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特許7197909種々の廃ポリマー、廃金属、および廃有機・無機物を含む混合物の処理方法と処理装置
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  • 特許-種々の廃ポリマー、廃金属、および廃有機・無機物を含む混合物の処理方法と処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】種々の廃ポリマー、廃金属、および廃有機・無機物を含む混合物の処理方法と処理装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20221221BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20221221BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B09B3/40
B09B3/70
C08J11/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019095527
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020189267
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】513281965
【氏名又は名称】株式会社ジンテク
(74)【代理人】
【識別番号】100193046
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 正彦
(72)【発明者】
【氏名】水口 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 正彦
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-093804(JP,A)
【文献】特開2015-048427(JP,A)
【文献】特開2013-146649(JP,A)
【文献】特開2016-190177(JP,A)
【文献】特開2014-177523(JP,A)
【文献】特開2014-069137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
C08J 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物の処理方法であって、前記廃棄物の表面に酸化物半導体を被覆する工程と、前記酸化物を被覆した前記廃棄物を穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を底面に多数有する処理容器に収納して加熱処理室に配置する工程と、酸素の存在下、前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度で、前記正孔の酸化力を利用して前記廃棄物中の前記有機物を水と二酸化炭素に分解するとともに、前記廃棄物に含まれていた硫黄成分は金属硫化物とし、ハロゲン成分は金属ハロゲン化物とし、ケイ素成分はケイ素酸化物として残渣中に捕獲する工程と、前記処理容器に振動を与えて前記処理容器底面の穴を通して前記残渣を落下させることにより前記処理容器から分離する工程と、前記処理容器内に残存する固定無機物から有価金属を回収する工程を含むことを特徴とする無機・有機物の混合廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記分離する工程は、前記処理容器に前記振動を与える前、振動中、振動を与えた後のいずれかの時点にて、前記処理容器内に残存する固定無機物を解砕する工程を含むことを特徴とする請求項に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記酸化物半導体は酸化鉄(α-Fe)であることを特徴とする請求項1または2に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記穴径は5mm以上で15mm以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理方法。
【請求項5】
硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物の処理装置であって、前記廃棄物の表面に酸化物半導体を被覆し、前記酸化物を被覆した前記廃棄物を収納する穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を底面に多数有する処理容器と、エアを供給するエア供給機構を有する加熱処理室を備え、前記加熱処理室内に設置された前記処理容器が前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度以上に加熱されることにより、酸素の存在下で前記正孔の酸化力を利用して前記廃棄物中の前記有機物が水と二酸化炭素に分解されるとともに、前記廃棄物に含まれていた硫黄成分は金属硫化物とし、ハロゲン成分は金属ハロゲン化物とし、ケイ素成分はケイ素酸化物として残渣中に捕獲され、前記処理容器に振動を与えて前記処理容器底面の穴を通して前記残渣が落下することにより前記処理容器から分離され、前記処理容器内に残存する固定無機物から有価金属が回収されることを特徴とする無機・有機物の混合廃棄物の処理装置。
【請求項6】
前記処理容器に前記振動を与える前、振動中、振動を与えた後のいずれかの時点にて、前記処理容器内に残存する固定無機物を解砕することを特徴とする請求項に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理装置。
【請求項7】
前記酸化物半導体は酸化鉄(α-Fe)であることを特徴とする請求項5または6に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理装置。
【請求項8】
前記穴径は5mm以上で15mm以下であることを特徴とする請求項ないし7いずれか1項に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理装置。
【請求項9】
前記加熱処理室は排気口を備え、前記排気口には酸化物半導体を担持した通気性を有する構造体を備えたVOC浄化装置が連結され、前記構造体が、前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度以上に加熱されることにより、酸素の存在下、前記正孔の酸化力を利用して前記加熱処理室から排出され前記VOC浄化装置を通過するガスが無害のガスに浄化されることを特徴とする請求項ないし8いずれか1項に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理装置。
【請求項10】
前記加熱処理室内に配置された前記廃棄物は酸化物半導体を坦持した通気性を有する構造体に包囲され、前記構造体は前記加熱処理室内において、前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度以上に加熱されることにより、酸素の存在下、前記正孔の酸化力を利用して前記廃棄物から排出されるガスを浄化することを特徴とする請求項ないし9いずれか1項に記載の無機・有機物の混合廃棄物の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種々の廃ポリマー、廃金属、および廃有機・無機物を含む混合物の処理方法と処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電化製品等の廃棄処理は近年大きな社会問題となっている。電子部品のリサイクル化が進み、環境分野では歓迎されている。しかし、リサイクル処理の最終段階で残存する産業混合廃棄物の処理は容易ではない。
以前は、手作業で、電化製品等を分解し、回路基板、金属部品等を丁寧に取り出し、また、種々のポリマー複合化合物も混じり合わないように注意深く分別して、リサイクルに回していた。従って、最終的に残存した混合ゴミは小さなものが多く、その量もそれ程多くはなかった。この混合ゴミは輸出と称して、東南アジアの国々に処理を依頼していた。しかし、手作業の分別作業は手間も時間もかかり、人件費の高騰もあってコスト全般の見直しが行われた。
昨今では、リサイクル・コストを削減する為に、電化製品全般を分解・分別することなく、大型のハンマーやギロチン法に依る切断等で細かく裁断する手法を採用している。裁断物の中から、まず鉄などの金属類は磁石で取り出す方法をとり、磁石につかないAl等の金属に関しては電磁誘導により、磁性を誘起させて磁石に引き付け、その後、風で吹き飛ばし回収している。さらに、比較的な大きなポリマー複合化合物は、摘まみ上げて分別を行っている。しかし、コスト削減の代償として、各種のポリマー複合化合物、ならびに各種のポリマー(熱可塑性および熱硬化性ポリマー、塩化ビニル製品、タイヤ等の含硫黄ポリマー等)も分別されることなく、一括処理されている。さらに、各種電線の切れ端(被覆材:ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等)や金属片、ゴム類等もが混ざった状態である。このような、残存物は比較的大きなゴミであり、ゴミの量も倍加した。以上の経過から、昨今の電化製品等のリサイクルは、コスト安になったものの、各種複合材料、ポリマー、金属等の混合物で構成され、嵩高いと言った特徴がある。これらの“混ざり合った処理不能のゴミ”は、中国、タイ、フィリピン、ベトナム等に“輸出”と称して処理を依頼していた。しかし、焼却処理では酷い悪臭や有害ガス等が発生する為、これらの諸国から受け入れ拒否を通告され、日本の廃棄物業者には“廃プラ/廃電線等”ゴミが山積みになっている。注射器、カテーテル等の医療廃棄物もほぼ同様な状況といえる。
【0003】
これらの複合材料のゴミを従来の焼却法で処理すると、大変な不快の臭気ばかりでなく、人間の健康状態を害する懸念もある。臭気の中には、塩素や硫黄分を含むガスも含まれ、想像を絶する臭気である。有害なガスを発生することなく分解、処理することが可能でかつ処理後の残留物から有価物を回収することの出来る処理方法及び処理装置が切望されている。
【0004】
本発明者の一人はポリマー、ガス体等の有機物からなる被処理物を分解する方法として、半導体を真性電気伝導領域となる温度に加熱して電子・正孔キャリアーを大量に発生させ、被処理物を加熱処理により発現した強力な酸化力を持つ正孔に接触させ、酸素の存在下において被処理物を完全分解する「半導体の熱活性」(Thermal Activation of Semi-Conductors:以下TASCと略称)による処理方法について提案した(特許文献1、非特許文献1)。この現象は、半導体を350-500℃に加熱すると強い酸化作用(結合電子を引き抜く力が強い)を発現する効果で、ポリマーから結合電子を引き抜くと、不安定なラジカルがポリマー内に生成し、これがポリマー内を伝播してさらに増殖し、ポリマー全体を不安定化する。不安定化したポリマーは安定性を維持できずに、自滅するような形で裁断化が誘起され、プロパン等の小分子に裁断化される。続いて、裁断化された小分子は空気中の酸素と反応して、炭酸ガスと水に完全分解される。つまり、あらゆるポリマー(熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー)はTASC触媒により、酸素の存在下で、一瞬にして炭酸ガスと水に分解される。以上のように、TASC分解過程は、(1)酸化力によるラジカルの生成する過程、(2)ラジカルの伝播により、巨大分子が不安定化され小分子に分解される過程、(3)小分子化された分子が空気中の酸素と完全燃焼する過程の3つの素過程から構成されている。
TASC法で使用できる半導体は高温、酸素雰囲気で安定な半導体であれば良い。従って、酸化物半導体が好んで用いられる。酸化物半導体の例として、BeO、CaO、CuO、CuO、SrO、BaO、MgO、NiO、CeO、MnO、GeO、PbO、TiO、VO、ZnO、FeO、PdO、AgO、TiO、MoO、PbO、IrO、RuO、Ti、ZrO、Y、Cr、ZrO、WO、MoO、WO、SnO、Co、Sb、Mn、Ta、V、Nb、MnO、Fe、YS、MgFe、NiFe、ZnFe、ZnCo、MgCr、FeCrO、CoCrO、CoCrO、ZnCr、CoAl、NiAl等がある。この中で、酸化クロム(Cr)は高温安定性(融点:約2200℃)に優れ、さらに飲料用のガラス瓶の染色にも使われる安全な材料である。また、酸化鉄(α-Fe:ヘマタイト)は、安定性はCrには及ばないが、安全で廉価な材料であるので実用性が高い。
【0005】
また、繊維強化プラスチックに同じTASC法を用いて、プラスチックを完全分解し、カーボン・ファイバーやグラス・ファイバー等の強化繊維をほぼ無傷で完全回収する方法を提案した(特許文献2、非特許文献2)。この方法は特にコストの高いカーボン・ファイバー等の繊維を切断するなどのダメージを与えることなく強化繊維を回収して再使用することができるので、非常に有用であり、強化繊維に限らず、無機物とポリマーを混合した複合材料から無機物だけを回収できる普遍性のある方法である。
さらに、加熱処理室にVOC(Volatile Organic Compounds、揮発性有機化合物)浄化装置を連結し、太陽光パネルや合わせガラスなどのプラスチックまたはプラスチック複合材料をTASC法により分解し、無害のガスに浄化する処理装置についても提案した(特許文献3、4)。
TASC法で用いる酸化物半導体をTASC触媒と呼ぶが、この触媒は「何回でも使うことが出来る」と言う意味で「触媒」に分類される。しかし、通常の化学触媒とは全く異なる機能を有する。化学触媒は、触媒物質と反応物質が活性錯合体を形成し、活性化エネルギーを下げて反応をより低温で進行させるものである。これに対し、TASC触媒は、上述のメカニズムにより、ポリマー等の被分分解物を不安定化し、さらに小分子化して十分な酸素下で完全燃焼させるものである。
【0006】
このように、TASC効果を利用した有機物の気体(VOC、排煙、悪臭など)あるいはミスト状のタール、PM等の完全分解を実現してきた。さらに、固体では、ポリマー複合化合物のポリマーのみを分解し、中から有価物を回収することに利用してきた。その例として、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)から炭素繊維、太陽電池パネルから、ガラス、シリコン・ウェーファー、電極、さらにボンド磁石からレアアース粉体、合わせガラスからガラスの回収に及んでいる。
塩素化合物は、塩化ビニルを代表とするポリマー材料として、広く産業界(各種配管、電線の被覆材など)で使われている。特に“塩ビ”と呼ばれる材料には、塩化ビニルの中に多くの可塑剤や難燃剤が含まれている。これらの焼却の際には、塩酸や、特に180-400℃においてダイオキシンが生成しやすいので、これが外部に飛散する可能性があるので注意が必要である。また、硫黄に関しては、含硫黄ポリマー(例えば、ポリフェニルレンサルファイド)や、ゴム類の架橋剤としての硫黄化合物が存在する。硫黄は、HS, HSO等となり、飛散することが多い。
硫黄、ハロゲン、ケイ素を成分として含む有機廃棄物をTASC法により分解し、有害ガスを発生することなく金属硫化物、金属ハロゲン化物、ケイ素酸化物として残差中に捕獲する処理方法も提案した(特許文献5)。
例えば、ヘマタイトの熱活性化で、ハロゲンや硫黄系のポリマーを分解する。分解と同時に遊離してくるハロゲンや硫黄成分は直ちにヘマタイトのFeと反応して、それぞれ、FeCl(緑黄色)、FeCl(黒褐色)、FeS(黒色)、FeS、Fe、Fe等として固定化される。従って、外気に飛散することはない。
本発明の処理対象である複合材料の特徴を列挙する。現行の粉砕・切断ゴミの特徴は、(塩素、硫黄成分を含まない)各種のポリマー複合材料(i)、塩素・硫黄系のプラスチック複合材料(ii)、塩ビ電線、タイヤ等が主体であり、これに金属端材が少量混ざっている。さらに特徴的なことは、これらのゴミは極めて嵩高いことである。複合材料のゴミは一般に厚みが1-2mm程度であるが、幅と長さは50-150mmのものが大半である。また、電線等は直径1-3mm,長さが50-100mm程度である。また、金属ゴミは、粉砕・切断工程で、叩かれ、切断されるので、不規則に幾重にも重なり合った金属ゴミとなり、厚みは1-3mm、幅と長さは20-50mm程度である。
このように嵩高く、大きさもある種々の廃ポリマー、廃金属、および廃有機・無機物を含み、かつ硫黄、塩素、シリコンなどの有害ガスを発生する成分が含まれる混合物の処理にTASC法を適用すれば従来の問題点を総てクリヤーできる可能性があるが、処理後の残留物から残渣を分離、除去し金属等の有価物だけを回収する効率的な方法については未解決であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4517146号
【文献】特許第5904487号
【文献】特開2016-93804号公報
【文献】特開2016-172246号公報
【文献】特許第 6429177号
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Shinbara, T. Makino, K. Matsumoto, and J. Mizuguchi: Complete decomposition of polymers by means of thermally generated holes at high temperatures in titanium dioxide and its decomposition mechanism, J. Appl. Phys. 98, 044909 1-5 (2005)
【文献】水口 仁:半導体の熱活性によるFRPの完全分解とリサイクル技術、加工技術 47巻, 37-47 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物から、有害ガスを発生することなく無害化し、さらに廃金属等の有価物を分別回収することのできる処理方法および処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物の処理方法は、前記廃棄物の表面に酸化物半導体を被覆する工程と、前記酸化物を被覆した前記廃棄物を穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を底面に多数有する処理容器に収納して加熱処理室に配置する工程と、酸素の存在下、前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度で、前記正孔の酸化力を利用して前記廃棄物中の前記有機物を水と二酸化炭素に分解するとともに、前記廃棄物に含まれていた硫黄成分は金属硫化物とし、ハロゲン成分は金属ハロゲン化物とし、ケイ素成分はケイ素酸化物として残渣中に捕獲する工程と、前記処理容器に振動を与えて前記処理容器底面の穴を通して前記残渣を落下させることにより前記処理容器から分離する工程と、前記処理容器内に残存する固定無機物から有価金属を回収する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物の処理方法は、前記廃棄物の表面に酸化物半導体を被覆する工程と、前記酸化物を被覆した前記廃棄物を加熱処理室に配置する工程と、酸素の存在下、前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度で、前記正孔の酸化力を利用して前記廃棄物中の前記有機物を水と二酸化炭素に分解するとともに、前記廃棄物に含まれていた硫黄成分は金属硫化物とし、ハロゲン成分は金属ハロゲン化物とし、ケイ素成分はケイ素酸化物として残渣中に捕獲する工程と、前記加熱処理室の外部に設置され穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を多数有する板状部に振動を与えて前記板状部の穴を通して前記残渣を落下させることにより分離する工程と、前記板状部上に残存する固定無機物から有価金属を回収する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物の処理装置は、前記廃棄物の表面に酸化物半導体を被覆し、前記酸化物を被覆した前記廃棄物を収納する穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を底面に多数有する処理容器と、エアを供給するエア供給機構を有する加熱処理室を備え、前記加熱処理室内に設置された前記処理容器が前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度以上に加熱されることにより、酸素の存在下で前記正孔の酸化力を利用して前記廃棄物中の前記有機物が水と二酸化炭素に分解されるとともに、前記廃棄物に含まれていた硫黄成分は金属硫化物とし、ハロゲン成分は金属ハロゲン化物とし、ケイ素成分はケイ素酸化物として残渣中に捕獲され、前記処理容器に振動を与えて前記処理容器底面の穴を通して前記残渣が落下することにより前記処理容器から分離され、前記処理容器内に残存する固定無機物から有価金属が回収されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物の処理装置は、前記廃棄物の表面に酸化物半導体を被覆し、前記酸化物を被覆した前記廃棄物を設置する加熱処理室を備え、前記加熱処理室はエアを供給するエア供給機構を有し、前記加熱処理室内に設置された前記廃棄物が前記酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度以上に加熱されることにより、酸素の存在下で前記正孔の酸化力を利用して前記廃棄物中の前記有機物が水と二酸化炭素に分解されるとともに、前記廃棄物に含まれていた硫黄成分は金属硫化物とし、ハロゲン成分は金属ハロゲン化物とし、ケイ素成分はケイ素酸化物として残渣中に捕獲され、穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を多数有する板状部を前記加熱処理室の外部に別途備え、前記板状部に振動を与えて前記板状部の穴を通して前記残渣が落下することにより分離され、前記板状部上に残存する固定無機物から有価金属が回収されることを特徴とする。
【0014】
本発明の処理対象は硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつを成分としたポリマーあるいはポリマー複合化合物、ならびに金属片等からなる無機・有機物の混合廃棄物である。廃棄物の表面に酸化物半導体を被覆して加熱処理室に配置し、酸素の存在下、酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度以上に加熱されると、正孔の酸化力を利用して廃棄物中の有機物は水と二酸化炭素に分解されるとともに、廃棄物に含まれていた硫黄成分は金属硫化物とし、ハロゲン成分は金属ハロゲン化物とし、ケイ素成分はケイ素酸化物として残渣中に捕獲される。
穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を底面に多数有する処理容器に酸化物半導体を被覆した廃棄物を収納して加熱処理室に配置して加熱処理を行い、処理後に処理容器に振動を与えて前記処理容器底面の穴を通して前記残渣を落下させることにより前記処理容器から分離してから処理容器を加熱処理室から取り出すようにする。取り出された処理容器から有価金属が回収される。
処理容器は代表的には篩として作用するステンレス籠であるが、底面の穴径を1mm以上30mm以下としておくと、処理後の金属硫化物、金属ハロゲン化物、ケイ素酸化物は粉体化しているが軽く焼結していることもあるので、通常は軽い振動を与えることで小穴を通過して落下し、かさばる金属や無機物の残留物は穴を通り抜けることはほとんどなくステンレス籠内に留まる。振動を与えるのは手動によっても良いが、機械式の自動振動装置によっても良い。穴径を5mm以上15mm以下とすれば金属や無機物の残留物である固定無機物が穴を通過することをより完全に防止し、かつ残渣の穴を通しての落下をより容易にするので最適である。
【0015】
処理容器を加熱処理前には加熱処理室には設置せず、加熱処理後に加熱処理室の外で振動を与えて金属硫化物、金属ハロゲン化物、ケイ素酸化物を分離、除去し残存物から有価金属を回収するようにしても良い。この方法は加熱処理炉を移動させることができる半自動化装置でバッチ方式の連続装置に適している。このような半自動化装置においては加熱処理時は開放系では火災の原因になるので、安全のため密閉系(closed system)での処理を行う必要がある。
廃棄物の表面を被覆するために、前述したような種々の酸化物半導体が利用可能であるが、本発明においては最も安価な酸化鉄(α-Fe:ヘマタイト)を用いるのが良い。酸化鉄にはα-Fe,γ-Fe,Feがあるが、α-Feはヘマタイト、ないしは弁柄(弁柄)と呼ばれる赤色無機顔料として広く知られている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、混合物である廃棄物中の有機物は水と炭酸ガスに完全分解されるばかりでなく、有価金属を効率的に安価な方法で回収できる。また、硫黄、ハロゲン、ケイ素を成分として含んでいても有害なガスを発生することなく残渣中に捕獲されるので、環境を汚染することなく安全な回収方法及び回収装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】廃棄物を処理する装置を示す図である。
図2】ヘマタイト被着前の「廃プラ/金属屑」混合ゴミである。
図3】ヘマタイト被着後の「廃プラ/金属屑」混合ゴミである。
図4】加熱処理後に分離された粉黛状の残渣(上部)とステンレス籠に残存した金属等の残留物(下部)を並べて示す。
図5】別のサンプルの加熱処理後に分離された粉黛状の残渣(上部)とステンレス籠に残存した数枚のガラス・ファイバー織布の残留物(下部)を並べて示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明による有価金属と有機物を混合物として含む廃棄物の処理方法及び処理装置を示す図である。まず被処理物である廃棄物1の表面に酸化物半導体2を被覆させる。廃棄物1の表面に酸化物半導体2を被覆させる方法としては、酸化物半導体2の懸濁液に被処理物をディップ・コーティングする方法が最も適している。酸化物半導体2としては、1回限りの使用であるので、最も安価なヘマタイト(酸化鉄、α―Fe)を使用するのが良い。
酸化物半導体2を被覆した廃棄物1を穴径が1mm以上でかつ30mm以下である穴を底面に多数有する処理容器3に収納して、加熱処理室4内に設置する。処理容器3は材質がステンレス製の籠であることが好ましい。加熱処理室4がバッチ式炉の場合には処理後の廃棄物1の取り出しの便宜上から廃棄物1を籠3に入れて加熱処理室4に設置するのが良い。しかし、処理物質が加熱処理室4内を通過するトンネル炉である場合などは、一定の処理量毎に、トンネル炉の前後を遮蔽扉で密閉し、閉じられた前期加熱処理装置の中で作業を行う。この場合、籠は加熱処理室4内では使用せず、処理後の廃棄物を加熱処理室4から取り出した後に篩などにかけて後述の分離を行うのでも良い。空気導入口5から空気を導入しつつ、約500℃程度に加熱処理室4内の温度を上げると、廃棄物1中の有機物は半導体の熱活性(TASC)効果により分解され、低分子のガス状態となって排出口6へ向かう。加熱処理室4において廃棄物は酸化物半導体を坦持した通気性を有する構造体7に包囲されており、酸化物半導体のバンド間遷移により大量の正孔と電子とが生成する温度以上に加熱されると、TASC効果によりガスの流れ8に沿って排出口6へ向かうガスが浄化され、臭気はほぼ完全に除去される。さらに加熱処理室4の排出口6には、酸化物半導体を坦持した通気性を有する構造体9を備えたVOC浄化装置10が連結されており、TASC効果により、加熱処理室4から排出されVOC浄化装置10を通過するガスは水と二酸化炭素に分解され、臭気は完全に除去されて大気には無害のガスだけが放出される。通気性を有する構造体7および9に担持される酸化物半導体としては最も安定なCr(融点:2200℃)を用いるのが良い。
【0019】
ここで、上述の処理の流れの中で起こっている現象を代表的な廃棄物材について説明する。まず酸化鉄(α-Fe:ヘマタイト)を使った「半導体の熱活性」技術(TASC技術)による(塩素、硫黄成分を含まない)“各種のポリマー複合材料”(i)を考えると、ポリマーはTASC法により、小分子化され、燃焼して水と炭酸ガスとなり、複合材料内に含まれていた無機物の充填物は粉黛状の残渣となる。また、塩素・硫黄を成分として含むプラスチック複合材料(ii)はα-Feは塩素系、ないしは硫黄系のポリマーをTASC分解する。分解と同時に、塩素や硫黄が遊離してくるが直ちにα-Feと反応して、FeCl, FeCl、あるいはFeS、FeS等となり、固体粉末として固定化されて飛散することはない。また、塩ビ電線やゴムタイヤも同様である。ポリマーの中に強化材として入っていることがあるガラス・ファイバーの織布や金属はそのまま残存する。また、Si成分は白色のSiOとなり、残渣となる。
廃棄物には硫黄、ハロゲン、ケイ素の少なくともひとつが成分として含まれていることが多い。例えば廃棄物となった電線には、被覆材のポリエチレンとして塩化ビニルが用いられ、かなりの量の難燃剤(ハロゲン系)もふくまれる。また、硫黄を含んだPPS(poly phenylene sulfide)ポリマーの複合化合物もある。ヘマタイトは500℃で活性化され、まず、複合化合物を分解するが、この時点で、塩素や硫黄が噴き出すとヘマタイトは分解され、それぞれ、塩化鉄(FeCl, FeCl)や硫化鉄(FeS, FeS)の形で捕獲され、固体物として黒色の残渣となる。つまり、塩素、硫黄は外には飛散しないので、環境問題を引き起こすことはない
次は分別工程である。上記の残留物を考えると、粉黛化した残渣と形態をあまり変えていない嵩高い電線、織布や金属の2種類となる。従って、加熱処理後は、ステンレス籠を目の粗い篩(例えば穴径が5-15mm)のように使い、籠を振動させて網の隙間から粉黛化した残渣を落とすと、籠の中には有機物、硫黄、ハロゲン、ケイ素は残留しておらず、電線、金属片、織布等の固定化された無機物を篩内に残す方法で容易に分別できて、有価金属を容易に回収することができる。これが本出願の骨子である。TASC処理法は、ポリマーを完全分解できて、黒焦げのポリマーが残存することはないので、篩の中に残存することはない。しかし、ポリマーの複合化合物をTASC処理する場合には、ポリマーのみが除去され、残渣である無機物の充填物が直ちに粉体せずに、そのままの形状で(非常に脆い状態ではあるが)籠内に残存することが多々ある。その場合には、例えば、木製の乳棒(すりこぎ:擂粉木)で軽く潰すと容易に崩れ、直ちに粉体化して解砕され、籠の穴から落下する。このように処理容器である籠内に残留する固定化された無機物である固定無機物に籠の穴径よりも大きな無機物の充填物が含まれている場合には、すりこぎなどによる解砕を併用することが望ましい。解砕を行うのは振動を与える前、振動中、振動を与えた後のいずれの時点であっても良い。
上記のように、本手法は、嵩高い、大量のゴミを生み出す現行の処理方法を逆手にとった課題の処理方法である。
また、上述のステンレス籠、あるいは篩の目の粗さすなわち穴径は、主として、電線ゴミの長さや幾重にも叩かれた金属ゴミの大きさに左右される。目の直径、あるいは目の一辺の長さは、1mmから30mmの範囲とするのが良い。穴径が1mm以上あれば残渣を籠の穴から落下させて分離することが可能であるが、より容易に分離するには穴径が5mm以上であることが好ましい。穴径を30mm以下とすればほとんどの固定無機物は籠内に残留するが、より完全に固定無機物の落下を防ぐには穴径は15mm以下が望ましい。さらに、網目が大きくなると、(籠の板厚にもよるが)籠が歪みやすくなるのでこの点からは穴径は5mmから10mmがより適当である。しかし、ゴミにより形状・大きさも様々であるので、穴径は上述の範囲内で適宜選択すればよい。
【実施例1】
【0020】
図2は、廃棄物1である5×10×2mm程度の大きさの「廃プラ/金属屑」混合ゴミで、重量は約100gである。中央には、透明、あるいは白色を帯びたプラスチックが存在し、右下には、金属片が見える。このゴミに酸化物半導体2であるヘマタイトの被覆を行ったサンプルの写真が図3である。ヘマタイト被覆は、ポリマーをバインダーとするヘマタイト分散液にゴミを1-2秒間浸漬し、その後、80℃で30分、空気中で乾燥させた。ヘマタイト2を被覆したゴミ1を穴径1mmの網目を持つステンレスの籠3の中に入れ、空気中で、500℃30分間、(電気炉の内壁に触媒担持ハニカム7で内張した)電気炉4内で熱処理した。処理後に、ステンレス籠3を揺らして振動させた後に、木製の乳棒[(すりこぎ:擂粉木)]で、籠3内に残留する白い固形状の残留物(CaCO)を軽く潰すと直ちに解砕されて粉黛となり、粉黛は穴から落下した。図4は、処理後に回収した落下物(無機残渣:上部)と籠3内に残留した固定無機物から回収した有価金属(下部)を並べて示す。図4に示した残渣が総残渣である。ゴミの重量減少は85%程度であった。
分解処理に使用した電気炉4と外付けのVOC浄化装置10は図1に示す通りである。電気炉である加熱処理室4の内壁には、通気性を有する構造体7である触媒担持ハニカムを張り、ハニカム・ボックスのような形態である。炉床では触媒であるヘマタイト2を被覆した「廃プラスチック/金属屑」ゴミ1が入ったステンレス・スチールの籠3の中に入れ、これを400-500℃空気下で加熱する。有機物のみがTASC分解され、金属屑物等の固定無機物と残渣のみが残存する。「廃プラスチック/金属屑」ゴミの分解に伴い、臭気はまず、被覆材料であるヘマタイトで、分解され、ある程度の小分子化が進行する。同時に分解物から塩素や硫黄が遊離すると、これがヘマタイトと反応して、それぞれFeCl/FeCl、FeS/FeS等となり、炉床に残る。臭気等の気体はハニカム壁7のCr触媒で小分子に裁断化され、炭酸ガスと水に分解される。さらに、電気炉を出た段階で、分子量が大きなガスはCrを担持した通気性を有する構造体9を備えたTASC型のVOC浄化装置10(設定温度:500℃)で無害化される。
【実施例2】
【0021】
15mm四方の網目を持つステンレス網で直方体の籠3を作り、実施例1と同様のTASC処理を行い、処理後に籠3を振動させながら木製の乳棒(すりこぎ:擂粉木)で、籠3内に残留する固定状の残留物を軽く潰すと直ちに粉黛となり、穴から落下した。電線、金属片、織布等の落下は全く認められなかった。図5に処理後に落下した残渣粉黛(上部)と籠内に残った残留物(下部)を回収し、並べて示す。これらが総残渣である。ステンレス籠内の残留物として、ガラス・ファイバ‐強化繊維(Glass-fiber Reinforced Plastic: GFRP)に内在していたガラス・ファイバーのシートが認められている。ゴミの減少率は93%であった。
【実施例3】
【0022】
上記実施例1と同様の条件で、100gのゴミ1の集団の処理を行い、良好な分別処理が達成された。総重量のうち、93%の減少が認められた。落下した粉黛はやや黒みを帯びたものが多く、塩素や硫黄からなる鉄化合物であった。また、籠内の残留物の多くは電線であった。
【実施例4】
【0023】
直径25mmの穴径のパンチング・メタル(ステンレス製)を底にステンレス箱3の中に、120gのゴミ1を入れ、実施例1と同様の条件でTASC処理を行った。落下した粉黛状の残渣と箱内のメタル等の残留物の分離は良好であった。しかし、箱3を振動させると、残留電線は落下することはなかったが、20mm程度の金属片が落下するのが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、混合物である廃棄物中から有価金属を効率的に安価な方法で回収でき、また、硫黄、ハロゲン、ケイ素を成分として含んでいても有害なガスを発生することなく残渣中に捕獲されるので、環境を汚染することなく安全な回収方法及び回収装置を提供でき、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0025】
1 廃棄物
2 酸化物半導体
3 処理容器
4 加熱処理室
5 空気導入口
6 排出口
7 通気性を有する構造体
8 ガスの流れ
9 通気性を有する構造体
10 VOC浄化装置
図1
図2
図3
図4
図5