IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 和歌山大学の特許一覧

特許7197891プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法
<>
  • 特許-プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法 図1
  • 特許-プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20221221BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C07K1/14
C08B37/00 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018196397
(22)【出願日】2018-10-18
(65)【公開番号】P2020063214
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真範
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166082(JP,A)
【文献】特開2018-090552(JP,A)
【文献】特開2016-128467(JP,A)
【文献】特開2015-177798(JP,A)
【文献】特開2014-014372(JP,A)
【文献】特開2012-120441(JP,A)
【文献】特開2011-219449(JP,A)
【文献】特開2016-113382(JP,A)
【文献】特開2002-308748(JP,A)
【文献】特開2003-052327(JP,A)
【文献】特開2010-124811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C08B 1/00-37/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)プロテオグリカン含有生物原料から、硫酸マグネシウム含有溶液でプロテオグリカンを抽出することを含み、且つ前記硫酸マグネシウム含有溶液の硫酸マグネシウム濃度が0.5~5Mである、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法。
【請求項2】
前記硫酸マグネシウム含有溶液の硫酸マグネシウム濃度が1.5~5Mである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記硫酸マグネシウム含有溶液の硫酸マグネシウム濃度が2.5~5Mである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記生物原料が、軟骨、結合組織、健、角膜、心房、基底膜、脳、皮膚、及びそれらの加工物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記生物原料の由来生物が、魚類、哺乳類、軟体動物、及び棘皮動物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記生物原料と前記硫酸マグネシウム含有溶液との重量比(生物原料:硫酸マグネシウム含有溶液)が1:0.5~1:30である、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記生物原料と前記硫酸マグネシウム含有溶液との重量比(生物原料:硫酸マグネシウム含有溶液)が1:1.5~1:6である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
抽出温度が10~40℃である、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
さらに、(b)工程aで得られた抽出物から不溶物を除去すること
を含む、請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
さらに、(c)工程b後、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを精製すること
を含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、動物の細胞外マトリックスを構成する高分子の一種である。プロテオグリカンは、保水性が高く、また、創傷治癒作用、抗炎症作用、細胞増殖促進作用等の多様な生理機能を有することが知られており、医薬品や実験試薬以外にも、化粧品や飲食品等の幅広い領域での利用が期待できる。このため、これらに利用可能なプロテオグリカンを、簡便かつ効率的に製造する方法の開発が求められている。
【0003】
従来、プロテオグリカンの製造方法としては、サケ等の魚類の軟骨からグアニジン塩酸溶液で抽出する方法が報告されている(特許文献1)。しかし、この方法では、魚類の独特の不快臭(獣臭、魚臭)を取り除くためにクロロホルムやメタノール等を用いた脱脂工程が必要であり、また脱脂工程を行っても不快臭を完全に取り除くことは不可能であった。また、この方法に使用されるグアニジン塩酸、クロロホルム、メタノール等は人体に有害であるとされているので、この方法で得られたプロテオグリカンは化粧品や飲食品等への利用が制限されていた。
【0004】
このような問題を解決する方法として、抽出溶液として、酢酸を用いる方法が報告されている(特許文献2)。しかしながら、この方法で得られたプロテオグリカンには、酢酸に起因すると考えられる、不快臭を発するという問題があった(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-172296号公報
【文献】特開2002-069097号公報
【文献】特開2009-173702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生体に対する安全性に優れたプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法を提供することを課題とする。好ましくは、本発明は、不快臭がより低減されたプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンのより簡便且つ効率的な製造方法を提供することをも課題とし得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、(a)プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン含有生物原料から、硫酸マグネシウム含有溶液でプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを抽出することを含む、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法、により上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. (a)プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン含有生物原料から、硫酸マグネシウム含有溶液でプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを抽出することを含む、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法。
【0010】
項2. 前記硫酸マグネシウム含有溶液の硫酸マグネシウム濃度が0.5~5Mである、項1に記載の製造方法。
【0011】
項3. 前記硫酸マグネシウム含有溶液の硫酸マグネシウム濃度が2.5~5Mである、項1又は2に記載の製造方法。
【0012】
項4. 前記生物原料が、軟骨、結合組織、健、角膜、心房、基底膜、脳、皮膚、及びそれらの加工物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
項5. 前記生物原料の由来生物が、魚類、哺乳類、軟体動物、及び棘皮動物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
項6. 前記生物原料と前記硫酸マグネシウム含有溶液との重量比(生物原料:硫酸マグネシウム含有溶液)が1:0.5~1:30である、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
項7. 前記生物原料と前記硫酸マグネシウム含有溶液との重量比(生物原料:硫酸マグネシウム含有溶液)が1:1.5~1:6である、項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
項8. 抽出温度が10~40℃である、項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
項9. さらに、(b)工程aで得られた抽出物から不溶物を除去すること
を含む、項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
項10. さらに、(c)工程b後、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを精製すること
を含む、項9に記載の製造方法。
【0019】
項11. 項1~10のいずれかに記載の製造方法で得られた、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン。
【0020】
項12. 項1~10のいずれかに記載の製造方法で得られた、プロテオグリカン。
【0021】
項13. 平均分子量が30kDa以上である、項12に記載のプロテオグリカン。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、生体に対する安全性に優れたプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、不快臭がより低減されたプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンのより簡便且つ効率的な製造方法を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1で得られたプロテオグリカンのHPLC結果を示す(試験例1)。
図2】実施例1で得られたプロテオグリカンをセルロースアセテート膜電気泳動した結果を示す(試験例2)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
本発明は、その一態様として、(a)プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン含有生物原料から、硫酸マグネシウム含有溶液でプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを抽出することを含む、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの製造方法(本明細書において「本発明の製造方法」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0026】
プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン含有生物原料(以下、単に「生物原料」と示すこともある。)は、生物組織やその加工物であって、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを含有する原料である限り、特に制限されない。
【0027】
生物原料の由来生物としては、特に制限されず、例えば魚類、哺乳類、アメフラシ等の軟体動物、ナマコ等の棘皮動物等を広く挙げることができる。これらの中でも魚類が好ましい。
【0028】
魚類としては、特に限定されず、硬骨魚類、軟骨魚類等が広く挙げられる。硬骨魚類としては、例えばタラ、マグロ、サケ、マス、カツオ、ヒラメ、ブリ等が挙げられ、軟骨魚類としては、例えばサメ、エイ等が挙げられる。
【0029】
生物組織としては、特に制限されず、例えば軟骨、結合組織、健、角膜、心房、基底膜、脳、皮膚等があげられる。これらの中でも、軟骨が好ましい。
【0030】
魚類の生物組織としては、魚類軟骨が好ましい。該軟骨としては、特に制限されないが、頭部軟骨、中でも鼻軟骨が好ましい。また、魚類が食品製品等へ加工される際に頭部は通常廃棄されることから、頭部軟骨の入手コストは安く、大量に安定供給され得るという利点もある。
【0031】
生物組織の加工物としては、特に制限されず、例えば生物組織の乾燥物、破砕物、乾燥破砕物等が挙げられる。乾燥、破砕、小片化等の加工方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0032】
抽出効率等の観点から、生物原料は、生物組織の加工物が好ましく、溶媒接触面積がより広くなるように加工された加工物がより好ましく、破砕物、乾燥破砕物等がさらに好ましい。
【0033】
生物原料は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0034】
硫酸マグネシウム含有溶液は、硫酸マグネシウム(MgSO)を含み且つその一部又は全部が溶解している液である限り、特に制限されない。
【0035】
硫酸マグネシウム含有溶液の溶媒は、通常、水である。溶媒としては、水以外に、エタノール等のアルコール等が含まれていてもよい。水以外の溶媒の含有量は、溶媒100質量%に対して、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、よりさらに好ましくは0.3質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。該含有量の下限は、例えば0質量%、0.1質量%、0.3質量%、1質量%、3質量%である。溶媒は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
硫酸マグネシウム含有溶液の硫酸マグネシウム濃度は、特に制限されない。該濃度は、例えば0.5~5Mである。抽出効率の観点、タンパク質の混入を抑制するという観点等から、該濃度は、好ましくは1M以上、より好ましくは1.5M以上、さらに好ましくは2M以上、よりさらに好ましくは2.5M以上、特に好ましくは2.8M以上である。また、抽出コスト、溶液調製の効率等の観点から、該濃度は、好ましくは4.5M以下、より好ましくは4M以下、さらに好ましくは3.5M以下、よりさらに好ましくは3.2M以下である。上記した観点から、該濃度の範囲は、好ましくは1.5~5M、より好ましくは2.5~5M、さらに好ましくは2.5~3.5M、よりさらに好ましくは2.8~3.2Mである。
【0037】
硫酸マグネシウム含有溶液には、硫酸マグネシウム以外に、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの抽出効率や精製度を著しく悪化させない限りにおいて、他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば抽出溶媒に加え得る添加剤(例えば、酸、塩基、トルエン等の防腐剤、プロテアーゼ阻害剤等)等が挙げられる。他の成分は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。他の成分の含有量は、硫酸マグネシウム含有溶液100質量%に対して、例えば20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下である。該含有量の下限は、例えば0質量%、0.1質量%、0.3質量%、1質量%、3質量%である。
【0038】
プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの抽出は、公知の抽出方法に従って行うことができる。例えば、生物原料と硫酸マグネシウム含有溶液とを混合した後、(好ましくは撹拌しながら)放置することにより行うことができる。
【0039】
生物原料と硫酸マグネシウム含有溶液との重量比は、特に制限されないが、生物原料が硫酸マグネシウム含有溶液に浸漬する程度の重量比であることが好ましい。重量比(生物原料:硫酸マグネシウム含有溶液)は、具体的には、抽出効率等の観点から、例えば1:0.5~1:50、好ましくは1:0.5~1:30、より好ましくは1:1~1:20、さらに好ましくは1:1~1:10、よりさらに好ましくは1:1~1:6、よりさらに好ましくは1:1.5~1:6、特に好ましくは1:2~1:5である。
【0040】
抽出時間は、プロテオグリカンを抽出できる限り特に限定されない。抽出時間は、例えば3~72時間、好ましくは8~48時間、より好ましくは12~36時間、よりさらに好ましくは18~30時間である。抽出時間が上記時間であれば、抽出成分中のプロテオグリカンの割合をより高めることができる。
【0041】
抽出温度は、プロテオグリカンを抽出できる限り特に限定されない。抽出温度は、例えば10~40℃、好ましくは15~30℃であることができる。
【0042】
上記工程aによりプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン含有抽出物が得られる。このプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン含有抽出物をそのまま「プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン」として利用することもできるし、以下の工程を経て得られたものを「プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン」として利用することもできる。
【0043】
工程aに加えて、さらに(b)工程aで得られた抽出物から不溶物(抽出残渣)を除去すること(工程b)を行うことが好ましい。不溶物の除去方法としては特に限定されず、公知の方法、例えばろ過、遠心分離等を採用することができる。
【0044】
得られるプロテオグリカンの純度をより高めるために、上記工程a又は工程bの後に、(c)工程b後、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを精製すること(工程c)を行うことが好ましい。精製方法としては、例えばアルコール沈殿、透析、カラム(好ましくは陰イオン交換カラム)クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフニティーカラムクロマトグラフィー、限外ろ過法、電気透析法等が挙げられる。これらの精製方法は1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0045】
本発明の一態様においては、工程cの精製方法として、簡便性、コスト等の観点から、限外ろ過を採用することができる。限外ろ過により、溶媒、塩等の大半を除去することができ、分子量が大きい物質(プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン)を精製することができる。
【0046】
限界ろ過は公知の方法に従って行うことができる。限外ろ過後は、乾燥(例えば、凍結乾燥等)することが好ましい。
【0047】
本発明の一態様においては、工程cの精製方法として、アルコール沈殿を採用することができる。アルコール沈殿を行う場合、硫酸マグネシウムの濃度によってはその析出が問題となることがあるので、その場合は、アルコール沈殿前に透析、再結晶等の他の精製方法により塩濃度を下げる又は塩を除去することが望ましい。
【0048】
アルコール沈殿は、公知の方法に従って行うことができる。典型的には、工程bを経て得られたプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン含有抽出物を、その1~5倍量(好ましくは2~4倍量)のアルコールと混合した後、一定時間放置することにより沈殿を形成させ、その後、遠心分離して得られたペレットを回収することにより行われる。
【0049】
アルコールは、プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されない。アルコールとしては、例えばエタノール、イソプロパノール等が挙げられ、これらの中でも毒性がより低いという観点からはエタノールが好ましく挙げられる。アルコールは1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0050】
アルコールには、塩が含まれていることが好ましい。塩としては、特に限定されず、アルコール沈殿に用いられる通常の塩、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。塩は1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。アルコール中の塩の濃度は、特に限定されず、アルコール沈殿において採用される通常の塩濃度、例えば塩化ナトリウムの場合はアルコールに対する飽和濃度であることができる。
【0051】
沈殿を形成させるために放置する際の温度は、プロテオグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されない。温度は、例えば-80℃~室温程度、好ましくは0~10℃程度であることができる。
【0052】
沈殿を形成させるために放置する時間は、プロテオグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されず、温度に応じて適宜設定される。時間は、温度が0~10℃である場合であれば、例えば4~24時間、好ましくは8~16時間であることができる。
【0053】
遠心力は、ペレットを形成させることができる限り特に限定されない。遠心力は、例えば700~2500gであることができる。
【0054】
本発明の製造方法においては、本発明の効果が損なわれない限り、上記した工程以外の工程が含まれていてもよい。
【0055】
本発明の製造方法により得られたプロテオグリカンの種類は、原料に応じたものであり、特に制限されない。プロテオグリカンとしては、コアタンパク質にグリコサミノグリカンが結合してなる化合物であれば特に限定されない。プロテオグリカンとしては、例えばアグリカン、バイグリカン、バーシカン、ニューロカン、デコリン、ビグリカン、フィブロモデュリン、ルミカン、パールカン、シンデカン、セルグリシン、ブレビカン、ケラトカン、ミメカン、バーマカン、アグリン等、或いはこれらの分解物等が挙げられる。
【0056】
本発明の製造方法は、プロテオグリカンの分解をより抑制し、より高い分子量のプロテオグリカンを得ることが可能である。この観点から、本発明の製造方法により得られたプロテオグリカンの平均分子量は、好ましくは25kDa以上、より好ましくは30kDa以上、さらに好ましくは35kDa以上、よりさらに好ましくは37kDa以上である。該平均分子量の上限は、特に制限されず、例えば500kDa、200kDa、100kDa、70kDa、50kDaである。なお、プロテオグリカンの平均分子量は、試験例2のように、クロマトグラフィーを用いて分画し、プルランスタンダード等の分子量標品の保持時間と比較することにより、測定することができる。
【0057】
プロテオグリカンが部分構造として有するグリコサミノグリカン、及び本発明の製造方法により得られたグリコサミノグリカンは、特に限定されない。該グリコサミノグリカンとしては、例えばコンドロイチン硫酸、コンドロイチン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸等が挙げられる。また、これらのグリコサミノグリカンは、分岐鎖としてフコース等の糖を含む鎖を有していてもよい。なお、この場合、分岐鎖を構成する糖残基数は1であってもよいし、2以上であってもよい。また、グリコサミノグリカン鎖を構成する糖残基(分岐鎖中のフコース残基等の糖残基も含む)は硫酸化されたものであってもよい。
【0058】
従来のプロテオグリカン、グリコサミノグリカン抽出法においては、抽出原料にグアニジン塩酸などの有害な試薬を多用し、またその試薬などを抽出後に除く煩雑な操作が必要となり、コストの点で問題があった。また、抽出に用いられる試薬は人体にとって有害であるため、抽出したプロテオグリカン及びグリコサミノグリカンを化粧品もしくは食品への利用は制限され得る。
【0059】
代替する手段として酢酸による抽出法があるが、この場合は抽出したプロテオグリカン、グリコサミノグリカンに抽出作業時に使用した酢酸の臭いが付着し、取扱い時に不快臭を発するという欠点をもつ。
【0060】
一方、本発明の製造方法で使用している硫酸マグネシウムは“にがり”などとして食品に多用され、また入浴剤としても使用される我々の日常になじみの深いものである。また、硫酸マグネシウムは無臭であるため、本発明の製造方法で得られるプロテオグリカン、グリコサミノグリカンには酢酸臭のような不快臭の付着を抑制することができる。
【0061】
本発明の製造方法で得られるプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンの用途は特に制限されない。例えば、食品、化粧品、医薬品等の原材料として、さらには生化学・医学用研究試薬として、好ましく用いることができる。また、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンが有する生理活性(創傷治癒作用、抗炎症作用、ヒト上皮細胞増殖活性作用)を見込んだ医療応用が可能である。さらに、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンが有する保水力を利用した化粧品原料として利用できる。近年大きく市場を拡大しつつある糖鎖サプリメントとしても利用できる。
【0062】
本発明の製造方法により得られるプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンは、その使用態様は特に制限されない。プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンは、例えば上述したような効果を有するため、外用組成物又は経口組成物として用いるのが好適である。すなわち、本発明の製造方法により得られるプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを含む外用組成物又は経口組成物として用いることが好ましい。また、外用組成物又は経口組成物は、医薬組成物、医薬部外品組成物、化粧組成物、食品組成物等として用いることができる。これらは、本発明の製造方法により得られるプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを用いて常法により製造することができる。特にこれらの組成物は、化粧品分野及び飲食品分野で好ましく用いることができる。
【0063】
化粧品分野にて用いられる、本発明の製造方法により得られるプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを含む化粧品組成物(以下「本発明に係る化粧品組成物」と記載することがある)は、当該プロテオグリカンそのものであってもよいし、当該プロテオグリカンと化粧品用として許容される媒体、基剤、担体、添加剤や、その他化粧品用として許容される成分、材料を適宜配合して、常法に従って製造されるものであってもよい。具体的には、当該プロテオグリカンを含んで製造される乳液、化粧水、クリーム、美容液、ファンデーション、パック、日焼け止め等を挙げることができる。このような本発明に係る化粧品組成物は、炎症改善用又は抗老化用として好ましく用いることができ、より具体的には、例えば、日焼け予防用、日焼け手入れ用、保湿用及び抗皮膚老化用(例えば乾燥肌、肌荒れ、肌のシワ・たるみ等の予防又は改善用)として好ましく用いることができる。
【0064】
飲食品(飲料及び食品)分野にて用いられる、本発明の製造方法により得られるプロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを含む飲食品組成物(以下「本発明に係る飲食品組成物」と記載することがある)は、当該プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンそのものであってもよいし、当該プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンと、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料等が適宜配合されたものであってもよい。例えば、当該プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカンを含む、保湿用及び抗皮膚老化用(例えば乾燥肌、肌荒れ、肌のシワ・たるみ等の予防又は改善用)の加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、美容食品、病者用食品等が例示できる。さらに、このような本発明に係る飲食品組成物からなる保湿剤、抗皮膚老化剤も本発明に包含される。当該保湿剤、抗皮膚老化剤は、美容用や抗皮膚老化用(例えば乾燥肌、肌荒れ、肌のシワ・たるみ等の予防又は改善用)のドリンク剤、錠剤、タブレット剤、カプセル剤、顆粒剤、ゼリー剤、トローチ剤などの形態で供給され得る。
【0065】
本発明に係る医薬組成物、医薬部外品組成物、化粧品組成物、又は飲食品組成物においては、特に制限されるものではないが、これらの組成物に含まれる当該プロテオグリカン及び/又はグリコサミノグリカン量は、例えば組成物全体に対し、通常0.001~100質量%、好ましくは0.01~95質量%である。
【実施例
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
実施例1.軟骨組織からのプロテオグリカンの抽出
3cm 四方にスライスした魚類鼻軟骨(10 g)を3 M 硫酸マグネシウム溶液 (30 mL)に浸し、室温にて緩やかに撹拌し24 時間放置した。得られた混合液をろ紙により濾過して、不溶成分を除去した。得られたろ液を透析用セルロースチューブ(透析分子量MWCO 12000~16000)へ移し、透析外液に水道水を用いて透析を行った。次いで、透析内液に対して、食塩が飽和量溶解したエタノール「食塩飽和エタノール」(90 mL、透析内液の3 倍量)を加え、4℃にて12 時間放置した。生じた白色沈殿を遠心分離操作(8000 r.p.m.×10 min)した後、ペレット(白色)を回収した。ペレットをエタノール(20 mL)で洗浄し、風乾することによりプロテオグリカン(126.2 mg)の白色粉末を得た。
【0068】
比較例1:酢酸を用いたプロテオグリカンの抽出
硫酸マグネシウム溶液に替えて4%酢酸水溶液を用いる以外は、実施例1と同様の方法でプロテオグリカンを得た。
【0069】
試験例1.プロテオグリカンの分子量測定
実施例1で得られたプロテオグリカンを水に溶解させ、0.1%プロテオグリカン水溶液を調製し、そのうち(50μL)を高速液体クロマトグラフィー分析に供した。分析条件は下記に示すとおりである。
検出器:示差屈折率計(RI) 5450 RI Detector(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
カラム:TOSOH TSK-gel G5000PWXL
溶出液:0.2M-NaCl
流 速 :1 mL/min
カラムtemp.:40℃。
【0070】
結果を図1に示す。図1に示されるように、保持時間 7.113 分のところにピークが観測され、その平均分子量は 40 万と算出された。なお、平均分子量は、プルランスタンダード(shodex社製、P-82)を用いて算出した。
【0071】
試験例2.プロテオグリカンのセルロースアセテート膜電気泳動
実施例1で得られたプロテオグリカンを水に溶解させ、0.1%プロテオグリカン水溶液を調製し、そのうち(1μL)と、別途調製したスタンダード溶液(プロテオグリカンスタンダード)を、泳動用緩衝液(0.1 M ギ酸―ピリジン緩衝液(pH =3.0))にてあらかじめ浸したセルロースアセテート膜上にスポットした。次いで、そのセルロースアセテート膜を泳動層にのせ1mA/cm にて15分間、電気泳動を行った。泳動後、セルロースアセテート膜をアルシアンブルー染色に供し、70%エタノールで脱色した後、染色バンドを目視で観察した。
【0072】
結果を図2に示す。図2に示されるように、実施例1のプロテオグリカンはスタンダードのプロテオグリカンと同等の移動度を示し、本抽出方法において確かに目的プロテオグリカンが抽出されていることが確認された。
【0073】
なお、実施例1では抽出原料がプロテオグリカンを多量に含む魚類軟骨であったため、主にプロテオグリカンが得られたが、抽出原料としてグリコサミノグリカンを含む原料を使用した場合は、グリコサミノグリカンを得ることができる。
【0074】
試験例3.プロテオグリカンの臭気試験
実施例1で得られたプロテオグリカン、及び比較例1で得られたプロテオグリカンについて、7名の評価者にその臭気を3段階(無臭、かすかな不快臭がする、強い不快臭がする)で評価してもらった。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示されるように、比較例1で得られたプロテオグリカンは、評価者の半数以上(4/7)が不快臭がすると評価したのに対して、実施例1で得られたプロテオグリカンは評価者の全員(7/7)が無臭であると評価した。
図1
図2