(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】制振装置、制振装置を備えた車両及び制振装置の安定度判定方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20221221BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20221221BHJP
G05D 19/02 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F16F15/02 B
F16F15/02 C
G05B13/02 B
G05B13/02 S
G05D19/02 D
(21)【出願番号】P 2018184295
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 大洋
(72)【発明者】
【氏名】守屋 英朗
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275816(JP,A)
【文献】特開2012-068773(JP,A)
【文献】特開2009-275814(JP,A)
【文献】特開2003-195950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12
7/00- 8/00
16/00
F16F 15/00-15/36
G05B 1/00- 7/04
11/00-13/04
17/00-17/02
21/00-21/02
G05D 5/00- 5/06
15/00-15/01
17/00-19/02
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応制御アルゴリズムを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出し、算出した疑似振動に基づいて前記相殺振動を前記加振手段を通じて制振すべき位置に発生させ、発生した相殺振動と前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動との相殺誤差として残る振動を検出し、検出した相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応制御アルゴリズムが働くものであり、前記加振手段から制振すべき位置まで伝達する振動の振幅及び位相を変化させる振動伝達特性の逆伝達特性が前記適応制御アルゴリズム内に予め記憶され、前記相殺振動が前記疑似振動に対して逆伝達特性を加味して算出される制振装置であって、
前記適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を乗算する適応フィルタ係数可変手段と、
前記適応フィルタ係数可変手段により積分値操作量を乗算した際に、前記加振手段を駆動する駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルの大きさの変動量を算出する変動量算出手段と、
前記指令ベクトルの大きさの変動量
と振動伝達特性の位相誤差
との関係を予め記憶した記憶手段を備え、
前記変動量算出手段により算出された指令ベクトルの大きさの変動量と、前記記憶手段に記憶された
前記関係に基づいて、振動伝達特性の位相誤差を推定することを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記変動量算出手段により算出された前記指令ベクトルの大きさの変動量と、前記記憶手段に記憶された指令ベクトルの大きさの変動量に基づいて、振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する安定性判定手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制振装置を備えたことを特徴とする車両。
【請求項4】
振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応制御アルゴリズムを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出し、算出した疑似振動に基づいて前記相殺振動を前記加振手段を通じて制振すべき位置に発生させ、発生した相殺振動と前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動との相殺誤差として残る振動を検出し、検出した相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応制御アルゴリズムが働くものであり、前記加振手段から制振すべき位置まで伝達する振動の振幅及び位相を変化させる振動伝達特性の逆伝達特性が前記適応制御アルゴリズム内に予め記憶され、前記相殺振動が前記疑似振動に対して逆伝達特性を加味して算出される制振装置の制御方法であって、
前記適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を乗算する適応フィルタ係数可変ステップと、
前記適応フィルタ係数可変ステップにより前記積分値操作量を乗算した際に、前記加振手段を駆動する駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルの大きさの変動量を算出する変動量算出ステップと、
前記変動量算出ステップにより算出された指令ベクトルの大きさの変動量と、
記憶手段に予め記憶された前記指令ベクトルの大きさの変動量と振動伝達特性の位相誤差との関係に基づいて、振動伝達特性の位相誤差を推定する位相誤差推定ステップとを備えることを特徴とする制振装置の制御方法。
【請求項5】
前記位相誤差推定ステップにより推定された振動伝達特性の位相誤差に基づいて、振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する安定性判定ステップを備えることを特徴とする請求項4に記載の制振装置の制御方法。
【請求項6】
前記制振装置は、車両に搭載されており、
前記適応フィルタ係数可変
ステップは、車両がアイドリング状態である場合または車両が定速走行状態や一定の緩加速・緩減速状態である場合に行われることを特徴とする請求項4または5に記載の制振装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加振手段から制振すべき位置に至る振動伝達経路上の振動伝達特性の逆伝達特性を予め設定しておき、この予め設定した逆伝達特性を用いて制振すべき振動を抑制する制振装置、制振装置を備えた車両及び制振装置の安定度判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両のエンジン等の振動発生源で生じた振動と加振手段を通じて発生させた相殺振動とを制振すべき位置で相殺する制振装置が知られている。このような従来の制振装置として、特許文献1には、振動発生源から制振すべき位置に伝達した振動に対し逆相となる相殺振動を、加振手段を通じて制振すべき位置に発生させるものが記載されている。相殺信号を生成するにあたり、加振手段で発生させた振動は制振すべき位置に伝達する過程で振幅又は位相が変化するので、この変化を考慮して制振すべき位置に相殺振動が印加されるように振動を加振手段で発生させる必要がある。したがって、特許文献1では、加振手段から制振すべき位置まで伝達する振動の振幅及び位相の変化させる振動伝達特性の逆伝達特性を適応制御アルゴリズム内に予め記憶しておき、制振すべき位置での振動を模擬した疑似振動を逆波形にした振動に対して逆伝達特性を加味して相殺振動を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、振動伝達特性は経年等によって変化するものであり、特に振動伝達特性の位相成分が変化すると、システムの振動伝達特性と適応制御アルゴリズム内の逆伝達特性に乖離ができる。これにより、制振効果が低減し、乗り心地の低下につながると共に、その特性の変化量が適応制御系の安定限界を超えると、適応制御が制御破綻してしまう。
【0005】
このような不具合を解決するために、システムの振動伝達特性の位相と,アルゴリズム内にあらかじめ記憶した逆伝達特性の位相との位相誤差が安定限界範囲内にあるかどうかを推定することが,一つの有効な手段として挙げられる。
【0006】
本発明の発明者は、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して、適応フィルタ係数を意図的に変動させた時のベクトル再収束の挙動に着目し、振動伝達特性の位相誤差の大きさによって、ベクトルが異なる収束挙動を示すことを見出した。
【0007】
本発明の目的は、システムの振動伝達特性とアルゴリズム内にあらかじめ記憶した逆伝達特性との間の位相誤差が、適応制御が安定して動作する領域にあるかどうか判定することを可能にした制振装置、制振装置を備えた車両及び制振装置の安定性判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を講じたものである。
すなわち、本発明に係る制振装置は、振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応制御アルゴリズムを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出し、算出した疑似振動に基づいて前記相殺振動を前記加振手段を通じて制振すべき位置に発生させ、発生した相殺振動と前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動との相殺誤差として残る振動を検出し、検出した相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応制御アルゴリズムが働くものであり、前記加振手段から制振すべき位置まで伝達する振動の振幅及び位相を変化させる振動伝達特性の逆伝達特性が前記適応制御アルゴリズム内に予め記憶され、前記相殺振動が前記疑似振動に対して逆伝達特性を加味して算出される制振装置であって、前記適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を乗算する適応フィルタ係数可変手段と、前記適応フィルタ係数可変手段により積分値操作量を乗算した際に、前記加振手段を駆動する駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルの大きさの変動量を算出する変動量算出手段と、前記指令ベクトルの大きさの変動量と振動伝達特性の位相誤差との関係を予め記憶した記憶手段を備え、前記変動量算出手段により算出された指令ベクトルの大きさの変動量と、前記記憶手段に記憶された前記関係に基づいて、振動伝達特性の位相誤差を推定することを特徴とする。
【0009】
これにより、本発明に係る制振装置では、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を意図的に与えて不安定化させた時の加振手段を駆動する駆動指令信号に対応する指令ベクトルの大きさの変動量に基づいて、システムの振動伝達特性の位相誤差を適正に推定することが可能となる。
【0010】
本発明に係る制振装置は、前記変動量算出手段により算出された指令ベクトルの大きさの変動量と、前記記憶手段に記憶された指令ベクトルの大きさの変動量に基づいて、振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する安定性判定手段を備えることを特徴とする。
【0011】
これにより、本発明に係る制振装置では、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を意図的に与えて不安定化させた時の加振手段を駆動する駆動指令信号に対応する指令ベクトルの大きさの変動量に基づいて、振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか適正に判定することが可能となる。
【0012】
本発明に係る車両は、本発明の制振装置を備えたことを特徴とする。これにより、本発明に係る車両では、乗員に快適な乗り心地を提供できる。
【0013】
本発明に係る制振装置の制御方法は、振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応制御アルゴリズムを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出し、算出した疑似振動に基づいて前記相殺振動を前記加振手段を通じて制振すべき位置に発生させ、発生した相殺振動と前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動との相殺誤差として残る振動を検出し、検出した相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応制御アルゴリズムが働くものであり、前記加振手段から制振すべき位置まで伝達する振動の振幅及び位相を変化させる振動伝達特性の逆伝達特性が前記適応制御アルゴリズム内に予め記憶され、前記相殺振動が前記疑似振動に対して逆伝達特性を加味して算出される制振装置の安定性判定方法であって、前記適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を乗算する適応フィルタ係数可変ステップと、前記適応フィルタ係数可変ステップにより積分値操作量を乗算した際に、前記加振手段を駆動する駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルの大きさの変動量を算出する変動量算出ステップと、前記変動量算出ステップにより算出された指令ベクトルの大きさの変動量と、記憶手段に予め記憶された前記指令ベクトルの大きさの変動量と振動伝達特性の位相誤差との関係に基づいて、振動伝達特性の位相誤差を推定する位相誤差推定ステップとを備えることを特徴とする。
これにより、本発明に係る制振装置の制御方法では、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を意図的に与えて不安定化させた時の加振手段を駆動する駆動指令信号に対応する指令ベクトルの大きさの変動量に基づいて、システムの振動伝達特性の位相誤差を適正に推定することが可能となる。
本発明に係る制振装置の制御方法において、前記位相誤差推定ステップにより推定された振動伝達特性の位相誤差に基づいて、振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する安定性判定ステップを備えることを特徴とする。
【0014】
これにより、本発明に係る制振装置の制御方法では、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を意図的に与えて不安定化させた時の加振手段を駆動する駆動指令信号に対応する指令ベクトルの大きさの変動量に基づいて、システムの振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定できる。
【0015】
本発明に係る制振装置の制御方法において、前記制振装置は、車両に搭載されており、前記適応フィルタ係数可変ステップは、車両がアイドリング状態である場合または車両が定速走行状態や一定の緩加速・緩減速状態である場合に行われることを特徴とする。
【0016】
これにより、本発明に係る制振装置の制御方法では、制振状態の安定時において適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量を乗算することから、システムの振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか適正に判定できる。
【発明の効果】
【0017】
以上、本発明によれば、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して適応フィルタ係数を意図的に変動させて不安定化させた時に、加振手段を駆動する駆動指令信号に対応する指令ベクトルが異なる収束挙動を示すことに基づいて、適応制御が安定して動作する領域にあるかどうか判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る制振装置を車両に適用した模式的な構成図である。
【
図2】
図1の制振装置を構成するリニアアクチュエータを備えた加振手段の模式的な構成図である。
【
図3】
図1の制振装置の制振制御に係る構成を示すブロック図である。
【
図4】適応フィルタ係数とその係数により表現される指令ベクトルVe1Aを示す説明図である。
【
図5】振動発生源から制振すべき位置へ伝達した振動と相殺振動との相殺誤差として残る振動に関する説明図である。
【
図6】
図1の制振装置において積分値操作量を乗算する方法を説明するブロック図である。
【
図7】積分値操作量を乗算することによる指令ベクトルVe1Aの挙動を示す図である。
【
図8】積分値操作量を乗算することによる指令ベクトルVe1Aの挙動を示す図である。
【
図9】積分値操作量を乗算することによる指令ベクトルVe1Aの挙動を示す図である。
【
図10】積分値操作量を乗算することによる指令ベクトルVe1Aの挙動を示す図である。
【
図11】種々の位相誤差を有する制御状態において積分値操作量を乗算した際の指令ベクトルVe1Aの評価値の挙動を示す図である。
【
図12】種々の位相誤差を有する制御状態において積分値操作量を乗算した際の指令ベクトルVe1Aの挙動を示す図である。
【
図13】種々の位相誤差を有する制御状態において積分値操作量を乗算した際の指令ベクトルVe1Aの評価値Vと振動伝達特性の位相誤差Δφの関係を説明する図である。
【
図14】指令ベクトルVe1Aの評価値Vの算出フローを説明する図である。
【
図15】振動伝達特性の位相誤差Δφを推定する方法を説明する図である。
【
図16】位相誤差Δφの推定方法の具体例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る制振装置を、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態の制振装置は、
図1に示すように、自動車等の車両に搭載されるものであり、座席st等の制振すべき位置posに設けた加速度センサ等の振動検出手段1と、所定の質量を有する補助質量2aを振動させることによりリニアアクチュエータ加振振動Vi2を発生するリニアアクチュエータ20を用いた加振手段2と、振動発生源gnであるエンジンの点火パルス信号と振動検出手段1からの振動検出信号とを入力し,加振手段2で発生させたリニアアクチュエータ加振振動Vi2が加振手段から振動検出手段までの加振伝達特性Gを経由して,制振すべき位置posへ伝達させることにより制振すべき位置posに相殺振動Vi4を発生させる制御手段3とを有し、車体フレームfrmにマウンタgnmを介して搭載されたエンジン等の振動発生源gnで生じるエンジン振動Vi1が,振動発生源から振動検出手段1までの伝達特性G’を経由し到達した源振動Vi3と相殺振動Vi4とが振動検出手段posで重なり,相殺することで位置posでの振動が低減するものである。
【0021】
振動検出手段1は、加速度センサ等を用いてエンジンの主振動方向と同一方向の主振動を検出し、検出加振振動sg{=A1sin(θ+φ)}、θ=ωtを出力する。
【0022】
リニアアクチュエータ20は、
図2に示すように、永久磁石を備える固定子22を車体フレームfrmに固定し、抑制するべき振動方向と同方向の往復動(
図2の紙面では上下動)を可動子23に行わせるようにしたレシプロタイプのものである。ここでは、車体フレームfrmの抑制すべき振動の方向と可動子23の往復動方向(推力方向)とが一致するように、車体フレームfrmに固定される。可動子23は補助質量21とともに軸25に取り付けられ、この軸25は可動子23及び補助質量21を推力方向に移動可能なように板バネ24を介して固定子22に支持されている。リニアアクチュエータ20と補助質量21によって、動吸振器が構成されていることになる。
【0023】
リニアアクチュエータ20を構成するコイル(図示せず)に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流した場合、コイルに所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石においてS極からN極に導かれることにより、磁束ループが形成される。その結果、可動子23は、重力に逆らう方向(上方向)に移動する。一方、コイルに対して所定方向とは逆方向の電流を流すと、可動子23は、重力方向(下方向)に移動する。可動子23は、交流電流によるコイルへの電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の動作を繰り返し、固定子22に対して軸25の軸方向に往復動することになる。これにより、軸25に接合されている補助質量21が上下方向に振動することになる。可動子23は図示しないストッパによって動作範囲が規制されている。リニアアクチュエータ20と補助質量21とによって構成される動吸振器は、アンプ6から出力される電流制御信号ssに基づいて、補助質量21の加速度を制御して制振力を調節することにより、車体フレームfrmに発生する振動を相殺して振動を低減することができる。
【0024】
制御手段3は、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を的確に相殺する相殺振動Vi4を制振すべき位置posに発生させるために、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した源振動Vi3を模擬した疑似振動Vi3’を適応制御アルゴリズムを用いて算出し、算出した疑似振動Vi3’に基づいて加振手段2を通じて制振すべき位置posに相殺振動Vi4を発生させる。また、制御手段3は、加振手段2から制振すべき位置posへ伝達した相殺振動Vi4と振動Vi3との相殺誤差として残る残留振動(誤差振動)(Vi3+Vi4)を振動検出手段1で検出し、検出した相殺誤差として残る残留振動が小さくなるように適応制御アルゴリズムを学習適応させて疑似振動を真値に収束させる制振制御を行う。
【0025】
先ず、
図1~
図3等に基づいて、伝達特性を考慮しない場合の制御系について説明すると、適応フィルタ係数(Re、Im)に基づき振動相殺信号の制振電流指令Iaを生成し、これに基づいてリニアアクチュエータ20に電流制御信号ssを入力することで、制振すべき位置posに振動発生源gnからの振動Vi3に対し逆相となる相殺振動Vi4を加振手段2を通じて発生させる。振動発生源gnで生ずる振動Vi1に関連する振動としてのエンジンの点火パルス信号に基づいて制振すべき位置posでの振動Vi3の周波数を推定し、算出された認識周波数fを基本電気角算出手段51に入力して基本電気角θを算出する。基準波生成手段52は、算出された基本電気角θに基づいて、基準波である正弦波sinθ及び余弦波cosθを生成する。
【0026】
加振手段2によって制振すべき位置に振動が伝達され、加算器で表現される相殺部64で源振動が相殺されて、残留振動が残る。振動検出手段1により検出した残留振動すなわち検出加振振動sg{=A1sin(θ+φ)}は、乗算器53において2μ(収束係数μの2倍)と乗算された後、乗算器54、55において基準正弦波sinθあるいは基準余弦波cosθと乗算され、積分器56、57において演算毎に前回値に加算する形で積分される。その演算結果は、適応制御における適応フィルタ係数Re、Imとして算出され、(Re、Im)=(A1´cosφ´、A1´sinφ´)と表すことができる。また、適応フィルタ係数Reを横軸、Imを縦軸にとると、
図4のように、それぞれ、ベクトルVe2A、Ve3Aと表すことができる。このとき、ベクトルVe2AとVe3Aの合成ベクトル(以降、指令ベクトルVe1A)は、Ve1Aとなる。
【0027】
一方,基本電気角θに対し,伝達特性位相誤差ΔΦを減算した補正電気角(θ-ΔΦ)に基づいて,補正基準波生成手段61は補正正弦波sin(θ-ΔΦ)および補正余弦波cos(θ-ΔΦ)を生成する。
【0028】
算出された適応フィルタ係数Re,Imに対し,補正余弦波,補正正弦波を各々乗算し,その結果を加算器60において加算し,マイナス1を乗ずることで、検出加振振動sgの逆相正弦波信号としての振動相殺信号の制振電流指令Ia{=-1×A1´sin(θ+φ´)}を生成する。積分を繰り返すと、A´、φ´が真値A、φに対応する値に収束するにつれて、振動の相殺が進むが、基本周波数fや位相θは絶えず変化しているため、常に変化に追従する形で制御が行われる。
【0029】
上述したように、適応フィルタ係数(Re、Im)に対して補正正弦波sin(θ-ΔΦ)及び補正余弦波cos(θ-ΔΦ)をそれぞれ乗算した後に足し合わせると疑似振動A1’sin(θ+φ’-ΔΦ)となる。ここで、実際には加振手段2による振動が制振すべき位置posに伝達するまでの間に伝達特性の位相成分を補償する必要があり,伝達特性補償手段61において、基準波に振幅成分及び位相成分の逆伝達特性(逆伝達関数)を加味した伝達特性補償信号を生成しているが,説明を簡単にするため図示していない。具体的には、周波数に対応した逆伝達関数の振幅成分が予め記憶されており、認識周波数fに基づいて逆伝達関数の振幅成分1/Gを特定し、それが疑似振動に乗算される。また,同様に周波数に対応した逆伝達関数の位相成分Pが予め記憶されており、補正電気角θ-ΔΦに対し,認識周波数fに基づいて算出された逆伝達関数の位相成分Pを加える。
【0030】
以下、適応フィルタ係数(Re、Im)に基づく振動相殺信号に対して、位相成分Pの逆伝達特性を加味した内容を説明し、振幅成分の逆伝達関数1/Gを加味した内容については説明を省略する。したがって、伝達特性補償手段61において、認識周波数fに基づいて逆伝達特性の位相成分Pが特定された場合、後述する位相誤差Δφが生じていないときには、逆伝達特性の位相成分Pが加味された伝達特性補償信号として、正弦波sin(θ+P)及び余弦波cos(θ+P)が生成される。振幅成分1/Gは考慮していないため
図3には示されていない。この伝達特性補償信号が、乗算器58、59で適用フィルタ係数(Re、Im)に基づく振動相殺信号に乗算した後に足し合わせることで、最終的に出力される振動相殺信号A1´sin(θ+P)となる。この伝達特性を特定する位相成分Pが実際の車両の伝達特性に一致し、振動相殺信号の電気角θ+φが実際の制振すべき位置posでの振動の電気角θ+φと一致していれば、制振すべき位置posでの振動は0に近づくはずである。
【0031】
しかしながら、前述したように振動伝達特性は経年変化するものであり、例えば、
図3に示すように、加算器で表現される位相変化入力部62で伝達特性位相誤差Δφが入力され、振動伝達特性の位相成分が伝達特性位相誤差Δφだけシフトしている場合、その状態において、適応制御アルゴリズムが働き、疑似振動を真値に収束させる制振制御が行われる。
【0032】
したがって、伝達特性補償手段61において、逆伝達特性の位相成分Pが加味された位相差補償信号として、正弦波sin(θ+P-Δφ)及び余弦波cos(θ+P-Δφ)が生成されたと同じことになる。Pは逆伝達特性の位相成分であるため相殺信号の伝達時に相殺されるが、-Δφは、ブロック線図上は振動相殺信号の出力前の位置に描いているが、実際には相殺信号の伝達時に生じる誤差であり、制御上認識されていない。
【0033】
したがって、この位相誤差Δφを考慮した制御ブロック上では、乗算器58、59において、適用フィルタ係数(Re、Im)=(A1´cosφ´、A1´sinφ´)に対し、それぞれ、位相の逆伝達関数を加味した位相差補償信号sin(θ+P-Δφ)及びcos(θ+P-Δφ)を乗算し、その結果を加算器60において加算して、検出加振振動sgの疑似振動Vi3’{= A1´sin(θ+φ´+P-Δφ)}を生成する。疑似振動Vi3’に乗算器63で-1を乗算することにより、逆相正弦波信号としての相殺振動Vi4の制振電流指令Ia{=-A1´sin(θ+φ´+P+Δφ)}を生成する。
【0034】
当初は、逆伝達関数の位相成分Pが0に近いため、制御がうまく機能する。すなわち、
図1に示したように、この相殺振動Vi4の制振電流指令Iaがアンプ6を介して加振手段2に供給され、制振すべき位置posに相殺振動Vi4が発生される。加算器64において、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3と、加振手段2から制振すべき位置posへ伝達した相殺振動Vi4とが加算され、相殺振動Vi4と振動Vi3との相殺誤差として残る残留振動が振動検出手段1により検出される。その後、振動伝達特性の位相成分Pが伝達特性位相誤差Δφだけシフトした状態において、検出された相殺誤差として残る残留振動が小さくなるように適応制御アルゴリズムを学習適応させて疑似振動を真値に収束させる制振制御を行う。
【0035】
その後、車体を構成する樹脂やバネ等の経年変化により振動伝達特性の位相成分Pが変化すると、システムの振動伝達特性と適応制御アルゴリズム内の逆伝達特性に乖離ができる。例えば、制振しようとする位置posに伝わった源振動の正弦波の振動Vi3に対して、これを打ち消すべく同じ振幅で極性の反転した相殺振動Vi4が制振しようとする位置posに伝わっても、
図5に示すように、Vi4がVi4´の位相に変化して、両正弦波の位相が位相誤差Δφ分だけずれているため、残留振動(Vi3+Vi4´)が残り、位相誤差Δφが大きくなるに従って残留振動も増加する。これにより、指令ベクトルVe1Aによる制振効果が低減し、乗り心地の低下につながる。よって、システムの振動伝達特性の位相誤差を推定する際、位相誤差Δφが、適応制御が安定して動作する領域(以降、適応制御系の安定領域)にあるかどうか把握することが求められる。
【0036】
そこで、指令ベクトルVe1Aの挙動に着目すると、システムの振動伝達特性の変化は、指令ベクトルVe1Aの変化として把握できる。すなわち、適用フィルタ係数は指令ベクトルVe1Aの大きさ及び方向を示すものである。例えば、位相誤差Δφが10degの時に振動が収束する際の指令ベクトルVe1Aの挙動と、位相誤差Δφが30degの時に振動が収束する際の指令ベクトルVe1Aの挙動は異なる。
【0037】
そこで、
図6に示すように、適応フィルタ係数可変手段3aを設けて、適応フィルタ係数を算出する際の積分値(以降、適応フィルタ積分値)に積分値操作量βを乗算して、逆伝達特性の適応フィルタ係数を意図的に変動させる。
図7は、伝達特性位相誤差Δφ=0degが存在する状態で、一時的に、適応フィルタ積分値が10%減少するように積分値操作量β(β=0.9)を乗算したときの残留振動Errの時間応答(a)と指令ベクトルVe1Aのベクトル軌跡(b)を示している。
図8は、同様に、積分値が5%減少するように積分量操作量β(β=0.95)を乗算したときのもの、
図9は、積分値が10%増加するように積分量操作量β(β=1.1)を乗算したときのもの、
図10は、積分値が5%増加するように積分量操作量β(β=1.05)を乗算したときのものである。
図12は、種々の位相誤差Δφが存在する状態において、一時的に、適応フィルタ積分値が5%増減するように積分量操作量βを乗算した時の指令ベクトルVe1Aのベクトル軌跡である。
【0038】
図13は積分操作量β(β=1.05)と積分操作量β(β=0.95)における指令ベクトルの安定化挙動の平均値を位相誤差ΔΦ毎にプロットしたものである。図より,原点から各位相誤差Δφに対応する指令ベクトルVe1Aを見ると、位相誤差Δφが小さい場合は指令ベクトルVe1A平均値が一定であるが,位相誤差Δφが大きい場合は指令ベクトルVe1A平均値が下がる傾向にある。この実施形態では、
図12に示すように、指令ベクトルVe1Aが、意図的に適応フィルタ積分値を5%増減されてベクトル軌跡が再収束する時のベクトルの大きさの平均値から指令ベクトルVe1Aの変動量を算出し、これを評価値V(これについては後述する)にすれば、位相誤差Δφが未知であっても、評価値Vから位相誤差Δφが不安定領域にあるかどうかを推定することができる。指令ベクトルVe1Aの変動量として、指令ベクトルVe1Aが、適応フィルタ係数が、意図的に逆伝達特性の適応フィルタ積分値を5%増減させたときのベクトルの大きさの平均値を扱ったが、例えば、積分値を5%減少させたときのベクトルの大きさの平均値を扱ってもよい。
【0039】
本実施形態の制御手段3は、
図1に示すように、適応フィルタ係数可変手段3aと、変動量算出手段3bと、記憶手段3cと、安定性判定手段3dを設けて、適応フィルタ係数可変手段3aによって、適応制御アルゴリズム内に記憶された積分操作量βを意図的に変動させて、加振手段2を駆動する駆動指令信号に対応する指令ベクトルVe1Aの変動量である評価値Vを算出し、記憶手段3cに記憶された指令ベクトルVe1Aの変動量である評価値Vと振動伝達特性の位相誤差との関係に基づいて、位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する。
【0040】
適応フィルタ係数可変手段3aは、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量βを乗算する。本実施形態では、
図6に示すように、伝達経路上で位相誤差Δφが生じている状態に対して、積分値操作量βを一時的に系に加える。前述したように、制御ブロック上は、評価データを取るために、位相変化入力部62で種々の位相変化を想定して入力し、その後に適応フィルタ係数可変手段3aによって適応フィルタ係数を意図的に変動させて、指令ベクトルVe1Aの変化の様子を探る。
【0041】
適応フィルタ係数可変手段3aは、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して、積分値操作量β(例えば、β=0.9や1.05など)を乗算可能である。なお、積分値操作量βを乗算するための信号は、例えば、適応フィルタ係数を急激に変動させるステップ状の信号であってもよいし、適応フィルタ係数を徐々に変動させるランプ状の信号であってもよい。
【0042】
例えば、
図7は、位相誤差Δφ=0degを有する制御状態において、t=3.0時に、積分値操作量β=0.9を入力したときの残留振動Errの時間応答(a)と、指令ベクトルVe1Aのベクトル軌跡(b)を示している。適応フィルタ係数可変手段3aは、適応フィルタ係数を意図的に変動させて、加振手段2を駆動する駆動指令信号に対応する指令ベクトルVe1Aの大きさを変化させ、その際の指令ベクトルVe1Aの大きさ√(Re
2+Im
2)の変動量を評価値Vとして算出し、その評価値Vに対する振動伝達特性の位相誤差Δφの変化を導出する。実際の車両走行時には、適応フィルタ係数を意図的に変動させて振動伝達特性の位相誤差Δφを推定する場合、
図14及び
図15は、その際のシーケンスであり、これについても後述する。
【0043】
車両走行時の適応フィルタ係数可変手段3aは、制振装置が搭載された車両が、例えば、アイドリング状態である場合または車両が定速走行状態や一定の緩加速・緩減速状態である場合など、制振状態の安定時において、逆伝達特性に対して積分値操作量βを乗算することが望ましい。本実施形態において後述する評価時にも、制振状態の安定時において、逆伝達特性に対して積分値操作量βを乗算する。
【0044】
変動量算出手段3bは、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量βを乗算した際に、加振手段2を駆動する制振電流指令Iaの振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を算出する。本実施形態において、変動量算出手段3bは、指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vとして、前述したように積分値操作量βを乗算したときに振動が収束する際のベクトル挙動の程度を示した指令ベクトルVe1Aの大きさ√(Re2+Im2)の平均値を利用して算出する。制振電流指令Iaに対応する指令ベクトルVe1Aは、例えば、加算器60における加算過程でピックアップすることができる。
【0045】
記憶手段3cは、積分値操作量βを乗算した際の指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vに対する振動伝達特性の位相誤差Δφの変化、すなわち、指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量と位相誤差Δφの変化量の関係を記憶する。本実施形態において、記憶手段3cは、
図14に示すように、積分値操作量βを乗算した際の指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vに対する振動伝達特性の位相誤差Δφの変化を記憶する。この評価値Vは、後述する
図14、[数1]、[数2]から算出される。
【0046】
本実施形態において、振動が収束する際のベクトル挙動の程度を示した指令ベクトルVe1Aの大きさ√(Re
2+Im
2)の平均値を評価値Vとすると、以下の演算式で表される。
【数1】
【0047】
なお、本実施形態では、基準値振幅100に対する基準が分かりやすいように、二乗和平方を適応している。したがって、この場合の演算式は以下である。
【数2】
ここで、[数1][数2]のnは,積分値操作量βを乗算した直後からの制御サンプリングごとのカウント数である。
【0048】
簡単にいえば、
図13は、指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量と、そのときの位相誤差Δφとを、位相誤差Δφの値を種々に代えてプロットしたものである。
【0049】
安定性判定手段3dは、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して、積分値操作量βを乗算した際の指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vと、記憶手段3cに記憶された指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値と振動伝達特性の位相誤差Δφの変化とに基づいて、位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する。
【0050】
以下、本実施形態の制振装置において、システムの振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する方法について、
図7~
図16に基づいて説明する。まず、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性の適応フィルタ係数を意図的に変動させて不安定化させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動について説明する。本実施形態において、適応制御をONすると、残留振動 Errがゼロになるように、適応フィルタ係数(Re、Im)が作用する。このRe、Imの実軸Re、虚軸ImのRe-Im平面での挙動をベクトル挙動とする。
【0051】
適応フィルタ係数を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動について評価した。具体的には、振動伝達特性に特定の位相誤差Δφを持たせた状態で、適応制御により制振状態が安定した時に、t=3.0において、積分値操作量β=0.9、0.95、1.05、1.1を乗算して適応フィルタ係数を意図的に変動させた。
【0052】
(評価条件)
・源振周波数 : 100Hz
・積分値操作量β : 0.9 、0.95 、1.05 、1.1
・伝達特性位相誤差Δφ : 0deg
・源振振幅 : 100
【0053】
図7~
図10は、前述したように、適応フィルタ係数を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動の評価結果であって、振動伝達特性の位相誤差Δφ=0degにおける試験結果を示している。
図7(a)~
図10(a)は、残留振動Erに関する時間応答を示している。
図7(b)~
図10(b)は、Re-Im平面における指令ベクトルVe1Aの挙動を示している。
【0054】
図7(a)~
図10(a)に示すように、振動伝達特性の位相誤差Δφ=0degにおいて、t=3.0で適応フィルタ積分値を5%、10%増減するように積分値操作量βを乗算して適応フィルタ係数を意図的に変動させたとき、いずれにおいても残留振動Errが一時的に大きくなった後、0に再収束する。したがって、
図7(a)~
図10(a)から、積分値操作量βが同じであれば、制振効果の低下も同程度であることが確認できる。
【0055】
図7(b)の指令ベクトルVe1Aの挙動に示すように、t=3.0で適応フィルタ積分値を10%減少するように積分値操作量β=0.9を乗算して適応フィルタ係数を意図的に変動させると、適応フィルタは、積分値操作量β=0.9相当の外乱が入力されたとみなし、座標{Re,Im}={100、0}から座標{Re,Im}={90、0}へ向かうように挙動する。その後、座標{Re,Im}={90、0}から、上下に挙動しながら座標{Re,Im}={100、0}へ再収束する。
【0056】
図7(b)の積分値操作量β=0.9を乗算した場合に対し、
図9(b)に示すように、積分値操作量β=1.1を乗算して適応フィルタ係数を意図的に変動させると、
図7(b)と逆の特性が見られることが確認できる。即ち、t=3.0で適応フィルタ積分値を10%増加するように積分値操作量β=1.1を乗算して適応フィルタ係数を意図的に変動させると、適応フィルタは、積分値操作量β=1.1相当の外乱が入力されたとみなし、座標{Re,Im}={100、0}から座標{Re,Im}={110、0}へ向かうように挙動する。その後、座標{Re,Im}={110、0}から、上下に挙動しながら座標{Re,Im}={100、0}へ再収束する。
【0057】
図12は、種々の振動伝達特性の位相誤差Δφを有する制御状態において、安定状態から逆伝達特性の適応フィルタ係数に積分値操作量βを乗算して適応フィルタ係数を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動を示している。本実施形態では、安定状態から、逆伝達特性の適応フィルタ積分値が5%増減するように積分値操作量βを乗算して、適応フィルタ係数を意図的に変動させた。
【0058】
図12より、指令ベクトルVe1Aは、半径100の円弧の座標{Re,Im}=100{cosΔφ、sinΔφ}上から、乗算された積分値操作量βに応じて、円弧の半径方向に外れるように挙動する。その後、上下に挙動しながら、座標{Re,Im}=100{cosΔφ、sinΔφ}へ再収束する。
【0059】
また、位相誤差Δφが大きくなるにつれて、指令ベクトルVe1Aは、座標{Re,Im}=100{cosΔφ、sinΔφ}上から外れてから再収束するまでのベクトル軌跡の移動量が大きくなっていることが分かる。ベクトル軌跡の移動量が大きいことは、指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量が大きいことを意味する。
【0060】
したがって、適応フィルタ係数を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動(軌跡の移動量の大きさ、指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量など)に基づいて、位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する。
【0061】
本実施形態では、振動伝達特性の位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する際、適応フィルタ積分値を5%増減するように積分値操作量βを乗算して、適応フィルタ係数を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を評価値Vとしている。
【0062】
次に、種々の位相誤差を有する制御状態において、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性の適応フィルタ係数を意図的に変動させて不安定化させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動について説明する。本実施形態では、位相変化入力部62で種々の位相誤差Δφを入力して、システムの振動伝達特性に種々の位相誤差Δφを有した状態で、適応制御をONした後、適応フィルタ係数(Re、Im)を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動について評価を行った。
図11は、適応フィルタ係数(Re、Im)を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの挙動の評価結果の一例である。この時の評価条件は、下記のとおりである。
【0063】
(評価条件)
・源振周波数 : 100Hz
・位相誤差Δφ : 0deg ,±30deg , ±50deg
・積分値操作量β : -5%
【0064】
図11(a)は、正の位相誤差Δφ=0deg,+30deg, +50degを有する適応制御系において、適応フィルタ積分値を5%減少させた時の指令ベクトルVe1Aの大きさの時間応答を示している。また、
図11(b)は、負の位相誤差Δφ=0deg,-30deg, -50degを有する適応制御系において、適応フィルタ積分値を5%減少させた時の指令ベクトルVe1Aの大きさの時間応答を示している。なお、
図11においては、t=0のタイミングで、操作量β=0.95を乗算して、適応フィルタ積分値を5%減少させている。
【0065】
図11(a)に示すように、位相誤差Δφ=30degにおいて、適応フィルタ積分値を5%減少させた場合の指令ベクトルVe1Aの挙動は、位相誤差Δφ=0degの場合と同様の収束挙動になる。よって、位相誤差Δφ=30degは、適応制御系の安定領域にあると判定できる。一方、位相誤差Δφ=50degにおける指令ベクトルVe1Aの挙動は、位相誤差Δφ=0degの場合と異なり、オーバーシュートを伴う収束挙動となるので、位相誤差Δφ=50degは、適応制御系の安定領域にないと判定できる。また、
図11(b)に示すように、位相誤差Δφ=-30degにおいて、適応フィルタ積分値を5%減少させた場合の指令ベクトルVe1Aの挙動は、位相誤差Δφ=0degの場合と同様に収束挙動になるので、位相誤差Δφ=-30degは、適応制御系の安定領域にあると判定できる。一方、位相誤差Δφ=-50degにおける指令ベクトルVe1Aの挙動は、位相誤差Δφ=0degの場合と異なりオーバーシュートを伴う収束挙動となるので、位相誤差Δφ=50degは、適応制御系の安定領域にないと判定できる。
【0066】
なお、
図11(a)及び
図11(b)は、適応フィルタ積分値を5%減少させた場合の指令ベクトルVe1Aの評価値の挙動を示しているが、適応フィルタ積分値を5%増加させた場合でも、同様に、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定できる。
【0067】
次に、種々の位相誤差を有する制御状態において、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性の適応フィルタ係数を意図的に変動させて不安定化させた時の指令ベクトルVe1Aの評価値の変動について説明する。本実施形態において、
図13は、適応フィルタ係数を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vに対する振動伝達特性の位相誤差Δφの変化を示している。
【0068】
図11のように、位相誤差Δφ=0degの場合の指令ベクトルVe1Aの挙動を基準にして、指令ベクトルVe1Aの挙動が、オーバーシュートを伴う収束挙動になるかどうかにより、振動伝達特性の位相誤差が、適応制御系の安定領域にあるかどうか判定できる。また、
図13のように、適用フィルタ積分値を5%減少させた場合、指令ベクトルVe1Aは、位相誤差Δφ=0近傍において最も早く再収束して、位相誤差Δφの正負に関係なく、位相誤差Δφの絶対値が大きくなるほど再収束が遅くなる。よって、指令ベクトルVe1Aの評価値Vは、位相誤差Δφ=0近傍を頂点とした下に凸状の2次関数的な放物線になり、評価値Vと位相誤差Δφは相関関係にあることが認められる。したがって、
図13に示すように、指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vから位相誤差Δφを推定して、その位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定できる。
【0069】
例えば、
図13において、適応フィルタ積分値を5%減少させた時の位相誤差Δφ=0deg、-30deg、-50degにおける指令ベクトルVe1Aの評価値をV0、V1、V2とする。また、
図11により、位相誤差Δφ=-30degにおける指令ベクトルVe1Aの挙動は、位相誤差Δφ=0degの場合と同様の収束挙動になるので、位相誤差Δφ=-30degにおける指令ベクトルVe1Aの評価値V1は、位相誤差Δφ=0degにおける指令ベクトルVe1Aの評価値V0と同様の変動量となり、位相誤差Δφ=-30degは、適応制御系の安定領域にあると判定できる。一方、位相誤差Δφ=-50degにおける指令ベクトルVe1Aの挙動は、位相誤差Δφ=0degの場合と異なり、オーバーシュートを伴う収束挙動になるので、位相誤差Δφ=-50degにおける指令ベクトルVe1Aの評価値V2は、位相誤差Δφ=0degにおける指令ベクトルVe1Aの評価値V0と異なる変動量となり、位相誤差Δφ=-50degは、適応制御系の安定領域にないと判定できる。よって、指令ベクトルVe1Aの評価値から、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定できる。
【0070】
このように、本実施形態では、システムの振動伝達特性が経年等によって変化し、振動伝達特性の位相成分が変化したとしても、適応フィルタ係数を意図的に変動させた時の指令ベクトルVe1Aの評価値に基づいて、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定できる。よって、例えば、振動伝達特性の位相誤差を推定して補正する際、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定して推定を行うことにより、適応制御を制御破綻させずに補正ができる。
【0071】
なお、指令ベクトルVe1Aの評価値に基づいて、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定していたが、他の方法でも判定可能である。例えば、残留振幅Errの振幅率を100%以下に持続できなくなる状態に基づいて、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定してもよい。この場合、位相誤差Δφ=±60degにおける指令ベクトルVe1Aの評価値に基づいて、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定することになる。また、この状態に安全率などを考慮した位相誤差Δφ(例えば、Δφ=±55degなど)に基づいて、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定してもよい。
【0072】
また、適用フィルタ積分値を減少させた場合と同様に、適用フィルタ積分値を増加させた場合でも、指令ベクトルVe1Aの評価値に基づいて、位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定できる。この場合、
図13に示すように、適用フィルタ積分値を5%増加させた場合、指令ベクトルVe1Aは、位相誤差Δφ=0近傍において最も早く再収束して、位相誤差Δφの正負に関係なく、位相誤差Δφの絶対値が大きくなるほど再収束が遅くなる。よって、指令ベクトルVe1Aの評価値Vは、位相誤差Δφ=0近傍を頂点とした上に凸状の2次関数的な放物線となり、適用フィルタ積分値を減少させた場合と同様に、評価値Vと位相誤差Δφは相関関係にあることが認められる。
【0073】
本実施形態において、指令ベクトルVe1Aの評価値Vを算出する方法について、
図14に基づいて説明する。
【0074】
ステップS1において、認識周波数が安定している(制振状態が安定している)か否かを判定する。認識周波数が安定している場合、ステップS2において、適応フィルタ係数可変手段3aにより、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性において、適応フィルタ積分値に対して、積分値操作量β(例えば、β=0.9)を乗算して、適応フィルタ係数を意図的に変動させる。ステップS3において、適応フィルタ係数を意図的に変動させた直後からの制御サンプリングごとのカウント数をm=1に設定し、ステップS4において、指令ベクトルVe1Aの大きさ√(Re2+Im2)を算出する。
【0075】
その後、ステップS5において、適応フィルタ係数を意図的に変動させた直後からの制御サンプリングごとのカウント数mがnと同一(m=n)であるか否かについて判定する。カウント数mがnと同一でない場合、ステップS6において、mを1だけ増加させ(m=m+1)、ステップS4に移行する。ステップS5において、mがnと同一(m=n)である場合、ステップS7において、変動量算出手段3bにより、適応フィルタ係数を意図的に変動させた際の指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vを算出する。その後、評価値Vを記憶手段3cに記憶して終了する。
【0076】
本実施形態において、指令ベクトルVe1A評価値Vに基づいて、振動伝達特性の位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する方法を
図15に基づいて説明する。
【0077】
本実施形態では、積分値操作量βを乗算した際の指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vと記憶手段3cに記憶された指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を表す評価値Vrefとを比較しながら、評価値Vと評価値Vrefが一致するまで繰り返し行うことにより、位相誤差Δφを推定する場合を説明する。
【0078】
ステップS101において、回数i=1を設定し、ステップS102において、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性の適応フィルタ積分値に対して積分値操作量β(例えば、β=0.9)を乗算した際の評価値Vを算出する。評価値Vの算出方法は、
図15に基づいて上述した方法を使用する。その後、ステップS103において、回数i≧2、且つ、評価値V(i)と評価値V(i-1)の符号が異なるか否かが判定される。したがって、ステップS102~ステップS107において、ステップS102により算出した評価値Vに対応した位相誤差Δφが打ち消されるように逆伝達特性の位相成分PをΔPずつシフトさせると共に、回数iを1ずつ増加させながら、評価値Vの符号が、正から負、または、負から正に変化するまで繰り返す。
【0079】
具体的には、ステップS102で算出した評価値Vが正の値の場合、逆伝達特性の位相成分Pを-ΔPだけシフトさせて、回数iを1ずつ増加させた後、ステップS102に移行して、評価値Vを算出する。これに対して、ステップS102で算出した評価値Vが負の値の場合、逆伝達特性の位相成分Pを+ΔPだけシフトさせて、回数iを1ずつ増加させた後、ステップS102に移行して、評価値Vを算出する。
【0080】
上述の具体例について、振動伝達特性の位相誤差Δφが正の値であるときに、その位相誤差Δφを推定する場合を
図16に基づいて説明する。
図16では、回数i=1において算出した評価値V(1)は正の値であることから、逆伝達特性の位相成分Pを-ΔPだけシフトさせて、回数iを1だけ増加させて、回数i=2において評価値V(2)を算出する。評価値V(2)は正の値であることから、逆伝達特性の位相成分Pを-ΔPだけシフトさせて、回数iを1だけ増加させて、回数i=3において評価値V(3)を算出する。同様に、回数i=3、4、5において算出した評価値V(3)、V(4)、V(5)はいずれも正の値であることから、逆伝達特性の位相成分Pの-ΔPシフトと、評価値Vの算出を繰り返す。回数i=6において算出した評価値V(6)は負の値であり、評価値Vの符号が正から負に変化している。したがって、回数i=5の評価値V(5)と回数i=6の評価値V(6)の符号が異なることから、ステップS108に進む。
【0081】
ステップS108において、評価値V(i)が評価値V(i-1)より0に近いか否かを判定し、ステップS109、S110において、評価値V(i)と評価値V(i-1)とで0に近い方に基づいて位相誤差Tmpを算出する。その後、ステップS111において算出した位相誤差Tmpに対してオフセット処理を行うことにより、振動伝達特性の位相誤差Δφの推定が終了する。
【0082】
図16の具体例では、評価値V(5)と評価値V(6)の符号が異なり、評価値V(6)が評価値V(5)より0に近いことから、位相誤差Tmp=(6-1)×ΔPが算出して、振動伝達特性の位相誤差Δφが推定される。
【0083】
以上説明したように、本実施形態の制振装置は、振動発生源gnで生じる振動と加振手段2を通じて発生させる相殺振動Vi4とを制振すべき位置posで相殺するにあたり、適応制御アルゴリズムを用いて振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を相殺するために必要な疑似振動Vi3’を算出し、算出した疑似振動Vi3’に基づいて相殺振動Vi4を加振手段2を通じて制振すべき位置posに発生させ、発生した相殺振動Vi4と振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3との相殺誤差として残る残留振動を検出し、検出した相殺誤差として残る残留振動が小さくなるように適応制御アルゴリズムを学習適応するものであり、加振手段2から制振すべき位置posまで伝達する振動の振幅及び位相を変化させる振動伝達特性の逆伝達特性が適応制御アルゴリズム内に予め記憶され、相殺振動Vi4が疑似振動Vi3’に対して逆伝達特性を加味して算出される制振装置であって、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量βを乗算する適応フィルタ係数可変手段3aと、適応フィルタ係数可変手段3aにより積分値操作量βを乗算した際に、加振手段2を駆動する駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を算出する変動量算出手段3bと、指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量に対する振動伝達特性の位相誤差の変化を予め記憶した記憶手段3cを備える。
【0084】
本実施形態の制振装置の安定性判別方法は、振動発生源gnで生じる振動と加振手段2を通じて発生させる相殺振動Vi4とを制振すべき位置posで相殺するにあたり、適応制御アルゴリズムを用いて振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を相殺するために必要な疑似振動Vi3’を算出し、算出した疑似振動Vi3’に基づいて相殺振動Vi4を加振手段2を通じて制振すべき位置posに発生させ、発生した相殺振動Vi4と振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3との相殺誤差として残る残留振動を検出し、検出した相殺誤差として残る残留振動が小さくなるように適応制御アルゴリズムを学習適応するものであり、加振手段2から制振すべき位置posまで伝達する振動の振幅及び位相を変化させる振動伝達特性の逆伝達特性が適応制御アルゴリズム内に予め記憶され、相殺振動Vi4が疑似振動Vi3’に対して逆伝達特性を加味して算出される制振装置の安定性判定方法であって、適応制御アルゴリズム内に記憶された逆伝達特性に対して積分値操作量βを乗算する適応フィルタ係数可変ステップと、適応フィルタ係数可変ステップにより積分値操作量βを乗算した際に、加振手段2を駆動する駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量を算出する変動量算出ステップと、変動量算出ステップにより算出された指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量と、記憶手段3cに記憶された指令ベクトルVe1Aの大きさの変動量に基づいて、振動伝達特性の位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定する安定性判定ステップとを備える。
【0085】
これにより、本発明に係る制振装置及び制振装置は、適応フィルタ係数(Re、Im)が増減された際の指令ベクトルVe1Aの再収束挙動から当該指令ベクトルVe1Aの平均値を表す評価値Vを算出し、その評価値Vに基づいて、振動伝達特性の位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定することが可能となる。
【0086】
本実施形態の車両は、本発明の制振装置を備えたことにより、乗員に快適な乗り心地を提供できる。
【0087】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0088】
上記実施形態では、指令ベクトルVe1Aの大きさに基づいた評価値Vとして、振動が収束する際のベクトル挙動を示した指令ベクトルVe1Aの大きさ√(Re2+Im2)の平均値を算出したが、指令ベクトルVe1Aの大きさに基づいた評価値は、これに限られない。
【0089】
上記実施形態では、適応フィルタ積分値を5%増減させる積分値操作量βを乗算したときの指令ベクトルVe1Aの大きさの平均値を表す評価値Vに基づいて、位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定したが、適応フィルタ積分値を増減させる操作量βは、これに限られない。
【0090】
上記実施形態では、位相誤差Δφが、適応制御系の安定限界以下であるか否かを判定する際に、適応フィルタ係数可変手段3aにより適応フィルタ積分値に対して積分値操作量βを乗算し、適応フィルタを変動させる場合を説明したが、制振装置として、制振状態の悪化などで電流指令が電流上限クランプ値まで増加した際、すなわちRe,Imの何れかがクランプ値に掛った際に、電流指令が電流上限クランプ値まで増加した不安定状態を解消するために、適応フィルタ積分値を減らしてRe,Imを減少させる制御が行われるものがある。この制振装置においては、電流指令が電流上限クランプ値まで増加した不安定状態を解消するための制御が行われた際に、振動伝達特性の位相誤差Δφが適応制御系の安定領域にあるかどうか判定してもよい。
【0091】
上記実施形態では、制振装置が、安定性判定手段3dを有しているが、制振装置は、適応フィルタ係数可変手段3aと変動量算出手段3bと記憶手段3cとを有し、安定性判定手段3dを有しないものであってよい。したがって、制振装置において、振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定されないが、記憶手段3cに記憶された指令ベクトルVe1Aの大きさに基づいた評価値Vに対する振動伝達特性の位相誤差Δφの変化を使用することにより、振動伝達特性の位相誤差が適応制御系の安定領域にあるかどうか判定することが可能となって、本発明の効果が得られる。
【符号の説明】
【0092】
1 振動検出手段
2 加振手段
3 制御手段
3a 適応フィルタ係数可変手段
3b 変動量算出手段
3c 記憶手段
3d 安定性判定手段