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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】耐火性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20221220BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221220BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20221220BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20221220BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20221220BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20221220BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/32
C09K21/14
C09K21/04
E04B1/94 U
C08L21/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021098097
(22)【出願日】2021-06-11
(62)【分割の表示】P 2017182955の分割
【原出願日】2017-01-20
(65)【公開番号】P2021165391
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2016008492
(32)【優先日】2016-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016230006
(32)【優先日】2016-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(72)【発明者】
【氏名】土肥 彰人
(72)【発明者】
【氏名】矢野 秀明
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-043641(JP,A)
【文献】特開2008-115359(JP,A)
【文献】特開2009-138147(JP,A)
【文献】特許第6908483(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C09K 21/14
C09K 21/04
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び低級リン酸塩(但し、1000℃以下の温度で軟化又は溶融する低融点ガラスを除く。)を含有する耐火性樹脂組成物であって、耐火性樹脂組成物中の低級リン酸塩の含有量が5質量%以上であり、可燃物成分量が65質量%以下であり、熱膨張性黒鉛の含有量が15~50質量%であり、前記マトリクス樹脂がゴム物質を含むことを特徴とする建具用耐火性樹脂組成物。
【請求項2】
耐火性樹脂組成物が液状添加剤をさらに含有し、耐火性樹脂組成物中の液状添加剤の発火点が350℃以上であり、その含有量が10質量%以上である請求項1に記載の建具用耐火性樹脂組成物。
【請求項3】
低級リン酸塩がリン酸金属塩及び亜リン酸金属塩のうちの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1又は2記載の建具用耐火性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリリン酸塩を含有しないか、ポリリン酸塩を含有し、ポリリン酸塩を含有する場合、前記ポリリン酸塩の前記低級リン酸塩に対する塩含有量比(ポリリン酸塩/低級リン酸塩)が1.0以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の建具用耐火性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物から形成された建具用耐火部材。
【請求項6】
成形体である請求項5に記載の建具用耐火部材。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の建具用耐火部材を用いた防火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2016年1月20日に出願した特願2016-008492号明細書及び2016年11月28日に出願した特願2016-230006号明細書の優先権の利益を主張するものであり、当該明細書はその全体が参照により本明細書中に援用される。
(技術分野)
本発明は、耐火性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低級リン酸塩を難燃剤として含む難燃性樹脂組成物には種々のものがある(例えば特許文献1)。他方、低級リン酸塩を大量に含む難燃性樹脂組成物およびそれから形成された耐火部材は、250℃以上の温度で分解し、フォスフィンガス等の可燃性のガスを生じ、炎を上げて燃焼し、火災時にこの炎が難燃性樹脂組成物中の他の部位に燃え移る。さらにその炎が防火設備の他の部分に燃え移ってしまうことで、耐火部材の耐火機能が充分に発揮されない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-204194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低級リン酸塩を難燃剤として含む耐火性樹脂組成物から形成された耐火部材において、耐火性を維持しつつ、かつ、低級リン酸塩分解による可燃性ガス発生起因での発火による延焼を阻止する構成が求められている。
【0005】
本発明の一つの目的は、優れた耐火性を備え、かつ炎の延焼が抑制された耐火性樹脂組成物および耐火部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、一定量以上の低級リン酸塩を難燃剤として含む耐火性樹脂組成物において、耐火性樹脂組成物の可燃物成分量を65質量%以下に設計することで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
項1.マトリクス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び低級リン酸塩を含有する耐火性樹脂組成物であって、耐火性樹脂組成物中の低級リン酸塩の含有量が5質量%以上であり、可燃物成分量が65質量%以下であることを特徴とする耐火性樹脂組成物。
【0009】
項2.耐火性樹脂組成物が液状添加剤をさらに含有し、耐火性樹脂組成物中の液状添加剤の発火点が350℃以上であり、液状添加剤の含有量が10質量%以上である項1に記載の耐火性樹脂組成物。
【0010】
項3.低級リン酸塩がリン酸金属塩及び亜リン酸金属塩のうちの少なくとも一方であることを特徴とする項1又は2記載の耐火性樹脂組成物。
【0011】
項4.耐火性樹脂組成物中の熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が液状添加剤の引火点以下であり、かつ、熱膨張性黒鉛の含有量が15質量%以上であることを特徴とする項2又は3のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
【0012】
項5.ポリリン酸塩を含有し、前記ポリリン酸塩の前記低級リン酸塩に対する含有量比(ポリリン酸塩/低級燐酸塩)が1.0以下である項1~4に記載の耐火性樹脂組成物。
項6.前記マトリクス樹脂が塩化ビニル樹脂を含む項1~5のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
【0013】
項7.前記マトリクス樹脂がエポキシ樹脂を含む項1~5のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
【0014】
項8.項1~7のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物から形成された耐火部材。
【0015】
項9.成形体である項8に記載の耐火部材。
【0016】
項10.項8又は9に記載の耐火部材を用いた防火設備。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐火性樹脂組成物および耐火部材は優れた耐火性を発揮しつつ、自己燃焼による炎の延焼を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明の耐火部材を構成する耐火性樹脂組成物は、マトリクス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び低級リン酸塩を含有し、耐火性樹脂組成物中の低級リン酸塩の含有量が5質量%以上であり、可燃物成分量が65質量%以下である。
[マトリクス樹脂]
マトリクス樹脂としては、公知の樹脂を広く使用でき、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、TPO等のエラストマー等の合成樹脂が挙げられる。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
【0022】
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0023】
これらの合成樹脂及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0024】
耐火性樹脂組成物中のマトリクス樹脂の含有量は特に限定されないが、5質量%以上90質量%未満、好ましくは10質量%以上70質量%未満である。
【0025】
好ましくは、マトリクス樹脂はポリ塩化ビニル樹脂を含む。ポリ塩化ビニル樹脂は難燃性および自己消化性に優れている。
【0026】
一つの好ましい実施形態において、マトリクス樹脂は不燃性かつ自己消火性のマトリクス樹脂である。マトリクス樹脂の「不燃性」は、縦10cm×横10cm×厚み5cmになるようにマトリクス樹脂の試験用サンプルを切り出し、ISO-5660の試験方法に準拠する。放射熱強度50kW/m2にて試験用サンプルを20分間加熱したときのコー
ンカロリーメーター試験による総発熱量を測定し、20分間加熱して総発熱量が8MJ/m2以下のものを指す。マトリクス樹脂の「自己消火性」は、火源を取り除くと、マトリ

ス樹脂単独では燃焼を継続しない性質を指す。
【0027】
マトリクス樹脂にはポリ塩化ビニル樹脂以外の上記の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はゴム等の合成樹脂が含まれてもよい。マトリクス樹脂中のポリ塩化ビニル樹脂の量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0028】
ポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルの単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。塩化ビニルに共重合体可能なモノマーは限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸又はそのエステル、アクリル酸又はそのエステル、メタクリル酸又はそのエステル、塩化ビニリデン等が挙げられる。 ポ
リ塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体が好ましい。
【0029】
ポリ塩化ビニル樹脂は、その一部又は全部を、難燃性を高めるためにさらに塩素化した塩素化塩化ビニル樹脂としてもよい。塩素化塩化ビニル樹脂は公知の製造方法により製造することもできるし、市販のものを入手することもできる。
【0030】
ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は限定されないが、通常500~6000であり、好ましくは800~3000である。
【0031】
ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法は限定されず、例えば、懸濁重合法や塊状重合法、乳化重合法等により製造することもできるし、市販のものを入手することもできる。
【0032】
好ましくは、マトリクス樹脂はエポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂は耐火性に優れている。
[熱膨張性黒鉛]
熱膨張性黒鉛は加熱時に膨張する従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。強酸化剤は濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等である。
【0033】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン
、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP-EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
【0034】
熱膨張性黒鉛の含有量は、耐火性樹脂組成物中に5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。一実施形態では、耐火性樹脂組成物中の熱膨張性黒鉛の含有量が15質量%以上である。また、熱膨張性黒鉛は、マトリクス樹脂100質量部に対し、熱膨張性黒鉛を10~350質量部の範囲で含まれることが好ましく、50~250質量部の範囲であることがより好ましく、75~175質量部の範囲で含まれることが更に好ましい。
【0035】
また、耐火性樹脂組成物中に可塑剤等の液状添加剤が含まれている場合は、耐火性樹脂組成物中に含有される熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は耐火性樹脂組成物中に含有される液状添加剤の引火点以下であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が液状添加剤の引火点以下となることで、熱膨張性黒鉛の膨張層の中に液状添加剤を封じ込めることができ、液状添加剤への引火を抑制できる。また、熱膨張性黒鉛の断熱層により、膨張層内部の温度上昇を抑えることができ、液状添加剤の気化や分解が遅延され、燃焼速度の低減に寄与することで、耐火性発現、ならびに発火抑制に寄与する。
【0036】
熱膨張性黒鉛の量が多い方が可燃ガスを封じこめることができ、発火を抑制する上では好ましいが、多すぎると成型性が悪くなり、経済性に問題が出てくる場合がある。
[低級リン酸塩]
「低級リン酸塩」は、無機リン酸塩のうち、縮合していない、つまり高分子化していない無機リン酸塩を指す。リン酸としては第一リン酸、第二リン酸、第三リン酸、メタリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等が挙げられる。塩としては、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩)、周期表3B族金属の塩(アルミニウム塩など)、遷移金属塩(チタン塩、マンガン塩、鉄塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、バナジウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩)、アンモニウム塩、アミン塩、例えば、グアニジン塩又はトリアジン系化合物の塩(例えば、メラミン塩、メレム塩など)などが挙げられ、好ましくは金属塩である。
【0037】
一つの実施形態では、低級リン酸塩はリン酸金属塩及び亜リン酸金属塩のうちの少なくとも一方である。亜リン酸金属塩は発泡性であってもよい。また、亜リン酸金属塩は、マトリクス樹脂との密着性を向上させるため、表面処理剤などにより表面処理して用いてもよい。このような表面処理剤としては、官能性化合物(例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物など)などが使用できる。
【0038】
そのような低級リン酸の金属塩の例として、第1リン酸アルミニウム、第1リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第1リン酸カルシウム、第1リン酸亜鉛、第2リン酸アルミニウム、第2リン酸ナトリウム、第2リン酸カリウム、第2リン酸カルシウム、第2リン酸亜鉛、第3リン酸アルミニウム、第3リン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム、第3リン酸カルシウム、第3リン酸亜鉛、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸亜鉛、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0039】
フォスフィンガス等の可燃性ガスの発生の観点からは、アルミニウム塩が好ましく用いられる。
【0040】
低級リン酸塩の含有量は、耐火性樹脂組成物中に5質量%以上である。好ましくは6質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上である。低級リン酸塩の含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは耐火性樹脂組成物中に50質量%以下である。より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。低級リン酸塩の含有量が5質量%以上であるため、耐火性樹脂組成物に難燃性が付与され、他の成分の作用を妨げない。
【0041】
また、マトリクス樹脂に対する低級リン酸塩の含有量は特に限定されないが、マトリクス樹脂100質量部に対し、低級リン酸塩を5~250質量部、好ましくは10~150質量部、より好ましくは20~100質量部の範囲で含まれる。
【0042】
このような低級リン酸塩は、安全性に優れ、経済的に有利であり、難燃性を大幅に改善できる。
[液状添加剤]
本発明の耐火性樹脂組成物は、さらに液状添加剤を含んでもよい。液状添加材を含むことで、シート製造の加工性やシート取り扱い時の柔軟性を付与できる。
液状添加剤は、一般に耐火性樹脂組成物を製造する際に使用される可塑剤等の室温(23℃)で液状の添加剤であれば特に限定されず、例えば、下記に例示する1種又は2種以上の可塑剤等の液状添加剤を組み合わせて使用することができる:
ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)又は炭素原子数10~13程度の高級アルコール又は混合アルコールのフタル酸エステル等のフタル酸エステル系可塑剤;
ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジ-n-オクチルアジペート、ジ-n-デシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート(DOZ)、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等の脂肪族エステル系可塑剤;
トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ-n-オクチル-n-デシルトリメリレート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)およびアジピン酸ジイソデシル(DIDA)等のアジピン酸エステル系可塑剤;
セバシン酸ジブチル(DBS)およびセバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)等のセバシン酸エステル系可塑剤;
トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクロロエチルホスフェート、トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)-2,3-ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;
2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸テトラヘプチルエステル等のビフェニルテトラカルボン酸テトラアルキルエステル系可塑剤;
ポリエステル系高分子可塑剤;
エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化綿実油、液状エポキシ樹脂等のエポキシ系可塑剤;
塩素化パラフィン;
五塩化ステアリン酸アルキルエステル等の塩素化脂肪酸エステル;および
常温で液状のリン化合物等。
【0043】
常温で液状のリン化合物としては、特に限定されず、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル等が挙げられる。
【0044】
上記の液状添加剤のうち、フタル酸系可塑剤が難燃性と経済的な点で好ましい。また、リン酸可塑剤はより優れた難燃性の観点で好ましい。
【0045】
液状添加剤の含有量は特に限定されないが、耐火性樹脂組成物中に5~50質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。一実施形態では、耐火性樹脂組成物中の液状添加剤の含有量が10質量%以上である。液状添加剤の発火点は350℃以上であることが好ましい。この範囲の液状添加剤を用いると、該温度では耐火性樹脂組成物中の他の易燃焼成分が燃焼し終わっており、液状添加剤の発火による他の成分への延焼を抑制できる。また、液状添加剤は樹脂組成物に難燃性を付与しつつ、他の成分の作用を妨げない。
[ポリリン酸塩]
本発明の耐火性樹脂組成物は、ポリリン酸塩をさらに含んでいてもよい。
【0046】
ポリリン酸塩としては、ポリリン酸アンモニウム(APP)、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム等が含まれる。ポリリン酸塩は好ましくはポリリン酸アンモニウムであり、これらの難燃剤を液状添加剤と組み合わせると、耐火性樹脂組成物の耐水性が顕著に向上する。ポリリン酸アンモニウムの市販品としては、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、住友化学工業社製「スミセーフP」、チッソ社製「テラージュC60」が挙げられる。ポリリン酸メラムの市販品としては、Phosmel200(日産化学)が挙げられる。
【0047】
好ましいポリリン酸アンモニウムは、表面被覆されたポリリン酸アンモニウム(被覆ポリリン酸アンモニウムとも称する)である。被覆ポリリン酸アンモニウムのうち、メラミンで表面被覆されたメラミン被覆ポリリン酸アンモニウムについては特開平9-286875に記載されており、シランで表面被覆されたシラン被覆ポリリン酸アンモニウムについては特開2000-63562に記載されている。メラミン被覆ポリリン酸アンモニウムは、(a)粉末状ポリリン酸アンモニウム粒子表面にメラミンを付加および/又は付着したメラミン被覆ポリリン酸アンモニウム、(b)前記メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム粒子の被覆層に存在するメラミン分子中のアミノ基が持つ活性水素と、該活性水素と反応しうる官能基を有する化合物とによって該粒子表面が架橋された被覆ポリリン酸アンモニウム、および/又は(c)粉末状ポリリン酸アンモニウム又は前記メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム粒子表面を熱硬化性樹脂で被覆した被覆ポリリン酸アンモニウムである。メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム粒子の市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。シラン被覆ポリリン酸アンモニウム粒子の市販品としては、例えば、Budenheim Iberica社製「FR CROS 486」が挙げられる。
【0048】
ポリリン酸塩の含有量は、耐火性樹脂組成物中に5~50質量%であることが好ましい。この範囲のポリリン酸塩からなる難燃剤を用いると、樹脂組成物に難燃性と耐水性を付与しつつ、他の成分の作用を妨げない。
【0049】
また、ポリリン酸塩を添加する場合、ポリリン酸塩の低級リン酸塩に対する含有量比(
ポリリン酸塩の含有量/低級リン酸塩の含有量)が1.0以下となるように添加することが好ましく、0.5以下となることがより好ましい。
【0050】
さらに本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、無機充填剤、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、熱安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0051】
無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
安定剤としては、ポリ塩化ビニル樹脂用の安定剤が挙げられる。そのような安定剤は上記安定剤の配合量は限定されないが、少ない方が耐火性樹脂組成物の強度が維持され、多いほうがポリ塩化ビニル樹脂の安定化を促すため、例えば耐火性樹脂組成物中に0.1~5質量%含まれる。
【0053】
上記の耐火性樹脂組成物を、常法に従って、一軸押出機、二軸押出機等の押出機で溶融押出することにより、成形体である本発明の耐火部材を得ることができる。溶融温度は、樹脂成分によって異なり、特に限定されないが、例えばマトリクス樹脂がポリ塩化ビニル樹脂の場合130~170℃である。
【0054】
本発明の耐火性樹脂組成物およびそれより形成された耐火部材は、可燃物成分量が65質量%以下であり、難燃性に優れている。可燃物成分量は、好ましくは57.5質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下とされる。また本発明では、可燃物成分量の下限は特に限定されないが、25質量%以上、より好ましくは35質量%以上とされる。
【0055】
本明細書において、可燃物成分量とは、耐火性樹脂組成物またはそれより形成された耐火部材を加熱処理した時に燃焼する主に有機可燃物である可燃物の量を指し、以下の式で表わされる値である。
【0056】
可燃物成分量(質量%)={(加熱処理前のサンプルの重量)-(加熱処理後のサンプ
ルの重量)}/(加熱処理前のサンプルの重量)
本発明における可燃物成分量は、耐火性樹脂組成物またはそれより形成された耐火部材を600℃で30分間加熱処理した時に燃焼する主に有機可燃物である可燃物の量とする。
【0057】
鋭意検討の結果、耐火炉での発火性・および残存重量と上記条件での可燃物成分量に相
関があることを見出した。
【0058】
本発明の耐火部材は、防火設備としての構造体、特には窓、障子、扉(すなわちドア)、戸、ふすま、及び欄間等の建具;船舶;並びにエレベータ等の構造体に耐火性を付与するために使用され得る。特には、これらの構造体の開口部又は間隙の密封及び防火に使用される。例えば、本発明の耐火部材は、建具の気密性又は水密性を改善するためのタイト材やシール材等の気密材として使用され得る。構造体は金属製、合成樹脂製、木製、又はそれらの組み合わせ等の任意の材料から構成されていてもよい。なお「開口部」とは構造体と他の構造体との間又は構造体中に存在する開口部を指し、「間隙」とは開口部の中でも向かい合う2つの部材又は部分間に生じる開口部を指す。
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0060】
(実施例1~12、14~15、22~37)
(比較例1~3、5、6、9)
表1に示した配合の混合物を、140℃の混練ロールを用いて溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、140℃、150kg/cm2の圧力で、予熱3分、加
圧3分でプレス成形し、性能評価に用いる各実施例及び比較例のサンプルを作製した。
(実施例13、実施例16~21)
(比較例4、7、8)
表1に示した配合の混合物を、遊星式攪拌機に供給し、混練し、その後、離型PETフィルム上に混合物を塗布し、プレスを実施し、シート状の成形体を得た。その後、その成形体を90℃の恒温層に10時間配置し、シートを硬化させ、熱膨張性耐火シートを製造した。
【0061】
上記実施例及び比較例で得られたサンプルについて、下記の性能評価を行い、その結果を表1に示した。
(1)膨張開始温度
膨張開始温度はシート形状にて測定した。5℃/minでシートを昇温し、レオメーターにより、法線応力を測定し、その立ち上がりの温度を膨張開始温度と定義した。
(2)引火点
液状添加剤の引火点・発火点は従来公知の方法にて測定を実施した
(3)可燃物成分量
1.5mm厚のサンプルを10cm×10cmにカットし、所定のホルダーにサンプルを投入し、電気炉内で600℃で30分間処理した後で、可燃物成分量を測定した。測定数は2つのサンプルの測定値の平均とした。
(4)自己消火性
耐火炉にてエーアンドエーマテリアル社製の5mmのケイ酸カルシウム板を1180mm×1180mmに切り出し、その中央部に厚さ1.5mmで300mm×300mmに耐火シートをステーブルガンを用い、鉄針にて貼り付けた。鉄針の固定位置は中央部ならびに四隅及び各辺の中点の9ヶ所固定し、試験体を作成した。この試験体をISO834の標準加熱曲線に従い、温度を調整し、かつ、炉圧を20Paの設定で、20分間の耐火試験を実施した。耐火試験中の試験体を観察し、試験体に貼り付けした膨張材が着火しなかったものをS、3秒以内に消化したものをA、10秒以に消火したものをB、10秒を超えて膨張材が燃焼継続したものをCをした。なお、エポキシ系の耐火シートは製造時のPETフィルムは剥がして試験を実施した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】