(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】吸音構造の調整方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/172 20060101AFI20221221BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20221221BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/16 130
E04B1/86 K
E04B1/86 Q
E04B1/86 G
E04B1/86 V
E04B1/86 T
(21)【出願番号】P 2019000593
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-12-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 2月27日発行の日本音響学会春季研究発表会講演論文集(一般社団法人日本音響学会)pp.901-902にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000010054
【氏名又は名称】岐阜プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 尚久
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆志
(72)【発明者】
【氏名】青木 達彦
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-011034(JP,A)
【文献】特開昭48-056101(JP,A)
【文献】特開2006-292946(JP,A)
【文献】特開2009-139556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/172
G10K 11/16
E04B 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に柱形状のセルが複数並設された中空板状の構造体を、壁体から所定の隙間を空けて配置する吸音構造の調整方法であって、
前記構造体は、前記セルを柱形状に区画する側壁部と、前記側壁部の両端部を閉塞する一対の閉塞壁とを有し、前記構造体の一方の主面を構成する第1閉塞壁には前記セルの内外を連通する複数の連通孔が形成され、
前記構造体は、前記構造体の他方の主面を構成する第2閉塞壁を音源に向けるとともに、前記第1閉塞壁を前記壁体に向けた状態で対向配置され、
前記吸音構造は、前記音源から音が発生した際に、前記構造体が板振動するとともに、前記構造体の前記セルがヘルムホルツ共鳴器として機能して、500Hz以下の周波数領域で吸音率が0.5以上となる吸音周波数が存在するものであり、
前記板振動による吸音周波数の第1近似値と、前記ヘルムホルツ共鳴器による吸音周波数の第2近似値とを算出し、前記第1近似値と前記第2近似値との比率が1/4以上4以下となるように、前記隙間の距離、前記連通孔の開口率、及び前記セルの内部空間の高さを調整する吸音構造の調整方法。
【請求項2】
前記連通孔の開口率が0.1~5.7%、前記セルの内部空間の高さが3~50mmとなるように、前記隙間を調整する請求項1に記載の吸音構造の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音構造の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部に多角柱形状又は円柱形状をなす複数のセルが並設された中空板状の構造体を、騒音等を吸音するための吸音構造体として使用することが知られている。例えば、特許文献1に記載の吸音構造体は、所定形状の熱可塑性樹脂からなるシート材を折り畳むことにより、複数の六角柱形状のセルを区画する側壁部と、側壁部の上部及び下部を閉塞する閉塞壁を備えた中空板材で形成されている。中空板材の閉塞壁には、セルの内外を連通させる複数の連通孔が形成されている。そのため、連通孔が形成された側を音源に向けて吸音構造体を設置すると、連通孔が形成された各セルがいわゆるヘルムホルツ共鳴器として機能し、連通孔を介して各セルの内部空間に入った音波が減衰されることによって吸音することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうした吸音構造では低周波数領域での吸音率が十分とは言えず、低周波数領域での吸音率を向上させるためには、セルの容積を大きくすることが必要であった。そして、セルの容積を大きくするためには、セルの内部空間の高さを高くしたり、セルの幅を大きくしたりすることが考えられる。しかし、セルの内部空間の高さを高くすると、吸音構造体の厚みが大きくなるために吸音構造体が取扱い難くなってしまう。また、例えば、閉塞壁に形成された連通孔の数や大きさを変化させずにセルの内部空間の幅を大きくすると、連通孔の開口率が低くなり、ヘルムホルツ共鳴器としての十分な吸音性能を実現することができなくなってしまう。
【0005】
本発明は、従来のこうした問題を解決するためになされたものであり、その目的は、中空板材を吸音構造体として用いた板振動型の吸音構造において、低周波数領域での吸音効果を向上させることが可能な吸音構造の調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、内部に柱形状のセルが複数並設された中空板状の構造体を、壁体から所定の隙間を空けて配置する吸音構造の調整方法であって、前記構造体は、前記セルを柱形状に区画する側壁部と、前記側壁部の両端部を閉塞する一対の閉塞壁とを有し、前記構造体の一方の主面を構成する第1閉塞壁には前記セルの内外を連通する複数の連通孔が形成され、前記構造体は、前記構造体の他方の主面を構成する第2閉塞壁を音源に向けるとともに、前記第1閉塞壁を前記壁体に向けた状態で対向配置され、前記吸音構造は、前記音源から音が発生した際に、前記構造体が板振動するとともに、前記構造体の前記セルがヘルムホルツ共鳴器として機能して、500Hz以下の周波数領域で吸音率が0.5以上となる吸音周波数が存在するものであり、前記板振動による吸音周波数の第1近似値と、前記ヘルムホルツ共鳴器による吸音周波数の第2近似値とを算出し、前記第1近似値と前記第2近似値との比率が1/4以上4以下となるように、前記隙間の距離、前記連通孔の開口率、及び前記セルの内部空間の高さを調整する。
【0007】
上記の発明では、中空板状の構造体は、壁体と所定の隙間を介して対向配置されている。そのため、音源から発生された音波が構造体に到達して構造体を板振動させることにより、音のエネルギーが熱エネルギー等に変換されて減衰される。構造体が板振動することによる吸音周波数は所定の第1近似値として得られる。
【0008】
また、中空板状の構造体の一方の主面を構成する第1閉塞壁には複数の連通孔が形成されて、構造体に並設されたセルの内外が連通されている。そのため、連通孔内の空気塊を質量とし、セル内の空気層をばねとするヘルムホルツ共鳴器が構成される。つまり、音源から発せられた音波がセルの連通孔に到達すると、連通孔を介してセルの内部空間に音波が入り、セルの内部空間において音圧が効果的に減衰される。構造体のセルがヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数は所定の第2近似値として得られる。
【0009】
さらに、構造体は、連通孔が形成された第1閉塞壁を壁体に向けた状態で壁体と対向配置されている。そのため、構造体の板振動によって構造体と壁体との間の隙間に存在する空気層が振動する。この空気層の振動により、隙間側に開孔する連通孔を介してセルの内部空間に音波が入り、音源から発生された音波が効果的に減衰される。板振動とヘルムホルツ共鳴器との連成によって音波の減衰効果が増幅される。
【0010】
板振動とヘルムホルツ共鳴器との連成による音波の減衰効果の増幅は、構造体が板振動することによる吸音周波数の第1近似値と、構造体のセルがヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の第2近似値との比率が1/4以上4以下であるときに、より効果的である。これらの吸音周波数の近似値の比率が1/4以上4以下であると、第1近似値および第2近似値より低い周波数での吸音効果がより増幅されて吸音率が向上する。
【0011】
このように、構造体の板振動とヘルムホルツ共鳴器としての機能とを組み合わせることにより、低周波数領域での吸音率を向上させることができる。
また、構造体が板振動することによる吸音周波数の第1近似値は、構造体の音源側の第2閉塞壁と壁体との間に形成された隙間の距離、構造体の面密度、セルの内部空間の高さを変数とする演算式から算出することができる。また、ヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の第2近似値は、連通孔の開口率、連通孔内の空気塊の質量、セルの内部空間の高さを変数とする演算式から算出することができる。そして、第1近似値と第2近似値との比率が1/4以上4以下となるように、上記2つの演算式の変数を調整することにより、低い周波数領域での吸音効果を向上させることが可能な吸音構造を適宜調整することができる。したがって、構造体と壁体との間に形成された隙間の距離、セルの内部空間の高さ、及び連通孔の開口率を適宜調整することにより、所望の吸音構造を得ることができる。中空板材を製造して連通孔を貫設したり、構造体を所定の隙間を設けて壁体に対向配置したりして、その都度、吸音周波数を実測することなく、所望の周波数領域での吸音効果が高い吸音構造を容易に設計したり調整したりすることができる。
【0012】
なお、ここで言う壁体とは、建物内で複数の部屋に区画する壁だけでなく、一つに室内に配置されて室内を複数の空間に区画する仕切り板等を含むものである。
上記の発明において、前記連通孔の開口率が0.1~5.7%、前記セルの内部空間の高さが3~50mmとなるように、前記隙間を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空板材を吸音構造体として用いた板振動型の吸音構造において、低周波数領域での吸音効果を向上させることが可能な吸音構造の調整方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】(a)は樹脂構造体の斜視図、(b)は(a)におけるβ‐β線断面図、(c)は(a)におけるγ‐γ線断面図。
【
図5】(a)は中空板状のコア層を構成するシート材の斜視図、(b)は同シート材の折り畳み途中の状態を示す斜視図、(c)は同シート材を折り畳んだ状態を示す斜視図。(d)は樹脂構造体の連通孔の形成態様を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した吸音構造について、
図1~
図5に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の吸音構造は、建物等を構成する壁50と、壁50に対向配置された樹脂構造体10とによって構成されている。樹脂構造体10は、正方形状の中空板材として形成されており、一方の主面10aが固定部材51を介して壁50に固定されている。樹脂構造体10は、内部に柱形状のセルSが複数並設された中空板状に形成されている。すなわち、樹脂構造体10は、請求項で規定する、内部に柱形状のセルSが複数並設された中空板状の構造体に相当する。また、壁50は、請求項で規定する壁体に相当する。
【0016】
樹脂構造体10を構成する合成樹脂としては、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)等を採用することができる。
【0017】
図1及び
図3に示すように、各樹脂構造体10は、第1主面10aまたは第2主面10bを構成する一対の閉塞壁11を有している。以下では、
図1に示す樹脂構造体10において壁50に対向する側の面を第1主面10a、壁50と反対側の面を第2主面10bと言うものとする。また、一対の閉塞壁11のうち、樹脂構造体10の第1主面10aを構成する閉塞壁を第1閉塞壁11a、第2主面10bを構成する閉塞壁を第2閉塞壁11bと言うものとする。
【0018】
図1に示すように、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aには、セルSの内外を連通させる複数の連通孔15が形成されている。
図1及び
図3に示すように、樹脂構造体10は、連通孔15が形成されている第1閉塞壁11a側を壁50に向けた状態で、固定部材51を介して壁50に固定されている。固定部材51の一方の端縁は、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aに固定され、他方の端縁は、壁50に固定されている。また、
図2に示すように、固定部材51は、正方形状の樹脂構造体10の側縁に沿う正方形枠状に形成されている。これにより、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aと壁50との間には、固定部材51の高さ分だけ隙間が形成されており、正方形枠状の固定部材51によって隙間の外縁が塞がれた状態となっている。
【0019】
図3に示すように、固定部材51の高さ、すなわち、樹脂構造体10と壁50との間の隙間D1は、0mmより大きく100mm以下に設定されていることが好ましく、0mmより大きく40mm以下に設定されていることがより好ましく、0mmより大きく20mm以下に設定されていることがさらに好ましい。樹脂構造体10と壁50との間の隙間D1がこの範囲であると、低周波数領域での高い吸音率が得られる。
【0020】
固定部材51と壁50との固定方法は特に限定されない。例えば、ビス止め、鋲止め、接着剤等適宜の方法で固定することができる。また、固定部材51と樹脂構造体10との固定方法も特に限定されない。例えば、固定部材51に設けられた係合部と樹脂構造体10に設けられた被係合部との係合によって固定することができる。
【0021】
次に、本実施形態の吸音構造を構成する樹脂構造体10について説明する。
図4(a)に示すように、樹脂構造体10は、内部に複数のセルSが並設されたコア層20と、その上下両面に接合されたシート状のスキン層30、40とで構成されている。
図4(b)及び(c)に示すように、コア層20は、所定形状に成形された1枚の熱可塑性樹脂製のシート材を折り畳んで形成されている。コア層20は、上壁部21と、下壁部22と、上壁部21及び下壁部22の間に立設されてセルSを六角柱形状に区画する側壁部23とで構成されている。なお、
図4及び
図5についての説明では、
図4及び
図5に示される樹脂構造体10の上下方向で上下を言うものとする。
【0022】
図4(b)及び(c)に示すように、コア層20の内部に区画形成されるセルSには、構成の異なる第1セルS1及び第2セルS2が存在する。
図4(b)に示すように、第1セルS1においては、側壁部23の上部に2層構造の上壁部21が設けられている。この2層構造の上壁部21の各層は互いに接合されている。また、第1セルS1においては、側壁部23の下部に1層構造の下壁部22が設けられている。一方、
図4(c)に示すように、第2セルS2においては、側壁部23の上部に1層構造の上壁部21が設けられている。また、第2セルS2においては、側壁部23の下部に2層構造の下壁部22が設けられている。この2層構造の下壁部22の各層は互いに接合されている。また、
図4(b)及び(c)に示すように、隣接する第1セルS1同士の間、及び隣接する第2セルS2同士の間は、それぞれ2層構造の側壁部23によって区画されている。
【0023】
図4(a)に示すように、第1セルS1はX方向に沿って列を成すように並設されていて、上面視した場合に、隣り合う2つの第1セルS1が六角形の1辺を共有している。同様に、第2セルS2はX方向に沿って列を成すように並設されていて、上面視した場合に、隣り合う2つの第2セルS2が六角形の1辺を共有している。第1セルS1の列及び第2セルS2の列は、X方向に直交するY方向において交互に配列されている。そして、これら第1セルS1及び第2セルS2により、コア層20は、全体としてハニカム構造をなしている。
【0024】
図4(a)~(c)に示すように、上記のように構成されたコア層20の上面には熱可塑性樹脂製のシート材であるスキン層30が接合されている。また、コア層20の下面には、熱可塑性樹脂製のシート材であるスキン層40が接合されている。この実施形態では、コア層20における側壁部23の上部が、コア層20の上壁部21及びスキン層30で閉塞されている。これら上壁部21及びスキン層30が樹脂構造体10の第1主面10aの第1閉塞壁11aを形成している。換言すれば、側壁部23の上部は第1閉塞壁11aによって閉塞されている。同様に、コア層20における側壁部23の下部が、コア層20の下壁部22及びスキン層40で閉塞されている。これら下壁部22及びスキン層40が樹脂構造体10の第2主面10bの第2閉塞壁11bを形成している。換言すれば、側壁部23の下部は第2閉塞壁11bによって閉塞されている。このように、第1閉塞壁11a及び第2閉塞壁11bによって、樹脂構造体10の一対の閉塞壁11が構成されている。なお、
図4(b)及び(c)では、図示されている3つのセルSのうち、最も左側のセルSに代表して符号を付しているが、他のセルSについても同様である。
【0025】
セルSの内部空間の高さは、3~50mmであることが好ましく、10~50mmであることがより好ましく、15~50mmであることがさらに好ましい。セルSの内部空間の高さがこの範囲であると、低周波数領域での高い吸音率が得られる。
【0026】
図4(a)~(c)に示すように、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aには、セルSの内外を連通させる連通孔15が形成されている。具体的には、
図4(b)に示すように、第1セルS1において連通孔15は、上面側のスキン層30及び2層構造の上壁部21を貫通するように設けられている。また、
図4(c)に示すように、第2セルS2において連通孔15は、上面側のスキン層30及び1層構造の上壁部21を貫通するように設けられている。
【0027】
図4(a)に示すように、連通孔15は、上面視円形状に形成されており、各セルSの上部中央部分に1箇所ずつ貫設されている。
図4(b)及び(c)に示すように、連通孔15は、第1閉塞壁11a(スキン層30及び上壁部21)が切り欠かれることによってセルS内方に曲げられて形成されており、連通孔15が形成されていない部分における第1閉塞壁11aの上面に対して窪むような形状をなしている。連通孔15が形成された部分では、第1閉塞壁11aの先端縁は、セルSの内部空間に位置しており、連通孔15は、第1閉塞壁11aに形成された上面視円形状の開孔部からセルSの内部空間に延びる略円筒形状に形成されている。
【0028】
図4(b)及び(c)に示すように、上面視円形状に形成された本実施形態の連通孔15では、開孔径D2が、セルSを上面視した場合の六角形の一辺の長さ以下に設定されている。具体的には、連通孔15の開孔径D2は、隣り合うセルSの中心同士の間隔P1の数分の1に設定されている。連通孔15の開孔径D2は、0.3~2.0mmであることが好ましく、0.4~1.5mmであることがより好ましく、0.5~1.2mmであることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態の樹脂構造体10では、各セルSの上部中央部分に1箇所ずつ上面視円形状の上記連通孔15が形成されていることにより、連通孔15の開口率が、0.1~5.7%であることが好ましく、0.2~3.2%であることがより好ましく、0.3~2.0%であることがさらに好ましい。連通孔15の開口率がこの範囲であると、低周波数領域での高い吸音率が得られる。
【0030】
次に、樹脂構造体10の製造方法について
図5に従って説明する。
図5(a)に示すように、第1シート材100は、1枚の熱可塑性樹脂製のシートを所定の形状に成形することにより形成される。第1シート材100には、帯状をなす平面領域110及び膨出領域120が、第1シート材100の長手方向(X方向)に交互に配置されている。膨出領域120には、上面と一対の側面とからなる断面下向溝状をなす第1膨出部121が膨出領域120の延びる方向(Y方向)の全体にわたって形成されている。なお、第1膨出部121の上面と側面とのなす角は90度であることが好ましく、その結果として、第1膨出部121の断面形状は下向コ字状となる。また、第1膨出部121の幅(上面の短手方向の長さ)は平面領域110の幅と等しく、かつ第1膨出部121の膨出高さ(側面の短手方向の長さ)の2倍の長さとなるように設定されている。
【0031】
また、膨出領域120には、その断面形状が正六角形を最も長い対角線で二分して得られる台形状をなす複数の第2膨出部122が、第1膨出部121に直交するように形成されている。第2膨出部122の膨出高さは第1膨出部121の膨出高さと等しくなるように設定されている。また、隣り合う第2膨出部122間の間隔は、第2膨出部122の上面の幅と等しくなっている。
【0032】
なお、こうした第1膨出部121及び第2膨出部122は、シートの塑性を利用してシートを部分的に上方に膨出させることにより形成されている。また、第1シート材100は、真空成形法や圧縮成形法等の周知の成形方法によって1枚のシートから成形することができる。
【0033】
図5(a)及び(b)に示すように、上述のように構成された第1シート材100を、境界線P、Qに沿って折り畳むことでコア層20が形成される。具体的には、第1シート材100を、平面領域110と膨出領域120との境界線Pにて谷折りするとともに、第1膨出部121の上面と側面との境界線Qにて山折りしてX方向に圧縮する。そして、
図5(b)及び(c)に示すように、第1膨出部121の上面と側面とが折り重なるとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110とが折り重なることによって、一つの膨出領域120に対して一つのY方向に延びる角柱状の区画体130が形成される。こうした区画体130がX方向に連続して形成されていくことにより中空板状のコア層20が形成される。なお、この実施形態では、第1シート材100を折り畳むために圧縮する方向が、セルSが並設される方向(X方向)である。
【0034】
上記のように第1シート材100を圧縮するとき、第1膨出部121の上面と側面とによってコア層20の上壁部21が形成されるとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110とによってコア層20の下壁部22が形成される。なお、
図5(c)に示すように、上壁部21における第1膨出部121の上面と側面とが折り重なって2層構造を形成する部分、及び下壁部22における第2膨出部122の端面と平面領域110とが折り重なって2層構造を形成する部分がそれぞれ重ね合わせ部131となる。
【0035】
また、第2膨出部122が折り畳まれて区画形成される六角柱形状の領域が第2セルS2となるとともに、隣り合う一対の区画体130間に区画形成される六角柱形状の領域が第1セルS1となる。本実施形態では、第2膨出部122の上面及び側面が第2セルS2の側壁部23を構成するとともに、第2膨出部122の側面と、膨出領域120における第2膨出部122間に位置する平面部分とが第1セルS1の側壁部23を構成する。そして、第2膨出部122の上面同士の当接部位、及び膨出領域120における上記平面部分同士の当接部位が2層構造をなす側壁部23となる。また、第1セルS1では、一対の重ね合わせ部131によってその上部が区画され、第2セルS2では、一対の重ね合わせ部131によってその下部が区画されている。なお、こうした折り畳み工程を実施するに際して、第1シート材100を加熱処理して軟化させた状態としておくことが好ましい。
【0036】
このようにして得られたコア層20の上面及び下面には、それぞれ熱可塑性樹脂製の第2シート材が熱溶着により接合される。コア層20の上面に接合された第2シート材はスキン層30となり、コア層20の上壁部21と共に側壁部23の上部を閉塞する第1閉塞壁11aを構成する。コア層20の下面に接合された第2シート材は、スキン層40となり、コア層20の下壁部22と共に側壁部23の下部を閉塞する第2閉塞壁11bを構成する。
【0037】
なお、第2シート材(スキン層30、40)をコア層20に熱溶着する際には、第1セルS1における2層構造の上壁部21(重ね合せ部131)が互いに熱溶着される。同様に、第2セルS2における2層構造の下壁部22(重ね合せ部131)が互いに熱溶着される。
【0038】
上記工程により、X方向に第1セルS1又は第2セルS2がそれぞれ列を成すように多数並設され、Y方向に第1セルS1及び第2セルS2が交互に多数並設された樹脂構造体10が得られる。
【0039】
続いて、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aに多数の連通孔15を形成する。連通孔15は、ドリル、針、パンチ等の貫通部材60で樹脂構造体10の第1閉塞壁11aを貫通させることにより形成される。
図5(d)に示すように、貫通部材60は、隣り合うセルSの中心同士の間隔P1と略同一の間隔で複数配列された構成となっている。各貫通部材60は、断面円形状の先鋭状に形成されている。複数の貫通部材60の下方側に樹脂構造体10を配置して固定し、貫通部材60を下降移動させると、貫通部材60が第1閉塞壁11aを貫通し、第1閉塞壁11aが切り欠かれてセルS内方に曲げられる。このようにして、第1閉塞壁11aには、各セルSの略中央部分に、円形状の開孔部を有する略円筒形状の連通孔15が各1箇所ずつ形成される。以上の工程を経て、複数の連通孔15が形成された樹脂構造体10が製造される。
【0040】
次に、樹脂構造体10を壁50に取り付ける工程について説明する。
壁50には、あらかじめ固定部材51が取り付けられている。例えば、固定部材51には、樹脂構造体10に係合する係合部(図示略)が設けられており、樹脂構造体10には、係合部と係合する被係合部(図示略)が設けられている。樹脂構造体10に設けられた被係合部を、固定部材51に設けられた係合部に位置合わせして係合させることにより、壁50に固定部材51を介して樹脂構造体10を取り付けることができる。
【0041】
以上の工程を経て、
図1に示すような吸音構造が得られる。本実施形態の吸音構造は、セルSが複数並設され、第1閉塞壁11aに開孔径D2の連通孔15が複数形成された中空板状の樹脂構造体10が隙間D1を介して壁50と対向配置されてなる。
【0042】
次に、上記実施形態の吸音構造について、低周波数領域での吸音率を向上させるための調整方法を、
図6、
図7に従って、吸音構造の作用とともに説明する。
吸音構造は、樹脂構造体10と、樹脂構造体10に対向して配置された壁体としての壁50と、樹脂構造体10と壁50との間に形成された隙間D1とによって構成されている。樹脂構造体10は、内部に柱形状のセルSが複数並設された中空板状に形成されており、セルSを閉塞する第1閉塞壁11aには、セルSの内外を連通する連通孔15が貫設されている。また、樹脂構造体10において連通孔15が形成されている第1閉塞壁11aが壁50側に配置されており、壁50と第1閉塞壁11aとの間に隙間D1が形成されている。
【0043】
図6に示すように、本実施形態の吸音構造を構成する壁体は、室内の壁50以外にも、天井等によって構成されていてもよい。室内にはスピーカー等の音源200が配置され、樹脂構造体10における連通孔15が形成された第1閉塞壁11aが壁50や天井側を向いて配置されている。すなわち、連通孔15が形成された第1閉塞壁11aが音源200と反対側を向いているとともに、第1閉塞壁11aは、隙間D1を介して壁50や天井と対向している。なお、
図6では、樹脂構造体10に形成された連通孔15の図示を略している。
【0044】
図7に示すように、音源200から伝達された空気の振動(圧力変動)は、樹脂構造体10に伝達される。樹脂構造体10は固定部材51を介して壁50に固定されており、樹脂構造体10と壁50との間には隙間D1が形成されている。そのため、音源200から伝達された空気の振動は、樹脂構造体10を振動させる。樹脂構造体10の板振動によって、音源200からの音のエネルギーが熱エネルギー等に変換されて減衰する。
【0045】
また、音源200から伝達された空気の振動(圧力変動)は、壁50と樹脂構造体10との間の隙間D1に存在する空気層に伝達され、隙間D1に存在する空気層を介して連通孔15内の空気層に伝達される。連通孔15の開孔径D2は、隣り合うセルSの中心同士の間隔P1の数分の1に設定されている。そのため、樹脂構造体10では、連通孔15内の空気塊を質量とし、セルS内の空気層をばねとするヘルムホルツ共鳴器が構成される。このヘルムホルツ共鳴器により、質量(連通孔15内の空気塊)の共鳴周波数と同一の周波数の音波が連通孔15を通じてセルS内に入射した場合には、セルS内の空気が共鳴して音のエネルギーが減衰する。
【0046】
さらに、樹脂構造体10の板振動によって、樹脂構造体10と壁50との間の隙間D1に存在する空気層も振動する。そして、樹脂構造体10の板振動によって隙間D1の空気層が振動し、その振動が連通孔15内の空気塊に伝達される。板振動とヘルムホルツ共鳴器との相乗効果によって、音源から発生した音波が吸収されて減衰する。樹脂構造体10の板振動とヘルムホルツ共鳴器との相乗的な効果によって音波の減衰効果が増幅され、低周波数領域での吸音率が向上する。
【0047】
樹脂構造体10の板振動による吸音周波数の近似値f
s(Hz)(以下、第1近似値という。)、セルSがヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の近似値f
H(Hz)(以下、第2近似値という。)は、樹脂構造体10の第2閉塞壁11bが壁50と対向配置された状態で算出する。つまり、
図7に示す樹脂構造体10の配置態様とは表裏が逆であり、連通孔15が壁50とは反対側に向けて開孔した状態で算出する。
【0048】
樹脂構造体10の板振動による吸音周波数の第1近似値fs(Hz)は、以下に示す式(1)で算出することができる。
【0049】
【数1】
ここで、c
0は、音源200から発せられた音の音速(m/s)、ρ
0は、空気密度(kg/m
3)、m
sは、樹脂構造体10の面密度(kg/m
2)、L
sは、樹脂構造体10のセルSの内部空間の高さ(m)、L
cは、樹脂構造体10(ここでは第2閉塞壁11b)と壁50との隙間D1の距離(m)である。なお、音速c
0(m/s)は、室温t(℃)のとき、以下に示す式(2)で表される。
【0050】
【数2】
また、セルSがヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の近似値f
H(Hz)(以下、第2近似値という。)は、以下に示す式(3)~(5)で算出することができる。
【0051】
【数3】
ここで、c
0は、音源200から発せられた音の音速(m/s)、ρ
0は、空気密度(kg/m
3)、φ
hは、連通孔15の開口率、m
nは、連通孔15内の空気塊の質量(kg)、L
sは、樹脂構造体10のセルSの内部空間の高さ(m)である。また、連通孔の開口率φ
hは、連通孔15の開口断面積をS
n(m
2)、セルSの内部空間の断面積をS
h(m
2)としたときに、S
n/S
hで表される。
【0052】
また、連通孔15内の空気塊の質量mn(kg)は、式(4)、(5)に示されるように、連通孔15の頸部の長さの抵抗補正がされる。なお、式(4)、(5)中、Snは、セルSの内部空間の断面積(m2)、rは、連通孔15の開孔半径(m)、φtは、連通孔15の開口率であり、ここでの連通孔15の開口率φtは、連通孔15の開口断面積をSn(m2)、セルSの外形の断面積をSt(m2)としたときに、Sn/Stで表される。
【0053】
図7では、連通孔15の開口断面積S
n(m
2)、セルSの内部空間の断面積S
h(m
2)、セルSの外形の断面積S
t(m
2)について、セルSの高さ方向に矢印を示しているが、これらはすべて矢印で示す範囲の断面積を示すものとする。
【0054】
このように、理論解析上、樹脂構造体10が板振動することによる吸音周波数の第1近似値fs(Hz)と、セルSがヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の第2近似値fH(Hz)との、2つの吸音周波数の近似値が得られる。
【0055】
第1近似値fs(Hz)と第2近似値fH(Hz)とが所定範囲以内であると、樹脂構造体10の板振動とヘルムホルツ共鳴器とによる音波の減衰効果に対する増幅作用がより大きくなる。具体的には、第1近似値fs(Hz)と第2近似値fH(Hz)との比率が1/4以上4以下であるときに、特に500Hz以下の低周波数領域で吸音率が向上する。
【0056】
このように、本実施形態の吸音構造では、樹脂構造体10の板振動、樹脂構造体10に形成されたセルSと連通孔15により構成されるヘルムホルツ共鳴器、及び樹脂構造体10と壁50との間の隙間D1における空気の振動とヘルムホルツ共鳴器との相乗的な作用により、音源200からの音が効果的に吸収されることになる。低周波数領域での優れた吸音性が発揮される。
【0057】
樹脂構造体10が板振動することによる吸音周波数の第1近似値fs(Hz)は、上記式(1)に示されるように、樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)、樹脂構造体10のセルSの内部空間の高さLs(m)、樹脂構造体10の面密度ms(kg/m2)、により変動する。そのため、これらの変数を適宜調整することで、所望の第1近似値fsを算出することができる。逆に、所望の第1近似値fsを設定することで、ある変数を固定し、残りの変数を適宜調整すればよい。このとき、実際の吸音構造では、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aが壁50に対向配置されるため、隙間D1の距離は、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aと壁50との間の距離として調整することができる。
【0058】
また、樹脂構造体10がヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の第2近似値fH(Hz)は、上記式(3)~(5)に示されるように、樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)、セルSの内部空間の高さLs(m)、連通孔15の開口率φhにより変動する。ここでの開口率φhは、連通孔15の開口断面積をSn(m2)、セルSの内部空間の断面積をSh(m2)としたときに、Sn/Shで表される。そのため、これらの変数を適宜調整することで、所望の第2近似値fHを算出することができる。逆に、所望の第2近似値fHを設定することで、ある変数を固定し、残りの変数を適宜調整すればよい。このとき、実際の吸音構造では、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aが壁50に対向配置されるため、隙間D1の距離は、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aと壁50との間の距離として調整することができる。
【0059】
樹脂構造体10を製造して、セルSの内部空間の高さLs(m)、及び樹脂構造体10の面密度ms(kg/m2)が決まると、樹脂構造体10が板振動することによる吸音周波数の第1近似値fsは、隙間D1の距離Lc(m)により変動する。また、樹脂構造体10がヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の第2近似値fHは、セルSの内部空間の高さLs(m)、連通孔15の開口率φh、連通孔15内の空気塊の質量mn(kg)により変動する。したがって、セルSの内部空間の高さLs(m)、連通孔15の開口率φh、連通孔15内の空気塊の質量mn(kg)のいずれかを固定して、他の変数を変動させることにより、第1近似値fs、第2近似値fHを調整することができる。このとき、セルSの内部空間の高さLs(m)、連通孔15の開口率φh、及び連通孔15内の空気塊の質量mn(kg)が連動関係にあるとすると、隙間D1の距離Lc(m)、連通孔15の開口率φhの調整により、所望の第1近似値fs、第2近似値fHに近づけることができる。
【0060】
さらに、樹脂構造体10を製造する際、セルSの内部空間の高さLs(m)、セルSの内部空間の断面積Sh(m2)、セルSの外形の断面積St(m2)、第1閉塞壁11aの厚みlb(m)を変動させる場合、これらの値を上記式(1)、(3)~(5)に代入して、樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)や連通孔15の開口断面積Sn(m)を変動させることもできる。樹脂構造体10の形状、大きさを設計しつつ、吸音周波数の近似値が低周波数領域となるような吸音構造を調整することができる。
【0061】
こうした吸音構造で低周波数領域での吸音率を向上させるためには、第1近似値fsと第2近似値fHとの比率が1/4以上4以下となるように各変数を調整する。第1近似値fsと第2近似値fHとの比率が1/4以上4以下であると、セルSがヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音効果が、樹脂構造体10の板振動による吸音効果によって増幅される。
【0062】
また、第1近似値fs及び第2近似値fHを算出する際の各変数の範囲が所定範囲となるように調整することで、低周波数領域での吸音率が向上する。具体的には、樹脂構造体10のセルSの内部空間の高さが3~50mmであり、樹脂構造体10の連通孔15の開口率が0.1~5.7%であることが好ましい。また、壁50と樹脂構造体10との間の隙間D1が0mmより大きく100mm以下であることが好ましい。こうした数値範囲を充足するように、上記式(1)、(3)~(5)を用いて吸音構造を調整すると、樹脂構造体10や壁50の板振動、ヘルムホルツ共鳴器、及び板振動とヘルムホルツ共鳴器の相乗効果による高い吸音性能が得られ、500Hz以下の低周波数領域での吸音率が向上する。特に、低周波数領域の中でも250Hz近傍の狭帯域周波数での吸音性能を発揮することができ、こうした狭帯域周波数で吸音率のピークが得られる。
【0063】
中でも、樹脂構造体10のセルSの内部空間の高さが10~50mmであり、樹脂構造体10の連通孔15の開口率が0.2~3.2%であり、壁50と樹脂構造体10との間の隙間D1が0mmより大きく40mm以下の数値範囲で吸音構造を調整すると、250Hz近傍や125Hz近傍での吸音性能をより向上させることができ、250Hzにおける吸音率が0.5以上になる。
【0064】
次に、本実施形態の吸音構造、及び吸音構造の調整方法の効果について説明する。
(1)上記実施形態の吸音構造の調整方法では、樹脂構造体10のセルSの内部空間の高さLs(m)、樹脂構造体10の面密度ms(kg/m2)、樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)を変数とする式(1)により、樹脂構造体10が板振動することによる吸音周波数の第1近似値fsを算出する。また、セルSの内部空間の高さLs(m)、連通孔15の開口率φh(m2)、連通孔15内の空気塊の質量(kg)、を変数とする式(3)~(5)により、セルSがヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の第2近似値fHを算出する。これにより、これら変数を適宜変更して、第1近似値fs及び第2近似値fHを算出することができる。
【0065】
樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)、樹脂構造体10のセルSの内部空間の高さLs(m)、連通孔15の開口率φhを適宜変更することにより、所望の吸音周波数を有する吸音構造を調整することができる。吸音構造における所望の吸音周波数の近似値が得るために、吸音構造を実際に製造したり吸音周波数を実測したりすることなく、吸音構造の調整を容易に行うことができる。
【0066】
(2)上記実施形態の吸音構造では、樹脂構造体10の板振動、樹脂構造体10に形成されたセルSと連通孔15により構成されるヘルムホルツ共鳴器、及び樹脂構造体10と壁50との隙間D1における空気の振動とヘルムホルツ共鳴器との相乗的な作用により、音源200からの音が効果的に吸収されることになる。特に、第1近似値fsと第2近似値fHとの比率が1/4以上4以下にあるとき、樹脂構造体10の板振動とヘルムホルツ共鳴器とによる音の減衰効果の増幅し、低周波数領域における吸音率が向上する。樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)、セルSの内部空間の高さLs、連通孔15の開口率φhを適宜変更することにより、低周波数領域における吸音率が優れた吸音構造を容易に調整することができる。
【0067】
(3)樹脂構造体10では、セルSの内部空間の高さLs(m)、セルSの内部空間の断面積Sh(m2)、樹脂構造体10の面密度ms(kg/m2)、セルSの外形の断面積St(m2)、第1閉塞壁11aの厚みl(m)が定数として決定されている。そのため、第1近似値fsを求める式(1)では、樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)を変動させれば、所望の吸音周波数の第1近似値fsとなるように容易に調整することができる。また、第2近似値fHを求める式(3)~(5)では、連通孔15の開口率φhと連通孔15内の空気塊の質量mn(kg)を変動させれば、所望の吸音周波数の第2近似値fHとなるように容易に調整することができる。このとき、連通孔15の開口率φhは、連通孔15の開口断面積をSn(m2)、セルSの内部空間の断面積をSh(m2)としたときに、Sn/Shで表されるため、開口率φhと連通孔15内の空気塊の質量mn(kg)が連動関係にある。そのため、連通孔15の開口断面積Sn(m2)を変動させれば、所望の吸音周波数の第2近似値fHとなるように容易に調整することができる。つまり、すでに製造された樹脂構造体10を用いてて周波数領域での吸音率に優れた吸音構造を調整するには、樹脂構造体10と壁50との隙間D1の距離Lc(m)を変動させて第1近似値fsを調整し、連通孔15の開口断面積Sn(m2)を変動させて第2近似値fHを調整すればよい。低周波数領域での吸音率に優れた吸音構造の設計、調整が容易に行える。
【0068】
(4)上記実施形態の吸音構造は、樹脂構造体10と、樹脂構造体10に対向して配置された壁50とによって構成されており、樹脂構造体10と壁50との間には隙間D1が形成されている。そのため、音源200側に樹脂構造体10が位置するように直立状態で配置すると、音源200から伝達された空気の振動は、樹脂構造体10に伝達され、樹脂構造体10を板振動させる。
【0069】
また、樹脂構造体10は、内部に複数のセルSが並設されており、セルSを閉塞する閉塞壁11a、11bのうちの一方の第1閉塞壁11aには、セルSの内外を連通する連通孔15が複数貫設されている。連通孔15の開孔径D2は、隣り合うセルSの中心同士の間隔P1の数分の1に設定されている。そのため、連通孔15が貫設された各セルSでは、連通孔15内の空気塊を質量とし、セルS内の空気層をばねとするヘルムホルツ共鳴器が構成される。音源200から伝達された空気の振動は、ヘルムホルツ共鳴器により減衰される。したがって、吸音構造により吸音効果を得ることができる。
【0070】
さらに、壁50は、連通孔15が貫設された樹脂構造体10の第1閉塞壁11aと対向しており、樹脂構造体10と壁50との間には隙間D1が形成されている。そのため、樹脂構造体10の板振動により、樹脂構造体10と壁50との間の隙間D1に存在する空気が振動し、振動した空気が連通孔15内の空気塊に作用する。このとき、隙間D1が形成されているため、連通孔15における音波の減衰が大きくなる。共鳴器型と板振動型の相乗効果により低周波数領域での吸音率の高い吸音構造が得られる。
【0071】
(5)上記実施形態の吸音構造では、樹脂構造体10の板振動、樹脂構造体10に形成されたセルSと連通孔15により構成されるヘルムホルツ共鳴器、及び樹脂構造体10と壁50との間の隙間D1における空気の振動とヘルムホルツ共鳴器との相乗的な作用により、音源200からの音が効果的に吸収されることになる。特に、樹脂構造体10の板振動とヘルムホルツ共鳴器とによる音の減衰効果の増幅は、樹脂構造体10が板振動することによる吸音周波数の第1近似値fsと、樹脂構造体10がヘルムホルツ共鳴器として機能することによる吸音周波数の第2近似値fHとの比率が1/4以上4以下であるときに効果的に発揮され、特に500Hz以下の低周波数領域で向上する。
【0072】
(6)上記実施形態の吸音構造では、樹脂構造体10と壁50との間の隙間D1が0mmより大きく40mm以下の数値範囲に設定されていることがより好ましい。隙間D1がこの範囲であると、500Hz以下、特に250Hz近傍での吸音率を向上させることができる。
【0073】
(7)上記実施形態の吸音構造では、連通孔15の開口率φhは、0.2~3.2%であることがより好ましい。連通孔15の開口率がこの範囲であると、500Hz以下、特に250Hz近傍での吸音率を向上させることができる。
【0074】
(8)上記実施形態での吸音構造では、セルSの内部空間の高さが10~50mmであることがより好ましい。連通孔15の内部空間の高さがこの範囲であると、500Hz以下、特に250Hz近傍での吸音率を向上させることができる。
【0075】
上記実施形態は以下のように変更して実施することができる。
・上記実施形態では、正方形状の1枚の樹脂構造体10を壁50に対向配置させたが、その配設態様は適宜変更が可能である。例えば、複数の樹脂構造体10を並設させてもよい。具体的には、正方形状の4枚の樹脂構造体10を2行2列に並設してもよく、正方形状の9枚の樹脂構造体10を3行3列に並設してもよい。また、全体の外縁形状が正方形となるように配置しなくてもよい。例えば、樹脂構造体10を3行2列の計6つ並設すれば全体の外縁形状は長方形となる。複数の樹脂構造体10を並設する場合、隣接する樹脂構造体10の間に隙間が形成されるようにしてもよい。
【0076】
・樹脂構造体10の一対の閉塞壁11の形状は正方形状に限らず、長方形や他の多角形状であってもよいし、円形状であってもよい。さらには不定形状であってもよい。
・吸音構造を構成する構造のうち、音源200側に配置される構造、すなわち、樹脂構造体10の第1主面10aや第2主面10bに金属板を貼り付けたり、樹脂構造体10に重石をつけたり、樹脂構造体10を比重の重い樹脂で形成したりしてもよい。樹脂構造体10の比重を大きくすると、樹脂構造体10が板振動することにより、低周波数領域での吸音率を向上させることができる。
【0077】
・上記実施形態では、壁50と樹脂構造体10とを固定部材51で固定して隙間D1を形成するようにしたが、隙間D1の形成態様は適宜変更が可能である。例えば、樹脂構造体10に、固定部材51に相当する脚部、板材等を一体的に設けてもよい。こうした構成とすれば、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aが壁50と隙間D1を隔てて対向配置可能な構成としてユニット化することが可能である。壁50との間に隙間D1を形成可能な樹脂構造体10を一体物として扱うことが可能になり、吸音構造の取り回しが容易になる。
【0078】
また、樹脂構造体10の側面と壁50とを架橋し、樹脂構造体10を壁50から離間した状態で両者を連結する架橋部材を設けてもよい。
・壁体の構成は上述したものに限らない。例えば、樹脂構造体10と同様の構成を備える構造体を壁体として採用してもよい。すなわち、連通孔15が形成されていない状態の樹脂構造体10(中空板材)を、隙間D1を介して樹脂構造体10と対向配置してもよい。
【0079】
・上記実施形態において、壁50に不織布を重ねて接着してもよい。不織布は高音周波数領域での吸音に効果的である。そのため、この構成によれば、より広域の吸音が可能になる。また、樹脂構造体10の一部が不織布を接着した壁体によって被覆され、他の部分が不織布を接着していない壁体によって被覆された吸音構造を採用することも可能である。さらには、樹脂構造体10の一部は壁体によって被覆されず、他の一部は不織布を接着していない壁体によって被覆され、その他の部分は不織布を接着した壁体によって被覆された吸音構造を採用してもよい。
【0080】
・樹脂構造体10のスキン層30を省略してもよい。この場合、コア層20の上壁部21のみによって第1閉塞壁11aが構成される。また、樹脂構造体10のスキン層40を省略することも可能である。この場合には、コア層20の下壁部22のみによって第2閉塞壁11bが構成される。また、樹脂構造体10のスキン層30、40の双方を省略してもよい。
【0081】
・樹脂構造体10の連通孔15を各セルSの略中央部分に1箇所形成したが、連通孔15の形成箇所及び個数はこれに限定されない。また、樹脂構造体10全体に連通孔15を規則的に形成したが、連通孔15を不規則に形成してもよい。例えば、連通孔15が各セルSにおいて異なった位置に形成されるようにしてもよい。また、連通孔15を各セルSに1箇所或いは複数箇所形成してもよい。また、連通孔15が形成されたセルSと連通孔15が形成されないセルSとを混在させてもよい。
【0082】
・吸音構造は、第2閉塞壁11bを音源200ではなく室内の中心に向けて配置するなど、その配置態様を適宜変更することが可能である。例えば、室内などの所定空間において音の発生しやすい側に第2閉塞壁11bを向けて樹脂構造体10を設置してもよい。なお、吸音構造は、室内の仕切りとして用いることも可能である。
【0083】
・吸音構造を室内に設置した例を示したが、吸音構造を室外に設定することも可能である。すなわち、吸音構造を例えば高架下や屋上などに設置してもよい。
・吸音構造を例えば室内に設置する場合には、壁体として壁50や天井以外に、柱を採用したりすることも可能である。すなわち、樹脂構造体10の第1閉塞壁11aを対向させつつ、0mmよりも大きく100mm以下の隙間を隔てて柱等に組付けることにより、柱と樹脂構造体10とによって吸音構造を構成することも可能である。また、柱が円柱状である場合には、柱の外周面に沿った形状に樹脂構造体10を湾曲させて成形することにより、柱に組付けたときに樹脂構造体10と柱との隙間を略一定にして上述のような吸音構造を構成することができる。
【0084】
・樹脂構造体10は、一枚の第1シート材100を折り畳み成形してコア層20を形成するのに限らず、複数枚の第1シート材を用いてコア層を形成してもよい。例えば、帯状の第1シート材を所定間隔毎に屈曲させ、これら複数の第1シート材を並設することでコア層を形成してもよい。この場合、各第1シート材において屈曲させた部分がセルSの側壁部を構成することになる。
【0085】
・樹脂構造体10として、特許第4368399号に記載されるようなハニカム構造体を適用してもよい。ここに記載されるハニカム構造体は、塑性変形により形成された帯状の膨出形状が幅方向に交互に配置されてなるシート材を、幅方向と直交する方向に延びる複数の折り線で交互に谷折り及び山折りすることにより、膨出形状部分がセルの側壁部を形成してなる構造体である。こうしたハニカム構造体の両面にスキン層を接合し、一方の主面に連通孔を形成することにより吸音構造に適用することができる。
【0086】
・樹脂構造体10として、シート材を折り畳むことによって複数のセルSが並設された構造のものを用いたが、これに限定されない。押出成形によって断面ハーモニカ状に形成された構造の中空板材を用いてもよい。
【0087】
・内部に柱形状のセルSが複数並設された中空板状の構造体として、樹脂からなる樹脂構造体10を例に説明した。構造体としては、樹脂からなるものに限られず、例えば紙からなる紙構造体や、金属からなる金属構造体を採用することも可能である。
【0088】
・セルSの形状は特に六角柱形状に限定されるものではない。例えば、円柱形状でもよいし、四角柱形状、八角柱形状などの多角柱形状であってもよい。また、セルSの形状は、例えば、錐台形状や錐台形状の頂面同士を突き合わせたような形状であってもよい。すなわち、全体として柱形状をなしているのであればどのような形状であってもよい。さらに、コア層20内において異なる形状のセルSが混在していてもよいし、各セルSが隣接せず、セルSとセルSとの間に空間(隙間)が生じていてもよい。セルSとセルSとの間に空間(隙間)が生じている場合、連通孔15は、セルSの内外を連通するような部分に形成されているだけでなく、セルSとセルSとの間の空間部分に形成されていてもよい。
【0089】
・連通孔15は、開孔部が円形状の略円筒形状として形成されているが、連通孔15の形状はこれに限定されない。例えば、開孔部が四角形状、五角形状等の多角形状であってもよく、楕円形状であってもよく、不定形状であってもよい。また、連通孔15がセルSの内方へ向かって径が小さくなるように形成されていてもよい。
【0090】
・樹脂構造体10として、シート材を折り畳むことによって形成されたコア層20に、スキン層30、40を積層後、連通孔15を形成する構成としたが、これに限定されない。例えば、押出成形によってコア層20を形成後、スキン層30、40として、あらかじめ複数の連通孔15が形成されたものをコア層20に積層する構成としてもよい。
【0091】
・スキン層30、40を熱溶着でコア層20に接合するのに限らず、例えば、接着剤等でスキン層30、40をコア層20に貼り付けて接合してもよい。また、コア層20とスキン層30、40との間に例えば熱可塑性樹脂製の接着層を介在させ、この接着層の接着力により、スキン層30、40をコア層20に接合してもよい。
【0092】
・コア層20を折り畳んで圧縮する方向(X方向)をセルSが並設された方向として説明したが、これは一例に過ぎない。例えば、
図4(a)において、X方向に対して30°傾斜した方向、60°傾斜した方向においても、隣り合うセルSは六角形の一辺を共有しており、互いに並設されているといえる。また、ハニカム構造以外の場合、多角形の一辺を共有していなくても、また、多少のずれが生じていても、全体として列をなしていれば、セルSは並設されているといえる。
【0093】
次に、上記実施形態から把握できる技術思想について記載する。
(イ)内部に柱形状のセルが複数並設された中空板状の構造体を、所定の隙間を介して壁体と対向配置してなる吸音構造の調整方法であって、前記構造体は、前記セルを柱形状に区画する側壁部と、前記側壁部の両端部を閉塞する一対の閉塞壁とを有し、前記構造体の一方の主面を構成する第1閉塞壁には前記セルの内外を連通する複数の貫通孔が形成され、前記構造体は、前記構造体の他方の主面を構成する第2閉塞壁を音源に向けるとともに、前記第1閉塞壁を前記壁体に向けた状態で該壁体と対向配置され、前記吸音構造は、前記音源から音が発生した際に、前記構造体が板振動するとともに、前記構造体の前記セルがヘルムホルツ共鳴器として機能して、1000Hz以下の周波数領域で吸音率が0.4以上となる吸音周波数が存在するものであり、前記板振動による吸音周波数の第1近似値と、前記ヘルムホルツ共鳴器による吸音周波数の第2近似値とを算出し、前記第1近似値と前記第2近似値との比率が1/4以上4以下となるように、前記隙間、及び前記貫通孔の開口断面積を調整する吸音構造の調整方法。
【符号の説明】
【0094】
D1…構造体と壁体の間の隙間、D2…連通孔の開孔径、S…セル、S1…第1セル、S2…第2セル、10…樹脂構造体(構造体)、10a…第1主面、10b…第2主面、11…閉塞壁、11a…第1閉塞壁、11b…第2閉塞壁、15…連通孔、20…コア層、21…上壁部、22…下壁部、23…側壁部、30…スキン層、40…スキン層、50…壁(壁体)、51…固定部材、60…貫通部材、100…第1シート材、110…平面領域、120…膨出領域、121…第1膨出部、122…第2膨出部、130…区画体、131…重ね合わせ部、200…音源。