(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ペプチド、組成物及び気分障害を治療、予防、又は改善する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20221221BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20221221BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20221221BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20221221BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A23L33/18
A61P25/24
A61K38/08
(21)【出願番号】P 2020518298
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2019018229
(87)【国際公開番号】W WO2019216307
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018089784
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「米を活用した次世代介護食品の社会実装のための技術基盤開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390019987
【氏名又は名称】亀田製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【氏名又は名称】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】大日向 耕作
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 佐保
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】樋口 裕樹
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002616(JP,A)
【文献】日薬理誌,2007年,130,p. 469~476
【文献】時間生物学,2016年,Vol. 22, No. 1,p. 12~18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/08
A23L 33/18
C07K 7/06
A61P 25/24
A61K 38/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列
からなる、ペプチド。
【請求項2】
請求項
1に記載のペプチ
ドを含み、気分障害の治療、予防、又は改善に用いられる組成物。
【請求項3】
前記気分障害が、意欲低下、うつ、及び、うつ的気分障害、並びに、それらに基づく症状からなる群から選択される1以上である、請求項
2に記載の組成物。
【請求項4】
医薬品である請求項
2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
飲食品である請求項
2又は3に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド、組成物及び気分障害を治療、予防、又は改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代のストレス社会を反映し、意欲低下やうつ病等に代表される気分障害の増加が問題となっている。気分障害の病因の1つである不安感は、生体において危険を回避するための警告として本来必要なものであるが、過剰な不安感は気分障害の発症や症状の進行に関与し、不安感を緩和する食品や医薬品の開発が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定のジペプチドが、抗不安薬等として適していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/129220号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、気分障害を治療、予防、又は改善できる機能性素材に対するさらなるニーズがある。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、気分障害を治療、予防、又は改善できる新規ペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のアミノ酸配列からなるペプチドによれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、かつ、6以上20以下のアミノ酸長である、ペプチド。
【0009】
(2) 前記ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる、(1)に記載のペプチド。
【0010】
(3) 前記ペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する、(1)に記載のペプチド。
【0011】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載のペプチド、又は前記ペプチドをアミノ酸配列の一部として含むタンパク質を含み、気分障害の治療、予防、又は改善に用いられる組成物。
【0012】
(5) 前記気分障害が、意欲低下、うつ、及び、うつ的気分障害、並びに、それらに基づく症状からなる群から選択される1以上である、(4)に記載の組成物。
【0013】
(6) 医薬品である(4)又は(5)に記載の組成物。
【0014】
(7) 飲食品である(4)又は(5)に記載の組成物。
【0015】
(8) (4)から(7)のいずれかに記載の組成物を投与することを含む、気分障害を治療、予防、又は改善する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、気分障害を治療、予防、又は改善できる新規ペプチドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のペプチドを経口投与したマウスを用いた、尾懸垂試験の結果である。
【
図2】本発明のペプチドを経口投与したマウスを用いた、尾懸垂試験の結果である。
【
図3】本発明のペプチドを経口投与したマウスを用いた、尾懸垂試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
<本発明のペプチド>
本発明のペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列(QSQSQK)を有し、かつ、6以上20以下のアミノ酸長である。なお、以下、アミノ酸配列は、N末端を左端に置き、N末端からC末端にかけて記載する。
【0020】
本発明者らは、各種ペプチド混合物の一斉分析情報や、情動行動に影響を及ぼす既知のペプチドの構造-活性相関情報に基づき検討した結果、気分障害の治療等に対して効果を示す新規ペプチド、すなわち、上記ペプチドを発見した。
【0021】
本発明者らによるさらなる検討の結果、本発明のペプチドは、ドーパミンD1受容体を活性化させることで意欲向上効果をもたらし、気分障害の治療や予防の効果を奏し得ることが見出された。
【0022】
本発明のペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるものであってもよく、配列番号1に記載のアミノ酸配列のN末端側及び/又はC末端側に任意のアミノ酸が付加されたものであってもよい。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、N末端のアミノ酸はQ(グルタミン)であり、C末端のアミノ酸はK(リシン)である。
【0023】
本発明のアミノ酸長の上限は、好ましくは20以下のアミノ酸長、より好ましくは13以下のアミノ酸長であり、最も好ましくは6以下のアミノ酸長である(つまり、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる。)。本発明のペプチドは、アミノ酸長が短いほど、本発明の効果が奏されやすい傾向にある。
【0024】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のN末端側及び/又はC末端側にアミノ酸が付加されたペプチドとしては、特に限定されないが、配列番号2に記載のアミノ酸配列(QQFLPEGQSQSQK)、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するものが挙げられる。なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列のN末端側に7つのアミノ酸(QQFLPEG)が付加されたものである。
【0025】
本発明のペプチドは、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち1つのアミノ酸が任意のアミノ酸に置換されたものであってもよい。配列番号1に記載のアミノ酸配列のN末端側及び/又はC末端側にアミノ酸が付加されたペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列(QQFLPEGQSQSQK)、又は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0026】
本発明のペプチドは、化学合成や、天然のタンパク質又はポリペプチドの加水分解によって得られる。
【0027】
化学合成の方法としては、公知のペプチド合成法が挙げられる。具体的には、ペプチド合成に通常用いられる方法である液相法又は固相法が挙げられる。さらに具体的には、Fmoc法、Boc法等が挙げられる。合成されたペプチドは、精製してもよい。精製方法としては、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を用いた方法が挙げられる。
【0028】
加水分解の方法としては、加水分解酵素を用いた方法、強酸又は強塩基を用いた方法等が挙げられる。
【0029】
加水分解酵素を用いた方法においては、動物、植物又は微生物由来の加水分解酵素(トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ぺプシン、カルボキシペプチダーゼ、サーモリシン等)を使用できる。加水分解酵素としては、食品として用いることができる微生物(例えば、パン酵母、ビール酵母等の食用酵母)等を用いてもよい。
【0030】
加水分解酵素を用いた加水分解の条件としては、特に限定されないが、用いる酵素に応じてpHを適切な値に調整し、30~40℃程度の温度下にて、30分~48時間反応させてもよい。得られた反応液から本発明のペプチドを精製して用いてもよい。加水分解した対象が食品素材である場合は、そのまま、又は、他の食品素材に添加して食品として供することもできる。
【0031】
強酸を用いた方法においては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等を用いることができる。強塩基を用いた方法においては、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、アルカリ金属炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)を用いることができる。
【0032】
強酸又は強塩基を用いた加水分解の条件としては、特に限定されないが、強酸又は強塩基の存在下で、水中で、1~100℃の温度下にて、30分~48時間反応させてもよい。加水分解の反応生成物は、pHを調製した後、そのまま使用してもよく、精製により本発明のペプチドを単離して使用してもよい。
【0033】
各種方法によって得られたペプチドのアミノ酸配列は、エドマン分解法でC-末端からアミノ酸配列を読み取るプロテインシークエンサー、GC-MS等で分析できる。
【0034】
<本発明の組成物>
本発明の組成物は、少なくとも本発明のペプチドを含み、本発明のペプチドからなるものであってもよく、その他の成分を含んでいてもよい。組成物に含まれるペプチドは、本発明のペプチドをアミノ酸配列の一部として含むタンパク質であってもよい。
【0035】
組成物に含まれるペプチドが、その配列の一部に本発明のペプチド以外のアミノ酸配列を含む場合、その配列長が短いほど、本発明の効果が奏されやすい傾向にある。
【0036】
本発明のペプチドを摂取することにより、気分障害を治療、予防、又は改善できる。したがって、本発明の組成物は、気分障害の治療、予防、又は改善のために好ましく使用できる。
【0037】
本発明において、「気分障害」とは、気分(感情)に関する障害を有する精神疾患を意味する。具体的には、意欲低下、うつ、及び、うつ的気分障害、並びに、これらに基づく症状のうち1以上が挙げられる。本発明によれば、気分障害のうち、特に意欲低下を治療、予防、又は改善できる。
【0038】
本発明において、「治療」とは、例えば、気分障害の進行の遅延、並びに、症状の治癒等を意味する。「予防」とは、例えば、気分障害の発症の抑制又は遅延等を意味する。「改善」とは、例えば、気分障害の症状の緩和、軽減等を意味する。
【0039】
本発明の組成物は、任意の形態に調製でき、医薬品や飲食品として調製してもよい。
【0040】
本発明の組成物を医薬品として調製する場合、経口投与剤又は非経口投与剤として調製できる。本発明の組成物は、例えば、本発明のペプチド単独で、又は、担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに、以下の製剤として調製できる;タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠等)、カプセル、トローチ、粉末、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、ペースト、クリーム、注射剤(アミノ酸輸液、電解質輸液等の輸液に配合する場合を含む)、腸溶性の錠剤、カプセル剤、徐放性製剤等。
【0041】
担体、希釈剤又は賦形剤としては、製剤分野において常用され、かつ本発明のペプチドと反応しない物質が用いられる。例えば、以下のものが挙げられる;乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等。
【0042】
本発明の組成物を飲食品として調製する場合、任意の形態に調製でき、例えば、以下のものが挙げられる;飲料類(コーヒー、ココア、ジュース、清涼飲料、ミネラル飲料、茶飲料、緑茶、紅茶、烏龍茶、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料等)、ガム、グミ、ゼリー、キャンディ、クッキー、クラッカー、ビスケット、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット、かき氷等)、レトルト食品、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)等。
【0043】
本発明の飲食品は、いわゆる健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品・病者用組合せ食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)又は高齢者用食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)として調製してもよい。
【0044】
本発明の組成物における、本発明のペプチドの量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。例えば、組成物に対して、本発明のペプチドを、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは1.00質量%以上配合してもよい。また、組成物に対して、本発明のペプチドを、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下配合してもよい。なお、上記の値は、本発明の組成物に本発明のペプチド以外のペプチドが含まれる場合、本発明のペプチドの量に換算したものである。
【0045】
本発明の組成物における、本発明のペプチド以外の成分の量は、該成分の種類、組成物の形態、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0046】
本発明の組成物の投与方法は特に限定されず、経口投与、又は非経口投与(注射等)のいずれであってもよい。本発明の効果が奏されやすいという観点から、本発明の組成物は経口投与されることが好ましい。
【0047】
本発明の組成物の投与量は、投与方法、投与対象の状態や年齢等により異なるが、例えば、本発明のペプチドの量に換算して、成人1日あたり、好ましくは0.01mg/kg~500mg/kg、より好ましくは0.05mg/kg~100mg/kg、さらに好ましくは0.1~30mg/kgである。上記範囲内において、投与量が多いほど、本発明の効果がより奏されやすい傾向にある。
【0048】
本発明の組成物の製造方法としては、得ようとする形態に応じて、公知の方法を採用できる。
【0049】
<気分障害を治療、予防、又は改善する方法>
本発明の組成物を対象に投与することで、気分障害を治療、予防、又は改善することができる。
【0050】
投与方法は、組成物の形態に応じて適宜選択することができる。
【0051】
投与回数、投与間隔、投与量は、投与対象の状態(症状、年齢、体重等)に応じて適宜選択することができる。
【0052】
投与対象としては特に限定されず、ヒト、ヒト以外の哺乳類(イヌ、ネコ、家畜(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等)等)等が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
<本発明のペプチドの作製>
以下の2種類の本発明のペプチドを、Fmoc法による合成、次いで、逆相HPLCによる精製によって作製した。
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列(QSQSQK)からなるペプチド
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列(QQFLPEGQSQSQK)からなるペプチド
【0055】
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、N末端側半分の7残基からなるペプチド(配列番号3で表されるアミノ酸配列(QQFLPEG)からなるペプチド)を上記同様の方法で作製した。
【0056】
作製した各ペプチドを以下の各試験においてマウス(ddyマウス(5週齢の雄、体重24~28g))に投与し、尾懸垂試験によって意欲向上効果を評価した。
【0057】
<意欲向上効果の評価:尾懸垂試験(Tail suspension test)>
各マウスを、ペプチド投与から30分後に、床の上から30cmの位置に尾でつり下げて懸垂させた。次いで、試験開始(0分)から6分間にわたって、逃避行動を開始した後に認められる無動状態であった時間(無動時間(Immobility time))を測定した。無動状態は、「絶望状態」として知られ、無動時間が短いほど、絶望状態が改善し、意欲が向上したものと評価できる。したがって、この試験において意欲向上効果をもたらす物質は、気分障害の治療、予防、又は改善に有効であり得る。
【0058】
<試験1>
配列番号2で表されるアミノ酸配列を生理食塩水に溶解させ、体重あたり0.03、0.1、又は0.3mg/kgの量でマウスに経口投与した(n=5~6)。対照として生理食塩水のみを経口投与したマウスを用意した(n=6)。各マウスを尾懸垂試験に供し、本発明のペプチドによる意欲向上効果を評価した。その結果を
図1に示す。
【0059】
図1に示されるとおり、本発明のペプチドを投与されたマウスは、対照と比較して無動時間が短かった。この傾向は、本発明のペプチドの濃度依存的に認められた。したがって、本発明のペプチドは、意欲向上効果を奏し、気分障害の治療や予防に有用であることが示された。
【0060】
<試験2>
配列番号1~3で表されるアミノ酸配列のそれぞれを生理食塩水に溶解させ、体重あたり0.1mg/kgの量でマウスに経口投与した(n=5~6)。対照として生理食塩水のみを経口投与したマウスを用意した(n=6)。各マウスを尾懸垂試験に供し、本発明のペプチドによる意欲向上効果を評価した。その結果を
図2に示す。
【0061】
図2に示されるとおり、配列番号3で表されるアミノ酸配列を投与されたマウスは、対照と比較して無働時間の減少は認められなかった。一方、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を投与されたマウスは、対照と比較して無働時間が短かった。これらの結果から、配列番号1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸配列を配列中に含むペプチドが顕著な意欲向上効果を有することがわかった。
【0062】
<試験3>
配列番号2で表されるアミノ酸配列を0.3mg/kgと、各種受容体のアンタゴニストと、を併用して経口投与したマウスを用意した(n=5~6)。各マウスを尾懸垂試験に供し、本発明のペプチドによる意欲向上効果を評価した。その結果を
図3に示す。
【0063】
アンタゴニストとしては、以下を用いた。
(1)SCH23390:ドーパミンD1受容体のアンタゴニスト、使用量30μg/kg
(2)WAY100135:セロトニン5-HT1A受容体のアンタゴニスト、使用量10mg/kg
(3)Bicuculline:GABA-A受容体のアンタゴニスト、使用量30mg/kgとした。
【0064】
図3において、無動時間が長いほど、アンタゴニストによって阻害された受容体が、配列番号2で表されるアミノ酸配列による意欲向上効果に寄与していることを意味する。配列番号2で表されるアミノ酸配列と、WAY100135又はBicucullineとの併用により、相対的に無動時間が減少した。このことは、セロトニン5-HT1A受容体やGABA-A受容体は配列番号2で表されるアミノ酸配列による意欲向上効果とほぼ関連しないことを意味する。これに対し、配列番号2で表されるアミノ酸配列と、SCH23390との併用により、有意に無動時間が長かった。これらの結果から、ドーパミンD1受容体の活性化が、配列番号2で表されるアミノ酸配列による意欲向上効果に寄与する可能性が示唆された。
【配列表】