(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料、医療用防護用品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20221221BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20221221BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20221221BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221221BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221221BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20221221BHJP
D06M 11/79 20060101ALI20221221BHJP
C01B 39/24 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A41D13/12 109
A41D13/11 M
B01J20/18 E
B01J20/28 Z
B01J20/30
D06M11/83
D06M11/79
C01B39/24
(21)【出願番号】P 2021133300
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】202010839473.6
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】520510324
【氏名又は名称】杭州沸創生命科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】范 杰
(72)【発明者】
【氏名】肖 麗萍
(72)【発明者】
【氏名】余 麗莎
(72)【発明者】
【氏名】李 丹
(72)【発明者】
【氏名】施 益峰
(72)【発明者】
【氏名】姚 航平
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0295843(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0272967(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0152905(US,A1)
【文献】特開昭59-037956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/12
A41D 13/11
B01J 20/18
B01J 20/28
B01J 20/30
D06M 11/83
D06M 11/79
C01B 39/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層型銅系ゼオライト繊維を含む医療用材料であって、
前記医療用材料は、外側から順に、
最外層
の銅系ゼオライト繊維層、
第1の中間層
の疎水性繊維層、
第2の中間層
の銅系ゼオライト繊維層、及び
最内層
の親水性繊維層、を含み、
前記最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、第1の中間層の疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きく、
前記銅系ゼオライト繊維層は、
巻回した繊維からなる繊維糸、及び
前記繊維の表面に分散する銅系ゼオライト、を有し、
前記繊維糸を前記銅系ゼオライト繊維層の縦糸及び横糸とし、
前記繊維の表面に分散する銅系ゼオライトの質量は、前記繊維糸の径方向外側から内側に向けて段階的に減少し、
前記銅系ゼオライトの粒径D90は、0.5~20μmであることを特徴とする
医療用材料。
【請求項2】
前記銅系ゼオライトは、電子受容体を有する銅元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の医療用材料。
【請求項3】
前記銅系ゼオライトの表面、ゼオライト骨格内又はゼオライト骨格外に銅イオンが含まれることを特徴とする請求項1に記載の医療用材料。
【請求項4】
前記銅系ゼオライトは、孤立電子対を含む基及び/又は共役結合を有する基を含むことを特徴とする請求項1に記載の医療用材料。
【請求項5】
前記銅系ゼオライトは、-COOH基及び/又は-COO
-基を含むことを特徴とする請求項1に記載の医療用材料。
【請求項6】
前記銅系ゼオライトは、孤立電子対を有するN基を含むことを特徴とする請求項1に記載の医療用材料。
【請求項7】
第1の中間層と第2の中間層との間に設置されたメルトブロー不織布層を含むことを特徴とする請求項1-6のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項8】
前記第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、最内層の親水性繊維層の孔隙サイズよりも大きいことを特徴とする請求項1-7のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項9】
前記銅系ゼオライト繊維層中の銅元素の質量分率は、0.02~4wt%であることを特徴とする請求項1-
8のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項10】
前記銅イオンは、Cu
2+を含み、前記Cu
2+は、銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の5%~40%を占めることを特徴とする請求項3に記載の医療用材料。
【請求項11】
前記銅系ゼオライトのSi/Alモル比は、1.5~5であることを特徴とする請求項1-
10のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項12】
前記銅系ゼオライトは、ゼオライトナノ粒子で構成されている
ことを特徴とする請求項1-
11のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項13】
前記銅系ゼオライトは、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、A型ゼオライト、チャバザイト、L型ゼオライト及びP型ゼオライトのうちのいずれか1種類又は複数種類から選択されることを特徴とする請求項1-
11のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項14】
前記銅系ゼオライト繊維層の繊維は、レーヨン繊維、アセテート繊維、カルボキシメチルセルロース、竹繊維、綿繊維、木質繊維、ポリプロピレン繊維及びポリエチレン繊維のうちのいずれか1種類又は複数種類から選択されることを特徴とする請求項1-
11のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項15】
前記親水性繊維層は、親水性繊維で構成されることを特徴とする請求項1-
11のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項16】
前記疎水性繊維層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン及び変性ポリエステルのうちのいずれか1種類又は複数種類から選択されることを特徴とする請求項1-
11のいずれか一項に記載の医療用材料。
【請求項17】
多層型銅系ゼオライト繊維を含む医療用材料の製造方法であって、
前記医療用材料は、外側から順に、
最外層の銅系ゼオライト繊維層、
第1の中間層の疎水性繊維層、
第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層、及び
最内層の親水性繊維層、を含み、
前記最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、第1の中間層の疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きく、
前記銅系ゼオライト繊維層は、
巻回した繊維からなる繊維糸、及び
前記繊維の表面に分散する銅系ゼオライト、を備え、
前記繊維糸を前記銅系ゼオライト繊維層の縦糸及び横糸とし、
前記繊維の表面に分散する銅系ゼオライトの質量は、前記繊維糸の径方向外側から内側に向けて段階的に減少し、
前記銅系ゼオライトの粒径D90は、0.5~20μmであり、
前記製造方法は、
1)疎水性繊維層、親水性繊維層を作製するステップと、
2)銅系ゼオライト繊維層を製作するステップであって、
(a)繊維を巻回して繊維糸を形成し、繊維糸をゼオライトの核成長のためのステントとして銅系ゼオライトを含む繊維糸を合成するステップ
と、
(b)銅系ゼオライトを含む前記繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層を編むステップ、とを含むステップと、
3)銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層の順に積層して抗菌・抗ウイルス医療用材料を作製するステップと、を含むことを特徴とする医療用材料の製造方法。
【請求項18】
疎水性繊維層と親水性繊維層との間にメルトブロー不織布層を設置するステップを含むことを特徴とする請求項
17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記親水性繊維層は、親水性繊維で構成されることを特徴とする請求項
17又は
18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記疎水性繊維層の疎水性繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、及び変性ポリエステルのうちのいずれか1種類又は複数種類から選択さることを特徴とする請求項
17又は
18に記載の製造方法。
【請求項21】
マスクの本体が請求項1-
16のいずれか一項に記載の医療用材料を含むことを特徴とする防護用品。
【請求項22】
前記防護用品は、抗菌・抗ウイルス用医療従事者の着用品であり、防護服、フェイススクリーン、手袋、靴、ブーツ、帽子及びイヤーマフのうちから選択されることを特徴とする請求項
21に記載の防護用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防疫・衛生用具分野に関し、特に、十分に低い細胞毒性及び十分に高い抗菌・抗ウイルス性を有する医療用材料に関し、特に、新型コロナウイルスを殺滅するためのバイオセーフティ医療用材料及び医療用防護用品に適用する。
【背景技術】
【0002】
新興感染症は、人間の健康及び社会政治、経済などに大きな害を及ぼす。新型コロナウイルスは、風邪、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)及び新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)などの感染症を引き起こすことができる大型ウイルスファミリーである。ここで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主な伝播経路は、直接伝播、エアロゾル伝播、接触伝播などである。したがって、個人用防護用品の着用は、ウイルス感染を防ぐための最も効果的な保護手段の1つである。
【0003】
危険な細菌及びウイルスの場合、少量の接触/吸入も危険で恐ろしい。実際、医療従事者、防疫担当者は、仕事中、診断された患者及びリスクが高くかつ感染しやすい環境に直面することが多く、細菌及びウイルスの数が多く、防護が不適切であれば、非常に感染しやすい。
【0004】
現在、一般的に使用される医療用マスクは、3層で構成され、外層と内層の両方が不織布であり、中間層がメルトブロー不織布である。マスクの最外層は、飛沫防止設計を有し、中間層は、飛沫、粒子又は細菌を濾過するためのコア機能層であり、内層は、主に吸湿する。マスクは、濾過原理を利用してウイルスを物理的に阻害することにより、一部のウイルスや細菌などの病原体をある程度阻害することができ、これにより、ウイルス感染のリスクが低くなる。しかし、少数のウイルス及び細菌がマスクの表面に付着していることは回避できない。マスクに捕獲又は阻害された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、最大7日間生存できることが研究により確認されている。マスクの表面に付着しかつ活性を有するウィルスは、交差感染源となる可能性が高く、ウイルスは再伝播される。したがって、マスクの表面又は濾過層のウイルス残留物をどのように根絶するかは、防疫システム全体の重要な問題である。
【0005】
マスクの用途によって、マスクは、民生用マスクと医療用マスクに分けられる。医療用マスクは、主に、通常の医療用マスク、医療用サージカルマスク及び医療用防護マスク(孫興春など、医療用防護マスクの特許技術に関する研究の進歩、新素材産業、2020(2):13-15)の3種類に分類される。医療用マスクがマスクの濾過作用により細菌及びウイルスを阻害又は防護し、防護機能を重点とするため、医療用マスクの国家基準又は業界基準ではいずれも濾過効果に対して要求が提出されており、その順序が通常の医療用マスク<医療用サージカルマスク<医療用防護マスクであり、医療用防護マスクの濾過効果が最も高い。しかし、上記の3種類の医療用マスクは、抗菌・抗ウイルスの技術基準が設定されず、その中、通常の医療用マスク又は医療用サージカルマスクは、細胞毒性の生物学的安全基準(細胞毒性がレベル2以下)が設定されているが、医療用防護マスクは、細胞毒性の生物学的安全基準が設定されていない。
民生用マスクは、着用時間が短く、防護要求が低いため、細胞毒性が規定されていない。
【0006】
通常の医療用マスク又は医療用サージカルマスクは、業界基準における細胞毒性に関する規定に合致する必要があり、つまり、国家食品薬品監督管理局が発行した医薬品業界基準YY/T0969-2013「使い捨て医療用マスク」及びYY0469-2011「医療用サージカルマスク」における細胞毒性に関する規定に合致する必要があり、ここで、マスクの細胞毒性はレベル2を超えるべきではなく、つまり、50%を超えていない細胞阻害現象(即ち、細胞生存率が50%を超える)を観察することができる。かつ、細胞毒性は、国家基準「医療機器の生物学的評価 第5部:インビトロ細胞毒性試験」GB/T 16886.5-2017/ISO 10993-5:2009の規定に厳しく従って実行する必要がある。また、医療用防護マスクは、GB19083-2010「医療用防護マスクの技術要求」基準に合致する必要があり、その重要な指標は、主に濾過効率と吸気抵抗であり、細胞毒性に関する生物学的安全性問題を規定していない。従来技術では、N95規格に合致する医療用防護マスクは、パッシブ防護技術(空気力学的直径即ち物理的直径0.075μm±0.020μmの粒子の濾過効率は95%以上に達する)を採用しており、純粋な濾過及びバリア性能のみを提供するため、感染症に対する医療防護、疾病予防・治療、疫病感染予防及び制御などを行う専門家の使用上の安全性を保証することが困難である。
【0007】
新型コロナウイルスの拡散及び継続的な変異に伴い、ウイルスの生存能力がより強くなり、マスクを介してウイルスへの濾過効果のみを実現することは、新型コロナウイルスの防護要求を満たすことができず、したがって、医療用マスクに対してより高い性能が求められ、それは細菌及びウイルスを殺滅する機能を備える必要がある。既存の医療用マスクは、主にナノ材料(ナノ酸化亜鉛、グラフェン、銀イオン)、光触媒技術(例えば二酸化ペプチド)、漢方薬、抗菌機能層の追加により、優れた抗菌・抗ウイルス性能を達成する。
【0008】
現在、市販されている医療用マスクの抗菌・抗ウイルス性能は不均一であり、規格は統一されず、現在の国家又は業界基準では、医療用マスクの抗菌・抗ウイルスの技術基準と細胞毒性の生物学的安全基準の両方が同時に設定されていない。現在、医療用マスクの細菌及びウイルス殺滅機能は、細菌又はウイルスの細胞膜/壁を破壊することにより達成され、これにより、細菌又はウイルスの細胞構造も破壊されるため、マスクの生物学的安全性評価、特に細胞毒性が非常に望ましくなく、細胞毒性は非常に高い。以上のように、従来技術では生物学的安全性を犠牲にして、医療用マスクの抗菌・抗ウイルス効果を取得し、特に、最も高い防護レベルが求められる医療用防護マスクの場合、抗菌・抗ウイルス効果が高いほど、その細胞毒性が大きくなり、したがって、医療用防護マスクの細胞毒性に関連する技術基準を設定することができず、すべてのタイプの医療用マスクに対して抗菌・抗ウイルスの技術基準と細胞毒性生物学的安全基準を同時に設定することもできない。
【0009】
銅元素は、細菌及びウイルスを殺滅することができ、抗菌・抗ウイルスマスクに使用され得るが、銅元素は、適切な形でマスク材料にロードされ、かつマスクの柔軟性を維持し、マスクの生物学的安全性を確保する必要がある。ここで、生物学的安全性は、医療用マスクの最も重要な指標の1つである。生物学的安全性とは、細胞毒性、皮膚刺激性、遅延型過敏症を指し、細胞毒性は、生物学的安全性評価の最も重要な技術的指標である。細胞毒性(cytotoxicity)とは、細胞外の化学物質による細胞構造の破壊を指し、最終的に細胞のアポトーシス又は壊死を引き起こし、それによってインビトロ実験での細胞の生存率を低下させる。
【0010】
現在、医療用マスク材料への銅元素の応用では、その細胞毒性問題に基づいて2つの主要な安全上の危険がある:1)銅元素(特に二価銅イオン)は、細菌、ウイルスの殺滅効果が高いが、強い細胞毒性がある(陳徳敏感、9種類の金属イオンの細胞毒性の評価[J]、口腔科材料・器械雑誌、1993、000(002):12-13。)。銅元素の細胞毒性、抗菌・抗ウイルス性は正相関であり、つまり、銅元素の含有量が多いほど、抗菌・抗ウイルス性は高くなるが、細胞毒性は大きくなる。溶液中の二価銅イオンの濃度が0.5ppm又は5ppmである場合、細胞毒性はレベル1であるが、それは抗菌・抗ウイルス機能を持っていない。溶液中の二価銅イオンの濃度が10ppmである場合、細胞毒性はレベル4であり、それは一定の抗菌・抗ウイルス機能を持っているが、細胞毒性は業界基準における細胞毒性に関する規定よりもはるかに高く、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの要求に達成することができない。2)マスクを着用する過程で、飛沫又はエアロゾルが銅元素を有するマスク層を通過するとき、銅イオンが水溶液に極めて溶解しやすいため、エアロゾルは、マスクの繊維層にある銅元素との物質交換(イオン交換を含む)を非常に容易に行い、そのため、銅元素は口と鼻に入り、銅元素のマスクを長時間着用すると身体に一定の損害を与え、常に着用している医療従事者、防疫担当者への被害はさらに深刻になる。
【0011】
以上のように、銅元素の含有量が少ないと、抗菌・抗ウイルスの性能効果を達成できず、逆に、効率的な抗菌・抗ウイルス性能を達成するために、銅元素の含有量が多いと、必然的にその細胞毒性を犠牲にする必要があり、医療用マスク業界基準における細胞毒性に関する規定(仕様の表1の比較例1-4における銅イオンの量と細胞毒性、抗ウイルス性との相互関係を参照)を満たすことができない。
【0012】
現在、マスクの作製に使用される銅元素は、主に銅単体、一価銅イオン化合物、二価銅イオン化合物の3つの形態を含み、これらの3つの形態は、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの作製に用いられ、いいずれも固有の欠陥がある:(1)ナノメートル、マイクロメートルの銅粒子、銅線などの形態を採用する。銅単体の細胞毒性は二価銅イオンの細胞毒性よりも低いが、銅単体の抗菌・抗ウイルス効果は、二価銅イオンの抗菌・抗ウイルス効果よりも著しく低く、高基準の抗菌・抗ウイルス防護要求に達しておらず、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの材料に適用していない。(2)亜酸化銅、ヨウ化銅などの一価銅イオン化合物の形態を採用する。ここで、亜酸化銅(リスク用語R22:飲み込むと有害;R50/53:水生生物に非常に高い毒性がある;水生環境に悪影響を与える可能性がある;安全用語S61:環境への放出を避ける)、ヨウ化銅の安全上の注意事項(S24/25)は、皮膚及び目への接触を避ける必要があることであり、危険カテゴリーコード(R36/37/38)は、目、呼吸器系及び皮膚を刺激することである。
【0013】
一価銅イオン化合物は、目、呼吸器系及び皮膚に強い刺激を与えるため、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの材料に適用していない。(3)硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、炭酸銅などの二価銅イオン化合物の形態を採用する。二価銅イオンの抗ウイルス・抗菌効果は銅単体の抗ウイルス・抗菌効果よりも優れているが、二価銅イオンは非常に容易に脱落して水に溶解し、最終的に合成された銅繊維における二価銅イオンの含有量が極めて低く、抗ウイルス・抗菌効果が低い。抗菌・抗ウイルス機能を高めるために、より多くの二価銅イオン化合物を添加する必要があるが、同時にマスク材料の細胞毒性が強くなり、医用マスク業界基準における細胞毒性に関する規定に合致しない。また、二価銅イオン化合物の添加量が多すぎる場合、医療従事者がマスクを長時間着用すると、大量の二価銅イオンがマスク上の水蒸気に溶けやすく、体内に侵入しやすく、体の健康に害を及ぼす。また、銅元素は主に紡績による銅繊維の製造に使用され、銅単体は、織布地との親和性がなく、紡績難度が大きく、一価銅イオン化合物は、一般的に色があり、マスク布地の紡績に適せず、二価銅イオン化合物は、紡糸製造過程で大量に失われやすく、二価銅イオン含有量が高い繊維を製造することができない。現在、銅元素の上記の3つの形態は、低い細胞毒性と高い抗菌・抗ウイルス性の両方を達成できず、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの細胞毒性に関する規定を満たすことができず、銅元素含有材料は、医療用マスク又は医療用サージカルマスクに使用できない。
【0014】
銅元素含有材料は、銅イオン変性ゼオライト材料をさらに含み、ゼオライトは、含水アルカリ又はアルカリ土類金属アルミノケイ酸塩化合物である。ゼオライトの化学組成の一般式は、(M)2/nO・xAl2O3・ySiO2・pH2Oであり、Mが金属イオン(K+、Na+、Ca2+、Ba2+など)を表し、nが金属イオンの価数を表し、xがAl2O3のモル数を表し、yがSiO2のモル数を表し、pがH2Oのモル数を表す。上記ゼオライトは、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、A型ゼオライト、チャバザイトゼオライト、モルデナイトゼオライト、L型ゼオライト、P型ゼオライト、メルリノイトゼオライであってもよい。上記ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオンは、イオン交換により部分的に銅イオンに置き換えることができるため、銅イオン変性ゼオライトは、細菌及びウイルスを殺滅する能力を持ち、銅イオンの放出をある程度制御することができるが、細菌及びウイルスの滅殺果が十分に高くなるために、必然的に細胞毒性を増大させ、細胞毒性がレベル2を超えると、医療用マスク又は医療用サージカルマスクに関する細胞毒性規定を満たすことができず、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの材料に適用できない(比較例1及び表1の結果を参照)。
【0015】
中国特許公報CN111227345Aでは抗菌・抗ウイルスマスク及びその製造方法が開示される。上記抗菌・抗ウイルスマスクは、外側から内側に表層、コア層、内層に順次分けられ、上記表層が撥水性のポリプロピレンスパンボンド不織布であり、上記コア層が抗菌・抗ウイルス不織布であり、銀-銅を担持させた上記ナノゼオライト材料と繊維を混合して紡績して得られた抗菌・抗ウイルス短繊維を、通常のPET短繊維と混合し、最後に抗菌・抗ウイルス不織布を形成する。この発明により作製されたマスクは、SARS、H1N1、H7N9、H3N2に対する抗ウイルス活性率が高く、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性が高く、しかし、明細書では「銅イオンが細胞壁のタンパク質/アミノ酸への攻撃に優れているため、銀イオンが細胞に容易に侵入し、それによって細胞内に共同で攻撃する」も記載され、これにより、銅イオンが抗菌・抗ウイルスの過程で、細胞の構造を必然的に破壊し、強い細胞毒性を有することを示すことができ、抗ウイルス効果を達成するために、マスクの細胞毒性問題が必然的に保証できず、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの細胞毒性要求に達しないため、医療従事者が長時間着用することに適していない。一方、この発明のマスクの抗菌・抗ウイルス不織布は、中間層に配置され、最外層の撥水性ポリプロピレンスパンボンド不織布は、細菌、ウイルスを運ぶ飛沫が体内に侵入することを防ぐが、マスクの最外層に付着している、細菌、ウイルスを運ぶ飛沫は依然として活性を維持するため、交差感染源となる可能性が高く、ウイルスが再び伝播される。中間層の抗菌・抗ウイルス不織布は、最外層から侵入する細菌、ウイルスを不活化することができるが、マスクの最外層の細菌及びウイルスを不活化することができない。
【0016】
論文(Antiviral Research、2012、93(2):225-233。)では、鳥インフルエンザH5サブタイプウイルを不活化するための銅含有ゼオライト綿織物材料が開示される。この論文では銅含有ゼオライト綿織物が高病原性H5N1ウイルスと低病原性H5N3ウイルスを不活化する効果を有することを示している。この論文に記載される銅含有ゼオライト綿織物は、細胞毒性試験で細胞毒性が示さないが、実験操作では、銅含有ゼオライト綿織物のみを培養液に1minだけ浸漬し、その後材料の細胞毒性の検出のために浸出液を10倍希釈し、上記銅ゼオライト綿織物「細胞毒性が示さない」という偽結論が得られる。国家基準「医療機器の生物学的評価 第5部:インビトロ細胞毒性試験」GB/T 16886.5-2017/ISO 10993-5:2009の規定によれば、医療機器の浸出液試験(8.2.9)については、サンプルが少なくとも24h培養された後、浸出液を細胞毒性のための確定に使用することができる。この論文では、銅ゼオライト綿織物を培養液で1min培養し、細胞毒性の検出のために浸出液を10倍希釈しただけであり、これは国家標準検出の要求にはるか達せず、本質的に強い細胞毒性を有し、国内YYT 0969-2013「使い捨て医療用マスク」及びYY0469-2011「医療用サージカルマスク」の細胞毒性生物学的評価基準に合致しない(本発明の比較例1及び表1の結果を参照)。
【0017】
中国特許公報CN111469498Aでは銅イオンを含む抗菌生地の医療用防護材料が開示される。上記医療用防護材料は、外側から内側へ順次設けられた一次濾過層、抗菌生地層、精密濾過層、肌にやさしい快適層で構成され、上記抗菌生地層は、銅イオンを含む抗菌生地層である。医療用マスクとして使用される上記医療用防護材料は、GB/T19083-2010「医療用防護マスクの技術要求」基準における濾過効率と吸気抵抗に関する指標を満たす必要があるだけであり、この医療用防護マスクの抗菌・抗ウイルス機能を実現するために、この特許明細書では「銅イオンは、正に帯電し、細菌の細胞膜に到達すると、細胞膜は、負に帯電しているため、金属イオンは、クーロンの引力により、細胞膜をしっかりと吸着し、さらに細胞壁を貫通し、細胞壁を破裂させて細胞質の流出を引き起こし、細菌の繁殖を妨げ、最終的に細菌の死亡を引き起こすことができる」が記載される。
同様に、このときの銅イオンは、ヒト細胞の負に帯電した細胞膜に作用して、細胞構造を破壊するという作用を果たすこともでき、これは、この医療用防護マスクが強い細胞毒性を持ち、生物学的安全性の要求を満たすことができないことを示している。この特許明細書で記載される「銅元素は人体に無害で、環境を汚染せず、良い抗菌性を兼有する唯一の金属元素である」という主張が誤り、多くの権威ある文献は、すべて銅元素が強い細胞毒性を有することを証明している((1)Wataha JC.Effect of cell line on in vitro metal ion cytotoxicity[J].Dental Materials,1994,10(3):156-161;(2)WatahaJC,Hanks CT,Craig RG.The in vitro effects of metal cations on eukaryotic cell metabolism.[J].Journal of Biomedical Materials Research PartA,2010,25.)。したがって、この発明に係る医療用防護マスクは、生物学的安全性を犠牲にして抗菌・抗ウイルス効果を取得するため、医療従事者が新型クラウンウイルスに対して長期間着用することに適していなく、抗新型コロナウイルスに適用しない医療用防護マスクである。
【0018】
また、従来技術における銅元素を含有するマスク材料は、例えば中国特許公報CN100490925C(滅菌・抗ウイルスマスク及びその製造方法)、中国特許公報CN102171322B(ヴィリオンの伝播を低減するための乾式消毒パッチ)、中国特許公報CN111235871A(銅含有キトサン繊維で作られた抗ウイルス濾過層及びその応用)、中国特許公報CN111264932A(新型抗菌サージカルマスク)などであり、上記銅元素は、高い抗菌・抗ウイルス性を達成するために、必然的に細胞構造を破壊させ、細胞毒性を増加させる。
【0019】
上述したように、従来技術の問題は、銅元素(銅単体、一価銅イオン化合物、二価銅イオン化合物、銅イオン変性ゼオライト材料を含む)を含む材料は、民生用マスクに使用され得るが、生物学的安全性が高い医療用マスクに使用され得ない。例えば、通常の医療用マスク又は医療用サージカルマスクは、業界基準における細胞毒性に関する関連規定(YYT0969-2013「使い捨て医療用マスク」及びYY0469-2011「医療用サージカルマスク」)に合致する必要があり、かつ細胞毒性は、国家基準「医療機器生物学的評価 第5部:インビトロ細胞毒性試験」GB/T16886.5-2017/ISO 10993-5:2009の規定に厳しく従って実行する必要があり、また、銅元素の細胞毒性及び抗菌・抗ウイルス性能は正相関であり、十分に優れた抗菌・抗ウイルス性を達成するために、銅元素の含有量を十分に高くする必要があるが、それに応じて細胞毒性も増加する。つまり、医療用マスク又は医療用サージカルマスクの細胞毒性生物学的安全性指標を達成するために、必然的に抗菌・抗ウイルス性能を達成することができず、逆に、高い抗菌・抗ウイルス性能を達成するために、必然的に細胞毒性の要求を犠牲にする必要があり、医療用マスクの生物学的安全性要求に達することができない。つまり、従来技術は銅元素含有材料の十分に高い抗菌・抗ウイルス性能及び十分に低い細胞毒性を同時に満たすことができず、つまり、銅元素含有材料は、マスクへの銅元素の生物学的評価の安全性と細菌・ウイルスの殺滅の高効率を同時に達成することができず、医療用マスクの細胞毒性に関する規定を満たすことができない。さらに、既存のマスク本体の構造に従って、銅元素含有材料のマスクが生物学的安全性要求の高い医療用マスクに使用されることを実現することもできない。銅元素含有材料のマスクが生物学的安全性要求の高い医療用マスクに用いられることを実現することもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】中国特許公報CN111469498A
【文献】中国特許公報CN100490925C
【文献】中国特許公報CN102171322B
【文献】中国特許公報CN111235871A
【文献】中国特許公報CN111264932A
【非特許文献】
【0021】
【文献】Kunitoshi Imai etc., Inactivation of high and low pathogenic avian influenza virus H5 subtypes by copper ions incorporated in zeolite-textile materials, Antiviral Res . 2012 Feb;93(2):225-233
【文献】Wataha JC. Effect of cell line on in vitro metal ion cytotoxicity[J]. Dental Materials,1994,10(3):156-161;
【文献】WatahaJC,Hanks CT,Craig RG. The in vitro effects of metal cations on eukaryotic cell metabolism.[J].Journal of Biomedical Materials Research PartA,2010,25.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従来技術の欠点について、本発明の第1の目的は、銅元素を含むが、十分に低い細胞毒性及び十分に高い抗菌・抗ウイルス性能を同時に持ち、生物学的安全性要求が高い医療用材料として使用でき、特に新型コロナウイルスを殺すためのバイオセーフティ医療用材料に適用する多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
従来技術の問題に基づいて、発明者は、複数回の絶え間ない試験及び研究を通じて、特定の構造の銅系ゼオライト繊維層と特定層を特定の順序で積層し、最外層の銅系ゼオライト繊維層と第1の中間層の孔隙サイズの相対的なサイズを制御すると同時に、銅系ゼオライトの質量を、上記径方向界面に沿って外側から内側に段階的に分布するように制御して作製された医療用材料が、細菌又はウイルスを吸着した後、銅系ゼオライト繊維層の表面にロックされた銅イオンを使用して細菌又はウイルスのタンパク質/アミノ酸などの生物学的高分子と作用して、細菌又はウイルスを殺すことができ、かつ医療用材料の細胞毒性を大幅に低減し、医療用材料の生物学的安全性を確保し、医療用材料の細胞毒性の技術要求を満たすため、細胞毒性を有する銅系ゼオライト繊維が、特定のマクロ構造下で、銅元素材料を含む医療用材料を製造し、それと同時に、十分に高い抗菌・抗ウイルス性及び十分に低い細胞毒性を有し、医療用マスク業界基準における細胞毒性に関する規定を満たし、従来の学術的考え方を打ち破り、従来技術の技術的障害を突破し、医療用材料への銅元素含有材料の応用の技術的偏見を克服することを、予期せずに発見する。
【0024】
本発明に記載される細胞毒性が国家基準「医療機器の生物学的評価 第5部:インビトロ細胞毒性試験」GB/T 16886.5-2017/ISO 10993-5:2009の規定に厳しく従って検出された結果であることを、特に指摘すべきである。
【0025】
本発明は次の技術的解決策を採用する:多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料であって、上記医療用材料は、4層の構造を含み、最外層、第1の中間層、第2の中間層及び最内層を順次含み、上記最外層及び第2の中間層が銅系ゼオライト繊維層であり、第1の中間層が疎水性繊維層であり、最内層が親水性繊維層であり、上記最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズが第1の中間層の疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きく、上記銅系ゼオライト繊維層が銅系ゼオライト及び繊維糸を含み、上記繊維糸が繊維で巻回されたものであり、銅系ゼオライトが繊維の表面に独立して分散し、銅系ゼオライトの質量が上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少する(
図1、
図2、
図3に示す)。
【0026】
上記孔隙サイズは、繊維層の孔隙の最大孔隙径分布範囲を指し、さらに、各孔隙の実際の孔径は、繊維層の孔隙を通過できない最小粒子の直径を指す。
上記医療用材料の最内層は、着用者の体に貼り付ける面を指す。
上記医療用材料の最外層は、着用者の体から最も遠い面を指す。
【0027】
上記銅系ゼオライトは、ゼオライトの表面又はゼオライトの骨格内又はゼオライトの骨格外に銅イオンが含まれ、上記銅イオンがCu1+及び/又はCu2+から選択されるものを指す。
上記ゼオライトの骨格内の銅イオンは、銅イオンとSi、Al又はO元素がゼオライトの骨格構造を構成するものを指す。
【0028】
上記ゼオライトの骨格外の銅イオンは、銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオンを指し、上記銅系ゼオライトの骨格外の金属イオンは、陽イオンとして[SiO4] 0及び[AlO4]-四面体からなるゼオライトの陰イオン骨格構造のバランスをとるものを指す。
【0029】
上記親水性繊維層は、親水性繊維で構成され、上記親水性繊維は、繊維の高分子鎖上の一定の数を有する極性が強い基(-OH、-NH2、-C=Oなど)を指す。
【0030】
上記疎水性繊維層は、密度が低くかつ疎水性又は耐水性が強い繊維で構成され、上記疎水性繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、変性ポリエステルのいずれかの1種類又は複数種類から選択される。典型的には、ポリエチレンテレフタレート繊維及びポリエチレンを含みかつ圧力を加えて点接合によって加工された低密度の点接合不織布層を使用することができる。
本発明の医療用材料が十分に高い抗菌・抗ウイルス性と十分に低い細胞毒性を有するメカニズムは以下の通りである:
【0031】
疎水性繊維層は、その孔隙サイズが銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズよりも小さく、かつその表面がウォーターロック効果を有するため、上記ウォーターロックとは疎水性繊維層の表面(銅系ゼオライト繊維層に近い)に極めて小さな水滴を形成することを指し、少量の銅系ゼオライトから溶出される銅イオンを銅系ゼオライト繊維層の局所領域に制限することに役立つ。銅系ゼオライトの質量は、繊維糸の径方向界面に沿って繊維糸の外周から内部に段階的に減少し(銅系ゼオライトの質量が大きいほど、それに含まれる銅イオンの濃度が高くなる)、溶液中にイオンが高濃度から低濃度への拡散効果を有するため、マスクの着用中に吐き出された水蒸気が銅系ゼオライト繊維層に浸透すると、繊維糸の表面層にロックされたゼオライトの細孔にロックされた銅イオンは、繊維内部への動き「傾向」があるが、ゼオライトの内部の骨格構造の制限により、銅イオンは繊維糸の外周から内側に動く傾向があるが、それでも繊維糸の表面のゼオライトの細孔にロックされ、上記銅イオンは、Cu1+及び/又はCu2+から選択される。細胞のサイズは、一般的に5-200μmであるが、細菌のサイズは、一般的に0.2-5μmであり、ウイルスのサイズは、一般的に200nm未満である。銅イオンが銅系ゼオライトの細孔に制限されており、少量の銅系ゼオライトから溶出される銅イオンが銅系ゼオライト繊維層の局所領域に制限されているため、大きなサイズの細胞と接触しにくく、細胞との作用の可能性を低減させ、細胞毒性を大幅に減らす。細菌及びウイルスは、サイズが小さいため、銅系ゼオライト繊維層の銅系ゼオライトに吸着されてもよく、このとき、ゼオライトの細孔にロックされた銅イオン及び繊維層の局所領域に少量分布する銅イオンは、細菌及びウイルスに作用して、細菌及びびウイルスを殺す優れた性能を発揮する。
好ましくは、上記銅系ゼオライトは、電子受容体を有する銅元素を含む。
電子受容体は、銅系ゼオライトの銅元素が、銅系ゼオライトの表面にある基から与えられた電子を受容する能力を備えるものを指す。
好ましくは、上記銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオンは、Cu2+を含む。
好ましくは、上記銅系ゼオライトは、孤立電子対を含む基及び/又は共役結合を有する基を含む。
孤立電子対を含む上記基とは、上記基の少なくとも1つの原子を持つ最も外側の電子層に、共有結合の形成に使用されない非結合性電子があるものを指す。
共役結合を有する上記基とは、上記基にΠ電子が含まれ、共役系の電子雲の分布を変更することができるものを指す。
上記銅系ゼオライトは、-COOH基及び/又は-COO-基を含む。
好ましくは、上記銅系ゼオライトは、孤立電子対を含むN基を含み、好ましくは、孤立電子対を含む上記N基は、-NH2基を含む。
好ましくは、第1の中間層と第2の中間層との間にメルトブロー不織布層を加えることができる。
【0032】
上記メルトブロー不織布の組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、変性ポリエステルのいずれか1種類又は複数種類を含む。
好ましくは、上記第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、最内層の親水性繊維層の孔隙サイズよりも大きい。
【0033】
好ましくは、上記銅系ゼオライトの粒径D90は、0.5~20μmであり、好ましくは、上記銅系ゼオライトの粒径D90は、1~15μmであり、より好ましくは、上記銅系ゼオライトの粒径D90は、5~10μmである。
【0034】
D90とは繊維表面の銅系ゼオライトの微粒子の累積粒度分布率が90%に達する時の対応する粒径である。その物理的意味は、粒径がそれよりも大きい銅系ゼオライトの微粒子が10%占め、粒径がそれよりも小さい銅系ゼオライトの微粒子が90%占めることである。上記銅系ゼオライトの微粒子は、元の銅系ゼオライトの成長によって形成された境界を保持する、一定の形状を有するサイズが50ミクロン未満のゼオライト幾何学的体である。
【0035】
好ましくは、上記銅系ゼオライト繊維層中の銅元素の質量分率は、0.02~4wt%であり、好ましくは、上記銅系ゼオライト繊維層中の銅元素の質量分率は、0.5~2wt%であり、より好ましくは、上記銅系ゼオライト繊維層中の銅元素の質量分率は、1~1.5wt%である。
【0036】
好ましくは、上記Cu2+は、銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の5%~40%を占め、好ましくは、上記Cu2+は、銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の10%~30%を占め、好ましくは、上記Cu2+は、銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の15%~20%を占める。
上記金属イオン含有量は、金属イオン原子数の割合を指す。
【0037】
好ましくは、上記銅系ゼオライトのSi/Al比は、1.5~5であり、好ましくは、上記銅系ゼオライトのSi/Al比は、1.8~3であり、好ましくは、上記銅系ゼオライトのSi/Al比は、2~2.5である。
上記銅系ゼオライトのSi/Al比は、両者の原子数の比(モル比)である。
好ましくは、上記繊維表面に独立して分散している銅系ゼオライトでは、銅系ゼオライトの微粒子ごとに独自の境界がある。
【0038】
好ましくは、上記独立分散とは、銅系ゼオライト微粒子とそれに最も近く隣接する銅系ゼオライト微粒子との間の最小距離が2つの銅系ゼオライト微粒子の粒径の合計の2分の1以上であることを指し、即ちd≧r
1+r
2であり、ここで、r
1、r
2がそれぞれ2つの隣接する銅系ゼオライト微粒子の2分の1を表し、dが2つの隣接する銅系ゼオライト微粒子間の最小距離を表す(
図4に示す)。
好ましくは、上記銅系ゼオライトは、ゼオライトナノ粒子で構成されている。
【0039】
好ましくは、上記銅系ゼオライトは、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、A型ゼオライト、チャバザイト、L型ゼオライト、P型ゼオライトのいずれかの1種類又は複数種類から選択される。
【0040】
好ましくは、上記銅系ゼオライト繊維層の繊維は、レーヨン繊維、アセテート繊維、カルボキシメチルセルロース、竹繊維、綿繊維、木質繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維のいずれかの1種類又は複数種類から選択される。
本発明の第2の目的は、多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料の製造方法を提供することである。上記方法は、
1)疎水性繊維層、親水性繊維層を作製するステップと、
2)銅系ゼオライト繊維層を製作するステップであって、銅系ゼオライト繊維層の製作方法が、
【0041】
(a)繊維を巻回すように繊維糸を形成し、繊維糸をゼオライトの核形成及び成長のためのステントとして銅系ゼオライトを含む繊維糸を合成し、ここで、銅系ゼオライトの含有量が上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に小さな勾配を持っているステップと、
(b)銅系ゼオライトを含む上記の繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編むステップとを含むステップと、
【0042】
3)銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層、親水性繊維層の順で、4層型抗菌・抗ウイルス医療用材料を作製するステップであって、上記最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズが疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きいステップとを含む。
好ましくは、疎水性繊維層と親水性繊維層との間にメルトブロー不織布層を加えることができる。
【0043】
好ましくは、上記親水性繊維層は、親水性繊維で構成され、上記親水性繊維は、繊維の高分子鎖上の一定の数を有する極性が強い基(-OH、-NH2、-C=Oなど)を指す。
【0044】
好ましくは、上記疎水性繊維層は、密度が低くかつ疎水性又は耐水性が強い繊維で構成され、上記疎水性繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、変性ポリエステルのいずれかの1種類又は複数種類から選択される。典型的には、ポリエチレンテレフタレート繊維及びポリエチレンを含みかつ圧力を加えて点接合によって加工された低密度の点接合不織布層を使用することができる。
【0045】
本発明の第3の目的は、上記医療用マスクは、上記のいずれかの形態の多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料又は上記のいずれかの形態の製造方法で製造された多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料を含む、医療用マスクを提供することである。
上記マスクの最内層は、着用者の顔に貼り付ける面を指す。
上記マスクの最外層は、着用者の顔から最も遠い面を指す。
上記マスクは、マスク本体と、マスク本体の両側に接続されたイヤーストラップとを含む。
【0046】
上記マスクは、医療用マスクであってもよいし、民生用マスクであってもよい。上記医療用マスクは、通常の医療用マスク、医療用サージカルマスク、医療用防護マスクであってもよい。
【0047】
本発明の第4の目的は、上記のいずれかの形態の多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料又は上記のいずれかの形態の製造方法で製造された多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料を含む、医療用防護マスクを提供することである。
【0048】
本発明の第5の目的は、上記のいずれかの形態の多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料又は上記のいずれかの形態の製造方法で製造された多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料を含む、医療用防護用品を提供することである。
【0049】
さらに、上記医療用防護用品とは、防護服、フェイススクリーン、手袋、靴、ブーツ、帽子、イヤーマフなどを含むがこれらに限定されない医療従事者の職業安全防護のための着用品である。
【発明の効果】
【0050】
従来技術と比べて、本発明の有益な効果は以下のとおりである:
【0051】
1.本発明は、銅系ゼオライト繊維層に基づく医療用材料の安全性(細胞毒性)と有効性(抗菌・抗ウイルス性)の拮抗的問題を初めて解決し、銅元素含有材料を使用して医療用材料を製造することができない従来技術の技術的偏見を克服する。本発明によって提供される医療用材料は、4層を含み、銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層、親水性繊維層の順序で積層されて構成さ、上記銅系ゼオライト繊維層が銅系ゼオライト及び繊維糸を含み、上記繊維糸が繊維で巻回されたものであり、銅系ゼオライトが繊維の表面に独立して分散し、銅系ゼオライトの含有量が上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少し、銅系ゼオライト繊維層のマクロ構造(4層繊維複合構造)と銅系ゼオライト繊維層のミクロ構造に基づく全体的な設計及び制御により、医療用材料のミクロ構造とマクロ構造が全体に相乗効果を発揮するようにし、それによって十分に低い細胞毒性と十分に高い抗菌・抗ウイルス性能を同時に持っている医療用材料が作製され、医療用マスク業界基準における細胞毒性に関する規定を満たす。この技術的発明により、医療従事者、防疫担当者が、診断された患者及びリスクが高く感染しやすい環境、細菌及びウイルスの数が多い環境に直面するときに、非常に効果的な保護措置を備えていることが確保され、それによって細菌・ウイルス感染の可能性を大幅に低減させる。
【0052】
2.さらに、本発明は、銅イオンの放出をゼオライトで制御するだけでなく、孤立電子対を含む基及び/又は共役結合を有する基を銅系ゼオライトの表面に導入することにより、医療用材料の細胞毒性をさらに低減し、細菌及びウイルスが銅系ゼオライトの表面にロックされた銅イオンを介して作用し、細菌・ウイルスの殺滅効率が向上し、一方では、水蒸気への銅イオンの溶解がさらに制限され、医療従事者の長期着用によるセキュリティリスクが杜絶される。
【0053】
3.さらに、メルトブロー布は、医療用材料の濾過効果を高めるだけでなく、静電荷効果もある。その静電荷効果は、銅イオンの動き区間をさらに調整及びロックすることができ、本発明の高い抗菌・抗ウイルス性能及び十分に低い細胞毒性に対して一定のバランス効果を有する。
【0054】
4.本発明は、細菌・ウイルスを二重に不活化する医療用材料を初めて提供する。本発明によって提供される医療用材料は、4層構造を含み、2層の銅系ゼオライト繊維層を含む。ここで、最外層の銅系ゼオライト繊維層は、医療用材料の最外層に付着している、細菌・ウイルスを運ぶ飛沫に対して、細菌・ウイルスを効果的に殺すことができる。そのため、本発明の設計スキームは、細菌・ウイルスを運んで体内に侵入することを防ぐことができるだけでなく、他方では、医療用材料の外層に付着した細菌・ウイルスを完全に殺し、汚染された医療用材料が交差感染となる可能性を杜絶し、細菌・ウイルスの再伝播のリスクを排除することができる。本発明の第2の中間層は銅系ゼオライト繊維層であり、最内層は親水性線維層であり、医療用材料を着用している者自身がウイルス源を運び、ウイルス・細菌を運ぶ唾液を吐き出すと、唾液は親水性繊維層を通過して銅系ゼオライト繊維層に入り、唾液中のウイルス・細菌は銅系ゼオライト繊維層に効果的に不活化され、ウイルス源を運ぶ者がウイルス・細菌を外に伝播することを防止することができる。したがって、本発明の多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料は、ウイルスを二重に不活化することができ、健康な人々及び患者の両方に対して高効率の保護を有する。
【0055】
5.本発明の医療用材料及び製造された医療用防護用品は、低い細胞毒性と高い抗菌・ウイルス性の2つの主要な技術的利点を有し、高い細菌・ウイルス殺滅性能を確保するために細胞毒性を犠牲にする必要がない。本発明の技術は、生存能力が強く且つ変異が速い新型クラウンウィルスに対して、高いウィルス(特に新型クラウンウィルス)殺滅効果と十分な生物学的安全性を有するため、医療用マスクの業界基準を再構築し、伝統的な学術的考え方を打ち破り、従来の実践的医療防護の技術的欠陥を突破することが期待され、高い理論的及び産業的実用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】本発明の多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料の各層の配列の模式図であり、1-銅系ゼオライト繊維層、2-疎水性繊維層、3-銅系ゼオライト繊維層、4-親水性繊維層である。
【
図2】本発明の銅系ゼオライト繊維層における銅系ゼオライトを含む繊維糸の走査型電子顕微鏡図である。
【
図3】繊維糸の径方向界面に沿った本本発明の銅系ゼオライトの分布の模式図であり、5-繊維糸、6-繊維糸の径方向界面、7-銅系ゼオライト。上記繊維糸の径方向界面は繊維糸の断面を指し、銅系ゼオライトの質量は繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少する(図に示される銅系ゼオライトの質量は矢印の方向に沿って段階的に減少する)。
【
図4】本発明の多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料の銅系ゼオライト繊維層の繊維表面上の隣接する銅系ゼオライト微粒子の位置関係の模式図であり、銅系ゼオライト微粒子が繊維表面に独立して分散している。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本明細書で用いられる用語「含む」、「包括」、「有する」、「含有」又は任意の他の変形は、非排他的な包括をカバーすることを意図している。例えば、示された要素を含む組成物、ステップ、方法、製品又は装置は、必ずしもそれらの要素に限定されないが、明確に示されていない他の要素又はそれらの組成物、ステップ、方法、製品又は装置に固有の他の要素を含み得る。
【0058】
また、本発明の要素又はコンポーネントの前の不定冠詞「一種」及び「1つ」は、要素又はコンポーネントの数(即ち出現回数)は、制限的に要求されない。したがって、「一種」又は「1つ」は、1つ又は少なくとも1つ含むと解読されべきであり、単数形の要素又はコンポーネントは、上記数が単数形を明確に示していない限り、複数形も含む。
【0059】
銅イオンの溶出量の測定:医療用材料を0.1g/mLの割合でMEM培養液に24h浸漬した後、医療用材料の浸出液を得て、得られた浸出液を誘導結合プラズマ発光分析計で検出し、浸出液内のCu2+濃度を得る。
細胞毒性検出験(国家基準「医療機器の生物学的評価 第5部:インビトロ細胞毒性試験」GB/T 16886.5-2017/ISO 10993-5:2009を参照):医療用材料を0.1g/mLの割合でMEM培養液で24h浸漬した後、医療用材料の浸出液を得る。Vero細胞培養培地(1×105)をCO2インキュベーターに22~26h培養する。培地を除去し、医療用材料の浸出液を加え、CO2インキュベーターに入れて24h培養する。ベロ(Vero)細胞の形態学的変化を顕微鏡で観察し、培地を除去し、50μLのMTT溶液を加え、CO2インキュベーターに入れて2h培養し、MTT溶液を除去し、各細孔に100μLのイソプロパノールを加え、滴定プレートを振って、吸光度を570nmで測定する。測定された吸光度に応じて、細胞に対応する生存率に換算する。
【0060】
材料抗菌性能試験方法:グラム陰性大腸菌(Escherichia coli)ATCC25922、グラム陰性クレブシエラニューモニアエ(Klesiella pneumoniae)ATCC70063、グラム陽性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC6538。a)細菌懸濁液の調製。栄養ブロスを蒸留水で500倍希釈し、オートクレーブ後に希釈剤として使用する。接種リングが火炎滅菌された後、1リングの斜面栄養寒天培地上の菌種を、希釈液が入った試験管に取って10倍希釈法で菌液を適切な濃度[約(1~9)×105CFU/mL]に希釈し、これは実験的な細菌溶液である。b)測定待ち医療用材料を滅菌された培養皿に平らに敷き、0.15mLの細菌懸濁液を吸い取って医療用材料に滴下し、400mm±2mmの被覆膜を被覆し、菌懸濁液を医療用材料に均一に被覆させるが、薄膜のエッジを超えないようにし、培養皿を覆って室温で1h作用して生菌のカウント処理を行う。c)生菌のカウント。医療用材料及び被覆物を10mLのSCDLPブロスで繰り返して洗浄する。1mLの洗浄液+9mLのリン酸緩衝液を均一にして10倍希釈し、1mL吸い取って培養皿に入れ、15mL~20mLのプレートカウント寒天(46℃~48℃)を加えて混合し、固化した後、(36±1℃の)生化学的インキュベーターに入れて40h~48h培養し、GB4889.2の方法に従い、生菌の数即ちプレート内の数をカウントし、滅菌率を計算する。
【0061】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の不活化の試験方法:医療用材料を6ウェルプレートに中央が凹む椀型で置き、0.5mLのウイルス液を医療用材料にゆっくりと滴下し(30s)、ウイルス液がマスクに吸収されて滴り落ちないことを確保し、一定時間(15min)インキュベートする。各細孔に2mLの培養液を加え、十分に2min浸透させ、マスクを廃棄し、各細孔に1mLのベロ細胞培養液(5×105)を加え、均一に混合し、CO2インキュベーターに入れて72h培養する。細胞病変を観察し、ウイルス核酸(PCR)を検出する。細胞培養上清液を200μL吸い取り、磁気ビーズ法核酸抽出キット(MVR01)と全自動核酸抽出器でウイルス核酸を抽出し、最終的な溶出量は50μLである。5μLの核酸抽出物を取り、ワンステップ新型コロナウイルス核酸検出キットを使用し、ウイルス核酸のレベルを検出し、Ct値に基づいてウイルスに対する材料の阻害率を計算する。
【0062】
本発明の実施例は、マスクを例として、多層型銅系ゼオライト繊維医療用材料及びそれで製造されたマスクの製造方法、構造特徴、生物学的安全性(例えば細胞毒性)及び抗菌・抗ウイルス性を説明する。
実施例1
本発明に係るマスク1の製造方法は、次のステップを含む。
【0063】
マスクは、最外層、第1の中間層、第2の中間層及び最内層を含み、上記最外層及び第2の中間層が銅系ゼオライト繊維層で構成され、第1の中間層が疎水性繊維層であり、最内層が親水性繊維層である。
【0064】
ここで、第1の中間層は、密度が低くかつ疎水性又は耐水性が強い繊維で構成され、典型的には、ポリエチレンテレフタレート繊維及びポリエチレンを含みかつ圧力を加えて点接合によって加工された低密度の点接合不織布を使用することができ、第1の中間層の孔隙サイズは40~60μmに設定される。
最内層は、吸水性不織布層である。
ここで、最外層と第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の作製方法は以下のとおりである。
【0065】
(1)ゼオライト前駆体溶液を調製し、起始物料を8Na2O:Al2O3:9SiO2:180H2Oのモル比で構成し、ゼオライト前駆体溶液を合成する。60本の綿繊維を繊維糸に撚り合わせて紡糸し、綿繊維を巻いて繊維糸を形成し、ゼオライト前駆体溶液と繊維糸を均一に混合し、110℃で36h熱処理してY型ゼオライト繊維糸を得る。5M硫酸銅溶液に3回、毎回3h浸した後、脱イオン水で数回すすいで、銅系ゼオライトを含む繊維糸を形成する。
(2)銅系ゼオライトを含む上記繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編む。銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは100μmに設定される。
【0066】
上記銅系ゼオライトのSi/Al比は2であり、Cu2+は銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の20%を占め、銅系繊維層における銅元素の質量分率は2wt%である。
【0067】
作製した銅系ゼオライト繊維糸を走査型電子顕微鏡で観察すると、上記繊維糸は、繊維が螺旋状に巻かれたものであり、平均粒径7μmの半球状の銅系ゼオライトは、繊維の表面に独立して分散し、かつ上記銅系ゼオライトの含有量は、上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少する。得られた銅系ゼオライトを走査型電子顕微鏡で観察すると、銅系ゼオライトは、ナノ粒子からなる微粒子であり、銅系ゼオライトは、繊維と緊密に結合している。ここで、最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、第1の中間層の疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きく、第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、最内層の繊維の孔隙サイズよりも大きい。
上記の銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層、親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク1のマスク本体を作製する。
比較例1
実施例1で作製した銅系ゼオライト繊維層を比較例1として実施例1と比較する。
比較例2
【0068】
疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を順次ヒートシールして、比較マスクのマスク本体1を得て、実施例1と比較する。
比較例3
銅系ゼオライト繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を順次ヒートシールして、比較マスクのマスク本体2を得て、実施例1と比較する。
比較例4
銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層及び銅系ゼオライト繊維層を順次ヒートシールして、比較マスクのマスク本体3を得て、実施例1と比較する。
比較例5
中国の発明CN111469498Aの銅イオン抗菌生地を含む医療用防護材料の製造方法を参照する。
【0069】
その外から内に順次設けられた一次濾過層、抗菌生地層、精密濾過層、肌にやさしい快適層のうちの「抗菌生地層」を、本発明に記載の「銅系ゼオライト繊維層」に置き換えて、比較例5の医療用防護材料に再統合する。
【0070】
本発明の上記の方法に従って、実施例1、比較例1-5で作製された医療用防護材料を、銅イオン溶出、抗菌、抗ウイルス、細胞毒性の検出を行い、結果を表1に示す。
【0071】
実施例1を比較例1-4と比較すると、銅系ゼオライト繊維層は、強い細胞毒性を有するが、銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親和性水繊維層が順次積層されたマスク本体は、小さい細胞毒性を有し、医療用マスク業界基準における細胞毒性に関する規定に合致することがわかる(表1)。また、本発明の疎水性繊維層、親水性繊維層を減少させ、又は疎水性繊維層の相対位置(比較例1)を変更すると、銅イオンの溶出量が増加し、マスク本体の細胞毒性が増加し、これは、医療用マスクの生物学的評価基準に合致していない。本発明の銅系ゼオライト繊維層及び特定のマスク層を特定の順序で積層し、最外層の銅系ゼオライト繊維層と第1の中間層の孔隙サイズの相対的なサイズを制御する同時に、銅系ゼオライトの質量を、上記径方向の界面に沿って外側から内側に段階的に分布するように制御し、疎水性繊維層の表面のウォーターロック、及び銅イオンの静電吸着などの様々な相乗効果により、銅イオンをロックし、銅イオンの溶出量を制限し、細胞との作用の可能性を低減させ、細胞毒性を大幅に低下させ、細菌・ウイルスをゼオライトで吸着し、銅ゼオライトの表面にある高濃度の銅イオンをロックして細菌・ウイルスの活性を阻害し、高い抗菌・抗ウイルス効果を奏する。
【0072】
比較例1-4から、銅イオンの溶出量と細胞毒性、抗菌・抗ウイルス性との相互関係を知ることができる。銅元素の含有量が少ないと、優れた抗菌・抗ウイルスの性能効果(<70%)を達成できず、逆に、高い抗菌・抗ウイルス性能(>90%)を達成するために、銅元素の含有量が多いと、必然的にその細胞毒性を犠牲にする必要があり、医療用マスク業界基準における細胞毒性に関する規定を満たすことができない。
【0073】
実施例1と比較例5の医療用防護材料の比較から、従来技術において医療用防護材料の抗菌・抗ウイルス機能層を本発明の銅系ゼオライト繊維層に置き換えても、依然として低い細胞毒性と高い抗菌・抗ウイルス性を同時に達成することができないことがわかる。これにより、本発明により予期せずに発見された銅系ゼオライト繊維層のマクロ構造及び銅系ゼオライト繊維層のミクロ構造に基づく全体的な設計及び制御により、マスクのミクロ構造とマクロ構造は、相乗効果を全体的に果たし、それは、高い抗菌・抗ウイルス性及び低い細胞毒性を有する。
比較例6
【0074】
実施例1との違いは、製造された銅系ゼオライト繊維層において、銅系ゼオライトの含有量が繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に等しく、残りの製造ステップがいずれも同じであり、比較マスクのマスク本体4を形成することである。
ここで、最外層と第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の作製方法は以下のとおりである。
(1)ゼオライト前駆体溶液を調製し、起始物料を8Na2O:Al2O3:9SiO2:180H2Oのモル比で構成し、ゼオライト前駆体溶液を合成する。
【0075】
綿繊維とゼオライト前駆体溶液を均一に混合し、110℃で36h熱処理してY型ゼオライト繊維を得る。5M硫酸銅溶液に3回、毎回3h浸した後、脱イオン水で数回すすいで、銅系ゼオライトを含む繊維を形成する。
銅系ゼオライトを含む60本の繊維を、銅系ゼオライトを含む繊維糸に撚り合わせて紡糸する。
【0076】
(2)銅系ゼオライトを含む上記繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編み、銅系ゼオライトの含有量が繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に等しい。
比較例7
【0077】
実施例1との違いは、製造された銅系ゼオライト繊維層において、銅系ゼオライトの含有量が繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に増加し、残りの製造ステップがいずれも同じであり、比較マスクのマスク本体5を形成することである。
ここで、最外層と第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の作製方法は以下のとおりである。
【0078】
(1)ゼオライト前駆体溶液を調製し、起始物料を8Na2O:Al2O3:9SiO2:180H2Oのモル比で構成し、ゼオライト前駆体溶液を合成する。60本の綿繊維を繊維糸に撚り合わせて紡糸し、綿繊維を巻いて繊維糸を形成し、ゼオライト前駆体溶液と繊維糸を均一に混合し、110℃で36h熱処理してY型ゼオライト繊維糸を得る。5M硫酸銅溶液に3回、毎回3h浸した後、脱イオン水で数回すすいで、銅系ゼオライトを含む繊維糸(前駆体)を形成する。
【0079】
(2)銅系ゼオライトを含む繊維糸(前駆体)を解き、銅系ゼオライトを含む繊維を、外側から内側に段階的に増加するように再配列し、繊維を含む60本繊維を、銅系ゼオライトを含む繊維糸に再び撚り合わせて紡糸する。
【0080】
上記の得られた銅系ゼオライトを含む繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編み、銅系ゼオライトの含有量が繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に増加する。
【0081】
実施例1と比較例6、比較例7との比較から、本発明の上記銅系ゼオライトの含有量は、上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少し、細胞毒性と新型コロナウイルスの不活化効率とのバランスをとる上で協調的な役割を果たし、その結果、マスク材料全体が低い細胞毒性(高い細胞生存率)、高いウイルス不活化性を有することがわかる(表2)。逆に、繊維糸における他の2種類の銅系ゼオライトの分布状況では、高い細胞毒性、高いウイルス不活化性があり、又は、わずかに低い細胞毒性、低いウイルス不活化性があるため、低い細胞毒性、高いウイルス不活化性を同時に達成することができ、医療用マスク業界基準における細胞毒性に関する規定を満たすことができない。
実施例2
本発明に係るマスク2の製造方法は、次のステップを含む。
【0082】
マスクは、最外層、第1の中間層、第2の中間層及び最内層を含み、上記最外層及び第2の中間層が銅系ゼオライト繊維層で構成され、第1の中間層が疎水性繊維層であり、最内層が親水性繊維層である。
ここで、最外層と第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の作製方法は以下のとおりである。
【0083】
(1)ゼオライト前駆体溶液を調製し、起始物料を8Na2O:Al2O3:9SiO2:180H2Oのモル比で構成し、ゼオライト前駆体溶液を合成する。60本の綿繊維を繊維糸に撚り合わせて紡糸し、綿繊維を巻いて繊維糸を形成し、ゼオライト前駆体溶液と繊維糸を均一に混合し、110℃で36h熱処理してY型ゼオライト繊維糸を得る。5M硫酸銅溶液に3回、毎回3h浸した後、脱イオン水で数回すすいで、銅系ゼオライトを含む繊維糸を形成する。
(2)銅系ゼオライトを含む上記繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編む。
(3)銅系ゼオライトの表面を-COO-基で修飾する。
【0084】
上記銅系ゼオライトのSi/Al比は2であり、Cu2+は銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の20%を占め、銅系繊維層における銅元素の質量分率は2wt%である。
【0085】
作製した銅系ゼオライト繊維糸を走査型電子顕微鏡で観察すると、上記繊維糸は、繊維が螺旋状に巻かれたものであり、平均粒径7μmの半球状の銅系ゼオライトは、繊維の表面に独立して分散し、かつ上記銅系ゼオライトの含有量は、上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少する。得られた銅系ゼオライトを走査型電子顕微鏡で観察すると、銅系ゼオライトは、ナノ粒子からなる微粒子であり、銅系ゼオライトは、繊維と緊密に結合している。ここで、最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、第1の中間層の疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きく、第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、最内層の繊維層の孔隙サイズよりも大きい。
上記の銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク2のマスク本体を作製する。
【0086】
上記の-COO-基で修飾された銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、-COO-基で修飾された銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク2のマスク本体を作製する。
実施例3
本発明に係るマスク3の製造方法は、次のステップを含む。
【0087】
マスクは、最外層、第1の中間層、第2の中間層及び最内層を含み、上記最外層及び第2の中間層が銅系ゼオライト繊維層で構成され、第1の中間層が疎水性繊維層であり、最内層が親水性繊維層である。
ここで、最外層と第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の作製方法は以下のとおりである。
【0088】
(1)ゼオライト前駆体溶液を調製し、起始物料を8Na2O:Al2O3:9SiO2:180H2Oのモル比で構成し、ゼオライト前駆体溶液を合成する。60本の綿繊維を繊維糸に撚り合わせて紡糸し、綿繊維を巻いて繊維糸を形成し、ゼオライト前駆体溶液と繊維糸を均一に混合し、110℃で36h熱処理してY型ゼオライト繊維糸を得る。5M硫酸銅溶液に3回、毎回3h浸した後、脱イオン水で数回すすいで、銅系ゼオライトを含む繊維糸を形成する。
(2)銅系ゼオライトを含む上記繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編む。
(3)銅系ゼオライトの表面を-NH2基で修飾する。
【0089】
上記銅系ゼオライトのSi/Al比は2であり、Cu2+は銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の20%を占め、銅系繊維層における銅元素の質量分率は2wt%である。
【0090】
作製した銅系ゼオライト繊維糸を走査型電子顕微鏡で観察すると、上記繊維糸は、繊維が螺旋状に巻かれたものであり、平均粒径7μmの半球状の銅系ゼオライトは、繊維の表面に独立して分散し、かつ上記銅系ゼオライトの含有量は、上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少する。得られた銅系ゼオライトを走査型電子顕微鏡で観察すると、銅系ゼオライトは、ナノ粒子からなる微粒子であり、銅系ゼオライトは、繊維と緊密に結合している。ここで、最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、第1の中間層の疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きく、第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、最内層の繊維の孔隙サイズよりも大きい。
上記銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク3のマスク本体を作製する。
【0091】
上記の-NH2基で修飾された銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、-NH2基で修飾され銅系ゼオライト繊維層、親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク3のマスク本体を作製する。
実施例4
本発明に係るマスク4の製造方法は、次のステップを含む。
【0092】
マスクは、最外層、第1の中間層、第2の中間層及び最内層を含み、上記最外層及び第2の中間層が銅系ゼオライト繊維層で構成され、第1の中間層が疎水性繊維層であり、最内層が親水性繊維層である。
ここで、最外層と第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の作製方法は以下のとおりである。
【0093】
(1)ゼオライト前駆体溶液を調製し、起始物料を8Na2O:Al2O3:9SiO2:180H2Oのモル比で構成し、ゼオライト前駆体溶液を合成する。60本の綿繊維を繊維糸に撚り合わせて紡糸し、綿繊維を巻いて繊維糸を形成し、ゼオライト前駆体溶液と繊維糸を均一に混合し、110℃で36h熱処理してY型ゼオライト繊維糸を得る。5M硫酸銅溶液に3回、毎回3h浸した後、脱イオン水で数回すすいで、銅系ゼオライトを含む繊維糸を形成する。
(2)銅系ゼオライトを含む上記繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編む。
(3)銅系ゼオライトの表面を-NH2基と-COO-基で同時に修飾する。
【0094】
上記銅系ゼオライトのSi/Al比は2であり、Cu2+は銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の20%を占め、銅系繊維層における銅元素の質量分率は2wt%である。
【0095】
作製した銅系ゼオライト繊維糸を走査型電子顕微鏡で観察すると、上記繊維糸は、繊維が螺旋状に巻かれたものであり、平均粒径7μmの半球状の銅系ゼオライトは、繊維の表面に独立して分散し、かつ上記銅系ゼオライトの含有量は、上記繊維糸の径方向界面に沿って外側から内側に段階的に減少する。得られた銅系ゼオライトを走査型電子顕微鏡で観察すると、銅系ゼオライトは、ナノ粒子からなる微粒子であり、銅系ゼオライトは、繊維と緊密に結合している。ここで、最外層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、第1の中間層の疎水性繊維層の孔隙サイズよりも大きく、第2の中間層の銅系ゼオライト繊維層の孔隙サイズは、最内層の繊維の孔隙サイズよりも大きい。
上記の銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層、親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク4のマスク本体を作製する。
【0096】
上記の-NH
2基、-COO
-基で修飾された銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、-NH
2基、-COO
-基で修飾された銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク4のマスク本体を作製する。
【0097】
実施例1、実施2、実施例3、実施例4から、銅系ゼオライト繊維層が強い細胞毒性を有するが、銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親和性水繊維層が順次積層されたマスク本体が小さい細胞毒性を有することがわかる(表3)。また、銅系ゼオライト繊維層の銅系ゼオライト表面を-NH2基又は-COO-基で修飾する場合、銅系ゼオライトの表面にある電子受容体を有する銅イオンと配位することで、Cu2+をロックし、Cu2+の溶出量を減らし、細胞との作用の可能性を低減させ、細菌又はウイルスをゼオライトで吸着し、ウイルス及び細菌の活性を銅系ゼオライトの表面の高濃度の銅イオンで阻害する。この技術的特徴は、細胞の生存率をさらに向上させるだけでなく、新型コロナウイルスの不活化効率も高める。
実施例5
本発明に係るマスク5の製造方法は、次のステップを含む。
【0098】
マスクは、銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、メルトブロー不織布、銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を含む。ここで、銅系ゼオライト繊維層の作製方法は以下のとおりである。
【0099】
(1)ゼオライト前駆体溶液を調製し、起始物料を8Na2O:Al2O3:9SiO2:180H2Oのモル比で構成し、ゼオライト前駆体溶液を合成する。60本の綿繊維を繊維糸に撚り合わせて紡糸し、綿繊維を巻いて繊維糸を形成し、ゼオライト前駆体溶液と繊維糸を均一に混合し、110℃で36h熱処理してY型ゼオライト繊維糸を得る。5M硫酸銅溶液に3回、毎回3h浸した後、脱イオン水で数回すすいで、銅系ゼオライトを含む繊維糸を形成する。
(2)銅系ゼオライトを含む上記繊維糸を縦糸及び横糸として銅系ゼオライト繊維層に編む。
【0100】
上記銅系ゼオライトのSi/Al比は2であり、Cu2+は銅系ゼオライトの骨格外のバランス電荷の金属イオン含有量の20%を占め、銅系繊維層における銅元素の質量分率は2wt%である。
【0101】
上記の銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、メルトブロー不織布、銅系ゼオライト繊維層、親水性繊維層を順次ヒートシールして、本発明のマスク5のマスク本体を作製する。
【0102】
細胞毒性検出では、このマスク5のマスク本体の銅イオンの溶出量は0.98ppmであり、細胞生存率は83%であり、抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)試験では、ウイルス不活化率は99.92%である。
実施例6-11
【0103】
マスク6-11は、銅系ゼオライト繊維層、疎水性繊維層、銅系ゼオライト繊維層及び親水性繊維層を含む。上記作製ステップは実施例1の製作ステップと同じであり、銅系ゼオライト繊維層の組成のみを変更し、実施例6-11のマスク(表4、表5)を製造し、具体的には以下のとおりである。
【0104】
【0105】
【0106】
上記の実施例は、本発明を説明するためのものだけであるが、本発明の範囲を限定するものではない。実施例1-11ではマスクを例として本発明の医療用材料の製造方法、構造特徴、生物学的安全性(例えば細胞毒性)及び抗菌・抗ウイルス性を説明するが、本発明の技術的解決策はさらに様々な医療用防護用品に適用することができ、上記医療用防護用品とは医療従事者の職業安全防護に使用される着用品を指し、防護服、フェイススクリーン、手袋、靴、ブーツ、帽子、イヤーマフなどを含むがこれらに限定されない。また、本発明の教示を読んだ後、当業者は本発明に対して様々な変更又は修正を行うことができ、これらの同等の形態も本出願の添付の特許請求の範囲によって定義される範囲内にあることを理解すべきである。