(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】燃料電池用の電極の製造方法、および燃料電池用の電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20221220BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20221220BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221220BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021540091
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2019083761
(87)【国際公開番号】W WO2020151865
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】102019200964.6
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(73)【特許権者】
【識別番号】591037096
【氏名又は名称】フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】シュラット,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ラッセ
(72)【発明者】
【氏名】グラフ,ターニャ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュプナー,ゲロルト
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ヨナタン エドワルト
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-517824(JP,A)
【文献】特開平11-016584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-少なくとも1つの導電性粒子担体(14)に担持された複数の触媒粒子(13)を提供し、
-触媒粒子(13)および/または少なくとも1つの粒子担体(14)上にイオノマの1つまたは複数の原子層または分子層を気相から堆積させ、それによりプロトン伝導性イオノマコーティング(15)を形成させる、
ステップを備え
、
-プロトン伝導性イオノマコーティング(15)の堆積前に、触媒粒子(13)の表面に少なくとも1つの不動態化反応物(16)を用いて原子または分子を堆積させ、それにより触媒粒子(13)の表面に少なくとも1つの不動態化領域(17)を形成し、
-プロトン伝導性イオノマコーティング(15)を、触媒粒子(13)の表面の少なくとも1つの不動態化領域(17)から離して堆積させ、
-触媒粒子(13)から少なくとも1つの不動態化反応物(16)を除去し、それにより多孔性を有するプロトン伝導性イオノマコーティング(15)を形成する、
ステップをさらに備えた、燃料電池(1)用の電極(4,6)の製造方法。
【請求項2】
少なくとも1つの不動態化反応物(16)が、一酸化炭素、シアン化物イオン、チオシアン酸塩、イソチオシアネート、硫化物、硫化水素、アミン、およびアンモニアを含む群から選択されることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
触媒粒子(13)の表面の少なくとも1つの不動態化領域(17)が、触媒粒子(13)の縁部(18)または角部に位置することを特徴とする、請求項
1または
2に記載の製造方法。
【請求項4】
触媒粒子(13)の表面の少なくとも1つの不動態化領域(17)が、触媒粒子(13)の粒子ファセット(19)上に位置することを特徴とする、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
少なくとも1つの粒子担体(14)および/または触媒粒子(13)に熱エネルギーを供給することにより、少なくとも1つの不動態化反応物(16)を除去することを特徴とする、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
少なくとも1つの粒子担体(14)および/または触媒粒子(13)に減圧を印加することにより、少なくとも1つの不動態化反応物(16)を除去することを特徴とする、請求項
1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
少なくとも1つの粒子担体(14)および/または触媒粒子(13)にプラズマを発生させることにより、少なくとも1つの不動態化反応物(16)を除去することを特徴とする、請求項
1~
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
少なくとも1つの粒子担体(14)および/または触媒粒子(13)に少なくとも1つの化学的脱不動態化反応物を供給することにより、少なくとも1つの不動態化反応物(16)を除去することを特徴とする、請求項
1~
7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
少なくとも1つの不動態化反応物(16)を除去した後、少なくとも1つの粒子担体(14)および/または触媒粒子(13)にラジカル分解含浸(20)を適用することを特徴とする、請求項
1~
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
ラジカル分解含浸(20)が、セリウム塩またはセリウムオキシドを含むことを特徴とする、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
触媒粒子(13)を備えた粒子担体(14)が粉末形態で提供され、プロトン伝導性イオノマコーティング(15)を堆積させる前に、それらの粒子担体を基体に適用することを特徴とする、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の電極の製造方法およびそれに対応する電極に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電極は、貴金属または貴金属合金から形成された触媒を備える。そのため、白金、パラジウム、ルテニウムなどからなる貴金属または合金が使用される。したがって、電極中の貴金属含有量または触媒含有量を低減するために、燃料電池の一連の製造に関して努力がなされている。
【0003】
貴金属の容量(load)、特に白金の容量が既知の電極でのみ減少する場合、それらを備えた燃料電池は、特に電極表面の平方センチメートルあたり0.1mg(0.1mg Pt/cm2)以下の白金容量がもたらされる場合、セル性能の大幅な低下を示す。この性能の低下は、それらの低容量での酸素拡散抵抗の増加によるものであり、これは、貴金属触媒の周りの反応ゾーンへの酸素の不十分な供給に起因する。
【0004】
反応ゾーンへの酸素の供給を容易にするために、電極に提供されるイオノマバインダを、短鎖側鎖を有するポリマ、または、電極内のイオノマバインダの膨潤性(swelling property)に影響を与える異なる密度のスルホン酸基を有するポリマの適切な選択によって、修飾することが知られている。
【0005】
触媒粒子のプロトン伝導性イオノマへの結合は、燃料電池の性能を明確に決定する。触媒粒子およびプロトン伝導性イオノマから燃料電池電極を製造するための現在の典型的な方法は、湿式化学アプローチおよび付随するランダムな分布、延いては触媒粒子上のイオノマの被覆率に基づいている。このような湿式化学製品の一例は、特許文献1から推測することができる。特許文献2はまた、強化された電極配列を形成するための湿式化学法を記載している。そのような湿式化学製造方法は、欠陥または不十分な被覆をもたらし、したがってイオノマの不十分な結合をもたらす可能性があり、これは特に、反応媒体、生成水だけでなく、電子やプロトンのすべてまたはほぼすべての輸送経路が利用される、燃料電池の高電流密度が要求されるときに明らかになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第102015114454号明細書
【文献】独国特許出願公開第102014102894号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、電極を製造するための方法およびこれに対応する電極を提供することであり、これにより、上記の不利な点が軽減される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この方法に関連する目的の部分は、請求項1の特徴を有する方法によって達成される。電極に関連する目的の部分は、請求項10の特徴を有する電極によって達成される。本発明の改良を有する有利な実施形態は、従属請求項に明記されている。
【0009】
燃料電池、特に固体高分子形燃料電池(PEM燃料電池)用の電極の製造方法は、以下のステップ:
-少なくとも1つの導電性粒子担体(particle support)上に担持された複数の触媒粒子を提供し、
-触媒粒子および/または少なくとも1つの粒子担体上に、イオノマの1つまたは複数の原子層または分子層を気相から堆積させ、それによりプロトン伝導性イオノマコーティングを形成する、
ことを備える。
【0010】
その利点は、イオノマを有するコーティングを形成するために、不均一なコーティングをもたらしうる湿式化学法がもはや使用されないことに関連する。ここでは、粒子担体または触媒粒子上に原子層または分子層の成長が誘導されるため、プロトン伝導性イオノマによる均質または均一なコーティングが提供される。したがって、電気化学電極用に最適化されたイオノマ触媒構造が提供され、高性能(PEM)燃料電池が得られる。
【0011】
化学的気相堆積法のサイクルを用いた、特に分子層堆積法(MLD)のサイクルを用いたイオノマコーティングの層ごとの堆積が好ましい。分子層堆積法(MLD)では、所望のイオノマのモノマーは、ベース本体、すなわち触媒材料上に単一の分子層として気相から堆積され、続いて重合される。このプロセスは必要に応じて何度でも繰り返され、各サイクルの後に層の厚さが1分子層ずつ増加する。所望のイオノマ層の厚さは、MLDサイクルの数によって意図的に設定することができる。
【0012】
電極またはその付近での反応物、生成水、プロトン、および電子の輸送を改善するために、電極の製造中に以下のステップ:
-プロトン伝導性イオノマコーティングを形成する前に、触媒粒子の表面に少なくとも1つの不動態化反応物を用いて原子または分子を堆積させ、それにより触媒粒子の表面に少なくとも1つの不動態化領域を形成し、
-プロトン伝導性イオノマコーティングを、触媒表面の少なくとも1つの不動態化領域から離して堆積させ、
-触媒粒子から少なくとも1つの不動態化反応物を除去し、それにより、特に所定のまたは予め規定可能な多孔性を有するプロトン伝導性イオノマコーティングを形成する、
ことを追加で実行することが合理的であることが判明した。
【0013】
不動態化、すなわち触媒粒子の表面への保存反応物の堆積時に、貴金属または貴金属化合物の化学的性質は、触媒毒と呼ばれる特定の分子との強い化学結合を形成するために利用される。貴金属触媒の表面は、そのような物質を気相から導入または適用することによって意図的に被覆され、それにより、次のステップでは、不動態化反応物が占めるスペースにイオノマ分子を吸着させることができない。イオノマコーティングが完全に被覆された後、不動態化物質が貴金属表面から再び除去され、それによって、不動態化物質が以前に存在していた場所にイオノマコーティングの空孔またはきずが残るかまたは発生する。これらの空孔またはきずに起因して細孔またはチャネルが生じ、それらを通して触媒粒子の表面が反応物にアクセス可能な状態を維持する。
【0014】
不動態化反応物が触媒粒子の表面に付着する点は、表面エネルギーに依存し、選択された不動態化反応物は、それぞれの場合において、触媒粒子の表面上で最もエネルギー的に好ましい「スペース」をとる。少なくとも1つの不動態化反応物は、好ましくは、一酸化炭素(CO)、シアン化物イオン(CN、例えば、HCNの分解から、または有機または無機シアン化合物の分解から)、チオシアン酸塩(SCN)、イソチオシアネート(NCS)、硫化物(R-S-、またはS2-)、硫化水素(H2S)、第一級、第二級、第三級アミン(R-NH2、R,R’-NH、R,R’,R’’-N)、およびアンモニア(NH3)を含む群から選択される。これらの不動態化反応物の使用により、気相から堆積されるプロトン伝導性イオノマが、粒子担体および/または触媒粒子の領域上でそれらの最もエネルギー的に好ましいスペースを見つけるという結果をもたらす。これは、不動態化反応物によって提供されるスペースがプロトン伝導性イオノマにとってよりエネルギー的に好ましくないためである。換言すれば、イオノマがとることができないスペースは、既に不動態化反応物によって占有されている。
【0015】
用途に応じて、およびプロトン伝導性イオノマコーティングの所望の多孔性に応じて、触媒粒子の表面上の少なくとも1つの不動態化領域が触媒粒子の縁部または触媒粒子の角部に位置する場合に有利であることが判明した。したがって、不動態化反応物がこの目的のために必要であり、これは好ましくは、その堆積中に触媒材料の段部、角部、または縁部に付着する。これは例えば、そこで最もエネルギー的に有利なスペースを取るものである。ここでは、原則として上記の物質を考慮に入れている。幾何学的効果により、より大きな吸着質分子が有利な場合がある(すなわち、側基を有する分子(R=メチル、エチル、プロピルなどである一次硫化物R-SH、またはR=メチル、エチル、プロピルなどである二次硫化物R,R’-S、またはR=メチル、エチル、プロピルなどの第一級アミンR-NH2、またはR=メチル、エチル、プロピルなどの第二級アミンR,R’-NH、またはR=メチル、エチル、プロピルなどの第三級アミンR,R’,R’’-N))。
【0016】
代替的または付加的に、触媒粒子の表面の少なくとも1つの不動態化領域はまた、触媒粒子の粒子ファセット(facet)上に配置され得る。粒子ファセットは、触媒粒子の角部、縁部、または段部から離れて位置する触媒粒子の表面の部分として理解されるべきである。したがって、さらなる不動態化反応物がこの目的のために堆積される可能性があり、そのため、縁部、角部、または段部から離れたスペースの占有、したがって触媒粒子のファセット上での占有がよりエネルギー的に有利である。上記の物質のいくつかもここで考慮される。ただし、白金原子は、その縁部、角部、および段部よりも結晶ファセット(特に、触媒的に特に活性な{111}ファセット)上により密に配置されるため、例えば一酸化炭素(CO)、硫化水素(H2S)、またはアンモニア(NH3)などのより小さな吸着質分子が結合しやすく、したがって好ましい。
【0017】
触媒粒子から少なくとも1つの不動態化反応物を除去するための1つの簡単な選択肢は、少なくとも1つの粒子担体および/または触媒粒子に熱エネルギーを供給することである。したがって、これは、粒子担体または触媒粒子が加熱され、それによって不動態化反応物が触媒粒子の表面から分離することを意味する。
【0018】
代替的または付加的に、不動態化反応物はまた、負圧、したがって真空を少なくとも1つの粒子担体および/または触媒粒子に適用することによって除去することができ、それにより、圧力が限界圧力を下回る場合、不動態化反応物のエネルギーは、触媒粒子の表面から脱着するのに十分である。
【0019】
代替的にまたは付加的に、少なくとも1つの粒子担体および/または触媒粒子にまたはその付近にプラズマを発生させることにより、少なくとも1つの不動態化反応物の分離を生じさせることができる。たとえば、O2、N2、H2、またはCHxプラズマがこの目的のために考慮される。
【0020】
代替的にまたは付加的に、少なくとも1つの化学的脱不動態化反応物(chemical depassivation reactant)を、少なくとも1つの粒子担体および/または触媒粒子に供給することにより、少なくとも1つの不動態化反応物を除去することもできる。
【0021】
プロトン伝導性イオノマコーティングのイオノマポリマを安定化し、酸化的分解から保護するために、少なくとも1つの不動態化反応物の除去後、ラジカル分解含浸(radical degrading impregnation)を少なくとも1つの粒子担体および/または触媒粒子に適用する場合、さらに有利であることが判明した。セリウム塩または酸化セリウムを含む含浸は、この文脈で有利であることが判明した。
【0022】
触媒粒子を備えた粒子担体が粉末形態で提供され、プロトン伝導性イオノマコーティングが堆積される前にそれらの担体が基体に適用される場合、膜電極配列のその後の形成に有利であることが判明した。
【0023】
ガス拡散層またはガス拡散層に関連するミクロポーラス層が基体として考慮される。このようにして、ガス拡散電極(GTE)を形成することができる。一方、代替的に、高分子電解質膜を基体として使用することもでき、その結果、触媒被覆膜(CCM)が得られる。
【0024】
どちらの場合も、電極内のプロトンと水の輸送を改善するために、追加の、導電性であるが触媒的に不活性なイオノマでコーティングされた成分を電極に導入する選択肢がさらにある。例えば、ここでは導電性成分として、イオノマ被覆炭素粒子、イオノマ被覆グラフェン、またはイオノマ被覆カーボンナノチューブが考慮される。
【0025】
燃料電池、特に固体高分子形燃料電池用の本発明による電極は、1つまたは複数の触媒粒子を担持する複数の導電性粒子担体を含む。さらに、プロトン伝導性イオノマコーティングが提供され、これは、少なくとも1つまたは複数の触媒粒子に比例して結合する。プロトン伝導性イオノマコーティングは、不動態化反応物によって所定の多孔性が提供され、その細孔またはチャネルが予め決定されたまたは予め決定可能な分布で提供されるという点で区別される。
【0026】
チャネルまたは細孔による燃料電池の反応物の十分な物質輸送を確実にするため、貴金属含有量または触媒粒子の数を、全体として、細孔のこの分布により低く保つことができる。同時に、密着した多孔質のイオノマコーティングにより、信頼性の高いプロトン輸送が可能となる。細孔とチャネルの分布は、使用される不動態化ステップに起因して、電極の湿式化学生成の場合に比べてより均一になる。
【0027】
細孔は、触媒粒子の表面上の縁部または角部の領域に配置されている可能性がある。
【0028】
代替的または追加的に、イオノマコーティングの細孔またはチャネルを触媒粒子の粒子ファセットに配置する選択肢がある。
【0029】
さらに、ラジカル分解含浸をイオノマコーティングに適用するか、またはその中に導入することが可能であり、それによりイオノマコーティングの安定化、したがって酸化的分解からの保護が提供される。
【0030】
燃料電池用の電極を製造するための本発明による方法について記載されたすべての利点および好ましい実施形態は、本発明による電極にも適用される。
【0031】
上記の説明に記載されている特徴および特徴の組み合わせ、ならびに以下の図の説明に記載されている、および/または単に図のみに示されている特徴および特徴の組み合わせは、指定されたそれぞれの組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく、他の組み合わせでまたは単独で用いてもよい。したがって、実施形態はまた、図に明示的に示されていないかまたは説明されていないだけでなく、特徴の別個の組み合わせによって説明された実施形態から生じ、生産可能である本発明によって、構成および開示されていると見なされるべきである。
【0032】
発明のさらなる利点、特徴、および詳細は、特許請求の範囲、好ましい実施形態の以下の説明に起因し、図面に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明による電極を有する燃料電池の概略断面図である。
【
図2】電極の、単に概略的に示された詳細な図である。
【
図4】触媒粒子の結晶の角部と縁部の意図的な不動態化を示す図である。
【
図5】触媒粒子の結晶ファセットの意図的な不動態化を示す図である。
【
図6】さまざまに形成されたプロトン伝導性イオノマコーティングを備えた電極の製造を示す図である。
【
図7】薄層として形成されたプロトン伝導性イオノマコーティングを有する電極を示す図である。
【
図8】超薄層として形成されたプロトン伝導性イオノマコーティングを有する電極を示す図である。
【
図9】高い多孔性を有する薄層として形成されたプロトン伝導性イオノマコーティングを有する電極を示す図である。
【
図10】その後のCe
4+の含浸の方法手順を示す図である。
【
図11】ガス拡散電極(GDE)の製造を示す図である。
【
図12】触媒被覆膜(CCM)の製造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
燃料電池1を
図1に示す。半透膜2は、ここでは、第1の側面3が第1の電極4、この場合はアノードで覆われ、第2の側面5が第2の電極6、この場合はカソードで覆われている。第1の電極4および第2の電極6は、粒子担体14を含み、その担体に、白金、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属、またはそれらの貴金属を備えた混合物から形成された触媒粒子13が配置または担持される(
図2)。これらの触媒粒子13は、燃料電池1の電気化学反応中の反応促進剤として使用される。粒子担体14は、炭素質であり得る。しかしながら、金属酸化物から形成された粒子担体14も考慮に入れられる。このような固体高分子形燃料電池(PEM燃料電池)では、燃料または燃料分子、特に水素は、第1の電極4(アノード)でプロトンと電子に分割される。膜2はプロトン(例えばH
+)を通過させるが、電子(e
-)に対して不透過性である。膜2は、イオノマ、好ましくはスルホン化テトラフルオロエチレンポリマ(PTFE)またはペルフルオロスルホン酸(PFSA)のポリマから形成される。ここでは、アノードで次の反応が起こる:2H
2→4H
++4e
-(酸化/電子放出)。
【0035】
プロトンが膜2を通過して第2の電極6(カソード)に到達する間、電子は外部回路を介してカソードまたはエネルギーアキュムレータに伝達される。カソードガス、特に酸素または酸素化空気がカソードに供給されるため、ここでは次の反応が起こる:O2+4H++4e-→2H2O(還元/電子吸収)。
【0036】
この場合、ガス拡散層7,8は、電極4,6のそれぞれに関連付けられ、そのうちの一方のガス拡散層7はアノードに関連付けられ、他方のガス拡散層8はカソードに関連付けられる。さらに、燃料ガスを供給するための燃料流れ場11を有するバイポーラプレート9は、アノード側ガス拡散層7に関連付けられる。燃料は、燃料流れ場11により、ガス拡散層7を介して電極4に供給される。カソード側では、ガス拡散層8は、電極6にカソードガスを供給するためのカソードガス流れ場12を備えたバイポーラプレート10に関連付けられている。
【0037】
電極4,6の組成または構造は、
図1の詳細II-IIである、
図2により詳細に見ることができ、ここで、カソード側電極6は、特にここでより詳細に示されている。電極4,6はまた、ガス拡散層7,8の一体型構成要素として、すなわちミクロポーラス層21(MPL)の形態で提供され得ることに留意されたい。この場合、電極4,6は、例えば白金または白金合金から形成される複数の触媒粒子13を有するように形成される。しかしながら、触媒粒子13は、好ましくはナノ粒子であり、これは、例えば、コアシェルナノ粒子として形成することができる。それらは、貴金属または貴金属合金が表面上にのみ配置され、より価値の低い金属、例えばニッケル、銅、またはそれらの金属の合金がナノ粒子のコアを形成するという、大きな表面積の利点を有する。
【0038】
触媒粒子13は、複数の導電性粒子担体14上に配置または担持される。さらに、好ましくは膜2と同じ材料から形成されるイオノマバインダ22が、粒子担体14および/または触媒粒子13の間に提供される。イオノマバインダ22は多孔性であり、選択された図において30%を超える多孔率を有する。イオノマバインダ22が著しく低い多孔率を有し、それにより、導電性触媒粒子13がプロトン伝導的に互いにより強く結合する可能性もある。多孔性イオノマバインダ22の形成は、特にカソード側において、酸素拡散抵抗が増加せず、したがって、貴金属を有する触媒粒子13のより低容量または触媒粒子13を有する粒子担体14のより低容量が可能となることを保証する。イオノマバインダ22の使用に代替的または付加的に、粒子担体14または触媒粒子13はまた、プロトン伝導性イオノマコーティング15によって互いに結合することができ、これは、以下、詳細IIIを参照しながらより詳細に議論する。
【0039】
図3は、電極4,6の製造を示す。この場合、最初に、導電性粒子担体14に担持された複数の触媒粒子13が提供される。したがって、粒子担体14は、この場合、触媒粒子13の基体を形成する。触媒粒子13の表面は、その後、選択的に不動態化される。この目的のために、少なくとも1つの不動態化反応物16の原子または分子が、気相から触媒粒子13の表面上に堆積される。このようにして、1つまたは複数の不動態化領域17が触媒粒子13の表面上に生じる。不動態化反応物16の原子または分子は、触媒粒子13上のスペースを占有し、それらのスペースは、気相からのイオノマの複数の原子層または分子層のこれに続く堆積中にはもはや占有されない。気相から堆積されたプロトン伝導性イオノマコーティング15は、第3の方法ステップで適用される。堆積は、ここでは触媒粒子13の表面の少なくとも1つの不動態化領域17から離れるように行なわれる。最後に、少なくとも1つの不動態化反応物16が触媒粒子13から除去され、それにより、調整可能な多孔率を有するプロトン伝導性イオノマコーティング15が形成される。
【0040】
図4からは、不動態化ステップ中に、不動態化反応物16が粒子の縁部18または粒子の角部に堆積され、それにより、プロトン伝導性イオノマコーティング15の適用後および不動態化反応物16の除去後にチャネルまたは細孔がプロトン伝導性イオノマコーティング15内に形成され、それらが触媒粒子13の粒子縁部18または粒子角部をもたらすことが分かる。換言すれば、プロトン伝導性イオノマコーティング15は、ここでは触媒粒子13の粒子ファセット(切子面)19を被覆する。
【0041】
図5では、触媒粒子13の粒子ファセット19に吸着されている不動態化反応物16が不動態化に使用されている。プロトン伝導性イオノマコーティング15の適用後および不動態化反応物16の除去後、プロトン伝導性イオノマコーティング15が粒子縁部18または粒子角部のみを覆う電極4,6がもたらされる。
【0042】
電極4,6の製造を
図6に示し、左側の図には、非多孔性または最大5%の低多孔度を有するように形成されたプロトン伝導性イオノマコーティング15が触媒粒子13およびそれらの粒子担体14上に堆積されているものを示す。イオノマコーティング15は、化学気相堆積法の1サイクルまたは複数のサイクルによって、特に分子層堆積法の複数のサイクルによって層ごとに堆積され、イオノマコーティング15の層厚は、必要に応じて調整される。それは好ましくは、単一分子層(単層)から20ナノメートル(nm)または30ナノメートルまでのものである。一方、
図6では、イオノマコーティング15の異なる層厚が可能であるだけでなく、不動態化反応物16の使用に応じて、または触媒粒子13の表面の被覆範囲に応じて異なる多孔率が可能であることも示しているのがわかる。真ん中の図は、触媒粒子13の表面に位置するイオノマコーティング15の30%~50%間の多孔率を示している。この多孔率はまた、僅かまたは中程度の不動態化として理解されるべきであり、基体上に薄い均質なイオノマ層が提供され、触媒粒子13上に多孔質層が提供される。
図6による図の右側では、非常に強い不動態化が見られ、ここでは触媒粒子13がイオノマコーティング15を実質的に含まないままであり、それに応じて粒子担体14のみがコーティングされている。
【0043】
図7は、粒子担体14および触媒粒子13が、多孔性を全く持たないまたは僅かにしか持たないイオノマコーティング15の薄層でコーティングされている電極4,6を示す。さらに、反応物、プロトン、および生成水の輸送メカニズムが、このように形成されたイオノマコーティング15内に示されている。
【0044】
図8は、イオノマコーティング15の例示的な実施形態を、多孔性を僅かしか持たないまたは全く持たない極薄層として示す。この極薄のプロトン伝導性イオノマコーティング15は、例えば、1つの単分子層のみから形成されうる。さらに、反応物、プロトン、および生成水の輸送メカニズムが、そのようなイオノマコーティング15内に示されている。
【0045】
図9では、イオノマコーティング15は高い多孔性を備える。さらに、反応物、プロトン、および生成水の輸送メカニズムが、このように形成されたイオノマコーティング15内に示されている。
【0046】
上記のすべての例示的な実施形態について、
図10により詳細に示されるように、少なくとも1つの不動態化反応物16の除去後、ラジカル分解含浸20を少なくとも1つの粒子担体14および/または触媒粒子13に適用する可能性がさらに開かれる。この場合、セリウム塩またはセリウムオキシドを含む含浸20を用いることが提案されている(この場合、含浸はCe
4+を使用して行われる)。
【0047】
図11は、最初に触媒粒子13を備えた粒子担体14が粉末形態で提供され、そして基体、この場合はミクロポーラス層21に被覆された、ガス拡散電極を示す。粉末は、任意選択的に予め圧縮(compacted)されてもよく、あるいは適切なバインダを用いて結合されてもよい。次いで粉末が1つまたは複数の(場合によって異なる)不動態化反応物16を使用して不動態化される。次に、イオノマコーティング15の堆積が行われる。次いで1つまたは複数の不動態化反応物16が除去され、それにより、対応する孔隙がイオノマコーティング15内に形成される。これにより、多孔性の、したがって高性能のガス拡散電極(GD)がもたらされる。
【0048】
図12は、触媒粒子13を備えた粒子担体14が粉末形態で提供され、ポリマ電解質膜2に適用される可能性を示している。粉末を所望の位置に保つために、ここではフレームが用いられる。次に、不動態化ステップが、ここでは1つまたは複数の(場合によって異なる)不動態化反応物16を使用して行われる。次に、プロトン伝導性イオノマコーティング15が気相から堆積される。次いで、不動態化に使用される不動態化反応物16もここで除去される。これにより、高性能の触媒被覆膜2(CCM)が得られる。
【0049】
本発明は、要約すると、粒子担体14の低い貴金属容量または触媒粒子13中の低い貴金属比率にもかかわらず、反応領域周辺の酸素抵抗の増加が低減されることにより電力損失が生じない、または有意な電力損失のみが生じるという利点を伴う。さらに、電極4,6を製造するための製造方法が本発明によって開示され、これは、湿式化学製造方法と比較して、より短い乾燥時間に起因する大幅な時間節約をもたらす。
【符号の説明】
【0050】
1…燃料電池
2…膜
3…膜の第1の側
4…電極/アノード
5…膜の第2の側
6…電極/カソード
7…アノード側ガス拡散層
8…カソード側ガス拡散層
9…バイポーラプレート燃料ガス
10…バイポーラプレートカソードガス
11…燃料流れ場
12…カソードガス流れ場
13…触媒粒子
14…粒子担体(触媒粒子の基体)
15…イオノマコーティング
16…不動態化反応物
17…不動態化領域
18…粒子の縁部(粒子の角部)
19…粒子ファセット
20…含浸
21…ミクロポーラス層(MPL)
22…イオノマバインダ