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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/095 20120101AFI20221221BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B60W30/095
G08G1/16 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019082578
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020179731
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【弁理士】
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】大村 博志
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-141557(JP,A)
【文献】特開2016-009440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行を支援する車両制御装置であって、
自車線を走行している自車両が交差点に進入するとき、該交差点において該自車線と交差している車線を交差車線と定義し、該交差車線を走行している車両を交差車両と定義すると、
前記交差車線を走行しながら前記自車両に接近する前記交差車両を検出するよう構成された交差車両検出センサと、
前記自車両から延びる複数の経路候補を設定し、該複数の経路候補に基づいて前記自車両の走行を支援するよう構成されたコントローラと、を有し、
前記コントローラは、前記交差車両の進行に伴って移動し、且つ前記交差車両の進行方向に延びる仮想壁を前記自車両と前記交差車両との間に設定して、該仮想壁を通過しないように前記複数の経路候補を設定するとともに、前記自車両から前記仮想壁の手前まで延びる前記経路候補を設定するよう構成されている、
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記自車両が、前記交差車両が走行している前記交差車線を通過し終えるのに要する時間、又は、前記交差車線に合流し終えるのに要する時間に応じた長さを有する前記仮想壁を設定するよう構成されている、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記自車両が、前記交差車両が走行している前記交差車線を通過し終えるのに要する時間、又は、前記交差車線に合流し終えるのに要する時間を、前記交差車両の速度に対して乗算することにより得られる距離に基づいて、前記仮想壁の長さを設定するよう構成されている、請求項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行を支援する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の経路候補(つまり、実際に車両を走行させる目標経路となり得る候補)の設定に用いられるアルゴリズムとして、ポテンシャル法、スプライン補間関数、Aスター(A*)、RRT、ステートラティス法等が知られている。また、このようなアルゴリズムを用いた車両運転支援システムも提案されている。
【0003】
上記アルゴリズムによれば、車両の走行路に複数の経路候補を設定することが可能になる。障害物回避等の観点から各経路候補の経路コストが計算され、当該計算結果に基づいて適切と判断された1つの経路候補が目標経路として選択される。例えば、特許文献1には、グリッドマップ上に複数の経路候補を設定し、移動コストに基づいて1つの経路候補を選択する車両運転支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/051081号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のシステムは、経路候補が通過する全てのセルにおける移動コストを計算しており、計算負荷が大きい。自車両が交差車線(つまり、交差点において自車線と交差している車線)に進入するときに、自車両と交差車両(つまり、交差車線を走行している車両)との迅速な衝突回避が要求される場面では、このような手法は実用性が大きく損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、自車両が交差車線に進入するときに、自車両と交差車両との衝突を回避しつつ、計算負荷を軽減可能な経路候補を設定することができる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明は、車両の走行を支援する車両制御装置であって、自車線を走行している自車両が交差点に進入するとき、交差点において自車線と交差している車線を交差車線と定義し、交差車線を走行している車両を交差車両と定義すると、交差車線を走行しながら自車両に接近する交差車両を検出するよう構成された交差車両検出センサと、自車両から延びる複数の経路候補を設定し、複数の経路候補に基づいて自車両の走行を支援するよう構成されたコントローラと、を有し、コントローラは、交差車両の進行に伴って移動し、且つ交差車両の進行方向に延びる仮想壁を自車両と交差車両との間に設定して、仮想壁を通過しないように複数の経路候補を設定するよう構成されている。
【0008】
この構成によれば、コントローラは仮想壁を設定する。当該仮想壁は、交差車両の進行に伴って移動し、且つ交差車両の進行方向に延びている。コントローラは、このような仮想壁を自車両と交差車両との間に設定し、仮想壁を通過しないように複数の経路候補を設定する。これにより、自車両と交差車両との衝突を確実に回避するように自車両を走行させるための複数の経路候補を設定することができる。また、コントローラは、仮想壁を通過する経路候補を設定しないため、その計算負荷を軽減することができる。すなわち、本発明によれば、自車両と交差車両との衝突を回避しつつ、計算負荷を軽減可能な経路候補を設定することができる。
【0009】
また、コントローラは、自車両から仮想壁の手前まで延びる経路候補を設定するよう構成されている。
この構成によれば、自車両を仮想壁の手前で停止させるための経路候補を含め、多様な経路候補を設定することができる。この結果、より確実に交差車両との衝突を回避可能な経路候補を設定することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、コントローラは、自車両が、交差車両が走行している交差車線を通過し終えるのに要する時間、又は、交差車両が走行している交差車線に合流し終えるのに要する時間に応じた長さを有する仮想壁を設定するよう構成されている。「合流」とは、交差車線に定められている進行方向に走行することをいう。
交差車線を通過し終えた自車両、又は、交差車線に合流し終えた自車両は、交差車両との衝突を回避することができる。つまり、「自車両が、交差車両が走行している交差車線を通過し終えるのに要する時間、又は、交差車両が走行している交差車線に合流し終えるのに要する時間」とは、自車両が交差車両との衝突を回避できる位置まで移動し終えるのに要する時間を意味する。
上記構成によれば、コントローラは、仮想壁の長さを、交差車両との衝突を回避できる位置まで自車両が移動し終えるのに要する時間に応じたものに設定することができる。このような長さを有する仮想壁を設定することにより、自車両と交差車両との衝突を確実に回避することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、コントローラは、自車両が、交差車両が走行している交差車線を通過し終えるのに要する時間、又は、交差車両が走行している交差車線に合流し終えるのに要する時間を、交差車両の速度に対して乗算することにより得られる距離に基づいて、仮想壁の長さを設定するよう構成されている。
この構成によれば、コントローラは、仮想壁の長さを、交差車両との衝突を回避できる位置まで自車両が移動し終えるのに要する時間と、交差車両の速度とに応じたものに設定することができる。このような長さを有する仮想壁を設定することにより、自車両と交差車両との衝突を確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両制御装置によれば、自車両が交差車線に進入するときに、自車両と交差車両との衝突を回避しつつ、計算負荷を軽減可能な経路候補を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る車両制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る経路候補の説明図である。
図3】実施形態に係る経路候補の説明図である。
図4】実施形態に係るコントローラが実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る車両制御装置について説明する。
【0015】
<車両制御装置の構成>
まず、図1を参照して、実施形態に係る車両制御装置100の構成について説明する。図1は、実施形態に係る車両制御装置100の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示すように、車両制御装置100は、主に、ECU(Electronic Control Unit)などのコントローラ10と、複数のセンサ及びスイッチと、複数の制御装置と、を有する。この車両制御装置100は、車両に搭載され、当該車両の走行を支援するように種々の制御を実行する。
【0017】
複数のセンサ及びスイッチには、カメラ21、レーダ22、車両の挙動を検出する複数の挙動センサ(車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25)及び複数の挙動スイッチ(操舵角センサ26、アクセルセンサ27、ブレーキセンサ28)、測位装置29、ナビゲーション装置30、通信装置31、操作装置32が含まれる。また、複数の制御装置には、エンジン制御装置51、ブレーキ制御装置52、ステアリング制御装置53、警報制御装置54が含まれる。
【0018】
コントローラ10は、プロセッサ11、プロセッサ11が実行する各種プログラムを記憶するメモリ12、入出力装置等を備えたコンピュータ装置により構成される。コントローラ10は、上述した複数のセンサ及びスイッチから受け取った信号に基づき、エンジン制御装置51、ブレーキ制御装置52、ステアリング制御装置53、警報制御装置54に対して、それぞれエンジン装置、ブレーキ装置、ステアリング装置、警報装置を適宜に作動させるための制御信号を出力可能に構成されている。特に、本実施形態では、後述するように、コントローラ10は、コントローラ10が搭載された自車両の複数の経路候補を設定し、経路候補に基づいて自車両の走行を支援する。
【0019】
カメラ21は、車両の周囲を撮影し、画像データを出力する。コントローラ10は、カメラ21から受信した画像データに基づいて、種々の対象物を特定する。例えば、コントローラ10は、先行車両、交差車両、駐車車両、二輪車、歩行者、走行路、区画線(中央線、車線境界線、白線、黄線)、車線の通行帯や通行区分、交通信号、交通標識、停止線、交差点、障害物などを特定する。
【0020】
レーダ22は、車両の周囲に存在する種々の対象物の位置及び速度を測定する。例えば、レーダ22は、先行車両、交差車両、駐車車両、歩行者、走行路上の落下物などの位置及び速度を測定する。レーダ22として、例えばミリ波レーダを用いることができる。このレーダ22は、車両の進行方向に電波を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両と対象物との間の距離(例えば車間距離)や、車両に対する対象物の相対速度を測定する。
なお、レーダ22としてミリ波レーダの代わりにレーザレーダを用いてもよいし、また、レーダ22の代わりに超音波センサなどを用いてもよい。更に、複数のセンサ類を組み合わせて用いて、対象物の位置及び速度を測定してもよい。
【0021】
車速センサ23は、車両の速度(車速)を検出し、加速度センサ24は、車両の加速度を検出し、ヨーレートセンサ25は、車両に発生するヨーレートを検出し、操舵角センサ26は、車両のステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出し、アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出し、ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。コントローラ10は、車速センサ23により検出された車両の速度とレーダ22により検出された対象物の相対速度とに基づいて、対象物の速度を算出することができる。
【0022】
測位装置29は、GPS受信機及び/又はジャイロセンサを含み、車両の位置(現在車両位置情報)を検出する。ナビゲーション装置30は、内部に地図情報を格納しており、コントローラ10に地図情報を提供することができる。コントローラ10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両の周囲(特に進行方向)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物などを特定する。地図情報は、コントローラ10内に格納されていてもよい。また、地図情報は、車線の通行帯や通行区分に関する情報を含んでいてもよい。
【0023】
通信装置31は、自車両周辺の他車両と車車間通信を行うと共に、自車両周辺に設置された路側通信装置と路車間通信を行う。通信装置31は、このような車車間通信及び路車間通信により、他車両からの通信データ、及び交通インフラからの交通データ(交通渋滞情報、制限速度情報、交通信号情報など)を取得し、これらのデータをコントローラ10に出力する。
【0024】
操作装置32は、車室内に設けられており、車両に関する種々の設定を行うためにドライバにより操作される入力装置である。操作装置32は、例えば、インストルメントパネル、ダッシュパネル、センターコンソールに設けられたスイッチ、ボタンや、表示装置に設けられたタッチパネルなどであり、ドライバの操作に対応する操作信号をコントローラ10に出力する。本実施形態では、操作装置32は、車両の走行を支援する制御のオン/オフの切り替えや、車両の走行を支援する制御内容の調整を行えるように構成されている。
【0025】
なお、カメラ21、レーダ22及び通信装置31の少なくとも1つは、本発明に係る「交差車両検出センサ」の一例である。
【0026】
エンジン制御装置51は、車両のエンジンを制御する。エンジン制御装置51は、エンジン出力(駆動力)を調整可能な構成部であり、例えば、点火プラグや、燃料噴射弁や、スロットルバルブや、吸排気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構などを含む。コントローラ10は、車両を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御装置51に対して、エンジン出力を変更するために制御信号を送信する。
【0027】
ブレーキ制御装置52は、車両のブレーキ装置を制御する。ブレーキ制御装置52は、ブレーキ装置による制動力を調整可能な構成部であり、例えば液圧ポンプやバルブユニットなどのブレーキアクチュエータを含む。コントローラ10は、車両を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御装置52に対して、制動力を発生させるために制御信号を送信する。
【0028】
ステアリング制御装置53は、車両のステアリング装置を制御する。ステアリング制御装置53は、車両の操舵角を調整可能な構成部であり、例えば電動パワーステアリングシステムの電動モータなどを含む。コントローラ10は、車両の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御装置53に対して、操舵方向を変更するために制御信号を送信する。
【0029】
警報制御装置54は、ドライバに対して所定の警報を発することが可能な警報装置を制御する。この警報装置は、車両に設けられた表示装置やスピーカなどである。例えば、コントローラ10は、自車両が対象物と衝突する可能性が高くなると、警報装置から警報が発せられるように、警報制御装置54に対して制御信号を送信する。この例では、コントローラ10は、対象物との衝突可能性が高いことを報知するための画像を表示装置に表示させたり、対象物との衝突可能性が高いことを報知するための音声をスピーカから出力させたりする。
【0030】
<コントローラによる自車両の走行の支援>
次に、コントローラ10による自車両の走行の支援について説明する。本実施形態では、コントローラ10は、自車両が交差車線(自車線を走行している自車両が交差点に進入するとき、当該交差点において自車線と交差している車線を意味する)に進入するときに、自車両と、交差車線を走行する交差車両との衝突を回避するように、複数の経路候補を設定する。図2及び図3は、日本の交通事情のように、交通法規により車両が左側車線を走行することが定められている環境を示している。
【0031】
まず、図2を参照して、自車両から比較的遠い位置を交差車両が走行しているケースにおける経路候補について説明する。図2は、実施形態に係る経路候補の説明図である。
【0032】
自車線90は、交差点7において交差道路93と交差している。交差道路93は、自車線90が接続されている第1交差車線91と、第1交差車線91よりも自車線90から離れた位置に設けられている第2交差車線92と、を有している。第1交差車線91と第2交差車線92とは、区画線L1により区画されている。第1交差車線91は、車両が図2の左方向に走行するために設けられており、第2交差車線92は、第1交差車線91の対向車線である。第1交差車線91及び第2交差車線92は、本発明に係る「交差車線」の一例である。
【0033】
自車両1は、自車線90を走行し、交差点7に進入する。自車両1は、交差点7において右折しながら第1交差車線91を通過し、第2交差車線92に合流しようとしている。一方、交差車両8は、速度V(絶対値)で第1交差車線91を走行し、交差点7に進入しようとしている。つまり、交差車両8は、自車両1の右方から自車両1に接近している。
【0034】
このような状況において、コントローラ10は、自車両1と交差車両8との衝突を回避し得る複数の経路候補(つまり、実際に自車両1を走行させる目標経路となり得る候補)を設定する。例えば、コントローラ10は、ステートラティス法を用いた経路探索により、自車両1の前端1aから、自車両1の進行方向に向かって枝分かれしながら延びる複数の経路候補を設定する。
【0035】
図2は、コントローラ10が設定した経路候補R1~R3を示している。経路候補R1~R3は、いずれも、自車両1の前端1aから第1交差車線91を介して第2交差車線92まで、予め規定された値(例えば、100m)だけ延びている。コントローラ10は、例えば、自車線90及び交差道路93上に、所定間隔(例えば、10cm)で複数の仮想のグリッド点(不図示)を設定するとともに、当該複数のグリッド点を繋ぐように延びる経路候補R1~R3を設定する。
【0036】
また、コントローラ10は、仮想壁Wを設定する。仮想壁Wは、自車両1と交差車両8との衝突を回避するために設定された仮想的な対象物である。仮想壁Wは、自車両1と交差車両8との間に設定され、第1交差車線91の端部91aに沿って交差車両8の進行方向に延びている。第1交差車線91の端部91aは、例えば、第1交差車線91に設けられた縁石や白線に基づいて定められる。コントローラ10は、第1交差車線91のうち自車線90が接続されている部分には、端部91aに沿う仮想の延長線L2を設定し、当該延長線L2に沿うように仮想壁Wを設定する。仮想壁Wは、自車両1側の前端Waと交差車両8側の後端Wbとによって規定される長さ(つまり前端Waから後端Wbまでの長さ)Xを有している。後端Wbは、交差車両8の後端8bに対応する位置に設定されている。
【0037】
コントローラ10は、自車両1が右折しながら第1交差車線91を通過し終えるのに要する時間に応じて、仮想壁Wの長さXを設定する。具体的には、コントローラ10は、まず、自車両1が第1交差車線91を通過し終えるのに要する時間(換言すれば、自車両1が第2交差車線92に合流し終えるのに要する時間)teを算出する。より詳しくは、コントローラ10は、まず、自車両1の後端1bが区画線L1に到達するのに要する大まかな時間を算出し、当該時間を、自車両1が第1交差車線91を通過し終えるのに要する時間teとする。
【0038】
コントローラ10は、「X=V×te」により表される式に基づいて、長さXを設定する。つまり、コントローラ10は、仮想壁Wの長さXを、自車両1が第1交差車線91を通過し終えるのに要する時間teと、交差車両8の速度Vとに応じたものに設定する。
【0039】
また、コントローラ10は、仮想壁Wを、交差車両8と第1交差車線91の端部91aとの間に設定する。詳細には、仮想壁Wは、交差車両8の側面部8cから第1交差車線91の端部91aまで至る幅Yを有している。
【0040】
コントローラ10は、このような形状を有する仮想壁Wを、交差車両8の進行に伴って移動させる(換言すると交差車両8と共に自車両1に向かって進行させる)。コントローラ10は、この仮想壁Wに基づいて複数の経路候補を設定する。
【0041】
具体的には、コントローラ10は、仮想壁Wを通過しないように複数の経路候補を設定する。図2に示されるように、交差車両8が自車両1から十分離れている場合、自車両1の前端1aから延びている経路候補R1~R3は、全て仮想壁Wと交差しない。これは、自車両1が経路候補R1~R3のいずれに沿って走行する場合も、自車両1が交差車両8と衝突する可能性が比較的低いことを意味する。これより、自車両1の前端1aから予め規定された値だけ延びる経路候補R1~R3が設定される。
【0042】
コントローラ10は、経路候補R1~R3の経路コストを計算する。詳細には、コントローラ10は、まず、経路候補R1~R3のそれぞれに沿って複数のサンプリング点を設定する(不図示)。複数のサンプリング点は、経路候補R1~R3上に、互いに間隔を空けて配置される。
【0043】
次に、コントローラ10は、各サンプリング点における経路コストを計算する。さらに、コントローラ10は、経路候補毎に、その経路候補に沿って設定されたサンプリング点における経路コストを合算するとともに、当該合算値をその経路候補の全長で除算する。コントローラ10は、当該除算により得られる値を、その経路候補の経路コストとする。
【0044】
コントローラ10は、経路候補R1~R3から、経路コストが最小である経路候補を選択し、目標経路として設定する。コントローラ10は、当該目標経路に沿って、第2交差車線92に合流する自車両1の走行を支援する。
【0045】
次に、図3を参照して、自車両から比較的近い位置を交差車両が走行しているケースにおける経路候補について説明する。図3は、実施形態に係る経路候補の説明図である。上述したケースと同一の構成や処理については、その説明を適宜省略する。
【0046】
仮想壁Wは、交差車両8と共に自車両1に接近する。図3に示される例では、仮想壁Wが自車線90の一部を覆う程度に、仮想壁Wが自車両1に接近している。
【0047】
コントローラ10は、図2と同様に、自車両1の前端1aから、自車両1の進行方向に向かって枝分かれしながら延びる複数の経路候補を設定する。コントローラ10が経路候補R1を設定しようとすると、経路候補R1は、仮想壁Wと交差することなく延びることができる。これは、自車両1が経路候補R1に沿って走行する場合、自車両1が交差車両8と衝突する可能性が比較的低いことを意味する。これより、コントローラ10は、予め規定された値だけ延びる経路候補R1を設定する。
【0048】
これに対し、コントローラ10が経路候補R2,R3を設定しようとすると、経路候補R2,R3は、いずれも仮想壁Wと交差する。これは、自車両1が経路候補R2,R3に沿って走行する場合、自車両1が交差車両8と衝突する可能性が比較的高いことを意味する。この場合、コントローラ10は、自車両1の前端1aから、仮想壁Wのやや手前の点P2,P3まで延びる経路候補R2s,R3sを設定する。経路候補R2s,R3sは、自車両1を点P2,P3まで走行させ、点P2,P3で停止させるために用いられる。経路候補R2s,R3sは、経路候補R2,R3の一部であり、図3は、経路候補R2,R3のうち実際には設定されない部分を破線で示している。したがって、コントローラ10が経路候補R2s,R3sを設定する際の計算負荷は、経路候補R2,R3を設定する際の計算負荷と比べて小さい。
【0049】
また、コントローラ10は、経路候補R1,R2s,R3sの経路コストを計算する。経路候補R2s,R3sの全長は経路候補R2,R3よりも短いため、経路候補R2s,R3sに沿って設定されるサンプリング点の数は、経路候補R2,R3に沿って設定されるサンプリング点の数よりも少ない。したがって、コントローラ10が経路候補R2s,R3sの経路コストを計算する際の負荷は、経路候補R2,R3の経路コストを計算する際の負荷と比べて小さい。
【0050】
コントローラ10は、経路候補R1,R2s,R3sから、経路コストが最小である経路候補を選択し、目標経路として設定する。コントローラ10は、自車両1が当該目標経路に沿って第2交差車線92に合流する際の走行や、点P2,P3で停止する際の走行を支援する。
【0051】
上述した経路候補の設定方法は、自車両1が交差点7において左折しようとしている場合にも適用できる。具体的には、自車両1が交差点7において左折しようとしている場合、自車両1が第1交差車線91に合流し終えるのに要する時間を算出し、当該時間を、上述した時間teとする。詳細には、コントローラ10は、左折している自車両1の後端1bが、延長線L2に到達するのに要する大まかな時間を算出し、当該時間を、自車両1が第1交差車線91に合流し終えるのに要する時間teとする。そして、コントローラ10は、「X=V×te」により表される式に基づいて仮想壁Wの長さXを設定し、仮想壁Wとの交差の有無に基づいて、複数の経路候補を設定する。
【0052】
次に、図4を参照して、コントローラ10が実行する処理について説明する。図4は、実施形態に係るコントローラ10が実行する処理を示すフローチャートである。コントローラ10は、所定の周期(例えば100ms毎)で、当該フローチャートに係る処理を繰り返し実行する。
【0053】
まず、ステップS11において、コントローラ10は、上述した複数のセンサ及びスイッチから各種情報を取得する。具体的には、コントローラ10は、カメラ21、レーダ22、車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25、操舵角センサ26、アクセルセンサ27、ブレーキセンサ28、測位装置29、ナビゲーション装置30、通信装置31、操作装置32から入力された信号に基づき、各種情報を取得する。
【0054】
次いで、ステップS12において、コントローラ10は、自車両1が交差点に進入しようとしているか否かを判定する。具体的には、コントローラ10は、カメラ21から入力された信号(画像データに対応する)や、ナビゲーション装置30から入力された信号(地図情報及び現在車両位置情報に対応する)や、通信装置31から入力された信号(路車間通信に対応する)に基づいて、自車両1の近傍且つ自車両1の進行方向に、交差点が存在するか否かを判定する。自車両1が交差点に進入しようとしていると判定した場合(ステップS12:Yes)、コントローラ10は、ステップS13に進む。これに対して、自車両1が交差点に進入しようとしていると判定されなかった場合(ステップS12:No)、コントローラ10は、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0055】
次いで、ステップS13において、コントローラ10は、交差車線を走行しながら自車両1に接近する交差車両8が存在するか否かを判定する。具体的には、コントローラ10は、カメラ21から入力された信号(画像データに対応する)や、レーダ22から入力された信号や、通信装置31から入力された信号(車車間通信に対応する信号)などに基づき、自車両1に接近する交差車両8を検出するための処理を実行する。その結果、自車両1に接近する交差車両8が検出された場合、コントローラ10は、交差車両8が存在すると判定し(ステップS13:Yes)、ステップS14に進む。これに対して、自車両1に接近する交差車両8が検出されなかった場合、コントローラ10は、交差車両8が存在しないと判定し(ステップS13:No)、本フローチャートに示す一連のルーチンを抜ける。
【0056】
次いで、ステップS14において、コントローラ10は、時間teを算出する。上述したように、自車両1が右折する場合、時間teは、自車両1が、交差車両8が走行している第1交差車線91を通過し終えるのに要する時間である。また、自車両1が左折する場合、時間teは、自車両1が、交差車両8が走行している第1交差車線91に合流し終えるのに要する時間である。
【0057】
次いで、ステップS15において、コントローラ10は、交差車両8の速度V、及び、時間teに基づき、仮想壁Wを設定する。具体的には、コントローラ10は、交差車両8の後端8bから、交差車両8の進行方向に長さXだけ延び、幅Yを有する仮想壁Wを設定する。
【0058】
ステップS16は、経路候補の設定(ステップS16a~S16d)と、経路コストの計算(ステップS16e)と、を含んでいる。
【0059】
ステップS16aにおいて、コントローラ10は、1つの経路候補の設定を開始する。具体的には、コントローラ10は、自車両1の前端1aから、1つの経路候補を、自車両1の進行方向に向かって徐々に延ばし始める。
【0060】
次いで、ステップS16bにおいて、コントローラ10は、延ばしている経路候補が仮想壁Wと交差しているか否かを判定する。経路候補が仮想壁Wと交差していると判定されなかった場合(ステップS16b:Yes)、コントローラ10は、ステップS16cに進む。
【0061】
次いで、ステップS16cにおいて、コントローラ10は、経路候補の長さが、予め規定された値に達したか否かを判定する。経路候補の長さが当該値に達したと判定した場合(ステップS16c:Yes)、コントローラ10は、経路候補を延ばすことを止め、ステップS16eに進む。一方、経路候補の長さが、予め規定された値に達したと判定されなかった場合(ステップS16c:No)、コントローラ10は、ステップS16bに戻り、経路候補をさらに延ばす。
【0062】
これに対して、ステップS16bにおいて、経路候補が仮想壁Wと交差していると判定された場合(ステップS16b:Yes)、コントローラ10は、ステップS16dに進む。
【0063】
次いで、ステップS16dにおいて、コントローラ10は、仮想壁Wの手前まで延びる経路候補を設定する。具体的には、コントローラ10は、仮想壁Wの手前の点(上述した点P2,P3に対応する)を終点とするように経路候補を設定する。
【0064】
次いで、ステップS16eにおいて、コントローラ10は、経路候補の経路コストを計算する。経路コストには、自車両1の速度、加速度、横加速度や、経路変化率、障害物等に関するコストが含まれる。これらのコストは適宜設定することができる。概略的には、経路コストは、移動コストと安全コストを含む。例えば、直線経路を走行する場合は、移動距離が短いため移動コストが小さくなるが、障害物等を回避する経路を走行する場合は、移動距離が長くなるため移動コストが大きくなる。また、横加速度が大きくなるほど移動コストは増大する。上述したように、コントローラ10は、複数のサンプリング点を用いて得られる値を、その経路候補の経路コストとしてメモリ12に格納する。
【0065】
コントローラ10は、このようなステップS16の処理を、所定数の経路候補が設定されるまで実行する。この結果、各経路候補の経路コストがメモリ12に格納される。
【0066】
次に、ステップS17で、コントローラ10は、目標経路を設定する。詳細には、コントローラ10は、メモリ12に格納されている各経路候補の経路コストに基づいて、経路コストが最小である経路候補を選択し、当該経路候補を目標経路に設定する。
【0067】
次に、ステップS18で、コントローラ10は、目標経路に沿って自車両1が走行するように、エンジン制御装置51、ブレーキ制御装置52、及びステアリング制御装置53に対して制御信号を送信する。当該制御信号は、目標経路の各サンプリング点に設定された自車両1の速度制御及び操舵制御の制御量に基づいて生成される。
【0068】
次に、実施形態に係る作用及び効果について説明する。
【0069】
この構成によれば、コントローラ10は仮想壁Wを設定する。仮想壁Wは、交差車両8の進行に伴って移動し、且つ交差車両8の進行方向に延びている。コントローラ10は、このような仮想壁Wを自車両1と交差車両8との間に設定し、仮想壁Wを通過しないように複数の経路候補を設定する。これにより、自車両1と交差車両8との衝突を確実に回避するように自車両1を走行させるための複数の経路候補を設定することができる。また、コントローラ10は、仮想壁Wを通過する経路候補を設定しないため、その計算負荷を軽減することができる。すなわち、本発明によれば、自車両1と交差車両8との衝突を回避しつつ、計算負荷を軽減可能な経路候補を設定することができる。
【0070】
また、コントローラ10は、自車両1から仮想壁Wの手前まで延びる経路候補を設定するよう構成されている。この構成によれば、自車両1を仮想壁Wの手前で停止させるための経路候補を含め、多様な経路候補を設定することができる。この結果、より確実に交差車両8との衝突を回避可能な経路候補を設定することができる。
【0071】
また、コントローラ10は、自車両1が第1交差車線91を通過し終えるのに要する時間te(自車両1が右折する場合)、又は、自車両1が第1交差車線91に合流し終えるのに要する時間te(自車両1が左折する場合)に応じた長さXを有する仮想壁Wを設定するよう構成されている。この構成によれば、コントローラ10は、仮想壁Wの長さXを、交差車両8との衝突を回避できる位置まで自車両1が移動し終えるのに要する時間に応じたものに設定することができる。このような長さを有する仮想壁Wを設定することにより、自車両1と交差車両8との衝突を確実に回避することができる。
【0072】
また、コントローラ10は、自車両1が第1交差車線91を通過し終えるのに要する時間te(自車両1が右折する場合)、又は、自車両1が第1交差車線91に合流し終えるのに要する時間te(自車両1が左折する場合)を、交差車両8の速度Vに対して乗算することにより得られる距離に基づいて、仮想壁Wの長さXを設定するよう構成されている。この構成によれば、コントローラ10は、仮想壁Wの長さXを、交差車両8との衝突を回避できる位置まで自車両1が移動し終えるのに要する時間と、交差車両8の速度Vとに応じたものに設定することができる。このような長さXを有する仮想壁Wを設定することにより、自車両1と交差車両8との衝突を確実に回避することができる。
【0073】
上述した実施形態に係るコントローラ10は、T字形状を呈する交差点7において自車両1の走行を支援している。しかしながら、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、本発明は、十字形状等を呈する交差点に進入する自車両に対しても、適用することができる。
【0074】
また、上述した実施形態に係るコントローラ10は、ステートラティス法を用いた経路探索により、複数の経路候補を設定している。しかしながら、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、本発明は、ポテンシャル法、スプライン補間関数、Aスター、RRT等、他の手法を用いて経路候補を設定する車両制御装置にも、適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 自車両
8 交差車両
10 コントローラ
21 カメラ(交差車両検出センサ)
22 レーダ(交差車両検出センサ)
31 通信装置(交差車両検出センサ)
90 自車線
91 第1交差車線(交差車線)
100 車両制御装置
R1~R3 経路候補
W 仮想壁
図1
図2
図3
図4