(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体、移動体および搬送装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20221221BHJP
F16C 13/02 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C13/02
(21)【出願番号】P 2017250164
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017082858
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 辰三
(72)【発明者】
【氏名】湯浦 徳利
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 春彦
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-051063(JP,A)
【文献】特開2008-290295(JP,A)
【文献】特開2007-125720(JP,A)
【文献】特開平11-334369(JP,A)
【文献】特開平10-279244(JP,A)
【文献】特開2002-310139(JP,A)
【文献】特開平10-281166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16C 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の部材の外周面に被覆層を備え、
前記被覆層は、熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより形成される外周面層を有し、
前記被覆層は、
前記外周面に、非晶性プラスチックからなる第一の材料層と、
前記第一の材料層の外面に前記熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより前記被覆層の外周面を形成する前記外周面層としての、熱可塑性エラストマーからなる第二の材料層と、を備え、
前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料であ
り、
前記外周面は、軸受が備える外輪の外周面であり、前記外輪の外周面に被覆層が形成され、
前記第二の材料層は、
前記第一の材料層の外面を覆う前記外周面層と、
前記外周面層に連結されて、前記第一の材料層の軸線方向両側面を覆う一対の側面層と、を有し、
前記第二の材料層の一対の側面層は、前記外輪の外周面に接触していることを特徴とする熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体。
【請求項2】
前記外輪の前記外周面には周方向に延びる溝部が設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体。
【請求項3】
前記第一の材料層は、前記外周面から径方向外側に向けて幅寸法が漸次大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項
1または2に記載の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体。
【請求項4】
円筒状の軸受が備える外輪の外周面に被覆層を備え、
前記外輪は非晶性プラスチックで形成され、
前記被覆層は、前記外輪の外周面に熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより前記被覆層の外周面を形成する外周面層を備え、
前記外周面層は、前記外輪よりも軟らかい材料であることを特徴とする熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体。
【請求項5】
前記第二の材料層の外側面にはゲート跡が設けられ、
軸線方向からみたときの前記ゲート跡は、外形が前記第二の材料層の肉厚寸法より大きく形成され、前記第二の材料層と前記第一の材料層との両方に軸線方向で重なるように配置されることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を複数有し、前記熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体は軸受であり、前記複数の軸受の内輪を本体部に固定し、前記複数の軸受の前記被覆層を接触物に接触させた状態とし、前記被覆層並びに前記被覆層が固定された前記外輪が前記接触物に対して転がる車輪として機能することを特徴とする移動体。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を一対有し、前記熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体は軸受であり、夫々の前記被覆層同士を隣接して配置し、前記軸受の内輪が支持軸に取り付けられ、前記外輪および前記被覆層が回転することにより、一対の前記被覆層間に挟み込まれた搬送物を搬送することを特徴とする搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体、移動体および搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、転がり軸受の用途として、転がり軸受の外輪で紙幣や切符などの搬送物を搬送することや、転がり軸受を移動体の車輪として接触物に沿って転がせることが知られている。この場合、外輪の外周面には搬送物や接触物との摩擦力を大きくしたり、外輪が転がり接触しながら動作する際の音(ノイズ)を低減するために、外輪にウレタンゴムを被覆することがある。
ウレタンゴムは、耐摩耗性に優れ、さらに外輪に強固に接着固定できる。外輪にウレタンゴムを装着する製造工程は以下の通りである。
【0003】
まず、転がり軸受の外輪の外周面をサンドブラスト処理により粗く加工し、粗く加工した外周面に接着剤を塗布する。つぎに、転がり軸受を金型内にセットし、ウレタン原料(液体)を外周面と金型との間に流し込み、金型に圧力をかけて成形する。ついで、金型内において高温で所定の時間(硬度によるが半日から1日程度)保持する。ウレタンゴムを高温で硬化させるとともに、接着剤に高温をかけてウレタンゴムを外周面に加硫接着する。加硫接着後に、ウレタンの外周面を研磨により所定の寸法、精度に仕上げる。これにより、転がり軸受の外輪の外周面にウレタンゴムが被覆される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の転がり軸受では以下のような課題がある。
すなわち、金型内でウレタンゴムを長時間にわたり硬化させる必要があり、外輪の外周面への接着剤の塗布に時間がかかり、ウレタンゴムの硬化後にウレタンの外周面を研磨により所定の寸法、精度に仕上げる必要がある。
よって、ウレタンゴムが外周面に被覆された転がり軸受を大量生産する場合には、ウレタンゴムを外周面に被覆するための設備を多数備える必要があり、設備費が嵩む。また、外輪の外周面をサンドブラストで粗く加工する工程や、粗く加工した外周面に接着剤を塗布する工程が必要である。このため、ウレタンゴムが被覆された転がり軸受を、安価で大量に製造することは難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、大量の製品を安価に製造できる熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体、移動体および搬送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明の一態様にかかる熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体は、円筒状の部材の外周面に被覆層を備え、前記被覆層は、熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより形成される外周面層を有し、前記被覆層は、前記外周面に、非晶性プラスチックからなる第一の材料層と、前記第一の材料層の外面に前記熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより前記被覆層の外周面を形成する前記外周面層としての、熱可塑性エラストマーからなる第二の材料層と、を備え、前記第二の材料層は、前記第一の材料層よりも軟らかい材料であることを特徴とする。
【0008】
熱可塑性エラストマーを熱融着して外周面を形成することにより、外周面層を熱融着により強固に固定できる。よって、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。これにより、熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を、安価で大量に製造することができる。
【0010】
この構成によれば、第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とすることにより、第一の材料層に硬い材料を使用できる。軟らかい材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が小さい材料をいう。硬い材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が大きい材料をいう。
第一の材料層が円形の外面に形成されることにより、第一の材料層が環状に形成される。
よって、第一の材料層が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層が円形の外面に強固に取り付けられる。また、凹凸を有する平坦な外面に第一の材料層が形成されることにより、第一の材料層が平坦な外面の凹凸に係止される。よって、円形に形成された外面や、凹凸を有する平坦な外面に第一の材料層を強固に固定できる。
さらに、第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とすることにより、第二の材料層を第一の材料層に熱融着により強固に固定できる。
このように、外面と第二の材料層との間に、硬い第一の材料層を介在させることにより、第二の材料層を第一の材料層を介して円形の外面や凹凸を有する外面に強固に固定できる。
【0011】
さらに、第二の材料層は、第一の材料層を介して円形の外面や凹凸を有する平坦な外面に熱融着により強固に固定される。よって、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。これにより、熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を、安価で大量に製造することができる。
【0012】
また、第二の材料層を第一の材料層よりも軟らかい材料とした。これにより、軸受の外輪(すなわち、第2の材料層)で紙幣や切符などの搬送物を搬送する場合や、軸受を移動体の車輪として接触物に沿って転がせる場合に、第2の材料層で音(ノイズ)を低減できる。
【0013】
上記態様において、前記外周面は、軸受が備える外輪の外周面であり、前記外輪の外周面に被覆層が形成されてもよい。
この構成によれば、軸受に備えた外輪の外周面に第二の材料層を第一の材料層を介して強固に固定できる。これにより、第二の材料層が外輪の外周面(すなわち、軸受)から脱落することを防止できる。
【0014】
上記態様において、前記外輪の前記外周面には周方向に延びる溝部が設けられていてもよい。
この構成によれば、外周面に溝部を設けることにより、第一の材料層を溝部に充填できる。外周面の溝部に第一の材料層の突部が充填されることにより、外周面の溝部と第一の材料層の突部とを凹凸状に係合させることができる。よって、第一の材料層に力が加わった際に、外周面と第一の材料層との凹凸で第一の材料層が外輪から外れないようにできる。これにより、第一の材料層および第二の材料層が外輪の外周面(すなわち、軸受)から脱落することを一層確実に防止できる。
【0015】
上記態様において、前記第二の材料層は、前記第一の材料層の外面を覆う外周面層と、前記外周面層に連結されて、前記第一の材料層の軸線方向両側面を覆う一対の側面層と、を有していてもよい。
【0016】
この構成によれば、第二の材料層に一対の側面層を形成し、一対の側面層で第一の材料層の両側面を挟み込むようにした。よって、第二の材料層が冷却して収縮することにより、第一の材料層の両側面を一対の側面層で挟持できる。これにより、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に係合させることができ、第二の材料層が外周面(すなわち、外輪)から脱落することを一層確実に防止できる。
【0017】
上記態様において、前記第二の材料層の一対の側面層は、前記外輪の外周面に接触していてもよい。
この構成によれば、第二の材料層の一対の側面層を外輪の外周面に接触させることにより、一対の側面層の高さ寸法を大きく確保できる。よって、第一の材料層の側面に対する側面層の接触面積を大きく確保できる。これにより、第二の材料層が冷却して収縮することにより、第一の材料層の両側面を一対の側面層で挟持でき、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に係合させることができる。
【0018】
上記態様において、前記第一の材料層は、前記外周面から径方向外側に向けて幅寸法が漸次大きくなるように形成されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、第一の材料層の幅寸法を径方向外側に向けて漸次大きくすることにより、第二の材料層を第一の材料層に一層強固に固定できる。これにより、第二の材料層が外周面(すなわち、外輪)から脱落することを一層確実に防止できる。
【0021】
円筒状の軸受が備える外輪の外周面に被覆層を備え、前記外輪は非晶性プラスチックで形成され、前記被覆層は、前記外輪の外周面に熱可塑性エラストマーが熱融着されることにより前記被覆層の外周面を形成する外周面層を備え、前記外周面層は、前記外輪よりも軟らかい材料である。
【0022】
この構成によれば、外輪を非晶性プラスチック(硬質プラスチック)で形成することにより、非晶性プラスチック製の外輪に被覆層を直接形成できる。これにより、第一の材料層を除去でき、構成の簡素化が図れる。
【0023】
また、前記第二の材料層の外側面にはゲート跡が設けられ、軸線方向からみたときの前記ゲート跡は、外形が前記第二の材料層の肉厚寸法より大きく形成され、前記第二の材料層と前記第一の材料層との両方に軸線方向で重なるように配置されることを特徴としている。
【0024】
この構成によれば、ゲートの開口が大きく形成され、ゲートが、第一の材料層と第二の材料層との両方に重なるように配置されることにより、第二の材料層の肉厚寸法を小さくした場合でも、第二の材料層を良好に成形できる。
さらに、第一の材料層(具体的には、第1側面層)の外側面に大きな圧力で熱可塑性エラストマーを充填することができる。これにより、第一の材料層と第二の材料層との両層の密着力を高めることができる。
【0025】
上記の課題を解決するために本発明の一態様にかかる移動体は、上述の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を複数有し、前記熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体は軸受であり、前記複数の軸受の内輪を本体部に固定し、前記複数の軸受の前記被覆層を接触物に接触させた状態とし、前記被覆層並びに前記被覆層が固定された前記外輪が前記接触物に対して転がる車輪として機能することを特徴とする。
また、上記の課題を解決するために本発明の一態様にかかる搬送装置は、上述の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を一対有し、前記熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体は軸受であり、夫々の前記被覆層同士を隣接して配置し、前記軸受の内輪が支持軸に取り付けられ、前記外輪および前記被覆層が回転することにより、一対の前記被覆層間に挟み込まれた搬送物を搬送することを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、上述の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を駆動モジュールに備えることにより、耐久性を確保できるとともに低コストの駆動モジュールとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明の一態様によれば、熱可塑性エラストマーを熱融着して外周面を形成することにより、外周面層を熱融着により強固に固定できる。これにより、熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を、安価で大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体としての軸受を示す断面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る第二の材料層にチタン酸カリウム繊維を含有させた状態の特性を示すグラフである。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る軸受の変形例を示す側面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る軸受を備えた移動体を示す側面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体としての軸受を備えた移動体を示す断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体としての軸受を示す断面図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体としての軸受を示す断面図である。
【
図8】本発明の第5実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体としての軸受を示す断面図である。
【
図9】本発明の第6実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体としての軸受を示す断面図である。
【
図10】本発明の第7実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を示す断面図である。
【
図11】本発明の第8実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を示す断面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。第1実施形態~第6実施形態においては熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を軸受10,70,90,110,130,140として説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る軸受10の断面図である。
図1に示すように、軸受10は、輪体12、複数の転動体14、リテーナ16および被覆層18を備える転がり軸受である。
輪体12は、外輪21および内輪22を備える。外輪21と内輪22は、軸受10の軸線Oと同軸上に配置されている。内輪22は、外輪21の径方向の内側に配置される。
複数の転動体14は、輪体12を構成する外輪21と内輪22との間において、環状に配置される。リテーナ16は、複数の転動体14を周方向に均等配列させた状態で転動自在に保持する。
【0030】
外輪21は、例えばステンレスなどの金属材料からなる。外輪21は、円筒状の部材であり、例えば鍛造や機械加工などにより形成される。外輪21は、外周面(すなわち、円形に形成された外面)24、内周面25、中央部26、一対の外側部27を有する。
外周面24は、外輪21の径方向外側に環状に形成されている。内周面25は、外輪21の径方向内側に環状に形成されている。中央部26は、軸線O方向の中央に形成されている。中央部26は、内周面25のうち軸線O方向中央の部位25aが外輪21の外周面24から径方向内側に間隔T1をおいて形成されている。外周面24のうち中央部26に相当する部位には、周方向へ延びる溝部28として凹部が形成されている。
【0031】
溝部28は、外周面24より径方向内側に最深部位28aを有する。最深部位28aは、溝部28のうち最も深い部位である。溝部28は、断面形状において、外周面24側から最深部位28aまで溝幅寸法L1が漸次小さくなるように形成されている。
一例として、溝部28は、外輪21の軸線O方向の中央において断面形状が曲面に形成され、外輪21の径方向外側に開口されている。溝部28は、外輪21の軸線O方向の中央に対して対称の形状に形成されている。
【0032】
一対の外側部27は、中央部26より軸線O方向外側で、外輪21の軸線O方向の中央に対して対称に形成されている。一対の外側部27は、内周面25のうち軸線O方向外側の部位が外輪21の外周面24から径方向内側に間隔T2をおいて形成されている。中央部26の間隔T1は、一対の外側部27の間隔T2に比べて大きく設定されている。すなわち、中央部26の肉厚寸法は、一対の外側部27の肉厚寸法より大きい。
【0033】
内周面25のうち中央部26の部位25aには、外輪転動面29が形成されている。外輪転動面29は、転動体14の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。外輪転動面29の断面における曲率半径は、転動体14の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成される。外輪転動面29は、外輪21の内周面25の全周にわたって形成されている。外輪転動面29は、複数の転動体14の外表面が当接可能である。
外輪転動面29は、軸線O方向の中央に形成され、外周面24の径方向において溝部28と重なる位置に配置されている。
【0034】
ところで、溝部28は、軸線O方向の中央に形成され、外輪転動面29と外周面24の径方向において重なる位置に配置されている。一方、溝部28は断面形状が曲面に形成されている。よって、外輪21の変形や溝部28による外輪21の剛性低下が外輪転動面29に及ぼす影響を抑制できる。
さらに、溝部28の断面形状を曲面に形成することにより、溝部28の底面に平坦部を有しない。これにより、溝部28を刃具で加工する際に、刃具の切削抵抗を小さく抑えることができ、溝部28の加工が容易になる。さらに、刃具の切削抵抗を小さく抑えることにより刃具の寿命を延ばすことができる。
加えて、溝部28は、外輪21の軸線O方向の中央に対して対称の形状に形成されている。外輪21の外周面24中央に溝部28がバランスよく形成されている。これにより、外輪21の変形や溝部28による外輪21の剛性低下が外輪転動面29に及ぼす影響を一層良好に抑制できる。
【0035】
ここで、溝部28が外輪21の軸線O方向の中央に設けられ、外輪転動面29も外輪21の軸線O方向の中央に設けられている。これにより、外輪21の焼入れなどの熱処理による変形の影響を少なく抑えることができる。特に、外輪21は、中央部26の肉厚寸法が一対の外側部27の肉厚寸法より大きく形成されている。中央部26の肉厚寸法が大きい部位に溝部28が形成されている。これにより、溝部28を形成する肉厚寸法を確保できる。
さらに、溝部28は、断面形状が曲面に形成されている。一方、外輪転動面29も断面形状が曲面に形成されている。すなわち、溝部28は外輪転動面29と同形状に形成されている。これにより、外輪21の焼入れなどの熱処理による変形の影響を一層少なく抑えることができる。
【0036】
なお、第1実施形態においては、溝部28を断面曲面に形成した例について説明したが、これに限らないで、その他の例として、断面V字面、断面U字面などの形状に形成してもよい。溝部28を断面V字面、断面U字面などに形成した場合も、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0037】
内輪22は、例えばステンレスなどの金属材料からなる。内輪22は、軸線O方向に所定の厚さ寸法を有する、略円筒状の部材であり、例えば鍛造や機械加工などにより形成されている。
内輪22の外周面32における軸線O方向の中間部には、内輪転動面33が形成される。内輪転動面33は、転動体14の外表面に沿うように側面断面が円弧状に形成されている。内輪転動面33の断面における曲率半径は、転動体14の外表面の曲率半径と略同一か、若干大きくなるように形成される。内輪転動面33は、内輪22の外周面32の全周にわたって形成されている。内輪転動面33は、複数の転動体14の外表面が当接可能である。
【0038】
内輪22が支持軸41に固定されることにより、被覆層18が外輪21とともに回転する。被覆層18(第二の材料層44)の被覆外周面52cは、例えば、紙幣や切符などを搬送したり、接触物5(
図4参照)を転がる面である。
【0039】
転動体14は、ステンレスなどの金属材料やジルコニヤなどのセラミック材料などにより球状に形成される。転動体14は、外輪21の外輪転動面29および内輪22の内輪転動面33の間に複数個配置されて、外輪転動面29および内輪転動面33に沿って転動する。複数の転動体14は、リテーナ16によって、転動自在に周方向に沿って環状に均等配列される。軸受10には潤滑用のグリースが封入されている。
【0040】
外輪21の外周面24には被覆層18が形成されている。被覆層18は、第一の材料層43と、第二の材料層44とを備えている。第二の材料層44は、被覆層18の外周面層を形成する。
第一の材料層43は、外輪21の外周面24のうち、軸線O方向の中央に射出成形によりインサート成形される。第一の材料層43は、第1外周面46、第1内周面47、一対の側面48,49を有する。以下、一対の側面48,49のうち一方の第1側面を第1側面48、他方の側面を第2側面49という。
【0041】
第1内周面47は、外輪21の外周面24および溝部28にインサート成形により溶着されている。第1外周面46は、外輪21の外周面24に対して所定の厚さ寸法となるように円弧状に形成されている。すなわち、第1外周面46は、軸受10の軸線O方向において、軸線Oと平行となるように直線状に形成されている。
第1側面48は、第1外周面46の一端と第1内周面47の一端とを連結し、軸受10の軸線O方向に対して交差するように形成された面である。第1側面48は、外周面24の第1端縁24aから軸線O方向において外周面24の中央側に間隔S1をおいて形成されている。第2側面49は、外周面24の第2端縁24bから軸線O方向において外周面24の中央側に間隔S1をおいて形成されている。
【0042】
第一の材料層43は、例えば硬質プラスチックで形成され、特に、非晶性プラスチックが熱可塑性エラストマーとの熱融着性に優れるため好ましい。非晶性プラスチックとしては、ポリカーボネート、ABS樹脂、あるいは、ポリカーボネート、ABS樹脂のアロイ材などが好ましい。第一の材料層43が冷却されて、外周面24に対して外輪21の中心に向かって(径方向に)密着するように力が加わるため、第一の材料層43が、外輪21の外周面24および溝部28に射出成形により溶着されている。
第一の材料層43は、外周面24に沿って硬質プラスチックで環状に形成されている。よって、第一の材料層43が冷却されて硬化する際の収縮により、第一の材料層43が外周面24に強固に取り付けられる。
第一の材料層43が溝部28に充填される。外周面24の溝部28に第一の材料層43の突部43aが充填されることにより、外周面24の溝部28と第一の材料層43の突部43aとを凹凸状に係合させることができる。
【0043】
ここで、第一の材料層43を外輪21の外周面24および溝部28にインサート成形する際には、軸受10が成形型の内部に収められ、外輪21のうち、少なくとも軸線O方向の端面21a,21bが成形型に接触して支えられる。このように、端面21a,21bが成形型で支えられることにより、第一の材料層43が外輪21の外周面24および溝部28にインサート成形される。また、外輪21の単体に対して第一の材料層43をインサート成形しても構わない。
【0044】
加えて、溝部28に第一の材料層43の突部43aが充填されることにより、溝部28に充填された突部43aがアンカーの役割を果たす。これにより、第一の材料層43を外輪21の外周面24および溝部28に強固に固定できる。
第一の材料層43が外輪21の外周面24に設けられた状態において、外周面24のうち、第一の材料層43の軸線O方向の両側部に位置する第1側部24cおよび第2側部24dが外部に露出されている。
【0045】
第一の材料層43と、外周面24の第1側部24c、第2側部24dとに第二の材料層44が形成されている。第二の材料層44は、外周面層52と、一対の側面層53,54とを有する。以下、一対の側面層53,54のうち一方の第1側面層を第1側面層53、他方の側面層を第2側面層54という。
外周面層52は、第一の材料層43の第1外周面46を覆う層である。第1側面層53は、外周面層52の一端部52aに連結され、第一の材料層43の第1側面48を覆う層である。第1側面層53は、外輪21の外周面24の第1側部24cに接触されている。
第2側面層54は、外周面層52の他端部52bに連結され、第一の材料層43の第2側面49を覆う層である。第2側面層54は、外輪21の外周面24の第2側部24dに接触されている。
すなわち、第二の材料層44の第1側面層53および第2側面層54で第一の材料層43の両側面(第1側面48、第2側面49)が挟み込まれている。
【0046】
第二の材料層44は、熱可塑性エラストマー(TPE)で形成されている。熱可塑性エラストマーは、第一の材料層43の材料となる非晶性プラスチックとの熱融着性に優れている。
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系(TPS)、オレフィン系(TPO)、塩ビ系(PPVC)、ウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)が適用可能である。機械的強度、耐摩耗性の観点からウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)、スチレン系(TPS)が好ましい。さらに好ましい熱可塑性エラストマーとしてポリエステル系(TPEE)が挙げられる。
ウレタン系(TPU)は、耐摩耗性に最も優れるが成形性に問題があり、吸湿性が高く充分な乾燥が必要である。さらに、アニール処理も必要であり、製造に時間がかかるとともに成形精度にも問題がある。また、ウレタン系は、機械的強度や耐摩耗性が熱可塑性エラストマー中で最も優れている。このため、ウレタン系は、被覆層18に機械的強度や耐摩耗性の特性が必要な場合に使用される。
【0047】
ポリエステル系(TPEE)は、ウレタンを除く熱可塑性エラストマーのなかでは耐摩耗性、機械的強度が最もすぐれるとともに、硬質プラスチックとの熱融着性にも優れている。また、ポリエステル系(TPEE)は、吸湿性も低く、成形性も良好なため被覆層18の材料として最適である。
【0048】
ここで、第二の材料層44の熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系(TPEE)が好ましい。ポリエステル系は、耐摩耗性、機械的強度が優れるとともに、硬質プラスチック(すなわち、第一の材料層43)と熱融着性に優れている。
熱融着とは、例えば、第二の材料層44の熱可塑性エラストマーが加熱により溶融して硬質プラスチック(第一の材料層43)に付着することをいう。
よって、2色成形時に効果を発揮する。また、また、ポリエステル系(TPEE)は、吸湿性も低く、成形性も良好なため軸受10の第二の材料層44の材料として最適である。
音(ノイズ)を抑えるという観点から、第二の材料層44のデュロ硬度Aは75~95が望ましい。例えば、デュロ硬度Aを92とすることにより、音(ノイズ)を良好に抑え、かつ、第二の材料層44の機械的強度や耐摩耗性を良好に確保するという観点から特に好ましい。デュロ硬度Aが75未満であると、第二の材料層44の機械的強度や耐摩耗性が問題となることが考えられる。
【0049】
第二の材料層44の熱可塑性エラストマーは、第一の材料層43の非晶性プラスチック(硬質プラスチック)よりも軟らかい材料である。すなわち、第一の材料層43に硬い非晶性プラスチックを使用できる。よって、外輪21の外周面24に第一の材料層43を溶融状態で射出成形し、射出成型後に溶融状態の第一の材料層43が冷却、凝固することにより、環状の第一の材料層43が収縮する。よって、第一の材料層43を外輪21の外周面24強固に固定できる。
軟らかい材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が小さい材料をいう。
硬い材料とは、曲げ弾性率、硬度(例えば、デュロ硬度A(デュロメータ硬さA))が大きい材料をいう。
【0050】
また、外輪21の外周面24に溝部28を設けることにより、第一の材料層43を溝部28に充填できる。外周面24の溝部28に第一の材料層43の突部43aが充填されることにより、外周面24の溝部28と第一の材料層43の突部43aとを凹凸状に係合させることができる。よって、第一の材料層43に力が加わった際に、外周面24と第一の材料層43との凹凸で第一の材料層43が外輪21から外れないようにできる。
【0051】
ここで、第二の材料層44は、第一の材料層43に沿って環状に形成され、第一の材料層43よりも軟らかい材料である。よって、第二の材料層44を第一の材料層43に射出成形(2色成形)により強固に熱融着できる。
また、第二の材料層44の第1側面層53および第2側面層54で第一の材料層43の両側面(第1側面48、第2側面49)が挟み込まれている。よって、第二の材料層44が射出成形後に冷却して収縮することにより、第一の材料層43の第1側面48および第2側面49を、第二の材料層44の第1側面層53および第2側面層54で挟持できる。これにより、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に係合させることができる。
【0052】
さらに、第二の材料層44の第1側面層53の内周面53aは、外輪21の外周面24の第1側部24cに溶着されている。第二の材料層44の第2側面層54の内周面54aは、外輪21の外周面24の第2側部24dに溶着されている。すなわち、第1側面層53および第2側面層54の高さ寸法H1が大きく確保されている。
よって、第1側面48に対する第1側面層53の接触面積が大きく確保されている。第2側面49に対する第2側面層54の接触面積が大きく確保されている。これにより、第二の材料層44が冷却して収縮することにより、第1側面48および第2側面49の全域を第1側面層53および第2側面層54で挟持できる。この結果、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に係合させることができる。よって、第二の材料層44に軸線O方向の力や、外輪21の外周面24からめくられる方向の力がかかった場合でも、第二の材料層44が外輪21の外周面24から剥がれ難くできる。
【0053】
このように、外輪21の外周面24と第二の材料層44との間に、硬い第一の材料層43を介在させることにより、第二の材料層44を第一の材料層43を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることができる。これにより、第一の材料層43および第二の材料層44が外輪21の外周面24から脱落することを防止できる。
【0054】
さらに、第二の材料層44を第一の材料層43を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることにより、従来必要とされていた、サンドブラスト加工工程や、接着剤による塗布工程を不要にできる。
また、第一の材料層43および第二の材料層44を、例えば2色成形で射出成形する際に、第一の材料層43の非晶性プラスチック、第二の材料層44の熱可塑性エラストマーを、ウレタンゴムのように金型内で長時間にわたり硬化させる必要がない。すなわち、第一の材料層43および第二の材料層44を射出成形する際に、ウレタンゴムのように金型内で長時間にわたり硬化させる工程を不要にできる。
これにより、外輪21の外周面24に被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)が形成された軸受10を安価に大量に製造できる。
【0055】
前述したように、被覆層18の第一の材料層43および第二の材料層44は、例えば2色成形で形成される。具体的には、外輪21の外周面24に第一の材料層43が非晶性プラスチックの射出成形によりインサート成形される。第一の材料層43がインサート成形された後、第二の材料層44が熱可塑性エラストマーの射出成形によりインサート成形される。
第一の材料層43や第二の材料層44を射出成形するために金型が用いられる。特に、第二の材料層44を射出成形する金型は、例えばゲートG1が第二の材料層44の第1側面層53に相当する位置に配置される。溶融された熱可塑性エラストマーがゲートG1から金型の内部(キャビティ)に充填されることにより、第一の材料層43および外周面24の第1側部24cおよび第2側部24dに第二の材料層44がインサート成形される。
金型のゲートG1を第1側面層53に相当する位置に設けることにより、熱可塑性エラストマーの充填個所を外周面層52の被覆外周面52cからずらすことができる。
【0056】
また、金型のパーティングラインPLは、例えば軸受10の軸線O方向において第1側面層53の外側面53bに位置させる。第1側面層53の外側面53bは、外周面層52の被覆外周面52cに対して被覆外周面52cの一端52dにおいて凹部に形成されている。パーティングラインPLは、外周面層52の被覆外周面52cからずらした位置に配置されている。
このように、ゲートG1やパーティングラインPLを外周面層52の被覆外周面52cからずらすことにより、熱可塑性エラストマーをゲートG1から金型内に充填させる際に生じるバリや、パーティングラインPLにより生じるバリなどが外周面層52の被覆外周面52cに生じさせないようにできる。これにより、外周面層52の被覆外周面52cからバリを除去する後加工を不要にできる。
ここで、第1側面層53の外側面53bと第2側面層54の内周面54aとの間の間隔が被覆層18の幅寸法となる。被覆層18の幅寸法は、輪体12の幅寸法と同一に設定されている。
【0057】
ところで、非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーを射出成形する際の金型温度は150℃以下(好ましくは100℃以下)と低く抑えられる。また、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーがゲートG1から金型内に充填されると、非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーは瞬時に固まる。よって、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーの高温は軸受10に封入されたグリースまで伝わらないようにできる。これにより、溶融された非晶性プラスチックや熱可塑性エラストマーの高温でグリースを劣化させるおそれはない。
【0058】
ここで、被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)を外周面24に溶着することにより、被覆層18を外周面24に接着剤で接着する必要がない。被覆層18と外周面24との間に接着剤を介在させないことにより次の効果が得られる。
すなわち、小型の軸受の場合、例えば、被覆層を外周面に接着剤で接着すると接着剤の塗布ムラにより、接着剤を外周面に均一の厚さ寸法に塗布できないおそれがある。一方、小型の軸受の場合、被覆層の厚さ寸法が1.0mmより小さくなることが考えらえる。この状態において、接着剤が外周面に均一の厚さ寸法に塗布されていない場合、被覆層の硬度が不均一になることが考えられる。
このため、被覆層が被覆された小型の軸受で搬送物を搬送する場合や、被覆層を接触物に沿って転がり動作させる場合に、音(ノイズ)が発生したり、トルクムラの原因となるおそれがある。
【0059】
これに対して、被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)を外周面24に溶着することにより、接着剤を不要にできる。これにより、軸受10が小型で被覆層18の厚さ寸法が1.0mmより小さくなった場合でも、被覆層18の硬度を全周において均一に保つことが可能になる。
これにより、軸受10を小型に形成した場合でも、搬送物を軸受10で搬送する場合や、接触物に沿って軸受10を転がり動作させる際に、音(ノイズ)の発生や、トルクムラの原因を抑えることができる。
なお、第1実施形態では、被覆層18(第一の材料層43、第二の材料層44)を外周面24に溶着のみで設ける例について、説明するが、軸受10の用途に応じて、例えば溶着に接着剤を併用させて被覆層18を外周面24に設けてもよい。
【0060】
第1実施形態では、被覆層18の第一の材料層43を、硬質プラスチック(非晶性プラスチック)としては、ポリカーボネートなどを使用する例について説明したが、例えば第二の材料層44と同様に熱可塑性エラストマーを使用してもよい。
よって、第一の材料層43と第二の材料層44とを一層良好に熱融着することができる。これにより、第二の材料層44を第一の材料層43に一層強固に固定でき、第二の材料層44が外輪21の外周面24から脱落することを一層確実に防止できる。
【0061】
ここで、例えば、第二の材料層44の摩耗量を確保するために、表1、
図2に示すように、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を含有することも可能である。
表1は本発明の第二の材料層44にチタン酸カリウム繊維を含有させた状態の特性を示す表である。
図2は第二の材料層44にチタン酸カリウム繊維を含有させた状態の特性を示すグラフである。
表1、
図2において、チタン酸カリウム繊維を含有しない熱可塑性エラストマー(ポリエステル系(TPEE))をエラストマー(単体)として示す。チタン酸カリウム繊維を10wt%含有した熱可塑性エラストマーをエラストマー(10wt%)として示す。
また、チタン酸カリウム繊維を20wt%含有した熱可塑性エラストマーをエラストマー(20wt%)として示す。チタン酸カリウム繊維を30wt%含有した熱可塑性エラストマーをエラストマー(30wt%)として示す。
【0062】
【0063】
表1、
図2において、エラストマー(単体)、エラストマー(10wt%)、エラストマー(20wt%)、エラストマー(30wt%)の特性を示す。
熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有することにより、引張り強さを12Mpaから13MPa,18MPa,23MPaと高くできる。
また、曲げ強さを4MPaから7MPa,9MPa,16MPaと高くできる。さらに、曲げ弾性率を0.05GPaから0.13GPa,0.21GPa,0.44GPaと高くできる。
【0064】
また、
図2のグラフに、熱可塑性エラストマー単体、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有した状態の摩耗量やデュロ硬度Aを示す。
図2、表1に示すように、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有した状態において、熱可塑性エラストマーのデュロ硬度Aを94から96,97,98と略同様に確保できる。
さらに、
図2、表1に示すように、熱可塑性エラストマーにチタン酸カリウム繊維を10wt%、20wt%、30wt%含有した状態において、熱可塑性エラストマーの摩耗量を12.5×10
-3cm
3から10.1×10
-3cm
3,7.0×10
-3cm
3,3.8×10
-3cm
3と減少させることができる。
【0065】
ここで、熱可塑性エラストマーの摩耗量は、往復摺動試験により測定される。往復摺動試験条件は、相手材としてガラスプレートを選択し、荷重0.7kg、速度0.16m/sで時間20min往復摺動試験を実施する。
なお、チタン酸カリウム繊維の含有量は、軸受10の用途に対応させて適宜選択する。
【0066】
(変形例)
つぎに、第1実施形態の軸受10の変形例について説明する。
図3は、第1実施形態に係る軸受の変形例を示す側面図である。
図3に示すように、第1実施形態の軸受10として、第二の材料層44を熱可塑性エラストマーで形成する例について説明したが、その他の例として、第二の材料層44の被覆外周面に、歯車用の複数の歯57を形成することも可能である。これにより、軸受10を歯車55として用いることが可能になる。歯車55は、例えば、遊星歯車機構の内部の小さなプラネタリギア(遊星歯車)として用いることが可能である。
歯車55は、複数の歯57が熱可塑性エラストマーで形成されている。これにより、歯車55が噛み合う際に発生する駆動音を低減することが可能である。
また、複数の歯57を形成する第二の材料層44は、歯車55の耐摩耗性、機械的強度などを考慮してデュロ硬度Aが95を超えた熱可塑性エラストマーの使用も可能である。
【0067】
つぎに、第1実施形態の軸受10の用途の例を
図4に基づいて説明する。
図4は、第1実施形態に係る軸受10を備えた移動体1を示す側面図である。
図4に示すように、例えば、軸受10は移動体(駆動モジュール)1に取り付けられて車輪として用いられる。移動体1は、本体部2と、本体部2の両側に取り付けられた複数の軸受10とを備えている。複数の軸受10は、内輪22が支持軸3に取り付けられることにより固定されている。
支持軸3は本体部2に取り付けられている。内輪22が支持軸3に固定されることにより、外輪21および被覆層18が支持軸3に回転自在に支持されている。すなわち、複数の軸受10は車輪として用いられる。
【0068】
移動体1は、複数の軸受10の被覆層18(具体的には、第二の材料層44)が接触物5に接触された状態で配置されている。第二の材料層44は、熱可塑性エラストマーで形成されている。軸受10の外輪21および被覆層18が接触物5を転がることにより、移動体1を接触物5に沿って移動させることができる。
外輪21に被覆層18が形成されているので、軸受10が接触物5を転がりながら移動する際に、被覆層18(特に、第二の材料層44)により音(ノイズ)を低減させることができる。また、外輪21の外周面24に被覆層18が強固に係合されているので、外輪21の外周面24から被覆層18が脱落することを防止できる。
このように、移動体1に複数の軸受10を備えることにより、耐久性を確保できるとともに低コストの移動体1を得ることができる。
【0069】
図4においては、軸受10の被覆層18を接触物5に接触させた状態で回転させ、移動体1を接触物5に沿って移動させる例について説明したが、これに限らない。その他の例として、移動体1を固定状態に保持し、被覆層18を接触物5に接触させて被覆層18の回転により接触物5を移動させてもよい。この場合、机の引き出しにおいて引き出しを接触物5とする場合がこれに相当する。この状態においても、被覆層18により音(ノイズ)を低減させることができる。
また、その他の例として、軸受10を走行方向が旋回する自在車に適用してもよい。軸受10を自在車に適用することにより、移動体1の走行方向に対応させて軸受10を旋回させることができる。
【0070】
さらに、他の用途の例として、軸受10は紙幣や切符などの搬送装置(駆動モジュール)に用いられる。すなわち、搬送装置は、一対の軸受10の内輪22が支持軸3に取り付けられて、外輪21および被覆層18が支持軸に回転自在に支持される。一対の被覆層18は隣接して配置されている。この状態において、外輪21および被覆層18が回転することにより、一対の被覆層18間に紙幣や切符などが挟み込まれて搬送される。
【0071】
外輪21に被覆層18が形成されているので、軸受10の被覆層18間に紙幣や切符などを挟み込みながら搬送する際に、被覆層18により音(ノイズ)を低減させることができる。また、外輪21の外周面24に被覆層18が強固に係合されているので、外輪21の外周面24から被覆層18が脱落することを防止できる。
このように、搬送装置に軸受10を備えることにより、耐久性を確保できるとともに低コストの搬送装置を得ることができる。
【0072】
つぎに、第2実施形態~第6実施形態の軸受、第7実施形態~第8実施形態の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体を
図5~
図11に基づいて説明する。なお、第2実施形態~第6実施形態の軸受において、第1実施形態の軸受10と同一、類似部材については同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0073】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る軸受70の断面図である。
図5に示すように、軸受70は、第1実施形態の被覆層18を被覆層72に代えたもので、その他の構成は第1実施形態の軸受10と同様である。被覆層72は、第1実施形態の第一の材料層43、第二の材料層44を第一の材料層73、第二の材料層74に代えたものである。
【0074】
第一の材料層73は、第1外周面76、第1内周面77、第1側面78および第2側面79を有する。第1外周面76は、第一の材料層43の第1外周面46と同様に形成されている。第1内周面77は、第一の材料層43の第1内周面47と同様に形成されている。第1内周面77は、第1外周面76の長さ寸法に対して小さく形成されている。
【0075】
第1側面78は、第1内周面77の一端77aから第1外周面76の一端76aまで、外輪21の軸線O方向の中央から外側に向けて傾斜角θ1の傾斜状に延びている。第2側面79は、第1内周面77の他端77bから第1外周面76の他端76bまで、外輪21の軸線O方向の中央から外側に向けて傾斜角θ1の傾斜状に延びている。
第1側面78および第2側面79の傾斜角θ1は、90度未満に設定されている。すなわち、第一の材料層73は、外輪21の外周面24から径方向外側に向けて幅寸法W1が漸次大きくなるように形成されている。
【0076】
第二の材料層74は、被覆層72の外周面層を形成する。第二の材料層74は、外周面層82、第1側面層83および第2側面層84を有する。外周面層82は、第二の材料層44の外周面層52と同様に形成されている。第1側面層83は、第1側面78に接触するように傾斜状に形成された第1内側面83aを有する。第2側面層84は、第1側面78に接触するように傾斜状に形成された第2内側面84aを有する。
よって、第二の材料層74が冷却により収縮する際に、第1側面層83(特に、第1内側面83a)を第1側面78に好適に食い込ませることができる。また、第2側面層84(特に、第2内側面84a)を第2側面79に好適に食い込ませることができる。
【0077】
第2実施形態の軸受70によれば、第二の材料層74は第一の材料層73に一層強固に固定される。この結果、第二の材料層74が第一の材料層73(すなわち、外輪21の外周面24)から脱落することを一層確実に防止できる。
また、第2実施形態の軸受70によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、外輪21の外周面24に被覆層72が形成された軸受70を大量に、かつ安価に製造することができる。
【0078】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態に係る軸受90の断面図である。
図6に示すように、軸受90は、第1実施形態の被覆層18を被覆層92に代えたもので、その他の構成は第1実施形態の軸受10と同様である。被覆層92は、第1実施形態の第一の材料層43、第二の材料層44を第一の材料層93、第二の材料層94に代えたものである。
【0079】
第一の材料層93は、第1外周面96、第1内周面97、第1凹面98および第2凹面99を有する。第1外周面96は、第一の材料層43の第1外周面46と同様に形成されている。第1内周面97は、第一の材料層43の第1内周面47と同様で、かつ、外輪21の外周面24と同一幅に形成されている。第1内周面97は、外輪21の外周面24に接触する面積が大きく確保される。よって、第一の材料層43は、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。
【0080】
第1凹面98は、第1側面98aと第1周面98bとで凹状の段部に形成されている。第2凹面99は、第2側面99aと第2周面99bとで凹状の段部に形成されている。
第一の材料層93は、第1内周面97から第1外周面96までの高さ寸法がH2である。第一の材料層93の高さ寸法H2は、第1実施形態の第一の材料層43より大きく設定されている。
【0081】
第二の材料層94は、第1実施形態の第二の材料層44と同様に形成されている。すなわち、第二の材料層94は、被覆層92の外周面層を形成する。第二の材料層94は、第二の材料層44と同様に、外周面層52、第1側面層53および第2側面層54を有する。第二の材料層94が冷却して収縮することにより、第1側面98aおよび第2側面99aの全域を第1側面層53および第2側面層54で挟持できる。また、第1側面層53の内周面53aは第1周面98bに熱融着されている。第2側面層54の内周面54aは第2周面99bに熱融着されている。
これにより、第二の材料層94を第一の材料層93に強固に係合させることができる。
【0082】
このように、第一の材料層93は、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。また、第二の材料層94が第一の材料層93に強固に係合されている。特に、第1側面層53の内周面53aが第1周面98bに熱融着され、第2側面層54の内周面54aが第2周面99bに熱融着されることにより、第二の材料層94が第一の材料層93に一層強固に係合されている。これにより、第二の材料層94を第一の材料層93から一層脱落し難くできる。
【0083】
第3実施形態の軸受90によれば、第二の材料層94を第一の材料層93を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることができる。これにより、被覆層92が外周面24(すなわち、外輪21)から脱落することを防止できる。
また、第3実施形態の軸受90によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、外輪21の外周面24に被覆層92が形成された軸受90を大量に、かつ安価に製造することができる。
【0084】
(第4実施形態)
図7は、第4実施形態に係る軸受110の断面図である。
図7に示すように、軸受110は、第1実施形態の被覆層18を被覆層112に代えたもので、その他の構成は第1実施形態の軸受10と同様である。被覆層112は、第1実施形態の第一の材料層43、第二の材料層44を第一の材料層113、第二の材料層114に代えたものである。
【0085】
第一の材料層113は、第1外周面116、第1内周面117、第1側面118および第2側面119を有する。第1外周面116は、第一の材料層43の第1外周面46と同様で、かつ、外輪21の外周面24と同一幅に形成されている。第1内周面117は、第一の材料層43の第1内周面47と同様で、かつ、外輪21の外周面24と同一幅に形成されている。第1内周面117は、外輪21の外周面24に接触する面積が大きく確保される。よって、第一の材料層113は、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。
【0086】
第二の材料層114は、被覆層112の外周面層を形成する。第二の材料層114は、第1実施形態の第二の材料層44と同様に、外周面層122、第1側面層123および第2側面層124を有する。外周面層122は、第1実施形態の外周面層52と同様に形成され、かつ、外輪21の外周面24の両端縁(すなわち、第1端縁24a、第2端縁24b)から軸線O方向の外側に突出されている。
第1側面層123は、第一の材料層113の第1側面118に接触されている。第2側面層124は、第一の材料層113の第2側面119に接触されている。
【0087】
第二の材料層114が冷却して収縮することにより、第1側面118および第2側面119の全域を第1側面層123および第2側面層124で挟持できる。これにより、第二の材料層114を第一の材料層113に強固に係合させることができる。
このように、第一の材料層113は、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。また、第二の材料層114が第一の材料層113に強固に係合されている。
【0088】
第4実施形態の軸受110によれば、第二の材料層114を第一の材料層113を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることができる。これにより、被覆層112が外周面24(すなわち、外輪21)から脱落することを防止できる。
また、第4実施形態の軸受110によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、外輪21の外周面24に被覆層112が形成された軸受110を大量に、かつ安価に製造することができる。
【0089】
(第5実施形態)
図8は、第5実施形態に係る軸受130の断面図である。
図8に示すように、軸受130は、第4実施形態の被覆層112を被覆層132に代えたもので、その他の構成は第4実施形態の軸受110と同様である。被覆層132は、第4実施形態の第二の材料層114を第二の材料層134に代えたもので、さらに第4実施形態と同様の第一の材料層113を備える。
第一の材料層113は、第4実施形態と同様に、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。
【0090】
第二の材料層134は、被覆層132の外周面層を形成する。第二の材料層134は、第4実施形態の外周面層122と同様で、外周面層122の長さ寸法より小さく形成されている。第二の材料層134は、第1層側面136と、第2層側面137とを有する。
第1層側面136は、外輪21の外周面24の第1端縁24aと面一に形成されている。第2層側面137は、外輪21の外周面24の第2端縁24bと面一に形成されている。すなわち、第二の材料層134は、外輪21の外周面24や、第一の材料層113と同じ幅寸法W2に形成されている。
第二の材料層134は、第一の材料層113の第1外周面116に強固に熱融着により係合されている。
【0091】
このように、第一の材料層113は、射出成形後に冷却して収縮することにより外輪21の外周面24に強固に固定される。また、第二の材料層134が第一の材料層113に強固に係合されている。
これにより、第5実施形態の軸受130によれば、第二の材料層134を第一の材料層113を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることができる。
【0092】
(第6実施形態)
図9は、第6実施形態に係る軸受140の断面図である。
図9に示すように、軸受140は、第1実施形態の被覆層18を被覆層142に代えたもので、その他の構成は第1実施形態の軸受10と同様である。被覆層142は、第1実施形態の第二の材料層44を第二の材料層144に代えたもので、さらに、第1実施形態と同様の第一の材料層43を備える。
【0093】
第二の材料層144は、被覆層142の外周面層を形成する。第二の材料層144は、外周面層146、第1側面層53、および第2側面層54を有する。外周面層146は、第1実施形態の外周面層52の外周面を、湾曲状の被覆外周面147に代えたもので、その他の部位は第1実施形態の外周面層52と同様である。
被覆外周面147は、第1端部147aと、第2端部147bとを有する。被覆外周面147は、第1端部147aから第2端部147bまで外径が漸次小さくなるように湾曲状に形成されている。被覆外周面147は、外径が漸次小さくなるように直線状に形成してもよい。
【0094】
第1端部147aに金型のパーティングラインPLが位置する。すなわち、被覆外周面147は、パーティングラインPLから第2端部147bまで外径が漸次小さくなるように湾曲状に形成されている。よって、被覆層142(第一の材料層43、第二の材料層144)をインサート成形した後、金型の可動型を矢印方向に型開きすることにより、被覆外周面147にバリが発生することを抑制できる。
これにより、外輪21の外周面24に被覆層142(第一の材料層43、第二の材料層144)をインサート成形した後、被覆外周面147からバリを除去する後加工を不要にできる。
【0095】
第6実施形態の軸受140によれば、被覆外周面147の外径が漸次小さくなるように形成されている。よって、被覆外周面147で紙幣や切符などを搬送したり、被覆外周面147が接触物を転がりながら移動する際に、紙幣、切符や接触物などに対する接触面積を小さく抑えることができる。これにより、被覆外周面147で紙幣や切符などを搬送したり、被覆外周面147が接触物を転がりながら移動する際に、音(ノイズ)の低減に効果が得られる。
【0096】
また、第6実施形態の軸受140によれば、第二の材料層144を第一の材料層43を介して外輪21の外周面24に強固に係合させることができる。これにより、被覆層142が外周面24(すなわち、外輪21)から脱落することを防止できる。
また、第6実施形態の軸受140によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、外輪21の外周面24に被覆層142が形成された軸受140を大量に、かつ安価に製造することができる。
【0097】
第1実施形態~第6実施形態においては、熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体として軸受10,70,90,110,130,140に被覆層18,72,92,112,132,142を形成した例について説明したが、これに限らない。第7実施形態、第8実施形態のように、円筒部材152や平坦部材162に被覆層154,164を形成してもよい。
【0098】
(第7実施形態)
図10は、第7実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体150の断面図である。
図10に示すように、熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体150は、円筒部材152の外周面(すなわち、円形に形成された外面)153に被覆層154が形成されている。円筒部材152は、例えばステンレスなどの金属材料からなる。
被覆層154は、外周面153に形成された第一の材料層155と、第一の材料層155の第1外周面155aに形成された第二の材料層156とを備えている。
【0099】
第一の材料層155は、第1実施形態の第一の材料層43(
図1参照)と同じ非晶性プラスチックで形成されている。第二の材料層156は、被覆層154の外周面層を形成する。第二の材料層156は、第1実施形態の第二の材料層44(
図1参照)と同じ熱可塑性エラストマーで形成されている。
第7実施形態の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体150によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、第一の材料層155および第二の材料層156を円筒部材152の外周面153に強固に係合させることができる。これにより、被覆層154が円筒部材152の外周面153から脱落することを防止できる。
また、第7実施形態の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体150によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、円筒部材152の外周面153に被覆層154が形成された熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体150を大量に、かつ安価に製造することができる。
【0100】
円筒部材152は、第1実施形態の軸受10と同様に、外周面153に溝部が形成されてもよい。溝部は、外周面153の周方向に環状に形成される。また、溝部を外周面153の軸線方向に間隔をおいて複数形成することも可能である。
【0101】
第7実施形態では、円筒部材152に被覆層154として第一の材料層155および第二の材料層156を形成した例について説明したが、これに限らない。その他の例として、円柱部材に被覆層154として第一の材料層155、第二の材料層156を形成してもよい。
【0102】
(第8実施形態)
図11は、第8実施形態に係る熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体160の断面図である。
図11に示すように、熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体160は、平坦部材162の外面163に被覆層164が形成されている。平坦部材162は、例えばステンレスなどの金属材料からなる。
被覆層164は、外面163に形成された第一の材料層165と、第一の材料層165の外面163に形成された第二の材料層166とを備えている。
【0103】
平坦部材162は、例えば外面163に突起部171を有する。突起部171は、外面163に対して交差する方向に突出された脚部172と、脚部172の先端172aに形成された延長部173とを有する。突起部171は、脚部172と延長部173とでT字状に形成されている。すなわち、平坦部材162の外面163は、凹凸を有する平坦な外面である。
突起部171は、平坦部材162の外面163に形成された第一の材料層165で覆われる。第一の材料層165は、第1実施形態の第一の材料層43(
図1参照)と同じ非晶性プラスチックで形成されている。第一の材料層165は、突起部171に係止されることにより、平坦部材162の外面163に強固に係止されている。
【0104】
第一の材料層165の外面165aに第二の材料層166が形成されている。第二の材料層166は、被覆層164の外周面層を形成する。第二の材料層166は、第1実施形態の第二の材料層44(
図1参照)と同じ熱可塑性エラストマーで形成されている。
第二の材料層166は、外周面層175、第1側面層176および第2側面層177を有する。第二の材料層166の第1側面層176および第2側面層177で第一の材料層165の両側面(第1側面165b、第2側面165c)が挟み込まれている。よって、第二の材料層166が冷却して収縮することにより、第一の材料層165の第1側面165bおよび第2側面165cを第二の材料層166(第1側面層176、第2側面層177)で挟持できる。これにより、第二の材料層166を第一の材料層165に強固に係合させることができる。
【0105】
第8実施形態の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体160によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、第一の材料層165および第二の材料層166を平坦部材162の外面163に強固に係合させることができる。これにより、被覆層164が平坦部材162の外面163から脱落することを防止できる。
また、第8実施形態の熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体160によれば、第1実施形態の軸受10と同様に、平坦部材162の外面163に被覆層164が形成された熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体160を大量に、かつ安価に製造することができる。
【0106】
ここで、前記第1実施形態~前記第6実施形態の変形例について説明する。すなわち、前記第1実施形態~前記第6実施形態では、軸受10,70,90,110,130,140の外輪21を金属材料で形成した例について説明したが、これに限らない。前記第1実施形態~前記第6実施形態の変形例の軸受として、例えば、軸受10,70,90,110,130,140の外輪21を硬質プラスチック(非晶性プラスチック)で形成してもよい。
外輪21を非晶性プラスチックで形成することにより、非晶性プラスチック製の外輪21に第二の材料層(外周面層)44,74,94,114,134,144,156,166を直接形成できる。これにより、第一の材料層43,73,93,113,155,165を除去でき、構成の簡素化が図れる。
また、外輪21と、第一の材料層43,73,93,113,155,165とを硬質プラスチック(非晶性プラスチック)で一体に形成してもよい。これにより、第1実施形態~前記第6実施形態と同様の効果が得られる。
【0107】
また、前記第7実施形態~前記第8実施形態の変形例について説明する。すなわち、前記第7実施形態~前記第8実施形態では、円筒部材152、平坦部材162を金属材料で形成した例について説明したが、これに限らない。前記第7実施形態~前記第8実施形態の変形例として、例えば、円筒部材152、平坦部材162を硬質プラスチック(非晶性プラスチック)で形成してもよい。
円筒部材152、平坦部材162を非晶性プラスチックで形成することにより、非晶性プラスチック製の円筒部材152、平坦部材162に第二の材料層156,166を直接形成できる。これにより、第一の材料層155,165を除去でき、構成の簡素化が図れる。
また、円筒部材152や平坦部材162と、第一の材料層155,165とを硬質プラスチック(非晶性プラスチック)で一体に形成してもよい。これにより、第7実施形態~前記第86実施形態と同様の効果が得られる。
【0108】
(変形例)
図12は、本発明の変形例に係る軸受の断面図である。
図12に示すように、ゲート径D1が大きいゲートG2から充填する熱可塑性エラストマーで軸受10の第二の材料層44を成形することも可能である。
ゲートG2は、第二の材料層44の肉厚寸法T3よりゲート径D1が大きく開口されている。さらに、ゲートG2は、第一の材料層43と第二の材料層44との両方に軸線方向で重なるように配置されている。
ゲートG2から金型の内部(キャビティ)に熱可塑性エラストマーが充填されることにより、第一の材料層43および外周面24の第1側部24cおよび第2側部24dに第二の材料層44がインサート成形される。
【0109】
ゲートG2のゲート径D1が大きく形成され、ゲートG2が、第一の材料層43と第二の材料層44との両方に重なるように配置されることにより、第二の材料層44の肉厚寸法T3を小さくした場合でも、第二の材料層44を良好に成形できる。
さらに、第一の材料層43(具体的には、第1側面層53)の外側面53bに大きな圧力で熱可塑性エラストマーを充填することができる。これにより、第一の材料層43と第二の材料層44との両層の密着力を高めることができる。
【0110】
変形例においては、ゲート径D1が大きいゲートG2で軸受10の第二の材料層44を成形する例について説明したが、これに限らない。その他の例として、ゲート径D1が大きいゲートG2で、例えば、軸受70,90,110,140の第二の材料層74,94,114,144を成形してもよい。
【0111】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
前記第1実施形態~第7実施形態では、軸受10,70,90,110,130,140の被覆層18,72,92,112,132,142,154,164を回転摺動とする用途について説明したが、これに限らない。その他の例として、他の部材と軸受10,70,90,110,130,140とを固定する部材(Oリング代替)や、電食を防止するための絶縁部材としても適用可能である。
【0112】
また、前記第1実施形態~前記第7実施形態では、外輪21の外周面24に被覆層18,72,92,112,132,142,154,164を設けた例について説明したが、これに限らない。その他の例として、内輪22の内周面に被覆層を設けてもよい。
【0113】
さらに、前記第1実施形態~前記第6実施形態では、軸受10,70,90,110,130,140の外輪21に第一の材料層および第二の材料層を形成した例について説明したが、これに限らない。その他の例として、例えば、外輪21に第一の材料層、第二の材料層、および第三の材料層を順次形成してもよい。加えて、第二の材料層を、第一の材料層よりも軟らかい材料とする。また、第三の材料層を、第二の材料層よりも硬い材料とする。
これにより、軸受を駆動する際の音(ノイズ)の低減を図り、さらに、軸受の耐摩耗性、耐久性に優れた軸受が実現できる。
【0114】
また、前記第1実施形態~前記第7実施形態では、被覆層18,72,92,112,132,142の幅寸法を輪体12の幅寸法と同一に設定した例について説明したが、これに限らない。その他の例として、例えば、被覆層18,72,92,112,132,142の幅寸法を輪体12より小さく設定してもよい。以下、被覆層18,72,92,112,132,142を「被覆層18…」と略記する。
被覆層18…の幅寸法を小さくすることにより、被覆層18…を成形する材料の使用量を削減でき、被覆層18…の第二の材料層(すなわち、外周面層)の接触面積を減らすことにより音(ノイズ)の低減を図ることができる。
【0115】
また、前記第1実施形態~前記第7実施形態において、第一の材料層43,73,93,113,155,165の第1外周面46,76,96,116,155a,165aに溝部またはしぼ部を形成してもよい。溝部は、例えば、軸受の軸方向に延びるように形成されている。第1外周面46,76,96,116,155a,165aに溝部やしぼ部を形成することにより、第一の材料層の第1外周面への第二の材料層の接合強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0116】
10,70,90,110,130,140…軸受(熱可塑性エラストマー被覆層付き構造体)
18,72,92,112,132,142,154,164…被覆層
21………外輪
24,153…外周面(円形に形成された外面)
28………溝部
43,73,93,113,155,165…第一の材料層
44,74,94,114,134,144,156,166…第二の材料層(外周面層)
46,76,96,116,155a…第1外周面(第一の材料層の外面)
52,82,122,146,175…外周面層
53,54,83,84,123,124,176,177…第1、第2の側面層(一対の側面層)
163……外面
165a…第一の材料層の外面(第一の材料層の外面)
171……突起部