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特許7197866メモリスタ及びそれを用いたニューラルネットワーク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】メモリスタ及びそれを用いたニューラルネットワーク
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20221221BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20221221BHJP
   H01L 45/00 20060101ALI20221221BHJP
   H01L 49/00 20060101ALI20221221BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01L27/105 448
H01L45/00 Z
H01L49/00 Z
H01L29/78 613B
H01L29/78 618B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019548836
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2018039111
(87)【国際公開番号】W WO2019078367
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2017202437
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】木村 睦
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 澄生
(72)【発明者】
【氏名】宮前 義範
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-043896(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0379110(US,A1)
【文献】特表2013-546064(JP,A)
【文献】特開2018-006696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0043517(US,A1)
【文献】国際公開第2017/001956(WO,A1)
【文献】特表2018-524698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0109866(US,A1)
【文献】国際公開第2012/055592(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0013061(US,A1)
【文献】特開平03-063996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/105
H01L 21/8239
H01L 45/00
H01L 49/00
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、Ga、Sn及び酸素の元素を有する非晶質酸化物のメモリスタ層と
を備え、
前記第2電極に対して前記第1電極に正又は負の電圧が印加されると電流が流れ、データセット電圧値の電圧が印加されると高抵抗状態から低抵抗状態に遷移し、前記データセット電圧値と正負逆のデータリセット電圧値の電圧が印加されると低抵抗状態から高抵抗状態に遷移することを特徴とするメモリスタ。
【請求項2】
請求項に記載のメモリスタにおいて、
前記第1電極及び/又は前記第2電極は、アルミニウムの堆積により形成されたものであることを特徴とするメモリスタ。
【請求項3】
複数個のニューロン回路と複数個のシナプス素子とを備えるニューラルネットワークであって、
該シナプス素子は、請求項1又は2に記載のメモリスタを含むことを特徴とするニューラルネットワーク。
【請求項4】
複数個のニューロン回路と複数個のシナプス素子とを備えるニューラルネットワークであって、
該ニューロン回路は、請求項1又は2に記載のメモリスタを含むことを特徴とするニューラルネットワーク。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のニューラルネットワークにおいて、
前記複数個のシナプス素子は、マトリクス状に配置され、そのうち第1方向に配置された前記複数個のシナプス素子では前記第1電極又は前記第2電極の一方が共通に接続され、かつ、第2方向に配置された前記複数個のシナプス素子では前記第1電極又は前記第2電極の他方が共通に接続されており、
前記複数個のニューロン回路の各々は、共通に接続された前記第1電極又は前記第2電極の一方に接続され、共通に接続された前記第1電極又は前記第2電極の他方に接続されることを特徴とするニューラルネットワーク。
【請求項6】
複数個のニューロン回路と複数個のシナプス素子とを備えるニューラルネットワークであって、
該シナプス素子は、
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、Ga、Sn及び酸素の元素を有する酸化物のメモリスタ層と
を備え、
前記第2電極に対して前記第1電極に正又は負の電圧が印加されると電流が流れ、データセット電圧値の電圧が印加されると高抵抗状態から低抵抗状態に遷移し、前記データセット電圧値と正負逆のデータリセット電圧値の電圧が印加されると低抵抗状態から高抵抗状態に遷移するメモリスタを含み、
前記ニューロン回路は、薄膜トランジスタを有しており、
該薄膜トランジスタは、
ドレイン電極と、
ソース電極と、
ゲート電極と、
該ドレイン電極と該ソース電極の間及び該ゲート電極と該ソース電極の間に電圧が印加されると、それらの電圧に応じた電流が該ドレイン電極と該ソース電極の間に流れるチャネル層と
を備え、
該チャネル層は、前記メモリスタ層と同じ層を用いていることを特徴とするニューラルネットワーク。
【請求項7】
請求項6に記載のニューラルネットワークにおいて、
前記複数個のシナプス素子は、マトリクス状に配置され、そのうち第1方向に配置された前記複数個のシナプス素子では前記第1電極又は前記第2電極の一方が共通に接続され、かつ、第2方向に配置された前記複数個のシナプス素子では前記第1電極又は前記第2電極の他方が共通に接続されており、
前記複数個のニューロン回路の各々は、共通に接続された前記第1電極又は前記第2電極の一方に接続され、共通に接続された前記第1電極又は前記第2電極の他方に接続されることを特徴とするニューラルネットワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物を有するメモリスタ及びそれを用いたニューラルネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
メモリスタは、所定の条件で電流が流れると抵抗値が変化し、その状態を保持できる素子である。メモリスタには、第1電極と第2電極との間にメモリスタ層を配置した構造のものが知られている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、典型的なメモリスタ層としてTi酸化物が開示されている。Ti酸化物は、結晶構造又は多結晶構造である。特許文献1には、その他、メモリスタ層として、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Cr、鉄、Ni、Co、Sc、Y、又はLuの元素を有する酸化物が開示されている。また、特許文献2には、その他、メモリスタ層として、Ta酸化物又はNb酸化物が開示されている。このようなメモリスタは集積することにより、抵抗変化型メモリ(ReRAM)のメモリ素子に用いることができ、また、脳の構造を模したニューラルネットワーク(特許文献1及び特許文献2参照)においてニューロン回路同士を接続するシナプス素子に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-502031号公報
【文献】特表2016-510501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ti酸化物のメモリスタ層を用いるメモリスタは、製造において高温(例えば、200℃~300℃又はそれ以上の温度)のプロセスを必要とする。また、特許文献1及び特許文献2に開示されているTi以外の元素を有する酸化物のメモリスタ層を用いるメモリスタについては、構造及び製造プロセスの多くは明らかでないが、特許文献1に記載される例では、300℃のプロセスが用いられており、この例の通りTi酸化物と同程度の温度が必要とされるものと考えられる。
【0005】
一方、ニューラルネットワークでは、メモリスタが適用されるシナプス素子の数が極めて多く、それらをできるだけ大きなサイズの基板を用いて高集積化するのが好ましい。
【0006】
しかしながら、大きなサイズの基板を用いて高集積化する場合は、高温のプロセスでなく、できるだけ低温のプロセスによって製造するのが製造設備の点で望ましく、また、極めて高価にならないように、資源として枯渇してしまう恐れのあるような金属を含まないものとするのが望ましい。
【0007】
本発明は係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温で製造可能であり、資源として枯渇してしまう恐れのあるような金属を含まないメモリスタを提供し、また、それを用いることによりシナプス素子の高集積化が可能なニューラルネットワークを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係るメモリスタは、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、Ga、Sn及び酸素の元素を有する酸化物のメモリスタ層とを備え、前記第2電極に対して前記第1電極に正又は負の電圧が印加されると電流が流れ、データセット電圧値の電圧が印加されると高抵抗状態から低抵抗状態に遷移し、前記データセット電圧値と正負逆のデータリセット電圧値の電圧が印加されると低抵抗状態から高抵抗状態に遷移する。
【0009】
好ましくは、前記酸化物は非晶質酸化物である。
【0010】
好ましくは、前記第1電極及び/又は前記第2電極は、アルミニウムの堆積により形成されたものである。
【0011】
本発明の実施形態に係るニューラルネットワークは、複数個のニューロン回路と複数個のシナプス素子とを備えるニューラルネットワークであって、該シナプス素子は、前述したメモリスタを含む。
【0012】
或いは、本発明の実施形態に係るニューラルネットワークは、複数個のニューロン回路と複数個のシナプス素子とを備えるニューラルネットワークであって、該ニューロン回路は、前述したメモリスタを含む。
【0013】
好ましくは、前記複数個のシナプス素子は、マトリクス状に配置され、そのうち第1方向に配置された前記複数個のシナプス素子では前記第1電極又は前記第2電極の一方が共通に接続され、かつ、第2方向に配置された前記複数個のシナプス素子では前記第1電極又は前記第2電極の他方が共通に接続されており、前記複数個のニューロン回路の各々は、共通に接続された前記第1電極又は前記第2電極の一方に接続され、共通に接続された前記第1電極又は前記第2電極の他方に接続される。
【0014】
好ましくは、前記ニューロン回路は、薄膜トランジスタを有しており、該薄膜トランジスタは、ドレイン電極と、ソース電極と、ゲート電極と、該ドレイン電極と該ソース電極の間及び該ゲート電極と該ソース電極の間に電圧が印加されると、それらの電圧に応じた電流が該ドレイン電極と該ソース電極の間に流れるチャネル層とを備え、該チャネル層は、前記メモリスタ層と同じ層を用いている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメモリスタによれば、低温で製造可能であり、資源として枯渇してしまう恐れのあるような金属を含まないようにすることができる。また、本発明のニューラルネットワークによれば、そのメモリスタを用いることによりシナプス素子などの高集積化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るメモリスタの構造を示す断面図である。
図2】同上のメモリスタにより構成されるメモリスタアレイを示す回路図である。
図3】同上のメモリスタにより構成されるメモリスタアレイを示す平面図である。
図4】同上のメモリスタのデータセット-データリセットの実験における電流―電圧特性図であり、(a)が第1回目、(b)が第10回目、(c)が第20回目、(d)が第30回目のものである。
図5】同上のメモリスタのデータセット-データリセットの実験における図4(a)~(d)の電流―電圧特性を重ねて示した電流―電圧特性図である。
図6】同上のメモリスタの実験におけるデータセット-データリセットの繰り返し回数に対する高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)の抵抗値を示した特性図である。
図7】同上のメモリスタを用いたニューラルネットワークを模式的に示す平面図である。
図8】同上のメモリスタと薄膜トランジスタを用いたニューラルネットワークの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係るメモリスタ1は、図1に示すように、第1電極2と、第2電極3と、第1電極2と第2電極3との間に配置されるメモリスタ層4と、を備える。このメモリスタ1は、樹脂基板、ガラス基板、又はポリエチレンナフタレートフィルム等のフレキシブル基板などの基板5の上に形成される。メモリスタ1は、絶縁膜を介して基板5の上に形成することもできる。また、図1では、基板5の上に、上に向かって、第1電極2、メモリスタ層4、第2電極3の順に形成されているが、第2電極3、メモリスタ層4、第1電極2の順に形成してもよい。
【0018】
第1電極2と第2電極3は、特に限定されることはないが、アルミニウムを用いることができる。アルミニウムは、廉価である。アルミニウムは、蒸着又はスパッタリングなどにより堆積され、その後或いはその前に必要な形状にパターニングされることにより第1電極2又は第2電極3を形成する。第1電極2と第2電極3はそれぞれ、多層にすることも可能である。また、第1電極2と第2電極3は、互いに異なる材質にすることも可能である。但し、本願発明者による実験では、アルミニウムに他物質を意図的に混合させて形成した電極(第1電極2又は第2電極3)は、良好な特性を示さないものも少なくなかったため、好ましくはアルミニウムに対し他物質が原子の数の比で10%以下(更に好ましくは、5%以下)のものを用いて電極を形成するのがよい。
【0019】
メモリスタ層4は、Ga(ガリウム)、Sn(錫)及び酸素の元素から構成される酸化物よりなるものである。この酸化物は、非晶質酸化物(アモルファス酸化物)が好適である。Ga、Sn及び酸素の元素から構成される非晶質酸化物は、低温(例えば、25℃)のプロセスで製造可能である。また、Ga及びSnは、従来より電子デバイスで広く用いられている元素であり、例えば、In(インジウム)のように資源として枯渇してしまう恐れのあるような金属の元素ではない。従って、このメモリスタ層4を用いたメモリスタ1は、大きなサイズの基板5を用いて高集積化するのが可能であり、価格も抑えられる。Ga:Snは、例えば原子の数の比で1:5~5:1の範囲で、調整することができる。なお、メモリスタ層4は、Ga、Sn、酸素の元素を主成分として有する酸化物よりなるものならば、Ga、Sn、酸素以外にも微量な元素を含むことも可能である。その微量な元素は、不可避的に混入した不純物又は意図的に混合した不純物であり、例えば、GaとSnを合わせたものに対し原子の数の比で5%以下である。
【0020】
メモリスタ1は、第2電極3に対して第1電極2に正又は負の電圧が印加すると、第1電極2と第2電極3の間の部分に電流が流れる。そして、メモリスタ1は、後述する評価サンプルの特性で示すように、データセット電圧値VDSTの電圧(例えば、正の電圧)を印加すると、高抵抗状態から低抵抗状態に遷移させるようにすることができ、また、データリセット電圧値VDRSTの電圧(例えば、負の電圧)を印加すると、低抵抗状態から高抵抗状態に遷移させるようにすることができる。データセット電圧値VDSTとデータリセット電圧値VDRSTは、互いに正負逆である。
【0021】
従って、メモリスタ1は、高抵抗状態と低抵抗状態を0と1又は1と0に対応させることでデータを記憶し、また、例えば、データセット電圧値VDSTと0Vとの間であって高抵抗状態から低抵抗状態への遷移が起こらない読み出し電圧値VDRの電圧を印加することで、データを読み出すようにできることになる。なお、印加するデータセット電圧値VDSTを変更するなどして低抵抗状態の抵抗値を何種類かに変更して、多値のデータを記憶したり、低抵抗状態の抵抗値をアナログ的に連続して変更して、連続的なアナログ値のデータを記憶したりすることも可能である。
【0022】
メモリスタ1は、例えば、図2及び図3に示すように、複数個をマトリクス状に配置して、メモリスタアレイ6を構成するようにすることが可能である。ここで、複数個のメモリスタ1のうち第1方向(図において左右方向)に配置された複数個(図においては10個)のメモリスタ1では第1電極2が共通に接続され、かつ、第1方向に直交する第2方向(図において上下方向)に配置された複数個(図においては10個)のメモリスタ1では第2電極3が共通に接続される。従って、メモリスタアレイ6では、複数個(図においては10個)のメモリスタ1に共通に接続された第1電極2が第1方向(図において左右方向)に延伸しており、それが互いに平行に複数本(図においては10本)並んだものとなり、また、複数個(図においては10個)のメモリスタ1に共通に接続された第2電極3が第2方向(図において上下方向)に延伸しており、それが互いに平行に複数本(図においては10本)並んだものとなる。メモリスタアレイ6を構成するメモリスタ1の数は、図2及び図3では図示の都合上、計100個を示しているが、様々なものが可能である。なお、複数個のメモリスタ1のうち第1方向に配置された複数個のメモリスタ1では第2電極3が共通に接続され、かつ、第2方向に配置された複数個のメモリスタ1では第1電極2が共通に接続されるようにすることも可能である。
【0023】
本願発明者は、メモリスタアレイ6の評価サンプルを製造してメモリスタ1の特性評価を行ったので、それについて説明する。
【0024】
本願発明者は、評価サンプルのメモリスタアレイ6を以下のようにして製造した。先ず、3mm×3mmのガラス基板の基板5の上に、真空蒸着法により成膜し、メタルマスクを用いたパターニングにより、幅が150μmで第1方向に延伸する第1電極2を平行に80本、形成した(図3参照)。次に、酸化ガリウム(Ga)と酸化スズ(SnO)をGa:Snが原子の数の比で1:3になるように混合した2インチの焼結セラミックターゲットを用いてRFマグネトロンスパッタリング法により成膜し、Ga、Sn及び酸素の元素から構成される非晶質酸化物のメモリスタ層4を形成した。成膜条件は、成膜時間3min、投入電力60W、Arガス流量20sccm、酸素ガス流量1sccm、成膜圧力5.0Paとした。次に、真空蒸着法により成膜し、メタルマスクを用いたパターニングにより、幅が150μmで第2方向に延伸する第2電極3を平行に80本、形成した。なお、本特性評価では、パターニングにメタルマスクを用いたが、半導体製造工程で量産時に通常用いられるホトマスクを用いることができるのは言うまでもない。
【0025】
こうして製造したメモリスタアレイ6を構成する複数個のメモリスタ1のうちの1個について、第1電極2に電圧(バイアス電圧)を印加し、第2電極3を接地とし、半導体パラメータアナライザーを用いて電気的特性を評価した。評価するメモリスタ1の第1電極2及び第2電極3以外の第1電極2及び第2電極3については、評価するメモリスタ1に影響しない状態とした。
【0026】
図4(a)に示すのは、メモリスタ1の電圧(Vで示す。)を0Vから徐々に増加させ、3.5Vに到達すると徐々に減少させ、-3.5Vに到達すると徐々に増加させて0Vに到達させて測定した電流(Iで示す。)を示す電流―電圧特性の実験結果である。図中の矢印は、電流―電圧特性における変化を示している。メモリスタ1について続けて同様に測定し、第10回目、第20回目、第30回目の実験結果が、図4(b)~図4(d)に示すものである。図4(a)より、メモリスタ1の電圧を3.5Vにすると、高抵抗状態から低抵抗状態へ抵抗値が変化していることが分かる。また、メモリスタ1の電圧を-3.5Vにすると、低抵抗状態から高抵抗状態へ抵抗値が変化していることが分かる。図4(b)~図4(d)についても、同様のことが分かる。
【0027】
図5は、図4(a)~図4(d)で示した電流―電圧特性の実験結果の曲線(4回分)を全て重ねて示したものである。これより、正の電圧で安定して高抵抗状態と低抵抗状態が得られていることが分かる。また、3.5Vよりも小さい正の電圧(例えば、1V)において、高抵抗状態と低抵抗状態に応じた電流が流れ、その電流により高抵抗状態と低抵抗状態が安定して区別可能なことが分かる。
【0028】
図4(a)~図4(d)及び図5より、データセット電圧値VDSTを3.5V、データリセット電圧値VDRSTをー3.5V、読み出し電圧値VDRを例えば1Vとすることが可能であることがわかる。
【0029】
図6は、上記4回分を含む計30回の測定について、電圧1Vのときの高抵抗状態(図中、HRSで示す)と低抵抗状態(図中、LRSで示す)の抵抗値を示すものである。低抵抗状態は、約5KΩ~約8KΩであり、第1回目からほぼ変動はないことが分かる。高抵抗状態は、第1回目の約100KΩから第7回目の約40KΩまで減少して行くが、それからは約30KΩ~約40KΩでほぼ変動はないことが分かる。このように、高抵抗状態は、初めの回数近くの変動は有るが、全体を通じて低抵抗状態の抵抗値との差異は大きく、高抵抗状態と低抵抗状態が安定して区別可能なことが分かる。
【0030】
以上、メモリスタ1について説明したが、メモリスタ1は、複数個のニューロン回路7と複数個のシナプス素子8とを備えるニューラルネットワーク9に適用可能である。この場合、複数個のシナプス素子8の各々を、メモリスタ1とすることができる。或いは、複数個のシナプス素子8の各々を、メモリスタ1及びその他のもの(例えば、後述する薄膜トランジスタなど)から構成することも可能である。このようなニューラルネットワーク9は、シナプス素子8に上記のメモリスタ層4を備えたメモリスタ1を用いているので、大きなサイズの基板5を用いてシナプス素子8を高集積化するのが可能である。なお、複数個のニューロン回路7の各々がメモリスタ1を含むようにして、ニューロン回路7の中において状態を記憶できるようにすることも可能である。
【0031】
複数個のシナプス素子8は、上記のメモリスタアレイ6と同様に配置することができる。すなわち、シナプス素子8は、図7に示すように、マトリクス状に配置され、そのうち第1方向(図において左右方向)に配置された複数個のシナプス素子8では第1電極2が共通に接続され、かつ、第2方向(図において上下方向)に配置された複数個のシナプス素子8では第2電極3が共通に接続されてようにできる。なお、複数個のシナプス素子8のうち第1方向に配置された複数個のシナプス素子8では第2電極3が共通に接続され、かつ、第2方向に配置された複数個のシナプス素子8では第1電極2が共通に接続されるようにすることも可能である。
【0032】
複数個のニューロン回路7の各々は、共通に接続された第1電極2に第1方向制御回路10を介して接続され、かつ、共通に接続された第2電極3に第2方向制御回路11を介して接続されるようにできる。図7に示すニューラルネットワーク9では、複数個のニューロン回路7の各々は、シナプス素子8の状態に応じて、第1方向制御回路10、シナプス素子8、及び第2方向制御回路11を介して他の全てのニューロン回路7と接続可能となっている。なお、複数個のニューロン回路7の各々は、共通に接続された第2電極3に第1方向制御回路10を介して接続され、かつ、共通に接続された第1電極2に第2方向制御回路11を介して接続されるようにすることも可能である。
【0033】
各シナプス素子8のデータセット時及びデータリセット時には、第1方向制御回路10は、共通に接続された複数個のメモリスタ1の第1電極2の電圧を制御し、第2方向制御回路11は、共通に接続された複数個のメモリスタ1の第2電極3の電圧を制御する。
【0034】
ニューロン回路7(及び第1方向制御回路10及び第2方向制御回路11)を構成するトランジスタは、薄膜トランジスタ12を用いることが可能である。薄膜トランジスタ12は、図8に示すように、ドレイン電極13と、ソース電極14と、ゲート電極15と、ドレイン電極13とソース電極14の間及びゲート電極15とソース電極14の間に電圧が印加されると、それらの電圧に応じた電流がドレイン電極13とソース電極14の間に流れるチャネル層16とを備えるものであり、メモリスタ1と同じ基板5の上に形成されるようにできる。ここで、薄膜トランジスタ12のチャネル層16は、メモリスタ層4と同じ層(同時に形成される層)、つまりGa、Sn及び酸素の元素を有する酸化物の薄膜を用いている。また、図8に示した例では、ゲート電極15は第1電極2と同じ層(例えば、アルミニウムの堆積層)を用いており、ドレイン電極13及びソース電極14は第2電極3と同じ層(例えば、アルミニウムの堆積層)を用いている。なお、図8においては、理解を容易にするために、メモリスタ1を薄膜トランジスタ12の近くに配置して示している。また、符号17で示すのは、ゲート絶縁膜である。
【0035】
このように、ニューラルネットワーク9は、薄膜トランジスタ12のチャネル層16をメモリスタ層4と同じ層を用いることで、製造プロセスが簡単化されて、製造コストが抑えられるとともに、大きなサイズの基板5を用い易くなる。なお、本発明者は、Ga、Sn及び酸素の元素から構成される非晶質酸化物の薄膜によって、上述したようにメモリスタ層4が形成可能であるとともに、チャネル層16が形成可能であることを確認している。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に記載したものに限られることなく、請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、メモリスタ層4を形成するGa、Sn及び酸素の元素を有する酸化物は、メモリスタ1としての特性を維持できるのならば、通常は高温の製造プロセスが必要になるが、多結晶酸化物にすることも場合によっては可能である。また、メモリスタ1は、ニューラルネットワーク9以外にも、例えばメモリ装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 メモリスタ
2 第1電極
3 第2電極
4 メモリスタ層
5 基板
6 メモリスタアレイ
7 ニューロン回路
8 シナプス素子
9 ニューラルネットワーク
10 第1方向制御回路
11 第2方向制御回路
12 薄膜トランジスタ
13 ドレイン電極
14 ソース電極
15 ゲート電極
16 チャネル層
17 ゲート絶縁膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8