(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】細胞壁を有する生物の存在状態の判定方法、及び細胞壁を有する生物の同定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6888 20180101AFI20221220BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20221220BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221220BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20221220BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20221220BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221220BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221220BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20221220BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/04
G01N33/50 P
G01N33/53 M
G01N33/569 F
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2021504128
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009198
(87)【国際公開番号】W WO2020179823
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019038910
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮太
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526080(JP,A)
【文献】国際公開第2015/105172(WO,A1)
【文献】特表2018-533615(JP,A)
【文献】BLOCH S., et al,Small and Smaller-sRNAs and MicroRNAs in the Regulation of Toxin Gene Expression in Prokaryotic Cell,Toxins,2017年05月30日,vol. 9, no. 6,article no. 181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること、又は水溶媒である測定試料を液体試料として準備することと、
前記液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することと、
を含み、前記1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づいて細胞壁を有する生物の存在状態を判定する、
細胞壁を有する生物の存在状態の判定方法
であって、
前記1種又は複数種のsRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号11で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号12で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号10で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、細胞壁を有する生物の存在状態の判定方法。
【請求項2】
前記1種又は複数種のsRNAは、前記細胞壁を有する生物において特異的な発現状態を示す、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記細胞壁を有する生物の存在状態を判定することが、細胞壁を有する2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含む、請求項1又は請求項2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記sRNAの存在状態を検出することが、前記sRNAの存在量を検出することを含む、請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項5】
前記細胞壁を有する生物が、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項6】
前記細胞壁を有する生物が植物を含む、請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項7】
前記測定試料が空中浮遊物を収集して得られた測定試料であり、前記細胞壁を有する生物の存在状態を判定することが、空中に存在する細胞壁を有する生物の存在状態を判定することを含む、請求項1~請求項
6のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項8】
前記浸漬が0℃~50℃の温度範囲内の温度で行われる、請求項1~請求項
7のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項9】
前記1種又は複数種のsRNAそれぞれの塩基数が、5~500の範囲内である、請求項1~請求項
8のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項10】
前記水溶媒が核酸増幅用試薬を含む、請求項1~請求項
9のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項11】
前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することが等温遺伝子増幅により行われる、請求項1~請求項
10のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項12】
前記等温遺伝子増幅が10℃~40℃の温度範囲内の温度で行われる、請求項
11に記載の判定方法。
【請求項13】
前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することがPCRにより行われる、請求項1~請求項
10のうちいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項14】
測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること、又は水溶媒である測定試料を液体試料として準備することと、
前記液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することと、
を含み、前記1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づいて前記測定試料中に存在する細胞壁を有する生物を同定する、
細胞壁を有する生物の同定方法
であって、
前記1種又は複数種のsRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号11で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号12で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号10で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、細胞壁を有する生物の同定方法。
【請求項15】
前記1種又は複数種のsRNAは、細胞壁を有する生物に応じて特異的な発現状態を示す、請求項
14に記載の同定方法。
【請求項16】
前記測定試料中に存在する細胞壁を有する生物を同定することが、2種以上の候補生物のうち1種以上が存在していると同定することを含む、請求項
14又は請求項
15に記載の同定方法。
【請求項17】
前記sRNAの存在状態を検出することが、前記sRNAの存在量を検出することを含む、請求項
14~請求項
16のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【請求項18】
前記測定試料が空中浮遊物を収集して得られた測定試料であり、前記細胞壁を有する生物を同定することが、空中に存在する細胞壁を有する生物を同定することを含む、請求項
14~請求項
17のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【請求項19】
前記浸漬が0℃~50℃の温度範囲内の温度で行われる、請求項
14~請求項
18のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【請求項20】
前記1種又は複数種のsRNAそれぞれの塩基数が、5~500の範囲内である、請求項
14~請求項
19のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【請求項21】
前記水溶媒が核酸増幅用試薬を含む、請求項
14~請求項
20のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【請求項22】
前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することが等温遺伝子増幅により行われる、請求項
14~請求項
21のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【請求項23】
前記等温遺伝子増幅が10℃~40℃の温度範囲内の温度で行われる、請求項
22に記載の同定方法。
【請求項24】
前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することがPCRにより行われる、請求項
14~請求項
21のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞壁を有する生物の存在状態の判定方法、及び細胞壁を有する生物の同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造、医療、福祉、家庭等の衛生管理が必要とされる現場において、人体に対し好ましくない影響を与える細菌等の生物の管理は重要である。環境中の細菌のほとんどは無害であるが、一部の細菌は、食中毒、製品の腐敗又は変敗を引き起こし、人々の暮らしの大きな妨げとなる。
【0003】
近年は細菌を何らかの方法で検出し(いわゆる「見える化」)、検出結果を細菌に関する衛生管理の指標とする試みが普及しつつある。ここで、細菌を検出する場合に最も基本的な検出方法は培養法である。培養法は、培地上で細菌を培養し、細菌の形態を基に当該細菌を検出する方法である。
【0004】
培養法以外の微生物の検出方法として、微生物の表面抗原を抗体で認識する方法(抗体法)が挙げられる。抗体法としては、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、ELISA法等が代表的な方法として挙げられる。
【0005】
上記の方法以外の微生物の検出方法としては、微生物に含まれる遺伝子を基に微生物を検出する方法(遺伝子法)が挙げられる。遺伝子法は、検出対象となる微生物に含まれる遺伝子の一部を構成する核酸配列の存在の有無を調べ、存在する微生物の種類を同定する方法である。同定に用いられる核酸配列が含まれる核酸分子としては、DNA及び16S rRNAと呼ばれるリボソーム由来RNAが挙げられる。例えば、特開2013-93号公報においては、16S rRNAのヌクレオチド配列を基に、Mycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareの検出を行っている。
【0006】
DNAはほぼ全ての生物が保有している核酸であり、また、16S rRNAは、ほぼ全ての生物が保有している核酸である。これらの核酸は、生体内に大量に存在する。このため、DNAは、検出の対象として好適であり、従来から遺伝子配列に基づく微生物の検出の研究に用いられてきた。同様に、16S rRNAも検出の対象として好適であり、従来から遺伝子配列に基づく微生物の検出の研究に用いられてきた。DNAの配列の中には、生物種間で配列の保存性を有する部分と、生物種ごとに配列が異なる部分とがある。生物種ごとに配列が異なる部分を基にして、生物種を同定することができる。同様に、16s rRNAの配列の中には、生物種間で配列の保存性を有する部分と、生物種ごとに配列が異なる部分とがある。生物種ごとに配列が異なる部分を基にして、生物種を同定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の一実施形態は、測定試料中における生物の存在状態を簡便に判定できる判定方法、及び測定試料中に含まれる生物を簡便に同定できる同定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること、又は水溶媒である測定試料を液体試料として準備することと、
前記液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することと、
を含み、前記1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づいて細胞壁を有する生物の存在状態を判定する、
細胞壁を有する生物の存在状態の判定方法。
<2> 前記1種又は複数種のsRNAは、前記細胞壁を有する生物において特異的な発現状態を示す、<1>に記載の判定方法。
<3> 前記細胞壁を有する生物の存在状態を判定することが、細胞壁を有する2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含む、<1>又は<2>に記載の判定方法。
<4> 前記sRNAの存在状態を検出することが、前記sRNAの存在量を検出することを含む、<1>~<3>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<5> 前記細胞壁を有する生物が、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、<1>~<4>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<6> 前記細胞壁を有する生物が植物を含む、<1>~<4>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<7> 前記細胞壁を有する生物がベロ毒素生産菌を含む、<1>~<4>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<8> 前記測定試料が空中浮遊物を収集して得られた測定試料であり、前記細胞壁を有する生物の存在状態を判定することが、空中に存在する細胞壁を有する生物の存在状態を判定することを含む、<1>~<7>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<9> 前記浸漬が0℃~50℃の温度範囲内の温度で行われる、<1>~<8>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<10> 前記1種又は複数種のsRNAそれぞれの塩基数が、5~500の範囲内である、<1>~<9>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<11> 前記1種又は複数種のsRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号11で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号12で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号10で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>~<10>のうちうちいずれか一項に記載の判定方法。
<12> 前記水溶媒が核酸増幅用試薬を含む、<1>~<11>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<13> 前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することが等温遺伝子増幅により行われる、<1>~<12>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<14> 前記等温遺伝子増幅が10℃~40℃の温度範囲内の温度で行われる、<13>に記載の判定方法。
<15> 前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することがPCRにより行われる、<1>~<12>のうちいずれか一項に記載の判定方法。
<16> 測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること、又は水溶媒である測定試料を液体試料として準備することと、
前記液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することと、
を含み、前記1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づいて前記測定試料中に存在する細胞壁を有する生物を同定する、
細胞壁を有する生物の同定方法。
<17> 前記1種又は複数種のsRNAは、細胞壁を有する生物に応じて特異的な発現状態を示す、<16>に記載の同定方法。
<18> 前記測定試料中に存在する細胞壁を有する生物を同定することが、2種以上の候補生物のうち1種以上が存在していると同定することを含む、<16>又は<17>に記載の同定方法。
<19> 前記sRNAの存在状態を検出することが、前記sRNAの存在量を検出することを含む、<16>~<18>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
<20> 前記測定試料が空中浮遊物を収集して得られた測定試料であり、前記細胞壁を有する生物を同定することが、空中に存在する細胞壁を有する生物を同定することを含む、<16>~<19>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
<21> 前記浸漬が0℃~50℃の温度範囲内の温度で行われる、<16>~<20>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
<22> 前記1種又は複数種のsRNAそれぞれの塩基数が、5~500の範囲内である、<16>~<21>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
<23> 前記1種又は複数種のsRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号11で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号12で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号10で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、<16>~<22>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
<24> 前記水溶媒が核酸増幅用試薬を含む、<16>~<23>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
<25> 前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することが等温遺伝子増幅により行われる、<16>~<24>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
<26> 前記等温遺伝子増幅が10℃~40℃の温度範囲内の温度で行われる、<25>に記載の同定方法。
<27> 前記1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することがPCRにより行われる、<16>~<24>のうちいずれか一項に記載の同定方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、測定試料中における細胞壁を有する生物の存在状態を簡便に判定できる判定方法、及び測定試料中に含まれる細胞壁を有する生物を簡便に同定できる同定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例4におけるE.coli由来sRNAの等温遺伝子増幅による検出の結果を示す図である。
【
図2】実施例5におけるクロマツ花粉由来sRNAの等温遺伝子増幅による検出の結果を示す図である。
【
図3】実施例10における核酸抽出液の電気泳動の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
更に、本開示において成分の含有量の記載は、各成分に該当する物質が複数含有されている場合においては、特に断らない限り、含有される当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、別個に記載されている複数の例示的態様は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わせて新たな態様を構成してもよい。
【0014】
生物の検出方法の中で、培養法は非常に感度が高く、信頼性も高い方法である。ただし、培養法には問題点もある。例えば、培養に1日~数日を要するため結果を得るまでに時間がかかること、培養が困難な細菌には適用が困難であること、培養後の細菌の同定には特殊な技術が必要であること、培養した細菌の廃棄にはオートクレーブ等の滅菌操作が必要で、廃棄物の体積もかさばることから、廃棄の手間とコストがかかること、などが培養法の問題点として挙げられる。
【0015】
また、抗体法の場合、例えばイムノクロマト法及びラテックス凝集法は、サンプルを接触させるだけで微生物を検出できるので、操作が簡便という利点がある。しかし、イムノクロマト法及びラテックス凝集法は、検出感度が低く、高濃度の微生物菌体が存在しないと検出ができないという問題点がある。ELISA法は、イムノクロマト法等よりも高感度な方法であるが、洗浄及び発色操作が必要なため手間がかかる。
【0016】
さらに、従来の遺伝子法は、DNA又は16s rRNAを微生物から細胞膜の変性により抽出する操作に手間がかかり、簡便性に欠ける。具体的に言うと、DNA又は16s rRNAは微生物の細胞膜によって細胞内に閉じ込められており、直接的に測定することが困難であると考えられていた。DNA及び16S rRNAを解析するには、フェノール、グアニジン塩、水酸化ナトリウム等の強い変性剤(細胞膜を変性させる程度に強い変性剤)で細胞膜を変性させて核酸を取り出し、さらに変性剤を除去又は中和する操作が必要となる。このように、従来の遺伝子法においては、変性剤で処理する操作と、変性剤を除去又は中和する操作に手間がかかるため、培養法及びイムノクロマト法と比べて操作が煩雑となり、簡便ではない。また、加熱により核酸を細胞から抽出する方法もある。この方法の一例として、細菌の入った溶液を100℃で10分加熱して、核酸増幅に利用する例も存在する。しかし、加熱処理を用いるには専用の装置が必要で、かつ加熱時の安全性に配慮する必要がある。
【0017】
以上のような状況を考慮して、本願発明者らは鋭意研究の結果、細胞壁を有する生物の細胞を水、又は水に加えて細胞変性作用を大きくは上昇させない程度の追加成分を含む水溶液中に細胞壁を有する生物の細胞を浸漬することにより、細胞中のsRNAを抽出することができることを見出した。この知見は驚くべきものである。なぜなら、細胞壁を有さない生物の細胞については、細胞を低張液に浸漬させると、浸透圧によって細胞膜が破裂して、上述の変性剤を用いなくとも周辺環境中にDNA及び16s RNAを取り出すことができる可能性がある一方、これまでの技術常識からすれば、細胞壁を有する生物の細胞についてはこのような手法は適用できないからである。より具体的には、細胞壁を有する生物の細胞は、細胞壁によって構造が維持されるため、周辺環境の浸透圧の変化によって細胞膜が破裂することがなく、溶菌しにくい。このため、これまでの技術常識からすれば、上述の細胞膜の変性操作無くしては、細胞壁を有する生物の細胞内に存在する核酸を周辺環境中に放出させることは困難であると考えられる。このため、水中への浸漬によって細胞壁を有する生物の細胞からsRNAを細胞外に抽出できることは驚くべきことである。
【0018】
本開示に係る細胞壁を有する生物の存在状態の判定方法は、
測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること、又は水溶媒である測定試料を液体試料として準備することと、
前記液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することと、
を含み、前記1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づいて細胞壁を有する生物の存在状態を判定する方法(以下、単に「本開示に係る判定方法とも称する」)である。また、本開示に係る細胞壁を有する生物の同定方法は、
測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること、又は水溶媒である測定試料を液体試料として準備することと、
前記液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することと、
を含み、前記1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づいて前記測定試料中に存在する細胞壁を有する生物を同定する方法(以下、単に「本開示に係る同定方法とも称する」)である。
【0019】
本開示に係る判定方法によれば、検出したい細胞壁を有する生物の測定試料中における存在状態を簡便に判定できる。また、本開示に係る同定方法によれば、測定試料中に含まれる細胞壁を有する生物の種類を簡便に同定できる。本開示に係る判定方法及び同定方法においては、フェノール、グアニジン塩、イオン性界面活性剤、アルコール、水酸化ナトリウム等の強い変性剤を使う必要が無いため、簡便に判定又は同定を行うことができる。
【0020】
なお、本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法は、まとめて、以下に記載の方法として表現することもできる:
測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること、又は水溶媒である測定試料を液体試料として準備することと、
前記液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することと、
を含み、前記1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づいて、前記測定試料中における細胞壁を有する生物の存在状態又は存在する生物の同定を得る方法(以下、本開示に係る方法Aとも称する)。
また、「課題を解決するための手段」の欄に記載したより具体的な実施形態は、上記方法Aに対しても適用できる。
【0021】
生物には、small RNAと呼ばれる短いRNA断片が含まれている。small RNA(以下、「sRNA」とも称する)は、発生、分化、トランスポゾンのサイレンシング、ウイルス防御等の生命プロセスの制御という重要な役割を担っている。sRNAは細胞内で重要な機能を有することから、同一の生物種内においては発現するsRNAはヌクレオチド配列の保存性を有する、つまり、各種のsRNAの発現プロファイルは同一の生物種の複数の細胞の間では共通している。一方、異なる生物種間では、sRNAの発現プロファイルは生物種に応じた差示的なものとなる。そのため、DNAや16S rRNAと同様に、測定試料中に存在するsRNAの情報は生物種の判別に利用することができる。sRNAを用いて生物種の判別をすることができることは、本開示において初めて見出されたことである。
【0022】
例えば、生物種(A)においてはヌクレオチド配列(A)を有するsRNA(A)が発現するが、ヌクレオチド配列(B)を有するsRNA(B)は発現せず、生物種(B)においてはsRNA(B)は発現するがsRNA(A)は発現しない場合、測定試料中にsRNA(A)の存在は検出されるがsRNA(B)の存在は検出されないならば、生物種(A)の細胞は存在するが生物種(B)の細胞は存在しないと判定できる。ただし、sRNA(A)が、生物種(A)及び(B)以外の生物種(C)でも発現するsRNAである場合には、測定試料中にsRNA(A)の存在は検出されるがsRNA(B)の存在は検出されないならば、生物種(A)及び生物種(C)のうち1種以上の細胞が存在するが、生物種(B)の細胞は存在しないと判定できる。
【0023】
従来からsRNAの存在自体は知られていたものの、上述のDNA及び16S rRNAの場合と同様に、sRNAも強い変性剤を用いなければ細胞壁を有する細胞の外に取り出すことはできないと考えられていた。しかし、本開示においては、驚くべきことに、細胞壁を有する細胞が水溶媒中に置かれた場合、強い変性剤などで細胞膜を破壊しなくても細胞内のsRNAは細胞周囲の水溶媒中に抽出される(つまり、水溶媒中へと漏出する)ことが見出された。当該抽出は室温でも可能である。水溶媒中に抽出されたsRNAは、関心のある特定の生物の存在の検出や、測定試料中に存在する生物の種類の同定に用いることができる。このため、本開示によれば、手間をかけることなく簡便に、関心のある特定の生物を検出でき、また測定試料中に存在する生物の種類を同定することができる。
【0024】
さらに、sRNAは鎖長が短いことから、16S rRNAと比較してRNaseの攻撃を受けにくく、より安定して分析ができる。また、sRNAの細胞内でのコピー数は、多いものでは数千~数万のコピー数であるため、sRNAの存在状態についての情報を感度よく得ることができる。
【0025】
以降、本開示に係る判定方法と本開示に係る判定方法をまとめて説明する。特段の断りが無い限りは、以降に記載する事項は本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法の両方に適用される、同様に本開示に係る方法Aにも適用される。
【0026】
<細胞壁を有する生物>
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法における細胞壁を有する生物は特に限定されず、任意の細胞壁を有する生物であってよい。一般的には、動物細胞以外の細胞、例えば植物細胞、微生物細胞等は細胞壁を有している。前記細胞壁を有する生物は、酵母、粘菌、カビ等の真菌であっても、大腸菌等の細菌であってもよい。判定又は同定の対象物は、生物体全体である必要は無く、生物の部分であってもよい。生物の部分においても、sRNAは存在しており、また生物の部分の検出であっても生物の存在についての情報を与えるためである。前記生物の部分としては、多細胞生物の部分が挙げられ、例えば植物の花粉が挙げられる。ただし、生物の部分は、細胞の形状を維持している部分であることが好ましい。生物の部分が細胞の形状を維持していない場合には、水溶媒への浸漬前又は水溶媒である測定試料を準備する前に、細胞内成分が既に周囲の媒体に流出している可能性があるためである。上記のとおり、本開示に係る判定方法においては細胞壁を有する生物の存在状態を判定することが記載され、本開示に係る同定方法においては細胞壁を有する生物を同定することが記載されているが、ここでいう細胞壁を有する生物は、生物の部分も含む概念を表す。したがって、判定された前記存在状態あるいは前記同定は、生物種又は生物種のグループについての情報を与えれば十分である。実際、例えば草本植物の検出の場合などは、測定試料中に含まれているのは生物体全体ではなくその一部であるのが一般的であろうが、本開示に係る判定方法又は同定方法により、生物種又は生物種のグループの存在に関する判定結果又は同定結果を得ることができる。このため、本開示に係る判定方法及び同定方法における生物は植物であってもよく、この場合、測定試料に含まれる成分は例えば花粉であってもよい。
【0027】
前記細胞壁を有する生物は、例えば、衛生管理の必要とされる現場(食品製造、医療、福祉、家庭等)において存在が衛生管理上の問題となりうる生物であってもよい。そのような生物としては、病原性微生物、腐敗微生物が挙げられる。病原性微生物は病原性真菌であってもよく、その例としては、白癬菌、カンジダ、アスペルギルス等が挙げられる。病原性微生物は病原性細菌であってもよく、その例としては、グラム陽性菌(例えばブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、腸球菌、ジフテリア菌、結核菌、らい菌、炭疽菌、枯草菌、ウェルシュ菌、破傷風菌、ボツリヌス菌等)、グラム陰性菌(淋菌、脳膜炎菌、サルモネラ菌、大腸菌、緑膿菌、赤痢菌、インフルエンザ菌、百日咳菌、コレラ菌、腸炎ビブリオ菌、アシネトバクター、カンピロバクター、レジオネラ菌、ヘリコバクター等)等が挙げられる。病原性細菌はベロ毒素生産菌であってもよい。腐敗微生物としては、魚介類の場合、シュードモナス、マイクロコッカス、ビブリオ、フラボバクテリウム等の各属の細菌が、畜肉類の場合、シュードモナス、アクロモバクター、マイクロコッカス、フラボバクテリウム等の各属の細菌が、米飯及びめん類の場合、バチルス属の細菌が挙げられる。
【0028】
ある実施形態においては、前記細胞壁を有する生物はEscherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。別のある実施形態においては、前記細胞壁を有する生物は植物を含み、前記植物はクロマツであってもよい。別のある実施形態においては、前記細胞壁を有する生物はベロ毒素生産菌を含む。
【0029】
本開示に係る判定方法及び同定方法においては細胞壁を有する細胞から水溶媒に漏出したsRNAを検出に用いるため、このような漏出を妨げるような物質を予め除去するための処理を行ってもよい。
【0030】
<測定試料>
本開示に係る判定方法における測定試料とは、検出しようとする細胞壁を有する生物の存在状態の判定に用いられる試料であり、本開示に係る同定方法における測定試料とは、細胞壁を有する生物の同定に用いられる試料である。細胞壁を有する生物の存在状態について分析したい対象物(以下、分析対象物とも称する)に細胞壁を有する生物が存在する場合に、測定試料も当該生物を含むように調製される限りは、測定試料について特に制限は無く、測定試料は分析対象物そのものであっても、分析対象物から任意の処理により調製した試料であってもよい。分析対象物は、例えば、作業台の表面等の物体表面、食品等の物体自体、水道水等の液体、空気等の気体、生物種が不明な菌体等である。作業をより簡便にする観点から、測定試料は分析対象物そのものであることが好ましい。
【0031】
例えば、分析対象物としての液体の中に存在する細胞壁を有する生物について分析したい場合には、当該液体そのものを測定試料としてもよいし、当該液体に希釈等の処理を施したものを測定試料としてもよい。また、例えば分析対象物としての物体の表面(例えば作業台の表面)に存在する生物について分析したい場合には、当該表面をワイプ、綿棒等で拭き、当該ワイプ、綿棒等、又はその一部を測定試料としてもよい。
【0032】
分析対象物としての物体の内部(例えば、食品の内部)に存在する細胞壁を有する生物について分析したい場合には、当該物体の全体又は一部を測定試料としてもよいし、当該物体を液体に浸漬して得られた液体を測定試料としてもよい。空気を分析対象物として、空気中に存在する生物について分析したい場合には、当該空気中に存在する空中浮遊物を収集して得られた試料を測定試料としてもよい。該収集は、フィルタ、遠心分離(例えばサイクロン式分離)、単に容器を開放して静置しておくこと(例えば、シャーレ等の蓋を開けて静置しておくこと)等により行うことができる。
【0033】
このように、測定試料は、例えば、分析対象物としての液体、該液体を希釈したもの、分析対象物としての表面を拭いたワイプ、綿棒等、空気の濾過フィルタ上に捕集された捕集物、周囲雰囲気に開放された容器内に付着した付着物等とすることができる。あるいは、既に得られている細胞壁を有する生物の種類を同定する等の目的で、当該生物自体を測定試料とすることも可能である。
【0034】
<水溶媒>
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法における水溶媒は、水を主体とする液体であって、水溶媒は純水そのものでもよく、細胞膜の変性を生じさせない限りは水に加えて他の成分(以下、「共在成分」とも称する)を含む水溶液であってもよい。水溶媒における、水以外の溶媒成分の含有量はなるべく少ない方が好ましく、水以外の溶媒成分の量は水の量に対して1質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.001質量%以下、又は0質量%(つまり、溶媒成分としては水のみを含む)としてもよい。また、本開示において、「水溶媒」は細胞膜を変性させて膜を破壊する成分は含まないか、細胞膜の変性を引き起こさない程度の少量のみ含む。言い換えると、水溶媒は細胞膜の変性を引き起こさないという点で水と共通した基本的な性質を有しており、この基本的な性質を損なわない限りにおいて共在成分を含むことができる溶媒である。このため、本開示に係る水溶媒には、細胞膜を破壊して細胞内成分を取り出すための抽出液(例えば、2013-93号公報で言及されている細胞成分抽出液EXTRAGEN(トーソー株式会社製))は含まれない。
【0035】
水溶媒のpHは、強酸性又は強アルカリ性の条件における細胞膜の変性を防ぐ観点から、pH5~pH9の範囲内のpHであることが好ましく、pH6~pH8の範囲内のpHであることがより好ましく、pH6.5~pH7.5の範囲内のpHであることがさらに好ましい。水溶媒は、上記のとおり水以外に共在成分を含んでいてもよい。共在成分の総含有量は、水溶媒の全量に対して30質量%以下、10質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下であってもよい。水溶媒に含まれていてもよい共在成分の例としては、塩、緩衝剤、界面活性剤、DTT、RNase阻害剤等が挙げられる。sRNAは鎖長が短いことから、16S rRNA等のより長いRNAと比較してRNaseの攻撃を受けにくいが、DTTやRNase阻害剤といったRNA安定化剤を共存させることによってsRNAをより安定化することができる。
【0036】
水溶媒は、共在成分を、細胞膜を変性させて膜を破壊する量では含まない。また、細胞膜の変性を防ぐ観点から、水溶媒はフェノール、グアニジン、アルコール、イオン性界面活性剤、及びNaOHなどの強アルカリは含まないことが好ましい。水溶媒がフェノール、グアニジン、アルコール、イオン性界面活性剤、及びNaOHなどの強アルカリ等の変性成分を含む場合には、その総含有量は、水溶媒の全量に対して0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましい。強アルカリ等の変性成分を含まないか、含んでいても含有量が上記範囲内である場合、浸漬による液体試料作製後にさらなる処理のためにこれら変性成分を取り除くための追加の処理を行うことが不要となり、細胞壁を有する生物の同定がより簡便に行える。変性成分を含まないこと、又は含んでいても上記の含有量範囲内であることはこの観点からも、好ましい。
【0037】
界面活性剤は、その種類及び量によっては細胞膜を変性及び破壊するため、水溶媒が界面活性剤を含む場合にはその種類及び量を制限する必要がある。水溶媒の表面張力は20℃において50mN/m~72.8mN/m(水の表面張力)であることが好ましく、60mN/m~72.8mN/mであることがより好ましく、65mN/m~72.8mN/mであることがさらに好ましく、70mN/m~72.8mN/mであることがいっそう好ましい。水溶媒が界面活性剤を含む場合には、該界面活性剤は中性界面活性剤であることが好ましく、中性界面活性剤の例としてはTweenシリーズの界面活性剤(例えばTween-20)、NP-40、及びTritonシリーズの界面活性剤(例えばTriton X-100)等が挙げられる。
【0038】
水溶媒の性質を純水に近いものとする観点からは、水溶媒中の塩濃度は、0mol/L~0.2mol/Lであることが好ましく、0mol/L~0.1mol/Lであることがより好ましく、0mol/L~0.05mol/Lであることがさらに好ましい。
【0039】
共在成分は、溶媒成分である必要は無く、水中に懸濁する微粒子、水溶性物質等であってもよい。また、水溶媒は、核酸増幅用試薬を共在成分として含んでいてもよい。前記核酸増幅用試薬は、ポリメラーゼ、ヌクレオチド3リン酸(dNTPの混合物)、プライマー、Mg2+イオン等を含む、核酸の増幅に必要な試薬である。前記核酸増幅用試薬は、RNAを鋳型にDNA鎖を合成できる活性(逆転写活性)を有するポリメラーゼを含んでいることが好ましい。核酸増幅用試薬にはTriton X-100等の弱い界面活性剤(特に中性界面活性剤)が含まれる場合があるが、核酸増幅用試薬用の濃度では、細胞を変性させて膜を破壊することはないので、核酸増幅用試薬中の界面活性剤はそのまま水溶媒に含まれてもよい。例えば、水溶媒がTriton X-100を含む場合には、細胞膜の変性を防ぐ観点及び核酸増幅を効率的に行う観点から、Triton X-100の含有量は水溶媒の全量に対して0.01質量%~5質量%であることが好ましく、0.05質量%~3質量%であることがより好ましく、0.1質量%~2質量%であることがさらに好ましい。核酸増幅用試薬は、例えば、PCR用の試薬、等温遺伝子増幅用の試薬等であってもよい。水溶媒に核酸増幅用試薬を含ませることによって、細胞壁を有する細胞から漏出したsRNAを含む液体試料を用いて、試薬添加操作や温度サイクル操作を行うことなく、そのまま核酸増幅を行うことが可能となる。
【0040】
<浸漬>
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法における浸漬は、室温で行っても加熱又は冷却しながら行ってもよい。細胞膜の変性をなるべく起こさないように、浸漬は0℃~50℃の温度範囲内の温度で行うことが好ましく、4℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがより好ましく、10℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらに好ましく、20℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、25℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、30℃~37℃の温度範囲内の温度で行うことがいっそう好ましい。浸漬は室温で行ってもよい。
浸漬時間はsRNAの細胞外への漏出が検出に十分な量で起こる限りは、特に制限されない。浸漬時間は、例えば10秒~30時間であり、10秒~10時間であってもよく、1分~5時間であってもよく、あるいは5分~1時間であってもよい。浸漬時間は、あるいは、0.5時間~6時間であってもよく、0.7時間~4.5時間であってもよく、0.8時間~2時間であってもよい。浸漬のやり方は特に限定されず、測定試料に細胞壁を有する生物が含まれていたならば、当該生物が水溶媒と接触することになる任意の処理を挙げることができる。測定試料が固形の試料(例えば、綿棒、ワイプ、フィルタ、分析対象物そのもの若しくはその一部、又は菌体)である場合、浸漬は、例えば、容器中に格納された水溶媒に測定試料としての固形試料を浸漬することで行うことができる。
上述したように、細胞壁を有する生物自体を測定試料とすることもできるので、細胞壁を有する生物を単独で水溶媒に浸漬させてもよいし、他の物体に付着した細胞壁を有する生物を物体ごと水溶媒に浸漬させても構わない。
浸漬を行うことによって、測定試料中に細胞壁を有する生物が存在する場合に、sRNAの細胞外への漏出が起こり、水溶媒中にsRNAを含む液体試料が得られる。
【0041】
<水溶媒である測定試料>
分析対象物が初めから水溶媒の状態であれば、分析対象物自体を測定試料とし、そのまま液体試料として用いることができる。例えば、水道水をそのまま液体試料として用いて、水道水中における細胞壁を有する生物の存在状態を判定する、又は水道水中に含まれる細胞壁を有する生物を同定することができる。分析対象物は細胞壁を有する生物を含む可能性があるため、上記の測定試料としての水溶媒は細胞壁を有する生物を含みうる。
分析対象物が液体ではあるものの、夾雑物が多い等の理由で前処理を行いたい場合には、夾雑物を濾過、遠心、透析等により除去する等の手法により、水溶媒である測定試料を調製し、この測定試料を液体試料として用いるようにしてもよい。例えば、泥水中の細胞壁を有する生物を検査する場合、泥水中の泥を濾過等で除去してから、濾液(細胞壁を有する生物を含む可能性がある測定試料)を液体試料として用いて、細胞壁を有する生物の存在状態の判定又は細胞壁を有する生物の同定を行うことができる。上記のとおり、水溶媒は水以外の共在成分を含んでいてもよいので、測定試料中に含まれる可能性のある細胞壁を有する生物は、水溶媒中の共在成分として含まれうる。
水溶媒は、上記の細胞壁を有する生物以外の共在成分を含まないことも、好ましい実施形態である。測定試料中に含まれる可能性のある細胞壁を有する生物が水溶媒とある程度の時間(例えば、上記の浸漬時間の例として例示した時間)接触するようにしておけば、(測定試料が実際に細胞壁を有する生物を含む場合)前記生物からsRNAの漏出が起こり、上記の浸漬を行った場合と同様のsRNAを含む液体試料が得られる。水溶媒である測定試料を用いる態様は、例えば、分析対象物としての水(例えば水道水、下水等)の中における細胞壁を有する生物の存在状態の判定、又は水(例えば水道水、下水等)の中に含まれる細胞壁を有する生物の同定に用いることができる。
細胞壁を有する生物が水溶媒に接触する操作である限りは、当該操作は前述の、測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製すること又は水溶媒である測定試料を液体試料として用意することに含まれる。測定試料を水溶媒中に浸漬して液体試料を作製する場合、操作は、測定試料を浸漬させた水溶媒を静置して又は撹拌等しながら、sRNAの抽出のために人為的に経時させる操作であってもよい。測定試料が液体試料である場合も、同様に静置して又は撹拌等しながらsRNAの抽出のために人為的に経時させてもよい。
【0042】
上述の「浸漬」の項及び「水溶媒である測定試料」の項で説明した細胞壁を有する細胞からのsRNAの漏出は、驚くべきことに、核酸一般に起こる現象ではなく、sRNAにおいて特に起こる現象である。このため、例えば従来から生物種の判別のために用いられてきた16S rRNAを水溶媒中に漏出させようとして細胞壁を有する細胞を水溶媒中に浸漬したとしても、16S rRNAは細胞壁を有する細胞から全く漏出しないか、漏出したとしても生物種の検出に用いるには不十分な低い量でしか漏出しない。この違いは、16S rRNA(1600塩基程度)とsRNAとの長さの違いが一因ではないかと考えられる。つまり、mRNA及び16S rRNAに比べて鎖長の短いsRNAは、驚くべきことに、細胞膜を破壊しなくても細胞壁を有する細胞の外の水溶媒に漏出する。一方、mRNA、16S rRNA等のより大きな分子はこのような漏出は実質的に示さず、細胞膜の変性を伴う抽出操作を行わなければ細胞壁を有する細胞の外に取り出すことができない。
【0043】
<sRNA>
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法におけるsRNAとは、small RNAとも称され、細胞に含まれる短鎖のRNAを意味する。sRNAの具体的な鎖長は、5塩基から500塩基であることが好ましく、8塩基~500塩基であることがより好ましく、10塩基~200塩基であることがさらに好ましく、12塩基~100塩基であることがいっそう好ましく、15塩基~30塩基であることが特に好ましい。
なお、sRNAの中には、真核細胞に含まれる20塩基~30塩基程度のRNAであるmicro RNAなどもある。また、原核生物でも同程度の特に短いsRNAのことをmicroRNA-size small RNAと呼ぶ場合もある。
【0044】
細胞壁を有する生物に存在するsRNAについては研究が進められており、各生物において見出されたsRNAの配列情報は、Rfam(EMBL EBI) 、Small RNA Database(MD Anderson Cancer Center) 、miRBase(Griffiths-Jones lab at the Faculty of Biology, Medicine and Health, University of Manchester)、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベース等のデータベースに蓄積されている他、学術論文にも種々報告されている。このため、各種の生物に含まれるsRNAの情報は、データベース検索を始めとする公知の方法で得ることが可能である(杏林医会誌41巻1号pp.13~18 2010年4月参照)。例えば、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースに含まれる核酸配列と、検索対象の核酸配列とを、Nucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて比較及び同一配列の検索(当該同一配列の由来となる生物の情報を含む)をすることができる。
【0045】
sRNAは、生物の種類に応じて差示的に発現する。例えば、Rfam、Small RNA Database、miRBase、National Center for Biotechnology Information (NCBI)データベース等の配列データベースを参照すると、特定のsRNAがどの1種又は複数種の生物において発現しているかを検索することができ、また、特定の生物においてどの1種又は複数種のsRNAが発現しているかを検索することができる。本開示に係る判定方法においては、1種又は複数種のsRNAは、関心のある特定の生物において特異的な発現状態を示すものであることが好ましい。このようにすることで、sRNAの存在状態から生物の存在状態をよりよく判別できる。
【0046】
ここで、「特異的な発現状態」とは、前記特定の細胞壁を有する生物においてのみ発現する、又は前記特定の細胞壁を有する生物においてのみ発現しないsRNAである必要はなく、前記特定の細胞壁を有する生物を含む特定の細胞壁を有する生物の群においてのみ発現する、又は前記特定の細胞壁を有する生物を含む特定の細胞壁を有する生物の群においてのみ発現しないsRNAといった、前記特定の細胞壁を有する生物にのみに完全に特異的であるわけではないsRNAをも含む概念を意味する。
本開示に係る同定方法においても、存在状態を検出する対象となる1種又は複数種のsRNAは、細胞壁を有する生物に応じて特異的な発現状態を示すものであることが好ましい。
【0047】
上述したとおり、本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法においては、強アルカリ処理、グアニジン処理、フェノール、アルコール、イオン性界面活性剤などによる細胞膜の変性を行わずに細胞壁を有する細胞の外部の水溶媒にsRNAを漏出させることができる。このため、変性剤の使用が必要無く、変性剤による処理時間も不要になり、また、sRNAを漏出させた水溶媒はそのままでもその後の処理(例えば、sRNA検出のための核酸増幅処理等)に供することができる。
【0048】
<存在状態>
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法において、「存在状態」とは、単に存在の有無を指してもよく、また、存在量(存在量0、つまり存在しない場合も含む)を指していてもよい。つまり、「存在状態を検出すること」とは、存在するかしないかというバイナリーな情報を得ることであってもよいが、存在するかしないかに加えて存在する場合の存在量の情報までも得るものであってもよい。存在量の情報は、存在の有無についての情報も内在している。同様に、「存在状態を判定すること」とは、存在するかしないかというバイナリーな判定を行うことであってもよいが、存在するかしないかに加えて存在する場合の存在量の判定までも行うものであってもよい。ここで、存在量は、絶対的な存在量には限定されず、ネガティブコントロール又はポジティブコントロール等の比較対象に対する相対存在量であってもよい。
【0049】
<存在状態の検出>
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法においてsRNAの存在状態を検出する手法については特に制限されない。sRNAの存在状態を検出する手法としては、標識された核酸プローブとのハイブリダイゼーション(ノーザンブロッティングを含む)、核酸増幅などの方法がある。核酸増幅はDNA又はRNAを増幅させる方法であればよく、その例としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、RT-PCR(Reverse Transcription-PCR)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-based Amplification)法、TRC(Transcription Reverse-transcription Concerted Reaction)法、LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法、RT-LAMP(Reverse Transcription-LAMP)法、ICAN(Isothermal and Chimeric Primer-initiated Amplification of Nucleic Acids)法、RCA(Rolling Cycle Amplification)法、Smart Amp(Smart Amplification Process)法、TMA(Transcription-mediated Amplification)法、TAS(transcription Amplification System)法、3SR(Self-sustained Sequence Replication System)法等の各増幅方法が挙げられる。RNAを直接増幅できない方法の場合には、一旦sRNAを逆転写酵素で逆転写してDNAに変換してから核酸増幅すればよい。ある実施形態においては、1種又は複数種のsRNAの存在状態の検出は等温遺伝子増幅又はPCRによって行われる。
【0050】
sRNAの存在状態を検出するために用いられる核酸増幅は、好ましくは等温遺伝子増幅法であるLAMP法又はRCA法である。RCA法としては、特にSATIC(termed signal amplification by ternary initiation complexes)法が挙げられる。等温遺伝子増幅は、増幅のための機器(温度サイクルに合わせて温度を変動させる機器)を用意する必要が無い点で好ましい。等温遺伝子増幅は例えば10℃~40℃の温度範囲内の温度でも可能であるため、室温で行うことができる。なお、本開示において、実施例等で特に定める場合を除き、室温とは20℃~40℃の範囲内の温度であってもよい。
また、前述のPCRは、qPCR(定量PCR)であってもよく、qPCRはリアルタイムPCRであってもよい。リアルタイムPCRとしては、特に、Taqman(登録商標) miRNA assay(Thermo Scientific社製)を用いる方法が挙げられる。qPCRを用いることで、sRNAの存在状態について定量的な解析を行うことが容易となる。
【0051】
sRNAの検出に用いられるプローブ又はプライマー等の試薬(以下sRNA検出用試薬とも称する)については、浸漬完了後に水溶媒中に添加してもよいし、浸漬前の水溶媒にあらかじめ含ませておいてもよい。浸漬前の水溶媒にあらかじめsRNA検出用試薬を含ませておいた場合は、浸漬完了後の添加操作が不要となる点で好ましい。また、水溶媒である測定試料を液体試料として用いる場合には、液体試料にsRNA検出用試薬を添加してもよいし、水溶媒である測定試料を調製する過程が存在する場合には当該調製過程でsRNA検出用試薬を添加してもよい。
【0052】
増幅した核酸は、例えば、プライマーに蛍光色素を付着しておく、沈殿物を目視で確認する、核酸染色色素を用いる、蛍光プローブとハイブリダイゼーションさせる、核酸クロマトグラフィーに供する等の既存の増幅核酸検出方法を用いることにより検出することができる。前記蛍光プローブは、マイクロアレイ上に配置されていてもよい。マイクロアレイを用いることで、複数種のsRNAの存在情報を一度に得ることができる。
例えば、Taqman(登録商標)プローブ、SYBR Green色素などを用いることで、核酸増幅量を蛍光シグナルにより測定でき、その情報を基にsRNAの存在状態を知ることができ、この手法は特にqPCRにおいて有効である。
【0053】
上述のように、sRNAの検出において核酸増幅は必須ではなく、核酸増幅無しに蛍光プローブとsRNAとをハイブリダイゼーションさせること等により直接検出してもよい。
上記の核酸増幅又はプローブとのハイブリダイゼーション等の検出操作においては、sRNAの全長を増幅してもよく、及び/又はsRNAの全長とハイブリダイゼーションするプローブを用いてもよい。ただし、sRNAの全長を増幅すること、及び/又はsRNAの全長とハイブリダイゼーションするプローブを用いることは必須ではない。sRNAの一部の領域、例えばsRNAの3’末端側領域の10~30塩基程度を対象として、核酸増幅又はハイブリダイゼーションを行ってもよい。
【0054】
前記sRNAの存在状態の検出は、細胞壁を有する細胞からのsRNAの抽出と同時並行で行ってもよい。例えば、PCR法、又はSATIC法等の等温遺伝子増幅法の反応液中に、細胞壁を有する生物を含む可能性がある試料を直接浸漬又は添加して、sRNAの漏出と検出を同時に行ってもよい。等温遺伝子増幅法の場合、温度サイクルが無いため、核酸増幅に必要な試薬が液体試料中に揃っているのであれば、いつでも核酸増幅を開始できる状態にある。
【0055】
<細胞壁を有する生物の存在状態の判定>
測定試料中に細胞壁を有する生物に特異的なsRNAが検出されることは、測定試料中における当該生物の存在を示唆する。測定試料中における細胞壁を有する生物に特異的なsRNAの存在量の情報からは、測定試料中における当該生物の存在量についての情報を得ることもできる。sRNAの存在状態を基に存在する生物を判別することができることは、本開示において初めて見出されたことである。
【0056】
sRNAがどの生物で発現するかについては、例えば以下のようにして知ることができる。前記sRNAの核酸配列を基準配列として、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースから、基準配列と類似する核酸配列をNucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて比較する。得られた比較結果の中から、基準配列としたsRNAと核酸配列が100%一致するsRNAを含む生物が、前記sRNAを発現する生物ということになる。
【0057】
sRNAの存在状態を検出する前においては、細胞外に抽出されているsRNAの種類は定かではないが、特定のsRNAが細胞外で検出されれば、その特定のsRNAを持つことが知られている生物が存在すると判断できる。
【0058】
本開示に係る判定方法における細胞壁を有する生物とは、検出対象となる細胞壁を有する生物を指し、検出しようとする任意の細胞壁を有する生物であってよい。当該生物において、他の生物と比較して特異的に発現するsRNAの存在状態を検出することにより、前記生物の存在状態を判定することができる。前記生物において特異的に発現するsRNAが検出されることは、前記生物が存在することを示唆し、該sRNAが検出されないことは前記生物が存在しないことを示唆する。本開示に係る判定方法においては、測定試料中における存在状態を検出したい生物の種類に応じて、当該生物に特異的な発現状態を示すsRNAを、存在状態の検出を行うsRNAとして選択することが好ましい。sRNAの特異的な発現状態とは、存在状態を検出したい生物において特異的に発現することであっても、存在状態を検出したい生物において特異的に非発現であることであってもよい。ただし、存在状態を検出する1種又は複数種のsRNAのうち少なくとも1種は、存在状態を検出したい生物において特異的に発現するsRNAであることが好ましい。
【0059】
なお、1種類のsRNAが1種類の生物に完全に特異的であるとは限らず、同じsRNAを発現する生物が複数種存在する場合もある。しかし、1種類の生物におけるsRNAの発現プロファイルはsRNA毎に異なるため、複数種のsRNAそれぞれの存在状態を基にすれば、存在する可能性のある生物の種類をより絞り込むことができる。このため、本開示に係る判定方法においては、複数種のsRNAそれぞれの存在状態に基づいて、生物の存在状態を判定してもよい。この判定においては、前記生物において特異的に非発現であるsRNAの発現状態も用いることができる。前記生物において特異的に非発現であるsRNAが検出されること又はされないことは、単独では、前記生物の存在状態を示唆するものではないが、前記生物において特異的に発現するsRNAの存在状態についての情報と組み合わせることで、それらsRNAの発現プロファイルを示す生物の候補をより絞り込むことができる。
【0060】
本開示に係る判定方法において存在状態を検出する1種又は複数種のsRNAとして、その発現プロファイルを基に関心のある特定の生物が、他の生物からよりよく判別されるようなsRNAを選択することが好ましい。
【0061】
とはいえ、存在する細胞壁を有する生物の候補を1種類に限定することは本開示に係る判定方法においては必須ではなく、複数種の生物からなる候補群を同定するだけでも十分である。このため、本開示に係る検出方法は、複数種の生物の存在状態を判定するものであってもよく、その場合、前記検出方法は複数種の生物それぞれの存在状態を個別に判定するものではなく、複数種の生物の存在状態を総体的に判定するものである。つまり、前記検出方法は、複数種の生物のうちどれが実際に存在しているかまでは判定できないにしても、候補群(グループ)を構成する複数種の生物のうち少なくとも1種が存在していることを判定できれば十分である。
【0062】
すなわち、本開示に係る判定方法において生物の存在状態を判定することが、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含んでいてもよい。本開示に係る判定方法が2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含む場合、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することが、2種以上の生物のいずれもが存在しないか、2種以上の生物のうち少なくとも1種が存在するかを判定することを含んでいてもよく、2種以上の生物のうち少なくとも1種が存在すると判定した場合には、さらに、2種以上の生物のうち存在する少なくとも1種の存在量を判定することを含んでいてもよい。
【0063】
この場合、2種以上の生物のうち関心のある1種類の生物についての存在状態が完全に判定できるわけではないが、当該関心のある1種類の生物についての存在の可能性については判定することが可能であり、この判定結果を基にしてさらなる試験を行ってもよく、あるいはこの判定結果に基づいて測定試料を得た分析対象物の清浄化などの作業を行うようにしてもよい。つまり、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することは、当該2種以上の生物に含まれる特定の生物の存在の可能性を判定することを含んでいてもよく、さらに当該特定の生物の推定存在量を判定することを含んでいてもよい。
【0064】
1種又は複数種のsRNAの存在状態の検出の際に、sRNAの存在量についても測定することで、上記に記載の生物の存在量の判定が可能となる。sRNAの存在量の検出は、当業界で一般的に用いられている手法により行うことができ、例えば、sRNAにハイブリダイズする蛍光標識プローブからの蛍光発光量を測定する、sRNAからの核酸増幅時に蛍光標識プライマーを用い当該プライマーからの蛍光発光量を測定する、qPCRを用いる等の手法により測定することができる。
【0065】
<測定試料中に存在する細胞壁を有する生物の同定>
液体試料から得られた1種又は複数種のsRNAの存在状態から、当該sRNAの存在状態と合致するsRNA発現プロファイルを有する1種又は複数種の生物を特定することができる。前記1種又は複数種のsRNAは、生物に応じて特異的な発現状態を示すsRNAであることが好ましい。液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態を検出することは、液体試料中に存在するsRNAを網羅的に検出することを含んでいてもよいが、測定試料中に存在する可能性のある生物の種類を考慮してあらかじめ選択した1種又は複数種のsRNAの存在状態を測定することを含んでいてもよい。
【0066】
1種類のsRNAの特定の存在状態が、1種類の生物のsRNA発現プロファイルに完全に特異的であるとは限らず、sRNAの特定の存在状態に合致するsRNA発現プロファイルを有する生物が複数種存在する場合もある。しかし、生物毎のsRNA発現プロファイルはsRNA毎に異なるため、複数種のsRNAそれぞれの存在状態の情報を基にすれば、存在する生物の種類をより絞り込むことができる。このため、本開示に係る同定方法においては、複数種のsRNAそれぞれの存在状態に基づいて、試料中に存在する生物を同定してもよい。とはいえ、存在する生物種の候補を1種類に絞り込むことは本開示に係る同定方法においては必須ではなく、複数種の生物からなる候補群を同定するだけでも十分である。
【0067】
このため、本開示に係る同定方法は、複数種の生物を同定するものであってもよく、その場合、前記同定方法は複数種の生物のそれぞれが存在していると個別に検出するものではなく、複数種の生物の存在を総体的に検出するものである。つまり、前記同定方法は、複数種の生物のうちどれが実際に存在しているかは検出できないまでも、複数種の生物のうち少なくとも1種が存在していると検出できれば十分である。
【0068】
すなわち、本開示に係る同定方法において前記測定試料中に存在する生物を同定することが、2種以上の候補生物のうち1種以上が存在していると同定していることを含んでいてもよい。2種以上の生物のうち少なくとも1種が存在していると同定した場合には、さらに、2種以上の候補となる生物のうち存在する少なくとも1種の存在量を同定することを含んでいてもよい。本開示に係る同定方法において前記測定試料中に存在する生物を同定することが、2種以上の候補となる生物のうち1種以上が存在していると同定していることを含む場合には、2種以上の候補となる生物のうちどれが存在しているかを正確に特定できるわけではないが、この同定結果を基にしてさらなる試験を行ってもよく、あるいはこの同定結果に基づいて測定試料を得た分析対象物の清浄化(候補微生物の種類に応じた適切な清浄化)などの作業を行うようにしてもよい。
【0069】
すなわち、2種以上の候補となる生物のうち1種以上が存在していると同定することは、当該2種以上の候補となる生物に含まれる特定の生物を存在の可能性がある生物として同定することを含んでいてもよく、さらに当該特定の生物の推定存在量を同定することを含んでいてもよい。
【0070】
1種又は複数種のsRNAの存在状態の検出の際に、sRNAの存在量についても測定することで、上記に記載の生物の存在量の同定が可能となる。液体試料中におけるsRNAの存在量は、当該sRNAを発現する生物の量を反映(最も単純な場合は当該sRNAを発現する生物の量に比例)すると考えられるためである。sRNAの存在量の検出は、当業界で一般的に用いられている手法により行うことができ、例えば、sRNAにハイブリダイズする蛍光標識プローブからの蛍光発光量を測定する、sRNAからの核酸増幅時に蛍光標識プライマーを用い当該プライマーからの蛍光発光量を測定する、qPCRを用いる(例えばリアルタイムPCRにおけるCt値を求める)等の手法により測定することができる。
【0071】
本開示に係る同定方法における、液体試料中における1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づく生物の同定の一例について説明する。sRNAであるEC-5p-36(配列番号1;5’-UGUGGGCACUCGAAGAUACGGAU-3’、Curr Microbiol.2013 Nov;67(5):609-13参照)は、Nucleotide BLAST検索によれば、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Citrobacter属細菌において共通して発現している。このことから、液体試料中にEC-5p-36が存在すると検出された場合、存在している生物は、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、及びCitrobacter属細菌のうち1種以上であると同定できる。また、sRNAであるEC-3p-40は、Nucleotide BLAST検索によれば、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Escherichia属細菌、及びCitrobacter属細菌に加えて、Klebsilla属細菌にも共通して発現する。このため、EC-3p-40(配列番号2;5’-GUUGUGAGGUUAAGCGACU-3’)が液体試料中に存在すると検出された場合、存在する生物はEscherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Citrobacter属細菌、及びKlebsilla属細菌のうち1種以上であると同定できる。また、これらの結果を組み合わせて同定を行ってもよい。たとえば、EC-5p-36はKlebsilla属細菌では発現しないが、EC-3p-40はKlebsilla属細菌で発現するので、液体試料中にEC-3p-40は存在するがEC-5p-36は存在しないと検出された場合は、存在する生物はKlebsilla属細菌であると同定できる。
【0072】
また、生物の同定は、特定の機能を有するsRNAの存在状態に基づいて同定してもよい。たとえば、腸管出血性大腸菌(O-157等)の毒素(ベロ毒素。シガトキシンとも呼ばれる)に関与するsRNAである24B_1(配列番号3;5’-UAACGUUAAGUUGACUCGGG-3’、Scientific Reports volume 5, Article number: 10080 (2015)参照)は、Nucleotide blast検索によればベロ毒素(シガトキシン)生産菌に共通して発現する。このため、液体試料中に24B_1が存在すると検出された場合は、存在する生物はベロ毒素保有菌であると同定できる。
【0073】
また、本開示に係る判定方法において、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、及びCitrobacter属細菌の総体的な存在状態(いずれも存在しないか、1種以上が存在するか等)を判定したい場合には、EC-5p-36の存在状態を検出するようにすればよい。本開示に係る判定方法において、Klebsilla属細菌の存在状態を判定したい場合には、EC-3p-40及びEC-5p-36の存在状態を検出するようにすればよい。
【0074】
そのほか、sRNAであるEC-5p-79(配列番号11;5’-UUUGCUCUUUAAAAAUC-3’)及びEC-3p-393(配列番号12;5’-CUCGAAGAUACGGAUUCUUAAC-3’)は、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumにおいて発現している。以上のことから、sRNAと生物種の対応関係として、EC-5p-36、EC-3p-40、EC-5p-79、及びEC-3p-393からなる群より選択される少なくとも1種と、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選択される少なくとも1種との組み合わせ、配列番号10で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5とFusarium oxysporumとの組み合わせ、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156とクロマツとの組み合わせ、ならびに配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bとSaccharomyces cerevisiaeとの組み合わせが挙げられる。
【0075】
検出するsRNAは、実施例に記載の試験において用いているEC-5p-36、EC-3p-40、EC-5p-79、EC-3p-393、fox_milRNA_5、miR156、及びmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0076】
なお、上記では数例のsRNAに言及したが、本開示に係る判定方法及び同定方法は他のsRNAを検出する場合でも同様にして行うことができる。判定又は同定に必要なsRNAと生物との対応関係は、上述のデータベースから容易に入手することができる。
【0077】
以上に記載された実施形態を考慮すれば、本開示によれば以下の実施形態も提供される。すなわち、本開示に係る検出対象生物の検出方法は、
測定試料中に含まれる検出対象生物を水溶媒中に浸漬して、前記検出対象生物に特異的な1種又は複数種のsRNAが前記水溶媒に漏出した液体試料を作製することと、
前記液体試料中における前記1種又は複数種のsRNAを検出することと、
を含む。検出対象生物を水溶媒中に浸漬させる手法は、前記検出対象生物が水溶媒に接触する限りは特に限定されず、上述の本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法における測定試料の浸漬又は水溶媒である測定試料の準備と同様にして行うことができる。また、検出対象生物に特異的な1種又は複数種のsRNAは、検出対象生物において特異的に発現するsRNAが少なくとも1種含まれていれば、他のsRNAは検出対象生物において特異的に非発現なsRNAでもよい。
【0078】
上述のとおり、本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法においては、強い変性剤による膜の変性操作を経ることなく、簡便にsRNAを細胞壁を有する細胞から水溶媒中に漏出させることができる。そして、漏出したsRNAの存在状態を検出することで(例えば、核酸増幅によるsRNAの検出を行うことで)、膜を変性させて16S rRNAを取り出す方法よりも少ない手間で、関心のある特定の生物の存在状態を判定することができ、また、測定試料中に存在する生物を同定することができる。特に、核酸増幅法として、室温で反応が進行する等温遺伝子増幅法(例えばRCA法)を用いる場合には、最初から最後まで特殊な装置(例えば温度サイクルを実行させるための装置)を使うことなく、簡便に生物の存在状態を判定し、あるいは測定試料中に含まれる生物を同定することができる。
【0079】
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法によれば、培養法とは異なり、測定試料に含まれる可能性のある生物を培養する必要が無い。このため、短時間での判定又は同定が可能でありながら、核酸増幅等を用いれば高い感度を実現することも可能である。さらに、培養が困難な細菌等にも本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法を適用することができる。また、培養法とは異なり、本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法においては、必要なサンプル量が少なく、処理に用いた資材の廃棄も容易である。本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法では、遺伝子法の利点を維持しつつ、さらに従来の遺伝子法よりも簡便な操作で生物の存在状態の判定及び測定試料中に含まれる生物の同定をすることができる。
【0080】
本開示に係る判定方法及び本開示に係る同定方法は、例えば、衛生管理の必要とされる現場(食品製造、医療、福祉、家庭等)での簡便な微生物検査のために用いることができる。その例としては、食品製造工程における腐敗変敗菌検査による製品の衛生管理、食中毒事故時のすみやかな原因特定、医療施設のベッドや待合室における食中毒菌検出による二次感染予防、児童福祉施設や老人福祉施設における食中毒菌の二次感染予防、家庭に食中毒患者がいる場合における食中毒菌の検出による二次感染予防等が挙げられる。
【実施例】
【0081】
以下の実施例により実施形態を更に説明するが、本開示は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。また、実施例の組成物における含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。以下の実施例において、「室温」は約30℃であった。
【0082】
<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>
実施例1~実施例3、実施例7~9、及び実施例11において、存在状態を判定する対象となるsRNAは、以下に記載の方法により定量した。
実施例1~実施例3、実施例7~9、及び実施例11のそれぞれにおける反応液中のsRNAを、リアルタイムPCR法により定量した。定量の対象となるsRNAに合わせてカスタム合成した定量試薬(Taqman(登録商標) microRNA Assays、アプライドバイオシステムズ社製)及び逆転写酵素(Taqman(登録商標) microRNA RT kit、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、製造業者の指示に従って逆転写反応を行い、逆転写により形成されたDNAを含む逆転写反応溶液を得た。逆転写反応において、具体的には、1反応あたり、1μLのRNAサンプル、1.5μの10× RT buffer、0.15μLのdNTP mix、0.19μLのRNase inhibitor、終濃度が1×になる量のカスタム合成Taqman assays(例:20×のTaqman assaysであれば0.75μL)の第一液、1μLのMultiscribe RT enzyme、を用い、純水で液量が15μLになるよう調整した。逆転写反応の温度プロファイルは、(1)16℃で30分、続いて(2)42℃で30分、及び(3)85℃で5分からなるステップを含んでいた。
【0083】
次に、得られた逆転写反応溶液を用い、リアルタイムPCR反応を行った。定量の対象となるsRNAに合わせてカスタム合成した定量試薬(Taqman(登録商標)、microRNA Assays、アプライドバイオシステムズ社製、及びリアルタイムPCR用マスターミックス(TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mix II with UNG、アプライドバイオシステムズ社製)を用い、製造業者の指示に従って反応液を調製した。具体的には、2μLの逆転写反応溶液、10μLのUniversal PCR Master Mix II with UNG、終濃度が1×になる量のカスタム合成Taqman assays(例:20×のTaqman assaysであれば1μL)の第二液を用い、純水で液量が20μLになるよう調整して反応液を調製した。調製した反応液をStepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、95℃で10分のステップの後、95℃で15秒及び60℃で1分からなるサイクルを40サイクル含む温度プロファイルでリアルタイムPCRを行った。その際、StepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、reagents =“Taqman reagents”、ramp speed =“Standard”の条件で、StepOnePlusソフトウェアの自動計算(上記の設定以外はデフォールトの設定)によりCt値を算出した。標品と比較して定量する場合、定量の対象となるsRNA配列を合成(ユーロフィンジェノミクス社によるRNAプライマー合成、HPLC精製グレード)し、10-10M~10-15Mの範囲で希釈系列を調製して、サンプルの測定と同時並行して前記希釈系列についてもリアルタイムPCRを行い、Ct値を比較することでsRNA量を定量した。
【0084】
(実施例1)Escherichia coliに含まれるsRNA(EC-5p-36)の簡易抽出
Escherichia coli W3110(以下、単に「大腸菌W3110」と称する)に含まれるsRNAの一種であるEC-5p-36を対象として、大腸菌W3110からの簡易抽出を試みた。
大腸菌W3110のコロニーを100μLの純水に懸濁して90質量%大腸菌W3110菌体懸濁液とした。この90質量%大腸菌W3110菌体懸濁液を基にして、以下の3種類のサンプルを作製した。
【0085】
サンプル1) 90質量%大腸菌W3110菌体懸濁液に、RNase阻害剤(東洋紡株式会社製)を終濃度0.4U/μLとなるように加えて、反応液を10μL調製した。反応液は室温で4時間静置してサンプル1とした。
サンプル2) 90質量%大腸菌W3110菌体懸濁液を、すぐにmiRNeasy kit(フェノールを含み細胞膜変性を生じさせる細胞溶解試薬;QIAGEN社製)で精製し、全sRNAを抽出してサンプル2とした。
【0086】
さらに、比較対象として、純水10μLをそのままサンプル0とした。
【0087】
サンプル0~サンプル2について、リアルタイムPCR法によりEC-5p-36を定量した。定量により得られたサンプル0~サンプル2におけるsRNA量のそれぞれを、サンプル2におけるsRNA量で除し、得られた値を相対抽出率とした(表1)。
【0088】
【0089】
表1に示した結果から分かるように、sRNAを簡便に菌体から抽出して測定できることが分かった。sRNAは純水のみでも抽出できた。
【0090】
(実施例2)クロマツ花粉に含まれるsRNA(miR156)の簡易抽出
クロマツ花粉に含まれるsRNAの一種であるmiR156(配列番号4;5’-CAGAAGAUAGAGAGCACAUC-3’;http://www.mirbase.org/;pta-miR156aを参照)を対象として、クロマツ花粉からの簡易抽出を試みた。
10mgのクロマツ花粉(ビオスタ社製)を1mLの純水に懸濁し、室温で1時間静置した。それから、リアルタイムPCR法によりmiR156の定量を試みた。ネガティブコントロールとしてRNase-free水、ポジティブコントロールとして1nMの合成miR156(配列番号4;ユーロフィンジェノミクス社製)を含む水を用い、sRNA(miR156)が検出できるかを比較した。その結果、純水に懸濁しただけでもクロマツ花粉からsRNAを抽出できることが確認できた。
【0091】
【0092】
(実施例3)酵母に含まれるsRNA(miR716b)の簡易抽出
Saccharomyces cerevisiae(以下、単にパン酵母と称する)に含まれるsRNAの一種であるmiR716b(配列番号5;5’-GAGAUCUUGGUGGUAGUAGCAAAUA-3’;Sci. Rep., 2015,5,7763参照)を対象として、パン酵母からのsRNAの簡易抽出を試みた。
パン酵母をLBプレート上で培養し、10mgのパン酵母をかきとり、1mLの純水に懸濁し、室温で1時間静置した。静置後に、リアルタイムPCR法によりmiR716bの抽出を試みた。ネガティブコントロールとしてRNase-free水、ポジティブコントロールとして1nMの合成miR716b(配列番号5;ユーロフィンジェノミクス社製)を用い、sRNAが検出できるかを比較した。その結果、純水に懸濁しただけでもパン酵母由来のsRNAが抽出できることが確認でき、また、抽出されたsRNAの量を定量的に検出できることも確認できた。
【0093】
【0094】
(実施例4)等温遺伝子増幅法によるEscherichia coli由来sRNA(EC-5p-36)の検出
Escherichia coli に含まれるsRNAの一種であるEC-5p-36を対象として、E.coliから水溶媒で簡易抽出したsRNAの等温遺伝子増幅法(SATIC法;Anal Chem. 2016 Jul 19;88(14):7137-44))による検出を試みた。
【0095】
<環状化T1B-EC-5p-36の合成>
まず、以下のヌクレオチド配列の合成単鎖DNAであるプライマーをEurofin genomics社に発注して入手した。
プライマー配列(配列番号6):5’-CCCCAAAAAATCCGTATCTTCGAGTGCCCACAAAAAAGAAGCTGTTGTATTGTTGTCGAAGAAGAAAAGT-3’(5’リン酸化、HPLC精製)
【0096】
次に、CircLigase II ssDNA Ligation kit(Lucigen社製)を用い、マニュアルに従って上記合成単鎖DNAを環状化させた。すなわち、PCRチューブ内に、RNase-free水(キアゲン社製)を15μL、10pmol/μLの上記合成単鎖DNAを1μL、CircLigase II 10×Reaction Bufferを2μL、50mM MnCl2を1μL、CircLigase II ssDNA Ligaseを1μL添加した。混合後、前記PCRチューブをサーマルサイクラー上において60℃で1時間、80℃で10分間処理し、500nMの環状化DNA(以下、「環状化T1B-EC-5p-36」と称する)を得た。これをRNase-free水で5倍希釈して、100nMの環状化T1B-EC-5p-36を得た。
【0097】
<環状化T2の合成>
まず、以下のヌクレオチド配列の合成単鎖DNAであるプライマーをEurofin genomics社に発注して入手した。
プライマー配列(配列番号7):5’-CCCAACCCTACCCACCCTCAAGAAAAAAAAGTGATAATTGTTGTCGAAGAAGAAAAAAAATT-3’(5’リン酸化、HPLC精製)
【0098】
次に、CircLigase II ssDNA Ligation kit(Lucigen社製)を用い、配列番号6のプライマー(T1B-EC-5p-36)の代わりに配列番号7のプライマー(T2)を用いた以外は環状化T1B-EC-5p-36の合成と同様の操作を行って、500nMの環状化DNA(以下、「環状化T2」と称する)を得た。これをRNase-free水で1.25倍希釈して、400nMの環状化T2を得た。
【0099】
<プライマーP2の合成>
以下のヌクレオチド配列のプライマーをEurofin genomics社に発注し、合成プライマーを入手した。
プライマー配列(配列番号8):5’-GAAGCTGTTGTTATCACT-3’(修飾なし、HPLC精製)
【0100】
該プライマーをRNase-free水で希釈して、480nMのプライマーP2を調製した。
【0101】
<E.coli由来sRNAの等温遺伝子増幅法による検出>
φ29 DNA polymerase(New England Biolabs社製のキット)により、E.coli由来sRNAの検出を試みた。すなわち、1サンプルあたり、PCRチューブ内に、RNase-free水を5.8μL、480μMプライマーP2を2μL、100nMの環状化T1B-EC-5p-36を2μL、400nMの環状化T2を2μL、各10mMのdNTP Mixを2μL、10×φ29 DNA polymerase Reaction bufferを2μL、キット添付BSAを0.2μL及びφ29 DNA polymeraseを2μL混合し、プレミックスを調製した。このプレミックスに、大腸菌W3110のLB培地による培養コロニーを1mLのRNase-free水に懸濁したものを2μL添加し、サンプルとした。また、前記プレミックスに10nMの合成EC-5p-36(配列番号1;ユーロフィンジェノミクス社製)を2μL添加したものをポジティブコントロールとした。さらに、前記プレミックスに、RNase-free水を2μL添加したものをネガティブコントロールとした。
【0102】
サンプル、ポジティブコンロトール、及びネガティブコントロールを、それぞれ、37℃で16時間静置してインキュベートした。続いて、核酸に結合することで蛍光強度が強まる試薬であるSYBR Gold Nucleic Acid Gel Stain(Invitrogen社製)の100倍希釈液をインキュベート後の溶液に2μL添加して、混合した。こうして得られた反応液をブラックライト(365nm)で照射して、蛍光発色を観察した。その結果、サンプル及びポジティブコントロールでは黄緑色の強い蛍光が見られたが、ネガティブコントロールではSYBR Gold Nucleic Acid Gel Stain由来の弱い黄色蛍光しか見られなかった。したがって、サンプルにおいては、大腸菌W3110から水溶媒で抽出したsRNAを等温遺伝子増幅により増幅し、増幅産物を蛍光で検出できたことが示された。ネガティブコントロールとサンプルとの蛍光の比較を
図1に示す。
図1において、+はサンプルを、-はネガティブコントロールを表す。
【0103】
(実施例5)クロマツ花粉由来sRNAの等温遺伝子増幅法による検出
実施例4のE.coli由来sRNAの等温遺伝子増幅法による検出方法と同様の操作により、クロマツ花粉由来sRNAの検出を試みた。
【0104】
<環状化T1B-miR156の合成>
実施例4のT1B-EC-5p-36の作製と同様の方法で、T1B-miR156を作製した。まず、以下のヌクレオチド配列の合成単鎖DNAであるプライマーをEurofin genomics社に発注し、入手した。
プライマー配列(配列番号9):5’-CCCCAAAAAGGAGCGATGTGCTCTCTATCTTCTGAAAAGAAGCTGTTGTATTGTTGTCGAAGAAGAAAAGT-3’(5’リン酸化、HPLC精製)
【0105】
配列番号6のプライマーの代わりに配列番号9のプライマーを用いること以外は実施例4と同様にして、100nMの環状化DNA(以下、「環状化T1B-miR156」と称する)を得た。
【0106】
<環状化T2の合成>
実施例4と同じ方法で環状化T2を得た。
【0107】
<プライマーP2の合成>
実施例4と同じ方法でプライマーP2を得た。
【0108】
<クロマツ花粉由来sRNAの等温遺伝子増幅法による検出>
実施例4と同様にして、クロマツ花粉由来sRNAの検出を試みた。すなわち、実施例4の環状化T1B-EC-5p-36の代わりに環状化T1B-miR156を用い、合成EC-5p-36の代わりに合成miR-156(配列番号4:ユーロフィンジェノミクス社製)を用い、大腸菌W3110の培養コロニーの水懸濁液の代わりにクロマツ花粉の水懸濁液を用いた以外は、実施例4と同様の実験を行った。その結果、サンプル(クロマツ花粉水懸濁液)及びポジティブコントロール(合成miR-156)では黄緑色の強い蛍光がみられたが、ネガティブコントロール(RNase-free水)ではSYBR Gold Nucleic Acid Gel Stain由来の弱い黄色蛍光しか見られなかった。したがって、サンプルにおいては、クロマツ花粉から水溶媒で抽出したsRNAを等温遺伝子増幅により増幅し、増幅産物を蛍光で検出できたことが示された。ネガティブコントロールとサンプルとの蛍光の比較を
図2に示す。
図2において、+はサンプルを、-はネガティブコントロールを表す。
【0109】
(実施例6)Fusarium oxysporumからのsRNAの抽出
Fusarium oxysporum IFO5942をLBプレート上で3日培養した。それから、菌体を1mgかきとり、1% RNase阻害剤(東洋紡株式会社製)を含む1mLの水に懸濁した。懸濁直後又は25℃で16時間静置後、懸濁液を100Kアミコンウルトラ0.5フィルター(メルクミリポア社製)でろ過し、10μLのろ液を90μLの滅菌水に希釈した。25℃で16時間静置後、1000倍希釈したSYBR Gold Nucleic Acid Gel Stain(Thermo scientific社製)を10μL添加した。懸濁液の蛍光(励起波長:495nm、発光波長540nm)を、蛍光プレートリーダー(Spectramax 3i、 Molecular probes社製)で測定した。懸濁直後の蛍光強度が3.4×106RFUであったのに対し、2時間後には4.2×106RFUへと上昇した。このことから、Fusariumを水に懸濁することでsRNAがFusariumから放出されたこと、また、その定量的測定が可能であることが確認された。
【0110】
(実施例7)E.coli由来sRNA(EC-5p-36)およびFusarium oxysporum由来sRNA(fox_milRNA_5)の検出
Fusarium oxysporum IFO5942をLBプレート上で25℃で3日間培養した。次に、菌体を掻き取り、1mLの純水に懸濁して室温で1時間静置した。静置後のFusarium oxysporum菌体懸濁液をOD600の値が0.01となるように純水で希釈し、OD0.01Fusarium菌体懸濁液とした。
【0111】
また、大腸菌W3110をLBプレート上で、37℃で1日間培養した。次にコロニーを掻き取って100μLの純水に懸濁し、室温で1時間静置した。静置後の大腸菌W3110菌体懸濁液をOD600の値が0.1となるように純水で希釈し、OD0.1大腸菌W3110菌体懸濁液とした。
こうして得られた菌体懸濁液を用いて、リアルタイムPCR法によりEC-5p-36およびfox_milRNA_5の定量を試みた。EC-5p-36 sRNA(配列番号1)は大腸菌W3110では発現するが、Fusarium oxysporum IFO5942では発現しないsRNAである。一方、fox_milRNA_5 sRNA(配列番号10;5’-UCCGGUAUGGUGUAGUGGC-3’、PLoS One. 2014 Aug 20;9(8):e104956.参照)は大腸菌W3110では発現しないが、Fusarium oxysporum IFO5942では発現するsRNAである。
【0112】
OD0.01Fusarium菌体懸濁液及びOD0.1大腸菌W3110菌体懸濁液について、1μLのサンプルを用い、上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行った。検出対象がfox_milRNA_5の場合、及び検出対象がEC-5p-36の場合のそれぞれにおいて、検出対象に対応したヌクレオチド配列を有するTaqman(登録商標)Assayプライマーを用いた。StepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)により得られたCt値の結果を表4に示す。
【0113】
【0114】
表4の結果から、Fusariumからはfox_milRNA_5が、大腸菌W3110からはEC-5p-36が特異的に検出できることが分かった。また、リアルタイムPCRによりsRNAの定量的な検出が可能であることも示された。
【0115】
(実施例8)抽出処理時の温度条件の検討
Escherichia coli DH5αをLBプレートに播種して培養し、生じたコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液40μLを採取して、4mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで4時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000Gで5分間遠心し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加した。この際、OD600を測定し、滅菌水でOD=0.1に調整して大腸菌懸濁液を調製した。
【0116】
調製した大腸菌懸濁液から500μLの試料を3個用意し、それぞれ5℃、25℃、又は37℃で1時間静置した。その後、大腸菌懸濁液を0.22μmのフィルタでろ過した。
【0117】
ろ液中のEC-5p-36及び16S rRNAを対象として、逆転写反応及びリアルタイムPCRを行った。1μLのろ液をRNAサンプルとして採取し、EC-5p-36については上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行い、16S rRNAについては以下に記載の<リアルタイムPCR法による16S rRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCR法により得られたCt値の結果を表5に示す。16S rRNAは、いずれも低濃度でしか抽出されなかったことが分かった。一方、EC-5p-36は10℃、25℃、37℃、いずれの温度でも存在の判定に十分な量が抽出された。また、抽出(浸漬)時の温度が上昇するのにしたがってCt値が低下したことから、温度が高いほど抽出されやすい傾向が観察できる。このように、塩基数が比較的少ないEC-5p-36(塩基数23)は、Ct値が低く、安定して検出できることがわかる。これに対して、塩基数が比較的多い16S rRNA(塩基数約1500)は、Ct値が高く、検出困難であることがわかる。
【0118】
【0119】
16S rRNAのリアルタイムPCR法による定量方法を以下に記載する。
<リアルタイムPCR法による16S rRNAの定量方法>
存在状態を判定する対象となる16S rRNAは、以下に記載の方法により定量した。1μLのRNAサンプルを用い、液量が10μLになるよう調製した。逆転写反応を、10μLの反応液において行ったが、この反応液は100nMのプライマー(配列番号13:CCGGGAACGTATTCACC)、0.4%のMoloney Murine Leukemia Virus Reverse Transcriptase(プロメガ製)、20%の5X Reaction Buffer、各0.4mMのdNTP、0.1%のRNase inhibitor(東洋紡株式会社製)、及び10%の前記抽出液(RNAサンプル)を含む液であった。逆転写反応の温度プロファイルは、(1)16℃で30分、続いて(2)42℃で20分、及び(3)85℃で5分からなるステップを含んでいた。
【0120】
次に、得られた逆転写反応溶液を用い、リアルタイムPCR反応を行った。2μLの逆転写反応溶液を用い、液量が20μLになるよう調整した。PCRの反応液は、300nMのプライマー1(配列番号14:AGAGTTTGATCATGGCTCAG)、300nMのプライマー2(配列番号15:CCGGGAACGTATTCACC)、各200μMのdNTP(CleanAmpTM Hot Start dNTP Mix、Sigma-Aldrich,USAから入手)(注:メルクミリポア社のAmicon Ultra 50 K centrifugal filterで事前にろ過精製)、50mMのKCl、2.25mMのMgCl2、10mMのTris-HCl(pH8.3)、1×EvaGreen(Biotium Inc.CA,USAから入手)、0.05units/μLのeukaryote-made thermostable DNA polymerase(J Clin Microbiol. 2011 49(9) 3316-3320参照)、及び10%の上記逆転写反応液を含む液を用いた。このリアルタイムPCR反応の温度プロファイルは、95℃で10分の変性ステップの後、94℃で10秒、65℃で20秒、72℃で30秒、及び85℃で10秒からなるサイクルを40サイクル含んでいた。StepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、reagents =“SYBR Green reagents”、ramp speed =“Standard” の条件(これら以外はデフォールト設定)で、StepOnePlusソフトウェアの自動計算によりCt値を算出した。
【0121】
(実施例9)腸内細菌科に属する菌の検出
腸内細菌科に属する菌であるEscherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumの各菌をLBプレートに播種して培養し、生じたコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液40μLを採取して、4mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000Gで5分間遠心し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加した。この際、OD600を測定し、滅菌水でOD=1に調整して菌懸濁液を調製した。
【0122】
調製した菌懸濁液から500μLの試料を3個用意し、それぞれ5℃、25℃、又は37℃で1時間静置した。その後、菌懸濁液を0.22μmのフィルタでろ過した。
【0123】
ろ液中のsRNA(EC-5p-36、EC-3p-40及びEC-5p-79)を対象として、逆転写反応及びリアルタイムPCRを行った。ろ液各1μLのサンプルを用い、上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)により得られたCt値の結果を表6に示す。いずれの場合においても、Ct値が28以下を示し、調査対象である腸内細菌科の菌の存在が検出された。
【0124】
【0125】
(実施例10)核酸抽出液の電気泳動
Escherichia coli W3110をLBプレートに播種して培養し、生じたコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液100μLを採取して、10mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで4時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000Gで5分間遠心し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加した。この際、OD600を測定し、滅菌水でOD=1に調整して菌懸濁液を調製した。
【0126】
500μLの菌懸濁液を、37℃で1時間静置した。その後、懸濁液を3000Gで5分間遠心し、上清を0.22μmのフィルタでろ過した。ろ液10μLと2μLの6x Loading buffer(タカラバイオ株式会社製)とを混合し、2%アガロースゲル(LO3、タカラバイオ株式会社製)に添加し、TAE(Tris-acetate with EDTA)バッファー中で電気泳動した。結果を
図3に示す。Ladderとしては、Gene ladder wide 1(ニッポンジーン社製)を用いた(右側のレーン2)。核酸を染色する蛍光物質としては、0.01%SYBR Green II(タカラバイオ株式会社製)を用いた。左側のレーン1がろ液をロードしたレーンである。
【0127】
電気泳動の結果、500塩基長以下の領域、特に100塩基長以下の領域に蛍光が見られた。蛍光は物質の濃度に依存するが、低分子の物質であれば同じ蛍光でも分子数は多い計算になるため、100塩基長以下の核酸の物質濃度(分子数)は特に高いことが示された。
【0128】
(実施例11)空中菌体の検出
Escherichia coli DH5αをLBプレートに播種して培養し、生じたコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液100μLを採取して、10mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで4時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000Gで5分間遠心し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加した。この際、OD600を測定し、滅菌水でOD=1に調整して大腸菌懸濁液を調製した。得られた大腸菌懸濁液を30mL容ガラス製スプレーに入れた。
【0129】
空中菌体回収用として空のシャーレ(直径9cm)、ポジティブコントロールとしてLB固形培地を含むシャーレ(直径9cm)をそれぞれ卓上に置き、上空30cmからガラス製スプレーにより大腸菌懸濁液を1回噴霧した。LB固形培地を含むシャーレは蓋をして37℃のインキュベーターに入れ、1日培養した。空のシャーレは、滅菌水を500μL添加して、コンラージ棒で滅菌水をシャーレ全体に行きわたらせたのち、シャーレ内の液体を回収して37℃で1時間静置した。空のシャーレからの回収液から上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCR法によりEC-5p-36の存在量を測定したところ、Ct値は28以下であり、EC-5p-36の存在が確認された。一方、ネガティブコントロールとして、滅菌水に対して直接リアルタイムPCR法を行い、EC-5p-36の存在量を測定したところ、Ct値は33以上となり、EC-5p-36の存在が否定された。また、ポジティブコントロールであるLBシャーレからはコロニーの形成がみられた。
【0130】
実施例11の結果から、本開示に係る判定方法及び同定方法は、空中菌体を収集して得た測定試料に対しても適用可能であることが示された。
【0131】
2019年3月4日出願の日本国特許出願2019-38910の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【配列表】