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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】セラミック部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/101 20060101AFI20221220BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20221220BHJP
   H01T 13/38 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C04B35/101
B32B18/00 A
H01T13/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020569687
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2020003190
(87)【国際公開番号】W WO2020158806
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2019014446
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】豊田 諭史
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】竹之下 英博
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-132471(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105237012(CN,A)
【文献】特開昭52-090507(JP,A)
【文献】特開2017-115789(JP,A)
【文献】特開2011-134844(JP,A)
【文献】特開2008-132913(JP,A)
【文献】特開2007-284264(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0248707(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第10238053(DE,A1)
【文献】特開2011-219301(JP,A)
【文献】特開昭57-118079(JP,A)
【文献】特開2002-246144(JP,A)
【文献】特開2001-2464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
B32B 18/00
H01T 13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から深さ0.1mmまでの領域を表面部とし、表面から深さ0.5mm以上の領域を内部とした場合、
前記内部および前記表面部は、アルミナ結晶と、Si、Ca、MgおよびOとを含有するガラスと、を含有
前記内部における前記アルミナ結晶量は、70質量%以上、89質量%以下であり、
前記内部における前記ガラスが占める面積比率が、前記表面部における前記ガラスが占める面積比率よりも多いセラミック部材。
【請求項2】
前記内部における前記ガラスが占める面積比率が、前記表面部における前記ガラスが占める面積比率よりも4面積%以上多い請求項1に記載のセラミック部材。
【請求項3】
前記表面部における前記ガラスが占める面積比率は、20面積%以下である請求項1または請求項2に記載のセラミック部材。
【請求項4】
前記表面部における前記アルミナ結晶量は、前記内部における前記アルミナ結晶量よりも多い、請求項1~3のいずれか一つに記載のセラミック部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック部材に関する。
【背景技術】
【0002】
高温での使用が前提となる製品、例えば、自動車の車内暖房に使われるヒータ等には、600℃程度の温度で使用しても破損するおそれが少ない耐熱部材が使用されている。
【0003】
ここで、耐熱部材の材料には、大気環境下において、600℃程度の温度でも酸化しにくく、長期間に亘っての使用が可能であるアルミナ質セラミックスが広く採用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-2464号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の耐熱部材は、アルミナ結晶と、Si、Ca、MgおよびOからなるガラスと、を含有するアルミナ質セラミックスからなり、内部における前記ガラスが占める面積比率が、表面部における前記ガラスが占める面積比率よりも多い。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示の耐熱部材について、以下詳細に説明する。
【0007】
本開示の耐熱部材は、アルミナ結晶およびガラスを含有する。本開示の耐熱部材は、アルミナ結晶と、ガラスと、を含有するアルミナ質セラミックスからなる。ガラスは、珪素(Si)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)および酸素(O)を構成成分とする。ここで、ガラスとは、酸化珪素(SiO2)に酸化カルシウム(CaO)および酸化マグネシウム(MgO)を含む、混合ガラスである。
【0008】
本開示の耐熱部材は、内部におけるガラスが占める面積比率が、表面部におけるガラスが占める面積比率よりも多い。ここで、表面部とは、耐熱部材の表面を含む、耐熱部材の表面から深さ0.1mmまでの領域をいう。一方、内部とは、耐熱部材の表面から深さ0.5mm以上の領域をいう。
【0009】
このような構成を満足することで、本開示の耐熱部材は優れた耐熱衝撃性および優れた機械的強度を有する。一般的に、アルミナ結晶はガラスよりも優れた機械的強度を有する。また、ガラスは、アルミナ結晶よりも優れた耐熱衝撃性を有する。また、一般的に、熱衝撃は内部を起点に生じやすい傾向にある。本開示の耐熱部材は、内部におけるガラスが占める面積比率が表面部におけるガラスが占める面積比率より大きい。そのため、本開示の耐熱部材は、高い耐熱衝撃性を有する。また、本開示の耐熱部材は、表面部におけるアルミナ結晶が占める面積比率が内部におけるガラスが占める面積比率より大きい。したがって、本開示の耐熱部材は、表面部において優れた機械的強度を有する。そのため、耐熱部材の表面部には亀裂が生じにくい。
【0010】
ここで、優れた機械的強度とは、JIS R 1601-2008に準拠した、室温(25℃)での3点曲げ強度の値が280MPa以上のことである。
【0011】
また、優れた耐熱衝撃性とは、水中投下試験における耐熱温度が250℃以上であることである。ここで、水中投下試験における耐熱温度とは、T2(℃)に加熱した、3mm×4mm×36mmの試験片を、T2よりも低い温度であるT1(℃)の水中へ投下したときに、試験片に亀裂または欠けが発生しない温度差T2-T1(℃)の最大値のことである。
【0012】
本開示の耐熱部材の主成分は、アルミニウム(Al)、酸素(O)を構成元素とするアルミナ(Al23)である。アルミナは結晶の形態(アルミナ結晶)で存在していてもよい。アルミナ結晶は、α-Al23結晶(α-アルミナ結晶)であってもよい。
【0013】
本開示の耐熱部材がアルミナ質セラミックスからなるとは、AlのAl2O3換算での含有量の下限値が70質量%以上であることをいう。
【0014】
本開示の耐熱部材に含まれるAlのAl2O3換算での含有量の上限は、93質量%であってもよい。
【0015】
そして、本開示の耐熱部材は、構成される全成分100質量%のうちの含有量が、AlがAl23換算で70質量%以上89質量%以下であり、SiをSiO2、CaをCaO、MgをMgOに換算した値の合計が11質量%以上30質量%以下であるアルミナ質セラミックスであってもよい。
【0016】
なお、本開示の耐熱部材は、Al、Si、Ca、Mg、O以外に、例えば、不可避不純物を合計で0.3質量%以下含有してもよい。不可避不純物としては、例えば、Na、Fe、Tiであり、構成される全成分100質量%のうちの含有量が、NaがNa2O換算で0.01質量%以上0.1質量%以下、FeがFe23換算で0.01質量%以上0.1質量%以下、TiがTiO2換算で0.01質量%以上0.1質量%以下であってもよい。
【0017】
次に、本開示の耐熱部材が、アルミナ結晶およびガラスを含有しているか否かは、以下の方法で確認すればよい。まず、本開示の耐熱部材を粉砕した後、X線回折装置(XRD)を用いて測定する。そして、得られた2θ(2θは、回折角度である。)の値よりJCPDSカードを用いて同定を行なうことにより、アルミナ結晶の存在を確認することができる。また、低角度側のハローパターンの存在によりガラスの有無を確認することができる。
【0018】
また、ガラスが珪素(Si)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、酸素(酸素)を構成成分とすることの確認方法としては、耐熱部材を切断し、鏡面に研磨した断面を観察面する。次に、この観察面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEMに付設のエネルギー分散型分析装置(EDS)により、結晶以外の非晶質部分が確認されればその部分がガラスであり、その部分に電子線を照射して発生した蛍光X線(特性X線)を解析することにより、珪素、カルシウム、マグネシウムおよび酸素を含むガラスであるか否かを確認できる。
【0019】
また、本開示の耐熱部材を構成する成分の含有量は、以下の方法で確認すればよい。まず、ICP発光分光分析装置(ICP)を用いて、耐熱性部材の含有成分の定量分析を行なう。そして、ICPで測定したアルミニウム(Al)、珪素(Si)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)の含有量から、それぞれを酸化物換算して算出すればよい。
【0020】
なお、構成される全成分100質量%のうち、SiのSiO2換算での含有量と、CaのCaO換算での含有量と、MgのMgO換算での含有量との合計は、8質量%以上30質量%以下であるが、SiのSiO2換算での含有量は6質量%以上17質量%以下、CaのCaO換算での含有量は0.5質量%以上9質量%以下、MgのMgO換算での含有量は0.5質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0021】
また、表面部および内部におけるガラスが占める面積比率は、以下の方法で確認すればよい。まず、耐熱部材の表面を鏡面に研磨した面を第1観察面とする。また、耐熱部材の内部が露出するように切断し、この切断面を鏡面に研磨した面を第2観察面とする。次に、第1観察面の表面部、第2観察面の内部の写真をSEMで撮影して得る。このとき、表面部および内部それぞれの各写真は、SEMで倍率を2000倍以上4000倍以下で撮影する。また、表面部および内部それぞれの写真の撮影面積は、2000μm2以上8000μm2以下となるようにする。
【0022】
次に、写真において、ガラスの箇所をトレースして黒く塗りつぶす。このトレースした画像を画像解析ソフト「A像くん」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製であり、以降に画像解析ソフト「A像くん」と記した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示すものとする。)の粒子解析という手法を適用して画像解析を行なうことで、表面部および内部におけるガラスが占める面積比率を算出すればよい。なお、「A像くん」の解析条件としては、粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「自動」、シェーディングを「有」とすればよい。
【0023】
また、本開示の耐熱部材は、表面部におけるガラスが占める面積比率が、内部における前記ガラスが占める面積比率よりも4面積%以上少なくてもよい。このような構成を満足するならば、本開示の耐熱部材の機械的強度が向上する。
【0024】
また、本開示の耐熱部材は、表面部におけるガラスが占める面積比率は、20面積%以下であってもよい。このような構成を満足するならば、表面部に亀裂がより発生しにくいため、本開示の耐熱部材の機械的強度が向上する。
【0025】
なお、本開示の耐熱部材は、表面部におけるガラスが占める面積比率は、例えば、5面積%以上であってもよい。また、本開示の耐熱部材は、内部におけるガラスが占める面積比率は、例えば、9面積%以上40面積%以下であってもよい。
【0026】
本開示の耐熱部材は、表面部におけるアルミナ結晶の平均円相当径が、内部におけるアルミナ結晶の平均円相当径よりも小さいことが好ましい。
【0027】
表面部におけるアルミナ結晶が内部におけるアルミナ結晶よりも小さいと、耐熱部材に熱衝撃がかかったときに表面部に亀裂が生じにくいだけでなく、表面部に亀裂が生じたとしても内部に亀裂が進展しにくい。そのため、耐熱部材の耐熱衝撃性が向上する。
【0028】
本開示の耐熱部材は、表面部における前記アルミナ結晶の平均重心間距離が、内部におけるアルミナ結晶の平均重心間距離よりも短くてもよい。
【0029】
表面部におけるアルミナ結晶の平均重心間距離が内部におけるアルミナ結晶の平均重心間距離よりも短いと、耐熱部材に熱衝撃がかかったときに表面部に亀裂が生じにくいだけでなく、表面部に亀裂が生じたとしても内部への進展を阻止することができる。そのため、耐熱部材の耐熱衝撃性が向上する。
【0030】
表面部と内部におけるアルミナ結晶の平均円相当径は、次のようにして測定することができる。
【0031】
本開示の耐熱部材の断面を鏡面加工した観察面を露呈させる。観察面のうち、前記表面部および前記内部のそれぞれを、倍率2000倍から4000倍程度の範囲内で電子線マイクロアナライザー(EPMA)により面分析を行なう。そして、面分析のカラーマッピングにおいて、アルミニウム(Al)が相対的に多く存在し、かつ酸素(O)が存在する部分をアルミナ結晶とみなす。
【0032】
次に、EPMAで撮影した画像において、アルミナ結晶とみなした部分を黒く塗りつぶす。そして、この画像を画像解析ソフト「A像くん」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製、なお、以降に画像解析ソフト「A像くん」と記した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示すものとする。)の粒子解析という手法を適用して画像解析を行なう。「A像くん」の解析条件としては、例えば結晶粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「自動」、シェーディングを「有」とすればよい。この粒子解析によって測定された各アルミナ結晶の円相当径から平均値を算出すればよい。アルミナ結晶とみなした結晶の測定個数は、表面部および内部ともに200個以上600個以下が好ましい。
【0033】
表面部と内部におけるアルミナ結晶の平均重心間距離は、上述のようにトレースした画像を用いて次のようにして測定することができる。
【0034】
「A像くん」の分散度計測という手法を適用して画像解析を行なう。「A像くん」の解析条件としては、例えば、粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「自動」、小図形除去面積を0.1μm、雑音除去フィルタを「有」、2値化画像補正を「直線分離」、表示方法を「重ね合わせ」とすればよい。
【0035】
また、本開示の耐熱性部材は、上述したように、優れた機械的強度および耐熱衝撃性を兼ね備えていることから、車両内の暖房に用いられる急速昇温可能なヒータ用部材、高温高圧の気体等を流すための流路部材、超高速の飛来物体から人体等を保護するための保護部材等の様々な技術分野において広く利用することができる。
【0036】
次に、本開示の耐熱性部材の製造方法について以下に説明する。
【0037】
まず、アルミナ(Al23)粉末、酸化珪素(SiO2)粉末、炭酸カルシウム(CaCO3)粉末および炭酸マグネシウム(MgCO3)粉末を準備する。
【0038】
次に、アルミナ粉末、酸化珪素粉末、炭酸カルシウム粉末、炭酸マグネシウム粉末を秤量および混合し、混合粉末Aを得る。次に、混合粉末Aをボールミル等の公知の方法で湿式粉砕し、公知の有機バインダを混合し、噴霧乾燥等の公知の方法で造粒する。
【0039】
次に、金型を用いたプレス成形等の公知の方法で成形し、成形体Aを得る。
【0040】
次に、混合粉末Aにアルミナ粉末を添加し、混合粉末Bを得る。次に、ボールミル等の公知の方法で湿式粉砕し、有機バインダ(例えば、ニトロセルロース等)および有機溶剤(例えば、テルピネオール等)を添加して、ペーストBを得る。ここで、混合粉末Bを100質量部としたとき、ペーストBにおける有機バインダの含有量は、例えば、5質量部以上15質量部以下であり、ペーストBにおける有機溶剤の含有量は、例えば、20質量部以上40質量部以下である。
【0041】
次に、成形体Aの表面にペーストBをスクリーン印刷またはスプレー等の公知の方法で塗布し、乾燥させることで、成形体Aの表面にペーストBの被膜を形成した成形体Cを得る。このとき、ペーストBの被膜の厚さが焼成後に0.1mmとなるように調整する。
【0042】
また、成形体Cの焼結体の平均組成が、アルミニウム(Al)をアルミナ(Al23)換算で70質量%以上89質量%以下、珪素(Si)を酸化珪素(SiO2)、カルシウム(Ca)を酸化カルシウム(CaO)、マグネシウム(Mg)を酸化マグネシウム(MgO)に換算した含有量の合計が11質量%以上30質量%以下の範囲内となるように、混合粉末Aおよび混合粉末Bの組成は調整しておく。
【0043】
次に、成形体Cを大気雰囲気で1300℃以上1500℃以下の温度で焼成することで、本開示の耐熱部材を得る。
【0044】
なお、混合粉末Bを得る際に添加するアルミナ粉末の添加量を調整することで、表面部におけるガラスが占める面積比率を任意の値に変化させることができる。
【0045】
表面部におけるアルミナ結晶が内部におけるアルミナ結晶よりも小さい耐熱部材を製造するには、混合粉末Aに含まれるアルミナ粉末の平均粒径よりも、混合粉末Bに添加するアルミナ粉末の平均粒径を小さくすれば良い。表面部における前記アルミナ結晶の平均重心間距離が、内部における前記アルミナ結晶の平均重心間距離よりも短い耐熱部材を製造する場合も同様である。
【0046】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
組成と、表面部および内部におけるガラスが占める面積比率とを異ならせた試料を作製し、機械的強度および耐熱衝撃性を評価した。
【0048】
まず、アルミナ粉末、酸化珪素粉末、炭酸カルシウム粉末および炭酸マグネシウム粉末を準備した。
【0049】
次に、アルミナ粉末、酸化珪素粉末、炭酸カルシウム粉末、炭酸マグネシウム粉末を、質量比で、表1の値になるように秤量および混合し、混合粉末Aを得た。ここで、表1では、炭酸カルシウム粉末は酸化カルシウム(CaO)換算での値、炭酸マグネシウム粉末は酸化マグネシウム(MgO)換算での値で示している。
【0050】
次に、混合粉末Aをボールミル等の公知の方法で湿式粉砕し、公知の有機バインダを混合し、噴霧乾燥等の公知の方法で造粒した。
【0051】
次に、金型を用いたプレス成形により、成形体Aを得た。このとき、成形体Aは、焼成後に2.8mm×3.8mm×35.8mmとなる角棒形状とした。
【0052】
次に、アルミナ粉末、酸化珪素粉末、炭酸カルシウム粉末、炭酸マグネシウム粉末を、質量比で、表1の値になるように秤量および混合し、混合粉末Bを得た。ここで、表1では、炭酸カルシウム粉末は酸化カルシウム(CaO)換算での値、炭酸マグネシウム粉末は酸化マグネシウム(MgO)換算での値で示している。
【0053】
次に、ボールミル等の公知の方法で湿式粉砕し、有機バインダとしてのニトロセルロースおよび有機溶剤としてのテルピネオールを添加して、ペーストBを得た。ここで、混合粉末Bを100質量部としたとき、ペーストBにおける有機バインダの含有量は、10質量部とし、ペーストBにおける有機溶剤の含有量は、30質量部とした。
【0054】
次に、成形体Aの表面にペーストBをスクリーン印刷で塗布し、乾燥させることで、成形体Aの表面にペーストBの被膜を形成した成形体Cを得た。このとき、ペーストBの被膜の厚さが焼成後に0.1mmとなるように調整した。
【0055】
次に、成形体Cを大気雰囲気で1450℃の温度で焼成することで、各試料を得た。なお、各試料は、3mm×4mm×36mmの角棒形状であった。
【0056】
次に、各試料を構成する成分の含有量を、ICPを用いて各試料の定量分析を行ない、ICPで測定したアルミニウム(Al)、珪素(Si)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)の含有量からそれぞれを酸化物換算することで算出した。
【0057】
また、各試料の表面部および内部におけるガラスが占める面積比率を、以下の方法で確認した。まず、各試料の表面を鏡面に研磨した面を第1観察面とした。また、各試料の内部が露出するように切断し、この切断面を鏡面に研磨した面を第2観察面とした。次に、第1観察面の表面部、第2観察面の内部の写真をSEMで撮影して得た。このとき、表面部および内部それぞれの各写真は、SEMで倍率を3000倍で撮影した。また、表面部および内部それぞれの写真の撮影面積は、4400μm2となるようにした。
【0058】
次に、写真において、ガラスの箇所をトレースして黒く塗りつぶした。このトレースした画像を画像解析ソフト「A像くん」の粒子解析という手法を適用して画像解析を行なうことで、各試料における、表面部および内部におけるガラスが占める面積比率を算出した。なお、「A像くん」の解析条件としては、粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「自動」、シェーディングを「有」とした。
【0059】
また、各試料の3点曲げ強度を、JIS R 1601-2008に概ね準拠した方法で算出した。
【0060】
また、各試料の耐熱衝撃性を、水中投下試験における耐熱温度で評価した。具体的には、T2(℃)に加熱した各試料を、25℃の水中へ投下したときに、各試料に亀裂または欠けが発生しない温度差T2-25(℃)の最大値を算出した。ここで、T2は、125℃で開始し、10℃ずつ上昇させ測定した。
【0061】
結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、試料No.5~15は、3点曲げ強度が280MPa以上であるとともに、耐熱温度が250℃であった。このことから、構成される全成分100質量%のうちの含有量が、AlがAl23換算で70質量%以上89質量%以下であり、SiをSiO2、CaをCaO、MgをMgOに換算した値の合計が11質量%以上30質量%以下であるアルミナ質セラミックスからなり、表面部におけるガラスが占める面積比率が、内部におけるガラスが占める面積比率よりも少なければ、優れた機械的強度および耐熱衝撃性を兼ね備えることがわかった。
【0064】
また、試料No.5~15の中でも、試料No.10~15は、3点曲げ強度が295MPa以上であり、表面部におけるガラスが占める面積比率が内部におけるガラスが占める面積比率よりも4面積%以上少なければ、機械的強度が向上することがわかった。
【0065】
また、試料No.10~15の中でも、試料No.10、12~15は、3点曲げ強度が303MPa以上であり、表面部におけるガラスが占める面積比率が20面積%以下であれば、機械的強度がより向上することがわかった。