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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】多心フェルール用研磨材
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B24D3/00 320A
B24D3/00 330G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020555697
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2019044227
(87)【国際公開番号】W WO2020100848
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018213187
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 祐輔
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027671(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなるバインダと、
前記バインダ中に分散される砥粒と、
を有し、
前記砥粒は、
前記砥粒と前記バインダとの質量の和を基準として88.5%超含有され、
前記砥粒の質量を基準として粒径0nm以下の粒子である小径粒子が7%以上100%未満存在し、
粒径100nm以上の粒子を含む、
シリカから構成される、
多心フェルール用研磨材。
【請求項2】
前記小径粒子はピークトップ粒径0nm以下の粒子である請求項1に記載の多心フェルール用研磨材。
【請求項3】
前記砥粒はピークトップ粒径120nm以上の粒子を含む請求項1又は2に記載の多心フェルール用研磨材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバをまとめた多心フェルールの端面の研磨に用いる多心フェルール用研磨材に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の伝達手段として使用される光ファイバは、近年の大容量化、高効率化の要求に伴い、光損失ができるだけ小さいことが要求される。光ファイバと光ファイバとの接続には、光コネクタが用いられる。光コネクタは、フェルールを有する。フェルールには光ファイバが挿通される挿通孔が形成されている。光ファイバは、接着剤等によりフェルールに固定される。
【0003】
光コネクタの接続端面の品質は、光ファイバの光学特性に影響することから、非常に重要となる。そのため、光コネクタ端面には、複数段階の研磨により鏡面加工がなされる。研磨の最終仕上げとして、微細な砥粒を含む研磨層を備えた研磨シート、研磨テープ、研磨砥石、研磨布等の研磨材を使用した精密な鏡面研磨が行われる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-1803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、光ファイバの大容量化を実現するために複数の光ファイバをまとめた多心光ファイバが開発されている。多心光ファイバの接続には多心フェルールが用いられており、その端面は更に精密な鏡面仕上げが要求される。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、多心フェルールの研磨に好適な多心フェルール用研磨材を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
多心フェルールを研磨する場合、複数の光ファイバの高さが所定値よりも高く且つ研磨後に均一になっていることが望まれ、少しの研磨で均一な研磨状態を実現することが要求される。また、光ファイバを構成するコアの凹み(core dip)の生成が抑制されること、研磨面に傷がつかないことも要求される。
【0008】
これらの要求事項は互いに相反するものもある。本発明者らは上記課題を解決する目的で鋭意研究を行った結果、光ファイバの高さに関しては、粒径が小さい砥粒を含有させることで解決し、core dipの抑制はシリカを砥粒に採用することで解決した。また、砥粒の量を多くし且つ一定の大きさの砥粒を含有させることで表面を傷無く研磨できることを見出した。つまり本願発明者らは研磨材に含有させる砥粒の種類や量について好適な範囲があることを発見して以下の発明を完成した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明の多心フェルール用研磨材は、樹脂材料からなるバインダと、前記バインダ中に分散される砥粒とを有する。そして前記砥粒は、前記砥粒と前記バインダとの質量の和を基準として88.5%超含有され、前記砥粒の質量を基準として粒径100nm以下の粒子である小径粒子が70%以上100%未満存在し、シリカから構成される。
【0010】
そして、前記小径粒子はピークトップ粒径50nm以下の粒子であることが好ましい。この範囲に制御することで光ファイバの高さの均一化の実現が更に容易になる。
【0011】
更に、前記砥粒はピークトップ粒径120nm以上の粒子を含むことにより研磨後の表面状態が傷の無い状態にすることが容易になるため好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多心フェルール用研磨材は上記構成を有することから多心フェルールの研磨に適用した場合に得られた多心フェルールが高い性能を発現できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の多心フェルール用研磨材について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の多心フェルール用研磨材は多心フェルールの端面を研磨する部材である。多心フェルールは複数の光ファイバをまとめたものであり、光ファイバを接続する光コネクタを構成する部材である。
【0014】
本実施形態の多心フェルール用研磨材は、砥粒とバインダとその他必要な部材とからなる。
【0015】
砥粒は、砥粒とバインダとの質量の和を基準として88.5%超含有され、89.5%以上含有されることが好ましい。特に90%以上含有することが好ましい。
【0016】
砥粒はシリカから構成される。シリカ以外の材料も混合することができるが、シリカの量は砥粒全体の質量を基準として95%以上であることが好ましく、97.5%以上であることがより好ましく、更には99%以上であることが更に好ましい。シリカ以外の材料はシリカからなる粒子とは別の粒子として含有させることもできるし、シリカと同一の粒子中に含有されることもできる。
【0017】
砥粒は粒度分布が規定される。具体的には、砥粒全体の質量を基準として、小径粒子が70%以上100%未満存在する。小径粒子の存在量の下限としては75%、80%、85%、90%、95%、98%を採用することができる。小径粒子はある一定の粒径以下の粒径をもつ粒子である。ある一定の粒径としては粒径0.1μm以下の粒子であり、更には30nm以下の粒子であることが好ましく、20nm以下の粒子であることがより好ましい。小径粒子は前述したある一定の粒径以下の粒径においてピークトップを有することが好ましい。ピークトップとは体積基準で粒度分布を表した場合にピークを有することであり、ピークトップの粒径とはそのピークにおける粒径を示す。ピークトップの粒径としてはある一定の粒径以下の粒径の範囲内におけるモード径であることが好ましい。小径粒子がもつピークトップの粒径としては50nm以下であることが好ましく、30nm以下であること、更には20nm以下であることがより好ましい。
【0018】
砥粒の形態は特に限定しないが球状の球状シリカ、破砕状の破砕シリカなどが採用できる。また、粒径が100nm以上の粒子を含有させることが好ましい。特にピークトップをもち、そのピークトップの粒径が120nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが更に好ましい。更に、研磨面の傷を抑制するために粒径5μm以上の粒子を含有しないことが望ましい。
【0019】
本明細書において「粒径」とはレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA-750:堀場製作所製)と動的光散乱式ナノトラック粒度分布計(UPA-EX150:日機装株式会社製)とを組み合わせて測定された値である。
【0020】
具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて700モードにてスラリー数滴を滴下した流体をフローセル測定することで粒径が大きい範囲が測定でき、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計を用いメチルエチルケトンに分散した状態でバッチ式にて測定することで粒径100nm以下の粒子の粒径を確認する。両者の測定結果を組み合わせることで粒度分布を測定する。
【0021】
球状シリカは金属シリコンを酸素と反応させて製造できる。金属シリコンを酸素と反応させて製造する方法によると、平均粒子径が0.05μmから10μm程度の球状シリカを容易に得ることができる。
【0022】
破砕シリカとはシリカを破砕して製造され得る微粒子である。外観上の特徴としては角張った表面をもつ。特に、前述の球状シリカを破砕して得られ得る形態のものを採用することが望ましい。破砕の方法としては特に限定しない。例えば、ビーズミル、ジェットミル、ボールミル、振動ボールミルが挙げられる。
【0023】
バインダは樹脂材料を採用する。例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などを硬化剤などで硬化させた樹脂材料が挙げられる。このバインダ内に前述の砥粒を分散させて研磨層を形成する。
【0024】
その他必要な部材としては支持基材が挙げられる。支持基材としてフィルム状の部材を採用し、砥粒とバインダとからなる研磨層をその表面に形成することでフィルム状の多心フェルール用研磨材を提供することができる。また、支持基材としてはフィルム状以外の適正な形態のものを採用することもでき、砥粒とバインダとからなる研磨層をその表面に形成することで目的の形態をもつ多心フェルール用研磨材を得ることができる。更に、支持基材がなくても砥粒とバインダとを組み合わせたもののみでも多心フェルール用研磨材を構成することができる。
【0025】
支持基材を構成する材料は、必要な弾性及び強度を有し、研磨層を保持できるものであればよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート等からなるフィルム等が好適である。支持基材として薄膜状のフィルムを採用する場合の厚さは、特に限定されるものではなく、例えば、25~150μm程度とすればよい。
【0026】
また、支持基材と研磨層との接着性の向上、研磨層の表面のパターニング等、目的に応じて、支持基材の表面に予めバッファー層を形成してもよい。例えば、支持基材表面に易接着層を形成してバッファー層とすればよい。また、支持基材表面を熱処理、コロナ処理、プラズマ処理等してバッファー層を形成してもよい。易接着層は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等からなるバッファー塗工液を、支持基材表面に塗布、乾燥することで形成できる。
【0027】
・多心フェルール用研磨材の製造方法
本実施形態における多心フェルール用研磨材は、バインダに砥粒を適正に分散させることで製造される。砥粒の分散はバインダを構成する樹脂材料と共に混練したり、樹脂材料になる前のモノマー・プレポリマーなどの前駆体に混合・分散させた後にその前駆体を反応させて樹脂材料にしたりすることもできる。特に砥粒は予め有機溶媒中に分散してスラリー化した後、バインダに混合・分散することが望ましい。その場合に分散媒として採用する有機溶媒は、バインダを構成する樹脂(又は、その前駆体)を溶解する溶媒又は前駆体自身と混合可能な有機溶媒を採用することが望ましい。
【0028】
前述の支持基材の表面に前駆体と砥粒との混合物を塗布した後に前駆体を反応させることで研磨層を支持基材の表面に形成することができる。
【0029】
砥粒を構成するシリカ粒子を得る方法は特に限定しないが、金属シリコンを酸素と反応させる方法、シリカを熱により溶融させる方法、ゾルゲル法などの一般的な方法が採用できる。特に、金属シリコンを酸素と反応させる方法とゾルゲル法とを組み合わせることが望ましい。
【実施例
【0030】
(試料の調製)
・試料1:小径粒子の含有量が98%
小径粒子としての、粒径100nm以下且つピークトップ(モード径)50nm以下のシリカ粒子と、3μm以上の粗粒をほぼ含まない体積平均粒径200nmのシリカ粒子とを小径粒子の含有量が砥粒の質量を基準として98%になるように混合した。その後、バインダを構成する樹脂材料の前駆体としてのカルバメート系モノマと混合しスラリーとした。得られたスラリーを厚み75μm、PET製の樹脂板の表面に厚み20μm以下となるように塗布して試料1の研磨材とした。砥粒の量は、砥粒とバインダとの質量の和を基準として88.5%、89.0%、89.5%、90.0%、90.5%のそれぞれについて製造した。
【0031】
・試料2:小径粒子の含有量が75%
小径粒子の含有量を75%にした以外は試料1と同様の方法で試料2の研磨材を製造した。
【0032】
・試料3:小径粒子の含有量が70%
小径粒子の含有量を70%にした以外は試料1と同様の方法で試料3の研磨材を製造した。
【0033】
・試料4:小径粒子の含有量が90%
小径粒子の含有量を100%にした以外は試料1と同様の方法で試料4の研磨材を製造した。
【0034】
・試料5:小径粒子の含有量が100%
小径粒子の含有量を100%にした以外は試料1と同様の方法で試料5の研磨材を製造した。
【0035】
・試料6:砥粒としてセリアを採用
砥粒として体積平均粒径10nmのセリアを単独で採用した以外は試料1と同様の方法で試料6の研磨材を製造した。
【0036】
・試料7:小径粒子の含有量が65%
小径粒子の含有量を65%にした以外は試料1と同様の方法で試料7の研磨材を製造した。
【0037】
(評価)
それぞれの試料の研磨材を用いて多心フェルールの端面を研磨した。多心フェルールは4心のものを採用した。
【0038】
研磨機:ATP-3000(NTT-AT社製)に各試験研磨フィルムを貼り付けて研磨フィルム上に蒸留水を滴下して、多心フェルールを研磨した。研磨条件は所定の圧力で30秒間行った。
【0039】
光コネクタの端面の評価をクリーニング後に行った。なお、上記研磨前に前処理として1μmのダイヤモンド研磨シートにて所定の圧力で30秒間研磨を行った。
【0040】
研磨後の多心フェルールについて、core dip、ファイバ高さ(平均値)、ファイバ高さ(最大値と最小値との差)、隣接ファイバの高さの差、端面状態の評価を行った。
【0041】
・core dip
砥粒としてセリアを用いた試料6以外は10nm以下の値であった。
【0042】
・ファイバ高さ(平均値)
小径粒子の含有量が70%以上である試料1~5については全て1000nm以上の値になった。小径粒子の含有量が70%未満である試料7について約300nmと1000nmに満たない値になった。小径粒子の含有量が大きくなるにつれてファイバの高さが大きくなる傾向が認められた。
【0043】
・ファイバ高さのばらつき(最大値と最小値との差)
小径粒子の含有量が70%以上である試料1~5については全て500nm以下の値になった。小径粒子の含有量が70%以上未満である試料7については約600nmと500nmを超える値になった。小径粒子の含有量が大きくなるにつれてファイバの高さのばらつきが小さくなる傾向が認められた。(同上)
【0044】
・隣接ファイバの高さの差
小径粒子の含有量が70%以上である試料1~5については全て300nm以下の値になった。小径粒子の含有量が70%以上未満である試料7については380nmと300nmを超える値になった。小径粒子の含有量が大きくなるにつれて隣接するファイバ高さの差が小さくなる傾向が認められた。(同上)
【0045】
・端面状態
試料1~5のうち砥粒の含有量が89.5%以上である試料については全て傷(スクラッチ)の数が0であった。89.0%にするとスクラッチの数の平均が1になり、88.5%になるとスクラッチの数の平均が4になった。
【0046】
・まとめ
以上の結果から、core dipの値を小さくするためには砥粒の主成分をシリカにすることが有効であることが判明し、ファイバ高さの値及びばらつきを好ましい値にするには小径粒子の含有量を70%以上の大きな値にすると良いことが分かった。
【0047】
また、小径粒子の含有量は100%ではなく、大きな粒径の砥粒を幾らか含有させること(試料1:小径粒子が98%)で小径粒子が100%の試料5と比べてフェルール端面状態がよくなることが分かった。更に試料1の結果から、砥粒の含有量を89.5%以上にすることでもフェルールの端面状態を良くすることができることが分かった。