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特許7197616新生児Fc受容体結合が改変されて治療および診断特性が強化された分子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】新生児Fc受容体結合が改変されて治療および診断特性が強化された分子
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20221220BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221220BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20221220BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20221220BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221220BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20221220BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/18
A61P31/00
A61P37/04
A61K39/00 H
A61K39/395 Y
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021014864
(22)【出願日】2021-02-02
(62)【分割の表示】P 2016567864の分割
【原出願日】2015-05-15
(65)【公開番号】P2021074009
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】61/994,379
(32)【優先日】2014-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】ツイ,ピン
(72)【発明者】
【氏名】ボーロック,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ダラクア,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ヤンリー
(72)【発明者】
【氏名】ベヤズ-カヴンク,ヌルテン
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511292(JP,A)
【文献】特表2008-504002(JP,A)
【文献】特開2010-154855(JP,A)
【文献】国際公開第2013/093809(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0275282(US,A1)
【文献】The Journal of Immunology,2009年,Vol.182,p.7663-7671
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIgG1分子のFc領域の少なくともFcRn結合断片に共有結合する非IgGポリペプチドを含む融合タンパク質であって、前記FcRn結合断片は野生型Fc領域に関連してKabatのEU番号付与指標に従って番号付与されている、位置432~437の2つ以上におけるアミノ酸置換を含み、
(i)位置432および437の両方がシステインで置換され;
(ii)位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニン、もしくはアスパラギンで置換され;
(iii)位置434が、アルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、またはチロシンで置換され;
(iv)位置435が、ヒスチジンであり;および
(v)位置436が、ロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、またはヒスチジンで置換され、ならびに
前記融合タンパク質が、前記FcRn結合断片と共有結合していない非IgGポリペプチドの半減期と比較して増大した半減期を有する、前記融合タンパク質。
【請求項2】
前記融合タンパク質が、前記非IgGポリペプチドよりも長い生体内半減期を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
位置437の後にアミノ酸挿入をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記アミノ酸挿入が、グルタミン酸である、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質、および薬学的に許容できる担体を含んでなる医薬組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含んでなるベクター。
【請求項8】
クローニングベクターまたは発現ベクターを含んでなる、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
請求項6に記載の核酸を含んでなる宿主細胞。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含んでなるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新生児Fc受容体結合が改変されて治療および診断特性が強化された分子に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンの治療薬としての使用は、近年劇的に増大し、薬物療法の異なる領域に拡大されている。このような用途としては、無ガンマグロブリン血症および低ガンマグロブリン血症の治療、自己免疫疾患および移植片対宿主(GVH)疾患を治療するための免疫抑制剤として、リンパ系悪性腫瘍の治療、ならびに様々な全身性および伝染性疾患を治療するための受動免疫療法が挙げられる。また、免疫グロブリンは、例えば、画像診断法などにおける生体内診断ツールとしても有用である。
【0003】
免疫療法および免疫診断の有効性は、循環中の免疫グロブリンの持続性によって影響され得る。例えば、免疫グロブリンのクリアランス速度は、免疫グロブリンの投与量と頻度とに直接影響を及ぼす。
【0004】
迅速なクリアランスは、投与量および投与頻度の増大を要することがあり、次にそれは患者に悪影響を引き起こして医療コストを増大させることがある。他方、特定のその他の診断および治療手技では、免疫グロブリンの迅速なクリアランスが望ましいことがある。
【0005】
IgGは、ヒトおよびその他の哺乳類で最も多く見られる免疫グロブリンクラスであり、様々なタイプの免疫療法および診断手技で利用される。循環中のIgG異化作用の機序は、胎盤または卵黄嚢を介した、または齧歯類では初乳を介した(トランスサイトーシスを通じた母胎間のIgG移行)、母体から胎児/新生児への受動免疫移行に関連した研究を通じて解明されている(Brambell,Lancet,ii:1087-1093,1966;Rodewald,J.Cell Biol.,71:666-670,1976;Morris et al.,In:Antigen Absorption by the Gut,pp.3-22,1978,University Park Press,Baltimore;Jones et al.,J.Clin.Invest.,51:2916-2927,1972)。
【0006】
高親和性Fc受容体である新生児Fc受容体(FcRn)が、この移送機序に関与するとされている。FcRn受容体は、哺乳期ラットの十二指腸上皮の刷子縁から単離されており(Rodewald et al.,J.Cell Biol.,99:154s-164s,1984;Simister et al.,Eur.J.Immunol.,15:733-738,1985)、対応遺伝子がクローン化されている(Simister et al.,Nature,337:184,1989 and Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.,LIV,571-580,1989)。マウス(Ahouse et al.,J.Immunol.,151:6076-6088,1993)およびヒト(Story et al.,J.Exp.Med.,180:2377-2381,1994)からのFcRnをコードする遺伝子のその後のクローニングは、これらの配列のラットFcRnとの高い相同性を実証し、これらの生物種におけるFcRnが関与するIgGの母胎間伝達の同様の機序が示唆された。
【0007】
その一方で、IgG異化作用の機序は、Brambellのグループ(Brambell et al.,Nature,203:1352-1355,1964;Brambell,Lancet,ii:1087-1093,1966)によっても提案された。Brambellのグループは、循環中のIgG分子の一部に、飽和性である特定の細胞受容体(すなわち、FcRn)が結合し、それによってIgGが分解から保護されて、最終的に循環中にリサイクルされ;他方では、受容体に結合していないIgGが分解されると提案した。提案された機序は、高ガンマグロブリン血症性または低ガンマグロブリン血症患者において観察されたIgG異化作用と一貫していた。さらに、自らの研究ならびに他の研究(例えば、Spiegelberg et al.,J.Exp.Med.,121:323-338,1965;Edelman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,63:78-85,1969を参照されたい)に基づいて、Brambellはまた、母胎間のIgG移行およびIgG異化作用に関与する機序が、同一であるか、または少なくとも非常に密接に関係しているかのいずれかであり得ると提言した(Brambell,Lancet,ii:1087-1093,1966)。実際に、ヒンジFc断片の変異は、異化作用、母胎間移行、新生児トランスサイトーシス、および特にFcRnに対する結合において、同時の変化を引き起こすことが後に報告された(Ghetie et al.,Immunology Today,18(12):592-598,1997)。FcRnは、胎盤を介した新生児への母親IgG移行と、成人におけるIgGおよびアルブミンレベルの恒常性との両方を促進することが示されている(Ghetie et al.(1996)Eur.J.Immunol.26,690-696;Israel et al.(1996)Immunology 89,573-578;Ghetie et al.(2000)Annu.Rev.Immunol.18,739-766;Roopenian et al.(2007)Nat.Rev.Immunol.7,715-725。
【0008】
これらの観察は、IgG定常領域の部分が、withFcRnとの相互作用を通じて、血清中のIgG分解速度をはじめとするIgG代謝を調節することを示唆した。実際に、FcRnに対する結合親和性の増大は、分子の血清半減期を増大させた(Kim et al.,Eur.J.Immunol.,24:2429-2434,1994;Popov et al.,Mol.Immunol.,33:493-502,1996;Ghetie et al.,Eur.J.Immunol.,26:690-696,1996;Junghans et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:5512-5516,1996;Israel et al.,Immunol.,89:573-578,1996)。
【0009】
IgGFcおよび新生児Fc受容体(FcRn)の間の相互作用は、IgGの恒常性に必須であり、循環IgGに長い血清半減期をもたらすことがその後分かった。抗体が取り込まれると、FcRn受容体は、酸性(pH6.0)エンドソーム内の抗体に対する高親和性結合によって、抗体を溶原性分解から保護し、引き続いて中性細胞表面で抗体を放出して循環中に戻す。
【0010】
マウスIgGのFc領域における様々な部位特異的変異誘発実験は、IgGとFcRnとの間の相互作用に関与する特定のアミノ酸残基の同定をもたらした(Kim et al.,Eur.J.Immunol.,24:2429-2434,1994;Medesan et al.,Eur.J.Immunol.,26:2533,1996;Medesan et al.,J.Immunol.,158:2211-2217,1997)。これらの研究および配列比較研究は、位置253のイソロイシン、位置310のヒスチジン、および位置435のヒスチジン(その内容全体が参照により本明細書に援用される、Kabat番号付与、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991 NIH Pub.No.91-3242に準拠する)が、ヒトおよび齧歯類IgG中で高度に保存されていることを発見し、IgG-FcRn結合におけるそれらの重要性が示唆された。IgGのリサイクルに関与するスカベンジャー機序は、高度にpH依存性であり、特に約6のpHで、IgGのFc中のヒスチジン310および435によって促進される。pKaが約6~6.5であるヒスチジンのイミダゾール側鎖は、pH7.4では中性正味電荷を有するが、より低いpH環境では正電荷を得る。したがって、Fc/FcRn相互作用の結合親和性およびpH依存性の両方が、生体内薬物動態学的機能の重要な調節因子である。
【0011】
それに加えて、様々な文献が、分子にFcRn結合ポリペプチドを導入することで(国際公開第97/43316号パンフレット;米国特許第5,869,046号明細書;米国特許第5,747,035号明細書;国際公開第96/32478号パンフレット;国際公開第91/14438号パンフレット)、またはFcRn結合親和性が維持されているが、その他のFc受容体に対する親和性が大幅に低下している抗体に分子を融合させることで(国際公開第99/43713号パンフレット)、または抗体のFcRn結合ドメインに融合させることで(国際公開第00/09560号パンフレット;米国特許第4,703,039号明細書)、その半減期が改変された生理学的活性分子を得る方法を記載する。
【0012】
研究者らは、FcRnに対するIgG結合に影響を及ぼす、および/またはIgG生体内半減期を改変するIgG定常領域の変異を同定している。例えば、(Wardらに付与された)国際公開第93/22332号パンフレットは、IgG定常領域の変異のためにその生体内半減期が低下している、様々な組換えマウスIgGを開示する。FcRnに対する親和性を増大または低下させるためのアミノ酸の置換、付加、または欠失によるIgG分子の調節は、国際公開第98/23289号パンフレットで開示される。最近、FcRnの結合増大を通じて、より長い生体内血清持続をもたらす分子を得するために、IgG Fcが改変されている(Dall’Acqua et al.(2002)J.Immunol.169,5171-5180;Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524;Datta-Mannan et al.(2007)Drug Metab.Dispos.35,86-94;Deng et al.(2010)Drug Metab.Dispos.38,600-605;Hinton et al.(2004)J.Biol.Chem.279,6213-6216;Hinton et al.(2006)J.Immunol.176,346-356;Yeung et al.(2009)J.Immunol.182,7663-7671);Zalevsky et al.(2010)Nat.Biotechnol.28,157-159)。IgG定常領域変性の結果として、生体内半減期が増大しているIgGは、米国特許第7,083,784号明細書、米国特許第7670,600号明細書、米国特許第7,704,497号明細書、米国特許第8,012,476号明細書、米国特許第8,323,962号明細書、米国特許第8,475,792号明細書、および国際公開第2002/060919号パンフレット(Dall’Acquaらに付与された)にも記載される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、例えば、野生型免疫グロブリンFc領域と比較して、1つまたは複数のアミノ酸修飾(例えば、1つまたは複数の置換、挿入および/または欠失)を含有する、Fc領域またはヒンジFc領域などの新生児Fc受容体(FcRn)と結合する免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む、ポリペプチドおよびその他の分子を包含する。1つまたは複数のアミノ酸修飾は、免疫グロブリン定常領域、Fc領域またはそのFcRn結合断片のFcRnに対する親和性を変化させて、ポリペプチドまたはその他の分子の血清半減期を改変する。本発明のポリペプチドおよびその他の分子は、疾患、障害または感染症の治療、予防、診断、および予後診断において用途がある。
【0014】
より具体的には、本発明は、その生体内半減期が、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由良する)IgG定常領域または(Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の修飾によって影響を受ける(増大または低下する)分子に関する。したがって本発明の修飾分子は、本明細書に記載されるような1つまたは複数のアミノ酸修飾を含有する、免疫グロブリン分子のFc領域の少なくともFcRn結合部分を含む。
【0015】
本発明の分子は、そのFcRnに対する結合親和性を改変するように(例えば、アミノ酸置換、欠失または挿入によって)修飾された、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片の存在のために改変された生体内半減期を示す。したがって本発明の分子は、同等の未修飾分子および/または同等の野性型分子と比較して、改変された生体内半減期およびFcRnに対する親和性を有する。任意選択的に、本発明の分子は、同等の未修飾分子と比較して、特定のpH(例えば、pH6.0および/またはpH7.4)における、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片のFcRnに対する結合親和性の変化(増大または低下)もまた示す。
【0016】
一態様では、本発明は、これらのアミノ酸修飾の1つまたは複数を有する、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含有する、IgG抗体などの免疫グロブリンに関する。その他の態様では、本発明はまた、1つまたは複数のこのようなアミノ酸修飾を有する、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片に融合し、またはそれにコンジュゲートされ、またはそれを含有するように操作されたその他の各種免疫グロブリンまたはその断片(すなわち、非IgG免疫グロブリン)、非免疫グロブリンタンパク質、および非タンパク質作用物質にも関する。したがって一態様では、本発明は、これらのアミノ酸修飾の1つまたは複数を有する、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片と、このような修飾IgG定常領域またはそのFcRn結合断片に共有結合する非IgGポリペプチドとを含有する融合タンパク質に関し、修飾IgG定常領域またはその断片の存在は、非IgGタンパク質または分子の生体内半減期を増大または低下させる。例示的実施形態では、融合タンパク質は、IgG分子のFc領域の少なくともFcRn結合部分に共有結合する非IgGポリペプチドを含む。別の態様では、本発明は、これらのアミノ酸修飾の1つまたは複数を有する、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片と、このような修飾IgG定常領域またはその断片にコンジュゲートされた非タンパク質作用物質とを含有する分子に関し、修飾IgG定常領域またはその断片の存在は、野性型IgG1定常領域またはそのFcRn結合断片にコンジュゲートされたものと比較して、非タンパク質作用物質の生体内半減期を増大または低下させる。例示的実施形態では、分子は、IgG分子のFc領域の少なくともFcRn結合部分にコンジュゲートされた非タンパク質作用物質を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、野性型IgG分子または断片と比較して、本発明の修飾IgG分子またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片の生体内半減期を低下させるアミノ酸変異体は、それでもなお修飾IgG分子が非IgGポリペプチドまたは非タンパク質作用物質にコンジュゲートされた場合に、生体内半減期の増大をもたらしてもよく、その結果、より緩慢なクリアランス速度がもたらされる。
【0018】
本発明の分子の一実施形態では、生体内半減期は、同等の未修飾分子と比較して増大する。本発明の方法を使用した、治療および診断用IgGおよびその他の生理活性分子の生体内半減期の増大は、例えば、ワクチン、受動的免疫療法、およびその他の治療および予防法における、これらの分子の投与量および/または頻度の低下をはじめとする多くの利点を有する。
【0019】
本発明の分子の別の実施形態では、生体内半減期は、同等の未修飾分子と比較して低下する。本発明の方法を使用した治療および診断用IgGおよびその他の生理活性分子の生体内半減期の低下は、有毒抗原を除去または中和するために使用されるIgGの血清クリアランス速度の増大をはじめとする多くの利点もまた有し、自己免疫療法を提供し、または生物学的イメージングで用いられる。
【0020】
本発明は、本発明者らによるヒトIgG分子のいくつかのFc領域の変異の同定に基づき、Fc領域の変異は、特定のpH(例えば、pH6.0および/またはpH7.4)における、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片のFcRnに対する結合親和性を改変する。His435を含有して、本明細書で「His435ループ領域」と称されるヒトIgG1のCH3ドメインの残基432~437が変異の標的にされた。したがって、本発明に従った修飾IgG定常領域を含有するIgGまたはその他の分子またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片は、配列アラインメントによって判定されるように、ヒトIgG1Fc領域のCH3ドメイン中のアミノ酸残基432、434、435、436および/または437に、またはその他のIgG中の相似残基の1つまたは複数に、またはその近くに、1つまたは複数の変異を含有する。ヒトIgG1のCH3ドメインはIgG定常領域内のFc領域であり、図1D(配列番号2)に示され;その他のIgG分子のFc領域内の相似残基は、配列アラインメントによって容易に判定され得、同様に変異部位の役割を果たしてもよい。この点において、ヒトIgG1、IgG2、およびIgG4のHis435ループ領域(位置432~437)のアミノ酸配列は、Leu-His-Asn-His-Tyr-Thr(LHNHYT;配列番号8)であり、ヒトIgG3の相似His435ループ領域(位置432~437)のアミノ酸配列は、Leu-His-Asn-Arg-Phe-Thr(LHNRFT;配列番号7、図1D)であり、それはヒトIgG1、IgG2、およびIgG3の配列と異なって、ヒスチジン(H435)の代わりにその位置にアルギニン(R435)を含み、チロシン(Y436)の代わりに位置436のフェニルアラニン(F436)を含むことに留意すべきである。さらに、ヒトIgG3中の位置435および436は、既知の対立遺伝子多様性部位に相当する(図1Dの網掛け囲みおよび星印を参照されたい)。既知の多様性を考慮することで、当業者は、位置435のヒスチジンが、IgG1、IgG2、およびIgG4のCH3ドメイン中に存在する野生型アミノ酸に相当するが、IgG3では、CH3ドメイン中のR435H置換に相当することを認識するであろう。同様に、位置436のチロシンは、IgG1、IgG2、およびIgG4のCH3ドメイン中に存在する野生型アミノ酸に相当するが、IgG3では、CH3ドメイン中のF436Y置換に相当する。
【0021】
His435ループ領域に導入されたランダムアミノ酸変異があるヒトIgG1定常領域のライブラリーが、FcRnに対するIgGの結合親和性のpH依存性の変化について、スクリーニングされた。天然および変異IgG基礎構造の両方が使用された。スクリーニング過程を通じて同定された代表的修飾IgGは、下の表Iに示され、下でさらに詳述される。一実施形態では、修飾IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片は、位置432のグルタミン酸、位置433のアルギニンもしくはアラニン、位置434のトリプトファンもしくはセリンもしくはフェニルアラニン、位置435のヒスチジン、位置436のアルギニン、および/または位置437のグルタミンから選択されるアミノ酸を含む、His435ループ領域を含有する。特定の実施形態では、本発明の分子は、残基432~437に配列E(R/A)(W/S/F/Y)HRQ(配列番号15)を有する、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含有する。別の実施形態では、修飾IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片は、位置432のシステイン、位置433のアルギニンもしくはヒスチジンもしくはアスパラギンもしくはプロリンまたはセリン、位置434のアルギニンもしくはトリプトファン、位置435のヒスチジン、位置436のアルギニンもしくはイソロイシンもしくはロイシンもしくはメチオニンもしくはセリン、および/または位置437のシステインから選択されるアミノ酸を含む、His435ループ領域を含有する。特定の実施形態では、本発明の分子は、残基432~437に配列CSWHLC(変異体「N3」;配列番号20)を有する、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含有する。
【0022】
1つまたは複数の異なるpHにおけるFcRnに対する結合親和性の変化は、IgGの生体内半減期に影響を及ぼすことが示された。対象の血清またはその他の組織内における抗体およびその他の治療薬、ならびにその他の生理活性分子の生体内半減期または持続性は、抗体(または任意のその他の薬剤分子)の投与量および頻度を決定する重要な臨床パラメータである。したがって、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片と共役する、抗体および因子をはじめとするこのような分子には、半減期における変化のために、顕著な製薬上の重要性がある。
【0023】
特定の実施形態では、本発明の分子は、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含み、野性型分子または断片と比較して、pH6におけるIgG定常領域またはそのFcRn結合断片のFcRnに対する親和性を増大させるアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入および/または欠失)を有する。例えば、本発明の分子は、約500nM未満のKDによって特徴付けられる、pH6.0におけるFcRnに対する高親和性結合を示す、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含み得る。修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有するIgGまたはその他の分子は、野生型分子または断片などの同等の未修飾分子よりも長いまたは短い生体内半減期のいずれかを示してもよい。
【0024】
特定の実施形態では、本発明の分子は、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含み、野性型分子または断片と比較して、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性を改変するアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入および/または欠失)を有する。一実施形態では、例えば、本発明の分子は、約1000nM未満のKDによって特徴付けられる、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性を示す、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片を含み得る。別の実施形態では、例えば、本発明の分子は、約1000nMを超えるKDによって特徴付けられる、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性を示す、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片を含み得る。任意選択的に、pH7.4における本発明の分子のFcRnに対する結合親和性は、pH7.4における野性型分子または断片のFcRnに対する結合親和性を下回る。
【0025】
特定の実施形態では、本発明の分子は、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含み、野性型分子または断片などの同等の未修飾分子と比較して、pH6.0およびpH7.4の両方におけるFcRnに対する結合親和性を増大させるアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入および/または欠失)を有する。
【0026】
一実施形態では、本発明の分子は、約500nM未満のKDによって特徴付けられる、pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性、および約1000nM未満のKDによって特徴付けられる、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性を示す、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含む。任意選択的に、本発明のこの実施形態の分子は、必要ではないが、下でさらに詳述される「abdeg様」特性を有してもよい(例えば、図2Aの四分区間IIIおよび5Bを参照されたい)。この実施形態の分子は、野性型IgG定常領域またはそのFcRn結合断片を含有する分子などの未修飾分子と比較して、より短い生体内半減期を示してもよいが、必ずしもそうである必要はない。
【0027】
別の実施形態では、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片を含む本発明の分子は、約500nM未満のKDによって特徴付けられる、pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性、および約1000nMを超えるが、同等の野生型分子のpH7.4におけるKDを下回るKDによって特徴付けられる、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性を示す。任意選択的に、本発明のこの実施形態の分子は、「YTE様」性質を有してもよいが、必ずしもそうである必要はない(例えば、図2Aの四分区間Iおよび5Bを参照されたい)。この実施形態の分子は、野性型IgG定常領域を含有する分子またはそのFcRn結合断片などの未修飾分子と比較してより長い生体内半減期を示してもよいが、必ずしもそうである必要はない。
【0028】
一態様では、本発明は、IgG定常領域またはFc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片の修飾によって、その生体内半減期が増大された、修飾Fc領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有するIgGおよびその他の分子に関する。本発明の方法を使用した、治療および診断用IgGおよびその他の生理活性分子の半減期の増大は、例えば、ワクチン、受動免疫療法、ならびにその他の治療および予防法における、これらの分子の投与量および/または頻度の低下をはじめとする多くの利点を有する。いくつかの実施形態では、より長い生体内半減期を示す、本発明のこの態様の修飾IgGおよびその他の修飾分子は、pH6におけるFcRnに対する高親和性結合と、pH7.4におけるFcRnに対する相対的に低い親和性結合と、任意選択的に、野性型IgGと比較して増大したFcRnに対する結合のpH依存性とによって特徴付けられる。これらの修飾IgGおよびその他の分子の半減期は、pI(等電点)操作、PEG化、およびPas化などの追加的な分子修飾によって、さらに増大され得ることが予期される。
【0029】
別の態様では、本発明は、野性型IgG1定常領域を含有するものなどの未修飾分子またはそのFcRn結合断片と比較して、その生体内半減期が、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片の修飾によって低下された、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有するIgGおよびその他の分子に関する。本発明の方法を使用した、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片を含んでなる、治療および診断用IgGならびにその他の生理活性分子の半減期の低下は、治療的にまたは診断的に有用であるが有毒な抗体、生物製剤、およびその他の分子の迅速なクリアランスの促進、およびpH依存性抗原結合を示す治療用抗体のクリアランスの促進をはじめとする多数の利点を有する。半減期の低下を示す本発明の修飾IgGおよびその他の分子は、例えば、迅速なクリアランスと毒性の低下とが重要である陽電子放出断層撮影(PET)などにおいて、イメージングのために使用されてもよい。半減期がより短い本発明のいくつかの修飾IgGは、内在性IgG分解を促進する能力があるabdegとして機能してもよく、それによって破壊的抗体によって特徴付けられる特定の自己免疫疾患を改善する。いくつかの実施形態では、より短い生体内半減期を示す、本発明のこの態様の修飾IgGおよびその他の修飾分子は、pH6におけるFcRnに対する高親和性結合と、pH7.4におけるFcRnに対する親和性の増大と、任意選択的に、野性型IgGと比較して低下したFcRnに対する結合のpH依存性とによって特徴付けられる。
【0030】
いくつかの実施形態では、本発明の修飾IgGまたはその他の分子は、pH7.4でFcRnに対する低いまたはさらに低下した結合親和性もまた示す。野生型IgGと同様に、本発明の修飾IgGまたはその他の分子は、pH7.4よりもpH6.0で、FcRnに対するより高い親和性を有する。pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性と対比された、pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性の観察された違いは、FcRnに対する結合のpH依存性が、野生型分子などの同等の未修飾分子と比較して、増大または低下しているかどうかを判定するのに利用され得る。
【0031】
用語法
天然抗体および免疫グロブリンは、通常、2つの同一軽(L)鎖および2つの同一重(H)鎖から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖と連結し、重鎖は互いに連結するが、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間ではジスルフィド結合の数が異なる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書でVLと略記される)と、軽鎖定常領域(本明細書でCLと略記される)とを含んでなる。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインからなる重鎖定常領域(CH)とから構成される。重鎖のCH1およびCH2は、いわゆるヒンジ領域によって互いに隔離される。ヒンジ領域は、常態では、抗体分子中のもう一方の重鎖のヒンジ領域のシステイン残基とジスルフィド架橋を形成してもよい1つまたは複数のシステイン残基を含んでなる。抗体は、抗原特異的結合部位を含んでなる可変領域と、エフェクター機能に関与する定常領域とを有する。
【0032】
「Fc」または「Fcドメイン」と称されることもある「Fc領域」という用語は、本明細書の用法では、IgG分子のパパイン消化によって得られる結晶性断片に対応するIgG分子の部分を指す。Fc領域は、ジスルフィド結合によって連結する、IgG分子の2つの重鎖のC末端半分からなる。それは抗原結合活性は有しないが、炭水化物部分と、FcRn受容体をはじめとするFc受容体を補完する結合部位とを含有する(下記参照)。Fc領域は、第2の定常領域CH2全体(Kabat番号付与体系に準拠した、ヒトIgG1の残基231~340)(例えば、配列番号1;図1C)と、第3の定常領域CH3(残基341~447)(例えば、配列番号2;図1D)とを含有する。
【0033】
「ヒンジFc領域」、「Fcヒンジ領域」、「ヒンジFcドメイン」、または「Fcヒンジドメイン」という用語は、本明細書の用法では同義的に使用され、Fc領域(残基231~447)と、Fc領域のN末端から伸びるヒンジ領域(残基216~230;例えば、配列番3)とからなるIgG分子の領域を指す。ヒトIgG1ヒンジFc領域のアミノ酸配列の一例は、配列番号4(図1B図1D)である。
【0034】
「定常領域」という用語は、抗原結合部位を含有する可変領域である免疫グロブリンのもう一方の部分と比較して、より多数の保存アミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の部分を指す。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3ドメインを含有し、軽鎖定常領域は、CLドメインを含有する。
【0035】
「融合タンパク質」は、自然界では天然に連結しない第2のポリペプチドと連結する、第1のポリペプチドを含んでなるキメラポリペプチドを指す。例えば、融合タンパク質は、Fc領域またはFc領域の少なくとも一部(例えば、FcRnに対する結合をもたらすFc領域の部分)をコードするアミノ酸配列と、例えば、受容体のリガンド結合ドメインまたはリガンドの受容体結合領域などの非免疫グロブリンポリペプチドをコードする核酸配列とを含んでなってもよい。ポリペプチドは、常態では、融合ポリペプチド中でまとめられた別々のタンパク質に存在してもよく、またはそれらは、常態では、同一タンパク質中に存在してもよいが、融合ポリペプチド中では新しい配置に置かれる。融合タンパク質は、例えば、化学合成によって、またはその中でペプチド領域が所望の関係性でコードされるポリヌクレオチドの作成および翻訳によって生成されてもよい。
【0036】
「連結した」、「融合した」または「融合」は、同義的に使用される。これらの用語は、化学的結合または組換え手段をはじめとする何らかの手段によって、2つ以上の構成要素または成分を共に連結することを指す。「インフレーム融合」または「作動可能に連結する」は、元のORFの正確な読み枠を保つ方法で連続してより長いORFを形成する、2つ以上の読み取り枠(ORF)の連結を指す。したがって、生じる組換え融合タンパク質は、元のORFによってコードされるポリペプチドに対応する、2つ以上の(自然界では通常そのようには連結しない)断片を含有する単一タンパク質である。読み枠は、このようにして融合断片全体にわたり連続的になるが、断片は、例えば、インフレームのリンカー配列によって物理的または空間的に隔てられてもよい。
【0037】
「FcRn受容体」または「FcRn」という用語は、本明細書の用法では、ヒトまたは霊長類胎盤、または卵黄嚢(ウサギ)を通じた胎児への、および小腸を通じた初乳から新生児への、母親IgGの移行に関与することが知られている、Fc受容体を指す(「n」は新生児を示す)。FcRnが、IgG分子に結合してそれらを血清中にリサイクルすることで、一定した血清IgGレベルの維持に関与することもまた知られている。天然に存在するIgG1、IgG2、およびIgG4分子に対するFcRnの結合は、厳密にはpH依存性であり、pH6で最適結合する。IgG3は、pH6における結合低下をもたらしてもよい、位置435における既知の多様性である(すなわち、ヒトIgGが、ヒトIgG1、IgG2、およびIgG4に見られるH435の代わりにR435を有する)。FcRnは、その分子量がそれぞれおよそ50kDおよび15kDである、2つのポリペプチドのヘテロ二量体を含んでなる。50kDポリペプチドの細胞外ドメインは、主要組織適合性複合体(MHC)クラスIα鎖に関連し、15kDポリペプチドは、非多形性β-ミクログロブリン(β-m)であることが示された。FcRnはまた、胎盤および新生児腸管に加えて、生物種全体にわたり様々な組織で、ならびに様々なタイプの内皮細胞系で発現される。それはまた、成人の血管内皮、筋肉血管系、および肝類洞で発現され、内皮細胞が、ヒトおよびマウスにおける血清IgGレベル維持の最大原因であってもよいことが示唆される。ヒトFcRnおよびマウスFcRnのアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号5および配列番号6によって示される。FcRn活性を有するこれらの配列の相同体もまた含まれる。
【0038】
IgG定常領域上の「FcRn結合断片」は、本明細書における用法では、FcRn受容体と結合するIgG定常領域の断片を指す。IgG定常領域のFcRn結合断片は、Fc領域またはヒンジFc領域を含み得、したがってそれは、FcRnに対する結合に関与する、重鎖CH2-CH3領域またはヒンジ-CH2-CH3領域の部分を含み得る(Roopenian et al.,Nature Rev.Immunol.7:715-725(2007)を参照されたい。
【0039】
「KD」(Kd、KまたはKと称されることもある)は、本明細書における用法では、IgGおよびFcRnなどの2つの分子間の結合相互作用の平衡解離定数である。KDは、観察された結合速度定数(kon)および分離速度定数(koff)から計算され得、KDは、koff/konの比率に等しい。
【0040】
「生体内半減期」という用語は、本明細書の用法では、特定タイプのIgG分子またはFcRn結合部位を含有するその断片の、所与の動物の循環中における生物学的半減期を指し、動物に投与された量の半分が、動物の循環および/またはその他の組織から除去されるのに必要な時間によって表わされる。所与のIgGのクリアランス曲線が、時間の関数として構築される場合、曲線は、通常、血管内および血管外空間の間の注入されたIgG分子の平衡に相当し、ある程度は分子の大きさによって決定される迅速なα相と、血管内空間中のIgG分子の異化作用に相当するより長いβ相がある二相性である。「生体内半減期」という用語は、実質的に、β相におけるIgG分子の半減期に相当する。
【0041】
「単離」または「精製」抗体または融合タンパク質は、タンパク質がそれに由来する細胞または組織供給源からの細胞物質またはその他の混入タンパク質を実質的に含まず、あるいは化学的に合成される場合、化学物質前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まない。「細胞物質を実質的に含まない」という言語は、抗体または融合タンパク質が、それから単離されまたはそれから組換え的に生成された細胞の細胞構成要素から分離されている、抗体または融合タンパク質調製品を含む。したがって、細胞物質を実質的に含まない抗体または融合タンパク質としては、(乾燥重量を基準にして)約30%、20%、10%、または5%未満の混入タンパク質を有する抗体または融合タンパク質調製品が挙げられる。一実施形態では、抗体または融合タンパク質が、組換え的に生成される場合、それはまた、培養液を実質的に含まず、すなわち、培養液がタンパク質調製品容量の約20%、10%、または5%未満に相当し得る。別の実施形態では、抗体または融合タンパク質が、化学合成によって生成される場合、それは化学物質前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まないことができ、すなわち、それは、タンパク質の合成に関与する化学物質前駆体またはその他の化学物質から分離される。したがってこのような抗体または融合タンパク質調製品は、関心のある抗体または抗体断片の他に、(乾燥重量を基準にして)約30%、20%、10%、5%未満の化学物質前駆体または化合物を有する。本発明の一実施形態では、抗体は単離または精製される。任意選択的に、融合タンパク質は単離または精製される。
【0042】
「単離」核酸分子は、核酸分子の天然原料中に存在する、その他の核酸分子から分離された核酸分子である。さらに、cDNA分子などの「単離」核酸分子は、組換え技術によって生成される場合、その他の細胞物質または培養液を実質的に含まず、あるいは化学的に合成される場合、化学物質前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まないことができる。「単離」核酸分子は、cDNAライブラリー中にcDNA分子を含まない。本発明の一実施形態では、抗体をコードする核酸分子は単離または精製される。任意選択的に、融合タンパク質をコードする核酸分子は単離または精製される。
【0043】
「宿主細胞」という用語は、本明細書の用法では、核酸分子で形質移入され、またはファージミドまたはバクテリオファージで感染された特定の対象細胞、およびこのような細胞の子孫または可能な子孫を指す。このような細胞の子孫は、後続世代において、または宿主細胞ゲノムへの核酸分子の組み込みにおいて生じ得る変異または環境の影響のために、核酸分子で形質移入された親細胞と同一でなくてもよい。
【0044】
本明細書で言及されるIgG定常および可変領域のアミノ酸残基は、Kabat et al.(その内容全体が参照により本明細書に援用される、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991 NIH Pub.No.91-3242)のEU番号付与指標に準拠して番号付与され、配列アラインメントによって判定される、その他のIgG定常領域内の対応する残基が含まれる。図1A~Dは、ヒトIgG1重鎖定常領域およびその他のIgG定常領域内の対応する残基を示す。本明細書で言及されるアミノ酸の名称は、三文字または一文字記号のいずれかで略記される。
【0045】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一性百分率を判定するために、最適比較目的で配列を整列させる(例えば第2のアミノ酸または核酸配列との最適アラインメントのために、第1のアミノ酸配列または核酸配列中にギャップを導入し得る)。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド配列部位にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列中の位置が、第2の配列中の対応する位置と同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められる場合、分子はその位置において同一である。2つの配列間の同一性百分率は、配列により共有される同一位置数の関数である(すなわち%同一性=同一重複位置数/位置総数×100%)。一実施形態では、2つの配列は長さが同じである。
【0046】
2つの配列間の同一性百分率の判定は、数学的アルゴリズムを使用しても達成され得る。2つの配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの非限定的例は、Karlin and Altschul,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5873-5877のように修正されている、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:2264-2268のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれている。本発明の核酸分子と相同的なヌクレオチド配列を得るために、例えばscore=100、word length=12のNBLASTヌクレオチドプログラムパラメータセットで、BLASTヌクレオチド検索を実施し得る。本発明のタンパク質分子と相同的なアミノ酸配列を得るために、例えばscore=-50、word length=3のXBLASTプログラムパラメータセットで、BLASTタンパク質検索を実施し得る。比較目的で、ギャップドアライメントを得るために、Altschul et al.,1997,Nucleic Acids Res.25:3389-3402に記載されるようなギャップドBLASTが利用され得る。代案として、PSI-BLASTを使用して、分子間の距離関係(Id)を検出する反復サーチを実施し得る。BLAST、ギャップドBLAST、およびPSI-BLASTプログラムを使用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータが使用され得る(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい)。配列比較のために利用される別の数学的アルゴリズムの非限定的例は、Myers and Miller,1988,CABIOS 4:11-17のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部である、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを使用する場合、PAM 120 weight residue table、gap length penalty=12、およびgap penalty=4を使用し得る。
【0047】
2つの配列間の同一性百分率は、ギャップ許容ありまたはなしで、上に記載されるものと類似した技術を使用して判定され得る。同一性百分率の計算では、典型的に、正確な一致のみが数えられる。
【0048】
「約」という用語は、本明細書で数値に関して使用される場合、+/-20%、+/-10%、または+/-5%の範囲の値を包含してもよい。
【0049】
特定の組成物または工程段階自体が変動することもあるため、本発明は、それらに限定されないものと理解される。この明細書および特許請求の範囲における用法では、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上例外が明記されていない限り、複数形の指示対象を含むことに留意すべきである。
本発明はまた、以下に関する。
[項目1]
野生型Fc領域に関連してKabatのEU番号付与指標に従って番号付与されている、位置432~437の2つ以上におけるアミノ酸置換を含んでなるFc領域を含んでなる、修飾IgGであって、
(i)位置432および437の少なくとも1つが、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の少なくとも1つが、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸で置換され、
前記修飾IgGが、前記野生型Fc領域を有するIgGの半減期と比較して改変された半減期を有する、前記修飾IgG。
[項目2]
ヒトまたはヒト化IgGである、項目1に記載の修飾IgG。
[項目3]
(i)位置432および437の両方が、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の両方が、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から独立して選択されるアミノ酸で置換される、
項目1または2に記載の修飾IgG。
[項目4]
位置437の後にアミノ酸挿入をさらに含んでなる、項目1~3のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目5]
前記アミノ酸挿入が、グルタミン酸である、項目4に記載の修飾IgG。
[項目6]
pH6.0における前記修飾IgGのFcRnに対する結合親和性が、pH6における前記野生型Fc領域を有する前記IgGのFcRnに対する結合親和性よりも高い、項目1~5のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目7]
pH7.4における前記修飾IgGのFcRnに対する前記結合親和性が、pH7.4における前記野生型Fc領域を有する前記IgGのFcRnに対する前記結合親和性よりも高い、項目1~6のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目8]
pH6.0における前記修飾IgGのFcRnに対するKDが500nM未満であり、およびpH7.4における前記KDが少なくとも1000nMである、項目1~7のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目9]
pH6.0における前記KDが500nM未満であり、およびpH7.4における前記KDが1000nM未満である、項目1~7のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目10]
pH6.0における前記KDが500nMを超え、pH7.4における前記KDが少なくとも1000nMである、項目1~7のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目11]
前記修飾IgGが、前記野生型Fc領域を有する前記IgGと比較して、FcRnに対する結合親和性のpH依存性の増大を示す、項目1~10のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目12]
前記修飾IgGが、前記野生型Fc領域を有する前記IgGと比較して、FcRnに対する結合親和性のpH依存性の低下を示す、項目1~10のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目13]
前記修飾IgGが、(i)少なくとも1つのFcガンマ受容体への結合、(ii)C1qへの結合または(iii)エフェクター機能からなる群から選択される少なくとも1つの属性の野生型レベルを維持する、項目1~12のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目14]
前記Fcガンマ受容体が、FcγRI受容体、FcγRII受容体およびFcγRIII受容体からなる群から選択される、項目13に記載の修飾IgG。
[項目15]
前記エフェクター機能が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞毒性(CDC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)からなる群から選択される、項目13に記載の修飾IgG。
[項目16]
前記修飾IgGが、位置432、433、434、435、436または437の3つ以上のアミノ酸置換を有する、項目1~15のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目17]
前記修飾IgGが、位置432、433、434、435、436または437の4つ以上のアミノ酸置換を有する、項目1~16のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目18]
位置432および437が、それぞれシステインで置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニン、もしくはアスパラギンで置換され;位置434が、アスパラギンであるか、またはアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、メチオニン、もしくはスレオニンで置換され;位置435が、ヒスチジンであるか、またはヒスチジンで置換され;および位置436が、チロシンもしくはフェニルアラニンであるか、またはロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリンまたはスレオニンで置換される、項目1~17のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目19]
位置433が、ヒスチジンである、項目18に記載の修飾IgG。
[項目20]
位置433が、アルギニン、アスパラギン、プロリン、スレオニンまたはリジンで置換される、項目18に記載の修飾IgG。
[項目21]
位置434が、アルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニンまたはチロシンで置換される、項目18~20のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目22]
位置434が、アルギニンで置換される、項目21に記載の修飾IgG。
[項目23]
位置436が、ロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリンまたはヒスチジンで置換される、項目18~21のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目24]
位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アスパラギン、プロリン、スレオニン、もしくはリジンで置換され;位置434が、アルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニンまたはチロシンで置換され;および位置436が、ロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリンまたはヒスチジンで置換される、項目18に記載の修飾IgG。
[項目25]
位置432~437にアミノ酸配列CXRHXC(配列番号11)を含んでなり、位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アスパラギン、プロリン、もしくはセリンで置換され、および位置436が、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニンまたはセリンで置換される、項目18に記載の修飾IgG。
[項目26]
位置432~437にアミノ酸配列CRRHXC(配列番号12)を含んでなり、位置436が、ロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリンまたはスレオニンで置換される、項目18に記載の修飾IgG。
[項目27]
位置436が、ロイシン、イソロイシン、セリンまたはスレオニンで置換される、項目25に記載の修飾IgG。
[項目28]
位置432~437にアミノ酸配列CXRHRC(配列番号13)を含んでなり、位置433が、アルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニンまたはアスパラギンである、項目18に記載の修飾IgG。
[項目29]
位置432~437にアミノ酸配列ZXXHXZを含んでなり、位置432が、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギン酸で置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アラニン、リジン、スレオニン、ロイシン、プロリン、セリンもしくはグルタミンで置換され;位置434が、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリンまたはトリプトファンで置換され;位置436が、チロシンであるか、またはアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、ロイシン、メチオニン、スレオニンもしくはバリンで置換され;および位置437が、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸で置換される、項目1~17のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目30]
位置432が、グルタミン酸またはヒスチジンで置換され;位置433が、アルギニン、アラニン、リジン、スレオニンまたはロイシンで置換され;位置434が、フェニルアラニンまたはチロシンで置換され;位置436が、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギンまたはリジンで置換され;および位置437が、グルタミンまたはグルタミン酸で置換される、項目27に記載の修飾IgG。
[項目31]
Kabatの前記EU番号付与指標に従って、位置251~256、285~290、308~314、385~389および428~431の任意の1つまたは複数における変異をさらに含んでなる、項目1~30のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目32]
位置252におけるチロシンによる置換、スレオニン254による置換および位置256におけるグルタミン酸による置換をさらに含んでなる、項目31に記載の修飾IgG。[項目33]
表1に示される、N3、YC37-YTE、YC56-YTE、YC59-YTE、Y3-YTE、Y31-YTE、Y12-YTE、Y83-YTE、Y37-YTEおよびY9-YTEからなる群から選択される、項目1~3のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目34]
表1に示される、N3-YTE、N3E-YTE、SerN3-YTE、Y54-YTE、Y74-YTE、Y8-YTEからなる群から選択される、位置432~437にアミノ酸配列を含んでなる、項目1~3のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目35]
アミノ酸位置435にヒスチジンを有する、項目1~34のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目36]
位置432~437にアミノ酸配列E(R/A)(W/S/F)HRQ(配列番号15)を含んでなる、項目1~35のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目37]
ウイルス抗原、細菌抗原、原生生物抗原、プリオンおよび哺乳類自己抗原からなる群から選択される抗原と結合する、項目1~36のいずれか一項に記載の修飾IgG。
[項目38]
IgG分子のFc領域の少なくともFcRn結合部分を含んでなるポリペプチドであって、前記FcRn結合部分が、野生型FcRn結合部分に関連してKabatのEU番号付与指標に従って番号付与されている、位置432~437の2つ以上におけるアミノ酸置換を含んでなり、
(i)位置432および437の少なくとも1つが、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の少なくとも1つが、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸で置換される、
前記ポリペプチド。
[項目39]
(i)位置432および437の両方が、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の両方が、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から独立して選択されるアミノ酸で置換される、
項目38に記載のポリペプチド。
[項目40]
位置432および437が、それぞれシステインで置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニンもしくはアスパラギンで置換され;位置434が、アスパラギンであるか、またはアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、メチオニンもしくはスレオニンで置換され;位置435が、ヒスチジンであるか、またはヒスチジンで置換され;および位置436が、チロシンもしくはフェニルアラニンであるか、またはロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリンもしくはスレオニンで置換される、項目39に記載のポリペプチド。
[項目41]
位置432が、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギン酸で置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アラニン、リジン、スレオニン、ロイシン、プロリン、セリンもしくはグルタミンで置換され;位置434が、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリンまたはトリプトファンで置換され;位置436が、チロシンであるか、またはアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、ロイシン、メチオニン、スレオニンもしくはバリンで置換され;および位置437が、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸で置換される、位置432~437にアミノ酸配列ZXXHXZを含んでなる、項目39に記載のポリペプチド。
[項目42]
位置432~437にアミノ酸配列E(R/A)(W/S/F)HRQ(配列番号15)を含んでなる、項目41に記載のポリペプチド。
[項目43]
位置437の後にアミノ酸挿入をさらに含んでなり、前記アミノ酸挿入がグルタミン酸である、項目41または42に記載のポリペプチド。
[項目44]
前記Fc領域の前記FcRn結合部分が、Kabatの前記EU番号付与指標に従って、IgG分子のアミノ酸残基およそ231~446を含んでなる、項目38~43のいずれか一項に記載のポリペプチド。
[項目45]
前記Fc領域の前記FcRn結合部分が、Kabatの前記EU番号付与指標に従って、IgG分子のアミノ酸残基およそ216~446を含んでなる、項目38~43のいずれか一項に記載のポリペプチド。
[項目46]
IgG分子のFc領域の少なくともFcRn結合部分に共有結合する非IgGポリペプチドを含んでなる融合タンパク質であって、前記FcRn結合部分が、野生型Fc領域に関連してKabatのEU番号付与指標に従って番号付与されている、位置432~437の2つ以上におけるアミノ酸置換を含んでなり、
(i)位置432および437の少なくとも1つが、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の少なくとも1つが、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸で置換され、
前記融合タンパク質が、前記非IgGポリペプチドよりも長いまたは短い生体内半減期を有する、
前記融合タンパク質。
[項目47]
(i)位置432および437の両方が、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の両方が、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から独立して選択されるアミノ酸で置換される、
項目46に記載の融合タンパク質。
[項目48]
位置432および437が、それぞれシステインで置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニンもしくはアスパラギンで置換され;位置434が、アスパラギンであるか、またはアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、メチオニンもしくはスレオニンで置換され;位置435が、ヒスチジンであるか、またはヒスチジンで置換され;および位置436が、チロシンもしくはフェニルアラニンであるか、またはロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリンもしくはスレオニンで置換される、項目47に記載の融合タンパク質。
[項目49]
位置432が、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギン酸で置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アラニン、リジン、スレオニン、ロイシン、プロリン、セリンもしくはグルタミンで置換され;位置434が、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリンまたはトリプトファンで置換され;位置436が、チロシンであるか、またはアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、ロイシン、メチオニン、スレオニンもしくはバリンで置換され;および位置437が、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸で置換される、位置432~437にアミノ酸配列ZXXHXZを含んでなる、項目47に記載の融合タンパク質。
[項目50]
位置432~437にアミノ酸配列E(R/A)(W/S/F)HRQ(配列番号15)を含んでなる、項目49に記載の融合タンパク質。
[項目51]
位置437の後にアミノ酸挿入をさらに含んでなり、前記アミノ酸挿入がグルタミン酸である、項目49または50に記載の融合タンパク質。
[項目52]
前記Fc領域の前記FcRn結合部分が、Kabatの前記EU番号付与指標に従って、IgG分子のアミノ酸残基およそ231~446を含んでなる、項目46~51のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
[項目53]
前記Fc領域の前記FcRn結合部分が、Kabatの前記EU番号付与指標に従って、IgG分子のアミノ酸残基およそ216~446を含んでなる、項目46~51のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
[項目54]
前記非IgGポリペプチドが、免疫修飾物質、受容体、ホルモンまたは薬物である、項目46~53のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
[項目55]
IgG分子のFc領域の少なくともFcRn結合部分にコンジュゲートされた非タンパク質作用物質を含んでなる分子であって、前記FcRn結合部分が、野生型Fc領域に関連してKabatのEU番号付与指標に従って番号付与されている、位置432~437の2つ以上におけるアミノ酸置換を含んでなり、
(i)位置432および437の少なくとも1つが、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の少なくとも1つが、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸で置換され、
前記分子が、前記非タンパク質作用物質よりも長いまたは短い生体内半減期を有する、前記分子。
[項目56]
(i)位置432および437の両方が、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の両方が、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から独立して選択されるアミノ酸で置換される、
項目55に記載の分子。
[項目57]
位置432および437が、それぞれシステインで置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニンもしくはアスパラギンで置換され;位置434が、アスパラギンであるか、またはアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、メチオニンもしくはスレオニンで置換され;位置435が、ヒスチジンであるか、またはヒスチジンで置換され;および位置436が、チロシンもしくはフェニルアラニンであるか、またはロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリンもしくはスレオニンで置換される、項目56に記載の分子。
[項目58]
位置432が、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギン酸で置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アラニン、リジン、スレオニン、ロイシン、プロリン、セリンもしくはグルタミンで置換され;位置434が、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリンまたはトリプトファンで置換され;位置436が、チロシンであるか、またはアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、ロイシン、メチオニン、スレオニンもしくはバリンで置換され;および位置437が、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸で置換される、位置432~437にアミノ酸配列ZXXHZZを含んでなる、項目56に記載の分子。
[項目59]
位置432~437にアミノ酸配列E(R/A)(W/S/F)HRQ(配列番号15)を含んでなる、項目58に記載の分子。
[項目60]
位置437の後にアミノ酸挿入をさらに含んでなり、前記アミノ酸挿入がグルタミン酸である、項目58または59に記載の分子。
[項目61]
前記Fc領域の前記FcRn結合部分が、Kabatの前記EU番号付与指標に従って、IgG分子のアミノ酸残基およそ231~446を含んでなる、項目55~60のいずれか一項に記載の分子。
[項目62]
前記Fc領域の前記FcRn結合部分が、Kabatの前記EU番号付与指標に従って、IgG分子のアミノ酸残基およそ216~446を含んでなる、項目55~60のいずれか一項に記載の分子。
[項目63]
項目2~62のいずれか一項に記載の修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子、および薬学的に許容できる担体を含んでなる医薬組成物。
[項目64]
項目1~54のいずれか一項に記載の修飾IgG、ポリペプチドまたは融合タンパク質またはそのFcRn結合断片をコードするヌクレオチド配列を含んでなる核酸。
[項目65]
項目64に記載の核酸を含んでなるベクター。
[項目66]
クローニングベクターまたは発現ベクターを含んでなる、項目65に記載のベクター。[項目67]
項目64に記載の核酸を含んでなる宿主細胞。
[項目68]
項目2~62のいずれか一項に記載の修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子を含んでなるキット。
[項目69]
疾患、障害または感染症を治療する方法であって、それを必要とする患者に、項目2~62のいずれか一項に記載の修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子の治療有効量を投与するステップを含んでなる、前記方法。
[項目70]
同等の未修飾IgG、融合タンパク質または分子よりも低用量、低頻度または少ない副作用で、前記修飾ヒトもしくはヒト化IgG、融合タンパク質または分子を投与するステップを含んでなる、項目69に記載の方法。
[項目71]
項目2~62のいずれか一項に記載の修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子の予防的有効量を対象に投与するステップを含んでなる、疾患または障害を予防する方法。
[項目72]
免疫応答を惹起するのに有効な量の項目2~62のいずれか一項に記載の修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子を対象に投与するステップを含んでなる、対象にワクチン接種する方法。
[項目73]
(a)項目2~62のいずれか一項に記載の修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子の有効量を対象に投与するステップであって、前記修飾ヒトまたはヒト化IgGが、疾患、障害または感染症に関連する抗原に特異的に結合する、ステップと;
(b)前記修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子を前記対象中の前記抗原が見られる部位に集中させるステップと;
(c)前記修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子を検出するステップと
を含んでなる、対象において疾患、障害または感染症を診断、モニタリングまたは予後診断する生体内方法であって、それによってバックグラウンドまたは標準レベルを超える、前記修飾ヒトもしくはヒト化IgG、ポリペプチド、融合タンパク質または分子の検出が、前記対象が前記疾患、障害または感染症を有することを示す、前記生体内方法。
[項目74]
KabatのEU番号付与指標に従って番号付与されている、位置432~437の2つ以上にアミノ酸置換を導入するステップを含んでなる、IgGの半減期を改変する方法であって、
(i)位置432および437の少なくとも1つが、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の少なくとも1つが、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸で置換される、
前記方法。
[項目75]
(i)位置432および437の両方が、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の両方が、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から独立して選択されるアミノ酸で置換される、
項目74に記載の方法。
[項目76]
位置432および437が、それぞれシステインで置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニンもしくはアスパラギンで置換され;位置434が、アスパラギンであるか、またはアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、メチオニンもしくはスレオニンで置換され;位置435が、ヒスチジンであるか、またはヒスチジンで置換され;および位置436が、チロシンもしくはフェニルアラニンであるか、またはロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリンもしくはスレオニンで置換される、項目75に記載の方法。
[項目77]
位置432が、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギン酸で置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アラニン、リジン、スレオニン、ロイシン、プロリン、セリンもしくはグルタミンで置換され;位置434が、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリンまたはトリプトファンで置換され;位置435が、ヒスチジンであり;位置436が、チロシンであるか、またはアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、ロイシン、メチオニン、スレオニンもしくはバリンで置換され;および位置437が、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸で置換される、項目75に記載の方法。
[項目78]
非IgGポリペプチドまたは非タンパク質作用物質をIgG分子のFc領域の少なくともFcRn結合部分にコンジュゲートさせるステップを含んでなる、非IgGポリペプチドまたは非タンパク質作用物質の半減期を改変する方法であって、前記FcRn結合部分が、野生型Fc領域に関連してKabatのEU番号付与指標に従って番号付与されている、位置432~437の2つ以上におけるアミノ酸置換を含んでなり、
(i)位置432および437の少なくとも1つが、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の少なくとも1つが、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸で置換され、
前記分子が、前記非タンパク質作用物質よりも長いまたは短い生体内半減期を有する、前記方法。
[項目79]
(i)位置432および437の両方が、システインで置換され;または
(ii)位置432および437の両方が、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびヒスチジンからなる群から独立して選択されるアミノ酸で置換される、
項目78に記載の方法。
[項目80]
位置432および437が、それぞれシステインで置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニンもしくはアスパラギンで置換され;位置434が、アスパラギンであるか、またはアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、メチオニンもしくはスレオニンで置換され;位置435が、ヒスチジンであるか、またはヒスチジンで置換され;および位置436が、チロシンもしくはフェニルアラニンであるか、またはロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリンもしくはスレオニンで置換される、項目79に記載の方法。
[項目81]
位置432が、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギン酸で置換され;位置433が、ヒスチジンであるか、またはアルギニン、アラニン、リジン、スレオニン、ロイシン、プロリン、セリンもしくはグルタミンで置換され;位置434が、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリンまたはトリプトファンで置換され;位置435が、ヒスチジンであり;位置436が、チロシンであるか、またはアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、ロイシン、メチオニン、スレオニンもしくはバリンで置換され;および位置437が、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸で置換される、項目79に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1A図1A~1Dは、Kabatに記載のEU指針に準拠して番号付与されている、IgG重鎖定常領域(IgG1(配列番号56)、IgG2(配列番号57)、IgG3(配列番:58)およびIgG4(配列番号59))のアミノ酸配列(配列番号56~59)および番号付与を示す。「Kabatに記載のEU指針」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991 NIH Pub.No.91-3242に記載されるような、ヒトIgG1EU抗体の残基番号付与を指す。図1A~Bは、CH1およびヒンジ領域のアミノ酸配列および番号付与を示す。図1Cは、CH2領域のアミノ酸配列および番号付与を示す。図1Dは、CH3領域のアミノ酸配列および番号付与を示す。IgG1、IgG2、IgG3および/またはIgG4の間のように異なる残基は網掛けされ、既知の対立遺伝子多様性の部位は星印()によって示される。図1Eは、β-2-ミクログロブリン(p14としてもまた知られている)との複合体を形成する、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)大型サブユニットp51アミノ酸配列(配列番号5)を示す。図1Fは、典型的なヒトβ-2-ミクログロブリンアミノ酸配列(配列番号6)を示す。既知の対立遺伝子多様性のために、報告された配列と先行技術の配列との間にわずかな相違が存在してもよい。
図1B図1Aの続きである。
図1C図1Bの続きである。
図1D図1Cの続きである。
図1E図1Dの続きである。
図1F図1Eの続きである。
図2A図2Aは、pH6.0(x軸)およびpH7.4(y軸)における、ヒトFcRn(hFcRn)に対するIgGFc断片の結合親和性(KD値)によって画定される二次元空間を示す。平面は、様々な薬物動態特性と関係があってもよい四分区間に分割される。図2Bは、pH6.0および7.4における、選択された抗CD20変異体に対するhFcRn結合を示す散布図を示す。図2Cは、選択された抗CD20変異体に対するhFcRnの結合を示す、図2Bからの挿入ボックスの散布図を示す。
図2B図2Aの続きである。
図2C図2Bの続きである。
図3】HB20.3 IgGおよび様々なFc変異体の示差走査熱量測定(DSC)分析を示す。全ての抗体は、約73℃の温度でFabアンフォールディングを示す。HB20.3(黒破線)は、83.3℃のC3Tを有し;HB20.3C2の変性転移(常態では約69℃)は、おそらくFab転移内に埋没している。YTE(濃灰色線)は、83.3℃のC3T、および65.1℃のC2を有する。N3-YTE(黒線)およびCwtC-YTE(淡灰色破線)は、同様のC2およびC3転移を示し、両方の変異体でC3Tは87.1℃にあり、C2転移は、N3-YTEでは62.7℃に、CwtC-YTEでは62.3℃に低下する。SerN3-YTE(淡灰色線)は、58.7℃で示される最も低い抗体のC2転移を有し、そのC3転移は、73℃におけるFabアンフォールディングによって遮蔽された。
図4】調査された全ての配列中で示される位置の特定位置で起こる、アミノ酸の相対的発生率の図式表現としての、CXXXXCE(配列番号10)およびZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーの配列解析を示す。文字が大きいほど、そのアミノ酸は調べられた配列中のその位置でより頻繁に見られる。CXXXXCEライブラリーの、およびファージELISAを通じて改善されたpH依存性を有すると見なされる6個のクローン(図4B)の、4回のファージパニング後に単離された52個のファージクローン(図4A)について、アミノ酸432~437を描写するシーケンスロゴ(Crooks et al.,2004 Genome Res.14:1188-1190;Schneider and Stephens,1990 Nucleic Acids Res.18:6097-6100)が示される。ZXXHXZライブラリーの4回のファージパニング後に単離された68個のファージクローンについて、アミノ酸432~437(配列番号23)のシーケンスロゴ描写が示される(図4C)。
図5】CXXXXCE(配列番号10)およびZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーについて、ファージELISAデータを示す。N3E-YTEと共にグループ分けされないCXXXXCE(配列番号10)ライブラリーからの変異体のpH7.4およびpH6.0におけるhFcRn結合、ならびに配列を比較する典型的なファージELISAデータが示される(図5A)。ZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーの4回目のパニング後に単離された個々のクローンの典型的なファージELISA結果もまた示される(図5B)。好ましい領域内のpH依存性結合を示すファージクローンは丸で囲まれる。これらのクローンのいくつかは完全長IgGに変換され、FcRn結合について再評価された。
図6】hFcRn遺伝子組換えマウスにおける、モタビズマブ変異体の薬物動態(PK)分析を示す。hFcRnマウスにおけるモタビズマブの野性型(●)、YTE(■)、Y31-YTE(▼)およびN3E-YTE(▲)バージョンのIgGレベルが示される(図6A)。表2で試験された全ての抗体変異体のクリアランス速度が、それらのpH6.0 hFcRn結合親和性に対してプロットされる(図6B)。
図7】202人のドナーに由来するPBMCを使用した免疫原性(T-細胞増殖アッセイ)の結果を示す。ドナーは白人のHLA多様性を反映するように選択され、12を超えるHLA-DRB1アロタイプに相当する。モタビズマブ(wt)、N3モタビズマブ、緩衝液(PBS)、およびキーホールリンペットヘモシアニン(KLH、既知の免疫原性タンパク質)が抗原として使用された。抗原は、PBMCに添加されて14日間培養された。T細胞増殖はFACによって測定された。データは刺激指標(SI)として報告される。試験された4群のSIおよび有意性を示す表が示される(図7A)。個々のドナーのSIが見られる(図7B)。
図8】患者由来多形核の細胞による、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(ルシフェラーゼ遺伝子を含有する株PA01:lux)のオプソニン作用死滅を描写する。Cam004 wt(黒丸)がOPKを有効に促進した一方で、Cam004 YTE(黒三角形)はOPKを低下させた。Cam440 N3(灰色四角形)は、親Cam004と同様のOPKを有する。非特異的抗体もまた陰性対照として示される(R347;灰色三角形)。
図9】4℃(黒色四角形)、25℃(黒色菱形)、または40℃(黒色三角形)で1ヶ月間培養された50mg/mlのN3変異抗体(N3モタビズマブ)の1ヶ月間にわたる安定性ストレス試験の結果を描写する。
図10】pH依存性抗原結合を示す抗体による抗原クリアランスの概略図である。古典的飲作用(図9A)が、7.4ならびにpH6.0でFcRnに対する高親和性を示す抗体を使用した可能なエンドサイトーシス(図9B)と比較される。
【発明を実施するための形態】
【0051】
治療用抗体、診断抗体、およびFc-融合生物製剤は、FcRn媒介リサイクルを活用して、所望の特性次第で、内在性IgGと同様のまたは異なり得る血清半減期を達成する。本発明は、生物学的治療および診断薬に、改善された薬物動態特性をさらに与えることで、有効性を保ちながら、より望ましい用量、投与頻度低下、またはクリアランス改善の機会を提供する。
【0052】
本発明は、その生体内半減期が、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の存在によって変化(増大または低下)する、少なくともCH3ドメインに1つまたは複数のアミノ酸残基の修飾を有する分子、特にタンパク質、より特には免疫グロブリンを提供する。修正は、アミノ酸置換、挿入、欠失、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。本明細書に現れるIgG定常および可変領域のアミノ酸残基への全ての言及は、Kabat et al.(その内容全体が参照により本明細書に援用される、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991 NIH Pub.No.91-3242)のEU番号付与指標に準拠して番号付与されるものと理解すべきである、配列アラインメントによって判定される、その他のIgG定常領域内の対応する残基が含まれる。
【0053】
より具体的には、本発明は、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の存在によって、その生体内半減期が変化(増大または低下)した、432、433、434、435、436、または437の1つまたは複数アミノ酸残基に修飾を有し、および/またはCH3ドメインのHis435ループ領域内に、本明細書で437と称されるアミノ酸437および438の間の単一アミノ酸挿入を有する分子、特にタンパク質、より特には免疫グロブリンを提供し、そのアミノ酸置換および/または挿入は、特定のpH(例えば、pH6.0またはpH7.4)における、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片のFcRnに対する結合親和性を変化(増大または低下)させる。残基437および438間の挿入をはじめとするこのような修飾は一般に、His435ループ領域内、すなわち、アミノ酸残基432~437の修飾と称される。特定の実施形態では、これらの修飾は、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合部分が、野生型ヒトIgG1、IgG2、およびIgG4に見られるHis435を含有するように、残基435を排除し得る。特定の実施形態では、例えば、野生型分子中では、IgG1、IgG2、およびIgG4などに見られるヒスチジン(H435)の代わりに、位置(R435)のアルギニンを含む、ヒトIgG3中の相似His435ループ領域の修飾は、既知の対立遺伝子多様性の部位(図1Dの網掛けボックスおよび星印を参照されたい)であり、これらの修飾としては、H435をもたらす野生型非ヒスチジン残基435のヒスチジンによる置換が挙げられる。一実施形態では、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合部分は、ヒトまたはヒト化IgG定常領域またはそのFcRn結合部分であるが、それはマウス型であってもよい。ヒトまたはヒト化IgG定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4ドメイン、またはその任意のサブタイプ由来の定常領域であり得る。
【0054】
一態様では、本発明は、免疫グロブリンおよびその他の生理活性分子の生体内半減期を増大させる、製薬上の重要性に対処する。この目的を達成するために、本発明は、免疫グロブリンおよびその他の生理活性分子に生体内半減期の増大をもたらす、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有するIgGおよびその他の分子を提供する。この態様では、本発明は、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の存在によって生体内半減期が増大されたIgGまたは(例えば、タンパク質であるが、非タンパク質作用物質であってもよい)その他の分子に関し、その中では、IgG定常領域またはその断片が(例えば、アミノ酸置換、欠失または挿入によって)修飾されて、特定pH(例えば、pH6.0またはpH7.4)における、IgG定常領域またはFcRn結合断片のFcRnに対する結合親和性が変化(増大または低下)する。一実施形態では、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片が修飾されて、pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性が、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性と比較して増大される。本発明の修飾IgGの生体内半減期は、好都合には、下の実施例でより詳細に記載されるように、ヒト遺伝子導入マウスモデルまたはカニクイザル霊長類モデルにおいて評価され得る。
【0055】
別の態様では、本発明は、免疫グロブリンおよびIgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片に共有結合するその他の生理活性分子の生体内半減期を低下させる、製薬上の重要性に対処する。この目的を達成するために、本発明は、免疫グロブリンおよびIgG定常領域またはそのFcRn結合断片に共有結合する、その他の生理活性分子に生体内半減期の低下をもたらす、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有するIgGおよびその他の分子を提供する。この態様では、本発明は、修飾IgG定常領域またはそのFcRn結合断片の存在によって生体内半減期が低下した(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgGもしくはIgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片に共有結合するその他の分子(例えば、タンパク質または非タンパク質作用物質)に関し、その中では、IgG定常領域またはその断片が(例えば、アミノ酸置換、欠失または挿入によって)修飾されて、1つまたは複数のpHにおける、IgG定常領域またはその断片のFcRnに対する結合親和性が改変され;限定を意図しない例として、pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性が維持または増大され、同時にpH7.4におけるFcRnに対する結合親和性が増大される。
【0056】
本発明のほとんどの修飾IgGは、互いにまたはそれらの未修飾または野生型対応物と比較して、生体内半減期の増大または低下を示すかどうかに関わりなく、野生型IgG定常領域よりも高い、pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性を示すIgG定常領域またはそのFcRn結合断片を含有する。
【0057】
より一般的には、当業者は、本発明のFc変異体が、それらが互いにまたはそれらの未修飾もしくは野生型対応物と比較して生体内半減期の増大または低下を示すかどうかに関わりなく、改変されたFcRn結合特性を有してもよいことを理解するであろう。結合特性の例としては、結合特異性、平衡解離定数(KD)、解離および結合速度(それぞれKonおよびKoff)、結合親和性および/または結合活性が挙げられるが、これに限定されるものではない。平衡解離定数(KD)がkoff/konとして定義されることは、当該技術分野で周知である。親和力相互作用が高いほどKDはより低くなり、逆に親和力相互作用が低いほどKDはより高くなるものと理解される。しかし、場合によっては、KD値よりもKonまたはKoff値の方が、関連性がより高いこともある。
【0058】
FcRnに対するIgGの結合親和性、このような結合親和性のpH依存性、および生体内半減期の関係が複雑である一方、pH6.0におけるFcRnに対する高親和性結合(例えば、約500nM未満のKD)を示すIgG定常領域では、例えば、(一般に、FcRn結合のpH依存性の低下を反映して)pH7.4におけるKDが約1μM未満からナノモル濃度の範囲に低下した場合など、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性が増大するにつれて、場合によっては、修飾IgGのより短い生体内半減期が帰結し得ることが発見された(例えば、下でより詳細に考察される図2Aの四分区間IIIおよび5Bを参照されたい)。
【0059】
対照的に、一般に、FcRn結合のより大きいpH依存性を反映する、pH6.0における高結合親和性(例えば、約500nM未満のKD)を伴う、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性の低下(例えば、pH7.4における約1μMを超えるKD)は、場合によっては、より長い生体内半減期をもたらし得る(例えば、下でより詳細に考察される図2Aの四分区間Iおよび5Bを参照されたい)。
【0060】
いくつかの実施形態では、本発明の修飾IgGおよびその他の分子は、100nM未満、200nM未満、300nM未満、400nM未満、500nM未満または1000nM未満のpH6.0におけるFcRn結合KDを示す、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有する。本発明の修飾IgGは、例えば、10nM~500nM、50nM~500nMのpH6.0におけるFcRn結合KD値によって特徴付けられ得る。いくつかの実施形態では、本発明の修飾IgGは、野生型IgG定常領域またはそのFcRn結合断片と比較して、pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性の少なくとも10倍の増大、少なくとも20倍の増大、または少なくとも50倍の増大を示す。
【0061】
それに加えてまたは代案として、修飾IgGは、10nM~50μMである、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性を示し得る。理論による拘束は意図しないが、閾値が存在してもよいことが観察され、pH7.4における約1μM以上のKD(例えば、FcRnに対するより低い結合親和性を証明する、1μM、5μM10μM、20μM、30μM、40μM、50μM以上のKD;すなわち、マイクロモル濃度またはミリモル濃度範囲の結合親和性)が、半減期増大(より緩慢なクリアランス)を有する修飾IgGまたはその他の分子に関連してもよい一方で、pH7.4における1μM未満のKD(例えば、FcRnに対するより高い結合親和性を証明する、50nM、100nM、200nM、500nM、800nM、最高約1000nMのKD、すなわち、ナノモル濃度範囲内の結合親和性)は、半減期低下(より迅速なクリアランス)を有する修飾IgGまたはその他の分子に関連してもよい。修飾IgGまたはその他の分子の半減期増大は、通常、しかし必ずしもそうではないが、pH6における結合の50nM~400nMまたは500nMのKD、およびpH7.4における1μMを超えるKDによって特徴付けられる、FcRnに対するpH依存性結合に関連する。
【0062】
図2Aは、pH6.0(x軸)およびpH7.4(y軸)における、IgGのFcRnに対する結合のKD値によって画定される座標平面を示す。4つの四分区間が示されるが、FcRn結合のpH依存性と、半減期および血清クリアランスなどの様々な薬物動態特性との関係は複雑であるため、四分区間は互いに重複してもよいものと理解すべきである。
【0063】
四分区間Iに分類されるIgGは、(野生型よりも高い)pH6.0におけるFcRnに対する高結合親和性、およびpH7.4における比較的低い結合親和性を示す。結果は、一般に、FcRnに対する結合のより大きいpH依存性であり、それは、これらのIgGのより長い生体内半減期に関連してもよい。図2Bは、四分区間Iに入る代表的変異体IgGを示す。このような一変異体は、本明細書で「YTE」と称される。YTEは、CH2ドメインの変異(すなわち、M252Y/S254T/T256E)を有するIgG定常領域を有する。YTE変異体は、FcRnに対して、pH6.0における結合親和性の増大と、7.4における比較的低い結合親和性とを有し、野生型IgG定常領域と比較して、生体内半減期およびクリアランスの3~4倍の増大を示す。この変異は、最も良く同定されたIgG半減期を増大させるものの1つであり、2006年8月1日に発行された米国特許第7,083,784号明細書、および2002年8月8日に公開された国際公開第2002/060919号パンフレットに、より詳細に記載される。本発明の修飾IgGは四分区間Iに含まれ、したがって本明細書では「YTE様」または「YTE様」特性を有すると称されることもある。その構造が表Iに記載される、「YTE様」特性がある本発明の代表的修飾IgGは、図2Bおよび2Cの四分区間Iに示されて、N3、Y31、Y12、YC37-YTE、YC56-YTE、Y3-YTE、Y31-YTE、Y12-YTE、Y83-YTE、Y37-YTE、およびY9-YTEが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0064】
四分区間IIに分類される本発明の修飾IgGは、YTEほどには高くない(すなわち、野生型IgG結合親和性とより類似する)pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性と、これもまたそれほど高くないpH7.4における結合親和性とを示す。野生型IgGは、四分区間IIの代表的IgGである。YC59-YTE(表I)はまた、四分区間IIにも分類されて、野生型特性を有することが予期される。
【0065】
四分区間IIIは、pH6.0で高いだけでなく、pH7.4で野生型レベルよりも有意に高い、FcRnに対する結合親和性を示す修飾IgGを含む。これらの分子では、FcRnに対するそれらの結合親和性のpH依存性がより低いことが概して観察される。pH7.4における高結合親和性は、短い生体内IgG半減期および高いクリアランス速度において顕在化し得る。理論による拘束は意図しないが、これらの薬物動態特性は、細胞表面のその受容体に対する免疫グロブリンのより強力な結合に起因してもよく、それは次に、血清または組織中へのIgGの放出を阻害してもよく、それによってFcRn媒介リサイクルの利点が失われ、内在性IgGがリサイクルのためにFcRnを利用するのを妨げてもよく、総合的に循環中のIgGレベルの低下もたらすと考えられる。半減期が低下された修飾IgG、ならびにabdeg様性質があるもの(Vaccaro et al.,Nature Biotechnol.,2005,10(23):1283-1288)は、四分区間IIIの範囲内に入る可能性が高いことが予期される。pH6.0およびpH7.4の両方で、FcRnに対する結合親和性が増大されるAbdegは、内在性IgGレベルを低下させるそれらの能力を所与として、自己免疫薬物として潜在的に有用である(Vaccaro et al.,Nature Biotechnol.,2005,10(23):1283-1288)。pH6.0およびpH7.4の両方で、FcRnに対する結合親和性が増大される修飾IgGはまた、血清および組織から可溶性抗原を迅速に一掃する上で有用性を有してもよい。四分区間IIIに分類されて、abdeg特性を示してもよい修飾IgGの例としては、N3-YTEおよびN3E-YTEが挙げられる(表1)。修飾IgGであるY54-YTE、SerN3-YTE、およびY8-YTEもまた、pH7.4におけるFcRnに対する結合増大を示して、図2Bのグラフの四分区間IIIに位置する。
【0066】
四分区間IVに分類される修飾IgGは、酸性エンドソーム内のFcRnに対する結合が損なわれていることもあるため、効率的にリサイクルされなくてもよい。さらに、pH7.4におけるFcRnに対する高結合親和性が、血清または組織中へのそれらの放出を妨げてもよい。
【0067】
His435ループの残基432~437領域内の修飾に加えて、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片は、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片中のその他の部位に、1つまたは複数の修飾を含み得る。換言すれば、本明細書に記載されるHis435領域の変異は、安定性、特異性、結合親和性などに関するその他の望ましい特性を有するように既に操作されている、IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片またはその他の分子中に組み込まれるか、またはその上に重ね合わされ得る。例えば、定常領域またはその断片は、2006年8月1日に発行された米国特許第7,083,784号明細書、および2002年8月8日に公開された国際公開第2002/060919号パンフレットに記載されるように、FcRnに対する定常領域またはそのFcRn結合断片の親和性を増大させる、アミノ酸残基251~256、285~290、308~314、385~389、および428~431の1つまたは複数の置換によってさらに修飾され得る。1つまたは複数の追加的な修飾は、アミノ酸置換、挿入、欠失、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。修飾としては、例えば、1つまたは複数の表面露出残基の修飾が挙げられ、修飾は、置換される残基と類似した電荷、極性または疎水性がある残基による置換であり得る。
【0068】
His435ループ領域外のIgG定常領域(または例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などのそのFcRn結合断片)構造は、本明細書で、分子のIgG「基礎構造」または「バックグラウンド」と称されてもよく、これらの2つの用語は同義的に使用される。したがって本発明は、野生型IgG基礎構造または変異IgG基礎構造のいずれかに組み込まれた、His435ループ領域に変異がある修飾IgGを検討する。任意の変異IgG基礎構造を利用し得る;代表的であるが、非限定的な変異IgG基礎構造が、本明細書に記載される。下でさらに詳述される「YTE」は、変異IgG基礎構造の一例である。
【0069】
本発明の免疫グロブリンまたはその他の生理活性分子の一実施形態は、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgG定常領域または(例えば、およびFc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有して、CH2ドメイン中の位置251、252、254、255、および256の1つまたは複数にアミノ酸修飾を有し;より具体的には、これらの位置の1つまたは複数に置換を有する。特定の実施形態では、残基251はロイシンまたはアルギニンで置換され、残基252はチロシン、フェニルアラニン、セリン、トリプトファンまたはスレオニンで置換され、残基254はスレオニンまたはセリンで置換され、残基255はロイシン、グリシン、イソロイシンまたはアルギニンで置換され、および/または残基256はセリン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、アスパラギンまたはスレオニンで置換される。より具体的な実施形態では、残基251はロイシンで置換され、残基252はチロシンで置換され、残基254はスレオニンまたはセリンで置換され、および/または残基255はアルギニンで置換される。さらに別の特定の実施形態では、残基252はフェニルアラニンで置換されおよび/または残基256はアスパラギン酸で置換される。特定の実施形態では、残基251はロイシンで置換され、残基252はチロシンで置換され、残基254はスレオニンまたはセリンで置換され、および/または残基255はアルギニンで置換される。別の特定の実施形態では、残基252はチロシンで置換され、残基254はスレオニンで置換され、残基256はグルタミン酸で置換される(M252Y/S254T/T256E、本明細書で「YTE」と称される)。本明細書に記載される修飾IgG定常領域、またはそれらのFcRn結合断片の多くは、「YTE」基礎構造を含む。これらの置換の任意の組み合わせが、基礎構造で使用され得る。
【0070】
本発明の免疫グロブリンまたはその他の生理活性分子のいくつかの実施形態は、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有し、位置308、309、311、312、および314の1つまたは複数にアミノ酸修飾を有し、より具体的には、位置308、309、311、312、および314の1つまたは複数に、それぞれスレオニン、プロリン、セリン、アスパラギン酸およびロイシンによる置換を有する。一実施形態では、位置308、309、および311の1つまたは複数にある残基が、それぞれ、イソロイシン、プロリン、およびグルタミン酸で置換される。一実施形態では、位置308、309、311、312、および314の1つまたは複数にある残基が、それぞれ、スレオニン、プロリン、セリン、アスパラギン酸、およびロイシンで置換される。これらの置換の任意の組み合わせが、基礎構造で使用され得る。
【0071】
本発明の免疫グロブリンまたはその他の生理活性分子のいくつかの実施形態は、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有し、位置385、386、387、および389の1つまたは複数にアミノ酸修飾を有し、より具体的には、これらの位置の1つまたは複数に置換を有する。特定の実施形態では、残基385は、アルギニン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、ヒスチジン、リジンまたはアラニンで置換され、残基386は、スレオニン、プロリン、アスパラギン酸、セリン、リジン、アルギニン、イソロイシン、またはメチオニンで置換され、残基387は、アルギニン、ヒスチジン、セリン、スレオニン、アラニン、またはプロリンで置換されおよび/または残基389はプロリンまたはセリンで置換される。より具体的な実施形態では、位置385、386、387、および389の1つまたは複数にある残基が、それぞれ、アルギニン、スレオニン、アルギニン、およびプロリンで置換される。さらに別の特定の実施形態では、位置385、386、および389の1つまたは複数にある残基が、それぞれ、アスパラギン酸、プロリン、およびセリンで置換される。これらの置換の任意の組み合わせが、基礎構造で使用され得る。
【0072】
本発明の免疫グロブリンまたはその他の生理活性分子のいくつかの実施形態は、(例えば、ヒトIgG1などのヒトIgGに由来する)IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含有し、位置428にアミノ酸修飾を有する。特定の実施形態では、残基428はメチオニン、スレオニン、ロイシン、フェニルアラニン、またはセリンで置換される。一実施形態では、残基428はメチオニンで置換される。
【0073】
したがって本発明の分子は、His435ループ領域、すなわち、残基432、433、434、435、436、または437に、少なくとも1つの修飾アミノ酸残基を含有し、および/またはアミノ酸437および438の間にアミノ酸挿入を含有し、任意選択的に、残基251、252、254、255、256、308、309、311、312、385、386、387、389、および/または428の1つまたは複数における置換をはじめとするが、これに限定されるものではない、上記の置換の任意の組み合わせもまた含んでもよい。
【0074】
本発明には、半減期の増大を有する本発明の修飾免疫グロブリン、タンパク質、およびその他の生理活性分子を使用した予防法および治療法のための医薬組成物および方法が含まれる。半減期の増大を有する本発明の修飾免疫グロブリン、タンパク質、およびその他の生理活性分子を使用した診断方法もまた含まれる。
【0075】
生体内半減期の改変に関連する変異
本発明は、IgG定常領域またはその断片のpH6におけるFcRnに対する親和性を増大させ、任意選択的にIgGまたはその断片のpH7.4におけるFcRnに対する親和性を改変し、それによってIgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)その断片のFcRnに対する結合親和性のpH依存性を改変することが発見された、IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片中のアミノ酸修飾(例えば、置換、挿入または欠失)に関する。さらに、これらの修飾は、分子生体内半減期増大または低下のいずれかであってもよい。
【0076】
本発明は、1つまたは複数のpHにおける、修飾IgGまたはその断片のFcRnに対する結合親和性に影響を及ぼす、ヒトIgGのFc断片のCH3ドメインのHis435ループ領域内のアミノ酸修飾(配列番号7または8)の同定に基づく。これらの修飾は、FcRnに対するIgGまたはその断片の結合のpH依存性に改変をもたらしてもよい。いくつかの実施形態では、His435ループ領域内のアミノ酸修飾は、pH6、pH7.4、またはpH6.0および7.4の両方で、野生型IgG定常領域によって示されるものよりも高い、IgG定常領域またはそのFcRn結合断片のFcRnに対する結合親和性をもたらし得る。それに加えてまたは代案として、修飾は、分子の生体内半減期に影響を及ぼしてもよい。
【0077】
His435ループ領域は、アミノ酸残基432、433、434、435、436、および437を含む。CH3ドメインのHis435ループ領域(残基432~437)の野性型アミノ酸配列は、ヒトIgG1、IgG2、およびIgG4のFc断片ではLeu-His-Asn-His-Tyr-Thr(配列番号8)であり、ヒトIgG3ではLeu-His-Asn-Arg-Phe-Thr(配列番号7)である。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸修飾が、ヒトIgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合ドメイン、またはアミノ酸配列アライメントにより判定されるその他のIgG中のその相似残基中の残基432、433、434、435、436、および437の1つまたは複数で、またはその近くで起きる。このような変異としては、アミノ酸置換ならびに欠失および挿入が挙げられる。アミノ酸挿入の例証的部位は、残基437および438の間であり、その付加位置は、本明細書で437と称される。
【0078】
修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFcFc領域などの)そのFcRn結合断片の一実施形態では、残基435が、(野生型ヒトIgG1、IgG2、およびIgG4のように)ヒスチジンのままであり(His435)または(天然でR435を含有し、したがってR435H変異したIgG3のように))ヒスチジンに変異される一方で、残基432、433、434、436、または437の少なくとも1つは置換され、および/または位置437で挿入が起きる。一実施形態では、(ヒトIgG3で残基435がR435H変異を有して、His435である以外は)、残基435(His435)または残基433(His433)のいずれも変異しない一方で、残基432、434、436、または437の少なくとも1つは置換され、および/または位置437で挿入が起きる。一実施形態では、FcRn結合領域は、残基432、433、434、436、437の1、2、3、4つ、または5つの全てに置換を有し、および/またはHis435ループ領域内の位置437に挿入を有する。別の実施形態では、FcRn結合領域は、位置432、433、434、435、436または437の3つ以上に置換を有する。別の実施形態では、FcRn結合領域は、位置432、433、434、435、436または437の4つ以上に置換を有する。
【0079】
一実施形態では、位置432および437の少なくとも1つが、システインで置換され、および残基433、434、435、および436は、それぞれ独立して、置換されまたは置換されない。特定の実施形態では、残基432および437がいずれもシステインで置換され、および残基433、434、435、および436は、それぞれ独立して、置換されまたは置換されない。
【0080】
一実施形態では、位置432および437の少なくとも1つが、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群から選択されるアミノ酸で置換され、残基433、434、435、および436は、それぞれ独立して、置換されまたは置換されない。特定の実施形態では、位置432および437のいずれもグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、およびヒスチジンからなる群から独立して選択されるアミノ酸で置換され、残基433、434、435、および436は、それぞれ独立して、置換されまたは置換されない。
【0081】
一実施形態では、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片は、His435ループ領域に少なくとも3つの変異を含有し、位置435にヒスチジンを含有する(位置435のヒスチジンは、野性型残基または変異型であってもよい)。(存在する場合、435の変異を含まない)3つ以上の変異の様々な順列のいずれもが本発明に包含され、限定なしに、以下の部位における変異が挙げられる:
位置432、433と、434、436、437、および437のいずれか1つ
位置:432、434と、436、437、および437のいずれか1つ
位置432、436と、437および437のいずれか1つ
位置432、437、および437
位置:433、434と、436、437、および437のいずれか1つ
位置433、436と、437および437のいずれか1つ
位置433、437、および437
位置:434、436と、437および437のいずれか1つ
位置434、437、および437
位置436、437、および437
位置:432、433、434と、436、437および437のいずれか1つ
位置:432、433、436と、437および437のいずれか1つ
位置:432、433、437、および437
位置:432、434、436と、437および437のいずれか1つ
位置:432、434、437、および437
位置:432、436、437、および437
位置:433、434、436と、437および437のいずれか1つ
位置:433、434、437、および437
位置:434、436、437、および437
位置:432、433、434、436と、437および437のいずれか1つ
位置:432、433、434、437、および437
位置:432、433、436、437、および437
位置:432、434、436、437、および437
位置:433、434、436、437、および437
位置:432、433、434、436、437、および437
【0082】
修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の一実施形態では、Fc断片のCH3ドメインのHis435ループ領域は、アミノ酸配列CXXXXC(残基432~437;配列番号9)またはCXXXXCE(残基432~437、437は挿入である;配列番号10)を有する。CXXXXCE(配列番号10)ライブラリーから作成された、様々なHB20.3IgG変異体の代表的His435ループアミノ酸配列が、表1(実施例1)に示される。ヒトFcRnに対する、様々なHB20.3IgG変異体の結合の結合データもまた示される。理論による拘束は意図しないが、2つのシステイン残基が、おそらくジスルフィドシスチンを形成することで、ループ領域に対する安定化効果を発現してもよい。2つのシステイン間の予測距離は約6.7Aであり、それはシスチン形成と適合する範囲内(4.6~7A)にある。His435ループモチーフCXXXXC(配列番号9)に基づく特定の実施形態では、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片のアミノ酸修飾は、位置432~437の1つまたは複数の置換であり、位置432および437の両方がシステインで置換される。位置435はヒスチジンであり;位置433はアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニン、またはアスパラギンで置換され得、一実施形態では、位置433はヒスチジンである。位置434はアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、メチオニンまたはスレオニンで置換され得る。位置436はロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリン、またはスレオニンで置換され得る。任意選択的に、変異His435ループ領域は、位置437にグルタミン酸挿入を含有する。一実施形態では、位置432および437はシステインであり、位置433はアルギニン、プロリン、スレオニン、リジンまたはヒスチジンであり、位置434はアルギニン、トリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、またはチロシンであり、位置435はヒスチジンであり、位置436はロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリンまたはヒスチジンである(例えば、図4Aを参照されたい)。一実施形態では、His435ループ領域はCXRHXC(配列番号11)であり、その中では位置433はアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、プロリン、またはセリンであり、位置436はアルギニン、イソロイシン、メチオニン、またはセリンである(例えば、図4Bを参照されたい)。一実施形態では、His435ループ領域はCRRHXC(配列番号12)であり、その中では位置436がロイシン、アルギニン、イソロイシン、リジン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、セリン、またはスレオニンで置換され;例えば、それはロイシン、イソロイシン、セリンまたはスレオニンで置換され得る。一実施形態では、His435ループ領域は、CXRHRC(配列番号13)であり、その中では位置433はアルギニン、プロリン、スレオニン、リジン、セリン、アラニン、メチオニン、またはアスパラギンである。任意選択的に、これらの実施形態のいずれかでは、変異His435ループ領域が、位置437にグルタミン酸挿入を含有する。
【0083】
修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の別の実施形態では、Fc断片のCH3ドメインのHis435ループ領域がアミノ酸配列ZXXHXZを有し、式中、「Z」は、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、またはアスパラギン酸である(残基432~437;配列番号14)。この実施形態では、位置432の「Z」によって同定されるアミノ酸は、位置437の「Z」によって同定されるアミノ酸と同一であり得るか、またはそれは異なり得る。表1は、アミノ酸配列ZXXHXZ(配列番号14)に基づく、この変異体ライブラリーに言及する。
【0084】
理論による拘束は意図しないが、His435ループ領域内への、具体的には、位置432および/または437における、荷電残基(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン)の導入(ZXXHXZモチーフ中のZ残基;配列番号14)は、細胞内のIgGリサイクルのpH依存性を改変してもよいことが想定される。一実施形態では、位置432または437の少なくとも1つが負荷電残基で置換され、それは位置435のヒスチジンと、位置432および/または437の負荷電残基との間で、塩橋の形成を促進してもよい。一実施形態では、残基432および437の1つが負荷電残基で置換され、もう1つは正荷電残基で置換され、それは、残基432および残基437の間の塩結合の形成を促進してもよい。一実施形態では、位置432または437の少なくとも1つが荷電残基で置換され;例えば、位置432はグルタミン酸またはヒスチジンなどの荷電残基で置換され得、位置437はグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはヒスチジンで置換され得る。例証的実施形態では、位置432はグルタミン酸で置換され、位置437はグルタミンで置換される。それに加えてまたは代案として、位置433はアルギニン、アラニン、リジン、スレオニン、ロイシン、セリン、プロリン、またはグルタミンで置換され;別の実施形態では、位置433はヒスチジンである。それに加えてまたは代案として、位置434はチロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリンまたはトリプトファンで置換される。それに加えてまたは代案として、位置436はアルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、ロイシン、メチオニン、スレオニン、またはバリンで置換される。特定の実施形態では、位置432はグルタミン酸またはヒスチジンで置換され、位置433はアルギニン、アラニン、リジン、スレオニンまたはロイシンで置換され;位置434はフェニルアラニンまたはチロシンで置換され、位置436はアルギニン、ヒスチジン、アスパラギンまたはリジンで置換され、位置437はグルタミンまたはグルタミン酸で置換される(例えば、図4Cを参照されたい)。一実施形態では、位置433および/または436は正荷電アミノ酸で置換される。それに加えてまたは代案として、位置434は疎水性アミノ酸で置換される。
【0085】
一実施形態では、Fc断片のCH3ドメインの変異His435ループ領域は、E(R/A)(W/S/F)HRQ(配列番号15)のコンセンサス配列である。位置432および437間の塩橋の導入は、(これらの位置のシスチンと比較して)His435ループの可撓性を増大させ、(より長い生体内半減期と共に)より大きいpH依存性をもたらし得ることが想定されたが、位置437における荷電アミノ酸による置換でなくグルタミンによる置換は、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片のFcRnに対する結合のpH依存性に、最も一貫した増大をもたらすことが驚くことに分かった。
【0086】
表1は、IgG1Fc領域のHis435ループ領域内のいくつかの代表的変異型アミノ酸配列を示す。これらの修飾IgG定常領域は、Hb20.3として知られている抗CD20IgG中で評価された(表1)。いくつかのこれらの修飾IgG定常領域は、実施例により詳細に記載されるように、モタビズマブ(NuMax)IgG(表2および3)中でさらに評価されて、薬物動態特性がマウスおよび/またはカニクイザル中で評価された。
【0087】
本発明の修飾IgGの例示的な一実施形態は、本明細書で「N3E-YTE」と称されて、それは、位置432~437(位置437および478の間の位置437にGluが挿入される)に配列Cys-Ser-Trp-His-Leu-Cys-Glu(CSWHLCE;配列番号16)を含有して、「YTE」IgG1定常領域基礎構造に組み込まれる(Tyr252、Thr254、およびGlu256があるIgG1)。位置435のヒスチジンは、N3E-YTEのHis435ループ領域内の唯一のIgG1野生型残基である。野生型IgG1および「YTE」のいずれも(2006年8月1日に発行された米国特許第7,083,784号明細書;2002年8月8日に公開された国際公開第2002/060919号パンフレット)、pH7.4においてFcRnに対する比較的低い結合親和性を示し、YTEは、pH6.0において野性型よりも有意に高いFcRnに対する結合親和性と、より長い生体内半減期とを有する(したがって図2Bのグラフの四分区間Iに入る)。他方、図2Bのグラフの四分区間IIIに見られるN3E-YTEは、pH6.0およびpH7.4の両方で、(一般に、より低いpH依存性を有する)FcRnに対する高結合親和性を示し、ヒトFcRnマウスモデルにおいて、短い生体内半減期を示す。したがってN3E-YTEは、毒性抗原の除去または中和、自己免疫療法または生物学的イメージング用途における使用が意図されるIgGで利用するのに適切であってもよい。位置437に追加のグルタミン酸を含まないこと以外はN3E-YTEと同一であるN3-YTEは、N3E-YTEと同様の薬物動態特性を有し、図2Bに示される座標面の四分区間IIIに同じく見られる。本発明の修飾IgGは、N3E-YTEおよびN3-YTEと同様に、pH6.0およびpH7.4の両方における(一般に、より低いpH依存性を有する)FcRnに対する高結合親和性、および短い生体内半減期によって特徴付けられ、任意選択的に、abdeg様薬物動態特性を示してもよく;それらは内在性IgG分解を促進する能力を有してもよく、それによって破壊的抗体によって特徴付けられる特定の自己免疫疾患を改善する。
【0088】
短い生体内半減期を要する用途で有用であるのに加えて、N3E-YTEおよびN3-YTEはまた、pH6.0ではFcRnに対する高結合親和性を維持するが、pH7.4ではより低い結合親和性レベルと生体内半減期の増大を示す、その他のIgG定常領域を開発するための好都合なプラットフォームの役割も果たす。
【0089】
したがって、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片のいくつかの実施形態では、His435ループ領域は、位置434が異なる疎水性残基で置換されてもよいこと以外、N3E-YTEまたはN3-YTEに類似する。YTE基礎構造に組み込まれ得るHis435配列の例としては、位置437のグルタミン酸挿入ありまたはなしのCys-Ser-Phe-His-Leu-Cys(CSFHLC;配列番号17)、Cys-Ser-Ile-His-Leu-Cys(CSIHLC;配列番号18)、Cys-Ser-Leu-His-Leu-Cys-Glu(CSLHLC;配列番号19)が挙げられる。理論による拘束は意図しないが、位置434および436のいずれかまたは両方の疎水性残基は、pH感受性の低下をもたらしてもよいことが観察されており、これが次に生体内半減期を低下させてもよい。
【0090】
修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の別の例示的実施形態は、本明細書で「N3」と称され、それは、位置432~437(位置437および438間の挿入なし)に、N3E-YTEのYTE基礎構造ではなく、野性型IgG1定常領域基礎構造に組み込まれた配列Cys-Ser-Trp-His-Leu-Cys(CSWHLC;配列番号20)を含有する。驚くことに、変異YTE基礎構造を除去することは、主に、pH7.4におけるFcRnに対するこの分子の結合親和性を低下させることで、N3E-YTEおよびN3-YTEと比較して、FcRnに対する結合のpH依存性を復元させた。N3は、YTEで観察されたものに匹敵する、有意により長い生体内半減期およびクリアランス速度の遅延を示す。
【0091】
しかし、半減期の増大のみが、Fc-FcRn相互作用調節の臨床関連成果ではなく;エフェクター機能などのその他の生物学的活性の維持または促進、または場合によっては、阻害もまた、意図される治療用途次第で、重要であってもよい。YTE変異は、Fcγ(Fcガンマ)受容体結合のわずかな低下のために、エフェクター機能(ADCCおよびオプソニン作用死滅)の低下を示す。薬物動態はYTE様であるが、エフェクター機能が強化された分子は、特定の治療用途で有用であってもよい。驚くことに、かつ有利には、N3は、観察された血清半減期の増大にさらに加えて、大きい関心事である(YTEとの比較で)追加的な生物学的特性を示す。例えば、N3は、FcγRIIa、およびC1qなどのFcリガンドへの結合性を完全に維持する。潜在的に、N3は、野生型IgG1よりもさらにより良いエフェクター機能を示してもよい。N3は、完全なオプソニン作用死滅(OPK)活性と、抗体依存性細胞媒介細胞毒性(ADCC)とをさらに示す。より一般的には、N3は、HuFcRnマウスおよびカニクイザルで実施された実験において、野生型IgGと比較して、同様のまたは改善された薬理学的特性を示すようである一方で、実質的により長い生体内半減期を示す(実施例Iを参照されたい)。したがって、N3は、効能がオプソニン作用死滅に依存する抗細菌モノクローナル抗体などのように、正常なエフェクター機能が望ましい臨床状況において、YTEの有用な代替物であってもよい。
【0092】
修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片のいくつかのその他の代表的実施形態は、IgG1の残基432~437でCXXHXCモチーフ(配列番号21)を、または残基432~437でCXXHXCEモチーフ(配列番号22)を、His435ループ領域に組み込み、これらのモチーフは、それぞれN3E-YTEおよびN3-YTEを特徴付ける。これらの実施形態は、概して、N3E-YTEおよびN3-YTEよりも、FcRnに対する結合親和性のより大きいpH依存性および/またはより長い生体内半減期を示し、典型的に、図2Bに示されるグラフの四分区間Iの範囲内にある。pH依存性の増大は、通常、pH7.4におけるFcRnに対する結合親和性の低下(すなわち、FcRnに対する結合のより高いKDpH7)と、pH6.0におけるFcRnに対するより高い結合親和性(すなわちFcRnに対する結合のより低いKDpH6)とによって顕在化される。上述のように、N3E-YTE(Cys-Ser-Trp-His-Leu-Cys-Glu;配列番号16)中のHis435ループ領域は、残基434(Trp)および436(Leu)に疎水性置換を有する。より大きいpH依存性を示すいくつかの実施形態では、残基433、434、および436の少なくとも1つが、正荷電残基で置換される。残基432~437にCXXHXCEモチーフ(配列番号22)を有し、位置433、434、および436の少なくとも1つで正荷電残基によって置換され、YTE基礎構造組み込む、代表的な修飾IgG(例えば、IgG1)が表1に示され、本明細書でYC33-YTE、YC83-YTE、YC37-YTE、YC56-YTEおよびYC59-YTEと称される実施形態が含まれる。位置432~437におけるHis435ループ領域のモチーフはCXRHRC(配列番号13)であり、それは本明細書に記載される全てのモチーフと同様に、野生型基礎構造、YTE基礎構造、または任意のその他の変異IgG定常領域もしくはそのFcRn結合断片に組み込まれ得る。
【0093】
修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片のその他の代表的実施形態には、ZXXHXZ(配列番号14)モチーフが組み込まれて、CXXXXC(E)モチーフ(配列番号9/10)を特徴付けるシスチン部分が欠如している。表1に示されるこのような一実施形態(例えば、IgG1)は、本明細書でY31-YTEと称される。Y31-YTEは、位置432~437に、配列Glu-Arg-Phe-His-Arg-Gln(ERFHRQ;配列番号25)を有する修飾His435ループを有し、野性型IgG1と比較して増大された半減期を有する。pH依存性の増大を示す表1に示されるその他の実施形態としては、それぞれ、Glu-Arg-Tyr-His-Thr-Gln(ERYHTQ;配列番号26)およびGlu-Ala-Trp-His-Arg-Gln(EAWHRQ;配列番号27)の位置432~437における修飾His435ループによって特徴付けられる、Y3-YTEおよびY12-YTEが挙げられる。pH依存性の増大がある表1に示されるなおも別の実施形態としては、それぞれ、His-Arg-Phe-His-Leu-Gln(HRFHLQ;配列番号28)、Glu-Ala-Phe-His-Arg-Glu(EAFHRE;配列番号29)、およびGlu-Pro-Tyr-His-Arg-Glu(EPYHRE;配列番号37)の位置432~437における修飾His435ループによって特徴付けられる、Y37-YTE、Y9-YTE、およびY83-YTEが挙げられる。
【0094】
以下の実施例で詳述されるように、抗CD20(HB20.3)IgG中で評価された修飾IgG定常領域のいくつかが、異なる可変領域に関連してFcRnに対する結合を評価するために、モタビズマブ中でさらに試験された。YTE IgG定常領域基礎構造、すなわち、N3E-YTE、Y3-YTE、Y12-YTE、Y31-YTEに基づく特定の変異体中、ならびに野生型IgG1定常領域基礎構造、すなわち、N3、Y12、およびY31に基づく特定の変異体中に存在する修飾IgG定常領域が、モタビズマブ中で試験された。pH6.0結合における、FcRnに対するIgG定常領域の結合親和性は、抗CD20IgGとほとんど同じであることが分かった。「YTE」基礎構造の効果もまた、モタビズマブ中で試験された。Mota-Y12-YTEおよびMota-Y31-YTEの薬物動態特性は、それぞれ、Mota-Y12-WTおよびMota-Y31-WTのものと比較された(可変領域を提供するモタビズマブ)。pH6.0におけるFcRnに対する結合親和性の増大、および結合親和性のpH依存性の増大が観察され、YTEおよびH435ループ領域の両方が、FcRnに対する結合のpH依存性に影響を及ぼすことが示唆された。モタビズマブを使用したマウスモデルにおける血清クリアランス速度もまた評価された。評価されたIgGの大部分は、比較的緩慢に血清から除去され、したがってFcRn結合を通じたリサイクルの増大が示唆された。しかし、そのFcRnに対する結合親和性のpH依存性が大きく低下しているN3E-YTE変異を有するIgGは、血清から迅速に除去された。本明細書の他の箇所でより詳細に記載されるように、多くの治療用途では、低下した(より緩慢な)血清クリアランスが有益であるが、いくつかの治療用途および多くの診断用途では、より迅速なクリアランスが好ましい。これらのデータは、pH7.4におけるFcRnに対するIgG定常領域の結合親和性が、IgGの血清半減期およびクリアランス速度の重要な決定要因であってもよいことを示唆する。pH7.4におけるN3E-YTEのFcRnに対する強力な結合(例えば、25nMのKD)は、迅速な血清クリアランス速度と関連していた。しかし、pH7.4におけるKDが、pH7.4で1μM未満に低下するにつれて、IgGは半減期の増大とより緩慢なクリアランス速度を示し始める。
【0095】
アミノ酸修飾は、当該技術分野で公知の任意の方法によって作成され得、多くのこのような方法は、当業者にとって通例かつ周知である。限定を意図しない例として、アミノ酸置換、欠失、および挿入は、任意の良く知られているPCRベースの技術を使用して達成されてもよい。アミノ酸置換は、部位特異的変異誘発によって生成されてもよい(例えば、その内容全体が参照により本明細書に援用される、Zoller and Smith,Nucl.Acids Res.10:6487-6500,1982;Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci USA 82:488,1985を参照されたい)。FcRnへの親和性の増大および生体内半減期の増大をもたらす変異は、本明細書に記載されるものなどの周知の日常的アッセイを使用して、容易にスクリーニングされてもよい。アミノ酸置換は、IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片の1つまたは複数の残基に導入され得、変異定常領域または断片は、バクテリオファージの表面で発現され得、それは次に、FcRn結合親和性の増大についてスクリーニングされる。
【0096】
生成されると、変異型IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)その断片は、(例えば、可変部分を関心のある抗体に融合させることにより)IgGの構築で、または(例えば異種部分を融合/コンジュゲートさせることにより)Fc融合分子の構築で使用されてもよい。本発明の修飾IgGまたはFc融合分子は、当業者に良く知られている方法によって作成されてもよい。簡単に述べると、このような方法としては、(例えば、ファージディスプレイまたは発現ライブラリーから単離された、またはヒトまたは非ヒト抗体に由来する可変領域)所望の特異性がある可変領域と、本明細書で提供されるような改変された半減期を有する、修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片とを組み合わせることが挙げられるが、これに限定されるものではない。代案として、当業者は、抗体またはFc融合分子のFc領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を置換することで、本発明の修飾IgGまたはFc融合分子を作成してもよい。
【0097】
半減期に影響を及ぼすのに加えて、本明細書に記載されるアミノ酸修飾は、分子の(例えば、粘膜表面、またはその他の標的組織への輸送などの)生物学的利用能を変化(すなわち、増大または低下)させてもよく、具体的には、(例えば、肺の)粘膜表面または標的組織のその他の部分への分子の輸送(または濃度または半減期)を変化(すなわち、増大または低下)させる。いくつかの実施形態では、アミノ酸修飾は、肺への分子の輸送または濃度または半減期を変化(例えば、増大または低下)させる。いくつかの実施形態では、アミノ酸修飾は、分子の心臓、膵臓、肝臓、腎臓、膀胱、胃、大腸または小腸、気道、リンパ節、神経組織(中枢および/または末梢神経組織)、筋肉、表皮、骨、軟骨、関節、血管、骨髄、前立腺、卵巣、子宮、腫瘍またはがん組織などへの輸送(または濃度または半減期)を変化(例えば、増大または低下)させる。
【0098】
いくつかの実施形態では、アミノ酸修飾は、例えば、補体結合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞毒性(CDC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)および/またはFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIなどの1つまたは複数のFcガンマ受容体への結合などであるが、これに限定されるものではない、定常領域の1つまたは複数のその他の免疫エフェクターまたは受容体結合機能を消滅させず、または改変しない。本発明の修飾IgGおよびその他の分子は、当該技術分野で通例かつ周知である方法を使用して、エフェクター機能について評価され得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、定常領域の修飾FcRn結合断片は、免疫エフェクター機能またはその他の受容体結合を媒介する配列を含有しない。このような断片は、その生体内半減期を増大させるための非IgGまたは非免疫グロブリン分子のコンジュゲーションに特に有用であってもよい。いくつかの実施形態では、エフェクター機能は、(例えば、エフェクター機能を低下または増大させるために)選択的に改変される。
【0100】
より普遍的には、本発明は、多様な診断および治療目的に良く適している修飾IgGを提供する。本発明は、それらのFcRnに対する結合に、様々なレベルのpH依存性を示す修飾IgGを提供する。異なるレベルのpH依存性は、異なる薬物動態特性をもたらしてもよく、またはそれらと相関し、それは次に、その他の目的よりもいくつかの目的により良く適している修飾IgGをもたらす。
【0101】
例えば、本明細書に記載される修飾IgGのいくつかは、それらのFcRnに対する結合の高レベルのpH依存性、および観察された生体内半減期の増大と共に、pH6.0でFcRnに対する高親和性結合を示す。本発明のこの態様の修飾IgGは、例えば、より長い生体内半減期が望ましい用途において、治療薬として用いられる場合に有用性を有する。任意選択的に、修飾IgGは、Fcγ受容体およびC1qなどのFc-リガンドと相互作用する能力の維持または強化、強力なオプソニン作用死滅(OPK)活性、およびFcエフェクター機能(例えば、CDC、ADCC)を媒介する能力などのその他の改善された薬物動態特性もまた示す。
【0102】
対照的に、本明細書に記載される修飾IgGのいくつかは、(典型的にpH7.4におけるFcRnに対する親和性の増大の結果として)それらのFcRnに対する結合のより低レベルのpH依存性、および観察された生体内半減期の低下と共に、pH6.0でFcRnに対する高親和性結合を示す。本発明のこの態様の修飾IgGは、例えば、特定の自己免疫状態の治療などのより短い生体内半減期が望ましい用途において、治療薬として用いられる場合に有用性を有する。それらはまた、生物学的造影剤として使用されると場合など、体液または組織からの迅速なクリアランスが所望される診断用途に良く適していてもよい。
【0103】
本発明の別の態様は、それらの抗原に対するpH依存性結合のために操作された、治療および診断用IgGの有効性を改善することを目的とする。抗体は、それらに高親和性で結合することで、標的または抗原を不活性化するのに使用され得る。次に抗体-抗原複合体は、循環から除去される。抗体媒介性のクリアランスは、抗原が、より高いpH(pH7.4)ではより強力に、より低いpH(pH6)ではより弱く結合するように、pH依存性の抗原結合を操作して、エンドソームの酸性環境内で抗原が放出され分解されるようにすることで改善され得る。
【0104】
IgG定常領域のFcRnに対する結合のpH依存性を操作することは、抗原結合のpH依存性を天然に示し、または示すように操作された免疫グロブリンにとって有利であってもよい。免疫グロブリンの抗原結合部位に対する抗原結合のpH依存性改変の手段によって、血清または組織から、抗原を迅速に除去するように操作された免疫グロブリンは、(例えば、図2AおよびBの四分区間Iに示されるpH結合操作Fcなどの)pH結合修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を組み込むことで、さらに改善され得る。理論による拘束は意図しないが、修飾IgGは可変領域のpH依存性抗原結合を示すことが示唆され、そこでは、酸性pH(例えば、6)における抗原への結合は、中性pH(例えば、7.4)における結合と比較して顕著に低下され、pH7.4およびpH6.0の両方で野性型IgG1と比較してFcRnに対する結合親和性を増大させるpH結合操作Fcは、野性型IgG1と比較して抗原をより迅速により持続的な方法で除去し得る。中性pHにおける改善されたFcおよびFcRn結合は、細胞表面の抗体の存在を促進し、細胞表面にIgGと結合する抗原をもたらす。したがって抗体は、抗原をより効率的にエンドソーム内に引き寄せて(図9B)、そこでは抗原への結合親和性が低下して、より迅速な放出および分解がもたらされる。酸性pHにおけるFcRnに対するFcの高親和性結合は、抗原を含まないIgGを細胞表面または血清にリサイクルさせて戻し、より多くの抗原が結合および除去される。このストラテジーは、pH依存性IgG-抗原結合(可変領域)と、FcRnに対するpH結合操作IgG定常領域とを組み合わせる。本発明のこの態様の修飾IgGの一例は、その抗原のpH依存性結合について操作され、ならびにN3E-YTEまたはN3-YTE IgG定数を含むように操作されたIgGである(表1)。
【0105】
本発明の修飾免疫グロブリン分子としては、天然にFcRn結合領域を含有するIgG分子、ならびにその他の非IgG免疫グロブリン(例えば、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、またはFcRn結合断片を含有するように操作された免疫グロブリン断片(すなわち、非IgG免疫グロブリンまたはその断片と、Fc領域またはFcヒンジ領域などのFcRn結合領域とを含んでなる融合タンパク質)が挙げられる。いずれの場合も、FcRn結合ドメインは、1つまたは複数のアミノ酸修飾を有して、pH6.0におけるFcRnに対する定常領域断片の親和性を増大させ、任意選択的に、FcRnに対する結合のpH依存性に(増大または低下のいずれかの)影響を及ぼす。
【0106】
本発明の修飾IgG定常領域は、実施例でより詳細に記載されるように、Hb20.3抗CD20 IgGおよびモタビズマブなどの様々な免疫グロブリン中で試験された。当業者は、薬物動態特性が強化された修飾免疫グロブリンまたはその他の分子を提供するために、本発明の修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片が、このようにして任意の免疫グロブリンまたはその他の分子に容易に組み込まれ得ることを認識するであろう。
【0107】
修飾免疫グロブリンとしては、特異的抗原-抗体結合アッセイ技術分野で周知の免疫測定法による判定で)(好ましくは、免疫特異的に、すなわち、非特異的結合と競合して)抗原に結合してFcRn結合断片を含有する、任意の免疫グロブリン分子が挙げられる。このような抗体としては、ポリクローナル、モノクローナル、二重特異性、多特異性、ヒト型、ヒト化、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド結合Fv、およびVLまたはVH領域のいずれかを含有する断片、または特定例ではFcRn結合領域を含有するように操作されまたはそれに融合された、抗原に特異的に結合する相補性決定領域(CDR)を含有する断片が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0108】
本発明のIgG分子、およびそのFcRn結合断片は、特定の実施形態では、IgGのIgG1サブクラスであるが、また所与の動物の任意のその他のIgGサブクラスであってもよい。例えば、ヒトでは、IgGクラスとしては、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が挙げられる。ヒトIgG3に基づく本発明の実施形態では、ヒトIgG1、IgG2、およびIgG4と比較して、ヒトIgG3のHis435ループ領域(位置432~437)のアミノ酸配列が完全に保存されないことに留意すべきであり、位置435および436にそれぞれアルギニン(R)およびフェニルアラニン(F)非保存残基を有して(LHNRFT;配列番号7、図1D)、さらに位置435および436に対立遺伝子多様性を示す(図1D、星印)ことが知られている。既知の多様性を考慮して、当業者は、本発明の分子のIgG3のCH3ドメイン中の位置435のヒスチジン(R435H)および/または位置436のチロシン(F436Y)を置換することが有利であってもよいことを認識するであろう。
【0109】
免疫グロブリン(および本明細書で使用されるその他のタンパク質)は、鳥類および哺乳類をはじめとする、任意の動物起源に由来してもよい。抗体は、例えば、ヒト、齧歯類(例えば、マウスおよびラット)、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリであり得る。本明細書の用法では、「ヒト」抗体としては、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体が挙げられ、後述されるように、および例えばKucherlapatiらに付与された米国特許第5,939,598号明細書に記載されるように、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、または1つもしくは複数のヒト免疫グロブリンで遺伝子組換えされて内在性免疫グロブリンを発現しない動物から単離された抗体が含まれる。
【0110】
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性、三重特異性またはさらなる多特異性であってもよい。多特異性抗体は、ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であってもよく、または異種ポリペプチドまたは固体支持物質などの異種エピトープに対して特異的であってもよい。例えば、国際公開第号93/17715パンフレット;国際公開第92/08802号パンフレット;国際公開第91/00360号パンフレット;国際公開第92/05793号パンフレット;Tutt,et al.,J.Immunol.,147:60-69,1991;米国特許第4,474,893号明細書;米国特許第4,714,681号明細書;米国特許4,925,648号明細書;米国特許5,573,920号明細書;米国特許5,601,819号明細書;Kostelny et al.,J.Immunol.,148:1547-1553,1992を参照されたい。
【0111】
本発明の抗体としては、別の方法で修飾された、すなわち、共有結合が、抗体の抗原へ結合および/または抗イディオタイプ反応を妨げないように、抗体への任意のタイプの分子の共有結合によって修飾された誘導体が挙げられる。限定を意図しない例として、抗体誘導体としては、例えば、グリコシル化、アセチル化、PEG化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解的切断、細胞リガンドまたはその他のタンパク質への連結によって修飾されている抗体などが挙げられる。多数の化学修飾のいずれでも、特異的化学開裂、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシン代の謝合成などをはじめとするが、これに限定されるものではない、既知の技術によって実施されてもよい。さらに、誘導体は、1つまたは複数の非古典的アミノ酸を含有してもよい。
【0112】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、およびファージディスプレイ技術の使用をはじめとする、当該技術分野で公知の多種多様な技術、またはそれらの組み合わせを使用して調製され得る。例えば、モノクローナル抗体は、当該技術分野で公知であり、例えば、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988);Hammerling,et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas,pp.563-681(Elsevier,N.Y.,1981);Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59-103(Academic Press,1986);Kozbor,J.Immunol.,133:3001(1984);およびBrodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987)(全てそれらの内容全体が参照により本明細書に援用される)で教示されるものをはじめとする、ハイブリドーマ技術を使用して生成され得る。「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書の用法では、ハイブリドーマ技術を通じて作成された抗体に限定されない。「モノクローナル抗体」という用語は、任意の真核、原核、またはファージクローンをはじめとする、単一クローンに由来する抗体を指し、それによってそれが作成される方法は指さない。
【0113】
ハイブリドーマ技術を使用して特異的抗体を作成およびスクリーニングする方法は、当該技術分野で通例かつ周知である。非限定的な例では、関心のある抗原またはこのような抗原を発現する細胞で、マウスが免疫化され得る。例えば、マウス血清中に抗原に対して特異的な抗体が検出されるなど、免疫応答が検出されると、マウスの脾臓が採取されて、脾細胞が単離される。次に脾細胞は、周知の技術によって、任意の適切な骨髄腫細胞と融合される。限界希釈によってハイブリドーマが選択され、クローン化される。次に、ハイブリドーマクローンは、当該技術分野で公知の方法によって、抗原と結合できる抗体を分泌する細胞についてアッセイされる。通常、高レベルの抗体を含有する腹水が、陽性ハイブリドーマクローンをマウス腹腔内に接種することで生成され得る。
【0114】
特異的エピトープを認識する抗体断片は、既知の技術によって作成されてもよい。例えば、FabおよびF(ab’)断片は、(Fab断片を生成する)パパインなどの酵素または(F(ab’)断片を生成する)ペプシンを使用した、免疫グロブリン分子のタンパク質分解的切断によって作成されてもよい。F(ab’)断片は、完全な軽鎖、および可変領域、重鎖のCH1領域およびヒンジ領域を含有する。
【0115】
例えば、抗体はまた、当該技術分野で公知の様々なファージディスプレイ法を使用して作成され得る。ファージディスプレイ法では、機能性抗体ドメインは、それらをコードするポリヌクレオチド配列を輸送するファージ粒子の表面に提示される。特定の実施形態では、このようなファージが、レパートリーまたはコンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、ヒトまたはマウス)から発現された、FabおよびFvまたはジスルフィド結合安定化Fvなどの抗原結合ドメインを提示するために使用され得る。関心のある抗原に結合する抗原結合領域を発現するファージは、例えば、標識抗原、または固体表面またはビーズに結合もしくは捕捉された抗原の使用など、抗原によって選択または同定され得る。これらの方法で使用されるファージは、典型的に、fdおよびM13をはじめとする繊維状ファージである。抗原結合ドメインは、ファージ遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIタンパク質のいずれかに対する組換え融合タンパク質として発現される。代案として、本発明の免疫グロブリンの修飾FcRn結合部分は、ファージディスプレイシステムで発現され得る。
【0116】
抗体ファージライブラリーを使用してモノクローナル抗体を作成する方法は、当該技術分野で通例かつ周知である。例えば、McCafferty et al.,Nature,348:552-554(1990);およびClackson et al.,Nature,352:624-628(1991)およびMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)を参照されたい。ファージディスプレイライブラリーを作成するための市販のキット(例えば、Pharmacia組換えファージ抗体システム、カタログ番号27-9400-01;およびStratagene SURFZAP(商標)ファージディスプレイキット、カタログ番号240612)に加えて、抗体提示ライブラリーの作成およびスクリーニングで使用される方法および試薬の例は、例えば、米国特許第6,248,516号明細書;米国特許第6,545,142号明細書;米国特許第6,291,158号明細書;米国特許第6,291,159l号明細書;米国特許第6,291,160号明細書;米国特許第6,291,161号明細書;米国特許第6,680,192号明細書;米国特許第5,969,108号明細書;米国特許第6,172,197号明細書;米国特許第6,806,079号明細書;米国特許第5,885,793号明細書;米国特許第6,521,404号明細書;米国特許第6,544,731号明細書;米国特許第6,555,313号明細書;米国特許第6,593,081号明細書;米国特許第6,582,915号明細書;米国特許第7,195,866号明細書にある。本発明の免疫グロブリン、またはそれらの断片を作成するのに使用され得るファージディスプレイ方法の追加的な例としては、それぞれその内容全体が参照により本明細書に援用される、Brinkman et al.,J.Immunol.Methods,182:41-50,1995;Ames et al.,J.Immunol.Methods,184:177-186,1995;Kettleborough et al.,Eur.J.Immunol.,24:952-958,1994;Persic et al.,Gene,187:9-18,1997;Burton et al.,Advances in Immunology,57:191-280,1994;PCT出願PCT/英国特許出願91/01134号明細書;PCT公開国際公開第90/02809号パンフレット;国際公開第91/10737号パンフレット;国際公開第92/01047号パンフレット;国際公開第92/18619号パンフレット;国際公開第93/1 1236号パンフレット;国際公開第95/15982号パンフレット;国際公開第95/20401号パンフレット;および米国特許第5,698,426号明細書;米国特許第5,223,409号明細書;米国特許第5,403,484号明細書;米国特許第5,580,717号明細書;米国特許第5,427,908号明細書;米国特許第5,750,753号明細書;米国特許第5,821,047号明細書;米国特許第5,571,698号明細書;米国特許第5,427,908号明細書;米国特許第5,516,637号明細書;米国特許第5,780,225号明細書;米国特許第5,658,727号明細書;米国特許第5,733,743号明細書;および米国特許第5,969,108号明細書で開示されるものが挙げられる。
【0117】
上記参考文献に記載されるように、ファージ選択後、ファージに由来する抗体コード領域が単離されて、ヒト抗体、または任意のその他の所望の断片をはじめとする全抗体を作成するために使用され、例えば下で詳述されるように、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、および細菌をはじめとする任意の所望の宿主で発現され得る。例えば、PCT出願国際公開第92/22324号パンフレット;Mullinax et al.,BioTechniques,12(6):864-869,1992;およびSawai et al.,AJRI,34:26-34,1995;およびBetter et al.,Science,240:1041-1043,1988(それぞれその内容全体が参照により援用される)で開示されるものなどの当該技術分野で公知の方法を使用して、Fab、Fab’、およびF(ab’)断片を組換え的に作成する技術もまた、用いられ得る。一本鎖Fvsおよび抗体を作成する使用され得る技術の例としては、米国特許第4,946,778号明細書および米国特許第5,258,498号明細書;Huston et al.,Methods in Enzymology,203:46-88,1991;Shu et al.,PNAS,90:7995-7999,1993;およびSkerra et al.,Science,240:1038-1040,1988に記載されるものが挙げられる。
【0118】
ヒトにおける抗体の生体内使用および生体外検出アッセイをはじめとするいくつかの使用では、キメラ、ヒト化、またはヒト抗体の使用が有用なこともある。キメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域と、ヒト免疫グロブリンに由来する定常領域とを有する抗体など、その中で抗体の異なる部分が、異なる動物種に由来する分子である。キメラ抗体を作成する方法は、当該技術分野で公知である。例えば、それらの内容全体が参照により本明細書に援用される、Morrison,Science,229:1202,1985;Oi et al.,BioTechniques,4:214 1986;Gillies et al.,J.Immunol.Methods,125:191-202,1989;米国特許第5,807,715号明細書;米国特許第4,816,567号明細書;および米国特許第4,816,397号明細書を参照されたい。ヒト化抗体は、非ヒト生物種からの1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)と、ヒト免疫グロブリン分子からのフレームワーク領域とを有して、所望の抗原に結合する非ヒト生物種に由来する抗体分子である。多くの場合、ヒトフレームワーク領域内のフレームワーク残基は、CDR供与抗体からの対応する残基で置換されて、抗原結合が改変され、好ましくは改善される。これらのフレームワーク置換は、例えば、抗原結合に重要なフレームワーク残基を同定するためのCDRおよびフレームワーク残基との相互作用モデル化、および特定の位置の異常なフレームワーク残基を同定するための配列比較など、当該技術分野で周知の方法によって同定される。例えば、それらの内容全体が参照により本明細書に援用される、Queenらに付与された米国特許第5,585,089号明細書;Riechmann et al.,Nature,332:323,1988を参照されたい。抗体は、例えば、全てそれらの内容全体が参照により本明細書に援用される、CDR-グラフト(欧州特許第239,400号明細書;国際公開第91/09967号パンフレット;米国特許第5,225,539号明細書;米国特許第5,530,101号明細書、および米国特許第5,585,089号明細書)、ベニアリングまたは表面再構成(欧州特許第592,106号明細書;欧州特許第519,596号明細書;Padlan,Molecular Immunology,28(4/5):489-498,1991;Studnicka et al.,Protein Engineering,7(6):805-814,1994;Roguska et al.,Proc Natl.Acad.Sci.USA,91:969-973,1994)、および鎖シャフリング(米国特許第5,565,332号明細書)をはじめとする、当該技術分野で公知の多様な技術を使用してヒト化され得る。ヒト化は、Winterおよび共同研究者ら(Jones et al.,Nature,321:522-525(1986);Reichmann et al.,Supra;Verhoeyen et al.,Science,239:1534-1536(1988))の方法に従って、ヒト抗体中の対応する配列を超可変領域配列で置換することで実施され得る。具体的には、ヒト化抗体は、CDRグラフトアプローチ(例えば、米国特許第6,548,640号明細書を参照されたい)、ベニアリングまたは表面再構成(米国特許第5,639,641号明細書および米国特許第6,797,492号明細書;Studnicka et al.,Protein Engineering 7(6):805-814(1994);Roguska.et al.,PNAS 91:969-973(1994))、鎖シャフリングストラテジー(例えば、米国特許第5,565,332号明細書;Rader et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1998)95:8910-8915を参照されたい)、分子モデル化ストラテジー(米国特許第5,639,641号明細書)などをはじめとする、当該技術分野で周知の方法によって調合されてもよい。これらの一般的アプローチが、標準変異誘発および組換え体合成技術と組み合わされて、所望の特性がある単量体ヒト化抗体が作成されてもよい。
【0119】
ヒト患者の治療処置のためには、完全ヒト抗体が特に望ましい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを使用して、上に記載されるファージディスプレイ法をはじめとする、当該技術分野で公知の多様な方法によって作成され得る。それぞれその内容全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第4,444,887号明細書および米国特許第4,716,111号明細書;および国際公開第98/46645号パンフレット;国際公開第98/50433号パンフレット;国際公開第98/24893号パンフレット;国際公開第98/16654号パンフレット;国際公開第96/34096号パンフレット;国際公開第96/33735号パンフレット;および国際公開第91/10741号パンフレットを参照されたい。
【0120】
ヒト抗体は、また、機能性内在性免疫グロブリンを発現できないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現し得る、遺伝子組換えマウスを使用して生成され得る。ヒト抗体を作成するためのこの技術の概要については、Lonberg and Huszar,Int.Rev.Immunol.,13:65-93,1995を参照されたい。ヒト抗体およびヒト型モノクローナル抗体を作成するためのこの技術、およびこのような抗体を作成するためのプロトコルの詳細な考察については、例えば、それらの内容全体が参照により本明細書に援用される、国際公開第98/24893号パンフレット;国際公開第92/01047号パンフレット;国際公開第96/34096号パンフレット;国際公開第96/33735号パンフレット;欧州特許第0 598 877号明細書;米国特許第5,413,923号明細書;米国特許第5,625,126号明細書;米国特許第5,633,425号明細書;米国特許第5,569,825号明細書;米国特許第5,661,016号明細書;米国特許第5,545,806号明細書;米国特許第5,814,318号明細書;米国特許第5,885,793号明細書;米国特許第5,916,771号明細書;および米国特許第5,939,598号明細書を参照されたい。Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255-258(1993);Bruggemann et al.,Year in Immuno.,7:33(1993);米国特許第5,545,806号明細書、米国特許第5,569,825号明細書、米国特許第5,591,669号明細書(全てGenPharmに付与された);米国特許第5,545,807号明細書;および国際公開第97/17852号パンフレットもまた参照されたい。ヒト抗体を作成するためのマウスのXENOMOUSE(登録商標)株の使用が記載されている。Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)およびGreen and Jakobovits J.Exp.Med.188:483-495(1998)を参照されたい。XENOMOUSE(登録商標)株は、Amgen,Inc.(Fremont,Calif.)から入手できる。マウスのXENOMOUSE(登録商標)株の作成、およびこれらのマウスにおいて産生される抗体は、米国特許第6,673,986号明細書;米国特許第7,049,426号明細書;米国特許第6,833,268号明細書;米国特許第6,162,963、6,150,584、6,114,598、6,075,181、6,657,103号明細書;米国特許第6,713,610および5,939,598号明細書;米国特許出願公開第2004/0010810号明細書;米国特許出願公開第2003/0229905号明細書;米国特許出願公開第2004/0093622号明細書;米国特許出願公開第2005/0054055号明細書;米国特許出願公開第2005/0076395号明細書;および米国特許出願公開第2006/0040363号明細書でさらに考察される。代替のアプローチでは、GenPharm International,Inc.をはじめとするその他の者は、「minilocus」アプローチを利用した。このアプローチは、米国特許第5,545,807号明細書;米国特許第5,545,806号明細書;米国特許第5,625,825号明細書;米国特許第5,625,126号明細書;米国特許第5,633,425号明細書;米国特許第5,661,016号明細書;米国特許第5,770,429号明細書;米国特許第5,789,650号明細書;米国特許第5,814,318号明細書;米国特許第5,877,397号明細書;米国特許第5,874,299号明細書;米国特許第6,255,458号明細書;米国特許第5,591,669号明細書;米国特許第6,023,010号明細書;米国特許第5,612,205号明細書;米国特許第5,721,367号明細書;米国特許第5,789,215号明細書;米国特許第5,643,763号明細書;および米国特許第5,981,175号明細書に記載される。Kirinはまた、マウスからのヒト抗体作成を実証し、その中では、大型の染色体断片、または染色体全体が微小核体融合を通じて取り込まれている。特許第6,632,976号明細書を参照されたい。それに加えて、KirinのTcマウスとMedarexのminilocus(Humab)マウスとの交雑の成果であるKM(商標)マウスが作成されている。これらのマウスは、KirinマウスのヒトIgHトランス染色体とGenpharmマウスのκ鎖導入遺伝子とを有する(Ishida et al.,Cloning Stem Cells,(2002)4:91-102)。ヒト抗体はまた、インビトロ法によって誘導され得る。適切な実施例としては、ファージディスプレイ(MedImmune(以前のCAT)、Morphosys、Dyax、Biosite/Medarex、Xoma、Symphogen、Alexion(以前のProliferon)、Affimed)リボソームディスプレイ(MedImmune(以前のCAT))、酵母ディスプレイなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。ファージディスプレイ技術(例えば、米国特許第5,969,108号明細書を参照されたい)を使用して、生体外で、未免疫ドナーからの免疫グロブリン変動(V)領域遺伝子レパートリーから、ヒト抗体および抗体断片が作成され得る。ファージディスプレイは、多様な構成で実施され得、例えば、Johnson,Kevin S.and Chiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)で概説される。いくつかのV-遺伝子断片起源が、ファージディスプレイのために使用され得る。例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1991);Griffith et al.,EMBO J.12:725-734(1993);および米国特許第5,565,332号明細書および米国特許第5,573,905号明細書を参照されたい。上で考察されるように、ヒト抗体はまた、生体外活性化B細胞によって産生されてもよい(米国特許第5,567,610号明細書および米国特許第5,229,275号明細書を参照されたい)。さらに、Abgenix,Inc.(Freemont,CA)、Medarex(NJ)、およびGenpharm(San Jose,CA)などの企業が、上に記載されるものと同様の技術を使用して、選択された抗原に対するヒト抗体の生産を請け負い得る。
【0121】
完全ヒト抗体を認識する選択されたエピトープは、「誘導される選択」と称される技術を使用して作成され得る。このアプローチでは、例えば、マウス抗体などの選択された非ヒトモノクローナル抗体を使用して、同一エピトープを認識する完全ヒト抗体の選択が誘導される(Jespers et al.,Bio/Technology,12:899-903,1988)。
【0122】
特定の実施形態では、修飾抗体は、生体内治療および/または予防用途を有する。このように修飾された治療および予防抗体の例としては、RSV感染患者を治療するためのヒト化抗呼吸器合胞体ウイルス(RSV)モノクローナル抗体である、SYNAGIS(登録商標)(MedImmune,MD);転移性乳がん患者を治療するためのヒト化抗HER2モノクローナル抗体である、ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ)(Genentech,CA);クローン病(Crone’s disease)患者を治療するためのキメラ抗TNFαモノクローナル抗体である、REMICADE(登録商標)(インフリキシマブ)(Centocor,PA);血餅形成を予防するための血小板上の抗糖タンパク質IIb/IIIa受容体である、REOPRO(登録商標)(アブシキシマブ)(Centocor);急性腎臓同種移植片拒絶を予防するための免疫抑制ヒト化抗CD25モノクローナル抗体である、ZENAPAX(登録商標)(ダクリズマブ)(Roche Pharmaceuticals,Switzerland)が挙げられるが、これに限定されるものではない。その他の実施例は、ヒト化抗CD18F(ab’)(Genentech);ヒト化抗CD18F(ab’)であるCDP860(Celltech,UK);CD4と融合した抗HIV gp120抗体であるPRO542(Progenics/Genzyme Transgenics);ヒト抗B型肝炎ウイルス抗体であるOstavir(Protein Design Lab/Novartis);ヒト化抗CMVIgG1抗体であるPROTOVIR(商標)(Protein Design Lab/Novartis);マウス抗TNF-α F(ab’)であるMAK-195(SEGARD)(Knoll Pharma/BASF);IC14であるn抗CD14抗体(ICOS Pharm);aヒト化抗VEGFIgG1抗体(Genentech);マウス抗CA 125抗体であるOVAREX(商標)(Altarex);マウス抗17-IA細胞表面抗原IgG2a抗体であるPANOREX(商標)(Glaxo Wellcome/Centocor);マウス抗イディオタイプ(GD3エピトープ)IgG抗体であるBEC2(ImClone System);キメラ抗EGFR IgG抗体であるIMC-C225(ImClone System);ヒト化抗αVβ3インテグリン抗体であるVITAXIN(商標)(Applied Molecular Evolution/MedImmune);ヒト化抗CD52 IgG1抗体であるCampath 1H/LDP-03(Leukosite);ヒト化抗CD33 IgG抗体であるSmart M195(Protein Design Lab/Kanebo);RITUXAN(商標)であるキメラ抗CD20 IgG1抗体(IDEC Pharm/Genentech、Roche/Zettyaku);ヒト化抗CD22 IgG抗体であるLYMPHOCIDE(商標)(Immunomedics);ヒト化抗HLA抗体であるSmart ID10(Protein Design Lab);放射標識(radiolabelled)マウス抗HLA診断試薬抗体であるONCOLYM(商標)(Lym-1)(Techniclone);ヒト抗IL8抗体であるABX-IL8(Abgenix);ヒト化IgG1抗体である抗CD11a(Genetech/Xoma);ヒト化抗ICAM3抗体であるICM3(ICOS Pharm);霊長類化抗CD80抗体であるIDEC-114(IDEC Pharm/Mitsubishi);放射標識(radiolabelled)マウス抗CD20抗体であるZEVALIN(商標)(IDEC/Schering AG);ヒト化抗CD40L抗体であるIDEC-131(IDEC/Eisai);霊長類化抗CD4抗体であるIDEC-151(IDEC);霊長類化抗CD23抗体であるIDEC-152(IDEC/Seikagaku);ヒト化抗CD3 IgGであるSMART抗CD3(Protein Design Lab);ヒト化抗補体因子5(C5)抗体である5G1.1(Alexion Pharm);ヒト化抗TNF-α抗体であるD2E7(CAT/BASF);ヒト化抗TNF-α Fab破片であるCDP870(Celltech);霊長類化抗CD4 IgG1抗体であるIDEC-151(IDEC Pharm/SmithKline Beecham);ヒトCD4 IgG抗体であるMDX-CD4(Medarex/Eisai/Genmab);ヒト化抗TNF-αIgG4抗体であるCDP571(Celltech);LDP-02であるヒト化抗α4β7抗体(LeukoSite/Genentech);ヒト化抗CD4 IgG抗体であるOrthoClone OKT4A(Ortho Biotech);ヒト化抗CD40L IgG抗体であるANTOVA(商標)(Biogen);ヒト化抗VLA-4 IgG抗体であるANTEGREN(商標)(Elan);ヒト抗CD64(FcγR)抗体であるMDX-33(Medarex/Centeon);ヒト化抗IL-5 IgG4抗体であるSCH55700(Celltech/Schering);それぞれヒト化抗IL-5およびIL-4抗体であるSB-240563およびSB-240683(SmithKline Beecham);ヒト化抗IgE IgG1抗体であるrhuMab-E25(Genentech/Norvartis/Tanox Biosystems);霊長類化抗CD23抗体であるIDEC-152(IDEC Pharm);マウス抗D-147 IgM抗体であるABX-CBL(Abgenix);ラット抗CD2 IgG抗体であるBTI-322(Medimmune/Bio Transplant);マウス抗CD3 IgG2a抗体であるOrthoclone/OKT3(ortho Biotech);キメラ抗CD25 IgG1抗体であるSIMULECT(商標)(Novartis Pharm);ヒト化抗β-インテグリンIgG抗体であるLDP-01(LeukoSite);マウス抗CD18F(ab’)である抗LFA-1(Pasteur-Merieux/Immunotech);ヒト抗TGF-β抗体であるCAT-152(Cambridge Ab Tech);抗αvβ3抗体であるvitaxin;およびキメラ抗VII因子抗体であるCorsevin M(Centocor)である。
【0123】
本発明の修飾IgGとしてはまた、抗原結合部位、Fc受容体結合部位、または補体結合部位などのその生理活性部位が遺伝子操作によって修飾され、野性型と比較してこのような機能が増大または低下されたIgGが挙げられる。
【0124】
本発明は、生理活性分子および修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含んでなり、本明細書で同定されるようなHis435領域(残基432~437)のアミノ酸残基中またはその近くに、1つまたは複数の修飾(すなわち、置換、欠失、または挿入)を有する融合タンパク質もまた提供する。生理活性分子は、修飾IgG定常領域またはそのFcRn結合断片に、組換え的に融合されまたは化学的に結合(共有結合および非共有結合の両方を含む)され得る。任意選択的に、修飾IgG定常領域またはそのFcRn結合断片は、アミノ酸残基251~256、285~290、および/またはアミノ酸残基308~314の1つまたは複数におけるCH2領域の修飾、および/またはアミノ酸残基385~389および/または428~431の1つまたは複数におけるCH3領域の修飾などの追加的な修飾を含有してもよい。このような修飾の1つまたは複数がある定常領域またはその断片への生理活性分子の融合は、生理活性分子の生体内半減期を増大させる。
【0125】
生理活性分子は、当業者に公知の任意のポリペプチドまたは合成薬物であり得る。例証的実施形態では、生理活性分子は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90または少なくとも100個のアミノ酸残基からなるポリペプチドである。生理活性ポリペプチドの例としては、様々なタイプの抗体、サイトカイン(例えば、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IFN-γ、IFN-α、およびIFN-β)、細胞接着分子(例えば、CTLA4、CD2、およびCD28)、リガンド(例えば、TNF-α,、TNF-β、およびエンドスタチンなどの抗血管新生因子)、受容体、抗体および増殖因子(例えば、PDGF、EGF、NGF、およびKGF)が挙げられるが、これに限定されるものではない。生理活性分子はまた、細胞毒(例えば、細胞分裂阻害または細胞破壊剤)、治療薬または放射性元素(例えば、α-放射体、γ-放射体など)などの治療成分であり得る。細胞分裂阻害または細胞破壊剤の例としては、パクリタキソル(paclitaxol)、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、およびそれらの類似体または相同体が挙げられるが、これに限定されるものではない。治療薬としては、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン(decarbazine))、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパ(thioepa)クロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロソスファミド(cyclothosphamide)、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシスジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前のダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前のアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、および有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0126】
いくつかの態様では、TNFスーパーファミリーの構成要素(受容体またはリガンド)、ならびにこのタンパク質ファミリーに属するタンパク質のサブユニット、ドメイン、モチーフおよびエピトープは、本発明の修飾IgGに結合し、または修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片に融合される。TNFスーパーファミリーは、腫瘍壊死因子-α(「TNF-α」)、腫瘍壊死因子-β(「TNF-β」)、リンフォトキシン-α(「LT-α」)、CD30リガンド、CD27リガンド、CD40リガンド、4-1BBリガンド、Apo-1リガンド(FasリガンドまたはCD95リガンドとも称される)、Apo-2リガンド(TRAILとも称される)、アポ-3リガンド(TWEAKとも称される)、オステオプロテゲリン(OPG)、APRIL、RANKリガンド(TRANCEとも称される)、TALL-1(BlyS、BAFFまたはTHANKとも称される)、DR4、DR5(Apo-2、TRAIL-R2、TR6、Tango-63、hAPO8、TRICK2、またはKILLERとしてもまた知られている)、DR6、DcR1、DcR2、DcR3(TR6またはM68としてもまた知られている)、CAR1、HVEM(ATARまたはTR2としてもまた知られている)、GITR、ZTNFR-5、NTR-1、TNFL1、CD30、LTBr、4-1BB、受容体およびTR9をはじめとするが、これに限定されるものではない、多数の分子を含んでなる。
【0127】
本発明の修飾IgGによって結合されてもよく、または修飾IgG定常領域に融合されてもよいポリペプチドまたは(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)それらのFcRn結合断片の追加的な例としては、5T4、ABL、ABCF1、ACVR1、ACVR1B、ACVR2、ACVR2B、ACVRL1、ADORA2A、アグリカン、AGR2、AICDA、AIF1、AIGI、AKAP1、AKAP2、AMH、AMHR2、ANGPT1、ANGPT2、ANGPTL3、ANGPTL4、ANPEP、APC、APOCl、AR、アロマターゼ、ATX、AXl、AZGP1(亜鉛-a-糖タンパク質)、B7.1、B7.2、B7-H1、BAD、BAFF、BAG1、BAIl、BCR、BCL2、BCL6、BDNF、BLNK、BLR1(MDR15)、BlyS、BMP1、BMP2、BMP3B(GDFIO)、BMP4、BMP6、BMP8、BMPR1A、BMPR1B、BMPR2、BPAG1(プレクチン)、BRCA1、C19orflO(IL27w)、C3、C4A、C5、C5R1、CANT1、CASP1、CASP4、CAVl、CCBP2(D6/JAB61)、CCL1(1-309)、CCLI1(エオタキシン)、CCL13(MCP-4)、CCL15(MIP-Id)、CCL16(mcc-4)、CCL17(TARC)、CCL18(PARC)、CCL19(MIP-3b)、CCL2(MCP-1)、MCAF、CCL20(MIP-3a)、CCL21(MEP-2)、SLC、exodus-2、CCL22(MDC/STC-I)、CCL23(MPIF-I)、CCL24(MPIF-2/エオタキシン-2)、CCL25(TECK)、CCL26(エオタキシン-3)、CCL27(CTACK/ILC)、CCL28、CCL3(MIP-la)、CCL4(MIPIb)、CCL5(RANTES)、CCL7(MCP-3)、CCL8(mcp-2)、CCNA1、CCNA2、CCND1、CCNE1、CCNE2、CCRI(CKR1/HM145)、CCR2(mcp-IRB/RA)、CCR3(CKR3/CMKBR3)、CCR4、CCR5(CMKBR5/ChemR13)、CCR6(CMKBR6/CKR-L3/STRL22/DRY6)、CCR7(CKR7/EBI1)、CCR8(CMKBR8/TERI/CKR-L1)、CCR9(GPR-9-6)、CCRL1(VSHK1)、CCRL2(L-CCR)、CD164、CD19、CDIC、CD20、CD200、CD22、CD24、CD28、CD3、CD33、CD35、CD37、CD38、CD3E、CD3G、CD3Z、CD4、CD40、CD40L、CD44、CD45RB、CD52、CD69、CD72、CD74、CD79A、CD79B、CD8、CD80、CD81、CD83、CD86、CD137、CDH1(Ecadherin)、CDH10、CDH12、CDH13、CDH18、CDH19、CDH20、CDH5、CDH7、CDH8、CDH9、CDK2、CDK3、CDK4、CDK5、CDK6、CDK7、CDK9、CDKN1A(p21Wap1/Cip1)、CDKN1B(p27Kip1)、CDKNlC、CDKN2A(p161NK4a)、CDKN2B、CDKN2C、CDKN3、CEBPB、CERI、CHGA、CHGB、キチナーゼ、CHST10、CKLFSF2、CKLFSF3、CKLFSF4、CKLFSF5、CKLFSF6、CKLFSF7、CKLFSF8、CLDN3、CLDN7(クローディン-7)、CLN3、CLU(クラスタリン)、CMKLR1、CMKOR1(RDCl)、CNR1、COL18A1、COLIA1、COL4A3、COL6A1、CR2、Cripto、CRP、CSF1(M-CSF)、CSF2(GM-CSF)、CSF3(GCSF)、CTLA4、CTL8、CTNNB1(b-カテニン)、CTSB(カテプシンB)、CX3CL1(SCYD1)、CX3CR1(V28)、CXCL1(GRO1)、CXCL10(IP-IO)、CXCLI1(I-TAC/IP-9)、CXCL12(SDF1)、CXCL13、CXCL14、CXCL16、CXCL2(GRO2)、CXCL3(GRO3)、CXCL5(ENA-78/LIX)、CXCL6(GCP-2)、CXCL9(MIG)、CXCR3(GPR9/CKR-L2)、CXCR4、CXCR6(TYMSTR/STRL33/Bonzo)、CYB5、CYCl、CYSLTR1、DAB21P、DES、DKFZp451J0118、DNCL1、DPP4、E2F1、Engel、Edge、Fennel、EFNA3、EFNB2、EGF、EGFR、ELAC2、ENG、Enola、ENO2、ENO3、EPHA1、EPHA2、EPHA3、EPHA4、EPHA5、EPHA6、EPHA7、EPHA8、EPHA9、EPHA10、EPHB1、EPHB2、EPHB3、EPHB4、EPHB5、EPHB6、EPHRIN-A1、EPHRIN-A2、EPHRINA3、EPHRIN-A4、EPHRIN-A5、EPHRIN-A6、EPHRIN-B1、EPHRIN-B2、EPHRIN-B3、EPHB4、EPG、ERBB2(Her-2)、EREG、ERK8、エストロゲン受容体、Earl、ESR2、F3(TF)、FADD、ファルネシルトランスフェラーゼ、FasL、FASNf、FCER1A、FCER2、FCGR3A、FGF、FGF1(aFGF)、FGF10、FGF11、FGF12、FGF12B、FGF13、FGF14、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF2(bFGF)、FGF20、FGF21、FGF22、FGF23、FGF3(int-2)、FGF4(HST)、FGF5、FGF6(HST-2)、FGF7(KGF)、FGF8、FGF9、FGFR3、FIGF(VEGFD)、FILI(ε)、FBL1(ZETA)、FLJ12584、FLJ25530、FLRT1(フィブロネクチン)、FLT1、FLT-3、FOS、FOSLI(FRA-1)、FY(DARC)、GABRP(GABAa)、GAGEB1、GAGEC1、GALNAC4S-6ST、GATA3、GD2、GDF5、GFI1、GGT1、GM-CSF、GNAS1、GNRH1、GPR2(CCR10)、GPR31、GPR44、GPR81(FKSG80)、GRCC10(C10)、GRP、GSN(Gelsolin)、GSTP1、HAVCR2、HDAC、HDAC4、HDAC5、HDAC7A、HDAC9、ヘッジホッグ、HGF、HIF1A、HIP1、ヒスタミンおよびヒスタミン受容体、HLA-A、HLA-DRA、HM74、HMOXl、HSP90、HUMCYT2A、ICEBERG、ICOSL、ID2、IFN-a、IFNA1、IFNA2、IFNA4、1FNA5、EFNA6、BFNA7、IFNB1、IFNγ、IFNWl、IGBP1、IGF1、IGFIR、IGF2、IGFBP2、1GFBP3、IGFBP6、DL-1、ILIO、ILIORA、ILIORB、IL-1、IL1R1(CD121a)、IL1R2(CD121b)、ILIRA、IL-2、IL2RA(CD25)、IL2RB(CD122)、IL2RG(CD132)、IL-4、IL-4R(CD123)、IL-5、IL5RA(CD125)、IL3RB(CD131)、IL-6、IL6RA、(CD126)、IR6RB(CD130)、IL-7、IL7RA(CD127)、IL-8、CXCR1(IL8RA)、CXCR2、(IL8RB/CD128)、IL-9、IL9R(CD129)、IL-10、IL10RA(CD210)、IL10RB(CDW210B)、IL-11、IL11RA、IL-12、IL-12A、IL-12B、IL-12RB1、IL-12RB2、IL-13、IL13RA1、IL13RA2、IL14、IL15、IL15RA、1L16、IL17、IL17A、IL17B、IL17C、IL17R、IL18、IL18BP、IL18R1、IL18RAP、IL19、ILIA、ILIB、IL1F10、IL1F5、IL1F6、IL1F7、IL1F8、DL1F9、ILIHYI、ILIR1、IL1R2、ILIRAP、ILIRAPLI、IL1RAPL2、ILlRL1、ILlRL2、ILIRN、IL2、IL20、IL20RA、IL21R、IL22、IL22R、IL22RA2、IL23、DL24、IL25、IL26、IL27、IL28A、IL28B、IL29、IL2RA、IL2RB、IL2RG、IL3、IL30、IL3RA、IL4、1L4R、IL6ST(糖タンパク質130)、ILK、INHA、INHBA、INSL3、INSL4、IRAK1、IRAK2、ITGA1、ITGA2、1TGA3、ITGA6(a6インテグリン)、ITGAV、ITGB3、ITGB4(134インテグリン)、JAG1、JAK1、JAK3、JTB、JUN、K6HF、KAI1、KDR、KITLG、KLF5(GC Box BP)、KLF6、KLK10、KLK12、KLK13、KLK14、KLK15、KLK3、KLK4、KLK5、KLK6、KLK9、KRT1、KRT19(ケラチン19)、KRT2A、KRTHB6(毛髪特異的II型ケラチン)、LAMA5、LEP(レプチン)、Lingo-p75、Lingo-Troy、LPS、LTA(TNF-b)、LTB、LTB4R(GPR16)、LTB4R2、LTBR、MACMARCKS、MAGまたはOmgp、MAP2K7(c-Jun)、MCP-1、MDK、MIB1、ミッドカイン、MIF、MISRII、MJP-2、MK、MKI67(Ki-67)、MMP2、MMP9、MS4A1、MSMB、MT3(メタロチオネクチン-UI)、mTOR、MTSS1、MUC1(ムチン)、MYC、MYD88、NCK2、ニューロカン、NFKBI、NFKB2、NGFB(NGF)、NGFR、NgR-Lingo、NgRNogo66、(Nogo)、NgR-p75、NgR-Troy、NMEI(NM23A)、NOTCH、NOTCH1、NOX5、NPPB、NROB1、NROB2、NRID1、NR1D2、NR1H2、NR1H3、NR1H4、NRll2、NRll3、NR2C1、NR2C2、NR2E1、NR2E3、NR2F1、NR2F2、NR2F6、NR3C1、NR3C2、NR4A1、NR4A2、NR4A3、NR5A1、NR5A2、NR6A1、NRP1、NRP2、NT5E、NTN4、ODZl、OPRDI、P2RX7、PAP、PART1、PATE、PAWR、PCA3、PCDGF、PCNA、PDGFA、PDGFB、PDGFRA、PDGFRB、PECAMI、peg-アスパラギナーゼ、PF4(CXCL4)、PGF、PGR、ホスファカン、PIAS2、PI3キナーゼ、PIK3CG、PLAU(uPA)、PLG、PLXDCI、PKC、PKC-β、PPBP(CXCL7)、PPID、PR1、PRKCQ、PRKD1、PRL、PROC、PROK2、PSAP、PSCA、PTAFR、PTEN、PTGS2(COX-2)、PTN、RAC2(P21Rac2)、RANK、RANKリガンド、RARB、RGS1、RGS13、RGS3、RNFI10(ZNF144)、Ron、ROBO2、RXR、S100A2、SCGB1D2(リポフィリンB)、SCGB2A1(マンマグロビン2)、SCGB2A2(マンマグロビン1)、SCYE1(内皮単球活性化サイトカイン)、SDF2、SERPENA1、SERPINA3、SERPINB5(マスピン)、SERPINEI(PAl-I)、SERPINFI、SHIP-l、SHIP-2、SHB1、SHB2、SHBG、SfcAZ、SLC2A2、SLC33A1、SLC43A1、SLIT2、SPP1、SPRR1B(Sprl)、ST6GAL1、STAB1、STAT6、STEAP、STEAP2、TB4R2、TBX21、TCP10、
TDGF1、TEK、TGFA、TGFB1、TGFBII1、TGFB2、TGFB3、TGFBI、TGFBR1、TGFBR2、TGFBR3、THIL、THBS1(トロンボスポンジン-1)、THBS2、THBS4、THPO、TIE(Tie-1)、TIMP3、組織因子、TLR10、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TNF、TNFa、TNFAIP2(B94)、TNFAIP3、TNFRSFI1A、TNFRSF1A、TNFRSF1B、TNFRSF21、TNFRSF5、TNFRSF6(Fas)、TNFRSF7、TNFRSF8、TNFRSF9、TNFSF10(TRAIL)、TNFSF11(TRANCE)、TNFSF12(APO3L)、TNFSF13(April)、TNFSF13B、TNFSF14(HVEM-L)、TNFSF15(VEGI)、TNFSF18、TNFSF4(OX40リガンド)、TNFSF5(CD40リガンド)、TNFSF6(FasL)、TNFSF7(CD27リガンド)、TNFSF8(CD30リガンド)、TNFSF9(4-1BBリガンド)、TOLLIP、Toll様受容体、TOP2A(トポイソメラーゼlia)、TP53、TPM1、TPM2、TRADD、TRAF1、TRAF2、TRAF3、TRAF4、TRAF5、TRAF6、TRKA、TREM1、TREM2、TRPC6、TSLP、TWEAK、チロシナーゼ、uPAR、VEGF、VEGFB、VEGFC、
バーシカン、VHLC5、VLA-4、Wnt-1、XCL1(リンホタクチン)、XCL2(SCM-Ib)、XCRI(GPR5/CCXCR1)、YY1、およびZFPM2が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0128】
いくつかの態様では、例えば、核酸(例えば、DNAまたはRNA)、脂質、糖脂質、多糖などの1つまたは複数の非タンパク質分子は、本発明の修飾IgGに結合し、または修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片に融合される。いくつかの態様では、腫瘍関連糖脂質抗原、(ならびにそのサブユニット、ドメイン、モチーフ、およびエピトープ;例えば、米国特許第5,091,178号明細書を参照されたい)は、本発明の修飾IgGに結合し、または修飾IgG定常領域もしくはそのFcRn結合断片に融合される。
【0129】
いくつかの態様では、修飾IgGまたは修飾IgG定常領域または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)それらのFcRn結合断片は、PDGFRα、PDGFRβ、PDGF、VEGF、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGFE、VEGFF、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、FGF、FGF2、HGF、KDR、fit-l、FLK-1Ang-2、Ang-1、PLGF、CEA、CXCL13、Baff、IL-21、CCL21、TNF-α、CXCL12、SDF-1、bFGF、MAC-l、IL23p19、FPR、IGFBP4、CXCR3、TLR4、CXCR2、EphA2、EphA4、EphrinB2、EGFR(ErbB1)、HER2(ErbB2またはp185neu)、HER3(ErbB3)、HER4(ErbB4またはtyro2)、SC1、LRP5、LRP6、RAGE、Nav1.7、GLP1、RSV、RSVFタンパク質、インフルエンザHAタンパク質、インフルエンザNAタンパク質、HMGB1、CD16、CD19、CD20、CD21、CD28、CD32、CD32b、CD64、CD79、CD22、ICAM-1、FGFR1、FGFR2、HDGF、EphB4、GITR、13-アミロイド、hMPV、PIV-1、PIV-2、OX40L、IGFBP3、cMet、PD-1、PLGF、Neprolysin、CTD、IL-18、IL-6、CXCL-13、IL-1R1、IL-15、IL-4R、IgE、PAl-l、NGF、EphA2、CEA、uPARt、DLL-4、av136、a5131、インターフェロン受容体I型およびII型、CD19、ICOS、IL-17、第II因子、Hsp90、IGF、CD19、GM-CSFR、PIV-3、CMV、IL-13、IL-9、およびEBVとの結合について、リガンドと競合するドメイン(例えば、エピトープ結合領域、またはリガンドドメイン)を含んでなる。
【0130】
本発明は、本発明の修飾IgG定常領域をコードするヌクレオチド配列または(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片を含んでなるポリヌクレオチド、ならびに前記ポリヌクレオチドを含んでなるベクターもまた提供する。特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、例えば、修飾IgG定常領域またはそのFcRn結合断片をはじめとする、IgGなどの免疫グロブリンをコードする。代替実施形態では、ポリヌクレオチドは、生理活性分子および修飾IgG定常領域またはそのFcRn結合断片を含んでなる、融合タンパク質をコードする。
【0131】
さらに、本発明は、ストリンジェントな、またはより低ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明の修飾IgGおよび融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする、ポリヌクレオチドを含む。
【0132】
修飾IgGおよびそれをコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、それぞれPCRと組み合わされた、ジデオキシ連鎖停止法(サンガー配列決定)、およびオリゴヌクレオチドプライミングなどの一般的DNA配列決定法をはじめとする、当該技術分野で公知の任意の方法によって得られてもよい。
【0133】
変異の同定
本明細書に記載されるようなIgG定常領域のHis435領域のアミノ酸修飾は、当業者に知られている任意の技術を使用して導入されてもよい。アミノ酸残基432~437中に1つまたは複数の修飾を有する、定常領域またはその断片(またはIgG定常領域もしくはそのFcRn結合断片中のその他の部位)は、例えば、(下でさらに詳述されるように)FcRn受容体に対する親和性が増大している定常領域またはその断片を同定するための結合アッセイによって、スクリーニングされてもよい。FcRn受容体に対する定常領域またはその断片の親和性を増大させる、ヒンジFc領域またはその断片中のこれらの修飾を抗体中に導入して、前記抗体の生体内半減期が増大され得る。さらに、FcRnに対する定常領域またはその断片の親和性を増大させる、定常領域またはその断片中のこれらの修飾を生理活性分子に融合させて、前記生理活性分子の生体内半減期を増大させ、任意選択的に分子の生物学的利用能を変化(例えば、増大または低下)させ、例えば、粘膜表面(またはその他の標的組織)(例えば、肺)への輸送を増大または低下させ得る。
【0134】
変異誘発
変異誘発は、修飾される抗体またはその断片(例えば、CH2またはCH3領域)の定常領域の配列中に、1つまたは複数の修飾を有するオリゴヌクレオチドを合成することをはじめとするが、これに限定されるものではない、当該技術分野で公知の技術のいずれかに従って実施されてもよい。部位特異的変異誘発は、所望の変異のDNA配列ならびに十分な数の隣接ヌクレオチドをコードする特異的なオリゴヌクレオチド配列の使用を通じて、十分な大きさおよび配列複雑度のプライマー配列を提供し、横断される欠失接合部の両側に安定二本鎖を形成して、変異体が作成できるようにする。代表的プライマーは、約17~約75ヌクレオチド以上の長さであり、改変される配列接合部の両側に約10~約25個以上の残基がある。1つまたは複数の位置に多様な異なる変異を導入するいくつかのこのようなプライマーを使用して、変異体のライブラリーが作成されてもよい。様々な文献によって例示されるように、部位特異的変異誘発技術は、当該技術分野で周知である(例えば、その内容全体が参照により本明細書に援用される、Kunkel et al.,Methods Enzymol.,154:367-82,1987を参照されたい)。一般に、部位特異的変異誘発は、最初に、一本鎖ベクターを得る、またはその配列中に所望のペプチドをコードするDNA配列を含む、二本鎖ベクターの2本の鎖を融解分離させることで実施される。所望の変異配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーは、一般に合成的に調製される。次にこのプライマーは、一本鎖ベクターにアニールされて、変異を有する鎖の合成を完了するために、T7 DNAポリメラーゼなどのDNA重合酵素の対象となる。このようにして、その中で1本の鎖が最初の非変異配列をコードして、第2の鎖が所望の変異を有するヘテロ二本鎖が形成される。次に、このヘテロ二本鎖ベクターを使用して、大腸菌(E.coli)細胞などの適切な細胞を形質転換または形質移入して、変異配列の配置を有する組換えベクターを含むクローンが選択される。理解されるように、本技術は、典型的に、一本鎖および二本鎖形態の両方で存在するファージベクターを用いる。部位特異的変異誘発で有用な典型的なベクターとしては、M13ファージなどのベクターが挙げられる。これらのファージは、容易に商業的に入手され、それらの使用は、一般に当業者に良く知られている。二本鎖のプラスミドもまた部位特異的変異誘発で慣例的に用いられ、対象遺伝子をプラスミドからファージに輸送するステップが排除される。
【0135】
代案として、TaqDNAポリメラーゼなどの市販の熱安定性酵素によるPCR(商標)の使用を利用して、変異原性オリゴヌクレオチドプライマーが増幅DNA断片に組み込まれもよく、それは次に適切なクローニングまたは発現ベクターにクローン化され得る。例えば、PCR(商標)媒介変異誘発手順については、それらの内容全体が本明細書に援用される、Tomic et al.,Nucleic Acids Res.,18(6):1656,1987、およびUpender et al.,Biotechniques,18(1):29-30,32,1995を参照されたい。熱安定性ポリメラーゼに加えて熱安定性リガーゼを用いるPCR(商標)もまた使用して、リン酸化変異原性オリゴヌクレオチドが増幅DNA断片に組み込まれもよく、それは次に適切なクローニングまたは発現ベクターにクローン化されてもよい(例えば、その内容全体が参照により本明細書に援用される、Michael,Biotechniques,16(3):410-2,1994を参照されたい)。
【0136】
抗体またはその断片のFc領域に配列変異を生じさせる当業者に公知のその他の方法が使用され得る。例えば、抗体またはその断片の定常領域のアミノ酸配列をコードする組換えベクターをヒドロキシルアミンなどの変異誘発物質で処理して、配列変異が得られてもよい。
【0137】
パニング
アミノ酸残基432~437またはその他の部位に1つまたは複数の修飾を有する定常領域またはそれらの断片を発現するベクター、特に、ファージをスクリーニングして、FcRnに対する親和性の増大を有する定常領域またはそれらの断片を同定し、ファージ集団から最大親和性バインダーが選択され得る。FcRnに対する、アミノ酸残基432~437またはその他の部位に1つまたは複数の修飾を有する定常領域またはその断片の結合を分析するために使用され得る免疫測定法としては、放射免疫測定法、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」免疫測定法、および蛍光免疫測定法が挙げられるが、これに限定されるものではない。このようなアッセイは、当該技術分野で通例かつ周知である(例えば、その内容全体が参照により本明細書に援用される、Ausubel et al.,eds,1994,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkを参照されたい)。代表的な免疫測定法は、以下に簡単に説明される(しかし、限定は意図されない)。BIAcore動態解析もまた使用して、FcRnに対する、アミノ酸残基432~437またはその他の部位に1つまたは複数の修飾を有する定常領域またはその断片の結合およびオフ速度が判定され得る。BIAcore動態解析は、表面に固定化FcRnがあるチップからの、アミノ酸残基432~437またはその他の部位に1つまたは複数の修飾を有する定常領域またはその断片の結合および分離を分析することを含んでなる。
【0138】
配列決定
当該技術分野で公知の多様な配列決定反応のいずれかを使用して、アミノ酸残基432~437またはその他の部位に1つまたは複数の修飾を有する定常領域またはその断片コードするヌクレオチド配列が、直接、配列決定され得る。配列決定反応の例としては、Maxim and Gilbert(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74:560,1977)またはSanger(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74:5463,1977)によって開発された技術に基づくものが挙げられる。質量分析法による配列決定(例えば、国際公開第94/16101号パンフレット、Cohen et al.,Adv.Chromatogr.,36:127-162,1996、およびGriffin et al.,Appl.Biochem.Biotechnol.,38:147-159,1993を参照されたい)をはじめとする、多様な自動化配列決定手技(Bio/Techniques,19:448,1995)のいずれかを使用し得ることもまた、検討される。
【0139】
抗体を作成するための組換え法
本発明の抗体またはそれらの断片は、抗体合成技術分野で公知の任意の方法によって、特に、化学合成または組換え発現技術によって作成され得る。
【0140】
抗体をコードするヌクレオチド配列は、当業者が利用可能な任意の情報(すなわち、Genbankや文献から、または通例のクローニングによって)から得られてもよい。特定の抗体またはそのエピトープ結合断片をコードする核酸を含有するクローンは入手不能であるが、抗体またはそのエピトープ結合断片の配列が既知である場合、免疫グロブリンをコードする核酸は、化学的に合成されて、または配列の3’および5’末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを使用したPCR増幅によって、または例えば抗体をコードするcDNAライブラリーからのcDNAクローンを同定するための、特定の遺伝子配列に対して特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用したクローニングによって、適切な起源(例えば、抗体発現について選択されたハイブリドーマ細胞などの抗体を発現する任意の組織または細胞からから作成された、または単離された抗体cDNAライブラリー、またはcDNAライブラリー、または例えばポリARNAなどの核酸)から得られてもよい。次にPCR増幅によって生成される核酸は、当該技術分野で周知の任意の方法を使用して、複製可能なクローニングベクターにクローン化してもよい。
【0141】
抗体のヌクレオチド配列が決定されると、例えば、組換えDNA技術、部位特異的変異誘発、PCRなどの当該技術分野で周知のヌクレオチド配列操作法を使用して、抗体のヌクレオチド配列を操作し(例えば、いずれもその内容全体が参照により本明細書に援用される、Sambrook et al.,1990,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY;およびAusubel et al.,eds.,1998,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NYに記載される技術を参照されたい)、例えば、抗体のエピトープ結合領域に、例えば、FcRnとの相互作用に関与する抗体のヒンジFc領域に、アミノ酸置換、欠失、および/または挿入を導入することで、異なるアミノ酸配列を有する抗体が作成されてもよい。アミノ酸残基432~437またはその他の部位に1つまたは複数の修飾を有する抗体が、作成され得る。
【0142】
抗体の組換え発現は、抗体の配列をコードするヌクレオチドを含有する発現ベクターの構築を要する。抗体分子または抗体の重鎖または軽鎖、あるいはその一部(任意選択的に、しかし必須でないが、重鎖または軽鎖可変領域を含有する)をコードするヌクレオチド配列が得られたら、抗体分子を作成するためのベクターが、当該技術分野で周知の技術を使用して、組換えDNA技術によって作成されてもよい。したがって、抗体を含有するヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチドを発現させることで、タンパク質を調製する方法が本明細書に記載される。当業者に良く知られている方法を使用して、抗体コード配列および適切な転写および翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターが構築され得る。これらの方法としては、例えば、生体外組換えDNA技術、合成技術、および生体内遺伝的組換えが挙げられる。したがって、本発明は、FcRnとの相互作用に関与するアミノ酸残基に1つまたは複数の修飾がある、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含んでなる複製可能なベクターを提供する(例えば、国際公開第86/05807号パンフレット;国際公開第89/01036号パンフレット;および米国特許第5,122,464号明細書を参照されたい)。重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖および軽鎖可変領域の両方をコードするヌクレオチド配列、重鎖および/または軽鎖可変領域のエピトープ結合断片、または抗体の1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)が、発現のために、このようなベクターにクローン化されてもよい。
【0143】
発現ベクターを従来の技術によって宿主細胞に移入し、次に形質移入細胞を従来の技術によって培養して、FcRnへの親和性の増大および生体内半減期の増大を有する抗体が作成される。したがって、本発明は、任意選択的に異種プロモーターと作動可能に連結して、アミノ酸残基432~437またはその他の部位に1つまたは複数の修飾を有する、抗体、定常領域またはそのFcRn結合断片をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を含む。
【0144】
多様な宿主発現ベクター系を使用して、本発明の抗体分子が発現されてもよい。このような宿主発現系は、それによって関心のあるコード配列が生成され、引き続いて精製されてもよいビヒクルに相当するが、適切なヌクレオチドコード配列に形質転換または形質移入されると、本発明の抗体分子を原位置で発現してもよい細胞にもまた相当する。これらとしては、抗体コード配列を含有する、組換バクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌(例えば、大腸菌(E.coli)およびB.サブチリス(B.subtilis))などの微生物;抗体コード配列を含有する組換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母(例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)およびピキア属(Pichia));抗体コード配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で感染された昆虫細胞系;抗体コード配列を含有する、組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;およびタバコモザイクウイルス、TMV)で感染された、または組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された植物細胞系;および哺乳類細胞ゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)、または哺乳類ウイルス(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)に由来するプロモーターを含有する、組換え発現コンストラクトを有する哺乳類細胞系(例えば、COS、CHO、BHK、293、3T3、およびNSO細胞)が挙げられるが、これに限定されるものではない。組換え抗体分子全体の発現に好適な大腸菌(Escherichia coli)などの細菌細胞、および真核細胞が、組換え体抗体分子を発現するために使用される。例えば、ヒトサイトメガロウイルスに由来する主要中間初期遺伝子プロモーター要素などのベクターと併用される、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などの哺乳類細胞は、抗体の有効な発現系である(Foecking et al.,Gene,45:101,1986,およびCockett et al.,Bio/Technology,8:2,1990)。
【0145】
細菌系では、いくつかの発現ベクターが、有利には、発現される抗体分子の意図される用途次第で選択されてもよい。例えば、抗体分子のため医薬組成物を製造するために、このようなタンパク質が大量に製造される場合、容易に精製される融合タンパク質産物の高レベルの発現を誘導するベクターが望ましくあってもよい。このようなベクターとしては、その中で、融合タンパク質が生じるように、抗体コード配列がlacZコード領域と共に、フレーム内のベクターに個々にライゲートされてもよい、大腸菌(E.coli)発現ベクターpUR278(Ruther et al.,EMBO,12:1791,1983);およびpINベクター(Inouye&Inouye,Nucleic Acids Res.,13:3101-3109,1985およびVan Heeke&Schuster,J.Biol.Chem.,24:5503-5509,1989)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0146】
昆虫系では、キンウワバ(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcNPV)が、外来遺伝子を発現させるためのベクターとして使用される。ウイルスは、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞内で成長する。抗体コード配列は、ウイルスの非必須領域(例えば、ポリへドリン遺伝子)に個々にクローン化されてAcNPVプロモーター(例えば、ポリへドリンプロモーター)の制御下に置かれてもよい。
【0147】
哺乳類宿主細胞では、いくつかのウイルスベースの発現系を使用して、本発明の抗体分子が発現されてもよい。アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合、関心のある抗体コード配列は、例えば、後期プロモーターおよび三区分リーダー配列などのアデノウイルス転写/翻訳制御複合体にライゲートされてもよい。次にこのキメラ遺伝子は、生体外または生体内組換えアデノウイルスゲノムに挿入されてもよい。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1またはE3)への挿入は、感染宿主中で生存能力があり、抗体分子を発現する能力がある、組換えウイルスをもたらす(例えば、Logan&Shenk,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:355-359,1984を参照されたい)。特異的開始シグナルもまた、挿入された抗体コード配列の効率的な翻訳に必要であってもよい。これらのシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が挙げられる。さらに、挿入物全体の翻訳を確実にするために、開始コドンは、所望のコード配列の読み枠と同調していなければならない。これらの外来性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の多様な起源であり得る。発現の効率は、適切な転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなどの包含によって増大されてもよい(例えば、Bitter et al.,Methods in Enzymol.,153:516-544,1987を参照されたい)。
【0148】
さらに、所望の特定の方法で、抗体配列の発現を調節し、または抗体を修飾してプロセッシングする宿主細胞株が選択されてもよい。タンパク質産物のこのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセッシング(例えば、切断)は、抗体機能に重要であってもよい。異なる宿主細胞が、タンパク質および遺伝子産物を翻訳後プロセシングおよび修飾するための特徴的かつ特異的な機序を有する。発現された抗体の正しい修飾およびプロセッシングを確実にするために、適切な細胞株または宿主システムが選択され得る。この目的を達成するために、一次転写産物の適切なプロセッシング、遺伝子産物のグリコシル化およびリン酸化のための細胞機構を有する、真核宿主細胞が使用されてもよい。このような哺乳類宿主細胞としては、CHO、VERY、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、3T3、W138、ならびに特に、NS0細胞などの骨髄腫細胞、および関連細胞株が挙げられるが、これに限定されるものではなく、例えば、その内容全体が参照により本明細書に援用される、Morrisonらに付与された米国特許第5,807,715号明細書を参照されたい。
【0149】
組換え抗体の長期にわたる高収率の生成のためには、安定発現が好ましい。例えば、抗体分子を安定して発現する細胞株が遺伝子操作されてもよい。宿主細胞は、ウイルス複製起点を含有する発現ベクターを使用せずに、適切な発現制御要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)によって制御されるDNA、および選択可能なマーカーで形質転換され得る。遺伝子操作細胞は、外来性DNAの導入に続いて富化培地中で1~2日間増殖させ、次に、選択培地に切り替えてもよい。組換えプラスミド中の選択可能なマーカーは、選択に対する耐性を与え、細胞がそれらの染色体中にプラスミドを安定して組み込み、増殖して病巣形成できるようにして、次にそれは細胞株にクローン化され増殖され得る。この方法は、有利には、抗体分子を発現する細胞株を操作するのに使用されてもよい。このような操作細胞株は、抗体分子と直接または間接的に相互作用する組成物をスクリーニングして評価するのに、特に有用であってもよい。
【0150】
単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.,Cell,11:223,1977)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska&Szybalski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,48:202,1992)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.,Cell,22:8-17,1980)をはじめとするが、これに限定されるものではない、いくつかの選択系統が使用されてもよく、遺伝子は、それぞれ、tk、hgprtまたはaprt細胞中で用いられ得る。また代謝拮抗剤耐性も、以下の遺伝子の選択基準として使用され得る。メトトレキサートに対する耐性を与えるdhfr(Wigler et al.,Natl.Acad.Sci.USA,77:357,1980およびO’Hare et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:1527,1981);ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt(Mulligan&Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:2072,1981);アミノグリコシドG-418に対する耐性を与えるneo(Wu and Wu,Biotherapy,3:87-95,1991;Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.,32:573-596,1993;Mulligan,Science,260:926-932,1993;およびMorgan and Anderson,Ann.Rev.Biochem.,62:191-217,1993;およびMay,TIB TECH,11(5):l55-2 15,1993);およびハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygro(Santerre et al.,Gene,30:147,1984)。組換えDNAの当該技術分野で一般に公知の方法を慣例的に適用して、所望の組換え体クローンが選択されてもよく、このような方法は、例えば、それらの内容全体が参照により本明細書に援用される、Ausubel et al.(eds.),1993,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY;Kriegler,1990,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY;in Chapters 12 and 13,Dracopoli et al.(eds),1994,Current Protocols in Human Genetics,John Wiley&Sons,NY;およびColberre-Garapin et al.,J.Mol.Biol.,150:1,1981に記載される。
【0151】
抗体分子の発現レベルは、ベクター増幅によって増大され得る(レビューについては、Bebbington and Hentschel,1987,The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells in DNA cloning,Vol.3.Academic Press,New Yorkを参照されたい)。抗体を発現するベクター系において、マーカーが増幅可能な場合、宿主細胞培養物中に存在する阻害物質のレベルの増大は、マーカー遺伝子のコピー数を増大させる。増幅領域は抗体遺伝子に関連するため、抗体の産生もまた増大する(Crouse et al.,Mol.,Cell.Biol.,3:257,1983)。
【0152】
宿主細胞は、重鎖由来ポリペプチドをコードする第1のベクターと、軽鎖由来ポリペプチドをコードする第2のベクターとの本発明の2つの発現ベクターと共に、同時形質移入されてもよい。2つのベクターは、重鎖および軽鎖ポリペプチドの同等発現を可能にする同一の選択可能なマーカーを含有し、または両方のプラスミドの維持を確実にする異なる選択可能なマーカーを含有してもよい。代案として、重鎖および軽鎖ポリペプチドの両方をコードし、ひいてはそれらを発現する能力がある単一ベクターが使用されてもよい。このような状況では、過剰な毒性遊離重鎖を回避するために、軽鎖が重鎖の前に配置されるべきである(Proudfoot,Nature,322:52,1986;およびKohler,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:2197,1980)。重鎖および軽鎖のコード配列は、cDNAまたはゲノムDNAを含んでなってもよい。
【0153】
本発明の抗体分子が組換え発現によって生成されると、それは、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティ、特に、プロテインA精製後の特異的抗原に対するアフィニティ、およびサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差溶解度などの、免疫グロブリン分子精製の技術分野で公知の任意の方法によって、または任意のその他のタンパク質精製標準技術によって精製されてもよい。さらに、本発明の抗体またはそれらの断片は、本明細書に記載される、またはさもなければ当該技術分野で公知である、精製を容易にする異種ポリペプチド配列に融合されてもよい。
【0154】
抗体コンジュゲート
本発明は、異種ポリペプチド(すなわち、無関係のポリペプチド;またはその一部、例えば少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90または少なくとも100個のアミノ酸のポリペプチド)と組換え的に融合し、またはそれに化学的に結合して(共有結合および非共有結合の両方を含む)、融合タンパク質を生じる抗体を包含する。融合は、直接的である必要はなく、リンカー配列を介して生じてもよい。異種ポリペプチドに融合またはコンジュゲートされた抗体はまた、当該技術分野で公知の方法を使用して、生体外免疫測定法および精製法で使用されてもよい。例えば、それらの内容全体が参照により本明細書に援用される、国際公開第93/21232号パンフレット;欧州特許第439,095号明細書;Naramura et al.,Immunol.Lett.,39:91-99,1994;U.S.Patent 5,474,981;Gillies et al.,PNAS,89:1428-1432,1992;およびFell et al.,J.Immunol.,146:2446-2452,1991を参照されたい。
【0155】
抗体は、ペプチドなどのマーカー配列に融合されて、精製が容易にされ得る。いくつかの実施形態では、マーカーアミノ酸配列は、特に、pQEベクター(QIAGEN,Inc.,9259 Eton Avenue,Chatsworth,CA,91311)中で提供されるタグなどのヘキサヒスチジンペプチドであり、それらの多くは市販される。例えば、Gentz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:821-824,1989に記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の好都合な精製を提供する。精製に有用なその他のペプチドタグとしては、インフルエンザ赤血球凝集素タンパク質に由来するエピトープ対応する赤血球凝集素「HA」タグ(Wilson et al.,Cell,37:767 1984)、および「flag」タグ(Knappik et al.,Biotechniques,17(4):754-761,1994)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0156】
本発明はまた、それに対して生体内半減期の増大が所望される、診断薬または治療薬または任意のその他の分子にコンジュゲートされた抗体も包含する。抗体は、例えば、所与の治療計画の判効を能定するための臨床試験手順の一部として、疾患、障害または感染症の発症または進行をモニターするために、診断的に使用され得る。検出は、抗体を検出可能物質と結合させることで促進され得る。検出可能物質の例としては、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、ルミネセンス物質、生物発光物質、放射性物質、陽電子放出金属、および非放射性常磁性金属イオンが挙げられる。検出可能物質は、当該技術分野で公知の技術を使用して、抗体に直接、または(例えば、当該技術分野で公知のリンカーなどの)中間部を介して間接的にのいずれかで、結合またはコンジュゲートされてもよい。本発明に従って、診断薬として使用するための抗体にコンジュゲートされ得る金属イオンについては、例えば、米国特許第4,741,900号明細書を参照されたい。適切な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;適切な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられ;適切な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリトリンが挙げられ;発光材料の一例としては、ルミノールが挙げられ;生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンが挙げられ;および適切な放射性物質の例としては、125I、131I、111Inまたは99mTcが挙げられる。
【0157】
抗体は、細胞毒(例えば、細胞分裂阻害または細胞破壊剤)、治療薬または放射性元素(例えば、α放射体、γ放射体など)などの治療成分にコンジュゲートされてもよい。細胞毒または細胞毒性薬としては、細胞に有害な任意の薬剤が挙げられる。例としては、パクリタキソル(paclitaxol)、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシンおよびそれらの類似体または相同体が挙げられる。治療薬としては、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン(decarbazine))、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパ(thioepa)クロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロソスファミド(cyclothosphamide)、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシスジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前のダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前のアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、および有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0158】
さらに、抗体は、所与の生物学的反応を改変する、治療薬または薬物成分にコンジュゲートされてもよい。治療薬または薬物成分は、古典的化学治療薬に限定されると解釈されるべきでない。例えば、薬物成分は、所望の生物学的活性を保持するタンパク質またはポリペプチドであってもよい。このようなタンパク質としては、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス属(pseudomonas)菌体外毒素、またはジフテリア毒素などの毒素;腫瘍壊死因子、α-インターフェロン(IFN-α)、β-インターフェロン(IFN-β)、神経成長因子(NGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、アポトーシス剤(例えば、国際公開第97/33899号パンフレットで開示されるような、TNF-α、TNF-β、AIMI)、AIMII(国際公開第97/34911号パンフレットを参照されたい)、Fasリガンド(Takahashi et al.,J.Immunol.,6:1567-1574,1994)、およびVEGI(国際公開第99/23105号パンフレット)、血栓性薬剤または血管新生阻害剤(例えば、アンギオスタチンまたはエンドスタチン)などのタンパク質;または例えば、リンフォカイン(例えば、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、および顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」))、または増殖因子(例えば、成長ホルモン(「GH」))などの生物反応修飾物質が挙げられる。
【0159】
このような治療薬部分を抗体にコンジュゲートさせる技術は、良く知られており;例えば、Arnon et al.,“Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy”,in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeld et al.(eds.),1985,pp.243-56,Alan R.Liss,Inc.);Hellstrom et al.,“Antibodies For Drug Delivery”,in Controlled Drug Delivery(2nd Ed.),Robinson et al.(eds.),1987,pp.623-53,Marcel Dekker,Inc.);Thorpe,“Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review”,in Monoclonal Antibodies ’84:Biological And Clinical Applications,Pinchera et al.(eds.),1985,pp.475-506);“Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy”,in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy,Baldwin et al.(eds.),1985,pp.303-16,Academic Press;およびThorpe et al.,Immunol.Recombinant expression vector.,62:119-58,1982を参照されたい。
【0160】
それにコンジュゲートされた治療成分の存在下または不在下において、単独で、または細胞毒性要素および/またはサイトカインとの組み合わせで投与される抗体またはその断片は、治療薬として使用され得る。
【0161】
代案として、その内容全体が参照により本明細書に援用される、Segalに付与された米国特許第4,676,980号明細書に記載されるように、抗体が第2の抗体にコンジュゲートされて、ヘテロコンジュゲート抗体が形成され得る。
【0162】
抗体はまた、固体支持体に付着されてもよく、これは、特に、標的抗原の免疫測定法または精製に有用である。このような固体支持体としては、ガラス、セルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルまたはポリプロピレンが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0163】
融合タンパク質を生成する方法
融合タンパク質は、標準組換えDNA技術によって、または例えば、ペプチド合成装置の使用などのタンパク質合成技術によって生成され得る。例えば、融合タンパク質をコードする核酸分子は、自動DNA合成機をはじめとする従来の技術によって合成され得る。代案として、遺伝子断片のPCR増幅は、アンカープライマーを使用して実施され得、それは2つの連続的遺伝子断片の間に相補的オーバーハングを生じ、引き続いてそれはアニールされ再増幅されて、キメラ遺伝子配列が生じる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,eds.,John Wiley&Sons,1992を参照されたい)。さらに、生理活性分子をコードする核酸は、生理活性分子がインフレームで定常領域またはその断片に連結するように、Fc領域またはその断片を含有する発現ベクターにクローン化され得る。
【0164】
ポリペプチドを抗体定常領域に融合またはコンジュゲートさせる方法は、当該技術分野で公知である。例えば、それらの内容全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第5,336,603号明細書、米国特許第5,622,929号明細書、米国特許第5,359,046号明細書、米国特許第5,349,053号明細書、米国特許第5,447,851号明細書、米国特許第5,723,125号明細書、米国特許第5,783,181号明細書、米国特許第5,908,626号明細書、米国特許第5,844,095、および米国特許第5,112,946号明細書;欧州特許第307,434号明細書;欧州特許第367,166号明細書;欧州特許第394,827号明細書;国際公開第91/06570号パンフレット、国際公開第96/04388号パンフレット、国際公開第96/22024号パンフレット、国際公開第97/34631号パンフレット、および国際公開第99/04813号パンフレット;Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:10535-10539,1991;Traunecker et al.,Nature,331:84-86,1988;Zheng et al.,J.Immunol.,154:5590-5600,1995;およびVil et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:11337-11341,1992を参照されたい。
【0165】
生理活性分子をコードするヌクレオチド配列は、当業者が利用可能な任意の情報から得られてもよく(すなわち、Genbankや文献から、または通例のクローニングによって)、FcRnへの親和性の増大がある定常領域またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、本明細書に記載される技術を使用して生じ変異の配列解析によって判定されてもよく、またはGenbankまたは文献から得られてもよい。融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、適切な発現ベクター、すなわち、挿入されたタンパク質コード配列の転写および翻訳に必要な要素を含有するベクターに挿入され得る。本発明では、多様な宿主-ベクター系を使用して、タンパク質コード配列が発現されてもよい。これらとしては、ウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)で感染された哺乳類細胞系;ウイルス(例えば、バキュロウイルス)で感染された昆虫細胞系;酵母ベクターを含有する酵母などの微生物;またはバクテリオファージ、DNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNAで形質転換された細菌が挙げられるが、これに限定されるものではない。ベクターの発現要素は、それらの強度および特異性が様々である。使用される宿主-ベクター系次第で、いくつかの適切な転写および翻訳要素のいずれか1つが使用されてもよい。
【0166】
融合タンパク質の発現は、当該技術分野で公知の任意のプロモーターまたはエンハンサー要素によって制御されてもよい。融合タンパク質をコードする遺伝子の発現制御で使用されてもよいプロモーターとしては、SV40初期プロモーター領域(Bernoist and Chambon,Nature,290:304-310,1981)、ラウス肉腫ウイルス3’長末端反復に含有されるプロモーター(Yamamoto,et al.,Cell,22:787-797,1980)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,78:1441-1445,1981)、メタロチオネイン遺伝子の制御配列(Brinster et al.,Nature,296:39-42,1982)、テトラサイクリン(Tet)プロモーター(Gossen et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,89:5547-5551,1995);β-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物発現ベクター(Villa-Kamaroff,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,75:3727-3731,1978)、またはtacプロモーター(DeBoer,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:21-25,1983、“Useful proteins from recombinant bacteria”in Scientific American,242:74-94,1980もまた参照されたい);ノパリンシンセターゼプロモーター領域を含んでなる植物発現ベクター(Herrera-Estrella et al.,Nature,303:209-213,1983)、またはカリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーター(Gardner,et al.,Nucl.Acids Res.,9:2871,1981)、および光合成酵素リブロース二リン酸(ribulose biphosphate)カルボキシラーゼのプロモーター(Herrera-Estrella et al.,Nature,310:115-120,1984);Gal4プロモーター、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーターなどの酵母またはその他の真菌からのプロモーター要素、および組織特異性を示して遺伝子組換え動物で利用されている、以下の動物転写制御領域:膵臓腺房細胞内で活性である、エラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,Cell 38:639-646,1984;Ornitz et al.,50:399-409,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.,1986;MacDonald,Hepatology 7:425-515,1987);膵臓β細胞内で活性である、インスリン遺伝子制御領域(Hanahan、Nature315:115-122,1985)、リンパ系細胞内で活性である、免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,Cell,38:647-658,1984;Adames et al.,Nature 318:533-538,1985;Alexander et al.,Mol.Cell.Biol.,7:1436-1444,1987)、精巣、乳房、リンパ系、および肥満細胞内で活性である、マウス乳腺腫瘍ウイルス制御領域(Leder et al.,Cell,45:485-495,1986)、肝臓内で活性である、アルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,Genes and Devel.,1:268-276,1987)、肝臓内で活性であるα-フェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,Mol.Cell.Biol.,5:1639-1648,1985;Hammer et al.,Science,235:53-58,1987;肝臓内で活性であるα1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,Genes and Devel.,1:161-171,1987)、骨髄性細胞内で活性である、β-グロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,Nature,315:338-340,1985;Kollias et al.,Cell,46:89-94,1986;脳内乏突起膠細胞内で活性である、ミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al.,Cell,48:703-712,1987);骨格筋内で活性である、ミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域(Sani,Nature,314:283-286,1985);神経細胞内で活性である、神経細胞特異的エノラーゼ(NSE)(Morelli et al.,Gen.Virol.,80:571-83,1999);神経細胞内で活性である、脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子制御領域(Tabuchi et al.,Biochem.Biophysic.Res.Comprising.,253:818-823,1998);星状細胞内で活性である、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター(Gomes et al.,Braz.J.Med.Biol.Res.,32(5):619-631,1999;Morelli et al.,Gen.Virol.,80:571-83,1999)、および視床下部内で活性である、性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,Science,234:1372-1378,1986)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0167】
特定の実施形態では、融合タンパク質の発現は構成的プロモーターによって調節される。別の実施形態では、融合タンパク質の発現は誘導性プロモーターによって調節される。これらの実施形態に従って、プロモーターは組織特異的プロモーターであってもよい。
【0168】
特定の実施形態では、融合タンパク質をコードする核酸と作動可能に連結するプロモーターと、1つまたは複数の複製起点と、任意選択的に、1つまたは複数の選択可能なマーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子)とを含んでなるベクターが使用される。
【0169】
哺乳類宿主細胞では、いくつかのウイルスベースの発現系が使用されてもよい。アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合、融合タンパク質コード配列は、例えば、後期プロモーターおよび三区分リーダー配列などのアデノウイルス転写/翻訳制御複合体にライゲートされてもよい。次にこのキメラ遺伝子は、生体外または生体内組換えアデノウイルスゲノムに挿入されてもよい。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1またはE3)への挿入は、感染宿主中で生存能力があり、抗体分子を発現する能力がある、組換えウイルスをもたらす(例えば、Logan&Shenk,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:355-359,1984を参照されたい)。特定の開始シグナルもまた、挿入された融合タンパク質コード配列の効率的な翻訳に必要であってもよい。これらのシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が挙げられる。さらに、挿入物全体の翻訳を確実にするために、開始コドンは、所望のコード配列の読み枠と同調していなければならない。これらの外来性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の多様な起源であり得る。発現の効率は、適切な転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなどの包含によって増大されてもよい(Bitter et al.,Methods in Enzymol.,153:516-544,1987を参照されたい)。
【0170】
融合タンパク質をコードする遺伝子の挿入を含有する発現ベクターは、3つの基本アプローチによって同定され得る:(a)核酸ハイブリダイゼーション、(b)「マーカー」遺伝子機能の存在または不在、および(c)挿入された配列の発現。第1のアプローチでは、発現ベクター中の融合タンパク質をコードする遺伝子の存在は、挿入された融合タンパク質コード遺伝子と相同的な配列を含んでなるプローブを使用した、核酸ハイブリダイゼーションによって検出され得る。第2のアプローチでは、組換えベクター/宿主システムは、融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列のベクターへの挿入によって引き起こされる、特定の「マーカー」遺伝子機能(例えば、チミジンキナーゼ活性、抗生物質耐性、形質転換表現型、バキュロウイルス中の包埋体形成など)の存在または不在に基づいて同定および選択され得る。例えば、融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列がベクターのマーカー遺伝子配列に挿入される場合、融合タンパク質挿入物をコードする遺伝子を含有する組換え体は、マーカー遺伝子機能の不在によって同定され得る。第3のアプローチでは、組換え発現ベクターは、組換え体によって発現される遺伝子産物(すなわち、融合タンパク質)をアッセイすることで同定され得る。このようなアッセイは、例えば、生体外アッセイシステムにおける、抗生理活性分子抗体との結合などの融合タンパク質の物理的または機能的性質に基づき得る。
【0171】
さらに、所望の特定の方法で、挿入配列の発現を調節し、または遺伝子産物を修飾してプロセッシングする宿主細胞株が選択されてもよい。特定のプロモーターからの発現は、特定の誘導物質の存在下で増大され得、したがって、遺伝子操作された融合タンパク質の発現が制御されてもよい。さらに、異なる宿主細胞は、特徴的かつ特異的な翻訳および翻訳後プロセシングおよび修飾の機序を有する(例えば、タンパク質のグリコシル化、リン酸化)。適切な細胞株または宿主システムは、発現される外来性タンパク質の所望の修飾およびプロセッシングを確実にするように選択され得る。例えば、細菌系中の発現は非グリコシル化産物を生して、酵母中発現はグリコシル化産物を生じる。一次転写産物の適切なプロセッシング、遺伝子産物のグリコシル化およびリン酸化のための細胞機構を有する真核宿主細胞が使用されてもよい。このような哺乳類宿主細胞としては、CHO、VERY、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、3T3、WI38、ならびに特に、例えば、SK-N-AS、SK-N-FI、SK-N-DZヒト神経芽細胞腫などの神経細胞系(Sugimoto et al.,J.Natl.Cancer Inst.,73:51-57,1984)、SK-N-SHヒト神経芽細胞腫(Biochim.Biophys.Acta,704:450-460,1982)、Daoyヒト小脳髄芽細胞腫(He et al.,Cancer Res.,52:1144-1148,1992)DBTRG-05MG神経膠芽腫細胞(Kruse et al.,1992,In Vitro Cell.Dev.Biol.,28A:609-614,1992)、IMR-32ヒト神経芽細胞腫(Cancer Res.,30:2110-2118,1970)、1321N1ヒト星細胞腫(Proc.Natl Acad.Sci.USA,74:4816,1997)、MOG-G-CCMヒト星細胞腫(Br.J.Cancer,49:269,1984)、U87MGヒト神経膠芽腫星細胞腫(Acta Pathol.Microbiol.Scand.,74:465-486,1968)、A172ヒト神経膠芽腫(Olopade et al.,Cancer Res.,52:2523-2529,1992)、C6ラット神経膠腫細胞(Benda et al.,Science,161:370-371,1968)、Neuro-2aマウス神経芽細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,65:129-136,1970)、NB41A3マウス神経芽細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,48:1184-1190,1962)、SCPヒツジ脈絡叢(Bolin et al.,J.Virol.Methods,48:211-221,1994)、G355-5、PG-4Cat正常星状細胞(Haapala et al.,J.Virol.,53:827-833,1985)、Mpfフェレット脳(Trowbridge et al.,In Vitro,18:952-960,1982)、および例えば、CRL7030およびHs578Bstなどの、例えば、CTX TNA2ラット正常皮質脳などの、正常細胞系(Radany et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:6467-6471,1992)が挙げられるが、これに限定されるものではない。さらに、異なるベクター/宿主発現系は、プロセッシング反応に異なる程度に影響を与えてもよい。
【0172】
組換えタンパク質の長期にわたる高収率の生成のためには、安定発現が好ましい。例えば、融合タンパク質を安定して発現する細胞株が遺伝子操作されてもよい。宿主細胞は、ウイルス複製起点を含有する発現ベクターを使用せずに、適切な発現制御要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)によって制御されるDNA、および選択可能なマーカーで形質転換され得る。遺伝子操作細胞は、外来性DNAの導入に続いて富化培地中で1~2日間増殖させ、次に、選択培地に切り替えてもよい。組換えプラスミド中の選択可能なマーカーは、選択に対する耐性を与え、細胞がそれらの染色体中にプラスミドを安定して組み込み、増殖して病巣形成できるようにして、次にそれは細胞株にクローン化され増殖され得る。この方法は、有利には、示差的に発現されるまたは経路遺伝子タンパク質を発現する細胞株を操作するために使用されてもよい。このような遺伝子操作細胞株は、示差的に発現されるまたは経路遺伝子タンパク質の内在性活性に影響を及ぼす化合物をスクリーニングおよび評価するのに特に有用であってもよい。
【0173】
単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler,et al.,Cell,11:223,1997)、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska&Szybalski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,48:2026,1962)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy,et al.,1980,Cell,22:817,1980)をはじめとするが、これに限定されるものではない、いくつかの選択系統が使用されてもよく、遺伝子は、それぞれtk-、hgprt-またはaprt-細胞で用いられ得る。また代謝拮抗剤耐性は、メトトレキサートに対する耐性を与えるdhfr(Wigler,et al.,Natl.Acad.Sci.USA,77:3567,1980;O’Hare,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:1527,1981);ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt(Mulligan&Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:2072,1981);アミノグリコシドG-418に対する耐性を与えるneo(Colberre-Garapin,et al.,J.Mol.Biol.,150:1,1981);およびハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygro(Santerre,et al.,Gene,30:147,1984)遺伝子を選択するための基礎として使用し得る。
【0174】
本発明の融合タンパク質が組換え発現によって生成されると、それは、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティ、特に、プロテインA後の特異的抗原に対するアフィニティ、およびサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差溶解度などの、タンパク質精製の技術分野で公知の任意の方法によって、または任意のその他のタンパク質精製標準技術によって精製されてもよい。
【0175】
抗体の予防的および治療的使用
本発明は、疾患、障害、または感染症に伴う症状を予防、治療、または改善するために、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない、哺乳類などの動物に抗体を投与することを伴う、抗体ベースの治療法を包含する。本発明の予防的および治療的化合物としては、抗体および抗体をコードする核酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。抗体は、当該技術分野で公知のまたは本明細書に記載されるような、薬学的に許容可能な組成物中で提供されてもよい。
【0176】
疾患、障害、または感染症の拮抗薬として機能する本発明の抗体は、疾患、障害、または感染症に伴う1つまたは複数の症状を治療、予防または改善するために、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない哺乳類などの動物に投与され得る。例えば、ウイルス抗原とその宿主細胞受容体との間の相互作用を中断または阻止する抗体は、ウイルス感染症に伴う1つまたは複数の症状を治療、予防または改善するために、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない哺乳類などの動物に投与されてもよい。
【0177】
ウイルスまたは細菌抗原とその宿主細胞受容体との結合を阻止しないが、ウイルスまたは細菌の複製を阻害または下方制御する抗体もまた、ウイルスまたは細菌感染症に伴う1つまたは複数の症状を治療、予防または改善するために、動物に投与され得る。抗体が、ウイルスまたは細菌複製阻害または下方制御する能力は、本明細書に記載される、またはさもなければ当該技術分野で公知の技術によって判定されてもよい。例えば、ウイルス複製の阻害または下方制御は、動物中のウイルス力価を検出することで判定され得る。
【0178】
抗体はまた、がん性細胞の増殖または転移を予防し、阻害しまたは低下させるのに使用され得る。がんの例としては、白血病(例えば、急性リンパ球性白血病および急性骨髄性白血病などの急性白血病)、新生物、腫瘍(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、大腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原性肺がん、腎細胞がん、肝細胞腫、胆管がん、絨毛がん、セミノーマ、胎生期がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣の腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮性がん、神経膠腫、星細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、音響神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、メラノーマ、神経芽細胞腫、および網膜芽細胞腫)、重鎖病、転移、または無制御な細胞成長によって特徴付けられるあらゆる疾患または障害が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0179】
抗体はまた、炎症性疾患がある動物、特に哺乳類が経験している炎症を低下させるのに使用され得る。炎症性疾患の例としては、関節リウマチ、脊椎関節症、炎症性腸疾患、および喘息が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0180】
抗体はまた、移植片拒絶反応を予防するのに使用され得る。抗体はまた、血餅形成を予防するのに使用され得る。さらに、免疫応答の作動薬として機能する抗体はまた、疾患、障害、または感染症に伴う1つまたは複数の症状を治療、予防または改善するために、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない、哺乳類などの動物に投与され得る。
【0181】
1つまたは複数の抗原と免疫特異的に結合する1つまたは複数の抗体は、治療薬として、局所または全身性に使用されてもよい。本発明の抗体はまた、有利には、その他のモノクローナルまたはキメラ抗体との、またはリンフォカインまたは造血成長因子(例えば、IL-2、IL-3およびIL-7などの)との組み合わせで使用されてもよく、それは、例えば、抗体と相互作用するエフェクター細胞の数または活性の増大に役立つ。本発明の抗体はまた、有利には、その他のモノクローナルまたはキメラ抗体との、またはリンフォカインまたは造血成長因子(例えば、IL-2、IL-3、およびIL-7などの)との組み合わせで使用されてもよく、それは、例えば、免疫応答の増大に役立つ。本発明の抗体はまた、有利には、例えば抗がん剤、抗炎症剤または抗ウイルス剤などの疾患、障害、または感染症を治療するのに使用される、1つまたは複数の薬物との組み合わせで使用されてもよい。抗がん剤の例としては、イスプラチン(isplatin)、イホスファミド、パクリタキセル、タキサン、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、CPT-11、トポテカン、9-AC、およびGG-211)、ゲムシタビン、ビノレルビン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン、ビノレルビン、テモダール、およびタキソールが挙げられるが、これに限定されるものではない。抗ウイルス因子の例としては、サイトカイン(例えば、IFN-α、IFN-β、IFN-γ)、逆転写酵素阻害剤(例えば、AZT、3TC、D4T、ddC、ddI、d4T、3TC、アデフォビル、エファビレンツ、デラビルジン、ネビラピン、アバカビル、およびその他のジデオキシヌクレオシドまたはジデオキシフルオロヌクレオシド)、リバビリンなどのウイルスmRNAキャッピング阻害剤、HIVプロテアーゼ阻害剤などのプロテアーゼ阻害剤(例えば、アンプレナビル、インジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、およびサキナビル)、アンホテリシンB、糖タンパク質プロセッシング阻害剤としてのカスタノスペルミン、インフルエンザウイルスノイラミニダーゼ阻害剤などのノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、ザナミビルおよびオセルタミビル)、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシンおよびそのアナログ)、アマンタジン、およびリマンタジンが挙げられるが、これに限定されるものではない。抗炎症剤の例としては、COX-2阻害剤などの非ステロイド系抗炎症薬(例えば、メロキシカム、セレコキシブ、ロフェコキシブ、フロスリド、およびSC-58635、およびMK-966)、イブプロフェンおよびインドメタシン、およびステロイド(例えば、デフラザコート、デキサメタゾンおよびメチルプレドニゾロン)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0182】
特定の実施形態では、動物に投与される抗体は、動物の生物種と同一の生物種起源または生物種反応性である。したがって、一実施形態では、ヒトまたはヒト化抗体、またはヒトまたはヒトをコードする核酸が、治療法または予防法のためにヒト患者に投与される。
【0183】
いくつかの実施形態では、生体内半減期の半減期増大を有する免疫グロブリンが、受動免疫療法で使用される(治療法または予防法のいずれかのために)。半減期増大の理由から、受動的免疫療法または予防法は、治療薬のより低用量および/またはより低頻度の投与を使用して達成され得、より少ない副作用、より良い患者の服薬遵守、より安価な治療法/予防法などがもたらされる。
【0184】
特定の実施形態では、動物に投与される融合タンパク質は、動物の生物種と同一の生物種起源または生物種反応性である。したがって、一実施形態では、ヒト融合タンパク質またはヒト融合タンパク質をコードする核酸が、治療法または予防法のためにヒト対象に投与される。
【0185】
融合タンパク質およびコンジュゲート分子の予防的および治療的使用
本発明は、疾患、障害、または感染症に伴う症状を予防、治療、または改善するために、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない、哺乳類などの動物に、融合タンパク質またはコンジュゲート分子を投与することを伴う、融合タンパク質に基づくおよびコンジュゲート分子に基づく治療法を包含する。本発明の予防的および治療的化合物としては、融合タンパク質および融合タンパク質をコードする核酸、およびコンジュゲート分子が挙げられるが、これに限定されるものではない。融合タンパク質およびコンジュゲート分子は、当該技術分野で公知のまたは本明細書に記載されるような、薬学的に許容可能な組成物中で提供されてもよい。
【0186】
疾患、障害、または感染症の拮抗薬として機能する本発明の融合タンパク質およびコンジュゲート分子は、疾患、障害、または感染症に伴う1つまたは複数の症状を治療、予防または改善するために、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない哺乳類などの動物に投与され得る。さらに、免疫応答および作動薬として機能する本発明の融合タンパク質およびコンジュゲート分子は、疾患、障害、または感染症に伴う1つまたは複数の症状を治療、予防または改善するために、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない哺乳類などの動物に投与されてもよい。
【0187】
1つまたは複数の融合タンパク質およびコンジュゲート分子は、治療薬として局所または全身性に使用されてもよい。本発明の融合タンパク質およびコンジュゲート分子はまた、有利には、モノクローナルまたはキメラ抗体との、またはリンフォカインまたは造血成長因子(例えば、IL-2、IL-3およびIL-7などの)との組み合わせで使用されてもよく、それは、例えば、抗体と相互作用するエフェクター細胞の数または活性の増大に役立つ。本発明の融合タンパク質およびコンジュゲートされた分子はまた、有利には、モノクローナルまたはキメラ抗体との、またはリンフォカインまたは造血成長因子(例えば、IL-2、IL-3、およびIL-7などの)との組み合わせで使用されてもよく、それは、例えば、免疫応答の増大に役立つ。本発明の融合タンパク質およびコンジュゲート分子はまた、有利には、例えば抗がん剤、抗炎症剤または抗ウイルス剤などの疾患、障害、または感染症を治療するのに使用される、1つまたは複数の薬物との組み合わせで使用されてもよい。抗がん剤の例としては、イスプラチン(isplatin)、イホスファミド、パクリタキセル、タキサン、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、CPT-11、トポテカン、9-AC、およびGG-211)、ゲムシタビン、ビノレルビン、オキサリプラチン、5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン、ビノレルビン、テモダール、およびタキソールが挙げられるが、これに限定されるものではない。抗ウイルス因子の例としては、サイトカイン(例えば、IFN-α、IFN-β、IFN-γ)、逆転写酵素阻害剤(例えば、AZT、3TC、D4T、ddC、ddI、d4T、3TC、アデフォビル、エファビレンツ、デラビルジン、ネビラピン、アバカビル、およびその他のジデオキシヌクレオシドまたはジデオキシフルオロヌクレオシド)、リバビリンなどのウイルスmRNAキャッピング阻害剤、HIVプロテアーゼ阻害剤などのプロテアーゼ阻害剤(例えば、アンプレナビル、インジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、およびサキナビル)、アンホテリシンB、糖タンパク質プロセッシング阻害剤としてのカスタノスペルミン、インフルエンザウイルスノイラミニダーゼ阻害剤などのノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、ザナミビルおよびオセルタミビル)、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシンおよびそのアナログ)、アマンタジン、およびリマンタジンが挙げられるが、これに限定されるものではない。抗炎症剤の例としては、COX-2阻害剤などの非ステロイド系抗炎症薬(例えば、メロキシカム、セレコキシブ、ロフェコキシブ、フロスリド、およびSC-58635、およびMK-966)、イブプロフェンおよびインドメタシン、およびステロイド(例えば、デフラザコート、デキサメタゾンおよびメチルプレドニゾロン)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0188】
抗体または融合タンパク質の投与
本発明は、本発明の抗体または本発明の抗体を含んでなる医薬組成物の有効量を対象に投与することで、疾患、障害または感染に伴う、1つまたは複数の症状の治療、予防、および改善する方法を提供する。本発明は、本発明の融合タンパク質またはコンジュゲート分子、または本発明の融合タンパク質またはコンジュゲート分子を含んでなる医薬組成物の有効量を対象に投与することで、疾患、障害または感染に伴う1つまたは複数の症状の治療、予防、および改善する方法もまた提供する。一態様では、抗体または融合タンパク質またはコンジュゲート分子は、実質的に精製される(すなわち、その効果を制限しまたは望まれない副作用を生じさせる物質を実質的に含まない)。特定の実施形態では、対象は動物であり、例えば、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)などの哺乳類および霊長類(例えば、カニクイザルなどのサルおよびヒト)である。一実施形態では、対象はヒトである。
【0189】
例えば、リポソーム内カプセル化、微粒子、マイクロカプセル、抗体または融合タンパク質を発現する能力がある組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu,J.Biol.Chem.,262:4429-4432,1987を参照されたい)、レトロウイルスまたはその他のベクターの一部としての核酸構築などの様々な送達系が知られており、抗体または融合タンパク質またはコンジュゲートされた本発明の分子を投与するのに利用され得る。抗体、融合タンパク質またはコンジュゲート分子、または医薬組成物を投与する方法としては、非経口投与(例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、および皮下)、硬膜外、および粘膜(例えば、鼻腔内および経口経路)が挙げられるが、これに限定されるものではない。特定の実施形態では、抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または医薬組成物は、筋肉内、静脈内、または皮下投与される。組成物は、例えば、輸液またはボーラス注射、上皮または皮膚粘膜(例え、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収などの任意の好都合な経路によって投与されてもよく、その他の生物学的活性剤に加えて投与されてもよい。投与は、全身のまたは局所性であり得る。さらに、例えば、吸入器またはネブライザーおよびエアロゾル化剤含有製剤の使用などによる、肺投与もまた用いられ得る。例えば、それぞれその内容全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第6,019,968号明細書;米国特許第5,985、320号明細書;米国特許第5,985,309号明細書;米国特許第5,934,272号明細書;米国特許第;5,874,064号明細書;米国特許第5,855,913号明細書;米国特許第5,290,540号明細書;および米国特許第4,880,078号明細書;および国際公開第92/19244号パンフレット;国際公開第97/32572号パンフレット;国際公開第97/44013号パンフレット;国際公開第98/31346号パンフレット;および国際公開第99/66903号パンフレットを参照されたい。一実施形態では、抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または医薬組成物は、Alkermes AIR(商標)肺薬物送達技術(Alkermes,Inc.,Cambridge,MA)を使用して投与される。
【0190】
本発明は、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子の量を表示するアンプルまたは小袋などの密閉容器にパッケージされた、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子もまた提供する。一実施形態では、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子は、密閉容器内の乾燥滅菌された凍結乾燥粉末または無水濃縮物として提供されて、例えば、水または生理食塩水で、対象への投与に適した濃度に再構成され得る。一実施形態では、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子は、少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも15mg、少なくとも25mg、少なくとも35mg、少なくとも45mg、少なくとも50mg、または少なくとも75mgの単位用量で、密閉容器内の乾燥滅菌凍結乾燥粉末として提供される。凍結乾燥抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子は、そのオリジナル容器内で2および8℃で保存されるべきであり、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子は、再構成後12時間以内、6時間以内、5時間以内、3時間または1時間以内に投与されるべきである。代替実施形態では、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子は、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子の量および濃度を表示する密閉容器中の液体形態で提供される。一実施形態では、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子の液体形態は、少なくとも1mg/ml、少なくとも2.5mg/ml、少なくとも5mg/ml、少なくとも8mg/ml、少なくとも10mg/ml、少なくとも15mg/kg、または少なくとも25mg/mlで密閉容器内に提供される。
【0191】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物を治療を必要とする領域に局所的に投与することが望ましくあってもよく;これは、例えば、限定としてではなく、注射による局所注入によって、または移植片の手段によって達成されてもよく、前記移植片は、シラスティック膜、または繊維などのメンブレンをはじめとする、多孔性、非多孔性、またはゼラチン様物質である。任意選択的に、抗体または融合タンパク質を投与する際に、抗体または融合タンパク質を吸収しない材料を使用するように注意が払われる。
【0192】
組成物は、任意選択的に、小胞、特にリポソーム中で送達され得る(Langer,Science,249:1527-1533,1990;Treat et al.,in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez-Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353-365(1989);Lopez-Berestein,ibid.,pp.3 17-327を参照されたい;一般に同文献を参照されたい)。
【0193】
組成物は、任意選択的に、制御放出または持続性の放出系内で送達され得る。当業者に公知の任意の技術を使用して、1つまたは複数の抗体、または1つまたは複数の融合タンパク質を含んでなる徐放性製剤が製造され得る。例えば、それぞれその内容全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第4,526,938号明細書;国際公開第91/05548号パンフレット;国際公開第96/20698号パンフレット;Ning et al.,“Intratumoral Radioimmunotheraphy of a Human Colon Cancer Xenograft Using a Sustained-Release Gel,”Radiotherapy&Oncology,39:179-189,1996;Song et al.,“Antibody Mediated Lung Targeting of Long-Circulating Emulsions,”PDA Journal of Pharmaceutical Science&Technology,50:372-397,1995;Cleek et al.,“Biodegradable Polymeric Carriers for a bFGF Antibody for Cardiovascular Application,”Pro.Intl.Symp.Control.Rel.Bioact.Mater.,24:853-854,1997;およびLam et al.,“Microencapsulation of Recombinant Humanized Monoclonal Antibody for Local Delivery,”Proc.Int’l.Symp.Control Rel.Bioact.Mater.,24:759-760,1997を参照されたい。一実施形態では、制御放出系でポンプが使用されてもよい(Langer、前出;Sefton,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.,14:20,1987;Buchwald et al.,Surgery,88:507,1980;およびSaudek et al.,N.Engl.J.Med.,321:574,1989を参照されたい)。任意選択的に、高分子材料を使用して、抗体または融合タンパク質の制御放出が達成され得る(例えば、Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Florida(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984);Ranger and Peppas,J.,Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.,23:61,1983;see also Levy et al.,Science,228:190,1985;During et al.,Ann.Neurol.,25:351,1989;Howard et al.,J.Neurosurg.,7 1:105,1989);米国特許第5,679,377号明細書;米国特許第5,916,597号明細書;米国特許第5,912,015号明細書;米国特許第5,989,463号明細書;米国特許第5,128,326号明細書;国際公開第99/15154号パンフレット;および国際公開第99/20253号パンフレットを参照されたい)。任意選択的に、制御放出系は、治療標的(例えば、肺)の近くに配置させ得、したがって全身性用量のごく一部のみが必要である(例えば、Goodson,in Medical Applications of Controlled Release,supra,vol.2,pp.115-138(1984)を参照されたい)。
【0194】
その他の制御放出系は、Langer,Science,249:1527-1533,1990)によるレビューで考察される。
【0195】
本発明の組成物が、抗体または融合タンパク質をコードする核酸である特定の実施形態では、核酸は、それを適切な核酸発現ベクターの一部として構築して、それが細胞内に入るようにそれを投与することで、例えば、レトロウイルスベクターの使用によって(米国特許第4,980,286号明細書を参照されたい)、または直接的注射によって、または微粒子衝撃の使用によって(例えば、遺伝子銃;Biolistic,Dupont)、または脂質もしくは細胞表面受容体もしくは形質移入剤で被覆することで、またはそれを核に入ることが知られているホメオボックス様ペプチドに連結させて投与すること(例えば、Joliot et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:1864-1868,1991を参照されたい)などによって、生体内に投与されて、そのコードする抗体または融合タンパク質の発現が促進され得る。代案として、核酸は、相同組換えによって細胞内に導入され、発現のために宿主細胞DNA内に組み込まれ得る。
【0196】
本発明は、医薬組成物もまた提供する。このような組成物は、予防または治療有効量の抗体、融合タンパク質またはコンジュゲート分子と、薬学的に許容できる担体とを含んでなる。特定の実施形態では、「薬学的に許容される」という用語は、動物、およびより特にはヒトで使用するために、連邦または州政府の監督官庁によって認可され、または米国薬局方またはその他の一般に認められている薬局方に収載されていることを意味する。「担体」という用語は、それと共に治療薬が投与される、希釈剤、アジュバント(例えば、フロイント完全および不完全、水酸化アルミニウムなどの無機ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルション、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、およびBCG(カルメット・ゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum))などのヒトにとって潜在的に有用なアジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このような薬学的担体は、落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油などの鉱油、動物、植物または合成起源をはじめとする、水および油などの滅菌液体であり得る。水は、医薬組成物が静脈内投与される場合の適切な担体である。生理食塩水溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液はまた、特に、注射液のための液体担体として用いられ得る。適切な製薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、乳糖、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、滑石、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、必要に応じて、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤もまた含有し得る。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、持続放出製剤などの形態を取り得る。経口製剤は、製薬等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準担体を含み得る。適切な薬学的担体の例は、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”by E.W.Martinに記載される。このような組成物は、患者に適切な投与形態を提供するように、適当量の担体と共に、任意選択的に精製形態で、抗体またはその断片、または融合タンパク質またはコンジュゲート分子を予防または治療有効量で含有する。製剤は、投与方法に適するべきである。
【0197】
一実施形態では、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適応された医薬組成物として、日常的手技に従って調合される。典型的に、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物はまた、可溶化剤およびリグノカインなどの局所麻酔薬を含み、注射部位の疼痛を緩和させてもよい。
【0198】
通常、本発明の組成物の成分は、例えば、活性薬剤の量を表示するアンプルまたは小袋などの密閉容器内の乾燥凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、単位用量剤形で、別々にまたは合わせてのいずれかで提供される。組成物が輸液によって投与される場合、それは滅菌製薬等級水または生理食塩水を含有する注入ボトルを用いて調剤され得る。組成物が注射によって投与される場合、成分が投与に先だって混合されてもよいように、無菌注射用水または生理食塩水のアンプルが提供され得る。
【0199】
本発明の組成物は、中性または塩形態で調合され得る。薬学的に許容可能な塩としては、塩化水素、リン酸、酢酸、コハク酸、酒石酸などに由来するものなどのア二オンで形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、第二鉄水酸化物、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインに由来するものなどのカチオンで形成されるものなどが挙げられる。
【0200】
疾患、障害、または感染症に伴う1つまたは複数の症状治療、予防または改善に有効な本発明の組成物の量は、標準臨床技術によって判定され得る。用いられる配合物の精密な用量は、投与経路、対象年齢、および疾患、障害、または感染症の重篤性に左右され、施術者の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。有効用量は、生体外または動物モデル(例えば、コットンラットまたはカニクイザル)試験系から誘導される用量応答曲線から外挿されてもよい。
【0201】
融合タンパク質では、対象に投与される治療または予防有効投与量は、約0.001~50mg/kg体重、約0.01~25mg/kg体重、約0.1~20mg/kg体重、約1~10mg/kg、2~9mg/kg、3~8mg/kg、4~7mg/kg、または5~6mg/kg体重の範囲である。抗体では、対象に投与され治療または予防有効投与量は、典型的に、0.1mg/kg~200mg/kg対象体重である。一実施形態では、対象に投与される用量は、0.1mg/kg~20mg/kg対象体重である。例えば、対象に投与される用量は、1mg/kg~10mg/kg対象体重であり得る。しかし、用量は、生体内の分子半減期が増大される程度に左右される。通常、ヒト抗体およびヒト融合タンパク質は、外来性ポリペプチドに対する免疫応答のために、その他の生物種に由来する融合タンパク質の抗体よりも、人体中で長い半減期を有する。したがって、ヒト抗体またはヒト融合タンパク質は、より低用量およびより低頻度の投与が可能であることが多い。さらに、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子の投与の用量および頻度はまた、例えば、脂質化などの修飾による抗体または融合タンパク質(例えば、肺内への)取り込みおよび組織透過の促進によって低下されてもよい。
【0202】
抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子の治療または予防有効量による対象の治療は、単回治療を含み得るか、または一連の治療を含み得る。一例では、対象は、約1~10週間、2~8週間、約3~7週間、または約4、5、または6週間にわたり、週に1回、約0.1~30mg/kg体重の範囲の抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子で治療される。いくつかの実施形態では、本発明の薬剤組成物は、1日に1回、1日に2回、または1日に3回投与される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、週に1回、週2回、隔週1回、月に1回、6週間に1回、2ヶ月に1回、年に2回または年に1回投与される。治療に使用される抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子の有効投与量は、特定の治療過程にわたって、増大または低下してもよいことが理解される。
【0203】
遺伝子治療
特定の実施形態では、遺伝子治療の手段として、疾患、障害、または感染症に伴う1つまたは複数の症状を治療、予防または改善するために、抗体または融合タンパク質をコードする配列を含んでなる核酸が投与される。遺伝子治療は、発現された、または発現できる核酸を対象に投与することで実施される、治療法を指す。本発明のこの実施形態では、核酸はそれらがコードする抗体または融合タンパク質を生成し、それは治療または予防的効果を媒介する。
【0204】
当該技術分野で利用できる遺伝子治療法のいずれも本発明に従って利用され得る。代表的方法は、以下に記載される。
【0205】
遺伝子治療法の概評については、Goldspiel et al.,Clinical Pharmacy,12:488-505,1993;Wu and Wu,Biotherapy,3:87-95,1991;Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.,32:573-596,1993;Mulligan,Science,260:926-932,1993;およびMorgan and Anderson,Ann.Rev.Biochem.62:191-217,1993;TIBTECH11(5):155-215,1993を参照されたい。利用され得る当該技術分野で一般に公知の組換えDNA技術法は、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載される。
【0206】
一態様では、本発明の組成物は、抗体をコードする核酸を含んでなり、前記核酸は、適切な宿主中で抗体を発現する発現ベクターの一員である。具体的には、このような核酸は、抗体コード領域と作動可能に連結する、異種または同種プロモーターであり得るプロモーターを有し、前記プロモーターは、誘導性または構成的であり、任意選択的に、組織特異的である。別の特定の実施形態では、その中で、抗体コード配列および任意のその他の所望の配列が、ゲノム内の所望の部位における相同組換えを促進する領域で挟まれる核酸分子が使用され、したがって抗体をコードする核酸の染色体内発現が提供される(Koller and Smithies,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:8932-8935,1989;およびZijlstra et al.,Nature,342:435-438,1989)。
【0207】
別の態様では、本発明の組成物は、融合タンパク質をコードする核酸を含んでなり、前記核酸は、適切な宿主中で融合タンパク質を発現する発現ベクターの一部である。具体的には、このような核酸は、融合タンパク質のコード領域と作動可能に連結する、異種または同種プロモーターであり得るプロモーターを有し、前記プロモーターは誘導性または構成的であり、任意選択的に、組織特異的である。別の特定の実施形態では、その中で融合タンパク質のコード配列、および任意のその他の所望の配列が、ゲノム内の所望の部位における相同組換えを促進する領域で挟まれる核酸分子が利用されて、したがって融合タンパク質をコードする核酸の染色体内発現が提供される。
【0208】
対象への核酸の送達は、対象が核酸または核酸運搬ベクターに直接曝露される直接的送達、または細胞が生体外で最初に核酸で形質転換される間接的送達のいずれであってもよく、次に対象に移植される。これらの2つのアプローチは、それぞれ生体内または生体外遺伝子治療として知られている。
【0209】
特定の実施形態では、核酸配列は生体内に直接投与されてそこで発現され、コードされる産物が生成する。これは、例えば、それらを適切な核酸発現ベクターの一部として構築して、細胞内に入るようにそれを投与することで、例えば、欠陥または弱毒型レトロウイルスまたはその他のウイルスベクターを使用して感染させることで(米国特許第4,980,286号明細書を参照されたい)、または裸のDNAの直接注射によって、または微粒子衝撃(例えば、遺伝子銃;Biolistic,Dupont)の使用によって、または脂質または細胞表面受容体または形質移入剤で被覆することで、リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセル中のカプセル化によって、またはそれら核に入ることが知られているペプチドに酸欠させて投与することで、それを受容体媒介性エンドサイトーシスを受けるリガンドに連結させて投与すること(例えば、Wu and Wu,J.Biol.Chem.,262:4429-4432,1987を参照されたい)(これは受容体を特異的に発現する細胞型を標的化するのに使用され得る)などの当該技術分野で公知の多数の方法のいずれかによって達成され得る。別の実施形態では、核酸リガンド複合体が形成され得、その中では、リガンドが融合性ウイルスペプチドを含んでなり、エンドソームを妨害して核酸がリソソーム分解を回避できるようにする。さらに別の実施形態では、核酸は、特有の受容体を標的化することで、細胞特異的取り込みおよび発現のために生体内で標的化され得る(例えば、国際公開第号92/06180パンフレット;国際公開第92/22635号パンフレット;国際公開第号パンフレット92/20316;国際公開第号パンフレット93/14188;国際公開第号パンフレット93/20221を参照されたい)。代案として、核酸は、相同組換えによって細胞内に導入され、発現のために宿主細胞DNA内に組み込まれ得る(Koller and Smithies,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:8932-8935,1989;およびZijlstra et al.,Nature,342:435-438,1989)。
【0210】
特定の実施形態では、抗体またはa融合タンパク質をコードする核酸配列を含有するウイルスベクターが使用される。例えば、レトロウイルスベクターが使用され得る(Miller et al.,Meth.Enzymol.,217:581-599,1993を参照されたい)。これらのレトロウイルスベクターは、ウイルスゲノムの正しいパッケージングと宿主細胞DNAへの組み込みに必要な構成要素を含有する。遺伝子治療で使用される抗体または融合タンパク質をコードする核酸配列は、対象へのヌクレオチド配列の送達を容易にする、1つまたは複数のベクターにクローン化される。レトロウイルスベクターに関してより詳しくは、化学療法に耐性のある幹細胞作成するために、mdr1遺伝子を造血幹細胞に送達するレトロウイルスベクターの使用を記載する、Boesen et al.,Biotherapy,6:291-302,1994にある。遺伝子治療におけるレトロウイルスベクターの使用を例示するその他の参考文献は、Clowes et al.,J.Clin.Invest.,93:644-651,1994;Klein et al.,Blood 83:1467-1473,1994;Salmons and Gunzberg,Human Gene Therapy,4:129-141,1993;およびGrossman and Wilson,Curr.Opin.in Genetics and Devel.,3:110-114,1993である。
【0211】
アデノウイルは、遺伝子治療で使用され得るその他のウイルスベクターである。アデノウイルは、遺伝子を気道上皮に送達するための特に魅力的なビヒクルである。アデノウイルは、気道上皮に天然に感染し、そこで軽度の疾患を引き起こす。アデノウイルスベースの送達系のその他の標的は、肝臓、中枢神経系、内皮細胞、および筋肉である。アデノウイルは、非分裂細胞に感染できる利点を有する。Kozarsky and Wilson,Current Opinion in Genetics and Development,3:499-503,1993は、アデノウイルスベースの遺伝子治療の概説を提示する。Bout et al.,Human Gene Therapy,5:3-10,1994は、アカゲザルの気道上皮に遺伝子を移入させる、アデノウイルスベクターの使用を実証する。遺伝子治療におけるアデノウイルの使用のその他の事例は、Rosenfeld et al.,Science,252:431-434,1991;Rosenfeld et al.,Cell,68:143-155,1992;Mastrangeli et al.,J.Clin.Invest.,91:225-234,1993;国際公開第94/12649号パンフレット;およびWang et al.,Gene Therapy,2:775-783,1995に見られる。一実施形態では、アデノウイルスベクターが使用される。
【0212】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療利用するために提案されている(例えば、Walsh et al.,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,204:289-300,1993,および米国特許第5,436,146号明細書を参照されたい)。
【0213】
遺伝子治療のための別のアプローチは、電気穿孔、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介形質移入、またはウイルス感染などの方法によって、組織培養物中の細胞に遺伝子を移入することを伴う。通常、移入する方法は、細胞に選択可能なマーカーを移入することを含む。次に細胞は、選択されて、移入遺伝子を取り込んで発現した細胞が単離される。次にこれらの細胞は、対象に送達される。
【0214】
この実施形態では、得られる組換え細胞の生体内投与に先だって、核酸が細胞内に導入される。このような導入は、形質移入、電気穿孔、マイクロインジェクション、核酸配列を含有するウイルスまたはバクテリオファージベクターによる感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子移入、微小核体媒介遺伝子移入、スフェロプラスト融合などをはじめとするが、これに限定されるものではない、当該技術分野で公知の任意の方法によって実施され得る。外来遺伝子を細胞に導入する多数の技術が、当該技術分野で公知であり(例えば、Loeffler and Behr,Meth.Enzymol.,217:599-618,1993;Cohen et al.,Meth.Enzymol.,217:618-644,1993;およびClin.Pharma.Ther.,29:69-92,1985を参照されたい)、受容体細胞の必要な発達的および生理学的機能が妨害されないという条件で、本発明に従って使用されてもよい。技術は、細胞によって核酸が発現され得、任意選択的に遺伝性でその細胞子孫によって発現され得るように、細胞への核酸の安定した移入を提供するべきである。
【0215】
得られた組換え細胞は、様々な当該技術分野で公知の方法によって対象に送達され得る。例えば、組換え血液細胞(例えば、造血幹または前駆細胞)は、静脈内投与され得る。使用が想定される細胞の量は、所望の効果、患者の状態などに左右されて、当業者によって判定され得る。
【0216】
遺伝子治療の目的でその中に核酸が導入され得る細胞は、あらゆる所望の利用できる細胞型を包含し、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋肉細胞、肝実質細胞;Tリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、巨核球、顆粒球などの血液細胞;様々な幹細胞または前駆細胞、特に、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られるような造血幹または前駆細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0217】
一実施形態では、遺伝子治療のために使用される細胞は、対象の自己由来細胞である。
【0218】
その中で組換え細胞が遺伝子治療で使用される一実施形態では、抗体または融合タンパク質をコードする核酸配列は、細胞またはそれらの子孫によってそれらが発現できるように細胞内に導入されて、次に、組換え細胞が、治療効果のために生体内投与される。特定の実施形態では、幹細胞または前駆細胞が使用される。単離され生体外で維持され得る任意の幹細胞および/または前駆細胞は、本発明の実施形態に従って潜在的に使用され得る(例えば、国際公開第94/08598号パンフレット;Stemple and Anderson,Cell,7 1:973-985,1992;Rheinwald,Meth.Cell Bio.,21A:229,1980;およびPittelkow and Scott,Mayo Clinic Proc.,61:771,1986を参照されたい)。
【0219】
特定の実施形態では、遺伝子治療の目的で導入される核酸は、コード領域と作動可能に連結する誘導性プロモーターを含んでなり、核酸の発現は、適切な転写誘導物質の存在または不在を制御することで、制御可能である。
【0220】
治療的または予防的効用の特性決定および実証
本発明の抗体、融合タンパク質、およびコンジュゲート分子は、多様な方法で特性決定されてもよい。具体的には、本発明の抗体は、抗原に免疫特異的に結合する能力について、アッセイされてもよい。このようなアッセイは、溶液中(例えば、Houghten,Bio/Techniques,13:412-421,1992)、ビーズ上(Lam,Nature,354:82-84,1991,チップ上(Fodor,Nature,364:555-556,1993)、細菌上(米国特許第5,223,409号明細書)、胞子上(米国特許第5,571,698号明細書;米国特許第5,403,484号明細書;および米国特許第5,223,409号明細書)、プラスミド上(Cull et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:1865-1869,1992)またはファージ上(Scott and Smith,Science,249:386-390,1990;Devlin,Science,249:404-406,1990;Cwirla et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:6378-6382,1990;およびFelici,J.Mol.Biol.,222:301-310,1991)で実施されてもよい(これらの参考文献のそれぞれは、その内容全体が参照により本明細書に援用される)。抗原またはその断片に免疫特異的に結合することが同定された抗体は、次に、それらの特異的抗原親和性についてアッセイされ得る。
【0221】
本発明の抗体またはそれらの断片は、当該技術分野で公知の任意の方法によって、抗原に対する免疫特異性結合、およびその他の抗原との交差反応性についてアッセイされてもよい。免疫特異性結合および交差反応性を分析するのに使用され得る免疫測定法としては、数例として、ウエスタンブロットなどの技術を使用した競合および非競合アッセイシステム、放射免疫測定法、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫沈降法アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散法アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射線アッセイ、蛍光免疫測定法、プロテインA免疫測定法が挙げられるが、これに限定されるものではない。このようなアッセイは、当該技術分野で通例かつ周知である(例えば、その内容全体が参照により本明細書に援用される、Ausubel et al,eds,1994,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkを参照されたい)。代表的な免疫測定法は、以下に簡単に説明される(しかし、限定は意図されない)。
【0222】
免疫沈降法プロトコルは、通常、タンパク質ホスファターゼおよび/またはプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)が添加されたRIPA緩衝液(1%NP-40またはトリトンX-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15MのNaCl、0.01Mのリン酸ナトリウム、pH7.2、1%Trasylol)などの溶解緩衝液中で細胞集団を溶解させ、関心のある抗体を細胞溶解産物に添加して、40℃で一定時間(例えば、1~4時間)インキュベートし、プロテインAおよび/またはプロテインGセファロースビーズを細胞溶解産物に添加して、40℃で約1時間以上インキュベートし、ビーズを溶解緩衝液中で洗浄し、ビーズをSDS/サンプル緩衝液中に再懸濁することを含んでなる。関心のある抗体が、特定の抗原を免疫沈降させる能力は、例えば、ウエスタンブロット分析によって評価され得る。当業者は、抗原への抗体の結合を増大させ、バックグラウンドを低下させるために修正され得るパラメータに関する知識を有するであろう(例えば、セファロースビーズによる細胞溶解産物の予備排除)。免疫沈降法プロトコルに関するさらなる考察は、例えば、Ausubel et al,eds,1994,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley&Sons,Inc.,New York at 10.16.1を参照されたい。
【0223】
ウエスタンブロット分析は、通常、タンパク質サンプルを調製し、タンパク質サンプルをポリアクリルアミドゲル(例えば、抗原の分子量次第で8%~20%のSDS-PAGE)中で電気泳動し、タンパク質サンプルをポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDFまたはナイロンなどのメンブレンに移し、メンブレンをブロッキング溶液(例えば、3%BSAまたは脱脂乳添加PBS)でブロックして、メンブレンを洗浄緩衝液(例えば、PBS-ツイーン20)中で洗浄し、メンブレンをブロック緩衝液で希釈された一次抗体(関心のある抗体)でブロックし、メンブレンを洗浄緩衝液中で洗浄し、メンブレンをブロック緩衝液で希釈された酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)または放射性分子(例えば、32Pまたは125I)にコンジュゲートされた二次抗体(例えば、一次抗体を認識する抗ヒト抗体などの抗体)でブロックして、メンブレンを洗浄緩衝液中で洗浄し、抗原の存在を検出することを含んでなる。当業者は、検出シグナルを増大させて、バックグラウンドノイズを低下させるために修正され得るパラメータに関する知識を有するであろう。ウエスタンブロットプロトコルに関するさらなる考察は、例えば、Ausubel et al,eds,1994,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley&Sons,Inc.,New York at 10.8.1を参照されたい。
【0224】
ELISAは、抗原を調製し、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルを抗原で被覆して、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)などの検出可能化合物にコンジュゲートされた関心のある抗体をウェルに添加して、一定時間インキュベートし、抗原の存在を検出することを含んでなる。ELISAでは、関心のある抗体が検出可能化合物にコンジュゲートされる必要はない;むしろ、検出可能化合物にコンジュゲートされた(関心のある抗体を認識する)第2の抗体が、ウェルに添加されてもよい。さらに、ウェルを抗原で被覆する代わりに、ウェルを抗体で被覆してもよい。この場合、検出可能化合物にコンジュゲートされた第2の抗体は、被覆ウェルへの関心のある抗原の添加に続いて添加されてもよい。当業者は、検出シグナルを増大させるために修正され得るパラメータ、ならびに当該技術分野で公知のその他のELISAのバリエーションに関する知識を有するであろう。ELISAに関するさらなる考察については、例えば、Ausubel et al,eds,1994,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley&Sons,Inc.,New York at 11.2.1を参照されたい。
【0225】
抗原に対する抗体の結合親和性および抗体-抗原相互作用のオフ速度は、競合結合アッセイによって判定され得る。競合結合アッセイの一例は、増大する量の未標識抗原の存在下における、標識(例えば、Hまたは125I)抗原と、関心のある抗体とのインキュベーション、および標識抗原と結合した抗体の検出を含んでなる、放射免疫測定法である。抗原に対する本発明の抗体またはその断片の親和性、および結合オフ速度は、スキャッチャード分析によって飽和データから判定され得る。第2の抗体との競合はまた、放射免疫測定法を使用して判定され得る。この場合、抗原は、増大する量の未標識の第2の抗体の存在下で、標識化合物(例えば、Hまたは125I)にコンジュゲートされた本発明の抗体またはその断片と共にインキュベートされる。
【0226】
一実施形態では、BIAcore動態解析を使用して、抗原に対する抗体の結合およびオフ速度が判定される。BIAcore動態解析は、それらの表面に固定化抗体があるチップからの、抗原の結合および分離を解析することを含んでなる。
【0227】
本発明の抗体ならびに融合タンパク質およびコンジュゲート分子はまた、当業者に知られている技術を使用して、その宿主細胞受容体に対する抗原の結合を阻害するそれらの能力についてアッセイされ得る。例えば、抗体の存在または不在下で、ウイルス抗原の受容体を発現する細胞にウイルスを接触させて、フローサイトメトリーまたはシンチレーションカウンターによって、抗体がウイルス抗原の結合を阻害する能力が測定され得る。抗原または抗体を放射性標識(例えば、32P、35S、および125I)または蛍光標識(例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルデヒド(o-phthaldehyde)およびフルオレスカミン)などの検出可能化合物で標識し、抗原とその宿主細胞受容体の間の相互作用を検出できるようにし得る。代案として、抗原がその受容体と結合するのを阻害する抗体の能力は、無細胞アッセイによって判定され得る。例えば、無細胞アッセイでは、ウイルスまたはウイルス抗原(例えば、RSVF糖タンパク質)が抗体に接触され得、ウイルスまたはウイルス抗原がその宿主細胞受容体に結合するのを阻害する抗体の能力が判定され得る。任意選択的に、抗体が固体担体上に固定化されて、抗原が検出可能化合物で標識される。代案として、抗原が固体担体上に固定化されて、抗体が検出可能化合物で標識される。抗原は、部分的にまたは完全に精製されてもよく(例えば、その他のポリペプチドを部分的にまたは完全に含まない)、または細胞溶解産物の一部であってもよい。さらに、抗原は、ウイルス抗原とグルタチオニン-S-トランスフェラーゼなどの領域とを含んでなる融合タンパク質であってもよい。代案として、抗原は、当業者に周知の技術を使用してビオチン化され得る(例えば、ビオチン化キット、Pierce Chemicals;Rockford,IL)。
【0228】
本発明の抗体、融合タンパク質、およびコンジュゲート分子はまた、当業者に知られている技術を使用して、ウイルスまたは細菌複製を阻害または下方制御するそれらの能力についてアッセイされ得る。例えば、ウイルス複製は、例えば、Johnson et al.,Journal of Infectious Diseases,176:1215-1224,1997に記載されるような溶菌斑アッセイによってアッセイされ得る。本発明の本発明の抗体、融合タンパク質、およびコンジュゲート分子はまた、ウイルスまたは細菌ポリペプチドの発現を阻害または下方制御するそれらの能力についてアッセイされ得る。ウエスタンブロット分析、ノーザンブロット分析、およびRT-PCRをはじめとするが、これに限定されるものではない、当業者に知られている技術を使用して、ウイルスまたは細菌ポリペプチドの発現が測定され得る。さらに、本発明の本発明の抗体、融合タンパク質、およびコンジュゲート分子は、シンシチウム形成を妨げるそれらの能力についてアッセイされ得る。
【0229】
本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、および組成物は、任意選択的に、ヒトにおける使用前に、所望の治療的または予防的活性について、生体外で、次に生体内で試験される。例えば、本発明の特定の抗体、特定の融合タンパク質、特定のコンジュゲート分子、または組成物の投与が適応されるかどうかを判定するのに使用され得る生体外アッセイは、その中で、対象組織サンプルが培養され、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物に曝露されまたは別の方法で投与されて、このような本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物の効果が組織サンプル上で観察される、生体外細胞培養アッセイを含む。様々な特定の実施形態では、疾患または障害に関与する細胞型の典型的な細胞を用いて生体外アッセイが実施されて、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物が、このような細胞型に対して所望の効果を有するかどうかが判定され得る。任意選択的に、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物は、ヒトへの投与に先だって、生体外アッセイおよび動物モデル系でもまた試験される。
【0230】
治療法で使用される本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物は、ラット、マウス、ウシ、サル、およびウサギをはじめとするが、これに限定されるものではない、適切な動物モデル系において、それらの毒性について試験され得る。抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物の毒性のための生体内試験では、当該技術分野で公知の任意の動物モデル系が使用されてもよい。
【0231】
ウイルス感染症を治療または予防する効力は、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物が、ウイルス複製を阻害し、ウイルス感染を阻害し、またはウイルスが宿主内で確立するのを防ぎ、またはウイルス感染症に伴う1つまたは複数の症状を予防、改善または軽減する能力を検出することで、実証されてもよい。例えば、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物の投与に続いて、ウイルス負荷の低下、1つまたは複数の症状の改善、または死亡率および/または罹患率の低下があれば、処置は治療的であると見なされる。本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物はまた、生体外および生体内アッセイで、ウイルス複製を阻害しまたはウイルス負荷低下させるそれらの能力について試験され得る。
【0232】
細菌感染症を治療または予防する効力は、本発明の抗体、融合タンパク質または組成物が、細菌複製を阻害するか、細菌感染症に伴う1つまたは複数の症状を予防、改善または緩和する能力を検出することで実証されてもよい。例えば、本発明の抗体、融合タンパク質、または組成物の投与に続いて、細菌数の低下、1つまたは複数の症状の改善、または死亡率および/もしくは罹患率の低下があれば、処置は治療的であると見なされる。
【0233】
がん治療における効力は、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子または組成物が、がん性細胞の増殖または転移を阻害しまたは低下させるか、がんに伴う1つまたは複数の症状を改善または緩和する能力を検出することで実証されてもよい。例えば、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物の投与に続いて、がん性細胞の増殖または転移の低下、がんに伴う1つまたは複数の症状の改善、または死亡率および/もしく罹患率の低下があれば、処置は治療的であると見なされる。本発明の抗体、融合タンパク質または組成物は、試験管内、生体外、および生体内アッセイで、腫瘍形成を低下させるそれらの能力について試験され得る。
【0234】
炎症性疾患を治療する効力は、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物が、動物において炎症を低下させまたは阻害するか、炎症性疾患に伴う1つまたは複数の症状を改善または軽減する能力を検出することで実証されてもよい。例えば、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物の投与に続いて、炎症の低下または1つまたは複数の症状の改善があれば、処置は治療的であると見なされる。
【0235】
本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物は、サイトカイン(例えば、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL10、IL-12、およびIL-15)および活性化マーカー(例えば、CD28、ICOS、およびSLAM)の発現を誘導する能力について、生体外および生体内で試験され得る。当業者に知られている技術を使用して、サイトカインおよび活性化マーカーの発現レベルが測定され得る。例えば、サイトカインの発現レベルは、例えば、RT-PCRおよびノーザンブロット分析によって、サイトカインのRNAレベルを分析し、例えば、免疫沈降法と、それに続くウエスタンブロット分析またはELISAによって、サイトカインレベルを分析することで測定され得る。
【0236】
本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物は、生体外および生体内で、例えば、ヒト免疫細胞(例えば、T細胞、B-細胞、およびナチュラルキラー細胞)などの免疫細胞の生物学的活性を調節する、それらの能力について試験され得る。本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物が、免疫細胞の生物学的活性を調節する能力は、抗原の発現を検出し、免疫細胞増殖を検出し、シグナル伝達分子の活性化を検出し、免疫細胞のエフェクター機能を検出し、または免疫細胞の分化を検出することで評価され得る。当業者に知られている技術を使用して、これらの機能が測定され得る。例えば、細胞増殖は、3H-チミジン組み込みアッセイおよびトリパンブルー細胞計数によってアッセイされ得る。抗原発現は、例えば、ウエスタンブロットなどの技術を使用した競合および非競合アッセイシステム、免疫組織化学的検査、放射免疫測定法、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫沈降法アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散法アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射線アッセイ、蛍光免疫測定法、プロテインA免疫測定法およびFACS分析をはじめとするが、これに限定されるものではない、免疫測定法によってアッセイされ得る。シグナル伝達分子の活性化は、例えば、キナーゼアッセイおよび電気泳動シフトアッセイ(EMSA)によってアッセイされ得る。
【0237】
本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物はまた、疾患、障害、または感染症に罹患している、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない、哺乳類などの動物の生存期間を少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、または少なくとも99%増大させる、それらの能力について試験され得る。さらに、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、または組成物は、疾患、障害、または感染症に罹患している、ヒトをはじめとするが、これに限定されるものではない、哺乳類などの動物の入院期間を少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、または少なくとも99%低下させる、それらの能力について試験され得る。当業者に知られている技術を使用して、生体内で本発明の抗体または組成物機能が分析され得る。
【0238】
抗体および融合タンパク質の診断用途
本発明の標識抗体、融合タンパク質、およびコンジュゲート分子は、疾患、障害または感染症を検出、診断、またはモニターするための診断目的で使用され得る。本発明は、以下を含んでなる、疾患、障害または感染症の検出または診断を提供する:(a)抗原と免疫特異的に結合する1つまたは複数の抗体を使用して、対象の細胞または組織サンプル中の抗原の発現をアッセイし;および(b)抗原のレベルを例えば、正常組織サンプル中のレベルなどの対照レベルと比較して、それによって対照抗原レベルと比較したアッセイされた抗原レベルの増大が、疾患、障害または感染症の徴候となる。本発明は、(a)抗原に結合する本発明の1つのまたは融合タンパク質またはコンジュゲートされた分子を使用して、対象の細胞または組織サンプル中で抗原の発現をアッセイし;および(b)抗原のレベルを例えば、正常組織サンプル中のレベルなどの対照レベルと比較して、それによって対照抗原レベルと比較した増大が、疾患、障害または感染症の徴候となることを含んでなる、疾患、障害または感染症の検出または診断もまた提供する。したがって、融合タンパク質またはコンジュゲート分子は、リガンド、サイトカインまたは成長因子、およびヒンジFc領域またはその断片などの生理活性分子を含んでなり、抗原に結合できる融合タンパク質またはコンジュゲート分子が検出される。
【0239】
本明細書に記載されるようなまたは当業者に知られている古典的免疫組織的方法を使用して、本発明の抗体を使用して、生物学的サンプル中の抗原レベルがアッセイされ得る(例えば、Jalkanen et al.,J.Cell.Biol.,101:976-985,1985;Jalkanen et al.,J.Cell.Biol.,105:3087-3096,1987を参照されたい)。タンパク質遺伝子発現の検出に有用なその他の抗体ベースの方法としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)および放射免疫測定法(RIA)などの免疫測定法が挙げられる。適切な抗体アッセイ標識は、当該技術分野で公知であり、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼなどの酵素標識;ヨウ素(125I、131I)、炭素(14C)、イオウ(35S)、トリチウム(H)、インジウム(121In)、およびテクネチウム(99mTc)などの放射性同位体;ルミノールなどのルミネセンス標識;ならびにフルオレセインおよびローダミンなどの蛍光標識などが挙げられる。
【0240】
例えば、当業者に知られているSDS-PAGEおよび免疫測定法を使用して、融合タンパク質を使用して、生物学的サンプル中の抗原レベルがアッセイされ得る。
【0241】
本発明の一態様は、ヒトにおける疾患、障害、または感染症の検出および診断である。一実施形態では、診断は、a)抗原と免疫特異的に結合する標識抗体の有効量を対象に(例えば、非経口的、皮下、または腹腔内)投与し;b)投与に続いて一定時間待機して、そこで抗原が発現される対象中の部位に、標識抗体を優先的に集中させ(非結合標識分子はバックグラウンドレベルに除去される);c)バックグラウンドレベルを判定し;およびd)対象中の標識抗体を検出し、バックグラウンドレベルを超える標識抗体の検出が、対象が疾患、障害、または感染症を有することを示唆することを含んでなる。この実施形態に従って、抗体は、当業者に知られているイメージングシステムを使用して検出可能である、イメージング部分で標識される。バックグラウンドレベルは、検出された標識分子の量を、特定システムについてあらかじめ判定された標準値と比較することをはじめとする、様々な方法によって判定され得る。
【0242】
別の実施形態では、診断は、a)抗原またはいくつかのその他の分子と結合する標識融合タンパク質またはコンジュゲート分子の有効量を対象に(例えば、非経口的、皮下、または腹腔内)投与し;b)投与に続いて一定時間待機して、そこで抗原またはその他の分子が発現される対象中の部位に、標識融合タンパク質またはコンジュゲート分子を優先的に集中させ(非結合標識分子はバックグラウンドレベルに除去される);c)バックグラウンドレベルを判定し;およびd)対象中の標識融合タンパク質またはコンジュゲート分子を検出し、バックグラウンドレベルを超える標識融合タンパク質検出が、対象が疾患、障害、または感染症を有することを示唆することを含んでなる。この実施形態に従って、融合タンパク質またはコンジュゲート分子は、リガンド、サイトカインまたは成長因子、および修飾IgGまたは(例えば、Fc領域もしくはヒンジFc領域などの)そのFcRn結合断片などの生理活性分子を含んでなり、前記融合タンパク質またはコンジュゲート分子は、イメージング部分で標識されて、検出される抗原と結合できる。
【0243】
対象のサイズおよび使用されるイメージングシステムが、診断イメージングを作成するのに必要なイメージング部分の量を左右することは、当該技術分野で理解されるであろう。放射性同位体部分の場合、ヒト対象では、注射される放射能の量は、通常、約5~20ミリキュリーの99mTcの範囲である。次に標識抗体は、特定のタンパク質を含有する細胞部位に、優先的に蓄積される。生体内腫瘍イメージングは、S.W.Burchiel et al.,“Immunopharmacokinetics of Radiolabeled Antibodies and Their Fragments,”Chapter 13 in Tumor Imaging:The Radiochemical Detection of Cancer,S.W.Burchiel and B.A.Rhodes,eds.,Masson Publishing Inc.(1982)に記載される。
【0244】
使用される標識のタイプおよび投与方法をはじめとするいくつかの変数次第で、投与に続いて、対象中の部位に標識分子が優先的に集中して、非結合標識分子がバックグラウンドレベルに除去されるようにする時間間隔は、6~48時間または6~24時間または6~12時間である。別の実施形態では、投与に続く時間間隔は、5~20日間または5~10日間である。
【0245】
一実施形態では、疾患、障害または感染症のモニタリングは、例えば、初期診断後1ヶ月間、初期診断後6ヶ月間、初期診断後1年間などにわたり、疾患、障害または感染症を診断する方法を反復することで実施される。
【0246】
対象中の標識分子の存在は、生体内スキャニング技術分野で公知の方法を使用して検出され得る。これらの方法は、使用される標識タイプに左右される。当業者は、特定の標識を検出する適切な方法を判断できるであろう。本発明の診断法で使用されてもよい方法および装置としては、コンピュータ断層撮影(CT)、陽電子放出断層撮影(PET)などの全身スキャン、磁気共鳴イメージング(MRI)、および超音波検査が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0247】
特定の実施形態では、分子は放射性同位体で標識されて、放射線応答性外科装置を使用して、患者中で検出される(Thurstonらに付与された米国特許第5,441,050号明細書)。別の実施形態では、分子は蛍光性の化合物で標識されて、蛍光応答性スキャニング装置を使用して患者中で検出される。別の実施形態では、分子は陽電子放出金属で標識されて、陽電子放射断層撮影を使用して患者中で検出される。さらに別の実施形態では、分子は常磁性標識で標識され、磁気共鳴イメージング(MRI)を使用して患者中で検出される。
【0248】
キット
本発明は、本発明の医薬組成物の成分の1つまたは複数で充填された1つまたは複数の容器を含んでなる医薬パックまたはキットもまた提供する。容器には、医薬品または生物学的製剤の製造、使用または販売を規制する行政機関によって規定される形式の注意書きが任意選択的に付随し得、その注意書きは、機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を反映する。
【0249】
本発明は、上記方法で使用され得るキットを提供する。一実施形態では、キットは、1つまたは複数の容器内に、任意選択的に精製形態で、本発明の抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子を含んでなる。特定の実施形態では、本発明のキットは、対照として、実質的に単離された抗原を含有する。任意選択的に、本発明のキットは、キットに包含される抗原と反応しない対照抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子をさらに含んでなる。別の特定の実施形態では、本発明のキットは、抗原に対する抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子の結合を検出する手段を含有する(例えば、抗体、融合タンパク質、またはコンジュゲート分子は、蛍光性化合物、酵素基質、放射性化合物またはルミネセンス化合物などの検出可能基質にコンジュゲートされてもよく、または第1の抗体を認識する第2の抗体が検出可能基質にコンジュゲートされてもよい)。特定の実施形態では、キットは、組換え的に生成されまたは化学的に合成された抗原を含んでもよい。キット中で提供される抗原はまた、固体担体に付着されてもよい。より具体的な実施形態では、上記キットの検出手段は、それに抗原が付着する固体担体を含む。このようなキットはまた、非付着レポーター標識抗ヒト抗体を含んでもよい。この実施形態では、抗原に対する抗体の結合は、前記レポーター標識抗体の結合によって検出され得る。
【0250】
修飾IgG定常領域またはそれらのFcRn結合断片の半減期の生体外および生体内アッセイ
修飾IgGおよびその他の分子が修飾IgG定常領域を構成する能力、またはそのFcRn結合断片がFcRnに結合する能力は、本明細書で提供される実施例で例示されるものをはじめとする、様々な生体外アッセイによって特徴付けられ得る。Wardに付与された国際公開第97/34631号パンフレットおよびDall’Acquaらに付与された国際公開第02/060919号パンフレットもまた、様々な方法を詳細に開示して、その内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0251】
例えば、FcRnに結合する、修飾IgGまたはその断片の能力と、野性型IgGの能力とを比較するために、修飾IgGまたはその断片、および野性型IgGを放射性標識して、生体外でFcRn-発現細胞と反応させ得る。次に細胞結合画分の放射能がカウントされて、比較され得る。このアッセイで使用されるFcRnを発現する細胞は、例えば、B10.DBA/2マウスの肺に由来するマウス肺毛細血管内皮細胞(B10、D2.PCE)、およびC3H/HeJマウスに由来するSV40形質転換内皮細胞(SVEC)をはじめとする、内皮細胞系であり得る(Kim et al.,J.Immunol.,40:457-465,1994)。しかし、十分な数のFcRnを発現する10~14日齢の哺乳期マウスから単離された腸管刷子縁などのその他の各種の細胞もまた使用され得る。代案として、選択された生物種からの組換えFcRnを発現する哺乳類細胞もまた使用され得る。修飾IgGの結合画分または野性型の結合画分の放射能をカウントした後、結合分子は、次に合成洗剤で抽出され得、単位細胞数当たりのパーセント放出が計算され比較され得る。
【0252】
修飾IgGまたはそれらの断片のFcRnに対する親和性は、例えば、以前記載されたように(いずれもそれらの内容全体が参照により援用される、Popov et al.,Mol.Immunol.,33:493-502,1996;Karlsson et al.,J.Immunol.Methods,145:229-240,1991)、BIAcore 2000(BIAcore Inc.)を使用して、表面プラズモン共鳴(SPR)測定によって測定され得る。この方法では、FcRn分子がBIAcoreセンサーチップ(例えば、PharmaciaによるCM5チップ)と共役され、BIA評価2.1ソフトウェアを使用して、固定化FcRnに対する修飾IgGの結合が特定の流量で測定されて、センサーグラムが得られ、それに基づいて、FcRnに対する修飾IgG、定常領域、またはそれらの断片のオンおよびオフ速度が計算され得る。
【0253】
修飾IgGまたはそれらの断片、および野性型IgGのFcRnに対する相対親和性はまた、単純な競合結合アッセイによっても測定され得る。未標識の修飾IgGまたは野性型IgGは、その中にFcRnが固定化された96ウェルプレートのウェルに、異なる量で添加される。次に一定量の放射性標識野性型IgGが各ウェルに追加される。未標識の修飾IgGまたは野性型IgGの量に対して、結合画分のパーセント放射能をプロットされて、曲線の勾配から、修飾IgGまたはその断片の相対親和性が計算され得る。
【0254】
さらに、修飾IgGまたはそれらの断片、および野性型IgGのFcRnに対する親和性はまた、飽和試験およびスキャッチャード分析によっても測定され得る。
【0255】
FcRnによる細胞全体にわたる修飾IgGまたはそれらの断片の移入は、放射性標識IgGまたそれらの断片およびFcRn発現細胞を使用して、細胞単層の片側の放射能をもう一方の側と比較することで、生体外移入アッセイによって測定され得る。代案として、このような移入は、10~14日齢の哺乳期マウスに、放射性標識された修飾IgGを給餌して、循環(または例えば、肺などの任意のその他の標的組織)への腸管を通じたIgG移入を示す、血液サンプル中の放射能を定期的にカウントすることで、生体内で測定され得る。腸を通じたIgG移入の用量依存的阻害を試験するために、放射性標識および未標識IgGの特定比率の混合物をマウスが与えられ、血漿の放射能が定期的に測定され得る(Kim et al.,Eur.J.Immunol.,24:2429-2434,1994)。
【0256】
修飾IgGまたはそれらの断片の半減期は、本明細書で提供される方法に従って、薬物動態試験によって測定され得る(実施例セクションを参照されたい)。その内容全体が参照により本明細書に援用される、Kim et al.(Eur.J.Immunol.24:542,1994)によって記載されるように、任意選択的にまたは代替の薬物動態試験が実施されてもよい。この方法に従って、放射性標識修飾IgGまたはそれらの断片が、マウスに静脈内注射されて、その血漿濃度が、例えば注射の3分間~72時間後に、時間の関数として定期的に測定された。このようにして得られたクリアランス曲線は、α相およびβ相の二相性であるべきである。修飾IgGまたはそれらの断片の生体内半減期を判定するために、β相のクリアランス速度が計算されて、野性型IgGと比較される。
【実施例
【0257】
本発明を以下の実施例によって例示する。特定の実施例、物質、量、および手順は、本明細書に記載される本発明の範囲および趣旨に従って広義に解釈されるものと理解される。
【0258】
実施例I
半減期が増大された抗体におけるFc/FcRn相互作用のpH依存性の調節
IgGFcと新生児Fc受容体(FcRn)との間の相互作用は、IgG恒常性に必要であり、IgGの長い血清半減期を促進する。FcRnおよびIgGは高度にpH依存的に結合し、それはIgGリサイクルに重要である。IgGのFc領域は、IgG/FcRn親和性を改変することを目的とする多数の変異試験の標的であった。これらの研究は、非常に長時間にわたる半減期から極めて高速のクリアランスに及ぶ、不同性の生体内薬物動態(PK)特性がある変異体をもたらした。本研究では、本発明者らは、pH6.0で、YTEと比較して>50倍、野性型IgGと比較して>200倍の親和性の増大がある、YTE変異を保有するFc変異体(N3E-YTE)を単離した(Dall’Acqua et al.(2002)J.Immunol.169,5171-5180)。この変異体はまた、ヒトFcRn遺伝子組換えマウスモデルにおいて、大幅に増大されたpH7.4結合を有し、極めて高速のクリアランスを示す。本発明者らは、N3E-YTEを出発点として使用して、pH依存性を増大させながら、なおもpH6.0結合の増大を維持するように設計された追加的なファージライブラリーを作成した。pH依存性を評価するためのファージELISAの使用を通じて、本発明者らは、pH6.0親和性がTE単独よりも高く、ヒト遺伝子導入FcRnマウスモデルおよびカニクイザルの両方で生体内半減期の増大があるY変異体を単離できた。本発明者らの研究は、非常に高親和性で極めて高速のクリアランスをもたらし、わずかにより低い親和性で低クリアランス/半減期増大に急激に切り替わる、FcRn結合に対する急勾配の親和性閾値を提案する。
【0259】
序論
FcRn結合を改変することで、PKパラメータを最適化する現行のアプローチは、一般に受け入れられている、FcRn媒介IgG恒常性モデルを活用し(Ghetie et al.(2000)Annu.Rev.Immunol.18,739-766;Roopenian et al.(2007)Nat.Rev.Immunol.7,715-725)、それは、(流体相飲作用を通じて内在化された)IgG分子が酸性エンドソーム(pH6.0)中でFcRnに結合して、リソソーム中の分解からそれらを保護することを示唆する。次に、エンドソーム内のFcRnによって再利用されたIgGは、循環内に戻され、中性pHで細胞表面に放出されて高い血清IgGレベルを維持する。治療用抗体の血清持続を改善するために用いられる主要ストラテジーの1つは、酸性pHでFcRnに対する親和性が増大するFcの変異体を遺伝子操作することである(Strohl(2009)Curr.Opin.Biotechnol.20,685-691)。このアプローチは、いくつかの注目に値する成功をもたらし、いくつかの単離された変異体は、野性型抗体よりも>3倍高い生体内半減期の改善を示した(Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524;Deng et al.(2010)Drug Metab.Dispos.38,600-605;Hinton et al.(2004)J.Biol.Chem.279,6213-6216;Hinton et al.(2006)J.Immunol.176,346-356;Yeung et al.(2009)J.Immunol.182,7663-7671;Zalevsky et al.(2010)Nat.Biotechnol.28,157-159;Yeung et al.(2010)Cancer Res.70,3269-3277)。
【0260】
半減期が増大したIgG分子にとって重要と見なされる1つの特性は、pH依存性を維持することである。最小のpH7.4結合量を維持しながら、FcRnに対する改善されたpH6.0結合は、改善されたPKパラメータを得る上で不可欠と見なされる(Presta(2008)Current Opinion in Immunology 20,460-470)。IgGおよびFcRn結合の研究は、pH依存性リサイクル機序が、pH約6で形成されるIgG FcおよびFcRnの間のHis-GluまたはHis-Asp塩架橋によって促進されることを実証した(Kim et al.(1999)Eur.J.Immunol.29,2819-2825;Martin et al.(2001)Mol.Cell 7,867-877)。(pKaが約6~6.5である)ヒスチジンのイミダゾール側鎖は、pH7.4では中性正味電荷を有するが、より低いpH環境内では正電荷を得る。正荷電プロトン化ヒスチジン化学種は、FcRn表面の負荷電残基と塩橋とを生成し得、この相互作用が、エンドソームの結合および再利用を促進すると考えられる。ヒトIgG Fc中では、His310およびHis435がFcRnの酸性側鎖と塩架橋を形成し、pH依存性結合に不可欠である(Kim et al.(1999)Eur.J.Immunol.29,2819-2825)。FcRnと相互作用するIgG Fcの3つの主要領域は、CH3にあるHis435ループ、CH2にあるHis310ループ、およびCH2中のM252-T256ループである(Martin et al.(2001)Mol.Cell 7,867-877)。CH2-CH3接合部のこれらの領域は、多くの場合、薬物動態(PK)特性が改変された変異体を得るために標的化される。このストラテジーを通じて、生体内半減期が増大した複数の変異体が作成された一方で(Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524;Deng et al.(2010)Drug Metab.Dispos.38,600-605;Hinton et al.(2004)J.Biol.Chem.279,6213-6216;Hinton et al.(2006)J.Immunol.176,346-356;Yeung et al.(2009)J.Immunol.182,7663-7671;Zalevsky et al.(2010)Nat.Biotechnol.28,157-159;Yeung et al.(2010)Cancer Res.70,3269-3277:Petkova et al.(2006)Int.Immunol.18,1759-1769)、外見上は改善された生体外FcRn結合特性は、生体内薬物動態の向上を必ずしももたらさなかった(Datta-Mannan et al.(2007)Drug Metab.Dispos.35,86-94;Datta-Mannan et al.(2007)J.Biol.Chem.282,1709-1717)。さらに、マウスでは、FcRnの親和性と半減期との間の相関関係は、ほとんど観察されなかった(Gurbaxani et al.(2006)Mol.Immunol.43,1462-1473)。さらに、pH6.0および7.4の両方でFcRn結合の増大があるIgGは、実際には、野生型よりも短い血清半減期と、内在性IgG分解の促進とを示し得た(Abdeg)(Vaccaro et al.(2005)Nat.Biotechnol.23,1283-1288)。これらの例は、FcRn親和性、pH依存性、および生体内クリアランス間の複雑な関係性を例証する。一般に、pH依存性を維持しながらpH6.0結合を促進させることは、半減期が増大した分子をもたらし得、pH依存性のないpH6.0結合の促進は、abdegをもたらし得ることが理解されるが、特定の変異体によって得られる結果を支配する閾値親和性およびパラメータは知られていない。
【0261】
pH結合依存性の機序、およびpH6.0 FcRn結合親和性とIgG血清半減期との間の関係性をより良く理解するために、本発明者らは、YTE変異を含有するFc基礎構造の変異誘発によって、His435ループを標的化した(M252Y/S254T/T256E)(Dall’Acqua et al.(2002)J.Immunol.169,5171-5180;Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524;Oganesyan et al.(2009)Mol.Immunol.46,1750-1755)。最初のファージディスプレイライブラリーのスクリーニングは、FcRnに対して極めて高い親和性があるが、pH依存性に劣るFc変異体(N3E-YTE)をもたらした。変異を有するIgGは、ヒトFcRnマウスモデルにおいて(Roopenian et al.(2003)J.Immunol.170,3528-3533)、Abdeg変異と類似した半減期低下を示した(Vaccaro et al.(2005)Nat.Biotechnol.23,1283-1288)。この変異を出発点として使用して、本発明者らは追加的なライブラリーを設計して、FcRn結合の改善とpH依存性の維持がある新規変異体を同定した。これらのライブラリーから同定された変異体は、IgGとして構築されて、FcRn結合および薬物動態パラメータについて評価された。FcRnに対する親和性が、YTEとの対比で3~4倍改善された変異体が特性決定され、PK特性の強化を有することが分かった。データはまた、高親和性FcRnバインダーに対する見かけのpH7.4結合閾値も示唆し、この閾値におけるより低い結合は、血清持続の増大をもたらし得るが、より強力な結合は、極めて高速なクリアランスがある分子をもたらす。
【0262】
材料および実験手順
試薬および図解
全ての化学薬品は分析等級であった。制限酵素およびDNA修飾酵素は、New England Biolabs,Inc.(Beverly,MA)から購入された。オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies Inc.(Coralville,IA)から購入された。全てのHB20.3(抗CD20)およびモタビズマブ(抗RSVFタンパク質)(Wu at al.(2007)J.Mol.Biol.368,652-665)変異体は、MedImmuneで作成された。組換えヒトFcRnは、以前記載されたように発現されて精製された(Dall’Acqua et al.(2002)J.Immunol.169,5171-5180)。抗体は、EU番号付与慣例に準拠して番号付与された(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991 NIH Pub.No.91-3242)。配列ロゴ(Schneider et al.(1990)Nucleic Acids Research 18,6097-6100)図は、Weblogoを使用して作成された(weblogo.berkeley.edu;Crooks et al.(2004)Genome Research 14,1188-1190)。
【0263】
ファージライブラリーの構築
E216(Kabat番号付与)から開始してFc C末端までをコードするIgG1 Fc(CH2中のYTEの変異を含む)DNAが、g3融合物としてファージミドベクターにクローン化された。最初の挿入ライブラリーは、位置432、433、434、436、437にNNSコドンを導入し、437の後に無作為化された1個のアミノ酸を挿入することで、His435ループ領域内に構築された。ライブラリー挿入物の作成においては、これらの位置にNNSコドンを含有する逆方向プライマーが用いられた。
【0264】
ライブラリーは、オーバーラップPCR(HiFi platinum PCR mix Invitrogen)によって作成され、2.5kVの電場で200ohmの抵抗を使用して、TG1大腸菌(E.coli)細胞(Stratagene)に電気穿孔された。細胞は、10mlのSOC培地中で37℃および250rpmで30分間で回収され、次に、カルベニシリンおよび2%グルコースを含有する2xYT寒天と共にQトレー上に播種された。翌日、100μg/mlカルベニシリンおよび2%グルコースを含有する2xYT培地中に掻き取ることで、コロニーが採取された。細胞は、0.5~1前後のODに培養された。およそ1011Mの13KO7ヘルパーファージ(Invitrogen)が導入されて、37℃で30分間振盪せずに、および30分間振盪しながら培養された。引き続いて細胞は遠心分離されて、50mlの2YT/carb/カナマイシン(50μg/ml)/0.5mM IPTGに再懸濁され、30℃および250rpmで12~16時間培養された。培養終了時に、ファージはPEG6000で沈殿されて、3mlの20mM MES pH6.0緩衝液に再懸濁された。ライブラリー作成のためのテンプレートとしてN3E-YTEを使用して、CXXXXCE(配列番号10)ライブラリーが構築された。縮重プライマーは、位置433、434、435、および436をNNSコドンでランダム化させることで設計された。ZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーでは、ライブラリー構築のためのテンプレートとしてIgG1Fc-YTEが使用された。変性プライマーは、固定ヒスチジンを位置435に保ちながら、位置433、434、および436をNNSでランダム化させることで設計された。位置432および437では、変性コドンSTEが使用されて、これらの位置にヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはグルタミンのいずれかが組み込まれた。
【0265】
最初のIgG YTE/Fcライブラリーのパニング
ビオチン化FcRnを標的として、ELISAベースのパニングアプローチが使用された。簡単に述べると、2μg/mlビオチン化ヒトFcRnおよびビオチン化マウスFcRnが、(それぞれ)96ウェルMaxisorp neutravidinイムノプレート(Pierce)の8つのウェルに被覆されて、4℃で一晩貯蔵された。次にプレートは、3%のミルクで室温で1時間ブロックされた。ウェルは、ファージが添加される前に、20mM MES緩衝液(pH6)で洗浄された。0.05%ツイーン20および3%ミルクが添加された20mM MES緩衝液、pH6.0中の100mlのファージ(6×1012PFU)が、各ウェルに添加された。プレートは、37℃で2時間培養された。ウェルは、0.05%ツイーン20および0.3M NaClを添加した20mM MES緩衝液、pH6.0で20回洗浄された。結合ファージは、100mlのPBS、pH7.4によって、37℃で30分間溶出された。溶出されたファージを使用して、指数関数的に成長するTG1細胞培養物が再感染された。感染は、37℃で30分間実施された。次に感染細胞は、2YT/カルベニシリン/グルコースプレート上に播種された。翌日、細胞は、プレートから掻き取られて、次のラウンドのためにM13KO7ヘルパーファージに再度に感染された。マウスおよびヒトFcRn上のパニングは、合計4ラウンドにわたり並行して実施された。各ラウンド後に追加的なpH7.4枯渇ステップが用いられたこと以外は同様にして、CXXXXCE(配列番号10)およびZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーが、スクリーニングされた(各4ラウンド)。pH7.4溶出後、ファージは、ビオチン化FcRnで被覆されたプレート上でpH7.4でさらに1時間培養され、非結合ファージが採取された。
【0266】
pH依存性ファージELISA
プレートは、2mg/mlヒトFcRnで4℃で一晩被覆された。次にプレートは、100mMリン酸ナトリウム緩衝液で3回洗浄されて、pH6またはpH7.4のいずれかのリン酸ナトリウム緩衝液中の3%ミルクによって、室温で1時間ブロックされた。ブロック緩衝液を除去して、pH6.0または7.4のいずれかのリン酸ナトリウム緩衝液中の10のファージが、各ウェルに添加されて室温で培養された。1時間後、プレートは、pH6またはpH7.4のナトリウムリン酸緩衝液(+0.2%ツイーン)で3回洗浄された。次に抗M13HRP(1:5000室温で30分間)が添加されて、検出に先だって、TMB基質で3回洗浄された。
【0267】
示差走査熱量分析
DSC実験は、MicrocalVP-DSCスキャニングマイクロ熱量計(Microcal)を使用して実施された。DSCで使用された全ての溶液およびサンプルは、熱量計への装入に先だって、0.22μmフィルターを使用して濾過された。DSC試験で使用された抗体は、分析SECによる測定で>98%単量体であった。DSC分析に先だって、全てのサンプルは、引き続くDSC実験のために、標準緩衝液(PBS)中で徹底的に透析された。サンプル測定値から差し引かれるベースライン測定値(緩衝液対緩衝液)が得られた。透析サンプル(1mg/mL濃度)が、サンプルウェルに添加されて、DSC測定が1℃/分の走査速度で実施された。データ解析およびデコンボリューションは、Microcalによって提供されるOrigin(商標)DSCソフトウェアを使用して実施された。デコンボリューション分析は、非二状態モデルを使用して実施され、100回の反復サイクルを使用して、最良適合が得られた。
【0268】
表面プラズモン共鳴(SPR)測定
可溶性ヒトFcRnと固定化抗体変異体との相互作用は、ProteOn(商標)XPR36(Bio-Rad,Hercules,CA)を用いて、表面プラズモン共鳴によってモニターされた(Bravman et al.(2006)Analytical Biochemistry 358,281-288)。抗体は、最初に、ProteOn(商標)アミン共役キットを使用して、製造会社の使用説明書に従って、GLCセンサーチップと共役された。過剰な反応性エステルは、1Mエタノールアミンの6分間の注入によってブロックされた。抗体は、平衡測定値では>5000RU、動態結合実験では<200RUの表面密度で固定化された。ヒトFcRnは、定常状態測定では25μL/分、反応速度測定では75μL/分の流速で、0.45nM~3μMの範囲の濃度で使用された。1つのチャネルは、常に未変更のままにして、ブランク参照表面が提供された。希釈および結合実験は、0.05%のツイーン20を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)、pH6.0またはpH7.4において25℃で実施された。定常状態結合データは、10分間にわたり収集された。抗体表面は、5mMのHClの15秒間の注入によって再生された。ヒトFcRnはまた、抗体被覆チャネルから差し引くためのブランクの役割を果たす標準チャネル上に流された。結合親和性は、ProteOn(商標)Managerソフトウェア(BioRad)を使用して判定された。分離定数(Ks)は、1:1ラングミュアまたはa1:1ラングミュア質量移動モデルを用いて、対応する結合等温線を定常状態データに適合させることで、または動態を結合および分離に適合させることで判定される。
【0269】
HFcRn遺伝子組換えマウスおよび薬物動態分析
この試験で使用されたHFcRn遺伝子組換えマウスは、mFcRn欠損B6.129X1-Fcgrttm1Dcr/DcrJとhFcRn cDNA遺伝子組換え系統B6.Cg-Fcgrttm1DcrTg(CAG-FCGRT)276Dcr/DcrJとのF1交雑種であった(Roopenian et al.(2003)J.Immunol.170,3528-3533;Chaudhury et al.(2003)The Journal of Experimental Medicine 197,315-322)。これらの動物中のhFcRnの発現は、逆転写(RT)-PCR、ウエスタンブロット、および生体内機能アッセイによって検証されている(Chaudhury et al.(2003)The Journal of Experimental Medicine 197,315-322)。
【0270】
性別をマッチさせた(6~16週齢)HFcRnマウスに、0日目に2.5mg/kg抗体のボーラスIV用量が投与された。抗体当たり8匹のhFcRn Tgマウスが使用され、交互の時点で4匹のマウス(A群またはB群)が採血された。血液サンプルは、3週間試験全体を通じて異なる時点で、毛管ピペットを使用して眼窩後方神経叢から得られた。定量的ELISAを使用して、抗体の血清濃度がモニターされた。簡単に述べると、96ウェルプレートが、2μg ml-1の特異的なAffiPureヤギ抗ヒトf(ab)2断片(Jackson Immunoresearch)で被覆された。プレートは、PBS中の3%BSAで1時間ブロックされ、次に、適切に希釈された(より初期の時点では1:200、その後の時点では1:50または1:100)血清サンプルと共にインキュベートされた。ヤギ抗ヒトFd特異的HRPコンジュゲート抗体(Southern Biotechnology Associates,Inc.)を使用して、ヒト抗体が検出された(希釈1:10000)。製造業者の指示に従って、TMB基質(KPL Inc.)による発色後に、405nmにおける吸光度が測定された。予備採血マウス血清(3日前に採取された)中で1:100に希釈された各抗体変異体について、標準曲線(10μg/mlで開始される)が作成された。次に、Prizm(GraphPad Software,Inc.)中で作成された標準曲線の直線部分を使用して、血清サンプル中のヒトIgGが定量化された。
【0271】
カニクイザル中の薬物動態分析
16匹のメスカニクイザルが無作為化されて、3つの試験群の1つに割り当てられた。各動物に、10mg/kgで、モタビズマブ、モタビズマブ-YTE、モタビズマブ-N3またはモタビズマブY31-YTEが、1回の静脈内(i.v.)用量で投与された。0日目の投与前、投与の1、4、および12時間後、および投与の2、3、4、8、15、22、29、43、57、71、および85日後に、血液サンプルが採取された。モタビズマブ抗体血清濃度は、以前記載された抗モタビズマブELISAを使用して判定され(Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524)、試験された各変異体について、別々の標準曲線が作成された。SAS8.0(SASInstitute、Cary、NC)を使用して、各i.v.輸液について、ノンコンパートメント法モデルが、各動物の血清濃度データのために適合された。次に、いくつかの薬物動態学パラメータの記述統計が、計算された。
【0272】
結果
YTE変異株ライブラリーからの結合改善Fc変異体の同定
以前の結果は、YTEなどの、pH6.0におけるFcRn結合を改善するIgGのFc領域に作成されたアミノ酸変異が、カニクイザルをはじめとする実験動物中で、抗体血清半減期を大幅に増大させることを実証した(Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524;Zalevsky et al.(2010)Nat.Biotechnol.28,157-159)。しかし、YTEと、酸性および中性pHの両方でFcRn結合を促進する追加的なH435ループ(H433K/N434F)変異との組み合わせは、血清半減期が極度に低下したAbdeg分子をもたらした(Vaccaro et al.(2005)Nat.Biotechnol.23,1283-1288;Montoyo et al.(2009)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.106,2788-2793)。YTE変異が、野性型IgGと同様にpH7.4で低いFcRn結合維持する(Dall’Acqua et al.(2002)J.Immunol.169,5171-5180)のに対し、Abdegは、酸性および中性pHの両方でFcRn結合増大を有する。新規高親和性FcRn結合変異体を同定するために、本発明者らは、IgGのFc領域にヒスチジン435を含有する重要なFcRn結合部位の1つのアミノ酸を標的化し、435ヒスチジンを無変化のままにして、CH3のアミノ酸432~437の間に無作為化配列を含有する、変異体ライブラリーを構築した。さらに、追加のランダムアミノ酸コドンが、位置437の後(437)に挿入されて、YTE変異があるFc断片中の追加的なFcRn結合接触が、有益であると立証されるかどうかが判定された。次に多様体Fcライブラリーは、M13ファージ表面に提示されて、pH6.0緩衝液中でELISAウェル内に被覆された組換えヒトFcRnタンパク質に対するFcRn結合変異体が選択された。パニング結果の配列解析は、432および437の位置にシステインを含有するユニークな変異体群を明らかにした。次に1つの変異体N3E-YTE(表1)およびその誘導体が、HB20.3抗CD20IgGバックグラウンドに変換された。SPR結合解析は、例えば、N3E-YTEなどの二重システイン変異体のあるIgGが、pH6.0においてYTE変異体よりも50倍以上FcRn結合を改善したことを示した(表1)。しかし、FcRnに対する変異体のpH7.4における結合もまた顕著に増大して、pH結合依存性が劣った。
【0273】
【表1】
【0274】
【0275】
本発明者らは、いずれの変異がFcRn結合に貢献したのかを理解するために、N3E-YTE変異をさらに精査した。残基437(N3-YTE)のグルタミン酸挿入の除去は、pH6.0およびpH7.4結合に軽微な影響を及ぼし、432~437の配列多様性が、観察された結合改善の大部分をもたらすのに十分であることが示唆された。432および437におけるシステインの役割を評価するために、それらをセリンで置換した(SerN3-YTE)。結果として得られた変異体は、pH6.0およびpH7.4の両方でFcRn結合低下を示し、システイン間にジスルフィド結合が形成して結合にプラス方向に寄与してもよいことが示唆された。L432CとT437Cの間に野性型残基がある追加的な変異体(CwtC-YTE)を作成して、FcRn結合に対してシステインが単独でどのような役割を有するのかを判定した。このコンストラクトは、親YTEコンストラクトよりもわずかに弱くFcRnと結合し、システイン変異のみでは、結合増大をもたらさないことが示唆された。YTEのpH結合依存性がH435ループの変異によって改変され得るという本発明者らの観察は、以前の研究に合致し(Dall’Acqua et al.(2002)J.Immunol.169,5171-5180;Vaccaro et al.(2005)Nat.Biotechnol.23,1283-1288)、FcのFcRnに対するpH依存性結合におけるH435およびそのループの役割を支持する。N3E-YTEからグルタミン酸挿入(N3-YTE)およびYTE変異(N3E)を別々に除去するのに加えて、本発明者らは、両方が除去されたコンストラクト(N3)もまた作成した。N3は、N3E-YTEと比較してpH依存性を改善した(表1)。
【0276】
L432C、T437CはC3領域を安定化する
FcX線構造中のL432およびT437中のCα距離および側鎖方向は、システインへの変異に際して形成するジスルフィド結合と適合性のようである。YTE-Fcの結晶構造を使用して(Oganesyan et al.(2009)Mol.Immunol.46,1750-1755)、本発明者らは、L432およびT437間のCα距離が6.7Aであると判定した。この距離は、複数の結晶構造の分析に基づいて報告されているシスチンについて観察されたCα距離範囲(約4.6~7A)内にある(Petersen et al.(1999)Protein Engineering 12,535-548)。タンパク質内のジスルフィド結合形成の安定化効果は良く知られているため、本発明者らは、示差走査熱量測定(DSC)を実施して、L432C/T437Cを含有する変異体中で、C3領域が安定化されているかどうかを調べた(図3)。HB20.3のDSCプロファイルは、83.3℃のC3Tからなり、FabおよびC2ドメインのいずれも、73℃で1つのピークとしてアンフォールディングする。YTE HB20.3は、野性型とほぼ同一のFabおよびC3アンフォールディングを有するが、C2Tは65.1℃でわずかにより低い。CwtC-YTE(YTE変異があるL432C/T437C)は、87.1℃のC3Tを有し、野性型C3よりもほぼ4℃高い。興味深いことに、C3が大幅に安定化された一方で、C2TではYTE-HB20.3と比較して約3℃低下した。N3-YTEおよびSerN3-YTE(432および437にシステインまたはセリンのいずれかを有することにより異なるコンストラクト)の比較は、L432C/T437Cによって引き起こされる著明な安定化効果をさらに例証する。SerN3-YTEの最低Tは58.7℃で、C3Tが80℃を十分下回るのに対し、N3-YTEのDSCプロファイルはCwtC-YTEのものとほぼ一致して、C3Tは87.1℃に増大する。
【0277】
pH結合依存性YTE変異体の操作および選択
本発明者らは、pH6.0で高い親和性結合を維持しながらpH7.4結合が低下した変異体を得る目的で、His435ループに新規ライブラリーを設計した。本発明者らはまた、本発明者らのファージ選択条件を修正して、パニング中で、pH依存性高親和性FcRnバインダーのより厳密な選択ができるようにした。本発明者らは、H435(CXXXXCE(配列番号10)ライブラリー)を含むCys432およびCys437間の介在配列のランダム化によって、N3E-YTEに基づいてライブラリーを作成した。中性pHにおける結合を防止するために、pH6.0溶出ステップ後に、pH7.4枯渇ステップが導入された。次に、非結合ファージを使用して、増幅および特性決定のために細菌で感染された。ファージELISAもまた開発して、pH依存性パニングに続いてクローンの結合を特性決定した。このアッセイでは、クローンファージを使用して、pH6.0および7.4の条件のいずれかの下で被覆FcRnウェルに結合させた。pH6.0における結合、ならびにpH6.0および7.4における結合比が、親N3E-YTEおよびYTE保有ファージと比較された。4ラウンドのパニング後に選択されたファージクローンは、ELISA中でpH結合依存性についてスクリーニングされた。ほぼ全てが、アッセイ中でpH6.0におけるYTE対照と同様のまたはさらに良い、FcRnに対する予期された高い結合を示した一方で、いくつかのクローンは、pH7.4における顕著に低下した結合、またはより高いpH6.0対7.4結合比を示し、N3E-YTEと比較して改善されたpH結合依存性が示唆された。4ラウンドのパニング後に単離された56個のクローンの配列解析は、His435が非常に豊富であることを示した(図4A)。大部分のラウンド5クローンは、H435を含有し、FcRn結合中のこの位置におけるヒスチジンの重要な役割が確認された。配列解析は、これらのクローンが、433、434または436に正荷電残基もまた含有することを示す。ファージELISAを通じて改善されたpH6/7.4結合比があるラウンド4クローンの一部は、435に隣接する正荷電残基がなおさらに豊富であった(図4B)。
【0278】
位置432および437におけるシステイン残基をヒスチジンをはじめとする荷電残基で置換するために、追加的なライブラリーが設計された。Cys432およびCys437はN3E-YTE中にジスルフィド結合を形成する可能性が高いため、本発明者らは、システイン位置におけるN3E-YTE中の硬質システインループ束縛を荷電アミノ酸で置換することが、ループ位置に、pH依存性FcRn結合に有益であり得るpH依存性変化を導入してもよいと推論した。仮説を試験するために、本発明者らは、H435を無変化(ZXXHXZ(配列番号14)ライブラリー)のままにした一方で、Cys432およびCys437をグルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、ヒスチジン(H)で置換して、ランダムアミノ酸が位置433、434、および436にあるライブラリーを設計した。このスキームでは、「Z」は、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、またはグルタミンであり得る。グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)またはヒスチジン(H)は、432および437に導入されて、グルタミン酸またはアスパラギン酸およびヒスチジン間にpH依存性塩橋の可能な形成ができるようにし、または局所性静電変化に対して感受性であってもよい負荷電残基の導入ができるようにしてもよい。クローニングにおける変性オリゴヌクレオチドの使用のために、グルタミン(Q)もまた、これらの位置432および437でコードされた。ZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーには、各パニング溶出に続く追加的なpH7.4結合枯渇ステップと共に、4ラウンドのパニングが実施された。4ラウンドのパニングに続いて個々のファージクローンが配列決定され、ならびにCXXXXCE(配列番号10)ライブラリーパニングおよびスクリーニングに記載されるようにして、ファージELISA中で結合スクリーニングが実施された。CXXXXCE(配列番号10)ライブラリーの結果とは異なり、ZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーから選択されたクローンの大部分は、ファージELISA中におけるpH6.0とpH7.4との高い結合比によって実証される、N3E-YTEと比較して改善されたpH結合依存性を示した。さらに、配列決定パターンが、ファージELISAによってpH依存性同定されたクローン中で明らかにされた(図4C)。pH依存性は、引き続いて、IgGへの変換時にSPR分析によって確認された(表1)。結果は、FcRnに対する高親和性pH依存性結合を獲得したクローンでは、位置433および436には(通常はアルギニンである)正荷電アミノ酸が好ましく;位置434では疎水性アミノ酸、チロシン、またはフェニルアラニンが好ましいことを示した。興味深いことに、このライブラリーからのpH依存性結合クローンは、それぞれ位置432および437でコードされるグルタミン酸(E)およびグルタミン(Q)が非常に豊富である。結果は、H435の近くにおける表面帯電電位の操作が、高親和性およびpH依存性FcRn結合Fc変異体を同定するのに有効であることを示唆した。H435の近くにおける平衡荷電表面の適応は、pH依存性変化の影響を受け易くあってもよいこれらの位置におけるヒスチジン残基の欠如にもかかわらず、FcRn結合に有益なようである。
【0279】
IgGとしてのFcRn結合変異体のSPR結合特性決定
ファージスクリーンにおいてpH結合依存性を示した、CXXXXCE(配列番号10)およびZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーからの変異体のパネルが選択されて、さらなる特性決定のために、IgG1(HB20.3、抗-CD20)として発現された。表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、ヒトFcRnに対する精製mAbの結合が、pH6.0およびpH7.4の両方で測定された。表1は、選択されたmAbの配列および結合結果を要約する。CXXXXCE(配列番号10)またはZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーのいずれかに由来する全ての試験された変異体のpH7.4結合は、予期されたN3E-YTEと比較して低下したFcRnに対する結合と、YTE IgGに類似した多数の結合レベル(約5μM)を示した。ファージELISA中でpH依存性を示したCXXXXCE(配列番号10)変異体は、IgGとしてpH依存性結合を維持したが、これらの変異体は、pH6においてYTEと比較して親和性の改善を示さなかった。多数のZXXHXZ(配列番号14)変異体は、YTEとの対比で有意なpH6.0親和性改善を実際に示した一方で、pH依存性結合もまた維持した。例えば、Y3-YTE、Y12-YTE、およびY31-YTEなどの複数の変異体は、pH6.0でYTEよりも3~9倍高いFcRnに対する結合親和性を示した一方で、pH7.4における結合は、基準点と同様のままであるか、またはより弱かった。これらの結果は、クローンを選択および同定するのに使用されたライブラリーおよびパニングストラテジーの有効性を確認する。
【0280】
CXXXXCE(配列番号10)およびZXXHXZ(配列番号14)クローンならびにN3E-YTE変異体および誘導体のpH6.0および7.4結合親和性は、四分区間にグループ化された(図5A、5B、5C)。四分区間Iは、おそらく「YTE様」特性を示す、高いpH6.0結合および低いpH7.4結合がある変異体を含有する。四分区間IIは、おそらく「野性型様」特性を示す、低いpH6.0およびpH7.4結合があるクローンを含有する。四分区間IIIは、おそらく「Abdeg様」特性を示す、高いpH6.0および7.4結合がある抗体を含有する。四分区間IVは、これらの研究では全く単離されていない、高いpH7.4および低いpH6.0結合物を含有する。
【0281】
追加的なIgGバックグラウンド中のFcRn結合:モタビズマブ
抗CD20 IgG1バックグラウンド中で望ましいFcRn結合特性を有することが分かった少数のクローンが追加的なIgG1バックグラウンド、モタビズマブに移行されて(Wu at al.(2007)J.Mol.Biol.368,652-665)、異なる可変領域に関連してクローンFcRn結合特性が確認された。以前の研究が示したように、可変領域は、wt Fcバックグラウンド中のFcRn結合変動性に寄与することができ(Suzuki et al.(2010)J.Immunol.184,1968-1976;Wang et al.(2011)Drug Metab.Dispos.39,1469-1477;Datta-Mannan et al.(2012)Drug Metab.Dispos.40,1545-1555)、本発明者らは、本発明者らの変異体のFcRn結合特性が移転可能であることの確認を望んだ。ZXXHXZ(配列番号14)ライブラリークローンY12-YTE、Y31-YTE、およびY3-YTEが、モタビズマブ可変領域のあるIgGとして作成された。これらのクローンならびにYTEおよびN3E-YTEのpH6.0結合は、抗CD20バックグラウンドのものと一致する(表2)。興味深いことに、結合増大(Y31-YTE)または結合低下(YTE)のいずれかを伴って、クローンが異なる抗体可変領域に移行すると、pH7.4結合は変動する。さらに、Y12-YTEおよびY31-YTEクローンもまた、例えば、Y12およびY31などの野性型MotaFcバックグラウンド(YTEを欠く)中で作成された。これらのコンストラクトは、FcRn結合に対するH435ループ変異単独の貢献度を示すために作成された。Y12およびY31は、pH6.0におけるFcRn結合の増大およびpH依存性(pH7.4における低い結合)を維持しなかった。これらのデータは、Y12およびY31などのYTEおよびH435変異が、pH依存性結合に対して相加的効果を有することを示唆する。pH6.0で89nMのKd、pH7.4で1630nMのKdがあるmN3は、モタビズマブバックグラウンド中で、抗CD20バックグラウンド中と同様の結合を有した。
【0282】
【表2】
【0283】
【0284】
ヒトFcRn遺伝子組換えマウスモデルにおける血清クリアランス
次に、本発明者らは、ヒトFcRn遺伝子組換えマウスを使用して、様々なpH感受性のFcRn結合変異体の血清クリアランスを調べた(Roopenian et al.(2003)J.Immunol.170,3528-3533;Chaudhury et al.(2003)The Journal of Experimental Medicine 197,315-322)。PK試験では、hFcRn Tgマウスに、0時間目に2.5mg/kgボーラスIV用量が投与され、抗体注射の30分後~21日後の異なる時点で採血された。マウス血清中のヒト抗体濃度は、ELISAによって定量化された。
【0285】
表2は、モタビズマブおよびそのFc変異体のPK結果、最低DSC Tm、ならびに配列および結合特性を要約する。選択された抗体血清濃度-時間プロファイルが報告される(図6A)。予期されたように、YTE変異は、モタビズマブと比較して、血清クリアランスをおよそ2.4倍低下させた。YTEは、hFcRn Tgマウスモデルにおいて、一貫して低い抗体クリアランス速度をもたらし、この変異体が、FcRn結合を通じたリサイクルの増大に必要かつ十分な条件を満たすことが示唆される。高親和性pH6.0結合があるがpH結合依存性が欠如している変異体、N3E-YTEは、モタビズマブよりも約6倍迅速な373mL/日/kgの極度に高速な血清クリアランスを示し、FcRn媒介性抗体リサイクルにおけるpH依存性結合の重要性が繰り返される。クローンY31-YTEはまた、モタビズマブと比較して約2.4倍のクリアランス低下も示し、YTEと同レベルである。25.2mL/日kgのクリアランスがあるN3もまた、半減期延長についてYTEと同レベルであった。興味深いことに、YTEの存在下または不在下で試験された全ての(N3E-YTEを除く)pH結合操作変異体は、野性型モタビズマブと比較して、血清クリアランスを有意に低下させ、薬物動態が向上された新規変異体を同定する本発明者らのアプローチが確認された(図6B)。PKパラメータが改善された変異体は、モタビズマブと比較して約4~40倍強力である様々なpH6.0親和性を有した。興味深いことに、25nMのpH7.4親和性が、極めて劣るクリアランス速度(N3E-YTE)をもたらした一方で、約1μM親和性のpH7.4結合がある変異体は、半減期の増大をなおも示した。
【0286】
モタビズマブ変異体のFcγRおよびC1q結合も評価された。興味深いことに、N3を除く大部分の変異体は、モタビズマブと比較して、特定のFcγRに対する結合が低下した。これらの結合の変化は、いくつかの受容体に対する軽微(<2倍の低下)から、完全に寄進された(oblated)結合(Y12-YTEの場合のように)に及んだ。興味深いことに、YTE変異のみでさえも、FcγRIII、FcγRIIa、およびFcγRIIb中で死去した(deceased)結合を引き起こし、いくつかのエフェクター機能は、YTEバックグラウンド中で低下されてもよいが、N3バックグラウンド中では低下されないことが示唆された。
【0287】
カニクイザルにおけるN3&Y31-YTEの薬物動態
新規Fc変異体は、hFcRnマウスにおいて低いクリアランスを示し、次にY31-YTEは、カニクイザルにおいてYTEおよび野生型モタビズマブと比較された。それぞれ4匹の動物群に、モタビズマブまたはモタビズマブ-Fc変異体の単一ボーラス注射が投与され;続く85日間にわたり、血清サンプルが採取された。以前の研究に合致して(Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524)、YTE-モタビズマブは、野生型モタビズマブとの対比で、改善された薬物動態特性を有した。Y31-YTEはまた、モタビズマブとの対比で、改善された薬物動態特性も有した(表3)。Y31-YTE群3匹の動物は、500~1000時間の間に、Y31-YTE血清濃度に突然の低下を有し、おそらく抗薬剤抗体がY31-YTEモタビズマブを排除したことが示唆された。野性型およびYTE群では、この期間内には同様の低下は見られなかった。
【0288】
【表3】
【0289】
N3の免疫原性評価
N3変異が、免疫原性T細胞エピトープを導入するかどうかを評価するために、N3-モタビズマブとモタビズマブが、生体外T細胞増殖実験で比較された。200人を超えるドナーからのPBMCは、これらの実験で使用された幅広いHLAハプロタイプを表す。PBMCは、モタビズマブ、N3-モタビズマブ、緩衝液単独、または免疫原性KLHタンパク質のいずれかと共に培養された。T細胞増殖が測定されて、結果は刺激指標(SI)として定量化され、ドナーPBMCのT細胞増殖が、緩衝液のみの対照のものと比較された(SI=1)。KLHタンパク質がSIの有意な増大を有した一方で、モタビズマブおよびN3-モタビズマブはいずれも有しなかった(図7A、7B)。これらのデータは、このようにして測定された際に、N3変異が低い免疫原性を有することを示唆する。
【0290】
YTE変異体と比較したN3変異体のオプソニン作用死滅
N3およびYTEとFcγ受容体との結合データは、N3が親Fcγ受容体結合を維持する一方で、YTEはFcγR結合の低下を有することを示唆した(表2)。本発明者らは、これらの変異体の異なるFcγR結合親和性が、生体外で異なるエフェクター機能を引き起こし得るかどうかを評価し、本発明者らは、抗シュードモナス属(Pseudomonas)抗psl抗体Cam004のYTEおよびN3変異体の両方を作成した(DiGiandomenico(2012)J.Exp.Med.209(7):1273-87)。これらのコンストラクトは、患者由来の多形核細胞をエフェクターとして、ルシフェラーゼ発現シュードモナス属(Pseudomonas)株(PAO1:lux)を標的抗体として使用して、オプソニン作用死滅アッセイ中で試験された。結果は、N3が、親抗体Cam004と同様のOPKを示した一方で、YTEがOPKの低下を有したことを示す(図8)。
【0291】
N3変異体の安定性
液体製剤中のN3モタビズマブ(50mg/mlのpH7.2のPBS緩衝液)に、加速安定性試験が実施された。抗体製剤は4℃、25℃、または40℃で、1ヶ月間インキュベートされた。毎週、アリコートが採取され、HPSECによって分析されて、単量体含有量ならびにあらゆる断片化または凝集が判定された。図9のデータは、時間と対比されたモノマー損失を描写し、N3変異体の1ヶ月あたりの損失が40℃では1.2%であり、25℃ではわずか0.3%と、かなり安定していることを示す。これらのデータは、N3変異がFc領域の安定性に影響を及ぼさないことを示す。
【0292】
考察
IgGのFc領域は、治療用抗体の効力および有効性を改変し得る変異の格好の材料を提供する。無数の異なる研究が、生体内半減期またはエフェクター機能が改変された、Fc変異体を同定している(Strohl(2009)Curr.Opin.Biotechnol.20,685-691;Presta(2008)Current Opinion in Immunology 20,460-470;Lazar et al.(2006)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.103,4005-4010)。広い薬物動態学的パラメータがある抗体の可能な利点としては、有効性を維持しながら、または改善さえしながら、投与頻度の低下をもたらす、特定の治療用ウインドウに適合させるためのより良い調節が挙げられる(Zalevsky et al.(2010)Nat.Biotechnol.28,157-159)。スペクトルの対極は、半減期の低下を有するFc変異体である。これらの抗体は、イメージングの明確さのために、および毒性を低下させるために、迅速なクリアランス速度が望ましい、陽電子放出断層撮影(PET)イメージングなどのイメージング目的で有用であってもよい(Kenanova et al.(2010)Engineering of the Fc Region for Improved PK(FcRn Interaction).pp 411-430;Olafsen et al.(2006)Nature Protocols 1,2048-2060)。Abdegは、改変されたFcRn結合があるFc変異体の第3のクラスである(Vaccaro et al.(2005)Nat.Biotechnol.23,1283-1288)。内在性IgGレベルを低下させるAbdegの能力は、場合により、破壊的自己抗体によって特徴付けられる特定の自己免疫疾患を改善するために使用され得る(Killock(2011)Nat Rev Rheumatol 7,496-496;Patel et al.(2011)J.Immunol.187,1015-1022;Challa et al.(2013)mAbs 5,655-659 Epub)。Fc-FcRn相互作用の操作に由来する、不同性生体内薬物動態予後を区別するパラメータをより良く理解するために、本発明者らは、Fcファージディスプレイを使用して、高親和性バインダーを選択した。
【0293】
YTEバックグラウンド中で高親和性FcRn結合変異体を選択する本発明者らの最初の試みは、pH6において、FcRnに対して、既に親和性が増大されたYTE変異体の>50倍強力な結合があるN3E-YTEをもたらした。位置437後のグルタミン酸挿入変異は、その除去時の6倍低い結合によって証明されるように、親和性の増大に寄与した(表1)。位置434および436の挿入および疎水性残基に加えて、N3E-YTEは、位置432および437に2つのシステインを含有する。His435ループ基部におけるシステインの位置調整、それらの側鎖の近さと近接性と方向、およびこれらの変異の安定効果は、それらが互いにジスルフィド結合を形成すると本発明者らが考えるように導いた。本発明者らは、引き続いてペプチドマッピングによってこれを確認した。示差走査熱量測定は、CH2の軽微な不安定化効果という代償で得られる、CH3に対するL432CおよびT437Cの安定効果を確認する(図3)。これらのデータは、両方のシステインがループの安定性にとっておそらく重要であること、および介在配列が親和性の増大とpH感受性損失との大部分をもたらすことを示す。N3E-YTEで見られた低いpH依存性は、予想外ではなかった。N434Wのみが、pH6.0および7.4の両方でFcRn結合増大を有することが報告されている(Yeung et al.(2009)J.Immunol.182,7663-7671)。さらに、YTE変異を2つの追加的なH435ループ変異と組み合わせるMST-HN変異(M252Y、S254T、T256E、H433K、N434F)もまた、pH依存性の低下を示し、abdegを生じる(Dall’Acqua et al.(2002)J.Immunol.169,5171-5180;Vaccaro et al.(2005)Nat.Biotechnol.23,1283-1288。
【0294】
この最初のデータから、2つの追加的なライブラリー、CXXXXCE(配列番号10)およびZXXHXZ(配列番号14)の作成がもたらされた。これらのライブラリーは、次にpH7.4枯渇ステップでパニングされて、pH非感受性バインダーが排除され、単離されたクローンはファージELISAによって評価された(図5Aおよび5B)。ZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーは、ファージELISAを通じてより多くの高親和性pH依存性バインダーをもたらし、CXXXXCE(配列番号10)ライブラリー中の432および437システインによって引き起こされる拘束の緩和が、pH依存性を再導入するのに有益であってもよいことが示唆された。注目すべきことに、CXXXXCE(配列番号10)ライブラリーは、(ZXXHXZ(配列番号14)を欠く)残基437の後にグルタミン酸挿入もまた含有し、これもまた、これらのライブラリーから同定された変異体の不同性結合プロファイルの一部を説明し得た。興味深いことに、pH感受性結合と共に、YTE単独よりも高い親和性を維持したZXXHXZ(配列番号14)ライブラリーから同定された変異は、位置434の疎水性残基と共に、433、436のいずれか、または両方の荷電残基からなった(表1)。正荷電の増大は、これらの変異体のpH依存性に寄与してもよい。
【0295】
変異体N3は、HuFcRnマウスおよびカニクイザルにおいて、YTEと同様の薬物動態を有することが示され、さらにYTEとは異なり、野生型IgGと同様にFcγおよびdC1q結合を維持する。さらにこれもまたYTEとは異なり、N3は、親IgGinシュードモナス属(Pseudomonas)PA01 lux系と同等のOPK活性を有することが分かった(図8)。さらに、N3変異体は、貯蔵時にFc領域の安定性に影響を及ぼさない。したがってN3は、例えば、より長い半減期と強力なエフェクター機能が望ましい、感染性因子を標的化する抗体媒介性のクリアランス用途で使用される修飾IgGとして、実用性を有することが予期される。
【0296】
本発明者らのデータは、FcRn媒介性半減期延長には、おそらく閾値レベルがあり(図6B)、この閾値を超えてもさらなるPK改善がもたらされないことを示唆する。実際に、FcRn親和性をこの閾値を超えて過剰に増大させることは、野生型よりも短い半減期を示す、N3E-YTEまたはMST-HNのような分子をもたらし(Montoyo et al.(2009)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.106,2788-2793)、通常のIgGリサイクルを撹乱させてもよい(Vaccaro et al.(2005)Nat.Biotechnol.23,1283-1288)。意外にも、本発明者らは、1μM程度に低いpH7.4結合がある変異体が、なおも、YTE単独と同レベルの生体内半減期の増大を維持することを発見した(表2)。24nMのpH7.4KがあるN3E-YTEは、極めて高速なクリアランスを示した。本発明者らは、このおよそ1μMの閾値未満に、pH6.0における結合強化がある変異体が、PK増大、もしくは野性型よりも迅速なクリアランスを示すAbdeg様のいずれになるかを決定する臨界点があるようであることを提案する。
【0297】
HuFcRnマウスにおいて最長半減期がある変異体、N3およびY31-YTEは、野性型モタビズマブよりも約3倍優れたクリアランスと、約5倍長い半減期とを有した。これらの変異体は、記載される最高のPK改善変異体の部類に入る(Presta(2008)Current Opinion in Immunology 20,460-470)。親抗体と比較した半減期またはクリアランス速度のおよそ3~5倍の増大は、報告された中で最大のFcRn結合改変によって達成される改善である(Dall’Acqua et al.(2006)J.Biol.Chem.281,23514-23524;Zalevsky et al.(2010)Nat.Biotechnol.28,157-159)。カニクイザルにおける薬物動態データもまた同様に、野性型モタビズマブと対比したY31-YTEおよびN3の改善を示した。本発明者らおよび他の研究者らのデータに照らして、純粋にFcRn結合をさらに改変することで、3~4倍のPK増大を超えて顕著に改善する余地があるとは想像しがたい。本発明者らは、FcRn結合変異をpI操作(Dahiyat et al.(2012)U.S.Pat.Pub.20120028304 published Feb.2,2012)、PEG化(Jevsevar et al.(2010)Biotechnol.J.5,113-128)、Pas化(Schlapschy et al.(2013)Protein Eng.Des.Sel.26,489-501)、pH依存性抗原結合(抗原シンク効果を低下させるための)(Igawa et al.(2010)Nat.Biotechnol.28,1203-1207;Igawa et al.(2011)Protein Eng.Des.Sel.23,385-392)などのFcRn非依存性半減期延長技術と組み合わせることで、Fc含有分子のさらにより長い生体内半減期が達成され得ることを予見する。
【0298】
実施例II
pH依存性抗原結合による抗体媒介性のクリアランスに依存する治療ストラテジーのための抗体形式
抗体は、それらの抗原に対するpH依存性結合のために操作されている。操作抗体は、循環(pH7.4)中の抗原に結合してクリアランスを媒介するが、選別エンドソーム(pH6)中にそれを放出し、その結果、FcRnを通じて抗体をリサイクルできるようにする一方で、後に残された抗原はエンドソーム内で分解される。
【0299】
pH7.4および6.0の両方でFcRnに対する高親和性がある抗体形式が、本明細書に記載される。一実施例は、同等の野生型抗体よりも短い半減期を示す、実施例Iに記載されるN3E-YTEである。N3E-YTEおよびその類似物のより短い半減期の可能な説明としては、これらの抗体が細胞表面でFcRnと結合したままであり、その結果、血清サンプル中で検出されなくてもよいことが挙げられる。それらがFcRnと複合体形成して、エンドソーム内に循環される場合、この形式は、抗原クリアランスのためにはるかにより効率的であると予測される(図10を参照されたい)。
【0300】
したがって、より効率的な抗体媒介性のクリアランスが想定される。生理学的pH(pH7.4)および低pH(pH6)の両方で、FcRnに対して高親和性がある抗体形式は、エンドソーム区画内および細胞表面の両方でFcRnと結合してもよい。その結果、それは細胞表面の抗原に結合して、エンドソームへの内部移行を活発に媒介し、それは抗原クリアランスにとってはるかにより効率的である。さらに、抗体駆動性エンドサイトーシスは、免疫系の血清含有量のサンプリングを支持してもよい機序である(Kuo TT et al,J Clin Immunol(2010)30:777-789)。したがって効率の増大は、本明細書に記載されるように、生理学的なpHにおけるFcRn親和性を増大させることで可能になる。
【0301】
このような抗体の有効性は、生体内で試験され得る。臨床的関連性があるモデル系は、PCSK-9である。pH依存性結合のある抗PCSK-9抗体が知られている(Chaparro-Riggers et al.,2012,JBC 287:11090-11097)。その抗原とのpH依存性結合のために操作された抗PCSK-9抗体の可変領域は、改変されたFcRn結合を有する、四分区間IおよびIIIに入る抗体基礎構造のいずれかに組み込まれ得る。場合によっては、四分区間IIIに入る構造に基づくものが好ましいこともある。このような抗体作成は、本明細書に記載される手順を使用して達成され得、野生型抗PCSK-9と並べて比較できるようにする。様々な時点における外来性PCSK9のクリアランス速度は容易に測定され得る。pH依存性結合がある任意のその他の抗体が、同様の研究のために使用され得る。このシステムは、抗体クリアランスに依存する全ての用途のために、有効性の増大を提供し、その中ではpH依存性抗原結合がある抗体が遺伝子操作され得る。
【0302】
本明細書で引用される全ての特許、仮特許出願をはじめとする特許出願、特許文献および非特許文献をはじめとする文献、および電子的に利用できる情報(例えばGenBankおよびRefSeqなどのヌクレオチド配列登録、ならびに例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBなどのアミノ酸配列登録、ならびにGenBankおよびRefSeq中の注釈付きコード領域からの翻訳物を含む)の完全な開示は、参照により援用される。前述の詳細な説明および実施例は、理解を明確にするためにのみ示された。不要な限定がそれから解釈されるべきではない。本発明は、示されて説明される正確な詳細に限定されず、当業者に明白である変形形態は、特許請求の範囲によって定義される本発明に含まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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