(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】カルボキシメチルセルロース又はその塩、及び、電極組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221220BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20221220BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221220BHJP
C08B 11/12 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
C08B11/12
(21)【出願番号】P 2021188090
(22)【出願日】2021-11-18
(62)【分割の表示】P 2018542628の分割
【原出願日】2017-09-27
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2016192467
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016192468
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016192469
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】近重 俊平
(72)【発明者】
【氏名】西ヶ谷 霞
(72)【発明者】
【氏名】藪内 優和
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062250(WO,A1)
【文献】特開2016-166258(JP,A)
【文献】特開2005-100773(JP,A)
【文献】特開2009-064564(JP,A)
【文献】特開2008-050386(JP,A)
【文献】特開昭61-243801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/587
C08B 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分濃度1質量%水溶液の25℃におけるpHが、4.0以上6.5以下であり、酸型カルボキシル基量が1.20mmol/g以上
20.00mmol/g以下であり、25℃でのB型粘度計で測定された固形分濃度1質量%水溶液の粘度が1,500mPa・s以上15,000mPa・s以下である、カルボキシメチルセルロース又はその金属塩、若しくはその水溶液を含む、非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項2】
カルボキシメチルセルロース又はその金属塩の無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.45以上である、請求項1に記載の
非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項3】
カルボキシメチルセルロース又はその金属塩の酸型カルボキシル基量が、
1.20mmol/g以上20.00mmol/g以下である、請求項1
又は2に記載の
非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項4】
カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩の水溶液の25℃におけるpHが4.0以上
6.5以下である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の
非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項5】
更に水及び電極用活物質を含む、請求項
1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項6】
電極用活物質が、黒鉛である、請求項
1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項7】
更に合成ゴム系結合剤を含む、請求項
1~
6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
【請求項8】
請求項
1~
7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用電極組成物により形成される、非水電解質二次電池用電極。
【請求項9】
請求項
8に記載の電極を含む、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロース又はその塩、その水溶液、非水電解質二次電池用電極組成物、電極、及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、特に携帯電話、PDA(personal digital assistant)、ノート型パソコンなどの携帯機器が、小型化、軽量化、薄型化、高性能化し、携帯機器の普及が進んでいる。このような携帯機器の利用範囲の多様化に伴い、これらを駆動させる電池が非常に重要な部品となっている。電池のうち、高いエネルギー密度を有し高容量である、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
通常、非水電解質二次電池は以下のようにして作製される。すなわち、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な炭素材料などからなる負極活物質を含有する負極と、リチウム含有遷移金属複合酸化物(例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4など)からなる正極活物質を含有する正極が、集電基材(集電体)としての金属箔の表面にそれぞれシート状に形成され、シート状正極及びシート状負極が得られる。そしてシート状正極及びシート状負極が、同じくシート状に形成されたセパレータを介して、巻回あるいは積層され、ケース内に収納される。シート状正極及びシート状負極は、集電基材(集電体)となる金属箔と、その表面に形成される、活物質を含む合剤層を備える構造であり、負極活物質スラリー(あるいはペースト)又は正極活物質スラリー(あるいはペースト)が集電材上に塗布、乾燥され形成され得る。
【0004】
負極活物質スラリー(ペースト)は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な炭素材料などからなる負極活物質のほかに結合剤(バインダー)を含む。結合剤として、スチレン/ブタジエンラテックス(SBR)を主成分とする負極用の結合剤が特許文献1(特開平5-74461号公報)に開示されている。
【0005】
特許文献1によると、水溶性増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースを水に溶解させて水溶液を調製し、これにSBRと負極活物質とを混合してスラリーを製造する。当該スラリーは塗工液として基材上に塗布、乾燥されることによって、シート状負極が形成される。
【0006】
一方、非水電解質二次電池の正極の製造では、溶剤には従来N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機系溶剤が用いられてきた。しかし、取り扱いに要するコストの低減や排出時の環境負荷への影響から、近年、溶剤として水が使用されてきている。
【0007】
正極活物質スラリー(ペースト)は、正極活物質としてのリチウム含有遷移金属複合酸化物(例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4など)、導電材としてのカーボン等のほかに、結合剤を含む。結合剤としては、カルボキシメチルセルロースなどの、1%水溶液における粘度が4000mPa・s以上のセルロースが特許文献2(特開2003-157847号公報)に記載されている。特許文献2には、カルボキシメチルセルロースを、導電材やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などとともに純水に投入し、活物質ペーストを調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-74461号公報
【文献】特開2003-157847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この様にカルボキシメチルセルロースは、増粘剤、結合剤、及び/又は分散剤として電極組成物に用いられているが、カルボキシメチルセルロース自体は活物質としての性質はない為、電極組成物に含有される比率を少なくすることが熱望されている。
【0010】
しかしながら電極組成物におけるカルボキシメチルセルロースの含有比率を低下させると、活物質に対するカルボキシメチルセルロースの吸着量が低下するため、期待される増粘効果、結合効果、分散効果などが得られないという問題があった。
【0011】
そこで本発明では、カルボキシメチルセルロースの電極用活物質に対する吸着量を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下を提供する。
[1] 固形分濃度1質量%水溶液の25℃におけるpHが、4.0以上6.8未満である、カルボキシメチルセルロース又はその塩。
[2] 無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.45以上である、[1]に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
[3] 25℃でのB型粘度計で測定された固形分濃度1質量%水溶液の粘度が1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下である、[1]又は[2]に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
[4] 酸型カルボキシル基量が、1.15mmol/g以上20.00mmol/g以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩、及び水を含む、カルボキシメチルセルロース水溶液。
[6] 25℃におけるpHが4.0以上6.8未満である、[5]に記載のカルボキシメチルセルロース水溶液。
[7] [1]~[4]のいずれか1つに記載のカルボキシメチルセルロース若しくはその塩、又は[5]若しくは[6]に記載のカルボキシメチルセルロース水溶液を含む、非水電解質二次電池用電極組成物。
[8] 25℃におけるpHが4.0以上6.8未満である、[7]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[9] 更に水及び電極用活物質を含む、[7]又は[8]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[10] 電極用活物質が、黒鉛である、[9]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[11] 更に合成ゴム系結合剤を含む、[7]~[10]のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[12] [7]~[11]のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用電極組成物により形成される、非水電解質二次電池用電極。
[13] [12]に記載の電極を含む、非水電解質二次電池。
[14] 非水電解質二次電池用電極組成物に用いられるカルボキシメチルセルロース水溶液であって、25℃におけるpHが4.0以上6.8未満である、カルボキシメチルセルロース水溶液。
[15] 無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.45以上であるカルボキシメチルセルロース又はその塩を含み、且つ25℃でのB型粘度計で測定された固形分濃度1質量%水溶液の粘度が1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下である、[14]に記載のカルボキシメチルセルロース水溶液。
[16] [14]又は[15]に記載のカルボキシメチルセルロース水溶液を含む、非水電解質二次電池用電極組成物。
[17] [16]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物により形成される、非水電解質二次電池用電極。
[18] [17]に記載の電極を含む、非水電解質二次電池。
[19] カルボキシメチルセルロース又はその塩、電極用活物質、及び水を含む非水電解質二次電池用電極組成物であって、
25℃におけるpHが4.0以上6.8未満である、非水電解質二次電池用電極組成物。
[20] 前記カルボキシメチルセルロース又はその塩が、無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.45以上であり、且つ25℃でのB型粘度計で測定された固形分濃度1質量%水溶液の粘度が1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下である、[19]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[21] 前記電極用活物質が、黒鉛である、[19]又は[20]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[22] 更に合成ゴム系結合剤を含む、[19]~[21]のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[23] [19]~[22]のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用電極組成物により形成される、非水電解質二次電池用電極。
[24] [23]に記載の電極を備える、非水電解質二次電池。
[25] (i):カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む原料を、分散媒に分散させて分散液を得る工程、
(ii):得られた分散液の25℃におけるpHを、4.0以上6.8以下に調整する工程、
(iii):pHが調製された分散液から固体を分離する工程
を含む、酸型カルボキシル基量が、1.15mmol/g以上20.00mmol/g以下である、カルボキシメチルセルロース又はその塩の製造方法。
【0013】
また本発明は、以下の態様を提供する。
【0014】
[1-1] 非水電解質二次電池用電極組成物に用いられるカルボキシメチルセルロース又はその塩であって、
該カルボキシメチルセルロース又はその塩の、固形分濃度1質量%水溶液(25℃)のpHが4.0以上~6.8未満の範囲になる、カルボキシメチルセルロース又はその塩。
[1-2] 前記カルボキシメチルセルロース又はその塩が、無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.45以上、且つ25℃でのB型粘度計で測定された固形分濃度1質量%水溶液の粘度が1,000~20,000mPa・sである、[1-1]に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩。
[1-3] [1-1]及び[1-2]に記載のカルボキシメチルセルロース又はその塩を含む、非水電解質二次電池用電極組成物。
[1-4] [1-3]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物により形成される、非水電解質二次電池用電極。
[1-5] [1-4]に記載の電極を備える、非水電解質二次電池。
【0015】
[2-1] 非水電解質二次電池用電極組成物に用いられるカルボキシメチルセルロース水溶液であって、該カルボキシメチルセルロース水溶液のpHが4.0以上~6.8未満である、カルボキシメチルセルロース水溶液。
[2-2] 前記カルボキシメチルセルロース水溶液が、無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.45以上であるカルボキシメチルセルロースを含み、且つ25℃でのB型粘度計で測定された固形分濃度1質量%水溶液の粘度が1,000~20,000mPa・sである、[2-1]に記載のカルボキシメチルセルロース水溶液。
[2-3] [2-1]又は[2-2]に記載のカルボキシメチルセルロース水溶液を含む、非水電解質二次電池用電極組成物。
[2-4] [2-3]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物により形成される、非水電解質二次電池用電極。
[2-5] [2-4]に記載の電極を備える、非水電解質二次電池。
【0016】
[3-1] カルボキシメチルセルロース又はその塩、電極用活物質、及び水を少なくとも含有する非水電解質二次電池用電極組成物であって、
該非水電解質二次電池用電極組成物の25℃におけるpHが4.0以上~6.8未満の範囲にある、非水電解質二次電池用電極組成物。
[3-2] 前記カルボキシメチルセルロース又はその塩が、無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.45以上、且つ25℃でのB型粘度計で測定された固形分濃度1質量%水溶液の粘度が1,000~20,000mPa・sである、[3-1]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[3-3] 前記電極用活物質が、黒鉛である、[3-1]又は[3-2]に記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[3-4] 前記非水電解質二次電池用電極組成物が、更にスチレンブタジエンラテックスを含む、[3-1]~[3-3]のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用電極組成物。
[3-5] [3-1]~[3-4]のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池用電極組成物を塗布してなる非水電解質二次電池用電極。
[3-6] [3-5]に記載の電極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カルボキシメチルセルロースの電極用活物質に対する吸着量を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施形態に即して詳細に説明するが、本発明を限定するものではない。
【0019】
本明細書において、特に記載のない場合「AA~BB%」という記載は、「AA%以上~BB%以下」を意味する。
【0020】
本明細書において、酸型カルボキシル基とは、-COOHで表される基を意味する。酸型カルボキシル基は、カルボキシラート基(-COO-で表される基)を包含しない。
【0021】
本明細書において、カルボキシメチルセルロースの塩には、カルボキシメチルセルロース分子に含まれる複数のカルボキシル基の一部が塩となっている部分塩、すべてのカルボキシル基が塩となっている完全塩が含まれる。
【0022】
本明細書において、水素イオン指数(pH)は、特に断らない限り、25℃における測定値である。
【0023】
[カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩]
本実施形態のカルボキシルメチルセルロース又はその塩は、固形分濃度1質量%水溶液の25℃におけるpHが、通常4.0以上6.8未満である。
【0024】
本明細書において、カルボキシメチルセルロース又はその塩とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つ化合物を意味する。カルボキシメチルセルロースは、塩の形態であってもよい。カルボキシメチルセルロースの塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩などを挙げ得る。
【0025】
本明細書においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」とも言う。)がβ,1-4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。
【0026】
天然セルロースとしては、晒パルプ又は未晒パルプ(晒木材パルプ又は未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース、等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合わせた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては、例えば、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ、砕木パルプ、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ等が挙げられる。更に、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0027】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
【0028】
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるセルロースや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるセルロースが例示される。
【0029】
本実施形態で用いるカルボキシメチルセルロースを製造するにあたっては、公知のカルボキシメチルセルロースの製法を適用することができる。例えば、セルロースをマーセル化剤(アルカリ)で処理してマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を調製した後に、マーセル化セルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応させることでカルボキシメチルセルロースを製造することができる。
【0030】
原料のセルロースとしては、上述のセルロースであれば特に制限なく用いることができるが、セルロース純度が高いものが好ましく、特に、溶解パルプ、リンターを用いることが好ましい。これらを用いることにより、純度の高いカルボキシメチルセルロース又はその塩を得ることができる。
【0031】
マーセル化剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属塩等を使用することができる。エーテル化剤としてはモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ソーダ等を使用することができる。
【0032】
水溶性の一般的なカルボキシメチルセルロースの製法の場合のマーセル化剤のエーテル化剤に対するモル比率(マーセル化剤/エーテル化剤)は、エーテル化剤としてモノクロロ酢酸を使用する場合では2.00~2.45が一般的に採用される。その理由は、2.00未満であるとエーテル化反応が不十分に行われない可能性があるため、未反応のモノクロロ酢酸が残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸による副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成するおそれがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0033】
上記される方法にて得られるカルボキシメチルセルロースは、通常固形分濃度1質量%水溶液(25℃)にした場合のpHが、中性域(pH6.8~7.2)にある。
【0034】
本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、固形分濃度1質量%水溶液とした場合の25℃におけるpHが、通常4.0以上6.8未満であり、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上であり、好ましくは6.5以下であり、より好ましくはpH5.0~6.5、更に好ましくはpH5.5~6.5である。
【0035】
固形分濃度1質量%水溶液とした場合のpHが、中性域(pH6.8~7.2)にあるカルボキシメチルセルロース又はその塩を、固形分濃度1質量%水溶液とした場合のpHが酸性域(pH4.0以上6.8未満)にある本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩に変換するには、例えば、下記工程(i)~(iii)をこの順で含む方法、更に具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩をメタノール中に浸漬した後、酢酸などの酸を添加しpHを調整し、乾燥させ酸性のCMCを得る方法、などを挙げることができる。
【0036】
本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩を、非水電解質二次電池用電極組成物に用いることにより、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロース又はその塩の吸着量が増大するという優れた効果が得られる。その理由は以下のように推測される。
【0037】
すなわちカルボキシメチルセルロース又はその塩は、pHを酸性域に調整する工程において、ヒドロキシ基の増加によりカルボキシメチルセルロース同士の水素結合作用が強まって疑似的な高分子化が引き起こされたり、カルボキシメチルセルロース同士がエステル結合して高分子化が引き起こされたりすることが推測される。その結果、カルボキシメチルセルロースの(疑似的な)1分子が有する活物質の吸着点が増すため、活物質に対する吸着量が増大すると推測される。ゆえに本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩は添加量が少なくとも、増粘、結合、分散効果を効率よく得られ、電池反応中で阻害物質となり得るカルボキシメチルセルロースの添加量を減少させることができ、電池特性の向上が期待できる。
【0038】
カルボキシメチルセルロース又はその塩は、水溶性であることが好ましい。すなわち、カルボキシメチルセルロース又はその塩は、その無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が、0.45以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。カルボキシメチル置換度が0.45未満であると、水への溶解が十分でなくなるおそれがある。本明細書において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう)とは、セルロースを構成するグルコース残基中のヒドロキシ基(-OH)のうちカルボキシメチルエーテル基(-OCH2COOHで表される基)に置換されているものの割合を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0039】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度の上限は特には限定されないが、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.0以下であることが更に好ましい。
【0040】
当該カルボキシメチル置換度は、試料中のカルボキシメチルセルロースを中和するのに必要な水酸化ナトリウム等の塩基の量を測定して確認することができる。この場合、カルボキシメチルセルロース又はその塩のカルボキシメチルエーテル基が塩の形態である場合には、測定前に予めカルボキシメチルセルロースに変換しておく。測定の際には、塩基、酸を用いた逆滴定、フェノールフタレイン等の指示薬を適宜組み合わせることができる。
【0041】
本実施形態において、カルボキシメチルセルロース又はその塩は、25℃でのB型粘度計で測定された1質量%水溶液の粘度が1,000~20,000mPa・sであることが好ましく、1,500~15,000mPa・sであることがより好ましく、2,000~10,000mPa・sであることが更に好ましい。
【0042】
本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、酸型カルボキシル基量が好ましくは1.15mmol/g以上、より好ましくは1.20mmol/g以上であり、好ましくは20.00mmol/g以下、より好ましくは15.00mmol/g以下、更に好ましくは3.00mmol/g以下であり、好ましくは1.15mmol/g以上20.00mmol/g以下である。
【0043】
本実施形態のカルボキシルメチルセルロース又はその塩の酸型カルボキシル基量が、上記好ましい範囲にあることにより、電極用活物質に対するカルボキシメチルセルロース又はその塩の吸着量を向上させることができる。
【0044】
ここで、カルボキシメチルセルロース又はその塩の酸型カルボキシル基量は、カルボキシメチルセルロース又はその塩x(g)を水溶液として、水溶液の電気伝導度を測定しつつ所定濃度y(N)の水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸、すなわち酸型カルボキシル基の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)から、式(A)を用いて算出し得る。
酸型カルボキシル基量[mmol/g]=a[mL]×y[N]/カルボキシメチルセルロース又はその塩の質量x[g]・・・(A)
【0045】
具体的には、カルボキシメチルセルロース又はその塩の酸型カルボキシル基量は、下記の方法で測定し得る。
【0046】
カルボキシメチルセルロース又はその塩0.1gにイオン交換水100mLを加えて水溶液とし、これに0.5mL/minの速度で濃度0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、電気伝導度を測定しつつ滴下する。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液の添加量に対して電気伝導度をプロットして滴定曲線を作成する。
次いで、滴定曲線において、電気伝導度の変化が緩やかな範囲の点から最小二乗法により第1漸近線を作成し、電気伝導度の変化が急である範囲の点から最小二乗法により第2漸近線を作成し、第1漸近線及び第2漸近線の交点における水酸化ナトリウム水溶液の添加量を、酸型カルボキシル基の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)とする。
滴定に用いたカルボキシメチルセルロース又はその塩の質量(g)と、水酸化ナトリウムの濃度(N)と、水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)とから、式(A)より酸型カルボキシル基量を算出する。
【0047】
電気伝導度としては、電気伝導度計から得られる数値をそのまま用いてもよいが、電気伝導度計から得られる数値に下記式(B)から算出される係数を乗じて補正された電気伝導度を得て、この補正された電気伝導度を用いて第1漸近線及び第2漸近線を得てもよい。
【0048】
(係数)=(V0(mL)+v(mL))/V0(mL)・・・(B)
上式において、V0は、水酸化ナトリウム水溶液を添加する前のカルボキシメチルセルロール又はその塩の水溶液量を表し、vは、各電気伝導度の値での水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表す。
【0049】
カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む原料を、酸型カルボキシル基量が1.15mmol/g以上20.00mmol/g以下である、本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩とする方法としては、例えば、下記の工程(i)~工程(iii)をこの順で含む方法が挙げられる。
【0050】
(i):カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む原料を、分散媒に分散させて分散液を得る工程、
(ii):得られた分散液の25℃におけるpHを、4.0以上6.8以下に調整する工程、
(iii):pHが調製された分散液から固体を分離する工程
【0051】
工程(i)において、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む原料を分散させる分散媒としては、例えば、メタノール等のアルコール、水、及びこれらの混合液が挙げられ、好ましくはメタノール、又はメタノールと水との混合液である。
【0052】
工程(ii)において、得られた分散液の25℃におけるpHを調整する方法としては、例えば、分散液に酢酸などの酸を添加する方法が挙げられる。
【0053】
工程(iii)において、pHが調整された分散液から固体を分離する方法としては、例えば濾過が挙げられる。
【0054】
工程(iii)において固体を分離した後、得られた固体を乾燥してもよい。
【0055】
本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩の原料としては、市販のものをそのまま、或いは必要に応じて処理してから用いてもよい。市販品としては、例えば、日本製紙(株)製の商品名「サンローズ」(カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩)が挙げられる。
【0056】
[粉砕処理]
カルボキシメチルセルロース又はその塩は、上述したようなカルボキシメチルセルロース又はその塩をそのまま用いてもよいが、更に粉砕処理が施されたもの(粉砕処理物)であってもよい。粉砕処理は、通常は機械を用いて行われる機械的粉砕処理である。カルボキシメチルセルロース又はその塩の粉砕処理の方法としては、例えば、粉体の状態で処理する乾式粉砕法と、液体に分散、あるいは溶解させた状態で処理する湿式粉砕法とが挙げられ、これらのいずれかが好ましい。
【0057】
機械的な粉砕処理のために使用可能な粉砕装置としては、例えば、以下の乾式粉砕機及び湿式粉砕機が挙げられる。
【0058】
乾式粉砕機としては、例えば、カッティング式ミル、衝撃式ミル、気流式ミル、媒体ミルが挙げられ、気流式ミルが好ましい。これらを、単独で用いて処理してもよく、或いは同一種又は複数種用いて、多段処理してもよい。
【0059】
カッティング式ミルとしては、メッシュミル((株)ホーライ製)、アトムズ((株)山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、グラニュレータ(ヘルボルト製)、ロータリーカッターミル((株)奈良機械製作所製)等が例示される。
【0060】
衝撃式ミルとしては、パルペライザ(ホソカワミクロン(株)製)、ファインインパクトミル(ホソカワミクロン(株)製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン(株)製)、サンプルミル((株)セイシン製)、バンタムミル((株)セイシン製)、アトマイザー((株)セイシン製)、トルネードミル(日機装(株))、ターボミル(ターボ工業(株))、ベベルインパクター(相川鉄工(株))等が例示される。
【0061】
気流式ミルとしては、CGS型ジェットミル(三井鉱山(株)製)、ジェットミル(三庄インダストリー(株)製)、エバラジェットマイクロナイザ((株)荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業(株)製)、超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業(株)製)等が例示される。
【0062】
媒体ミルとしては、振動ボールミル等が例示される。
【0063】
湿式粉砕機としては、マスコロイダー(増幸産業(株)製)、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業(株)製)、媒体ミルが例示される。媒体ミルとしては、ビーズミル(アイメックス(株)製)等を例示できる。
【0064】
[カルボキシメチルセルロースの粒径]
本実施形態において、カルボキシメチルセルロース又はその塩の粒径は、小さい方が好ましい。すなわち、メタノールを分散剤としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計100%粒子径の値(本明細書においては、以降「最大粒子径」ということがある)が50μm未満であることが望ましく、45μm未満であることがより望ましい。カルボキシメチルセルロース又はその塩の最大粒子径が50μm以上であるとカルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液中の未溶解物が増加する傾向がある。
【0065】
また、本実施形態においてカルボキシメチルセルロース又はその塩は、造粒処理が施されていてもよい。これにより、取り扱いが容易となる。造粒処理を施すことによりカルボキシメチルセルロース又はその塩の最大粒子径は50μm以上となることがあるが、造粒処理前のカルボキシメチルセルロース又はその塩の最大粒子径は50μm未満であることが好ましい。
【0066】
なお、最大粒子径の下限は特には限定されない。小さければ小さいほど好ましく、0を超えていればよい。
【0067】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の、メタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径(以下、平均粒子径という。)は、通常は30μm以下であり、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。また、平均粒子径の下限は特に限定されないが、通常は5μm以上であり、10μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。
【0068】
本実施形態においては、カルボキシメチルセルロース又はその塩を粒子径の大きさ(好ましくは最大粒子径の大きさ)に基づき分級し得る。分級とは、分級の対象である粒子を、ある粒子径の大きさ以上のものとそれ以下のものとを篩い分けする処理を意味する。
【0069】
分級は、最大粒子径が50μm未満であるか50μm以上であるかを基準として行うことが好ましい。これにより、最大粒子径が50μm未満のカルボキシメチルセルロース又はその塩を選択的に収集することができる。
【0070】
カルボキシメチルセルロース又はその塩として、カルボキシメチルセルロース又はその塩の粉砕処理物を用いる場合、上記の分級の時期は特に限定されず、粉砕処理の途中に設けてもよいし、粉砕処理の終了後に設けてもよい。
【0071】
分級の方法としては、公知の方法、例えば乾式分級機、湿式分級機を用いる方法を用いることができる。乾式分級機としては、サイクロン式分級機、DSセパレーター、ターボクラシフィア、ミクロセパレータ、エアーセパレータ等が挙げられる。一方湿式分級機としては、液体サイクロン方式の分級機、遠心沈降機、ハイドロッシレーター等が挙げられる。このうち乾式分級機が好ましく、サイクロン式分級機がより好ましい。
【0072】
[カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液]
一実施形態に係るカルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液は、固形分濃度1質量%水溶液の25℃におけるpHが、4.0以上6.8未満である、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む水溶液であり、例えば非水電解質二次電池の電極を形成するための電極組成物に用いられうる。カルボキシメチルセルロース又はその塩の例及び好ましい例は、上記[カルボキシメチルセルロース又はその塩]の項で説明した例と同様である。
【0073】
別の実施形態に係るカルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液は、25℃におけるpHが4.0以上6.8未満であり、例えば非水電解質二次電池の電極を形成するための電極組成物に用いられうる。カルボキシメチルセルロース又はその塩の例及び好ましい例は、上記[カルボキシメチルセルロース又はその塩]の項で説明した例と同様である。
【0074】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液(以下、単にカルボキシメチルセルロース水溶液ともいう。)における、カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度は、通常は0.1~10質量%であり、0.2~4質量%が好ましく、0.5~2質量%がより好ましい。
【0075】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液の製造条件は特に制限はない。該水溶液は、例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩を、水(例えば蒸留水、精製水、水道水など)に添加し、必要に応じて撹拌などを行い溶解させて調製される。
【0076】
カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液は、25℃におけるpHが、好ましくは4.0以上、より好ましくは5.0以上、更に好ましくは5.5以上であり、好ましくは6.8未満、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは6.0以下であり、好ましくは4.0以上6.8未満、より好ましくは5.0以上6.5以下、更に好ましくは5.5以上6.0以下である。
【0077】
25℃におけるpHが中性域(pH6.8~7.2)を示すカルボキシメチルセルロース水溶液を、25℃におけるpHが上記好ましい範囲であるカルボキシメチルセルロース水溶液に変換する方法としては、例えば、25℃におけるpHが中性域を示すカルボキシメチルセルロース水溶液に、酢酸、塩酸などの酸を添加してpHを調整し、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む酸性の水溶液を得る方法が挙げられる。
【0078】
これら実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液を、非水電解質二次電池用電極組成物に用いることにより、カルボキシメチルセルロース又はその塩の電極用活物質への吸着量が増大するという優れた効果が得られる。その理由は、カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液のpHが、所定の酸性域にあることで、ヒドロキシ基の増加によりカルボキシメチルセルロース同士の水素結合作用が強まってカルボキシメチルセルロースの疑似的な高分子化が引き起こされたり、カルボキシメチルセルロース同士がエステル結合してカルボキシメチルセルロースの高分子化が引き起こされたりすることによって、カルボキシメチルセルロースの(疑似的な)1分子が有する活物質の吸着点が増すため、活物質に対する吸着量が増大すると推測される。
【0079】
ゆえに実施形態のカルボキシメチルセルロース水溶液は、電極組成物における含有量が少なくとも、増粘、結合、分散効果が効率よく得られ、電池反応中で阻害物質となり得るカルボキシメチルセルロースの添加量を減少させることができ、電池特性の向上が期待できる。
【0080】
[非水電解質二次電池用電極組成物]
本実施形態のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、非水電解質二次電池の電極用結合剤として好ましい性質を持つ。一実施形態に係る非水電解質二次電池用電極組成物(以下、「非水電解質二次電池用電極組成物」を「電極組成物」ともいう。)は、固形分濃度1質量%水溶液の25℃におけるpHが、4.0以上6.8未満である、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含み、非水電解質二次電池の電極を形成するために用いられうる。通常は、カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む水溶液が、非水電解質二次電池の電極用結合剤として用いられる。
【0081】
別の実施形態では、非水電解質二次電池用電極組成物は、カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液であって、25℃におけるpHが4.0以上6.8未満である水溶液を含み、非水電解質二次電池の電極を形成するために用いられうる。
【0082】
また別の実施態様では、非水電解質二次電池用電極組成物は、カルボキシメチルセルロース又はその塩、電極用活物質、及び水を含み、25℃おけるpHが4.0以上6.8未満であり、非水電解質二次電池の電極を形成するために用いられうる。
【0083】
カルボキシメチルセルロース又はその塩、或いはカルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液は電極用結合剤として、通常電極用活物質と共に非水電解質二次電池用電極組成物(以下、電極組成物と略す)に含まれ得る。電極組成物の性状は特に限定されず、スラリー状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0084】
電極組成物中のカルボキシメチルセルロース又はその塩の含有量は、電極組成物の全体に対して、好ましくは0.1~4.0質量%である。
【0085】
電極組成物の25℃におけるpHは、好ましくは4.0以上、より好ましくは5.0以上、更に好ましくは5.5以上であり、好ましくは6.8未満、より好ましくは6.5以下であり、好ましくは4.0以上6.8未満、より好ましくは5.0以上6.5以下、更に好ましくは5.5以上6.5以下である。
【0086】
電極組成物の25℃におけるpHを上記好ましい範囲とする方法としては、例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩、電極用活物質、及び水を含む電極組成物に、酢酸などの酸を添加しpHを調整する方法が挙げられる。
【0087】
これら実施形態の電極組成物においては、含まれるカルボキシメチルセルロース又はその塩の電極用活物質の吸着量が増大するという優れた効果を奏する。その理由は、電極組成物のpHが、所定の酸性域にあることで、ヒドロキシ基の増加によりカルボキシメチルセルロース同士の水素結合作用が強まってカルボキシメチルセルロースの疑似的な高分子化が引き起こされたり、カルボキシメチルセルロース同士がエステル結合してカルボキシメチルセルロースの高分子化が引き起こされたりすることによって、カルボキシメチルセルロースの(疑似的な)1分子が有する活物質の吸着点が増すため、活物質に対する吸着量が増大すると推測される。
【0088】
ゆえに実施形態の電極組成物は、含まれるカルボキシメチルセルロース又はその塩が少なくとも、増粘、結合、分散効果を効率よく奏し、電池反応中で阻害物質となり得るカルボキシメチルセルロースの添加量を減少させることができ、電池特性の向上が期待できる。
【0089】
電極組成物には、該組成物により形成される電極が負極及び正極のいずれかに応じて様々な成分が含まれ得る。
【0090】
負極用の電極組成物の場合には、通常、負極活物質が含まれる。負極活物質としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、コ-クス、炭素繊維のような黒鉛質材料;リチウムと合金を形成することが可能な元素、すなわち例えばAl、Si、Sn、Ag、Bi、Mg、Zn、In、Ge、Pb、Tiなどの元素;前記リチウムと合金を形成することが可能な元素を含む化合物;前記リチウムと合金を形成することが可能な元素及び前記化合物と、炭素及び/又は前記黒鉛質材料との複合化物;リチウムを含む窒化物が使用できる。このうち黒鉛質材料が好ましく、黒鉛がより好ましい。
【0091】
正極用の電極組成物の場合には、通常、正極活物質が含まれる。正極活物質としては、LiMexOy(MeはNi、Co、Mnの少なくとも1種を含む遷移金属を意味する。x、yは任意の数を意味する。)系の正極活物質が好ましい。LiMexOy系の正極活物質は、特に限定されるものではないが、LiMn2O4系、LiCoO2系、LiNiO2系の正極活物質が好ましい。LiMn2O4系、LiCoO2系、LiNiO2系の正極活物質としては、例えば、LiMnO2、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、を主骨格として、各種金属元素が置換した化合物が例示される。LiMn2O4系、LiCoO2系、LiNiO2系の正極活物質は、電子とリチウムイオンの拡散性能に優れるなど正極活物質としての性能に優れているため、高い充放電効率と良好なサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池が得られる。このうちLiCoO2系の正極活物質が好ましく、LiCoO2がより好ましい。一方、材料コストの低さからは、LiMn2O4系の正極活物質を用いることが好ましい。
【0092】
電極組成物中の活物質の含有量は、通常は90~99質量%、好ましくは91~99質量%、より好ましくは92~99質量%である。
【0093】
正極用の電極組成物の場合には、電極組成物は導電材を有することが好ましい。電極組成物(スラリーの形態であってもよい。)が導電材を有することで、製造される正極の特性が向上する。また、導電材は、正極の電気伝導性を確保し得る。導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等の炭素物質の1種又は2種以上を混合したものが挙げられる。このうちカーボンブラックが好ましい。
【0094】
また、電極組成物には、カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液以外の結合剤が含まれ得る。負極用の電極組成物の場合の結合剤としては、合成ゴム系結合剤が例示される。合成ゴム系結合剤としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム、メチルメタクリレートブタジエンゴム、クロロプレンゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴム及びこれら合成ゴムのラテックスよりなる群から選択された1種以上が使用できる。このうち、スチレンブタジエンゴム(SBR)のラテックスが好ましい。また、正極用の電極組成物の場合の結合剤としては、前記負極用の結合剤として挙げた合成ゴム系結合剤のほか、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が例示され、このうちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0095】
電極組成物中の結合剤の含有量は、通常は固形分全体に対して1~10質量%、好ましくは1~6質量%、より好ましくは1~2質量%である。
【0096】
電極組成物の製造条件は特に限定はない。例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液に、電極組成物を構成する他の成分を添加し、必要に応じて撹拌しながら混合する。
【0097】
電極組成物の性状も特に限定されない。例えば、液状、ペースト状、スラリー状などが挙げられ、いずれであってもよい。
【0098】
[非水電解質二次電池用電極]
電極組成物は、非水電解質二次電池のための電極の製造に用いられる。非水電解質二次電池用の電極の製造方法としては、例えば、前記電極組成物を集電基材(集電体)上に積層する方法が挙げられ、更に具体的には、前記電極組成物を、集電体に塗工して、塗工層を得る工程を含む方法が挙げられる。積層の方法としては、例えば、ブレード塗工、バー塗工、ダイ塗工が挙げられ、ブレード塗工が好ましい。ブレード塗工の方法としては、具体的には、例えばドクターブレードなどの塗工装置を用いて電極組成物を集電基材上にキャスティングする方法が挙げられる。また、積層の方法は上記具体例に限定されず、バックアップロールに巻回して走行する集電基材上に、スロットノズルを有するエクストルージョン型注液器より前記電極組成物を吐出させ塗布する方法も例示される。ブレード塗工においては、キャスティング後更に必要に応じて加熱(温度は例えば80~120℃、加熱時間は例えば4~12時間)などによる乾燥、ロールプレスなどによる加圧を行い得る。
【0099】
集電基材としては、構成された電池において極端な化学変化を起こさない電気伝導体であれば何れも使用可能である。
【0100】
負極活物質用の集電基材としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、炭素、銅や前記ステンレス鋼の表面にカ-ボン、ニッケル、チタン又は銀を付着処理させたもの等が利用できる。これらのうち、銅又は銅合金が好ましいが、銅が最も好ましい。
【0101】
正極用の集電基材の材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレスなどの金属が挙げられ、アルミニウムが好ましい。集電基材の形状としては、例えば、網、パンチドメタル、フォームメタル、板状に加工された箔などの形状が挙げられ、集電基材としては、板状に加工された箔が好ましい。
【0102】
電極組成物により形成された非水電解質二次電池用電極の形状は特に限定されないが、通常はシート状である。シート状の極板の場合の厚さ(集電基材部分を除く、電極組成物から形成される合剤層の厚さ)は、組成物の組成や製造条件などにも影響されるため一義的に規定することは困難であるが、通常は30~150μmである。
【0103】
[非水電解質二次電池]
前記電極組成物により形成される電極は非水電解質二次電池の電極として用いられうる。すなわち本発明は、前記電極組成物により形成される電極を備える、非水電解質二次電池をも提供する。非水電解質二次電池は、正電極及び負電極が交互に、セパレータを介して積層され、多数回巻回された構造を取りうる。前記セパレータは通常、非水電解質で含浸される。この負電極及び/又は正電極として、前記した電極組成物により形成された負電極及び/又は正電極が用いられうる。かかる非水電解質二次電池は、溶解性に優れるカルボキシメチルセルロース又はその塩が用いられ、フィルターによる濾過などの工程を省略できるので生産性に優れると共に、初期不可逆容量が顕著に改善され、高い電池特性を発揮しうるものである。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0105】
<評価>
実施例・比較例で用いられるカルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシメチルセルロース水溶液、及び電極組成物について下記の方法にて評価を行った。
【0106】
<酸型カルボキシル基量の測定>
カルボキシメチルセルロース又はその塩の酸型カルボキシル基量は、下記の方法により測定された。
【0107】
カルボキシメチルセルロース又はその塩0.1gにイオン交換水100mLを加えて水溶液とし、これに0.5mL/minの速度で濃度0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、電気伝導度を測定しつつ滴下した。電気伝導度は、電気伝導度計(東亜エレクトロニクス社製「CM-30S」)により測定した。滴下中、液温は一定(25℃)に保った。
【0108】
電気伝導度の変化が緩やかな弱酸、すなわち酸型カルボキシル基の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)から、上式(A)を用いて酸型カルボキシル基量を算出した。
【0109】
具体的には、下記の方法により酸型カルボキシル基量を算出した。
水酸化ナトリウム水溶液の添加量に対して電気伝導度をプロットして滴定曲線を作成した。
次いで、滴定曲線において、電気伝導度の変化が緩やかな範囲の点から最小二乗法により第1漸近線を作成し、電気伝導度の変化が急である範囲の点から最小二乗法により第2漸近線を作成し、第1漸近線及び第2漸近線の交点における水酸化ナトリウム水溶液の添加量を、酸型カルボキシル基の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)とした。
滴定に用いたカルボキシメチルセルロース又はその塩の質量(g)と、水酸化ナトリウムの濃度(N)と、水酸化ナトリウム水溶液量a(mL)とから、上式(A)より酸型カルボキシル基量を算出した。
【0110】
<pH測定>
試料のpH(水素イオン指数)は、ガラス電極pH計(東亜DKK製「HM-30P」)にて測定温度25℃で測定された。
【0111】
<カルボキシメチル置換度(CM-DS)の測定方法>
カルボキシメチルセルロース粉砕処理物の試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CMC塩)をH-CMC(カルボキシメチルセルロース)にした。絶乾したH-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。CM-DSを、次式1によって算出した。
【0112】
(式1)
A=[(100×F-(0.1NのH2SO4(mL))×F’)×0.1]/(H-CMCの絶乾重量(g))
カルボキシメチル置換度(CM-DS)=0.162×A/(1-0.058×A)
A:1gのH-CMCの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0113】
<最大粒子径及び平均粒子径>
メタノールを分散剤として、レーザー回折・散乱式粒度分布計(マルバーン製「マスターサイザー2000E」)で試料の体積累計100%粒子径、体積粒子径50%粒子径を測定し、それぞれ試料の最大粒子径、平均粒子径とした。
【0114】
<カルボキシメチルセルロース(CMC)の吸着率>
電極組成物を、-200mmHgの減圧下にて濾過器(製品名:セパロート、桐山製作所製)を用い、ろ紙(孔径25μm)で吸引濾過した。フィルター上に残存した残渣を水200mLで洗浄し、残渣に吸着されていないカルボキシメチルセルロースを除去した。その後、洗浄された残渣を105℃で一昼夜乾燥し水分を除去した。
乾燥させた残渣を、熱量分析計(製品名:TGA-50H、島津製作所社製)を用いて分析し、200℃における残渣重量をWA(g)、350℃における残渣重量をWB(g)とした。次式2から、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を得た。
【0115】
(式2)
カルボキシメチルセルロース吸着率(%)=((残渣重量WA(g)-残渣重量WB(g))/350℃での未燃CMC残存率X)/電極組成物中の全CMC量(g)×100
(但し、350℃での未燃CMC残存率X=0.5で定められる)
【0116】
なお、350℃までの熱重量変化はカルボキシメチルセルロースの重量変化が主要因となるため、その他の成分の熱重量変化は無視することができる。
【0117】
<製造例1>
カルボキシメチルセルロース100g(1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度が3500mPa・s、カルボキシメチル置換度0.87、日本製紙(株)製「サンローズ」)を、含水メタノール(含水率75質量%)に浸漬し、分散させた後、分散液を、80%酢酸を加えてpH6.0に調整した。その後、-200mmHgの減圧下にて濾過器(製品名:セパロート、桐山製作所製)を用いろ紙(孔径25μm)で吸引濾過して固体(残渣)を得て、残渣を乾燥させ、カルボキシメチルセルロース又はその塩(1)を得た。得られたカルボキシメチルセルロース又はその塩(1)の酸型カルボキシル基量を、上記方法により測定した。結果を表1に示す。カルボキシメチルセルロース又はその塩(1)の酸型カルボキシル基量は、2.09mmol/gであった。カルボキシメチルセルロース又はその塩(1)の1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度は3200mPa・sであった。
【0118】
【0119】
<製造例2>
分散液を、80%酢酸を加えてpH6.5に調整した以外は製造例1と同様にして、カルボキシメチルセルロース又はその塩(2)を得た。得られたカルボキシメチルセルロース又はその塩(2)の酸型カルボキシル基量を、上記方法により測定した。結果を表2に示す。カルボキシメチルセルロース又はその塩(2)の酸型カルボキシル基量は、1.23mmol/gであった。カルボキシメチルセルロース又はその塩(2)の1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度は3400mPa・sであった。
【0120】
【0121】
<製造例3>
分散液を、80%酢酸を加えてpH5.0に調整した以外は製造例1と同様にして、カルボキシメチルセルロース又はその塩(3)を得た。得られたカルボキシメチルセルロース又はその塩(3)の酸型カルボキシル基量を、上記方法により測定した。結果を表3に示す。カルボキシメチルセルロース又はその塩(3)の酸型カルボキシル基量は、2.41mmol/gであった。カルボキシメチルセルロース又はその塩(3)の1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度は2900mPa・sであった。
【0122】
【0123】
<製造例4>
分散液を、80%酢酸を加えてpH4.0に調整した以外は製造例1と同様にして、カルボキシメチルセルロース又はその塩(4)を得た。得られたカルボキシメチルセルロース又はその塩(4)の酸型カルボキシル基量を、上記方法により測定した。結果を表4に示す。カルボキシメチルセルロース又はその塩(4)の酸型カルボキシル基量は、13.74mmol/gであった。カルボキシメチルセルロース又はその塩(4)の1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度は2400mPa・sであった。
【0124】
【0125】
<比較製造例1>
分散液を、80%酢酸を加えてpH7.0に調整した以外は製造例1と同様にして、カルボキシメチルセルロース又はその塩(C1)を得た。得られたカルボキシメチルセルロース又はその塩(C1)の酸型カルボキシル基量を、上記方法により測定した。結果を表5に示す。カルボキシメチルセルロース又はその塩(C1)の酸型カルボキシル基量は、1.12mmol/gであった。
【0126】
【0127】
<製造例5>
市販カルボキシメチルセルロース(1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度が3500mPa・s、カルボキシメチル置換度0.87、日本製紙ケミカル(株)製 商品名「サンローズ」)を、気流式ミルを用いて乾式粉砕処理を行い、その後、サイクロン式分級機によって平均粒子径8μm、最大粒子径31μmのカルボキシメチルセルロース粉砕処理物を得た。
この粉砕処理品5gをメタノール95g中に浸漬した後、メタノールがpH6.2となるまで酢酸を添加した。その後、-200mmHgの減圧下にて濾過器(製品名:セパロート、桐山製作所製)を用いろ紙(孔径25μm)で吸引濾過して固体(残渣)を得て、残渣を乾燥させ、pH調整されたカルボキシメチルセルロース又はその塩(5)を得た。得られたカルボキシメチルセルロース又はその塩(5)の酸型カルボキシル基量を、上記方法により測定した。結果を表6に示す。カルボキシメチルセルロース又はその塩(5)の酸型カルボキシル基量は、1.523mmol/gであった。カルボキシメチルセルロース又はその塩(5)の1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度は2000mPa・sであった。
【0128】
【0129】
<実施例1-1>
(カルボキシメチルセルロース粉砕処理物の製造)
市販カルボキシメチルセルロース(1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度が3500mPa・s、カルボキシメチル置換度0.87、日本製紙ケミカル(株)製 商品名「サンローズ」)を、気流式ミルを用いて乾式粉砕処理を行い、その後、サイクロン式分級機によって平均粒子径8μm、最大粒子径31μmのカルボキシメチルセルロース粉砕処理物を得た。
【0130】
(pHが調整されたカルボキシメチルセルロースの製造)
この粉砕処理品5gをメタノール95g中に浸漬した後、メタノールがpH6.2となるまで酢酸を添加した。その後、-200mmHgの減圧下にて濾過器(製品名:セパロート、桐山製作所製)を用いろ紙(孔径25μm)で吸引濾過し、残渣を乾燥させpH調整されたカルボキシメチルセルロース(1-1)を得た。
【0131】
(カルボキシメチルセルロース水溶液の製造)
黒鉛粉末97質量部、結合剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)ディスパージョン(スチレンブタジエンラテックス)をSBR換算で1.5質量部、カルボキシメチルセルロース(1-1)を1.5質量部それぞれ秤量した。そして、カルボキシメチルセルロース(1-1)を1質量%の水溶液になるように蒸留水を添加し撹拌して溶解させ、カルボキシメチルセルロース水溶液(1-1)(pH5.7)を得た。
【0132】
(電極組成物の製造)
次いで、該カルボキシメチルセルロース水溶液(1-1)に、予め秤量した電極用活物質としての黒鉛粉末を添加し、ホモミキサー(製品名:T.K. AUTO HOMO MIXER、特殊機化工業社製)で5000rpm/30分間撹拌混合した後、結合剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)ディスパージョンをSBR換算で4重量部を添加し、更に同条件にて2分間撹拌し、スラリー状の電極組成物(1-1)を作成した。電極組成物(1-1)を用いて、上記方法により、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表7に示す。
【0133】
<実施例1-2>
実施例1-1のカルボキシメチルセルロース粉砕処理品を含むメタノール分散液を、pH4.7となるまで酢酸を添加し、実施例1-1と同様の方法にて濾過し、pH調整したカルボキシメチルセルロース(1-2)を得た。
【0134】
そしてカルボキシメチルセルロース水溶液(1-1)の代わりに、カルボキシメチルセルロース(1-2)を1質量%の水溶液になるように蒸留水を添加し撹拌して溶解させたカルボキシメチルセルロース水溶液(1-2)(pH4.1)を用いた以外は、実施例1-1と同様にしてスラリー状の電極組成物(1-2)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表7に示す。
【0135】
<実施例1-3>
実施例1-1のカルボキシメチルセルロース粉砕処理品を含むメタノール分散液を、pH6.8となるまで酢酸を添加し、同様の方法にて濾過し、pH調整したカルボキシメチルセルロース(1-3)を得た。
【0136】
そしてカルボキシメチルセルロース水溶液(1-1)の代わりに、カルボキシメチルセルロース(1-3)を1質量%の水溶液になるように蒸留水を添加し撹拌して溶解させたカルボキシメチルセルロース水溶液(1-3)(pH6.4)を用いた以外は、実施例1-1の(電極組成物の製造)と同様にしてスラリー状の電極組成物(1-3)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表7に示す。
【0137】
<比較例1-1>
市販カルボキシメチルセルロース(1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度が3500mPa・s、カルボキシメチル置換度0.87、日本製紙ケミカル(株)製 商品名「サンローズ」)を、気流式ミルを用いて乾式粉砕処理を行い、その後、サイクロン式分級機によって平均粒子径8μm、最大粒子径31μmのカルボキシメチルセルロース粉砕処理物であるカルボキシメチルセルロース(1-4)を得た。
【0138】
そして、カルボキシメチルセルロース水溶液(1-1)の代わりに、カルボキシメチルセルロース(1-4)を1質量%の水溶液になるように蒸留水を添加し撹拌して溶解させたカルボキシメチルセルロース水溶液(1-4)(pH7.0)を用いた以外は、実施例(1-1)と同様にしてスラリー状の電極組成物(1-4)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表7に示す。
【0139】
【0140】
<実施例2-1>
(カルボキシメチルセルロース粉砕処理物の製造)
市販カルボキシメチルセルロース(1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度が3500mPa・s、カルボキシメチル置換度0.87、日本製紙(株)製 商品名「サンローズ」)を、気流式ミルを用いて乾式粉砕処理を行い、その後、サイクロン式分級機によって平均粒子径8μm、最大粒子径31μmのカルボキシメチルセルロース粉砕処理物を得た。
【0141】
(カルボキシメチルセルロース水溶液の製造)
その後この粉砕処理品を水で溶解し水溶液とした後、更に酢酸を添加し、カルボキシメチルセルロース水溶液(2-1)(pH5.8、濃度1質量%)を得た。
【0142】
(電極組成物の製造)
電極用活物質としての黒鉛粉末92重量部を、1質量%カルボキシメチルセルロース水溶液(2-1)400重量部(カルボキシメチルセルロース及びその塩換算で4重量部)に添加し、ホモミキサー(製品名:T.K. AUTO HOMO MIXER、特殊機化工業社製)で5000rpm/30分間撹拌混合した後、結合剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)ディスパージョン(スチレンブタジエンラテックス)をSBR換算で4重量部を添加し、更に同条件にて2分間撹拌し、スラリー状の電極組成物(2-1)を作成した。電極組成物(2-1)を用いて、上記方法により、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表8に示す。
【0143】
<実施例2-2>
実施例2-1のカルボキシメチルセルロース水溶液の製造において、酢酸を添加し、カルボキシメチルセルロース水溶液(2-2)(pH4.2、濃度1質量%)を調整し用いた以外は、実施例2-1と同様にしてスラリー状の電極組成物(2-2)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表8に示す。
【0144】
<実施例2-3>
実施例2-1のカルボキシメチルセルロース水溶液の製造において、酢酸を添加し、カルボキシメチルセルロース水溶液(2-3)(pH6.5、濃度1質量%)を調整し用いた以外は、実施例2-1と同様にしてスラリー状の電極組成物(2-3)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表8に示す。
【0145】
<比較例2-1>
実施例2-1のカルボキシメチルセルロース水溶液の製造において、酢酸を添加せずに、カルボキシメチルセルロース水溶液(2-4)(pH7.1、濃度1質量%)を用いた以外は、実施例2-1と同様にしてスラリー状の電極組成物(2-4)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表8に示す。
【0146】
【0147】
<実施例3-1>(カルボキシメチルセルロース粉砕処理物の製造)
市販カルボキシメチルセルロース(1質量%水溶液の25℃におけるB型粘度計による粘度が3500mPa・s、カルボキシメチル置換度0.87、日本製紙ケミカル(株)製 商品名「サンローズ」)を、気流式ミルを用いて乾式粉砕処理を行い、その後、サイクロン式分級機によって平均粒子径8μm、最大粒子径31μmのカルボキシメチルセルロース粉砕処理物を得た。
【0148】
(電極組成物の製造)
電極用活物質としての黒鉛粉末97質量部、結合剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)ディスパージョン(スチレンブタジエンラテックス)をSBR換算で1.5質量部、上記カルボキシメチルセルロース粉砕処理物を1.5質量部をそれぞれ秤量した。そして、カルボキシメチルセルロース粉砕処理物を1質量%の水溶液になるように蒸留水を添加し撹拌して溶解させ、カルボキシメチルセルロース水溶液(pH7.0)を得た。
【0149】
次いで、該カルボキシメチルセルロース水溶液に、予め秤量した黒鉛粉末を添加し、ホモミキサー(製品名:製品名:T.K. AUTO HOMO MIXER、特殊機化工業社製)で5000rpm/30分間撹拌混合した後、結合剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)ディスパージョンをSBR換算で4重量部を添加し、更に同条件にて2分間撹拌し、スラリー状の電極組成物(3-0)(pH7.2)を得た。
【0150】
(電極組成物のpH調整)
その後、電極組成物(3-0)に酢酸を添加して、pHを5.9に調整し、pH調整を行った電極組成物(3-1)(pH5.9)を作成した。電極組成物(3-1)を用いて、上記方法により、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表9に示す。
【0151】
<実施例3-2>
電極組成物(3-0)に酢酸を添加して、pHを4.5に調整した以外は、実施例3-1と同様にして電極組成物(3-2)(pH4.5)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表9に示す。
【0152】
<実施例3-3>
電極組成物(3-0)に酢酸を添加して、pHを6.4に調整した以外は、実施例3-1と同様にして電極組成物(3-3)(pH6.4)を得て、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表9に示す。
【0153】
<比較例3-1>
実施例3-1で得られた電極組成物(3-0)(pH7.2)を、酢酸によりpH調整せずにそのまま用いて、電極用活物質へのカルボキシメチルセルロースの吸着率を求めた。結果を表9に示す。
【0154】