(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】全固体電池製造用スラリー組成物及び全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20221220BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20221220BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20221220BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20221220BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20221220BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20221220BHJP
H01M 4/139 20100101ALN20221220BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20221220BHJP
H01M 10/0585 20100101ALN20221220BHJP
【FI】
H01M10/0562
C08F220/18
C08K3/105
C08L33/06
H01G4/30 201L
H01M4/48
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2022544772
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2022027177
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2021116463
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大塚 丈
(72)【発明者】
【氏名】山内 健司
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/075208(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203042(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235907(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/026285(WO,A1)
【文献】特開2013-149630(JP,A)
【文献】特開2008-123831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
C08F 220/18
C08K 3/105
C08L 33/06
H01G 4/30
H01M 4/48
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒、バインダー樹脂及びアルカリ金属を含む無機粉体を含有し、
前記バインダー樹脂は、炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント(A)と、炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント及び芳香族基を有する化合物に由来するセグメントからなる群から選択される少なくとも1種のセグメント(B)を含有し、
セグメント(A)とセグメント(B)との合計が70重量%以上であり、
pHが11以上であ
る、全固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項2】
バインダー樹脂は、セグメント(A)を20~90重量%含有する、請求項1に記載の全固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂は、セグメント(B)を10~80重量%含有する、請求項1又は2に記載の全固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項4】
無機粉体はリチウムを含む、請求項1又は2に記載の全固体電池製造用スラリー組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の全固体電池製造用スラリー組成物を用いて無機粉体シートを得る工程、前記無機粉体シートを600℃以下で焼成する工程を含む、全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池製造用スラリー組成物及び全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、充放電のサイクル特性に優れるため、多くの電子機器の電源として広く用いられている。一方で、リチウムイオン電池には可燃性の有機溶媒が封入されており、液漏れや爆発等の事故が多発していることから、近年では、無機系固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池(以下「全固体電池」ともいう)が検討されている。全固体電池の製造では、無機電解質とバインダー樹脂とを有機溶媒に分散させたスラリー組成物を塗工乾燥することで均一な厚みの無機粉体シートを作製し、これらを重ねて電池を形成し、焼成することでバインダー樹脂を取り除く、湿式法と呼ばれる工程が用いられる。バインダー樹脂は、塗工によって厚みを制御したり、シートの積層の際に必要になるが、積層体中に残った状態では電気抵抗となって電池の性能に悪影響を及ぼすため、焼成により取り除く必要がある。このため、バインダー樹脂としては、脱脂性に特に優れるアクリル樹脂や、無機粉体の分散性やシート強度に優れるポリビニルアセタール樹脂が用いられている。
【0003】
また、近年、全固体電池の高性能化を実現するうえで、電解質と活物質との間での界面抵抗が問題となっており、このような問題を解決するため、例えば、特許文献1では、高抵抗部位の形成を抑制する抵抗層形成抑制コート層を有する活物質を用いることが開示されている。
また、特許文献2には、界面抵抗低減のために、アルカリ性化合物を有する酸化物粒子の表面の一部又は全部に中和生成物を有する酸化物粒子とすることが開示されている。
更に、特許文献3には、分散質としてガーネット型の固体電解質粒子と、リチウム及びホウ素を含有する化合物粒子とが分散媒に分散された固体電解質スラリーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-266728号公報
【文献】特許第5825455号公報
【文献】特開2021-51912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、アルカリ金属を含む化合物で活物質を被覆するため、スラリー組成物とした際、スラリーが強アルカリ性となってしまい、バインダー樹脂がゲル化してしまうという問題がある。
また、特許文献2では、酸化物粒子を中和生成物で被覆する表面処理を行っているが、このような方法でも、得られるスラリーは強アルカリ性を示し、バインダー樹脂のゲル化の問題が生じる。
更に、特許文献3では、水分によるリチウム及びホウ素を含有する化合物の分解を抑制するために、分散媒である有機溶媒中の水分量を0.007質量%以下に低減しなければならず、生産設備全体を絶乾状態で管理する必要があり、生産設備に多大なコストがかかってしまうという問題があり、より簡易に製造できるスラリーが求められている。
【0006】
本発明は、アルカリ金属を含む無機粉体を用いて全固体電池を製造する際に酸性化合物を用いて中和したり、大掛かりなドライルーム等の設備投資を行わなくてもゲル化を抑制でき、かつ、バインダー樹脂の脱脂が容易で比較的低温で焼成できる全固体電池製造用スラリー組成物を提供することを目的とする。また、該全固体電池製造用スラリー組成物を用いる全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示(1)は、有機溶媒、バインダー樹脂及びアルカリ金属を含む無機粉体を含有し、前記バインダー樹脂は、炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント(A)と、炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント及び芳香族基を有する化合物に由来するセグメントからなる群から選択される少なくとも1種のセグメント(B)を含有し、セグメント(A)とセグメント(B)との合計が70重量%以上であり、pHが11以上である、全固体電池製造用スラリー組成物である。
本開示(2)は、バインダー樹脂は、セグメント(A)を20~90重量%含有する本開示(1)の全固体電池製造用スラリー組成物である。
本開示(3)は、バインダー樹脂は、セグメント(B)を10~80重量%含有する本開示(1)又は(2)の全固体電池製造用スラリー組成物である。
本開示(4)は、無機粉体はリチウムを含む本開示(1)~(3)の何れかとの任意の組み合わせの全固体電池製造用スラリー組成物である。
本開示(5)は、本開示(1)~(4)の何れかの全固体電池製造用スラリー組成物を用いて無機粉体シートを得る工程、前記無機粉体シートを600℃以下で焼成する工程を含む全固体電池の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、特定のセグメントを有するバインダー樹脂を用いることで、アルカリ金属を含む無機粉体を用いて全固体電池を製造する際に酸性化合物を用いて中和したり、大掛かりなドライルーム等の設備投資を行わなくてもゲル化を抑制でき、かつ、バインダー樹脂の脱脂が容易で比較的低温で焼成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
<バインダー樹脂>
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物は、バインダー樹脂を含有する。
上記バインダー樹脂は、炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント(A)と、炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント及び芳香族基を有する化合物に由来するセグメントからなる群から選択される少なくとも1種のセグメント(B)を含有し、セグメント(A)とセグメント(B)との合計が70重量%以上である。
上記バインダー樹脂を用いることで、アルカリ金属を含む無機粉体を用いて全固体電池を製造する際に酸性化合物を用いて中和したり、大掛かりなドライルーム等の設備投資を行わなくてもゲル化を抑制でき、かつ、バインダー樹脂の脱脂が容易で比較的低温で焼成できる。
【0010】
上記炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なかでも、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートが好ましく、イソブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、イソステアリルメタクリレートがより好ましい。
また、上記炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基の炭素数は、3以上であり、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましく、20以下であり、18以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、12以下であることが更に好ましい。上記炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基の炭素数が上記範囲内であると、アルカリ条件下でのゲル化をさらに抑制しつつ、取り扱い性の良好な全固体電池製造用スラリー組成物を得ることができる。
【0011】
上記バインダー樹脂における、上記炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント(A)の含有量は、20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、35重量%以上であることが更に好ましく、90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることが更に好ましい。上記バインダー樹脂における、上記炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント(A)の含有量が上記範囲内であると、アルカリ条件下でのゲル化をさらに抑制しつつ、得られる無機粉体シートの可塑性と低温分解性を充分に高めることができ、取り扱い性の良好な全固体電池製造用スラリー組成物を得ることができる。
【0012】
上記炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-50℃以上であることが好ましく、-45℃以上であることがより好ましく、110℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることが更に好ましい。
上記ホモポリマーのTgは、例えば、示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0013】
上記炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、炭素数5~20の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、炭素数5~20の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
上記炭素数5~20の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記炭素数5~20の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なかでも、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートがより好ましい。
また、上記炭素数5~20の環式炭化水素基の炭素数は、5以上であり、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。また、20以下であり、18以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、12以下であることが更に好ましく、10以下であることが更により好ましく、8以下であることが特に好ましく、7以下であることがとりわけ好ましく、6以下であることが最も好ましい。
更に、上記炭素数5~20の環式炭化水素基は、多環式の炭化水素基でもよく、単環式の炭化水素基でもよいが、単環式の炭化水素基が好ましい。また、上記炭素数5~20の環式炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく、脂環式炭化水素基でもよいが、脂環式炭化水素基が好ましい。
【0014】
上記バインダー樹脂における、上記炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントの含有量は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、20重量%以上であることが更に好ましく、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、65重量%以下であることが更に好ましい。上記バインダー樹脂における、上記炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントの含有量が上記範囲内であると、アルカリ条件下でのゲル化をさらに抑制しつつ、得られる無機粉体シートの強度と低温分解性を充分に高めることができ、取り扱い性の良好な全固体電池製造用スラリー組成物を得ることができる。
【0015】
上記炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、190℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましい。
上記ホモポリマーのTgは、例えば、示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0016】
上記芳香族基を有する化合物は、上記炭素数5~20の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとは異なるものである。
上記芳香族基を有する化合物としては、例えば、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-もしくはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。
なかでも、スチレンが好ましい。
【0017】
上記芳香族基を有する化合物は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、140℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましい。
上記ホモポリマーのTgは、例えば、示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0018】
また、上記芳香族基を有する化合物に由来するセグメントは、芳香族基を有する芳香族ジカルボン酸とジオールとが縮合した芳香族エステル単位であってもよい。
上記ジカルボン酸としては、o-フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、デカメチレンカルボン酸等が挙げられる。
上記ジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール)、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール等が挙げられる。
なかでも、ジカルボン酸がテレフタル酸、ジオールがエチレングリコールであるエチレンテレフタレート単位が好ましい。
【0019】
上記芳香族エステル単位により構成されるポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
上記芳香族エステル単位により構成されるポリマーのガラス転移温度は、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましい。
上記ホモポリマーのTgは、例えば、示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0020】
上記バインダー樹脂における、上記芳香族基を有する化合物に由来するセグメントの含有量は、0重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、40重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。
【0021】
上記バインダー樹脂における、上記炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント及び上記芳香族基を有するセグメントからなる群から選択される少なくとも1種のセグメント(B)の含有量は、上記炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント及び上記芳香族基を有するセグメントの合計含有量を意味する、
上記セグメント(B)の含有量は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。上記バインダー樹脂における、上記セグメント(B)の含有量が上記範囲内であると、得られる無機粉体シートの強度を充分に高めることができ、取り扱い性の良好な全固体電池製造用スラリー組成物を得ることができる。
【0022】
上記バインダー樹脂における、上記セグメント(A)及び上記セグメント(B)の合計含有量は、70重量%以上である。
上記合計含有量が70重量%以上であることで、アルカリ金属を含む無機粉体を用いて全固体電池を製造する際に酸性化合物を用いて中和したり、大掛かりなドライルーム等の設備投資を行わなくてもゲル化を抑制でき、かつ、バインダー樹脂の脱脂が容易で比較的低温で焼成できる。
上記合計含有量は、75重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることが更に好ましく、90重量%以上であることが更により好ましく、95重量%以上であることが特に好ましく、通常100重量%以下である。
【0023】
上記バインダー樹脂における、上記セグメント(A)の含有量と上記セグメント(B)の含有量との比(セグメント(A)の含有量/セグメント(B)の含有量)は、0.25以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、18以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましい。上記バインダー樹脂における、上記セグメント(A)の含有量と上記セグメント(B)の含有量との比が上記範囲内であると、得られる無機粉体シートの靭性と低温分解性を充分に高めることができ、取り扱い性の良好な全固体電池製造用スラリー組成物を得ることができる。
【0024】
上記バインダー樹脂は、上記セグメント(A)、上記セグメント(B)の他、直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント、炭素数21以上の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント、炭素数3~4の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント、炭素数21以上の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント、極性基を有する(メタ)アクリル酸エステル等の他のセグメント(C)を有していてもよい。
また、上記バインダー樹脂は、低温焼結性及びアルカリ条件下でのゲル化抑制の観点かから、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを有しないことが好ましく、直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを有しないことが好ましい。
【0025】
上記直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記炭素数21以上の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、イソヘンイコサン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記炭素数3~4の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記炭素数21以上の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘンイコサン基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
上記極性基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、極性基として、水酸基、アミド基、アミノ基等を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミド基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、及びN-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
アミド基又はアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、及びN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0027】
上記バインダー樹脂における、上記セグメント(C)の含有量は、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが更により好ましく、5重量%以下であることが特に好ましく、3重量%以下であることがとりわけ好ましい。
【0028】
上記バインダー樹脂は、ISO-1133によるメルトフローインデックス(MFR値)が10g/10分以下であることが好ましい。
MFR値は、好ましくは8g/10分以下、より好ましくは6g/10分以下、更に好ましくは4g/10分以下であり、下限は特に限定されないが、例えば0g/10分以上である。
上記MFR値が上記上限以下であると、得られる無機粉体シートの強度を充分に高めることができ、取り扱い性に優れるとともに、より薄い無機粉体シートを作製することができる。
【0029】
上記バインダー樹脂は、ポリスチレン換算による重量平均分子量の好ましい下限が10万、好ましい上限は300万である。
上記重量平均分子量を10万以上とすることで、全固体電池製造用スラリー組成物は、充分な粘度を有するものとなり、上記重量平均分子量を300万以下とすることで、印刷性を向上させることが可能となる。
上記重量平均分子量のより好ましい下限は20万であり、より好ましい上限は150万である。
特に、上記バインダー樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量が20万~150万であると、後述する有機溶媒を用いることで少量の樹脂で充分な粘度が確保でき、かつ、糸曳きが少ないスラリー組成物が得られるため好ましい。
また、上記バインダー樹脂は、ポリスチレン換算による数平均分子量の好ましい下限が3.3万、より好ましい下限が8.0万、好ましい上限が45万、より好ましい上限が35万である。
【0030】
また、上記バインダー樹脂は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2以上8以下であることが好ましい。
このような範囲内とすることで、低重合度の成分が適度に含有されるため、全固体電池製造用スラリー組成物の粘度が好適な範囲となり、生産性を高めることができる。また、得られる無機粉体シートのシート強度を適度なものとできる。
また、上記Mw/Mnが2未満であると塗工時のレベリング性が悪く、無機粉体シートの平滑性が悪化する場合がある。Mw/Mnが8よりも大きいと、高分子量成分が多くなるため、無機粉体シートの乾燥性が悪く、表面平滑性が悪化する場合がある。
上記Mw/Mnは3以上8以下であることがより好ましい。
なお、ポリスチレン換算による重量平均分子量、数平均分子量は、カラムとして例えばカラムLF-804(昭和電工社製)を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0031】
上記バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-40℃以上であることが好ましく、-20℃以上であることがより好ましく、9℃以上であることが更に好ましい。上記バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、105℃未満であることが好ましく、75℃未満であることがより好ましく、40℃未満であることが更に好ましい。
上記ガラス転移温度が上記範囲内であることで、可塑剤の添加量を少なくすることができ、上記バインダー樹脂の持つ低温分解性を向上させることができる。
なお、上記Tgは、例えば、示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0032】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物における上記バインダー樹脂の含有量は、1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上であることがより好ましく、4重量%以上であることが更に好ましく、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、8重量%以下であることが更に好ましい。
【0033】
上記バインダー樹脂を製造する方法は特に限定されないが、例えば、炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族基を有する化合物等を含む原料モノマー混合物を有機溶媒等に加えてモノマー混合液を調整する。更に、得られたモノマー混合液に重合開始剤を添加して、上記原料モノマーを共重合させる方法が挙げられる。
重合させる方法は特に限定されず、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、界面重合、溶液重合等が挙げられる。なかでも、溶液重合が好ましい。
【0034】
上記重合開始剤としては、例えば、P-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロキシパーオキサイド、t-ブチルハイドロキシパーオキサイド、過酸化シクロヘキサノン、ジコハク酸パーオキサイド等が挙げられる。
これらの市販品としては、例えば、パーメンタH、パークミルP、パーオクタH、パークミルH-80、パーブチルH-69、パーヘキサH、パーロイルSA(いずれも日油社製)等が挙げられる。
【0035】
本発明の別の実施態様においては、加水分解性が15%以下であるバインダー樹脂が提供される。上記加水分解性は、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、更に好ましくは5%以下、更により好ましくは3%以下、特に好ましくは1.5%以下であり、例えば0%以上である。上記加水分解性が上記上限以下であると、ゲル化抑制効果をより高めることができる。ゲル化を抑制することにより、無機粉体の分散性を向上させることができ、高い電池性能を有する全固体電池の製造をもたらすことができる。
上記加水分解性は、例えば、以下の方法により測定することができる。
まず、バインダー樹脂を酢酸エチルに溶解させて樹脂固形物15重量%の溶液を得た後、この溶液を縦50mm、横50mmのPET離型フィルム上に塗布する。次に、100℃で5分間乾燥して溶媒を除去し、PET離型フィルムから剥離することで、縦50mm、横50mm、厚み50μmのフィルム状のバインダー樹脂を得る。このフィルム状のバインダー樹脂を0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液10gに80℃で1週間浸漬し、その後、核磁気共鳴(NMR)測定を行い、加水分解で生成したアルコール量の定量を行い、下記式(1)を用いて加水分解性を求めることができる。
加水分解性(%)=(A1/A2)×100 (1)
式(1)中、A1は生成したアルコールのモル数、A2はバインダー樹脂のモノマー換算モル数を表す。
バインダー樹脂のモノマー換算モル数は、下記式(2)を用いて求めることができる。
バインダー樹脂のモノマー換算モル数=Σ(B×ri/Mi) (2)
式(2)中、Bは試験片のバインダー樹脂の重量を表し、riはバインダー樹脂中のモノマーi成分の配合率を表し、Miはi成分のモノマーの分子量を表す。
上記加水分解性が15%以下であるバインダー樹脂は、例えば、上記した、セグメント(A)とセグメント(B)を含有し、セグメント(A)とセグメント(B)との合計が70重量%以上であるバインダー樹脂(特に(メタ)アクリル樹脂)であってよく、該バインダー樹脂を製造するための上述した方法により得ることができる。
【0036】
<有機溶媒>
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物は、有機溶媒を含有する。
上記有機溶媒としては、例えば、芳香族系化合物、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び酢酸エステル化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記有機溶媒を含有することで、無機粉体シートを作製する際に、塗工性、乾燥性、無機粉体の分散性等に優れたものであることが好ましい。
【0037】
上記芳香族系化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メチルベンジルキシレン、1,4-ジメチル-2-(1-フェニルエチル)ベンゼン、エチルベンゼン等のアルキルベンゼン等の芳香族炭化水素、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール等の芳香族アルコール、アセトフェノン等の芳香族ケトン等が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、n-ヘプタン、イソペンタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン等のほか、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、α-オレフィン、イソブチレン誘導体等のオレフィン系溶剤が挙げられる。芳香族系化合物としては芳香族炭化水素及び芳香族アルコールが好ましい。
上記脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等のアルキルシクロヘキサン等が挙げられる。
上記酢酸エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル等が挙げられる。
なかでも、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、酢酸ヘキシルが好ましい。
なお、これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記有機溶媒の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下、更により好ましくは190℃以下である。
上記沸点が上記下限以上であると、蒸発が早くなりすぎず、取り扱い性をより向上させることができる。上記沸点が上記上限以下であると、無機粉体シートへの有機溶媒の残留を少なくすることができ、シート強度を向上させることが可能となり、また、印刷性を更に向上させることができる。
【0039】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物における上記有機溶媒の含有量は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることが更に好ましく、40重量%以上であることが更により好ましく、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。
上記範囲内とすることで、塗工性、無機粉体の分散性を向上させることができる。
【0040】
<無機粉体>
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物は、無機粉体を含有する。
上記無機粉体は、アルカリ金属を含有する。
上記無機粉体を含有することで、得られる電池の特性を充分に高めることができる。
上記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムであり、リチウムが好ましい。
【0041】
上記アルカリ金属を含有する無機粉体としては、例えば、Li2S-P2S5系材料、Li2S-GeS2系材料、Li2S-GeS2-P2S5系材料、Li2S-SiS2系材料、Li2S-B2S3系材料、Li3PO4-P2S5系材料等の硫化物材料が挙げられる。また、上記硫化物材料にハロゲン化リチウムを添加した材料(例、LiI-Li2S-P2S5、LiCl-LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-B2S3等)が挙げられる。なかでも、Li2S-P2S5系材料の硫化物系無機粉体は高価な希土類を含まず、高いイオン電導性をもつため好ましい。
また、容量の大きな電池を設計するためにLiを含有するアルカリ金属酸化物からなる活物質を用いることが好ましい。具体的には、Li7La3Zr2O12等のリチウムランタンジルコニウム含有複合酸化物(LLZ系)、Alドープ-LLZO、リチウムランタンチタン含有複合酸化物(LLT系)、Alドープ-LLT系、リン酸リチウム系等の複合酸化物材料等が挙げられる。また、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウム-マンガン-ニッケル化合物等が挙げられる。
【0042】
上記無機粉体は、リチウム金属化合物でコーティングされていてもよい。
コーティングに用いるリチウム金属化合物は特に限定されず、例えば、リチウムニオブ酸、リチウムチタン酸、リチウムケイ酸、リチウムホウケイ酸、リチウムホウ酸、リチウムリン酸、リチウム亜リン酸等が挙げられる。
【0043】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物における上記無機粉体の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限が10重量%、より好ましい下限が20重量%、更に好ましい下限が30重量%、好ましい上限が90重量%、より好ましい上限が80重量%、更に好ましい上限が70重量%、更により好ましい上限が60重量%、特に好ましい上限が50重量%である。上記下限以上とすることで、充分な粘度を有し、優れた塗工性を有するものとでき、上記上限以下とすることで、無機粉体の分散性に優れるものとできる。
【0044】
<その他>
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物は、更に、可塑剤を含有していてもよい。
上記可塑剤としては、分岐鎖状アルキル基を有する化合物、環式炭化水素基を有する化合物、アシル基を3つ以上有する化合物を好適に用いることができる。
上記可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジ(ブトキシエチル)、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ブチル化ベンジル、フタル酸ジイソデシル、トリエチレングリコールジブチル、トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジヘキサノエート、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸ジエチル、アセチルクエン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、アセチルオキシマロン酸ジエチル、エトキシマロン酸ジエチル、トリプロピオニン、ペンタエリスリトールテトラアセテート等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)、フタル酸ブチル化ベンジル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、トリプロピオニン、トリアセチン、ペンタエリスリトールアセテートが好ましい。
【0045】
上記可塑剤の沸点は240℃以上390℃未満であることが好ましい。上記沸点を240℃以上とすることで、乾燥工程で蒸発しやすくなり、成形体への残留を防止できる。また、390℃未満とすることで、残留炭素が生じることを防止できる。なお、上記沸点は、常圧での沸点をいう。
【0046】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物における上記可塑剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、より好ましい下限は0.5重量%、好ましい上限は3.0重量%、より好ましい上限は2.0重量%である。上記範囲内とすることで、可塑剤の焼成残渣を少なくすることができる。
【0047】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物は、更に、有機過酸化物等の焼結助剤を含有していてもよい。
上記有機過酸化物としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチルー2,3-ジフェニルブタン等が挙げられる。
上記有機過酸化物は、10時間半減期温度が150℃以上であることが好ましい。
【0048】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物は、更に、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
上記界面活性剤は特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されないが、HLB値が10以上20以下のノニオン系界面活性剤であることが好ましい。ここで、HLB値とは、界面活性剤の親水性、親油性を表す指標として用いられるものであって、計算方法がいくつか提案されており、例えば、エステル系の界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとし、HLB値を20(1-S/A)等の定義がある。具体的には、脂肪鎖にアルキレンエーテルを付加させたポリエチレンオキサイドを有するノニオン系界面活性剤が好適であり、具体的には例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等が好適に用いられる。なお、上記ノニオン系界面活性剤は、熱分解性がよいが、大量に添加すると全固体電池製造用スラリー組成物の熱分解性が低下することがあるため、含有量の好ましい上限は5重量%である。
【0049】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物のpHは11以上であることが好ましい。
pHが11以上であると、得られる電池の性能を充分に高めることができる。
上記pHは、例えば、pH試験紙等を用いることで確認することができる。
【0050】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物の粘度は特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定した場合の粘度の好ましい下限が0.1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。
上記粘度を0.1Pa・s以上とすることで、ダイコート印刷法等により塗工した後、得られる無機粉体シートが所定の形状を維持することが可能となる。また、上記粘度を100Pa・s以下とすることで、ダイの塗出痕が消えない等の不具合を防止して、印刷性に優れるものとできる。
【0051】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物を作製する方法は特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には、例えば、上記バインダー樹脂、上記無機粉体、上記有機溶媒及び必要に応じて添加される可塑剤等の他の成分を3本ロール、高速撹拌機等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0052】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物を、片面離型処理を施した支持フィルム上に塗工し、有機溶媒を乾燥させ、シート状に成形することで、無機粉体シートを製造することができる。
上記無機粉体シートは、厚みが1~20μmであることが好ましい。
【0053】
上記無機粉体シートの製造方法としては、例えば、本発明の全固体電池製造用スラリー組成物をロールコーター、ダイコーター、スクイズコーター、カーテンコーター等の塗工方式によって支持フィルム上に均一に塗膜を形成する方法等が挙げられる。
【0054】
上記無機粉体シートを製造する際に用いる支持フィルムは、耐熱性及び耐溶剤性を有するとともに可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーター、ブレードコーターなどによって支持フィルムの表面に全固体電池製造用スラリー組成物を塗布することができ、得られる無機粉体シート形成フィルムをロール状に巻回した状態で保存し、供給することができる。
【0055】
上記支持フィルムを形成する樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフロロエチレン等の含フッ素樹脂、ナイロン、セルロース等が挙げられる。
上記支持フィルムの厚みは、例えば、20~100μmが好ましい。
また、支持フィルムの表面には離型処理が施されていることが好ましく、これにより、転写工程において、支持フィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0056】
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物を塗工乾燥することで無機粉体シートを製造することができる。また、上記無機粉体シートを焼成して全固体電池を製造することができる。更に、本発明の全固体電池製造用スラリー組成物、無機粉体シートを、誘電体グリーンシート、電極ペーストに用いることで積層セラミクスコンデンサを製造することもできる。
【0057】
上記全固体電池を製造する方法としては、電極活物質及び電極活物質層用バインダーを含有する電極活物質層用スラリーを成形して電極活物質シートを作製する工程、上記電極活物質シートと上記無機粉体シートとを積層して積層体を作製する工程、及び、上記積層体を焼成する工程とを有する製造方法が挙げられる。
【0058】
上記電極活物質としては特に限定されず、例えば、ガラス粉末、セラミック粉末、蛍光体微粒子、珪素酸化物等、金属微粒子等が挙げられる。
【0059】
上記ガラス粉末は特に限定されず、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末や、CaO-Al2O3-SiO2系、MgO-Al2O3-SiO2系、LiO2-Al2O3-SiO2系等の各種ケイ素酸化物のガラス粉末等が挙げられる。
また、上記ガラス粉末として、SnO-B2O3-P2O5-Al2O3混合物、PbO-B2O3-SiO2混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物、Bi2O3-B2O3-BaO-CuO混合物、Bi2O3-ZnO-B2O3-Al2O3-SrO混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3混合物、Bi2O3-SiO2混合物、P2O5-Na2O-CaO-BaO-Al2O3-B2O3混合物、P2O5-SnO混合物、P2O5-SnO-B2O3混合物、P2O5-SnO-SiO2混合物、CuO-P2O5-RO混合物、SiO2-B2O3-ZnO-Na2O-Li2O-NaF-V2O5混合物、P2O5-ZnO-SnO-R2O-RO混合物、B2O3-SiO2-ZnO混合物、B2O3-SiO2-Al2O3-ZrO2混合物、SiO2-B2O3-ZnO-R2O-RO混合物、SiO2-B2O3-Al2O3-RO-R2O混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物等も用いることができる。なお、Rは、Zn、Ba、Ca、Mg、Sr、Sn、Ni、Fe及びMnからなる群より選択される元素である。
特に、PbO-B2O3-SiO2混合物のガラス粉末や、鉛を含有しないBaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物又はZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物等の無鉛ガラス粉末が好ましい。
【0060】
上記セラミック粉末は特に限定されず、例えば、アルミナ、フェライト、ジルコニア、ジルコン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ランタン、チタン酸ネオジウム、チタン酸ジルコン鉛、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、錫酸バリウム、錫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、フォルステライト等が挙げられる。
また、ITO、FTO、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タングステン、ランタンストロンチウムマンガナイト、ランタンストロンチウムコバルトフェライト、イットリウム安定化ジルコニア、ガドリニウムドープセリア、酸化ニッケル、ランタンクロマイト等も使用することができる。
上記蛍光体微粒子は特に限定されず、例えば、蛍光体物質としては、ディスプレイ用の蛍光体物質として従来知られている青色蛍光体物質、赤色蛍光体物質、緑色蛍光体物質などが用いられる。青色蛍光体物質としては、例えば、MgAl10O17:Eu、Y2SiO5:Ce系、CaWO4:Pb系、BaMgAl14O23:Eu系、BaMgAl16O27:Eu系、BaMg2Al14O23:Eu系、BaMg2Al14O27:Eu系、ZnS:(Ag,Cd)系のものが用いられる。赤色蛍光体物質としては、例えば、Y2O3:Eu系、Y2SiO5:Eu系、Y3Al5O12:Eu系、Zn3(PO4)2:Mn系、YBO3:Eu系、(Y,Gd)BO3:Eu系、GdBO3:Eu系、ScBO3:Eu系、LuBO3:Eu系のものが用いられる。緑色蛍光体物質としては、例えば、Zn2SiO4:Mn系、BaAl12O19:Mn系、SrAl13O19:Mn系、CaAl12O19:Mn系、YBO3:Tb系、BaMgAl14O23:Mn系、LuBO3:Tb系、GdBO3:Tb系、ScBO3:Tb系、Sr6Si3O3Cl4:Eu系のものが用いられる。その他、ZnO:Zn系、ZnS:(Cu,Al)系、ZnS:Ag系、Y2O2S:Eu系、ZnS:Zn系、(Y,Cd)BO3:Eu系、BaMgAl12O23:Eu系のものも用いることができる。
【0061】
上記金属微粒子は特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、アルミニウム、タングステンやこれらの合金等からなる粉末等が挙げられる。
また、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等との吸着特性が良好で酸化されやすい銅や鉄等の金属も好適に用いることができる。これらの金属粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、金属錯体のほか、種々のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等を使用してもよい。
【0062】
上記電極活物質は、リチウム又はチタンを含有することが好ましい。具体的には例えば、LiO2・Al2O3・SiO2系無機ガラス等の低融点ガラス、Li2S-MxSy(M=B、Si、Ge、P)等のリチウム硫黄系ガラス、LiCoO2等のリチウムコバルト複合酸化物、LiMnO4等のリチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムジルコニウム複合酸化物、リチウムハフニウム複合酸化物、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.5P0.5O4)、リン酸チタンリチウム(LiTi2(PO4)3)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、Li4/3Ti5/3O4、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2-SiS系ガラス、Li4GeS4-Li3PS4系ガラス、LiSiO3、LiMn2O4、Li2S-P2S5系ガラス・セラミックス、Li2O-SiO2、Li2O-V2O5-SiO2、LiS-SiS2-Li4SiO4系ガラス、LiPON等のイオン導電性酸化物、Li2O-P2O5-B2O3、Li2O-GeO2Ba等の酸化リチウム化合物、LixAlyTiz(PO4)3系ガラス、LaxLiyTiOz系ガラス、LixGeyPzO4系ガラス、Li7La3Zr2O12系ガラス、LivSiwPxSyClz系ガラス、LiNbO3等のリチウムニオブ酸化物、Li-β-アルミナ等のリチウムアルミナ化合物、Li14Zn(GeO4)4等のリチウム亜鉛酸化物等が挙げられる。
【0063】
上記電極活物質層用バインダーとしては、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の他、(メタ)アクリル樹脂を用いることができる。
【0064】
上記電極活物質シートと上記無機粉体シートとを積層する方法としては、それぞれシート化した後、熱プレスによる熱圧着、熱ラミネート等を行う方法等が挙げられる。
【0065】
上記焼成する工程において、加熱温度の好ましい下限は250℃、好ましい上限は600℃である。
【0066】
上記製造方法により、全固体電池を得ることができる。
上記全固体電池としては、正極活物質を含有する正極層、負極活物質を含有する負極層、及び、正極層と負極層との間に形成された固体電解質層を積層した構造を有することが好ましい。
本発明の全固体電池製造用スラリー組成物を用いて無機粉体シートを得る工程、上記無機粉体シートを600℃以下で焼成する工程を含む全固体電池の製造方法もまた本発明の1つである。
【0067】
上記積層セラミクスコンデンサを製造する方法としては、上記無機粉体シートに導電ペーストを印刷、乾燥して、誘電体シートを作製する工程、及び、前記誘電体シートを積層する工程を有する製造方法が挙げられる。
【0068】
上記導電ペーストは、導電粉末を含有するものである。
上記導電粉末の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅及びこれらの合金等が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
上記導電ペーストを印刷する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ダイコート印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0070】
上記積層セラミクスコンデンサの製造方法では、上記導電ペーストを印刷した誘電体シートを積層することで、積層セラミクスコンデンサが得られる。
【発明の効果】
【0071】
本発明によれば、アルカリ金属を含む無機粉体を用いて全固体電池を製造する際に酸性化合物を用いて中和したり、大掛かりなドライルーム等の設備投資を行わなくてもゲル化を抑制でき、かつ、バインダー樹脂の脱脂が容易で比較的低温で焼成できる全固体電池製造用スラリー組成物を提供することができる。また、該全固体電池製造用スラリー組成物を用いる全固体電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0073】
(実施例1)
冷却管、温度調整可能な油槽、窒素導入管、攪拌羽根を設置したセパラブルフラスコに、表1に示す配合となるように調整した原料モノマー混合物100重量部と、有機溶媒としてトルエン100重量部とを加えた。油槽を80℃に設定し、重合開始剤としてパーロイルL(日油社製)2.5重量部を添加して原料モノマー混合物を重合させた。乾燥法を用いて樹脂固形分を評価したところ、モノマーがほぼ100%重合してポリマーとなっていることを確認した。トルエンを600重量部追加して希釈した後、減圧ポンプ、溶媒トラップをセットし、減圧ポンプで1時間処理して、微量に含まれる未反応モノマーや水分を含有したトルエンを回収して、樹脂固形分が15重量%である樹脂溶液を得た。なお、樹脂固形分は乾燥法により評価した。
高速撹拌機用のポリ容器に、樹脂固形分が4重量部となるように樹脂溶液を秤取し、表1の配合となるように有機溶媒を追加し、可塑剤としてトリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)(PL-1)1重量部を添加し、密閉状態の容器を高速回転させて、樹脂溶液を均一に混合させた。
更に、導電性無機粉体としてLi7La3Zr2O12(豊島製作所社製LLZ)を40重量部添加し、更に容器を密閉状態で高速回転させて無機粉体を分散させ、全固体電池製造用スラリー組成物を作製した。
【0074】
(実施例2~15、17~20、参考例16、比較例1~4)
重合開始剤の添加量、原料モノマー混合物の配合を表1の通りとし、有機溶媒、可塑剤の種類を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして全固体電池製造用スラリー組成物を得た。
【0075】
なお、実施例1~15、17~20、参考例16、比較例1~4において、原料モノマー、可塑剤、無機粉体としては、以下のものを用いた。
<原料モノマー>
(A)炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(アルキル基の炭素数)
tBMA:tert-ブチルメタクリレート(4)
2EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート(8)
iNMA:イソノニルメタクリレート(9)
iDMA:イソデシルメタクリレート(10)
iSMA:イソステアリルメタクリレート(18)
(B)炭素数5~20の環状炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(環状炭化水素基の炭素数)又は芳香族基を有する化合物
St:スチレン
iBoMA:イソボルニルメタクリレート(10)
BZMA:ベンジルメタクリレート(7)
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(6)
(C)他のモノマー
nBMA:ブチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
GMA:グリシジルメタクリレート
<可塑剤>
PL-1:トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)
PL-2:フタル酸ブチル化ベンジル
PL-3:アジピン酸ジイソノニル
PL-4:フタル酸ジイソデシル
PL-5:トリプロピオニン
PL-6:ペンタエリスリトールテトラアセテート
PL-7:アジピン酸ジイソデシル
PL-8:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
PL-9:トリアセチン
<無機粉体>
LLZ:Li7La3Zr2O12(豊島製作所社製)
LLT:リチウムランタンチタン含有複合酸化物(東邦チタニウム社製)
【0076】
<評価>
実施例、参考例、比較例で用いたバインダー樹脂、実施例、参考例、比較例で得られたスラリー組成物について以下の評価を行った。結果を表1及び2に示した。
【0077】
(1)ガラス転移温度(Tg)
得られたバインダー樹脂について、示差走査熱量系(DSC)を用いてガラス転移温度(Tg)を測定した。具体的には、50mL/min流量の窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minにて-150℃から150℃まで温度を評価した。
【0078】
(2)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、Mw/Mn
得られたバインダー樹脂について、カラムとしてLF-804(SHOKO社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。
【0079】
(3)加水分解性
上述した樹脂溶液(樹脂固形分:15重量%)を縦50mm、横50mmのPET離型フィルム上に塗布した。次に、100℃で5分間乾燥した後、PET離型フィルムから剥離することで、縦50mm、横50mm、厚み50μmのフィルム状のバインダー樹脂を得た。このフィルム状のバインダー樹脂を0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶性10gに80℃で1週間浸漬し、その後、核磁気共鳴(NMR)測定を行い、加水分解で生成したアルコール量の定量を行い、下記式(1)を用いて加水分解性を求めた。
加水分解性(%)=(A1/A2)×100 (1)
式(1)中、A1は生成したアルコールのモル数、A2はバインダー樹脂のモノマー換算モル数を表す。
バインダー樹脂のモノマー換算モル数は、下記式(2)を用いて求めた。
バインダー樹脂のモノマー換算モル数=Σ(B×ri/Mi) (2)
式(2)中、Bは試験片のバインダー樹脂の重量を表し、riはバインダー樹脂中のモノマーi成分の配合率を表し、Miはi成分のモノマーの分子量を表す。
【0080】
(4)スラリー組成物のpH
得られたスラリー組成物をスポイトでpH試験紙(アドバンテック社製)に塗布し、変色度からスラリー組成物のpHを測定し、以下の基準で評価した。なお、pHが低い場合、スラリー組成物に含まれるアルカリ金属の量が少なく、得られる電池性能が劣っているといえる。
A:pH11以上で、スラリー組成物が強アルカリ性であった。
B:pH11未満で、スラリー組成物が強アルカリ性ではなかった。
【0081】
(5)スラリー組成物のゲル化
得られたスラリー組成物を含む高速撹拌機用のポリ容器を露点温度-30℃に調整した室内で開封し、スパチュラでかき回して、スラリーのゲル化状態を確認し、以下の基準で評価した。ゲル化を抑制することにより、無機粉体の分散性を向上させることができ、高い電池性能を有する全固体電池を作製することができる。
A:スラリーは流動性を持ち、凝固物等が見られない。
B:スラリーは流動性を持っていたが、1時間以上2時間以内に凝固した。
C:スラリーは流動性を持っていたが、1時間以内に凝固した。
D:スラリーは容器を開けた時点でゲル化していた。
【0082】
(6)スラリー組成物の印刷性
「(5)スラリー組成物のゲル化」において流動性を示したスラリー組成物について、露点-30℃のドライルーム内でガラス板上に固定したテフロン(登録商標)シート上にアプリケーターを用いて塗工し、120℃に設定した送風オーブンで30分間乾燥させ、無機粉体シートを作製し、以下の基準で評価した。印刷性に優れる場合、均一なシートが作製でき、高性能の全固体電池を作製できるといえる。
A:塗工面が平滑でち密なシートが作製できた。
B:カスレやハジキ、にじみが発生する等の不具合が見られた。
C:流動性を示さず、印刷することができなかった。又は、流動性が悪く、厚み一定の塗工ができなかった。
【0083】
(7)無機粉体シートの取り扱い性
「(6)スラリー組成物の印刷性」で得られた無機粉体シートからテフロン(登録商標)シートを剥がし、ピンセットで無機粉体シートを焼成用のセラミック板に乗せ、シートの状態を目視にて確認し、以下の基準で評価した。取り扱い性に優れる場合、電極を作製しやすくなり、電池を作製しやすいといえる。
A:試験片に割れ、ヒビが見られない。
B:試験片にごく僅かな割れ、ヒビが見られた。
C:試験片に割れ、ヒビが見られた。
D:試験片が粉々に割れた。
【0084】
(8)無機粉体シートの焼結性
「(7)無機粉体シートの取り扱い性」において、セラミック板の上に乗せた状態の無機粉体シートを電気炉で焼成した。焼成条件は、600℃で30分間脱脂後、1000℃で5時間保持して焼成を行った。焼成後のシート断面を電子顕微鏡にて観察し、以下の基準で評価した。焼結性が高い場合、均一で不純物の少ないシートを作製でき、より高性能の全固体電池を作製できるといえる。
A:ボイドや焼成残渣(煤)が無く、ち密な無機粉焼結体が得られた。
B:一部に焼成残渣(煤)が見られた。
C:ボイドや焼成残渣(煤)による空隙が所々に見られた。
【0085】
(9)引張試験
得られたバインダー樹脂を離型処理されたPETフィルム上にアプリケーターを用いて塗工し、100℃送付オーブンで10分間乾燥させることで、厚み20μmの樹脂シートを作製した。方眼紙をカバーフィルムとして用い、はさみを用いて幅1cmの短冊状の試験片を作製した。
得られた試験片について、23℃、50RH条件下でオートグラフAG-IS(島津製作所社製)を用いてチャック間距離3cm、引張速度10mm/minにて引張試験を行う、応力-ひずみ特性(最大応力、破断伸度)を確認した。
【0086】
(10)TGDTA
得られたスラリー組成物をTG-DTAのプラチナパンに詰め、30℃から5℃/minにて昇温し、溶剤を蒸発、樹脂、可塑剤を熱分解させた。その後、無機粉体を除く重量のうち90重量%が減少した時間を測定し、分解終了時間とした。
【0087】
【0088】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、アルカリ金属を含む無機粉体を用いて全固体電池を製造する際に酸性化合物を用いて中和したり、大掛かりなドライルーム等の設備投資を行わなくてもゲル化を抑制でき、かつ、バインダー樹脂の脱脂が容易で比較的低温で焼成できる全固体電池製造用スラリー組成物を提供することができる。また、該全固体電池製造用スラリー組成物を用いる全固体電池の製造方法を提供することができる。
【要約】
本発明は、アルカリ金属を含む無機粉体を用いて全固体電池を製造する際に酸性化合物を用いて中和したり、大掛かりなドライルーム等の設備投資を行わなくてもゲル化を抑制でき、かつ、バインダー樹脂の脱脂が容易で比較的低温で焼成できる全固体電池製造用スラリー組成物を提供する。また、本発明は、該全固体電池製造用スラリー組成物を用いる全固体電池の製造方法を提供する。
本発明は、有機溶媒、バインダー樹脂及びアルカリ金属を含む無機粉体を含有し、前記バインダー樹脂は、炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント(A)と、炭素数5~20の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント及び芳香族基を有する化合物に由来するセグメントからなる群から選択される少なくとも1種のセグメント(B)を含有し、セグメント(A)とセグメント(B)との合計が70重量%以上である、全固体電池製造用スラリー組成物である。