(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】接合基板および接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20221220BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H01L23/12 C
(21)【出願番号】P 2021534001
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027829
(87)【国際公開番号】W WO2021015122
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/028876
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】海老ヶ瀬 隆
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-506496(JP,A)
【文献】特開2013-211546(JP,A)
【文献】特開2017-035805(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094213(WO,A1)
【文献】特開2007-197229(JP,A)
【文献】特開2013-211545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00 - 37/04
H01L 23/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素セラミックス基板と、
銅板と、
前記銅板を前記窒化ケイ素セラミックス基板に接合する接合層と、
を備え、
前記接合層は、
前記窒化ケイ素セラミックス基板に接触する第1の界面及び前記銅板に接触する第2の界面を有し、
チタン及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属である活性金属の窒化物及びケイ素化物を含み、
前記第1の界面に沿って存在し前記活性金属の窒化物を主成分として含む第1界面側界面層を備え、
前記接合層における窒素の原子分率が前記第1の界面において最大でありかつ前記第2の界面において最小であり、
前記接合層における前記活性金属の原子分率とケイ素の原子分率との総和が前記第1の界面において最小であり前記第2の界面において最大であり、
前記第1界面側界面層が、50nm以下の粒子径を有する複数のナノ粒子を含みかつ前記第1の界面に接するナノ粒子層を備え、
前記ナノ粒子層が前記第1界面側界面層のうち前記ナノ粒子層以外の部分よりも大きな原子分率にて銀および銅を含み、
前記複数のナノ粒子は周囲の前記ナノ粒子層よりも銀を多く含む、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項2】
請求項1に記載の接合基板であって、
前記接合層における前記活性金属の原子分率とケイ素の原子分率とのそれぞれが前記第1の界面において最小であり前記第2の界面において最大である、
ことを特徴とする接合基板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合基板であって、
前記活性金属は、チタンを含み、
前記活性金属の窒化物は、組成式TiN
xで表される組成を有する窒化チタンを含み、
前記第1界面側界面層は、前記窒化チタンを主成分として含む、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の接合基板であって、
前記接合層が、前記第2の界面に沿って存在し前記活性金属のケイ素化物を主成分として含む第2界面側界面層を備える、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項5】
請求項4に記載の接合基板であって、
前記ケイ素化物は、組成式Ti
5Si
3で表される組成を有するケイ素化チタンを含み、
前記第2界面側界面層は、前記ケイ素化チタンを主成分として含む、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の接合基板であって、
前記接合層が、組成式TiN
xで表される組成を有する窒化チタンとケイ素との固溶体を主成分として含みかつ前記第1の界面及び前記第2の界面から離れて存在する中間層を備える、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項7】
請求項6に記載の接合基板であって、
前記接合層に銅が固溶しており、
前記接合層における銅の原子分率は、前記中間層において最大である、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項8】
請求項7に記載の接合基板であって、
前記中間層における銅の原子分率が、1原子%以上10原子%以下である、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の接合基板であって、
前記接合層が、
粒界三重点を形成する複数の粒子と、
前記粒界三重点に存在し銀を主成分として含む異相と、
を備えることを特徴とする、接合基板。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の接合基板であって、
前記窒化ケイ素セラミックス基板が、前記第1の界面に沿って存在し酸素を含む層を備える、
ことを特徴とする、接合基板。
【請求項11】
窒化ケイ素セラミックス基板と銅板との接合基板を製造する方法であって、
窒化ケイ素セラミックス基板上に、銀粉末と、チタン及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属である活性金属の水素化物粉末とを含むろう材からなるろう材層を形成するろう材層形成工程と、
前記ろう材層上に銅板を配置し、前記窒化ケイ素セラミックス基板、前記銅板及び前記ろう材層を備える中間品を得る中間品形成工程と、
前記中間品を加圧加熱することにより、前記ろう材層に含まれる銀を前記銅板に拡散させるとともに前記窒化ケイ素セラミックス基板に含まれる窒素およびケイ素を前記ろう材層に供給し、前記ろう材層を、前記銅板を前記窒化ケイ素セラミックス基板に接合する接合層に変化させる接合層形成工程と、
を備え、
前記ろう材層形成工程においては、前記ろう材の前記銀粉末として、粒度分布におけるD50が0.5μm~1.5μmでありD95が2.0μm~3.5μmであるものを用い、
前記接合層形成工程においては、前記接合層が、
前記窒化ケイ素セラミックス基板に接触する第1の界面及び前記銅板に接触する第2の界面を有し、かつ、
チタン及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属である活性金属の窒化物及びケイ素化物を含む、
ように形成され、
前記接合層における窒素の原子分率が前記第1の界面において最大でかつ前記第2の界面において最小となり、
前記接合層における前記活性金属の原子分率とケイ素の原子分率との総和が前記第1の界面において最小でかつ前記第2の界面において最大となる、
ことを特徴とする、接合基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の接合基板の製造方法であって、
前記接合層形成工程においては、最高面圧が5MPa以上25MPa以下となる面圧プロファイルおよび最高温度が800℃以上900℃以下となる温度プロファイルに従って前記中間品をホットプレスする、
ことを特徴とする、接合基板の製造方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の接合基板の製造方法であって、
前記ろう材が40重量%以上80重量%以下の銀を含む、
ことを特徴とする、接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素セラミックスは、高い熱伝導性及び高い絶縁性を有する。このため、銅板が接合層を介して窒化ケイ素セラミックス基板に接合された接合基板は、パワー半導体素子が実装される絶縁放熱基板として好適に用いられる。
【0003】
当該接合基板は、多くの場合は、ろう材層が銅板と窒化物セラミックス基板との間にある中間品を作製し、作製した中間品を熱処理してろう材層を接合層に変化させ、銅板及び接合層をパターニングすることにより製造される(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
ろう材層は、多くの場合は、銀及び銅を含む粉末、並びに水素化チタン粉末を含む。接合層は、多くの場合は、水素化チタン粉末に由来するチタンと窒化ケイ素セラミックス基板に由来する窒素との反応生成物である窒化チタンを主成分として含む。
【0005】
例えば、特許文献1に記載された技術においては、銅の金属板がろう付け法により窒化ケイ素基板に接合される(段落0016)。ろう材としては、Ti、ZrまたはHf等の活性金属を含有するAg-Cu合金が用いられる(段落0016)。特許文献1に記載された技術においては、強固な接合強度を得るために、ろう材層/窒化ケイ素界面に、十分にTiN粒子が析出させられる(段落0018)。
【0006】
また、特許文献2には、Ag-Cu-Ti系のろう材を用いて銅板を窒化ケイ素基板や窒化アルミニウム基板などの窒化物セラミックス基板に接合し、TiNを接合層とする接合基板を得る態様が開示されている。接合の際のろう材の塗布量および接合条件を調整することによって、銅板と接合層の間にAg-Cu層を生じさせないようにすることで、冷熱サイクルに対する信頼性を高めた接合基板が得られるとされている。なお、得られる接合基板には、銅板と接合層の間にボイドが形成されるものと、ボイドに代えてAgリッチ相が掲載されるものとの2通りが示されており、後者は電気的な絶縁破壊に対しても信頼性が高いとされている。
【0007】
しかし、従来の技術においては、窒化物セラミックス基板と接合層との密着強度、及び銅板と接合層との密着強度を両立することができない場合があり、その結果として高い接合強度を有する接合基板を得ることができない場合がある。
【0008】
特に、特許文献2に開示された接合基板の場合、銅板と接合層の界面に着目することで、冷熱サイクルに対する信頼性は確保されているが、少なくとも、窒化物セラミックス基板と接合層との界面近傍の構成と両層間の密着強度との関係については、着目されていない。
【0009】
また、特許文献2に開示された接合基板においては、冷熱サイクルの確保の点からは好ましくないAg-Cu層を銅板と接合層との界面に形成させない代わりに、接合条件に応じて、当該界面に離散的にボイドが形成されるか、あるいは、ボイドに代わりAgリッチ相が離散的に形成される。このような銅板と接合層との界面におけるボイドまたはAgリッチ相の形成は、銅板と接合層との密着強度の向上という点からは、必ずしも望ましくはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-201076号公報
【文献】特表2018-506496号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされた。本発明が解決しようとする課題は、窒化ケイ素セラミックス基板と接合層との密着強度、及び銅板と接合層との密着強度を向上し、高い接合強度を有する接合基板を得ることである。
【0012】
本発明の一態様によれば、接合基板は、窒化ケイ素セラミックス基板と、銅板と、前記銅板を前記窒化ケイ素セラミックス基板に接合する接合層と、を備え、前記接合層は、前記窒化ケイ素セラミックス基板に接触する第1の界面及び前記銅板に接触する第2の界面を有し、チタン及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属である活性金属の窒化物及びケイ素化物を含み、前記第1の界面に沿って存在し前記活性金属の窒化物を主成分として含む第1界面側界面層を備え、前記接合層における窒素の原子分率が前記第1の界面において最大でありかつ前記第2の界面において最小であり、前記接合層における前記活性金属の原子分率とケイ素の原子分率との総和が前記第1の界面において最小であり前記第2の界面において最大であり、前記第1界面側界面層が、50nm以下の粒子径を有する複数のナノ粒子を含みかつ前記第1の界面に接するナノ粒子層を備え、前記ナノ粒子層が前記第1界面側界面層のうち前記ナノ粒子層以外の部分よりも大きな原子分率にて銀および銅を含み、前記複数のナノ粒子は周囲の前記ナノ粒子層よりも銀を多く含む、ことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、窒化ケイ素セラミックス基板と銅板とを接合してなる接合基板の接合層において、窒化ケイ素と強い結合を形成する窒素の原子分率が、窒化ケイ素セラミックス基板に接触する接合層の第1の界面において最大となる。これにより、そのような窒素の分布を有さない接合基板に比して、窒化ケイ素セラミックス基板と接合層との密着性が高められた接合基板が、実現される。
【0014】
また、本発明によれば、窒化ケイ素セラミックス基板と銅板とを接合してなる接合基板の接合層において、銅と金属結合を形成する活性金属の原子分率とケイ素の原子分率との総和が、銅板に接触する接合層の第2の界面において最大となる。これにより、そのような窒素の分布を有さない接合基板に比して、銅板と接合層との密着性が高められた接合基板が、実現される。
【0015】
これらにより、本発明によれば、高い接合強度を有する接合基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】接合基板1の一部を模式的に示す拡大断面図である。
【
図3】接合層13の微構造を模式的に示す図である。
【
図4】接合基板1の製造の流れを示すフローチャートである。
【
図5】接合基板1の製造の途上で得られる中間品を模式的に示す断面図である。
【
図6】接合基板1の製造の途上で得られる中間品を模式的に示す断面図である。
【
図7】接合基板1の製造の途上で得られる中間品を模式的に示す断面図である。
【
図8】接合基板1の製造における接合層及び銅板のパターニングの流れを示すフローチャートである。
【
図9】接合層13及び銅板12のパターニングの途上で得られる中間品を模式的に示す断面図である。
【
図10】接合層13及び銅板12のパターニングの途上で得られる中間品を模式的に示す断面図である。
【
図11】実施例1において分析用の試料の観察に用いたSTEM像を示す図である。
【
図13】エネルギー分散型X線分析(EDX)による酸素、ケイ素、チタン、銅、及び銀についてのマッピング結果を示す図である。
【
図14】
図13に示したそれぞれのマッピング像のうち、
図12に示したSTEM像の部分拡大像と同一視野範囲についての、部分拡大像である。
【
図15】EDXによる測定結果に基づく定量分析の対象とされた4つの抽出位置P1、P2、P3、及びP4を示すHAADF-STEM像である。
【
図16】粒界三重点191近傍の拡大HAADF-STEM像である。
【
図17】粒界三重点191およびその近傍におけるEDXスペクトルを示す図である。
【
図18】制限視野電子回折パターンの測定対象とされた5つの抽出位置P11、P12、P13、P14、及びP15を示すBF-STEM像である。
【
図19】電子エネルギー損失分光法(EELS)による測定対象領域と、当該領域における各元素の分布を示すEELS強度マップとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<接合基板>
図1は、本発明の実施形態に係る接合基板1を模式的に示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、接合基板1は、窒化ケイ素セラミックス基板(以下、セラミックス基板とする)11、銅板12U、接合層13U、銅板12L及び接合層13Lを備える。接合基板1がこれらの要素以外の要素を備えていてもよい。また、銅板12U及び接合層13Uの組と、銅板12L及び接合層13Lの組のいずれか一方の配置が、省略されていてもよい。
【0019】
銅板12U及び接合層13Uは、セラミックス基板11の主面101U上に配置されている。銅板12L及び接合層13Lは、セラミックス基板11の主面101L上に配置されている。
【0020】
接合層13Uは、銅板12Uをセラミックス基板11の主面101Uに接合しており、接合層13Lは、銅板12Lをセラミックス基板11の主面101Lに接合している。
【0021】
接合基板1は、どのように用いられてもよいが、例えばパワー半導体素子が実装される絶縁放熱基板として用いられる。
【0022】
図2は、本実施形態に係る接合基板1の一部を模式的に示す拡大断面図である。
【0023】
図2に示すセラミックス基板11の主面101、銅板12及び接合層13の組は、セラミックス基板11の主面101U、銅板12U及び接合層13Uの組と、セラミックス基板11の主面101L、銅板12L及び接合層13Lの組の双方に該当する。
【0024】
銅板12は、活性金属ろう付け法によりセラミックス基板11にろう付けされている。係るろう付けの際には、セラミックス基板11と銅板12との間に活性金属ろう材(以下、単にろう材とする)からなるろう材層が配置されてなる中間体が加圧加熱されることで、ろう材層が接合層13に変化させられている。ろう材は、銀(Ag)及び活性金属の粉末を含む材料であるが、ろう材層の形成に際しては、溶剤等を含めてペースト状とされたろう材が配置される。このため、接合層13は、銀及び活性金属を含む。活性金属は、チタン(Ti)及びジルコニウム(Zr)からなる群より選択される少なくとも1種の金属である。
【0025】
セラミックス基板11と銅板12の厚みに特段の制限はないが、典型的には、前者には0.2mm~0.4mm程度の厚みのものが用いられ、後者には0.3mm~1.2mm程度の厚みのものが用いられる。
【0026】
一方、接合層13は、ろう付けの際に形成するろう材層の厚みに応じた厚みを有するが、概ね、サブミクロンから数ミクロン程度の厚みに設けられる。
【0027】
また、接合層13は、ろう付けに際してセラミックス基板11から供給された窒素(N)及びケイ素(Si)を含む。供給される窒素又はケイ素の少なくとも一部は、活性金属と化合物を形成する。このため、接合層13は、活性金属の窒化物及びケイ素化物を含む。
【0028】
接合層13はさらに、ろう付けに際して銅板12から供給された銅(Cu)を含む。銅は、接合層13を構成する物質に固溶している。ろう材中に含まれていた銅と銅板12から供給された銅とが接合層13に含まれている態様であってもよい。
【0029】
一方で、ろう材層に含まれていた銀は、接合層13の形成に際してその大部分が銅板12に拡散している。それゆえ、銅板12の少なくとも接合層13の近傍においては、銀が固溶している。
【0030】
接合層13は、
図2に示すように、セラミックス基板11との間に第1の界面111を有し、銅板12との間に第2の界面112を有する。
【0031】
また、接合層13は、
図2に示すように、第1の界面層
(第1界面側界面層)121、中間層122、及び第2の界面層
(第2界面側界面層)123を備える。第1の界面層121は、第1の界面111に沿って存在する。第2の界面層123は、第2の界面112に沿って存在する。中間層122は、第1の界面111及び第2の界面112から離れて存在し、第1の界面層121と第2の界面層123との間に存在する。
【0032】
第1の界面層121、中間層122、及び第2の界面層123は、多結晶体からなる。
【0033】
接合層13はさらに、
図2に示すように、ナノ粒子層131を備える。
【0034】
ナノ粒子層131は、第1の界面層121に備わり、第1の界面111に沿って存在する。
【0035】
ナノ粒子層131は、複数のナノ粒子141を含む。複数のナノ粒子141は、50nm以下の粒子径を有する。これにより、ナノ粒子層131は高い表面張力を有するものとなっている。このことは、セラミックス基板11と接合層13との密着強度の向上に資している。
【0036】
ナノ粒子層131は、第1の界面層121のうちナノ粒子層131以外の部分よりも大きな原子分率にて銀および銅を含んでいる。ナノ粒子層131に存在する銀は、銅板12へと拡散せずに接合層13に残存したものである。特に、ナノ粒子141は、周囲のナノ粒子層131よりも銀を多く含んでいる。これにより、ナノ粒子層131においては接合層13の他の部分よりもヤング率が低くなる。係るナノ粒子層131が備わることで、接合基板1においては、第1の界面層121に生じる応力が緩和される。
【0037】
図3は、接合層13の微構造を模式的に示す図である。
【0038】
接合層13は、
図3に示すように、複数の粒子151及び異相152を備える。複数の粒子151は、粒界三重点を形成する。異相152は、形成された粒界三重点に存在する。異相152は、銀を含む。係る異相152中の銀も、銅板12に拡散せずに接合層13中に残存したものである。接合層13に異相152が存在することにより、接合層13に応力が生じた場合であっても、生じた応力は異相152により緩和される。これにより、接合層13中をクラックが伝搬することが妨げられる。
【0039】
また、セラミックス基板11は、
図2に示すように、酸素を含む層132を備える。酸素を含む層132は、第1の界面111に沿って存在する。
【0040】
<接合層における元素分布と基板特性との関係>
上述のように、接合層13には、ろう材中に含まれていた活性金属(チタン、ジルコニウム)に加えて、セラミックス基板11に含まれていた窒素およびケイ素や、銅板12に由来する銅も存在する。一方で、ろう材中に存在していた銀の大部分は、銅板12へと拡散している。
【0041】
本実施形態に係る接合基板1においては、これらの元素の濃度分布(より具体的には厚み方向における原子分率の分布)が、接合層13における第1の界面層121、中間層122、および第2の界面層123の具備さらには第1の界面層121におけるナノ粒子層131の具備と関係している。ひいては、接合層13によるセラミックス基板11と銅板12との接合強度の確保その他の基板特性にも関係している。
【0042】
まず、セラミックス基板11に由来する窒素の、接合層13における原子分率(濃度)は、第1の界面111において最大であり、第1の界面111から遠ざかり第2の界面112に近づくにつれて小さくなり、第2の界面112において最小である。このため、中間層122における窒素の原子分率は、第1の界面層121における窒素の原子分率より小さく、第2の界面層123における窒素の原子分率よりも大きい。接合層13における窒素の原子分率は、厚み方向において概ね連続的に変化する。
【0043】
これに対し、窒素と同じくセラミックス基板11に由来するケイ素の接合層13中の原子分率は、第1の界面111において最小であり、第1の界面111から遠ざかり第2の界面112に近づくにつれて大きくなる傾向がある。接合層13におけるケイ素の原子分率は、第1の界面層121と中間層122との界面、及び中間層122と第2の界面層123との界面において、不連続的に変化する。
【0044】
また、接合層13における活性金属の原子分率も、ケイ素と同様、第1の界面111において最小であり、第1の界面111から遠ざかり第2の界面112に近づくにつれて大きくなる傾向がある。接合層13における活性金属の原子分率は、厚み方向において概ね連続的に変化する。
【0045】
以上のように、接合層13においては、窒素の原子分率が、セラミックス基板11に接触する第1の界面111において最大となっている。
【0046】
金属元素よりも窒素の方が、窒化ケイ素セラミックスとの間において強固な結合を形成する傾向がある。それゆえ、接合層13における窒素の原子分率が第1の界面111において最大である、本実施の形態に係る接合基板1においては、そのような窒素の分布を有さない接合基板に比して、セラミックス基板11と接合層13との密着性が高い。
【0047】
一方、ケイ素及び活性金属の原子分率は、銅板12に接触する第2の界面112において最大となっている。これは、換言すれば、ケイ素及び活性金属の原子分率の総和が、銅板12に接触する第2の界面112において最大となっているということでもある。
【0048】
銅板12と接合層13の密着性という観点からは、銅と金属元素との金属結合が銅と窒素との結合よりも支配的であることが好ましい。それゆえ、接合層13における活性金属及びケイ素の原子分率が第2の界面112において最大である、本実施の形態に係る接合基板1においては、そのような活性金属及びケイ素の分布を有さない接合基板に比して、銅板12と接合層13との密着性が高い。
【0049】
結果として、本実施形態に係る接合基板1においては、セラミックス基板11と接合層13との密着性と、銅板12と接合層13との密着性との双方が、高められる。
【0050】
概略的には、第1の界面層121は、活性金属の窒化物を主成分として含み、第2の界面層123は、活性金属のケイ素化物を主成分として含み、中間層122は活性金属の窒化物とケイ素との固溶体を主成分として含む。
【0051】
なお、活性金属がチタンを含む場合は、活性金属の窒化物は、組成式TiNxで表される組成を有する窒化チタンを含む。係る場合、第1の界面層121は、当該窒化チタンを主成分として含む。
【0052】
また、活性金属がチタンを含む場合、活性金属のケイ素化物は、組成式Ti5Si3で表される組成を有するケイ素化チタンを含む。係る場合、第2の界面層123は、当該ケイ素化チタンを主成分として含む。
【0053】
また、活性金属がチタンを含む場合、中間層122は、組成式TiNxで表される組成を有する窒化チタンとケイ素との固溶体を主成分として含む。
【0054】
次に、接合層13における銅の原子分率は、中間層122中において最大であり、第1の界面111と第2の界面112においては中間層122よりも小さい。これにより、中間層122は、第1の界面層121および第2の界面層123に比してヤング率が小さい層となっており、それゆえに、それらの層に比して応力を緩和しやすい層となっている。接合層13における銅の原子分率は、第1の界面層121と中間層122との界面、及び中間層122と第2の界面層123との界面において不連続的に変化する。
【0055】
中間層122における銅の原子分率は、望ましくは、1原子%以上10原子%以下である。中間層122における銅の原子分率が1原子%より小さい場合は、中間層122に生じる応力を緩和することが困難になる傾向がある。中間層122における銅の原子分率が10原子%より大きい場合は、下述するエッチングが行われた際に中間層122に固溶した銅が溶解して中間層122に空乏層が形成されやすくなる傾向がある。
【0056】
一方、上述のように、ろう材中に存在していた銀の大部分は、ろう付けのための加圧加熱処理により銅板12へと拡散しているが、一部の銀は、複数のナノ粒子141を含むナノ粒子層131や三相界面に形成される異相152という態様にて接合層13に残存している。これらの箇所における銀の残存は局所的かつ微細であり、それゆえに、これらの箇所は、応力を緩和させる効果を奏する点で共通している。
【0057】
なお、特許文献2に開示された接合基板とは異なり、本実施の形態に係る接合基板1においては、銅板12と接合層13との界面にボイドおよびAgリッチ相のいずれも、形成されない。このことも、銅板12と接合層13との密着性の向上という点から好適である。
【0058】
<接合基板の製造方法>
本実施の形態においては、種々の元素が上述のような原子分率分布にて存在することで、セラミックス基板11と銅板12との双方と接合層13との間における密着性の向上が実現されているが、係る原子分率分布は、接合基板1の製造に際し、ろう付け層の形成に用いるろう材に含まれる銀粉末に、所定の粒度分布をみたすものを選択した場合に、実現される。以下、接合基板1の製造の手順を示しつつ、この点についても併せて説明する。
【0059】
図4は、本実施形態に係る接合基板1の製造の流れを示すフローチャートである。
図5、
図6、及び
図7は、接合基板1の製造の途上で得られる中間品を模式的に示す断面図である。なお、上述のように、銅板12U及び接合層13Uの組と、銅板12L及び接合層13Lの組のいずれか一方は、配置が省略されてもよい。その場合は、以下に示す手順のなかで、配置が省略される部分を対象とする処理が、適宜省略される。
【0060】
本実施形態に係る接合基板1の製造においては、
図4に示される工程S101からS104までが順次に実行される。
【0061】
工程S101においては、
図5に示すように、セラミックス基板11の主面101U及び101L上にそれぞれ、ろう材層13UA及び13LAが形成される。
【0062】
ろう材層13UA及び13LAが形成される際には、ろう材及び溶剤を含むペーストが調製される。ペーストがバインダ、分散剤、消泡剤等をさらに含んでもよい。続いて、調製されたペーストがセラミックス基板11の主面101U及び101L上にスクリーン印刷され、セラミックス基板11の主面101U及び101L上にそれぞれ第1及び第2のスクリーン印刷膜が形成される。続いて、形成された第1及び第2のスクリーン印刷膜に含まれる溶剤等の有機成分が揮発させられる。これにより、第1及び第2のスクリーン印刷膜がそれぞれ、ろう材層13UA及び13LAに変化する。ろう材層13UA及び13LAがこの方法とは異なる方法により形成されてもよい。
【0063】
ろう材は、金属粉末及び活性金属の水素化物の粉末を含む。金属粉末は、銀を含む。金属粉末が銀以外の金属を含んでもよい。例えば、金属粉末が、銅(Cu)、インジウム(In)、スズ(Sn)等を含んでもよい。
【0064】
ろう材は、望ましくは0.1μm以上10μm以下の平均粒子径を有する粉末からなる。このような平均粒子径を有する粉末をろう材に用いることにより、ろう材層13UA及び13LAを薄く形成することができる。なお、平均粒子径は、粒度分布からD50(メジアン径)を算出することにより得ることができる。また、本実施の形態においては、種々の粉末の粒度分布の測定は、市販のレーザー回折式の粒度分布測定装置により行うものとする。
【0065】
ろう材層13UA及び13LAは、望ましくは、0.1μm以上10μm以下の厚みに形成され、さらに望ましくは、0.1μm以上5μm以下の厚みに形成される。
【0066】
特に、ろう材に含まれる銀粉末としては、粒度分布におけるD50が0.5μm~1.5μmの範囲にあり、D95が2.0μm~3.5μmの範囲にあるものを用いる。以降においては、これらをみたす銀粉末の粒度分布を、規定粒度分布と称する。
【0067】
ろう材は、望ましくは40重量%以上80重量%以下の銀を含む。
【0068】
工程S102においては、
図6に示すように、形成されたろう材層13UA及び13LA上にそれぞれ銅板12UA及び12LAが配置される。これにより、セラミックス基板11、ろう材層13UA、銅板12UA、ろう材層13LA及び銅板12LAを備える中間品1Aが得られる。
【0069】
工程S103においては、得られた中間品1Aが加圧加熱処理される。これにより、ろう材層13UA及び13LAがそれぞれ、
図7に示す接合層13UB及び13LBに変化し、セラミックス基板11、接合層13UB、銅板12UA、接合層13LB及び銅板12LAを備える中間品1Bが得られる。接合層13UB及び13LBはそれぞれ、銅板12UA及び12LAをセラミックス基板11に接合する。
【0070】
より詳細には、中間品1Aが加圧加熱処理される間には、第2の界面112(
図2)側において、銅板12(12UA及び12LA)に含まれる銅がそれぞれ、ろう材層13UA及び13LAに供給され、ろう材層13UA及び13LAに拡散する。また、ろう材層13UA及び13LAに含まれる銀が、第2の界面112の近傍から順次に、銅板12に拡散する。これにより、ろう材層13UA及び13LAにおいては、第2の界面112に向かうほど銀の原子分率が相対的に低くなり、活性金属の原子分率が相対的に高くなる濃度勾配が形成される。そして、前者の濃度勾配の形成により銀の拡散はさらに進行する。最終的には、ろう材層13UA及び13LAに存在していた銀の大部分が、銅板12へと拡散する。ろう材層13UA及び13LAから変化した接合層13(13UB及び13LB)においては、銀はほぼ、第1の界面111(
図2)の近傍と、異相152にのみ残存する。
【0071】
一方、セラミックス基板11に近い第1の界面111の側においては主に、セラミックス基板11に含まれる窒素及びケイ素が、ろう材層13UA及び13LAに供給され、ろう材層13UA及び13LA内に拡散する。
【0072】
ただし、窒素は、ろう材層13UA及び13LAに含まれる活性金属と反応し、活性金属の窒化物を形成する。係る活性金属の窒化物は、セラミックス基板11の側から(第1の界面111側から)厚み方向に順次に成長していく。その際、第1の界面111の近傍においては、係る活性金属の窒化物内において、銅板12に拡散することなく残存した銀を多く含む複数のナノ粒子141が形成される。これにより、ナノ粒子層131が形成される。
【0073】
これに対し、窒素よりも拡散速度が大きいケイ素は、窒素よりも顕著に第2の界面112側に向けて拡散する。さらには、係る第2の界面112側において原子分率が相対的に増大している活性金属と反応して、活性金属のケイ素化物を生成する。
【0074】
最終的に加圧加熱処理が終了し、ろう材層13UA及び13LAがそれぞれ、
図7に示す接合層13UB及び13LBに変化した時点で、接合層13UB及び13LBのそれぞれにおいては、上述した種々の元素の原子分率分布が実現されてなる。
【0075】
ただし、係る原子分率分布は、ろう材に含まれる銀粉末が上述の規定粒度分布を充足する場合に好適に実現される。
【0076】
例えば、銀粉末の粒度分布が、規定粒度分布よりも大径側にずれている場合、換言すれば、D50とD95の少なくとも一方が、規定粒度分布における許容範囲よりも大きい場合、ろう材層13UA及び13LAにおいては、粒径の(つまりは体積の)大きな銀粒子の比率が相対的に大きくなる。そのため、加圧加熱処理に際して銀の銅板12への拡散が十分に進行せず、接合層13(13UB及び13LB)に多くの銀が残存してしまうことになる。しかもこの場合、接合層13に銀が残存しているために、セラミックス基板11からの窒素およびケイ素の拡散、さらには、第2の界面112の近傍における活性金属とケイ素との反応や、第1の界面111の近傍における窒素と活性金属との反応も、不十分なものに留まる。さらには、複数のナノ粒子141を含むナノ粒子層131も形成されない。結果として、接合強度の向上をもたらすような原子分率の分布も得られないため、好ましくない。
【0077】
一方、銀粉末の粒度分布が、規定粒度分布よりも小径側にずれている場合、換言すれば、D50とD95の少なくとも一方が、規定粒度分布における許容範囲よりも小さい場合、銀の銅板12への拡散が急激に進行するために、上述のような濃度勾配が形成されることなく、ろう材層13UA及び13LAの大部分の銀が銅板12へと拡散し、第1の界面111の近傍にもほとんど残存しない。それゆえ、第1の界面111側においても活性金属の原子分率が相対的に高くなり、セラミックス基板11から供給されるケイ素は第2の界面112の近傍に向かうことなく活性金属と反応しやすくなる。また、ナノ粒子141が形成されることもない。この場合も、接合強度の向上をもたらすような原子分率の分布は得られないため、好ましくない。
【0078】
中間品1Aに対する加圧加熱処理は、望ましくは、ホットプレスにて行われる。中間品1Aに対しホットプレスが行われる場合、望ましくは、中間品1Aは、真空中又は不活性ガス中で最高温度が800℃以上900℃以下となる温度プロファイルにしたがって加熱され、最高面圧が5MPa以上25MPa以下となる面圧プロファイルにしたがってセラミックス基板11の厚さ方向に加圧される。これにより、ろう材層13UA及び13LAの厚みが0.1μm以上10μm以下と薄い場合においても、第1の界面111および第2の界面112にボイドを生じさせることなく銅板12UA及び12LAをセラミックス基板11に接合することができる。
【0079】
工程S104においては、接合層13UB、銅板12UA、接合層13LB及び銅板12LAがパターニングされる。これにより、接合層13UB及び13LBがそれぞれ、
図1に示すパターニングされた接合層13U及び13Lに変化する。また、銅板12UA及び12LAがそれぞれ、
図1に示すパターニングされた銅板12U及び12Lに変化する。
【0080】
図8は、本実施形態に係る接合基板1の製造における接合層及び銅板のパターニングの流れを示すフローチャートである。
図9及び
図10は、接合層13及び銅板12のパターニングの途上で得られる中間品を模式的に示す断面図である。
【0081】
接合層13UB、銅板12UA、接合層13LB及び銅板12LAのパターニングにおいては、
図8に示す工程S111からS113までが順次に実行される。
【0082】
工程S111においては、銅板12UA及び12LAがハードエッチングされる。これにより、銅板12UA及び12LAの一部が除去され
ることで、銅板12UA及び12LAがそれぞれ、
図9に示す銅板12UC及び12LC
(エッチング済み銅板12UC及び12LC)に変化する。
これに伴い、接合層13UB
が、セラミックス基板11とエッチング
済み銅板12UCとの間にある第1の部分161Uと、セラミックス基板11とエッチング
済み銅板12UCとの間
以外にある第2の部分162Uと
を、有するようになる。同様に、接合層13LB
が、セラミックス基板11とエッチング
済み銅板12LCとの間にある第1の部分161Lと、セラミックス基板11とエッチング
済み銅板12LCとの間
以外にある第2の部分162Lと
を、有するようになる。銅板12UA及び12LAのハードエッチングには、塩化鉄水溶液系、塩化銅水溶液系等のエッチング液を用いることができる。
【0083】
工程S112においては、
接合層13UBおよび13LBの第2の部分162U及び162Lがエッチングされる。これにより、第2の部分162U及び162Lは除去され、
図10に示すように、第1の部分161U及び161Lが残る。残った第1の部分161U及び161Lがそれぞれ、
図1に示す接合基板1における接合層13U及び13L
に該当する。これにより、セラミックス基板11、接合層13U、銅板12UC、接合層13L及び銅板12LCを備える中間品1Cが得られる。第2の部分162U及び162Lのエッチングには、フッ化アンモニウム水溶液系等のエッチング液を用いることができる。
【0084】
工程S113においては、
エッチング済み銅板12UC及び12LCが
さらにソフトエッチングされる。これにより、
エッチング済み銅板12UC及び12LCの端部が除去され
ることで、
図1に示すパターニングされた銅板12U及び12Lが得られる。また、接合層13Uには、
図1に示すように、セラミックス基板11と銅板12Uとの間にある板間部171Uと、セラミックス基板11と銅板12Uとの間からはみ出すはみ出し部172Uとが、形成される。同様に、接合層13Lにも、セラミックス基板11と銅板12Lとの間にある板間部171Lと、セラミックス基板11と銅板12Lとの間からはみ出すはみ出し部172Lとが、形成される。
エッチング済み銅板12UC及び12LCのソフトエッチングには、塩化鉄水溶液系、塩化銅水溶液系等のエッチング液を用いることができる。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
本実施例では、上述した製造方法にしたがって接合基板1を製造した。活性金属としては、チタンを選択した。セラミックス基板11としては、厚みが0.32mmのものを用意し、銅板12としては厚みが0.8mmのものを用意した。ろう材としては、チタンを40wt%、銀を60wt%含有するものを用いた。銀粉末には、D50が1.0μmであり、D95が2.5μmのものを用いた。ろう材層は4μmの厚みに形成した。接合層13を形成するための加圧加熱処理として、真空中で、最高温度が830℃となる温度プロファイルと最高面圧が15MPaとなる面圧プロファイルにより、ホットプレスを行った。
【0086】
製造された接合基板1に対して収束イオンビーム(FIB)加工等を行って分析用の試料を作製し、当該試料を対象に、接合基板1の断面の観察および分析を行った。
【0087】
作製した分析用の試料を走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて観察した。
図11は、係る観察に用いたSTEM像を示す図であり、
図12はその部分拡大像を示す図である。
図11(a)および
図12(a)は明視野(BF)-STEM像であり、
図11(b)および
図12(b)はそれぞれ、対応するBF-STEM像と同一視野の高角散乱環状暗視野(HAADF)-STEM像である。なお、
図12(a)および
図12(b)は、
図11(a)に示す部分Aにおける、第1の界面111の近傍の像である。
【0088】
より詳細には、
図11および
図12は、銅板12と接合層13との接合のない、接合層13のはみ出し部172Uとセラミックス基板11との接合部分の像であり、
図11(a)及び
図11(b)に示されるBF-STEM像及びHAADF-STEM像中の層99は、FIB加工用の保護膜の層である。
【0089】
図11(a)及び
図11(b)のBF-STEM像及びHAADF-STEM像からは、接合層13を構成する第1の界面層121、中間層122及び第2の界面層123が多結晶体からなることがわかる。
【0090】
なお、確認的にいえば、
図11および以降の図におけるSTEM像の視野範囲には銅板12は含まれておらず、それゆえ銅板12と接合層13(13U)の板間部171Uとの界面である第2の界面112も含まれてはいないが、板間部171Uから連続するはみ出し部172Uの性状は、板間部171Uと実質的に同じとみなせるので、
図11等のSTEM像の視野範囲に含まれる接合層13には、第1の界面層121、中間層122及び第2の界面層123が存在するとみなして差し支えない。
【0091】
図12(a)及び
図12(b)に示すそれぞれの拡大像からは、コントラストの相違から第1の界面111が明瞭に把握される。しかも、後者においては、接合層13のうち、第1の界面111からおおよそ100nm以内の範囲に、周囲よりも顕著に明るい直径がナノサイズの粒子(ナノ粒子)が点在していることも確認される。換言すれば、複数のナノ粒子141を含むナノ粒子層131が、接合層13において第1の界面111に沿って存在することが、確認される。
【0092】
また、
図11に示したSTEM像における視野範囲を対象に
、エネルギー分散型X線分析(EDX)を行い、
炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、銅(Cu)、及び銀(Ag)の特性X線の強度のマッピング像を得た。
図13は、それぞれの元素についてのマッピング結果を示す図である。
図14は、
図13に示したそれぞれのマッピング像のうち、
図12に示したSTEM像の部分拡大像と同一視野範囲についての、部分拡大像である。具体的には、
図13(a)、
図13(b)、
図13(c)、
図13(d)、
図13(e)、
図13(f)、及び
図13(g)がこの順に、炭素、窒素、酸素、ケイ素、チタン、銅及び銀のマッピング像を示している。
図14(a)、
図14(b)、
図14(c)、
図14(d)、
図14(e)、
図14(f)、及び
図14(g)この順に、それぞれの部分拡大像を示している。
【0093】
図11(a)及び
図11(b)に示すBF-STEM像及びHAADF-STEM像と
図13(b)に示される窒素の特性X線の強度のマッピング像とを総合すると、接合層13中に窒素が存在することが確認される。
【0094】
図11(a)及び
図11(b)に示すBF-STEM像及びHAADF-STEM像と
図13(e)に示されるチタンの特性X線の強度のマッピング像とを総合すると、接合層13中にチタンが存在することが確認される。
【0095】
図11(a)及び
図11(b)に示すBF-STEM像及びHAADF-STEM像と
図13(d)に示されるケイ素の特性X線の強度のマッピング像とを総合すると、接合層13中にケイ素が存在することが確認される。
【0096】
図11(a)及び
図11(b)に示すBF-STEM像及びHAADF-STEM像と
図13(f)に示す銅の特性X線の強度のマッピング像とを総合すると、接合層13に銅が存在することが確認される。
【0097】
また、
図12(b)に示すHAADF-STEM像の拡大像と、
図13(g)および
図14(g)に示す銀の特性X線の強度のマッピング像と、
図13(f)及び
図14(f)に示す銅の特性X線の強度のマッピング像と、原子番号の大きい重元素ほど明るく視認されるHAADF-STEM像の特性とを総合すると、ナノ粒子層131は銀および銅を第1の界面層121の他の部分よりも多く含むものと判断され、ナノ粒子141は、周囲のナノ粒子層131よりも銀を周囲よりも多く含むものと判断される。
【0098】
また、
図12(a)及び
図12(b)に示すBF-STEM像及びHAADF-STEM像の拡大像と、
図14(c)に示す酸素の特性X線の強度のマッピング像とを総合すると、セラミックス基板11中に、酸素を含む層132が第1の界面111に沿って存在すると判断される。
【0099】
なお、
図13(c)に示す酸素の特性X線の強度のマッピング像からは、接合層13と保護膜99との界面に多量の酸素が偏在していることが確認されるが、これは、試料作製時に接合層13のはみ出し部172Uが大気中に露出していたことに起因している。
【0100】
さらに、
図11に示したSTEM像の視野範囲に含まれる接合層13の範囲から、相異なる4つの位置を抽出し、EDXによる測定結果に基づく定量分析を行った。
図15は、4つの抽出位置P1、P2、P3、及びP4を示す、
図11に示したSTEM像の視野範囲の一部範囲についてのHAADF-STEM像である。抽出位置P1、P2、P3、及びP4はそれぞれ、第2の界面層123、中間層122、第1の界面層121及びナノ粒子層131から選定されている。抽出位置P1、P2、P3、及びP4における窒素、酸素、ケイ素、チタン、銅及び銀の濃度(原子分率)を、表1に示す。
【0101】
【0102】
表1からは、接合層13中の窒素の原子分率が、第1の界面111に向かうほど大きく、第2の界面112に向かうほど小さい傾向にあることが、確認される。また、接合層13中のケイ素およびチタンの原子分率が、第1の界面111に向かうほど小さく、第2の界面112に向かいほど大きい傾向にあることも、確認される。加えて、銀は接合層13の大部分において微量にのみ存在するものの、複数のナノ粒子141を含むナノ粒子層131には接合層13の他の部分よりも偏在していること、および、銅は銀と同様にナノ粒子層131に偏在しているものの、中間層122において原子分率が最大であることも、確認される。
【0103】
なお、確認的にいえば、
図13(
e)に示すチタンのマッピング像においては、第1の界面111に向かうほど密であり、第2の界面112に向かうほど疎であるように視認され、それゆえ、前者の方がチタンの原子分率が高いようにも思料される。しかしながら、これはあくまで、第1の界面111側の方が第2の界面112側よりも原子密度が高いことによるものである。実際の原子分率はあくまで、表1に示した数値からも把握されるように、第1の界面111に向かうほど小さく、第2の界面112に向か
うほど大きい傾向にある。
【0104】
また、
図15の抽出位置P1と抽出位置P3とを対比すると、前者の方がやや暗く視認されるが、一方で、表1によれば、抽出位置P1の方が抽出位置P3よりも重い元素の原子分率が大きい傾向にある。これも、第1の界面111側の抽出位置P3の方が原子密度が高いことに起因している。
【0105】
図15に示すHAADF-STEM像においては、粒界三重点191が確認される。
図16は、係る粒界三重点191近傍の拡大HAADF-STEM像である。また、
図17は、粒界三重点191およびその近傍におけるEDXスペクトルを示す図である。
図17(a)は、
図16に示す粒界三重点191内の測定位置PAにおけるEDXスペクトルを示しており、
図17(b)は、
図16に示す粒界三重点191外の測定位置PBにおけるEDXスペクトルを示している。
【0106】
図16に示される像における粒界三重点191と周囲との明度の差からは、粒界三重点191には異相152が存在するものと判断される。そして、17(b)のEDXスペクトルにおいては検出されていない銀のピークが
図17(a)のEDXスペクトルにおいて検出されていることからは、係る異相152が銀を含むものと判断される。
【0107】
また、
図11に示したSTEM像の視野範囲に含まれる接合層13の範囲から、相異なる5つの位置を抽出し、制限視野電子回折パターンを測定した。
図18は、5つの抽出位置P11、P12、P13、P14、及びP15を示す、
図11(a)とほぼ同じ視野範囲のBF-STEM像である。抽出位置P11は第2の界面層123から選定されている。抽出位置P12およびP14は中間層122から選定されている。抽出位置P13はナノ粒子層131以外の第1の界面層121から選定されている。抽出位置P15はナノ粒子層131から選定されている。
【0108】
測定の結果からは、抽出位置P11にはTi5Si3が存在し、抽出位置P13及びP15にはTiNが存在し、抽出位置P12及びP14にはTiSi0.51N0.42が存在することが、確認された。
【0109】
また、
図15に示したHAADF-STEM像の視野範囲の一部を対象に、電子エネルギー損失分光法(EELS)により、窒素、酸素及びチタンの濃度の分布を測定した。
図19は、測定対象領域と、当該領域における各元素の分布を示すEELS強度マップとを示す図である。具体的には、
図19(a)は、
図15と同一のHAADF-STEM像における矩形の測定対象領域Rを示す図であり、
図19(b)、
図19(c)、及び
図19(d)はそれぞれ、領域Rにおける窒素、酸素及びチタンの濃度の分布を示すEELS強度マップである。
図19(b)、
図19(c)、及び
図19(d)からは、セラミックス基板11の第1の界面111に沿って、酸素を含む層132が存在することが確認される。
【0110】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同じ条件にて製造した接合基板1を対象に、銅板12のピール試験を行い、銅板12の密着性を評価した。比較例として、特許文献2に開示された手法にて作製された接合基板を用意し、同じ条件でピール試験を行った。なお、比較例に係る接合基板は、銅板と接合層との間に、Agリッチ相を離散的に備える一方、ボイドやAg-Cu層は有さないように形成した。
【0111】
ピール試験は、試験対象たる接合基板を水平に載置固定した状態で、銅板の端部を2mmの幅で保持し、当該保持部分に対し鉛直上方に向かう引張力を印加することにより行った。銅板が剥がれるまで引張力を徐々に増大させるようにし、最終的に銅板が剥がれたときの単位幅あたりの引張力の大きさを、当該接合基板における銅板とセラミックス基板との接合強度とした。
【0112】
その結果、実施例に係る接合基板1における接合強度は、40kN/mであった。一方、比較例に係る接合基板における接合強度は、20kN/mに留まった。
【0113】
係る結果は、上述の実施の形態に係る手法にて接合基板を作製することで、従来よりも接合強度が優れた接合基板が得られることを示している。