(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221220BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20221220BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/58
C21D8/02 C
(21)【出願番号】P 2020529743
(86)(22)【出願日】2018-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2018008579
(87)【国際公開番号】W WO2019107700
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】10-2017-0164465
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オム,ギョン‐グン
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ‐ウー
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/105109(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/105107(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/111416(WO,A1)
【文献】特開2004-315957(JP,A)
【文献】特開2010-285656(JP,A)
【文献】特開2015-147961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00-8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02~0.12%、Si:0.22~0.60%、Mn:0.6~1.6%、P:0.020%以下(0%は除く)、S:0.003%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.002~0.060%、Cu:0.01~0.6%、Ni:0.01~1.0%、Cr:0.02~0.5%、Mo:0.01~0.3%、Ti:0.023~0.10%、Nb:0.001~0.06%、V:0.001~0.10%、N:0.001~0.006%、Ca:0.0002~0.0060%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)が0.05%以上であり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/Cが0.8以上であり
、組織として、フェライトと、残りのパーライト、セメンタイト、及びMA(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上とを含み、鋼材は、前記フェライトの分率が面積%で90%以上(100%を除く)であり、前記パーライト、セメンタイト、及びMAのうち1種以上の全体の分率が面積%で10%以下であり、前記フェライトの組織内における平均サイズ100nm以下の微細な炭窒化析出物が重量%で0.03%以上存在し、前記フェライトの組織の平均結晶粒サイズが20μm以下であることを特徴とする耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材。
【請求項2】
前記鋼材がパーライト組織を含む場合、前記パーライトは、ASTM E1268で定義される方向性程度(Thedegree of orientation、オメガ_12)の値が0.1以下と微細に分散した形で存在することを特徴とする請求項1に記載の耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、485MPa以上の引張強度、-40℃で120J以上の衝撃吸収エネルギー値、及びHIC評価時に5%以下の長さ方向の亀裂の割合(CLR)を有することを特徴とする請求項1に記載の耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は6~133mmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材。
【請求項5】
重量%で、C:0.02~0.12%、Si:0.22~0.60%、Mn:0.6~1.6%、P:0.020%以下(0%は除く)、S:0.003%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.002~0.060%、Cu:0.01~0.6%、Ni:0.01~1.0%、Cr:0.02~0.5%、Mo:0.01~0.3%、Ti:0.023~0.10%、Nb:0.001~0.06%、V:0.001~0.10%、N:0.001~0.006%、Ca:0.0002~0.0060%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)が0.05%以上であり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/Cが0.8以上であるスラブを1080~1300℃に再加熱する段階と、
前記のように再加熱されたスラブを圧延終了温度が850℃以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を水冷を介して550~750℃の冷却終了温度に冷却する段階と、
前記のように冷却された鋼板を850~950℃で1.3*t[tは鋼板の厚さ(mm)]+(5~60分)の間焼ならし熱処理する段階と、を含み、
組織として、フェライトと、残りのパーライト、セメンタイト、及びMA(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上とを含み、鋼材は、前記フェライトの分率が面積%で90%以上(100%を除く)であり、前記パーライト、セメンタイト、及びMAのうち1種以上の全体の分率が面積%で10%以下であり、前記フェライトの組織内における平均サイズ100nm以下の微細な炭窒化析出物が重量%で0.03%以上存在し、前記フェライトの組織の平均結晶粒サイズが20μm以下であることを特徴とする耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記スラブを再加熱する段階における再加熱温度が1150~1300℃であることを特徴とする請求項5に記載の耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記圧延終了温度が850~1050℃であることを特徴とする請求項5に記載の耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記圧延終了温度がAr
3+70℃~Ar
3+270℃であることを特徴とする請求項5に記載の耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記熱延鋼板の厚さが6~133mmであることを特徴とする請求項5に記載の耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記焼ならし熱処理する段階によって熱処理された鋼板を500℃以上で10分以上焼戻し熱処理する段階をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記焼戻し熱処理により、鋼板中の炭窒化析出物の含有量が0.001~0.005重量%増加することを特徴とする請求項10に記載の耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、原油を採掘、処理、輸送、貯蔵するプラント設備及び造船海洋構造物などに用いられる耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇や原油高に伴い、徐々に硫黄などの不純物含有量が高い低品質原油の生産が大幅に増加しつつある。そこで、低品位の原油を採掘、処理、輸送、貯蔵するすべてのプラント設備に用いられる鋼材に対しても、原油中の硫黄成分に起因する湿潤硫化水素による水素誘起割れ(HIC:Hydrogen Induced Cracking)を抑制する特性が必須として求められている。
また、最近の事故による環境汚染が地球全体の問題となり、これを回復するために天文学的な費用がかかるため、エネルギー産業に用いられる鉄鋼材の要求特性のレベルが徐々に厳しくなる傾向にある。
【0003】
原油を採掘、処理、輸送、貯蔵するプラント設備及び造船海洋構造物などの素材の一例として、高強度焼ならし鋼材が提案されている。
焼ならし鋼材において高強度を得るための方法として、C添加によるパーライト分率の増加やCu、Moなどの固溶強化元素の添加、そして、Nb、Vの単純添加による炭窒化析出物の生成を用いる方法が挙げられる。
【0004】
一方、鋼材の耐水素誘起割れ性を向上させるための方法として、水素の集積、及びクラックの開始点として作用する可能性がある鋼材内部の介在物、空隙などの内部欠陥を制御する方法や、クラックが容易に発生且つ伝播するパーライトなどの硬化組織を最小化する方法、又はその形状を制御するために強圧延を適用する方法などが数多く提案されている。
【0005】
しかし、鋼材に対する強度要求が次第に増加するにつれて、強度確保のためのCの添加量や固溶強化成分の添加量を増加させているのが実情である。しかし、C添加量の増加は、パーライト分率を増加させるとともに、パーライトが帯状(banded structure)に現れるようになり、水素誘起割れの伝播を容易にするだけでなく、低温における衝撃靭性を大きく低下させる原因となる。これは互いに矛盾する側面を有していることになる。
【0006】
また、Cu、Ni、Moなどの固溶強化成分の添加は、強度を増加させる効果を奏する一方で、赤熱脆性による表面クラックを誘発したり、又は添加成分が高価なため経済性を大幅に低下させる原因となる。
尚、析出物による強化効果を得るためにNb、Vを過度に添加すると、溶接部の硬化能を基準以上に大幅に増加させて、溶接部の靭性低下及び水素誘起割れの原因として作用する虞がある。
【0007】
このように、従来の方法では、焼ならし鋼材の高強度化、低温における優れた衝撃靭性、及び優れた水素誘起割れの防止特性をすべて確保することが難しいという問題がある。
そこで、高強度、低温における優れた衝撃靭性、及び優れた水素誘起割れの防止特性のすべてを有する焼ならし鋼材の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的とするところは、耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材を提供することにある。
本発明の他の目的とするところは、耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材は、重量%で、C:0.02~0.12%、Si:0.02~0.60%、Mn:0.6~1.6%、P:0.020%以下(0%は除く)、S:0.003%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.002~0.060%、Cu:0.005~0.6%、Ni:0.005~1.0%、Cr:0.005~0.5%、Mo:0.01~0.3%、Ti:0.001~0.10%、Nb:0.001~0.06%、V:0.001~0.10%、N:0.001~0.006%、Ca:0.0002~0.0060%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)が0.05%以上であり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/Cが0.8以上であり、微細組織として、フェライトと、残りのパーライト、セメンタイト、及びMA(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上とを含み、上記フェライトの分率が面積%で90%以上(100%を除く)であり、上記パーライト、セメンタイト、及びMAのうち1種以上の全体の分率が面積%で10%以下であり、上記フェライト組織内における平均サイズ100nm以下の微細な炭窒化析出物が重量%で0.03%以上存在し、上記フェライト組織の平均結晶粒サイズが20μm以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.02~0.12%、Si:0.02~0.60%、Mn:0.6~1.6%、P:0.020%以下(0%は除く)、S:0.003%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.002~0.060%、Cu:0.005~0.6%、Ni:0.005~1.0%、Cr:0.005~0.5%、Mo:0.01~0.3%、Ti:0.001~0.10%、Nb:0.001~0.06%、V:0.001~0.10%、N:0.001~0.006%、Ca:0.0002~0.0060%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)が0.05%以上であり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/Cが0.8以上であるスラブを1080~1300℃に再加熱する段階と、上記のように再加熱されたスラブを圧延終了温度が850℃以上になる条件で制御圧延して熱延鋼材を得る段階と、上記熱延鋼材を550~750℃の冷却終了温度で水冷してから空冷する制御冷却段階と、上記のように冷却された鋼材を850~950℃で1.3*t[tは鋼板の厚さ(mm)]+(5~60分)間維持した後、空冷する焼ならし熱処理段階と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記焼ならし熱処理する段階によって熱処理された鋼材を500℃以上で10分以上焼戻し熱処理する段階をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、本発明の耐水素誘起割れ性及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材は、原油を採掘、処理、輸送、貯蔵するプラント設備、造船海洋構造物、及び圧力容器などに有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来方法によって製造された鋼材(比較例3)の微細組織写真である。
【
図2】本発明によって製造された鋼材(発明例1)の微細組織写真である。
【
図3】従来方法によって製造された鋼材(比較例3)の析出物分布を示す写真である。
【
図4】本発明によって製造された鋼材(発明例1)の析出物分布を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
しかし、本発明の実施形態は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものである。
また、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下説明する実施形態に限定されるものではない。
尚、明細書全体において、ある構成要素を「含む」というのは、特に反対される記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0015】
本発明の主要概念のうちの一つは、HIC伝播抵抗性及び強度をともに確保するために有利な微細なフェライトの分率を最大化し、不利な微細組織であるセメンタイト、パーライト、及びMA相などの硬質相が最小限に構成された微細組織を有するようにしたものであり、これを得るために、熱間圧延(制御圧延)及び水冷却(制御冷却)を介してフェライト結晶粒内にナノサイズの微細な析出物を生成させることにより、後続する焼ならし熱処理時にオーステナイトの生成後の成長を大きく抑制し、冷却中に生成されるフェライトの結晶粒サイズを微細に制御して、微細なフェライト及び析出物によって耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)、低温衝撃靭性、及び強度をすべて向上させるものである。
【0016】
本発明は、耐水素誘起割れ性及び低温靭性に優れた高強度の焼ならし鋼材を生産するために、Cの含有量を従来の一般的な方法よりも低く、0.12%以下の範囲に制御し、微細組織をフェライトが90%以上になるようにし、且つ熱間圧延後の冷却条件を制御して、フェライト粒内に100nm以下の微細な析出物が0.03重量%以上存在するようにすることにより、焼ならし熱処理時にオーステナイトの生成後の成長を抑制して、冷却中に生成されるフェライト結晶粒が20μm以下になるようにするとともに、低温靭性及び水素誘起割れの防止特性に不利な組織であるパーライト、セメンタイト、及びMA相(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上の分率が全体の10%以下になるように制御する。さらに、多量の微細な析出物は、強度の増加効果に加えて、吸収された水素の固着サイトとしての作用もするようにして、水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材及びその製造方法を提供するものである。
【0017】
以下、本発明の好ましい一側面による耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材について詳細に説明する。
【0018】
本発明の好ましい一側面による耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材は、重量%で、C:0.02~0.12%、Si:0.02~0.60%、Mn:0.6~1.6%、P:0.020%以下(0%は除く)、S:0.003%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.002~0.060%、Cu:0.005~0.6%、Ni:0.005~1.0%、Cr:0.005~0.5%、Mo:0.01~0.3%、Ti:0.001~0.10%、Nb:0.001~0.06%、V:0.001~0.10%、N:0.001~0.006%、Ca:0.0002~0.0060%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)が0.05%以上であり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/Cが0.8以上であり、微細組織として、フェライトと、残りのパーライト、セメンタイト、及びMA(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上とを含み、上記フェライトの分率が面積%で90%以上(100%を除く)であり、上記パーライト、セメンタイト、及びMAのうち1種以上の全体の分率が面積%で10%以下であり、上記フェライト組織内における平均サイズ100nm以下の微細な炭窒化析出物が重量%で0.03%以上存在し、上記フェライト組織の平均結晶粒サイズが20μm以下である。
【0019】
以下、鋼材の成分及びその組成範囲について説明する。
【0020】
C:0.02~0.12重量%(以下、「%」とも記する)
焼ならし鋼において、Cは、一般的にパーライト、セメンタイト又はMA相を形成して引張強度を確保するために添加される。本発明では、100nm以下の微細な析出物を生成させる重要な元素としても添加され、その含有量は0.02~0.12%に限定することが好ましい。Cの含有量が0.02%未満の場合には、炭窒化析出物の分率及びパーライトなどの分率が低下し、素地相の引張強度が低下する可能性がある。これに対し、0.12%を超えると、過度なパーライトなどの硬質相が生成され、後続する圧延において帯状に存在して低温における衝撃靭性だけでなく、耐水素誘起割れ性を低下させる虞がある。より好ましいCの含有量は0.03~0.10%であり、さらに好ましいCの含有量は0.05~0.08%である。
【0021】
Si:0.02~0.60%
Siは、脱酸、脱硫効果とともに、固溶強化の目的に添加される元素であり、降伏強度及び引張強度を確保するために0.02%以上添加することが好ましい。
一方、その含有量が0.60%を超えると、溶接性及び低温衝撃特性が低下し、製造された鋼板の表面が容易に酸化されて酸化皮膜が甚だしく形成される虞があるため、Siの含有量は0.02~0.60%に限定することが好ましい。より好ましいSiの含有量は0.05~0.45%であり、さらに好ましいSiの含有量は0.05~0.35%である。
【0022】
Mn:0.6~1.6%
Mnは、固溶強化による強度増加の効果が大きい元素であって、0.6%以上添加することが好ましい。一方、Mnを過度に添加すると、鋼板の厚さ方向の中心部での偏析が甚だしくなり、且つ偏析されたSとともに非金属介在物であるMnSの形成を助長する。中心部に生成されたMnS介在物は、後続する圧延により延伸され、結果として、低温靭性及び耐水素誘起割れ性を大きく低下させるため、Mnの含有量は1.6%以下に限定することが好ましい。より好ましいMnの含有量は0.8~1.45%であり、さらに好ましいMnの含有量は1.1~1.3%である。
【0023】
P:0.020%以下(0%を除く)
Pは、添加時の強度を増加させる効果はあるが、これに比べて、特に熱処理鋼における粒界偏析によって低温靭性を大きく阻害する元素であるため、最大限に低く管理することがよい。しかし、製鋼工程においてこれを過度に除去するためには多くのコストがかかるため、0.020%以下(0%を除く)に限定することが好ましい。
【0024】
S:0.003%以下(0%を除く)
Sは、Mnと結合して、主に鋼板の厚さ方向の中心部にMnS介在物を生成させ、低温靭性を悪くするだけでなく、水素誘起割れの発生及び伝播を助長する代表的な要因として挙げられる。したがって、耐水素誘起割れ性を確保するためには、Sを製鋼工程において最大限に除去する必要があるが、過多なコストがかかるため、0.003%以下に制限することが好ましい。より好ましいSの含有量は0.001%以下である。
【0025】
Sol.Al:0.002~0.060%
Alは、Si、Mnとともに製鋼工程において強力な脱酸剤として添加され、単独又は複合脱酸時に0.002%以上添加しなければ、かかる効果を最大限に得ることができない。一方、0.060%を超えて添加すると、その効果は飽和し、脱酸の結果物として生成される酸化性介在物中のAl2O3の分率が必要以上に増加してサイズが粗大になり、精錬中に円滑に除去されない虞がある。したがって、Sol.Alの含有量は0.002~0.06%に限定することが好ましい。より好ましいSol.Alの含有量は0.005~0.04%であり、さらに好ましいSol.Alの含有量は0.01~0.025%である。
【0026】
Cu:0.005~0.6%
Cuは、固溶及び析出によって強度を大幅に向上させることができ、湿潤硫化水素雰囲気における腐食を抑制する効果があるため添加される成分である。過度なCu添加は、鋼板の表面にクラックを誘発すること、また、高価な元素であるため経済性の面からもCuの含有量は0.005~0.6%に限定することが好ましい。より好ましいCuの含有量は0.02~0.4%であり、さらに好ましいCuの含有量は0.05~0.3%である。
【0027】
Ni:0.005~1.0%
Niは、強度増大の効果はほとんどないが、低温靭性の向上に効果的であり、特にCuを添加する場合には、スラブを再加熱する時に発生する選択的酸化による表面クラックを抑制する効果を有する。Niは、かかる効果を得るために添加されるものであり、Niも高価な元素であるため経済性の面からその含有量は0.005~1.0%に限定することが好ましい。より好ましいNiの含有量は0.02~0.5%であり、さらに好ましいNiの含有量は0.05~0.3%である。
【0028】
Cr:0.005~0.5%
Crは、固溶による降伏強度及び引張強度を増大させる効果は小さいが、焼戻しや溶接後熱処理中のセメンタイトの分解速度を遅くすることで、強度の低下を防止する効果があるため、0.005%以上を添加する。一方、Crを0.5%超えて添加すると、コストが増加するだけでなく、溶接性を悪くするため、Crの含有量は0.5%以下に限定することが好ましい。より好ましいCrの含有量は0.01~0.4%であり、さらに好ましいCrの含有量は0.02~0.2%である。
【0029】
Mo:0.01~0.3%
Moは、一般的にCrのように焼戻し又は溶接後熱処理中の強度の低下を防止するために有効な元素であり、Pなどの不純物の粒界偏析による靭性低下を防止する効果を有する。本発明におけるMoは、ナノサイズの炭窒化物を生成させ、強度を大幅に増加させる効果があり、かかる効果を得るために0.01%以上を添加する。
一方、Moは高価な元素であり、0.3%を超えて添加する場合には、硬化能が過度に増加して靭性及び耐水素誘起割れ性を劣化させる硬化相を助長するため、その含有量は0.01~0.3%に限定することが好ましい。より好ましいMoの含有量は0.02~0.2%であり、さらに好ましいMoの含有量は0.05~0.15%である。
【0030】
Ti:0.001~0.10%
Tiを添加することにより、ナノサイズの炭窒化物を大幅に増加させる効果があるため0.001%以上添加する。一方、0.10%を超えて添加すると、粗大なTiNの形の六角面体の析出物として存在して、低温における衝撃試験だけでなく、水素誘起割れの開始点として作用する虞がある。したがって、Tiの含有量は0.10%以下に制限することが好ましい。より好ましいTiの含有量は0.002~0.05%であり、さらに好ましいTiの含有量は0.005~0.03%である。
【0031】
Nb:0.001~0.06%
Nbは、スラブ再加熱時にオーステナイトに固溶され、オーステナイトの硬化能を増大させ、熱間圧延時に高温において素地と整合をなす炭窒化物として析出し、再結晶を抑制し、最終的な微細組織を微細にする効果が大きい。また、冷却後の変態中にも、サイズが100nm以下である微細な析出物を生成し、強度を大幅に増加させる効果がある。
しかし、Nbが過度に多量に添加されると、厚さ方向の中心部に粗大な析出物を形成しやすいだけでなく、溶接部の硬化能を必要以上に増加させて低温靭性及び耐水素誘起割れ性を低下させるため、Nbの含有量は0.001~0.06%に制限することが好ましい。より好ましいNbの含有量は0.002~0.05%であり、さらに好ましいNbの含有量は0.005~0.04%である。
【0032】
V:0.001~0.10%
Vは、スラブ再加熱時にほとんど全部が再固溶されて圧延状態では析出や固溶による強化効果がほとんどないが、後続する焼戻しや溶接後熱処理中に非常に微細な炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果がある。しかし、Vは高価な元素であるため、Vの含有量は0.001~0.10%に限定することが好ましい。より好ましいVの含有量は0.001~0.06%であり、さらに好ましいVの含有量は0.005~0.02%である。
【0033】
N:0.001~0.006%
Nは、添加されたNb、Ti、Mo、及びVとともに析出物を形成して鋼の結晶粒を微細化させることで、母材の強度及び靭性を向上させる。しかし、過度に添加されると、余剰の原子状態で存在して高温における脆化を助長する虞がある。また、スラブを再加熱する間に炭窒化物の再固溶の分率が減少して、本発明の重要な手段である微細な析出物の生成量が大幅に減少する原因となる。したがって、Nの含有量は、Nb、V、Mo、及びTiの含有量とスラブ再加熱温度を考慮して、0.001~0.006%に限定することが好ましい。より好ましいNの含有量は0.002~0.005%であり、さらに好ましいNの含有量は0.002~0.0045%である。
【0034】
Ca:0.0002~0.0060%
CaをAl脱後に添加すると、MnSとして存在するSと結合してMnSの生成を抑制するとともに、球状のCaSを形成して、水素誘起割れを抑制する効果を奏する。したがって、添加されたSを十分にCaSとして形成させるために、Caを0.0002%以上添加することが好ましい。一方、Caの添加量が過多になると、余剰のCaはO(酸素)と結合して粗大な酸化介在物を生成し、後続する圧延において延伸、破折されて水素誘起割れを助長する虞がある。したがって、Caの含有量の上限は0.0060%に制限することが好ましい。より好ましいCaの含有量は0.0005~0.0060%であり、さらに好ましいCaの含有量は0.001~0.0025%である。
【0035】
(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo):0.05%以上、
(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/C:0.8以上
脱窒化析出物を生成させる元素であるTi、Nb、V、及びMoの含有量を上記のように制限する理由は、焼ならし熱処理時にナノサイズの微細な析出物を十分に生成させてオーステナイトの成長を抑制することでフェライトの結晶粒を微細化させるだけでなく、微細な析出物自体によって強度が大幅に増加する効果があるため、かかる元素の含有量が一定レベル以上に添加される必要があるからである。
また、炭窒化物の重要な構成元素であるCとの比率も高くしなければ、微細な析出物が十分に生成されることができない。
したがって、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)は0.05%以上、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/Cは0.8以上に限定することが好ましい。
【0036】
本発明の好ましい一側面による耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材は、微細組織として、フェライトと、残りのパーライト、セメンタイト、及びMA(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上とを含み、上記フェライトの分率が面積%で90%以上(100%を除く)であり、上記パーライト、セメンタイト、及びMAのうち1種以上の全体の分率が面積%で10%以下であり、上記フェライト組織内における平均サイズが100nm以下の微細な炭窒化析出物が重量%で0.03%以上存在し、上記フェライト組織の平均結晶粒サイズが20μm以下である。
【0037】
上記鋼材は、90%以上(100%を除く)のフェライトと、残りの10%以下のパーライト、セメンタイト、及びMA(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上とを含む。
上記パーライト、セメンタイト、及びMAは、鋼板の強度、特に引張強度を向上させるのに大変有効であるが、過度に多くなると、そのサイズが大きくなったり、圧延によって長く延伸された形となる。この場合、低温における衝撃靭性が悪くなり、特に、水素誘起割れの発生及び伝播の経路として作用し、耐水素誘起割れ性が急激に悪くなる虞がある。したがって、上記パーライト、セメンタイト、及びMAのうち1種以上の全体の分率は面積%で10%以下に限定することが好ましい。
【0038】
上記パーライトは、帯状(banded structure)に存在せず、ASTM E1268で定義する方向性程度(The degree of orientation、オメガ_12)の値が0.1以下である微細に分散した形で存在することがよい。上記微細に分散したパーライトは、微細なフェライトの間に存在する。
上記鋼材は、焼ならし熱処理段階を含む鋼材の製造方法で製造されるものであって、上記鋼材の焼ならし熱処理後の微細組織のうちフェライト、パーライト、セメンタイト、及びMAの分率は、焼ならし熱処理前に比べて、フェライトが10%以下増加し、パーライトは10%以下減少し、セメンタイトは5%以下増加し、MAは3%以下減少したものであってもよい。
【0039】
上記フェライト組織内における平均サイズ100nm以下の微細な炭窒化析出物が0.03重量%以上存在する。
微細な炭窒化析出物の含有量が0.03重量%未満の場合には、焼ならし熱処理時のオーステナイトの成長を阻害せず、粗大なオーステナイトが生成された後の冷却中にも粗大なパーライトが生成される。同時に、析出物による強度の増加及び水素固定の効果が大幅に減少する虞がある。
上記フェライト組織の平均結晶粒サイズは20μm以下である。
上記フェライト組織の平均結晶粒サイズが20μmを超えると、組織微細化による強度及び耐水素誘起割れ性が低下する虞がある。
【0040】
上記鋼材は、485MPa以上の引張強度、-40℃における120J以上の衝撃吸収エネルギー値、及びHIC評価時における5%以下の長さ方向の亀裂の割合(CLR)を有することができる。
上記鋼材は、6~133mmの厚さを有することができる。
【0041】
以下、本発明の好ましい一側面による耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材の製造方法について説明する。
本発明の好ましい一側面による耐水素誘起割れ性(耐HIC特性)及び低温衝撃靭性に優れた高強度鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.02~0.12%、Si:0.02~0.60%、Mn:0.6~1.6%、P:0.020%以下(0%は除く)、S:0.003%以下(0%は除く)、Sol.Al:0.002~0.060%、Cu:0.005~0.6%、Ni:0.005~1.0%、Cr:0.005~0.5%、Mo:0.01~0.3%、Ti:0.001~0.10%、Nb:0.001~0.06%、V:0.001~0.10%、N:0.001~0.006%、Ca:0.0002~0.0060%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)が0.05%以上であり、(Ti+V+0.5Nb+0.5Mo)/Cが0.8以上であるスラブを1080~1300℃に再加熱する段階と、上記のように再加熱されたスラブを圧延終了温度が850℃以上になる条件で制御圧延して熱延鋼材を得る段階と、上記熱延鋼材を550~750℃の冷却終了温度に水冷してから空冷する制御冷却段階と、上記のように冷却された鋼材を850~950℃で1.3*t[tは鋼板の厚さ(mm)]+(5~60分)の間維持した後、空冷する焼ならし熱処理段階と、を含む。
【0042】
再加熱段階
上述した組成を有するスラブを1080~1300℃に再加熱する。
再加熱温度が1080℃よりも低い場合には、連続鋳造中にスラブ内に生成された炭化物などの再固溶が難しくなり、再加熱温度が1300℃を超えると、オーステナイト結晶粒サイズが過度に粗大になって、結果として、鋼板の引張強度や低温靭性などの機械的物性が大幅に低下する虞がある。特に、添加したTi、Nb、V、Moなどが十分に再固溶することができる温度に再加熱する必要があるため、スラブ再加熱温度は1080~1300℃に限定することが好ましい。より好ましいスラブ再加熱温度は1150~1280℃である。
【0043】
熱延鋼材を得る段階
再加熱されたスラブを圧延終了温度が850℃以上になる条件で制御圧延して熱延鋼材を得る。
再加熱されたスラブを一般圧延すると、過度に高温で圧延が終了するようになって、結晶粒微細化効果が少なくなる。また、過度に低い温度まで制御圧延すると、再固溶されたNbなどが炭窒化物として析出し、高温で生成された析出物はそのサイズが大きく、結果として、後続する焼ならし中のオーステナイトの結晶成長を抑制する効果が大幅に減少する虞がある。また、精錬過程において生成された粗大な複合介在物は、圧延温度が低くなるほど鋼板の強度が増加し、圧延による変形を収容しなければならなくなる。そのため、小さいサイズの介在物に分節されたり、又は非晶質の介在物は長く延伸される。このように延伸又は分節された介在物は、水素誘起割れの発生及び伝播の直接的な原因となる。かかる現象を考慮して、圧延終了温度は850℃以上に制限することが好ましい。より好ましい圧延終了温度は850~1050℃である。上記圧延終了温度はAr3+70℃~Ar3+270℃であることができる。
尚、上記熱延鋼材は6~133mmの厚さを有することがよい。
【0044】
制御冷却段階
上記熱延鋼材を550~750℃の冷却終了温度に水冷してから空冷する。
上記のとおり制御圧延された鋼材に対して水冷及び空冷する制御冷却を行う。制御圧延後に水冷を行うと、水冷中にフェライトが高温で生成されることをほとんど防止することができ、空冷よりも低い温度で生成させて微細化する効果が大きい。特に、550~750℃の範囲で冷却を終了すると、フェライトの生成と同時に、微細な炭窒化物が生成される。この際に生成される析出物は100nm以下と非常に微細である。冷却終了温度が750℃を超えると、フェライトが高温で生成されて粗大となり、析出物も粗大に生成され、その効果が大幅に減少するようになる。これに対し、冷却終了温度が550℃未満と低くなると、微細な析出物が生成されないことが原因となって十分な強度が確保されなかったり、又は冷却速度が速い場合にはフェライトの生成が抑制され、硬いベイナイト相が生成されて、強度は高いものの低温における靭性が大幅に減少するという問題が発生する虞がある。したがって、制御冷却の冷却終了温度は成分や圧延条件などを考慮して550~750℃に制限することが好ましい。より好ましい冷却終了温度は580~670℃である。
【0045】
上記制御冷却後の鋼材は、フェライトが90%以上(100%を除く)であり、パーライト、セメンタイト、及びMA相のうち1種以上の全体の分率が10%以下である微細組織を有するとともに、フェライト粒内における平均サイズ100nm以下の微細な析出物が0.03重量%以上存在するようになり得る。
【0046】
焼ならし熱処理段階
上記のように冷却された鋼材を850~950℃で1.3*t[tは鋼板の厚さ(mm)]+(5~60分)の間維持した後、空冷する焼ならし熱処理する。
焼ならし熱処理時における維持温度が850℃よりも低いと、固溶溶質元素の再固溶が難しくなるため、強度の確保が難しくなる。一方、維持温度が950℃よりも高くなると、結晶粒の成長が起こり、低温靭性を阻害するようになる。
ここで、焼ならし熱処理時における維持時間に制約を置く理由は、維持時間が基準時間よりも短くなると、組織の均質化が難しくなり、それより長い時間を維持すると、生産性を阻害するためである。
したがって、焼ならし熱処理時における維持時間は、1.3*t[tは鋼板の厚さ(mm)]+(5~60分)に限定することが好ましい。
【0047】
焼ならし熱処理後の鋼材の微細組織は、フェライトと、残りのパーライト、セメンタイト、及びMA(マルテンサイト-オーステナイトの複合相)のうち1種以上とを含み、上記フェライトの分率が面積%で90%以上(100%を除く)であり、上記パーライト、セメンタイト、及びMAのうち1種以上の全体の分率が面積%で10%以下であり、上記フェライト組織内に100nm以下の微細な炭窒化析出物が重量%で0.03%以上存在し、フェライト組織の平均結晶粒サイズが20μm以下であることが好ましい。
焼ならし熱処理後の鋼材の微細組織のうちフェライト、パーライト、セメンタイト、及びMAの分率は、焼ならし熱処理前に比べて、フェライトは10%以下増加し、パーライトは10%以下減少し、セメンタイトは5%以下増加し、MAは3%以下減少することができる。
このように、本発明に基づいて、鋼組成、制御圧延、制御冷却、及び焼ならし熱処理方法を最適に制御することにより、従来の方法よりも靭性及び耐水素誘起割れ性に不利なパーライト、セメンタイト、及びMAなどの硬化組織を最小限に抑えるとともに、組織の微細化を介して高強度、低温靭性、及び耐水素誘起割れ性にすべて優れた高強度鋼材を効果的に製造することができる。
【0048】
焼戻し熱処理段階
焼ならし処理された鋼材を、必要に応じて、500℃以上で10分以上焼戻し熱処理する。
焼戻し熱処理は、低温における靭性及び強度の増加を目的に行う。また、焼戻し温度を500℃以上で行うことが好ましい。焼戻し温度が500℃よりも低いと、鋼材の残留応力が円滑に除去されなかったり、又は所望の微細な析出物の生成がわずかとなる虞がある。一方、焼戻し熱処理時間が10分未満の場合には、析出物の生成がわずかであるため、10分以上に限定することが好ましい。
焼戻し熱処理により、鋼材の微細組織のうちフェライトの分率は面積%で3%以下増加することになり、パーライト、セメンタイト、及びMAの全体の分率は面積%で3%以下減少することになる。
焼戻し熱処理により、鋼材中の炭窒化析出物の含有量は0.001~0.005重量%増加する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
下記表1の鋼組成(化学組成)を有するスラブを下記表2の製造条件で再加熱し、再加熱されたスラブを制御圧延して表2の厚さを有する熱延鋼材を得た後、制御冷却及び焼ならし熱処理して鋼材を製造した。
この際、焼ならし熱処理時間は1.3*t[tは鋼板の厚さ(mm)]+20分であった。
【0050】
上記のように製造された鋼材に対してフェライトの分率(面積%)及び平均結晶粒サイズ(μm)、微細析出物の含有量(重量%)及び平均サイズ(nm)、パーライト分率(面積%)、焼ならし後の降伏強度(MPa)、引張強度(MPa)、衝撃吸収エネルギー(J、-49℃)、HIC CLR(%)を調査し、その結果を下記表3及び表4に示した。
【0051】
表3において、微細組織のうちフェライト及びパーライト以外の組織は、セメンタイト、及びMAのうち1種以上である。
一方、発明例1及び比較例3に対して微細組織及び析出物の分布を観察し、その結果を
図1~
図4に示した。
図1には比較例3の微細組織写真、
図2には発明例1の微細組織写真、
図3には比較例3の析出物分布写真、
図4には発明例1の析出物分布写真を示した。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
表3及び表4に示したとおり、本発明の鋼組成及び製造条件によって製造された鋼材(発明例1~3)は、485MPa以上の引張強度、-40℃で120J以上の衝撃吸収エネルギー値、及びHIC評価時における5%以下の長さ方向の亀裂の割合(CLR)を有することが分かる。かかる本発明の鋼材は、造船、海洋及び圧力容器用鋼材として用いるのに非常に有効である。
【0057】
一方、比較例1は、成分は本発明の範囲を満たすものの、スラブ再加熱温度が発明の範囲よりも低く、スラブ製造時に生成された粗大な炭窒化析出物が十分に再固溶されず、後続する圧延、冷却時に微細な析出物として生成される分率が大幅に減少し、焼ならし後の強度の増加効果がほとんどない結果を示した。
比較例2も、成分は本発明の範囲を満たすものの、圧延後の冷却工程における冷却終了温度が発明の範囲よりも低く、析出物が生成される速度が遅すぎたため、結果として、十分な炭窒化物が生成されなかった。この場合にも、焼ならし後の強度が十分に確保されなかった結果を示した。
【0058】
比較例3は、成分は本発明の範囲を満たすものの、圧延後に制御冷却を適用せず、空冷する従来の製造方法を行った場合であり、遅すぎる冷却速度により、高温におけるフェライト変態が開始され、粗大なフェライトが生成されただけでなく、微細な析出物の生成も十分でない場合であった。この場合、最終的な微細組織は、
図1に示したとおり、フェライト(写真上の白色部分)が粗大であるだけでなく、若干のMA組織を含むパーライト(写真上の黒色部分)も帯状に生成され、強度及び衝撃靭性ならびにHIC特性がすべて十分に確保されない結果を示した。
比較例4は、添加された炭窒化物の生成元素が十分でない場合を示した。すべての製造条件が本発明の範囲で製造されても、生成された微細析出物の量が十分でないため強度が十分に確保されなかった結果を示した。
【0059】
比較例5は、Cの添加量が本発明の範囲を超えた場合を示した。Cの含有量が増加するほど析出される炭窒化物の量は増加するが、Cの割合が合金元素よりも高くなると、生成される炭窒化物が粗大に生成され、後続する焼ならし中にオーステナイトの成長を抑制する能力が減少し、それ自体の強度の増加効果も大幅に減少して、結果として、強度及び低温における靭性がともに劣化した結果を示した。
比較例6は、Moの添加量が本発明の範囲を超えた場合である。Moは、微細な析出物を生成するのに重要な元素である一方で、固溶されたMoは鋼材の硬化能を大幅に増加させて、焼ならし後の冷却中に残りのオーステナイトがマルテンサイト-オーステナイトの複合相(MA constituent)を生成するように助長する。その結果、鋼材の降伏強度は低くなり、引張強度は大幅に増加するとともに、低温における靭性は大きく低下する結果を示した。
【0060】
比較例7は、Tiの添加量が本発明の範囲を超えた場合である。Tiも、微細な析出物を生成するのに最も重要な元素であるが、過度に添加すると、非常に粗大なサイズの析出物が生成され、これは破壊の起点として作用し、低温における靭性及び耐水素誘起割れ性を大きく劣化させる結果を示した。
比較例8は、Nの添加量が本発明の範囲を超えた場合であるが、Nが過度に 添加されると、再加熱温度を高くしてもスラブ製造時に生成された粗大な炭窒化物の再固溶量が大幅に減少するようになる。したがって、後続する製造条件が本発明の範囲を満たしても、生成される微細な炭窒化物の分率が大きく低下し、十分な強化効果を得ることができない結果を示した。
【0061】
一方、従来の方法によって製造された鋼材(比較例3)は、
図1に示したとおり、パーライトが帯状(banded structure)として存在する。これに対し、本発明によって製造された鋼材(発明例1)は、
図2に示したとおり、パーライトが帯状に存在せず、微細に分散した形で存在するだけでなく、本発明によって製造された鋼材(発明例1、
図4)には、従来の方法によって製造された鋼材(比較例3、
図3)に比べて、より微細な析出物が多く分布することが分かる。
上記のとおり、本発明の鋼組成及び製造条件によって鋼材を製造する場合には、従来の方法よりも靭性及び耐水素誘起割れ性に不利なパーライトなどの硬化組織を最小限に抑えるとともに、組織の微細化を介して高強度、低温靭性ならびに耐水素誘起割れ性にすべて優れた効果が得られることが確認された。