における主要な同位体、例えば、1H、12C、14Nおよび/または16O原子が、少数の安定同位体、すなわち、D、13C、15Nおよび18O等の安定同位体によって置きかえられた化合物として存在してよい。特に好ましいのは、13Cおよび15Nである。
【0010】
本発明は、少なくとも1つの化合物(I)、および特に、好ましくは同重(isobaric)であるそのような化合物(I)の複数の同位体的に異なる種を含む、試薬組成物または試薬キットにも関する。
【0011】
本発明のさらなる態様は、分析物分子の、特に、ペプチドまたはタンパク質等のアミノ基を含む分析物分子の質量分析決定のための、化合物(I)または少なくとも1つの化合物(I)を含む組成物もしくはキットの使用である。
【0012】
本発明のまたさらなる態様は、化合物(I)および分析物分子の反応によって形成される共有結合付加体である。付加体は、一般式(II)の化合物:
Z1-L1-(CR1R2)-S(O)-CR3H-CH2-C(-L2-Z2)R4-(Lx-X’)-T
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(I)における基Xの、分析物分子Tとの反応から生じる部分であり、
Z1、L1、Z2、L2、Lx、R1、R2、R3およびR4は、請求項1から10のいずれか一項で定義されている通りである]
であってよく、ここで、付加体は、恒久的な正または負の電荷を担持し得る。
【0013】
式(I)の化合物および分析物分子、特にペプチド部分を含む分析物分子の付加体は、質量分析決定に使用され得る。付加体は、試料中に存在する分析物分子を化合物(I)と反応させることによって生成され得る。しかしながら、付加体は、校正物質および/または標準物質として使用するための純物質として提供されてもよい。
【0014】
本発明のまたさらなる態様は、試料中における分析物分子の質量分析決定のための方法であって、
(a)分析物分子を本明細書において定義される通りの式(I)の化合物と共有結合的に反応させ、それにより、分析物分子および化合物(I)の共有結合付加体が形成されるステップと、
(b)ステップ(a)からの付加体を質量分析解析に供するステップと
を含む、方法である。
【0015】
本発明はさらに、MSによるおよび特に定量的MSによる分析物分子の決定に関する。分析物分子は、本発明の化合物(I)における反応性基Xと共有結合を形成することができる任意の物質であってよい。
【0016】
例えば、分析物は、ペプチド、タンパク質、炭水化物、アミノ酸、脂肪酸、脂質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸ならびに小分子代謝物および補因子を含む他の生体分子から選択される生体分子、ならびにそれらの薬物、農薬、毒素または代謝物であってよい。
【0017】
概して、分析物分子は、生物学的、臨床的または環境的試料、例を挙げると、体液、例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液等、組織または細胞抽出物等中に存在し得る。本発明の一部の実施形態において、細胞または組織の完全溶解物は、さらに精製することなく使用され得る。しかし、当然ながら、分析物分子は、精製または部分的に精製された試料、例えば、精製または部分的に精製されたタンパク質混合物または抽出物である試料中に存在し得る。
【0018】
とりわけ好ましい実施形態によれば、分析物分子は、ペプチドまたはタンパク質、特に、複合試料に含まれるペプチドまたはタンパク質である。例えば、細胞または組織の完全なプロテオームは、1つのMS測定内で、目的のペプチドまたはタンパク質について解析され得る。好ましくは、単離後、プロテオーム、すなわち試料中のすべてのタンパク質の収集物が消化されて、より小さいペプチドを提供した後、本明細書において記述される試薬で標識化される。
【0019】
特に好ましい実施形態において、分析物分子は、化合物(I)の反応性基Xと共有結合を形成することができる、アミノ基を有するタンパク質、ペプチドまたは物質である。そのようなアミノ基は、ペプチド鎖のN-末端アミノ基および/または側鎖の、例としてリジンのアミノ基であってよい。
【0020】
別の実施形態によれば、分析物分子は、Cys含有ペプチド等の、化合物(I)の反応性基Xと共有結合を形成することができる少なくとも1つのチオール(thiole)を含む。
【0021】
当然ながら、解析されるペプチドまたはタンパク質は、グリコシル化、アシル化等の翻訳後修飾を含んでもよい。翻訳後修飾によってタンパク質に添加されるそのような残基も、本発明の試薬によって標的化され得る。
【0022】
さらに、分析物分子は、炭水化物、または炭水化物部分、例えば糖タンパク質もしくはヌクレオシドを有する物質であってもよい。例えば、分析物分子は、単糖、例を挙げると、リボース、デオキシリボース(desoxyribose)、アラビノース、リブロース、グルコース、マンノース等、またはオリゴ糖、例えば、二糖、例を挙げると、スクロース、マルトースもしくはラクトースまたは三糖もしくは四糖および多糖、あるいはそのような単糖、オリゴ糖または多糖部分を含む物質であってよい。
【0023】
分析物分子は、化合物(I)の反応性基Xと共有結合を形成することができる、カルボニル基、例えばアルデヒドもしくはケト基、またはマスクされたアルデヒドもしくはケト基、例えばヘミアセタール基、特に環式ヘミアセタール基を含んでよい。分析物分子は、化合物(I)との反応の前に、アルデヒド、ケトまたはヘミアセタール基に変換され得る、アセタール基を含んでもよい。
【0024】
本発明の化合物(I)は、分析物分子と反応することができ、それにより、分析物分子との共有結合が形成される、反応性基Xを含む。好ましい実施形態において、基Xは、
(i)カルボニル基を有する任意の種類の分子、例えば炭水化物分子と反応することができる、カルボニル反応性基、
(ii)チオール基を有する任意の種類の分子、例えばCys含有ペプチドと反応することができる、チオール反応性基、または
(iii)アミノ基を有する任意の種類の分子、例えばアミノ基含有ペプチドと反応することができる、アミン反応性基
から選択される。
【0025】
とりわけ好ましいのは、アミン反応性基である。
カルボニル反応性基は、隣接するOもしくはN原子NH2-N/Oを介するα効果によって強化された超求核性N原子、またはジチオール分子のいずれかを有してよい。これは、
(i)ヒドラジン基、例えばH2N-NH-またはH2N-NR1-基
[ここで、R1は、アリール、または、例えばハロ、ヒドロキシルおよび/もしくはC1~3アルコキシで場合により置換されている、C1~4アルキル、特にC1もしくはC2アルキルである]、
(ii)ヒドラゾン基、例えばH2N-NH-C(O)-またはH2N-NR2-C(O)-基
[ここで、R2は、アリール、または、例えばハロ、ヒドロキシルおよび/もしくはC1~3アルコキシで場合により置換されている、C1~4アルキル、特にC1もしくはC2アルキルである]、
(iii)ヒドロキシルアミノ基、例えばH2N-O-基、
(iv)ジチオール基、特に1,2-ジチオール基または1,3-ジチオール基
から選択されてよい。
【0026】
当然ながら、上述した通りのヒドラジンまたはヒドロキシルアミノ基は、分析物分子において存在する他の求電子性基と反応するために使用されてもよい。
チオール反応性基は、例えば、求電子性アルケン基、例えばR1R2C=CR3-C(O)-NH-であってよく、ここで、R1、R2およびR3は、独立して、H、ハロゲンまたはC1~4アルキル、好ましくはHである。さらなるチオール反応性剤は、マレイミド、ハロゲン化アルキルまたはハロアセトアミド、特にヨードアセトアミドであってよい。
【0027】
第一級または第二級アミン、例を挙げると、ペプチドまたはタンパク質のN-末端アミノ基、および例えばメチル化されたリジン側鎖からのメチル化アミンと、化学結合を形成することができる多数のアミノ反応性基がある。故に、本発明によれば、「アミノ反応性基」は、アシルアジド、イソチオシアネート、イソシアネート、NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル(pentafluorphenylesters)、ヒドロキシベンゾトリアゾールエステル、塩化スルホニル、グリオキサール、エポキシド、オキシラン、カーボネート、ハロゲン化アリール、イミドエステル、カルボジイミド、無水物およびフルオロフェニルエステルを含む。
【0028】
しかしながら、好ましい実施形態によれば、本明細書において使用される「アミノ反応性」基は、好ましくは、活性エステル基、例を挙げると、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)もしくはスルホ-NHS、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)基またはイミドエステル-CH2-C(=NH2
+)-O-CH3である。特に好ましいのは、NHSである。
【0029】
化合物(I)は、少なくとも1つの荷電部分をそれぞれ担持することができる電荷単位Z1およびZ2を有し、すなわち、電荷単位Z1およびZ2は、例えば第四級アンモニウム基を使用する場合、恒久的に荷電されてよく、またはプロトン化(正の電荷)もしくは脱プロトン化(負の電荷)によって生成されてよい。
【0030】
好ましくは、Z1およびZ2は等しく、かつ/またはZ1およびZ2は同じ電荷を有する。
特定の実施形態において、必ずしもそうとは限らないが、化合物(I)は、少なくとも1つの荷電部分、すなわち、実質的に中性条件下、荷電状態で主に存在する部分をそれぞれ含む、電荷単位Z1およびZ2を有する。
【0031】
例えば、電荷単位Z1およびZ2は、
(i)特に10以上のpKaを有する、より特定すれば12以上のpKaを有する、少なくとも1つの正に荷電した部分、例を挙げると、第一級、第二級、第三級または第四級アンモニウム基またはホスホニウム基、あるいは
(ii)特に10以上のpKbを有する、より特定すれば12以上のpKbを有する、少なくとも1つの負に荷電した部分、例を挙げると、ホスフェート、スルフェート、スルホネートまたはカルボキシレート基
をそれぞれ含んでよい。
【0032】
好ましい実施形態によれば、Z1およびZ2は、いずれもtert-アミノ基、すなわち-NR1R2であり、R1およびR2は、好ましくは、C1~C5-アルキルであるか、またはN等の1もしくは2個のさらなるヘテロ原子を場合により含む5もしくは6員の環式アルキル環を形成する。R1およびR2等は、独立して選択されてよいが、好ましくは、R1およびR2は等しい。とりわけ、R1およびR2は、ジメチル-アミノおよびジエチル-アミノから選択されるか、または一緒になってピペリジンまたはピロリジン(pyrolidine)を形成する。
【0033】
Z1およびZ2のそのようなプロトン化は、本発明の試薬の合成の最終ステップとして行われることができ、プロトン化された試薬は貯蔵されてよい。しかしながら、Z1およびZ2は、本発明の試薬の分析物分子との反応後であっても、より好ましいMS解析の直前に、気相においてプロトン化されてもよい。Z1およびZ2のプロトン化により、試薬開裂中における中性種の形成が回避される。
【0034】
一般式(I)における基L1、L2およびLxは、独立して、結合、すなわち共有結合、あるいは、スペーサー、すなわち、1から最大で通常4、6、8もしくは10個までまたはさらに多くの原子の鎖長、例えば少なくとも1個のヘテロ原子、特にNおよびまたはカルボニル基を場合により含むC原子を有する、線状または分枝鎖状スペーサーを表す。好ましくは、L1およびL2は、鎖長に関して等しく、場合によりヘテロ原子および/またはカルボニル基を含んでいたが、同位体組成により異なる場合がある、すなわち、L1およびL2は、互いにアイソトポログであってよい。
【0035】
とりわけ好ましい実施形態によれば、L1および/またはL2基は、-C(O)-NH-(CH2)nおよび/または-NH-C(O)-(CH2)m-であり、mおよびnは、1から10の間の整数である。
【0036】
好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、ペプチドまたはタンパク質分子の決定のための試薬として好適であり、一般式(Ia)の化合物:
Z1-L1-(CR1R2)-S(O)-CR3H-CH2-C(-L2-Z2)R4(-Lx-X1)
[式中、
Z1は、少なくとも1つの正に荷電した部分、例を挙げると、第一級、第二級、第三級または第四級アンモニウム基、特にプロトン化されたtert-アミノ基、例を挙げると、プロトン化されたジメチル-アミノおよびジエチル-アミノ、ピペリジン(piperidin)またはピロリジン(pyrolidin)を含み、
L1は、スペーサー、特に-C(O)-NH-(CH2)n-であり、nは、1から10までの整数であり、ここで、nは、好ましくはmであり、
Z2は、Z1に等しく、
L2は、スペーサー、特に-NH-C(O)-(CH2)m-であり、mは、2から10までの整数であり、
R1、R2、R3、R4は、水素であり、
X1は、アミン、例えば、ペプチド等の分析物分子のアミノ基と反応することができる、アミン反応性基であり、
LXは、結合またはスペーサーである]
であってよい。
【0037】
X1は、好ましくは、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、スルホ-NHS、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)またはイミドエステル-CH2-C(=NH2
+)-O-CH3から選択される。
【0038】
本発明に従う化合物の具体例は、式(Ib)の化合物:
【0039】
【0040】
である。
本発明のさらなる態様は、アイソトポログである式(I)の化合物に関する。用語「アイソトポログ」は、主要な同位体の少なくとも1つが、それぞれの主要な同位体の分子質量とは異なる分子質量を有するそれぞれの元素の安定な少数の同位体によって置きかえられている、化合物(I)に関する。故に、得られる(I)のアイソトポログは、同位体的に中性と称されるここでの主要な同位体からなるそれぞれの化合物の分子質量とは異なる分子質量を有する。分子質量におけるこの差異は、同位体的に中性の化合物およびそのアイソトポログの質量分析による差別化を可能にする。好ましい実施形態において、アイソトポログは、D(Hの置きかえとして)、13C(12Cの置きかえとして)、15N(14Nの置きかえとして)および18O(16Oの置きかえとして)から選択される少なくとも1つの同位体を含む。
【0041】
アイソトポログにおいて、それぞれの同位体的に中性の原子の1つまたは複数および最大ですべては、同位体によって置きかえられてよい。それにより、単一化合物の多数の異なるアイソトポログが提供され得る。
【0042】
例えば、上記で示した通りの式(Ia)または(Ib)の化合物において、L1スペーサー、それぞれ-C(O)-NH-(CH2)n[好ましくはn=mである]および/またはL2スペーサー、それぞれ-NH-C(O)-(CH2)m-[好ましくはm>1である]における1つまたは複数またはすべての14Nおよび12C原子は、15Nまたは13Cによって置きかえられてよい。
【0043】
化合物(I)は、同位体的に中性の化合物として、またはそれぞれの同位体的に中性の化合物からMSで区別可能であるアイソトポログとして、または同じ化合物の複数の異なるMSで区別可能なアイソトポログを含む組成物として、または同じ化合物の複数の異なるMSで区別可能なアイソトポログを別個の形態で含むキットとして、提供されてよい。試薬の複数の異なるMSで区別可能なアイソトポログを含む組成物またはキットは、後述される通りの多目的適用に特に好適である。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、組成物またはキットは、同重である、本明細書において記述される通りの少なくとも2つのアイソトポログ試薬を含む。例えば、式(I)に従う第一の試薬Aには、
15Nまたは
13C等の重い安定同位体がZ
1またはL
1に導入される。Z
2およびL
2は変化しないままである。第二の試薬Bにおいて、Z
1およびL
1は変化しないままであるが、試薬Aのように同じ同位体がZ
2またはL
2に導入される。得られる作用物質AおよびBは、同重である(
図1も参照)。
【0045】
式(Ib)に従う試薬は、15Nまたは13C等の最大7つの重い安定同位体の、レポーターを生成する構造への、Δm/z=1での導入を、同重性(isobaricity)を保ちながら可能にする。
【0046】
試薬の同重の特徴により、2つの試料に由来する同じ分析物分子は、付加体としてMS分離中に同じ保持時間を特色とすることになる。同時に質量分析計に入ることで、異なる試料に由来し、異なるが同重な本発明の試薬で標識化された付加体は、MSスクリーンにおける1つの区別不可能なm/z値に至る。これは、MS2のための単一の前駆体m/zを選択することによって、質量分析ベースの同定を実施することを可能にする。
【0047】
故に、1から7つの安定同位体が導入されていながら同重である、式(Ib)の試薬を含むキットまたは組成物は、本発明の別の好ましい実施形態を表す。そのような設計は、1つの単一MS測定で並行して最大8つの異なる試料の質量分析定量化を可能にする。
【0048】
そのアイソトポログを含む式(I)の好ましい化合物の合成は、実施例の項および
図4において後述される。
本発明のまたさらなる態様は、分析物分子の質量分析決定のための、特に上述した通りのペプチド分析物分子の決定のための、式(I)の化合物の使用に関する。この使用は、化合物(I)との反応を利用する分析物分子の誘導体化を伴い、それにより、共有結合付加体が形成され、その後、MSによる解析に供される。
【0049】
MSによるペプチド分子の定量的決定のための試薬としての化合物(I)の使用を伴う一般的なスキームが、
図1に示される。特に、本発明に従う試薬(式1b;SOT)が、先行技術から公知の試薬と比較される。
【0050】
付加体が正の電荷を含む場合、MS検出は正モードで発生する。付加体が負の電荷を有する場合、検出は負のMSモードで実施されることになる。
質量分析決定は、クロマトグラフ法、例を挙げると、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、特にHPLC、および/またはイオン移動度ベースの分離技術を含む、追加の解析方法によって組み合わせられてよい。
【0051】
本発明のさらなる態様は、上述した通りの一般式(I)の化合物および分析物分子の反応によって形成される付加体である。この反応を利用して、化合物(I)と分析物分子との間の共有結合が形成される。
【0052】
好ましい実施形態において、付加体は、一般式(II)の化合物:
Z1-L1-(CR1R2)-S(O)-CR3H-CH2-C(-L2-Z2)R4-(Lx-X’)-T
[式中、
Tは、分析物分子であり、
X’は、化合物(I)における基Xの、分析物分子Tとの反応から生じる部分であり、
Z1、L1、Z2、L2、Lx、R1、R2、R3およびR4は、上記で定義されている通りである]
であり、ここで、付加体は、恒久的な正または負の電荷を担持し得る。
【0053】
MS検出のために、式(II)の付加体化合物は、正または負の電荷を担持する。この電荷は、好ましくは、化合物(I)の電荷単位Z1およびZ2によって、好ましくはZ1およびZ2のプロトン化によって提供される。しかしながら、化合物(I)における電荷の存在は、必要ではなく、なぜなら、例えば、分析物分子自体が電荷を担持する場合および/または付加体にプロトン化もしくは脱プロトン化を利用して電荷が提供され得る場合、他の手段によって電荷が提供され得るためである。
【0054】
2つの電荷単位Z1およびZ2、好ましくはプロトン化されたtert-アミノ基の存在は、より高い電荷状態につながり、これが、高い分析物分子/付加体断片化およびそれ故より正確な分析物分子同定をもたらす。その上、2つの荷電単位Z1およびZ2の存在は、付加体開裂/断片化中における中性種の形成を回避する。増大した電荷密度は、検出および断片化を容易にする。
【0055】
本発明のまたさらなる態様は、分析物分子の質量分析決定のための付加体化合物(II)の使用である。特に好ましい実施形態において、質量分析決定は、より特定すれば三連四重極デバイスにおけるタンデム質量分析決定を含み、ここで、分析物付加体の分子イオンは、例えば衝突誘起解離(CID)により、断片化に供される。
【0056】
断片化中に、Z
1およびL
1を含むレポーターイオンに加えて、相補的イオンであるバランサー-付加体コンジュゲート(conjugat)が、Z
2およびL
2を含むバランサーを持つアーチ付加体(
図1も参照)から生成される。結合したバランサーは、同重標識化試薬からの明確な同位体パターンを保持し、故に、相補的イオンは、定量化も可能にする。これは、レポーターイオンを目的のレポーターシグナルから区別不可能にする共溶出ペプチドが、シグナルを妨害することができないという利点を提供する。望ましくは、レポーターイオン解析に基づく正確な定量化を妨げている速度ひずみの公知の問題は、このようにして克服され得る。
【0057】
一実施形態において、付加体化合物(II)は、解析される試料中に存在する分析物分子の、試料に添加された化合物(I)との反応によって生成され得る。
さらなる実施形態において、付加体化合物(II)は、校正物質としておよび/または標準物質として使用するための、純物質としても提供され得る。校正物質としての付加体化合物(II)の使用は、具体的な分析物分子の検量線を生成することを伴い得、ここで、異なる公知の量の付加体化合物(II)がMS解析に供され、試料中に存在する未知の量の分析物分子の正確な定量的決定を可能にするために、それぞれのシグナル強度が測定される。
【0058】
本発明のまたさらなる態様は、分析物分子の定量的質量分析決定のための方法であって、
(a)比較するための少なくとも2つの分析物試料を提供するステップと、
(b)各提供された試料中の分析物分子を、本明細書において定義される通りの一般式(I)の試薬と共有結合的に反応させ、それにより、各試料について、一般式(I)の異なるアイソトポログ(isotopologous)試薬が使用され、それにより、異なる試料に使用されるアイソトポログ試薬が、互いに同重であり、
それにより、各試料中で分析物分子および試薬の付加体が形成されるステップと、
(c)分析物分子および同重試薬の付加体を含む少なくとも2つの試料を組み合わせるステップと、
(d)ステップ(c)からの組み合わせた付加体を、質量分析解析に供するステップと
を含み、
質量分析解析ステップ(d)が、好ましくは、
(i)組み合わせた同重付加体のイオンを質量分析解析の第一段階に供し、
それにより、組み合わせた付加体のイオンが、それらの質量/電荷(m/z)比に従って特徴付けられること、
(ii)組み合わせた付加体イオンの断片化を引き起こし、
それにより、同じ電荷を有するレポーターイオンおよび相補的イオンが各付加体イオンから産出され、
それにより、非同重レポーターイオンおよび非同重相補的イオンが、比較される各当初提供された分析物試料に提供されること、
(iii)ステップ(ii)の非同重レポーターイオンおよび非同重相補的イオンを、質量分析解析の第二段階に供すること、
(iii)ステップ(ii)のレポーターイオンの相対的定量化、ならびに
(iv)ステップ(ii)の相補的イオンの相対的定量化
を含む、方法に関する。
【0059】
当然ながら、ステップ(a)の分析物試料の1つは、標準または参照試料であってよい。このような手法で、1つの未知の試料中における分析物の量が決定され得る。しかしながら、本発明の方法によれば、複数の試料の同じ分析物が、1つのMS測定内で定量化されることもでき、異なる試料の分析物含有量が比較されることもできる。
【0060】
本発明は、対象、好ましくはヒト対象についての診断および/または予後情報を提供する等、臨床適用に好適である。具体的な適用は、細胞または組織のプロテオームにおける変更に関連する、それに付随するまたはそれによって引き起こされる疾患の診断、例えば、がん等の過剰増殖性疾患の診断、例えば、腫瘍の攻撃性および侵襲性の決定、血小板の特徴付けおよび肝線維症のレベルの測定、抗体の特徴およびT細胞等の免疫細胞の特徴の調査である。概して、試薬(I)およびそのアイソトポログは、細胞および/または組織における特異的タンパク質またはペプチドの存在およびレベルについての定量的情報を取得するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】
図1Aは、定量的プロテオミクスについての同重標識化実験の図である。試料は、試薬1または2のアイソトポログで個々に標識化され、LC-MS研究のために組み合わせられる。気相における断片化は、相対的定量化のためのレポーターおよび相補的イオンを産出する。レポーターイオン比は、共単離ペプチド(紫色、
*)によってひずむ。相補的イオンクラスターは、そのようなひずみなしに解析され得る。
図1Bは、現在使用されているTMT(1)試薬の図である。断片化は、バランサーに負の電荷を導入し、相補的イオンにおける全体的な電荷状態を低減させる。
図1Cは、相補的イオンにおけるすべての電荷を保持して断片化を容易にする電荷中性断片化を用いる、この研究において報告されるスルホキシドタグ(SOT、2)の図である。
【
図2】
図2Aは、ペプチドにおけるTMT1およびSOT2の間の断片化効率の比較の図である。28%HCDの正規化された衝突エネルギーにおいて、SOT標識化ペプチド断片はより容易に、高いレポーターイオンシグナルを産出する。タグ=反応した試薬。
図2Bは、MS
2実験において観察されたレポーターイオンSOT
180相対強度の統計的解析の図である。レポーターイオンは、容易なレポーターイオン定量化を可能にする優れた視認性を呈する。
図2Cは、TMT(1)またはSOT(2)二重で標識化された前駆体ペプチドの電荷状態分布の図である。SOT試薬を使用することにより、電荷状態が高くなるほど存在度が高くなり、これは、より高い電荷密度によるより効率的な断片化につながるはずである。
【
図3】
図3Aは、相補的イオンクラスターの形成につながる、無傷の標識(レポーター+バランサー)のいずれかを含有するまたはレポーターイオンの喪失を示すすべての同定された断片イオン(67720)の比率の図である。
図3Bは、同定されたペプチド種の統計的解析の図である。平均して、各ペプチドは、15の個々の相補的イオンを形成し、これは、7~8つの相補的イオンクラスターをもたらす。無傷の未開裂の標識を含有するペプチド断片の数は、信頼性の高いペプチド同定を確実にする。
図3Cは、レポーターイオン(赤色)、7つの相補的イオンクラスター(橙色)および同定に使用される断片イオン(灰色)を描写する、標識化ペプチドEMLPVLEAVAK
4+のMS
2スペクトル例の図である。
【
図4】
図4Aは、本発明の試薬2ならびにアイソトポログ2
179および2
180の描写の図である。
図4Bは、a)3-(ジメチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩、NEt
3、HOBt、60℃、2時間、85%;b)インサイチュで2ステップにわたりi)TCEP
*HCl、NaHCO
3、H
2O/DMF(4:1)、室温、10分;ii)ブロモ酢酸ベンジル、室温、2時間、95%;c)MeOH中10%ギ酸、100wt%Pd黒、40℃、2時間、81%;d)N,N’-ジメチルエタン-1,2-ジアミン、DIPEA、PyBOP、DMF、40℃、1時間、73%;e)LiOH、MeOH/H
2O(2.5:1)、室温、1時間、100%;f)pH=2、mCPBA、H
2O、室温、20分、75%;g)NHS-TFA、ピリジン、DMF、室温、2時間、35%の図である。179Daおよび180Daは、生成されたレポーターイオンの分子量である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
【実施例】
【0063】
1.序論
2つの試料のプロテオームを単離し、消化し、ペプチドを、TMT1等の同重標識化試薬(
図1B)または本発明の標識化試薬2(
図1C)と反応させる。
【0064】
次に、調製された誘導体化ペプチド混合物を合わせ、混合物をHPLC-MS
[14]またはさらにはCE-MS
[15-16]によって解析する。
分離中に、2つの試料(
図1における青色および赤色)に由来する同じペプチドは、標識の同重の特徴により、同じ保持時間を特色とすることになる。これらは、その結果、同時に質量分析計に入ることになり、完全MS走査における1つの区別不可能なm/z値に至る。これは、MS
2のために単一の前駆体m/zを選択することにより、質量分析ベースの同定を実施することを可能にする。同重標識の開裂は、現在2つの異なるレポーターイオン(Δ、
図1A)を提供しており、これは、相対的定量化を可能にする。
【0065】
レポーターイオンに加えて、相補的イオンであるバランサー-ペプチドコンジュゲートも各ペプチドから生成される。結合したバランサーは、同重標識化試薬からの明確な同位体パターンを保持するため、相補的イオンは、定量化も可能にする[13]。
【0066】
これは、レポーターイオンを目的のレポーターシグナルから区別不可能にする共溶出ペプチド(紫色)が、シグナルを妨害することができないという利点さえも有する。速度ひずみとして公知であるこの問題は、多くの場合、レポーターイオン解析に基づく正確な定量化を妨げる[17]。
【0067】
現在利用可能な試薬の欠陥は、それらの低い開裂効率であり、これは、解析に利用可能なレポーターイオン、およびしたがって相補的イオンの数を低減させる。
加えて、レポーターおよびバランサー単位の間の開裂は、相補的イオンペプチドの電荷状態を低減させ、これが、MS不可視中性種の形成につながり得る。
【0068】
2.結果および考察
ここで、本発明者らは、手際よくかつ高収率で断片化する新たなスルホキシドタグ試薬2(SOT、
図1)の開発を報告する。レポーターおよび相補的イオンの両方についての強い信号は、気相におけるスルホキシド断片化に基づいて生成される。重要なことに、試薬は、2つの塩基性tert-アミノ基を特色とし、これは、気相においてプロトン化される。これは、試薬開裂中における中性種の形成を回避する。対照的に、これは、電荷密度をさらに増大させ、これが検出および断片化を容易にする。SOT試薬2は、原理上、最大7つの重い安定同位体の、レポーターを生成する構造への、Δm/z=1での導入を、同重性を保ちながら可能にする。この設計は、1つの単一測定で並行して8つの異なる試料の質量分析定量化を可能にするために選択された。
【0069】
本発明の試薬2および2つの同重同位体誘導体(2
179および2
180)の合成は、異なるレポーターイオン分子量(179Daおよび180Da)を特色とし、
図4に示される(実施例の項目4も参照)。合成は、ホモシスチン二量体3のメチルエステルで出発し、これは、最初にジメチルアミノプロピオン酸でビス-アミド4に変換される。ジスルフィドの還元およびブロモ酢酸ベンジルによるチオールのアルキル化により、重要中間体5を得る。ベンジルエステルの6への開裂および6の1,1-ジメチルエチレンジアミンとの反応により、ビスアミド7を得る。7から8におけるメチルエステルの鹸化、スルフィドのスルホキシド9への酸化、および酸の変換により、試薬2を活性エステルとして提供する。必要とされるアイソトポログにアクセスするために、本発明者らは、第二の合成において、ジメチルアミノプロピオン酸を、1つのメチル基が
13C原子を担持する同じ化合物10によって置きかえた(SI)。第三の合成において、本発明者らは、
13C標識化ベンジルブロモアセテート11を使用した(SI)。これにより、対応する試薬2
179および2
180を同様の収率で得た。
【0070】
本発明の試薬SOT2の断片化特性を検査するために、本発明者らは、標準プロトコール(SI)に準拠し、すべての翻訳されたタンパク質を対応するペプチド中に含有する完全大腸菌(E.coli)溶解物を消化した。取得された複合ペプチド混合物(P)を2つの部分に分割した。一方の部分を試薬2179(P-2179)と反応させる間に、他方を2180と合わせて、P-2180を得た(pH=8.5、150mM重炭酸トリエチルアンモニウム緩衝液、3mg2、60分)。本発明者らは、その後、未反応の試薬2をヒドロキシルアミンでクエンチした。次に、標識化された混合物{P-2179+P-2180}を1:1比で合わせ、複合混合物を脱塩し、報告された手順に従って濃縮した[18]。
【0071】
比較のために、本発明者らは、市販の同位体で標識化されたTMT試薬1(二重)を用い、製造業者の推奨事項に従って同じ実験を実施して、混合物{P-TMT
126+P-TMT
127}を取得した。ペプチド混合物{P-2
179+P-2
180}および{P-TMT
126+P-TMT
127}を次にナノHPLC-MS
2によって測定し、MaxQuantソフトウェアおよび自社開発したソフトウェアパッケージを使用してデータを解析した(SI)
[19]。取得されたデータは
図2および
図3に描写される。
【0072】
一例として、
図2Aは、ペプチドALEGDAEWEAK
2+(2つの標識)との反応後のSOT試薬2の開裂を、複合混合物中の対応するTMT標識化ペプチドとの直接比較で示す。本発明者らは、28%HCDの正規化した断片化エネルギー(高エネルギー衝突解離)で測定し、これは、それらの同定のためにペプチドを断片化するために理想的に適合する。SOT試薬2は、明らかにより多くのレポーターイオンを生成し、加えて、本発明者らがより多くの断片イオンを観察することから、試薬は、ペプチド断片化を支持するように思われる。
図2Bは、SOT標識化試料において同定されたすべてのペプチドの解析を示し、ここで、本発明者らは、MS
2スペクトルの大多数において、相対的レポーターイオン強度が、前代未聞である80~100%の高さに達することが分かる。
【0073】
これは、利用可能なソフトウェアパッケージを用いてレポーターイオン比率を決定することにより、簡単な相対的定量化を可能にする。
図2Cは、断片化の前の無傷の標識化ペプチド(前駆体)の電荷状態を示す。本発明者らの設計に一致して、本発明者らは、SOT試薬2が、はるかに高い電荷状態を持つ標識化ペプチドを生成することが分かる。重要なことに、標識化ペプチドの60%超が、+3以上の電荷状態を有する。この高い電荷密度は、その後の断片化を容易にし、これが、厳密な解析のためのさらなるデータをもたらす。
【0074】
レポーターイオン強度はP-2
180対P-2
179中に存在するすべてのペプチド間の相対比を測定することを可能にするが、多くの場合、バランサー-ペプチドコンジュゲートによって生成された相補的イオンクラスターを用いて定量化することが望ましい。これらのバランサー-コンジュゲートは質量分析計においてさらに断片化するため、多数の相補的イオンクラスターが形成され、これらは配列特異的であり、すべて定量化に使用され得る。これは、より高いデータ密度を提供し、これが速度ひずみに関連する問題を回避する。本発明者らの実験において、本発明者らは、SOT試薬2が、そのような相補的イオンクラスター解析のためのほぼ完璧な特性を有することを観察する。本発明者らが標識含有ペプチド断片イオンを研究した際、本発明者らは、これらの断片の53%が依然として無傷の試薬2を含有するが、47%がレポーター基を喪失して相補的イオンクラスターを産出することが分かった(
図3A)。この完璧に近い1:1比は、標準的なデータベース検索アルゴリズムおよび豊富に形成された相補的イオンクラスターを介する定量化を用いて、(無傷の)ペプチドの並行同定を可能にする。
図3Bは、SOT試薬2がすべての前駆体から後の定量化のために平均して15のペプチド-バランサー断片を作成し、これはおよそ7~8つの相補的イオンクラスターに対応することを示す。
図3Cは、1つのペプチドからのスペクトルを例として示す。レポーターイオン(赤色)および14の相補的イオンを包括する7つの相補的イオンクラスター(橙色)のシグナルは、高い相対強度で明らかに可視である。ペプチドの同定のために、複数の高強度イオンが利用可能である(灰色)。
【0075】
3.結論
要約すると、本発明者らは、精密なペプチド定量化のためのレポーターイオンおよび相補的イオンクラスターの効率的な並行形成を可能にする、新たな同重標識化試薬の設計を報告する。試薬は、速度ひずみによって引き起こされる定量化誤差を排除するのを助ける。これは、複合試料中であっても相対的なペプチドおよびそれ故タンパク質存在度の正確な決定を初めて可能にする。SOT試薬2の最も重要な特性は、レポーターイオンおよび相補的イオンクラスターが並行して形成されること、ならびに複数のtert-アミノ基の導入が、期待されるより高い電荷状態を生成し、これがより良好なペプチド断片化およびそれ故より正確なペプチド同定をもたらすことである。
【0076】
4.化学合成手順
4.1 出発材料の合成
【0077】
【0078】
ブロモ酢酸ベンジル(12)典型的な手順1(TP1)
撹拌子およびセプタムを備えた乾燥およびArフラッシュした50mLのシュレンクフラスコに、市販のブロモ酢酸(1.00g、7.19mmol、1.16当量)、フェニルメタノール(0.64mL、6.20mmol、1.00当量)および4-メチルベンゼン-1-スルホン酸(21.36mg、0.12mmol、0.02当量)を、10mLトルエンの存在下、2時間還流で添加した。完了後、反応混合物を室温に冷却し、20mLの水中20%重炭酸ナトリウム溶液で2回洗浄し、続いて、ブラインおよび水洗浄した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空で濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、EtOAc/DCM 1:4)による精製により、12を無色油として産出した(1.38g、84%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 7.46 - 7.13 (m, 1H), 5.16 (s, 1H), 3.95 (s, 6H) ppm.
【0079】
【0080】
ベンジルブロモ(2-13C)アセテート(11)
TP1に準拠して、ブロモ酢酸-2-13C(500mg、3.60mmol、1.16当量)およびフェニルメタノール(0.32mL、3.10mmol、1.00当量)を、4-メチルベンゼン-1-スルホン酸(10.68mg、0.06mmol、0.02当量)と、5mLのトルエンの存在下、2時間還流で反応させ、通常通りに後処理した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、EtOAc/DCM 1:4)による精製により、11を無色油として産出した(427mg、52%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 7.41 - 7.33 (m, 5H), 5.20 (s, 2 H), 4.18 (s, 1H), 3.80 (s, 1H) ppm. HRMS(EI+):C8
13CH10BrO2
+[M+H]+の計算値:229.9819;実測値:229.9718。IR(cm-1):v=3065、1733、1587、1497、1455、1376、1278、1213、1147、1106、967、736。
【0081】
【0082】
メチル3-[ベンジル(メチル)アミノ]プロパノエート(13)
メチル-3-ブロモプロパノエート(3.00g、18.0mmol)およびN-メチル-1-フェニルメタンアミン(2.18g、18.0mmol)をアセトニトリル(120mL)に溶解した。室温で2分間撹拌した後、Na2CO3(19.0g、180mmol)を添加し、温度を70℃に24時間にわたって上昇させた。冷却した後、反応溶液を濾過し、120mLのDCMを濾液に添加した。有機相を0.5M NaOH(3×50mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させた。濾過後、生成物を減圧下で濃縮して、13を無色油として産出した(3.44g、16.5mmol 92%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.30 - 7.18 (m, 5H, C6H5-CH2-N), 3.63 (s, 3H, -COOCH3), 3.48 (s, 2H, C6H5-CH2-N), 2.71 (t, J = 7.2 Hz, 2H, -N-CH2-CH2-), 2.49 (t, J = 7.2 Hz, 2H, -CH2-COOCH3), 2.17 (s, 3H, -N-CH3). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 173.00 (-COOCH3), 138.85 (q), 128.95, 128.24および127.04 (C6H5-CH2), 62.12 (C6H5-CH2), 52.75 (-N-CH2-CH2-), 51.56 (-COOCH3), 41.91 (-N-CH3), 32.75 (CH2-COOCH3). HRMS(ESI+):C12H18NO2
+[M+H]+の計算値:208,13321;実測値:208.13313。IR(cm-1):v=2950(w)、2841(w)、2790(w)、1737(s)、1495(w)、1452(m)、1236(m)、1357(w)、1325(w)、1202(m)、1168(s)、1125(m)、1975(w)、1038(m)、1025(m)。
【0083】
【0084】
3-(メチルアミノ)プロパン酸塩酸塩(14)
火炎乾燥したシュレンク管中、メチル3-[ベンジル(メチル)アミノ]プロパノエート13(1g、4.82mmol)をMeOH(60mL)に溶解した。次いで、管の雰囲気をN2でパージし、10wt%のPd/C(100mg)を溶液に少量ずつ添加した。雰囲気をN2で再度パージして、酸素が残っていないことを確認した。H2を充填した二層ラテックスバルーンをシュレンク管に取り付け、反応物を室温で16時間にわたって撹拌した。6時間および10時間後、バルーンにH2を補充した。Pd/Cをセライトで濾過除去した。蒸発は帯黄色油をもたらした。粗揮発性生成物を、さらに精製することなく次のステップに使用した。得られたメチルエステルを5M HClに溶解し、8時間にわたって還流した。溶液を蒸発乾固させた。MeOH/エトキシエタンからの再結晶により、所望生成物14を無色の吸湿性結晶として産出した(478mg、3.42mmol、71%)。
融点:89~92℃。1H-NMR (400 MHz, D2O) δ 3.28 (t, J = 6.4 Hz, 2H, -N-CH2-CH2-), 2.81 (t, J = 6.5 Hz, 2H, -CH2-COOH), 2.72 s (3H, CH3) ppm. 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 174.11 (-COOH), 44.36 (-N-CH2-CH2-), 32.99 (-CH2-COOH), 29.90 (CH3) ppm. HRMS(ESI)C4H10NO2
+[M+H]+の計算値:104.07060;実測値:104.07063。IR(cm-1):v=3376(w)、2968(s)、2819(s)、1729(s)、1557(w) 1465(m)、1402(s) 1351(w)、1289(w)、1189(s)、1156(s)、1024(s)。
【0085】
【0086】
3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパン酸塩酸塩
(10)3-(メチルアミノ)プロパン酸塩酸塩14(401mg、2.87mmol、1.00当量)を88%ギ酸(1.79mL、44.8mmol、15.6当量)に溶解した。次いで、(13C)ホルムアルデヒド(水中20%;1g、6.45mmol、2.25当量)を添加し、溶液を、110℃、100Wのマイクロ波照射(irridation)を介し、1時間にわたって加熱した。200μLのHClを添加し、溶媒を真空で除去した。微量のギ酸を真空でトルエンと共沸させて除去した。わずかに黄色を帯びた固体をMeOH/エトキシエタンから再結晶させて、無色固体(383mg、2.48mmol、86%)を取得した。
融点:183℃。1H-NMR (400 MHz, D2O): δ 3.30 (td, J = 6.7, 3.0 Hz, 2H, -N-CH2-CH2-), 2.97 - 2.60 (m, 8H, -CH2-COOH, -CH3, -13CH3) ppm. 13C-NMR (101 MHz, D2O): δ = 174.06 (-COOH), 53.10 (-N-CH2-CH2-), 43.34 (-CH3), 42.78 (-13CH3), 28.78 (-CH2-COOH) ppm. HRMS(ESI+):C4
13CH12NO2
+[M+H]+の計算値119.08961、実測値119.08960。IR(cm-1):v=2957(m)、2692(m)、2592(w)、2481(w)、1717(s)、1468(w)、1420(m)、1370(w)、1300(w)、1201(s) 1161(m)、1006(w)、966(m)、854(s)、798(m)。
【0087】
4.2 一般的な合成手順
下記の項において、化合物2179は2**として割り当てられ、化合物2180は2*として割り当てられる。
【0088】
【0089】
メチル(2R)-2-アミノ-4-{[(3S)-3-アミノ-4-メトキシ-4-オキソブチル]ジスルファニル}ブタノエート(3)
撹拌子およびセプタムを備えた乾燥およびArフラッシュした250mLのシュレンクフラスコに、無水MeOH(80mL)に溶解した市販のDL-ホモシスチン(4,4’-ジスルファンジイルビス(2-アミノブタン酸)、6.0g、22.36mmol、1.0当量)を投入した。白色スラリー溶液を0℃に冷却し、シリンジを介して塩化チオニル(thionyl chlorid)(6.48mL、89.44mmol、4.0当量)を滴下添加した。得られた無色の反応混合物を、3時間かけて室温に加温させた。次いで、反応混合物を真空で終夜濃縮して、3を白色固体として産出した(6.6g、100%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 4.21 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.86 (s, 6H), 3.35 (s, 2H), 2.84 (m, 5H), 2.47 - 2.22 (m, 5H) ppm. 13C-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 170.53, 53.87, 52.61, 33.57, 30.91 ppm. HRMS(ESI+):C10H21N2O4S2
+[M+H]+の計算値:297.0864;実測値:297.09380。IR(cm-1):v=3373、2854、2611、2003、1738、1591、1503、1439、1224、1139、860。
【0090】
【0091】
メチル(2R)-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]-4-({(3S)-3-[3-(ジメチル-アミノ)プロパンアミド]-4-メトキシ-4-オキソブチル}ジスルファニル)ブタノエート(4)典型的な手順2(TP2)
撹拌子およびセプタムを備えた乾燥およびArフラッシュした50mLのシュレンクフラスコに、市販の3-(ジメチルアミノ)プロパン酸塩酸塩(370mg、2.40mmol、2.4当量)およびメチルエステル3(300mg、0.61mmol、1.0当量)を添加し、5mLの無水DMFに溶解した。次いで、TEA(0.29mL、2.12mmol、3.5当量)、HOBT(340mg、2.50mmol、2.5当量)およびEDC(502mg、2.61mmol、2.6当量)を添加し、60℃で2時間にわたって撹拌した。得られた橙色のスラリー反応混合物を真空で濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、DCM/MeOH 16:1)による精製により、4を白色固体として得た(426mg、85%)。
1H-NMR (800 MHz, メタノール-d4) δ = 4.62 - 4.55 (m, 1H), 3.75 (d, J=1.5, 2H), 3.37 (s, 1H), 2.84 - 2.79 (m, 1H), 2.78 - 2.72 (m, 1H), 2.71 - 2.63 (m, 2H), 2.46 (td, J=7.3, 2.8, 2H), 2.30 (s, 6H), 2.10 - 2.04 (m, 1H) ppm. 13C-NMR (201 MHz, メタノール-d4) δ = 174.37, 173.54, 52.88, 52.37, 49.85, 35.59, 35.52, 34.14, 32.13 ppm. HRMS(ESI+):C20H39N4O6S2
+[M+H]+の計算値:494.2233;実測値:495.23034。IR(cm-1):v=3382、2953、2833、2498、2069、1733、1643、1548、1439、1222、1173、1119、977、856。
【0092】
【0093】
ジメチル-4,4’-ジスルファンジイル(2R,2’S)-ビス(2-(3-(メチル(メチル-13C)アミノ)-プロパンアミド)-ブタノエート)(4**)
TP2に準拠し、先に合成した3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパン酸塩酸塩10(220mg、1.42mmol、2.20当量)およびメチルエステル3(238mg、0.645mmol、1.00当量)により、4**を白色固体として得た(200mg、62%)。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 4.57 (ddd, J = 8.5, 4.8, 3.1 Hz, 1H), 3.73 (s, 6H), 2.83 - 2.59 (m, 4H), 2.46 - 1.99 (m, 20H). HRMS(ESI+):C18
13C2H39N4O6S2
+[M+H]+の計算値:497.22889;実測値:497.23792。
【0094】
【0095】
メチル(2S)-4-{[2-(ベンジルオキシ)-2-オキソエチル]スルファニル}-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタノエート(5)典型的な手順3(TP3)
先に合成したジスルフィド4(750mg、1.51mmol、1.0当量)を、撹拌子およびセプタムを備えた乾燥およびArフラッシュした50mLのシュレンクフラスコに添加し、5mLのH2Oおよび15mLのDMFの混合物に溶解した。次いで、NaHCO3(535mg、6.37mmol、4.2当量)およびTCEP(435mg、1.51mmol、1.0当量)を反応混合物に添加した。質量を介する低減の完了後、市販のブロモ酢酸ベンジル(0.6mL、3.79mmol、2.50当量)を添加し、室温で2時間にわたって撹拌した。次いで、得られた反応混合物を真空で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、DCM中5%MeOH)により精製して、5を無色油として得た(510mg、42%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 7.53 - 7.15 (m, 5H), 5.18 (s, 2H), 4.56 (dd, 3J = 8.9, 2J = 4.8 Hz, 1H), 3.71 (s, 3H), 3.33 (s, 2H), 2.75 - 2.58 (m, 4H), 2.45 (t, 3J = 7.2 Hz, 2H), 2.29 (s, 6H), 2.17 - 2.05 (m, 1H), 2.02 - 1.90 (m, 1H) ppm. 13C-NMR (151 MHz, CDCl3) δ = 172.58, 172.51, 170.15, 135.60, 128.73, 128.52, 128.37, 67.18, 55.11, 52.47, 51.05, 44.59, 33.52, 32.82, 31.82, 28.47 ppm. HRMS(ESI+):C19H29N2O5S+[M+H]+の計算値:397.1719;実測値:397.17908。IR(cm-1):v=3285、2950、2864、1736、1655、1539、1455、1440、1374、1271、1213、1170、1146、1025、748、698。
【0096】
【0097】
メチル(2S)-4-{[2-(ベンジルオキシ)-2-オキソ(1-13C)エチル]スルファニル}-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタノエート(5*)
TP3に準拠し、ジスルフィド4(370mg、0.75mmol、1.0当量)を、先に合成したベンジルブロモ(2-13C)アセテート11(294μL、1.86mmol、2.3当量)と反応させて、5*を無色油として得た(550mg、92%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 7.42 - 7.28 (m, 5H), 5.16 (s, 2H), 4.59 - 4.52 (m, 1H), 3.70 (s, 3H), 3.50 (s, 1H), 3.15 (s, 1H), 2.93 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 2.75 - 2.60 (m, 2H), 2.56 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 2.50 (s, 6H), 2.19 - 2.05 (m, 1H), 2.04 - 1.86 (m, 1H) ppm. HRMS(ESI+):C18
13CH29N2O5S+[M+H]+の計算値:398,1752;実測値:398.18235。
【0098】
【0099】
メチル(2S)-4-{[2-(ベンジルオキシ)-2-オキソエチル]スルファニル}-2-(3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパンアミド)ブタノエート(5**)
TP3に準拠し、ジスルフィド4**(200mg、0.40mmol、1.0当量)により、5**を無色油として得た(252mg、79%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4): δ = 7.40 - 7.28 (m, 5H), 5.15 (s, 2H), 4.53 (dd, J = 8.93, 4.90 Hz), 3.69 (s, 3H), 2.73 - 2.56 (m, 4H), 2.44 - 1.87 (m, 10H). 13C-NMR (101 MHz, メタノール-d4) δ = 174.49, 173.61, 171.96, 137.34, 129.58, 129.32, 129.25, 67.94, 56.03, 52.80, 52.55, 45.08, 34.17, 33.97, 32.01, 29.51. HRMS(ESI)C18
13CH29N2O5S+[M+H]+の計算値:398.18252;実測値:398.18256。
【0100】
【0101】
({(3S)-3-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]-4-メトキシ-4-オキソブチル}スルファニル)酢酸(6)典型的な手順4(TP4)
先に合成したベンジル保護スルフィド5(160mg、0.40mmol、1.0当量)を、撹拌子およびセプタムを備えた乾燥およびArフラッシュした25mLのシュレンクフラスコに添加し、3~4mLの10%ギ酸-メタノールに溶解した。次いで、およそ160mgのパラジウム黒触媒を反応混合物に添加し、40℃で2時間にわたって撹拌した。質量およびTLCを介する脱保護の完了後、反応混合物を濾過し、真空で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、DCM中25%MeOH)により精製して、6を無色油として得た(100mg、81%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 4.61 (dd, J = 9.4, 4.2 Hz, 1H), 3.27 (t, J = 6.8 Hz, 1H), 3.21 (t, J = 6.5 Hz, 1H), 3.12 (s, 2H), 2.75 (s, 6H), 2.73 - 2.55 (m, 3H), 2.18 - 2.07 (m, 1H), 2.05 - 1.93 (m, 1H) ppm. LRMS(ESI+):C12H23N2O5S+[M+H]+の計算値:307,1249;実測値:307.10。IR(cm-1):v=3253、1734、1652、1574、1468、1372、1217、1147、1084、977、761。
【0102】
【0103】
({(3S)-3-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]-4-メトキシ-4-オキソブチル}スルファニル)(2-13C)酢酸(6*)
TP4に準拠:5*(580mg、1.46mmol、1.0当量)により、6*を無色油として得た(280mg、62%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 4.62 (dd, J = 4.62 (dd, J=9.4, 4.2, 1H), 3.72 (s, 3H), 3.35 (s, 2H), 3.30 - 3.24 (m, 2H), 3.17 (dq, J=13.0, 6.4, 1H), 2.74 (s, 6H), 2.72 - 2.60 (m, 4H), 2.18 - 1.94 (m, 2H) ppm. 13C-NMR (101 MHz, メタノール-d4) δ = 173.85, 172.39, 170.21, 55.22, 52.79, 49.85, 44.01, 37.30, 31.80, 31.62, 29.24 ppm. HRMS(ESI+):C11
13CH23N2O5S+[M+H]+の計算値:308.1283;実測値:308.13564。
【0104】
【0105】
{[(3S)-4-メトキシ-3-(3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパンアミド)-4-オキソブチル]スルファニル}酢酸(6**)
TP4に準拠:5**(252mg、0.63mmol、1.0当量)により、6**を無色油として得た(181mg、93%)。
1H NMR (400 MHz, メタノール-d4): δ 4.61 (dd, J = 9.5, 4.2 Hz, 1H), 3.70 (s, 3H), 3.38 - 3.16 (m, 4H), 3.08 (d, J = 3.26 Hz, 2H), 2.94 - 2.59 (s, 10H) ppm. HRMS(ESI+)C11
13CH23N2O5S+[M+H]+の計算値:308.13557;実測値308.13569。
【0106】
【0107】
メチル(2S)-4-[(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエチル)スルファニル]-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタノエート(7):典型的な手順5(TP5):先に合成した酸6(100mg、0.33mmol、1.0当量)を、撹拌子およびセプタムを備えた乾燥およびArフラッシュした50mLのシュレンクフラスコに添加し、10mLの乾燥DMFに溶解した。次いで、市販のN1,N2-ジメチルエタン-1,2-ジアミン(42μL、0.39mmol、1.2当量)、DIPEA(83μL、0.49mmol、1.5当量)およびPyBOP(203mg、0.39mmol、1.2当量)を添加し、反応混合物を室温で1時間にわたって撹拌した。質量を介するアミド化の完了後、反応混合物を真空で濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、1:12 MeOH/DCM)により精製して、7を無色油として得た(90mg、73%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 4.56 (dd, J = 9.0, 4.8, 1H), 3.72 (s, 3H), 3.38 - 3.32 (m, 2H), 3.19 (d, J=1.3, 2H), 2.74 - 2.57 (m, 4H), 2.47 (dt, J = 11.6, 6.8, 4H), 2.30 (d, J = 4.3, 12H), 2.12 (dddd, J = 13.2, 8.3, 7.2, 4.9, 1H), 2.03 - 1.92 (m, 1H) ppm. 13C-NMR (101 MHz, メタノール-d4) δ = 174.36, 173.65, 172.47, 59.04, 55.99, 52.82, 52.64, 45.47, 45.03, 38.22, 35.97, 34.00, 32.11, 29.70 ppm. LRMS(ESI+):C16H33N4O4S+[M+H]+の計算値:377.2144;実測値:377.19。IR(cm-1):v=3375、2878、17740、1597、1509、1439、1226、1144、1066、1022、903、843、744。
【0108】
【0109】
メチル(2S)-4-{[2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソ(1-13C)エチル]スルファニル}-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタノエート(7*):TP5に準拠し、6*(270mg、0.87mmol、1.0当量)により、7*を無色油として得た(246mg、74%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 4.56 (dd, J = 9.0, 4.8, 1H), 3.72 (s, 3H), 3.36 (d, J = 6.2, 2H), 3.33 (s, 1H), 3.01 (s, 1H), 2.74 - 2.58 (m, 4H), 2.47 (dt, J = 11.4, 7.0, 4H), 2.30 (d, J=4.1, 13H), 2.18 - 1.92 (m, 3H), 1.29 - 1.15 (m, 1H) ppm. LRMS(ESI+):C15
13CH33N4O4S+[M+H]+の計算値:378.2178;実測値:378.24。
【0110】
【0111】
メチル(2S)-4-[(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエチル)スルファニル]-2-(3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパンアミド)ブタノエート(7**):TP5に準拠し、6**(181mg、0.59mmol、1.0当量)により、7**を無色油として得た(173mg、78%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4): δ 4.46 (dd, J = 9.0, 4.8 Hz, 1H), 3.62 (s, 3H), 3.25 (t, J = 6.95 Hz, 2H), 3.09 (s, 2H), 2.66 - 2.48 (m, 4H), 2.44 - 1.80 (m, 18H) ppm. 13C-NMR (101 MHz, メタノール-d4): δ 172.94, 172.29, 171.13, 57.62, 54.56, 51.45, 51.26, 44.04, 43.59, 36.81, 34.57, 34.22, 32.49, 30.69, 28.31 ppm. HRMS(ESI+):C15
13CH33N4O4S+[M+H]+の計算値:378.22506;実測値378.22516。
【0112】
【0113】
(2S)-4-[(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエチル)スルファニル]-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタン酸(8):典型的な手順6(TP6):先に合成した化合物7(90mg、0.24mmol、1.0当量)を、2mLのH2Oおよび5mLのMeOHの混合物に溶解した。次いで、LiOH(17mg、0.71mmol、3.0当量)を添加し、反応混合物を室温で1時間にわたって撹拌した。鹸化の完了後、生成物を脱塩して、8を白色固体として得た(86.6mg、100%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 4.55 (dd, J = 9.3, 4.5, 1H), 3.64 (t, J = 5.9, 2H), 3.46 (t, J = 6.7, 2H), 3.35 (t, J = 6.0, 2H), 2.95 (d, J = 13.2, 13H), 2.90 - 2.83 (m, 2H), 2.81 - 2.64 (m, 2H), 2.22 - 2.11 (m, 1H), 2.09 - 1.97 (m, 1H) ppm. 13C-NMR (101 MHz, メタノール-d4) δ = 174.78, 173.70, 171.90, 58.04, 54.90, 52.72, 43.88, 43.72, 43.63, 36.19, 36.00, 32.07, 30.75, 30.10 ppm. HRMS(ESI-):C15H29N4O4S-[M-H]-の計算値:361,1910;実測値:361.19188。IR(cm-1):v=3368、2916、1743、1632、1524、1439、1311、1227、1160、1059、984、845。
【0114】
【0115】
(2S)-4-{[2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソ(1-13C)エチル]スルファニル}-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタン酸(8*)TP6に準拠:7*(220mg、0.58mmol、1.0当量)により、8*を白色固体として得た(210mg、99%)。
1H-NMR (400 MHz, メタノール-d4) δ = 4.33 (dd, J = 7.8, 4.6, 1H), 3.39 - 3.32 (m, 3H), 3.02 (s, 1H), 2.67 - 2.56 (m, 4H), 2.45 (dt, J = 14.7, 7.1, 4H), 2.27 (d, J = 3.2, 13H), 2.18 - 1.87 (m, 2H) ppm. 13C-NMR (101 MHz, メタノール-d4) δ = 176.77, 172.29, 172.26, 57.64, 54.84, 54.15, 44.12, 43.73, 36.99, 36.91, 33.25, 32.65, 28.61 ppm. HRMS(ESI-):C14
13CH29N4O4S-[M-H]-の計算値:362.2021;実測値:362.19517。
【0116】
【0117】
(2S)-4-[(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエチル)スルファニル]-2-(3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパンアミド)ブタン酸(8**)TP6に準拠:7**(173mg、0.46mmol、1.0当量)により、8**を白色固体として得た(105mg、62%)。
1H NMR (400 MHz, メタノール-d4): δ 4.33 (dd, J = 7.8, 4.6 Hz, 1H), 3.35 (t, J = 6.41 Hz, 2H), 3.19 (s, 2H), 2.67 - 2.56 (m, 4H), 2.50 - 1.88 (m, 18H). HRMS(ESI+):C14
13CH31N4O4S+[M+H]+の計算値:364.20941;実測値:364.20962。
【0118】
【0119】
(2S)-4-(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエタンスルフィニル)-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]-ブタン酸(9)典型的な手順7(TP7):8(50mg、0.14mmol、1.0当量)を2mLの蒸留(dest.)H2Oに溶解した。pH値をpH=2に設定した後、mCPBA(30.8mg、0.14mmol、1.0当量)を添加し、反応混合物を室温で20分間にわたって撹拌した。質量を介する酸化の完了後、得られた反応混合物をDCM(4×10mL)で抽出し、真空で濃縮して、9を白色固体として得た(40mg、75%)。
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ = 4.46 (td, J = 8.1, 5.1, 1H), 3.90 (d, J = 14.1, 1H), 3.72 (d, J = 14.1, 1H), 3.64 - 3.51 (m, 2H), 3.34 (td, J = 6.7, 1.8, 2H), 3.25 (t, J = 6.0, 2H), 3.06 - 2.85 (m, 2H), 2.82 (d, J = 9.5, 13H), 2.76 (t, J = 6.8, 2H), 2.34 - 2.19 (m, 1H), 2.17 - 2.04 (m, 1H) ppm. 13C-NMR (101 MHz, D2O) δ = 174.42, 171.66, 166.86, 56.23, 55.98, 55.88, 53.32, 47.34, 47.19, 42.96, 42.81, 34.87, 29.50, 23.97 ppm. HRMS(ESI+):C15H31N4O5S+[M+H]+の計算値:379.1937;実測値:379.19624。
【0120】
【0121】
(2S)-4-[2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソ(1-13C)エタンスルフィニル]-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]-ブタン酸(9*)TP7に準拠:8*(145mg、0.39mmol、1.0当量)により、9*を白色固体として得た(150mg、99%)。
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ = 4.46 (ddt, J = 15.6, 10.1, 5.0, 1H), 4.10 - 3.50 (m, 4H), 3.35 (dt, J = 8.0, 4.0, 2H), 3.24 (t, J = 6.2, 2H), 3.07 - 2.95 (m, 2H), 2.82 (d, J = 9.4, 13H), 2.75 (q, J = 6.7, 3H), 2.60 (s, 1H), 2.29 (dp, J = 13.5, 7.4, 1H), 2.19 - 2.00 (m, 1H) ppm. HRMS(ESI+):C14
13CH31N4O5S+[M+H]+の計算値:380.20432実測値:380.20452。
【0122】
【0123】
(2S)-4-(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエタンスルフィニル)-2-(3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパンアミド)ブタン酸(9**)TP7に準拠:8**(105mg、0.29mmol、1.0当量)により、9**を白色固体として得た(75mg、69%)。
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ = 4.52 (dd, J = 8.7, 5.1 Hz, 1H), 3.71 - 3.29 (m, 8H), 3.10 - 2.62 (m, 16H), 2.50 - 2.17 (m, 2H) ppm. HRMS(ESI+):C14
13CH31N4O5S+[M+H]+の計算値:380.20432;実測値:380.20424。
【0124】
【0125】
2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2S)-4-[(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエチル)スルファニル]-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタノエート(2)典型的な手順8(TP8):先に合成したスルホキシド9(80mg、0.22mmol、1.0当量)を、5mLのDMFに溶解した。次いで、乾燥ピリジン(34μL、0.42mmol、2.0当量)およびNHS-TFA(89mg、0.42mmol、2.0当量)を反応混合物に添加した。質量を介するエステル活性化の完了後、得られた反応混合物を真空で濃縮した。得られた橙色油をアセトニトリルに溶解し、アセトンを介して沈殿させて、2を白色固体として得た(35mg、35%)。
HRMS(ESI+):C18
13CH34N5O7S+[M+H]+の計算値:476.2101;実測値:476.21727。
【0126】
【0127】
2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2S)-4-{[2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソ(1-13C)エチル]スルファニル}-2-[3-(ジメチルアミノ)プロパンアミド]ブタノエート(2*)TP8に準拠:9*(50mg、0.13mmol、1.0当量)により、2*を白色固体として得た(20mg、32%)。
HRMS(ESI+):C18
13CH34N5O7S+[M+H]+の計算値:477.2134;実測値:477.22124。
【0128】
【0129】
2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2S)-4-[(2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-2-オキソエチル)スルファニル]-2-(3-{メチル[(13C)メチル]アミノ}プロパンアミド)ブタノエート(2**)TP8に準拠:9**(75mg、0.20mmol、1.0当量)により、2**を白色固体として得た(30mg、31%)。
HRMS(ESI+):C18
13CH34N5O7S+[M+H]+の計算値:477.2134;実測値:477.22064。
【0130】
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