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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】流量制御装置および流量制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021567141
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045117
(87)【国際公開番号】W WO2021131584
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019238052
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】土肥 亮介
(72)【発明者】
【氏名】川田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/030097(WO,A1)
【文献】特開2019-16096(JP,A)
【文献】特開2003-269635(JP,A)
【文献】特開2001-154738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体および前記弁体を移動させるための圧電素子を有する流量制御バルブと、
前記流量制御バルブの動作を制御する制御回路と
を備え、
前記制御回路は、パルス的な流体供給を行うために、パルス的な流量設定信号が与えられたとき、前記圧電素子の目標変位に対応する目標電圧を超える電圧をいったん印加してから前記目標電圧に近づくようにして前記圧電素子への印加電圧をオープンループ制御するように構成されている、流量制御装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記流量設定信号が示す目標流量に応じて、前記圧電素子への印加電圧の制御関数を変更するように構成されている、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記パルス的な流量設定信号が1Hz以上100Hz以下の周波数を有する連続周期信号である、請求項1または2に記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記流量制御バルブの上流側に設けられた圧力制御バルブと、
前記圧力制御バルブの下流側かつ前記流量制御バルブの上流側の圧力を測定する圧力センサと、
開度が固定された絞り部と
をさらに備え、
連続的な流れの制御を行うときには、前記開度が固定された絞り部を用いて前記圧力センサの出力に基づいて流量制御を行い、パルス的な流れの制御を行うときには、前記流量制御バルブを開度変更可能な絞り部として用いて流量制御を行うように構成されている、請求項1から3のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項5】
弁体と前記弁体を移動させるための圧電素子とを有する流量制御バルブを備える流量制御装置において行われる流量制御方法であって、
パルス的な流体供給を行うためのパルス的な流量設定信号を受け取るステップと、
前記パルス的な流量設定信号を受け取ったときに、前記圧電素子に印加する電圧を決定する内部指令信号を前記流量設定信号に基づいて生成するステップと、
前記生成された内部指令信号に基づいて前記圧電素子に電圧を印加するステップと
を含み、
前記内部指令信号は、前記圧電素子の目標変位に対応する目標電圧を超える電圧をいったん印加してから前記目標電圧に近づくような信号として生成され、前記圧電素子への印加電圧はオープンループ制御される、流量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置および流量制御方法に関し、特に、半導体製造装置や化学プラント等において利用される流量制御装置および流量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラントにおいて、材料ガスやエッチングガスの流量を制御するために、種々のタイプの流量計や流量制御装置が用いられている。このなかで、圧力式流量制御装置は、コントロール弁と絞り部(例えばオリフィスプレートや臨界ノズル)とを組み合せた比較的簡単な機構によって各種流体の質量流量を高精度に制御することができるので広く利用されている。
【0003】
圧力式流量制御装置には、絞り部の上流側の流体圧力(以下、上流圧力P1と呼ぶことがある)を制御することによって、絞り部の下流側に流れる流体の流量を制御するものがある(例えば特許文献1および2)。上流圧力P1は、絞り部の上流側に配置されたコントロール弁を圧力センサを用いてフィードバック制御することで制御される。
【0004】
圧力式流量制御装置のコントロール弁としては、ピエゾアクチュエータによってダイヤフラム弁体を開閉させるように構成されたピエゾ素子駆動式バルブ(以下、ピエゾバルブと呼ぶことがある)が用いられている。ピエゾバルブは、例えば特許文献3に詳細が開示されており、比較的高速な動作が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-338546号公報
【文献】国際公開第2005/003694号
【文献】特開2007-192269号公報
【文献】特開2005-293570号公報
【文献】国際公開第2018/123852号
【文献】国際公開第2019/107215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ピエゾバルブはピエゾ素子を用いて構成されているが、ピエゾ素子を駆動するときにはクリープ現象が発生することが知られている(例えば特許文献4)。クリープ現象とは、ピエゾ素子に印加される駆動電圧が印加後に一定に維持されているときにも、ピエゾ素子の双極子の再配向によって、時間とともに変位が僅かずつ増加または減少し続ける現象である。
【0007】
ピエゾバルブを備えた流量制御装置では、クリープ現象の発生によって、設定バルブ開度への移行の遅延による流量応答性の低下や、完全閉鎖するまでの遅延によるリークの発生などの問題が生じ得る。なお、リークの発生を防止するために、弾性部材の付勢力を強めて弁体の弁座への押圧力を増加させる等の措置をとることも考えられる。しかし、この場合には、弁の最大リフト量が低下し、制御できる流量範囲が狭くなるおそれや、強い押圧力により弁座や弁体に大きな負荷がかかり長期間開閉を繰り返した時に破損するおそれがある。
【0008】
クリープ現象は、ピエゾ素子の変位を測定する変位センサを設けて、変位センサの出力に基づいて駆動電圧をフィードバック制御することによって容易に補正することができる。本願出願人は、特許文献5および特許文献6において、ピエゾ素子に固定した歪ゲージを変位センサとして用いてピエゾアクチュエータの変位を測定するように構成した流量制御装置を開示している。
【0009】
歪ゲージを用いてピエゾ素子の変位を直接的に測定するようにすれば、駆動電圧を参照する場合に比べて、より正確に弁開度を知ることができ、また、弁開度をより精密に調整することができる。したがって、駆動電圧の継続的な調整によりクリープ現象を抑制し、弁開度を一定開度に維持することが可能である。
【0010】
また、変位センサを有するピエゾバルブは、高い応答性を有しており、特許文献5に記載されているように、高速サーボ式の制御バルブとして利用することができる。また、特許文献6に記載されているように、変位センサを有する流量制御用のピエゾバルブの上流側に、圧力制御用の別のピエゾバルブを設けることによって、流量制御装置を構成することもできる。この構成においては、圧力制御用バルブを用いて上流圧力を制御するとともに、変位センサの出力に基づいて流量制御用バルブをフィードバック制御することによって、広い流量範囲にわたって応答性高く流量制御を行うことができる。
【0011】
変位センサを有するピエゾバルブは、圧力センサの出力に基づいてフィードバック制御される従来の圧力式流量制御装置のコントロール弁に比べても、開閉の状態を正確に把握することが出来、はるかに高い応答性を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)プロセスやALE(Atomic Layer Etching)プロセスなどの高速な(周期が非常に短い)パルス制御信号が与えられる用途において、所望流量でガスをパルス的に供給するために好適に用いられる。
【0012】
しかしながら、昨今の大流量化が進む流量制御装置では、ALDプロセス等においても、要求される弁体の移動量あるいはピエゾ素子の変位量が大きくなっており、この場合に、ピエゾ素子に固定した歪ゲージでは、変位が正確に測定できないおそれがあった。また、変位量の測定のために、ピエゾバルブに変位センサを組み込もうとすると、装置の肥大化やコストの増加を招くという問題があった。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ピエゾ素子の変位センサを設けることなく、所望流量での高速なパルス的なガス供給を適切に行うことができる流量制御装置および流量制御方法を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態による流量制御装置は、弁体および前記弁体を移動させるための圧電素子を有する流量制御バルブと、前記流量制御バルブの動作を制御する制御回路とを備え、前記制御回路は、パルス的な流体供給を行うために、パルス的な流量設定信号が与えられたとき、前記圧電素子の目標変位に対応する目標電圧を超える電圧をいったん印加してから前記目標電圧に近づくようにして前記圧電素子への印加電圧をオープンループ制御するように構成されている。
【0015】
ある実施形態において、前記制御回路は、前記流量設定信号が示す目標流量に応じて、前記圧電素子への印加電圧の制御関数を変更するように構成されている。
【0016】
ある実施形態において、前記パルス的な流量設定信号が1Hz以上100Hz以下の周波数を有する連続周期信号である。
【0017】
ある実施形態において、流量制御装置は、前記流量制御バルブの上流側に設けられた圧力制御バルブと、前記圧力制御バルブの下流側かつ前記流量制御バルブの上流側の圧力を測定する圧力センサと、開度が固定された絞り部とをさらに備え、連続的な流れの制御を行うときには、前記開度が固定された絞り部を用いて前記圧力センサの出力に基づいて流量制御を行い、パルス的な流れの制御を行うときには、前記流量制御バルブを開度変更可能な絞り部として用いて流量制御を行うように構成されている。
【0018】
本発明の実施形態による流量制御方法は、弁体と前記弁体を移動させるための圧電素子とを有する流量制御バルブを備える流量制御装置において行われ、パルス的な流体供給を行うためのパルス的な流量設定信号を受け取るステップと、前記パルス的な流量設定信号を受け取ったときに、前記圧電素子に印加する電圧を決定する内部指令信号を前記流量設定信号に基づいて生成するステップと、前記生成された内部指令信号に基づいて前記圧電素子に電圧を印加するステップとを含み、前記内部指令信号は、前記圧電素子の目標変位に対応する目標電圧を超える電圧をいったん印加してから前記目標電圧に近づくような信号として生成され、前記圧電素子への印加電圧はオープンループ制御される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によれば、パルス流量制御を適切に行うことができる流量制御装置および流量制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】パルス流量制御における流量設定信号と実際のピエゾ変位とを示すグラフである。
図2】本発明の実施形態による例示的な流量制御装置を示す図である。
図3】(a)は補正なしの設定信号を用いた場合のピエゾ変位の出力、(b)は補正した設定信号を用いた場合のピエゾ変位の出力を示す。
図4】外部入力信号と、外部入力信号に基づいて生成されたクリープ現象抑制のための内部指令信号とを示すグラフである。
図5】設定信号、ピエゾ素子に印加されるピエゾ駆動電圧、および、バルブ変位を示すグラフであり、(a)は、補正処理した内部指令信号を生成せずにバルブ駆動した場合、(b)は補正処理した内部指令信号を用いてバルブ駆動した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明の実施形態にかかる流量制御装置の概要について説明する。上述したように、従来、変位センサの出力に基づいて開度を調節するように構成されたピエゾバルブが知られており、このようなピエゾバルブは、応答性が非常に高いので、パルス流量制御を行うために好適に用いられている。ただし、大流量化への対応等のためには、変位センサを用いることなく、ピエゾバルブによってパルス流量制御を行うことができれば有利である。
【0022】
このように変位センサを用いない場合、フィードバック制御による開度調整はできないので、設定信号に基づいてオープンループ制御(フィードフォワード制御)でバルブ開度制御を行うことが想定される。そして、この場合には、実際のピエゾ変位を測定する手段がないので、クリープ現象を抑制することは困難であると考えられる。そこで、本願発明者は、例えば10Hz程度の連続周期信号によるパルス流量制御を行う場合にも、有意なクリープ現象が生じて流量制御に悪影響を及ぼすかどうかについて鋭意検討を行った。
【0023】
なお、パルス流量制御ではなく、連続的な流れの流量制御を行うときには、従来の圧力式流量制御装置のように、絞り部上流側の上流圧力P1の測定結果に基づくコントロール弁のフィードバック制御を行えばよい。コントロール弁の開度調整による上流圧力P1の制御によって流量制御を行う場合、変位センサを用いて実際の弁開度を測定する必要はなく、また、クリープ現象についても考慮する必要はない。
【0024】
図1は、本発明者の実験によって得られた、12.5Hzでパルス的に流量設定信号SFが与えられたときのバルブ変位SVを示すグラフである。ピエゾ駆動電圧は0Vと140Vとを交互に繰り返している。図1からわかるように、12.5Hzという高周波駆動を行ったときにも、クリープ現象のために、実際のバルブ変位は、立ち上がり時にはいったん急上昇した後に緩やかに増加を続け、立下り時には急降下した後に緩やかに減少を続ける。特に、立下り直後において開度は2~3%にまでしか低下せず、その後、徐々に0%に近づいており、リークが発生することが確認できる。
【0025】
このようなクリープ現象が生じる場合、特にALDプロセスで求められるパルス流量制御においては流量制御が不適切なものになり得る。これは、ALDプロセスでは、ガス流量だけでなく、供給されるガスの体積(積分流量)も重要であり、クリープ現象を残したままでのガス供給では、ガス流量およびガス体積の双方において誤差が増大し、プロセスに不具合が発生するおそれがあるからである。
【0026】
以上の考察に基づいて、本願発明者は、高周波のパルス的な設定信号に基づいて流量制御を行うときにもピエゾバルブのクリープ現象を抑制することが極めて重要であることを認識した。そして、高精度の流量制御装置に必要と考えられていたフィードバック制御を用いずとも、ピエゾ素子に印加する電圧を適切に制御すれば、クリープ現象を抑制しながら、パルス流量制御を適切に実行し得ることを見出した。また、クリープ現象の特性自体は、多数回の開閉動作を行ってもそれほど変化しないことがわかり、したがって、オープンループ制御による駆動であっても、長期にわたってクリープ現象を抑制でき、パルス流量制御を長期間にわたり適切に実行し得ることがわかった。
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
図2は、本発明の実施形態による流量制御装置100の構成を示す。流量制御装置100は、ガスG0の流入側の流路1に設けられた圧力制御バルブ6と、圧力制御バルブ6の下流側に設けられた流量制御バルブ8と、圧力制御バルブ6の下流側かつ流量制御バルブ8の上流側の圧力P1を検出する第1(または上流)圧力センサ3と、圧力制御バルブ6の下流側に配置された絞り部2とを備えている。流量制御装置100に供給されるガスG0は、材料ガス、エッチングガスまたはキャリアガスなど、半導体製造プロセスに用いられる種々のガスであってよい。
【0029】
本実施形態では、絞り部2は、流量制御バルブ8の上流側に配置されたオリフィスプレートによって構成されている。オリフィスプレートは、オリフィスの面積が固定されているので、開度が固定された絞り部として機能する。他の態様において、絞り部2は、流量制御バルブ8の近傍であれば、流量制御バルブ8の下流側に配置されていてもよい。
【0030】
本明細書において、「絞り部」とは、流路の断面積を、前後の流路断面積より小さく制限した部分であり、例えば、オリフィスプレートや臨界ノズル、音速ノズルなどを用いて構成されるが、他のものを用いて構成することもできる。また、本明細書において、絞り部には、バルブの弁座と弁体との距離を開度とする可変オリフィスに見立てたバルブ構造も含まれる。このようなバルブ構造は、開度が可変の絞り部として機能する。
【0031】
流量制御装置100はまた、流量制御バルブ8の下流側の下流圧力P2を測定する第2(または下流)圧力センサ4と、圧力制御バルブ6の上流側の供給圧力P0を検出する流入圧力センサ5とを備えている。供給圧力P0は、ガス供給装置(例えば原料気化器やガス供給源等)からのガス供給量やガス供給圧を制御するために利用され、下流圧力P2は、後述する非臨界膨張条件下での流量測定のために用いられる。ただし、他の態様において、流量制御装置は、第2圧力センサ4および流入圧力センサ5を備えていなくてもよい。
【0032】
流量制御バルブ8の下流側は、下流弁(図示せず)を介して半導体製造装置のプロセスチャンバに接続されている。プロセスチャンバには真空ポンプが接続されており、典型的には、プロセスチャンバの内部が真空引きされた状態で、流量制御装置100によって流量制御されたガスG1がプロセスチャンバに供給される。下流弁としては、例えば、圧縮空気により開閉動作が制御される公知の空気駆動弁(Air Operated Valve)や電磁弁等を用いることができる。
【0033】
本実施形態において、流量制御バルブ8は、弁座に当接および離隔するように配置されたダイヤフラムの弁体8aと、弁体8aを移動させるための圧電素子8bを含むピエゾアクチュエータとを備えるピエゾバルブによって構成されている。ピエゾアクチュエータとしては、例えばNTKセラテック社等から販売されているものを利用することができる。ピエゾアクチュエータは、筒体に収容されスタックされた複数の圧電素子によって構成されていてもよいし、筒体に収容された単一の圧電素子によって構成されていてもよい。同様に、圧力制御バルブ6としてもピエゾバルブが好適に用いられる。
【0034】
流量制御装置100は、第1圧力センサ3の出力に基づいて圧力制御バルブ6の開閉動作を制御する第1制御回路7を備えている。第1制御回路7は、外部から受け取った設定圧力と第1圧力センサ3の出力である上流圧力P1との差がゼロになるように圧力制御バルブ6をフィードバック制御するように構成されている。これにより、圧力制御バルブ6の下流側の上流圧力P1を設定値に維持することが可能である。
【0035】
また、流量制御装置100は、流量制御バルブ8を制御する第2制御回路9を有している。なお、図2には、第1制御回路7と第2制御回路9とが別個に設けられた態様が示されているが、これらは一体的に設けられていてもよいことは言うまでもない。
【0036】
第1制御回路7および第2制御回路9は、流量制御装置100に内蔵されたものであってもよいし、流量制御装置100の外部に設けられたものであってもよい。第1制御回路7および第2制御回路9は、典型的には、CPU、ROMやRAMなどのメモリ(記憶装置)M、A/Dコンバータ等によって構成され、後述する流量制御動作を実行するように構成されたコンピュータプログラムを含んでいてよい。第1制御回路7および第2制御回路9は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって実現され得る。
【0037】
流量制御装置100は、第1制御回路7および第2制御回路9を用いて、第1圧力センサ3が出力する上流圧力P1が設定値になるように圧力制御バルブ6を制御するとともに、流量制御バルブ8の圧電素子8bの駆動を制御することによって、流量制御バルブ8の下流側に流れる流体の流量を制御するように構成されている。
【0038】
流量制御装置100では、開度が固定された絞り部2を流量制御の主要素として用いて圧力制御バルブ6によって上流圧力P1を制御することによって、従来の圧力式流量制御装置と同様に圧力による流量制御を行うことが可能である。さらに、圧力制御バルブ6を用いて上流圧力P1を一定に保ちながら流量制御バルブ8の開度制御を行うことによって、より応答性高くガス流量を制御することが可能である。
【0039】
開度が固定された絞り部2を流量制御の主要素として用いる流量制御は、比較的長い期間にわたり流量制御を設定値に維持する連続的な流れの制御に好適である。一方、開度が固定された絞り部2の最大設定流量未満の流量で流量制御バルブ8の開度により流量が決まるような流量制御、すなわち、流量制御バルブ8を可変オリフィス(開度が可変である絞り部)として用いるような流量制御は、断続的な流れの制御に好適である。
【0040】
ここで、連続的な流れの制御とは、流体の流れが継続するときの流体の制御を広く意味しており、例えば100%流量で流体が流れている状態から50%流量で流体が流れている状態に変更される場合なども含み得る。また、開度が固定された絞り部2を用いて連続的な流れの制御を行うときには、流量制御バルブ8は全開(最大開度)とするか、あるいは、少なくとも開度が固定された絞り部2の開度よりも大きい開度に維持することが好適である。
【0041】
また、断続的な流れの制御とは、典型的には、パルス流量制御である。ただし、一定間隔での周期的な開閉制御に限らず、不定期に行うパルス的な開閉制御や、パルスの振幅が一定でなく変動するような開閉制御も含まれ、また、パルス幅が変動するような開閉制御も含まれる。
【0042】
流量制御装置100は、連続的な流れの制御を行うとき、臨界膨張条件P1/P2≧約2(P1:上流圧力、P2:下流圧力、約2はアルゴンガスの場合)を満たすとき、絞り部2または流量制御バルブ8を通過するガスの流量が、下流圧力P2によらず上流圧力P1によって決まるという原理を利用して流量制御を行うことができる。
【0043】
臨界膨張条件を満たすとき、流量制御バルブ8の下流側の流量Qは、Q=K1・Av・P1(K1は流体の種類と流体温度などに依存する定数)によって与えられる。流量Qは、上流圧力P1および流量制御バルブ8の弁開度Avに概ね比例するものと考えられる。また、第2圧力センサ4を備える場合、上流圧力P1と下流圧力P2との差が小さく、上記の臨界膨張条件を満足しない場合であっても流量を算出することができ、各圧力センサによって測定された上流圧力P1および下流圧力P2に基づいて、所定の計算式Q=K2・Av・P2m(P1-P2)n(ここでK2は流体の種類と流体温度に依存する定数、m、nは実際の流量を元に導出される指数)から流量Qを算出することができる。なお、流量制御バルブ8を全開に開いたときなど、流量制御バルブ8の流路断面積が絞り部2の流路断面積よりも大きい条件下では、絞り部2の流路断面積も考慮した固定の比例係数K1’、K2’を用いて、Q=K1’・P1またはQ=K2’・P2m(P1-P2)nに基づいて流量を演算により求めることができる。そして、圧力測定結果から演算した流量と設定流量との差が0に近づくように圧力制御バルブ6の開度をフィードバック制御することによって任意の設定流量でガスを流すことができる。
【0044】
一方、パルス流量制御を行う場合、流量制御装置100は、圧力制御バルブ6を用いて上流圧力P1を一定に保ったまま、流量制御バルブ8のパルス的な開閉動作を行う。パルス的に供給されるガスの流量は、上流圧力P1の大きさと、流量制御バルブ8の開時の設定開度とによって決定される。上流圧力P1が大きいほど、流量制御バルブ8が同じ開度で開いているときにも、より多くのガスが流れる。したがって、上流圧力P1と流量制御バルブ8の開時の設定開度とを任意に設定することで、広い流量制御範囲にわたってパルス的なガス供給を行うことができる。
【0045】
ここで、本実施形態においては、流量制御バルブ8の開度制御を、従来のように変位センサによるフィードバック制御で行うのではなく、入力された設定流量信号から圧電素子8bへの印加電圧を規定する内部指令信号を生成し、これに基づいて流量制御バルブ8をオープンループ制御することによって行う。以下、具体的に説明する。
【0046】
図3(a)および(b)は、流量制御バルブ(ピエゾバルブ)8へのピエゾ電圧設定信号SSと、変位センサ(具体的にはピエゾ素子に固定した歪ゲージ)を用いて測定したピエゾ変位(歪出力)SPとの関係を示すグラフである。図3(a)は、設定信号を補正なしで入力した場合を示し、図3(b)は、ピエゾ電圧立ち上げ時および立ち下げ時の初期期間に超過の電圧を印加するように補正した信号を入力した場合を示す。
【0047】
図3(a)および(b)では、比較的長期間の信号(オン期間が約2秒)が示されている。ここで、設定信号SSは、例えば、100msecごとに更新するように設計されている。図3(b)においては、この制約のもと、流量の立ち上げ直後の100msecの期間において9Vを追加した149Vの設定電圧とし、その後の期間は140Vの設定電圧とし、また、流量の立ち下げ直後の100msecの期間において-9Vを追加した-9Vの設定電圧とし、その後の期間は0Vの設定電圧とする信号に補正されている。
【0048】
図3(a)と図3(b)とを比較してわかるように、立ち上げ初期および立ち下げ初期(すなわち、過渡直後)の所定期間において、所定の超過電圧を追加することによって、ピエゾ変位SPに変化がみられ、クリープ現象が抑制されていることが確認できる。したがって、変位センサを用いてフィードバック制御を行わなくても、信号補正によってクリープ現象を抑制し、所望の開度調整を実行し得ることがわかる。
【0049】
ただし、上記のように設定信号を補正してピエゾ素子の制御回路に入力する場合、その設定に制約が課される場合もある。このため、入力された設定信号から、これに対応する内部指令信号を生成し、この信号に基づいてピエゾバルブを駆動することが考えられる。
【0050】
図4は、設定信号に基づくピエゾ電圧の外部入力信号SEから生成された内部指令信号SIの一例を示すグラフである。この例では、微分動作を用いた信号処理がなされており、これによって、立ち上げ時には目標電圧(ピエゾの目標変位に対応する電圧)V0を超過する電圧V1(ここでは目標電圧V0よりも大きい電圧V1)がいったん印加され、その後、目標電圧V0に近づく電圧が印加されるように内部指令信号SIが生成されている。同様に、立ち下げ時には、目標電圧V0’を超過する電圧V1’(ここでは、目標電圧V0’よりも小さい電圧V1’)がいったん印加され、その後、目標電圧V0’に近づく電圧が印加されるように内部指令信号が生成されている。
【0051】
微分動作を用いた信号処理において、過渡期直後に印加する超過電圧の最大値や時間変化は、高さ成分の定数および時間成分の定数によって変化し、制御関数に含まれるこれらの定数を適宜設定することによって内部指令信号SI(またはピエゾ駆動電圧)の信号波形を任意に調整することができる。したがって、制御されるピエゾバルブで生じるクリープ現象に適合するように、最初に適切な定数を選択して制御関数を決定すれば、その後はオープンループ制御であっても適切にクリープ現象を抑制することができる。また、微分動作を用いることによって、急峻な加速度でのピエゾバルブの駆動が抑制され、より滑らかなバルブ駆動が行われる。このため、多数回の高周波での開閉動作を繰り返したときの故障発生リスクを軽減することができる。
【0052】
図4に示す信号において、周期は約50msecであり、信号周波数は約20Hzである。このような周波数が比較的高い信号においても、クリープ現象の抑制に効果的な内部指令信号を容易に生成することができる。本実施形態におけるピエゾバルブの駆動方式は、例えば、パルス流量制御を行うために、設定信号として例えば1~100Hz、特には5~50Hzの連続周期信号が与えられたときに好適に適用される。このような方式によれば、クリープ現象を抑制しながら所望のガス流量およびガス体積でのパルスガス供給を行うことができる。
【0053】
図5(a)は、図4に示したような補正処理した内部指令信号を生成せずに設定信号に基づいてバルブ駆動した時のバルブ変位を示すグラフであり、図5(b)は補正処理した内部指令信号を生成し、これを用いてバルブ駆動した時のバルブ変位を示すグラフである。
【0054】
図5(a)と図5(b)を比較してわかるように、同じ設定信号SSが与えられたときにも、補正処理した内部指令信号を用いる場合、ピエゾ駆動電圧VPとしては、いったん目標電圧を超えた電圧が印加され、その後、目標電圧に近づくように駆動電圧が制御される。このような駆動電圧の制御により、バルブ変位信号SVは水平になる、すなわち、クリープ現象が抑制されており、オン期間およびオフ期間の双方において、ピエゾバルブの適切な開度維持が実現されている。したがって、変位センサを用いたフィードバック制御を行うことなく、駆動電圧のオープンループ制御によって、適切なパルスガス供給を行うことができる。
【0055】
なお、上記には、微分動作を用いた信号補正を行う態様を説明したが、立ち上げ時および立ち下げ時に超過電圧を印加することができる限り、種々の信号補正処理によってクリープ現象を抑制するための内部処理信号が生成されてもよい。また、信号補正処理に用いる制御関数は、目標流量(または目標駆動電圧)の大きさに応じて適宜変更されてもよい。目標流量の大きさによってクリープ現象の程度が異なる場合、適合する内部処理信号を生成することが好適である。このために、目標流量と内部処理信号のパラメータとの関係を示すテーブルをメモリに格納しておき、流量制御時には、読み出した適切なパラメータに従って内部処理信号を生成するようにしてもよい。これにより、各流量においてクリープ現象をより適切に抑制し得る。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが種々の改変が可能である。例えば、図2に示した流量制御装置100とは異なり、開度が固定された絞り部2を、流量制御バルブ8の下流側に設けてもよい。また、開度が固定された絞り部2と、流量制御バルブ8との間に第3圧力センサをさらに設け、連続的な流れの制御を行うときには第3圧力センサの出力に基づいて流量制御を行うようにしてもよい。
【0057】
また、本発明の実施形態による流量制御装置において、流量制御バルブは、ノーマルクローズ型に限られずノーマルオープン型のピエゾバルブであってもよく、この場合にも、流量制御バルブに印加する駆動電圧を、過渡期の超過電圧を含む内部指令信号に基づいて制御することによって、良好な精度および応答性で流量制御を行うことが可能である。さらに、開度が固定された絞り部2としてオリフィスプレートを用いる場合、上記の流量制御バルブ8とオリフィスプレートとは、公知のオリフィス内蔵弁の態様で一体的に設けるようにしてもよい。オリフィス内蔵弁として設ける場合、流量制御バルブ8の取り付け用の穴部に、オリフィスプレートおよび弁座体が配置され、その上方に流量制御バルブ8のバルブ本体(弁体やアクチュエータなど)が固定される。このようにすれば、オリフィスプレートと流量制御バルブ8の弁体とを近接して配置してこれらの間の容積を小さくすることができ、流量制御の応答性を向上させることができる。
【0058】
また、図2に示した流量制御バルブ8を、上流の圧力制御バルブ6や絞り部2と組み合わせずに単体で用いて、高速サーボ型の流量制御装置を構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の実施形態による流量制御装置および流量制御方法は、例えば半導体製造装置や化学プラント等において利用され、ALDプロセスなどのパルス流量制御が求められる用途において好適に利用される。
【符号の説明】
【0060】
1 流路
2 絞り部
3 第1圧力センサ
4 第2圧力センサ
5 流入圧力センサ
6 圧力制御バルブ
7 第1制御回路
8 流量制御バルブ
8a 弁体
8b 圧電素子(ピエゾアクチュエータ)
9 第2制御回路
100 流量制御装置
図1
図2
図3
図4
図5