(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】マニピュレータ制御装置、及びマニピュレータ制御システム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20221221BHJP
G06N 3/04 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
G06N3/04 154
(21)【出願番号】P 2020181382
(22)【出願日】2020-10-29
(62)【分割の表示】P 2019527098の分割
【原出願日】2018-06-25
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017125681
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018044420
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517227622
【氏名又は名称】石井 正好
(72)【発明者】
【氏名】石井 正好
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-241247(JP,A)
【文献】特開平10-091207(JP,A)
【文献】特開2007-245326(JP,A)
【文献】特開平07-259974(JP,A)
【文献】特開平08-277742(JP,A)
【文献】特開平4-7660(JP,A)
【文献】特開平5-181825(JP,A)
【文献】特開2002-269530(JP,A)
【文献】長田 茂美 Shigemi Nagata,センサフュージョン Sensor Fusion,日本ロボット学会誌 第12巻 第5号 Journal of the Robotics Society of Japan,日本,社団法人日本ロボット学会 Robotics Society of Japan,1994年07月15日,第12巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 13/00
G06N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイマン型コンピュータを利用したソフトウェア上での実装、または、ニューロモーフィック型集積回路を利用したハードウェア上での実装により、
特定の処理機能を有するニューラルネットワークで構成された処理モジュールを、入力側から出力側へ向かう情報伝達方向に対して並列な関係で複数まとめて1つの階層の処理モジュール群とし、相対的に具現的な内容の処理を行う処理モジュールを有する階層を下位とし、相対的に抽象的な内容の処理を行う処理モジュールを有する階層を上位として、階層間で相対的な上位下位関係を有する多階層構造で構築し、
同じ階層の処理モジュールどうしは同じ制御機能レベルにあり、上位にある階層の処理モジュールがそれより下位にある階層の少なくとも1つの処理モジュールの処理の作動を制御するよう処理し、
最下位階層の処理モジュールは、
当該処理モジュールの処理内容に応じて、入力情報と、マニピュレータのアクチュエータへ出力する制御情報との間の相関関係を学習しており、
前記最下位階層より上位にある所定階層の処理モジュールは、
当該処理モジュールの処理内容に応じて、当該所定階層より下位にある階層のどの処理モジュールを作動させるかを学習している、
ことを特徴とするマニピュレータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のマニピュレータ制御装置と、
前記マニピュレータ制御装置により動作が制御されるマニピュレータと、
を備えることを特徴とするマニピュレータ制御システム。
【請求項3】
前記マニピュレータの作業状態を撮像して画像情報を取得可能なカメラをさらに備え、
前記マニピュレータ制御装置は、
前記画像情報に基づいて前記マニピュレータの動作を制御することを特徴とする請求項2記載のマニピュレータ制御システム。
【請求項4】
前記カメラの姿勢情報を検出可能な姿勢センサをさらに備え、
前記マニピュレータ制御装置は、
前記画像情報と前記姿勢情報に基づいて前記マニピュレータの動作を制御することを特徴とする請求項3記載のマニピュレータ制御システム。
【請求項5】
前記マニピュレータ制御装置は、
前記画像情報に基づいて抽出した位置情報を一時的に記憶するバッファを備えていることを特徴とする請求項3又は4に記載のマニピュレータ制御システム。
【請求項6】
前記マニピュレータは、
関節軸における軸位置情報を検出可能なエンコーダを備え、
前記マニピュレータ制御装置は、
帰還情報として入力された前記軸位置情報に基づいて前記マニピュレータの動作を制御することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載のマニピュレータ制御システム。
【請求項7】
前記マニピュレータの動作を制御する空間位置情報として、当該マニピュレータが備える前記関節軸の軸数と同じ次元数の空間位置情報を利用することを特徴とする請求項6記載のマニピュレータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューラルネットワークを用いたマニピュレータの制御処理を実行するマニピュレータ制御装置、及びマニピュレータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ニューラルネットワークを用いた深層強化学習に基づいてバラ積みされたワークをロボットハンドで取り出す制御技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来技術では、ニューラルネットワークはワークを把持させるロボットハンドそのものの位置や姿勢の演算のみに利用するだけであり、その他の各ワークの位置や姿勢などの状態観測や、当該ロボットの駆動源であるモータなどのアクチュエータの動作制御などに関しては、直交座標空間中の座標位置に基づく数値演算やシーケンスをいわゆるノイマン型コンピュータ上のソフトウェア処理によって行っていた。このためニューラルネットワークを用いたニューロ型コンピュータの優位性であるロバスト性(頑健性)を限定的にしか発揮できなかった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ニューラルネットワークで構成して汎用性の高いマニピュレータの制御処理の実行が可能なマニピュレータ制御装置、及びマニピュレータ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、マニピュレータ制御装置であって、特定の処理機能を有するニューラルネットワークで構成された処理モジュールを、入力側から出力側へ向かう情報伝達方向に対して並列な関係で複数まとめて1つの階層の処理モジュール群とし、相対的に具現的な内容の処理を行う処理モジュールを有する階層を下位とし、相対的に抽象的な内容の処理を行う処理モジュールを有する階層を上位として、階層間で相対的な上位下位関係を有する多階層構造で構築し、同じ階層の処理モジュールどうしは同じ制御機能レベルにあり、上位にある階層の処理モジュールがそれより下位にある階層の少なくとも1つの処理モジュールの処理の作動を制御するよう処理し、前記処理モジュールは、入力情報に基づく所定の処理によりマニピュレータのアクチュエータへ出力する制御情報を生成するよう処理するものが含まれ、当該処理モジュールの処理内容に応じた前記入力情報と前記制御情報の間の相関関係を学習していることを特徴とする。
【0007】
また、上記課題を解決するために、請求項2記載の発明は、マニピュレータ制御システムであって、請求項1記載のマニピュレータ制御装置と、前記マニピュレータ制御装置により動作が制御されるマニピュレータと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ニューラルネットワークで構成して汎用性の高いマニピュレータの制御処理を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】情報処理装置の一実施形態に係るニューロ型コンピュータの利用形態の一例を概略的に表すシステム構成図である。
【
図2】ニューロ型コンピュータの構成モデルとなる生体脳モデルを表す図である。
【
図3】ニューロ型コンピュータのニューラルネットワークモジュールの階層構造例を表す図である。
【
図4】ニューラルネットワークモジュールの概略モデル構成の一例を表す図である。
【
図5】ニューラルネットワークモジュールの作動制御に用いるスイッチャーの具体的構成例を表す図である。
【
図6】ニューロ型コンピュータを用いたマニピュレータ制御システムのシステム構成例を表す図である。
【
図7】第1タスク作業前の初期状態にある作業台上の状態をカメラで撮像した撮像画像を表す図である。
【
図8】第1タスク作業におけるグリッパの動作工程とマニピュレータ全体で行うべき制御内容を表す図である。
【
図9】第1タスクを実行させるためのニューロ型コントローラのモジュール接続構成例を表す図である。
【
図10】グリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールの概略モデル構成を表す図である。
【
図11】グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールの概略モデル構成を表す図である。
【
図12】第1タスク作業のシーケンス内容を表すラダー部である。
【
図13】第2タスク作業前の初期状態にある作業台上の状態をカメラで撮像した撮像画像を表す図である。
【
図14】第2タスクを実行させるためのニューロ型コントローラのモジュール接続構成例を表す図である。
【
図15】第2タスクを実行させるためのニューロ型コントローラのモジュール接続構成例を表す図である。
【
図16】選択対象物認識NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図17】グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図18】複合動作制御階層と基本動作知覚制御階層を備えて第2タスク作業を実行可能なモジュール接続構成例を表す図である。
【
図19】複合動作制御階層と基本動作知覚制御階層を備えて第2タスク作業を実行可能なモジュール接続構成例を表す図である。
【
図20】把持動作制御NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図21】グリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図22】作動進捗度パラメータを入力し、作動速度パラメータを出力する場合の把持動作制御NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図23】作動速度パラメータを入力し、作動進捗度パラメータを出力する場合のグリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図25】複数画像信号を入力して3次元空間信号を出力する知覚NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図26】複数画像信号を入力して6次元位置情報を出力する知覚NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図27】空間野バッファとエンコーダを備えたニューロ型コントローラのモジュール接続構成例を表す図である。
【
図28】空間野バッファとエンコーダから情報を入力する場合のグリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールの概略モデル構成図である。
【
図29】多階層化したニューロ型コンピュータ全体の概略接続構成を表す図である。
【
図30】自然言語処理システムのニューロ型コンピュータにおけるNNモジュールコネクトーム構成の一例を表す図である。
【
図31】こまを対象物とした場合の3つの状態例とそれぞれに対応して出力すべき発話内容を示す図である。
【
図32】
図30に示したNNモジュールコネクトーム構成でのタスク例に対応した機能と制御内容を詳細に説明する図である。
【
図33】音素発音制御NNモジュールで口唇、顎、舌、及び声帯に相当する各出力機器を制御する場合の発音制御を説明する図である。
【
図34】入力認知側の接続構成や機能配置を模倣して構築した認知列セクションのNNモジュール階層構造の一例を表す図である。
【
図35】認知列セクションのNNモジュール階層構造を2次ニューラルネットワーク構造として展開した一例を表す図である。
【
図36】一般的な成人の人間が有する認知機能まで拡張したと仮定した認知列セクションの概略モデルの一例を表す図である。
【
図37】認知列セクションと思考列セクションと制御列セクションとを統合して備えた場合のニューロ型コンピュータの概略モデルの一例を表す図である。
【
図38】適用アプリケーション選択NNモジュールで適用する思考・予測NNモジュールを選択する場合のニューロ型コンピュータの概略モデルの一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0011】
<1:ニューロ型コンピュータの構成>
<1-1:ニューロ型コンピュータの利用形態例>
まず、本発明の情報処理装置の概略構成について説明する。
【0012】
図1は、本発明の情報処理装置の一実施形態であるニューロ型コンピュータの利用形態の一例を概略的に表すシステム構成を示している。なお、図示するシステム構成は、各部の接続関係や各種情報の入出力関係を限定するものではない。
【0013】
この
図1において、本実施形態のニューロ型コンピュータ1は、基本的にニューラルネットワークだけを用いて構成されるものであり、例えばカメラ、マイク、及び各種センサ等の入力機器群2から入力された入力信号に基づいて所定のタスクに応じた出力信号をニューラルネットワークだけで生成し、この出力信号を例えばモータなどのアクチュエータ、表示部、スピーカ等の出力機器群3へ出力するよう機能するといったいわゆる“End-to-End”型の構成となっている。また、上記タスクの実行だけであればニューロ型コンピュータ1だけで実現可能であるが、当該ニューロ型コンピュータ1の設定や運用などの便宜上、図示するようにノイマン型コンピュータ4を接続して状態観測、上位制御、状態制御、学習内容管理等を適宜行ってもよい。また、ノイマン型コンピュータ4が、ニューロ型コンピュータ1に対して上記入力信号を出力する入力機器群として機能したり、上記出力信号を入力する出力機器群として機能してもよい。
【0014】
<1-2:ニューロ型コンピュータの仮想モデル>
ここで、本実施形態のニューロ型コンピュータ1の内部アーキテクチャに関する基本概念について説明する。そもそもニューラルネットワークは、人間の脳に存在する神経細胞の結合構成を模倣した生物模倣工学に基づく情報処理モデルである。このニューラルネットワークは、その設計の自由度とタスクに対する適応性能が非常に高く、これまでに利用されているいわゆるノイマン型コンピュータに匹敵する情報処理性能を有していると考えられる。これに対し現在では、実際の生体脳の構成や機能を生理学的に解析し、それを模倣するよう数理情報処理的な手法によって汎用人工知能を構築する理学的なアプローチも進められているが、実際の生体脳の構造は非常に複雑であるため現状ではその構成や各部の機能を明確に解明することが困難となっている。
【0015】
そこで本検討では、
図2に示すような生体脳モデルを仮定し、そこから産業応用分野等での情報処理に転用可能な機能の実装を提案する。なお、この
図2に示す生体脳モデルは、現実に人や動物が備えている生体脳について近年の脳生理学や神経科学等で知見されているような実際の神経構造とは大きく相違するものであるが、ここではあくまで汎用的な情報処理装置をほぼニューラルネットワークだけで実装する上で合理的かつ有効と思われるコネクトーム接続構成の一形態を提案するための仮想モデルである。
【0016】
この
図2において、全体が略半球体形状にある大脳11の底部に集中して、目12や耳13などの知覚器官と手足14や声帯15などの出力器官がそれぞれ神経系を介して接続されており、脳内ではそれら知覚器官と出力器官の間を直接つなぐニューラルネットワークが先天的に形成されている。その一方で、大脳11の底部中心に大脳基底核16が配置されており、そこから新しく分裂生成された脳神経細胞17が大脳11内を放射状に移動して必要な箇所にシナプスを結合させて定着する。
【0017】
これにより、知覚器官と出力器官の間をつなぐニューラルネットワークは、その成長とともに底部の大脳基底核16から大脳11の外周表面の大脳新皮質18に向けて積層増大化した層構造を形成する。この層構造では、大脳基底核16に近いほど過去の経験的な学習や訓練により構築された古いネットワーク層であり、大脳新皮質18に近いほど新たな思考により構築された新しいネットワーク層となる。そして大脳基底核16側の古いネットワーク層は無意識的、本能的、及び具現的な処理機能を司り、大脳新皮質18側の新しいネットワーク層は意識的、理性的、観念的、及び抽象的な処理機能を司ると想定できる。
【0018】
<1-3:ニューロ型コンピュータの基本内部構成>
本実施形態のニューロ型コンピュータ1を工学的に実装すべく、上記のように仮定した生体脳の層構造モデルの接続構成や機能配置を模倣して構築したニューラルネットワークモジュールの多階層構造の一例を、
図3に示す。ただし図示する例は、後述のマニピュレータ制御に適用した場合のものを概略的に示しており、その詳細を限定するものではない。また、図示する例の構成は、上記
図2に示した生体脳モデルのうちの特に出力機器群3を制御する側(出力側)を模倣した多階層構造となる。なお、入力機器群2からの入力信号に基づいて各種の認知を行う側(入力側)を模倣した多階層構造については後述する。
【0019】
この
図3において、それぞれニューラルネットワークで構成されて同じ制御機能レベルにある複数のニューラルネットワークモジュール21(処理モジュールに相当;以下、適宜NNモジュールと略記する)をまとめたNNモジュール群を一つの階層(図中の例では、複合動作制御階層22、基本動作知覚階層23、及び基本動作制御階層24の3つの階層を図示)とし、それらの多階層構造で接続した構成によりニューロ型コンピュータ1の全体を構築している。そして、相対的に上位階層にあるNNモジュール21がそれより下位階層にある少なくともいずれか1つのNNモジュール21の処理の作動を制御(例えば起動、活性化、調整)するよう接続されている。なおこの制御関係は、積層方向で隣接する階層間に限られず、1階層以上離間した配置関係の階層間で行ってもよい(
図3中では特に図示せず)。なお図中における記号Xは、その入力側の複数の配線と出力側の複数の配線との間を全結合していることを示している。また、1つのNNモジュール21だけで1つの階層としてもよい。
【0020】
そして図示する例では、少なくとも最下位階層24の各NNモジュール21は、入力機器群2からの入力情報に基づいて出力機器群3への出力情報(制御情報)を出力するものであり、当該NNモジュール21の処理内容に応じた入力情報と出力情報の間の相関関係を学習している。なお、それより上位階層22,23のNNモジュール21においても、必要に応じて入力機器群2からの入力情報を入力してもよい。
【0021】
また、最下位階層24より上位にある所定階層のNNモジュール21には、その処理内容に応じて当該所定階層より下位にある階層のどのNNモジュール21を作動させるかを学習しているものが含まれている(図中の複合動作制御階層NNモジュール25参照)。
【0022】
また、所定階層のNNモジュール21は、それ自体によって作動させた他の下位階層のNNモジュール21から帰還入力された状態情報(帰還情報)に基づいて当該所定階層のNNモジュール21の処理に反映させてもよい(
図3中では特に図示せず;後に詳述する)。
【0023】
また、NNモジュール21の作動と非作動を切り替える制御は、当該NNモジュール21に対する入力情報の入力と非入力を後述するスイッチャー26を介して切り換えることにより行う。なお、このNNモジュール21の作動制御については、上述した単純な入力と非入力の切り換え以外にも、作動制御情報の連続的な入力量を制御することにより行ってもよい(後に詳述する)。
【0024】
以上のように構成することで、例えば下位の階層ほど入力機器群2からの入力信号と出力機器群3への出力信号との間の直接的な相関関係を学習して、外部機器との間のいわゆるインターフェース的な機能を持たせることができる。また一方、上位の階層ほど下位の階層のいずれのNNモジュール21を制御することで目的とするタスク処理にどれだけ寄与できるかなどの処理概念を学習することができ、より上位概念的な情報処理機能を持たせることができる。そしてさらに上位の階層を追加、調整(つまり上位概念の獲得、拡充)することや既存の各階層でのNNモジュール21の追加、調整(つまり下位概念の獲得、拡充)することで、ニューロ型コンピュータ1全体における統合的な情報処理の汎化性能を向上させることができる。このような上位と下位の階層の関係において、下位の階層では大量のデータ(いわゆるビッグデータ)を用いた学習が必要であるが、上位の階層ではそれと比較してより少ない数のデータや試行での学習で機能できる。
【0025】
ここで、ノイマン型コンピュータ4におけるソフトウェア処理の本質は、人為的に設計した数理モデルに基づく評価関数値と評価閾値それぞれの算出と比較を所定の手順で行うことであり、そのためその数理モデルから外れた事象への対応能力が低く、すなわちいわゆるロバスト性が低いと言える。これに対しニューラルネットワークにおける情報処理は、現実の事象から得たデータ、経験、又は試行に基づいて回帰分析的に構築した処理モデルを利用するものであるため、ロバスト性が高いと言える。
【0026】
そこで上述したように情報処理装置の全体に渡ってほぼNNモジュール21だけで構成した“End-to-End”構成のニューロ型コンピュータ1を実現することにより、部分的にニューラルネットワークを組み込んで他の大部分の処理をノイマン型コンピュータ4で実行するこれまでの構成と比較して、タスク処理に対するロバスト性を最大限に発揮できる。しかし、精度の高い数値計算や正確な情報記録に関してはビットデータ(バイナリデータ、離散データ)を用いてデジタル処理するノイマン型コンピュータ4の方に優位性があるため、ロバスト性を犠牲にして部分的にノイマン型コンピュータ4(もしくはデジタルハードウェア)を組み込む構成も有効である。
【0027】
<1-4:ニューラルネットワークモジュールの基本構成>
図4は、本実施形態のニューロ型コンピュータ1に用いられるNNモジュール21(ニューラルネットワークモジュール)の概略モデル構成の一例を示している。この
図4において、図示する例のNNモジュール21は、多層パーセプトロンで構成されるいわゆるフィードフォワード型ニューラルネットワークのものを例示している。このNNモジュール21は、入力層に入力される多数の入力データ(ベクトルデータ)と、出力層から出力する多数の出力データ(ベクトルデータ)との間の相関(対応関係)を表す特徴量を、あらかじめ学習フェーズにおける深層学習プロセスで学習している。またNNモジュール21のハイパーパラメータ(層数、ノード数、活性化関数、学習率、等)についても、その処理内容に応じて適宜設計、調整されている。
【0028】
なお、NNモジュール21は、図示するフィードフォワード型ニューラルネットワークだけで構成することに限られず、その処理内容に応じていわゆる畳み込み型ニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)、又はボルツマンマシン等の多様なネットワーク構成を適宜含んでいてもよい。また、入力データ及び出力データは、離散2値データ、離散多値データ、連続値データ、又は確率分布データ等の多様なデータ形態(出力の場合のいわゆる2値分類、回帰、多クラス分類)を適用してもよく、内部信号も含めた各データの値はデジタルとアナログのいずれの表現を適用してもよい。また、画像信号の場合、1画像分のモノクロデータとして扱ってもよいし、RGBや輝度などの多画像分のカラーデータとして扱ってもよいし、時系列な関係を有する複数の画像からなる動画データで扱ってもよいし、また動画データ中で連続する画像間の差分画像を扱ってもよい。また、図示を省略しているが、各パーセプトロン層にバイアスを適宜付加してもよい。また、各種データや内部信号を時系列パルス情報で扱う、いわゆるスパイキングニューラルネットワークで構成してもよい。
【0029】
そして本実施形態においては、以上のような設計の個々のNNモジュール21を回帰分析器としてみなし、その入力と出力の間の相関関係を深層学習(ディープラーニング)などの手法による回帰分析によって学習した処理モジュールとして割り切って利用する。そして、これら多数のNNモジュール21どうしの間の接続構成(いわゆるコネクトームアーキテクチャ)の設計により、基本的に“End-to-End”構成にあるニューロ型コンピュータ1を構築する。これにより、目的のタスクに対応したニューロ型コンピュータ1のアーキテクチャ設計が容易となり、学習も効率化できる。また、このようなコネクトーム接続設計で構築したニューロ型コンピュータ1においては、処理要素であるNNモジュール21自体の内部における処理内容が不明確であるとしても、それらNNモジュール21単位での接続関係は人為的に設計したものであるため、不具合が生じた場合の原因特定や改修が容易となる。
【0030】
このNNモジュール21の深層学習プロセスについては、データセットを用いたいわゆる教師あり学習により学習させてもよいし、いわゆる深層強化学習により学習させてもよい。教師あり学習の場合は、例えば入力データと出力データの間の関係性、つまり入力層と出力層の間の関係性が成立するよう各ノードどうしをつなぐ各エッジの重み係数を逆方向で調整するいわゆるバックプロパゲーション処理(誤差逆伝搬処理)等により学習を行う。なお、このようなバックプロパゲーションの他にも、いわゆる確率的勾配降下法、積層オートエンコーダ、制限付きボルツマンマシン、ドロップアウト、ノイズ付加、スパース正則化、及び部分的な教師なし学習などの公知の多様な学習手法を併用して処理精度を向上させてもよい。このような学習により、NNモジュール21においては、入力ベクトルデータ(入力情報)を説明変数とし出力ベクトルデータ(出力情報)を目的変数とした多数のデータセットによる回帰分析が行われる。
【0031】
以上のようにして、各NNモジュール21を予めそれぞれ必要とされる機能を発揮できるよう個別に学習させておき、それら学習済みの状態にある複数のNNモジュール21を所定のコネクトーム設計に基づいて接続することでニューロ型コンピュータ1を構築する。また、その後にニューロ型コンピュータ1全体でファインチューニングするよう適宜学習させてもよい。もしくは、ニューロ型コンピュータ1を構築した後に適宜限定したNNモジュール21だけ必要に応じて再学習させて全体の処理精度を向上させてもよい。なお、以上説明した数理情報処理的な学習手法以外にも、各エッジの重み係数を例えば人為的な設計手法、又はハードウェア的(機械的、物理的)な作用による手法などの他の手法によって調整してもよい。
【0032】
なお、各NNモジュールの具体的な実装形態は、いわゆるニューロモーフィック型の集積回路上でハードウェア的に実装してもよいし、ノイマン型コンピュータ4上でソフトウェア的に実装してもよいし、その他にもGPU(Graphics Processing Unit)等を含むASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などで構成するアクセラレータ上で実装してもよい。また本実施形態においては、上記
図3で示したNNモジュール群の間の「階層」は、NNモジュール21内における入力層、中間層、出力層などのパーセプトロン間の「層」と異なるものとして区別する。
【0033】
<1-5:スイッチャーの具体的構成例>
NNモジュール21の作動制御に用いる上記スイッチャー26について、いくつかの具体的構成例を
図5に示す。スイッチャー26は、上記
図3中(又は
図5中の左側)では単なるスイッチの要素記号で表記しているが、要はNNモジュール21に対する入力信号(入力データ)の入力と非入力を任意に切り換えできればよい。なおここでは、基本的にスイッチャー26は、何ら制御信号が入力されていない通常時にはオフ状態となり、正論理(“1”、Highで入力)の制御信号が入力されることによってオン状態に切り換えるノーマリオフの仕様とする。
【0034】
例えば
図5中の右側の最上段に示すように、NNモジュール21の入力層に対して大きな負バイアスの付加を切り換える構成が考えられる。つまり入力層の各ノードにおいて、活性化関数の活性化閾値を超える分の入力値変動幅よりも絶対値の大きい負バイアス(Wb<<0)を各ノードに一律に入力することで、入力層のいずれのノードも活性化を阻止することができ、すなわち入力信号の入力を無効化(非入力)することができる。この場合、制御信号の論理(“1”、“0”)を反転して入力することで、ノーマリオフで作動させることができる。
【0035】
また他にも入力データが2値データである場合には、
図5中の右側の中段に示すようなトライステートバッファや、
図5中の右側の最下段に示すようなゲートロジック(図示する例ではANDゲート)でスイッチャーを構成してもよい。これらのトライステートバッファやゲートロジックは、ニューラルネットワークで実装してもよいし、ハードウェアで実装してもよいし、ノイマン型コンピュータ上のソフトウェアで実装してもよい。また他にも、入力層の全てのノードの作動と非作動(活性化の許容と非許容)をハードウェア的もしくはソフトウェア的に切り換えることでスイッチャーとして機能させてもよい。またノイマン型コンピュータのソフトウェア上で実装する場合には、どのNNモジュール21を適用して機能させるかをソフトウェア処理によって選択し、切り替えるよう実装してもよい。
【0036】
<1-6:本実施形態の効果>
これまでのニューラルネットワークの利用形態としては、目的とするタスク処理のうち判別、分類、推定などの限定された一部の情報処理のみを分担するコアエンジン(いわゆる特化型AI)として利用され、その他処理全体の手順や工程に関するシーケンス制御などの大部分はノイマン型コンピュータ4を用いて処理せざるを得なかった。
【0037】
これに対して、本実施形態のニューロ型コンピュータ1によれば、特定の処理機能を有するニューラルネットワークで構成されたNNモジュール21を1つ又は複数まとめて1つの階層のNNモジュール群とし、複数の階層間におけるNNモジュールどうしの情報信号の送受により情報処理を行わせる。これにより、個々のNNモジュール21が有する処理機能を組み合わせて多様な情報処理を実行可能な汎用性の高いニューロ型コンピュータを構築できる。
【0038】
また、本実施形態では特に、相対的に具現的な内容の処理を行うNNモジュール21を有する階層を下位とし、相対的に抽象的な内容の処理を行うNNモジュール21を有する階層を上位として、階層間で相対的な上位下位関係を有する多階層構造で構築されている。
【0039】
以上のように構成することで、例えば相対的に下位の階層ほど外部機器との間のいわゆるインターフェース的(具現的)な情報処理機能を持たせることができ、相対的に上位の階層ほど上位概念的(観念的、抽象的)な情報処理機能を持たせることができる。そして上位の階層を追加、調整することで、ニューロ型コンピュータ1全体における統合的な情報処理の汎化性能を向上させることができる。この結果、本実施形態のニューロ型コンピュータ1は、ニューラルネットワークで構成して汎用性の高い情報処理を実行できる。
【0040】
以上のように情報処理装置の全体に渡ってほぼNNモジュール21だけで構成した“End-to-End”構成のニューロ型コンピュータ1を実現することにより、部分的にニューラルネットワークを組み込んで他の大部分の処理をノイマン型コンピュータ4で実行する構成と比較してタスク処理に対するロバスト性を最大限に発揮できる。なお、高精度数値演算や大量のデータの記憶と検索を、高精度で高速に繰り返し行う必要がある機械制御や通信制御などの処理については、優位性のあるノイマン型コンピュータ4で分担させる形態としてもよい。
【0041】
また、本実施形態では特に、同じ階層のNNモジュール21どうしは同じ制御機能レベルにあり、上位にある階層のNNモジュール21がそれより下位にある階層の少なくとも1つのNNモジュール21の処理の作動を制御するよう処理する。これにより、上位階層での観念的、抽象的な処理を具体的に実現するよう、下位階層の具現的な処理を制御するといった上位から下位への処理の流れを形成できる。なお、上記の多階層構造における各階層の上位と下位の比較基準となる「機能レベル」については、情報処理機能上での上位概念(この例では抽象的な処理内容)と下位概念(この例では具現的な処理内容)を比較するための相対的な尺度でしかなく、本実施形態の場合では人為的に設計されるものであるがその尺度は厳密に定義されるものではない。したがって、情報処理機能上で上位と下位の関係が保たれていれば、各NNモジュール21の絶対的な階層位置に自由度を持たせてもよい。
【0042】
また、本実施形態では特に、NNモジュール21は、入力情報に基づく所定の処理により出力機器群3の外部機器へ出力する制御情報を生成するよう処理するものが含まれ、当該NNモジュール21の処理内容に応じた入力情報と制御情報の間の相関関係を学習している。これにより、例えば上記
図3に示した最下位階層24のように、NNモジュール21に出力機器群3の外部機器に対応した基本的な制御処理機能を持たせることができる。
【0043】
また、本実施形態では特に、NNモジュール21は、入力機器群2の外部機器から入力された入力情報に基づいて処理を行うものが含まれている。これにより、例えば上記
図3に示した最下位階層24のように、NNモジュール21に入力機器群2の外部機器から直接入力された入力情報に対応した基本的な情報処理機能を持たせることができる。
【0044】
また、本実施形態では特に、最下位階層24より上位にある所定階層のNNモジュール21は、当該NNモジュール21の処理内容に応じて当該所定階層より下位にある階層のどのNNモジュール21を作動させるかを学習しているものが含まれている。これにより、当該所定階層のNNモジュール21が、それより下位の階層の各NNモジュール21の使い分けを通じて、目的のタスク処理にいかに寄与できるかという処理概念を学習することができ、より上位概念的な情報処理機能を持たせることができる。
【0045】
また、本実施形態では特に、上記の所定階層のNNモジュール21は、当該NNモジュール21によって作動させた他のNNモジュール21から入力される帰還情報を当該NNモジュール21の処理に反映させるものが含まれている。これにより、NNモジュール21で構成するニューロ型コンピュータ1にシーケンス制御や自動調整の機能を持たせることができる。
【0046】
また、本実施形態では特に、NNモジュール21は、入力情報の入力と非入力の切り替えにより、当該NNモジュール21の処理の作動と非作動を切り替えるものが含まれている。これにより、NNモジュール21単位での作動を想定したニューロ型コンピュータ1の設計が機能的かつ容易に行える。なお、後述するように量的多値情報(量的多値信号)である制御量(作動制御情報)の入力によってNNモジュール21の作動量、作動速度などの作動状態(作動、非作動の切り替えを含む)を制御してもよい。
【0047】
以上のようにニューロ型コンピュータ1を構成することで、入力機器群2からの入力情報に基づいて出力機器群3へ出力する出力情報の生成処理を汎用的に統制管理できることから、いわゆるソフトウェアOS(Operating System)を備えたノイマン型コンピュータ4と同等に機能できる。なお、本実施形態のニューロ型コンピュータ1は、人間が実際に備えている生体脳の構成と機能を完全に模倣するものではない。しかしながら、例えば空を飛ぶのに鳥などの羽ばたきを完全に模倣せずとも飛行機のように機能的、合理的に飛行してもよいように、本実施形態のニューロ型コンピュータ1は、ノイマン型コンピュータ4では実現が困難なレベルでロバスト性の高い処理を汎用的に実行可能となる。
【0048】
<2:ニューロ型コンピュータの適用例>
<2-1:マニピュレータ制御への適用システム構成例>
以下においては、上記実施形態のニューロ型コンピュータ1の適用形態の第1の例として、マニピュレータ制御に適用する場合について説明する。
図6は、ニューロ型コンピュータを用いたマニピュレータ制御システム100のシステム構成の一例を示している。なお、図示するシステム構成は、各部の接続関係や各種情報の入出力関係を限定するものではない。
【0049】
この
図6において、本実施形態のマニピュレータ制御システム100は、作業台200の上に載置された各種の物体に対して所定のタスク内容の作業を行うものである。このマニピュレータ制御システム100は、ノイマン型コンピュータ101と、ニューロ型コントローラ102と、マニピュレータ103と、カメラ104と、3次元加速度センサ105を有している。
【0050】
ノイマン型コンピュータ101は、ニューロ型コントローラ102に対してその状態観測、上位制御、状態制御、学習内容管理等を行う上位制御装置である。
【0051】
ニューロ型コントローラ102は、上記ニューロ型コンピュータ1で構成したものであり、上記ノイマン型コンピュータ101による上位制御及び状態管理の下、マニピュレータ103を直接的に制御するマニピュレータ制御装置である。
【0052】
マニピュレータ103は、図示する例ではその本体が6軸の垂直多関節アームロボット110であり、そのアーム先端部にはエンドエフェクタの一例としてのグリッパ120を備えている。グリッパ120は、この例では1軸制御で2つの把持爪121を互いに離接動作させることにより、それら把持爪121の間における対象物の把持と解放を行わせるロボットハンドである。各把持爪121は、互いの対向面に圧接センサ122が設けられており、各圧接センサ122が出力する圧力信号がニューロ型コントローラ102に入力されている。
【0053】
カメラ104は、この例では光学的に2次元ピクセル列の画像情報を取得する撮像機器である。このカメラ104は、作業台200の上方位置から所定の姿勢角度で当該作業台200の上面における各種物体201,202の状態を撮像し、その画像信号がニューロ型コントローラ102に入力されている。またこの例では、カメラ104が特に図示しない可動スタンド等を介してマニピュレータ103の基台と連結して設置されていることで、当該カメラ104の位置や姿勢が可変となっている。ただし、その位置と姿勢の可変量は所定範囲に限定されるものであり、マニピュレータ103とカメラ104との間のおおよその相対的な配置関係(位置関係、姿勢関係)は維持されるものとする(つまり人間の身体における頭と腕のように少しだけ変化できる配置関係)。なお、カメラ104に代えて、物体表面上の各点との間の離間距離を計測するレーザスキャナ等といった他の光学センサ(特に図示せず)を用いることもできる。
【0054】
3次元加速度センサ105(姿勢センサ)は、上記カメラ104の筐体に固定されてその姿勢を検出し、その検出信号である姿勢信号(姿勢情報)がニューロ型コントローラ102に入力されている。この姿勢信号は、当該3次元加速度センサ105の3次元空間中における姿勢を表す信号であればよく、例えばカメラ104の筐体を基準に別途設定した直交3軸センサ座標系における重力方向単位ベクトルの各軸座標成分値で出力してもよい(図示省略)。なお、特に図示しないが、マニピュレータ103(またはその基台)に対するカメラ104の相対位置を検出する位置センサを別途設けてもよい。
【0055】
以上の構成において、ニューロ型コントローラ102は、入力機器群であるカメラ104、3次元加速度センサ105、及び圧接センサ122からの入力信号に基づいて、上記所定のタスク作業を行わせるよう出力機器であるマニピュレータ103に6軸トルク制御信号及びグリッパトルク制御信号を出力して直接的に制御を行う。
【0056】
<2-2:第1タスク例>
ここで上記マニピュレータ制御システム100のマニピュレータ103に実行させるタスク作業の第1例を説明する。
図7は、本タスク作業前の初期状態にある作業台200上の状態をカメラ104で撮像した撮像画像を示している。なおこの
図7は、上記
図6に示すようにカメラ104がマニピュレータ103側の斜め上方位置から作業台200上面に向けて傾斜する姿勢で撮像した場合の撮像画像を示している。
【0057】
本第1タスク例の初期状態として、図示する例では、撮像画像中の右下をホームポジションとして作業台200上面より手前側(つまり上方側)にグリッパ120が位置し、2つの把持爪121が十分に開いた状態となっている。また作業台200上面では、画像中奥側の中央位置にボール201が載置されるとともに、画像中左手前側の位置に上端が開口して内部にボール201を収容可能な略円筒形状の容器202が載置されている。そして本タスクの作業内容は、上記初期状態からグリッパ120でボール201を把持し、その後に当該ボール201を容器202の内部に入れる作業となる。
【0058】
この第1タスク作業におけるグリッパ120の動作工程として詳しくは、
図8に示すように、まず最初にマニピュレータ103の駆動によりグリッパ120をボール201まで移動させる。このとき、グリッパ120とボール201との高低差を加味して、グリッパ120を下方に下げつつボール201の位置まで移動させる(
図7中の工程I参照)。次にグリッパ120でボール201を把持させる(
図7中の工程II参照)。そして次にグリッパ120を容器202まで移動させる。このとき、その時点のボール201と容器202の上端開口部との高低差を加味して、グリッパ120を上方に持ち上げつつ容器202の開口部まで移動させる(
図7中の工程III参照)。最後にグリッパ120を解放してボール201を容器202の内部に落とし込む(
図7中の工程IV参照)。
【0059】
以上のグリッパ120の動作工程を実行するためにマニピュレータ103全体で行うべき制御内容として詳しくは、まず工程Iと工程IIの実行中においてグリッパ120の2つの把持爪121の間の把持点Pm(
図7参照)をボール201の被把持点Pw(
図7参照)に位置合わせするようマニピュレータ103を駆動制御する。なおこの例における被把持対象のボール201が球体であるため、上記被把持点Pwはボール201の中心位置となる。また、上述したようにカメラ104が傾斜した姿勢となっているため、その撮像画像では上記の把持点Pmと被把持点Pwの間における高低差も含めた位置偏差が検出可能となっている。
【0060】
また工程IIの実行中においては、グリッパ120がボール201を把持可能にその姿勢を合わせるようマニピュレータ103を駆動制御するとともに、2つの把持爪121を接近させるようグリッパ120を制御してボール201を把持させる。なおこの工程IIの実行中においても、上述したようにグリッパ120の把持点とボール201の被把持点Pwの位置合わせ制御が並行して行われるため、グリッパ120の姿勢合わせ制御による把持点Pmと被把持点Pwの位置ずれが補正されてグリッパ120が確実にボール201を把持できる。
【0061】
そして工程IIIと工程IVの実行中においては、グリッパ120の2つの把持爪121の間の把持点Pm(ボール201の被把持点Pwと略一致)を容器202の開口部中心の解放点Pc(
図7参照)に位置合わせするようマニピュレータ103を駆動制御する。なお、工程IIIの実行中においても、グリッパ120におけるボール201の把持制御が並行して行われるため、容器202への移動中においてもグリッパ120がボール201を確実に把持できる。
【0062】
また工程IVの実行中においては、2つの把持爪121を離間させるようグリッパ120を制御してボール201を把持させる。なおこの工程IVの実行中においても、上述したようにグリッパ120の把持点Pmと容器202の解放点Pcの位置合わせ制御が並行して行われるため、グリッパ120は確実にボール201を容器202の解放点Pcで解放できる。
【0063】
<2-2-1:第1タスクを実行可能なモジュール接続構成>
上記第1タスクを実行させるためのニューロ型コントローラ102のNNモジュール接続構成(コネクトーム構成)の一例を
図9に示す。この
図9に示す例において、ニューロ型コントローラ102は上位にある基本動作知覚階層23と、下位にある基本動作制御階層24の2つのNNモジュール階層を有している。
【0064】
<2-2-2:各NNモジュールの構成と機能>
基本動作知覚階層23には、グリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-ボール把持知覚NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュール、及びグリッパ-ボール解放知覚NNモジュールの各知覚NNモジュールが設けられている。各知覚NNモジュールは、カメラ104、3次元加速度センサ105、圧接センサ122のいずれかから入力された入力信号に基づいて、上記タスク作業における各グリッパ動作工程の状態を知覚し判定する処理を行う。
【0065】
例えばグリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールの場合、
図10に示す概略モデル構成図のように、3次元加速度センサ105からの3軸それぞれの姿勢信号と、カメラ104からの2次元ピクセル列の画像信号がニューラルネットワークの入力層に入力される。そして当該グリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールは、これらの入力に対して、ボール201の被把持点Pwを特徴点として抽出し、画像中におけるボール201の特徴点Pwとグリッパ120の把持点Pmとの位置合わせの状態を判別して不一致と一致を個別に2値出力(正論理)で択一的に出力するよう設計されている。
【0066】
この知覚処理は、当該グリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールの学習フェーズにおける機械学習プロセスでの学習内容に基づくものであり、すなわちこのグリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールのニューラルネットワークは、画像信号中に含まれるボール201及びグリッパ120それぞれの外観形状パターンと、ボール201の特徴点(被把持点Pw)とグリッパ120との間の配置関係が一致しているか否かの相関を表す特徴量を学習している。またこの特徴量には、姿勢信号に基づくその時点のカメラ104の姿勢(当該画像信号の撮像方向の傾き)の影響も反映されており、当該画像中において3次元的にグリッパ120がボール201を適切に把持可能な配置にあるかの判別を行うことができる。
【0067】
また特に図示しないが、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュールにおいても同様に、姿勢信号と画像信号が入力され、画像信号に含まれるボール201及びグリッパ120(又は容器202)それぞれの外観形状パターンと、ボール201の特徴点(被把持点Pw)とグリッパ120(又は容器202)との間の配置関係(姿勢関係)が一致(適合)しているか否かの相関を表す特徴量を学習している。
【0068】
また特に図示しないが、グリッパ-ボール把持知覚NNモジュール、グリッパ-ボール解放知覚NNモジュールはそれぞれ、圧接センサ122からの圧力信号が入力され、グリッパ120がボール201を適切な把持圧力で把持(又は解放圧力で解放)しているか否かの相関を表す特徴量を学習している。
【0069】
また一方、基本動作制御階層24には、グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュール、グリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュール、グリッパ把持制御NNモジュール、及びグリッパ解放制御NNモジュールの各制御NNモジュールが設けられている。各制御NNモジュールは、カメラ104、3次元加速度センサ105、圧接センサ122のいずれかから入力された入力信号に基づいて、上記タスク作業における各グリッパ動作工程のそれぞれに必要なマニピュレータ103の駆動制御処理を行う。
【0070】
例えばグリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールの場合、
図11に示す概略モデル構成図のように、3次元加速度センサ105からの3軸それぞれの姿勢信号と、カメラ104からの2次元ピクセル列の画像信号がニューラルネットワークの入力層に入力される。そして当該グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールは、これらの入力に対して、ボール201の被把持点Pwを特徴点として抽出し、画像中においてグリッパ120がボール201の特徴点と位置合わせ可能に(移動可能に)マニピュレータ103の各関節軸モータ(この例では計6つ)にトルク制御信号を出力するよう設計されている。
【0071】
この制御処理は、当該グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールの学習フェーズにおける機械学習プロセスでの学習内容に基づくものであり、すなわちこのグリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールのニューラルネットワークは、画像信号に含まれるボール201及びグリッパ120それぞれの外観形状パターンと、ボール201の特徴点(被把持点Pw)にグリッパ120を一致させるために必要な各関節軸モータのトルク制御信号との間の相関を表す特徴量を学習している。またこの特徴量には、姿勢信号に基づくその時点のカメラ104の姿勢(当該画像信号の撮像方向の傾き)の影響も反映されており、当該画像中において3次元的にグリッパ120がボール201を適切に把持可能な配置に位置合わせするのに必要な各関節軸モータのトルク制御信号の出力を行うことができる。
【0072】
また特に図示しないが、グリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュールにおいても同様に、姿勢信号と画像信号が入力され、画像信号に含まれるボール201及びグリッパ120(又は容器202)それぞれの外観形状パターンと、ボール201の特徴点(被把持点Pw)とグリッパ120(又は容器202)との間の配置関係(姿勢関係)が一致(適合)するのに必要な各関節軸モータのトルク制御信号との間の相関を表す特徴量を学習している。
【0073】
また特に図示しないが、グリッパ把持制御NNモジュール、グリッパ解放制御NNモジュールはそれぞれ、圧接センサ122からの圧力信号が入力され、グリッパ120がボール201を適切な把持圧力で把持(又は解放圧力で解放)するのに必要なグリッパモータのトルク制御信号との間の相関を表す特徴量を学習している。
【0074】
なお、以上のような各NNモジュールそれぞれにおける特徴点の抽出、及びモータへのトルク制御信号の生成に関するNNモジュールの仕様、設計、学習等の手法については、例えば「Journal of Machine Learning Research 17(2016) 1-40 Submitted 10/15; Published 4/16 “End-to-End Training of Deep Visuomotor Policies”」等に記載されている公知の手法を用いればよく、ここではその詳細を省略する。
【0075】
<2-2-3:NNモジュール間における接続構成と制御内容>
次に上記のNNモジュール間の接続構成について説明する。まず、基本動作知覚階層23と基本動作制御階層24のそれぞれにおけるグリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュール、及びグリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュールは、それぞれの入力層がスイッチャーを介してカメラ104と3次元加速度センサ105に接続されており、それらからの画像信号と姿勢信号の入力と非入力の切り換えが可能となっている。また、グリッパ-ボール把持知覚NNモジュール、グリッパ-ボール解放知覚NNモジュール、グリッパ把持制御NNモジュール、及びグリッパ解放制御NNモジュールは、それぞれの入力相がスイッチャーを介して圧接センサ122に接続されており、当該圧接センサ122からの圧力信号の入力と非入力の切り換えが可能となっている。
【0076】
そして、基本動作制御階層24におけるグリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュール、及びグリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュールは、それぞれの出力層が特に図示しないサーボアンプ等を介してマニピュレータ103の各関節軸モータ(この例の6軸)に接続されており、6軸トルク制御信号を出力可能となっている。これらの制御NNモジュールは複数同時にトルク制御信号を生成、出力する場合があるが、このときはそれらが合成されて各軸モータに出力される。また、グリッパ把持制御NNモジュール及びグリッパ解放制御NNモジュールは、それぞれの出力層が特に図示しないサーボアンプなどを介してグリッパ120のモータに接続されており、トルク制御信号を出力可能となっている。これらの制御NNモジュールは同時に機能することはなく、いずれか一方のみからグリッパ120のモータにトルク制御信号が出力される。
【0077】
そして、グリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールのスイッチャーは、上述したようにいわゆるノーマリオフタイプのものであり(以下、同様)、この
図9中では図示しない上位制御装置のノイマン型コンピュータ101からタスク作業を開始する制御信号(図中の「START」)が継続的に入力されることによりオン状態に切り換えられる。またこのスイッチャーは、後述のグリッパ-ボール把持知覚NNモジュールがグリッパ120の把持状態を判別した際には、優先的にオフ状態に切り換えられる。なお、この優先的なオフ状態への切り換えは、例えば上述したバイアススイッチの場合、負バイアス(Wb<<0)を相殺する逆負バイアス(-Wb>>0)を適宜付加する手法などで実装すればよい。
【0078】
以上によりグリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールは、スイッチャーがオン状態となって画像信号と姿勢信号が入力されている間だけ画像解析によるグリッパ120とボール201の位置合わせ状態の一致と不一致を判別し、それぞれの判別結果を個別に出力する。また、そのうちの不一致に対応する判別出力が制御信号となって、グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールのスイッチャーを切り換え制御する。すなわち、不一致状態と判別されている間だけ、グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールに画像信号と姿勢信号が入力され、当該グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールはグリッパ120がボール201に対して位置合わせするのに必要な6軸トルク制御信号を生成、出力するよう機能する。
【0079】
またグリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュールのスイッチャーは、上記グリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールの一致に対応する判別出力を制御信号としてオン状態に切り換えられる。すなわちグリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュールは、グリッパ120とボール201の位置合わせが一致状態と判別されている間に画像信号と姿勢信号が入力され、画像解析によりグリッパ120の姿勢がボール201を把持するのに適合しているか不適合であるかを判別し、それぞれの判別結果を個別に出力する。また、そのうちの不適合に対応する判別出力が制御信号となって、グリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュールのスイッチャーを切り換え制御する。すなわち、不適合状態と判別されている間だけ、グリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュールに画像信号と姿勢信号が入力され、当該グリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュールはグリッパ120がボール201に対して姿勢合わせするのに必要な6軸トルク制御信号を生成、出力するよう機能する。またグリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュールのスイッチャーは、後述のグリッパ-ボール把持知覚NNモジュールがグリッパ120の把持状態を判別した際には、優先的にオフ状態に切り換えられる。
【0080】
グリッパ-ボール把持知覚NNモジュールのスイッチャーは、上記グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュールの適合に対応する判別出力を制御信号としてオン状態に切り換えられる。すなわちグリッパ-ボール把持知覚NNモジュールは、グリッパ120とボール201の位置合わせが一致し、かつ姿勢合わせが適合した状態と判別されている間に圧力信号が入力され、この圧力信号に基づいてグリッパ120がボール201を適切に把持している状態か非把持の状態かを判別し、それぞれの判別結果を個別に出力する。また、そのうちの非把持に対応する判別出力が制御信号となって、グリッパ把持制御NNモジュールのスイッチャーを切り換え制御する。すなわち、非把持状態と判別されている間だけ、グリッパ把持制御NNモジュールに圧力信号が入力され、当該グリッパ把持制御NNモジュールはグリッパ120がボール201を適切に把持するのに必要なグリッパトルク制御信号を生成、出力するよう機能する。またグリッパ-ボール把持知覚NNモジュールのスイッチャーは、後述のグリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュールがグリッパ120と容器202の位置合わせの一致状態を判別した際には、優先的にオフ状態に切り換えられる。
【0081】
グリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュールのスイッチャーは、上記グリッパ把持知覚NNモジュールの把持に対応する判別出力を制御信号としてオン状態に切り換えられる。すなわちグリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュールは、グリッパ120がボール201を把持した状態と判別されている間に画像信号と姿勢信号が入力され、画像解析によりグリッパ120と容器202の位置合わせ状態の一致と不一致を判別し、それぞれの判別結果を個別に出力する。また、そのうちの不一致に対応する判別出力が制御信号となって、グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュールのスイッチャーを切り換え制御する。すなわち、グリッパ120と容器202の位置合わせが不一致状態であると判別されている間だけ、グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュールに画像信号と姿勢信号が入力され、当該グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュールはグリッパ120が容器202に対して位置合わせするのに必要な6軸トルク制御信号を生成、出力するよう機能する。
【0082】
グリッパ-ボール解放知覚NNモジュールのスイッチャーは、上記グリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュールの不一致に対応する判別出力を制御信号としてオン状態に切り換えられる。すなわちグリッパ-ボール解放知覚NNモジュールは、グリッパ120が容器202の位置合わせが一致した状態と判別されている間に圧力信号が入力され、この圧力信号に基づいてグリッパ120がボール201を適切に解放できている状態か非解放の状態かを判別し、それぞれの判別結果を個別に出力する。また、そのうちの非解放に対応する判別出力が制御信号となって、グリッパ解放制御NNモジュールのスイッチャーを切り換え制御する。すなわち、非解放状態と判別されている間だけ、グリッパ解放制御NNモジュールに圧力信号が入力され、当該グリッパ解放制御NNモジュールはグリッパ120がボール201を適切に解放するのに必要なグリッパトルク制御信号を生成、出力するよう機能する。なお、グリッパ-ボール解放知覚NNモジュールが解放を判別出力した際には、当該一連の第1タスク作業が完了したこととなり、解放判別出力をこの
図9中では図示しない上位制御装置のノイマン型コンピュータ101に送信してタスク作業終了を報知する。
【0083】
以上のような接続構成にあるニューロ型コントローラ102は、上記
図8に示した第1タスク作業の全てのシーケンス制御処理をニューラルネットワークモジュールだけで実装でき、ボール201と容器202がどのような配置にあっても適切に把持、収納できるロバスト性の高いマニピュレータ制御が可能となる。このニューロ型コントローラ102では、上位の基本動作知覚階層23の知覚NNモジュールが下位の基本動作制御階層24の少なくともいずれか1つの制御NNモジュールの作動を制御する。つまり、下位の階層では外部機器との間のいわゆるインターフェース的(具現的)な情報処理機能を持たせ、上位の階層では上位概念的(観念的)な情報処理機能を持たせている。なお、本接続構成例におけるタスク作業のシーケンス制御は、各知覚NNモジュール間の結線論理、いわゆるワイヤードロジックで実装しているが、このシーケンス内容は
図12に示すようないわゆるラダー図のように表記できる。
【0084】
また、各NNモジュールの学習は、事前に各NNモジュールを個別に教師あり学習、教師なし学習、強化学習などで学習したものを接続して利用してもよいし、またある程度事前学習したものを接続してから全体的に強化学習などで学習して処理精度を向上させてもよい。
【0085】
<2-3:第2タスク例>
次に上記マニピュレータ制御システム100のマニピュレータ103に実行させるタスク作業の第2例を説明する。
図13は、上記
図7に対応する第2タスク作業前の初期状態のカメラ撮像画像を示している。本第2タスク例では、上記第1タスク例の初期状態からさらにグリッパ120のホームポジションと容器202の間に立方体203が載置されており、マニピュレータ制御システム100はそのカメラ撮像画像を画像解析してボール201のみを把持対象物として選別、把持し、容器202の内部に入れる作業となる。この第2タスク作業におけるマニピュレータ103の動作工程と制御内容としては、上記第1タスク例とほぼ同じであるが、さらに画像解析による把持対象物の選別が必要となる。
【0086】
<2-3-1:第2タスクを実行可能なモジュール接続構成(その1)>
上記第2タスクを実行させるためのニューロ型コントローラ102のモジュール接続構成例を
図14、
図15に示す。これら
図14、
図15に示す例において、ニューロ型コントローラ102が上位の基本動作知覚階層23と下位の基本動作制御階層24の2つのNNモジュール階層を有している点では上記
図9の場合と共通している。
【0087】
しかし本接続構成例では、さらにカメラ104及び3次元加速度センサ105の画像信号及び姿勢信号から所望の対象物を選択してその特徴点(被把持点Pw、解放点Pc)を抽出する選択対象物認識NNモジュールを設けている。そしてそのような特徴点が抽出された画像信号に基づく知覚処理を行うグリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュール、及びグリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュールの各知覚NNモジュールは、それらの不一致出力又は不適合出力でそれぞれ対応する制御NNモジュールのスイッチャーを切り換え制御するとともに、それらの不一致出力又は不適合出力をそれぞれ対応する対象物の選択信号として選択対象物認識NNモジュールに対しても入力する。この対象物選択信号の内容として、グリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュールとグリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュールではボール201を入力し、グリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュールでは容器202を入力する。その他の接続構成については、上記
図9に示したものと同等であるため、説明を省略する。以上の本接続構成例では、画像信号中に立方体203などの非対象物が写っている場合でも、指定された選択対象物に対してのみ知覚し作業できる。
【0088】
選択対象物認識NNモジュールは、
図16に示す概略モデル構成図のように、この例の各対象物(ボール201、容器202、立方体203)に対応する対象物選択信号と、カメラ104からの2次元ピクセル列の画像信号がニューラルネットワークの入力層に入力される。なお、選択対象物認識NNモジュールには3次元加速度センサ105からの3軸それぞれの姿勢信号も入力されるが、図示の煩雑を避けるために省略している。そして当該選択対象物認識NNモジュールは、入力された対象物選択信号に対応する対象物(図示する例ではボール201)の外観パターンを画像信号中から画像解析によって認識し、その被把持点Pwを特徴点として抽出した画像信号を出力するよう設計されている。このような選択対象物認識NNモジュールは、そのニューラルネットワーク構成のほとんどが画像解析用のいわゆるCNN(畳み込みニューラルネットワーク)で構成される。その画像解析処理は、当該選択対象物認識NNモジュールの学習フェーズにおける機械学習プロセスでの学習内容に基づくものであり、すなわちこの選択対象物認識NNモジュールのニューラルネットワークは、対象物選択信号と、画像信号中に含まれる選択対象物の外観形状パターン及びその特徴点との間の相関を表す特徴量を学習している。
【0089】
ここで、上記
図9の接続構成例における画像処理系の各NNモジュール(すなわちグリッパ-ボール位置合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚NNモジュール、及びグリッパ-容器位置合わせ知覚NNモジュール、グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュール、グリッパ-容器位置合わせ制御NNモジュール、及びグリッパ-ボール姿勢合わせ制御NNモジュール)は、いずれも膨大な層数、ノード数、エッジ数を要するCNNをそれぞれ備える必要があった。これに対し本接続構成例では、それらのCNNを一つの選択対象物認識NNモジュールとして共通化して共用できるため、ニューロ型コントローラ102全体における大幅なリソースの削減と学習の効率化が可能となる。
【0090】
例えば、本接続構成例で用いるグリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールは、
図17に示す概略モデル構成図のように、ボール201の特徴点が抽出されている入力画像信号から直接各関節軸トルク制御信号(6軸トルク制御信号)を生成して出力できる。これは、対応する上記
図11の概略モデル構成図と比較して、ボール201の特徴点抽出のための前段のCNNを省略して大幅に簡略化したNNモジュール構成となっている。なお、特に図示しないが、グリッパ-ボール位置合わせ制御NNモジュールに3次元加速度センサ105の姿勢信号も直接入力させてもよく、この場合には重量方向を考慮した制御精度の高い各関節軸トルク制御信号を生成して出力できる(特に図示しないが、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚制御NNモジュールに対しても同様)。
【0091】
<2-3-2:第2タスクを実行可能なモジュール接続構成(その2)>
以上に説明した2つの接続構成例では、いずれもタスク作業のシーケンス制御を各知覚NNジュール間の結線論理、いわゆるワイヤードロジックで実装していたが、これをさらに上位のNNモジュールの学習で実装してもよい。
図18、
図19はそのような上位の複合動作制御階層22を備えて上記第2タスク作業を実行可能なモジュール接続構成例を示している。また本接続構成例では、さらに対応する知覚NNモジュールと制御Nモジュールを同一化し、つまり上記の基本動作知覚階層23と基本動作制御階層24の2つのNNモジュール階層を1つの基本動作知覚制御階層27として同一化して階層規模の縮小化を図っている。この
図18、
図19に示す例において、ニューロ型コントローラ102は上位にある複合動作制御階層22と下位にある基本動作知覚制御階層27の2つのNNモジュール階層を有している。
【0092】
ここで、これまでのタスク作業におけるグリッパ120と対象物の位置合わせや姿勢合わせ、グリッパ120による対象物の把持や解放などの各動作は、いずれも最小単位で行われる基本動作といえる。そして、これら基本動作を複数組み合わせて行われる動作は複合動作といえる。上記第2タスク作業の例では、グリッパ120とボール位置合わせの動作と、グリッパ120とボール201の姿勢合わせの動作と、グリッパ120によるボール201の把持動作とを組み合わせた複合動作をボール把持動作とし、グリッパ120と容器202の位置合わせ動作と、グリッパ120によるボール201の解放動作とを組み合わせた複合動作をボール収納動作として、複合動作制御階層22にはそれぞれの複合動作に対応する把持動作制御NNモジュールと収納動作制御NNモジュールの各複合動作制御NNモジュールが設けられている。
【0093】
例えば把持動作制御NNモジュールの場合、
図20に示す概略モデル構成図のように、当該把持動作制御NNモジュールの処理開始を図るための開始入力信号と、グリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールから出力される不一致出力と、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚制御NNモジュールから出力される不適合出力と、グリッパ-ボール把持知覚制御NNモジュールから出力される非把持出力と、グリッパ-容器位置合わせ知覚制御NNモジュールから出力される不一致出力と、グリッパ-ボール解放知覚制御NNモジュールから出力される非解放出力とがニューラルネットワークの入力層に入力される。またニューラルネットワークの出力層からは、グリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールのスイッチャーへの制御出力と、グリッパ-ボール姿勢合わせ知覚制御NNモジュールのスイッチャーへの制御出力と、グリッパ-ボール把持知覚制御NNモジュールのスイッチャーへの制御出力と、グリッパ-容器位置合わせ知覚制御NNモジュールのスイッチャーへの制御出力と、グリッパ-ボール解放知覚制御NNモジュールのスイッチャーへの制御出力とを複数同時に出力可能に設計されている。
【0094】
この制御処理は、当該把持動作制御NNモジュールの学習フェーズにおける機械学習プロセスでの学習内容に基づくものであり、すなわちこの把持動作制御NNモジュールのニューラルネットワークは、各知覚制御NNモジュールからの動作状態フィードバック信号に基づいて把持動作制御を適切に実行するための各知覚制御NNモジュールの動作シーケンスを表す特徴量を学習する。この場合の学習は特にいわゆる強化学習により行われるものであり、把持動作がさらに適切となるように(高い報酬が支払われる方向に)シーケンスが探索、学習される。最初に把持動作制御NNモジュールには全ての知覚制御モジュールと相互に接続されてその内部は全層全結合となっているが、把持動作のシーケンスについての強化学習を進めることでこの場合には、把持動作と関係が薄いノードとエッジ、つまりグリッパ-容器位置合わせ動作とグリッパ-ボール解放動作に強く関係するノードとエッジは学習が進むに連れて無効化(不活性化、重み係数→0;図中の点線部参照)され、把持動作だけに必要とされる部分だけ残ることになる。これはつまり、当該把持動作制御NNモジュールが、「把持動作」という語句のシニフィエに対応する把持動作シーケンスのシニフィア(つまり動作概念)を学習することになる。
【0095】
また、基本動作知覚制御階層27の知覚制御NNモジュールの一例として、グリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールは、
図21に示す概略モデル構成図のように、不一致出力と併せて各関節軸トルク制御信号を出力するよう設計されることで、知覚NNモジュールと制御NNモジュールの両方の処理機能を同一化した構成となる。
【0096】
なお、複合動作制御階層22における把持動作制御NNモジュールと収納動作制御NNモジュールは、
図18における点線枠部Yに示すようなワイヤードロジックで結線されることで、2つの複合動作間のシーケンス制御、及びそれぞれに対応する対象物信号の出力が可能となる。このワイヤードロジックはまたさらに上位の制御階層のNNモジュールで実装することも可能である。このように制御階層の多階層化によって、上位の制御階層ではより上位概念での制御が可能となる(特に図示せず)。また下位の基本動作についても上記のような移動、把持、解放だけではなく、例えば 押す、引く、姿勢回転、位置回転、上げる、下げる、擦る、等の多様で細かい基本動作を多数用意し、それらの基本動作を適宜のシーケンスで組み合わせて実行することで複雑で多様な動作も円滑に制御できるようになる。
【0097】
また、階層間におけるNNモジュール21の作動制御については、入力情報の単純な入力と非入力の切り換え以外にも、作動制御情報を量的に制御することにより行ってもよい。例えば上記
図20に示した把持動作制御NNモジュールの概略モデル構成図の場合、
図22に示すように多値情報である作動速度パラメータを作動制御情報として出力するようにしてもよい。そして、この把持動作制御NNモジュールが制御するグリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールにおいては、
図23に示すように把持動作制御NNモジュールから入力された作動速度パラメータに応じて各関節軸トルク制御信号を増減するとともに、その作業動作の進捗度に応じた作動進捗度パラメータを出力する。そして把持動作制御NNモジュールにおいて、この作動進捗度パラメータがフィードバック入力されることで、それに応じて作動速度パラメータを出力する。このような相互循環での信号入力により、作業進捗に対応した作動制御の最適化が可能となる。例えば、作動制御の開始直後でグリッパ120がまだ対象物と十分離れている際には速く移動させ、グリッパ120が対象物に近づいた際には移動速度を減速させて対象物の把持や解放の確実性を高めるといった移動速度シーケンスを実現でき、作動制御の確実さを確保しつつ全体のタクトタイムを向上させることができる。なお、グリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールがその画像認識によって作動進捗度も検知可能であれば、作動進捗度パラメータの送受は省略してもよい。
【0098】
以上のように、量的多値情報で入力される作動制御情報に応じて処理するNNモジュール21が含まれていることにより、当該NNモジュール21の処理を単純な作動と非作動の切り替えではなく、量的に制御することができる。
【0099】
<2-4:複眼カメラでの知覚構成及びエンコーダでの各軸位置情報の利用>
上記の各接続構成例では、1台のカメラ104で撮像した1つの画像信号での画像解析に基づいて知覚を行ったが、これに限られない。例えば
図24に示すように、並列に配置してそれぞれの撮像方向を重複させた2つのカメラ104a,104bでそれぞれ同一範囲を撮像し、それら2つの画像信号を
図25に示すような選択対象物認識NNモジュール(対象物選択信号の入力については図示省略)で画像解析することで、2つの画像信号の間の視差を反映した認識精度の高い知覚処理が可能となる。また図示する例では、知覚NNモジュールの出力を3次元ピクセル空間での特徴点抽出で出力している。このような3次元ピクセル空間データを介して知覚制御NNモジュールが処理することで、3次元空間野での知覚処理が可能となる。または、上記
図25に対応する
図26に示すように、知覚NNモジュールが出力する特徴点を、6次元位置情報(第1~6知覚位置情報)で抽出出力してもよい。この6次元位置情報は、この例の6軸駆動の垂直多関節アームロボット110の各関節軸それぞれにおける回動角度位置に対応する位置情報である。なお、特に図示しないが、撮像方向を重複させた3つ以上のカメラで3つ以上の画像信号を取得することでさらに空間把握精度を向上させてもよい。
【0100】
そして上記
図19に対応する
図27に示すように、選択対象物認識NNモジュールが出力した3次元ピクセル空間データ又は6次元位置情報を空間野バッファ107、107′で一時的に記憶(ラッチ)させておき、これをグリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールやグリッパ-ボール姿勢合わせ知覚制御NNモジュールに参照させる。このようにすることで、例えば作業動作中にカメラ104と対象物の間で何らかの遮蔽物が一時的に通過した場合でも、その間に作業動作を中断させることなく円滑に遂行させることができる。なお、空間野バッファ107、107′は、別途のNNモジュール21の組合せで構成してもよいし、ノイマン型コンピュータ101のメモリ領域で構成してもよい。
【0101】
また
図27においては、垂直多関節アームロボット110の各関節軸にそれぞれ回動角度位置を検出可能なエンコーダ106を設けておき、それら各エンコーダ106が検出した各軸位置情報もグリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールやグリッパ-ボール姿勢合わせ知覚制御NNモジュール等に入力している(グリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュールの場合の
図28参照)。これにより、空間野バッファ107、107′中の特徴点(被把持点Pw)の位置(
図28に示す例では6次元位置情報で表現された位置)と各軸位置情報で導き出されるグリッパ120の把持点Pmとの間の離間距離を反映して各関節軸トルク制御信号を増減させることができる。これによっても、上述した作動制御の進捗状況に応じたグリッパ120の移動速度シーケンスを実現でき、作動制御の確実さを確保しつつタスク処理全体のタクトタイムを向上させることができる。
【0102】
また、グリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュール等におけるボール201の被把持点Pwとグリッパ120の把持点Pmとの位置合わせの状態(一致、不一致)の判別についても、上記実施形態のように被把持点Pwと把持点Pmをいずれも画像信号の画像認識により認識して比較する手法に限られない。この他にも、グリッパ120の把持点Pmに関しては、上述したようにグリッパ-ボール位置合わせ知覚制御NNモジュール自体で各エンコーダ106から入力された各軸位置情報に基づいてグリッパ120の把持点Pmを導きだし、画像信号で画像認識した被把持点Pwと比較して一致と不一致を判断してもよい。これは、各軸位置情報を帰還情報として、画像中で画像認識した被把持点Pwと、各軸位置情報に基づいて導いた把持点Pmとの位置合わせを行うフィードバック制御に相当する(特に図示せず)。
【0103】
また、上位概念処理のための多階層化は選択対象物認識の列においても構築可能であり、例えば
図29に示すように入力信号と出力信号を挟んだ2列のそれぞれで上位概念化することが可能となる。
【0104】
図示する例では、選択対象物認識の列において、選択対象物認識階層NNモジュールを最下位階層とし、それから昇順に対象物物性認識階層NNモジュール群、対象物間関係認識階層NNモジュール群が接続されている。対象物物性認識階層NNモジュール群は、選択対象物認識階層NNモジュールが選択した対象物に対してその画像信号(及び姿勢信号)に基づき当該対象物の多様な物性(形状、大きさ、色、重さ、硬さ、粘性、等)を認識して出力する。動作知覚制御の列における複合動作制御階層NNモジュール群は、上記の物性認識情報も入力して対象物の物性に適した複合動作制御を行う。
【0105】
また、対象物間関係認識階層NNモジュール群は、選択対象物認識階層NNモジュールが選択した対象物に対して、対象物物性認識階層NNモジュール群が認識した当該対象物の物性情報と画像信号(及び姿勢信号)に基づき当該対象物とその周囲に存在する他の対象物との間の配置関係や物理的・化学的な関係(例えば上下の重なり合い、係合、嵌合、溶着、貼付など)を認識して出力する。動作知覚制御の列における作業工程制御階層NNモジュール群は、上記の配置関係や物理的・化学的な関係の情報も入力して対象物の物性に適した作業工程制御を行う。
【0106】
図29に示すNNモジュールコネクトーム構成はあくまでマニピュレータ制御に適用する場合の一例であるが、このように各列で上位階層を増やして上位概念化を進めることで、ニューロ型コントローラ102は全体の汎化性能を向上させることができる。なお、図示する階層構造はあくまで一例であり、各階層の機能や解釈次第では階層数を適宜増減してもよいし、階層間における上位と下位の関係を適宜変更してもよい。
【0107】
<2-5:自然言語処理への適用システム構成例>
以下においては、ニューロ型コンピュータ1の適用形態の第2の例として、自然言語処理に適用する場合について説明する。
図30は、ニューロ型コンピュータを用いた自然言語処理システムのNNモジュールコネクトーム構成の一例を示している。なお、図示するコネクトーム構成は、各部の接続関係や各種情報の入出力関係を限定するものではない。
【0108】
図30に示す自然言語処理システム300は、カメラ304で撮像された対象物の状態を自然言語(この例では日本語)で表現して発話出力する機能を有するものである。この自然言語処理システム300は、ニューロ型コントローラ302と、カメラ304と、3次元加速度センサ305と、スピーカ308を有している。
【0109】
図示する例のニューロ型コントローラ302におけるNNモジュールコネクトーム構成としては、上述した対象物の状態内容を発話する機能部分として、音素発音制御階層NNモジュール群を最下位階層とし、そこから昇順に単語・助詞制御階層NNモジュール群、対象物・状態認識階層NNモジュール群、及び発話工程制御階層NNモジュール群の4つの階層とそれより上位の図示しない階層を有している。カメラ304の画像信号と、3次元加速度センサ305の姿勢信号は、対象物・状態認識階層NNモジュール群より上の各階層に入力されている。スピーカ308(発話装置)は、最下位階層の音素発音制御階層NNモジュール群の各出力を音声変換可能に接続されている。
【0110】
<2-6:自然言語処理システムのタスク例>
ここで上記自然言語処理システム300に実行させるタスク作業の一例を説明する。この例の自然言語処理システム300は、上述したようにカメラ304が撮像した対象物の状態を日本語で表現してスピーカ308で発話出力する。
図31は、その対象物が玩具のこま(独楽)である場合の3つの状態例とそれぞれに対応して出力すべき発話内容を示している。
【0111】
最も左方に示す状態例では対象物のこまが回転せずに傾倒しており、ニューロ型コントローラ302はこの状態に対してスピーカ308に「こま」「が」「ころんで」「いる」と順に発話出力させる。この発話内容において、「こま」が主語であり、「が」は主語にかかる助詞であり、「ころんで」が状態内容を示す形容詞であり、「いる」が動詞となる。
【0112】
また、中央に示す状態例では対象物のこまが回転して直立しており、ニューロ型コントローラ302はこの状態に対してスピーカ308に「こま」「が」「まわって」「いる」と順に発話出力させる。この発話内容において、「まわって」が状態内容を示す形容詞となる。
【0113】
また右方に示す状態例では対象物のこまが回転せずにその軸芯を台座に突き刺して直立しており、ニューロ型コントローラ302はこの状態に対してスピーカ308に「こま」「が」「たって」「いる」と順に発話出力させる。この発話内容において、「たって」が状態内容を示す形容詞となる。
【0114】
<2-7:自然言語処理システムの制御内容>
次に上記
図30に示したNNモジュールコネクトーム構成での上記のタスク例に対応した機能と制御内容を
図32で詳細に説明する。まず、音素発音制御階層NNモジュール群における各音素発音制御NNモジュールは、この例の日本語で発音させる最小単位の音素、つまり「あ」~「ん」までのいわゆる50音の音素をそれぞれスピーカ308に発音出力させるための制御NNモジュールとなる。例えば「あ」の音素の発音制御NNモジュールは、開始信号が入力されてから「あ」の音素に対応する時系列波形の電気信号をスピーカ308に出力し、その終了時に完了信号を出力する。この場合、発音制御NNモジュールはニューラルネットワークで構成する以外にも、時系列波形の電気信号を生成するノイマン型コンピュータ(シーケンサ)で構成してもよい。
【0115】
また、例えば出力機器がスピーカ308ではなく、人間の身体の場合の口唇、顎、舌、及び声帯と同等に機能する構成を備えた出力機器(特に図示せず)を組み合わせて用いる場合には、
図33に示すようにそれら口唇、顎、舌、及び声帯のそれぞれに相当する各出力機器を時系列的に協調制御して「あ」の音素を発音出力させてもよい。この場合には、声帯が発音の有無と声量の時系列的な変化を制御し、口唇、顎、及び舌が発音の周波数、アクセントなどの時系列的な変化を制御する。このような複数の出力機器の時系列的な協調制御を行う機能部分は、上記
図29に示した複合動作制御階層NNモジュール群や基本動作知覚制御階層NNモジュール群で実装してもよい。また、発話出力の出力形態以外にも、マニピュレータを利用した筆記、タイピングや、プリンタ等を利用した印字などの出力形態としてもよい。
【0116】
次に
図32に戻り、単語・助詞制御階層NNモジュール群における各単語・助詞制御NNモジュールは、この例の日本語で用いられる多数の単語(名詞、動詞、形容詞、副詞など)と助詞(他にも助動詞、前置詞、冠詞など)をそれぞれいずれの音素の時系列的な組合せで発音させるかを制御するための制御NNモジュールとなる。例えば「こま」の単語に対応する単語・助詞制御NNモジュール(名詞制御NNモジュール)は、上位階層から開始信号が入力されてから最初に「こ」の音素に対応する下位階層の音素発音制御NNモジュールに開始信号を出力する。そして、当該「こ」の音素に対応する音素発音制御NNモジュールから完了信号が入力された際に、次いで「ま」の音素に対応する音素発音制御NNモジュールに開始信号を出力する。そして、当該「こ」の音素に対応する音素発音制御NNモジュールから完了信号が入力された際に、上位階層に完了信号を出力する。
【0117】
対象物・状態認識階層NNモジュール群における各対象物・状態認識NNモジュールは、カメラ304が撮像した画像信号を画像認識し、その画像信号に映し出されている対象物の名称がこの例の日本語で用いられるいずれの名詞(単語)に相当するか、もしくは当該対象物の状態がいずれの形容詞(単語)に相当するかを選択するためのNNモジュールとなる。例えば主語や目的語として名詞を認識選択する名詞認識選択NNモジュールは、上位階層から開始信号が入力された際に入力された画像信号に映し出されている対象物を画像認識して、当該対象物の名詞(この例の「こま」)に対応する下位階層の名詞制御NNモジュールに開始信号を出力する。そして、当該対象物の名称に対応する名詞制御NNモジュールから完了信号が入力された際に、上位階層に完了信号を出力する。また、例えば述語として動詞や状態を認識選択する動詞・状態認識選択NNモジュールは、上位階層から開始信号が入力された際に入力された画像信号に映し出されている対象物の動作や状態を画像認識して、当該対象物の動作や状態(この例の「まわって」、「ころんで」、「たって」)に対応する下位階層の形容詞制御NNモジュールや動詞制御NNモジュール(特に図示せず)に開始信号を出力する。そして、それら形容詞制御NNモジュールや動詞制御NNモジュールから完了信号が入力された際に、上位階層に完了信号を出力する。
【0118】
発話工程制御階層NNモジュール群における各発話工程制御NNモジュールは、カメラ304が撮像した画像信号を画像認識し、その画像信号に映し出されている対象物の状態を表現するためにこの例の日本語の文法に従っていずれの品詞をどのような語順で組み合わせて表現するかを制御するためのNNモジュールとなる。なお、この例では対象物の状態を発話出力する機能に限定しているため、発話工程制御NNモジュールの一例として対象物状態発話制御NNモジュールのみを図示しているが、他にも当該対象物自体の特徴を説明するための特徴説明制御NNモジュールや他の対象物との関係を説明する関係説明制御NNモジュールなど多様な発話工程制御NNモジュールを実装してもよい(いずれも図示省略)。この例では、対象物状態発話制御NNモジュールは、上位階層から開始信号が入力された際に入力された画像信号に映し出されている対象物を画像認識し、最初に主語として当該対象物の名詞を認識選択して発話させる名詞認識選択NNモジュールに開始信号を出力する。そして、名詞認識選択NNモジュールから完了信号が入力された後、続いて主語に続く助詞としての「が」に対応する助詞制御NNモジュールに開始信号を出力する。そして、「が」に対応する助詞制御NNモジュールから完了信号が入力された後、続いて当該対象物の状態を認識選択して発話させる動詞・状態認識選択NNモジュールに開始信号を出力する。そして、動詞・状態認識選択NNモジュールから完了信号が入力された後、続いて動詞としての「いる」に対応する動詞制御NNモジュールに開始信号を出力する。そして、「いる」に対応する動詞制御NNモジュールから完了信号が入力された際に、上位階層に完了信号を出力する。このような発話工程制御NNモジュールは、教師有り学習や深層強化学習によって自然な文法(語順など)を学習する。
【0119】
以上の制御工程によって、カメラ304が撮像した対象物の状態を日本語で表現してスピーカ308で発話出力することができる。なお、上記のNNモジュールコネクトーム構成例では日本語表現での発話出力を行う場合のものを示したが、他の言語への適用も可能である。この場合、例えば音素発音制御階層NNモジュール群における各音素発音制御NNモジュールを対象言語の各音素に対応させ、単語・助詞制御階層NNモジュール群における各単語・助詞制御NNモジュールを対象言語の各単語や各助詞などに対応させ、発話工程制御階層NNモジュール群における各発話制御モジュールを対象言語の文法(語順など)に対応させればよい。
【0120】
<3:認知側のNNモジュール階層構造について>
以上においては、
図2に示した生体脳モデルのうちの特に出力機器群3を制御する側(出力側)を模倣した多階層構造(以下、制御列セクション8という)とその適用例について説明した。これに対して以下においては、他方の入力機器群2からの入力信号に基づいて各種の認知処理を行う側(入力側)を模倣した多階層構造(以下、認知列セクション6という)について説明する。
【0121】
図34は、上記
図2に仮定した生体脳の層構造モデルにおける入力認知側の接続構成や機能配置を模倣して構築した認知列セクション6のNNモジュール階層構造の一例を上記
図3に対応して示している。ただし図示する例は、上記
図29に示したマニピュレータ制御用の選択対象物認識の列をより一般化し、実体的な物体や環境(状況)の認知に適用する場合のものを概略的に示しているが、その詳細を限定するものではない。また、階層間の全結合を示す記号Xについては形式的に図示しているだけであり、各階層の機能や解釈に応じて適宜に部分結合であったり省略してもよい。
【0122】
この
図34において、それぞれ同じ認知機能レベルにある複数のNNモジュール21をまとめたNNモジュール群を一つの階層とし(図示する例では、分類認知階層401、性質・状態認知階層402、及び物理・化学量認知階層403の3つの階層)、それらの多階層構造で接続した構成により認知列セクション6の全体を構築している。そして、相対的に下位階層にあるNNモジュール21が出力した認知情報をそれより上位階層にある少なくともいずれか1つのNNモジュール21に入力するよう接続している。これにより、下位階層で認知された具現的な認知情報に基づいて、それらから認知し得るさらに抽象的な認知情報を上位階層が出力するといった下位から上位への処理の流れを形成できる。なおこの認知情報の入出力関係は、積層方向で隣接する階層間に限られず、1階層以上離間した配置関係の階層間で行ってもよい(
図34中では特に図示せず)。
【0123】
そして、少なくとも最下位階層である物理・化学量認知階層403の各NNモジュール21は、入力機器群2からの入力情報に基づいて所定の認知情報を出力するものであり、当該NNモジュール21の処理内容に応じて入力情報と認知情報の間の相関関係を学習している。これにより、入力機器群2の外部機器から直接入力された入力情報に対応した基本的な認知処理機能を持たせることができる。なお、それより上の階層である401,402のNNモジュール21においても、必要に応じて入力機器群2からの入力情報を直接入力してもよい(
図34中では特に図示せず)。
【0124】
また、所定階層のNNモジュール21には、その認知処理内容に応じて当該所定階層より上の階層のどのNNモジュール21に認知情報を入力させるかを学習しているものが含まれている。
【0125】
また、所定階層のNNモジュール21は、それ自体から認知情報を入力した他の上階層のNNモジュール21から入力された帰還情報を当該所定階層のNNモジュール21の処理に反映させてもよい(
図34中では特に図示せず)。
【0126】
ここで、図示する例の認知列セクション6における各階層の各NNモジュール21が出力する認知情報の内容を例示する。例えば物理・化学量認知階層NNモジュール群403では、対象物に対して入力機器群2から取得した画像信号や触覚信号などのマルチモーダル入力に基づき、各NNモジュール21がそれぞれ当該対象物についての多様な物理的・化学的な物性(形状、大きさ、色、重さ、硬さ、温度、粘性、匂い、動き、等)を量的に認識し認知情報として出力する。
【0127】
そして、1つ上位にある性質・状態認知階層NNモジュール群402では、下位の物理・化学量認知階層403から入力された認知情報に基づき、各NNモジュール21がそれぞれ対象物の性質や状態(固体・液体・気体・ゾル・ゲルの区別、有機物・無機物の区別、単体・構造物の区別、等)を認識し認知情報として出力する。
【0128】
そして、さらに1つ上位にある分類認知階層NNモジュール群401では、下位の性質・状態認知階層402から入力された認知情報に基づき、各NNモジュール21がそれぞれ対象物の分類(生物・非生物の区別、食物・非食物の区別、自然物・人工物の区別、材料・道具の区別、実体・図柄の区別、等)を認識し認知情報として出力する。
【0129】
つまり下位の階層ほど具現的(下位概念的)な要素情報を認知情報として出力し、上位の階層ほど抽象的(上位概念的)な総合情報を認知情報として出力する。各階層の各NNモジュール21が出力する認知情報はそれより上位の階層に入力するだけでなく、いずれも外部へ出力可能となっている。これにより、当該認知列セクション6の全体では、同一の対象物(対象事象)について具現的な認知情報から抽象的な認知情報まで多元的に出力できる。
【0130】
以上のように構成した認知列セクション6の全体は、
図35に示すように、1つの階層における1つのNNモジュール21を1つの疑似ノードとみなした場合の複数の疑似ノード列(つまり1階層におけるNNモジュール列)を多層で結合した2次的なニューラルネットワーク(つまりNNモジュール21のニューラルネットワーク)に概略的に近い構成とみなせる。この場合、各階層間における全結合部分(記号Xの結合部分)の各結合を疑似エッジとみなしてそれぞれ個別に疑似重み係数を乗算し、上記の2次ニューラルネットワーク全体で疑似重み係数を調整する学習を行ってもよい。また、疑似エッジに接続される各NNモジュール21の入力層の各ノードにおいても、入力された複数の入力情報の和を線形的に出力してもよいし、またはその和に対して所定の活性化関数を用いた発火処理(所定の閾値との比較処理により出力と非出力の切り替え処理)を行わせてもよい。なお、このような2次ニューラルネットワークの構成とその学習については、上記
図3や
図29に示した制御列セクション(NNモジュール群多階層構造)に相当する箇所においても同様に適用可能である。
【0131】
以上のように構成することで、例えば下位の階層ほど入力機器群2からの入力信号と出力すべき認知情報との間の直接的な相関関係を学習して、入力機器群2との間のいわゆるインターフェース的な機能を持たせることができる。また一方、上位の階層ほど下位の階層のいずれのNNモジュール21から認知情報を入力することで最終的な認知処理にどれだけ寄与できるかなどの処理概念を学習することができ、より上位概念的な情報処理機能を持たせることができる。そしてさらに上位の階層を追加(つまり上位概念獲得)、調整することや既存の各階層でのNNモジュール21の追加、調整(つまり下位概念の拡充)することで、ニューロ型コンピュータ1全体における統合的な認知処理の汎化性能を向上させることができる。このような上位と下位の階層の関係において、下位の階層では大量のデータ(いわゆるビッグデータ)を用いた学習が必要であるが、上位の階層ではそれと比較してより少ない数のデータや試行での学習で機能できる。
【0132】
以上のような構成の認知列セクション6の適用例として、例えば一般的な成人の人間が有する認知機能まで拡張したと仮定した概略モデルの一例を
図36に示す。なお図示する例のモデルは、視覚情報に相当するカメラ104からの画像情報だけに基づいて認知を行ういわゆる視覚野に限定した認知列セクション6を示しているが、その詳細を限定するものではない。この
図36に示す例において認知列セクション6は、物理・化学量認知階層501を最下位階層とし、そこから昇順に性質・状態・分類認知階層502、関係認知階層503、言語認知階層504及び図形認知階層505、意味認知階層506を有している。(ただし、図中では どの対象物に着目するかを選択する選択対象物認識NNモジュールを省略している)。
【0133】
例えば、机の上にリンゴが置かれている状況をカメラ104で撮像してその画像情報(及び姿勢信号)を最下位階層の物理・化学量認知階層501の各NNモジュール21に入力することで、机とリンゴそれぞれに関する物性認知情報が出力される。この物性認知情報として図示する例では、例えば机に関する「硬そう」、「水平面」と、リンゴに関する「握り拳ほどの大きさ」、「赤い」、「略球体」、「上方に突起」などの認知情報が出力される。
【0134】
そしてこれらの物性認知情報を性質・状態・分類認知階層502の各NNモジュール21に入力することで、机とリンゴそれぞれに関する性質・状態・分類の認知情報が出力される。これらの認知情報として図示する例では、例えば机に関しては「板状物」、「人工物」、「固定物」、などの認知情報とともにその対象物が「机」であることが認知され、リンゴに関しては「有機物」、「食物」、「単体」などの認知情報とともにその対象物が「リンゴ」であることが認知される。なお、図の紙面上の都合から認知階層を単純化して説明しているが、実際にはもっと細分化された認知が行われてもよい。
【0135】
そしてこれらの性質・状態・分類の認知情報を関係認知階層503の各NNモジュール21に入力することで、「机」と「リンゴ」の間の関係性の認知情報が出力される。この認知情報として図示する例では、例えば単体のリンゴが空中に浮いていたり潰れていたりするのではなく、また絵や写真に映し出されているものでもなく、実体物としてリンゴが重力方向で机の平面上に載置されているという関係性が認知される。
【0136】
そしてこのような関係性の認知情報を言語認知階層504と図形認知階層505の各NNモジュール21に入力することで、それぞれのNNモジュール21は机とリンゴの関係性(机の上にリンゴが載置)が抽象的に認知される。この認知情報として図示する例では、例えば言語認知階層504からは「リンゴが机の上に乗っている」などの状況を示す概念が言語表現的に認知される。また図形認知階層505からは、リンゴが机の上に乗っているという状況を示す概念が幾何記号的に認知される。なお言語認知階層504と図形認知階層505は機能的に同位の階層であって、例えば人間の生体脳における左脳(言語的)と右脳(感覚的)の認知機能の分担に相当するようNNモジュール21が区分けされている。
【0137】
そしてこれらの言語表現的な認知情報と幾何記号的な認知情報を意味認知階層506の各NNモジュール21に入力することで、リンゴが机の上に乗っている状況についての意味情報が出力される。この認知情報として図示する例では、例えば他の図示しない認知情報も参照して「リンゴを食べるために誰かが机の上に置いた」などのように背景的な意味合いも含めた総合的な意味を認知、推定する。なお、以上における図示と説明は、下位の具現的な認知要素に基づいて上位の抽象的な認知を行う流れについての理解を目的とした概念を示しただけであり、実際的な意味理解や制御を行うためにはより詳細な認知処理が必要である。
【0138】
以上のような認知列セクション6の構成とそれに含まれる各階層の機能と解釈は、当該認知列セクション6を備えるニューロ型コンピュータ1の用途や目的に応じて任意に設計でき、必要な階層やNNモジュール21を選択的に限定又は追加して備えればよい。例えば、機械制御に特化したニューロ型コンピュータ1であれば言語認知階層504は不要であり、意味認知階層506では対象物等に対する物理的な運動法則等(例えば、机に置かれたリンゴを押せば転がる、等)を認知すればよい。また、状況説明に特化したニューロ型コンピュータ1であれば図形認知階層505は不要であり、意味認知階層506では対象物等の状況等(誰が何のために机にリンゴを置いたか、等)を認知すればよい。
【0139】
<4:ニューロ型コンピュータ全体のセクション構成>
図37は、上述した出力機器群3を制御するための制御列セクション8と、入力機器群2からの入力信号に基づいて認知を行うための認知列セクション6を統合して備えた場合のニューロ型コンピュータ1の概略モデルの一例を示している。この
図37において、ニューロ型コンピュータ1は、認知列セクション6と、思考列セクション7と、制御列セクション8とを有している。
【0140】
認知列セクション6は、上述したように、入力機器群2から入力される入力信号に基づいて所定の認知処理により下位から上位の各階層から各種の認知情報を出力する。思考列セクション7は、認知列セクション6から入力された各種の認知情報に基づいて所定の情報処理により下位から上位の各種の制御情報を出力する。制御列セクション8は、思考列セクション7から入力された各種の制御情報に基づいて出力機器群3への出力信号を出力する。この場合の制御列セクション8は、入力される制御情報の信号で各NNモジュール21のスイッチャー26を作動させてもよいし、入力される制御情報の信号を量的多値情報の制御量(作動制御情報)として各NNモジュール21に入力させてもよい。
【0141】
思考列セクション7については、特に詳細に図示しないが、目的としたタスクに特化した情報処理を行うニューラルネットワークであり、あらかじめ多数用意している思考・予測NNモジュールのうちからタスクに対応したものを選択的に適用可能となっている。つまり、認知列セクション6と制御列セクション8が当該ニューロ型コンピュータ1における基本OSに相当し、思考列セクション7が当該ニューロ型コンピュータ1におけるアプリケーションに相当する。思考列セクション7に備えられる具体的な思考・予測NNモジュールの内容としては、例えばマニピュレータ制御用のアプリケーションとして知恵の輪の結合と解除の操作を行うためのものであったり、また自然言語処理用のアプリケーションの一例としてしりとりを行うためのものなどが考えられる。
【0142】
思考・予測NNモジュールについては、特に図示しないが、単一のNNモジュール21で構成したものでもよいし、または他のセクションと同様にNNモジュール群を多階層で接続したコネクトーム構成のものでもよいし、他にも部分的にノイマン型コンピュータ(もしくはデジタルハードウェア)を組み込む構成でもよく、他の認知列セクション6及び制御列セクション8に対して互換性を有していればどのような構成であっても適用できる。また、思考列セクション7の各NNモジュール21を予めそれぞれ必要とされる機能を発揮できるよう個別に学習させてもよいし、もしくは思考列セクション7を組み込んだニューロ型コンピュータ1全体で適宜ファインチューニングするよう学習させてもよい。
【0143】
以上のように入力機器群2からの入力信号を認知列セクション6、思考列セクション7、及び制御列セクション8の順で伝達処理して出力機器群3に出力し、また各セクション6,7,8で下位概念から上位概念までに対応した多階層構造としていることで、上記
図2に示した生体脳モデルに近い構成となる。なお、特に図示しないが、必要に応じて認知列セクション6と制御列セクション8の間で上記思考列セクション7を介さずに情報信号を直接送受させる経路を設けてもよいし、もしくは上記
図29に示した空間野バッファ107、107′のような適宜の機能部を介して情報信号を送受させてもよい。また、特に図示しないが、人間の場合の右脳と左脳のように、各セクション6,7,8を用途別や機能別で区別しつつ併用してもよく、この場合にはさらなる汎用性の向上が可能となる。
【0144】
また、
図38に示すように、予めニューロ型コンピュータ1の思考列セクション7に多数の思考・予測NNモジュール(もしくはそれらの多階層構造)をアプリケーションとして備えておき、認知列セクション6が出力した多数の認知情報の内容に応じて別途の適用アプリケーション選択NNモジュール9(選択モジュール)が適切な思考・予測NNモジュールを実行アプリケーションとして選択して適用するようにしてもよい。これにより、当該ニューロ型コンピュータ1自体が自律的に外界の環境や状況に応じて適切な思考処理(又はタスク)を切り替えて実行することができる。
【0145】
<5:適用技術分野>
以上においては、ニューロ型コンピュータ1をマニピュレータ制御と自然言語処理にそれぞれ適用した例を説明したが、これらに限られない。他にも自動車の自動運転制御、生産機械やプラント等の産業設備の自動制御、等の他の多様な情報処理分野で、本発明のロバスト性、汎用性の高いニューロ型コンピュータ1の適用が可能である。
【0146】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0147】
その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0148】
1 ニューロ型コンピュータ(情報処理装置)
2 入力機器群
3 出力機器群
4 ノイマン型コンピュータ
6 認知列セクション
7 思考列セクション
8 制御列セクション
9 適用アプリケーション選択NNモジュール
11 大脳
16 大脳基底核
17 脳神経細胞
18 大脳新皮質
21 ニューラルネットワークモジュール(処理モジュール)
22 複合動作制御階層
23 基本動作知覚階層
24 基本動作制御階層
25 複合動作制御階層ニューラルネットワークモジュール
26 スイッチャー
27 基本動作知覚制御階層
100 マニピュレータ制御システム
101 ノイマン型コンピュータ
102 ニューロ型コントローラ(情報処理装置)
103 マニピュレータ
104 カメラ
105 3次元加速度センサ(姿勢センサ)
106 エンコーダ
107 空間野バッファ
107′ 空間野バッファ
110 垂直多関節アームロボット
120 グリッパ
121 把持爪
122 圧接センサ
201 ボール
202 容器
203 立方体
300 自然言語処理システム
302 ニューロ型コントローラ
304 カメラ
305 3次元加速度センサ
308 スピーカ
401 分類認知階層
402 性質・状態認知階層
403 物理・化学量認知階層
501 物理化学量認知階層
502 性質・状態・分類認知階層
503 関係認知階層
504 言語認知階層
505 図形認知階層
506 意味認知階層