(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20221220BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20221220BHJP
C01B 33/38 20060101ALI20221220BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09K11/08 A ZNM
C01B32/15
C01B33/38
C09K11/08 G
C09K11/70
(21)【出願番号】P 2022524888
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005144
(87)【国際公開番号】W WO2021235025
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2020088999
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】葛尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】坂部 宏
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106315558(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106964358(CN,A)
【文献】特開2016-066041(JP,A)
【文献】特開2016-146460(JP,A)
【文献】国際公開第2016/189869(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106318391(CN,A)
【文献】特開2015-214604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
C01B 32/15
C01B 33/38
C09K 11/70
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドットと、
スメクタイトと、
を含む、
発光体組成物。
【請求項2】
前記リン含有炭素量子ドットが、ヘテロ原子として、ホウ素、硫黄、ケイ素、フッ素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素をさらに含む、
請求項1に記載の
発光体組成物。
【請求項3】
前記スメクタイトの量が、40質量%以上99質量%以下である、
請求項1または2に記載の
発光体組成物。
【請求項4】
25℃、1気圧において固体である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の
発光体組成物。
【請求項5】
極大発光波長が550nm以上700nm以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の
発光体組成物。
【請求項6】
前記リン含有炭素量子ドットが、表面官能基を有し、
前記表面官能基が、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、およびホスフィン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物由来の構造を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の
発光体組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の
発光体組成物の製造方法であって、
反応性基を有する有機化合物、リン化合物、およびスメクタイトの混合物を調製する工程と、
前記混合物を加熱し、リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドット、およびスメクタイト、を含む
発光体組成物を得る工程と、
を有する、
発光体組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の
発光体組成物の製造方法であって、
反応性基を有する有機化合物およびリン化合物の混合物を調製する工程と、
前記混合物を加熱し、リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドットを得る工程と、
前記リン含有炭素量子ドットおよびスメクタイトを混合する工程と、
を有する、
発光体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドットを含む組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素量子ドットは粒子径が数nm~数10nm程度の安定な炭素系微粒子である。炭素量子ドットは、良好な蛍光特性を示すことから、太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク等のフォトニクス材料としての用途が期待されている。また、低毒性で生体親和性も高いため、バイオイメージング等の医療分野への応用も期待されている。
【0003】
炭素量子ドットに各種機能を付与するため、炭素量子ドットにリンをドープしたリン含有炭素量子ドット等が提案されている。例えば特許文献1には、リン含有炭素量子ドットを利用したバイオセンサーが記載されており、特許文献2には、フリーラジカル捕捉剤が記載されている。さらに、特許文献3には、金属イオンセンサーが記載されている。さらに、特許文献4には、水溶液中でリン含有炭素量子ドットの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許出願公開第105950145号明細書
【文献】中国特許出願公開第105862057号明細書
【文献】中国特許出願公開第108865124号明細書
【文献】中国特許出願公開第106335893号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、可視~近赤外域の波長の光を発する炭素量子ドットの開発が進められている。このような炭素量子ドットは、その発光波長を利用して、照明装置に演色性を付与したり、生体透過性を利用して医療用途に使用したりすることが可能である。しかしながら、炭素量子ドットの長波長域の発光効率は、短波長域の発光効率と比較して低い傾向がある。
【0006】
また、例えば、特許文献1~4に記載のリン含有炭素量子ドットや、これを含む組成物では、凝集が生じやすく、発光効率が低下しやすい、という課題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。本願は、リン含有炭素量子ドットを含み、比較的長波長の光を効率よく発光可能な組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の組成物を提供する。
リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドットと、スメクタイトと、を含む、組成物。
【0009】
本発明は、以下の組成物の製造方法を提供する。
反応性基を有する有機化合物、リン化合物、およびスメクタイトの混合物を調製する工程と、前記混合物を加熱し、リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドット、およびスメクタイト、を含む組成物を得る工程と、を有する、組成物の製造方法。
【0010】
本発明は、以下の組成物の製造方法も提供する。
反応性基を有する有機化合物およびリン化合物の混合物を調製する工程と、前記混合物を加熱し、リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドットを得る工程と、前記リン含有炭素量子ドットおよびスメクタイトを混合する工程と、を有する、組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、リン含有炭素量子ドットを含み、比較的長波長の光を効率よく発光可能である。したがって、照明用途や医療用途等、各種用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例3で調製した組成物の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0014】
本発明の組成物は、リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドットと、スメクタイトと、を含む。本明細書において、リン含有炭素量子ドットとは、粒子径が1~100nmの、炭素を主に含む量子ドットであって、当該量子ドットの炭素鎖や炭素環の一部が、リンに置換されたものをいう。当該リンの有無は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計法(FT/IR)、X線光電子分光法(XPS)等により、確認できる。
【0015】
前述のように、従来の炭素量子ドットや、これを含む組成物では、高い発光量子収率(蛍光量子収率)で比較的長波長域の光を発することは難しかった。これに対し、本発明の組成物によれば、比較的長波長の発光が得られ、さらにはその発光量子収率を高くできる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0016】
炭素量子ドットにリン原子をヘテロ原子として含めると、リン原子と炭素量子ドットのπ共役部位とが軌道相互作用する。そして、当該軌道相互作用により、LUMOが安定化され、量子ドットのバンドギャップが小さくなり、比較的長波長の発光が得られると考えられる。ただし、炭素量子ドットにリン原子を含めただけでは、当該効果が維持され難い。そこで、本発明では、リン含有炭素量子ドットと、層間にイオンを有するスメクタイトとを組み合わせている。これらを組み合わせると、スメクタイトの層間でリン含有炭素量子ドットが局所的に配列し、上述の軌道相互作用による発光の長波長化が生じやすくなる。
【0017】
さらに、リン含有炭素量子ドットとスメクタイトとを混合すると、リン含有炭素量子ドットとスメクタイトとが相互作用した状態、すなわち組成物中でリン含有炭素量子ドットが微分散された状態が維持される。その結果、組成物中でリン含有炭素量子ドットが凝集し難く、発光量子収率が上がると考えられる。
【0018】
ここで、本発明の組成物は、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとを含んでいればよい。例えば、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとを含む固体状の組成物であってもよく、さらに溶媒等を含む液体状の組成物であってもよい。ここで、固体状または液体状とは、25℃、1気圧での組成物の状態をいう。組成物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、分散性を高めるための界面活性剤やリン含有炭素量子ドット以外の発光体等をさらに含んでいてもよい。
【0019】
(リン含有炭素量子ドット)
リン含有炭素量子ドットは、炭素量子ドット中にヘテロ原子としてリン原子を含む化合物である。リン含有炭素量子ドットが含むリン原子の量は、リン含有炭素量子ドット中の全ての原子の量に対して1~35質量%が好ましく、2~25質量%がより好ましい。リン原子の量が当該範囲であると、リン含有炭素量子ドットの極大発光波長が長くなりやすい。リン含有炭素量子ドット中のリン原子の量は、X線光電子分光法によって確認できる。また、当該リン原子の量は、リン含有炭素量子ドットを作製する際に使用するリン含有化合物(リン源)と、有機化合物(炭素源)との比等によって調整できる。リン含有炭素量子ドットの調製方法については、後で詳しく説明する。
【0020】
リン含有炭素量子ドットは、リン原子以外の原子をヘテロ原子としてさらに含んでいてもよい。リン含有炭素量子ドットが含む、リン原子以外のヘテロ原子の例には、窒素原子、ホウ素原子、硫黄原子、ケイ素原子、フッ素原子が含まれる。リン含有炭素量子ドットは、これらを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0021】
リン原子以外のヘテロ原子は、リン含有炭素量子ドットを調製する際に、これらの元素を含む化合物を、リン化合物や有機化合物と混合し、ともに加熱することで導入できる。また、有機化合物もしくはリン化合物として、これらの元素を含む化合物を使用してもよい。
【0022】
リン含有炭素量子ドットにおけるリン原子以外のヘテロ原子の量は、リン含有炭素量子ドット中のリン原子の量に対して1~100モル%が好ましく、20~70モル%がより好ましい。リン原子以外のヘテロ原子の量が当該範囲であると、リン含有炭素量子ドットの発光波長等を所望の範囲に調整できる。なお、リン原子以外のヘテロ原子の量は、X線光電子分光法によって確認できる。リン原子以外のヘテロ原子の量は、リン含有炭素量子ドットを作製する際に使用する化合物の量によって調整できる。
【0023】
ここで、リン含有炭素量子ドットは、表面官能基を有することが好ましく、表面官能基は、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、およびホスフィン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物由来の構造を含むことが好ましい。
【0024】
リン含有炭素量子ドットがこれらの表面官能基を有すると、リン含有炭素量子ドット、ひいては組成物の溶媒等に対する分散性が良好になり、種々の用途に使用しやすくなる。リン含有炭素量子ドットが有する表面官能基の種類は、例えばIRスペクトル等により特定できる。また、リン含有炭素量子ドットが有する表面官能基は、リン含有炭素量子ドットを調製する際に使用する、リン化合物の構造や、有機化合物の構造に由来し、これらを適切に選択することで、表面官能基を選択できる。
【0025】
ここで、リン含有炭素量子ドットの発光波長は特に制限されないが、極大発光波長は450~750nmが好ましく、550~700nmがより好ましい。リン含有炭素量子ドットの極大発光波長が可視光の範囲にあると、本発明の組成物を種々の用途に使用しやすくなる。リン含有炭素量子ドットの極大発光波長は、リン含有炭素量子ドットの組成(リンの含有量、リン以外のヘテロ原子の有無等)や、リン含有炭素量子ドットの大きさ、スメクタイトの種類、スメクタイトの平均層間隔等に応じて定まる。
【0026】
リン含有炭素量子ドットを原子間力顕微鏡(AFM)により観察したときの断面の高さは、1~100nmが好ましく、1~80nmがより好ましい。リン含有炭素量子ドットの大きさが当該範囲であると、量子ドットとしての性質が十分に得られやすい。
【0027】
また、組成物が固体状である場合には組成物中のリン含有炭素量子ドットの量は、1~60質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。一方、組成物が液体状である場合には、組成物の固形分(溶媒を除く成分)中のリン含有炭素量子ドットの量が上記範囲であることが好ましい。組成物中のリン含有炭素量子ドットの量が上記範囲であると、組成物から十分な発光が得られる。また、リン含有炭素量子ドットの量が上記範囲であると、組成物内でリン含有炭素量子ドットが凝集し難くなり、組成物の安定性が高まる。
【0028】
(スメクタイト)
スメクタイトは、2つのケイ酸四面体層の間にアルミニウム八面体層が挟み込まれた結晶層が複数積み重なった構造を有し、結晶層どうしの間に層間イオンが存在する鉱物である。なお、アルミニウム八面体層中で、アルミニウムがマグネシウムや鉄等に置換されていることもある。
【0029】
このような構造を有するスメクタイトは、水等によって容易に膨潤しやすい、という性質を有する。スメクタイトの具体例には、サポナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、ノントロナイト、ソーコナイト、スティーブンサイト等が含まれる。
【0030】
スメクタイトは天然物であってもよく、人工物であってもよい。また、層間イオンは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、アンモニウムイオン等であってもよい。また、スメクタイトは、各種有機物によって修飾されていてもよく、例えば、四級アンモニウム塩化合物や四級ピリジニウム塩化合物で化学修飾されていてもよい。
【0031】
組成物が固体状である場合には、組成物中のスメクタイトの量は、40~99質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。一方、組成物が液体状である場合には、組成物の固形分(溶媒を除く成分)中のスメクタイトの量が上記範囲であることが好ましい。スメクタイトの量が上記範囲であると、相対的にリン含有炭素量子ドットの量が十分に多くなり、十分な発光量が得られる。また、スメクタイトの量が上記範囲であると、スメクタイトによってリン含有炭素量子ドットを十分に担持でき、リン含有炭素量子ドットの分散性が良好になりやすい。
【0032】
(溶媒)
上述のように、組成物は、さらに溶媒を含んでいてもよい。この場合、上述のリン含有炭素量子ドットやスメクタイトは、溶媒に分散された状態となる。
【0033】
溶媒の種類は、組成物の用途に合わせて適宜選択される。このような溶媒はリン含有炭素量子ドットやスメクタイトを均一に分散可能であれば特に制限されず、例えば非極性溶媒および極性溶媒のいずれであってもよい。溶媒の例には、水や、メタノール、エタノール、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が含まれる。組成物は、溶媒を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0034】
溶媒の量は、組成物の用途に応じて適宜選択されるが、組成物を液体状とするには通常組成物中に70~99.99質量%程度含まれることが好ましく、90~99.9質量%程度含まれることがより好ましい。
【0035】
(組成物の調製方法)
上記リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトと、を含む組成物の調製方法の例には、以下の2つの方法が含まれる。ただし、上記組成物の調製方法は、当該方法に限定されない。
【0036】
(1)第1の調製方法
第1の調製方法は、反応性基を有する有機化合物、リン化合物、およびスメクタイトの混合物を調製する工程(混合物調製工程)と、当該混合物を加熱し、上述の組成物を得る工程(焼成工程)と、を含む。当該方法では、スメクタイトの存在下でリン含有炭素量子ドットを生成する。そのため、スメクタイトの層間をテンプレートとして、リン含有炭素量子ドットの大きさを調整しやすく、得られる組成物の蛍光量子収率が高まりやすい、という利点がある。以下、各工程について説明する。
【0037】
(1-1)混合物調製工程
混合物調製工程では、反応性基を有する有機化合物と、リン化合物と、スメクタイトとを混合する。有機化合物は、反応性基を有し、炭化によって炭素量子ドットを生成可能な化合物であれば特に制限されない。本明細書において、「反応性基」とは、後述の焼成工程において、有機化合物どうしの重縮合反応等を生じさせるための基であり、リン含有炭素量子ドットの主骨格の形成に寄与する基である。なお、リン含有炭素量子ドットには、これらの反応性基の一部が残存してもよい。反応性基の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、スルホ基およびアミノ基等が含まれる。当該有機化合物は、リン含有炭素量子ドットにおいて、リン原子以外のヘテロ原子となる成分(例えば、ホウ素原子や硫黄原子、ケイ素原子、フッ素原子等)を含んでいてもよい。なお、混合物調製工程では、二種以上の有機化合物を使用してもよい。この場合、複数の有機化合物は、互いに反応しやすい基を有することが好ましい。
【0038】
上記反応性基を有する有機化合物の例には、カルボン酸、アルコール、フェノール類、アミン化合物、糖類等が含まれる。有機化合物は、常温で固体状であってもよく、液体状であってもよい。
【0039】
カルボン酸は、分子中にカルボキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。カルボン酸の例には、ギ酸、酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、α-リポ酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ポリアクリル酸、(エチレンジチオ)二酢酸、チオリンゴ酸、テトラフルオロテレフタル酸等の2価以上の多価カルボン酸;クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、5-スルホサリチル酸等のヒドロキシ酸;が含まれる。
【0040】
アルコールは、ヒドロキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。アルコールの例には、エチレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール等の多価アルコールが含まれる。
【0041】
フェノール類は、ベンゼン環にヒドロキシ基が結合した構造を有する化合物であればよい。ポリフェノールの例には、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガロール、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、没食子酸、タンニン、リグニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、クロロゲン酸、リグナン、クルクミン等が含まれる。
【0042】
アミン化合物の例には、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、尿素、チオ尿素、チオシアン酸アンモニウム、エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、メラミン、シアヌル酸、バルビツール酸、葉酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド、グアニジン、アミノグアニジン、ホルムアミド、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グルタチオン、RNA、DNA、システアミン、メチオニン、ホモシステイン、タウリン、チアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、4,5-ジフルオロ-1,2-フェニレンジアミン等が含まれる。
【0043】
糖類の例には、グルコース、スクロース、グルコサミン、セルロース、キチン、キトサン等が含まれる。
【0044】
上記の中でも、縮合反応が効率的に進行する有機化合物が好ましく、好ましいものの一例として、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、もしくはカルボン酸とアミン化合物との組み合わせが挙げられる。
【0045】
一方、リンを含むリン化合物の例には、リン単体、リン酸、酸化リン、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、フィチン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、O-ホスホリルエタノールアミン、塩化リン、臭化リン、ホスホノ酢酸トリエチル、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド、リン酸メチル、亜リン酸トリエチル、O-ホスホセリン、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、アデノシン5’-三リン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、グアニジンリン酸塩、グアニル尿素リン酸塩、が含まれる。リン化合物は、リン酸、酸化リン、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸が、反応性等の観点で好ましい。
【0046】
上述のように、リン含有炭素量子ドットは、リン原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよく、本工程において、リン原子以外の原子(例えば、窒素、ホウ素、硫黄、ケイ素、フッ素等)を含む化合物(以下、「その他の化合物」とも称する)を、有機化合物やリン化合物と共に混合してもよい。
【0047】
窒素を含む化合物の例には、上記のアミン化合物の他、イミダゾール、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジン、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール等、が含まれる。
【0048】
ホウ素を含む化合物の例には、ホウ素単体、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、酸化ホウ素、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリオクタデシル、ホウ酸トリフェニル、2-エトキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、ホウ酸トリエタノールアミン、2,4,6-トリメトキシボロキシン、2,4,6-トリフェニルボロキシン、トリス(トリメチルシリル)ボラート、ホウ酸トリス(2-シアノエチル)、3-アミノフェニルボロン酸、2-アントラセンボロン酸、9-アントラセンボロン酸、フェニルボロン酸、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、4,4’-ビフェニルジボロン酸、2-ブロモフェニルボロン酸、4-ブロモ-1-ナフタレンボロン酸、3-ブロモ-2-フルオロフェニルボロン酸、4-カルボキシフェニルボロン酸、3-シアノフェニルボロン酸、4-シアノ-3-フルオロフェニルボロン酸、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸、4-(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸、3-フルオロフェニルボロン酸、3-ヒドロキシフェニルボロン酸、4-メルカプトフェニルボロン酸、1-ナフタレンボロン酸、9-フェナントレンボロン酸、1,4-フェニレンジボロン酸、1-ピレンボロン酸、2-アミノピリミジン-5-ボロン酸、2-ブロモピリジン-3-ボロン酸、2-フルオロピリジン-3-ボロン酸、4-ピリジルボロン酸、キノリン-8-ボロン酸、4-アミノフェニルボロン酸ピナコール、3-ヒドロキシフェニルボロン酸ピナコール、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン、ジボロン酸、水素化ホウ素ナトリウム、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素等が含まれる。
【0049】
また、硫黄を含む化合物の例には、硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸、メタンスルホン酸、リグニンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、スルファニル酸、水硫化ナトリウム、が含まれ、ケイ素を含む化合物の例には、テトラクロロシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、1-(トリメチルシリル)イミダゾール、テトラエトキシシランが含まれ、さらにフッ素を含む化合物の例には、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2-(ペルフルオロヘキシル)エタノール、フッ化ナトリウムが含まれる。
【0050】
上記有機化合物やリン化合物、その他の化合物の混合比は、リン含有炭素量子ドットにおける所望のリンの含有量や、リン以外のヘテロ原子の量に合わせて適宜選択される。
【0051】
一方、上記有機化合物やリン化合物、その他の化合物と組み合わせるスメクタイトは、上述のスメクタイト(組成物が含むスメクタイト)と同様である。スメクタイトは、有機化合物が有する反応性基の種類やリン化合物の種類、所望のリン含有炭素量子ドットの極大発光波長、すなわち所望のリン含有炭素量子ドットの粒子径等に合わせて、選択することが好ましい。
【0052】
有機化合物やリン化合物等と組み合わせるスメクタイトの平均層間隔は、有機化合物の分子構造やリン化合物の分子構造、所望のリン含有炭素量子ドットの粒子径等に合わせて適宜選択されるが、0.1~10nmが好ましく、0.1~8nmがより好ましい。スメクタイトの平均層間隔は、X線回折装置等によって解析できる。なお、スメクタイトの平均層間隔とは、スメクタイトの隣り合う結晶層の一方の底面と他方の天面との間隔をいう。前述のように、第1の調製方法では、リン含有炭素量子ドットは、スメクタイトの層間をテンプレートとして合成される。そのため、スメクタイトの平均層間隔が、10nm以下であると、発光波長が所望の範囲のリン含有炭素量子ドットが得られやすくなる。一方で、平均層間隔が0.1nm以上であると、これらの間に有機化合物やリン化合物の一部が入り込みやすくなり、スメクタイトの層間をテンプレートとしてリン含有炭素量子ドットが形成されやすくなる。
【0053】
なお、スメクタイトの平均層間隔を調整するため、スメクタイトを水や各種溶媒によって膨潤させてもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。混合物中の溶媒の量は、10~80質量%が好ましく、10~70重量%がより好ましい。また、スメクタイトを塩酸等の酸と接触させて、層間のナトリウムイオンをプロトンに置換した酸処理スメクタイトを使用することもできる。
【0054】
ここで、有機化合物、リン化合物、およびスメクタイト、必要に応じてその他の化合物を混合する方法は、これらを均一に混合可能であれば、特に制限されない。例えば、乳鉢ですりつぶしながら混合したり、ボールミル等によって粉砕しながら混合したり、水や有機溶媒に溶解、混和あるいは分散させて混合したり、有機化合物またはリン化合物自体が液体である場合は、これらにその他の成分を溶解、混和あるいは分散させて混合したりしてもよい。液体状の混合物は乾燥させてもよいし、そのまま次の工程に用いてもよい。副反応を抑制する観点から、混合物は固体状であることが好ましい。有機化合物とリン化合物とスメクタイトとをいずれも固体の状態で混合すると、有機化合物およびリン化合物の一部がスメクタイトの層間に入りこむことによって、適量が反応に供されると考えられ、より好ましい。スメクタイトの層間は狭いため、有機化合物の集合体が形成されづらくなって、粒子径の揃った炭素量子ドットが調製されやすくなる。
【0055】
また、有機化合物およびリン化合物とスメクタイトとの混合比は、所望のリン含有炭素量子ドットとスメクタイトとの含有比に合わせて適宜選択される。
【0056】
(1-2)焼成工程
焼成工程は、上述の混合物を加熱し、有機化合物やリン化合物等をスメクタイトと共に焼成してリン含有炭素量子ドットとスメクタイトとを含有する組成物を得る工程である。混合物の加熱方法は、有機化合物やリン化合物等を反応させてリン含有炭素量子ドットを調製可能であれば特に制限されず、例えば加熱する方法や、マイクロ波を照射する方法等が含まれる。
【0057】
混合物を加熱する場合、加熱温度は70~700℃が好ましく、100~500℃がより好ましく、100~300℃がさらに好ましい。また、加熱時間は0.01~45時間が好ましく、0.1~30時間がより好ましく、0.5~10時間がさらに好ましい。加熱時間によって、得られるリン含有炭素量子ドットの粒子径、ひいては極大発光波長を調整できる。またこのとき、窒素等の不活性ガスを流通させながら非酸化性雰囲気で加熱を行ってもよい。
【0058】
マイクロ波を照射する場合、ワット数は1~1500Wが好ましく、1~1000Wがより好ましい。また、マイクロ波による加熱時間は0.01~10時間が好ましく、0.01~5時間がより好ましく、0.01~1時間がさらに好ましい。マイクロ波の照射時間によって、得られるリン含有炭素量子ドットの粒子径、ひいては極大発光波長を調整できる。
【0059】
当該焼成工程により、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとが均一に分散された組成物が得られる。またこのとき、当該組成物を有機溶媒で洗浄して、未反応物や副生物を除去して精製してもよい。また、必要に応じてさらに溶媒を加え、リン含有炭素量子ドットやスメクタイトを、溶媒に分散させて液体状の組成物としてもよい。
【0060】
(2)第2の方法
上述の組成物を調製する方法の第2の方法は、反応性基を有する有機化合物およびリン化合物の混合物を調製する工程(混合物調製工程)と、混合物を加熱し、リンをヘテロ原子として含むリン含有炭素量子ドットを得る工程(焼成工程)と、リン含有炭素量子ドットおよびスメクタイトを混合する工程(組成物調製工程)と、を含む。当該方法では、リン含有炭素量子ドットを調製した後、当該リン含有炭素量子ドットをスメクタイトと混合する。当該方法においても、リン含有炭素量子ドットとスメクタイトとを十分に混合することで、リン含有炭素量子ドットを組成物中に微分散させることができる。以下、各工程について説明する。
【0061】
(2-1)混合物調製工程
混合物調製工程では、反応性基を有する有機化合物と、リンを含むリン化合物とを混合し、混合物を調製する。このとき、窒素、ホウ素、硫黄、ケイ素、フッ素を含む化合物(その他の化合物)をさらに混合してもよい。有機化合物やリン化合物、その他の化合物については、上述の第1の方法で使用するものと同様である。また、有機化合物やリン化合物、その他の化合物を混合する方法は、これらを均一に混合可能であれば、特に制限されない。例えば、乳鉢ですりつぶしながら混合したり、ボールミル等によって粉砕しながら混合したり、水や有機溶媒に溶解、混和あるいは分散させて混合したり、有機化合物またはリン化合物自体が液体である場合は、これらにその他の成分を溶解、混和あるいは分散させて混合したりしてもよい。液体状の混合物は乾燥させてもよいし、そのまま次の工程に用いてもよい。副反応を抑制する観点から、混合物は固体状であることが好ましい。
【0062】
また、有機化合物やリン化合物、その他の化合物の混合比は、リン含有炭素量子ドット中のリンの量や、リン以外のヘテロ原子の量に合わせて適宜選択される。
【0063】
(2-2)焼成工程
焼成工程は、上述の混合物調製工程で調製した混合物を加熱し、有機化合物やリン化合物等を反応させてリン含有炭素量子ドットとする工程である。混合物の加熱方法は、有機化合物やリン化合物等を反応させて、リン含有炭素量子ドットを調製可能であれば特に制限されず、例えば加熱する方法や、マイクロ波を照射する方法等が含まれる。当該加熱方法や、マイクロ波の照射方法は、第1の調製方法の焼成工程と同様である。
【0064】
(2-3)組成物調製工程
上述の焼成工程で得られたリン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとを混合する。これにより、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとが均一に分散された組成物が得られる。リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとの混合は、乳鉢ですりつぶしながら行ってもよく、ボールミル等によって粉砕しながら混合したり、水や有機溶媒に分散させて混合したりしてもよい。また、混合前のリン含有炭素量子ドット、または混合後に当該組成物を有機溶媒で洗浄して、未反応物や副生物を除去して精製してもよい。液体状の混合物は乾燥させてもよいし、そのまま、組成物として使用してもよい。また、必要に応じてさらに溶媒を加え、リン含有炭素量子ドットやスメクタイトを、溶媒に分散させて液体状の組成物としてもよい。
【0065】
(用途)
上述のリン含有炭素量子ドットおよびスメクタイトを含む組成物は、発光性が良好であったり、リン含有炭素量子ドットが有する官能基を利用して特定物質を分離させる分離剤として有用であったりする。したがって、当該組成物は各種用途に利用可能である。
【0066】
また、上述の組成物の用途は、特に制限されず、炭素量子ドットの性能に合わせて、例えば太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク、量子ドットレーザ、バイオマーカー、照明材料、熱電材料、光触媒、特定物質の分離剤等に使用できる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
(1)組成物の調製
サポナイト(スメクトンSA、クニミネ工業社製)0.1gと、フロログルシノール二水和物0.015gと、酸化リン(V)0.013gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットと、サポナイト(スメクタイト)と、を含む組成物(複合体)を調製した。
【0069】
(2)発光特性の評価
上記で得られた組成物をKBrプレートに挟み、プレスして測定用サンプルを作製した。積分球ユニットILF-835付属の分光蛍光光度計FP-8500(日本分光社製)を用いて、当該測定用サンプルの固体状態での発光波長(極大発光波長)、蛍光量子収率を評価した。励起光は、組成物の蛍光量子収率が最大となる波長の光とした。
【0070】
[実施例2]
サポナイト1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gと、リン酸0.091gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットと、サポナイト(スメクタイト)と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0071】
(層状粘土鉱物含有量の評価)
蛍光X線分析装置ZSX Primus IV(リガク社製)を用いて、組成物の元素分析を行った。組成物0.1gのケイ素由来のピーク強度と、原料として用いたサポナイト0.1gのケイ素由来のピーク強度とを比較し、組成物中の層状粘土鉱物含有量を評価した。結果を表2に示す。
【0072】
[実施例3]
サポナイト0.1gと、フロログルシノール二水和物0.04gと、酸化リン(V)0.035gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットと、サポナイト(スメクタイト)と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。また、以下の方法で、表面官能基を評価した。
【0073】
(表面官能基の評価)
試料と臭化カリウムを粉砕、希釈混合し、加圧成形して臭化カリウム錠剤を作製した。フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-4100(日本分光社製)を用いて、当該臭化カリウム錠剤の赤外吸収スペクトルを測定した。得られた赤外吸収スペクトルを
図1に示す。
【0074】
[実施例4]
サポナイト0.1gと、フロログルシノール二水和物0.015gと、酸化リン(V)0.013gと、ホウ酸0.0057gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。また、実施例2と同様に、組成物中の層状粘土鉱物含有量を評価した。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例5]
サポナイト0.1gと、2,6-ジアミノピリジン0.01gと、レゾルシノール0.01gと、酸化リン(V)0.013gと、を乳鉢ですりつぶした。なお、2,6-ジアミノピリジンは、アセトンとクロロホルムを用いて再結晶したものを用いた。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットと、サポナイト(スメクタイト)と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0076】
[実施例6]
フロログルシノール二水和物0.08gと、ジシアンジアミド0.01gと、リン酸0.007gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を、内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で10分間加熱し、リン含有炭素量子ドットを合成した。合成したリン含有炭素量子ドットを0.01g測り取り、サポナイト0.09gとともに乳鉢ですりつぶすことで両者を混合し、リン含有炭素量子ドットとサポナイト(スメクタイト)とを含む組成物を得た。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。また、実施例2と同様に、組成物中の層状粘土鉱物含有量を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
[実施例7]
サポナイト(スメクトンSA、クニミネ工業社製)5.0gをイオン交換水250mLに分散させ、撹拌下、塩酸を加えてpH4とした水分散液を3日静置した。次に、水分散液を1300rpmで10分間遠心分離し、得られたゲル状固体をイオン交換水に再分散させ、再度遠心分離を行う操作を繰り返し行った。回収したゲル状固体を90℃で真空乾燥し、白色固体(以下、酸処理サポナイトという)を得た。
上記の酸処理サポナイト0.1gと、フロログルシノール二水和物0.015gと、酸化リン(V)0.065gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットと、酸処理サポナイトと、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0078】
[比較例1]
フロログルシノール二水和物0.15gと、酸化リン(V)0.06gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、調製したリン含有炭素量子ドットの発光特性を評価した。
【0079】
[比較例2]
フロログルシノール二水和物0.15gと、リン酸0.091gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、リン含有炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、調製したリン含有炭素量子ドットの発光特性を評価した。
【0080】
[比較例3]
サポナイト1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、サポナイト(スメクタイト)と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0081】
[比較例4]
ハイドロタルサイト0.1gと、クエン酸0.03gと、ジシアンジアミド0.02gと、酸化リン(V)0.055gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、リン含有炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0082】
[比較例5]
ハイドロタルサイト0.5gと、クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0083】
[比較例6]
サポナイト1.0gと、2,6-ジアミノピリジン0.01gと、レゾルシノール0.01gと、を乳鉢ですりつぶした。なお、2,6-ジアミノピリジンは、アセトンとクロロホルムを用いて再結晶したものを用いた。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、サポナイト(スメクタイト)と、を含む組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0084】
[比較例7]
フロログルシノール二水和物0.08gと、ジシアンジアミド0.01gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を、内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で10分間加熱し、炭素量子ドットを合成した。合成した炭素量子ドットを0.01g測り取り、サポナイト0.09gとともに乳鉢ですりつぶすことで両者を混合し、組成物を得た。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0085】
[比較例8]
内容積15mlのねじ口試験管内で、サポナイト1.0gに対して、フルフリルアルコール(液体)0.15gを含侵させ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。実施例1と同様に、調製した組成物の発光特性を評価した。
【0086】
【0087】
【0088】
上記表1に示されるように、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとを含む実施例1~7では、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとの混合方法にかかわらず、発光極大波長が550nmを超え、さらには固体発光量子収率が3%以上であった。
【0089】
ここで、比較例4と比較例5は炭素量子ドットがヘテロ原子としてリンを含むか否か以外は同一である。なお、これらの比較例4および5は、いずれも組成物がスメクタイトを含まない。そして、これらの結果を比較すると、リンを含まないほうが(比較例5のほうが)発光量子収率が高かった。また、極大発光波長に大きな変化がなかった。つまり、炭素量子ドットがリンをヘテロ原子として含むだけでは、極大波長を長くしたり、発光量子収率が高めることは難しい、といえる。
【0090】
一方、実施例1~3、および比較例3は、炭素量子ドットがヘテロ原子としてリンを含むか否か、以外は同一である。これらは、いずれもスメクタイト(サポナイト)を含む。そして、これらの結果を比較すると、リンを含む実施例1~3のほうが、発光極大波長が大幅に長くなった。また、同様に炭素量子ドットがヘテロ原子としてリンを含むか否か以外は同一である実施例5と比較例6との比較、および実施例6と比較例7との比較においても、同様の結果となった。上記の結果から、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとを混合して初めて、極大波長を長くできることが明らかである。また、リン含有炭素量子ドットと、スメクタイトとを含む組成物のほうが、固体発光量子収率も向上した。
【0091】
また、実施例1と、サポナイトを含まない以外は実施例1と同様の比較例1と、を比較すると、比較例1では、発光が確認されないのに対し、実施例1では、固体発光量子収率が15%と非常に高かった。同様に、実施例2と、サポナイトを含まない以外は実施例2と同様の比較例2と、を比較した場合にも、同様の結果であった。
【0092】
さらに、サポナイトと液体の有機化合物とを混合して、加熱を行った場合には、発光が見られなかった(比較例8)。
【0093】
なお、
図1に示すように、実施例3で調製した組成物の赤外吸収スペクトルでは、1155cm
-1、1242cm
-1、1458cm
-1において吸収ピークが観察された。これらはそれぞれ、リン酸化したC-O結合、P=O結合、リンが結合した芳香環に由来すると考えられる。このことから、実施例3で作製した組成物中のリン含有炭素量子ドットは、表面官能基としてリン酸エステル構造やホスホン酸エステル構造を有する、といえる。
【0094】
さらに、表2に示されるように、実施例2、4、6では、スメクタイト(サポナイト)の量が、組成物の量に対して40~99質量%であり、いずれも固体発光量子収率が高かった。
【0095】
本出願は、2020年5月21日出願の特願2020-088999号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の組成物は、極大発光波長が比較的長く、かつその固体発光量子効率が良好である。したがって、当該組成物を各種用途に使用可能である。