(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】mRNA成熟阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/44 20060101AFI20221221BHJP
A61K 36/74 20060101ALI20221221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221221BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A61K31/44
A61K36/74
A61P43/00 105
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2019061856
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】増田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】森本 茉莉
(72)【発明者】
【氏名】光川 瑞葵
(72)【発明者】
【氏名】藤井 繁佳
(72)【発明者】
【氏名】金谷 華帆
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真一郎
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132762(JP,A)
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2014年,Vol.62,p.5054-5060
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 36/74
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする、mRNA成熟阻害剤。
【請求項2】
前記化合物が、焙煎コーヒー豆に由来する化合物である、請求項1に記載のmRNA成熟阻害剤。
【請求項3】
腫瘍の治療又は再発予防に用いられる、請求項1又は2に記載のmRNA成熟阻害剤。
【請求項4】
コーヒーの可溶性成分をメタノール抽出し、得られたメタノール抽出物から、液体クロマトグラフィーにより前記式(1)
で表される化合物を含む画分を分取する、mRNA成熟阻害剤の製造方法。
【請求項5】
前記コーヒーの可溶性成分が、焙煎コーヒー豆の可溶性成分である、請求項4に記載のmRNA成熟阻害剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来で活性が高く、抗腫瘍剤の有効成分としても好適なmRNA成熟阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、がんによる死亡が3人に1人となっている。特に高齢者は、染色体中にこれまでに蓄積された変異を多く含むために、細胞ががん化しやすい傾向がある。がんは、細胞の増殖異常によるものであるため、食品から細胞増殖を抑制する機能性化合物を積極的に摂取することによって、効果的にがんの発症を抑制できると期待できる。現代社会の多様化した生活環境から、このような機能性化合物は、食品だけでなくサプリメント等として摂取する視点も重要となっている。すなわち、抗腫瘍作用を有する生理活性化合物を、食品やサプリメント等から継続的に摂取する方法論を確立することは、超高齢化社会を迎えた日本において健康な長寿社会を築いていく上で極めて重要な社会課題となる。
【0003】
従来、抗腫瘍剤としては、化学的合成品が主体であるが、これらは使用濃度の制限や副作用等の課題があり、天然に存在する安全性が高くかつ活性の強い抗腫瘍剤への要望が高まっている。今までに、食品や天然物から抗腫瘍成分の探索が数多くなされている。例えば、非特許文献1には、コーヒーのクロロゲン酸に肝細胞がん増殖抑制効果があることが記載されている。また、カテコール(非特許文献2)とカフェ酸メチル(非特許文献3)には抗腫瘍活性があることが報告されている。
【0004】
一方で、mRNAの成熟は、核内において、5’-キャッピング、スプライシング、3’ -エンドプロセッシング等の多段階の反応によりなされ、成熟mRNAは、核外に運ばれる。成熟段階のいずれかが適切に行われず、mRNAの成熟が阻害された場合には、核内に未成熟のmRNAが蓄積される。最近、mRNA成熟過程の阻害因子が、抗がん剤としての機能を期待されている。本発明者らは、抗腫瘍活性を持つ化合物の新たなスクリーニング系として、蛍光ラベルされたオリゴdTプローブを用いたRNA-FISHを利用し、mRNA成熟阻害活性を有する物質をスクリーニングするアッセイ系を開発した(非特許文献4参照。)。発明者らはまた、コーヒーの持つ寿命延長効果に着目し、コーヒー成分について、当該アッセイ系を用いたスクリーニングの結果、クロロゲン酸ラクトン類に強いmRNA成熟阻害活性があることを明らかにした(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yagasaki,et al., Cytotechnology, 2000, vol.33, p.229-235.
【文献】村上浩紀ら,九州大學農學部學藝雜誌,1969,vol.24(1), p.13-17.
【文献】Inayama et al., Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 1984, vol.32(3), p.1135-1141.
【文献】Fujita,et al., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2012, vol.76(6), p.1248-1251.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているクロロゲン酸ラクトン類は、高いmRNA成熟阻害活性を有するものの、より幅広く適用可能な成分が求められている。また、カテコール、カフェ酸メチル、カフェ酸エチル、及びフェルラ酸エチルは、抗腫瘍作用は見られるものの、そのメカニズムは未解明である。
【0008】
本発明は、天然物由来であり、比較的安全性が高いことが期待でき、かつ充分な抗腫瘍活性を有する成分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、新たに開発したmRNA成熟阻害活性を有する物質をスクリーニングするアッセイ系を用いて、焙煎コーヒー豆の可溶性成分に対するスクリーニングを実施したところ、1-(5-Hydroxy pyridin-2-yl)ethanone(アセチルピリジノール)、カテコール、及びカフェ酸メチルが強いmRNA成熟阻害活性を有することを新たに見出した。更に、カテコール類縁体であるレソルシノールと、カフェ酸メチル関連物のカフェ酸エチル及びフェルラ酸エチルにmRNA成熟阻害活性があることも見出し、本発明を完成させた。
【0010】
[1] 本発明の第一の態様に係るmRNA成熟阻害剤は、下記式(1)で表される化合物を有効成分とすることを特徴とする。
【0011】
【0012】
[2] 前記[1]のmRNA成熟阻害剤としては、前記化合物が、焙煎コーヒー豆に由来する化合物であることが好ましい。
[3] 前記[1]又は[2]のmRNA成熟阻害剤としては、腫瘍の治療又は再発予防に用いられることが好ましい。
[4] 本発明の第二の態様に係るmRNA成熟阻害剤の製造方法は、コーヒーの可溶性成分をメタノール抽出し、得られたメタノール抽出物から、液体クロマトグラフィーにより前記式(1)で表される化合物を含む画分を分取する。
[5] 前記[4]のmRNA成熟阻害剤の製造方法としては、前記コーヒーの可溶性成分が、焙煎コーヒー豆の可溶性成分であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
アセチルピリジノール、カテコール、及びカフェ酸メチルは、高いmRNA成熟阻害活性を備えることに加えて、天然にはコーヒーに含まれている成分であり、比較的安全に投与可能である。また、レソルシノール、カフェ酸エチル、及びフェルラ酸エチルは、植物に存在している、mRNA成熟阻害活性を備える化合物である。このため、本発明に係るmRNA成熟阻害剤は、サプリメントや医薬品等の有効成分として好適であり、特に、腫瘍等のように細胞の過増殖が原因となる疾患に対する治療又は再発防止のための医薬品の有効成分として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1における、インスタントコーヒーの分画精製のフローと各フラクションの回収量を示した図である。
【
図2】実施例1における、アセチルピリジノール(標品)処理後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を示す。
【
図3】実施例1における、カテコール(標品)処理後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を示す。
【
図4】実施例1における、カフェ酸メチル(標品)処理後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を示す。
【
図5】実施例2における、レソルシノール(標品)処理後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を示す。
【
図6】実施例3における、カフェ酸関連化合物(標品)処理後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るmRNA成熟阻害剤は、アセチルピリジノール(下記式(1)で表される化合物)、カテコール(下記式(2)で表される化合物)、レソルシノール(下記式(3)で表される化合物)、カフェ酸メチル(下記式(4)で表される化合物)、カフェ酸エチル(下記式(5)で表される化合物)、及びフェルラ酸エチル(下記式(6)で表される化合物)のいずれかを有効成分とする。本発明に係るmRNA成熟阻害剤は、これらの6種の化合物のうち、1種類のみを有効成分としてもよく、2種類以上を有効成分としてもよい。これらの6種の化合物は、細胞内に取り込まれた後、mRNAの成熟工程のいずれかの段階を阻害し、タンパク質合成を阻害する。このmRNA成熟阻害の結果、細胞増殖が抑制される。このため、本発明に係るmRNA成熟阻害剤は、細胞の過増殖により引き起こされる疾患の治療や予防のための医薬品、特に、腫瘍の治療や再発防止のための医薬品の有効成分として好適である。
【0016】
【0017】
本発明に係るmRNA成熟阻害剤は、有効成分である前記6種の化合物のうちの1種又は2種以上のみからなるものであってもよく、他の成分を含有するものであってもよい。当該他の成分としては、前記6種の化合物によるmRNA成熟阻害作用を損なわないものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)、安定剤、保存剤、pH調整剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、矯味剤、甘味料、酸味料、香料、着色料等として用いられている各種物質を、所望の製品品質に応じて適宜含有させてもよい。
【0018】
本発明に係るmRNA成熟阻害剤の剤型は、特に限定されるものではなく、各種の剤型を適用できる。当該剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、スプレー剤、注射剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。服用が容易であることから、本発明に係るmRNA成熟阻害剤の剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等の経口投与に適したものが好ましい。
【0019】
本発明に係るmRNA成熟阻害剤の有効成分のうち、アセチルピリジノール、カテコール、及びカフェ酸メチルは、コーヒーに由来する成分、より詳細には、焙煎コーヒー豆に比較的多く含まれている可溶性成分(焙煎コーヒー豆の熱水抽出物に含まれる成分)であり、比較的安全に服用できる。また、レソルシノール、カフェ酸エチル、及びフェルラ酸エチルは、植物に存在している物質である。そこで、これらは、飲食品、飼料、化粧料、医薬品等の原料として好適であり、特に腫瘍の治療又は再発予防に用いられる医薬品やサプリメントの有効成分として有用である。例えば、本発明に係るmRNA成熟阻害剤を配合させたサプリメントを継続的に摂取することにより、細胞増殖が抑制され、細胞の過増殖によって引き起こされる各種疾患(例えば、腫瘍など)の発症や再発リスクを低減できることが期待できる。
【0020】
その他、本発明に係るmRNA成熟阻害剤は、細胞のタンパク質発現のメカニズム解明のためのツールとしても好適である。
【0021】
本発明に係るmRNA成熟阻害剤の有効成分とする前記6種の化合物は、いずれも、天然物から抽出され粗精製されたものであってもよく、天然物から単一成分にまで精製されたものであってもよく、化学合成されたものであってもよい。アセチルピリジノール、カテコール、及びカフェ酸メチルは、例えば、コーヒーの可溶性成分をメタノール抽出し、得られたメタノール抽出物から、液体クロマトグラフィーによってこれらの化合物を含む画分(フラクション)を分取することによって精製して製造することができる。液体クロマトグラフィーは、HPLC等の常法により行うことができる。原料とするコーヒーの可溶性成分としては、焙煎コーヒー豆の可溶性成分であることが好ましく、インスタントコーヒー粉末の原料となるような焙煎コーヒー豆の熱水抽出物がより好ましい。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0023】
<mRNA阻害活性の測定>
以降の実験において、各化合物のmRNA成熟阻害活性は、非特許文献4に記載されているRNA-FISH(Fluorescence in Situ Hybridization)を利用した方法に準じて行った。RNA-FISHには、ヒト骨肉腫細胞から樹立された培養細胞株U2OS細胞を用いた。U2OS細胞は、10%FBS(ウシ胎児血清)含有DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)中で、37℃、5%二酸化炭素環境下で培養した。
【0024】
具体的には、まず、5×104/mLとなるように細胞を12ウェルプレートのカバーグラス上に接種し、24時間培養した。次いで、各ウェルに、活性を測定する対象の化合物のDMSO溶液を添加し、さらに24時間培養した。各ウェルに添加されるDMSO量は等しくなるように調整し、ネガティブコントロールとして等量のDMSOを添加したウェルも、同様に24時間培養した。また、ポジティブコントロールとして、mRNAスプライシングに対する阻害活性を有するGEX1Aを用い、GEX1A溶液(GEX1Aを30ng/mLとなるようにDMSOに溶解させた溶液)を各ウェルに添加して、同様に24時間培養した。
【0025】
培養後、カバーグラス上の培養細胞を10%ホルムアルデヒドを含むPBS(リン酸生理食塩水)にて20分間固定処理した後、0.1% TritonX-100を含むPBSにて10分間透過処理(透過性付与処理)を行った。続いて、当該細胞を、PBSにて1回当たり10分間インキュベートする洗浄処理を3回行い、次いで2×SCCバッファー(2×クエン酸ナトリウム標準)にて5分間洗浄処理した。
【0026】
洗浄後の細胞に対して、RNA-FISHを行った。すなわち、加湿チャンバー内にて、細胞をoligo hybridization buffer (Ambion社製)により42℃、1時間予備ハイブリダイズした後、20pMのCy3ラベルされたオリゴdT45プローブを含むoligo hybridization buffer(Ambion社製)で42℃、24時間ハイブリダイズした。その後、2×SCCバッファーにて42℃、20分間洗浄した後、0.5×SCCバッファーにて1回、0.1×SCCバッファーにて1回、順次洗浄した。
【0027】
さらに、洗浄後の細胞の核を、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)染色して可視化した後、核内と細胞全体のCy3蛍光強度を画像解析ソフトウェアImageJ(imagej.nih.gov/ij/)を用いて測定し、細胞当たりのポリ(A)+RNAの核内の局在比([核内のCy3蛍光量]/[細胞全体のCy3蛍光量])を求めた。
【0028】
[実施例1]
焙煎コーヒー豆の可溶性成分から、mRNA成熟阻害活性を有する化合物を単離し、同定した。焙煎コーヒー豆の可溶性成分としては、インスタントコーヒー(商品名:〈〈ブレンディ〉インスタントコーヒー〉、味の素AGF社製)を用い、中圧カラムクロマトグラフィーを繰り返すことによる分画精製を行い、mRNA成熟阻害活性のある画分からmRNA成熟阻害活性を備える化合物を同定した。中圧カラムクロマトグラフィーには、シリカゲル(Wakogel C-200、粒子サイズ75~150μm)を充填したカラムを用いた。インスタントコーヒーの分画精製のフローと各フラクションの回収量を
図1に示す。最終的に6段階の精製で、3種類の単一の活性化合物を単離した。
【0029】
具体的には、まず、インスタントコーヒー500gをメタノール2.5Lと混合した後、濾過して固形分を除去することにより、インスタントコーヒーメタノール抽出物を得た。このインスタントコーヒーメタノール抽出物にmRNA成熟阻害活性が確認されたため、酢酸エチルと水を混合した後、酢酸エチル層を回収した。この酢酸エチル層を蒸発乾固したところ、固形分が35.6gであった。この酢酸エチル層固形分に対して、中圧カラムクロマトグラフィーにより分画し、各フラクションについてmRNA成熟阻害活性を測定し、活性が確認されたフラクションを回収するという精製工程を6回繰り返した。最初の4回の精製工程における中圧カラムクロマトグラフィーはクロロホルムとメタノールのグラジエントを移動相とし、5回目はヘキサンと酢酸エチルのグラジエントを移動相とし、6回目は0.1質量%の酢酸水溶液とメタノールのグラジエントを移動相とした。
【0030】
1回目の精製工程では、Fr.2(固形分18.31g)に活性が観察された。そこで、このFr.2に対して2回目の分画を行ったところ、得られたFr.2-a~Fr.2-dのうち、Fr.2-a(固形分0.2265g)、Fr.2-c3(固形分2.44g)、及びFr.2-c4(固形分1.41g)に顕著なmRNA成熟阻害活性が見られた。Fr.2-aの回収量が極めて少なかったことから、Fr.2-c3とFr.2-c4を混合したものを、3回目の精製に供した。3回目の精製において、Fr.A-1a~Fr.A-6のうち、Fr.A-1a(固形分4.8mg)とFr.A-3(固形分2520.9mg)に顕著なmRNA成熟阻害活性が見られた。Fr.A-3では活性に濃度依存性が見られ、かつ回収量も多かったことから、Fr.A-3を4回目の精製に供した。4回目の精製において、Fr.A3-a~Fr.A3-dのうち、Fr.A3-b4(固形分199.2mg)、Fr.A3-b5(固形分676.0mg)、Fr.A3-c(固形分681.6mg)に顕著なmRNA成熟阻害活性が見られた。Fr.A3-b5は低濃度で最もmRNA成熟阻害活性が見られたフラクションであったため、Fr.A3-b5を5回目の精製に供した。
【0031】
5回目の精製において、Fr.A3-b5-a~Fr.A3-b5-fのうち、Fr.A3-b5-c2(固形分12.6mg)、Fr.A3-b5-d1(固形分77.1mg)、Fr.A3-b5-d2(固形分5.2mg)、Fr.A3-b5-d3(固形分22.7mg)、Fr.A3-b5-e(固形分193.9mg)に顕著なmRNA成熟阻害活性が見られた。ただし、Fr.A3-b5-c2~Fr.A3-b5-d3では、これまでと同じ濃度(150μg/mL)で添加すると、細胞が死んでしまったため観察ができなかった。そこで、これらに関しては、低濃度(25μg/mL)でmRNA成熟阻害活性を測定した。また、UV254nmの吸収ピークから、Fr.A3-b5-c2とFr.A3-b5-d1を合わせたピークは1つであった。しかし、Fr.A3-b5-d1の方が、5μg/mL又は10μg/mL添加時のmRNA成熟阻害活性が強かったために 、より純度が高いと予想されたため、Fr.A3-b5-d1を、1H-NMRと13C-NMRとLC-MSによって解析した。標準品のNMRの結果との比較により、Fr.A3-b5-d1に含まれているmRNA成熟阻害活性を備える物質は、カテコール(式(2))と同定された。
【0032】
一方、Fr.A3-b5-d3は、UV254nmの吸収ピークから、まだ複数の化合物が混在していると考えられたので、6回目の精製に供して更に精製を続けることとした。6回目の精製において、Fr.A3-b5-d3-1~Fr.A3-b5-d3-6のうち、Fr.A3-b5-d3-2(固形分0.9mg)とFr.A3-b5-d3-4(固形分0.8mg)に顕著なmRNA成熟阻害活性が見られた。Fr.A3-b5-d3-4の方が、mRNA成熟阻害活性性が顕著であったものの、UV254nmの小さいピークが多数存在しており多くの化合物が混在していたこと、回収量も0.8mgしかなかったことから、これ以上精製を進めも化合物の特定は困難であると考えた。一方で、Fr.A3-b5-d3-2は、低濃度(20μg/mL)ではmRNA成熟阻害活性はなかったものの、高濃度ではmRNAの核内蓄積を確認することができた。そこで、Fr.A3-b5-d3-2とFr.A3-b5-d3-4を1H-NMRとLC-MSを用いて解析した。その結果、Fr.A3-b5-d3-4に含まれているmRNA成熟阻害活性を備える物質は、カフェ酸メチル(式(4))であると同定された。また、Fr.A3-b5-d3-4のNMRスペクトルが、カフェ酸メチルの標品のスペクトルと一致していることも確認した。また、Fr.A3-b5-d3-2に含まれているmRNA成熟阻害活性を備える物質は、1-(5-Hydroxy pyridin-2-yl)ethanone(アセチルピリジノール:式(1))と同定された。
【0033】
ついで、同定されたアセチルピリジノール、カテコール、及びカフェ酸メチルの標品について、mRNA成熟阻害活性を測定した。アセチルピリジノール処理(100μM、300μM、600μM)後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を
図2に、カテコール処理(50μM、100μM、250μM)後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を
図3に、カフェ酸メチル処理(10μM、25μM、50μM)後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を
図4に、それぞれ示す。
【0034】
ANOVA及びDunnett検定を行ったところ、ポリ(A)+RNAの核内の局在比は、ネガティブコントロールであるDMSOを添加した細胞に比べて、アセチルピリジノール、カテコール、及びカフェ酸メチルを添加した細胞では有意差が見られ、核内のポリ(A)+RNA量が有意に多くなっていた。つまり、アセチルピリジノール、カテコール、及びカフェ酸メチルは、mRNA成熟阻害活性を有していた。特に、カフェ酸メチル10μg/mL(50μM)添加時のmRNA成熟阻害活性は、Fr.A3-b5-d3-4を20μg/mL添加時よりも顕著であった。
【0035】
[実施例2]
カテコール関連物質及びカフェ酸関連物質について、実施例1と同様にしてmRNA成熟阻害活性を測定した。被験化合物は、レソルシノール(50μM、100μM、250μM)、カフェ酸エチル(200μM)、フェルラ酸メチル(200μM)、フェルラ酸エチル(200μM)、桂皮酸メチル(200μM)、桂皮酸エチル(200μM)、及びクマル酸メチル(200μM)とした。
【0036】
レソルシノール処理後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を
図5に、カフェ酸関連物質処理後のポリ(A)
+RNAの核内の局在比を調べた結果(n=20)を
図6に、それぞれ示す。250μM(25μg/mL)のレソルシノール処理した細胞と、200μMのカフェ酸エチル処理した細胞と、200μMのフェルラ酸エチル処理した細胞に、有意なmRNA成熟阻害活性が認められた。