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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】レールの絶縁継目用のカバー部材
(51)【国際特許分類】
   E01B 11/54 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
E01B11/54
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021155490
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】592169806
【氏名又は名称】シーエヌ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 康人
(72)【発明者】
【氏名】上田 好文
(72)【発明者】
【氏名】青木 太治
(72)【発明者】
【氏名】春田 祐希
(72)【発明者】
【氏名】榊原 賢治
(72)【発明者】
【氏名】前田 良太
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-266883(JP,A)
【文献】特開2018-003279(JP,A)
【文献】特開2017-218797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車用のレールの絶縁継目を覆う位置に装着されて前記絶縁継目を挟んだレール間の矯を防ぐためのものであって、
電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されて、前記レールの頭部の上側を覆う上面部と、前記頭部の側方のうち外側を覆う外面部と、前記頭部の側方のうち内側を覆う内面部と、を有する母材と、
前記母材のうち少なくとも前記外面部に設けられて前記レールに吸着可能な磁石と、
を備え
前記磁石は、前記母材に取り外し可能に設けられており、
前記磁石を出し入れ可能でかつ収容可能な収容部を更に備え、
前記収容部は、前記外面部の外側に設けられており、
前記母材は、前記外面部のうち前記磁石と前記レールとの間に位置する領域の一部を貫通した穴部を有している、
レールの絶縁継目用のカバー部材。
【請求項2】
前記磁石が圧入されることで前記磁石を保持可能な保持部を更に備えている、
請求項に記載のレールの絶縁継目用のカバー部材。
【請求項3】
前記保持部は、前記外面部の内側に設けられており、前記磁石が圧入される深さ寸法は、前記磁石の厚み寸法よりも小さく設定されている、
請求項に記載のレールの絶縁継目用のカバー部材。
【請求項4】
列車用のレールの絶縁継目を覆う位置に装着されて前記絶縁継目を挟んだレール間の矯を防ぐためのものであって、
電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されて、前記レールの頭部の上側を覆う上面部と、前記頭部の側方のうち外側を覆う外面部と、前記頭部の側方のうち内側を覆う内面部と、を有する母材と、
前記母材のうち少なくとも前記外面部に設けられて前記レールに吸着可能な磁石と、
を備え
前記磁石は、導電性を有さない部材で構成されている、
レールの絶縁継目用のカバー部材。
【請求項5】
列車用のレールの絶縁継目を覆う位置に装着されて前記絶縁継目を挟んだレール間の矯を防ぐためのものであって、
電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されて、前記レールの頭部の上側を覆う上面部と、前記頭部の側方のうち外側を覆う外面部と、前記頭部の側方のうち内側を覆う内面部と、を有する母材と、
前記母材のうち少なくとも前記外面部に設けられて前記レールに吸着可能な磁石と、
を備え
前記母材よりも耐久性が高い薄板状の部材で構成されて少なくとも前記上面部と前記内面部との境界部分と重なる位置に設けられた補強部材を更に備えている、
レールの絶縁継目用のカバー部材。
【請求項6】
列車用のレールの絶縁継目を覆う位置に装着されて前記絶縁継目を挟んだレール間の矯を防ぐためのものであって、
電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されて、前記レールの頭部の上側を覆う上面部と、前記頭部の側方のうち外側を覆う外面部と、前記頭部の側方のうち内側を覆う内面部と、を有する母材と、
前記母材のうち少なくとも前記外面部に設けられて前記レールに吸着可能な磁石と、
を備え
前記内面部は、前記レールの延伸方向の両端部分の角を落とした形状に形成されている、
レールの絶縁継目用のカバー部材。
【請求項7】
外部から視認可能な位置に設けられて、光を反射する性質又は蓄光する性質を有する光学部材を更に備えている、
請求項1から6のいずれか一項に記載のレールの絶縁継目用のカバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、列車用のレールの絶縁継目に装着して使用されるものであって、保守用車両等が絶縁継目を跨いで走行する場合に絶縁継目を挟んだレール間の矯落を防ぐためのレールの絶縁継目用のカバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道軌道においては、軌道上の特定区間に車両が存在するかどうかを検知するための電気的な構成として、特定区間毎に軌道回路を設けている。軌道回路は、例えば特定区間を並走する2組のレール、電源装置、及びリレーを含んで構成される。電源装置は、レールの一方の端側からレールに電流を供給する。リレーは、電源装置とは反対側の端部においてレールに接続されており、電源装置からレールを介して電流を受けることにより動作する。
【0003】
特定区間内に車両が存在していない場合、電源装置からレールに供給された電流は、レールを介してリレーに伝達され、これによりリレーが動作する。一方、特定区間内に車両が存在している場合、列車の車輪によって2組のレール間が短絡する。このため、特定区間内に車両が存在している場合には、電源装置からレールに供給された電流はリレーに伝達されないためリレーは動作しない。特定区間毎にリレーの動作状態を取得することで、特定区間における車両の存在を検知し、その検知した情報に基づいて列車運行や踏切の制御が行われる。
【0004】
軌道回路は、特定区間毎に独立して車両を検知出来るようにするため、特定区間毎に絶縁された電気回路を構成している。すなわち、隣接する特定区間の境界のレールは、相互に絶縁された状態で接続されている。このレール間を絶縁して接続している部分を、絶縁継目と称する。この絶縁継目によって、隣接する2つの軌道回路のうち、一方の軌道回路の電流が他方の軌道回路に影響を及ぼすことを防ぎ、これによりどの区間に列車が存在しているかを明らかにして、安全な列車運行や踏切の制御を行うことができる。
【0005】
ここで、絶縁継目を列車が通過する場合、その車両の車輪が絶縁継目を跨いで前後のレールに接触することで、隣接する特定区間のレールが導通することがある。この隣接する特定区間のレールが導通することを軌道矯絡という。通常の列車の運行で生じる軌道矯絡は、列車が絶縁継目を通過する期間に生じる一時的なものであるため、特に問題はない。しかしながら、例えば保守作業を行うための保守用車両等においては、作業のために絶縁継目で停止したり絶縁継目を低速で通過したりすることがあり、この場合、軌道矯絡が継続することになる。すると、車両を検知している状態が不要に継続されるため、例えば踏切が鳴動し続けて沿線住民の迷惑になったり、事象対応の要員を呼び出して対処する必要があったりと、様々な不都合が生じる。
【0006】
そのため、従来、保守用車両等で作業を行う際には、例えば踏切鳴動等に影響するために注意を要する絶縁継目に対して、軌道矯絡を防止するためにレールの絶縁継目を覆う位置に例えば電気絶縁性を有するカバーを装着するなどの対策が行われていた。カバーは、保守用車両等が通過してもレールから外れないようにレールに対して確実に固定されている必要がある。その固定方法としては、例えば紐やゴムバンド、養生テープ等を用いてレールに固定することが考えられる。しかしながら、いずれも着脱の際の作業性や装着時の安定性が良くなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-266883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記した事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、着脱の際の作業性や装着時の安定性の向上を図ることができるレールの絶縁継目用のカバー部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のレールの絶縁継目用のカバー部材は、列車用のレールの絶縁継目を覆う位置に装着されて前記絶縁継目を挟んだレール間の矯落を防ぐためのものである。カバー部材は、電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されて、前記レールの頭部の上側を覆う上面部と、前記頭部の側方のうち外側を覆う外面部と、前記頭部の側方のうち内側を覆う内面部と、を有する母材と、前記母材のうち少なくとも前記外面部に設けられて前記レールに吸着可能な磁石と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態によるカバー部材の一例をレール共に示す斜視図
図2】第1実施形態によるカバー部材の一例を示す斜視図
図3】第1実施形態によるカバー部材の一例を図2とは異なる方向から示す斜視図
図4】第1実施形態によるカバー部材をレールに装着した状態の一例を示す断面図
図5】第1実施形態によるカバー部材の一例を示す展開図
図6】第2実施形態によるカバー部材の一例を示す斜視図
図7】第2実施形態によるカバー部材をレールに装着した状態の一例を示す断面図
図8】第2実施形態によるカバー部材の一例について一部を破断して示す展開図
図9】第3実施形態によるカバー部材の一例を示す斜視図
図10】第3実施形態によるカバー部材をレールに装着した状態の一例を示す断面図
図11】第3実施形態によるカバー部材について図10のX11線で示す部分を拡大して示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、複数の実施形態によるレールの絶縁継目用のカバー部材について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態で実質的に同一の要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について図1から図5を参照しながら説明する。本実施形態のカバー部材10は、例えば図1及び図4に示すように、列車用のレール701、702の絶縁継目81を覆う位置に装着されて、絶縁継目81を挟んだレール701、702間の矯落を防ぐためのものである。この場合、レール701とレール702とは、絶縁継目81によって電気的に絶縁された状態で相互に接続されている。レール701及びレール702は、それぞれ異なる特定区間に配置されている。すなわち、絶縁継目81で接続されたレール701とレール702とは、それぞれ異なる軌道回路を構成する。
【0013】
なお、以下の説明において、レール701、702を区別しない場合は、各レール701、702を総称してレール70と称することがある。また、レール70の幅方向において、レール70と並走する他のレール側をレール70の内側とし、他のレールとは反対側をレールの外側とする。すなわち、レール70の内側は列車の幅方向の内側と一致し、レール70の外側は列車の幅方向の外側と一致する。隣接するレール701、702は、継目板82を介して相互に接続されている。各レール701、702と継目板82との間には、例えば図4に示すように電気絶縁性を有した絶縁部材83が配置されている。これにより、継目板82を介してレール701とレール702とが導通することが防がれる。
【0014】
レール70は、周知の構成である。レール70は、導電性を有する鋼材で構成されており、図4に示すように、頭部71、腹部72、及び底部73を有している。頭部71は、列車の車輪90を受ける部分である。本実施形態では、頭部71のうち、上側部分つまり上面を頭頂部711と称し、レール70の外側部分つまり外面を外側部712と称し、レール70の内側部分つまり内面を内側部713と称する。
【0015】
カバー部材10は、レール70に装着された場合に、レール70のうち少なくとも頭頂部711の全体、頭頂部711から続く外側部712の一部又は全部、及び頭頂部711から続く内側部713の一部又は全部を覆うことができる。本実施形態の場合、カバー部材10は、頭部71、外側部712、及び内側部713の全体、つまり頭頂部711全体を覆うことができる。
【0016】
カバー部材10は、図1から図4に示すように、母材20、磁石30、補強部材40、及び光学部材50を備えている。母材20は、カバー部材10の大部分つまり主要部分を構成する部材であり、電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されている。母材20は、レール70を通過する車輪90とレール70との間を電気的に絶縁する機能を有する。
【0017】
母材20は、外力を受けた場合に折り曲げ又は撓むことが可能で、かつ、外力が除かれた場合に自己の形状を保持することが可能な程度の剛性を有する部材で構成することができる。母材20の厚み寸法は、例えば0.1mm~数mm程度とすることができる。ここで、保守用車等の通過によりカバー部材10が保守用車等の車輪90から繰り返し押圧力を受けると、カバー部材10が塑性変形して長手方向の両端が反り返ってしまうことがある。この場合、母材20の長手方向の寸法つまりカバー部材10の長手方向の寸法が長すぎると、反り返ったカバー部材10の長手方向の両端部分がレール70から大きく離れてしまい、その結果、レール70からカバー部材10が外れやすくなる。
【0018】
そこで、母材20の長手方向の寸法つまりカバー部材10の長手方向の寸法は、レール70の頭部71の幅寸法の2倍~5倍程度に設定することが好ましい。これにより、カバー部材10が車輪の回転に巻き込まれて外れ難くすることができる。本実施形態の場合、母材20の長手方向の寸法つまりカバー部材10の長手方向の寸法は、例えば200mmに設定されている。
【0019】
母材20の材質は、例えば塩化ビニル、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、アラミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂等の電気絶縁性を有するプラスチックを採用することができる。なお、母材20の材質は、耐久性と経済性を考慮すると、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0020】
母材20は、レール70に装着された場合にレール70に直接接する部分である。母材20は、全体としてレール70の延伸方向に長い形状であって、長手方向に対して直角方向に切断した断面が下方へ開放されたコ字状又はU字状若しくは門状に形成されている。母材20は、例えば型を用いた射出成型や、平坦なシート状の部材を加熱しながら折り曲げて製造することができる。
【0021】
母材20は、上面部21、外面部22、及び内面部23を一体に有している。この場合の一体とは、同一の部材で構成されており、かつ継目等の明確な境界が存在しないことを意味する。上面部21は、カバー部材10がレール70に装着された場合に、レール70の頭部71の上側つまり頭頂部711を覆う部分である。外面部22は、カバー部材10がレール70に装着された場合に、レール70の頭部71の外側部分つまり外側部712を覆う部分である。そして、内面部23は、カバー部材10がレール70に装着された場合に、レール70の頭部71の内側部分つまり内側部713を覆う部分である。
【0022】
磁石30は、レール70に対して吸着可能な磁力を有しており、母材20のうち少なくとも外面部22に設けられている。この場合、磁石30は、外面部22に直接設けられていても良いし、接着剤やテープその他の部材を介して間接的に設けられていても良い。本実施形態の場合、磁石30は、母材20のうち外面部22のみに設けられており、上面部21及び内面部23には設けられていない。
【0023】
カバー部材10は、複数個の磁石30を備えている。磁石30は、例えばレール70の長手方向に沿った長方形状のものを利用することができる。この場合、磁石30は、外面部22のうち長手方向の中央部分を避けた位置に設けられている。すなわち、磁石30は、カバー部材10をレール70に装着した場合に、絶縁継目81と重ならない位置つまり対向しない位置に設けられている。また、磁石30のレール70の外側部712と対向する面つまり外側部712と接触する面は、平坦面に形成されている。
【0024】
本実施形態の場合、磁石30は、外面部22の内側に設けられている。このため、カバー部材10がレール70に装着された場合、磁石30は、レール70に直接接触する。したがって、磁石30をレール70に直接接触させることで、レール70と磁石30との間に母材20等の樹脂部材を介在させた場合に比べて、レール70と磁石30との摩擦抵抗を大きくすることができる。その結果、磁石30つまりカバー部材10を、レール70から外れ難いものとすることができる。
【0025】
磁石30は、例えば永久磁石で構成することができる。磁石30は、例えば導電性を有さない部材で構成されていることが好ましい。磁石30は、例えば導電性を有さないフェライトを主原料にしたもので構成することができる。この場合、磁石30は、例えばフェライトを焼成したいわゆるフェライト磁石や、フェライトとバインダー樹脂で結合させたいわゆるゴム磁石若しくはマグネットシート等で構成することができる。磁石30は、例えば市販品を使用することができる。
【0026】
磁石30の電気抵抗は、レール70の電気抵抗に対して十分に大きい値に設定されている。本実施形態の場合、例えばレール70の電気抵抗が約0.1Ωであるのに対し、磁石30の電気抵抗は数MΩとなっている。本実施形態の場合、磁石30の電気抵抗は約2MΩに設定されている。このため、仮にレール70に対するカバー部材10の取付け位置がずれて磁石30が絶縁継目81を挟んで隣接するレール701、702に接触したとしても、問題となる矯絡は生じることがない。
【0027】
ここで、カバー部材10をレール70に装着した状態で、カバー部材10をレール70の延伸方向へ引っ張った際にレール70から磁石30が剥がされる力を、引張剪断力又は剥離力とする。各磁石30の磁力は、レール70に対するカバー部材10の引張剪断力が10Nから40Nの範囲内となるように設定されている。これにより、カバー部材10は、レール70に装着されたカバー部材10の上を保守用車両等が通過した場合でもレール70から外れ難いものとなり、かつ、作業者がカバー部材10をレール70から取り外そうとする場合には比較的簡単に取り外すことができる。本実施形態の場合、各磁石30の磁力の合計は、カバー部材10の引張剪断力が約20N程度となるように設定されている。
【0028】
磁石30は、母材20に取り外し可能に設けられている。この場合、母材20から磁石30を取り外し可能とは、少なくとも磁石30を破壊することなく母材20から取り外すことが可能であることを意味し、その取り外しの際に母材20が破壊されるか否かは問わない。磁石30は、例えば接着剤や粘着テープ、若しくは両面テープ等の接着部材を用いて母材20に取り付けることができる。この場合、接着部材の粘着力は、上述した磁石30によるカバー部材10の引張剪断力よりも強い力に設定されている。そのため、カバー部材10に引張剪断力が作用した場合や作業者がレール70からカバー部材10を取り外した際に、母材20から磁石30が外れてしまい磁石30がレール70に残されることが抑制される。
【0029】
内面部23は、図2及び図5に示すように、レール70の延伸方向の両端部分の角を落とした形状に形成されている。すなわち、内面部23は、角落とし部231を有している。角落とし部231は、例えば直線の傾斜状に形成されているが、曲線状つまり湾曲状でも良い。ここで、図5に示すように、角落とし部231のうちカバー部材10の長手方向に沿った寸法つまりレール70の延伸方向に沿った寸法を角落とし部231の長さ寸法Laとし、カバー部材10の長手方向に対して直角方向の寸法つまりレール70の高さ方向の寸法を角落とし部231の高さ寸法Haとする。この場合、角落とし部231の高さ寸法Haは例えば、図4に示すレール70の頭部71の高さ寸法Hbの半分以上、好ましくは2/3以上に設定することができる。また、角落とし部231の長さ寸法Laは、例えば角落とし部231の高さ寸法Ha以上に設定することができる。
【0030】
補強部材40は、母材20よりも耐久性の高い薄板状の部材で構成されており、少なくとも上面部21と内面部23との境界部分と重なる位置に設けられている。補強部材40は、母材20のうち特に損傷し易い箇所を補強することで、カバー部材10全体の耐久性を向上させる機能を有する。母材20よりも耐久性が高いとは、母材20と比べて例えば耐摩耗性や剛性が高く、保守用車両等の車輪が接触した場合に母材20よりも破損し難いことを意味する。補強部材40は、例えば超高分子量ポリエチレン等のスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることができる。
【0031】
補強部材40は、例えば母材20の表面に設けられており、保守用車両等が通過する際に保守用車両等の車輪と直接接触する部分である。補強部材40は、母材20の長手方向の全域に亘って設けられている。補強部材40は、上面部21と内面部23との境界部分を跨いで上面部21の幅方向の半分以上の領域及び内面部23の幅方向の半分以上の領域を覆っている。補強部材40は、例えば一方の面に粘着部材が設けられたテープ状又はシート状の部材で構成することができる。この場合、補強部材40は、母材20の表面に貼り付けられている。
【0032】
光学部材50は、光学的な特性を有する部材であり、光を反射する性質又は蓄光する性質を有する部材で構成されている。すなわち、光学部材50は、光を反射する反射テープ、反射シート、若しくは反射板や、蓄光して周囲が暗くなると発光する蓄光テープ、蓄光シート、若しくは蓄光板等で構成することができる。また、光学部材50は、例えば蓄光顔料を塗布して形成することもできる。なお、母材20又は補強部材40が光を反射する性質又は蓄光する性質を有する場合、その性質を有する母材20又は補強部材40は光学部材50を兼用することができる。
【0033】
光学部材50は、カバー部材10がレール70に装着された状態において外部から視認可能な位置に設けられている。光学部材50は、例えば母材20の表面のうち、補強部材40が存しない箇所に設けられている。また、光学部材50は、母材20の長手方向の全域に亘って設けられている。本実施形態の場合、光学部材50は、補強部材40に対して外側寄りつまり外側部712側に設けられている。
【0034】
以上説明した実施形態によれば、カバー部材10は、列車用のレール70の絶縁継目81を覆う位置に装着されて絶縁継目81を挟んだレール701、702間の矯落を防ぐためのものである。カバー部材10は、母材20と、磁石30と、を備える。母材20は、電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されており、レール70の頭部71の上側つまり頭頂部711を覆う上面部21と、頭部71の側方のうち外側部712を覆う外面部22と、頭部71の側方のうち内側部713を覆う内面部23と、を有する。そして、磁石30は、母材20のうち少なくとも外面部22に設けられてレール70に吸着可能に構成されている。
【0035】
これによれば、作業者は、カバー部材10をレール70に装着する際、カバー部材10をレール70に嵌め込むだけで、磁石30がレール70に吸着してカバー部材10が自動でレール70に固定される。このため、作業者は、カバー部材10をレール70に固定するために、例えば紐やゴムバンド、養生テープ等を用いた作業が不要となる。本願発明者の検証によると、磁石30を有しないカバー部材では、レール70に対する着脱に約150秒を要していたが、磁石30を用いた本実施形態のカバー部材10では、レール70に対する着脱は約6秒と大幅に短縮できることがわかった。このように、本実施形態のカバー部材10によれば、従来構成に比べて作業性を大幅に向上させることができる。
【0036】
また、従来構成においてカバー部材を例えば紐やゴムバンド、養生テープ等を用いてレール70に固定する場合、作業者の熟練度によって固定の出来栄えつまり固定の強度が異なることがある。一方で、本実施形態のカバー部材10は、磁石30の磁力によってレール70に吸着固定されるため、作業者の熟練度に関わらず常に一定の強度で固定することができる。
【0037】
更に、例えば養生テープを用いてカバー部材をレール70に固定する場合、例えば降雨等の天候の影響を受けやすい。すなわち、レール70に付着している水分や雨等で養生テープの接着面が濡れてしまうと、養生テープの接着力が低下して作業性が悪くなると共にカバー部材がレール70から外れやすくなる。一方、本実施形態のカバー部材10は、レール70に対する固定に磁石30の磁力を用いているため、レール70に付着している水分や雨等の影響を受け難い。すなわち、本実施形態のカバー部材10によれば、磁石30に水分が付着した場合であっても、レール70に対する磁石30の吸着力は低下しないため、天候等に左右されずにカバー部材10をレール70に対して安定して固定することができる。以上のように、本実施形態のカバー部材10によれば、着脱の際の作業性や装着時の安定性を向上させることができる。
【0038】
磁石30は、母材20に取り外し可能に設けられている。これによれば、カバー部材10の使用後に、磁石30を繰り返し利用することができるため、経済性が良くまた環境にも優しい。なお、カバー部材10のうち磁石30以外の部材、すなわち母材20、補強部材40、及び光学部材50は、消耗品であり使用後は廃棄されるものであるため、母材20から磁石30を取り外すために破壊されても特に問題はない。
【0039】
磁石30は、例えばフェライト磁石等のように導電性を有さない部材で構成されている。これによれば、仮にレール70に対するカバー部材10の取付け位置がずれて磁石30が絶縁継目81を挟んで隣接するレール701、702に接触したとしても、磁石30を介してレール701、702間が矯絡することが防がれる、つまりレール701、702間の電気的絶縁が維持される。そのため、安全性を更に向上させることができる。
【0040】
ここで、本願発明者は、母材20のみをレール70に取り付けて損傷の具合を観察したところ、直線のレール70に取り付けた場合には上面部21の特に内側寄り部分の損傷が激しく、一方で分岐器リード部やカーブ等の曲線のレール70に取付けた場合には内面部23の損傷が激しいことを発見した。これは、直線と曲線とでカバー部材10に作用する力が異なることに起因すると思われる。
【0041】
すなわち、直線の場合、図4のFaに示すように、概ね上面部21に対して垂直方向の力が作用する。そのため、母材20を直線のレール70に取り付けた場合は母材20の上面部21の損傷が多くなる。これに対し、曲線の場合、図4のFbに示すように、斜め方向の力が作用する。このため、母材20を曲線のレール70に取り付けた場合は、母材20の内面部23の損傷が多くなる。
【0042】
そこで、本実施形態のカバー部材10は、補強部材40を更に備えている。補強部材40は、母材20よりも耐久性が高い薄板状の部材で構成されており、少なくとも上面部21と内面部23との境界部分と重なる位置に設けられている。すなわち、補強部材40は、上面部21と内面部23との境界部分を跨ぎ上面部21及び内面部23の所定領域に亘って設けられている。これによれば、母材20のうち特に損傷の激しい箇所を効果的に補強することができる。これにより、カバー部材10の耐久性を向上させることができる。
【0043】
また、本願発明者は、母材20の内面部23を単純な長方形状にした場合には角部分が破損や変形し易いことを発見した。これは、車輪90が母材20を通過する際に内面部23が車輪90の回転に巻き込まれて、母材20に捻じり方向の力が作用するためと考えられる。すなわち、車輪90が母材20を通過する際、車輪90の回転に巻き込まれた内面部23は、車輪90の前側では下方へ巻き込まれ、車輪90の後側では上方へ巻き込まれる。これにより、内面部23には、車輪90の通過の際に車輪90の前後で異なる方向の力が作用し、その結果、母材20に捻じりが発生して損傷や変形し易くなると思われる。
【0044】
そこで、本実施形態のカバー部材10において、母材20の内面部23は、レール70の延伸方向の両端部分の角を落とした形状に形成されている。すなわち、内面部23は、角落とし部231を有している。これによれば、内面部23において車輪90が通過する際に車輪90に接触する箇所を低減することができる。そのため、車輪90がカバー部材10を通過する際に内面部23が車輪90の前後で異なる方向の力が作用して捻じられることを抑制でき、その結果、カバー部材10の損傷や変形を抑制することができる。
【0045】
また、カバー部材10は、光学部材50を更に備えている。光学部材50は、外部から視認可能な位置に設けられており、光を反射する性質又は蓄光する性質を有している。これによれば、夜間等でもカバー部材10の存在を目立たせることができる。その結果、保守作業後に作業者がカバー部材10の取り外しを忘れてしまうことを抑制できる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、図6から図8を参照して第2実施形態について説明する。本実施形態のカバー部材10は、主に収容部11を備えている点で上記第1実施形態と異なる。収容部11は、磁石30を出し入れ可能でかつ収容可能に構成されている。本実施形態の場合、カバー部材10は、複数の収容部11を備えている。各収容部11は、外面部22のうち長手方向の中央部分を避けた位置に設けられている。収容部11の材質は、母材20と同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0047】
収容部11は、接着剤や両面テープ等の接着部材等を用いることなく、磁石30を所定の位置に収容し保持する機能を有する。収容部11は、母材20の外面部22の外側に設けることができる。この場合、作業者は、外面部22の外側における操作によって収容部11に対して磁石30を出し入れすることができる。なお、収容部11は、外面部22の内側に設けられていても良い。
【0048】
本実施形態の場合、収容部11は、例えば図7に示すように、上面部21側が開口した袋状又は容器状、すなわちカバー部材10がレール70に装着された場合に上側が開口した袋状又は容器状に形成することができる。この場合、袋状及び容器状とは、例えば磁石30の出入り口となる開口が上側の1か所のみに設けられている構成を意味する。また、収容部11は、詳細は図示しないが、カバー部材10の長手方向の外側へ向かって開口した袋状又は筒状、すなわちカバー部材10がレール70に装着された場合に水平方向の外側が開口した袋状又は筒状に形成することができる。この場合、筒状とは、例えば磁石30の出入り口となる開口が水平方向の両端2か所に設けられている構成を意味する。作業者は、収容部11の開口を通して収容部11に対して磁石30を出し入れすることができる。
【0049】
母材20の外面部22は、穴部221を更に有している。穴部221は、外面部22のうち磁石30とレール70との間に位置する領域の一部を貫通して形成されている。本実施形態の場合、穴部221は、収容部11の内部に位置する外面部22を厚み方向に貫いて形成されている。穴部221の面積は、磁石30が収容部11に収容された場合に外面部22と対向する磁石30の面積よりも小さい。磁石30が収容部11に収容された場合、磁石30の吸着力は、穴部221と重なる部分においては外面部22を挟むことなくレール70の外側部712に対して作用する。
【0050】
この第2実施形態によれば、カバー部材10は、磁石30を出し入れ可能でかつ収容可能な収容部11を更に備えている。これによれば、接着剤や両面テープ等の部材を用いることなく、母材20に磁石30を取り付けることができるため、母材20に磁石30を取り付ける際の作業性を向上させることができる。また、本実施形態によれば、磁石30を母材20等に接着部材等を用いて取り付けるものに比べて、磁石30の取り外しが容易となる。このため、磁石30が再利用し易くなる。
【0051】
収容部11は、外面部22の外側に設けられている。これによれば、作業者等は、収容部11に対して磁石30を出し入れする際に、外面部22の外側つまりカバー部材10の外方で作業することができる。このため、カバー部材10の内側に磁石30を着脱する構成に比べて、磁石30の着脱が更に容易になる。
【0052】
母材20は、穴部221を有している。穴部221は、外面部22のうち磁石30とレール70との間に位置する領域の一部を貫通して形成されている。これによれば、例えば本実施形態のように磁石30を外面部22の外側に取り付ける構成の場合でも、磁石30とレール70との間に他の部材を介在させないことで、レール70に対して磁石30の吸着力を効率良く作用させることができる。その結果、レール70に対して確実にカバー部材10を固定することができる。
【0053】
(第3実施形態)
次に、図9から図11を参照して第3実施形態について説明する。本実施形態のカバー部材10は、主に保持部12を備えている点で上記各実施形態と異なる。保持部12は、磁石30が圧入される、つまり所定の荷重をかけてはめ込まれることで、磁石30を保持可能に構成されている。本実施形態の場合、カバー部材10は、複数の保持部12を備えている。各保持部12は、外面部22のうち長手方向の中央部を避けた位置に設けられている。
【0054】
保持部12は、磁石30の圧入を受けることで、接着剤や両面テープ等の接着部材等を用いることなく磁石30を所定の位置に保持する機能を有する。保持部12は、母材20の外面部22の内側に設けることができる。なお、保持部12は、外面部22の外側に設けても良い。保持部12を外面部22の外側に設ける場合、外面部22は、第2実施形態と同様の穴部221を有する構成としても良い。保持部12の材質は、母材20と同一であっても良いし、異なっていても良い。保持部12は、例えばゴム等のように母材20よりも弾性率の高い材料で構成することもできるし、例えば母材20よりも剛性の高い材料で構成することもできる。
【0055】
保持部12は、磁石30の周囲の側面の少なくとも一部に接触して磁石30を保持する。保持部12は、磁石30の周囲の4つの側面のうち少なくとも対向する2つの側面に接触して保持する構成とすることができる。本実施形態の場合、保持部12は、例えば磁石30の外周に沿った矩形の枠状に形成されている。この場合、保持部12の内形寸法は、磁石30の外形寸法よりもやや小さい。そのため、磁石30は、所定の荷重をかけて保持部12の内側に押し込まれることで、保持部12の内側に圧入される。磁石30を保持部12の内側に押し込む際に必要な荷重は、保持部12が磁石を保持するために若干の変形はするが、保持部12及び磁石30が破壊されてない程度に設定される。
【0056】
また、保持部12は、外面部22の内側に設けられている。そして、図11に示すように、保持部12に対して磁石30が圧入される深さ寸法D1は、磁石30の厚み寸法D2よりも小さく設定されている。したがって、磁石30が保持部12に圧入された状態では、保持部12は磁石30よりもレール70側に位置していない。すなわち、磁石30のうちレール70の外側部712と対向する面は、保持部12に対して外側部712側に位置している。そのため、磁石30のうち外側部712と対向する面は、保持部12に阻害されることなく外側部712に直接接触することができる。
【0057】
この第3実施形態によれば、カバー部材10は、磁石30が圧入されることで磁石30を保持可能な保持部12を更に備えている。これによれば、上記第2実施形態と同様に、接着剤や両面テープ等の部材を用いることなく、母材20に磁石30を取り付けることができるため、母材20に磁石30を取り付ける際の作業性を向上させることができる。また、本実施形態によっても、磁石30を母材20等に接着部材等を用いて取り付けるものに比べて、磁石30の取り外しが容易となる。このため、磁石30が再利用し易くなる。
【0058】
保持部12は、外面部22の内側に設けられており、磁石30が圧入される深さ寸法D1は、磁石30の厚み寸法D2よりも小さく設定されている。これによれば、カバー部材10をレール70に取り付けた際に、磁石30をレール70に直接接触させることができる。これにより、レール70と磁石30との間に母材20等の樹脂部材を介在させた場合に比べて、レール70と磁石30との摩擦抵抗を大きくすることができる。その結果、磁石30つまりカバー部材10を、レール70から外れ難いものとすることができる。
【0059】
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した実施形態又は実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
また、上記各実施形態は、適宜組み合わせることができる。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0060】
10…カバー部材、11…収容部、12…保持部、20…母材、21…上面部、22…外面部、221…穴部、23…内面部、30…磁石、40…補強部材、50…光学部材、70、701、702…レール、71…頭部、81…絶縁継目
【要約】
【課題】着脱の際の作業性や装着時の安定性の向上を図る。
【解決手段】レールの絶縁継目用のカバー部材は、列車用のレールの絶縁継目を覆う位置に装着されて絶縁継目を挟んだレール間の矯落を防ぐためのものであって、電気絶縁性を有する薄板状の部材で構成されて、レールの頭部の上側を覆う上面部と、頭部の側方のうち外側を覆う外面部と、頭部の側方のうち内側を覆う内面部と、を有する母材と、母材のうち少なくとも外面部に設けられてレールに吸着可能な磁石と、を備える。
【選択図】図1
図1
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図11