(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】カムチェーンテンショナ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
F16H7/08 B
(21)【出願番号】P 2021508945
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009758
(87)【国際公開番号】W WO2020195718
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019061349
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝口 親司
(72)【発明者】
【氏名】村木 悠平
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-119488(JP,A)
【文献】特開2005-106036(JP,A)
【文献】実開平4-52644(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)のクランクシャフト(11)の回転力をカムシャフト(25)へ伝達するカムチェーン(27)と摺動するチェーンテンショナガイド(28)と、前記チェーンテンショナガイド(28)を油圧にて押圧するチェーンテンショナ(31)とを備えるカムチェーンテンショナ装置において、
前記チェーンテンショナ(31)は、前記チェーンテンショナガイド(28)を押圧する押圧部材(41)に押圧力を発生させる高圧室(51)と、前記高圧室(51)へオイルを供給するオイル供給室(52)と、前記オイル供給室(52)からエンジン(10)内に連通する連通路(54A)とを備え
、
前記チェーンテンショナ(31)は、オイルをろ過するために前記オイル供給室(52)の上流側に設けられたフィルター(34e)を有し、前記フィルター(34e)は、前記チェーンテンショナ(31)に備えるガスケット(34)によって構成され、
前記チェーンテンショナ(31)は、前記エンジン(10)のクランクケース(12)から水平に延びるシリンダ部(13)の上面に設けられ、前記チェーンテンショナ(31)以外の部品へのオイル給油に用いる水平方向に延びる水平油路(18c)から分岐して前記フィルター(34e)まで延びる給油路(21d)が設けられ、前記給油路(21d)は、直線状に形成されて前記フィルター(34e)と前記水平油路(18c)とを接続することを特徴とするカムチェーンテンショナ装置。
【請求項2】
前記連通路(54A)は、前記チェーンテンショナガイド(28)に向けて開口する開口部(21q)を有することを特徴とする請求項1に記載のカムチェーンテンショナ装置。
【請求項3】
前記開口部(21q)は、前記チェーンテンショナガイド(28)と前記チェーンテンショナ(31)との接点(48)よりも上方に位置することを特徴とする請求項2に記載のカムチェーンテンショナ装置。
【請求項4】
前記オイル供給室(52)へオイルを給油する給油口(36e)と、前記オイル供給室(52)から連通路(54A)に接続する排出口(36f)とは、同一部材の同軸上に設けられていることを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか一項に記載のカムチェーンテンショナ装置。
【請求項5】
前記排出口(36f)は、前記給油口(36e)よりも高く配置されていることを特徴とする請求項
4に記載のカムチェーンテンショナ装置。
【請求項6】
前記フィルター(34e)と前記給油口(36e)側とを接続するオイル通路(36c)は、前記フィルター(34e)に臨む一側端部(36k)が、他側端部(36r)よりも高く配置されていることを特徴とする請求項
5に記載のカムチェーンテンショナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムチェーンテンショナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイル供給室から直接エアを抜かず、カムチェーンテンショナガイドを介してチェーンテンショナを押圧するために高圧に保たれた高圧室を通じてエア抜きを行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、高圧室を介してエア抜きを行うため、エア抜き経路が長くなり、効率的な排出を妨げてしまう。
本発明の目的は、オイル供給の段階でエア抜きを行い、高圧室へのエアの混入を抑制するとともに、効率的にエア抜きを行うことが可能なカムチェーンテンショナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この明細書には、2019年3月27日に出願された日本国特許出願・特願2019-061349の全ての内容が含まれる。
カムチェーンテンショナ装置は、エンジン(10)のクランクシャフト(11)の回転力をカムシャフト(25)へ伝達するカムチェーン(27)と摺動するチェーンテンショナガイド(28)と、前記チェーンテンショナガイド(28)を油圧にて押圧するチェーンテンショナ(31)とを備えるカムチェーンテンショナ装置において、前記チェーンテンショナ(31)は、前記チェーンテンショナガイド(28)を押圧する押圧部材(41)に押圧力を発生させる高圧室(51)と、前記高圧室(51)へオイルを供給するオイル供給室(52)と、前記オイル供給室(52)から前記エンジン(10)内に連通する連通路(54A)とを備え、前記チェーンテンショナ(31)は、オイルをろ過するために前記オイル供給室(52)の上流側に設けられたフィルター(34e)を有し、前記フィルター(34e)は、前記チェーンテンショナ(31)に備えるガスケット(34)によって構成され、前記チェーンテンショナ(31)は、前記エンジン(10)のクランクケース(12)から水平に延びるシリンダ部(13)の上面に設けられ、前記チェーンテンショナ(31)以外の部品へのオイル給油に用いる水平方向に延びる水平油路(18c)から分岐して前記フィルター(34e)まで延びる給油路(21d)が設けられ、前記給油路(21d)は、直線状に形成されて前記フィルター(34e)と前記水平油路(18c)とを接続することを特徴とする。
【0006】
上記構成において、前記連通路(54A)は、前記チェーンテンショナガイド(28)に向けて開口する開口部(21q)を有しても良い。
また、上記構成において、前記開口部(21q)は、前記チェーンテンショナガイド(28)と前記チェーンテンショナ(31)との接点(48)よりも上方に位置しても良い。
【0009】
また、上記構成において、前記オイル供給室(52)へオイルを給油する給油口(36e)と、前記オイル供給室(52)から連通路(54A)に接続する排出口(36f)とは、同一部材の同軸上に設けられていても良い。
また、上記構成において、前記排出口(36f)は、前記給油口(36e)よりも高く配置されていても良い。
【0010】
また、上記構成において、前記フィルター(34e)と前記給油口(36e)側とを接続するオイル通路(36c)は、前記フィルター(34e)に臨む一側端部(36k)が、他側端部(36r)よりも高く配置されていても良い。
【発明の効果】
【0011】
カムチェーンテンショナ装置は、チェーンテンショナが、チェーンテンショナガイドを押圧する押圧部材に押圧力を発生させる高圧室と、高圧室へオイルを供給するオイル供給室と、オイル供給室からエンジン内に連通する連通路とを備えるので、オイル供給室からエア抜きを行うことができ、高圧室へのエアの混入を抑制できるとともに、効率的にエア抜きを行うことができる。
【0012】
上記構成において、連通路は、チェーンテンショナガイドに向けて開口する開口部を有するので、連通路から吐出されたオイルがチェーンテンショナガイドへ供給されることで、チェーンテンショナガイドを介してカムチェーンへ給油できる。
また、上記構成において、開口部は、チェーンテンショナガイドとチェーンテンショナとの接点よりも上方に位置するので、接点にオイルを供給することができ、接点の摩耗を抑制できる。
【0013】
また、上記構成において、チェーンテンショナは、オイルをろ過するためにオイル供給室の上流側に設けられたフィルターを有し、フィルターは、チェーンテンショナに備えるガスケットによって構成されるので、ガスケットを用いてフィルターを形成するため、部品点数を削減できる。
【0014】
また、上記構成において、チェーンテンショナは、エンジンのクランクケースから水平に延びるシリンダ部の上面に設けられ、チェーンテンショナ以外の部品へのオイル給油に用いる水平方向に延びる水平油路から分岐してフィルターまで延びる給油路が設けられ、給油路は、直線状に形成されてフィルターと水平油路とを接続するので、水平油路側から流れてフィルターに溜まったオイルへの混入物が、エンジン停止等によってオイルの流れが止まったときに、フィルターから離れ、エンジン再始動時には水平油路を通って流れていくため、フィルターの清掃回数を減らすことができ、チェーンテンショナのメンテナンス性を向上できる。
【0015】
また、上記構成において、オイル供給室へオイルを給油する給油口と、オイル供給室から連通路に接続する排出口とは、同一部材の同軸上に設けられているので、部品点数の削減と、加工性の向上とを図ることができる。
また、上記構成において、排出口は、給油口よりも高く配置されているので、オイル供給室からエアを排出口を通じて排出しやすくできる。
【0016】
また、上記構成において、フィルターと給油口側とを接続するオイル通路は、フィルターに臨む一側端部が、他側端部よりも高く配置されているので、オイル通路を通じてフィルター側からオイル供給室側へエアを移動しにくくできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態のカムチェーンテンショナ装置を備えるエンジンを示す断面図である。
【
図2】
図2は、シリンダブロックの上壁に設けられたチェーンテンショナを示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2からキャップ部材を外した状態を示す平面図である。
【
図4】
図4は、
図3からガスケットを外した状態を示す平面図である。
【
図9】
図9は、シリンダブロック上に設けられたチェーンテンショナのキャップ部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、説明中、前後左右及び上下といった方向の記載は、特に記載がなければエンジン10に対する方向と同一とする。各図に示す符号FRはエンジン前方を示し、符号UPはエンジン上方を示し、符号LHはエンジン左方を示している。
図1は、本発明の実施形態のカムチェーンテンショナ装置32を備えるエンジン10を示す断面図である。
エンジン10は、左右方向に延びるクランクシャフト11を回転可能に収納するクランクケース12と、クランクケース12の前部から前方に水平又は略水平に延びるシリンダ部13とを備える。
【0019】
クランクシャフト11には、チェーン駆動スプロケット15が取付けられている。
クランクケース12の側壁(不図示)にはオイルポンプ17が設けられ、クランクケース12及びシリンダ部13には、オイルポンプ17からクランクケース12及びシリンダ部13の各部へ潤滑用のオイルを供給するオイル供給通路18が設けられている。
シリンダ部13は、クランクケース12の前部に順に組付けられたシリンダブロック21、シリンダヘッド22及びヘッドカバー23を備える。
シリンダヘッド22には、左右方向に延びるカムシャフト25が回転可能に支持され、カムシャフト25の一端部にはカムスプロケット26が取付けられている。
【0020】
上記したカムスプロケット26は、シリンダ部13内に形成されたカムチェーン室13a内に配置され、チェーン駆動スプロケット15とカムスプロケット26とには、カムチェーン27が掛け渡されている。
カムチェーン27は、チェーン駆動スプロケット15からカムスプロケット26へ掛かる弛み側27Aに、チェーンテンショナガイド28が当てられ、カムスプロケット26からチェーン駆動スプロケット15へ掛かる張り側27Bにチェーンガイド29が当てられている。チェーンテンショナガイド28は、カムチェーン室13a内では、前上がりに配置されている。
【0021】
シリンダブロック21の上壁21aには、チェーンテンショナガイド28を押圧してカムチェーン27の緩みを抑制するチェーンテンショナ31が設けられている。
チェーンテンショナガイド28及びチェーンテンショナ31は、カムチェーンテンショナ装置32を構成する。
チェーンテンショナ31は、シリンダブロック21の上壁21aに一体に設けられたテンショナ基部21bと、テンショナ基部21bの上端にガスケット34(
図3参照)を介して一対のボルト35で取付けられたキャップ部材36とを備える。
【0022】
図2は、シリンダブロック21の上壁21aに設けられたチェーンテンショナ31を示す平面図である。
チェーンテンショナ31のキャップ部材36は、一対のボルト35が通されるボルト挿通穴36aと、一対のボルト挿通穴36aの間に形成された下方に突出する下方突出部36bと、オイル通路となるオイル溝36cとを備える。
下方突出部36b及びオイル溝36cは、キャップ部材36の下面に形成されている。
下方突出部36bは、円形の輪郭を有し、中央部に凹部36dが形成されている。オイル溝36cは、下方突出部36bの中心側から左右方向(詳しくは、左方)に離れるにつれて次第に前方に延びるように傾斜している。
【0023】
図3は、
図2からキャップ部材36を外した状態を示す平面図である。
テンショナ基部21bとキャップ部材36(
図2参照)との間にはガスケット34が挟持されている。
ガスケット34は、中央部に、キャップ部材36の下方突出部36b(
図2参照)が挿入される円形の突出部挿通穴34aと、突出部挿通穴34aの縁の後部に設けられたU字状の縁を有する切欠き部34bとからなる中央穴34cが形成されている。また、ガスケット34は、キャップ部材36のオイル溝36cの一端部(詳しくは、左側の端部(一側端部36k(
図8参照))に重なるように形成された複数の小穴34dからなるフィルター部34eと、ボルト35(
図2参照)を通す一対のボルト挿通穴34fとを備える。
【0024】
図4は、
図3からガスケット34を外した状態を示す平面図である。
テンショナ基部21bの上面21cには、縦油路21d、中央部貫通穴21e、上部溝21f、前部連通油路21g、一対のねじ穴21hを備える。
縦油路21dは、テンショナ基部21bに上下に直線状に延びるように形成されて上面21cに開口し、キャップ部材36(
図2参照)のオイル溝36cの一端部(詳しくは、左側の端部(一側端部36k(
図8参照))に重なるように形成されている。
【0025】
中央部貫通穴21eは、上面21cの中央部に上下方向に延びるように形成された丸穴であり、テンショナ基部21bを貫通している。上部溝21fは、中央部貫通穴21eを前後方向に跨いで形成され、中央部貫通穴21eの前後に設けられた前部溝21j及び後部溝21kからなる。後部溝21kには、キャップ部材36(
図2参照)のオイル溝36cの他端部(詳しくは、右側の端部(他側端部36r(
図8参照))が重なるように配置されている。
前部連通油路21gは、前部溝21jの前端部に接続されてテンショナ基部21bに上下方向に延びている。一対のねじ穴21hは、一対のボルト35(
図2参照)がそれぞれねじ込まれる部分であり、中央部貫通穴21eに対して、一方は前方斜め左方、他方は後方斜め右方に配置されている。
【0026】
図5は、
図2のV-V線断面図である。
テンショナ基部21bの中央部貫通穴21eには、中央部貫通穴21eの内面21mに移動可能に嵌合するプランジャ41と、プランジャ41内に形成された中空部41aに移動可能に嵌合する内筒42とが配置されている。
プランジャ41は、先端部に設けられた端部壁41cと、端部壁41cの周縁から延びる周壁41dとからなり、周壁41dの端部壁41cとは反対側の端部に中空部41aの開口部41eが設けられている。
端部壁41cは、その内面41fの外周部に環状に形成された環状溝41gを備える。
【0027】
周壁41dは、端部壁41c側から順に形成された小径穴41h、テーパ穴41j、大径穴41k、端部小径穴41mを備える。
小径穴41hよりも大径に形成された大径穴41k及び端部小径穴41mには、内筒42が移動可能に挿入されている。端部小径穴41mは、大径穴41kよりも内径が小さく形成されている。
プランジャ41の先端部(端部壁41c)は、テンショナ基部21bの下端部21nからカムチェーン室13aに突出している。テンショナ基部21bの下端部21nは、シリンダブロック21の上壁21aの内面21pに下方に突出するように形成されている。
【0028】
内筒42は、底壁42aと、底壁42aの周縁から延びる内筒周壁42bとを一体に備える。底壁42aには、オイル穴42cが開けられている。底壁42aの下面42dには、オイル穴42cを開閉することで内筒42内のオイルを一方向(内筒42内からプランジャ41の中空部41a内へ流れる方向)に流すチェックバルブ44が設けられている。
内筒42の底壁42a及び内筒周壁42bによって形成された中空部42eは、上部(詳しくは、キャップ部材36側)に開口部42fを有する。
【0029】
チェックバルブ44は、オイル穴42cの下面42d側の縁部に密着可能に設けられたチェックボール45と、下面42dに形成された下面凹部42gに配置されてチェックボール45を収容するボールハウジング46とを備える。
ボールハウジング46は、カップ状に形成されたハウジングカップ部46aと、ハウジングカップ部46aの開口側の周縁部から径方向外側に延びるフランジ部46bとからなり、ハウジングカップ部46aには、オイルが通過する複数の小穴(不図示)が開けられている。
【0030】
プランジャ41とボールハウジング46との間には、圧縮コイルばね47が配置されている。圧縮コイルばね47は、その弾性力によって、プランジャ41の端部壁41cを、チェーンテンショナガイド28に押し付けるとともに、内筒42の開口部42f側の端部を、キャップ部材36に押し付ける。図中の符号48は、プランジャ41の端部壁41cとチェーンテンショナガイド28との接点である。
【0031】
テンショナ基部21bの前部連通油路21gは、テンショナ基部21bを上下に貫通し、シリンダブロック21の上壁21aの内面21pに、カムチェーン室13aに開口する開口部21qを有する。開口部21qは、接点48よりも前方且つ上方に位置する。
開口部21qの下方には、チェーンテンショナガイド28が配置されている。これにより、開口部21qから排出されたオイルは、チェーンテンショナガイド28に落下し、カムチェーン27と、カムチェーン27及びチェーンテンショナガイド28のそれぞれの間の摺動部と、チェーンテンショナガイド28及びプランジャ41のそれぞれの間の接触部である接点48とを潤滑する。
【0032】
キャップ部材36の下方突出部36bには、後部溝21kと凹部36dとを連通する給油口36eと、凹部36dと前部溝21jとを連通する排出口36fとを備える。
給油口36eは、後部溝21kから凹部36d内にオイルを供給し、排出口36fは、凹部36d内のオイルを前部溝21jに排出する。
給油口36e及び排出口36fは、前部溝21j及び後部溝21kの横断面積よりも小さい断面積を有する。
キャップ部材36のオイル溝36cは、一部を破線で図示したように、チェーンテンショナ31を側方(エンジン10(
図1参照)の左右方向)から見たときに、前上がりに傾斜している。オイル溝36cの前側の一端部(一側端部36k)は、オイル溝36cの後側の他端部(他側端部36r)よりも高く配置されている。
【0033】
上記したプランジャ41の中空部41a内で開口部41eが内筒42で塞がれた空間は、高圧室51である。また、内筒42の中空部42e及びキャップ部材36の凹部36dは、高圧室51よりも圧力が低く、高圧室51へオイルを供給するオイル供給室となる低圧室52である。
また、上記した後部溝21k、給油口36e、低圧室52、排出口36f、前部溝21j及び前部連通油路21gは、連通油路54を構成し、排出口36f、前部溝21j及び前部連通油路21gは、低圧室52からカムチェーン室13aに至る低圧室連通路54Aを構成する。
【0034】
図6は、
図2のVI-VI線断面図である。
図1に示すように、オイル供給通路18は、互いに連通する油路として、ケース油路18a、ブロック下部油路18b、ブロック水平油路18cを備える。
ケース油路18aは、オイルポンプ17からシリンダブロック21まで延びるようにクランクケース12に形成されている。ブロック下部油路18bは、シリンダブロック21におけるクランクケース12との合わせ部に沿ってその合わせ部の近傍のシリンダブロック21に形成されている。
ブロック水平油路18cは、シリンダブロック21の上壁21a内に前後方向に延びるように形成されている。オイル供給通路18は、ブロック水平油路18cから更に、シリンダヘッド22まで延び、シリンダヘッド22の各部を潤滑する。
【0035】
図6に示すように、ブロック水平油路18cの途中からは、上方に延びる縦油路21dが分岐している。縦油路21dにおいて上面21cに開口する開口部21rは、ガスケット34のフィルター部34eを介してキャップ部材36のオイル溝36cの端部(一側端部36k(
図8参照))に連通している。
従って、オイルポンプ17(
図1参照)側からオイル供給通路18内を流れるオイルにごみや摩耗粉等の混入物が混入している場合、縦油路21dに流れたオイルの混入物が、ガスケット34のフィルター部34eで捕集されてフィルター部34eの下面に溜まる。
【0036】
この状態で、エンジン10(
図1参照)が停止すると、オイル供給通路18と共に縦油路21dのオイルの流れが止まるため、フィルター部34eの下面に溜まっていた混入物は、縦油路21d内を落下し、ブロック水平油路18cに落ちる。そして、エンジン再始動時には、ブロック水平油路18cの混入物は、オイルとともに下流側へ移動し、最終的には、エンジン10の下部に設けられたオイルフィルター(不図示)によって捕集される。このように、チェーンテンショナ31にフィルター部34eを設けることで、オイルの混入物が高圧室51に流れ込みにくくできる。
【0037】
図7は、キャップ部材36を示す斜視図、
図8は、キャップ部材36を示す底面図である。
図9は、シリンダブロック21上に設けられたチェーンテンショナ31のキャップ部材36の断面図であり、
図5のIX-IX線の位置で切断した断面を示している。
図7~
図9に示すように、キャップ部材36の下面36gには、筒状に突出する下方突出部36bと、下方突出部36bの一側方(左方)に位置するオイル溝36cとが形成され、一対のボルト挿通穴36aがキャップ部材36を上下に貫通している。
下方突出部36bには、その外周面36hと内周面36jとを貫通する給油口36e及び排出口36fがそれぞれ前後に延びるように形成されている。内周面36jは、凹部36dの内周面でもある。
【0038】
給油口36e及び排出口36fは、同一の軸線56を有する。即ち、給油口36eと排出口36fとは、同軸上に形成されている。これにより、給油口36e及び排出口36fを加工する際の工数削減ができ、作業性を向上できる。
オイル溝36cは、一側(左側)の端部である円形の一側端部36kと、一側端部36kから幅が次第に細くなった後に一定の幅で排出口36fの後方まで延びる等幅部36mとからなる。下面36gからオイル溝36cの底面36nまでの深さは、一定である。
等幅部36mは、一側端部36kから直線状に延びる直線溝36pと、直線溝36pの端部から、下方突出部36bの近傍で下方突出部36bの外周面36hに沿うように延びる湾曲溝36qとからなる。
直線溝36pは、一対のボルト挿通穴36aのそれぞれの中心を通る直線57に沿って延びている。湾曲溝36qには、他側(右側)の端部である他側端部36rが設けられている。
【0039】
以上に述べたチェーンテンショナ31の作用を次に説明する。
図1において、エンジン10が始動すると、オイルポンプ17が作動し、エンジン10の下部に溜められていたオイルが、オイルポンプ17によってオイル供給通路18を通じて、クランクケース12及びシリンダ部13の各部に供給される。
図6において、オイル供給通路18のブロック水平油路18cに供給されたオイルは、分岐してチェーンテンショナ31の縦油路21dに流れ込み、ガスケット34のフィルター部34eでろ過されてオイル中の混入物が除かれる。
【0040】
フィルター部34eを通過したオイルは、
図9において、オイル溝36c内を流れて後部溝21kに至る。
図5において、オイルは、後部溝21kから給油口36eを通り、低圧室52に供給される。低圧室52では、給油口36eから供給されるオイルによって圧力が上昇するため、チェックバルブ44のチェックボール45がオイル穴42cの縁部から離れ、低圧室52内のオイルが、オイル穴42cを通じて高圧室51に流入する。
【0041】
この結果、高圧室51内の圧力が次第に高まるため、プランジャ41が、下降してチェーンテンショナガイド28を介してカムチェーン27を押圧する。
このとき、カムチェーン27の動きによって、プランジャ41が押し戻されて高圧室51内の容積が減少したときには、高圧室51内の一部のオイルが、プランジャ41と内筒42との隙間を通り、更に、プランジャ41と中央部貫通穴21eとの隙間を通ってカムチェーン室13aに流出する。
【0042】
また、給油口36eから低圧室52に供給されて余ったオイルは、低圧室52から排出口36fを通って前部溝21jに排出される。そして、オイルは、前部溝21jから前部連通油路21gを通ってカムチェーン室13aに流出する。
例えば、
図6において、ブロック水平油路18cから縦油路21dに流入したオイルにエアが混入していた場合、エアは、フィルター部34e、
図5に示したオイル溝36c、後部溝21k、給油口36e、低圧室52、低圧室連通路54A(即ち、排出口36f、前部溝21j、前部連通油路21g)を通って、カムチェーン室13aに排出される。
【0043】
また、例えば、上記のオイルの通路のうちの高く配置されている部分(縦油路21d、オイル溝36c、後部溝21k、凹部36dの上部等)にエアが溜った状態であっても、このエアは、チェーンテンショナ31の低い部分に配置された高圧室51までは流れにくいため、高圧室51内のオイルへのエア混入が抑えられ、カムチェーン27を押圧する良好な押圧力を確保することができる。
【0044】
以上の
図1及び
図5に示したように、カムチェーンテンショナ装置32は、チェーンテンショナガイド28及びチェーンテンショナ31を備える。
チェーンテンショナガイド28は、エンジン10のクランクシャフト11の回転力をカムシャフト25へ伝達するカムチェーン27と摺動する。チェーンテンショナ31は、チェーンテンショナガイド28を油圧にて押圧する。
チェーンテンショナ31は、高圧室51、低圧室52、低圧室連通路54Aを備える。
【0045】
高圧室51は、チェーンテンショナガイド28を押圧する押圧部材としてのプランジャ41に押圧力を発生させる。オイル供給室としての低圧室52は、高圧室51へオイルを供給する。連通路としての低圧室連通路54Aは、低圧室52からエンジン10内(詳しくは、カムチェーン室13a)に連通する。
この構成によれば、低圧室52に低圧室連通路54Aを設けることで、低圧室52からエア抜きを行うことができ、高圧室51へのエアの混入を抑制できるとともに、効率的にエア抜きを行うことができる。
【0046】
また、
図5に示したように、低圧室連通路54Aは、チェーンテンショナガイド28に向けて開口する開口部21qを有する。
この構成によれば、低圧室連通路54Aの開口部21qから吐出されたオイルがチェーンテンショナガイド28へ供給され、これによって、チェーンテンショナガイド28を介してカムチェーン27へ給油できる。
【0047】
また、開口部21qは、チェーンテンショナガイド28とチェーンテンショナ31との接点48よりも上方に位置する。
この構成によれば、開口部21qから排出されたオイルを接点48に供給することができ、接点48の摩耗を抑制できる。
【0048】
また、
図3、
図5及び
図6に示したように、チェーンテンショナ31は、オイルをろ過するために低圧室52の上流側に設けられたフィルターとしてのフィルター部34eを有し、フィルター部34eは、チェーンテンショナ31に備えるガスケット34によって構成される。
この構成によれば、ガスケット34を用いてフィルター部34eを形成するため、部品点数を削減することができる。
【0049】
図1及び
図6に示したように、チェーンテンショナ31は、エンジン10のクランクケース12から水平に延びるシリンダ部13の上面に設けられる。チェーンテンショナ31は、チェーンテンショナ31以外の部品へのオイル給油に用いる水平方向に延びる水平油路としてのブロック水平油路18cから分岐してフィルター部34eまで延びる給油路としての縦油路21dが設けられている。上記したチェーンテンショナ31以外の部品としては、例えば、シリンダヘッド22に設けられた動弁機構が挙げられる。
縦油路21dは、直線状に形成されてフィルター部34eとブロック水平油路18cとを接続する。
【0050】
この構成によれば、ブロック水平油路18c側から流れてフィルター部34eに溜まったオイル内の混入物が、エンジン停止等によってオイルの流れが止まったときに、フィルター部34eから離れる。そして、その混入物は、エンジン再始動時にはブロック水平油路18cを通って流れていく。このため、フィルター部34eの清掃回数を減らすことができ、チェーンテンショナ31のメンテナンス性を向上できる。
【0051】
また、
図5及
図8に示したように、低圧室52へオイルを給油する給油口36eと、低圧室52から低圧室連通路54Aに接続する排出口36fとは、同一部材の同軸上に設けられている。
この構成によれば、部品点数の削減と、加工性の向上とを図ることができる。
【0052】
また、
図5に示したように、排出口36fは、給油口36eよりも高く配置されている。
この構成によれば、低圧室52からエアを排出口36fを通じて排出しやすくできる。
また、
図5及び
図9に示したように、フィルター部34eと給油口36e側とを接続するオイル通路としてのオイル溝36cは、フィルター部34eに臨む一側端部36kが、他側端部36rよりも高く配置されている。
この構成によれば、オイル溝36cを通じてフィルター部34e側から低圧室52側へエアを移動しにくくできるので、高圧室51のオイルへのエア混入を一層抑制できる。
【0053】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
本発明は、各種車両、産業機械等のエンジンに適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 エンジン
11 クランクシャフト
12 クランクケース
13 シリンダ部
18c ブロック水平油路(水平油路)
21d 縦油路(給油路)
21q 開口部
25 カムシャフト
27 カムチェーン
28 チェーンテンショナガイド
31 チェーンテンショナ
34e フィルター部(フィルター)
36c オイル溝(オイル通路)
36e 給油穴(給油路)
36f 排出穴(排出路)
36k 一側端部
36r 他側端部
41 プランジャ(押圧部材)
48 接点
51 高圧室
52 低圧室(オイル供給室)
54A 低圧室連通路(連通路)