(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】改善された雪上性能のためのトレッド
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B60C11/03 300E
B60C11/03 300A
(21)【出願番号】P 2020573052
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2018024771
(87)【国際公開番号】W WO2020003485
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】内田 友丈
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-140253(JP,A)
【文献】特開2011-031831(JP,A)
【文献】特開2002-046424(JP,A)
【文献】特開2012-126363(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03173255(EP,A1)
【文献】特開2009-107376(JP,A)
【文献】特開2015-089724(JP,A)
【文献】特開2006-176055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0136487(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0220256(US,A1)
【文献】国際公開第2019/105619(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02803501(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03-11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中に地面と接触するように意図された接触面(2)を有するタイヤのトレッド(1)であって、
前記トレッド(1)は、深さDの複数の溝(3)及び/又は前記タイヤの軸方位に概して延伸する深さdの複数の切り込み(4)を備え、そして少なくとも2つの溝又は2つの切り込み又は1つの溝及び1つの切り込みが常に接地面内に在るように配置され、
前記複数の溝(3)及び/又は前記複数の切り込み(4)は複数の接触要素(5)の境界を定め、
前記複数の接触要素(5)は前記接触面(2)の一部を構成する最上面(51)及び前記溝(3)又は前記切り込み(4)に面する
回転方向前面(52)を有し、
前記最上面(51)及び前記回転方向前面(52)は前記最上面(51)と前記
回転方向前面(52)との間の交差部に
最近接縁(53)を生成し、
前記複数の接触要素(5)の少なくとも1つは、前記最上面(51)から半径方向外方へ突出する少なくとも1つの突起部(6)であって前記最近接縁(53)と前記最近接縁(53)から前記接触要素(5)の円周
方向長さの40%との間の領域内に半径方向高さhを有する突起部(6)を備える、トレッドにおいて、
前記突起部(6)は前記最近接縁(53)に面する片側上に面取り部分(61)を備えるということと、前記面取り部分(61)は周方向配向に沿った断面図上の前記最上面(51)に対し角度Aを有
し、前記突起部(6)は前記最上面(51)に対して平行な平坦部(62)をさらに含む、ことを特徴とするトレッド。
【請求項2】
前記面取り部分(61)の半径方向最深部は前記トレッド(1)が新品であるとき前記最上面(51)から遠い、請求項1に記載のトレッド(1)。
【請求項3】
前記面取り部分(61)は前記突起部(6)の
幅方向全巾にわたり設けられる、請求項1又は2に記載のトレッド(1)。
【請求項4】
前記突起部(6)の半径方向高さhはどちらがより深いかにかかわらず前記溝(3)の深さD又は前記切り込み(4)の深さdの最大限でも20%に等しい、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトレッド(1)。
【請求項5】
前記面取り部分(61)の角度Aは30~60度である、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載のトレッド(1)。
【請求項6】
前記突起部(6)は前記接触要素(5)の前記
回転方向前面(52)と少なくとも部分的に同一平面にある、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のトレッド(1)。
【請求項7】
前記突起部(6)は前記最近接縁(53)からオフセットされる、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のトレッド(1)。
【請求項8】
前記突起部(6)を構成するゴム成分は前記接触要素(5)を構成するゴム成分と同じである、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載のトレッド(1)。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載のトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤのトレッドに関し、特に、ウエット性能を維持する一方で雪上性能を改善するためのタイヤのトレッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非冬路面(non-wintry surface)上の高速運転能力を維持する一方で冬路面(wintry surface)上で運転する能力を有するタイヤ(所謂「オールシーズン」タイヤ)が普及し始めている。
【0003】
氷及び/又は雪で覆われた冬路面上で運転するのに好適なタイヤ(所謂「スタッドレス」タイヤ)に関しても、冬路面上の性能を依然として改善する一方で氷でも雪でも覆われない非冬路面上の性能を高める要望がある。
【0004】
冬路面上の性能特に雪上性能を高めるために、ゴム又は金属などで作られ接触面から突出するスタッド状突起を設けることが効果的であるということが知られている。これは、このようなスタッド状突起が高圧を生成して雪を削るためである。このようなやり方は非冬路面上の性能(特にウエット性能)に悪影響を与えるということも知られている。また、金属スタッドの使用は環境理由のために多くの国において禁止されている。
【0005】
特開2017-105411号公報は、タイヤ騒音を改善するための半径方向に突出する突起部からなるトレッドを有する空気式タイヤを開示する。
【0006】
特開2011-140254号公報もまた、タイヤ騒音を改善するための半径方向に突出する突起部からなるトレッドを有する空気式タイヤを開示する。
【0007】
特開2011-031831号公報は、ウエット且つ冬路面上のトラクション性能を維持する一方で不規則摩耗を改善するための半径方向に突出する突起部からなる所定回転方向を有するトレッドを有する空気式タイヤを開示する。
【0008】
特開2007-022242号公報は、それぞれが、冬路面上のより良いトラクション性能のための鋸刃として配置される三角形断面形状を有する複数の微細リブ(突起部)からなる所定回転方向を有するトレッドを有する空気式タイヤを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】:特開2017-105411号公報
【文献】:特開2011-140254号公報
【文献】:特開2011-031831号公報
【文献】:特開2007-022242号公報
【0010】
しかし、これらの文献において開示された技術では、冬路面上の性能及び非冬路面上の性能の向上は同時に達成されておらず、したがってより高いレベルで同時に両方の性能のさらなる改善の要望がある。
【0011】
したがって、冬路面及び非冬路面上のより高い性能を同時に提供するタイヤのトレッドの必要性がある。
【0012】
定義:
「半径方向/配向」はタイヤの回転軸に対し垂直な方向/配向である。この方向/配向はトレッドの厚さ配向に対応する。
【0013】
「軸方向/配向」はタイヤの回転軸に平行な方向/配向である。
【0014】
「周方向/配向」は回転軸を中心とする任意の円に接する方向/配向である。この方向/配向は軸方向/配向と半径方向/配向との両方に対し垂直である。
【0015】
「タイヤ」は内圧に晒されるか否かに関わらずすべてのタイプの弾性タイヤを意味する。
【0016】
タイヤの「トレッド」は側面及び2つの主面(その1つはタイヤが回転しているときに地面と接触するように意図されている)により囲まれた一定量のゴム材料を意味する。
【0017】
「溝」は2つのゴム面/側壁の間の空間であり、2つのゴム面/側壁は別のゴム面/底面により接続される通常の回転条件下では互いに接触しない。溝は幅及び深さを有する。
【0018】
「サイプ」とも呼ばれる「切り込み」は、例えばナイフ刃のような形状を有する薄い刃により作られるトレッドの表面から半径方向内方向に形成される狭い切り欠きである。トレッドの表面における切り込みの幅は溝より狭く例えば2.0mm以下である。溝とは異なりこの切り込みは、このような切り込みがタイヤ接地面内に且つ通常の回転条件下に在ると部分的に又は完全に閉じられ得る。
【0019】
「タイヤ接地面」は、ETRTO、JATMA又はTRAなどのタイヤ標準規格において識別されそしてその定格圧において且つその定格負荷下で膨張されるその標準リム上へ取り付けられるタイヤのフットプリントである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって本発明の目的は、冬路面上と非冬路面上との両方において高性能を同時に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、回転中に地面と接触するように意図された接触面を有するタイヤのトレッドを提供する。ここでトレッドは、深さDの複数の溝及び/又はタイヤの軸方位に概して延伸する深さdの複数の切り込みを備え、そして少なくとも2つの溝又は2つの切り込み又は1つの溝及び1つの切り込みが常にタイヤ接地面内に在るように配置され、複数の溝及び/又は複数の切り込みは複数の接触要素の境界を定め、複数の接触要素は接触面の一部を構成する最上面及び溝又は切り込みに面する前面を有し、最上面及び前面は最上面と前面との交差部において縁を生成し、複数の接触要素の少なくとも1つは、最上面から半径方向外方へ突出する少なくとも1つの突起部であって最近接縁と最近接縁から接触要素の円周長さの40%との間の領域内に半径方向高さhを有する突起部を備え、突起部は最近接縁に面する片側上に面取り部分を備え、面取り部分は、周方向配向に沿った断面図上で最上面に対し角度Aを有する。
【0022】
この配置は冬路面上及び非冬路面上のより高い性能を同時に提供する。
【0023】
接触要素は、半径方向高さhを有する最上面から半径方向外方へ突出する少なくとも1つの突起部を備え、このような突起部は高圧を生成して雪を削ることができるので、冬路面上の性能特に雪上性能が改善され得る。
【0024】
突起部は最近接縁に面する片側上に面取り部分を備え、面取り部分は周方向配向に沿った断面図上で最上面に対し角度Aを有し、このような面取り部分は、余りに高い圧力を生成することを防止するとともに突起部の巻き上がりを回避することができるので、非冬路面上の性能が同時に改善され得る。
【0025】
突起部が最近接縁と最近接縁から接触要素の円周長さの40%との間の領域の外側に設けられれば、冬路面上の性能は、突起部が高い接触圧力を効率的に生成することができないので劣化されるというリスクがある。突起部を最近接縁と最近接縁から接触要素の円周長さの40%との間の領域内に置くことにより、突起部は高い接触圧力を効率的に生成し得る。
【0026】
面取り部分が最近接縁に対向する片側上に設けられれば、面取り部分は、余りに高い圧力を生成することを防止するには余り効果的でなく、突起部の巻き上がりを防止することが困難だろう。非冬路面上の性能は、冬路面上の性能が改善され得るとしても改善され得ない。面取り部分を最近接縁に面する片側上に置くことにより、冬路面及び非冬路面上の性能を同時に改善することが可能である。
【0027】
別の好ましい実施態様では、面取り部分の半径方向最深部はトレッドが新品であると最上面から遠い。
【0028】
この配置によると、冬路面と接触することになる面取り部分を有する突起部に沿った半径方向長さをより長くすることが可能であり、したがって冬路面上の性能はさらに改善され得る。
【0029】
別の好ましい実施態様では、突起部は最上面に平行な平坦部をさらに含む。
【0030】
この配置によると、突起部から見た面取り部分と地面との間の角度を突起部に起因する余りに高い圧力の生成と突起部の巻き上がりの発生とを防止するために鈍角にすることができ、したがって非冬路面上の性能はさらに改善され得る。
【0031】
別の好ましい実施態様では、面取り部分は突起部の全巾内に設けられる。
【0032】
この配置によると、面取り部分を備える突起部の有効性を高めることが可能であり、したがって冬路面の性能と非冬路面の性能との両方がさらに改善され得る。
【0033】
別の好ましい実施態様では、突起部の半径方向高さhは、どちらがより深いかにかかわらず溝の深さD又は切り込みの深さdの最大限でも20%に等しい。
【0034】
突起部のこの半径方向高さhがどちらがより深いかにかかわらず溝の深さD又は切り込みの深さdの20%より大きければ、突起部は容易に捩じれ、雪を削ることを困難にし、したがって冬路面上の性能は劣化されるというリスクがある。突起部のこの高さhをどちらがより深いかにかかわらず溝の深さD又は切り込みの深さdの最大限でも20%に等しくなるように設定することにより、冬路面上の性能を効果的に改善することが可能である。
【0035】
どちらがより深いかにかかわらず溝の深さD又は切り込みの深さdに対する突起部のこの高さhは、好適には最大限でも15%に等しく且つ少なくとも0.3mmに等しい、より好適には最大限でも15%に等しく且つ少なくとも0.5mmに等しい。
【0036】
別の好適な実施形態では、面取り部分の角度Aは30~60度である。
【0037】
面取り部分の角度Aが30度未満であれば、面取り部分は余りに高い圧力を生成することを防止するには余り効果的ではなく、したがって非冬路面上の性能は劣化されるというリスクがある。面取り部分の角度Aが60度より大きければ、面取り部分は突起部の巻き上がりを防止するには余り効果的ではなく、したがって非冬路面上の性能もまた劣化されるというリスクがある。面取り部分のこの角度Aを30~60度に設定することにより、非冬路面上の性能を効果的に改善することが可能である。
【0038】
別の好適な実施形態では、突起部は接触要素の前面と少なくとも部分的に同一平面にある。
【0039】
この配置によると、突起部を突起部が高い接触圧力を効率的に生成する場所に置くことが可能であり、したがって冬路面上の性能はさらに改善されるだろう。
【0040】
別の好適な実施形態では、突起部は最近接縁からオフセットされる。
【0041】
この配置によると、突起部を置くための自由度を増加することが可能であり、したがって冬路面上の性能と非冬路面上の性能との間のバランスが改善されるだろう。
【0042】
別の好適な実施形態では、突起部を構成するゴム成分は接触要素を構成するゴム成分と同じである。
【0043】
この配置によると、面取り部分を含む突起部を備える接触要素を有するトレッドを効率的に製造することが可能であり、したがってこのようなトレッドの生産効率が改善されるだろう。
【0044】
発明の効果
上述の配置によると、冬路面上及び非冬路面上のより高い性能を同時に提供することが可能である。
【0045】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の実施形態を非限定的例として示す添付図面を参照して以下になされる説明から生じる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるトレッドの概略平面図である。
【
図2】
図1の線II-IIに沿って切り取られた断面図である。
【
図3】
図1の線III-IIIに沿って切り取られた断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態によるトレッドの概略平面図である。
【
図5】
図4の線V-Vに沿って切り取られた断面図である。
【
図6】
図4の線VI-VIに沿って切り取られた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の好ましい実施形態は添付図面を参照して以下に説明される。
【0048】
本発明の第1の実施形態によるタイヤのトレッド1は
図1、2、3を参照して説明される。
【0049】
図1は本発明の第1の実施形態によるトレッドの概略平面図である。
図2は
図1の線II-IIに沿って切り取られた断面図である。
図3は
図1の線III-IIIに沿って切り取られた断面図である。
【0050】
トレッド1は、回転中に地面と接触するように意図された接触面2と接触面2に対し開いた深さD(
図2と
図3に示す)の複数の溝3とを有するタイヤのトレッドである。複数の溝3は、線YY’により指示されるように概して軸方向配向で延伸する側溝3a及び線XX’により指示されるように概して周方向配向で延伸する周方向溝3bを含む。複数の溝3(側溝3a及び周方向溝3b)は複数の接触要素5の境界を定め、周方向溝3bは、トレッド1を3つのブロック列へ軸方向に(軸方向外方へ配置された2つの肩ブロック列と1つの中心ブロック列とへ)分割する。複数の接触要素5のそれぞれは、概して軸方向配向で延伸する深さdの複数の切り込み4(
図2と
図3に示す)を備える。複数の切り込み4は2つの軸方向端部において周方向溝3bに対し開いている。複数の接触要素5のそれぞれは接触面2の一部を構成する最上面51と溝3(側溝3a)に面する前面52とを有する。最上面51及び前面52は最上面51と前面52との間の交差部に縁53を生成する。
【0051】
図1に示すように、複数の接触要素5のそれぞれは、最上面51から半径方向外方へ突出する2つの突起部6であって最近接縁53と最近接縁53から接触要素5の円周長さの40%との間の領域内に半径方向高さhを有する突起部6を備える(
図2と
図3に示す)。各突起部6は、最近接縁53に面するとともに最上面51(
図2と
図3に示す)に対して角度Aを有する片側上の突起部6の全巾内に面取り部分61と、最上面51に平行な平坦部62(
図2と
図3に示す)とを備える。1つの中心ブロック列上の突起部6は最近接縁53からオフセットされる。中央に、2つの肩ブロック列上の突起部6は最近接縁53からオフセットされない。
【0052】
図1に示すように、トレッド1の2つの肩ブロック列内の突起部6は接触要素5の幅より狭い幅を有し、トレッド1の1つの中心ブロック列内の突起部6は接触要素5の幅に等しい幅を有する。突起部6を構成するゴム成分は接触要素5を構成するゴム成分と同じである。
【0053】
図2に示すように、深さDの溝3(側溝3a)により境界を定められたトレッド1の2つの肩ブロック列内の接触要素5は、接触要素5の中心のおおよそ周方向に深さdの1つの切り込み4を備えており、切り込み4の深さdは溝3(側溝3a)の深さDより浅い。この第1の実施形態では、溝3(側溝3a)の深さDは9.2mmであり、切り込み4の深さdは8.5mmである。
【0054】
図2に示すように、トレッド1の2つの肩ブロック列内の接触要素5は、最上面51から半径方向外方へ突出する突起部6であって最近接縁53と最近接縁53から接触要素5の円周長さの40%との間の領域内に半径方向高さhを有する接触面2の一部分を構成する突起部6を備える。最近接縁53に近い突起部6の面は接触要素5の前面52と同一平面にある。突起部6の半径方向高さhは、どちらがより深いかにかかわらず溝3の深さD又は切り込み4の深さdの最大限でも20%に等しい。この第1の実施形態では、突起部6の高さhは1.0mmである。
【0055】
図2に示すように、突起部6は最近接縁53に面する片側上に面取り部分61を備える。突起部6は最上面51に対して角度Aを有し、この角度Aは30~60度である。面取り部分61の半径方向最深部はトレッド1が新品であると最上面51から遠い。突起部6は最上面51に対して平行な平坦部62をさらに含む。この第1の実施形態では、最上面51に対する面取り部分61の角度Aは35度である。
【0056】
図3に示すように、深さDの溝3(側溝3a)により境界を定められたトレッド1の1つの中心ブロック列内の接触要素5もまた、接触要素5の中心のおおよそ周方向に深さdの1つの切り込み4を備えており、切り込み4の深さdは溝3(側溝3a)の深さDと同一である。この第1の実施形態では、溝3(側溝3a)の深さD及び切り込み4の深さdは両方とも9.2mmである。
【0057】
図3に示すように、トレッド1の1つの中心ブロック列内の接触要素5は、最上面51から半径方向外方へ突出する突起部6であって最近接縁53と最近接縁53から接触要素5の円周長さの40%との間の領域内に半径方向高さhを有する接触面2の一部分を構成する突起部6を備える。突起部6は最近接縁53からオフセットされる。突起部6の半径方向高さhは、どちらがより深いかにかかわらず溝3の深さD又は切り込み4の深さdの最大限でも20%に等しい。この第1の実施形態では、突起部6の高さhは1.0mmである。
【0058】
図3に示すように、突起部6は最近接縁53に面する片側上に面取り部分61を備える。突起部6は最上面51に対して角度Aを有し、この角度Aは30~60度である。突起部6は最上面51に対して平行な平坦部62をさらに含む。この第1の実施形態では、最上面51に対する面取り部分61の角度Aは40度である。
【0059】
接触要素5は半径方向高さhを有する最上面51から半径方向外方へ突出する少なくとも1つの突起部6を備え、このような突起部6は高圧を生成して雪を削ることができるので、冬路面上の性能特に雪上性能が改善され得る。
【0060】
突起部6は最近接縁53に面する片側上に面取り部分61を備え、面取り部分61は周方向配向に沿った断面図上で最上面51に対し角度Aを有するので、このような面取り部分61は、余りに高い圧力を生成することを防止するとともに突起部6の巻き上がりを回避することができ、非冬路面上の性能が同時に改善され得る。
【0061】
突起部6が最近接縁53と最近接縁53から接触要素5の円周長さの40%との間の領域の外側に設けられれば、冬路面上の性能は突起部6が高い接触圧力を効率的に生成し得ないので劣化するというリスクがある。突起部6を最近接縁53と最近接縁53から接触要素5の円周長さの40%との間の領域内に置くことにより、突起部6は高い接触圧力を効率的に生成することができる。
【0062】
面取り部分61が、最近接縁53に対向する片側上に設けられれば、面取り部分61は、余りに高い圧力を生成することを防止するには余り効果的でなく、突起部6の巻き上がりを防止することが困難であろう。非冬路面上の性能は、冬路面上の性能が改善され得るとしても改善され得ない。面取り部分61を最近接縁53に面する片側上に置くことにより、冬路面及び非冬路面上の性能を同時に改善することが可能である。
【0063】
面取り部分61の半径方向最深部はトレッド1が新品であると最上面51から遠いので、冬路面上の性能はさらに改善され得る。これは、冬路面と接触することになる面取り部分61を有する突起部6に沿った半径方向長さをより長くすることが可能であるためである。
【0064】
突起部6は最上面51に対して平行な平坦部62をさらに含むので、非冬路面上の性能はさらに改善され得る。これは、突起部6から見た面取り部分61と地面との間の角度を突起部6に起因する余りに高い圧力の生成と突起部6の巻き上がりの発生とを防止するために鈍角にすることが可能であるためである。
【0065】
面取り部分61は突起部6の全巾内に設けられるので、冬路面の性能と非冬路面の性能との両方がさらに改善され得る。これは、面取り部分61を備える突起部6の有効性を高めることが可能であるためである。
【0066】
突起部6の半径方向高さhはどちらがより深いかにかかわらず溝3の深さD又は切り込み4の深さdの最大限でも20%に等しいので、冬路面上の性能を効果的に改善することが可能である。
【0067】
突起部6のこの半径方向高さhがどちらがより深いかにかかわらず溝3の深さD又は切り込み4の深さdの20%より大きければ、突起部6は容易に捩じれ、雪を削ることを困難にし、したがって冬路面上の性能は劣化されるというリスクがある。
【0068】
どちらがより深いかにかかわらず溝3の深さD又は切り込み4の深さdに対する突起部6のこの高さhは、好適には最大限でも15%に等しく且つ少なくとも0.3mmに等しい、より好適には最大限でも15%に等しく且つ少なくとも0.5mmに等しい。
【0069】
面取り部分61の角度Aは30~60度であるので、非冬路面上の性能を効果的に改善することが可能である。
【0070】
面取り部分61の角度Aが30度未満であれば、面取り部分61は余りに高い圧力を生成することを防止するには余り効果的ではなく、したがって非冬路面上の性能は劣化されるというリスクがある。面取り部分61の角度Aが60度より大きければ、面取り部分61は突起部6の巻き上がりを防止するには余り効果的ではなく、したがって非冬路面上の性能もまた劣化されるというリスクがある。
【0071】
突起部6は接触要素5の前面52と少なくとも部分的に同一平面にあるので、冬路面上の性能はさらに改善されるだろう。これは、突起部6を、突起部6が高い接触圧力を効率的に生成する場所に置くことが可能であるためである。
【0072】
突起部6は最近接縁53からオフセットされるので、冬路面上の性能と非冬路面上の性能との間のバランスが改善されるだろう。これは、突起部6を置くための自由度を増加することが可能であるためである。
【0073】
突起部6を構成するゴム成分は接触要素5を構成するゴム成分と同じであるので、このようなトレッド1の生産効率が改善されるだろう。これは、面取り部分61を含む突起部6を備える接触要素5を有するトレッド1を効率的に製造することが可能であるためである。
【0074】
突起部6は、接触要素5を構成するゴム成分とは異なる材料で部分的にですら作られ得る。このような材料は依然としてゴム成分であり得る。
【0075】
突起部6は様々な種類の形式(例えば、湾曲、波状、又は直線形式とこれらの形式との組み合わせ)で設けられ得る。複数の突起部6が1つの縁53に対して設けられ得る。このようなケースでは、各突起部6は、縁53に対するその位置、突起部6の高さh及び/又は最上面51に対する面取り部分61の角度Aを含み同じ形式を有してもよいし互いに異なる形式を有してもよい。
【0076】
1つの突起部6だけが1つの単一接触要素5に対し設けられてもよいし、いくつかの突起部6が1つの単一接触要素5に対し設けられるケースでは、各突起部6は、縁53に対するその位置、突起部6の高さh及び/又は最上面51に対する面取り部分61の角度Aを含み同じ形式を有してもよいし互いに異なる形式を有してもよい。追加の突起部6が、切り込み4により作られる縁へ設けられ得る。
【0077】
面取り部分61は、接触要素5を部分的に含むように縁53の下まで延伸し得る。又は、接触要素5の縁53もまた面取りされ得る。
【0078】
本発明の第2の実施形態によるタイヤのトレッド21は
図4、5、6を参照して説明される。
図4は本発明の第2の実施形態によるトレッドの概略平面図である。
図5は
図4の線V-Vに沿って切り取られた断面図である。
図6は
図4の線VI-VIに沿って切り取られた断面図である。この第2の実施形態の構築は、
図4、5、6に示す配置以外は第1の実施形態のものと同様であり、したがって説明は
図4、5、6を参照してなされる。
【0079】
図4に示すように、トレッド21は、回転中に地面と接触するように意図された接触面22であって複数の溝23(側溝23a及び周方向溝23b)を備える接触面22を有する。複数の溝23は、接触面22の一部分を構成する最上面251を有する複数の接触要素25の境界を定める。周方向溝23bは、トレッド21を4つのブロック列へ軸方向に(軸方向外方へ配置された2つの肩ブロック列及び2つの中心ブロック列へ)分割する。複数の接触要素25のそれぞれは、概して軸方向配向で延伸する複数の切り込み24を備える。複数の切り込み24は、2つの軸方向端部において周方向溝23bに対して開いており、切り込み24により作られる前面252により縁253を生成している。
【0080】
図4に示すように、複数の接触要素25のそれぞれは、最近接縁253と最近接縁253から接触要素25の円周長さの40%との間の領域内に2つの突起部26を備える。各突起部26は、最近接縁253に面するとともに最上面251(
図5、6に示す)に対して角度Aを有する片側上の突起部26の全巾内に面取り部分261を備える。突起部26は最近接縁253からオフセットされない。
【0081】
図4に示すように、トレッド21の2つの肩ブロック列内の突起部26は接触要素25の幅に等しい幅を有し、トレッド21の2つの中心ブロック列内の突起部26は接触要素25の幅より狭い幅を有する。突起部26を構成するゴム成分は接触要素25を構成するゴム成分と同じである。
【0082】
図5に示すように、溝23(側溝23a)により境界を定められたトレッド21の2つの中心ブロック列上の接触要素25は切り込み24により3つの部分へ分割され、突起部26は接触要素25の中間部分だけへ設けられる。突起部26は、最上面251に対し平行な平坦部を有しない最近接縁253に面する面取り部分261を備える。面取り部分261は、最近接縁253と突起部26が最上面251に対して角度Aを有する高さhを有する点とを接続するように設けられる。この第2の実施形態では、突起部26の高さhは0.8mmであり、面取り部分261の角度Aは45度である。
【0083】
図6に示すように、溝23(側溝23a)により境界を定められたトレッド21の2つの肩ブロック列上の接触要素25もまた切り込み24により3つの部分へ分割され、突起部26は接触要素25の中間部分だけへ設けられる。突起部26は、最上面251に対し平行な平坦部を有しない最近接縁253に面する面取り部分261を備える。面取り部分261の半径方向最深部はトレッド21が新品であると最上面251から遠く、突起部26は接触要素25の前面252と同一平面にある。突起部26は高さhを有し、面取り部分261は最上面251に対し角度Aを有する。この第2の実施形態では、突起部26の高さhは0.8mmであり、面取り部分261の角度Aは30度である。
【0084】
突起部26は切り込み24により分割された他の部分上に(1つの単一部分へだけでなくまたいくつかの部分へ)設けられ得る。
【0085】
本発明は説明され表された例へ限定されなく、様々な修正形態が本発明のフレームワークから離れることなくここではなされ得る。
【0086】
図7は従来技術によるトレッドの断面図である。この
図7では、トレッド101は、トレッド101の接触面102を部分的に構成する最上面1051を有する複数の接触要素105の境界を定める深さDの複数の溝103を備える。接触要素105は接触要素105のおおよそ中心に深さdの切り込み104を備える。最上面1051及び前面1052は縁1053を生成し、高さhの突起部106は接触要素105の前面1052と同一平面となるように設けられる。突起部106の最上部は最上面1051に対して平行である。突起部106は面取り部分を有しない。
【実施例】
【0087】
本発明の効果を確認するために、本発明が適用される実施例の一つのタイプのブロック例と、従来例及び比較例の他のタイプのブロック例とが作成された。
【0088】
実施例は、1.0mmに等しい突起部の高さh、45度に等しい角度A、6.1mmに等しい深さD、及び20mmに等しい周方向配向の2つの前面間の距離を有し1つの切り込みが設けられる上記第1の実施形態において説明したようなブロック例であった。比較例もまた実施例と同じ構成を有するが面取り部分無しのブロック例だった。従来例もまた実施例と同じ構成を有するが突起部無しのブロック例だった。すべての実施例、比較例及び従来例は同じゴム材料で作られた。
【0089】
雪上性能試験:
雪上の摩擦係数測定は、課せられた垂直応力(約300kPa)により標準規格ASTM F1805に従って約88のCTI硬度計読み取り値を有する約-10℃に設定された硬く押し固められた雪トラック上の所与条件(移動量:0~0.03m、速度:0~0.5m/s及び加速:5m/s2)で滑ることにより上記実施例及び従来例により行われた。実施例及び従来例のそれぞれの例の走行方向に生成される力(Fx)と走行に対し垂直な別の方向に生成される力(Fz)とが測定された。Fx/Fz比が雪上の実施例及び従来例のそれぞれの摩擦係数を決定する。その原理が当業者によく知られているこの試験(例えば非特許文献“Investigation of rubber friction on snow for tires”written by Sam Ella,Pierre-Yves Formagne,Vasileios Koutsos and Jane R.Blackford(38th LEEDS-Lyons Symposium on tribology,Lyons,6-9 Sep.2011)を参照)はそのトレッドが同じ接触要素で構成されるタイヤが取り付けられた車両上での走行試験後に取得されるだろう雪上のグリップ力を代表的条件下で評価することを可能にする。
【0090】
結果が表1に示される。この表1では、結果は従来例を100とする指数により表され、数字は高いほどより良い性能を意味する。
【0091】
ウエット性能試験:
ウエット面上の摩擦係数測定は、実施例及び従来例のそれぞれの走行方向の25℃の1mm深さの水により覆われた標準規格NFP98-137によるBBTMタイプ・アスファルトコンクリートで作られた道路コア上の所与条件(負荷:例えば3kg/cm2、速度:0~5m/s及び加速:100m/s2)で滑ることにより上記実施例及び従来例により行われた。スリップ率を0から50%まで変化させながら滑る間に検出された最大摩擦係数がウエット面上の実施例及び従来例のそれぞれの摩擦係数を決定する。
【0092】
これらの結果も表1に示される。この表1では、結果は従来例を100とする指数により表され、数字は高いほどより良い性能を意味する。
【0093】
【0094】
表1から分かるように、実施例は冬路面上の良好な性能を維持する一方で非冬路面上の改善を示す。
【符号の説明】
【0095】
1、21 トレッド
2、22 接触面
3(3a、3b)、23(23a、23b) 溝
4、24 切り込み
5、25 接触要素
51、251 最上面
52、252 前面
53、253 縁
6、26 突起部
61、261 面取り部分
62 平坦部