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特許7197911摺動評価装置、摺動評価方法、摺動評価値算出装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】摺動評価装置、摺動評価方法、摺動評価値算出装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/02 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
G01N19/02 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019123454
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021009089
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】河野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】富田 直秀
(72)【発明者】
【氏名】波多野 直也
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 誠妥
(72)【発明者】
【氏名】大津 陽平
(72)【発明者】
【氏名】松本 勝志
(72)【発明者】
【氏名】井上 康博
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/083417(WO,A1)
【文献】特開2015-141180(JP,A)
【文献】特開平10-062273(JP,A)
【文献】須田斎,凝着力・真実接触面積の荷重速度依存性(摩擦の物理,研究会報告),物性研究,日本,物性研究刊行会,2004年03月20日,81(6),864-867
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動界面における分離現象の評価に用いられる摺動評価装置であって、
第1対象物を保持する第1保持部と、
前記第1対象物に接触する第2対象物を保持する第2保持部と、
前記第1保持部を摺動方向に変位させる変位機構と、
前記変位機構による前記第1対象物の前記摺動方向における変位を測定する変位測定部と、
前記変位機構により前記第1対象物に加えられる前記摺動方向の荷重を測定する荷重測定部と、
前記変位測定部および前記荷重測定部による測定結果に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を摺動評価値として求める演算部と、
を備えることを特徴とする摺動評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動評価装置であって、
前記演算部は、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力から、移動速度0における摩擦力を外挿により求め、当該摩擦力を、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素である前記摺動評価値として取得することを特徴とする摺動評価装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摺動評価装置であって、
前記演算部は、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から外挿により求めた荷重速度0、速度0または荷重速度無限大における接触剛性を、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素である前記摺動評価値として取得することを特徴とする摺動評価装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の摺動評価装置であって、
前記演算部による外挿は、前記第1対象物と前記第2対象物との間の前記複数の摩擦力を多項式フィッティングして行われ、
前記多項式フィッティングにおける次数は、ベイズ情報量基準により決定されることを特徴とする摺動評価装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、
前記演算部は、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力、または、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から、機械学習により前記摺動評価値を取得することを特徴とする摺動評価装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、
前記変位機構が、
前記第1保持部を1μm以下の分解能にて微小変位させる微動機構と、
前記第1保持部を前記微動機構による変位可能範囲よりも大きく変位させる粗動機構と、
を備えることを特徴とする摺動評価装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、
前記変位測定部は、
前記第1対象物の前記摺動方向における変位を測定する第1変位測定部と、
前記第2対象物の前記摺動方向における変位を測定する第2変位測定部と、
を備え、
前記変位測定部による変位測定は、前記第1変位測定部および前記第2変位測定部による測定結果に基づく前記第1対象物の前記第2対象物に対する相対変位の取得であることを特徴とする摺動評価装置。
【請求項8】
請求項7に記載の摺動評価装置であって、
前記第2変位測定部は、前記第2保持部のうち前記第1対象物近傍の第1位置、および、前記第1位置よりも前記第1対象物から離れた第2位置における前記第2保持部の変位を測定する2つのセンサを備え、
前記第1対象物の前記第2対象物に対する相対変位の取得は、前記2つのセンサによる測定結果に基づいて求められた前記第2保持部の変形を考慮して行われることを特徴とする摺動評価装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、
前記第1保持部は、
前記第1対象物に接触して保持する保持部材と、
前記保持部材を浮上させる浮上機構と、
を備えることを特徴とする摺動評価装置。
【請求項10】
摺動界面における分離現象の評価に用いられる摺動評価方法であって、
a)第1対象物および第2対象物を接触した状態で保持する工程と、
b)前記第1対象物を摺動方向に変位させ、前記第1対象物の前記摺動方向における変位および荷重を測定する工程と、
c)前記b)工程における測定結果に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を摺動評価値として求める工程と、
を備えることを特徴とする摺動評価方法。
【請求項11】
請求項10に記載の摺動評価方法であって、
前記c)工程において、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力から、移動速度0における摩擦力が外挿により求められ、当該摩擦力が、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素である前記摺動評価値として取得されることを特徴とする摺動評価方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の摺動評価方法であって、
前記c)工程において、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から外挿により求められた荷重速度0、速度0または荷重速度無限大における接触剛性が、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素である前記摺動評価値として取得されることを特徴とする摺動評価方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の摺動評価方法であって、
前記c)工程における外挿は、前記第1対象物と前記第2対象物との間の前記複数の摩擦力を多項式フィッティングして行われ、
前記多項式フィッティングにおける次数は、ベイズ情報量基準により決定されることを特徴とする摺動評価方法。
【請求項14】
請求項10ないし13のいずれか1つに記載の摺動評価方法であって、
前記c)工程において、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力、または、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から、機械学習により前記摺動評価値が取得されることを特徴とする摺動評価方法。
【請求項15】
摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値を算出する摺動評価値算出装置であって、
第1対象物を第2対象物に接触した状態で摺動方向に変位させた場合の前記第1対象物の前記摺動方向における変位および荷重の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部に対する入力に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を摺動評価値として求める演算部と、
前記演算部による演算結果を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする摺動評価値算出装置。
【請求項16】
摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値を算出するプログラムであって、前記プログラムのコンピュータによる実行は、前記コンピュータに、
a)第1対象物を第2対象物に接触した状態で摺動方向に変位させた場合の前記第1対象物の前記摺動方向における変位および荷重の入力を受け付ける工程と、
b)前記a)工程における入力に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を摺動評価値として求める工程と、
c)前記b)工程における演算結果を出力する工程と、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動界面における分離現象を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、関節を損傷した患者に対する人工関節手術が行われている。人工関節は、例えば、チタン(Ti)、コバルト・クロム(Co-Cr)合金もしくはステンレス鋼等の金属、セラミックス、または、ポリエチレン等を材料として形成される。特許文献1では、人工関節に使用される超高分子量ポリエチレン製切削成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-153441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人工関節では、部品が擦れ合う関節部分(すなわち、摺動界面)における摩耗等を抑制することが重要であり、摺動界面における摩耗等の力学現象を精度良く評価することが求められている。しかしながら、摺動界面における力学現象は、接着、疲労、亀裂発生、発熱等の様々な現象が複雑に関わっているため、当該力学現象を評価するための装置や手法は確立されていない。
【0005】
同様に、機械の摺動、圧延等の加工における被加工材料と金型等との摺動、地殻変動における地殻同士の摺動等、摩擦および摩耗に関わる全ての分野においても、摺動界面における力学現象は複雑であり、当該力学現象を評価するための装置や手法は確立されていない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、摺動界面における分離現象を精度良く評価することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、摺動界面における分離現象の評価に用いられる摺動評価装置であって、第1対象物を保持する第1保持部と、前記第1対象物に接触する第2対象物を保持する第2保持部と、前記第1保持部を摺動方向に変位させる変位機構と、前記変位機構による前記第1対象物の前記摺動方向における変位を測定する変位測定部と、前記変位機構により前記第1対象物に加えられる前記摺動方向の荷重を測定する荷重測定部と、前記変位測定部および前記荷重測定部による測定結果に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性のまたは速度に非依存の要素を摺動評価値として求める演算部とを備える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の摺動評価装置であって、前記演算部は、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力から、移動速度0における摩擦力を外挿により求め、当該摩擦力を、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素である前記摺動評価値として取得する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の摺動評価装置であって、前記演算部は、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から外挿により求めた荷重速度0、速度0または荷重速度無限大における接触剛性を、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素である前記摺動評価値として取得する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の摺動評価装置であって、前記演算部による外挿は、前記第1対象物と前記第2対象物との間の前記複数の摩擦力を多項式フィッティングして行われ、前記多項式フィッティングにおける次数は、ベイズ情報量基準により決定される。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、前記演算部は、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力、または、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から、機械学習により前記摺動評価値を取得する。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、前記変位機構が、前記第1保持部を1μm以下の分解能にて微小変位させる微動機構と、前記第1保持部を前記微動機構による変位可能範囲よりも大きく変位させる粗動機構とを備える。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、前記変位測定部は、前記第1対象物の前記摺動方向における変位を測定する第1変位測定部と、前記第2対象物の前記摺動方向における変位を測定する第2変位測定部とを備え、前記変位測定部による変位測定は、前記第1変位測定部および前記第2変位測定部による測定結果に基づく前記第1対象物の前記第2対象物に対する相対変位の取得である。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の摺動評価装置であって、前記第2変位測定部は、前記第2保持部のうち前記第1対象物近傍の第1位置、および、前記第1位置よりも前記第1対象物から離れた第2位置における前記第2保持部の変位を測定する2つのセンサを備え、前記第1対象物の前記第2対象物に対する相対変位の取得は、前記2つのセンサによる測定結果に基づいて求められた前記第2保持部の変形を考慮して行われる。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の摺動評価装置であって、前記第1保持部は、前記第1対象物に接触して保持する保持部材と、前記保持部材を浮上させる浮上機構とを備える。
【0016】
請求項10に記載の発明は、摺動界面における分離現象の評価に用いられる摺動評価方法であって、a)第1対象物および第2対象物を接触した状態で保持する工程と、b)前記第1対象物を摺動方向に変位させ、前記第1対象物の前記摺動方向における変位および荷重を測定する工程と、c)前記b)工程における測定結果に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性のまたは速度に非依存の要素を摺動評価値として求める工程とを備える。
【0017】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の摺動評価方法であって、前記c)工程において、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力から、移動速度0における摩擦力が外挿により求められ、当該摩擦力が、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素である前記摺動評価値として取得される。
【0018】
請求項12に記載の発明は、請求項10または11に記載の摺動評価方法であって、前記c)工程において、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から外挿により求められた荷重速度0、速度0または荷重速度無限大における接触剛性が、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素である前記摺動評価値として取得される。
【0019】
請求項13に記載の発明は、請求項11または12に記載の摺動評価方法であって、前記c)工程における外挿は、前記第1対象物と前記第2対象物との間の前記複数の摩擦力を多項式フィッティングして行われ、前記多項式フィッティングにおける次数は、ベイズ情報量基準により決定される。
【0020】
請求項14に記載の発明は、請求項10ないし13のいずれか1つに記載の摺動評価方法であって、前記c)工程において、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の移動速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力、または、前記摺動方向における前記第1対象物の複数の荷重速度または複数の速度について取得された前記第1対象物と前記第2対象物との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から、機械学習により前記摺動評価値が取得される。
【0021】
請求項15に記載の発明は、摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値を算出する摺動評価値算出装置であって、第1対象物を第2対象物に接触した状態で摺動方向に変位させた場合の前記第1対象物の前記摺動方向における変位および荷重の入力を受け付ける入力部と、前記入力部に対する入力に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性のまたは速度に非依存の要素を摺動評価値として求める演算部と、前記演算部による演算結果を出力する出力部とを備える。
【0022】
請求項16に記載の発明は、摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値を算出するプログラムであって、前記プログラムのコンピュータによる実行は、前記コンピュータに、a)第1対象物を第2対象物に接触した状態で摺動方向に変位させた場合の前記第1対象物の前記摺動方向における変位および荷重の入力を受け付ける工程と、b)前記a)工程における入力に基づく演算により、前記第1対象物と前記第2対象物との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、前記第1対象物と前記第2対象物との間の接触剛性のまたは速度に非依存の要素を摺動評価値として求める工程と、c)前記b)工程における演算結果を出力する工程とを実行させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一の実施の形態に係る摺動評価装置の構成を示す側面図である。
図2】制御部の構成を示す図である。
図3】制御部により実現される機能を示すブロック図である。
図4】摺動評価値の取得の流れを示す図である。
図5】移動速度と摩擦力との関係を示す図である。
図6】摺動界面における力学現象をモデル化した概念図である。
図7】摺動界面における力学現象をモデル化した概念図である。
図8】摺動評価値の取得の流れを示す図である。
図9】時間と微小変位および摩擦力との関係を示す図である。
図10】摺動評価値の取得の流れを示す図である。
図11】荷重速度と摩擦力との関係を示す図である。
図12】微小変位と摩擦力との関係を示す図である。
図13】摺動評価値の取得の流れを示す図である。
図14】摺動評価値の取得の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る摺動評価装置1の構成を示す側面図である。摺動評価装置1は、対象物同士を摺動させた際に対象物同士の摺動界面において生じる分離現象の評価に用いられる。摺動評価装置1は、例えば、人工関節において使用される超高分子量ポリエチレン(UHMWPE:Ultra High Molecular Weight Polyethylene)と金属との摺動の評価に用いられる。
【0026】
上述の分離現象とは、対象物同士を摺動させた際に対象物同士の摺動界面において生じる力学現象の一部である。当該力学現象は、摺動が継続された際にいずれ分離が生じる分離現象(すなわち、不可逆的に開放される弾性エネルギーによる現象)と、分離が生じない粘性現象とに分類することができる。人工関節における摺動評価の場合、摺動界面における摩耗や剥離、潤滑液の変成等が分離現象に含まれ、潤滑液の粘性による発熱等は粘性現象に含まれる。
【0027】
摺動評価装置1では、上述の分離現象および粘性現象をそれぞれバネ要素およびダンパ要素としてモデル化し、対象物同士の摺動速度に依存するダンパ要素を排除してバネ要素のみを抽出することにより、摺動界面における分離現象の評価を行う。具体的な評価方法については後述する。
【0028】
摺動評価装置1は、第1保持部21と、第2保持部22と、変位機構3と、変位測定部4と、荷重測定部51と、制御部8とを備える。第1保持部21は、第1対象物91を保持する。第2保持部22は、第1対象物91に接触する第2対象物92を保持する。第1対象物91は、例えば、上述の超高分子量ポリエチレン製の略平板状の部材である。第1対象物91は、主面を上下方向(すなわち、重力方向)に向けて第1保持部21により保持される。第2対象物92は、例えば、コバルト・クロム・モリブデン(Co-Cr-Mo)合金製の略半球状の部材である。第2対象物92は、頂点が下端に位置する状態で第2保持部22により保持される。第2対象物92は、当該頂点にて潤滑液(例えば、シリコーンオイル)を介して第1保持部21の上面に接触している。なお、潤滑液は必ずしも利用される必要はない。
【0029】
第1保持部21は、第1対象物91に接触して保持する保持部材23と、保持部材23を浮上させる浮上機構24とを備える。保持部材23は、例えば、第1対象物91よりも大きい略平板状のチャック部材である。保持部材23は、上面を第1対象物91の下面に接触させた状態で第1対象物91をチャックし、第1対象物91を下側から保持する。浮上機構24は、例えば、保持部材23の下方に配置される浮上ステージである。浮上機構24は、保持部材23の下面に向けてガスを噴射することにより、保持部材23を浮上機構24上に浮上させ、保持部材23を下方から非接触状態にて支持する。浮上機構24は、例えば、多孔質材料により形成された上板と、当該上板の下方から圧縮空気を供給するブロワとを備える。
【0030】
第2保持部22は、第2対象物92に接触して保持する保持部材25と、保持部材25を支持する支持機構26とを備える。保持部材25は、例えば、上下方向に延びる略円柱状の部材である。保持部材25の下端面は、第2対象物92の上端面に接続され、第2対象物92を上側から保持する。支持機構26は、例えば、保持部材25を上下方向に移動可能に支持する略円筒状のリニアブッシュである。当該リニアブッシュの内側面には、例えば、ボールベアリングが設けられる。支持機構26は、図示省略のフレーム等に固定されている。保持部材25の上端部には、おもり52が接続される。第2対象物92は、おもり52および保持部材25の重さにより、第1対象物91の上面に対して押圧されている。
【0031】
変位機構3は、第1保持部21および第1対象物91を所定の摺動方向に変位させる機構である。当該摺動方向は、上下方向に垂直な方向であり、図1中における左右方向である。変位機構3は、微動機構31と、粗動機構32とを備える。微動機構31は、第1保持部21を1μm以下の分解能にて摺動方向に微小変位可能な移動機構である。粗動機構32は、第1保持部21を、微動機構31による変位可能範囲よりも大きく変位可能な移動機構である。粗動機構32による第1保持部21の変位の分解能は、例えば、微動機構31の当該分解能よりも大きい。
【0032】
粗動機構32は、例えば、エアシリンダまたはリニアモータである。微動機構31は、例えば、ピエゾアクチュエータである。当該ピエゾアクチュエータは、例えば、粗動機構32のうち第1保持部21に接続されるロッド部の中央部に設けられる。摺動評価装置1では、例えば、第1対象物91と第2対象物92との間の静止摩擦力を測定する場合、微動機構31による第1保持部21の微小変位が行われ、第1対象物91と第2対象物92との間の動摩擦力を測定する場合、粗動機構32による第1保持部21の変位が行われる。
【0033】
変位測定部4は、第1変位測定部41と、第2変位測定部42とを備える。第1変位測定部41は、変位機構3による第1対象物91の摺動方向における変位を測定する。第2変位測定部42は、第2対象物92の摺動方向における変位を測定する。第2対象物92の当該変位は、第1対象物91と第2対象物92との間の摩擦により生じる第2保持部22の微小な変形(すなわち、上下方向に対する傾斜)によるものである。第1変位測定部41は、第1保持部21の側方(例えば、図1中における右側)に配置されるセンサ43を備える。センサ43は、例えば、第1保持部21の側面にレーザ光を照射し、当該側面からの反射光を受光して第1保持部21との間の距離を測定するレーザ距離センサである。
【0034】
第2変位測定部42は、第2保持部22の側方(例えば、図1中における右側)2つのセンサ44,45を備える。センサ44,45は、例えば、第2保持部22の側面にレーザ光を照射し、当該側面からの反射光を受光して第2保持部22との間の距離を測定するレーザ距離センサである。センサ44,45は、上下方向に並んで配置される。下側に配置されるセンサ44は、第2保持部22のうち第1対象物91近傍の位置(以下、「第1位置」とも呼ぶ。)における第2保持部22の摺動方向の変位を測定する。センサ44の上側に配置されるセンサ45は、第1位置よりも第1対象物91から上側に離れた位置(以下、「第2位置」とも呼ぶ。)における第2保持部22の摺動方向の変位を測定する。
【0035】
摺動評価装置1では、変位測定部4による測定結果に基づいて、後述する演算部82により第1対象物91の第2対象物92に対する摺動方向における相対変位が求められ、第1対象物91の変位として演算に用いられる。具体的には、まず、第2変位測定部42のセンサ44,45による測定結果から、第2保持部22の第1位置および第2位置の変位がそれぞれ求められる。続いて、第2位置よりも下側において第2保持部22および第2対象物92が直線状に変位している(すなわち、第2保持部22が直線状に変形している)と仮定して、上述の第2保持部22の第1位置および第2位置の変位から、第2対象物92の下端(すなわち、第1対象物91との接触箇所)の摺動方向における変位が求められる。
【0036】
また、第1変位測定部41のセンサ43による測定結果から、第1保持部21の摺動方向における変位(すなわち、第1対象物91の摺動方向における変位)が求められる。そして、第2対象物92の下端部および第1対象物91の摺動方向における変位から、第1対象物91の第2対象物92に対する摺動方向における相対変位が求められる。換言すれば、第1対象物91の第2対象物92に対する摺動方向における相対変位は、センサ44,45による測定結果に基づいて求められた第2保持部22の変形を考慮して求められる。
【0037】
荷重測定部51は、変位機構3により第1保持部21を介して第1対象物91に加えられる摺動方向の荷重を測定する。荷重測定部51は、例えば、ロードセル等の荷重センサを備える。当該荷重センサは、例えば、粗動機構32の上記ロッド部の付け根部に接続される。
【0038】
制御部8は、摺動評価装置1において変位機構3等の各構成の動作を制御し、変位測定部4および荷重測定部51による測定結果に基づいて、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値を求める。制御部8は、例えば、通常のコンピュータである。
【0039】
図2は、制御部8の構成を示す図である。制御部8は、プロセッサ801と、メモリ802と、入力部803と、出力部804と、バス805とを備える。バス805は、プロセッサ801、メモリ802、入力部803および出力部804を接続する信号回路である。メモリ802は、プログラムおよび各種情報を記憶する。プロセッサ801は、メモリ802に記憶されるプログラム等に従って、メモリ802等を利用しつつ様々な処理(例えば、数値計算)を実行する。入力部803は、操作者からの入力を受け付けるキーボード806およびマウス807、並びに、変位測定部4および荷重測定部51からの出力を受信する受信部808を備える。出力部804は、プロセッサ801からの出力等を表示するディスプレイ809を備える。
【0040】
図3は、制御部8により実現される機能を示すブロック図である。制御部8は、記憶部81と、演算部82と、測定制御部83とを備える。記憶部81は、主にメモリ802により実現され、プログラム84を予め記憶している。記憶部81は、また、変位測定部4および荷重測定部51による測定結果を格納する。当該測定結果は、例えば、変位測定部4および荷重測定部51から送信され、入力部803の受信部808により受け付けられる。あるいは、当該測定結果は、摺動評価装置1の操作者により、入力部803のキーボード806およびマウス807等を用いて、制御部8に入力されてもよい。
【0041】
測定制御部83は、主にプロセッサ801により実現され、記憶部81に記憶されているプログラム84に従って変位機構3、変位測定部4および荷重測定部51を制御して測定を行う。演算部82は、主にプロセッサ801により実現され、記憶部81に記憶されているプログラム84に従って演算を行い、変位測定部4および荷重測定部51の測定結果から上述の摺動評価値を求める。演算部82により求められた摺動評価値等は、例えば、出力部804のディスプレイ809に表示される。
【0042】
次に、図4ないし図12を参照しつつ、摺動評価装置1による摺動評価値の取得の流れについて説明する。図4は、第1対象物91と第2対象物92との間の動摩擦における摺動評価値の取得の流れを示す。図8は、第1対象物91と第2対象物92との間の静止摩擦における摺動評価値の取得の流れを示す。以下の説明では、図4に示す摺動評価値の取得について説明した後、図8に示す摺動評価値の取得について説明する。
【0043】
動摩擦における摺動評価値が取得される際には、まず、第1保持部21および第2保持部22により、第1対象物91および第2対象物92が互いに接触した状態で保持される(図4:ステップS11)。上述のように、第1対象物91と第2対象物92との接触は、潤滑液を介して行われる。当該潤滑液の粘度は、例えば、1×10-5/s(すなわち、10cSt)である。
【0044】
続いて、測定制御部83により変位機構3が制御されることにより、第1対象物91を第2対象物92に対して相対的に移動させ、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面を均す均し処理が行われる。当該均し処理は、例えば、変位機構3の粗動機構32により、第1対象物91を第2対象物92と接触させた状態で比較的長い距離移動させることにより行われる。均し処理における第1対象物91の移動は、例えば、摺動方向における往復移動である。あるいは、第1保持部21を摺動方向に垂直な水平方向に移動させる機構が設けられている場合、第1対象物91を摺動方向および摺動方向に垂直な方向に交互に移動させることにより、均し処理が行われてもよい。また、均し処理における第1対象物91の移動は、上下方向を向く回転軸を中心とした回転移動であってもよい。均し処理が所定時間行われると、変位機構3による第1保持部21の移動が停止される。
【0045】
次に、測定制御部83により変位機構3、変位測定部4および荷重測定部51が制御されることにより、第1保持部21の摺動方向への移動が開始され、第1対象物91の摺動方向における変位(すなわち、移動距離)、および、第1対象物91に加わる摺動方向への荷重が測定される。以下の説明では、第1対象物91の摺動方向における変位、および、第1対象物91に加わる摺動方向への荷重を、単に、「第1対象物91の変位および荷重」とも呼ぶ。第1対象物91は、粗動機構32により比較的大きく(例えば、数10cm)移動され、第1対象物91と第2対象物92との間に作用する動摩擦力が、上記荷重として荷重測定部51により測定される。
【0046】
そして、第1対象物91の摺動方向における移動速度(以下、単に「第1対象物91の移動速度」とも呼ぶ。)を変更して、第1対象物91の変位および荷重の測定が繰り返される。これにより、第1対象物91の複数の移動速度について、第1対象物91と第2対象物92との間に作用する摩擦力(すなわち、動摩擦力)が取得される(ステップS12)。第1対象物91の複数の移動速度について取得された複数の摩擦力は、制御部8へと送られて記憶部81に記憶される。
【0047】
制御部8では、演算部82により、ステップS12における変位測定部4および荷重測定部51による測定結果に基づいて演算が行われ、第1対象物91と第2対象物92との間の摺動抵抗の速度非依存要素(すなわち、速度に依存しない独立要素)が、摺動評価値として求められる。具体的には、図5に示すように、ステップS12における測定結果を、第1対象物91の移動速度および荷重(すなわち、摩擦力)をそれぞれ横軸および縦軸としてプロットする。そして、プロットされた複数の測定結果(すなわち、図5中の黒丸)に基づいて、移動速度0における摩擦力を外挿によって求めることにより、当該摩擦力が、摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値として取得される(ステップS13)。演算部82により取得された摺動評価値(すなわち、演算部82による演算結果)は、例えば、出力部804のディスプレイ809に出力される(ステップS14)。
【0048】
上述のように、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面において生じる力学現象は、分離現象と粘性現象とに分類される。当該力学現象を図6に例示するようにモデル化した場合、分離現象はバネ要素931~933により表され、粘性現象はダンパ要素941~944にて表される。ここで、上述のように移動速度を0とすると、ダンパ要素941~944は機能しないため、図7に示すように、バネ要素931~933のみを抽出することができる。すなわち、上述のように、移動速度0における摩擦力を外挿によって求めることにより、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面において生じる力学現象から、粘性現象を排除して分離現象のみを抽出することができる。
【0049】
ステップS13において移動速度0における摩擦力を求める際には、例えば、図5中において実線71にて示すように、プロットされた複数の測定結果を最小二乗法等により多項式フィッティングする。多項式フィッティングにおける次数は、例えば、ベイズ情報量規準(BIC:Bayesian Information Criterion)により決定される。詳細には、ベイズ情報量基準を示す式「BIC=-2×MLL+k×n」において、パラメータkを次数として、BICが最小となるk(次数)を正の整数の範囲内で求める。なお、MLLは、データのもっともらしさを示す最大対数尤度であり、nは、図5中にプロットされた測定結果の数(すなわち、データ点数)である。ベイズ情報量基準を用いて多項式フィッティングにおける次数を求めることにより、測定結果と近似曲線71との平均絶対誤差(MAE:Mean Absolute Error)を小さくしつつ、不自然に大きい次数を排除し、適切な形状の近似曲線71を得ることができる。
【0050】
摺動評価装置1では、上述のステップS11~S13により求められた移動速度0における摩擦力と、第1対象物91の変位とを積算し、第1対象物91と第2対象物92との接触面積で除算することにより、DEI(Destruction Energy Index)が求められてもよい。DEIは、摺動界面における分離現象に起因すると考えられるエネルギー(すなわち、摺動により系から不可逆的に解放され得る弾性エネルギー)を、接触面積で除算した概念であり、摺動界面における分離現象の評価に用いられる摺動評価値の1つである。DEIを動摩擦に係るDDEI(Dynamic Destruction Energy Index)と、静止摩擦に係るSDEI(Static Destruction Energy Index)とに区分すると、上述のステップS11~S13による演算結果に基づいて求められるDEIは、DDEIである。演算部82により取得されたDDEIは、例えば、出力部804のディスプレイ809に出力されてもよい。
【0051】
次に、図8を参照しつつ、静止摩擦における摺動評価値の取得の流れについて説明する。静止摩擦における摺動評価値が取得される際には、まず、第1保持部21および第2保持部22により、第1対象物91および第2対象物92が互いに接触した状態で保持される(図8:ステップS21)。第1対象物91と第2対象物92との接触は、ステップS11と同様に、潤滑液を介して行われる。当該潤滑液の粘度は、例えば、1×10-5/s(すなわち、10cSt)である。続いて、上記と同様に、第1対象物91を第2対象物92に対して相対的に移動させ、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面を均す均し処理が行われる。
【0052】
次に、測定制御部83により変位機構3、変位測定部4および荷重測定部51が制御されることにより、第1保持部21が巨視的には停止している状態で、第1保持部21に対して摺動方向の力が加えられ、当該力が徐々に増大される。また、第1保持部21に対する当該力の付与と並行して、第1対象物91の摺動方向における微小変位、および、第1対象物91に加わる摺動方向への荷重が測定される。当該測定では、微動機構31により第1対象物91が摺動方向に微小変位(例えば、数10μmの変位)した後、摺動方向への移動(すなわち、巨視的な変位)を開始するまで、第1対象物91と第2対象物92との間に作用する摩擦力が、上記荷重として荷重測定部51により測定される。すなわち、荷重測定部51により測定される摩擦力は、測定開始からの経過時間に従って漸次増大して最大静止摩擦力に達する静止摩擦力である。また、変位測定部4により測定される微小変位は、最大静止摩擦力に対応する変位(以下、「最大静止変位」とも呼ぶ。)以下の微小な変位である。
【0053】
そして、第1対象物91の摺動方向における荷重速度(以下、単に「第1対象物91の荷重速度」とも呼ぶ。)を変更して、第1対象物91の微小変位および荷重の測定が繰り返される。これにより、第1対象物91の複数の荷重速度について、第1対象物91の微小変位、および、第1対象物91と第2対象物92との間に作用する摩擦力(すなわち、静止摩擦力)が取得される(ステップS22)。第1対象物91の複数の荷重速度について取得された第1対象物91の微小変位および摩擦力は、制御部8へと送られて記憶部81に記憶される。
【0054】
制御部8では、演算部82により、ステップS22における変位測定部4および荷重測定部51による測定結果に基づいて演算が行われ、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の荷重速度非依存要素(すなわち、荷重速度に依存しない独立要素)が、摺動評価値として求められる(ステップS23)。
【0055】
具体的には、まず、図9に示すように、ステップS22において測定された一の荷重速度についての測定結果を、測定開始からの経過時間を横軸とし、第1対象物91の微小変位および荷重(すなわち、摩擦力)を縦軸としてプロットする。図9中における実線72は第1対象物91の微小変位を示し、破線73は、第1対象物91と第2対象物92との間の摩擦力を示す。そして、図9中において二点鎖線の矩形にて囲むように、摩擦力73の傾斜(すなわち、上述の一の荷重速度)が略一定の範囲において、所定の複数の微小変位にそれぞれ対応する複数の摩擦力(すなわち、微小変位と摩擦力との複数の組み合わせ)を取得する。また、ステップS22において測定された他の荷重速度における測定結果についても同様に、所定の複数の微小変位にそれぞれ対応する複数の摩擦力(すなわち、微小変位と摩擦力との複数の組み合わせ)を取得する(図10:ステップS231)。
【0056】
続いて、当該所定の複数の微小変位のうち一の微小変位について、ステップS231の取得結果に基づいて、荷重速度および摩擦力をそれぞれ横軸および縦軸として、図11に示すようにプロットする。そして、プロットされた複数の測定結果(すなわち、図11中の黒丸)に基づいて、荷重速度0における摩擦力を外挿によって求める。そして、当該摩擦力を上述の一の微小変位によって除算することにより、当該一の微小変位における接触剛性(すなわち、荷重速度0における接触剛性)が、摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値として取得される(ステップS232)。演算部82により取得された摺動評価値(すなわち、演算部82による演算結果)は、例えば、出力部804のディスプレイ809に出力される(図8:ステップS24)。
【0057】
ステップS232において荷重速度0における摩擦力を求める際には、例えば、図11中において実線74にて示すように、プロットされた複数の測定結果を最小二乗法等により多項式フィッティングする。多項式フィッティングにおける次数は、例えば、上述のベイズ情報量規準により決定される。これにより、上記と同様、測定結果と近似曲線74との平均絶対誤差を小さくしつつ、不自然に大きい次数を排除し、適切な形状の近似曲線74を得ることができる。
【0058】
摺動評価装置1では、上述の所定の複数の微小変位について、ステップS232がそれぞれ行われ、各微小変位における接触剛性が、摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値として取得される。
【0059】
また、摺動評価装置1では、上述の所定の複数の微小変位について求められた荷重速度0における摩擦力を用いて、SDEIが求められてもよい。具体的には、各微小変位について求められた荷重速度0における摩擦力が、図12に示すように、横軸を微小変位としてプロットされる。そして、微小変位が0から最大静止摩擦力に対応する変位(すなわち最大静止変位)までの範囲において、プロットされた摩擦力が台形積分されることにより、SDEIが求められる。演算部82により取得されSDEIは、例えば、出力部804のディスプレイ809に出力されてもよい。
【0060】
なお、当該SDEIは、図12にプロットされた摩擦力に対して最小二乗法等により多項式フィッティングを行い、得られた近似曲線75を微小変位が0から最大静止変位までの範囲において積分することにより求められてもよい。この場合、多項式フィッティングにおける次数は、例えば、上述のベイズ情報量規準により決定されてもよい。
【0061】
摺動評価装置1では、上述のステップS232において、図11に示す複数の測定結果に基づいて、荷重速度無限大(∞)における摩擦力を外挿によって求めてもよい。そして、当該摩擦力を上述の一の微小変位によって除算することにより、当該一の微小変位における接触剛性(すなわち、荷重速度無限大における接触剛性)が、摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値として取得されてもよい。荷重速度無限大における摩擦力は、荷重速度0における摩擦力と同様に、プロットされた複数の測定結果を最小二乗法等により多項式フィッティングして求められる。多項式フィッティングにおける次数は、例えば、上述のベイズ情報量規準により決定される。
【0062】
摺動評価装置1では、荷重速度0における摩擦力を求める場合と同様に、上述の所定の複数の微小変位について、ステップS232がそれぞれ行われ、各微小変位における接触剛性が、摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値として取得される。また、摺動評価装置1では、上述の所定の複数の微小変位について求められた荷重速度無限大における摩擦力を用いて、荷重速度0における摩擦力を用いる場合と同様に、SDEIが求められてもよい。
【0063】
このように、摺動評価装置1では、荷重速度0または無限大における摩擦力を外挿によって求めることにより、図6および図7の例示と同様に、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面において生じる力学現象から、粘性現象を排除して分離現象のみを抽出することができる。
【0064】
なお、摺動評価装置1では、ステップS22において、取得された摩擦力を微小変位により除算することにより、第1対象物91の複数の荷重速度について接触剛性が求められてもよい。そして、ステップS231では、複数の荷重速度における測定結果について、所定の複数の微小変位にそれぞれ対応する複数の接触剛性が取得される。そして、ステップS232において、上記と略同様の方法により、各微小変位において、荷重速度0または荷重速度無限大における接触剛性が外挿によって求められ、当該接触剛性が各微小変位における摺動評価値として取得される。
【0065】
また、摺動評価装置1では、ステップS22において第1対象物91の荷重速度に代えて速度を測定または推定可能である場合、第1対象物91の複数の速度について、第1対象物91の微小変位、および、第1対象物91と第2対象物92との間に作用する摩擦力または接触剛性が取得される。第1対象物91の速度が推定される際には、例えば、図9に示す各荷重速度における微小変位の測定結果(実線72)の傾きに基づいて当該速度が求められる。これにより、速度制御が容易ではない第1対象物91の起動時における速度を精度良く求めることができる。また、ステップS23では、演算部82により、速度0における接触剛性が外挿により求められ、当該速度0における接触剛性が、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の速度非依存要素(すなわち、速度に依存しない独立要素)である摺動評価値として求められる。
【0066】
具体的には、ステップS231において、複数の速度における測定結果について、所定の複数の微小変位にそれぞれ対応する複数の摩擦力または接触剛性が取得される。そして、ステップS232において、上記と略同様の方法により、各微小変位において、速度0または速度無限大における摩擦力または接触剛性が外挿によって求められる。当該外挿により摩擦力を求めた場合、当該摩擦力を各微小変位によって除算することにより、各微小変位における接触剛性(すなわち、速度0または速度無限大における接触剛性)が摺動評価値として取得される。上記外挿により接触剛性を求めた場合、当該接触剛性が各微小変位における摺動評価値として取得される。
【0067】
以上に説明したように、摺動評価装置1は、摺動界面の分離現象の評価に用いられる装置である。摺動評価装置1は、第1保持部21と、第2保持部22と、変位機構3と、変位測定部4と、荷重測定部51と、演算部82とを備える。第1保持部21は、第1対象物91を保持する。第2保持部22は、第1対象物91に接触する第2対象物92を保持する。変位機構3は、第1保持部21を摺動方向に変位させる。変位測定部4は、変位機構3による第1対象物91の摺動方向における変位を測定する。荷重測定部51は、変位機構3により第1対象物91に加えられる摺動方向の荷重を測定する。演算部82は、変位測定部4および荷重測定部51による測定結果に基づく演算により、第1対象物91と第2対象物92との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を摺動評価値として求める。当該摺動評価値を利用することにより、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0068】
上述のように、演算部82は、摺動方向における第1対象物91の複数の移動速度について取得された第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力から、移動速度0における摩擦力を外挿により求め、当該摩擦力を、第1対象物91と第2対象物92との間の摺動抵抗の速度非依存要素である摺動評価値として取得することが好ましい。これにより、動摩擦力が生じている摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0069】
上述のように、演算部82は、摺動方向における第1対象物91の複数の荷重速度または複数の速度について取得された第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から外挿により求めた荷重速度0、速度0または荷重速度無限大における接触剛性を、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素である摺動評価値として取得することが好ましい。これにより、静止摩擦力が生じている摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0070】
上述のように、演算部82による外挿(すなわち、移動速度0への外挿、または、荷重速度0もしくは荷重速度無限大への外挿)は、第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力を多項式フィッティングして行われることが好ましい。また、当該多項式フィッティングにおける次数は、ベイズ情報量基準により決定されることが好ましい。これにより、変位測定部4および荷重測定部51による測定結果と近似曲線との平均絶対誤差を小さくしつつ、多項式フィッティングにおける不自然に大きい次数を排除し、適切なフィッティングを実現することができる。その結果、摺動評価値をさらに精度良く取得することができる。
【0071】
上述のように、変位機構3は、微動機構31と、粗動機構32とを備えることが好ましい。微動機構31は、第1保持部21を1μm以下の分解能にて微小変位させる。粗動機構32は、第1保持部21を微動機構31による変位可能範囲よりも大きく変位させる。これにより、摺動評価装置1において、第1対象物91と第2対象物92との間に静止摩擦力および動摩擦力のいずれが生じる状態であっても、摺動評価値を精度良く取得することができる。
【0072】
上述のように、変位測定部4は、第1対象物91の摺動方向における変位を測定する第1変位測定部41と、第2対象物92の摺動方向における変位を測定する第2変位測定部42とを備えることが好ましい。また、変位測定部4による変位測定は、第1変位測定部41および第2変位測定部42による測定結果に基づく第1対象物91の第2対象物92に対する相対変位の取得であることが好ましい。これにより、第2対象物92の微小な変位を考慮して、摺動評価値をさらに精度良く取得することができる。
【0073】
上述のように、第2変位測定部42は、2つのセンサ44,45を備えることが好ましい。当該2つのセンサ44,45は、第2保持部22のうち第1対象物91近傍の第1位置、および、第1位置よりも第1対象物91から離れた第2位置における第2保持部22の変位を測定する。上述の第1対象物91の第2対象物92に対する相対変位の取得は、2つのセンサ44,45による測定結果に基づいて求められた第2保持部22の変形を考慮して行われることが好ましい。これにより、第2保持部22の微小な変形を精度良く取得することができるため、第2対象物92の微小な変位をさらに精度良く考慮することができ、摺動評価値をより一層精度良く取得することができる。
【0074】
上述のように、第1保持部21は、第1対象物91に接触して保持する保持部材23と、保持部材23を浮上させる浮上機構24とを備えることが好ましい。これにより、第1保持部21内における摩擦力、および、第1保持部21と他の部材との間の摩擦力による影響を低減し、第1対象物91と第2対象物92との間の摩擦力を精度良く測定することができる。その結果、摺動評価値をさらに精度良く取得することができる。
【0075】
上述の摺動評価方法は、第1対象物91および第2対象物92を接触した状態で保持する工程(ステップS11,S21)と、第1対象物91を摺動方向に変位させ、第1対象物91の摺動方向における変位および荷重を測定する工程(ステップS12,S22)と、ステップS12,S22における測定結果に基づく演算により、第1対象物91と第2対象物92との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を摺動評価値として求める工程(ステップS13,S23)と、を備える。これにより、上記と同様に、当該摺動評価値を利用することにより、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0076】
上述のように、好ましくは、ステップS13,S23において、摺動方向における第1対象物91の複数の移動速度について取得された第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力から、移動速度0における摩擦力が外挿により求められ、当該摩擦力が、第1対象物91と第2対象物92との間の摺動抵抗の速度非依存要素である摺動評価値として取得される。これにより、上記と同様に、動摩擦力が生じている摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0077】
上述のように、好ましくは、ステップS13,S23において、摺動方向における第1対象物91の複数の荷重速度または複数の速度について取得された第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から外挿により求められた荷重速度0、速度0または荷重速度無限大における接触剛性が、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素である摺動評価値として取得される。これにより、上記と同様に、静止摩擦力が生じている摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0078】
上述のように、ステップS13,S23における外挿(すなわち、移動速度0への外挿、または、荷重速度0もしくは荷重速度無限大への外挿)は、第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力を多項式フィッティングして行われることが好ましい。また、当該多項式フィッティングにおける次数は、ベイズ情報量基準により決定されることが好ましい。これにより、上記と同様に、適切なフィッティングを実現することができ、その結果、摺動評価値をさらに精度良く取得することができる。
【0079】
上記説明では、演算部82は、移動速度0における摩擦力、または、荷重速度0もしくは荷重速度無限大における摩擦力を、測定結果から外挿により求めて取得しているが、これには限定されない。例えば、演算部82は、図4に示すステップS13に代えて、図13に示すように、摺動方向における第1対象物91の複数の移動速度について取得された第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力から、機械学習により上述の摺動評価値を取得してもよい(ステップS33)。これにより、動摩擦力が生じている摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。あるいは、演算部82は、図10に示すステップS232に代えて、図14に示すように、摺動方向における第1対象物91の複数の荷重速度または複数の速度について取得された第1対象物91と第2対象物92との間の複数の摩擦力または複数の接触剛性から、機械学習により上述の摺動評価値を取得してもよい(ステップS432)。これにより、静止摩擦力が生じている摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。上述の機械学習は、既知の様々な学習手法(例えば、表現学習、ベイジアンネットワーク、ニューラルネットワーク等)を用いて実現することができる。
【0080】
上述の摺動界面における分離現象の評価に利用される摺動評価値は、図1ないし図3に示す摺動評価装置1の一部の構成により構成される摺動評価値算出装置により算出されてもよい。当該摺動評価値算出装置は、入力部803と、演算部82と、出力部804とを備える。入力部803は、第1対象物91を第2対象物92に接触した状態で摺動方向に変位させた場合の、第1対象物91の摺動方向における変位および荷重の入力を受け付ける。演算部82は、入力部803に対する入力に基づく演算により、第1対象物91と第2対象物92との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を、摺動評価値として求める。出力部804は、演算部82による演算結果を出力する。これにより、摺動評価値を精度良く取得することができる。また、当該摺動評価値を利用することにより、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0081】
当該摺動評価値算出装置は、例えば通常のコンピュータである。当該摺動評価値算出装置では、入力部803に対する上記変位および荷重の入力は、例えば、変位測定部4および荷重測定部51から入力部803の受信部808(図2参照)への測定結果の送受信であってもよい。あるいは、当該入力は、摺動評価値算出装置の操作者により、入力部803のキーボード806およびマウス807(図2参照)等を用いて行われてもよい。
【0082】
上述のプログラム84(図3参照)は、必ずしも摺動評価装置1において実行される必要はなく、例えば、他のコンピュータにより実行されてもよい。プログラム84の当該コンピュータによる実行は、当該コンピュータに、第1対象物91を第2対象物92に接触した状態で摺動方向に変位させた場合の第1対象物91の摺動方向における変位および荷重の入力を受け付ける工程(ステップS12,S22)と、ステップS12,S22における入力に基づく演算により、第1対象物91と第2対象物92との間の摺動抵抗の速度非依存要素、または、第1対象物91と第2対象物92との間の接触剛性の荷重速度または速度に非依存の要素を摺動評価値として求める工程(ステップS13,S23)と、ステップS13,S23における演算結果を出力する工程(ステップS14,S24)とを実行させる。これにより、摺動評価値を精度良く取得することができる。また、当該摺動評価値を利用することにより、第1対象物91と第2対象物92との摺動界面における分離現象を精度良く評価することができる。
【0083】
上述の摺動評価装置1、摺動評価方法、摺動評価値算出装置およびプログラムでは、様々な変更が可能である。
【0084】
例えば、上述の多項式フィッティングは、最小二乗法以外の方法により行われてもよい。また、当該多項式フィッティングにおける次数は、ベイズ情報量基準以外の手法により決定されてもよい。
【0085】
第1保持部21では、保持部材23の浮上は、必ずしも下方からのガス供給により実現される必要はなく、例えば、保持部材23および浮上機構24に設けられた磁石の斥力により実現されてもよい。第1保持部21は、必ずしも保持部材23を浮上させた状態で移動させる必要はなく、他の様々な構造および形状を有していてもよい。第2保持部22の構造および形状も、様々に変更されてよい。
【0086】
第2変位測定部42に設けられるセンサの数は、1であってもよく、3以上であってもよい。当該センサは、レーザ距離センサ以外のセンサであってもよい。第1変位測定部41に設けられるセンサについても同様である。なお、例えば、第2保持部22の変形による影響が無視できる程度である場合、第2変位測定部42が省略され、第1変位測定部41のみにより第1対象物91の摺動方向における変位が測定されてもよい。
【0087】
摺動評価装置1では、変位機構3による第1保持部21の摺動方向への移動は、上述のように直線移動であってもよく、所定の回転軸を中心とした回転移動であってもよい。
【0088】
摺動評価装置1では、動摩擦力が生じている摺動界面における分離現象の摺動評価値のみを求める場合、変位機構3から微動機構31が省略されてもよい。また、静止摩擦力が生じている摺動界面における分離現象の摺動評価値のみを求める場合、変位機構3から粗動機構32が省略されてもよい。
【0089】
上述の摺動評価装置1、摺動評価方法、摺動評価値算出装置およびプログラムは、人工関節における摺動評価以外の様々な用途に利用されてよい。例えば、上述の摺動評価装置1等は、機械の摺動、圧延等の加工における被加工材料と金型等との摺動、地殻変動における地殻同士の摺動、コンタクトレンズと眼球との摺動、または、化粧品や塗布薬品と皮膚との摺動の評価に利用されてもよい。地殻変動や圧延における摺動を評価する際には、例えば、第1対象物91と第2対象物92との間に高圧の液体を介在させてもよい。また、第1対象物91と第2対象物92との摺動は、真空雰囲気にて行われてもよい。
【0090】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0091】
1 摺動評価装置
3 変位機構
4 変位測定部
21 第1保持部
22 第2保持部
23 保持部材
24 浮上機構
31 微動機構
32 粗動機構
41 第1変位測定部
42 第2変位測定部
43~45 センサ
51 荷重測定部
82 演算部
84 プログラム
91 第1対象物
92 第2対象物
803 入力部
804 出力部
S11~S14,S21~S24,S231~S232,S33,S432 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14