(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20221221BHJP
G01N 3/00 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
G16C20/30
G01N3/00 K
(21)【出願番号】P 2021191460
(22)【出願日】2021-11-25
【審査請求日】2022-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年3月2日、https://confit.atlas.jp/guide/event/jim2021spring/session/4F01-07/date、https://jim.or.jp/MEETINGS/2021_spr/news/collect.html、公益社団法人日本金属学会2021年春期(第168回)講演大会講演概要集、公益社団法人日本金属学会
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直樹
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誠司
(72)【発明者】
【氏名】矢島 高志
(72)【発明者】
【氏名】小山 敏幸
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-003747(JP,A)
【文献】特開2017-224098(JP,A)
【文献】特開2005-121535(JP,A)
【文献】特開2014-203242(JP,A)
【文献】特開2018-112525(JP,A)
【文献】深堀 美英,ゴムのカーボンブラック補強解明の新展開(下),日本ゴム協会誌,2010年,Vol.83 No.6,pp.182-189
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 20/00
G01N 3/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスポリマーにフィラーが分散されたポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置であって、
前記マトリックスポリマーの母相のモデル、前記フィラーのモデル、前記マトリックスポリマーの前記母相と前記フィラーとの間に位置する前記マトリックスポリマーの界面相のモデルにより形成されたシミュレーションモデルを記憶する記憶部と、
前記シミュレーションモデルに対して振動ひずみを付与した場合に力学的平衡方程式を解くことにより、前記ポリマー複合材料の貯蔵弾性率および損失弾性率を解析する解析部と、
を備え、
前記界面相のモデルは、
前記界面相における貯蔵弾性率および損失弾性率を、前記マトリックスポリマーのゴム状態とガラス状態との割合を設定するためのフェーズフィールド変数を用いて定義したモデルであ
り、
前記マトリックスポリマーの前記ゴム状態および前記ガラス状態の両者を含むように前記フェーズフィールド変数が設定された領域を有するモデルである、ポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項2】
前記界面相のモデルは、
前記マトリックスポリマーの前記ゴム状態および前記ガラス状態の両者を含むように前記フェーズフィールド変数が設定された領域として、前記フェーズフィールド変数を、前記母相側の位置と前記フィラー側の位置とで異なる値に定義したモデルである、請求項1に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記界面相のモデルは、前記フェーズフィールド変数を、前記母相側から前記フィラー側に行くに従って連続的に変化する値に定義したモデルである、請求項2に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記界面相のモデルは、
前記マトリックスポリマーの前記ゴム状態および前記ガラス状態の両者を含むように前記フェーズフィールド変数が設定された領域として、前記フェーズフィールド変数を1つの値として定義したモデルである、請求項1に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記界面相のモデルは、前記振動ひずみの角周波数に応じて異なる値として定義され、
前記界面相のモデルにおいて、少なくとも前記マトリックスポリマーのゴム状態の貯蔵弾性率および損失弾性率は、前記振動ひずみの角周波数に応じて異なる値として定義され、
前記界面相のモデルにおいて、前記フェーズフィールド変数は、前記振動ひずみの角周波数に応じて変化しない値として定義される、請求項
1~4
のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記界面相のモデルは、前記フェーズフィールド変数を前記界面相の貯蔵弾性率および損失弾性率において異なる値に設定可能に構成されており、前記界面相の貯蔵弾性率の前記フェーズフィールド変数および前記界面相の損失弾性率の前記フェーズフィールド変数を同一値に定義したモデルである、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項7】
前記マトリックスポリマーのゴム状態における貯蔵弾性率および損失弾性率は、前記母相における貯蔵弾性率および損失弾性率に等しい、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項8】
前記母相のモデルは、一般化マクスウェルモデルである、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項9】
前記母相のモデルは、前記母相における貯蔵弾性率および損失弾性率を、前記マトリックスポリマーのゴム状態とガラス状態との割合を設定するためのフェーズフィールド変数を用いて定義したモデルである、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項10】
前記フィラーのモデルは、弾性体として定義し、粘性率をゼロとするモデルである、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項11】
前記シミュレーションモデルは、前記フィラーのモデルを不均一に配置したモデルである、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項12】
さらに、
前記シミュレーションモデルを作成可能に構成されたシミュレーションモデル作成処理部、を備え、
前記シミュレーションモデル作成処理部は、前記シミュレーションモデルの定義領域において、前記母相の位置、前記フィラーの位置、前記界面相の位置を設定可能に構成されている、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項13】
前記シミュレーションモデル作成処理部は、前記ポリマー複合材料の断面画像を取得し、前記断面画像に基づいて前記母相の位置、前記フィラーの位置、前記界面相の位置を設定可能に構成された、請求項12に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項14】
前記界面相の位置は、予め設定された厚み情報に基づいて設定される、請求項12または13に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【請求項15】
前記シミュレーションモデルは、メゾスケールの定義領域を有するモデルであって、前記フィラーの分散状態が前記ポリマー複合材料の粘弾性特性に与える影響を把握するためのモデルである、請求項1~14のいずれか1項に記載のポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリマー複合材料の粘弾性特性に関するシミュレーションについて記載されている。このシミュレーションの対象であるポリマー複合材料は、マトリックスポリマーにフィラーが分散された材料である。この種のポリマー複合材料において、マトリックスポリマーは、母相として存在する部位と、フィラーに接近した界面相の部位とでは、性質が異なる。そして、母相および界面相の粘弾性特性を、有限要素モデルとして設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘弾性特性を有限要素モデルとして設定する場合には、自由度が低い。ポリマー複合材料は、界面相が全領域に亘って同一の粘弾性特性を有するものや、領域ごとに粘弾性特性が異なるものなど存在する。また、ポリマー複合材料において、界面相の厚みも重要である。そして、界面相の厚みに応じて、界面相における各領域の粘弾性特性を変化させることができると、より高精度にポリマー複合材料の粘弾性特性を得ることができる。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、有限要素モデルとは異なるモデルを用いたポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、マトリックスポリマーにフィラーが分散されたポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置であって、
前記マトリックスポリマーの母相のモデル、前記フィラーのモデル、前記マトリックスポリマーの前記母相と前記フィラーとの間に位置する前記マトリックスポリマーの界面相のモデルにより形成されたシミュレーションモデルを記憶する記憶部と、
前記シミュレーションモデルに対して振動ひずみを付与した場合に力学的平衡方程式を解くことにより、前記ポリマー複合材料の貯蔵弾性率および損失弾性率を解析する解析部と、
を備え、
前記界面相のモデルは、
前記界面相における貯蔵弾性率および損失弾性率を、前記マトリックスポリマーのゴム状態とガラス状態との割合を設定するためのフェーズフィールド変数を用いて定義したモデルであり、
前記マトリックスポリマーの前記ゴム状態および前記ガラス状態の両者を含むように前記フェーズフィールド変数が設定された領域を有するモデルである、ポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記シミュレーション装置によれば、界面相のモデルが、フェーズフィールド変数を用いて定義したモデルである。フェーズフィールド変数を変更することにより、界面相のモデルの特性を自由に設定することができる。従って、界面相のモデルの自由度が高く、設定が容易である。その結果、ポリマー複合材料の粘弾性特性について、高精度にシミュレーションを行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1におけるシミュレーション装置の対象としてのポリマー複合材料の断面画像を示す図である。
【
図3】実施形態1におけるシミュレーション装置の構成を示す図である。
【
図4】シミュレーション装置を構成するシミュレーションモデル作成処理部による処理を示すフローチャートである。
【
図5】ポリマー複合材料のシミュレーションモデルを示す図であって、各要素としてのフィラー、母相および界面相の位置を定義したモデルを示す図である。
【
図6】
図5に示すシミュレーションモデルの拡大図であって、各位置(画素)において、フィラー、母相および界面相の分布を表す図である。
【
図7】実施形態1におけるポリマー複合材料の各要素のモデルタイプを示す図である。
【
図8】実施形態1における母相のモデルタイプとしての一般化マクスウェルモデルを示す図である。
【
図9】実施形態1における界面相のフェーズフィールド変数を示す図である。
【
図10】実施形態1において、フィラー、母相、界面相における弾性率を示す模式図である。
【
図11】シミュレーション装置を構成する解析部による処理において、シミュレーションモデルに対して振動ひずみを付与する前後の状態を示す図である。
【
図12】実施形態1における解析部による結果としてのポリマー複合材料の粘弾性特性を示す図である。
【
図13】実施形態2における界面相のフェーズフィールド変数を示す図である。
【
図14】実施形態2において、フィラー、母相、界面相における弾性率を示す模式図である。
【
図15】実施形態3において、フィラー、母相、界面相における弾性率を示す模式図である。
【
図16】実施形態4におけるポリマー複合材料の各要素のモデルタイプを示す図である。
【
図17】実施形態4における母相および界面相のフェーズフィールド変数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態1)
1.シミュレーションの対象P
シミュレーションの対象Pについて
図1を参照して説明する。シミュレーションの対象Pは、ポリマー複合材料である。ゴム複合材料などのポリマー複合材料は、例えば、タイヤ、ダンパ、靴、スポーツ用品など、種々の分野で使用されている。ポリマー複合材料は、マトリックスポリマーに、目的に応じたフィラーが分散されて形成されている。例えば、タイヤは、マトリックスポリマーに、カーボンブラックなどの充填剤としてのナノフィラーが分散されることにより、補強された加硫ゴムが用いられる。
【0010】
また、ナノフィラーの凝集により、ポリマー複合材料において、凝集したフィラーが不均一に分布している。そこで、
図1に示すように、シミュレーションの対象Pは、フィラーが不均一に分布したポリマー複合材料とする。ただし、シミュレーションの対象Pは、フィラーが均一に分布したポリマー複合材料とすることもできる。
【0011】
また、タイヤなどは、変形荷重を繰り返し受ける。そこで、シミュレーションの対象Pは、繰り返し変形を生じさせるための振動ひずみを受けるポリマー複合材料とする。つまり、シミュレーションの対象Pは、不均一な組織形態を直接考慮したポリマー複合材料であって、動的粘弾性特性を評価対象とするポリマー複合材料とする。
【0012】
また、シミュレーションの対象Pは、メゾスケール、すなわち、10nm~100μmを一辺とする定義領域を有する。シミュレーションの対象Pの定義領域のサイズは、フィラーの分散状態がポリマー複合材料の粘弾性特性に影響を把握することができるサイズとしている。
【0013】
2.粘弾性特性について
ポリマー複合材料の粘弾性特性について
図2を参照して説明する。ポリマー複合材料に各角周波数ωで振動するひずみε(t)を付与し、時間応答する応力σ(t)を測定する。この場合のひずみε(t)、および、応答する応力σ(t)は、
図2に示す挙動となる。つまり、応答する応力σ(t)は、ひずみε(t)に対してδだけ位相が遅れる。ひずみε(t)は、式(1)により表され、応答する応力σ(t)は、式(2)により表される。
【0014】
【0015】
【0016】
この場合、貯蔵弾性率G’(ω)は、式(3)により表される。貯蔵弾性率G’(ω)は、式(2)の第2式の第1項を、ひずみε(t)の振幅ε(0)にて除した値である。貯蔵弾性率G’(ω)は、ポリマー複合材料の弾性的な部分を表す。
【0017】
【0018】
また、損失弾性率G”(ω)は、式(4)により表される。つまり、損失弾性率G”(ω)は、式(2)の第2式の第2項を、ひずみε(t)の振幅ε(0)にて除した値である。損失弾性率G”(ω)は、ポリマー複合材料の粘性的な部分を表す。
【0019】
【0020】
損失正接tanδは、式(5)により表される。つまり、損失正接tanδは、損失弾性率G”(ω)を、貯蔵弾性率G’(ω)にて除した値である。
【0021】
【0022】
本形態においては、ポリマー複合材料の動的粘弾性特性は、貯蔵弾性率G’(ω)、損失弾性率G”(ω)、および、損失正接tanδを含む。
【0023】
3.シミュレーション装置1の構成
シミュレーション装置1の構成について
図3を参照して説明する。シミュレーション装置1は、
図1に示すポリマー複合材料をシミュレーションの対象Pとする。そして、シミュレーション装置1は、マトリックスポリマーにフィラーが不均一に分布したポリマー複合材料を対象Pとし、振動ひずみを付与した場合の動的粘弾性特性を解析するための装置である。シミュレーション装置1は、ポリマー複合材料の動的粘弾性特性として、貯蔵弾性率G’(ω)、損失弾性率G”(ω)、および、損失正接tanδを解析する。
【0024】
図3に示すように、シミュレーション装置1は、シミュレーションモデル作成処理部2、記憶部3、解析部4を備えて構成される。シミュレーションモデル作成処理部2は、
図1に示す対象Pであるポリマー複合材料のモデルMを作成する。記憶部3は、作成されたシミュレーションモデルMを記憶する。解析部4は、シミュレーションモデルMに対して振動ひずみを付与した場合に力学的平衡方程式を解くことにより、ポリマー複合材料の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”および損失正接tanδを解析する。
【0025】
4.シミュレーションモデル作成処理部2の処理
シミュレーションモデル作成処理部2の処理について
図4~
図10を参照して説明する。
図4に示すように、シミュレーションモデル作成処理部2は、シミュレーションモデルMの要素位置を設定する要素位置設定処理S10を実行し、その後に、シミュレーションモデルMの各要素のパラメータを設定するパラメータ設定処理S40を実行する。
【0026】
要素位置設定処理S10は、
図5および
図6に示すような、メゾスケールの定義領域、すなわち、10nm~100μmを一辺とする定義領域を有するシミュレーションモデルMを設定する。シミュレーションモデルMをメゾスケールの定義領域を有するモデルとすることにより、上述した目的である動的粘弾性特性を評価することができる。特に、シミュレーションモデルMは、フィラーAの分散状態がポリマー複合材料の粘弾性特性に与える影響を把握するためのモデルとして用いられる。
【0027】
図5および
図6に示すように、シミュレーションモデルMは、フィラーAのモデル、マトリックスポリマーの母相Bのモデル、マトリックスポリマーの界面相Cのモデルにより形成されたモデルである。つまり、要素位置設定処理S10は、シミュレーションモデルMの定義領域において、フィラーAの位置、母相Bの位置、界面相Cの位置を設定する処理である。
【0028】
本形態では、フィラーAは、例えば、カーボンブラックである。ただし、フィラーAは、カーボンブラックの他に、種々の機能を発揮するための充填剤を適用することができる。マトリックスポリマーは、ゴムやエラストマーであって、本形態では、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)などを適用する。
【0029】
シミュレーションモデルMは、
図5および
図6に示すように、不均一に分散して配置された複数のフィラーAのモデルを備える。フィラーAのモデルは、ナノフィラーが凝集することにより構成されている。従って、個々のフィラーAのモデルは、形も大きさも異なる。
【0030】
マトリックスポリマーの母相Bのモデルは、マトリックスポリマー単層として存在する領域に位置する。従って、マトリックスポリマーの母相Bのモデルは、マトリックスポリマー単層の性質を有する。母相Bのモデルは、フィラーAのモデルから離れた位置に位置する。
【0031】
マトリックスポリマーの界面相Cのモデルは、マトリックスポリマーの母相BのモデルとフィラーAのモデルとの間に位置する。特に、界面相Cのモデルは、フィラーAのモデルの表面に位置する。そこで、界面相Cのモデルは、フィラーAのモデルの表面からの厚みにより表される。つまり、界面相Cのモデルの位置は、フィラーAのモデルの表面から、予め設定された界面相Cの厚み情報に基づいて設定される。ここで、界面相Cのモデルの厚みは、予め設定することができ、マトリックスポリマーの材質やフィラーの材質などによって適宜設定することができる。
【0032】
図4に戻り、要素位置設定処理S10の詳細な処理について説明する。要素位置設定処理S10は、例えば、3種類の中から選択された方法により、シミュレーションモデルMの要素位置を設定することができる。要素位置設定処理S10は、画像利用の方法、画像参照の方法、自由作成の方法のいずれかにより設定することができる。
【0033】
要素位置設定処理S10の1つとしての画像利用の方法は、まず、
図1に示すようなシミュレーションの対象Pのポリマー複合材料の断面画像を取得する(S11)。断面画像は、フィラーAおよびマトリックスポリマーにより表されている。続いて、断面画像に基づいて、フィラーAの位置を設定する(S12)。例えば、断面画像を2値化して、フィラーAの位置を特定することができる。
【0034】
続いて、界面相Cの位置を設定する(S13)。界面相Cの位置は、予め設定された界面相Cの厚み情報に基づいて、フィラーAの表面から厚み情報に相当する厚みの領域に設定される。続いて、マトリックスポリマーの残りの領域を、母相Bの位置として設定する(S14)。このようにして、シミュレーションモデルMの定義領域において、フィラーAの位置、母相Bの位置、界面相Cの位置が設定される。
【0035】
要素位置設定処理S10の1つとしての画像参照の方法は、まず、
図1に示すようなシミュレーションの対象Pのポリマー複合材料の断面画像を取得する(S21)。断面画像は、フィラーAおよびマトリックスポリマーにより表されている。続いて、断面画像に基づいて、フィラーAの位置を設定する(S22)。例えば、断面画像を2値化して、フィラーAの位置を特定することができる。続いて、操作者の操作により、フィラーAの位置を修正する(S23)。
【0036】
続いて、界面相Cの位置を設定する(S24)。界面相Cの位置は、予め設定された界面相Cの厚み情報に基づいて、フィラーAの表面から厚み情報に相当する厚みの領域に設定される。続いて、マトリックスポリマーの残りの領域を、母相Bの位置として設定する(S25)。このようにして、シミュレーションモデルMの定義領域において、フィラーAの位置、母相Bの位置、界面相Cの位置が設定される。
【0037】
要素位置設定処理S10の1つとしての画像参照の方法は、まず、操作者の操作により、シミュレーションモデルMの定義領域に、フィラーAの位置を設定する(S31)。続いて、界面相Cの位置を設定する(S32)。界面相Cの位置は、予め設定された界面相Cの厚み情報に基づいて、フィラーAの表面から厚み情報に相当する厚みの領域に設定される。続いて、マトリックスポリマーの残りの領域を、母相Bの位置として設定する(S33)。このようにして、シミュレーションモデルMの定義領域において、フィラーAの位置、母相Bの位置、界面相Cの位置が設定される。
【0038】
パラメータ設定処理S40は、まず、対象要素としての界面相Cのモデルのフェーズフィールド変数を設定する(S41)。続いて、シミュレーションモデルMを構成する対象要素としてのフィラーAのモデル、母相Bのモデル、界面相Cのモデルを作成する(S42)。このようにして、シミュレーションモデルMが作成される。
【0039】
ここで、本形態では、シミュレーションモデルMの各要素A,B,Cのモデルタイプは、
図7に示すように設定されている。
図7に示すように、フィラーAのモデルは、弾性体として定義し、粘性率をゼロとする。弾性体として定義されたフィラーAのモデルは、一定の弾性率を有するモデルとする。例えば、フィラーAのモデルの弾性率は、70GPaとする。
【0040】
図7に示すように、マトリックスポリマーの母相Bのモデルは、一般化マクスウェルモデルとして定義する。一般化マクスウェルモデルは、
図8に示すように、バネとダッシュポッドを直列に配列した直列ユニットを、複数並列に配列する。バネは、弾性的な挙動を表し、ダッシュポッドは、粘性的な挙動を表す。
【0041】
一般化マクスウェルモデルにおける貯蔵弾性率G’r(ω)は、式(6)により表される。一般化マクスウェルモデルにおける損失弾性率G”r(ω)は、式(7)により表される。 式(6)(7)より、母相Bのモデルにおける貯蔵弾性率G’r(ω)および損失弾性率G”r(ω)は、振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値として定義されている。
【0042】
【0043】
【0044】
本形態においては、例えば、SBRとしてのマトリックスポリマーのガラス状態での貯蔵弾性率G’gは、2~3.5GPaとし、SBRとしてのマトリックスポリマーのガラス状態での損失弾性率G”gは、0Paとする。ただし、これらの値も自由に設定することができる。
【0045】
図7に示すように、マトリックスポリマーの界面相Cのモデルは、式(8)に示すように、フェーズフィールド変数xを用いて表されたモデル(フェーズフィールドモデル)として定義する。式(8)によれば、界面相Cのモデルは、複素弾性率G
*
iを、フェーズフィールド変数xを用いて定義されている。フェーズフィールド変数xは、マトリックスポリマーのゴム状態での複素弾性率G
*
rと、マトリックスポリマーのガラス状態での複素弾性率G
*
gとの割合を設定するための変数である。
【0046】
式(8)に示すように、界面相Cのモデルは、振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値として定義されている。フェーズフィールド変数xは、振動ひずみの角周波数ωに応じて変化しない値として定義されている。ただし、フェーズフィールド変数xは、振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値となるように定義することもできる。
【0047】
【0048】
ここで、式(9)に示すように、マトリックスポリマーのガラス状態での複素弾性率G*
gは、マトリックスポリマーのガラス状態での貯蔵弾性率G’gと、マトリックスポリマーのガラス状態での損失弾性率G”gとにより表すことができる。ガラス状態での貯蔵弾性率G’gおよび損失弾性率G”gとは、振動ひずみの角周波数ωに応じて変化しない値として定義されている。従って、ガラス状態での複素弾性率G*
gは、振動ひずみの角周波数ωに応じて変化しない値として定義されている。
【0049】
【0050】
また、式(10)に示すように、マトリックスポリマーのゴム状態での複素弾性率G*
r(ω)は、マトリックスポリマーのゴム状態での貯蔵弾性率G’r(ω)と、マトリックスポリマーのゴム状態での損失弾性率G”r(ω)とにより表すことができる。ゴム状態での貯蔵弾性率G’r(ω)および損失弾性率G”r(ω)とは、振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値として定義されている。従って、ゴム状態での複素弾性率G*
r(ω)は、振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値として定義されている。
【0051】
マトリックスポリマーのゴム状態における貯蔵弾性率G’r(ω)は、上述したマトリックスポリマーの母相Bにおける貯蔵弾性率G’r(ω)に等しい。また、マトリックスポリマーのゴム状態における損失弾性率G”r(ω)は、上述したマトリックスポリマーの母相Bにおける損失弾性率G”r(ω)に等しい。
【0052】
【0053】
式(9)および式(10)を、式(8)に代入すると、界面相Cのモデルの複素弾性率G*
iは、式(11)のように表される。式(11)を展開して、実数部と虚数部とに分離することで、実数部に該当する界面相Cのモデルの貯蔵弾性率G’iは、式(12)のように表され、虚数部に該当する界面相Cのモデルの損失弾性率G”iは、式(13)のように表される。そして、式(12)(13)より、界面相Cのモデルの貯蔵弾性率G’iおよび損失弾性率G”iは、振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値として定義されている。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
式(12)(13)より、界面相Cのモデルは、界面相Cにおける貯蔵弾性率G’iおよび損失弾性率G”iを、フェーズフィールド変数xを用いて定義したモデルとなる。フェーズフィールド変数xは、0~1の範囲の値をとる。界面相Cにおけるフェーズフィールド変数xが1のときには、界面相Cのモデルは、マトリックスポリマーのゴム状態に一致する。つまり、界面相Cにおけるフェーズフィールド変数xが1のときには、母相Bのモデルと同様のふるまいを示す。一方、界面相Cにおけるフェーズフィールド変数xが0のときには、界面相Cのモデルは、マトリックスポリマーのガラス状態に一致する。
【0058】
フェーズフィールド変数xを変更することにより、界面相Cにおける貯蔵弾性率G’iおよび損失弾性率G”iを、自由に設定することができる。つまり、フェーズフィールド変数xを変更することにより、界面相Cを、ゴム状態に近い状態とするのか、ガラス状態に近い状態にするのか、自由に設定することができる。従って、界面相Cにおける貯蔵弾性率G’iおよび損失弾性率G”iの設定は、自由度が高く、かつ、容易となる。
【0059】
ここで、界面相Cのモデルは、フェーズフィールド変数xを1つの値として定義したモデルとすることができる。また、界面相Cのモデルは、フェーズフィールド変数xを、母相B側の位置とフィラーA側の位置とで異なる値に定義することもできる。フェーズフィールド変数xは、異なる値とする場合、段階的に変化させることもできるし、連続的に変化させることもできる。
【0060】
さらに、界面相Cのモデルは、フェーズフィールド変数xを、界面相Cにおける貯蔵弾性率G’iおよび損失弾性率G”iにおいて異なる値に設定することもできる。従って、界面相Cにおいて、貯蔵弾性率G’iのフェーズフィールド変数xと、損失弾性率G”iのフェーズフィールド変数xとを異なる値として定義することができる。当然に、界面相Cにおいて、貯蔵弾性率G’iのフェーズフィールド変数xと、損失弾性率G”iのフェーズフィールド変数xとを同一値に定義することも可能である。
【0061】
本形態においては、
図9に示すように、フェーズフィールド変数xは、界面相Cのモデルのみに適用しており、例えば0.8の1つの値としている。つまり、界面相Cの領域内の全ての位置のフェーズフィールド変数xが、同一値としている。さらに、界面相Cにおいて、貯蔵弾性率G’
iのフェーズフィールド変数xと、損失弾性率G”
iのフェーズフィールド変数xとも同一値としている。
【0062】
そして、上述したように、例えば、SBRとしてのマトリックスポリマーのガラス状態での貯蔵弾性率G’gは、2~3.5GPaとし、SBRとしてのマトリックスポリマーのガラス状態での損失弾性率G”gは、0Paとする。ただし、これらの値も自由に設定することができる。
【0063】
フェーズフィールド変数xを1つの値とした場合、フィラーA、母相B、界面相Cの弾性率は、
図10に示すような関係を有する。つまり、フィラーAの弾性率が最も大きな値となり、母相Bの弾性率が最も小さな値となり、界面相Cの弾性率が、フィラーAと母相Bの間の弾性率となる。
【0064】
以上のようにして、シミュレーションモデルMが作成される。つまり、シミュレーションモデルMを構成するフィラーAの位置、フィラーAのモデル、母相Bの位置、母相Bのモデル、界面相Cの位置、界面相Cのモデルが作成される。ここでのフィラーAのモデルは、弾性体として定義し、粘性率をゼロとするモデルである。母相Bのモデルは、一般化マクスウェルモデルとして定義する。さらに、母相Bのモデルは、振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値に設定されている。母相Bのモデルにおいて、SBRとしてのマトリックスポリマーのガラス状態での貯蔵弾性率G’gは、2~3.5GPaとし、SBRとしてのマトリックスポリマーのガラス状態での損失弾性率G”gは、0Paとする。
【0065】
界面相Cのモデルは、フェーズフィールド変数xを用いて定義されており、さらに振動ひずみの角周波数ωに応じて異なる値に設定されている。界面相Cのモデルを構成する貯蔵弾性率G’iおよび損失弾性率G”iのそれぞれが、フェーズフィールド変数xを用いて定義されている。そして、作成されたシミュレーションモデルMは、記憶部3に記憶される。
【0066】
5.解析部4の処理
解析部4の処理について
図11および
図12を参照して説明する。解析部4は、記憶部3に記憶されたシミュレーションモデルMに対して、振動ひずみU(t)を付与した場合に、力学的平衡方程式を解くことにより、ポリマー複合材料の貯蔵弾性率、損失弾性率および損失正接tanδを解析する。
【0067】
振動ひずみU(t)は、式(14)により表される。
【0068】
【0069】
振動ひずみU(t)の境界条件として、
図11を参照して説明する。
図11(a)が、振動ひずみU(t)を付与していない状態を示し、
図11(b)が、振動ひずみU(t)を付与したある瞬間t
nの状態を示す。
図11(a)(b)において、下辺を基準辺とし、上辺を可動辺とする。つまり、振動ひずみU(t)を付与した場合に、基準辺は変位せずに、可動辺が変位する。
【0070】
図11(a)に示すように、振動ひずみU(t)を付与していない状態において、基準辺の境界条件は、式(15)に示す通りであり、可動辺の境界条件は、式(16)に示す通りである。また、
図11(b)に示すように、振動ひずみU(t)を付与していない状態において、基準辺の境界条件は、式(17)に示す通りであり、可動辺の境界条件は、式(18)に示す通りである。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
シミュレーションモデルMにおいて、内部のひずみ場は、式(19)のように表される。また、シミュレーションモデルMにおいて、内部の複素変位場として表すと、式(20)のようになる。
【0076】
【0077】
【0078】
微小ひずみ理論において、式(19)により定義されるシミュレーションモデルM内でのひずみE(r,t)と、式(20)により定義される変位φ(r,t)とは、式(21)の関係を有する。
【0079】
【0080】
また、ポリマー複合材料の複素弾性率C(r)、貯蔵弾性率C’(r)、損失弾性率C”(r)を、位置rの関数として定義した場合、式(22)のように表される。
【0081】
【0082】
そして、解析部4は、数値解析により、式(23)にて表される力学的平衡方程式を解く。式(23)を実数部と虚数部とに分解すると、式(24)(25)のように表される。そこで、解析部4は、数値解析により、式(24)(25)を解くことができる。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
解析部4は、例えば、反復法や直接法など、種々の数値解析手法を適用できる。例えば、解析部4は、反復法として、SOR法(逐次加速緩和法)、ヤコビ法、ガウス・ザイデル法、直接法として、ガウスの消去法、LU分解法などを適用することができる。解析部4は、数値解析の結果、ポリマー複合材料の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、損失正接tanδを得ることができる。
【0087】
解析部4により得られたポリマー複合材料の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、損失正接tanδは、
図12に示す。
図12に示すように、ポリマー複合材料の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、損失正接tanδは、振動ひずみU(t)の角周波数ωに応じた値として得られる。
【0088】
上述したように、シミュレーション装置1によれば、界面相Cのモデルが、フェーズフィールド変数xを用いて定義したモデルである。フェーズフィールド変数xを変更することにより、界面相Cのモデルの特性を自由に設定することができる。従って、界面相Cのモデルの自由度が高く、設定が容易である。その結果、ポリマー複合材料の粘弾性特性について、高精度にシミュレーションを行うことができるようになる。
【0089】
(実施形態2)
実施形態2のシミュレーション装置1について
図13および
図14を参照して説明する。本形態のシミュレーション装置1においては、
図13に示すように、界面相Cのモデルにおけるフェーズフィールド変数xが、界面相Cの位置によって異なる値として定義される。
【0090】
図13に示すように、界面相Cのモデルは、フェーズフィールド変数xを、母相B側の位置とフィラーA側の位置とで異なる値に定義したモデルとされる。例えば、界面相Cのモデルのフェーズフィールド変数xは、フィラーA側を0.9と定義し、母相B側を0.7と定義する。つまり、界面相Cのモデルは、フェーズフィールド変数xを、母相B側からフィラーA側に行くに従って、段階的に異なる値に定義したモデルとされる。
【0091】
フェーズフィールド変数xを
図13に示すように定義した場合、フィラーA、母相B、界面相Cの弾性率は、
図14に示すような関係を有する。つまり、フィラーAの弾性率が最も大きな値となり、母相Bの弾性率が最も小さな値となり、界面相Cの弾性率が、フィラーAと母相Bの間で2段階の弾性率となる。このような設定も、フェーズフィールド変数xを設定することにより実現することができ、非常に容易である。
【0092】
(実施形態3)
実施形態3のシミュレーション装置1について
図15を参照して説明する。本形態のシミュレーション装置1においては、界面相Cのモデルにおけるフェーズフィールド変数xが、界面相Cの位置によって異なる値として定義される。さらに、界面相Cのモデルは、フェーズフィールド変数xを、母相B側からフィラーA側に行くに従って、連続的に変化する値に定義したモデルとされる。例えば、母相A側からフィラーA側に行くに従って、フェーズフィールド変数xは、0.1→0.2→0.3→0.4→0.5→0.6→0.7→0.8→0.9のように、連続的に変化させる。
【0093】
この場合、フィラーA、母相B、界面相Cの弾性率は、
図15に示すような関係を有するようにできる。つまり、フィラーAの弾性率が最も大きな値となり、母相Bの弾性率が最も小さな値となり、界面相Cの弾性率が、フィラーAと母相Bの間で連続的に変化する弾性率となる。このような設定も、フェーズフィールド変数xを設定することにより実現することができ、非常に容易である。
【0094】
(実施形態4)
実施形態4のシミュレーション装置1について
図16および
図17を参照して説明する。本形態のシミュレーション装置1においては、ポリマー複合材料のシミュレーションモデルMの各要素A,B,Cのモデルタイプが、
図16に示すように設定されている。
図16に示すように、フィラーAのモデルは、弾性体として定義し、粘性率をゼロとする。
【0095】
母相Bのモデルは、母相Bにおける貯蔵弾性率G’r(ω)および損失弾性率G”r(ω)を、マトリックスポリマーのゴム状態とガラス状態との割合を設定するためのフェーズフィールド変数xを用いて定義したモデルとする。母相Bのモデルは、実施形態1における界面相Cのモデルと同様に設定される。ただし、フェーズフィールド変数xは、界面相Cとは異なる値に設定される。
【0096】
例えば、
図17においては、母相Bのモデルにおけるフェーズフィールド変数xを1に設定している。ただし、母相Bのモデルにおけるフェーズフィールド変数xを1以外の値に設定することができ、母相Bの位置によって異なる値とすることもできる。
【0097】
このように、界面相Cのみならず、母相Bについても、フェーズフィールド変数xを用いたモデルとすることにより、ポリマー複合材料のシミュレーションモデルMの自由度が高くなる。さらに、自由度が高くなるにも拘わらず、設定は容易である。従って、より実際のポリマー複合材料のシミュレーションを実現することができ、所望の結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 シミュレーション装置
2 シミュレーションモデル作成処理部
3 記憶部
4 解析部
A フィラー
B マトリックスポリマーの母相
C マトリックスポリマーの界面相
M シミュレーションモデル
x フェーズフィールド変数
U(t) 振動ひずみ
【要約】
【課題】有限要素モデルとは異なるモデルを用いたポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】マトリックスポリマーにフィラーが分散されたポリマー複合材料の粘弾性特性のシミュレーション装置1は、マトリックスポリマーの母相Bのモデル、フィラーAのモデル、マトリックスポリマーの界面相Cのモデルにより形成されたシミュレーションモデルMを記憶する記憶部3と、シミュレーションモデルMに対して振動ひずみU(t)を付与した場合に力学的平衡方程式を解くことにより、ポリマー複合材料の貯蔵弾性率および損失弾性率を解析する解析部4とを備える。界面相Cのモデルは、界面相Cにおける貯蔵弾性率および損失弾性率を、マトリックスポリマーのゴム状態とガラス状態との割合を設定するためのフェーズフィールド変数xを用いて定義したモデルである。
【選択図】
図4