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特許7197707耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221220BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20221220BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C22C38/54
C21D8/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021535700
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 KR2019017987
(87)【国際公開番号】W WO2020130619
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165447
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ,スン‐ホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヨン‐ジン
(72)【発明者】
【氏名】オン,キョン‐クン
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/007785(WO,A1)
【文献】特開平10-237583(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185405(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/132968(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2001-0029380(KR,A)
【文献】特開2016-117925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/54
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.02~0.07%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.2~0.7%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~0.5%、モリブデン(Mo):0.3~1.0%、バナジウム(V):0.05%以下(0は除く)、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、カルシウム(Ca):2~100ppm、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
下記関係式1及び2を満たし、
微細組織が、面積%で、90%以上のマルテンサイトと10%以下のベイナイトを含み、
鋼材のブリネル硬度が260~340HBであることを特徴とする耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材。
[関係式1] 260≦1589×[C]+228≦340
[関係式2] [C]/[Mo]≦0.250
(但し、前記関係式1及び2の[C]及び[Mo]は重量%である。)
【請求項2】
前記鋼材の600℃での降伏強度が300MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材。
【請求項3】
請求項1に記載の耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材の製造方法であって、
重量%で、炭素(C):0.02~0.07%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.2~0.7%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~0.5%、モリブデン(Mo):0.3~1.0%、バナジウム(V):0.05%以下(0は除く)、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、カルシウム(Ca):2~100ppm、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たす鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る段階と、
前記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を常温まで空冷した後、880~930℃の温度範囲、在炉時間1.3t+10分(t:板厚(mm))以上で再加熱する段階と、
前記再加熱された熱延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で150℃以下まで冷却する段階と、を含むことを特徴とする耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材の製造方法。
[関係式1] 260≦1589×[C]+228≦340
[関係式2] [C]/[Mo]≦0.250
(但し、前記関係式1及び2の[C]及び[Mo]は重量%である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキ装置は、走行中の自動車を減速または停止させるために用いられる装置のことであり、回転中であるブレーキディスクが摩擦部材である加圧パッドと接触することで発生する摩擦力を用いて、車両の運動エネルギーを熱エネルギーとして放出させることにより、車両の制動が行われる。高速で回転するブレーキディスクの速度を減少または停止させるためには、加圧パッドと接触して発生する摩擦力に耐えるように、上記ブレーキディスクの素材が高い耐磨耗性を有することと、摩擦時に発生する数百度の高温でも強度を維持することが必須である。
【0003】
燃費低減が主なイシューである自動車分野では、近年、シャーシ(chassis)素材の強度をギガ級に高めることで、厚さを減らす軽量化の努力が持続的に行われている。一方、車両の下部に位置しているブレーキディスクには、ここ数十年間、特許文献1のような鋳物材が用いられており、その軽量化、及び他の金属材料で代替するための研究が自動車製造社を中心に活発に行われている。ブレーキディスク素材として用いられている鋳鉄材の代替材として、量産に近接しているものとしては、アルミニウム合金にSiCを20%分散させたデュラルカン(Duralcan)複合材料があるが、熱間圧延鋼材を活用した車両用ブレーキディスクの開発は殆どない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国登録特許第10-0391944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材は、重量%で、炭素(C):0.02~0.07%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.2~0.7%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~0.5%、モリブデン(Mo):0.3~1.0%、バナジウム(V):0.05%以下(0は除く)、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、カルシウム(Ca):2~100ppm、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たし、微細組織が、面積%で、90%以上のマルテンサイトと10%以下のベイナイトを含むことを特徴とする。
[関係式1] 260≦1589×[C]+228≦340
[関係式2] [C]/[Mo]≦0.250
(上記関係式1及び2で[C]及び[Mo]は重量%である。)
【0007】
本発明の耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.02~0.07%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.2~0.7%、リン(P):0.05%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、硫黄(S):0.02%以下(0は除く)、アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)、クロム(Cr):0.1~0.5%、モリブデン(Mo):0.3~1.0%、バナジウム(V):0.05%以下(0は除く)、ボロン(B):50ppm以下(0は除く)、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、銅(Cu):0.5%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)、ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)、カルシウム(Ca):2~100ppm、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1及び2を満たす鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る段階と、上記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を常温まで空冷した後、880~930℃の温度範囲、在炉時間1.3t+10分(t:板厚(mm))以上で再加熱する段階と、上記再加熱された熱延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で150℃以下まで冷却する段階と、を含むことを特徴とする。
[関係式1] 260≦1589×[C]+228≦340
[関係式2] [C]/[Mo]≦0.250
(上記関係式1及び2で[C]及び[Mo]は重量%である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、本発明のブレーキディスク用鋼材は、従来の鋳物材に比べて重量が10%以上軽くなり、耐磨耗性は20%以上向上するとともに、優れた耐熱性を有する車両のブレーキディスク用鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材の一実施形態について説明する。先ず、本発明の合金組成について説明する。下記で説明される合金組成の含量は重量%である。
【0010】
炭素(C):0.02~0.07%
炭素(C)は、マルテンサイト組織を有する鋼で強度と硬度を増加させるのに効果的であり、硬化能を向上させるために有効な元素である。上記の効果を十分に確保するためには0.02%以上添加することが好ましい。一方。その含量が0.07%を超えた場合には、下記の関係式1を満たしにくいだけでなく、溶接性を阻害するという問題がある。したがって、本発明では、上記Cの含量を0.02~0.07%に制御する。上記Cの含量の下限は、0.023%であることがより好ましく、0.025%であることがさらに好ましく、0.030%であることが最も好ましい。上記Cの含量の上限は、0.067%であることがより好ましく、0.065%であることがさらに好ましく、0.060%であることが最も好ましい。
【0011】
シリコン(Si):0.1~0.5%
シリコン(Si)は、脱酸と固溶強化による強度向上に有効な元素である。上記の効果を有効に得るためには、0.1%以上添加することが好ましい。しかし、その含量が0.5%を超えた場合には、熱間圧延時にスケールが過多に生成されるだけでなく、最終製品の溶接性が劣化するため好ましくない。したがって、本発明では、上記Siの含量を0.1~0.5%に制御する。上記Siの含量の下限は、0.012%であることがより好ましく、0.015%であることがさらに好ましく、0.20%であることが最も好ましい。上記Siの含量の上限は、0.48%であることがより好ましく、0.45%であることがさらに好ましく、0.40%であることが最も好ましい。
【0012】
マンガン(Mn):0.2~0.7%
マンガン(Mn)は、フェライトの生成を抑制し、Ar温度を下げることで、焼入れ性を効果的に上昇させ、鋼の強度及び靭性を向上させる元素である。上記の効果を有効に得るためには、0.2%以上添加することが好ましい。しかし、上記Mnの含量が0.7%を超えた場合には、溶接性を低下させるという問題がある。したがって、本発明では、上記Mnの含量を0.7%以下に制御する。上記Mnの含量の下限は、0.23%であることがより好ましく、0.25%であることがさらに好ましく、0.30%であることが最も好ましい。上記Mnの含量の上限は、0.68%であることがより好ましく、0.63%であることがさらに好ましく、0.60%であることが最も好ましい。
【0013】
リン(P):0.05%以下(0は除く)
リン(P)は、鋼中に不可避に含有される元素であり、かつ鋼の靭性を阻害する元素である。したがって、上記Pの含量をできる限り低くし、0.05%以下に制御することが好ましい。但し、不可避に含有される水準を考慮して、0%は除く。
【0014】
硫黄(S):0.02%以下(0は除く)
硫黄(S)は、鋼中にMnS介在物を形成し、鋼の靭性を阻害する元素である。したがって、上記Sの含量をできる限り低くし、0.02%以下に制御することが好ましい。但し、不可避に含有される水準を考慮して、0%は除く。
【0015】
アルミニウム(Al):0.07%以下(0は除く)
アルミニウム(Al)は、鋼の脱酸剤として溶鋼中の酸素含量を減少させるのに効果的な元素である。しかし、上記Alの含量が0.07%を超えた場合には、鋼の清浄性が阻害されるという問題がある。したがって、本発明では、上記Alの含量を0.07%以下に制御する。但し、製鋼工程時の負荷、製造コストの上昇などを考慮して、0%は除く。上記Alの含量は、0.07%以下(0は除く)であることが好ましい。上記Alの含量は、0.06%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましく、0.04%以下であることが最も好ましい。
【0016】
クロム(Cr):0.1~0.5%
クロム(Cr)は、焼入れ性を増加させて鋼の強度を増加させ、硬度の確保にも有利な元素である。上記の効果のためには、Crを0.1%以上添加することが好ましいが、その含量が0.5%を超えた場合には、溶接性が劣化して製造原価を上昇させる原因になる。したがって、本発明では、上記Crの含量を0.1~0.5%に制御する。上記Crの含量の下限は、0.12%であることがより好ましく、0.15%であることがさらに好ましく、0.20%であることが最も好ましい。上記Crの含量の上限は、0.47%であることがより好ましく、0.45%であることがさらに好ましく、0.40%であることが最も好ましい。
【0017】
モリブデン(Mo):0.3~1.0%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を増加させ、高温で微細な炭化物(MoC)を形成させることで、高温強度を確保するのに非常に有用な元素である。上記の効果を十分に得るためには、Moを0.3%以上添加することが好ましい。しかし、上記Moはやや高価な元素であり、その含量が1.0%を超える場合には、製造原価が上昇するだけでなく、溶接性が劣化するという問題がある。したがって、本発明では、上記Moの含量を0.3~1.0%に制御する。上記Moの含量の下限は、0.35%であることがより好ましく、0.4%であることがさらに好ましい。上記Moの含量の上限は、0.9%であることがより好ましく、0.8%であることがさらに好ましい。
【0018】
バナジウム(V):0.05%以下(0は除く)
バナジウム(V)は、熱間圧延後における再加熱時にVC炭化物を形成することで、オーステナイト結晶粒の成長を抑え、鋼の焼入れ性を向上させるため、強度及び靭性を確保するのに有利な元素である。しかし、上記Vは高価な元素であり、その含量が0.05%を超える場合には、製造原価を上昇させる要因になる。したがって、本発明では、上記Vの添加時に、その含量を0.05%以下に制御する。上記Vの含量は、0.05%以下(0は除く)であることが好ましい。上記Vの含量は、0.045%以下であることがより好ましく、0.040%以下であることがさらに好ましく、0.035%以下であることが最も好ましい。
【0019】
ボロン(B):50ppm以下(0は除く)
ボロン(B)は、少量添加しても鋼の焼入れ性を有効に上昇させ、強度の向上に有効な元素である。但し、その含量が高すぎると、鋼の靭性及び溶接性を阻害するという問題があるため、その含量を50ppm以下に制御する。したがって、上記Bの含量は、50ppm以下(0は除く)であることが好ましい。上記Bの含量は、40ppm以下であることがより好ましく、35ppm以下であることがさらに好ましく、30ppm以下であることが最も好ましい。
【0020】
ニッケル(Ni):0.01~0.5%
ニッケル(Ni)は、一般に、鋼の強度とともに靭性を向上させるのに有効な元素である。上記の効果を確保するためには、Niを0.01%以上添加することが好ましいが、Niは高価な元素であり、その含量が0.5%を超える場合には、製造原価を上昇させる原因になる。したがって、本発明では、上記Niの含量を0.01~0.5%に制御する。上記Niの含量の下限は、0.05%であることがより好ましく、0.07%であることがさらに好ましく、0.1%であることが最も好ましい。上記Niの含量の上限は、0.47%であることがより好ましく、0.45%であることがさらに好ましく、0.4%であることが最も好ましい。
【0021】
銅(Cu):0.5%以下(0は除く)
銅(Cu)は、固溶強化により鋼の強度及び硬度を向上させる元素である。また、Niとともに靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、Cuの含量が0.5%を超えた場合には、熱間圧延前に高温加熱する時にスラブの表面欠陥を発生させ、熱間加工性を阻害するという問題があるため、上記Cuは、0.5%以下添加することが好ましい。したがって、上記Cuの含量は、0.5%以下(0は除く)であることが好ましい。上記Cuの含量は、0.4%以下であることがより好ましく、0.35%以下であることがさらに好ましく、0.3%以下であることが最も好ましい。
【0022】
チタン(Ti):0.02%以下(0は除く)
チタン(Ti)は、鋼の焼入れ性の向上に有効な元素であるBの効果を極大化する元素である。具体的に、上記Tiは、窒素(N)と反応してTiN析出物を形成させ、BNの形成を抑えることで、固溶Bを増加させて焼入れ性の向上を極大化することができる。しかし、上記Tiの含量が0.02%を超えた場合には、粗大なTiN析出物が形成され、鋼の靭性が劣化するという問題がある。したがって、本発明では、上記Tiの含量を0.02%以下に制御する。上記Tiの含量は、0.019%以下であることがより好ましく、0.018%以下であることがさらに好ましく、0.017%以下であることが最も好ましい。
【0023】
ニオブ(Nb):0.05%以下(0は除く)
ニオブ(Nb)は、オーステナイトに固溶されてオーステナイトの硬化能を増大させ、Nb(C,N)などの炭窒化物を形成することにより、鋼の強度を増加させ、かつオーステナイト結晶粒の成長を抑えるのに有効である。しかし、上記Nbの含量が0.05%を超えた場合には、粗大な析出物が形成され、これは、脆性破壊の起点になって靭性を阻害するという問題がある。したがって、本発明では、上記Nbの含量を0.05%以下に制御する。上記Nbの含量は、0.045%以下であることがより好ましく、0.04%以下であることがさらに好ましく、0.03%以下であることが最も好ましい。
【0024】
カルシウム(Ca):2~100ppm
カルシウム(Ca)はSとの結合力に優れるため、CaSを生成することにより、鋼材の厚さ中心部に偏析されるMnSの生成を抑える効果がある。また、上記Caの添加により生成されたCaSは、多湿な外部環境下で腐食抵抗を増加させる効果がある。上記の効果を得るためには、上記Caを2ppm以上添加することが好ましいが、その含量が100ppmを超えた場合には、製鋼操業時にノズル詰まりなどを誘発するという問題がある。したがって、本発明では、上記Caの含量を2~100ppmに制御する。上記Caの含量の下限は、2.5ppmであることがより好ましく、3ppmであることがさらに好ましく、3.5ppmであることが最も好ましい。上記Caの含量の上限は、80ppmであることがより好ましく、60ppmであることがさらに好ましく、40ppmであることが最も好ましい。
【0025】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周辺環境から意図しない不純物が不可避に混入され得るため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも周知のものであるため、その全ての内容を特に本明細書で言及しない。
【0026】
尚、本発明の鋼材は、下記関係式1を満たすことが好ましい。下記関係式1は、従来の鋳鉄材に比べて表面硬度を増加させることでブレーキディスクの厚さを減少させ、結果として、軽量化の効果を確保するために有効である。下記関係式1の値が260未満である場合には、従来の鋳鉄材に比べて硬度の増加程度が微小であり、厚さ減少(軽量化)の効果が小さいという欠点があり、340を超える場合には、高すぎる硬度により、制動時におけるブレーキパッドとの摩擦力が過度に大きくなり、パッドの使用寿命が短くなるという欠点がある。したがって、下記関係式1の値は260~340の範囲を有することが好ましい。下記関係式1の値の下限は、265であることがより好ましく、270であることがさらに好ましく、275であることが最も好ましい。下記関係式1の値の上限は、335であることがより好ましく、330であることがさらに好ましく、325であることが最も好ましい。
[関係式1] 260≦1589×[C]+228≦340
(但し、上記関係式1の[C]は重量%である。)
【0027】
また、本発明の鋼材は下記関係式2を満たすことが好ましい。下記関係式2は、優れた硬度と高温強度を同時に確保するために有効である。下記関係式2の値が0.250を超える場合には、本発明の目標水準である260~340HBの表面硬度を確保したとしても、車両のブレーキシステムが作動する高温環境下で素材の強度が著しく低下し、結果として、十分な制動性能を保証できなくなる。したがって、下記関係式2の値は0.250以下であることが好ましい。下記関係式2の値は、0.230以下であることがより好ましく、0.200以下であることがさらに好ましく、0.150以下であることが最も好ましい。
[関係式2] [C]/[Mo]≦0.250
(但し、上記関係式2の[C]及び[Mo]は重量%である。)
【0028】
さらに、本発明の鋼材は、マルテンサイトを主組織として含む微細組織を有することが好ましい。これにより、本発明の鋼材は、優れた硬度を確保することができる。上記マルテンサイト組織の分率は、理論的には100%であることが最も好ましいが、製造操業時に不可避にベイナイト組織が形成され得る。本発明では、上記ベイナイト組織の分率の上限を10%に制御する。すなわち、本発明の微細組織は、面積%で、90%以上のマルテンサイトと10%以下のベイナイトを含む微細組織を有することが好ましい。上記マルテンサイトの分率が90面積%未満である場合には、目標水準の硬度を確保しにくくなる虞がある。上記マルテンサイトの分率は、92面積%以上であることがより好ましく、95面積%以上であることがさらに好ましい。上記ベイナイトの分率は、8面積%以下であることがより好ましく、5面積%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
前記のように提供される本発明の鋼材は、ブリネル硬度が260~340HBであることがよい。上記ブリネル硬度が260未満である場合には、従来の鋳鉄材に比べて硬度の増加程度が微小であって、厚さ減少(軽量化)の効果が小さいという欠点があり、340を超える場合には、高すぎる硬度により、制動時におけるブレーキパッドとの摩擦力が過度に大きくなり、パッドの使用寿命が短くなるという欠点がある。したがって、上記ブリネル硬度は260~340HBの範囲であることが好ましい。上記ブリネル硬度の下限は、265HBであることがより好ましく、270HBであることがさらに好ましく、275HBであることが最も好ましい。上記ブリネル硬度の上限は、335HBであることがより好ましく、330HBであることがさらに好ましく、325HBであることが最も好ましい。
【0030】
また、本発明の鋼材は、600℃での降伏強度が300MPa以上であることがよい。このように高温での優れた強度を確保することで、ブレーキディスクに適用した場合に、軽量化に寄与し、製品寿命を増加させることができる。
上記のとおり優れた硬度及び高温降伏強度を有する本発明の鋼材は、従来の鋳物材に比べて重量が10%以上軽くなり、耐磨耗性は20%以上向上するとともに、優れた耐熱性を有する効果を発揮する。
さらに、本発明の鋼材は20mm以下の厚さを有することができる。これにより、従来の鋳鉄材に比べて優れた軽量化効果を発揮することができる。
【0031】
以下、本発明の耐磨耗性及び高温強度に優れた車両のブレーキディスク用鋼材の製造方法について説明する。
先ず、前記の合金組成と関係式1及び2を満たす鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する。上記スラブの加熱温度が1050℃未満である場合には、Nbなどの再固溶が不十分になるのに対し、1250℃を超える場合には、オーステナイト結晶粒が粗大化して不均一な組織が形成される虞がある。したがって、本発明では、上記鋼スラブの加熱温度が1050~1250℃の範囲であることが好ましい。上記鋼スラブの加熱温度の下限は、1065℃であることがより好ましく、1080℃であることがさらに好ましく、1100℃であることが最も好ましい。上記鋼スラブの加熱温度の上限は、1220℃であることがより好ましく、1200℃であることがさらに好ましく、1180℃であることが最も好ましい。
【0032】
記加熱された鋼スラブを950~1050℃の温度範囲で粗圧延して粗圧延バーを得る。上記粗圧延時に、その温度が950℃未満である場合には、圧延荷重が増加して相対的に弱圧下されるため、スラブの厚さ方向の中心まで変形が十分に伝達されず、空隙などの欠陥が除去されない虞がある。これに対し、その温度が1050℃を超える場合には、圧延と同時に再結晶が起こった後、粒子が成長するため、初期オーステナイト粒子が過度に粗大化する虞がある。したがって、本発明では、上記粗圧延の温度は950~1050℃であることが好ましい。上記粗圧延の温度の下限は、960℃であることがより好ましく、970℃であることがさらに好ましく、980℃であることが最も好ましい。上記粗圧延の温度の上限は、1045℃であることがより好ましく、1040℃であることがさらに好ましく、1035℃であることが最も好ましい。
o]は重量%である。)
【0033】
上記粗圧延バーを850~950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得る。上記仕上げ熱延圧延の温度が850℃未満である場合には、二相域圧延になって微細組織中にフェライトが生成される虞があり、これに対し、その温度が950℃を超える場合には、空冷中にも相対的に速い冷却速度によりベイナイトが過多に生成される虞がある。したがって、本発明では、上記仕上げ熱間圧延の温度は850~950℃であることが好ましい。上記仕上げ熱間圧延の温度の下限は、860℃であることがより好ましく、870℃であることがさらに好ましく、880℃であることが最も好ましい。上記仕上げ熱間圧延の温度の上限は、940℃であることがより好ましく、930℃であることがさらに好ましく、920℃であることが最も好ましい。
【0034】
その後、上記熱延鋼板を常温まで空冷した後、880~930℃の温度範囲、在炉時間1.3t+10分(t:板厚(mm))以上で再加熱する。上記再加熱は、フェライトとパーライトから構成された熱延鋼板をオーステナイト単相に逆変態させるためのものである。上記再加熱の温度が880℃未満である場合には、オーステナイト化が十分に行われず、粗大な軟質フェライトが混在するようになるため、最終製品の硬度が低下するという問題がある。これに対し、その温度が930℃を超える場合には、オーステナイト結晶粒が粗大化し、焼入れ性が大きくなる効果はあるが、大量生産時に熱効率の側面で不利である。したがって、上記再加熱の温度は880~930℃の範囲とすることが好ましい。上記再加熱の温度の下限は、885℃であることがより好ましく、890℃であることがさらに好ましく、895℃であることが最も好ましい。上記再加熱の温度の上限は、925℃であることがより好ましく、920℃であることがさらに好ましく、915℃であることが最も好ましい。
【0035】
一方、上記再加熱時における在炉時間が1.3t+10分(t:板厚(mm))未満である場合には、オーステナイト化が十分に行われず、後続の急速冷却による相変態、すなわち、マルテンサイト組織が十分に得られなくなる。したがって、上記再加熱時における在炉時間は1.3t+10分(t:板厚(mm))以上であることが好ましい。上記再加熱時における在炉時間は、1.3t+12分(t:板厚(mm))以上であることがより好ましく、1.3t+13分(t:板厚(mm))以上であることがさらに好ましく、1.3t+15分(t:板厚(mm))以上であることが最も好ましい。一方、本発明では、上記再加熱時における在炉時間の上限を特に限定しない。但し、上記再加熱時における在炉時間が1.3t+60分(t:板厚(mm))を超える場合には、オーステナイト結晶粒が粗大化し、焼入れ性が大きくなる効果はあるが、相対的に生産性が低下するという欠点も生ずる。したがって、上記再加熱時における在炉時間は1.3t+60分(t:板厚(mm))以下であることが好ましい。上記再加熱時における在炉時間は、1.3t+50分(t:板厚(mm))以下であることがより好ましく、1.3t+40分(t:板厚(mm))以下であることがさらに好ましく、1.3t+30分(t:板厚(mm))以下であることが最も好ましい。
【0036】
その後、上記再加熱された熱延鋼板を、板厚の中心部(例えば、1/2t地点(t:板厚(mm))を基準として、10℃/s以上の冷却速度で150℃以下まで冷却する。この際、上記冷却は、水冷を用いた急速冷却であることが好ましい。上記冷却速度が10℃/s未満であるか、冷却終了温度が150℃を超える場合には、冷却中にフェライト相が形成されるか、ベイナイト相が過多に形成される虞がある。したがって、上記冷却は10℃/s以上の冷却速度で150℃以下まで行うことが好ましい。上記冷却速度は、12℃/s以上であることがより好ましく、15℃/s以上であることがさらに好ましく、20℃/s以上であることが最も好ましい。上記冷却速度が速いほど、本発明で得ようとする微細組織の形成に有利であるため、本発明では、上記冷却速度の上限を特に限定せず、通常の技術者であれば、設備限界を考慮して適宜設定することができる。上記冷却終了温度は、125℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましく、50℃以下であることが最も好ましい。
【実施例
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決定される。
(実施例)
下記表1及び2の合金組成を有する鋼スラブを準備した後、上記鋼スラブに対して、下記表3の条件で鋼スラブの加熱-粗圧延-熱間圧延-冷却(常温)-再加熱-急冷を行って熱延鋼板を製造した。上記熱延鋼板に対して、微細組織及び機械的物性を測定し、下記表4に示した。一方、従来例は、溶湯を型(die)に注いだ後、約1℃/sの冷却速度で冷却させることで製造した。
【0038】
この際、上記微細組織は、任意のサイズに試験片を切断して鏡面を製作した後、ナイタールエッチング液を用いて腐食させてから、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を活用して厚さの中心である1/2t位置を観察した。
硬度及び高温強度はそれぞれ、ブリネル硬さ試験機(荷重3000kgf、10mmタングステン圧入口)及び高温引張試験機を用いて測定した。この際、硬度は、板の表面を2mmミリング加工した後、3回測定したものの平均値を用いた。また、高温引張試験値は、専用チャンバー(chamber)を用いて引張試験片を取り付けた後、600℃まで毎分10℃昇温させてから5分間維持した状態で2回測定したものの平均値を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
[表3]
【0042】
[表4]
【0043】
上記表1~4から分かるとおり、本発明が提案する合金組成と関係式1及び2、並びに製造条件を満たす発明例1~は、本発明の微細組織の分率を満たすことはいうまでもなく、優れた硬度と高温降伏強度を確保していることが分かる。
これに対し、本発明が提案する製造条件を殆ど満たすが、合金組成、関係式1または関係式2を満たさない比較例1~9は、本発明が目標とする硬度と高温降伏強度の水準を達成していないことが分かる。
【0044】
本発明が提案する合金組成と関係式1及び2は満たすが、製造条件のうち再加熱の温度を満たさない比較例10は、本発明が提案する微細組織の種類及び分率を確保できず、表面硬度も低い水準であることが分かる。
本発明が提案する合金組成と関係式1及び2は満たすが、製造条件のうち再加熱における在炉時間を満たさない比較例11は、本発明が提案する微細組織の種類及び分率を確保できず、表面硬度も低い水準であることが分かる。
【0045】
本発明が提案する合金組成と関係式1及び2は満たすが、製造条件のうち冷却速度を満たさない比較例12は、本発明が提案するマルテンサイト分率を確保できず、これにより、表面硬度が低い水準であることが分かる。
一方、従来の鋳鉄材である従来例は、パーライト組織を有し、表面硬度が204HBであり、600℃での降伏強度が160MPaであって、発明例に比べて低い水準であることが分かる。