(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】金属被覆金属基複合材料及び金属被覆金属基複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/10 20060101AFI20221221BHJP
B22D 18/02 20060101ALI20221221BHJP
B22D 19/00 20060101ALI20221221BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C22C1/10 G
B22D18/02 L
B22D19/00 E
B22D19/00 F
B22D19/00 V
B22D19/00 W
B22D21/04 A
B22D21/04 B
C22C1/10 E
(21)【出願番号】P 2022004376
(22)【出願日】2022-01-14
【審査請求日】2022-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515243372
【氏名又は名称】アドバンスコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】高木 義夫
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁
(72)【発明者】
【氏名】落合 翔梧
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-128654(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第108754204(CN,A)
【文献】特開2002-336952(JP,A)
【文献】特開平07-252556(JP,A)
【文献】特開2000-336438(JP,A)
【文献】特表2015-531688(JP,A)
【文献】特開2013-087307(JP,A)
【文献】特開昭62-024853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/08-1/10
C22C 47/00-49/14
B22D 18/00-19/160
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、銅又は銅合金等の純金属あるいは合金をマトリックス材とし、該マトリック材と異なる
セラミック粒子又は金属粒子からなる材料を強化材として、前記マトリックス材と前記強化材を複合化して構成された
加圧鋳造物である金属基複合材
料であって、
前記強化材が多孔質の成形体であり、且つ、該成形体の表面に規則的な凹凸が設けられてなるものであることで、該凹凸を含んでなる、複合化している前記マトリックス材の連続一体な金属被覆層を表面に有
してなり、
該金属被覆層の厚みが、0.5mm~5mmであって、前記凹凸は、高低差が、0.1mm以上で、前記金属被覆層の厚さの50%以下の範囲内であり、且つ、その形状が周期的であることを特徴とする金属被覆金属基複合材料。
【請求項2】
前記金属被覆層の厚みが、
2mm~
3mmである請求項1に記載の金属被覆金属基複合材料。
【請求項3】
前記マトリックス材が、アルミニウム又はアルミニウム合金
、マグネシウム又はマグネシウム合金、銅又は銅合金の少なくともいずれかである請求項1
又は2に記載の金属被覆金属基複合材料。
【請求項4】
前記セラミックス粒子が、炭化ケイ素粒子、ホウ酸アルミニウム粒子及びアルミナ粒子の少なくともいずれかであり、前記金属粒子が、Si粒子又はAl
3
Ni粒子の少なくともいずれかである請求項1~3のいずれか1項に記載の金属被覆金属基複合材料。
【請求項5】
アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、銅又は銅合金等の純金属あるいは合金であるマトリックス材と、該マトリック材とは異なる材料
のセラミック粒子又は金属粒子からなる強化材とを複合化させて
加圧鋳造物である金属被覆金属基複合材料を得るための製造方法であって、
多孔質の成形体である前記強化材を金型内に設置し、溶融させた前記マトリックス材を前記多孔質の多孔内に
加圧鋳造
法で含浸・充填させて、前記強化材と前記マトリックス材を複合化させて金属基複合材を得る複合化工程において、前記多孔質の成形体として、表面に規則的な凹凸が設けられているものを用いることで、前記マトリックス材を
加圧鋳造法で含浸・充填させて得た金属基複合材の表面に、前記凹凸を含んでなる、連続一体な前記マトリックス材からなる
、厚みが、0.5mm~5mmである金属被覆層を同時に形成
させ、前記凹凸は、高低差が、0.1mm以上で、前記金属被覆層の厚さの50%以下の範囲内で、且つ、その形状が周期的であることを特徴とする金属被覆金属基複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属被覆層の厚みが、
2mm~
3mmである請求項5に記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記マトリックス材が、アルミニウム又はアルミニウム合金
、マグネシウム又はマグネシウム合金、銅又は銅合金の少なくともいずれかである請求項5
又は6に記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
【請求項8】
前
記セラミック粒子
が、炭化ケイ素粒子、ホウ酸アルミニウム粒子及びアルミナ粒子の少なくともいずれかであり、金属粒子
が、Si粒子又はAl
3
Ni粒子のいずれかである請求項5~
7のいずれか1項に記載の金属被覆金属基複合材の製造方法。
【請求項9】
前記
加圧鋳造
法が、高圧鋳造法、溶湯鍛造法
及びダイカス
トからなる群から選ばれるいずれかである請求項5~
8のいずれか1項に記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記加圧鋳造法が、高圧鋳造法である請求項5~8のいずれか1項に記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で高い信頼性を有する、金属あるいは合金をマトリックスとし、マトリックスと異なる材料の強化材を前記マトリックスと複合化させてなる、表面に、内部のマトリックスと連続一体に形成されてなる金属被覆層を有してなる金属被覆金属基複合材料及び金属被覆金属基複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、アルミニウムあるいはアルミニウム合金等の金属をマトリックスとし、強化材としてセラミック粒子やマトリックスとは異なる金属を含有する金属基複合材料は、マトリックス材料に比して、優れた比強度、比剛性、熱特性などを備えた優れた特性を有することから、様々な産業分野で利用されている。例えば、軽量性が要求される自動車では、エンジン部品などへの適用も積極的に進められてきた。具体的には、繊維状のセラミック繊維を用いることで強化した繊維強化型のアルミニウム基複合材料や、セラミック粒子を用いたアルミニウム基複合材料が利用されている。
【0003】
しかしながら、近年、繊維状セラミックの人体への安全性への疑問から、生産現場での繊維状セラミックの利用が減少している。一方、セラミック粒子を用いたアルミニウム基複合材料では、セラミック粒子とマトリックスとなるアルミニウムとの界面が多く、このことに起因して欠けや割れが起きることがあり、部材の信頼性を向上させることが要望されている。
【0004】
半導体製造装置や高速移動体の分野における金属基複合材料の利用では、欠けや割れが大きなトラブルになる可能性が高いため、メッキやスパッタ、陽極酸化被膜といった表面処理を行う対応措置がとられている。しかし、強化材としてセラミック粒子を含有するアルミニウム基複合材料は、表面にセラミック粒子が露出していることから、被膜との密着強度が弱く、また、被膜の均質性にもムラが生じることもある。そのため、上記した対応措置は、セラミック粒子を含有してなるアルミニウム基複合材料のような材料においては、破壊靭性の補強に対する効果は小さいといえる。ここで、金属基複合材料において、使用する強化材の表面を金属で被覆することについての提案もあり、例えば、下記に挙げるような提案がされている。
【0005】
特許文献1には、アルミナ質繊維を用いて得た予成形体にアルミニウム溶湯を注いで複合化した後、複合部分を切削加工して所定の大きさの強化材を得、これを真空容器内で使用する目的で、別工程で、強化材(金属基複合材)表面に、マトリックス材及びマトリックス材と違う金属を加圧・加熱処理で被覆した材料とすることが提案されている。また、特許文献2には、セラミックスで被覆した炭素粒子と、該炭素粒子が分散している連続した金属相とを備えた金属-炭素複合材が開示されているといえ、連続する金属相の厚みが10nm~100μmであるとした記載がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-174222号公報
【文献】特開2014-47127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によれば、上記に挙げた従来技術に限らず、これまでの金属基複合材は、最表面もマトリックス材と強化材の複合相で形成されているため、マトリックスと強化材の界面が多数存在し、このことによって下記に挙げるような技術課題が生じており、改善する余地があった。すなわち、最表面がマトリックス材を有する複合相であると、金属の単体相の場合よりも、マトリックス材と強化材との界面部が弱いため、破断の起点となったり、破断の成長・進展を助長することが生じ易い。実際に、マトリックス材と強化材からなる金属基複合材においては、引張・曲げ強度などの機械的特性が低いことや、精密な形状加工をする際に強化材の脱落や硬質な強化材に刃物が衝突することで、刃物刃先の欠損・摩耗などにより表面粗さが粗くなったり、加工性が劣るなどの問題があった。また、金属基複合材は、使用時にも、摺動・摩擦などにより強化材の一部が脱落することでの発塵の問題や、メッキ、アルマイトなどの表面処理性が悪いなどの問題もあった。
【0008】
先に挙げた従来技術では、強化材を金属相で被覆することが可能であるものの、本発明者らの検討によれば、下記の課題があった。特許文献1では、すでに製造した金属基複合材の表面に、さらに金属を被覆している。しかし、金属を被覆する方法として、金属の融点を超えない温度で行う加圧・加熱処理工程で行われているため、すでに製造した金属基複合材の表面と、さらに被覆する金属相とが溶融接合にならない。このため、形成した被覆層が、密着度及び接合強度が低く、剥離や脱落欠損が起き易く、この技術は、金属基複合材における、機械的特性、加工での表面精度・粗さ、加工性などの、前記した本発明が解決しようとする技術課題を十分に解決するものにはなり得ない。
【0009】
また、特許文献2の技術では、金属粒子と炭素粒子の粒径を調整することで、セラミックスで被覆した炭素粒子(強化材)の表面を実質的に金属粒子で覆うことができるとしたことが記載されているものの、焼成後に得られる金属-炭素複合材における金属相中に分散している炭素粒子の全てを金属層で十分に覆われたものにすることはできない。この技術における金属相の厚みは10nm~100μmと薄く、加えて、焼成によって金属-炭素複合材を得ているため粒子間の密着強度が小さく、強度の高い材料を得ることはできない。したがって、この技術も、本発明が解決しようとする技術課題である、金属基複合材における、機械的特性、加工での表面精度・粗さ、加工性などの向上を実現する解決策にはならない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、純金属あるいは合金(以下、金属等ともよぶ)をマトリックス材とし、該マトリック材と異なる材料を強化材として構成された、従来の金属基複合材では、金属等の単体相の材料に比べて、引張・曲げ強度などの機械的特性が低いことや、精密な形状加工をする際に強化材の脱落や硬質な強化材に刃物が衝突するとしたことで、刃物刃先の欠損・摩耗などにより表面粗さが粗くなったり、加工性が劣るなどの問題を生じることがあったのに対し、これらの問題を安定して抑制することができる有用な金属基複合材を提供することである。本発明の目的は、上記した有用な金属基複合材を提供することで、強化材と複合化させることで、マトリックス材料だけでは得られない新たな機能が付加され、しかも、複合化したことによって生じる金属基複合体に特有の技術課題が解決され、従来の製品よりも信頼性を高めた金属基複合材からなる製品の提供を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、以下の、本発明の金属被覆金属基複合材料によって達成される。
[1]純金属あるいは合金をマトリックス材とし、該マトリック材と異なる材料を強化材として、前記マトリックス材と前記強化材を複合化して構成された金属基複合材であって、前記強化材が多孔質の成形体であり、且つ、該成形体の表面に規則的な凹凸が設けられてなるものであることで、該凹凸を含んでなる、複合化している前記マトリックス材の連続一体な金属被覆層を表面に有することを特徴とする金属被覆金属基複合材料。
【0012】
上記本発明の金属被覆金属基複合材料の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[2]前記金属被覆層の厚みが、0.5mm~5mmである上記[1]に記載の金属被覆金属基複合材料。
[3]前記凹凸が、高低差が、0.1mm以上で、前記金属被覆層の厚さの50%以下の範囲内であり、且つ、その形状が周期的である上記[1]又は[2]に記載の金属被覆金属基複合材料。
[4]前記マトリックス材が、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、且つ、前記強化材が、セラミックス粒子又は金属粒子の少なくともいずれかである上記[1]~[3]のいずれかに記載の金属被覆金属基複合材料。
【0013】
また、本発明は、別の実施形態として、下記の金属被覆金属基複合材料の製造方法を提供する。
[5]純金属あるいは合金であるマトリックス材と、該マトリック材とは異なる材料からなる強化材とを複合化させて金属被覆金属基複合材を得るための製造方法であって、多孔質の成形体である前記強化材を金型内に設置し、溶融させた前記マトリックス材を前記多孔質の多孔内に鋳造で含浸・充填させて、前記強化材と前記マトリックス材を複合化させて金属基複合材を得る複合化工程において、前記多孔質の成形体として、表面に規則的な凹凸が設けられているものを用いることで、前記マトリックス材を含浸・充填させて得た金属基複合材の表面に、前記凹凸を含んでなる、連続一体な前記マトリックス材からなる金属被覆層を同時に形成することを特徴とする金属被覆金属基複合材料の製造方法。
【0014】
上記本発明の金属被覆金属基複合材料の製造方法の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[6]前記金属被覆層の厚みが、0.5mm~5mmである上記[5]に記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
[7]前記凹凸が、高低差が、0.1mm以上で、前記金属被覆層の厚さの50%以下の範囲内であり、且つ、その形状が周期的である上記[5]又は[6]に記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
[8]前記マトリックス材が、アルミニウム又はアルミニウム合金である上記[5]~[7]のいずれかに記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
[9]前記強化材が、セラミック粒子又は金属粒子である上記[5]~[8]のいずれかに記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
[10]前記鋳造が、高圧鋳造法、溶湯鍛造法、ダイカスト、砂型鋳造及び金型鋳造からなる群から選ばれる加圧鋳造法である上記[5]~[9]のいずれかに記載の金属被覆金属基複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属等をマトリックス材とし、該マトリック材と異なる材料を強化材として構成された、従来の金属基複合材では、金属等の単体相の材料に比べて、引張・曲げ強度などの機械的特性が低いことや、精密な形状加工をする際に強化材の脱落や硬質な強化材に刃物が衝突するとしたことで、刃物刃先の欠損・摩耗などにより表面粗さが粗くなったり、加工性が劣るなどの問題があったのに対して、これらの問題を安定して抑制することができる有用な金属被覆金属基複合材が提供される。本発明によれば、上記した有用な金属被覆金属基複合材の提供を実現したことで、強化材を複合化したことによって、マトリックス材料だけでは得られない新たな機能が付加され、しかも、簡便な方法で、複合化したことによって生じる金属基複合材に特有の技術課題が解決され、従来の製品よりも信頼性をより高めた金属基複合材からなる製品の提供の実現が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の金属被覆金属基複合材料における、マトリックス材からなる金属被覆層と、マトリックス材が空孔に含浸・充填された多孔質の成形体(強化材)との界面の電子顕微鏡写真の図である。
【
図2】本発明の金属被覆金属基複合材料の製造方法の手順の概略を説明するための模式図である。
【
図3】本発明の金属被覆金属基複合材料における金属被覆層が形成されるまでの状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態を挙げて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の金属被覆金属基複合材料は、純金属あるいは合金をマトリックス材とし、該マトリック材と異なる材料を強化材として、前記マトリックス材と前記強化材を複合化して構成された金属基複合材において、前記強化材が多孔質の成形体であり、且つ、該成形体が、その表面に規則的な凹凸が設けられてなるものであることで、複合化によって表面に、該凹凸を含んで被覆されてなる、複合体内部に含浸・充填されたマトリックス材と連続一体な状態に形成されたマトリックス材からなる金属被覆層を有することを特徴とする。
【0018】
特に好ましくは、上記の連続一体な金属被覆層(金属層と呼ぶ場合もある)の構成を、その厚みが0.5mm~5mmとなるようにすること、より好ましくは、0.5mm~3mmとなるようにすることが挙げられる。すなわち、厚みが5mmを超えると、表面の金属層が厚すぎて、場合によっては複合材料の特性が低下することが懸念され、一方、0.5mm未満であると金属層が剥離することが懸念され、本発明の技術課題をより確実に解決することができない恐れがあるので、好ましくない。
【0019】
さらに、本発明の金属被覆金属基複合材料は、上記したように、マトリックス材と複合される強化材が、例えば、セラミックス粒子や金属粒子などの材料からなる多孔質の成形体であり、且つ、該成形体の表面に規則的な凹凸が設けられており、本発明を特徴づける上記した金属被覆層は、この凹凸を含んで、多孔内に含浸・充填されたマトリックス材と連続一体な状態に被覆されてなることを特徴とする。所望の強化材材料からなる多孔質の成形体の表面に設けられた規則的な凹凸は、例えば、高低差が0.1mm以上で、前記金属被覆層の厚さの50%以下の範囲内の大きさのものであり、且つ、その形状が周期的なものであることが好ましい。すなわち、強化材材料からなる多孔質の成形体(以下、強化材成形体と呼ぶ場合がある)の表面に、このような規則的な凹凸が設けられていることで、該成形体にマトリックス材を含浸・充填させて複合化すると、この規則的な凹凸を含んでマトリックス材で被覆された金属被覆層が形成される。この結果、該金属被覆層は、マトリックス材が含浸・充填された強化材成形体と、該成形体の表面に被覆された状態のマトリックス材との界面に規則的な凹凸が設けられた状態のものになる(
図1参照)。
【0020】
本発明者らの検討によれば、上記したように、強化材成形体の表面に規則的な凹凸を設けたことで、該強化材成形体とマトリックス材とを複合化させた金属基複合材は、その表面に、マトリックス材が規則的な凹凸を介して確実に安定して被覆された状態の、複合体内に含浸・充填されているマトリックスと連続一体な金属被覆層が形成されたものになる。このため、マトリックス材と強化材との界面における接触面積が拡大し、さらに、界面に存在する凹凸によるアンカー効果が期待できる。これらのことに起因して、本発明を構成する金属基複合材の表面に形成された金属被覆層は、密着度及び接合強度が向上した強固なものになったと考えられる。
【0021】
本発明の金属被覆金属基複合材料の製造方法は、純金属あるいは合金であるマトリックス材と、該マトリック材とは異なる材料からなる強化材とを複合化させて金属基複合材を得る複合化工程で、多孔質である強化材成形体を金型内に設置し、溶融させた前記マトリックス材を、前記多孔質の多孔内に鋳造で含浸・充填させて、前記強化材と前記マトリックス材を複合化させるが、この複合化工程で、同時に上記した本発明を特徴づける金属被覆層を形成することを特徴とする。具体的には、前記多孔質の強化材成形体に、表面に規則的な凹凸が設けられているものを用いることで、マトリックス材を含浸・充填させて強化材と複合化させて得た金属基複合材の表面には、同時に、規則的な凹凸を含んでなる連続一体のマトリックス材からなる金属被覆層が形成される。
【0022】
すなわち、本発明の金属基複合材は、その最表面に連続一体にマトリックス材で被覆形成された金属被覆層を有し、該金属被覆層は下記のようにして作製される。具体的には、予め形成した表面に規則的な凹凸が設けられた強化材成形体の多孔(空孔)内に、鋳造でマトリックス材を含浸・充填して、強化材とマトリックス材を複合化させて金属基複合材を得る製造工程で、同時に、金属基複合材の内部に含浸・充填されたマトリックス材と連続一体となった状態で金属基複合材の表面に、上記した規則的な凹凸を介して金属被覆層が形成される。先に述べたように、金属被覆層は、その厚みが0.5mm以上、5mm以下程度であることが好ましい。このような金属被覆層は、表面に凹凸を設けた強化材成形体を用いることで容易に形成することができる。本発明の金属被覆金属基複合材を特徴づける、その表面を構成するマトリックス材からなる金属被覆層は、上記したように、金属基複合材の内部に含浸・充填されたマトリックス材と連続一体となった状態であるので、これまでの従来技術によっては実現できていなかった点が改善される。具体的には、金属基複合材に所望される機械的特性、加工の際に要求される表面精度・粗さ、加工性、さらに、表面処理性が向上し、使用時における発塵抑制の課題も改善することができる。
【0023】
さらに、本発明によれば、金属基複合材の表面に形成した金属の被覆層によって、先に従来技術として挙げた特許文献1の技術では解決できなかった剥離や脱落欠損するといった課題の解決も可能になる。すなわち、上記構成によれば、強化材成形体の多孔(空孔)部にマトリックス材を含浸・充填させる金属基複合材の製造工程(複合化工程)で、金属基複合材の内部から表面の金属被覆層まで、複合化に使用するマトリックス材で、内外連続一体のマトリックス材からなる金属相を容易に形成することができる。この結果、本発明の金属被覆金属基複合材の最表面を構成するマトリックス材からなる金属被覆層の、密着度及び接合強度を向上させることが実現し、上記した技術課題の解決が可能になる。また、強化材成形体の表面に規則的な凹凸が設けられた構成のものを用いたことで、先述したように、金属基複合材と、その表面に形成した凹凸を含むマトリックス材からなる金属被覆層との接触面積を拡大でき、界面に存在する凹凸によるアンカー効果により、簡便に、金属被覆層の密着度及び接合強度を向上させることの実現が可能になる。
【0024】
従来技術として挙げた前記特許文献1の段落0006に、「このような問題の解決のため、真空容器内でも用いられる器物を金属基複合材料で作成する試みがなされている。即ち、金属基複合材料を大気中にて金型内の所定の位置に配置しておき、その表面を金属溶湯で鋳ぐるむ方法である。しかしこの方法は、金型に接触する部分を鋳ぐるむのが不可能である。そこでスペーサー等を金型に配置して鋳ぐるむことが試みられたが、鋳ぐるみの際にスペーサーの全表面に酸化物が形成し、その結果、前記した不働態化処理の際、元のスペーサーと鋳ぐるみした部分の界面で電位差が生じ、不働態膜生成中に異常な腐食現象が起きるなど問題があった。」との記載がされている。
【0025】
上記の記載からも明らかなように、全周囲に、マトリックス材の金属相が被覆された構成の金属基複合材を製造するには、従来技術では、金属基複合材を金型と接しないようにスペーサー等で金型から浮かすことが必須であると考えられていた。これは、強化材成形体を金型に設置する場合も同じであり、強化材成形体を、スペーサーや巾木構造(すなわち、金型と勘合して保持する部位)が必要となる。しかし、スペーサーでは、上記した特許文献1に記載されているように界面が生じ、また、巾木構造では、金型と強化材成形体とが接触勘合するため、マトリックス材による金属相での被覆をすることはできない。
【0026】
上記した従来技術に対し、本発明では、強化材成形体として、その表面に任意の規則的な凹凸を形成したものを用いることで、上記した特許文献1の技術では達成できない技術課題を解決している。本発明では、複合化によってマトリックス材が充填されることになる強化材成形体の内部の多孔(空孔)よりも大きな隙間(空隙)を強化材成形体の最表面に形成できるように、強化材成形体の表面に規則的な大きな凹凸、例えば、ディンプルや溝などを形成したものを用いることを特徴にしている(
図2(a)参照)。この結果、強化材成形体を鋳造用等の金型に設置する際に、強化材成形体1の表面に設けた凸部が金型10の内面と接触することで、位置決め精度を確保でき、同時に、強化材成形体の表面の凹部と金型の内面との間に強化材成形体の内部の多孔(空孔)よりも大きな隙間(空隙)が形成・確保された構造になる(
図2(b)参照)。かかる構造によって下記の効果が得られる。
【0027】
図3に、本発明を特徴づける表面に凹凸を有する強化材成形体に、マトリックス材の溶湯を充填させた状態を説明するための模式図を示した。
図3(a)は、
図2(b)のようにして金型10内に強化材成形体1を設置した際の、強化材成形体1の表面と金型10の内面の状態を拡大して模式的に示したものである。本発明の製造方法では、加圧成形体1の表面に設けた規則的な凹凸の凸の存在によって、強化材成形体1を金型10内に位置精度よく設置することができる。
図3(a)にあるように、金型の内面との間には、強化材成形体の表面に設けた規則的な凹凸によって、大きな隙間(空隙)が形成される。
【0028】
図3(b)に、鋳造により溶湯を金型10内に充填する(
図2(b)参照)ことが開始した際の、強化材成形体1の表面状態を拡大して模式的に示した。
図3(b)にあるように、溶湯が流れている間は溶湯には鋳造圧力が掛からないので、強化材成形体の内部の小さな多孔(空孔)には溶湯が含浸・浸透できない。しかし、強化材成形体の表面に設けた凹部と金型の内面とで形成される大きな隙間(空隙)には溶湯が容易に充填するため、まず初めに、強化材成形体の表面の凹部を介して、強化材成形体の全外周面に溶湯であるマトリックス材が被覆される。強化材成形体の凹部と金型とで形成される大きな隙間(空隙)に溶湯の含浸充填が終了(
図3(b)参照)すると、溶湯の移動が停滞するため、溶湯に掛かる鋳造圧力が上昇し、強化材成形体の内部の小さな多孔(空孔)にも含浸・浸透が始まり、複合化が推進される。
図3(c)は、この状態を示したものである。なお、
図2(c)に示したように、加圧ピン20の加圧により、強化材成形体1の内部の多孔(空孔)への含浸・浸透が促進され、また、後述するように強化材成形体1は収縮する。
【0029】
さらに、本発明の金属被覆金属基複合材料の製造方法の特徴として、下記に述べるように、金属被覆層の厚さ調整を鋳造圧力の加圧条件で制御することが可能である点がある。前述したように、本発明の製造方法によれば、鋳造により溶湯を金型内に注湯すると、初めに、強化材成形体の全外周面に溶湯であるマトリックス材が被覆する。そして、強化材成形の凹部と金型の内面とで形成される大きな隙間(空隙)に溶湯の充填が終了すると、湯流れが停滞するため、溶湯に掛かる鋳造圧力が高くなり、強化材成形体の内部の小さな多孔(空孔)への含浸・浸透が起きる。この際、溶湯を注湯してから、溶湯が上記した強化材成形体の内部の小さな多孔(空孔)への含浸・浸透に移るまでの時間や、加圧上昇速度を遅くしたり、加圧を一旦止めたりするなどの方法で、強化材成形体内部の小さな多孔(空孔)への含浸・浸透の具合を調整することができる。具体的には、強化材成形体の表面に設けた凹部と、金型の内面とで形成される大きな隙間(空隙)に溶湯が充填して、強化材成形体の外側全周に充填させた後に、表面の被覆に用いる溶湯を適度に凝固が進んだ状態(溶湯の固相を多くした状態)にすることで、溶湯の粘性を高くして、強化材成形体の内部の小さな多孔(空孔)にマトリックス材(溶湯)が含浸・浸透しにくく(すなわち、含浸・浸透抵抗を大きく)する。
【0030】
上記のようにして溶湯の凝固が適度に進んだ状態にした後に加圧鋳造圧力を高くすると、強化材成形体の内部の小さな多孔(空孔)にマトリックス材が含浸・浸透し始めるが、含浸・浸透の抵抗が大きくなるので、
図3(c)に示したように、含浸・浸透と同時に強化材成形体を矢印の方向に押して収縮させる。このため、強化材成形体の外側全周の被覆金属層が厚くなる。このように、被覆金属層の凝固レベルと加圧条件とを適正調整することで金属被覆層の厚さを制御するこが可能になる。例えば、凝固の進行が少ないと薄い金属被覆層となり、一方、進行が大きいと厚い被覆層とすることとなる。また、加圧鋳造圧力を小さくすると薄い金属被覆層となり、大きくすると厚い金属被覆層となる。しかし、溶湯の凝固が進みすぎると強化材成形体の内部の小さな多孔(空孔)への含浸充填が困難になり、強化材内部に溶湯の未充填が起きて不良となる。このため、本発明では、上記した金属被覆層の厚みの調整範囲は、0.5~5mm程度とすることが好ましい。
【0031】
強化材成形体の表面の凹凸(粗さ)は、鋳造圧力にもよるが、無加圧では、凸部と凹部との差(すなわち、金型設置部の隙間となる空隙の深さ)を1mm以上とすることが好適である。加圧する場合は、無加圧より、強化材成形体表面の規則的な凹凸を小さくできるが、強化材成形体の内部の多孔(空孔)の大きさよりも大きくすることが必要になる。先述したように、強化材成形体と金型内面との大きな隙間(空隙)に充填した後の溶湯の凝固状態を調整することや、マトリックス材に掛ける鋳造圧力に応じた適正な凹凸(粗さ)に設計することは可能であるので、上記した大きさは、特にこだわるものではない。
【0032】
以上説明したように、本発明の金属被覆金属基複合材料の製造方法は、強化材成形体と金型の内面との間に所定の凹凸を形成することを特徴としている。これに対し、当然のことながら、金型の内面に凹凸を形成し、強化材成形体の表面は凹凸をつけないことでも同様の隙間を確保することは可能である。しかし、金型の内面に凹凸を形成した場合は、マトリックス材の溶湯が金型表面の凹部に充填されて金属基複合材では転写して凸になるので、下記のような不都合が生じる。金属基複合材を金型から押し出して離型する際に、金属基複合材の転写凸部が押出方向のアンダーカット(引っ掛かる)となり、離型抵抗となるため、押出離型できなかったり、離型できたとしても接触部の金属基複合材の表面が破損・欠損したりして、本発明を特徴づける金属被覆層を良好な状態に形成することはできないので、好ましくない。
【0033】
本発明の金属被覆金属基複合材料を構成するマトリックス材としては、従来、強化材との複合化に用いられている公知の純金属あるいは合金をいずれも使用することができる。具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金や、マグネシウム又はマグネシウム合金、銅又は銅合金等を挙げることができる。中でも、アルミニウム合金は、実用金属材料の中で、軽量な材料であり、アルミニウム合金に不足している特性を強化材との複合化により補完して向上させる技術は、今後ますます需要が増加すると予想される。例えば、車や航空機などの輸送用機器を中心に部材の軽量化要請はさらに高まっており、金属基複合材料からなる部材の信頼性の向上の実現は、待望されている。
【0034】
本発明の金属被覆金属基複合材料を構成する強化材としては、従来公知のものをいずれも利用できる。例えば、炭化ケイ素(SiC)粒子、ホウ酸アルミニウム粒子、アルミナ(Al2O3)粒子等のセラミックス類や、Si粒子やAl3Ni粒子等の金属類を挙げることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
下記の手順で、強化材となる成形体を製造し、その後、得られた強化材成形体にマトリックス材料であるAl合金溶湯を用いて高圧鋳造して、本実施例の金属被覆金属基複合材料を得た。まず、強化材として平均粒径44μmのSiC粒子2kgを用い、該粒子にバインダーとしてコロイダルシリカ溶液(平均粒径50nm、濃度25%)0.1kgを加えて、水3kgに分散させたスラリーを作製した。次に、得られたスラリーを多孔質型に充填し、吸引ろ過法で多孔質型の通気孔から水を排除させて、予備強化材成形体を作製した。この予備強化材成形体を乾燥後、800℃で焼成して強化材成形体を得た。そして、得られた強化材成形体の全表面に、幅2mm、深さ1mmの溝を繰り返し形成して、本実施例で用いる表面に凹凸のある強化材成形体を作製した。
【0037】
上記で得られた強化材形成体を700℃に予熱して、強化材形成体と同形状の200℃に予熱した鋳造用金型内に設置し、その後に、直ちに800℃にて溶解したAl合金溶湯(AC4C)を金型内に注入した。そして、加圧ピンを下降させるが無加圧状態で30秒保持した後、加圧を開始し、1分後に100MPaまで圧力を上昇させ、100MPaを10分保持して、強化材形成体の多孔にAl合金溶湯を含浸させて金属被覆金属基複合材を得た。得られた金属被覆金属基複合材は、表面に凹凸のある強化材成形体の表面に金属被覆層が形成された構造を有するものであり、金属被覆層の厚みを測定したところ、0.5mm~1.0mmの連続したマトリックスのAl合金からなる材料からなる金属層で被覆されていることを確認した。
【0038】
[実施例2]
本実施例では、まず、強化材として平均粒径44μmのホウ酸アルミニウム粒子1.5kgを用い、該粒子にバインダーとしてコロイダルシリカ溶液(平均粒径5nm、濃度20%)0.2kgを加えて、水2kgに分散させたスラリーを作製した。そして、3Dプリンターで積層造形した樹脂型に、上記のようにして得たスラリーを充填して、振動を20分かけて沈降法で予備強化材成形体を作製した。上記で用いた樹脂型には、型内面に深さと幅が0.5mm程度の格子状の規則的な凸が設けられている。沈降法で作製したままの状態の予備強化材成形体を凍結した後、加熱炉に入れて40℃から20時間かけて800℃まで昇温させ、水分を蒸発させるとともに焼成した。この結果、焼成した後の強化材成形体の全表面には、深さと幅が0.5mmの格子状の規則的な凸を型内面に有する樹脂型から転写形成された凹が、表面に規則的に設けられた状態となっていた。
【0039】
上記で得られた強化材成形体を700℃に予熱して、強化材成形体と同寸法の200℃に予熱した鋳造用金型内に設置し、その後に、直ちに800℃にて溶解したAl合金溶湯(ADC12)を金型内に注入した。そして、加圧ピンを下降させ、2MPaの加圧状態で50秒保持した後、増加圧を開始し、1分後に100MPaまで圧力を上昇させ、100MPaを10分保持して、強化材形成体の多孔にAl合金溶湯を含浸させて、金属被覆金属基複合材を得た。得られた金属被覆金属基複合材は、表面に凹のある強化材成形体の表面に金属被覆層が形成された構造を有するものであり、金属被覆層の厚みを測定したところ、2mm~3mmの連続したマトリックスのAl合金からなる金属層で被覆されていることが確認された。
【0040】
[実施例3]
本実施例では、まず、3Dプリンターで積層造形して、目的とする強化材成形体と同じ形状を有する樹脂模型を成形した。該樹脂模型は、表面に、高さ0.5mm、径が1mm程度の規則的なディンプル状凸を有するものである。次に、上記で成形した樹脂模型を、型取り用のシリコーンゴム溶液内に浸漬させた後、シリコーンゴムを硬化させて、表面に、深さ0.5mm、径が1mm程度の規則的なディンプル状凹が形成されているシリコーンゴム製の強化材成形型を製作した。
【0041】
強化材として平均粒径44μmのホウ酸アルミニウム粒子1kgを用い、重合させて樹脂バインダーとするための原料として、モノマー及び架橋剤、分散剤を総量で500g加え、そこに水を5kg加えて上記の原料を分散させたスラリーを作製した。上記で得られたスラリーに重合開始剤を添加して重合が開始されるようにした後、該スラリーを速やかに、先に作製した強化材成形型のシリコーンゴム型に充填して予備強化材成形体を作製した。先述したように、用いたシリコーンゴム型の内面には、深さ0.5mm、径が1mm程度の規則的なディンプル状凹が形成されている。
【0042】
上記で得た予備強化材成形体を600℃で脱脂後、1000℃で焼結して、強化材成形体を製作した。焼成した強化材成形体の全表面には、3Dプリンターで積層造形した樹脂型から転写形成された高さ0.5mm、径が1mmのディンプル状凸が設けられていた。
【0043】
この強化材成形体を700℃に予熱して、強化材成形体と同寸法の200℃に予熱した鋳造用金型に設置した後、直ちに800℃にて溶解したAl合金溶湯(ADC12)を金型内に注入した。そして、加圧ピンを下降させ1MPaの加圧状態で30秒保持した後、加圧を開始し、1分後に100MPaまで圧力を上昇させ、100MPaを10分保持して金属被覆金属基複合材を得た。得られた金属被覆金属基複合材は、表面に凹のある強化材成形体の表面に金属被覆層が形成された構造を有するものであり、金属被覆層の厚さを測定すると、厚みが2mm~3mmの連続したマトリックスのAl合金からなる金属層で被覆されていることが確認された。
【0044】
[比較例1]
強化材として、実施例1と同様に、平均粒径44μmのSiC粒子2kgを用い、該粒子にバインダーとしてコロイダルシリカ溶液(平均粒径50nm、濃度25%)0.1kgを加えて、水3kgに分散させたスラリーを作製した。次に、多孔質型に、得られたスラリーを充填し、吸引ろ過法で多孔質型の通気孔から水を排除させて、予備強化材成形体を作製した。予備強化材成形体を乾燥後、800℃で焼成して得た強化材成形体を700℃に予熱して、強化材形成体と同形状の200℃に予熱した鋳造用金型に設置し、その後、直ちに800℃にて溶解したAl合金溶湯(AC4C)を金型内に注入して、後述するようにして金属基複合材を作製した。上記で用いた、800℃で焼成した強化材成形体の表面性状を確認したところ、表面の凹凸はいずれも0.1mm以下であり、しかも規則性をもった凹凸ではないことを確認した。
【0045】
金属基複合材は、上記したように、800℃にて溶解したAl合金溶湯(AC4C)を金型内に注入して、加圧ピンを下降させるが無加圧状態で30秒保持した後、加圧を開始し、1分後に100MPaまで圧力を上昇させ、100MPaを10分保持して金属基複合材を作製した。強化材成形体を用いて金属基複合材を得る方法(条件)は、実施例1と同様である。
【0046】
上記で得られた本比較例の金属基複合材について表面性状を観察して、実施例の金属被覆金属基複合材と比較した。その結果、本比較例の金属基複合材では、鋳造用金型と接した強化材成形体面に、マトリックス金属の含浸・浸透がされず、未含浸の不良部が多くあることを確認した。また、本比較例の金属基複合材では、金属被覆層もほとんど形成されていなかった。
【0047】
<評価>
上記で得た実施例及び比較例の各金属基複合材について下記の評価をそれぞれ行った。
【0048】
(金属被覆層の厚みと規則性の評価)
各金属基複合材を切断して、複合材の表面を形成している金属被覆層の厚みを測定して、表1に示した。また、上記切断した試料を用いて、金属被覆層と強化材成形体との界面を観察して、強化材成形体の表面に設けた凹凸の規則性が保たれているか否かについて評価した。規則性が保たれている場合を「○」と評価し、規則性のある凹凸が見られない場合を「×」と評価した。
【0049】
(金属被覆層の緊密性)
図1に、実施例1の金属被覆金属基複合材の、強化材成形体と金属被覆層との境界面の顕微鏡写真の図を示した。
図1にある通り、金属被覆層は、厚くて数ミリ程度のものであるが、凹凸を設けた強化材成形体の表面に緊密に形成されていた。金属被覆層が緊密に形成されたものであることについては、下記の曲げ評価試験で確認した。すなわち、金属被覆層が強化材成形体の表面に緊密に形成されている場合は、高い曲げ強度を示し、金属被覆層が破断することがなかった。
【0050】
[曲げ強度試験]
上記で得た各金属基複合材から、最表面の金属被覆層を含む、厚さ15mm、幅20mm、長さ50mmの測定用サンプルを切り出した。そして、この測定用サンプルを用い、JIS Z 2248:2006の3点曲げ試験方法に準拠して曲げ強度を測定した。得られた結果を表1にまとめて示した。
【0051】
(金型への設置部の含浸・充填性)
金属被覆層の厚みの測定用に用いた各金属基複合材の切断面を目視観察して、マトリックス材料であるアルミニウム合金の溶湯が、強化材形成体の内部まで良好に含浸・充填されているか否かを確認した。その際、特に、鋳造用金型に設置した強化材形成体の設置部における充填の状態を調べた。その結果を表1中に示した。
【0052】
(加工後の表面粗さ)
上記で得た各金属基複合材の表面状態について、JIS B 0601:2001に準拠して、表面粗さ計を用いてそれぞれ粗さ(Rz)を測定し、評価した。得られた結果を表1中に示した。表1に示したように、実施例の金属被覆金属基複合材は、いずれも表面粗さ(Rz)が3~6であったのに対して、比較例1の金属基複合材の表面粗さ(Rz)は10~12であり、実施例の場合と比べて明らかに粗いことを確認した。このことは、金属基複合材の表面に強化材の粒子が露出などしていない良好な状態のマトリックス材からなる金属被覆層が形成できたことを意味している。
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の活用例としては下記が期待できる。輸送用機器を中心に部材の軽量化要請はさらに高まっており、例えば、アルミニウム合金は実用金属材料の中で軽量な材料であり、不足している特性を強化材との複合化により補完して向上させることを実現した本発明の技術は、今後ますます需要が増加すると予想され活用が期待される。アルミニウム基複合材料からなる成形体(製品)を提供する従来の製造技術では、強化材として単純形状のセラミックプリフォームを使用するため、製品を作る際に必要になるその後の加工が、コストアップや作業性の低下を招いており、この点でも本発明の技術は有効である。すなわち、本発明の技術によれば、目的(製品)形状に近いセラミックプリフォームを用いることで、強化材成形体の表面に被覆されたアルミニウム被覆層部分のみを加工して、目的の形状(成形体)の製品を得ることが可能となるため、従来問題であった精密加工を行う際の精度や加工時間の問題を解決でき、最終仕上げ加工の自動化などのニーズに応えることができることが期待される。また、本発明の技術によれば、製品の生産コストも下がり、これまで適用が難しかった移動体部位への適用が加速できることも期待される。さらに、本発明の技術によって、耐熱性や高温での熱変形を危惧されている生産装置における治具などへの適用にも展開できるものと期待される。さらに、本発明の技術で作製された材料や成形体は、その表面に設けられた被覆層が、アルミニウム等のマトリックス材である純金属あるいは合金という単一な金属素材であるため、従来のアルミニウム合金等に施されてきた表面処理(陽極酸化など)を行うことが可能であり、従来既知の表面の多孔質化、硬度改善などの機能性を付与することも期待できるので、多様な分野における利用が期待される。
【符号の説明】
【0055】
1:強化材成形体
2:マトリックス材
3:規則的な凹凸
4:金属被覆層
5:金属被覆金属基複合材料
10:金型
20:加圧ピン
【要約】
【課題】強化材と金属等のマトリックス材とを複合化した従来の材料では、金属等の単体相の材料に比べて、引張・曲げ強度などの機械的特性が低いことや、精密な形状加工をする際に生じる強化材の脱落や、硬質な強化材に刃物が衝突することで生じる刃物刃先の欠損・摩耗などにより表面粗さが粗くなったり、加工性が劣るなどの問題が生じることがあったのに対し、これらの問題を安定して抑制できる金属基複合材の提供。
【解決手段】純金属あるいは合金をマトリックス材とし、該マトリック材と異なる材料を強化材として、前記マトリックス材と前記強化材を複合化して構成された金属基複合材であって、前記強化材が多孔質の成形体であり、且つ、該成形体の表面に規則的な凹凸が設けられてなるものであることで、該凹凸を含んでなる、複合化している前記マトリックス材の連続一体な金属被覆層を表面に有する金属被覆金属基複合材料。
【選択図】
図1