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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】床振動評価方法及び床振動評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20221221BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20221221BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G01M7/02 Z
G01N29/04
G01N29/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018117982
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019219323
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将平
(72)【発明者】
【氏名】住永 光
(72)【発明者】
【氏名】山下 仁崇
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050924(JP,A)
【文献】特開昭58-127131(JP,A)
【文献】特開2011-017167(JP,A)
【文献】特開平08-159929(JP,A)
【文献】特開2003-287460(JP,A)
【文献】特開2002-071448(JP,A)
【文献】平野 滋 他,集合住宅における床衝撃音レベルの予測ー床のインピーダンスの推定ー,大林組技術研究所報,35号,日本,1987年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 5/00- 7/08
G01N 29/00- 29/52
G01H 1/00- 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床に設定された複数の測定点のうち、いずれか1点を加振点、前記加振点以外の点を受振点と、それぞれ設定し、前記加振点に振動を加えると共に、前記受振点で振動を測定する振動測定を、全ての前記測定点を順に加振点として行う振動測定工程と、
前記振動測定工程において測定された振動を平均化する平均化工程と、
前記平均化工程において平均化して得られた値を、所定の評価基準に基づいて評価する評価工程と、
を具備し、
前記平均化工程は、
選択された1つの前記加振点について複数回振動を加えた際に、前記受振点で複数回測定された振動について、前記受振点ごとにエネルギー平均を算出する第一平均化工程と、
前記第一平均化工程において算出された前記受振点ごとのエネルギー平均の算術平均を算出する第二平均化工程と、
を含む、
床振動評価方法。
【請求項2】
前記測定点は、
前記床に略均等に分布するように設定されている、
請求項1に記載の床振動評価方法。
【請求項3】
前記測定点は、
矩形状に形成された前記床の対角線上に少なくとも2つ以上設定されている、
請求項1又は請求項2に記載の床振動評価方法。
【請求項4】
前記測定点は、
矩形状に形成された前記床の各辺を等分するように形成されたグリッドの交点上に設定されている、
請求項1又は請求項2に記載の床振動評価方法。
【請求項5】
前記振動測定は、
選択された1つの前記加振点について複数回振動を加え、前記受振点で複数回振動を測定することで行われる、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の床振動評価方法。
【請求項6】
床に設定された複数の測定点で振動を測定可能な振動測定部と、
前記振動測定部により測定された振動を平均化する平均化処理部と、
前記平均化処理部により平均化して得られた値を、所定の評価基準に基づいて評価する評価処理部と、
を具備し、
前記平均化処理部は、
前記複数の測定点のうち選択された1つの点である加振点について複数回振動を加えた際に、前記複数の測定点のうち前記加振点以外の点である受振点で複数回測定された振動について、前記受振点ごとにエネルギー平均を算出し、
算出された前記受振点ごとのエネルギー平均の算術平均を算出する、
床振動評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の床の振動を評価する床振動評価方法及び床振動評価システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の床の振動を評価する床振動評価方法の技術は公知となっている。例えば、非特許文献1に記載の如くである。
【0003】
非特許文献1には、振動の加速度及び振動数の大きさと、被験者による当該振動の知覚の有無との対応関係が表された指標が記載されている。当該指標は、実験用の建物においいて、振動の加速度及び振動数の大きさを変えながら振動を発生させ、被験者が当該振動を知覚したかどうかの結果を統計処理することにより作成されている。
【0004】
ここで、非特許文献1に記載の技術は、受振点と加振点が1対1に対応した関係であり、床のある1点(加振点)が加振された場合の他の1点(受振点)における振動を評価するものとなっている。また、加振点から受振点までの振動伝搬特性等までは考慮されていないため、受振点及び加振点の位置によって評価結果が異なる可能性が高い。
【0005】
具体例を挙げて説明すると、非特許文献1に記載の技術では、例えば1対1で設定された受振点と加振点の間に構造材(梁等)が設けられているか否かによって、評価結果が大きく異なる可能性がある。このため、非特許文献1に記載の技術は、コンクリートスラブのような構造的に一体性を保持している床スラブしか評価対象とすることができず、軽量な床構造は評価対象とすることができない。したがって、床の部分的な構造(梁の有無等)の影響を受けることなく、床全体としての評価を行うことが可能な技術が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説(日本建築学会2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、床全体としての振動の評価を行うことが可能な床振動評価方法及び床振動評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、床に設定された複数の測定点のうち、いずれか1点を加振点、前記加振点以外の点を受振点と、それぞれ設定し、前記加振点に振動を加えると共に、前記受振点で振動を測定する振動測定を、全ての前記測定点を順に加振点として行う振動測定工程と、前記振動測定工程において測定された振動を平均化する平均化工程と、前記平均化工程において平均化して得られた値を、所定の評価基準に基づいて評価する評価工程と、を具備し、前記平均化工程は、選択された1つの前記加振点について複数回振動を加えた際に、前記受振点で複数回測定された振動について、前記受振点ごとにエネルギー平均を算出する第一平均化工程と、前記第一平均化工程において算出された前記受振点ごとのエネルギー平均の算術平均を算出する第二平均化工程と、を含むものである。
【0010】
請求項2においては、前記測定点は、前記床に略均等に分布するように設定されているものである。
【0011】
請求項3においては、前記測定点は、矩形状に形成された前記床の対角線上に少なくとも2つ以上設定されているものである。
【0012】
請求項4においては、前記測定点は、矩形状に形成された前記床の各辺を等分するように形成されたグリッドの交点上に設定されているものである。
【0013】
請求項5においては、前記振動測定は、選択された1つの前記加振点について複数回振動を加え、前記受振点で複数回振動を測定することで行われるものである。
【0015】
請求項6においては、床に設定された複数の測定点で振動を測定可能な振動測定部と、前記振動測定部により測定された振動を平均化する平均化処理部と、前記平均化処理部により平均化して得られた値を、所定の評価基準に基づいて評価する評価処理部と、を具備し、前記平均化処理部は、前記複数の測定点のうち選択された1つの点である加振点について複数回振動を加えた際に、前記複数の測定点のうち前記加振点以外の点である受振点で複数回測定された振動について、前記受振点ごとにエネルギー平均を算出し、算出された前記受振点ごとのエネルギー平均の算術平均を算出するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
請求項1においては、床全体としての振動の評価を行うことができる。
【0018】
請求項2においては、床全体としての振動をより適切に評価することができる。
【0019】
請求項3においては、床全体としての振動をより適切に評価することができる。
【0020】
請求項4においては、床全体としての振動をより適切に評価することができる。
【0021】
請求項5においては、測定結果のばらつきを考慮した妥当な評価が可能となる。
【0023】
請求項においては、床全体としての振動の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る床振動評価システムの構成を示したブロック図。
図2】測定点が設定された床の一例を示した平面図。
図3】床振動評価方法の工程を示した図。
図4】(a)加振点と受振点が設定された床の一例を示した平面図。(b)加振点と受振点が変更された床の一例を示した平面図。
図5】評価曲線及び評価対象値の一例を示した図。
図6】周波数荷重及び評価曲線の補正値の一例を示した図。
図7】(a)9つの測定点が設定された床を示した平面図。(b)多数の測定点が設定された床を示した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、図1を用いて、本発明の一実施形態に係る床振動評価システム1について説明する。
【0026】
床振動評価システム1は、建物の床の振動を評価するものである。床振動評価システム1は、主として制御部2、入力部3、出力部4及び振動センサ5を具備する。
【0027】
制御部2は、建物の床の振動の評価に関する各種の処理を行うためのものである。制御部2は、RAM、ROM、HDD等の記憶部や、CPU等の演算処理部等を具備する。制御部2は、所定の演算処理や記憶処理等を行うことができる。制御部2には、床の振動を評価する際に用いられる種々の情報やプログラム等が予め記憶される。
【0028】
入力部3は、制御部2に各種の情報を入力するためのものである。入力部3としては、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等を用いることが可能である。入力部3は制御部2に接続され、当該制御部2に各種の情報を入力することができる。
【0029】
出力部4は、制御部2から受信した各種の情報を出力するためのものである。出力部4としては、例えば液晶モニター、プリンタ、タッチパネル等を用いることが可能である。出力部4は制御部2に接続され、当該制御部2から受信した各種の情報を出力(表示、印刷等)することができる。
【0030】
振動センサ5は、振動を測定するためのものである。振動センサ5としては、例えば振動加速度レベル(dB)を測定可能な加速度ピックアップ(加速度計)を用いることができる。なお、後述するように、本実施形態において振動センサ5は複数用いられるが、図1においては便宜上1つの振動センサ5のみを図示している。振動センサ5は制御部2に接続され、当該制御部2に測定結果(振動加速度レベル)を入力することができる。
【0031】
次に、上述の如く構成された床振動評価システム1を用いて建物の床の振動を評価する方法(床振動評価方法)について説明する。
【0032】
まず、評価の対象となる床10について説明する。
【0033】
以下では一例として、図2に示すように、平面視矩形状に形成された床10の振動を評価する場合を想定する。なお、床10の構造は特に限定するものではなく、ALC、PC板、1枚又は複数枚の面材、防振材(防振ゴム等)等を任意に組み合わせた構造とすることができる。
【0034】
床10には、振動を加える、又は振動を測定するための位置である測定点が設定される。本実施形態においては、図2に示すように、床10上の5点を測定点P1~P5として設定している。
【0035】
具体的には、測定点P3は、床10の2本の対角線(対角線L1及び対角線L2)の交点上に位置するように設定される。これによって、測定点P3は、矩形状の床10の中心に位置することになる。
【0036】
また、測定点P1及び測定点P5は、床10の2本の対角線のうち、一方の対角線L1上に位置するように設定される。また測定点P1と測定点P5は、測定点P3を挟んで相反する位置に設定される。また測定点P1、測定点P3及び測定点P5は、対角線L1を等分するように、当該対角線L1上に等間隔に設定される。
【0037】
また、測定点P2及び測定点P4は、床10の2本の対角線のうち、もう一方の対角線L2上に位置するように設定される。また測定点P2と測定点P4は、測定点P3を挟んで相反する位置に設定される。また測定点P2、測定点P3及び測定点P4は、対角線L2を等分するように、当該対角線L2上に等間隔に設定される。
【0038】
このようにして、測定点P1~P5は、床10上に概ね均等に位置するように設定される。
【0039】
また、床10の各測定点P1~P5には、それぞれ振動センサ5が設けられる。各振動センサ5によって、各測定点P1~P5における床10の振動(振動加速度レベル)を測定することができる。
【0040】
次に、床振動評価方法の工程について説明する。
【0041】
本実施形態に係る床振動評価方法は、図3に示すように、振動を測定する振動測定工程S1、測定結果を平均化する平均化工程S2及び平均化された結果に基づいて評価を行う評価工程S3を具備する。床振動評価システム1の使用者は、入力部3を用いて制御部2に各種指示を行い、適宜のプログラム等を実行させることで、以下で説明する振動測定工程S1等における制御部2による処理を行うことができる。以下、順に説明する。
【0042】
振動測定工程S1では、床10の1点に振動が加えられると共に、振動センサによって振動が測定される。
【0043】
具体的には、まず測定点P1~P5のうちいずれか1点が選択され、当該点が、振動を加えられる点(加振点A)として設定される。また、その他の点(測定点P1~P5のうち加振点以外の点)が、加振点に加えられた振動を測定する点(受振点R)として設定される。
【0044】
例えば、図4(a)には、測定点P1が加振点Aとされ、その他の点が受振点Rとされた例を示している。
【0045】
加振点A及び受振点Rが設定された後、加振点A(測定点P1)に振動が加えられる。具体的には、ゴムボールを一定の高さ(例えば、100cm)から自由落下させ、加振点Aに衝撃を与えることで振動が加えられる。この際用いられるゴムボールは、所定の形状、素材(組成)、質量等(例えば、JIS A 1418:2000の衝撃力特性(2)に相当するゴムボール)に形成されている。
【0046】
また、加振点A(測定点P1)に振動が加えられた際に、受振点R(測定点P2~P5)に設けられた振動センサ5によって、当該受振点Rにおける振動(具体的には、振動加速度レベルの最大値)が測定される。なお、測定周波数範囲は、1/3オクターブバンド中心周波数1Hz~80Hzとする。
【0047】
本実施形態では、1つの加振点Aについて3回振動が加えられ、これに伴って受振点Rにおいて3回振動が測定される。振動センサ5によって測定された測定結果(振動加速度レベル)は、制御部2へと送信される。
【0048】
1つの加振点Aについて3回振動が加えられ、3回の振動の測定が終了すると、加振点A及び受振点Rが変更される。すなわち、これまでとは異なる測定点が加振点Aとして設定されると共に、その他の測定点(当該加振点A以外の測定点)が受振点Rとして設定される。例えば、図4(b)には、測定点P2が加振点Aとされ、その他の点が受振点Rとされた例を示している。
【0049】
このように加振点A及び受振点Rが変更された状態で、再び振動の測定が行われる。具体的には、加振点A(測定点P2)について3回振動が加えられ、これに伴って受振点R(測定点P1、P3~P5)において3回振動が測定される。
【0050】
このように振動測定工程S1では、加振点A及び受振点Rを変更しながら、振動の測定が行われる。振動測定工程S1では、全ての測定点P1~P5を順に加振点Aとして設定し、その都度受振点Rにおいて振動の測定が3回ずつ行われる。当該測定が全て終了した後、振動測定工程S1から平均化工程S2に移行される。
【0051】
平均化工程S2では、振動測定工程S1で測定された振動(振動加速度レベル)の平均化が行われる。
【0052】
具体的には、制御部2は、以下の数1~数3の演算を行う。
【数1】
【数2】
【数3】
【0053】
上記数1におけるLjは、加振点Aに振動を加えた際にある1つの受振点Rにおいて3回測定された振動加速度レベルの平均値(dB)である。また上記数1におけるLkは、加振点Aに振動を加えた際の、ある1つの受振点Rにおける振動加速度レベルの測定値(dB)である。
【0054】
ここで、上記数1においては、10の(Lk/10)乗を計算することで、測定された振動加速度レベル(dB)を一旦エネルギー量に変換している。そして上記数1においては、3回測定された当該エネルギー量の平均を算出し、再びデシベル(dB)単位に変換している。
【0055】
このように上記数1では、測定値(dB)をそのまま平均するのではなく、一旦エネルギー量に変換した値を平均する(エネルギー平均を算出する)ことで、床10の振動特性をより正確に表した平均値を算出することができる。
【0056】
ここで、同一の加振点Aに複数回振動を加えた際に、ある1つの受振点Rにおいて測定される振動加速度レベルは、通常であれば全て同一(略同一)の値となるはずである。しかしながら、加振条件や周辺環境等によって、稀に測定結果にバラつきが発生する場合がある。そこで、本実施形態では、悪影響に対する安全率を考慮するため、単純平均(算術平均)に比べて悪化量に重きを置くエネルギー平均によって、同一箇所(同一の加振点A及び受振点R)における振動加速度レベルの平均化(上記数1参照)を行っている。すなわち、本実施形態では、悪い測定結果の影響を受け易いエネルギー平均を用いることで、安全側の評価(悪い測定結果を重視した評価)を行うことができる。
【0057】
また、上記数2におけるLiは、ある加振点Aに対する4つの受振点RのLj(3回測定された振動加速度レベルの平均値)の平均値(dB)である。
【0058】
また、上記数3におけるLは、5つの測定点P1~P5をそれぞれ加振点Aとした場合のLiの平均値(dB)である。
【0059】
このように、制御部2は、上記数1~数3の演算によって振動測定工程S1で測定された振動の平均化を行う。なお、制御部2は、1/3オクターブバンド中心周波数1~80(Hz)帯域の各測定値について、上記数1~数3の演算を行う。
【0060】
本実施形態では、算出された上記Lを、床10全体の振動特性を示す振動加速度レベル(dB)とみなし、当該L(振動加速度レベル)に基づいて床10の振動の評価を行う。なお、以下では上記数1~数3によって算出された床10の振動加速度レベル(L(dB))を、単に「評価対象値」と称することもある。上記数1~数3の演算が完了した後、平均化工程S2から評価工程S3に移行される。
【0061】
評価工程S3では、平均化工程S2で算出された床10の振動加速度レベル(評価対象値L)に基づいて、床10の振動の評価が行われる。
【0062】
制御部2は、床10の振動加速度レベル(評価対象値L)を、所定の評価基準に基づいて評価する。具体的には、制御部2は、評価対象値Lを複数の評価曲線と比較することによって、床10の振動の評価を行う。
【0063】
図5には、本実施形態で用いられる複数の評価曲線の一例を示している。なお、図5の横軸は1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)、縦軸は振動加速度レベル(dB)を示している。
【0064】
本実施形態においては、評価曲線として、Lwmr-50、Lwmr-55、Lwmr-60、・・・、Lwmr-100の11本の曲線を用いている。当該評価曲線は、数値が小さいものほど振動加速度レベル(dB)が小さいことを意味しており、すなわち性能的に好ましいことを示している。なお、評価曲線の詳細については後述する。
【0065】
制御部2は、図5に示すように、評価曲線が示されたグラフ上に、1/3オクターブバンド中心周波数1~80(Hz)帯域における評価対象値Lをプロットする。なお、図5に示した評価対象値Lの値は一例である。制御部2は、プロットされた評価対象値Lが、全ての周波数帯域においてある評価曲線を下回る場合、その評価曲線に基づいて床10を評価する。なお、プロットされた評価対象値Lが複数の評価曲線を下回っている場合には、当該複数の評価曲線の中で最小の評価曲線(図5で最も下側に位置する評価曲線)を選択し、当該評価曲線に基づいて床10を評価する。以下では、選択された当該評価曲線を「選択評価曲線」と称する。
【0066】
評価対象値Lに応じて選択された評価曲線(選択評価曲線)によって、床10の振動の評価を行うことができる。すなわち、振動加速度レベルが小さい評価曲線が選択された床10ほど、性能的に好ましい(優れている)と判断することができる。
【0067】
例えば、図5に示した例では、評価対象値Lは、全ての周波数帯域において評価曲線Lwmr-85~Lwmr-100を下回っている。従って、当該評価曲線Lwmr-85~Lwmr-100のうち最小の評価曲線Lwmr-85が選択評価曲線となる。
【0068】
なお、評価対象値Lが評価曲線を下回っているか否かを判断するものと説明したが、各周波数帯域において所定値(例えば、2(dB))までは評価曲線を上回ることを許容してもよい。言い換えれば、各周波数帯域の評価対象値Lから所定値(2(dB))を減じた値と、評価曲線を比較し、当該評価曲線を下回っているか否かを判断してもよい。
【0069】
さらに本実施形態では、評価曲線に応じて振動に関する等級が定められている。一例として、本実施形態では、Lwmr-75:「ランクA」、Lwmr-80:「ランクB」、Lwmr-85:「ランクC」、Lwmr-90:「ランクD」、の4種類の等級が定められている。より具体的には、選択評価曲線がLwmr-50~Lwmr-75である場合に等級は「ランクA」、Lwmr-80である場合に等級は「ランクB」、Lwmr-85である場合に等級は「ランクC」、Lwmr-90ある場合に等級は「ランクD」にそれぞれ相当するものと定められている。
【0070】
例えば、図5に示した例では、選択評価曲線がLwmr-85であるため、等級は「ランクC」となる。
【0071】
本実施形態では、等級の名称として「ランクA」等を例示したが、当該等級の名称として、実際には、振動に関する評価が感覚的に理解し易いような表現(言葉)が用いられる。具体的には、等級の名称として「優良」、「良」、「可」等の表現を用いることができる。このように、単に評価曲線を用いて評価を行うのではなく、評価曲線に応じて設定された感覚的に理解し易い言葉(等級)を用いることで、床10の振動の評価を一般の消費者等にも分かり易くすることができる。
【0072】
制御部2は、評価結果に関する情報(振動の測定結果や、選択評価曲線、等級等)を出力部4に出力することで、使用者に当該情報を報知することができる。
【0073】
このように、本実施形態に係る床振動評価方法によれば、複数の測定点P1~P5で測定された振動加速度レベルを平均化して床10の振動の評価を行うことで、床10のある特定の位置(1点)の振動に関する評価ではなく、床10全体としての評価を行うことが可能となる。
【0074】
また、床10のある特定の位置(1点)の振動を評価する場合、当該床10の構造(梁の位置等)によって振動に対する有利・不利が存在するため、当該床10の構造による評価への影響が大きい。このため、このような評価では、コンクリートスラブのような構造的に一体性を保持している床スラブを評価対象とすることはできるものの、軽量な床構造を評価対象とするのは困難である。しかし本実施形態の如く、床10全体としての評価が可能となることで、床10の構造による性能への影響が小さくなるため、当該影響を考慮する必要性も少なくなる。これによって、床10の構造に限られず、あらゆる種類の床10の振動の評価を容易に行うことができる。
【0075】
以下では、本実施形態で用いた評価曲線(図5参照)について説明する。
【0076】
本実施形態では、図6に示す周波数荷重Wm(dB)及び評価曲線の補正値(dB)を用いて評価曲線の値を決定している。図6(a)の周波数荷重Wmは、ISO2631-2,2003に記載されている、住宅など居住者の姿勢が定まっていない場合に用いる振動感覚補正値である。本実施形態では、当該周波数荷重Wmの中で、最も値が小さい1.6(Hz)帯域を基準値として、評価曲線の値を決定している。例えば、Lwmr-80であれば、1.6(Hz)において80(dB)となるように、またLwmr-90であれば、1.6(Hz)において90(dB)となるように、基準値を決定した。
【0077】
また、当該基準値に対して、周波数帯域ごとに図6(b)の補正値を加えた数値を、評価曲線の値とした。例えば、Lwmr-80であれば、各周波数帯域について、基準値である80(dB)に図6(b)の補正値をそれぞれ加えた値を、当該周波数帯域における評価曲線の値としている。
【0078】
以上の如く、本実施形態に係る床振動評価方法は、
床10に設定された複数の測定点P1~P5のうち、いずれか1点を加振点A、前記加振点以外の点を受振点Rと、それぞれ設定し、前記加振点Aに振動を加えると共に、前記受振点Rで振動(振動加速度レベル)を測定する振動測定を、全ての前記測定点P1~P5を順に加振点Aとして行う振動測定工程S1と、
前記振動測定工程S1において測定された振動を平均化する平均化工程S2と、
前記平均化工程S2において平均化して得られた値を、所定の評価基準(評価曲線)に基づいて評価する評価工程S3と、
を具備するものである。
このように構成することにより、床10全体としての振動の評価を行うことができる。すなわち、床10に設定された複数の測定点P1~P5における振動の測定値を考慮した評価を行うことで、当該床10の部分的な構造に影響され難い、床10全体としての評価が可能となる。
【0079】
また、前記測定点P1~P5は、
前記床10に略均等に分布するように設定されているものである。
このように構成することにより、床10全体としての振動をより適切に評価することができる。すなわち、床10に略均等に測定点P1~P5を設定することで、当該床10の全体的な構造を考慮した妥当な評価を行うことができる。
【0080】
また、前記測定点P1~P5は、
矩形状に形成された前記床10の対角線L1及びL2上に少なくとも2つ以上設定されているものである。
このように構成することにより、床10全体としての振動をより適切に評価することができる。
【0081】
また、前記振動測定は、
選択された1つの前記加振点Aについて複数回振動を加え、前記受振点Rで複数回振動を測定することで行われるものである。
このように構成することにより、測定結果のばらつきを考慮した妥当な評価が可能となる。
【0082】
また、前記平均化工程S2は、
選択された1つの前記加振点Aについて複数回振動を加えた際に、前記受振点Rで複数回測定された振動について、前記受振点Rごとにエネルギー平均を算出する第一平均化工程(上記数1参照)と、
前記第一平均化工程において算出された前記受振点Rごとのエネルギー平均の算術平均を算出する第二平均化工程(上記数2及び数3参照)と、
を含むものである。
このように構成することにより、床10全体としての振動をより適切に評価することができる。
【0083】
また、本実施形態に係る床振動評価システム1は、
床10に設定された複数の測定点P1~P5で振動を測定可能な振動センサ5(振動測定部)と、
前記振動センサ5により測定された振動を平均化する平均化処理部(制御部2)と、
前記平均化処理部により平均化して得られた値を、所定の評価基準に基づいて評価する評価処理部(制御部2)と、
を具備するものである。
このように構成することにより、床10全体としての振動の評価を行うことができる。
【0084】
また本実施形態においては、Lj(上記数1参照)を算出する際、測定された振動加速度レベル(dB)をエネルギー量に変換した上で平均(エネルギー平均)を算出している。これによって、床10の振動特定をより正確に表した平均値を算出することができる。また、本実施形態では、悪影響に対する安全率を考慮するため、単純平均(算術平均)に比べて悪化量に重きを置くエネルギー平均によって、同一箇所(同一の加振点A及び受振点R)における振動加速度レベルの平均化(上記数1参照)を行っている。すなわち、本実施形態では、悪い測定結果の影響を受け易いエネルギー平均を用いることで、安全側の評価(悪い測定結果を重視した評価)を行うことができる。これに対して、LiやL(上記数2及び数3参照)を算出する際には、単純な平均(算術平均)を算出している。これによって、床10の部分的な構造の違いによる影響を低減し、床10全体としての平均的な振動を適切に評価することができる。
【0085】
また本実施形態においては、測定点P1~P5のうち1点を加振点Aとし、その他の点を受振点Rとすることで、加振点Aと受振点Rがある程度の距離だけ離れるように設定している。これによって、振動を発生させる際の衝撃による測定誤差の発生を抑制することができる。
【0086】
なお、本実施形態に係る振動センサ5は、本発明に係る振動測定部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る制御部2は、本発明に係る平均化処理部及び評価処理部の実施の一形態である。
【0087】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0088】
例えば、本実施形態においては、測定点P1~P5は床10に略均等に設定されているものとした。より具体的には、本実施形態においては、測定点P1~P5は対角線L1及びL2上において、当該対角線L1及びL2を等分する位置に設定されているものとした。しかし、本発明はこれに限るものではなく、床10の任意の点を測定点として設定することが可能である。但し、床10の部分的な構造の影響を極力無くす観点からは、測定点は床10に略均等に設定されることが望ましい。
【0089】
また、本実施形態においては、振動センサ5を用いて振動加速度レベルを測定するものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、床10の振動を評価することができる振動に関するパラメータ(例えば、振動レベル等)を測定するものであればよい。
【0090】
また、本実施形態においては、図5に示す評価曲線を用いて振動を評価するものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、その他種々の評価基準を用いて評価を行うことができる。
【0091】
また、本実施形態においては5つの測定点P1~P5を設定し、振動を測定するものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、複数(2点以上、好ましくは3点以上)の測定点を設定して振動を測定するものであればよい。
【0092】
例えば、図7(a)には、9つの測定点P1~P9を設定した例を示している。当該例では、図の上下又は左右に隣接する測定点P1、P2、P4、P5の中点に、測定点P6~P9を設定している。また、図7(b)には、多数の測定点Pを設定した例を示している。当該例では、床10の全域に亘って、上下及び左右に等間隔に測定点Pを設定している。
【0093】
なお、測定点は必要以上に多く設定することはない。例えば、本実施形態のように5点の測定点P1~P5を設定した場合と、図7に示すように9点や多数(床の全域)設定した場合とでは、床10の振動の評価結果に大きな差がないことが実験により分かっている。このため、本実施形態のように5点の測定点P1~P5を設定すれば、床10の振動の評価を十分に行うことが可能である。
【0094】
また、本実施形態においては、測定点P1~P5を、床10の対角線L1及びL2上に設定するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、図7(b)に示すように、床10の各辺を等分するようなグリッドGを設け、当該グリッドGの交点上に測定点Pを設定することも可能である。なお、図7(b)に示す例では床10の各辺をそれぞれ8等分するようなグリッドGを示しているが、本発明はこれに限るものではなく、床10の各辺を任意の数に等分することが可能である。また測定点は、グリッドGの交点のうち、床10の全域に略均等に分布するような点に設定することが好ましい。
【0095】
このように、図7(b)に示した測定点Pは、
矩形状に形成された前記床10の各辺を等分するように形成されたグリッドGの交点上に設定されているものである。
このように構成することにより、床10全体としての振動を適切に評価することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 床振動評価システム
2 制御部
3 入力部
4 出力部
5 振動センサ
10 床
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7