(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/097 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
C03C3/097
(21)【出願番号】P 2017561595
(86)(22)【出願日】2017-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2017000163
(87)【国際公開番号】W WO2017122576
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2016003222
(32)【優先日】2016-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016187716
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
(72)【発明者】
【氏名】林 昌宏
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】原 和秀
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-126239(JP,A)
【文献】国際公開第2014/182753(WO,A1)
【文献】特開昭57-191251(JP,A)
【文献】特開2015-178440(JP,A)
【文献】特開2012-236759(JP,A)
【文献】特表2009-504563(JP,A)
【文献】特開平11-71134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C3/097
H01L21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO
2 60~80%、Al
2O
3 12~25%、B
2O
3 0~3%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~
18%、MgO 3~10%、P
2O
5 0.1~6%及びSnO
2 0.01~1%を含有し、且つ歪点が740℃以上であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
B
2O
3の含有量が1モル%未満であることを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が0.2モル%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al
2O
3が0.5~3であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラス。
【請求項5】
歪点が760℃以上であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラス。
【請求項6】
(高温粘度10
2.5dPa・sにおける温度-歪点)が980℃以下であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のガラス。
【請求項7】
BaOの含有量が0.1~
3.4モル%であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のガラス。
【請求項8】
平板形状であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のガラス。
【請求項9】
半導体結晶を作製するための基板に用いることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性のガラスに関し、例えばLED用半導体結晶を高温で作製するためのガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
LED等に用いられる半導体結晶は、高温で成膜する程、半導体特性が向上することが知られている。
【0003】
この用途では、一般的に、高耐熱性のサファイア基板が用いられている。その他の用途でも、半導体結晶を高温(例えば700℃以上)で成膜する場合、サファイア基板が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、大面積の半導体結晶を成膜する技術が活発に検討されている。この技術は、大型ディスプレイの面発光光源としても有望であると考えられている。
【0006】
しかし、サファイア基板は、大面積化が難しく、上記用途には不向きである。
【0007】
サファイアに代わって、ガラスを用いると、基板を大面積化し得ると考えられるが、従来のガラス基板は、耐熱性が不十分であるため、高温の熱処理で熱変形が生じ易い。
【0008】
また耐熱性が高いガラスは、耐失透性が十分ではなく、平板形状のガラス基板に成形し難い。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、700℃以上の高温で熱処理しても熱変形が生じない高い耐熱性を有し、しかも700℃以上の高温で熱処理しても熱変形が生じない高い耐熱性を有し、平板形状に成形時に耐失透性があるガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス組成とガラス特性を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~80%、Al2O3 12~25%、B2O3 0~3%、Li2O+Na2O+K2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~25%、P2O5 0.1~10%を含有し、且つ歪点が730℃より高いことを特徴とする。ここで、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
【0011】
本発明のガラスは、ガラス組成中にAl2O3を12モル%以上、B2O3の含有量を3モル%以下、且つLi2O+Na2O+K2Oの含有量を3モル%以下に規制している。このようにすれば、歪点が顕著に上昇して、ガラス基板の耐熱性を大幅に高めることができる。
【0012】
また本発明のガラスは、ガラス組成中にMgO+CaO+SrO+BaOを5~25モル%、且つP2O5を0.1~10モル%含む。このようにすれば、耐熱性を維持した上で、耐失透性を高めることができる。
【0013】
第二に、本発明のガラスは、B2O3の含有量が1モル%未満であることが好ましい。
【0014】
第三に、本発明のガラスは、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が0.2モル%以下であることが好ましい。
【0015】
第四に、本発明のガラスは、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3が0.5~3であることが好ましい。ここで、「(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量をAl2O3の含有量で割った値を指す。
【0016】
第五に、本発明のガラスは、歪点が760℃以上であることが好ましい。
【0017】
第六に、本発明のガラスは、(高温粘度102.5dPa・sにおける温度-歪点)が980℃以下であることが好ましい。ここで、「高温粘度102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0018】
第七に、本発明のガラスは、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1750℃以下であることが好ましい。
【0019】
第八に、本発明のガラスは、平板形状であることが好ましい。
【0020】
第九に、本発明のガラスは、半導体結晶を作製するための基板に用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~80%、Al2O3 12~25%、B2O3 0~3%、Li2O+Na2O+K2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~25%、P2O5 0.1~10%を含有し、且つ歪点が730℃より高いことを特徴とする。上記のように、各成分の含有量を規制した理由を以下に説明する。なお、各成分の説明において、下記の%表示は、モル%を指す。
【0022】
SiO2の好適な下限範囲は60%以上、63%以上、65%以上、67%以上、特に68%以上であり、好適な上限範囲は好ましくは80%以下、75%以下、73%以下、特に71%以下である。SiO2の含有量が少な過ぎると、Al2O3を含む失透結晶が生じ易くなると共に、歪点が低下し易くなる。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなって、溶融性が低下し易くなり、更にはSiO2を含む失透結晶が生じ易くなる。
【0023】
Al2O3の好適な下限範囲は12%以上、13%以上、特に14%以上であり、好適な上限範囲は25%以下、20%以下、18%以下、特に17%以下である。Al2O3の含有量が少な過ぎると、歪点が低下し易くなる。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、Al2O3を含む失透結晶が生じ易くなる。
【0024】
B2O3の好適な上限範囲は3%以下、1%以下、1%未満、0.5%以下、特に0.1%以下である。B2O3の含有量が多過ぎると、歪点が大幅に低下する虞がある。
【0025】
Li2O+Na2O+K2Oの好適な上限範囲は3%以下、1%以下、1%未満、0.5%以下、特に0.2%以下である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、アルカリイオンが半導体物質に拡散して、半導体特性が低下し易くなる。なお、Li2O、Na2O及びK2Oの好適な上限範囲は、それぞれ3%以下、1%以下、1%未満、0.5%以下、0.3%以下、特に0.2%以下である。なお、Li2O、Na2O及びK2Oは、原料不純物として不可避的に混入する成分であり、原料コストを考慮すると、Li2O+Na2O+K2Oの含有量を0.01%以上、特に0.02%以上に規制することが好ましい。
【0026】
MgO+CaO+SrO+BaOの好適な下限範囲は5%以上、7%以上、8%以上、10%以上、12%以上、特に14%以上であり、好適な上限範囲は25%以下、20%以下、18%以下、特に17%以下である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、液相温度が大幅に上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。
【0027】
歪点の上昇と溶融性の低下を両立させる場合、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3の好適な下限範囲は0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、特に0.9以上であり、好適な上限範囲は3以下、2以下、1.5以下、1.2以下、1.1以下である。
【0028】
MgOの好適な下限範囲は0%以上、1%以上、2%以上、特に3%以上であり、好適な上限範囲は10%以下、9%以下、8%以下、特に7%以下である。MgOの含有量が少な過ぎると、溶融性やヤング率が低下し易くなる。一方、MgOの含有量が多過ぎると、Al2O3を含む失透結晶(特にムライト)の生成を助長して、液相粘度を低下させてしまう。更に歪点が低下し易くなる。なお、MgOは、熱膨張係数を上昇させて、成膜される材料と熱膨張係数を整合させる効果を有するものの、アルカリ土類酸化物の中ではその効果は最も小さい。
【0029】
CaOの好適な下限範囲は0%以上、3%以上、5%以上、7%以上、特に9%以上であり、好適な上限範囲は25%以下、20%以下、特に15%以下である。CaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。一方、CaOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなる。
【0030】
CaOは、他のアルカリ土類酸化物と比較して、歪点を低下させずに液相粘度を改善する効果や溶融性を高める効果が大きく、またMgOよりも熱膨張係数を上昇させる効果が大きい。よって、アルカリ土類酸化物の内、CaOを優先的に導入することが好ましく、モル比CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)の好適な下限範囲は0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、特に0.9以上である。なお、「CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)」は、CaOの含有量をMgO、CaO、SrO及びBaOの合量で割った値を指す。
【0031】
SrOの好適な下限範囲は0%以上、2%以上、4%以上、特に6%以上であり、好適な上限範囲は15%以下、12%以下、特に10%以下である。SrOの含有量が少な過ぎると、歪点が低下し易くなる。一方、SrOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなる。また溶融性が低下し易くなる。なお、SrOは、MgOやCaOよりも熱膨張係数を上昇させる効果が大きい。
【0032】
BaOの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、1%以上、3%以上、5%以上、特に7%以上であり、好適な上限範囲は20%以下、17%以下、14%以下、12%以下、特に10%以下である。BaOの含有量が少な過ぎると、歪点や熱膨張係数が低下し易くなる。一方、BaOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ガラス中に失透結晶が生じ易くなる。また溶融性が低下し易くなる。なお、BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では熱膨張係数や歪点を上昇させる効果が最も大きい。
【0033】
P2O5の好適な下限範囲は0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上であり、好適な上限範囲は10%以下、8%以下、特に6%以下である。P2O5は、アルカリ土類元素を含む失透結晶の析出抑制に効果があり、更にアルカリ土類金属酸化物に比べて歪点の低下抑制に効果がある。一方、P2O5を過剰に導入すると、ガラスが分相し易くなり、またアルカリ土類元素を含まない失透結晶が析出し易くなる。
【0034】
歪点を高めるために、P2O5の含有量は、B2O3の含有量よりも多いことが好ましく、B2O3の含有量よりも1%以上多いことがより好ましく、B2O3の含有量よりも3%以上多いことが更に好ましい。
【0035】
モル比(Li2O+Na2O+K2O)/P2O5は、溶融ガラスの電気抵抗率の低下と歪点の上昇とを両立するために、好ましくは0.001~0.05、特に0.01~0.03である。なお、「(Li2O+Na2O+K2O)/P2O5」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量をP2O5の含有量で割った値を指す。
【0036】
耐失透性を高めるために、P2O5の含有量は、MgOの含有量よりも多いことが好ましく、MgOの含有量よりも1%以上多いことがより好ましく、MgOの含有量よりも3%以上多いことが更に好ましい。
【0037】
耐失透性を高めるために、P2O5の含有量は、SrOの含有量よりも多いことが好ましく、SrOの含有量よりも1%以上多いことがより好ましく、SrOの含有量よりも3%以上多いことが更に好ましい。
【0038】
上記成分以外にも、以下の成分をガラス組成中に導入してもよい。
【0039】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。よって、ZnOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、0~0.3%、特に0~0.1%である。
【0040】
ZrO2は、ヤング率を高める成分である。ZrO2の含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、0~0.2%、特に0~0.02%である。ZrO2の含有量が多過ぎると、液相温度が上昇して、ジルコンの失透結晶が析出し易くなる。
【0041】
TiO2は、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラスが着色し易くなる。よって、TiO2の含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~1%、0~0.1%、特に0~0.02%である。
【0042】
SnO2は、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、高温粘性を低下させる成分である。SnO2の含有量は、好ましくは0~1%、0.01~0.5%、0.01~0.3%、特に0.04~0.1%である。SnO2の含有量が多過ぎると、SnO2の失透結晶が析出し易くなる。
【0043】
ガラス特性を損なわない限り、清澄剤として、CeO2、SO3、C、金属粉末(例えばAl、Si等)を1%まで添加してもよい。
【0044】
As2O3、Sb2O3、F、Clも清澄剤として有効に作用し、本発明のガラスは、これらの成分の含有を排除するものではないが、環境的観点から、これらの成分の含有量はそれぞれ0.1%未満、特に0.05%未満が好ましい。
【0045】
SnO2を0.01~0.5%含む場合、Rh2O3の含有量が多過ぎると、ガラスが着色し易くなる。なお、Rh2O3は、白金の製造容器から混入する可能性がある。Rh2O3の含有量は、好ましくは0~0.0005%、特に0.00001~0.0001%である。
【0046】
SO3は、不純物として、原料から混入する成分であるが、SO3の含有量が多過ぎると、溶融や成形時に、リボイルと呼ばれる泡を発生させて、ガラス中に欠陥を生じさせる虞がある。SO3の好適な下限範囲は0.0001%以上であり、好適な上限範囲は0.005%以下、0.003%以下、0.002%以下、特に0.001%以下である。
【0047】
希土類酸化物の含有量は、好ましくは2%未満、1%以下、0.5%以下、特に0.1%未満である。希土類酸化物の含有量が多過ぎると、バッチコストが増加し易くなる。
【0048】
鉄は、不純物として、原料から混入する成分であるが、鉄の含有量が多過ぎると、透過率、特に紫外線透過率が低下する虞がある。よって、鉄の好適な下限範囲は、Fe2O3に換算して、0.001%以上であり、好適な上限範囲は、Fe2O3に換算して、0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、0.01%以下、特に0.01%未満である。
【0049】
本発明のガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0050】
歪点は、好ましくは730℃超、740℃以上、750℃以上、760℃以上、770℃以上、780℃以上、790℃以上、特に800℃以上である。歪点が低い程、耐熱性が低下し易くなる。
【0051】
30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は、成膜される材料の熱膨張係数に近いことが好ましい。具体的には、窒化ガリウム系の半導体結晶を成膜する場合であれば40×10-7/℃以上、42×10-7/℃、特に44×10-7/℃以上が好ましい。またa-Si、p-Si等を成膜する場合は、熱膨張係数が30×10-7以上40×10-7/℃未満であることが望ましい。なお、「30~380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した平均値を指す。
【0052】
半導体素子をガラス基板上に形成し、電子デバイスに用いる場合、電子デバイスの軽量化は重要であり、ガラスにも軽量化が求められる。この要求を満たすためには、低密度化によるガラス基板の軽量化が望ましい。密度は、好ましくは3.20g/cm3以下、3.00g/cm3以下、2.90g/cm3以下、特に2.80g/cm3以下である。
【0053】
高歪点のガラスは、一般的に溶融し難いため、溶融性の向上が課題になる。溶融性を高めると、泡、異物等による不良率が軽減されるため、高品質のガラス基板を大量、且つ安価に供給することができる。よって、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1750℃以下、1720℃以下、1700℃以下、1680℃以下、特に1670℃以下である。なお、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当しており、この温度が低い程、溶融性に優れている。
【0054】
ダウンドロー法等で平板形状に成形する場合、耐失透性が重要になる。本発明に係るガラス系の成形温度を考慮すると、液相温度は、好ましくは1350℃下、1300℃以下、1260℃以下、特に1230℃以下である。また、液相粘度は、好ましくは103.6dPa・s以上、104.0dPa・s以上、104.5dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上である。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を指す。「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0055】
本発明のガラスは、ガラス内部に成形合流面を有すること、つまりオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法とは、楔形の耐火物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを楔形の下端で合流させながら、下方に延伸成形して平板形状に成形する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス基板の表面となるべき面は耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を安価に製造することができ、大面積化や薄肉化も容易である。
【0056】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、例えば、スロットダウン法、リドロー法、フロート法、ロールアウト法でガラス基板を成形することも可能である。
【0057】
本発明のガラスにおいて、肉厚(平板形状の場合、板厚)は、特に限定されないが、好ましくは1.0mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.4mm以下である。板厚が小さい程、デバイスを軽量化し易くなる。なお、肉厚は、ガラス製造時の流量や板引き速度等で調整可能である。
【0058】
本発明のガラスにおいて、β-OH値を低下させると、歪点を高めることができる。β-OH値は、好ましくは0.40/mm以下、0.35/mm以下、0.30/mm以下、0.25/mm以下、0.20/mm以下、特に0.15/mm以下である。β-OH値が大き過ぎると、歪点が低下し易くなる。なお、β-OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.05/mm以上である。
【0059】
β-OH値を低下させる方法として、以下の方法が挙げられる。(1)含水量の低い原料を選択する。(2)ガラス中の水分量を減少させる成分(Cl、SO3等)を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でN2バブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を速くする。(7)電気溶融法を採用する。
【0060】
ここで、「β-OH値」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた値を指す。
β-OH値 = (1/X)log(T1/T2)
X:ガラス肉厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【0061】
本発明のガラスを工業的規模で製造する方法としては、ガラス組成として、モル%で、モル%で、SiO2 60~80%、Al2O3 12~25%、B2O3 0~3%、Li2O+Na2O+K2O 0~3%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~25%、P2O5 0.1~10%を含有し、β-OH基が0.40/mm以下であり、且つ歪点が730℃より高いガラス基板の製造方法であって、調合されたガラスバッチを溶融炉に供給し、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1~0.7mmの平板形状のガラスに成形する成形工程と、を有することが好ましい。
【0062】
ガラス基板の製造工程は、一般的に、溶融工程、清澄工程、供給工程、攪拌工程、成形工程を含む。溶融工程は、ガラス原料を調合したガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程である。清澄工程は、溶融工程で得られた溶融ガラスを清澄剤等の働きによって清澄する工程である。供給工程は、各工程間に溶融ガラスを移送する工程である。攪拌工程は、溶融ガラスを攪拌し、均質化する工程である。成形工程は、溶融ガラスを平板形状のガラスに成形する工程である。なお、必要に応じて、上記以外の工程、例えば溶融ガラスを成形に適した状態に調節する状態調節工程を攪拌工程後に取り入れてもよい。
【0063】
従来の無アルカリガラス及び低アルカリガラスを工業的規模で製造する場合、一般的に、バーナーの燃焼炎による加熱により溶融されていた。バーナーは、通常、溶融窯の上方に配置されており、燃料として化石燃料、具体的には重油等の液体燃料やLPG等の気体燃料等が使用されている。燃焼炎は、化石燃料と酸素ガスと混合することにより得ることができる。しかし、この方法では、溶融時に溶融ガラス中に多くの水分が混入するため、β-OH値が上昇し易くなる。よって、本発明のガラス基板を製造するに当たり、加熱電極による通電加熱を行うことが好ましく、バーナーの燃焼炎による加熱を行わずに、加熱電極による通電加熱のみで溶融することが更に好ましい。これにより、溶融時に溶融ガラス中に水分が混入し難くなるため、β-OH値を0.40/mm以下、0.30/mm以下、0.20/mm以下、特に0.15/mm以下に規制し易くなる。更に、加熱電極による通電加熱を行うと、溶融ガラスを得るための質量当たりのエネルギー量が低下すると共に、溶融揮発物が少なくなるため、環境負荷を低減することができる。
【0064】
加熱電極による通電加熱は、溶融窯内の溶融ガラスに接触するように、溶融窯の底部又は側部に設けられた加熱電極に交流電圧を印加することにより行うことが好ましい。加熱電極に使用する材料は、耐熱性と溶融ガラスに対する耐食性を備えるものが好ましく、例えば、酸化錫、モリブデン、白金、ロジウム等が使用可能である。
【0065】
無アルカリガラス及び低アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物が少ないため、電気抵抗率が高い。よって、加熱電極による通電加熱をこれらのガラスに適用する場合、溶融ガラスだけでなく、溶融窯を構成する耐火物にも電流が流れて、溶融窯を構成する耐火物が早期に損傷する虞がある。これを防ぐため、炉内耐火物として、電気抵抗率が高いジルコニア系耐火物、特にジルコニア電鋳レンガを使用することが好ましく、また溶融ガラス(ガラス組成)中に電気抵抗率を低下させる成分(Li2O、Na2O、K2O、Fe2O3等)を少量導入することが好ましく、特にLi2O、Na2O及びK2Oを合量で0.01~1モル%、0.02~0.5モル%、0.03~0.4モル%、0.05~0.3モル%、特に0.07~0.2モル%導入することが好ましい。更に、ジルコニア系耐火物中のZrO2の含有量は、好ましくは85質量%以上、特に90質量%以上である。なお、Li2O、Na2O及びK2Oの導入量が合量で0.2質量%以下であれば、アルカリイオンの拡散による半導体物質の汚染を引き起こす虞はない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示
である。本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0067】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~22)を示している。
【0068】
【0069】
次のように、各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、1600~1750℃で24時間溶融した。ガラスバッチの溶解に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、平板形状に成形した。得られた各試料について、密度ρ、熱膨張係数α、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、高温粘度104.0dPa・sにおける温度、高温粘度103.0dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度、液相温度TL、液相粘度logηTL及びβ-OH値を評価した。
【0070】
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0071】
熱膨張係数αは、30~380℃の温度範囲において、ディラトメーターで測定した平均値である。
【0072】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336又はASTM C338に準拠して測定した値である。
【0073】
高温粘度104.0dPa・sにおける温度、高温粘度103.0dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0074】
液相温度TLは、各試料を粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、白金ボートを取り出し、ガラス中に失透(失透結晶)が認められた温度である。液相粘度logηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0075】
β-OH値は、上記式により算出した値である。
【0076】
表1から明らかなように、試料No.1~22は、耐熱性が高く、しかも平板形状に成形可能な耐失透性を備えている。よって、試料No.1~22は、LED用半導体結晶を高温で作製するためのガラス基板として好適であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のガラスは、耐熱性が高く、しかも平板形状に成形可能な耐失透性を備えている。よって、本発明のガラスは、LED用半導体結晶を高温で作製するためのガラス基板として好適である。更に、本発明のガラスは、上記用途以外にも、液晶ディスプレイ等のディスプレイ用基板にも好適であり、特にLTPS、酸化物TFTで駆動するディスプレイ用基板として好適である。