(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、および電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20221220BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20221220BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/66 A
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2021197167
(22)【出願日】2021-12-03
(62)【分割の表示】P 2021046025の分割
【原出願日】2021-03-19
【審査請求日】2021-12-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐飛 裕一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 輝
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-59532(JP,A)
【文献】特開2019-160781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体上に存在する正極活物質層とを有し、
前記正極活物質層の厚さは、10μm以上であり、
前記正極活物質層が正極活物質を含み、
前記正極活物質層の表面の反射率が、200nm~850nmの波長域で5.5%以上、前記正極活物質層に含まれる正極活物質固有の反射率以下である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質は、一般式LiFe
xM
(1-x)PO
4(式中、0≦x≦1、MはCo、Ni、Mn、Al、TiまたはZrである。)で表される化合物であり、
前記正極活物質層の表面の反射率が、250nm~300nmの波長域で9%以上、前記正極活物質固有の反射率以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質は、LiFePO
4で表されるリン酸鉄リチウムである、請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質層の表面の反射率が、400nm~450nmの波長域で8%以上、前記正極活物質固有の反射率以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質層は、導電助剤を含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記正極集電体は、正極集電体本体と、前記正極集電体本体の前記正極活物質層側の表面に存在する集電体被覆層とを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
下記試験方法により測定される電位が7.5V以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
(試験方法)
定格容量1Ahの非水電解質二次電池とし、これを4個直列に接続し、満充電より1Cレートで30秒間放電した後の電位を測定する。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極と、負極と、前記非水電解質二次電池用正極と前記負極との間に存在する非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載の非水電解質二次電池の複数個を備える、電池モジュールまたは電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、および電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、一般的に、正極、非水電解質、負極、および正極と負極との間に設置される分離膜(セパレータ)により構成される。
非水電解質二次電池の正極としては、リチウムイオンを含む正極活物質、導電助剤、および結着材からなる組成物を、金属箔(集電体)の表面に固着させたものが知られている。
【0003】
リチウムイオンを含む正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等のリチウム遷移金属複合酸化物や、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等のリチウムリン酸化合物が実用化されている。
【0004】
非水電解質二次電池は、低温下における電池特性の要求があった。例えば、特許文献1には、バッテリ内部抵抗(IR)の関数としてバッテリCCAのアルゴリズムを計算して記憶するステップと、検査においてバッテリのIRを測定するステップと、前記測定されたIRを使用して前記記憶されたアルゴリズムから前記検査におけるバッテリのCCA値を決定するステップと、を含む検査においてバッテリのコールドクランキングアンペア(CCA)値を決定するCCA決定方法が記載されている。この方法により、特許文献1では、CCAの向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、非水電解質二次電池の低温下における電池特性をさらに向上するという要求を満足することができなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合が少なく、低温域における放電特性に優れる非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、および電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]正極集電体と、前記正極集電体上に存在する正極活物質層とを有し、前記正極活物質層の厚さは、10μm以上であり、前記正極活物質層が正極活物質を含み、前記正極活物質層の表面の反射率が、200nm~850nmの波長域で5.5%以上、前記正極活物質層に含まれる正極活物質固有の反射率以下である、非水電解質二次電池用正極。
[2]前記正極活物質は、一般式LiFexM(1-x)PO4(式中、0≦x≦1、MはCo、Ni、Mn、Al、TiまたはZrである。)で表される化合物であり、前記正極活物質層の表面の反射率が、250nm~300nmの波長域で9%以上、前記正極活物質固有の反射率以下である、[1]に記載の非水電解質二次電池用正極。
[3]前記正極活物質は、LiFePO4で表されるリン酸鉄リチウムである、[2]に記載の非水電解質二次電池用正極。
[4]前記正極活物質層の表面の反射率が、400nm~450nmの波長域で8%以上、前記正極活物質固有の反射率以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
[5]前記正極活物質層は、導電助剤を含まない、[1]~[4]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
[6]前記正極集電体は、正極集電体本体と、前記正極集電体本体の前記正極活物質層側の表面に存在する集電体被覆層とを有する、[1]~[5]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
[7]下記試験方法により測定される電位が7.5V以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
(試験方法)
定格容量1Ahの非水電解質二次電池とし、これを4個直列に接続し、満充電より1Cレートで30秒間放電した後の電位を測定する。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極と、負極と、前記非水電解質二次電池用正極と前記負極との間に存在する非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
[9][8]に記載の非水電解質二次電池の複数個を備える、電池モジュールまたは電池システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合が少なく、低温域における放電特性に優れる非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、および電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る非水電解質二次電池用正極の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る非水電解質二次電池の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施例1および比較例において、正極活物質層の表面の分光反射率を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載した数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
図1は、本発明の非水電解質二次電池用正極の一実施形態を示す模式断面図であり、
図2は本発明の非水電解質二次電池の一実施形態を示す模式断面図である。
なお、
図1、2は、その構成をわかりやすく説明するための模式図であり、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合もある。
【0012】
<非水電解質二次電池用正極>
本実施形態の非水電解質二次電池用正極(単に「正極」ともいう。)1は、正極集電体11と正極活物質層12を有する。
正極活物質層12は正極集電体11の少なくとも一面上に存在する。正極集電体11の両面上に正極活物質層12が存在してもよい。
図1の例において、正極集電体11は、正極集電体本体14と、正極集電体本体14の正極活物質層12側の表面を被覆する集電体被覆層15とを有する。正極集電体本体14のみを正極集電体11としてもよい。
【0013】
[正極活物質層]
正極活物質層12は正極活物質を含む。正極活物質層12は、さらに結着材を含むことが好ましい。正極活物質層12は、さらに導電助剤を含んでもよい。
正極活物質粒子は、正極活物質を含む。正極活物質粒子は、正極活物質のみからなる粒子でもよいし、正極活物質の芯部と、芯部を被複する被覆部(活物質被覆部)とを有してもよい(いわゆる被覆粒子)。正極活物質層12に含まれる正極活物質粒子の群の少なくとも一部は、被覆粒子であることが好ましい。
正極活物質層12の総質量に対して、正極活物質の含有量は80.0質量%~99.9質量%が好ましく、90.0質量%~99.5質量%がより好ましい。
【0014】
正極活物質は、オリビン型結晶構造を有する化合物を含むことが好ましい。
オリビン型結晶構造を有する化合物は、一般式LiFexM(1-x)PO4で(以下「一般式(1)」ともいう。)表される化合物が好ましい。一般式(1)において0≦x≦1である。MはCo、Ni、Mn、Al、Ti又はZrである。物性値に変化がない程度に微小量の、FeおよびM(Co、Ni、Mn、Al、Ti又はZr)の一部を他の元素に置換することもできる。一般式(1)で表される化合物は、微量の金属不純物が含まれていても本発明の効果が損なわれるものではない。
一般式(1)で表される化合物は、LiFePO4で表されるリン酸鉄リチウム(以下、単に「リン酸鉄リチウム」ともいう。)が好ましい。
【0015】
正極活物質は、オリビン型結晶構造を有する化合物以外の他の正極活物質を含んでもよい。
他の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiNixCoyAlzO2、ただしx+y+z=1)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNixCoyMnzO2、ただしx+y+z=1)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、コバルトマンガン酸リチウム(LiMnCoO4)、クロム酸マンガンリチウム(LiMnCrO4)、バナジウムニッケル酸リチウム(LiNiVO4)、ニッケル置換マンガン酸リチウム(例えば、LiMn1.5Ni0.5O4)、およびバナジウムコバルト酸リチウム(LiCoVO4)、これらの化合物の一部を金属元素で置換した非化学量論的化合物等が挙げられる。前記金属元素としては、Mn、Mg、Ni、Co、Cu、ZnおよびGeからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
他の正極活物質は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0016】
本実施形態の正極活物質粒子としては、正極活物質の表面の少なくとも一部が導電材料で被覆された被覆粒子が好ましい。被覆粒子を正極活物質粒子として用いることで、電池容量、高レートサイクル特性をより高められる。
【0017】
活物質被覆部の導電材料は、炭素を含むことが好ましい。導電材料は、炭素のみからなってもよいし、炭素と炭素以外の他の元素とを含む導電性有機化合物でもよい。他の元素としては、窒素、水素、酸素等が例示できる。前記導電性有機化合物において、他の元素は10原子%以下が好ましく、5原子%以下がより好ましい。
活物質被覆部を構成する導電材料は、炭素のみからなることがさらに好ましい。
【0018】
活物質被覆部を構成する導電材料は、炭素のみからなることがさらに好ましい。
活物質被覆部を有する正極活物質の総質量に対して、導電材料の含有量は0.1~3.0質量%が好ましく、0.5~1.5質量%がより好ましく、0.7~1.3質量%がさらに好ましい。
【0019】
被覆粒子としては、オリビン型結晶構造を有する化合物を芯部とする被覆粒子が好ましく、一般式(1)で表される化合物を芯部とする被覆粒子がより好ましく、リン酸鉄リチウムを芯部とする被覆粒子(以下「被覆リン酸鉄リチウム」ともいう。)がさらに好ましい。これらの被覆粒子であれば、電池容量、サイクル特性により高められる。
加えて、被覆粒子は、芯部の表面全体が導電材料で被覆されていることが、特に好ましい。
【0020】
被覆粒子は、公知の方法で製造できる。以下に、被覆リン酸鉄リチウムを例にして、被覆粒子の製造方法を説明する。
例えば、特許第5098146号公報に記載の方法を用いてリン酸鉄リチウム粉末を作製し、GS Yuasa Technical Report、2008年6月、第5巻、第1号、第27~31頁等に記載の方法を用いて、リン酸鉄リチウム粉末の表面の少なくとも一部を炭素で被覆できる。
具体的には、まず、シュウ酸鉄二水和物、リン酸二水素アンモニウム、及び炭酸リチウムを、特定のモル比で計り、これらを不活性雰囲気下で粉砕及び混合する。次に、得られた混合物を窒素雰囲気下で加熱処理することによってリン酸鉄リチウム粉末を作製する。次いで、リン酸鉄リチウム粉末をロータリーキルンに入れ、窒素をキャリアガスとしたメタノール蒸気を供給しながら加熱処理することによって、表面の少なくとも一部を炭素で被覆したリン酸鉄リチウム粉末を得る。
例えば、粉砕工程における粉砕時間によってリン酸鉄リチウム粉末の粒子径を調整できる。メタノール蒸気を供給しながら加熱処理する工程における加熱時間及び温度等によって、リン酸鉄リチウム粉末を被覆する炭素の量を調整できる。被覆されなかった炭素粒子はその後の分級や洗浄などの工程などにより取り除くことが望ましい。
他の正極活物質は、表面の少なくとも一部に前記活物質被覆部が存在してもよい。
【0021】
正極活物質粒子の総質量に対して、被覆粒子の含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
【0022】
正極活物質粒子の総質量に対して、オリビン型結晶構造を有する化合物の含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
被覆リン酸鉄リチウムを用いる場合、正極活物質粒子の総質量に対して、被覆リン酸鉄リチウムの含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
【0023】
正極活物質層12の総質量に対して、正極活物質粒子の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%超がさらに好ましく、99.5質量%以上が特に好ましく、100質量%でもよい。正極活物質粒子の含有量が上記下限値以上であれば、電池容量、サイクル特性により高められる。
【0024】
正極活物質粒子の群(即ち、正極活物質粒子の粉体)の平均粒子径は、例えば0.1~20.0μmが好ましく、0.2~10.0μmがより好ましい。正極活物質粒子を2種以上用いる場合、それぞれの平均粒子径が上記の範囲内であればよい。
本明細書における正極活物質の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定器を用いて測定した体積基準のメジアン径である。
【0025】
正極活物質層12に含まれる結着材は有機物であり、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が挙げられる。結着材は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層12における結着材の含有量は、例えば、正極活物質層12の総質量に対して、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。結着材の含有量が上記上限値以下であれば、正極活物質層12において、リチウムイオンの伝導に寄与しない物質の割合が少なくなり、正極活物質層12の真密度を高めて、さらに、正極1の表面を覆う結着材の割合が少なくなり、リチウムの伝導性をより高めることで、高レートサイクル特性のさらなる向上を図れる。
正極活物質層12が結着材を含有する場合、結着材の含有量の下限値は、正極活物質層12の総質量に対して0.1質量%以上が好ましい。
【0026】
正極活物質層12に含まれる導電助剤としては、例えば、グラファイト、グラフェン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素材料が挙げられる。導電助剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層12における導電助剤の含有量は、例えば、正極活物質層12の総質量に対して、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましく、0質量%(すなわち、導電助剤を含まない)が特に好ましい。導電助剤の含有量が上記上限値以下であれば、正極活物質層12において、リチウムイオンの伝導に寄与しない物質の割合が少なくなり、正極活物質層12の真密度を高めて、高レートサイクル特性のさらなる向上を図れる。
正極活物質層12に導電助剤を配合する場合、導電助剤の下限値は、導電助剤の種類に応じて適宜決定され、例えば、正極活物質層12の総質量に対して0.1質量%超とされる。
なお、正極活物質層12が「導電助剤を含まない」とは、実質的に含まないことを意味し、本発明の効果に影響を及ぼさない程度に含むものを排除するものではない。例えば、導電助剤の含有量が正極活物質層12の総質量に対して0.1質量%以下であれば、実質的に含まれないと判断できる。
【0027】
[正極集電体]
集電体本体14を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が例示できる。
集電体本体14の厚みは、例えば、8μm~40μmが好ましく、10μm~25μmがより好ましい。
集電体本体14の厚みおよび正極集電体11の厚みは、マイクロメータを用いて測定できる。測定器の一例としてはミツトヨ社製品名「MDH-25M」が挙げられる。
【0028】
[集電体被覆層]
集電体被覆層15は導電材料を含む。
集電体被覆層15中の導電材料は、炭素を含むことが好ましく、炭素のみからなる導電材料がより好ましい。
集電体被覆層15は、例えばカーボンブラック等の炭素粒子と結着材を含むコーティング層が好ましい。集電体被覆層15の結着材は、正極活物質層12の結着材と同様のものを例示できる。
集電体本体14の表面を集電体被覆層15で被覆した正極集電体11は、例えば、導電材料、結着材、および溶媒を含むスラリーを、グラビア法等の公知の塗工方法を用いて集電体本体14の表面に塗工し、乾燥して溶媒を除去する方法で製造できる。
【0029】
集電体被覆層15の厚さは、0.1~4.0μmが好ましい。
集電体被覆層の厚さは、集電体被覆層の断面の電子顕微鏡(SEM、TEM)像における被覆層の厚さを計測する方法で測定できる。集電体被覆層の厚さは均一でなくてもよい。正極集電体本体14の表面の少なくとも一部に厚さ0.1μm以上の集電体被覆層が存在し、集電体被覆層の厚さの最大値が4.0μm以下であることが好ましい。
【0030】
[正極の製造方法]
本実施形態の正極1は、例えば、正極活物質、結着材、および溶媒を含む正極製造用組成物を、正極集電体11上に塗工し、乾燥し溶媒を除去して正極活物質層12を形成する方法で製造できる。正極製造用組成物は導電助剤を含んでもよい。
正極集電体11上に正極活物質層12を形成した積層物を、2枚の平板状冶具の間に挟み、厚み方向に均一に加圧する方法で、正極活物質層12の厚みを調整できる。例えば、ロールプレス機を用いて加圧する方法を使用できる。
【0031】
正極製造用組成物の溶媒は非水系溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等の鎖状または環状アミド;アセトン等のケトンが挙げられる。溶媒は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
正極活物質層12は、分散剤を含んでもよい。分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ワンショットワニス(トーヨーカラー社製)等が挙げられる。
【0033】
正極活物質を被覆する導電材料および導電助剤の少なくとも一方が炭素を含む場合、正極1から正極集電体本体14を除いた残部の質量に対して、導電性炭素の含有量は0.5~3.5質量%が好ましく、1.5~3.0質量%がより好ましい。
正極1が正極集電体本体14と正極活物質層12とからなる場合、正極1から正極集電体本体14を除いた残部の質量は、正極活物質層12の質量である。
正極1が正極集電体本体14と集電体被覆層15と正極活物質層12とからなる場合、正極1から正極集電体本体14を除いた残部の質量は、集電体被覆層15と正極活物質層12の合計質量である。
正極活物質層12の総質量に対して、導電性炭素の含有量が上記の範囲内であると、電池容量をより改善し、より優れたサイクル特性を有する非水電解質二次電池を実現できる。
正極1から正極集電体本体14を除いた残部の質量に対する導電性炭素の含有量は、正極集電体本体14上に存在する層の全量を剥がして120℃環境で真空乾燥させた乾燥物(粉体)を測定対象として、下記≪導電性炭素含有量の測定方法≫で測定できる。
下記≪導電性炭素含有量の測定方法≫で測定した導電性炭素の含有量は、活物質被覆部中の炭素と、導電助剤中の炭素と、集電体被覆層15中の炭素を含む。結着材中の炭素は含まれない。
【0034】
前記測定対象物を得る方法としては、例えば、以下の方法を用いることができる。
まず、正極1を任意の大きさに打ち抜き、溶剤(例えば、N-メチルピロリドン)に浸漬して攪拌する方法で、正極集電体本体14上に存在する層(粉体)を完全に剥がす。次いで、正極集電体本体14に粉体が付着していないことを確認し、正極集電体本体14を溶剤から取り出し、剥がした粉体と溶剤を含む懸濁液(スラリー)を得る。得られた懸濁液を120℃で乾燥して溶剤を完全に揮発させ、目的の測定対象物(粉体)を得る。
【0035】
≪導電性炭素含有量の測定方法≫
[測定方法A]
測定対象物を均一に混合して試料(質量w1)を量りとり、下記の工程A1、工程A2の手順で熱重量示唆熱(TG-DTA)測定を行い、TG曲線を得る。得られたTG曲線から下記第1の重量減少量M1(単位:質量%)及び第2の重量減少量M2(単位:質量%)を求める。M2からM1を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
工程A1:300mL/分のアルゴン気流中において、10℃/分の昇温速度で30℃から600℃まで昇温し、600℃で10分間保持したときの質量w2から、下記式(a1)により第1の重量減少量M1を求める。
M1=(w1-w2)/w1×100 (a1)
工程A2:前記工程A1の直後に600℃から10℃/分の降温速度で降温し、200℃で10分間保持した後に、測定ガスをアルゴンから酸素へ完全に置換し、100mL/分の酸素気流中において、10℃/分の昇温速度で200℃から1000℃まで昇温し、1000℃にて10分間保持したときの質量w3から、下記式(a2)により第2の重量減少量M2(単位:質量%)を求める。
M2=(w1-w3)/w1×100 (a2)
【0036】
[測定方法B]
測定対象物を均一に混合して試料を0.0001mg精秤し、下記の燃焼条件で試料を燃焼し、発生した二酸化炭素をCHN元素分析装置により定量し、試料に含まれる全炭素量M3(単位:質量%)を測定する。また、前記測定方法Aの工程A1の手順で第1の重量減少量M1を求める。M3からM1を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
[燃焼条件]
燃焼炉:1150℃
還元炉:850℃
ヘリウム流量:200mL/分
酸素流量:25~30mL/分
【0037】
[測定方法C]
上記測定方法Bと同様にして、試料に含まれる全炭素量M3(単位:質量%)を測定する。また、下記の方法で結着材由来の炭素の含有量M4(単位:質量%)を求める。M3からM4を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
結着材がポリフッ化ビニリデン(PVDF:モノマー(CH2CF2)の分子量64)である場合は、管状式燃焼法による燃焼イオンクロマトグラフィーにより測定されたフッ化物イオン(F-)の含有量(単位:質量%)、PVDFを構成するモノマーのフッ素の原子量(19)、およびPVDFを構成する炭素の原子量(12)から以下の式で計算することができる。
PVDFの含有量(単位:質量%)=フッ化物イオンの含有量(単位:質量%)×64/38
PVDF由来の炭素の含有量M4(単位:質量%)=フッ化物イオンの含有量(単位:質量%)×12/19
結着材がポリフッ化ビニリデンであることは、試料、又は試料をN-Nジメチルホルムアミド(DMF)溶媒により抽出した液体をフーリエ変換赤外スペクトル(FT-IR)測定し、C-F結合由来の吸収を確認する方法で確かめることができる。同様に19F-NMR測定でも確かめることができる。
結着材がPVDF以外と同定された場合は、その分子量に相当する結着材の含有量(単位:質量%)および炭素の含有量(単位:質量%)を求めることで、結着材由来の炭素量M4を算出できる。
これらの手法は下記複数の公知文献に記載されている。
東レリサーチセンター The TRC News No.117 (Sep.2013)第34~37頁、[2021年2月10日検索]、インターネット<https://www.toray-research.co.jp/technical-info/trcnews/pdf/TRC117(34-37).pdf>。
東ソー分析センター 技術レポート No.T1019 2017.09.20、[2021年2月10日検索]、インターネット<http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00522/T1719N.pdf>。
【0038】
≪導電性炭素の分析方法≫
正極活物質の活物質被覆部を構成する導電性炭素と、導電助剤である導電性炭素は、以下の分析方法で区別できる。
例えば、正極活物質層中の粒子を透過電子顕微鏡電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)により分析し、粒子表面近傍にのみ290eV付近の炭素由来のピークが存在する粒子は正極活物質であり、粒子内部にまで炭素由来のピークが存在する粒子は導電助剤と判定することができる。
他の方法としては、正極活物質層中の粒子をラマン分光によりマッピング解析し、炭素由来のG-bandとD-band、及び正極活物質由来の酸化物結晶のピークが同時に観測された粒子は正極活物質であり、G-bandとD-bandのみが観測された粒子は導電助剤と判定することができる。なお、不純物として考えられる微量な炭素や、製造時に正極活物質の表面から意図せず剥がれた微量な炭素等は、導電助剤と判定しない。
これらの方法を用いて、炭素材料からなる導電助剤が正極活物質層に含まれるか否かを確認することができる。
【0039】
[正極活物質層の厚さ]
本実施形態の正極1では、正極活物質層12の厚さは、10μm以上であることが好ましい。正極活物質層12の厚さが10μm以上であれば、集電体の厚さと比較して十分厚く形成することができるため電池のエネルギー密度を高めることができる。正極活物質層12の厚さが10μm以上である場合、正極活物質層12が多孔質であっても、正極集電体11の反射率の影響を受けることなく、正極活物質層12の表面の反射率を測定することができる。
【0040】
[正極活物質層の表面の反射率]
本実施形態の正極1では、正極活物質層12の表面の反射率が、200nm~850nmの波長域で5.5%以上、正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下である。前記反射率は、5.8%以上であることが好ましく、6.0%以上であることがより好ましい。前記反射率が5.5%以上であれば、正極活物質層12の表面において、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合が少なくなるため、リチウムイオンの伝導が妨げられることを抑制することができる。その結果、正極1は、低温域における放電特性に優れるものとなる。また、正極活物質層12の表面において、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合が少なくなると、正極活物質層12の表面において正極活物質の割合が多くなるため、前記反射率が正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下となる。
なお、本実施形態の正極1では、正極活物質層12の表面の反射率を上記の範囲内とするには、正極活物質層12における正極活物質の配合量を高める。
【0041】
正極活物質層12の表面の反射率の測定方法は、正極活物質層12の表面の分光反射率の測定によって評価する。
分光反射率の測定には、例えば、日立製作所社製、分光光度計U-4100(5°正反射付属装置付き)を用いる。光源としては、紫外域 重水素ランプ、可視・近赤外域 50Wハロゲンランプを用いる。検出器としては、紫外・可視域 光電子増倍管、近赤外域 冷却型PbSを用いる。測定範囲は、200nm-850nmとする。サンプルサイズを15mm×15mmとする。
正極活物質層12の表面の分光反射率は、正極を完全放電状態で測定する。もしくは、正極を2.0V vs Li/Li+まで放電する。
導電性炭素材料のみの反射率は、正極集電体本体14上に、カーボンブラック100質量部と、結着材であるポリフッ化ビニリデン40質量部と、溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)とを混合したスラリーを塗工し、乾燥して得た薄膜の反射率を測定することにより評価する。NMPの使用量はスラリーを塗工するのに必要な量とする。
正極活物質層12の表面反射は、表面粗さによって影響を受けるが、一般に電極はプレス処理をすることにより表面は平滑性を持ち、乱反射の影響が低い状態となっている。さらに、本測定では、入射角を5°とし、入射角がほぼ垂直であるため、安定して材料固有の反射率を測定することができる。
また、正極活物質層12の厚みが数μmを下回ると、正極集電体本体14の反射光が含まれることがあるが、本実施形態では、正極活物質層12の厚みが10μm以上の正極を対象とするため、正極活物質層12の表面反射は、正極活物質層12の表面の反射光のスペクトルのみを反映する。
【0042】
正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率の測定方法は以下の通りである。
正極集電体本体上に、正極活物質のみを含むスラリーを塗工し、乾燥して得た薄膜の反射率を測定することにより、正極活物質固有の反射率を評価する。
正極活物質固有の反射率の測定は、正極活物質層12の表面の反射率の測定と同様に行う。
【0043】
本実施形態の正極1では、正極活物質層12の表面の反射率が、250nm~300nmの波長域で9%以上、正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下であることが好ましい。前記反射率が9%以上であると、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合がより少なくなるため、リチウムイオンの伝導が妨げられることをより抑制することができる。また、正極活物質層12の表面において、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合が少なくなると、正極活物質層12の表面において正極活物質の割合が多くなるため、前記反射率が正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下となる。
【0044】
本実施形態の正極1では、正極活物質層12の表面の反射率が、400nm~450nmの波長域で8%以上、正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下であることが好ましい。正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下であることが好ましい。前記反射率が8%以上であると、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合がより少なくなるため、リチウムイオンの伝導が妨げられることをより抑制することができる。また、正極活物質層12の表面において、リチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合が少なくなると、正極活物質層12の表面において正極活物質の割合が多くなるため、前記反射率が正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下となる。
【0045】
本実施形態の正極1では、下記試験方法により測定される電位が7.5V以上である。
(試験方法)
定格容量1Ahの非水電解質二次電池とし、これを4個直列に接続し、満充電より1Cレートで30秒間放電した後の電位を測定する。
正極1において、上記試験方法により測定される電位が7.5V以上であると、鉛蓄電池用途としてのコールドクランキング特性を満たすことができる。
【0046】
本実施形態の正極1によれば、正極活物質層12の表面の反射率が、200nm~850nmの波長域で5.5%以上、正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下であるため、正極活物質層12の表面にリチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合が少なく、低温域における放電特性に優れる。すなわち、本実施形態の正極1は、低温域におけるコールドクランキング特性が良好であり、特に使用を開始した後の抵抗上昇が抑えられ、長期間安定して使用することができる。
従来、正極を構成する正極活物質層の表面には、通常、正極活物質の表面を被覆する炭素等の導電材料、導電助剤、バインダー、その他添加物が偏析している。正極活物質層の表面に導電材料やバインダーが偏析していると、界面抵抗が上昇し、電池特性に悪影響を与える。特に、低温域における放電特性では、負極側に最も近い、正極活物質層の表面付近に存在する正極活物質のイオン伝導が妨げられると特性に悪影響が生じ、放電初期の電位低下(直流抵抗によるIRドロップ)が問題となる。本実施形態の正極1は、正極活物質層12の表面の反射率を、200nm~850nmの波長域で5.5%以上、正極活物質層12に含まれる正極活物質固有の反射率以下とすることにより、正極活物質層12の表面におけるリチウムイオンの伝導に寄与しない成分の割合を少なくして、上記の課題を解決した。
【0047】
<非水電解質二次電池>
図2に示す本実施形態の非水電解質二次電池10は、本実施形態の非水電解質二次電池用正極1と、負極3と、非水電解質とを備える。さらにセパレータ2を備えてもよい。図中符号5は外装体である。
本実施形態において、正極1は、板状の正極集電体11と、その両面上に設けられた正極活物質層12と有する。正極活物質層12は正極集電体11の表面の一部に存在する。正極集電体11の表面の縁部は、正極活物質層12が存在しない正極集電体露出部13である。正極集電体露出部13の任意の箇所に、図示しない端子用タブが電気的に接続する。
負極3は、板状の負極集電体31と、その両面上に設けられた負極活物質層32とを有する。負極活物質層32は負極集電体31の表面の一部に存在する。負極集電体31の表面の縁部は、負極活物質層32が存在しない負極集電体露出部33である。負極集電体露出部33の任意の箇所に、図示しない端子用タブが電気的に接続する。
正極1、負極3およびセパレータ2の形状は特に限定されない。例えば平面視矩形状でもよい。
【0048】
本実施形態の非水電解質二次電池10は、例えば、正極1と負極3を、セパレータ2を介して交互に積層した電極積層体を作製し、電極積層体をアルミラミネート袋等の外装体(筐体)5に封入し、非水電解質(図示せず)を注入して密閉する方法で製造できる。
図2では、代表的に、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に積層した構造を示しているが、電極の数は適宜変更できる。正極1は1枚以上あればよく、得ようとする電池容量に応じて任意の数の正極1を用いることができる。負極3およびセパレータ2は、正極1の数より1枚多く用い、最外層が負極3となるように積層する。
【0049】
[負極]
負極活物質層32は負極活物質を含む。さらに結着材を含んでもよい。さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質の形状は、粒子状が好ましい。
負極3は、例えば、負極活物質、結着材、および溶媒を含む負極製造用組成物を調製し、これを負極集電体31上に塗工し、乾燥し溶媒を除去して負極活物質層32を形成する方法で製造できる。負極製造用組成物は導電助剤を含んでもよい。
【0050】
負極活物質および導電助剤としては、例えばグラファイト、グラフェン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素材料が挙げられる。負極活物質および導電助剤は、それぞれ1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0051】
負極集電体31の材料、負極製造用組成物中の結着材、溶媒としては、上記した正極集電体11の材料、正極製造用組成物中の結着材、溶媒と同様のものを例示できる。負極製造用組成物中の結着材、溶媒は、それぞれ1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0052】
負極活物質層32の総質量に対して、負極活物質および導電助剤の合計の含有量は80.0質量%~99.9質量%が好ましく、85.0質量%~98.0質量%がより好ましい。
【0053】
[セパレータ]
セパレータ2を負極3と正極1との間に配置して短絡等を防止する。セパレータ2は、後述する非水電解質を保持してもよい。
セパレータ2としては、特に限定されず、多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示できる。
セパレータ2の一方または両方の表面上に絶縁層を設けてもよい。絶縁層は、絶縁性微粒子を絶縁層用結着材で結着した多孔質構造を有する層が好ましい。
【0054】
セパレータ2は、各種可塑剤、酸化防止剤、難燃剤を含んでもよい。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤;ヒンダードアミン系酸化防止剤;リン系酸化防止剤;イオウ系酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系酸化防止剤;ベンゾフェノン系酸化防止剤;トリアジン系酸化防止剤;サルチル酸エステル系酸化防止剤等が例示できる。フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。
【0055】
[非水電解質]
非水電解質は正極1と負極3との間を満たす。例えば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等において公知の非水電解質を使用できる。
非水電解質として、有機溶媒に電解質塩を溶解した非水電解液が好ましい。
【0056】
有機溶媒は、高電圧に対する耐性を有するものが好ましい。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトロヒドラフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルアセテート等の極性溶媒、またはこれら極性溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。
【0057】
電解質塩は、特に限定されず、例えばLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF6、LiCF3CO2、LiPF6SO3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、Li(SO2CF2CF3)2、LiN(COCF3)2、LiN(COCF2CF3)2等のリチウムを含む塩、またはこれら塩の2種以上の混合物が挙げられる。
【0058】
本実施形態の非水電解質二次電池は、産業用、民生用、自動車用、住宅用等、各種用途のリチウムイオン二次電池として使用できる。
本実施形態の非水電解質二次電池の使用形態は特に限定されない。例えば、複数個の非水電解質二次電池を直列または並列に接続して構成した電池モジュール、電気的に接続した複数個の電池モジュールと電池制御システムとを備える電池パック、電気的に接続した複数個の電池モジュールと電池制御システムとを備える蓄電池システム等に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0060】
<測定方法>
[分光反射率の測定方法]
(測定条件)
測定装置:日立製作所社製、分光光度計U-4100(5°正反射付属装置付き)
光源:紫外域 重水素ランプ、可視・近赤外域 50Wハロゲンランプ
検出器:紫外・可視域 光電子増倍管、近赤外域 冷却型PbS
測定範囲:200-850nm
サンプルサイズ:15mm×15mm
【0061】
(分光反射率の測定)
正極活物質層の分光反射率は、正極を完全放電状態で測定する。もしくは、正極を2.0V vs Li/Li+まで放電する。
導電性炭素材料のみの反射率は、正極集電体本体であるアルミニウム箔(厚さ15μm)上に、カーボンブラック100質量部と、結着材であるポリフッ化ビニリデン40質量部と、溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)とを混合したスラリーを塗工し、乾燥して得た薄膜の反射率を測定することにより評価した。NMPの使用量はスラリーを塗工するのに必要な量とした。
正極活物質層の表面反射は、表面粗さによって影響を受けるが、一般に電極はプレス処理をすることにより表面は平滑性を持ち、乱反射の影響が低い状態となっている。さらに、本測定では、入射角を5°とし、入射角がほぼ垂直であるため、安定して材料固有の反射率を測定することができる。
また、正極活物質層の厚みが数μmを下回ると、正極集電体本体の反射光が含まれることがあるが、本発明では、正極活物質層の厚みが10μm以上の正極を対象とするため、正極活物質層の表面反射は、正極活物質層の表面の反射光のスペクトルのみを反映する。
【0062】
<製造例:負極の製造>
負極活物質である人造黒鉛100質量部と、結着材であるスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘材であるカルボキシメチルセルロースNa1.5質量部と、溶媒である水とを混合し、固形分50質量%の負極製造用組成物を得た。
得られた負極製造用組成物を、銅箔(厚さ8μm)の両面上にそれぞれ塗工し、100℃で真空乾燥した後、2kNの荷重で加圧プレスして負極シートを得た。得られた負極シートを、42mm角の電極形状に打ち抜き、負極とした。
【0063】
[実施例1]
正極活物質としては、炭素で被覆されたリン酸鉄リチウム(以下「カーボンコート活物質」ともいう。平均粒子径1.0μm)を用いた。炭素の被覆量を1.0質量%とした。
導電助剤を用いなかった。
まず、以下の方法で正極集電体本体の表裏両面を集電体被覆層で被覆して正極集電体を作製した。正極集電体本体としてはアルミニウム箔(厚さ15μm)を用いた。
次いで、以下の方法で正極活物質層を形成した。
カーボンコート活物質100質量部と、結着材であるポリフッ化ビニリデン0.5質量部と、溶媒であるNMPとを、ミキサーにて混合して正極製造用組成物を得た。溶媒の使用量は、正極製造用組成物を塗工するのに必要な量とした。
正極集電体の両面上に、それぞれ正極製造用組成物を塗工し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥して、厚み70μmの正極活物質層を形成した。
得られた積層物を10kNの荷重で加圧プレスして正極シートを得た。
得られた正極シートを、40mm角の電極形状に打ち抜き、正極とした。
【0064】
得られた正極の正極活物質層の表面の分光反射率を測定した。結果を
図3に示す。
図3に示す結果から、200nm~850nmの波長域で反射率が6.5%以上であり、250nm~300nmの波長域では正極活物質層に含まれるリン酸鉄リチウム固有の反射スペクトルを反映して、反射率が11%であった。また、400nm~450nmの波長域ではカーボンブラック量が少ないことを反映して、反射率が8.9%以上であった。長波長ほど反射率が低下する傾向が認められ、850nmでの反射率は6.6%であった。
導電助剤(カーボンブラック)のみの反射光量を測定したところ、200nm~300nmの波長域で反射率が3%~5%、300nm~850nmの波長域で反射率が3%以下であった。本実施例における正極活物質層と比較して、カーボンブラックは非常に光吸収が大きいことが分かった。カーボンブラックの添加量が少ないことにより、正極活物質層の表面にはリン酸鉄リチウム粒子固有の反射が観測され、リチウム伝導に寄与しない材料が少ない状態が実現できたと考えられる。
【0065】
以下の方法で、
図2に示す構成の非水電解質二次電池を製造した。
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)を、EC:PC:DECの体積比が30:5:65となるように混合した溶媒に、電解質としてLiPF
6を1モル/リットルとなるように溶解して、非水電解液を調製した。
本例で得た正極と、製造例1で得た負極とを、セパレータを介して交互に積層し、最外層が負極である電極積層体を作製した。セパレータとしては、ポリオレフィンフィルム(厚さ15μm)を用いた。
電極積層体を作製する工程では、まず、セパレータと正極とを積層し、その後、セパレータ上に負極を積層した。
電極積層体の正極集電体露出部および負極集電体露出部のそれぞれに、端子用タブを電気的に接続し、端子用タブが外部に突出するように、アルミラミネートフィルムで電極積層体を挟み、三辺をラミネート加工して封止した。
続いて、封止せずに残した一辺から非水電解液を注入し、真空封止して非水電解質二次電池(ラミネートセル)を製造した。得られた非水電解質二次電池の容量は1.0Ahであった。
【0066】
得られた非水電解質二次電池を25℃にて満充電(100%SOC)した後、-30℃にて、満充電状態から1Cで放電し、放電開始から30秒後(8mAh相当)での電位を観測した。
その結果、本実施例の非水電解質二次電池の電位は2.52Vであった。このセル(非水電解質二次電池)を4個直列にして得られる電池モジュールの電位は10.08Vであり、鉛蓄電池用途としてのコールドクランキング特性を満たしていた。
【0067】
さらに、本実施例の非水電解質二次電池について、40℃にて、1C充電/1C放電を1サイクルとする充放電サイクルを1000サイクル繰り返した。その後、非水電解質二次電池を25℃にて満充電(100%SOC)した後、-30℃にて、満充電状態から1Cで放電したところ、放電開始から30秒後の電位は2.45Vであった。このセル(非水電解質二次電池)を4個直列にして得られる電池の電位は9.8Vであり、鉛蓄電池用途としてのコールドクランキング特性を満たしていた。
これらの結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2]
導電助剤としてのカーボンブラックを1.0質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の正極を作製した。
得られた正極の正極活物質層の表面の分光反射率を測定した。その結果、200nm~850nmの波長域で反射率が6.2%以上であり、250nm~300nmの波長域では正極活物質層に含まれるリン酸鉄リチウム固有の反射スペクトルを反映して、反射率が9.5%であった。また、400nm~450nmの波長域では、反射率が8.9%以上であった。実施例1よりも反射率が低いのは、カーボンブラックを少量添加したためである。
【0069】
得られた正極を用いて、非水電解質二次電池(ラミネートセル)を製造した。得られた非水電解質二次電池の容量は1.0Ahであった。
得られた非水電解質二次電池を25℃にて満充電(100%SOC)した後、-30℃にて、満充電状態から1Cで放電し、放電開始から30秒後(8mAh相当)での電位を観測したところ、電位は2.5Vであった。実施例1よりも電位が若干低下したのは、カーボンブラックを少量含むためにリチウム伝導パスが若干妨げられたことが要因と考えられる。
【0070】
さらに、本実施例の非水電解質二次電池について、40℃にて、1C充電/1C放電を1サイクルとする充放電サイクルを1000サイクル繰り返した。その後、非水電解質二次電池を25℃にて満充電(100%SOC)した後、-30℃にて、満充電状態から1Cで放電したところ、放電開始から30秒後の電位は2.35Vであった。このセル(非水電解質二次電池)を4個直列にして得られる電池モジュールの電位は9.4Vであり、鉛蓄電池用途としてのコールドクランキング特性を満たしていた。
これらの結果を表1に示す。
実施例1と同様、長波長ほど反射率が低下する傾向が認められ、850nmでの反射率は6.2%であった。
【0071】
[比較例]
導電助剤としてのカーボンブラックを5.0質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例の正極を作製した。
得られた正極の正極活物質層の表面の分光反射率を測定した。結果を
図3に示す。その結果、200nm~850nmの波長域で反射率が5.0%であり、250nm~300nmの波長域では正極活物質層に含まれるリン酸鉄リチウム固有の反射スペクトルを反映して、反射率が6.2%であった。また、400nm~450nmの波長域では、反射率が5.0%以上であった。実施例1、2よりも反射率が低いのは、カーボンブラックの添加量が多いためである。カーボンブラックの影響により波長410nmで反射率は極小値をとり、410nmでの反射率は5.0%、200nmでの反射率は10.5%、850nmでの反射率は5.3%であった。
【0072】
得られた正極を用いて、非水電解質二次電池(ラミネートセル)を製造した。得られた非水電解質二次電池の容量は1.0Ahであった。
得られた非水電解質二次電池を25℃にて満充電(100%SOC)した後、-30℃にて、満充電状態から1Cで放電し、放電開始から30秒後(8mAh相当)での電位を観測したところ、電位は2.4Vであった。実施例2よりも電位がさらに低下したのは、カーボンブラックの添加量が多いために電池特性に大きく影響する程度までリチウム伝導パスが妨げられたことが要因と考えられる。
【0073】
さらに、本実施例の非水電解質二次電池について、40℃にて、1C充電/1C放電を1サイクルとする充放電サイクルを1000サイクル繰り返した。その後、非水電解質二次電池を25℃にて満充電(100%SOC)した後、-30℃にて、満充電状態から1Cで放電したところ、放電開始から30秒後の電位は1.8Vであった。このセル(非水電解質二次電池)を4個直列にして得られる電池モジュールの電位は7.2Vであり、鉛蓄電池用途としてのコールドクランキング特性を満たしていなかった。サイクル後に抵抗上昇、電位低下を起こしているのは、カーボンブラックによる副反応によるものと考えられ、カーボンブラックの添加量が多く、正極活物質層の表面の反射率が低い状態では、電池特性の劣化が大きいことが分かった。
これらの結果を表1に示す。
【0074】
【符号の説明】
【0075】
1 正極
2 セパレータ
3 負極
5 外装体
10 二次電池
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 正極集電体露出部
14 集電体本体
15 集電体被覆層
31 負極集電体
32 負極活物質層
33 負極集電体露出部