IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キョーラク株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-構造体の製造方法 図1
  • 特許-構造体の製造方法 図2
  • 特許-構造体の製造方法 図3
  • 特許-構造体の製造方法 図4
  • 特許-構造体の製造方法 図5
  • 特許-構造体の製造方法 図6
  • 特許-構造体の製造方法 図7
  • 特許-構造体の製造方法 図8
  • 特許-構造体の製造方法 図9
  • 特許-構造体の製造方法 図10
  • 特許-構造体の製造方法 図11
  • 特許-構造体の製造方法 図12
  • 特許-構造体の製造方法 図13
  • 特許-構造体の製造方法 図14
  • 特許-構造体の製造方法 図15
  • 特許-構造体の製造方法 図16
  • 特許-構造体の製造方法 図17
  • 特許-構造体の製造方法 図18
  • 特許-構造体の製造方法 図19
  • 特許-構造体の製造方法 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/12 20060101AFI20221221BHJP
   A47K 3/00 20060101ALI20221221BHJP
   B29C 51/02 20060101ALI20221221BHJP
   E05D 1/02 20060101ALI20221221BHJP
   B60R 5/04 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
B29C51/12
A47K3/00 B
B29C51/02
E05D1/02 C
B60R5/04 T
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019009941
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2019130905
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018013874
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】石井 健二
(72)【発明者】
【氏名】脇 和夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 祥
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-103422(JP,A)
【文献】特開2011-207135(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第03524574(DE,A)
【文献】特開2004-155476(JP,A)
【文献】特開2007-032171(JP,A)
【文献】特開2012-240217(JP,A)
【文献】特開2016-068345(JP,A)
【文献】特開2001-207716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00 - 51/46
A47K 3/00
E05D 1/02
B60R 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体を有する構造体であって、
前記樹脂成形体は、表壁と、裏壁を備え、前記表壁と前記裏壁は、間隔をおいて対向しており、前記表壁と前記裏壁の周囲は、周囲壁によって繋がれており、
前記樹脂成形体は、第1及び第2本体部と、ヒンジ部を備え、
第1及び第2本体部は、前記ヒンジ部で互いに回動可能に連結されており、
前記ヒンジ部は、第1及び第2薄肉部と、厚肉部を備え、
前記厚肉部は、第1及び第2薄肉部よりも肉厚が大きい部位であり、
第1及び第2薄肉部及び厚肉部は、前記ヒンジ部の長手方向に沿って延び、
前記厚肉部は、前記ヒンジ部の幅方向において、第1及び第2薄肉部によって挟まれており、
前記ヒンジ部の長手方向の両端において、第1及び第2薄肉部と繋がっており且つ前記厚肉部よりも肉厚が小さい第3薄肉部が設けられている、構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体であって、
前記ヒンジ部の長手方向の端部近傍において、前記ヒンジ部の幅が、前記ヒンジ部の長手方向の端部に向かって徐々に小さくなる、構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の構造体であって、
前記厚肉部の厚さと幅の少なくとも一方は、前記厚肉部の長手方向の端部近傍において、前記ヒンジ部の長手方向の端部に向かって徐々に小さくなる、構造体。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の構造体であって、
前記ヒンジ部の幅が一定になっている部位での前記ヒンジ部及び前記厚肉部の幅をそれぞれWh及びWcとすると、Wc/Wh=0.2~0.8である、構造体。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の構造体であって、
前記厚肉部の厚さは、前記厚肉部の幅方向の端に向かって徐々に小さくなる、構造体。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1つに記載の構造体であって、
第1本体部と、前記ヒンジ部と、第2本体部にまたがるように設けられた表皮材を備え、
前記表皮材は前記樹脂成形体と一体成形されている、構造体。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1つに記載の構造体であって、
前記樹脂成形体は、無機繊維を含み、
前記無機繊維は、前記ヒンジ部の長手方向に非平行に配向される、構造体。
【請求項8】
構造体の製造方法であって、
前記構造体は、請求項7に記載の構造体であって、
前記方法は、押出工程と、賦形工程と、型締め工程を備え、
前記押出工程では、第1及び第2金型の間に第1及び第2樹脂シートを押し出し、
第1及び第2金型は、それぞれ、キャビティを備え、
前記賦形工程では、第1及び第2樹脂シートをそれぞれ第1及び第2金型のキャビティの内面に沿って賦形し、
前記型締め工程では、第1及び第2金型を型締めし、
第1及び第2樹脂シートは、無機繊維を含み、
第1及び第2金型の少なくとも一方は、前記ヒンジ部を形成する凸条を備え、
前記凸条の長手方向が、第1及び第2樹脂シートの押出方向に非平行になるように構成される、
構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の構造体の製造方法であって、
前記凸条の長手方向が、第1及び第2樹脂シートの押出方向に直交するように構成される、構造体の製造方法。
【請求項10】
構造体の製造方法であって、
前記構造体は、請求項6に記載の構造体であって、
前記方法は、押出工程と、賦形工程と、型締め工程を備え、
前記押出工程では、第1及び第2金型の間に第1及び第2樹脂シートを押し出し、
第1及び第2金型は、それぞれ、キャビティを備え、
前記賦形工程では、第1樹脂シートと第1金型の間に表皮材を配置した状態で第1及び第2樹脂シートをそれぞれ第1及び第2金型のキャビティの内面に沿って賦形し、
前記型締め工程では、第1及び第2金型を型締めし、
第2金型は、前記ヒンジ部を形成する凸条を備え、
前記凸条の先端には、前記厚肉部に対応する溝が設けられている、構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風呂蓋や、車両の荷室に設置されるフロアボード等として利用可能な樹脂成形体(例:樹脂性パネル)を有する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヒンジ部を有する樹脂成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-067148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような樹脂成形体をヒンジ部で折り曲げたときには、ヒンジ部に折れ線が形成される。樹脂成形体を構成する樹脂が無機繊維を含有しないときには、図15Aに示すように折れ線が直線状に形成されるので、外観は問題ない。一方、樹脂成形体を構成する樹脂が無機繊維を含有するときには、図15Bに示すように折れ線が蛇行するように形成されて外観が悪くなるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、樹脂成形体を構成する樹脂が無機繊維を含有する場合でも、ヒンジ部に形成される折れ線の蛇行による外観の悪化を抑制することができる樹脂成形体を有する構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、樹脂成形体を有する構造体であって、前記樹脂成形体は、第1及び第2本体部と、ヒンジ部を備え、第1及び第2本体部は、前記ヒンジ部で互いに回動可能に連結されており、前記ヒンジ部は、第1及び第2薄肉部と、厚肉部を備え、前記厚肉部は、第1及び第2薄肉部よりも肉厚が大きい部位であり、第1及び第2薄肉部及び厚肉部は、前記ヒンジ部の長手方向に沿って延び、前記厚肉部は、前記ヒンジ部の幅方向において、第1及び第2薄肉部によって挟まれている、構造体が提供される。
【0007】
本発明の樹脂成形体のヒンジ部では、厚肉部が第1及び第2薄肉部によって挟まれており、薄肉部においてヒンジ部が折れ曲がって折れ線が形成されやすい。薄肉部はヒンジ部全体に比べて幅が狭いので、薄肉部に形成される折れ線が蛇行していても、あまり目立たない。このため、本発明によれば、ヒンジ部に形成される折れ線の蛇行による外観の悪化が抑制される。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記厚肉部は、前記ヒンジ部の長手方向の端部には到達していない、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記ヒンジ部の長手方向の端部近傍において、前記ヒンジ部の幅が、前記ヒンジ部の長手方向の端部に向かって徐々に小さくなる、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記厚肉部の厚さと幅の少なくとも一方は、前記厚肉部の長手方向の端部近傍において、前記ヒンジ部の長手方向の端部に向かって徐々に小さくなる、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記ヒンジ部の幅が一定になっている部位での前記ヒンジ部及び前記厚肉部の幅をそれぞれWh及びWcとすると、Wc/Wh=0.2~0.8である、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記厚肉部の厚さは、前記厚肉部の幅方向の端に向かって徐々に小さくなる、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、第1本体部と、前記ヒンジ部と、第2本体部にまたがるように設けられた表皮材を備え、前記表皮材は前記樹脂成形体と一体成形されている、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記樹脂成形体は、無機繊維を含み、前記無機繊維は、前記ヒンジ部の長手方向に非平行に配向される、構造体である。
【0009】
本発明の別の観点によれば、構造体の製造方法であって、前記構造体は、前記記載の構造体であって、前記方法は、押出工程と、賦形工程と、型締め工程を備え、前記押出工程では、第1及び第2金型の間に第1及び第2樹脂シートを押し出し、第1及び第2金型は、それぞれ、キャビティを備え、前記賦形工程では、第1及び第2樹脂シートをそれぞれ第1及び第2金型のキャビティの内面に沿って賦形し、前記型締め工程では、第1及び第2金型を型締めし、第1及び第2樹脂シートは、無機繊維を含み、第1及び第2金型の少なくとも一方は、前記ヒンジ部を形成する凸条を備え、前記凸条の長手方向が、第1及び第2樹脂シートの押出方向に非平行になるように構成される、構造体の製造方法が提供される。
好ましくは、前記記載の構造体の製造方法であって、前記凸条の長手方向が、第1及び第2樹脂シートの押出方向に直交するように構成される、構造体の製造方法である。
【0010】
本発明の別の観点によれば、構造体の製造方法であって、前記構造体は、前記記載の構造体であって、前記方法は、押出工程と、賦形工程と、型締め工程を備え、前記押出工程では、第1及び第2金型の間に第1及び第2樹脂シートを押し出し、第1及び第2金型は、それぞれ、キャビティを備え、前記賦形工程では、第1樹脂シートと第1金型の間に表皮材を配置した状態で第1及び第2樹脂シートをそれぞれ第1及び第2金型のキャビティの内面に沿って賦形し、前記型締め工程では、第1及び第2金型を型締めし、第2金型は、前記ヒンジ部を形成する凸条を備え、前記凸条の先端には、前記厚肉部に対応する溝が設けられている、構造体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態の構造体の斜視図である。
図2図1中の領域Aの拡大図である。
図3図1中のヒンジ部5の長手方向の中央を通る断面図である。
図4図3中の領域Bの拡大図である。
図5図3中の領域Cの拡大図である。
図6】本体部2a,2bをヒンジ部5で折り曲げた状態を示す図3と同じ断面の断面図である。
図7図6中の領域Dの拡大図であり、図7Aは、薄肉部5a,5bが均等に折り曲がった状態を示し、図7Bは、薄肉部5a,5bが偏って折り曲がった状態を示す。
図8】ヒンジ部5の長手方向の端部5d近傍での薄肉部5eを通る断面でのヒンジ部5近傍の拡大図である。
図9】本発明の第1実施形態の構造体の製造に利用可能な成形機10の構成図(金型21,31及びその近傍の部材については縦断面図)である。
図10】金型21,31の間に樹脂シート23,33を押し出した状態を示す断面図である。
図11図10の状態から、樹脂シート23,33を金型21,31のキャビティ内面に沿って賦形した後の状態を示す断面図である。
図12図11の状態から、インサート部材7を樹脂シート23に貼り付けた後の状態を示す断面図である。
図13図12の状態から金型21,31を型締めした後の状態を示す断面図である。
図14】ガラス繊維がヒンジ部5の長手方向に直交する方向に配向されている樹脂成形体1において、薄肉部5a,5bの幅がそれぞれ1mmで、厚肉部5cの幅が2mmである場合のヒンジ部5で樹脂成形体1を折り曲げた状態の写真である。
図15】ヒンジ部の幅が4mmである樹脂成形体をヒンジ部で折り曲げた状態の写真であり、図15Aは、樹脂成形体が無機繊維を含まない場合、図15Bは、ガラス繊維がヒンジ部の長手方向に直交する方向に配向されている場合の写真である。
図16】本発明の第2実施形態の構造体100の、図4に対応する斜視図である。
図17図17Aは、本実施形態の構造体100を表皮材8側から見た写真であり、図17Bは、従来の構造体100を表皮材8側から見た写真である。
図18図16の構造体100の製造工程を示す断面図であり、図18A図18Bは、図11及び図13に対応する状態であり、図18Cは、金型21,31から取り出された構造体100を示し、図18Dは、図18C中の領域Dの拡大図である。図18ではインサート部材7は図示省略している。
図19】従来の構造体100の製造工程を示す断面図であり、図19A図19Bは、図11及び図13に対応する状態であり、図19Cは、金型21,31から取り出された構造体100を示し、図19Dは、図19C中の領域Dの拡大図である。図19ではインサート部材7は図示省略している。
図20】第1実施形態の変形例での、図5に対応する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0013】
1.第1実施形態
1-1.構造体の構造
図1図2に示すように、本発明の第1実施形態の構造体は、樹脂成形体1を有する。樹脂成形体1は、第1及び第2本体部2a,2bと、ヒンジ部5を備える。本体部2a,2bは、ヒンジ部5で互いに回動可能に連結されている。
【0014】
本実施形態では、樹脂成形体1は、樹脂製パネルであり、本体部2a,2bは、パネル形状の成形体である。
【0015】
樹脂成形体1は、表壁3と、裏壁4を備える。表壁3と裏壁4は、間隔をおいて対向している。表壁3と裏壁4の周囲は、周囲壁6によって繋がれている。
【0016】
図3図4に示すように、表壁3と裏壁4の間にはインサート部材7が設けられている。インサート部材7は、表壁3と裏壁4の間のスペースを確保したり、樹脂成形体1の強度や断熱性を高めたりする目的で配置される部材であり、好ましくは、発泡体で構成される。
【0017】
ヒンジ部5は、第1及び第2薄肉部5a,5bと、厚肉部5cを備える。厚肉部5cは、薄肉部5a,5bよりも肉厚が大きい部位である。薄肉部5a,5b及び厚肉部5cは、細長い形状であり、ヒンジ部5の長手方向に沿って延びている。厚肉部5cは、ヒンジ部5の幅方向において、薄肉部5a,5bによって挟まれている。
【0018】
図4及び図7に示すように、厚肉部5cは、断面が略三角形状であり、厚肉部5cの厚さは、厚肉部5cの幅方向の端に向かって徐々に小さくなっている。このため、厚肉部5cは、スムーズに薄肉部5a,5bに連結される。
【0019】
薄肉部5a,5bの最薄部の厚さは、例えば0.001~0.5mmであり、具体的には例えば、0.001、0.01、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。厚肉部5cの最厚部の厚さは、0.1~3mmであり、具体的には例えば、0.1、0.5、1、1.5、2、3mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0020】
薄肉部5a,5bは厚肉部5cよりも肉厚が小さいので、本体部2a,2bをヒンジ部5で折り曲げたときに、図7Aに示すように、薄肉部5a,5bにおいて選択的に折り曲がりやすい。薄肉部5a,5bはヒンジ部5全体に比べて幅が狭いので、薄肉部5a,5bに形成される折れ線が蛇行していても、あまり目立たない。このため、本実施形態によれば、ヒンジ部5に形成される折れ線の蛇行による外観の悪化が抑制される。
【0021】
例えば、従来技術において、ヒンジ部5全体の幅が4mmであって、ヒンジ部5の全体の厚さが均一である場合、折れ線は、4mmの幅に渡って蛇行するので、蛇行の振幅が大きいので、図15Bに示すように、折れ線の蛇行が目立つ。一方、本実施形態において、厚肉部5cが薄肉部5a,5bによって挟まれた構成で、薄肉部5a,5bの幅がそれぞれ1mmで、厚肉部5cの幅が2mmである場合、折れ線は、薄肉部5a,5bのそれぞれに形成され、それぞれの折れ線が蛇行する範囲は1mmの幅に制限される。このため、蛇行の振幅が従来技術よりも大幅に低減されるので、図14に示すように、折れ線の蛇行が目立たず、折れ線の蛇行による外観の悪化が抑制される。
【0022】
ところで、本体部2a,2bをヒンジ部5で折り曲げたときに、薄肉部5a,5bが均等に折れ曲がるとは限らず、図7Bに示すように、薄肉部5a,5bの折れ曲がりが偏る場合がある。図7Bの場合、薄肉部5bの曲率半径が薄肉部5aの曲率半径よりも大幅に小さくなっている。このような場合、薄肉部5bで割れが生じやすくなるという問題がある。
【0023】
このような割れの発生を防ぐべく、本実施形態では、図2及び図5に示すように、厚肉部5cは、ヒンジ部5の長手方向の端部5dには到達しないように設けられている。このため、端部5d近傍には厚肉部5cが存在せず、1つの薄肉部5eのみが設けられており、本体部2a,2bをヒンジ部5で折り曲げた状態は図8に示すようになる。薄肉部の割れは端部5dで生じやすいので、端部5dにおいて薄肉部が厚肉部によって分割されていないことによって、薄肉部での割れの発生が抑制される。
【0024】
一方、端部5d近傍に厚肉部を設けない場合には、端部5d近傍において折れ線の蛇行が目立つという問題が生じる。そこで、このような問題の影響を緩和すべく、本実施形態では、図2及び図5に示すように、端部5d近傍において、ヒンジ部5の幅が、端部5dに向かって徐々に小さくなるように構成している。なお、端部5d近傍においてヒンジ部5の幅を小さくすると蛇行は目立ちにくくなる一方、ヒンジ部5で折り曲げたときの曲率半径が小さくなり、ヒンジ部5での割れが発生しやすくなる。ヒンジ部5での割れをより確実に防ぐことを優先する場合には、端部5d近傍においてヒンジ部5の幅を小さくしないことが好ましい。例えば、図20に示すように、端部5d近傍においても、ヒンジ部5の幅を、厚肉部5cが設けられている部位でのヒンジ部5全体の幅と同じにする。
【0025】
ヒンジ部5の幅が一定になっている部位(以下、「幅一定部位」)でのヒンジ部の幅をWhとし、端部5dでのヒンジ部5の幅をWeとすると、We/Wh=0.2~0.8が好ましい。この値が大きすぎると、折れ線の蛇行が目立ちやすくなる。この値が小さすぎると、ヒンジ部5での折り曲げが困難になる。We/Whは、具体的には例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
また、幅一定部位での厚肉部5cの幅をWcとすると、Wc/Wh=0.2~0.8が好ましい。この値が大きすぎると、薄肉部5a,5bの幅が小さくなりすぎてヒンジ部5での折り曲げが困難になる。この値が小さすぎると、薄肉部5a,5bの幅が大きくなりすぎて折れ線の蛇行が目立ちやすくなる。Wc/Whは、具体的には例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0027】
Whは、例えば2~10mmであり、3~6mmが好ましい。この値が大きすぎると、ヒンジ部5が目立ちすぎて外観が損なわれる。この値が小さすぎると、ヒンジ部5での折り曲げが困難になる。Whは、具体的には例えば、具体的には例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0028】
端部5dから幅一定部位までの距離Lは、例えば5~30mmであり、具体的には例えば、5、10、15、20、25、30mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。この値が大きすぎると、折れ線の蛇行が目立ちやすくなる。この値が小さすぎると、ヒンジ部5での折り曲げが困難になる。端部5dから、厚肉部5cの長手方向の端部5c1までの距離Lcは、例えば3~15mmであり、具体的には例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。この値が大きすぎると、折れ線の蛇行が目立ちやすくなる。この値が小さすぎると、端部5dでのヒンジ部5の割れが生じやすくなる。
【0029】
厚肉部5cの厚さと幅の少なくとも一方は、厚肉部5cの長手方向の端部5c1近傍において、端部5dに向かって徐々に小さくなっている。このような構成によれば、端部5d近傍において、厚肉部5cがスムーズに消失する。
【0030】
厚肉部5cの厚さと幅の少なくとも一方が徐々に小さくなる区間(徐変区間)Vの長さは、例えば3~25mmであり、具体的には例えば、3、5、10、15、20、25mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。この値が大きすぎると、折れ線の蛇行が目立ちやすくなる。この値が小さすぎると、厚肉部5cと薄肉部5eの境界で割れが生じやすくなる。
【0031】
樹脂成形体1は、無機繊維を含むことが好ましい。また、無機繊維は、ヒンジ部5の長手方向に非平行な方向に配向されることが好ましく、ヒンジ部5の長手方向に直交する方向に配向されることがさらに好ましい。このような場合に、折れ線の蛇行が特に目立ちやすいために本発明の構成を採用することの技術的意義が特に大きいからである。無機繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維などが挙げられる。「無機繊維が配向されている」とは、多数の無機繊維が概ね同じ方向に向いている状態を指す。例えば、無機繊維を含む溶融樹脂を押し出して形成した樹脂シートを用いて樹脂成形体1を形成する場合、多数の無機繊維は概ね樹脂シートの押出方向に向くので、樹脂シートの押出方向が無機繊維の配向の方向となる。樹脂成形体1中の無機繊維の含有量は、1~40質量%が好ましく、5~30質量%がさらに好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。この含有量は、具体的には例えば、1、5、10、15、20、25、30、35、40質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。含有量が少なすぎると樹脂成形体1の剛性が不十分であり、含有量が多すぎると樹脂成形体1の成形性が悪くなったり、樹脂成形体1が割れやすくなったりする。
【0032】
1-2.成形機10
次に、図9図10を用いて、本発明の第1実施形態の構造体の製造方法の実施に利用可能な成形機10について説明する。成形機10は、一対の樹脂シート形成装置20と、第1及び第2金型21,31を備える。各樹脂シート形成装置20は、ホッパー12と、押出機13と、アキュームレータ17と、Tダイ18を備える。押出機13とアキュームレータ17は、連結管25を介して連結される。アキュームレータ17とTダイ18は、連結管27を介して連結される。
以下、各構成について詳細に説明する。
【0033】
<ホッパー12,押出機13>
ホッパー12は、原料樹脂11を押出機13のシリンダ13a内に投入するために用いられる。原料樹脂11の形態は、特に限定されないが、通常は、ペレット状である。原料樹脂は、例えばポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂であり、ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体及びその混合物などが挙げられる。原料樹脂11は、ホッパー12からシリンダ13a内に投入された後、シリンダ13a内で加熱されることによって溶融されて溶融樹脂になる。また、シリンダ13a内に配置されたスクリューの回転によってシリンダ13aの先端に向けて搬送される。スクリューは、シリンダ13a内に配置され、その回転によって溶融樹脂を混練しながら搬送する。スクリューの基端にはギア装置が設けられており、ギア装置によってスクリューが回転駆動される。
【0034】
樹脂シート23,33中に無機繊維を含ませる場合には、原料樹脂に無機繊維を含ませることが好ましい。
【0035】
<アキュームレータ17、Tダイ18>
溶融樹脂は、シリンダ13aの樹脂押出口から押し出され、連結管25を通じてアキュームレータ17内に注入される。アキュームレータ17は、シリンダ17aとその内部で摺動可能なピストン17bを備えており、シリンダ17a内に溶融樹脂が貯留可能になっている。そして、シリンダ17a内に溶融樹脂が所定量貯留された後にピストン17bを移動させることによって、連結管27を通じて溶融樹脂をTダイ18内に設けられたスリットから押し出して溶融状態の第1及び第2樹脂シート23,33を形成する。原料樹脂に無機繊維が含まれる場合には、無機繊維は、樹脂シート23,33の押出方向に沿って配向する。
【0036】
<金型21,31>
樹脂シート23,33は、金型21,31の間に押し出される。図10に示すように、金型21,31は、キャビティ21a,31aを有し、キャビティ21a,31aを取り囲むようにピンチオフ部21b,31bが設けられている。キャビティ21a,31a内には、減圧吸引孔(図示せず)が設けられており、減圧吸引孔を通じて樹脂シート23,33を減圧吸引して金型21,31のキャビティ21a,31aの内面に沿った形状に賦形することが可能になっている。減圧吸引孔は、極小の孔であり、一端が金型21,31内部を通ってキャビティ21a,31aの内面にまで連通されてり、他端が減圧装置に接続されている。
【0037】
金型31には、ヒンジ部5を形成する凸条31cが設けられている。凸条31cは、細長い突部であり、凸条31cの長手方向が樹脂シート23,33の押出方向に非平行になるように構成されることが好ましく、凸条31cの長手方向が樹脂シート23,33の押出方向に直交するように構成されることがさらに好ましい。この場合、ヒンジ部5の長手方向に沿った樹脂シート23,33の厚さの変化が抑制される。図10に示すように、凸条31cの先端には、薄肉部5a,5bに対応する先端面31c1と、厚肉部5cに対応する溝31c2が設けられている。
【0038】
1-3.構造体の製造方法
ここで、図9図13を用いて、本発明の一実施形態の構造体の製造方法について説明する。本実施形態の方法は、押出工程と、賦形工程と、インサート工程と、型締め工程を備える。以下、詳細に説明する。
【0039】
(1)押出工程
押出工程では、図9図10に示すように、金型21,31の間に樹脂シート23,33を押し出す。
【0040】
(2)賦形工程
賦形工程では、図10図11に示すように、金型21,31によって樹脂シート23,33の減圧吸引を行って樹脂シート23、33をキャビティ21a,31aの内面に沿った形状に賦形する。本実施形態では、樹脂シート23と金型21の間、及び樹脂シート33と金型31の間には、表皮材などの別の部材が配置されていないので、樹脂シート23,33は、それぞれ、金型21,31に直接接触するように賦形される。なお、樹脂シート23側に表皮材を一体成形してもよく、この場合、金型21と樹脂シート23の間に表皮材を配置した状態で樹脂シート23を賦形する。
【0041】
(3)インサート工程
インサート工程では、図11図12に示すように、インサート部材7を樹脂シート23に溶着させる。インサート部材7が発泡体で構成されている場合、樹脂シート23の熱によって発泡体が溶融されることによってインサート部材7の一方の面7dが樹脂シート23に溶着される。インサート部材7の他方の面7eは、図13に示す型締めの際に樹脂シート33に溶着される。インサート部材7は、第1及び第2本体部7a,7bが連結部7cで連結されて構成される。本体部7a,7bは、それぞれ樹脂成形体1の本体部2a,2b内に収容される。連結部7cは、ヒンジ部5に対応する。連結部7cは省略可能であり、その場合、本体部7a,7bのそれぞれに対応する2つのインサート部材をインサートすることができる。
【0042】
(4)型締め工程
型締め工程では、図12図13に示すように、金型21,31の型締めを行う。これによって、ピンチオフ部21b,31bに沿って樹脂シート23,33が互いに溶着されて、一対の金型21,31によって形成されるキャビティの内面に沿った形状の樹脂成形体1が得られる。凸条31cと金型21との間において、樹脂シート23,33及び連結部7cが圧縮されてヒンジ部5が形成される。凸条31cの先端面31c1で圧縮された部位が薄肉部5a,5bとなり、溝31c2に対向する部位が厚肉部5cとなる。ピンチオフ部21b,31bの外側がバリ41となる。この後は、金型21,31を開いて樹脂成形体1を取り出し、バリ41を除去にすることによって、図1に示す樹脂成形体1を有する構造体が得られる。先端面31c1は、平坦面であっても湾曲面であってもよい。
【0043】
2.第2実施形態
図16図19を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に類似しており、樹脂成形体1と表皮材8によって構造体100が構成されている点が主な相違点である。以下、相違点を中心に説明する。
【0044】
ヒンジ部5は、樹脂成形体1の裏壁4側が凹まされて形成されており、厚肉部5cは、裏壁4側に突出することによって薄肉部5a,5bよりも厚肉になっている。ヒンジ部5は、表壁3側の面は平坦である。樹脂成形体1の表壁3側には、本体部2aと、ヒンジ部5と、本体部2bにまたがるように平坦面が設けられている。
【0045】
表皮材8は、樹脂成形体1の表壁3側に、本体部2aと、ヒンジ部5と、本体部2bにまたがるように設けられている。表皮材8は、不織布のような通気性を有するカーペット状の部材で構成されることが好ましく、樹脂成形体1の成形時に樹脂成形体1と一体成形することが好ましい。これによって、樹脂成形体1と表皮材が一体成形された構造体100が得られる。
【0046】
ところで、本実施形態のように、ヒンジ部5が薄肉部5a,5bとその間の厚肉部5cで構成されている場合には、図17Aに示すように、表皮材8は、ヒンジ部5に対向する部位8aの外観が他の部位とほとんど変わらない。一方、ヒンジ部5が薄肉部のみで構成されている従来の形態では、図17Bに示すように、表皮材8は、ヒンジ部5に対向する部位8aが光って見えて外観が悪くなっている。
【0047】
このように、本実施形態によれば、ヒンジ部5に対向する部位8aの外観が向上するという効果が奏される。
【0048】
このような効果が奏される原理を図18図19を用いて説明する。図18は、金型31の凸条31cの先端に、先端面31c1と溝31c2が設けられる本実施形態に関し、図19は、溝31c2が設けられていない従来形態に関する。ここでは、表皮材8が、不織布のようなカーペット状の部材である場合を例に挙げて説明する。
【0049】
図18A及び図19Aは、図11に対応する状態である。金型21と樹脂シート23の間に表皮材8を配置した状態で樹脂シート23が金型21のキャビティの内面に沿って賦形されている。図18A及び図19Aに示すように、金型21,31が離間された状態では、表皮材8は圧縮されていない状態になっている。
【0050】
図18B及び図19Bに示すように、金型21,31が閉じられると、金型31の凸条31cの先端面31c1が金型21の内面にほぼ当接した状態となる。この状態では、表皮材8の全体が圧縮されているが、凸条31cの先端面31c1と金型21で挟まれた部分が特に強く圧縮される。また、この部位では、樹脂シート23,33の樹脂も圧縮され、表皮材8に含浸される。図18Bのように、凸条31cの先端に溝31c2がある場合、溝31c2に対向する部位では、表皮材8が圧縮されにくく、且つ表皮材8に樹脂が含浸されにくい。
【0051】
樹脂の冷却後に金型21,31から取り出した構造体100を図18C図18D及び図19C図19Dに示す。どちらの構造体100においても、ヒンジ部5以外の部位においては、表皮材8は圧縮されていない状態に戻っている。
【0052】
図19Dに示す従来の構造体100では、ヒンジ部5に対向する部位8aの全体において、表皮材8が圧縮された状態のままになっている。このような状態になるのは、部位8aの全体に溶融樹脂が含浸され、その状態で溶融樹脂が固化されるためである。また、このような広い範囲で表皮材8が圧縮されているので、従来の構造体100では、図17Bに示すように、部位8aが光って見えて外観が悪くなる。
【0053】
一方、図18Dに示す本実施形態の構造体100では、ヒンジ部5に対向する部位8aのうち、薄肉部5a,5bに対向する部位は、従来の構造体100と同様に圧縮されたままになっているが、厚肉部5cに対向する部分は、表皮材8の圧縮及び樹脂の含浸の程度が低いので、構造体100を金型21,31から取り出すと、表皮材8は、ほぼ元の状態に復元される。このため、本実施形態の構造体100では、表皮材8が圧縮されている領域の幅が従来の構造体100に比べて狭くなり、図17Aに示すように、部位8aが目立ちにくくなる。
【0054】
3.その他の実施形態
・インサート部材7は省略可能である。
・樹脂成形体1は、1枚の発泡又は非発泡樹脂シートで構成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1:樹脂成形体、2a:第1本体部、2b:第2本体部、3:表壁、4:裏壁、5:ヒンジ部、:5a:第1薄肉部、:5b:第2薄肉部、:5c:厚肉部、:5c1:端部、:5d:端部、5e:薄肉部、6:周囲壁、7:インサート部材、:7a:第1本体部、:7b:第2本体部、:7c:連結部、:7d:一方の面、:7e:他方の面、8:表皮材、:8a:部位、10:成形機、11:原料樹脂、12:ホッパー、13:押出機、:13a:シリンダ、17:アキュームレータ、:17a:シリンダ、:17b:ピストン、18:Tダイ、20:樹脂シート形成装置、21:第1金型、:21a:キャビティ、:21b:ピンチオフ部、23:第1樹脂シート、25:連結管、27:連結管、31:第2金型、:31a:キャビティ、:31b:ピンチオフ部、:31c:凸条、33:第2樹脂シート、41:バリ、100:構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20